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2018年3月31日 (土)

今週の読書は印象的な経済書をはじめとして計6冊!

今週の読書は、オクスファム出身のエコノミストによる経済書をはじめとして、広い意味での歴史を解説した新書2冊を含めて計6冊を読みました。まあ、読書のボリュームとしてはいいセンではないかという気がします。

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まず、ケイト・ラワース『ドーナツ経済学が世界を救う』(河出書房新社) です。著者は英国の研究者であり、長らくオクスファムのエコノミストを務めていました。英語の原題は Doughnut Economics であり、邦訳タイトルはそのまんまです。2017年の出版です。極めて大胆に表現すれば、新しい経済学の構築を模索しています。先週の読書感想文で取り上げたユヌス教授のソーシャル・キャピタルに基づく経済学といい勝負で、基本的には、同じように貧困や不平等、あるいは、環境問題や途上国の経済開発などを視野に入れた新しい経済学だと言えます。それを視覚的にビジュアルに表現したのがドーナツであり、本書冒頭の p.18 に示されています。成長に指数関数を当てはめるのではなく、S字型のロジスティック曲線を適用し、ロストウ的な離陸をした経済は着陸もする、という考え方です。そして、現在の先進国はその着陸の準備段階という位置づけです。同時に、平均的な統計量としての成長ばかりではなく、分配にも目を配る必要があるというのが第7章でも主張されています。また、本書ではこういった視点を含めて7点の転換を主張しており、例えば、第3章では行動経済学や実験経済学、あるいは、ゲーム理論の成果も含めて、合理的な経済人から社会適用人への視点を変更した経済学を志向していたりします。とても素晴らしい視点の新しい経済学を目指しています。先週取り上げたユヌス教授の本とともに、私は2週連続で大きな感銘を受けました。

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次に、木内登英『金融政策の全論点』(東洋経済) です。著者は野村総研のエコノミストであり、本書の基となる公的活動としては、2012年から17年にかけて5年間、日銀政策委員を務めています。とても非凡なエコノミストなんですが、民主党内閣期に就任したものですから、その後の黒田総裁の下の日銀執行部の議案には反対する場面もあり、少し違った見方を示したような気がします。しかし、少なくとも私が認識している限り、公式のボード・ミーティングでは2%のインフレ目標に反対したのではなく、ごく初期の2年間での達成とか、その後の期限を切った目標達成に反対したのであって、いわゆる「拙速批判」ではあっても、2%のインフレ目標に反対したわけではないと受け止めています。本書は3部構成でタイトル通りの内容なんですが、いわゆる非伝統的金融政策、政府からの独立を含む日銀の役割、そして、ごく手短にフィンテックを取り上げています。私が強く疑問に感じたのは、日銀と金融政策をかなり国民生活や日本経済から遊離した観点を強調していることです。政府や内閣からの中央銀行の独立というのはインフレ抑制の観点から先進国では当然と考えるとしても、中央銀行や金融政策がその時々の国民生活や経済状況から無関係に運営されるはずはありません。しかし、本書の著者は、どうもその観点に近く、例えば、本書の著者に限りませんが、日銀財務についてバランスシートを膨らませ過ぎると債務超過に陥る、との指摘がなされる場合があるところ、こういった見方は国民生活や日本経済の実態から遊離した見方との批判は免れません。日銀財務の健全性と国民生活のどちらが重要なのか、もう一度考えてみるべきではないでしょうか。こういった日銀中心史観も、白川総裁時代で終了したと私は考えていたんですが、まだまだ大きな船が舵を切るには時間がかかるようです。

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次に、伊丹敬之『なぜ戦略の落とし穴にはまるのか』(日本経済新聞出版社) です。著者は著名な経営学者であり、一橋大学を退職してから国際大学学長を務めています。本書では、「戦略」というあいまいな表現ながら、何らかの企業行動を実行に移す際の落とし穴について論じています。第Ⅰ部が戦略を考え練り上げる際の思考プロセスの落とし穴、第Ⅱ部が戦略を実行する際の落とし穴、をそれぞれ論じています。具体的には、「ビジョンを描かず、現実ばかりを見る」、「不都合な真実を見ない」、「大きな真実が見えない」、「似て非なることを間違える」、「絞り込みが足りず、メリハリがない」、「事前の仕込みが足りない」などなど、落とし穴にはまるパターンとそれをどのように回避したり、リカバリしたりするかを解き明かそうと試みています。経営学の読み物としてはめずらしく、成功事例と失敗事例を割合とバランスよく取り上げています。でも、相変わらず、私の経営学不信の源のひとつなんですが、結果論で議論しているような気がします。基本はケーススタディですから、現実の事例をいかに解釈するかで勝負しているんですが、成功した例から成功の要因を引き出し、失敗事例からその要因を引き出そうとする限り、その逆はあり得ず、どこまで科学的な事例研究になっているかは私には計り知れません。すなわち、バックワードな研究になっていると考えざるを得ず、成功事例と同じ準備をしたところで、戦略が成功するかどうかは保証の限りではないような気がしなくもありません。

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次に、エミリー・ボイト『絶滅危惧種ビジネス』(原書房) です。著者は、米国のジャーナリストであり、サイエンス・ライターでもあります。本書の英語の原題は The Dragon behind the Glass であり、2016年の出版です。本書で著者はアロワナにまつわるビジネスを追跡するとともに、ハイコ・ブレハなる魚類を専門として前人未到の冒険をしている怪人物とともに、実際に特殊な野生のアロワナを求めて冒険に加わっています。その原資はピューリッツァー研修旅行奨学金だそうです。英語の原書のタイトルは、中国でアロワナを「龍魚」と称するところから由来しています。そして、邦訳本の表紙は、原書を踏襲して赤いアロワナをあしらったデザインとなっていますが、本書では「スーパーレッド」と呼ばれています。また、邦訳書の表紙では頭部が欠けていますが、本書を紹介しているNational Geographics のサイトでは、この真っ赤なアロワナの画像を見ることが出来ます。本書では、ワシントン条約で取引を禁止ないし制限された絶滅危惧種に指定されると、闇市場での取引価格が上昇し、むしろ、絶滅に至る可能性が高い、ないし、早まる、という仮説が提示されています。要するに、絶滅危惧種に指定されると希少性が広く認識されるため、価格が上昇するというメカニズムが発動する可能性は、確かにエコノミストでも否定しないだろうという気はします。そして、絶滅危惧種として指定されると、自然系に存在して、いわゆる野生の種は絶滅に向かう一方で、養殖の種が量産されて、世の中にはいっぱい出回る、と本書の著者は主張しています。そして、養殖の魚類と自然系の野生の魚類は、まったく違う生き物と認識すべきとも主張しています。すなわち、ダックスフントをツンドラに放り出すようなものであると表現しています。そして、本書では絶滅危惧種の魚を巡って犯罪行為が横行しているプロローグから始まって、本書の最終章のいくつかでは、冒険家とともに著者自身がアジアのアロワナを追っています。すなわち、ボルネオでスーパーレッドのアロワナを、政治体制も極めて閉鎖的なミャンマーでバティックアロワナをもとめ、ともに失敗した後、ブラジルのアマゾン川源流でシルバーアロワナを捕獲しています。そのあたりはサスペンス小説顔負けだったりします。

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次に、磯田道史『日本史の内幕』(中公新書) です。著者はメディアなどで人気の歴史研究者であり、今年のNHKの大河ドラマ「西郷どん」の時代考証を担当しているらしいです。書物としては、私は映画化もされた『武士の家計簿』を読んだ記憶があります。また、別の著者ながら、中公新書では『応仁の乱』のヒットを飛ばすなど、日本史の類書が話題となっていて、私の大学時代の専攻は基本的に西欧経済史なんですが、まあ、歴史は好きですので読んでみました。サブタイトルは『戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで』であり、著者が読み解いた古文書を手がかりに、主として、戦国時代に始まって織豊政権期から江戸幕府期、さらに、幕末期にかけての歴史のエピソードが60話以上収録されています。基本的に文学でいえば短編集であり、繰り返しになりますが、著者が読み込んだ古文書から日本史の裏側、というか、決して高校の教科書なんぞでは取り上げないようなトピックを選んで、なかなか興味深く仕立てあげています。

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最後に、小山慶太『<どんでん返し>の科学史』(中公新書) です。著者は早大出身の物理学系の研究者であり、本書のサブタイトル通りに、「蘇る錬金術、天動説、自然発生説」に加えて、不可秤量物質やエーテルなど、近代科学では一度否定されながら、何らかの意味で別の視点から復活した科学について取り上げています。一例として、本書の冒頭で取り上げられている錬金術については、近代科学の基礎を提供したといわれるほどの流行振りだったそうですが、まあ、「賢者の石」が空想的である限りにおいて、少なくとも化学的に混ぜたり熱したりという範囲では金は作り出せないことは科学的に明らかにされた一方で、原子レベルで電子と陽子と中性子を自由に操作できるのであれば金の元素は作り出せる可能性はあるわけで、ただ、市場価格と照らし合わせてペイしない、ということなんだろうと、科学のシロートである私なんぞは理解しています。別のトピックとしては、空間がエーテルで埋め尽くされている、という見方も、ダーク・エネルギーやダーク・マターに置き換えれば、決して的外れな主張ではなかったのかもしれません。アマゾンのレビューがとても高いのでご参考まで。

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2018年3月30日 (金)

増産ながら物足りない鉱工業生産指数(IIP)と悪化したものの完全雇用に近い雇用統計!

本日、経済産業省から鉱工業生産指数 (IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも2月の統計です。鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で前月から+4.1%の増産を示し、失業率は前月から0.1%ポイント上昇しつつも2.5%と低い水準にあり、有効求人倍率は前月からやや低下したものの1.58倍と高い倍率を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、2月は前月比4.1%上昇 自動車・土木建機が寄与
経済産業省が30日発表した2月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み、速報値)は前月に比べて4.1%上昇し、103.4だった。上昇は2カ月ぶり。自動車や土木建設機械の生産の増加が寄与した。ただ、「1月の落ち込みに対する上昇幅としては物足りない」として経産省は生産の基調判断を「緩やかな持ち直し」に据え置いた。
QUICKがまとめた民間予測の中央値(5.0%上昇)は下回った。
1月の生産指数は15業種のうち11業種が前月から上昇し、3業種が低下した。米国向け自動車輸出が好調で、輸送機械工業が10.3%上昇した。土木建設機械が伸び、はん用・生産用・業務用機械工業も3.6%上昇した。一方で石油・石炭製品工業は2.4%低下した。
出荷指数は前月比2.2%上昇の100.4だった。在庫指数は0.9%上昇の109.9、在庫率指数は0.1%低下の114.1だった。経産省は「出荷の回復の勢いは弱い」としている。
同時に発表した、メーカーの先行き予測をまとめた3月の製造工業生産予測指数は前月比0.9%の上昇となった。前回予測(2.7%の低下)を大きく上回った。はん用・生産用・業務用機械工業や化学工業が伸びる見通し。4月の予測指数は5.2%上昇だった。
失業率2.5%、求人倍率は1.58倍 2月統計
総務省が30日公表した労働力調査によると、2月の完全失業率(季節調整値)は2.5%で前月比で0.1ポイント悪化した。悪化は17年5月以来9カ月ぶり。総務省は1月に雪の影響で失業率が大きく低下した反動が出たとしている。厚生労働省が同日発表した2月の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0.01ポイント低下し1.58倍だった。
完全失業率は働く意欲のある人で職がなく求職活動をしている人の割合を指す。求人があっても職種や年齢などで条件があわない「ミスマッチ失業」は3%程度とされ、0.1ポイント悪化してもなお完全雇用状態にある。
就業者は6578万人で前年同月比で151万人増えた。有効求人倍率は12年9月以来、5年5カ月ぶりに低下したが、引き続き1970年代以来の高い水準にある。企業では人材の確保が難しく、人手不足が深刻になっている。求人に対して実際に職に就いた人の割合を示す充足率(季節調整値)は15.0%だった。
正社員の有効求人倍率(季節調整値)は1.07倍で前月と同水準で1倍を超えた。新規求人数を産業別にみると、自動車関連が好調な製造業で前年同月比5.4%増えたほか、3月が繁忙期になる運輸・郵便業で6.6%増えた。

やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上は2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下のパネルは輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは中央値で+5.0%の増産、予測レンジの下限でも+3.9%の増産でしたので、実績の+4.1%の増産も、製造工業生産予測調査の2月+9.0%ッ像は当然に届かないとしても、かなり物足りない結果と私は受け止めています。もちろん、1月の減産の大きな要因は中華圏の春節によるカレンダー要因というのは当然としても、それだけだと2月生産で戻ってもよさそうなものですが、物足りない結果というのは別の何らかの要因が作用していると考えるべきで、私は円高に振れた為替要因も無視できないと指摘しておきたいと思います。製造工業生産予測調査の3月予測は+0.9%増で、4月が+5.2%増ですから、実績に対してやや過大評価する傾向のある指標とはいえ、13月期は生産にやや一服感が出た一方で、4月以降の伸びに期待すべきだという気もします。ただ、先行きについては、世界経済の回復・拡大につれて、また、国内要因としては人手不足に起因する省力化投資や合理化投資も期待できることから、我が国の生産は持ち直しの動きが続くものと私は考えています。ただ、先行きリスクはいずれも米国に起因し、ひとつは通商政策動向であり、もうひとつは金政策動向です。米国の通商政策が世界貿易の停滞を招いたり、利上げによる米国経済の下押し圧力は、我が国生産の下振れリスクにつながる可能性があります。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。小幅な変動とはいえ、失業率は上昇し、有効求人倍率は低下したわけですから、ほぼほぼ完全雇用に近い労働市場動向の中で、さらなる指標の改善は難しい、というか、完全雇用の定義に近い意味でこれ以上の失業率の低下などは望めない水準に達したのかもしれません。しかしながら、本日の雇用統計では明らかではありませんが、毎月勤労統計などを見る限り、労働市場はまだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、完全雇用には達していない可能性がある、と私は考えています。他方で、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規雇用が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用状態であり、加えて、雇用不安の払拭から消費者マインドを下支えしているのではないかと私は考えています。そうは言っても、賃上げは所得面で個人消費をサポートするだけでなく、デフレ脱却に重要な影響を及ぼしますから、マクロの所得だけでなく今春闘では個人当たりの賃上げも何とか実現して欲しいと思います。

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2018年3月29日 (木)

商業販売統計の小売販売は緩やかな持ち直しが続く!

本日、経済産業省から2月の商業販売統計が公表されています。商業販売統計のうちのヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.6%増の10兆9630億円を、また、季節調整済みの系列の前月比は+0.4%増を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の小売販売額、前年比1.6%増 4カ月連続プラス
経済産業省が29日発表した商業動態統計(速報)によると、2月の小売販売額は前年同月比1.6%増の10兆9630億円だった。前年実績を上回るのは4カ月連続。原油高で石油製品の販売額が伸びた。経産省は小売業の基調判断を「緩やかに持ち直している」で据え置いた。
業種別では、燃料小売業が12.7%増と伸びが目立った。スマートフォンや高付加価値家電の販売が堅調で、機械器具小売業も4.6%増えた。訪日外国人向けなど化粧品販売も好調で、医薬品・化粧品小売業は2.3%増だった。一方、自動車小売業は2.1%減少した。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で0.5%増の1兆4565億円だった。既存店ベースも0.6%増だった。スーパーで野菜や畜産類など食料品の販売が増えた。
コンビニエンスストアの販売額は1.6%増の8675億円だった。加熱式たばこやファストフードの販売が伸びた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。

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ということで、消費の代理変数である小売業販売は4か月連続で前年同月比プラスを続けているものの、2月の+1.6%増は消費者物価のヘッドライン上昇率である+1.5%とそれほど違わない伸びですので、バスケットが異なることから単純な比較は困難とはいえ、実質の伸びはかなり小さいと受け止めています。でも、各種報道によれば、4月からは生鮮野菜の価格なども落ち着きを取り戻す方向にあるようで、株価への連動性が高いマインドはやや懸念残るものの、春闘に代表される賃上げ次第では、緩やかながらプラスの伸びを継続する可能性が十分あると私は考えています。
なお、小売業販売を季節調整していない原系列の統計に基づいて前年同月比で少し詳しく業種別に見ると、燃料小売業が+12.7%の増加、機械器具小売業が+4.6%の増加、飲食料品小売業が+2.3%の増加、医薬品・化粧品小売業が+2.3%の増加、となった一方、先月からマイナスに転じた自動車小売業がマイナス幅を拡大して▲2.1%の減少となっています。ただ、燃料小売業の販売増は国際商品市況における石油価格の上昇に起因する物価上昇の寄与を含みますので、過大に評価すべきではありません。他方、機械器具小売業の伸びが家電などの耐久消費財に支えられている点は評価されるべきです。また、医薬品・化粧品小売業の販売増がインバウンド消費の寄与を含んでいる点も、各地で観察されている事実と整合的ではないかという気がします。なお、政府観光局による訪日外国人数の統計によれば、今年2018年2月は中華圏の春節が含まれていることもあって、250.9万人で前年同月比+23.3%となり、2月としては過去最高を記録しています。

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2018年3月28日 (水)

来週4月2日に公表予定の日銀短観予想やいかに?

来週4月2日の公表を前に、シンクタンクや金融機関などから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画は今年度2018年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、今年度2018年度の設備投資計画に着目しています。ただし、第一生命経済研は2017年度の設備投資計画の予想しか示さず、また、三菱総研はいつもの通り設備投資計画の予想を出していませんので、この2機関は適当です。それ以外は一部にとても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、html の富士通総研以外は、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査 (最近)+25
+23
<n.a.>
n.a.
日本総研+24
+24
<▲3.8%>
2018年度の設備投資計画では、全規模・全産業ベースで前年度比▲3.8%と、2017年度の同期調査(▲1.3%)に比べやや慎重な出だしとなると予想。もっとも、2017年度の設備投資が比較的高水準で着地すると見込まれることを勘案すれば、2018年度の設備投資動向も堅調と判断可能な水準。2018年入り後の金融市場の不安定化、米国トランプ政権の保護主義色の強い通商政策などが設備投資意欲の下押しに作用する一方、既存設備の維持・更新投資、人手不足を背景とした合理化・省力化投資を中心に、設備投資需要は引き続き堅調。内外経済の底堅い拡大や、TPP11の署名を受けた輸出環境の改善期待なども下支えとなり、先行き、例年の足取りに沿って、上方修正されていく見通し。
大和総研+25
+25
<▲5.1>
2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年度比▲5.1%とマイナス成長を予想する。ただし、これは、3月調査において企業が翌年度の設備投資計画を控えめに回答するという「統計上のクセ」があることを反映したものにすぎず、マイナス幅自体は概ね例年並みになると想定した。また、日本では3月決算の企業が多く、年度決算発表前に公表される3月日銀短観において来年度見通しの数字を回答することが難しいという実情があるため、2018年度の数字自体にはあまり意味がない点に留意したい。
みずほ総研+27
+25
<▲0.3%>
2018年度の設備投資計画(全規模・全産業)は、前年比▲0.3%と予想する。例年通り、3月調査時点で設備投資計画が定まっていない中小企業がマイナスの伸びとなり、全体を押し下げるだろう。とくに中小企業・非製造業が人件費の上昇が重石となり、資金繰りの面からも設備投資に慎重姿勢をとる可能性がある。一方、大企業は、製造業、非製造業ともに、例年と比べても高い伸びを予想する。製造業は、需要が堅調な半導体関連を中心に高めの設備投資計画が策定されるとみている。非製造業は、人手不足を背景とした省力化投資やインバウンド対応、五輪関連投資の継続に加え、通信業の5G(第5世代移動通信システム)投資が本格化することから、前年比プラスの伸びを予想する。
ニッセイ基礎研+24
+24
<▲5.0%>
2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2017年度計画比で5.0%減を予想している。例年3月調査の段階ではまだ計画が固まっていないことから前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はなく、近年の3月調査との比較が重要になる。今回は、円高の進行や米保護主義への警戒等を受けて、近年の3月調査での伸び率をやや下回る慎重な計画が示されると見ている。
第一生命経済研+24
+23
<n.a.>
日銀短観2018年3月調査では、大企業・製造業の業況判断DIが24と前回(12月調査25)に比べて△1ポイント悪化する見通しである
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+26
+26
<大企業全産業▲0.4%>
2018年度の計画については、大企業では例年通りゼロ近傍からのスタートとなるだろう。需要が緩やかに増加する一方で、人手不足感は引き続き非常に強く、加えて人件費は上昇している。機械への投資の重要度は一層高まっており、6月以降の調査では上方修正されていくと考えられる。中小企業については、3月時点では多くの企業で来年度の計画が定まっていないと考えられ、例年通り大幅なマイナスからのスタートとなるだろう。
三菱総研+27
+25
<n.a.>
製造業の業況判断DI(大企業)は、+27%ポイント(2017年12月調査から1%ポイント上昇)と予測する。
富士通総研+26
+24
<▲4.4%>
2018年度の設備投資計画は、2017年度の同じ時期よりはやや弱い計画になると考えられる。

まず、設備投資計画に入る前に、上のテーブルに取りまとめられている業況判断DIについて概観しておくと、小幅に改善・悪化が見受けられるんですが、極めて大雑把には横ばい圏内と見ることが出来ようかと思います。ただ、回収基準日は3月半ばではないかと想像するんですが、今月後半に噴出した攪乱的な情報、米国トランプ政権の保護主義的な措置の公表とそれに伴う株価の下落、あるいは、我が国における公文書管理問題などの政治的な混乱がどの程度盛り込まれているかは不明です。ひょっとしたら、景況感の実感はさらに低下している可能性があります。ただ、米国の保護主義の高まりやそれに対応した関係各国における貿易戦争じみた応酬措置が中長期的な影響を及ぼすことは確実ながら、株価変動などを別にすれば、足元の経済実態がにわかに悪化するわけでもないような気もします。もちろん、短観はマインド調査ですので、そういった先行きの変動に対する見通しは重要な役割を果たします。さらに、目を設備投資計画に転じると、昨年のこの時期の設備投資計画が全規模全産業で▲1.4%減で始まり、一昨年は▲4.8%で始まったことを考え合わせると、私は昨年の出だしがかなり高かったと考えており、一昨年の通常パターン周辺に戻る可能性が高いと考えています。すなわち、設備投資計画は▲5%近辺がいい見当ではないかと思います。
下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから設備投資計画の動向を引用しています。

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2018年3月27日 (火)

企業向けサービス物価(SPPI)はやや上昇率を縮小させつつも56か月連続のプラス!

本日、日銀から2月の企業向けサービス物価指数 (SPPI)が公表されています。前月からやや上昇幅を縮小しつつも+0.6%を記録しています。プラスの上昇は56か月、すなわち、4年8か月連続です。まず、朝日新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格指数が上昇 4年8カ月連続
日本銀行が27日に発表した2月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100、速報)は、前年同月より0.6%高い103.9だった。前年を上回るのは4年8カ月連続だが、上げ幅は2カ月連続で縮んだ。
人手不足で「土木建築サービス」など人件費が上がり、全体の上昇は続いている。一方で、1月にあった大型の自動車広告がなくなり、「新聞広告」が前年より2.6%下がるなど、「広告」の下落で上げ幅が縮んだ。

簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、SPPIは引き続き堅調な推移を見せています。SPPIのうち、私は景気とかなり密接な関係を持つ広告について注目していて、前年同月比で見て1月は+1.4%の上昇を示した後、2月は前月の大きな上昇の反動もあって▲0.4%と下落しました。引用した記事にある通り、1月の大型の自動車広告の反動のようです。ただ、新聞広告▲2.6%、雑誌広告▲1.0%は下落したものの、インターネット広告は逆に+1.8%の上昇を記録しています。また、人手不足の影響が強いといわれている運輸・郵便は昨年2017年半ばから継続的に+1%を上回る上昇率を示しており、最近でも1月+1.4%、2月+1.2%を記録しています。同様に、いくつか他の項目でも人手不足の影響が見られ、諸サービスのうちの労働者派遣サービスも1月+1.8%、2月+1.4%の、また、土木建築サービスも1月+2.9%、2月+1.1%のそれぞれ上昇となっています。

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2018年3月26日 (月)

クルートジョブズによるアルバイト・パートと派遣スタッフの賃金動向やいかに?

今週金曜日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる非正規雇用の時給調査、すなわち、アルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の1月の調査結を見ておきたいと思います。

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給の上昇率は引き続き+2%の伸びで堅調に推移していて、三大都市圏の2月度平均時給は前年同月より20円増加の1,021円となり、特に、人で不足の影響からか、「フード系」では過去最高額を更新しています。一方で、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、一昨年2016年9月から昨年2017年8月までの12か月ではマイナスを記録する月の方が多かったくらいですが、昨年2017年9月からはふたたびそれなりのプラス幅を記録するように回帰しており、2月は前年同月比で+1.8%上昇し、1,643円に達しています。引き続き、非正規雇用の求人は堅調と考えてよさそうです。

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2018年3月25日 (日)

オープン戦最終戦は相変わらずの貧打で終わり、いよいよ東京ドームの開幕戦へ!!

  RHE
阪  神000000010 120
オリックス000001000 170

オープン戦最終戦のオリックス戦は相変わらずの貧打で終わりました。実は、8回までしか見ていないんですが、まあ、結果は同じようなもんだったんでしょう。
いよいよ今週金曜日は東京ドームの巨人戦でペナントレースの開幕です。

今季は優勝目指して、
がんばれタイガース!

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2018年3月24日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計8冊!

先週はややセーブしたんですが、今週の読書は文庫本も含めて、とはいうものの、結局、計8冊に上りました。今日はすでに図書館を回り終え、来週はもう少しペースダウンして、5~6冊になりそうな予感です。

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まず、ムハマド・ユヌス『3つのゼロの世界』(早川書房) です。著者はバングラデシュの経済学者・実業家であり、グラミン銀行の創業者、また、グラミン銀行の業務であるマイクロクレジットの創始者として知られ、その功績により2006年にノーベル平和賞を受賞しています。英語の原題は A World of Three Zeros であり、邦訳タイトルはそのままで、2017年の出版です。上の表紙画像に見える通り、3つのゼロとは貧困ゼロ、失業ゼロ、CO2排出ゼロを示しています。そして、著者の従来からの主張の通り、ソーシャル・ビジネスの促進、雇われるばかりではなく自ら事業を立ち上げる起業家精神の発揚、そして、マイクロクレジットをはじめとする金融システムの再構築の3つのポイントからこの目標を目指すべきとしています。定義はあいまいながら、著者は資本主義はもう機能しなくなり始めているという認識です。経済学的には分配と配分は大きく違うと区別するんですが、資源配分に市場システムを用いるというのは社会主義の実験からしても妥当な結論と考えられる一方で、著者の指摘の通り、所得分配に資本主義的なシステムを適用するのは、もはや理由がないというべきです。そして、ここは私の理解と異なりますが、著者はやや敗北主義的に現在の先進国の政府では事実上リッチ層が支配的な役割を果たしており、政府による再分配機能は期待すべきではないと結論しています。「見えざる手は大金持ちをえこ贔屓する」ということです。ただ、政府に勤務していることもあって、私はまだ期待できる部分はたくさん残されていると考えています。そして、雇用されることではなく、自ら起業することによる所得の増加については、資本形成がかなりの程度に進んでしまった先進国ではそれほど一般的ではなく、途上国のごく一部の国にしか当てはまらない可能性があります。特に、私の専門分野である開発経済学においては、途上国経済における二重構造の解消こそが経済発展や成長の原動力となる可能性を明らかにしているんですが、マイクロクレジットによる小規模な企業では二重構造を固定化しかねず、農漁村などの生存部門から製造業や近代的な商業などの資本家部門への労働力のシフトがないならば、日本の1950~60年代の高度成長による形でのビッグ・プッシュが発生せず、途上国から抜け出せない可能性もありますし、いわゆる中所得の罠に陥る可能性も高くなるような気がします。ただ、マイクロクレジットとは関係なく、本書で指摘している論点のひとつであるソーシャル・ビジネス、すなわち、利己利益に基づく強欲の資本主義ではなく、隣人などへの思いやりの心に基づく非営利活動が経済の主体となれば、人類は資本主義の次の段階に進めるかもしれません。そして、本書が指摘するように、貧困と失業を最大限削減し、地球環境の保護に役立つことになるかもしれません。

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次に、北都光『英語の経済指標・情報の読み方』(アルク) です。著者はジャーナリストで、金融市場の情報に詳しいようです。出版社は英辞郎で有名なところです。ということで、本書では投資のプロがチェックしている海外の経済指標・経済情報の中で、いくつか金融市場に与える影響が特に大きいものをピックアップして、着目ポイント、読み解き方などをわかりやすく解説しています。基本的に、データの解説なんですが、中央銀行の金融政策決定会合の後の総裁の発言なども取り上げています。具体的には、第2章の基礎編にて、米国雇用統計、米国ISM製造業景況指数、CMEグループFedウオッチ、ボラティリティー・インデックス(VIX)、経済政策不確実性指数、米国商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告、のほかに、一般的なデータのありかとして、米国エネルギー情報局(EIA)統計、国際通貨基金(IMF)の各種データ、経済協力開発機構(OECD)景気先行指数(CLI)、欧州連合(EU)統計局のデータを取り上げています。エネルギー関係のデータなどについては私も詳しくなく、なかなかの充実ぶりだと受け止めています。さらに、第3章の応用編では投資に役立つ英語情報の活用法として、要人発言を含めて、データだけでない英語情報の活用を解説しています。最終章では英語の関連する単語リストを収録しています。誠にお恥ずかしいお話しながら、commercialが実需であるとは、私は知りませんでした。これは英辞郎を見ても出て来ません。なお、私が数年前に大学教員として出向していた際にも、実際の経済指標に触れるために2年生対象の小規模授業、基礎ゼミといった記憶がありますが、その小規模授業にて日本の経済指標を関連嘲笑や日銀などのサイトからダウンロードしてエクセルでグラフを書くという授業を実施していました。日本ですから、GDP統計や鉱工業生産指数や失業率などの雇用統計、貿易統計に消費者物価にソフトデータの代表として日銀短観などが対象です。20人ほどの授業だったんですが、理由は不明ながらデータのダウンロードにものすごく時間がかかるケースがあって往生した記憶があります。

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次に、中村吉明『AIが変えるクルマの未来』(NTT出版) です。著者は工学関係専門の経済産業省出身ながら、現在は専修大学経済学部の研究者をしています。本書のテーマであるAIによる自動運転で自動車産業が、あるいは、ひいては、日本の産業構造がどのように変化するかについて論じた本はかなり出ているんですtが、本書の特徴は、自動運転車で人や物を運ぶ方法のひとつとして、乗り物をシェアするUberなどのシェアリング・エコノミーを視野に入れている点です。もっとも、だからといって、特に何がどうだというわけではありません。今週、米国でUberの自動運転中に死亡事故があったと報じられていましたが、自動車の運行については、私もそう遠くない将来に自動運転が実用化されることはほぼほぼ間違いないと考えていて、ただ、自分で自動車を運転したい、まあ、スポーツ運転のようなことが好きな向きにはどうすればいいのだろうかと思わないでもなかったんですが、本書の著者は乗馬の現状についてと同じ理解をしており、日本の現時点での公道で乗馬をしていないのと同じ理由で、自動運転時代になれば自動車の運転をするスポーツ運転は行動ではなく、まあ、現時点でいうところの乗馬場のようなところでやるようになる、と指摘しており、なるほどと思ってしまいました。また、将来の時点で自動運転される自動車は、現時点での自家用車のような使い方をされるのではなく、鉄道化すると本書では主張していますが、まあ、バスなんでしょうね。決まったところを回るかどうかはともかく、外国では乗り合いタクシーはめずらしくないので、私にはそれなりの経験があったりします。また、政府の役割として、規制緩和はいうまでもなく、妙に重複投資を避けるような調整努力はするべきではなく、むしろ、重複投資を恐れずにバンバン開発研究を各社で進めるべし、というのも、かつての通産官僚や経産官僚にはない視点だという気がしました。最後に、特に目新しい点がてんこ盛りとも思いませんので、自動運転の論考は読み飽きたという向きにはパスするのも一案かと思います。

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次に、マイケル・ファベイ『米中海戦はもう始まっている』(文藝春秋) です。著者は長らく米軍や米国国防総省を取材してきたベテランのジャーナリストであり、特に上の表紙画像に示された中国軍との接近事件などを経験した米軍関係者らにインタビューを基に本書を構成しています。英語の原題は Crashback であり、「全力後進」を意味する海洋船舶用語から取っており、米国のミサイル巡洋艦カウペンスが中国の空母・遼寧に接近した際に、間を割って入った中国海軍の軍艦との衝突を避けるためにとった回避行動を指しています。原書は2017年の出版です。ということで、上の表紙画像にも見られるように、中国海軍の戦力の拡充に対し、米国のオバマ政権期の対中国融和策について批判的な視点から本書は書かれています。本書冒頭では、かつての米ソの冷戦に対して、現在の米中は「温かい戦争」と呼び、米ソ間の冷戦よりも「熱い戦争」に近い、との認識を示しているかのようです。ただし、オバマ政権期であっても米国海軍の中にハリス大将のような対中強硬派もいましたし、それほどコトは単純ではないような気がします。中国が経済力をはじめとする総合的な国力の伸長を背景に、南シナ海などの島しょ部の占有占領を開始し、中には小規模ながら東南アジア諸国軍隊と武力衝突を生じた例もありますし、その結果、中国軍の基地が建設されたものもあります。もちろん、米国政府や米軍も黙って見ていたわけでもなく、カウペンスの作戦行動をはじめとして、中国海軍へのけん制を超えるような作戦行動を取っているようです。ただ、私は専門外なのでよく判らないながら、日米両国は中国に対して国際法を遵守して武力でなく対話による紛争解決など、自由と民主主義に基づく先進国では当たり前の常識的な対応を期待しているわけですが、平気で虚偽を申し立てて、あくまで自国の勝手な行動をダブル・スタンダードで世界に認めさせようとする中国の軍事力が巨大なものとなるのは恐怖としか言いようがありません。加えて、戦力的には現時点での伸び率を単純に将来に向かって延ばすと、陸軍では言うに及ばず、海軍であっても米軍の戦力を中国が超える可能性があります。そして、この観点、すなわち、覇権国の交代に際してのツキディデスの罠の観点がスッポリと本書では抜け落ちているような気がします。単純に狭い視野でハードの軍事力とソフトの政権の姿勢だけを米中2国で並べているだけでは見落とす可能性があって怖い気がします。加えて、日本の自衛隊にはホンのチョッピリにしても言及があるんですが、北朝鮮はほとんど無視されており、まあ、海軍力という観点では仕方ないのかもしれませんが、日本や韓国を含めた周辺国への影響についてはとても軽視されているような気がします。

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次に、森正人『「親米」日本の誕生』(角川選書) です。著者は地理学研究者であり、同じ角川選書から出ている『戦争と広告』は私も読んだ記憶があります。本書では、終戦とともにいわゆる「鬼畜米英」から、「マッカーサー万歳」に大きく転換した日本の米国観について論じているものだと期待して読み始めたですが、やや期待外れ、というか、ほとんど戦後日本のサブカルチャーの解説、特に、いかに米国のサブカルチャーを受け入れて来たか、の歴史的な論考に終わっています。ですから、対米従属的な視点もまったくなく、講座派的な二段階革命論とも無関係です。要は、終戦時に圧倒的な物量、経済力も含めた米国の戦争遂行力の前に、まったく無力だった我が国の精神論を放擲して、その物質的な豊かさを国民が求めた、という歴史的事実が重要であり、進駐軍兵士から子どもたちがもらうチョコレートやガムなどの物質的な豊かさに加えて、社会のシステムとして自由と民主主義や人権尊重などを基礎とした日本社会の再構築が行われた過程を、それなりに跡付けています。ただし、繰り返しになりますが、音楽はともかく、美術や文学やといったハイカルチャーではなく、広く消費文化と呼ばれる視点です。すなわち、洋装の普及に象徴されるようなファッション、高度成長期に三種の神器とか、そののちに3Cと称された耐久消費財の購入と利用、そして、特に家事家電の普及や住宅の変化、米国化とまではいわないとしても、旧来の日本的な家屋からの変化による女性の家庭からの解放、などに焦点が当てられています。ただ、私の理解がはかどらなかったのは、米国化や米国文化の受容の裏側に、著者が日本人のひそかな反発、すなわち、米国に対する愛憎半ばするような複雑な感情を見出している点です。それは戦争に負けたから、というよりは、米国的なものと日本的なものとを対比させ、例えば、自動車大国だった米国を超えるような自動車を作り出す日本の原動力のように評価しているのは、私にはまったく理解できませんでした。そこに、戦前的な精神性を見出すのは本書の趣旨として矛盾しているような気がするのは私だけでしょうか。

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次に、佐藤彰宣『スポーツ雑誌のメディア史』(勉誠出版) です。著者は立命館大学の社会学の研究者です。そして、本書は著者の博士論文であり、ベースボール・マガジン社とその社長であった池田恒雄に焦点を当てて、その教養主義を戦後の雑誌の歴史からひも解いています。ほぼほぼ学術書と考えるべきです。なお、雑誌としての『ベースボール・マガジン』は1946年の創刊であり、まさに終戦直後の発行といえます。その前段階として、野球という競技・スポーツが、戦時中においては米国発祥の敵性スポーツとして極めて冷遇された反動で、戦後の米軍進駐の下で、価値観が大転換して、米国の自由と民主主義を象徴するスポーツとして脚光を浴びた歴史的な背景があります。他方、メディアとしての雑誌媒体は、新聞がその代表となる日刊紙に比べて発行頻度は低く、週刊誌か月刊誌になるわけですが、戦後、ラジオに次いでテレビが普及し、リアルタイムのメディアに事実としての速報性にはかなわないわけですから、キチンとした取材に基づく解説記事などの付加価値で勝負せざるを得ないわけで、その取材のあり方にまで本書では目が届いておらず、単に誌面だけを見た後付けの解釈となっているきらいは否めません。でも、スポーツを勝ち負けに還元した競技として捉えるのではなく、その精神性などは戦時中と同じ地平にたった解釈ではなかろうかと私は考えるんですが、著者はよりポジティブに教養主義の観点から雑誌文化を位置づけています。スポーツは、究極のところ、いわゆるサブカルチャーであり、美術・文学・音楽といったハイカルチャーではないと考えるべきですが、競技である限り、スター選手の存在は無視できず、相撲でいえば大鵬、野球でいえば長島、らがそれぞれ本書では取り上げられて注目されていますが、他方で、マイナーなスポーツとして位置づけられているサッカーでは釜本の存在が本書では無視されています。少し疑問に感じます。でも、ひとつの戦後史として野球雑誌に着目した視点は秀逸であり、サッカーなんぞよりは断然野球に関心高い私のような古きパターンのスポーツファンには見逃せない論考ではないかと思います。

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最後に、アンディ・ウィアー『アルテミス』上下(ハヤカワ文庫) です。著者は新々のSF作家であり、本書は何とまだ第2作です。そして、第1作は『火星の人』Martian です。といっても判りにくいんですが、数年前に映画化され、アカデミー賞で7部門にノミネートされた「オデッセイ」の原作であり、本書もすでに20世紀フォックスが映画化の権利を取得しています。実は、私はそれなりの読書家であり、原作を読んだ後に映画を見る、という順番のパターンが圧倒的に多いんですが、原作『火星の人』と映画「オデッセイ」については逆になりました。私の記憶が正しければ、ロードショーの映画館で見たのではなく、「オデッセイ」は飛行機の機内で見たんですが、とても面白かったので文庫本で読みました。そして、最近、本屋さんで見かけたんですが、『火星の人』の文庫本の表紙は映画主演のマット・デイモンの宇宙服を着た顔のアップに差し替えられています。大昔、私が中学生だか高校生だったころ、『グレート・ギャッツビー』が映画化により映画のタイトルである『華麗なるギャッツビー』に差し替えられ、主演のロバート・レッドフォードとミア・ファローの写真の表紙に差し替えられたのを思い出してしまいました。それはともかく、本書の舞台はケニアが開発した月面コミュニティです。その名をアルテミスといい、それが本書のタイトルになっています。直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2000人の住民が生活しており、主として観光業で収入を得ています。もちろん、本書冒頭にありますが、超リッチな人が移住したりもしていて、例えば、足が不自由な人が重力が地球の⅙の月面で、地球より自由な行動を取れることをメリットに感じる、などの場合もあるようです。ただ、この月面都市でもリッチな観光客やさらに超リッチな住民だけでなく、そういった人々をお世話する労働者階級は必要なわけで、主人公は合法・非合法の品物を運ぶポーターとして暮らす20代半ばの女性です。本人称するところのケチな犯罪者まがいの女性なんですが、月面で観光以外に活動している数少ない大企業のひとつであるアルミ精錬会社の破壊工作を行うことを請け負います。でも、月面の資源を基にアルミと副産物である酸素とガラス原料のケイ素を産するプラントの爆破を実行するんですが、実は、この破壊工作にはウラがあって、前作の『火星の人』と同じように、月面都市や天下国家を巻き込んだ大きなお話し、というか、陰謀論に展開して行きます。相変わらず、というか、前作の『火星の人』と同じように、少なくとも私のようなシロートには大いなる説得力ある綿密な化学的バックグラウンドが示され、キャラの設定も自然で共感でき、クライム・サスペンスとしてのスピード感も十分です。映画化されたら、私は見に行きそうな気がします。

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2018年3月23日 (金)

とうとう前年同月比上昇率が+1%に達したコア消費者物価(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から2月の消費者物価指数 (CPI)が公表されています。前年同月比上昇率でみて、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は前月からわずかながら上昇幅を高めて+1.0%に達しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の全国消費者物価1.0%上昇 電気代やガソリンが押し上げ
総務省が23日発表した2月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合指数が100.6と前年同月比1.0%上昇した。プラスは14カ月連続で、消費増税の影響を除いたベースで、2014年8月(1.1%上昇)以来3年6カ月ぶりの上昇率となる。QUICKがまとめた市場予想の中央値は1.0%上昇だった。電気代やガソリンなどエネルギー品目が引き続き押し上げた。
生鮮食品を除く総合では、全体の57.6%にあたる301品目が上昇し、169品目が下落した。横ばいは53品目だった。生鮮食品を除く総合指数を季節調整して前月と比べると0.1%上昇だった。
生鮮食品を含む総合は101.3と1.5%上昇した。キャベツやミカン、マグロなどの高騰が背景で、消費増税の影響を除いたベースで14年6月(1.6%上昇)以来3年8カ月ぶりの高水準だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合は100.8と前年同月比0.5%上昇した。中国の春節(旧正月)が2月にずれ込んだ影響で宿泊料が上昇した。平昌冬季五輪の開催に伴い、外国パック旅行費も上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、やや長くなってしまいました。続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いも私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。

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昨年2017年年央くらいからエネルギー価格の上昇に伴って、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの上昇率もジリジリと上昇幅を拡大し、昨年11月から今年2018年1月まで3か月連続で+0.9%を記録した後、とうとう2月には+1.0%に達しました。ただ、上のグラフに見られる通り、私の雑な計算による寄与度でみる限り、+1%のコアCPI上昇率のうち、半分強の+0.53%の寄与がエネルギー価格から出ています。加えるに、+0.28%の寄与が生鮮食品を除く食料から、サービスから+0.16%、最後にコア財から+0.04%となります。なお、サービス以外の消費財のうち、電機製品などの耐久消費財と衣類などの半耐久消費財はともに、前年同月比上昇率が+0.3%であるのに対して、食料などの非耐久消費財が突出して上昇率が高く、+3.6%を示しています。前月に書いた購入頻度別とか、基礎的・選択的支出別とかのグラフは示しませんが、先月から傾向は変わらず、購入頻度が高い財サービス、また、基礎的な消費支出にかかる物価上昇が大きくなっていますから、全体の+1%の上昇率よりも、国民生活の中でより大きな物価上昇の実感がある可能性があります。加えて、もっとも重要なポイントと私が考えるのは、賃金上昇が小幅にとどまる中で、今年の賃上げが伸び悩むなら、2018年は実質賃金の上昇率がマイナスを記録する恐れもあります。

先週3月16日の「月例経済報告」では「消費者物価は、このところ緩やかに上昇している。」と久し振りに判断を引き上げましたし、単純に+1%の物価上昇だけを見ると、デフレ脱却宣言もあるいは可能な物価上昇に達した気もします。ただ、まだまだ未達の日銀の物価目標に加えて、実質賃金の動向などを考え合せると、デフレ脱却宣言を政府が出すことが可能かどうか、なかなか難しい判断になるような気がします。

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2018年3月22日 (木)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2030年までの労働力人口・労働投入量の予測」やいかに?

足元から将来に向けて中長期的な経済活動への制約として労働力不足が上げられていますが、やや旧聞に属する話題ながら、先週3月12日付けで三菱UFJリサーチ&コンサルティングから「2030年までの労働力人口・労働投入量の予測」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。10年余り先の2030年くらいまでの期間では、労働力人口が減少に向かう中で、女性や高齢者の労働参加率が上昇することから就業者や雇用者数は大きな減少を示さず、その裏側で失業率が3%を大きく割り込んで2030年には2.1%まで低下するものの、非正規比率の上昇などにより1人当たり労働時間が減少することから、総労働投入量としては2029年にはリーマン・ショック後に落ち込んだ水準を下回るまで減少する、と見込まれています。供給サイドにおける重要なトピックを定量的にかなり先まで見通しています。リポートから大量にグラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 図表5 労働力人口の見通し を引用すると上の通りです。15~64歳の労働力人口は減少を続け、2017年から2030年にかけて▲237万人減少する一方で、中年層を中心とする女性や男女を問わず65歳以上の高齢層の労働参加率の上昇により相殺されるという背景で、労働力人口は現状の2017年まで増加基調が続いた上に、2023年まではグラフに見られる通り、ほぼほぼ横ばいが続き、さすがに2024年から減少に転じ、それでも、2030年の労働力人口は6693万人と2017年の6720万人をわずか▲27万人下回る水準にとどまる、と見込まれています。もちろん、

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次に、リポートから 図表6 就業者数の見通し を引用すると上の通りです。見れば明らかな通り、先ほど示した労働力人口よりもさらに減少幅が小さく、というか、ほとんど減少を示さず、2017年から2030年にかけて就業者数はほぼ横ばいと見込まれています。すなわち、繰り返しになりますが、労働力人口が2017年から2030年にかけて▲27万人減少するのに対し、就業者数は同期間で逆に+23万人増加すると予想されていたりします。そのカラクリは次の失業率見通しで明らかにされます。

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ということで、次に、リポートから 図表7 失業率の見通し を引用すると上の通りです。足元で失業率は3%を下回り、予測最終年にかけてさらに低下を続け、2030年に失業率は2.1%にまで低下すると見込まれています。この背景は、それなりのイノベーションが想定されており、すなわち、「労働条件の改善やテレワークの普及、人材派遣・マッチングシステムの高度化、技術革新による職業の垣根の撤廃・ハードルの低下などによってミスマッチによる失業が減少」する、という前提になっています。おそらく、経済合理性などの観点から、こういったイノベーションが進むのは確かであろうと私も同意しますが、逆に、こういったイノベーションが進まなければ、失業率は低下せず就業者も増加せずに、人手不足がさらに悪化する可能性も否定できない、ということなのかもしれません。

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次に、リポートから 図表12 非正規雇用者比率の見通し (全体) を引用すると上の通りです。労働投入量の算出は極めて単純に就業者数に1人当たりの労働時間を乗じて求められますから、ここからは1人当たりの労働時間の方向を考えることとなり、まず、ここ20~30年くらいでじわじわと進んだ非正規化の流れを見通したのが上のグラフです。もちろん、女性や65歳以上の高齢層の労働力化が進みますので非正規比率が高まる分も考え合わせると、非正規比率はさらに上昇することは容易に想像され、リポートでは2017年の37.3%から、2020年には38.2%、2030年には42.9%まで上昇すると見込んでいます。

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次に、リポートから 図表13 1人当たりの年間労働時間の見通し を引用すると上の通りです。先ほどの非正規雇用者比率の上昇もあり、グラフから明らかな通り、先行きはほぼほぼ一貫して1人当たり労働時間の減少が続き、それでも、2022年までは緩やかな減少にとどまります。しかし、その後は非正規雇用者比率の上昇とともに加速するため、2030年の平均労働時間は1689.4時間と、2016年の1742.0時間から▲52.6時間の減少を示すと見込まれています。

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最後に、リポートから 図表14 総労働投入量の見通し を引用すると上の通りです。リポートに従えば、2022年くらいまでの期間は女性と高齢者の活躍によって労働力不足をそれほど心配しなくてもよいという見通しになっていますが、こういった仮定や前提の下であっても、労働投入量が減少していくことは避けられず、2029年にはリーマン・ショック後に落ち込んだ水準を下回るまで減少すると見込まれています。

いっぱいグラフを引用して長くなってしまいましたが、最後に、女性や高齢者の労働参加を進めても、また、リポートで前提しているようなミスマッチによる失業が減少したとしても、2023年以降には労働投入量の減少が本格化する可能性が示されています。まあ、当たり前の結論ながら、生産性のさらなる上昇などにより、自然単位での労働投入の減少を効率単位でどこまで抑制するか、が重要な論点になるだろうと考えられます。

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2018年3月21日 (水)

映画「空海 KU-KAI」を見に行く!

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前々から、今日の春分の日は寒い上に雨模様という天気予報でしたので室内競技を志向し、近くのシネコンに映画「空海 KU-KAI」を見に行きました。実は、昨日のうちに一番早い回の座席を予約しておいたのですが、何と、当日の今日になって寝坊してしまい、予告編が流れていて本編が始まる直前ギリギリに滑り込みました。日本から遣唐使として入唐した若き僧侶の空海と官僚であり詩人でもある白居易とともに、唐の都である長安を駆け回って、楊貴妃の死の謎を追います。空海は染谷将太が演じ、なかなかにピッタリでした。常に微笑みを絶やさないところは弘法大師の人柄によくマッチしている気がします。日本語のサブタイトルは「美しき王妃の謎」であり、それはそれでいいような気もするんですが、実は、映画を見ている限り、中国でのタイトルは「妖猫伝」らしく、人語をしゃべる黒猫が主人公のように振る舞います。ただし、この黒猫の動きがとても不自然でぎこちなく、やや映画としての完成度の高さに疑問を投げかけそうな気もします。原作を読んでいないので何とも言えませんが、ストーリーそのものは可もなく不可もなくで、ハッキリ言えば平凡な気もします。でも、流石に日中合作映画らしく映画としては豪華絢爛で、唐の最盛期の長安を舞台にした映像は見ただけでリッチな気分に浸れる人も少なくなさそうです。私は少なくともそうでした。
原作は夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』であり、私は読書家のつもりですので原作を読んでから映画を見るという順番が圧倒的なんですが、ひょっとしたら、この映画については映画を見た後に原作を読むかもしれません。3~4年前に、映画「オデッセイ」を見た後に、アンディ・ウィアーの原作『火星の人』を読んだ記憶がありますが、それ以来の映画先行かもしれません。

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2018年3月20日 (火)

帝国データバンクによる「2018年度の雇用動向に関する企業の意識調査」の結果やいかに?

賃金上昇は見られないものの、失業率や有効求人倍率に現れた人手不足の状況が一段と深刻化を増す中、先週3月14日付けで帝国データバンクから「2018年度の雇用動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、長くなりますが、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 2018年度に正社員の採用予定があると回答した企業の割合は65.9%と、4年連続で6割を超え、リーマン・ショック前の2008年度(2008年3月調査)を上回った。特に「大企業」(84.0%)の採用意欲が高く、調査開始以降で最高を更新。「中小企業」(61.3%)の採用予定も2年連続で増加し、11年ぶりに6割を超えた。正社員の採用意欲は上向いており、中小企業にも広がりを見せている
  2. 非正社員の採用予定があると回答した企業の割合は52.4%と3年ぶりに増加、非正社員に対する採用意欲は強まってきた。特に、非正社員が人手不足の状態にある「飲食店」は9割、「娯楽サービス」「飲食料品小売」は8割を超える企業で採用を予定している
  3. 2018年度の正社員比率は企業の20.7%が2017年度より上昇すると見込む。その要因では、「業容拡大への対応」(51.5%)をあげる割合が最も高く、「退職による欠員の補充」「技術承継などを目的とした正社員雇用の増加」が3割台で続く
  4. 従業員の働き方に対する取り組みでは、「長時間労働の是正」が46.3%でトップ。次いで、「賃金の引き上げ」「有給休暇の取得促進」がいずれも4割台で続いた。本調査から、従業員の働き方を変えるための6つのポイントが浮上した(1.心身の健康維持に向けた取り組み、2.仕事と家庭の両立に向けた取り組み、3.多様な人材を生かす取り組み、4.人材育成への取り組み、5.柔軟な働き方を支える環境整備への取り組み、6.公正な賃金制度構築への取り組み

もう少し手短に要約して欲しい気もしますが、以下では、リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 正社員の採用予定の有無 について問うた結果を時系列で並べたのが上のグラフです。調査結果概要では、2018年度はリーマン・ショック前の水準超えとなっていますが、あくまで2008年調査結果の62.2%を超えたわけであって、リーマン・ショック直前の2007年調査結果の水準である67.4%にはまだ達しないわけで、2018年調査結果はその間に落ちる65.9%となります。でも、ひょっとしたて、現在の景気拡大がもう1年継続すると仮定すれば、来年の調査結果ではホントの正真正銘でリーマン・ショック前の水準を上回りそうな気もします。ただし、逆から見て、正社員最異様予定がないと回答したのはわずかに23.5%であり、これは、正真正銘リーマン・ショック前を下回ります。いずれにせよ、正社員採用の意欲は極めて高い事実が浮き彫りになっています。もっとも、グラフは引用しませんが、非正社員採用の意欲も極めて高くなっているのも忘れるべきではありません。

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ということで、次に、リポートから 正社員比率の動向 について問うた結果が上のグラフです。まあ、正社員比率は上昇すると見込む企業が多くなっているわけです。その要因については、業容拡大への対応が 1番目の理由として上げられており51.5%と半数を超えました。次いで、退職による欠員の補充が37.3%、技術承継などを目的とした正社員雇用の増加が31.3%で続いたほか、非正社員から正社員への雇用形態の転換も28.3%の企業が要因に上げていました。

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最後に、政府の働き方改革に対応して、リポートから 従業員の働き方に対する取り組み状況 について問うた結果が上のテーブルです。複数回答の結果上位10位までですが、長時間労働の是正(時間外労働の上限規制など)、賃金の引き上げ(賃金規定の整備・改定など)、有給休暇の取得促進、人材育成の強化(研修、OJTなど)などが上げられています。1位の労働時間とともに、2位に賃金が入っているとは思いませんでした。

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2018年3月19日 (月)

輸出数量が減少した貿易統計について考える!

本日、財務省から12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+1.8%増の6兆4630億円、輸入額も+16.5%増の6兆4596億円、差引き貿易収支は;34億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の貿易黒字34億円 2カ月ぶり黒字も春節要因で前年比大幅減
財務省が19日発表した2月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は34億円の黒字だった。ハイブリッド(HV)車の輸出が大きく伸び、2カ月ぶりに貿易黒字に転じた。ただ資源高に春節(旧正月)要因が加わったことで黒字幅は前年同月(8045億円)から大幅に縮小した。
輸出額は前年同月比1.8%増の6兆4630億円だった。15カ月連続で増加した。米国向けのHV車のほか、南米の仏領ギアナ向けの人工衛星、中国向けの金属加工機械がけん引した。地域別に見ると、米国向けは1兆2762億円と4.3%増加。欧州連合(EU)向けも11.5%増えたが、中国を含むアジア向けは3.2%減少した。
輸入額は16.5%増の6兆4596億円だった。14カ月連続で前年実績を上回った。中国から衣類の輸入が伸びたほか、資源価格の上昇を受けてオーストラリアからの液化天然ガス(LNG)や韓国からの灯油の輸入も増加した。アジアからの輸入額は26.5%、米国からは5.2%ぞれぞれ増えた。
対中国でみると輸出は9.7%減少したが、輸入は39.2%増と大幅に伸びた。毎年、春節のある月は中国向けの輸出が控えられる一方で中国からの輸入が増える傾向にある。今年の春節は2月16日で、前年は1月末だった。財務省は「春節が(黒字幅の縮小に)影響した」とみている。
税関長公示レートは1ドル=109.26円だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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ということで、先月の貿易統計を取り上げた記事でも書いたところですが、引用した記事にもある通り、毎年1~2月は中華圏の春節効果で大きなスイングが見られますので、何とも評価が下しがたいところ、2月の貿易統計では季節調整していない原系列の統計では小幅に貿易黒字を記録したものの、季節調整済みの系列では貿易収支は赤字を計上しています。上のグラフの通りです。2011年3月の震災に伴う原発停止に起因してエネルギー輸入が急増したために貿易収支が赤字化し、季節調整済み系列で見る限り、大雑把に2015年10月まで赤字が継続し、2015年11月から直近の2018年1月まで貿易黒字が計上されていたんですが、2月統計では季節調整済みの系列で見て久々の貿易赤字でした。米国のセンサス局法による季節調整ですから、中華圏の春節をどこまで季節調整し切れているかは不明ですが、私の想像によれば、季節調整もかなり攪乱されている可能性が高いと受け止めています。季節調整済みの系列では、1月が+3523億円の貿易黒字、2月が▲2015億円の赤字ですから、今年に入ってからの2か月をならして見れば各月で数百億円の黒字、という形になります。現状での日本企業の国際競争力の実情という気もします。というのは、次のパラでもう少し詳しく展開しますが、資源高で燃料輸入の金額がかさんでいることに加えて、為替で円高が進んでいるからです。

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ということで、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。グラフを見る限り、先進国の経済動向は真ん中のパネルで見るOECD加盟国の先行指標の前年同月比がやや右下がりに転じていて、2月の我が国からの輸出数量が前年同月比で▲2.1%の減少を記録しています。もちろん、春節効果により中国に対する輸出数量が大きく攪乱され、前年同月比で見て今年2018年1月の中国向け輸出数量は+27.6%と大きく伸びた後、2月は▲13.6%と落ち込んでいたりします。ただ、輸入サイドの燃料価格の高騰とともに、上のグラフを見ても、輸出の増勢が鈍化しているのは明らかですし、特にその主因は輸出数量の伸びの鈍化にあります。輸出数量の伸び鈍化の要因のひとつとして、為替の円高進行が輸出の伸びを抑制している点は忘れるべきではありません。税関長公示の2月末から3月初めの円ドル為替を見ると、昨年2017年2月26日~3月4日の期間で113.84円だったのが、今年2018年2月25日~3月3日では107.03円に、5%超の円高となっています。為替の動向については相場モノですので、基本的にランダム・ウォークすると私は考えており、何とも見通しがたいところですが、もうすぐ、米国の公開市場委員会(FOMC)も始まりますし、金融政策の動向が注目されることはいうまでもありません。ただ、2月統計については為替要因もあって輸出数量がやや減少を示しましたが、先進国をはじめとする世界経済の回復・拡大の足取りはしっかりしており、所得要因から見れば、我が国の輸出も緩やかに増加を続けるものと私は期待しています。

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2018年3月18日 (日)

日本気象協会による桜の開花予想やいかに?

日本気象協会から3月14日に第4回の桜の開花予想が明らかにされています。前回第3回の予想からやや桜の開花はやや早まっているようです。まず、日本気象協会のサイトから桜の開花に関する予想を2パラだけ引用すると以下の通りです。

各地の桜(ソメイヨシノほか)の2018年予想開花日・予想満開日2018年の桜の予想開花日は、九州から東北の広い範囲で前回予想(3月7日発表)より1日~5日早まり、北海道では前回予想とほぼ同じ見込みです。平年と比べると、九州から東北で3日~7日早まるところが多く、北海道では3日ほど早いでしょう。
桜前線は3月16日に高知からスタートし、17日に熊本と高知県宿毛、18日には宮崎、和歌山で開花するでしょう。東京と横浜は20日、大阪では21日に開花の便りが届く見込みです。九州から関東と北陸の一部では、3月末までに開花し、4月上旬には北陸や長野県、東北南部で開花するでしょう。4月中旬以降は東北北部で開花し、4月末には桜前線が津軽海峡を越え、北海道の函館や札幌などで開花する見込みです。

なお、桜が満開になる日は開花のおよそ1週間後となり、予想満開日がもっとも早いのは高知で3月22日、九州から関東では3月末までに満開となるところが多く平年より1週間前後早い見込みだそうです。そのころにはプロ野球の公式戦も開幕しているような気がします。
下の桜前線の画像は日本気象協会のサイトから借用しています。

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2018年3月17日 (土)

今週の読書は小説まで含めて5冊にペースダウン!

図書館での予約の巡りの関係で、先週、先々週と2週続けて9冊を読んでしまいましたが、今週はなんとか正常化が図られて、以下の通りの計5冊でした。これくらいが適当なペースではないかと思いますが、以下の5冊のうち、最初の2冊はかなりのボリュームです。実効状は6冊分近かった気がします。

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まず、田中洋『ブランド戦略論』(有斐閣) です。著者は中央大学ビジネス・スクールの研究者なんですが、それよりも実務面で電通マーケティング・ディレクターをしていたことで有名かもしれません。なお、同じ出版社から数年前に似たタイトルで『ブランド戦略全書』という本が出版されており、コチラでは編者となっています。ということで、サバティカルの期間を利用して本書を取りまとめたようで、全体は理論編、戦略編、実務編、事例編の4部構成となっていますが、私がついて行けたのは第Ⅰ部だけでした。後はせいぜい第Ⅳ部の個別の会社のサクセス・ストーリーを面白く読んだだけです。本書の冒頭に、スティグリッツ教授のテキストから引用があり、「経済の基本モデルに従えば、ブランド名は存在してはならない」とあります。市場における完全情報が前提されている合理性あふれる伝統的な経済学ではブランドなんてものは存在する余地がありません。でも、実際にあるわけですから、経済主体の合理性が限定的であり、市場の情報が完全ではない、ということをインプリシットに含意しているんだろうと私は理解しています。ですから、昨年のノーベル経済学賞は行動経済学・実験経済学のセイラー教授に授与されましたが、経済学者がエラそうに限定合理性を前提に行動経済学や実験経済学を論じるよりも、実務的なマーケターの方が実際の価格の値付けや量的な需給を表現する売れ行きをよく知っているような気がします。そして、ブランドとは市場の情報に関していえば、不完全な情報を補完するものであり、限定合理性に関していえば、需要曲線を上方シフトさせる要因です。重ねて強調しておきますが、経済学者が行動経済学や実験経済学を新しい試みとして有り難がっている一方で、実務的なマーケターはより実践的にブランドなどを活用して売上を伸ばして利益を上げているんだろうと思います。その点を考慮すると、経済学で行動経済学や実験経済学を限定合理性の下で理論的に精緻化するのは、それほど大きな意味があるわけではないのかもしれません。私はよく若い人に例として持ち出すんですが、内燃機関の理論を知らなくても、最低限、ブレーキとアクセルとハンドルの働きを理解していれば自動車の運転はできなくもありません。工学研究者とドライバーは違うのだと理解すべきです。

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次に、ニック・ボストロム『スーパーインテリジェンス』(日本経済新聞出版社) です。著者はスウェーデン出身の哲学者であり、現在は英国オックスフォード大学の教授を務めています。私の限られた知識の中では、人工知能(AI)脅威論をもっとも強烈に提唱している最重要人物のひとりです。英語の原題は SUPERINTELLIGENCE であり、2014年の出版です。タイトルも、そして、表紙デザインも、邦訳書は原書とほぼ同じです。ということで、本書はAIをコントロールできるか、そして、その上で、人類はAIの脅威から逃れること、すなわち、絶滅を回避することができるかどうかを論じています。最終的には、観点相対的な視点で考えると、AIに職を奪われるどころか、今後100年で人類は絶滅する、という結論に達しています(p.519)。原注、参考文献、索引まで含めて700ページを超える本書の結論を手短に書けば、そういうことになります。私は本書の著者ほどAIの進歩と人類の絶滅に関しては悲観的ではないんですが、別の面からさらに悲観的な見方をしています。すなわち、本書の著者は人類vsAIという意味で、観点相対的な視点から議論を進めているんですが、実は、人類の敵は人類なのではないかと私は考えています。すなわち、AIが人類には向かうのではなく、というか、その前に、一部のグループの人類がAIを悪用して、別のグループの人類を抹殺に取りかかることがリスクであって、それはAIの発達段階にもよりますが、かなりの程度に成功する可能性が高いのだろうと私は考えています。おそらく、悪意を持った攻撃サイドのグループの人類によって操られたAIと、防御サイドのAIが攻防を繰り返しつつ、同等の技術ないし知識水準に達するんではないかと思いますが、ヒトラーの電撃作戦のように奇襲を用いれば攻撃サイドの方が有利になる可能性が高いんではないかと思います。本書の著者が考えるように、AIが一致団結して人類に攻撃を加える可能性よりも、その前の段階で、すなわち、AIが人類に対して悪意も善意も持っていない段階で、悪意ありげな攻撃サイドの人類のグループにAIが悪用されて、別のグループの人類が絶滅、とまで行かないとしても、大きなダメージを受ける可能性の方が大きいし、より早期に実現されてしまうように理解しています。そして、最悪の場合は現在までの文明を失う可能性がある、と考えています。一例としては、北朝鮮ではないにしても、サイバー攻撃を考えれば明らかです。もっと身近なレベルではコンピュータ・ウィルスとワクチン・プログラムもそうかも知れません。サイバー攻撃に関しては、私の認識する範囲では攻撃側がかなりアドバンテージがありそうな気がします。ただ、コンピュータ・ウィルスについては、まだ防御サイドのほうが圧倒的なリソースを持っていますから、防御サイドに有利に展開しているのが現状です。いずれにせよ、本書でも同じような問いかけがなされていますが、2007年にノーベル経済学賞を授賞されたハーヴィッツ教授の有名な論文に "But Who Will Guard the Guardians?" というのがあります。フクロウに守ってもらおうとしたスズメの例は示唆的ですが、たとえフクロウがスズメを守ってくれたとしても、そのフクロウは誰が守るのか、という問題は永遠に残ります。最後に、繰り返しになりますが、本書の著者の結論は2点あり、第1に、AIは極めて大きな人類に対する脅威となり、人類はおそらくAIにより絶滅する、第2に、それでもAIの進歩を止めることは出来ない、ということであり、私はおそらくどちらも合意します。ただし、第1の結論に達する前に人類感の争いが生じる可能性が高く、その場合、現在の文明が滅んで、あるいは石器時代くらいの文明レベルの逆行する可能性があるんではないか、という気がします。ガンダムの世界のように、もう一度人類史のやり直し、になるのかもしれません。

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次に、ジュールズ・ボイコフ『オリンピック秘史』(早川書房) です。著者は米国の政治学の研究者で大学教授なんですが、元プロサッカー選手であり、米国代表メンバーとしてオリンピック出場経験もあるという異色の存在です。英語の原題は Power Games であり、リオデジャネイロ五輪開催の2016年の出版です。何かもう、近代オリンピックに対して、あらゆる角度から批判を加えたみたいな論考で、まあ、どんなに立派なイベントでも、文句の付け方はあるものですし、オリンピックくらい問題あるイベントなら、右からでも左からでも、上からでも下からでも、前からでも後ろからでも、何とでも批判のしようはあると思います。逆に、何とでも称賛のしようもあるような気がします。本書の著者は、商業化が進みプロの参加が促進される前の段階のオリンピックについては、性差別や原住民への差別、人種差別などを上げて、オリンピックの非民主主義的な側面を批判していますが、ベルリン五輪におけるナチスのオリンピック政治利用に関しては、むしろ記録映画について容認的な態度をとっているとすら見え、やや私のような単細胞な見方をする人間は戸惑ってしまいます。最近、1980年代以降くらいの商業化が進み、プロフェッショナルなアスリートにも門戸を開いたオリンピックについては、施設のムダや華美な設備などに対する批判があり得ます。しかしながら、本書でも認めている通り、オリンピックとは所詮はエリートのためのイベントであり、スポンサーにしても大企業しか貢献し得ない大規模な催しとなっているわけで、それを分割して複数国で開催したりしても、見る方も楽しくないだろうし、参加するアスリートにもインセンティブが大きく低下しそうな気がします。要するに、それほど意味のないイベントにするのが本書の著者の目論見なのかもしれませんが、私のような一般ピープルのこれ代表のような人間にまでオリンピックが開かれている必要はないわけで、何らかのオリンピック改革がなされたところで、それなりの閉鎖性や選別された選良意識のようなものは残る可能性が高いんではないでしょうか。いずれにせよ、本を出版したり、テレビで自分の意見を述べたり、ましてやオリンピックに出場したりということになれば、一般ピープルの域を大きく超えるわけで、いくら批判したところで、特権階級のイベントであることは認めざるを得ないのではないでしょうか。

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次に、橋本素子『中世の喫茶文化』(吉川弘文館) です。著者は京都府茶業会議所勤務の研究者です。本書はタイトル通り、平安末期ないし鎌倉期から織豊期までの期間の喫茶文化に着目しています。著者に従えば、この期間で喫茶文化は寺院から出て、茶の湯の文化にまで達します。実は、私は京都は伏見の産院で生まれたんですが、たぶん、物心つく前の2歳くらいの時に宇治に移り住み、以来20年余り、大学を出るまで両親とともに宇治に住んでいましたし、親戚筋にはお茶屋さんもいます。私の代になると血縁も薄くなるんですが、私の父親の従兄弟が伝統ある宇治茶の茶園を経営していました。その一代前はというと、私から見た父方のばあさんの姉がその茶園に嫁いでいるわけです。私の父の従兄弟に当たる茶園経営者は当然ながら地域の名士であり、私の通う小学校のPTA会長さんでした。その名門茶園では代々京都大学農学部を出た経営者なんですが、私と同じ代になると、京大農学部出身の兄の方は伏見の酒造会社の研究者になってしまい、弟の方の一橋大学OBが後を継いだと記憶しています。いずれにせよ、私が今年還暦で同じ小学校に通っていたんですから、似たような年齢に達しているハズです。まあ、どうでもいいことです。本書とは関係薄い我が家の血縁について長々と書いてしまいましたが、要するに、私は平均的な日本人よりも喫茶文化に親しみがある、と言いたいわけです。私は宇治市立の小学校を卒業していますので、例えば、p.31に見える明恵の駒の蹄影伝説なんぞも知っていたりしますし、また、これも現地生まれの私には明らかな事実なんですが、宇治茶とは宇治で栽培されたお茶ではなく、もちろん、宇治で栽培されたお茶っ葉も含むのは当然ながら、おそらく、宇治から南の奈良との県境くらいにかけての地域で栽培されたお茶っ葉であって、宇治で製茶されたものの呼称だと考えるべきです。宇治は栽培後というよりは製茶業の地であるわけです。ただ、よく知られている通り、また、本書でも明らかにしている通り、中世初期の茶の産地でもっとも名高かったのは栂尾、特にその中心地の高山寺の寺域であり、宇治が茶生産の一番と目されるようになったのはせいぜいが室町期、15世紀以降くらいではないかと考えられます。いずれにせよ、私はきれいに整地された茶畑を周囲に見ながら小学校の子供時代を過ごしましたし、季節になれば母親は茶摘みのアルバイトに出たりもしていました。ですから、前世紀末から我が家が暮らしたインドネシアに行って、実に人工的に整備されたココヤシやゴムなんかのプランテーションを見て、京都南部の茶畑と同じ雰囲気を感じて、ある意味で、懐かしさを覚えたのも事実です。

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最後に、牛島信『少数株主』(幻冬舎) です。著者は弁護士であり、コーポレート・ガバナンスやM&Aなどに詳しいようです。この作品では主人公が2人いて、高校の同級生だったりするんですが、バブル期に不動産で大儲けをした企業家と弁護士です。ともに70歳の少し前ですから、まあ、後者の弁護士は作者自身をモデルにしているのかもしれません。ということで、この作品は株式が未公開というか、非上場企業の株式を保有していながら、いわゆるオーナー経営者が過半数ないし⅔の株式を保有しているため、実質的に経営に関して何の権利も発揮できない少数株主をテーマとしています。ほぼほぼ同族会社であるために経営に加われずに、わずかな配当しか得られない株式を、多くの場合は相続によって保有してる少数株主なんですが、本書の主人公の1人である弁護士によれば、経営している同族者の1人と認定されれば、配当のディスカウント・キャッシュ・フローからではなく、会社の保有する資産額の比例配分で株価が算定され、場合によってはとんでもない相続税が課される場合がある、ということで、大日本除虫菊の判例などが引かれています。ただ、私のようなサラリーマンと違って、同族会社の経営者はいろんな場面で公私混同が許容されている場合も少なくなく、自動車は社有車で、専務の社長夫人の毛皮のコートも社員の制服で、ともに経費で落とし、自宅は何と社員寮で固定資産税も払わず、やりたい放題にやっている経営者像が本書では浮き彫りになっています。ただ、私なんぞの平均的なサラリーマンから見れば、たとえ少数株主であっても、生涯の長きに渡って得られる所得階層からすれば、かなりの富裕層であり、しかも、経営者の同族と見なされるほどの近親者であれば、本書で保有している少数株を「解凍」してもらって、その株を会社に買い取らせることにより、さらに億単位の収入を得ることに、「よかったね」と共感する読者は少なそうな気もします。そういう意味で、極めて限定的な読者層を対象に考えているのか、それとも、作者ないし編集者が何か勘違いをしているのか、私にはよく判りませんでした。

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2018年3月16日 (金)

東洋経済オンライン「社会貢献におカネを出す」100社ランキングやいかに?

3月に入って、大学生の就活が始まっていますが、我が家の上の倅はちょうど就活学年に当たるものの、まあ、そこそこいい大学に通っているせいか、集団説明会なんぞには出ることもなく、自分の希望会社の説明会をセレクションの上、パラパラと出かけているようです。そういった中で、東洋経済オンラインにて会社選択のひとつの指標なのかどうか、「社会貢献におカネを出す」100社ランキングが明らかにされています。ランキング50位までは、絶対額と経常利益に対する比率、それぞれ、下のテーブル画像の通りです。

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まず、上のテーブル画像は社会貢献支出額が大きい企業ランキング(1-50位)を東洋経済オンラインのサイトから引用しています。見れば明らかな通り、トヨタ自動車が他社を圧倒しています。2016年だけでなく、過年度の2014年度216.9億円、2015年度253.8億円もダントツです。本業に極めて密接に関係した交通安全教室のほか、音楽を通じた地域文化振興、公募制の「トヨタ環境活動助成プログラム」などの環境保護活動支援なども充実しているようです。

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ただし、トヨタ自動車の場合、企業規模が大きいから社会貢献支出も大きい、という面があり、上のテーブル画像は経常利益に対する比率で見た社会貢献支出比率が高い企業ランキング(1-50位)を東洋経済オンラインのサイトから引用しています。見れば明らかな通り、トップはサンメッセ8.13%です。本社が岐阜県大垣市にある総合印刷業中堅です。3年平均の経常利益2.0億円に対して1700万円を支出しています。経団連が1990年に設立した1%(ワンパーセント)クラブでは法人企業では経常利益の、また、個人では可処分所得の、それぞれの1%を目安に社会貢献活動に支出することを呼びかけていて、今回のランキングでは、画像は取り上げませんでしたが、89位の三菱商事1.00%までがこれに該当します。2017年末時点で、東証上場企業は一部上場の2,072社をはじめとして、合計3,600社を越えますが、その3%に満たないわけです。ステークホルダーの中でも、まず賃上げにて雇用者に還元すべきと私は考えていますが、法人企業の利益剰余金は2017年10-~12月期で417兆円を超える水準に達しているところ、賃上げや社会貢献支出などを通じた利益の還元にもっと積極的な企業行動が求められるんではないでしょうか。

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2018年3月15日 (木)

総務省統計局による消費動向指数(CTI)とはどんな経済指標か?

やや旧聞に属する話題ですが、3月9日に総務省統計局からミクロとマクロの消費動向指数(CTI)の公表が開始されています。総務省統計局のホームページにアップされている世帯消費動向指数=CTIミクロと総消費動向指数=CTIマクロのそれぞれの推計方法に関するメモから概要を1項目ずつ引用すると以下の通りです。

CTIミクロの概要
世帯消費動向指数(CTIミクロ)は,我が国における世帯の消費支出の平均額の推移を示す指数であり,家計調査,家計消費状況調査及び家計消費単身モニター調査の結果を合成した支出金額により作成している。
CTIマクロの概要
総消費動向指数(CTIマクロ)は,我が国における世帯全体の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当)の推移を推測する指数であり,当月の消費支出総額について基準年(2015年)の消費支出総額の平均月額を100とする指数で表したものである。

ということで、世帯消費動向指数=CTIミクロについては、総務省統計局が従来から作成している家計調査と家計消費状況調査に加えて、昨年2017年厚から試験調査として実施されている家計消費単身モニター調査の3指標を単身世帯と2人以上世帯のそれぞれで、傾向スコアによる補正や世帯の属性情報に基づくロジスティック回帰モデルによる分布の補正などを行いつつ合成する、すなわち、何らかの加重平均ではないかと私は想像しています。これは決定論的な指標です。他方、総消費動向指数=CTIマクロについては、ストック=ワトソン型の景気動向指標と同じで確率論的なアプローチを取っており、名目値については世帯消費動向指数=CTIミクロと商業動態統計調査の小売業計とサービス産業動向調査のサービス産業計の3指標を説明変数に、また、実質値については世帯消費動向指数=CTIミクロと第三次産業活動指数の広義対個人サービスと鉱工業生産指数の消費財全計の3指標を説明変数に、それぞれ状態空間表現したモデルを組んでカルマン・フィルターで最尤法に基づいて説いているようです。まあ、これだけで理解できる人はかなりのレベルだという気もしますし、にわかに通常のビジネスパーソンが理解するのは難しそうな気もしますが、私もかみ砕いて表現できるだけの能力もありません。

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ということで、ともに月次で利用可能なデータなんですが、世帯消費動向指数=CTIミクロについては昨年2017年1月からのデータしか公表されておらず、15年余り前の2002年にさかのぼって利用可能な総消費動向指数=CTIマクロのグラフを書いてみました。上の通りです。私はサボってしまいましたが、知り合いのエコノミストの書いたグラフを拝見したところ、四半期データにしてGDPベースの消費と並べると、かなりフィットはいいようです。

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2018年3月14日 (水)

「OECDエコノミック・アウトルック中間報告」による日本経済の先行き見通しやいかに?

日本時間の昨日、経済協力開発機構(OECD)から「OECDエコノミック・アウトルック中間報告」OECD Interim Economic Outlook, March 2018 が公表されています。副題は Getting stronger, but tensions are rising とされており、その昔に流行った言い回しのcautious optimismを私は思い出してしまいました。ヘッドラインとなる経済成長率は昨年2017年11月時点から全般的に上方修正され、世界経済の成長率見通しは2018年は前回見通しの+3.7%から+3.9%に、2019年も+3.6%から+3.9%に、それぞれ上方改定され、日本の経済見通しについても2018年は+1.2%から+1.5%に、2019年は+1.0%から+1.1%に、それぞれ上方修正されています。まず、長くなりますが、OECDのプレス向けのプレゼン資料p.2からKey messagesを7点引用すると以下の通りです。

Key messages
  • The expansion is set to continue and strengthen
  • Trade and private investment are bouncing back
  • New fiscal stimulus in the United States and Germany will further boost short-term growth
  • Inflation is set to rise slowly
  • Interest rate normalisation may create tensions, with high debt and asset prices key vulnerabilities
  • An escalation of trade tensions would be damaging for growth and jobs
  • Structural and fiscal policies should focus on improving medium-term inclusive growth

続いて、成長率を総括的にテーブルにしたのが以下の画像です。プレス向けのプレゼン資料p.4にもありますが、OECDのサイトにもあり、後者から引用しています。

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ということで、OECDのリポートの表現を借りれば、米国における減税措置と支出増に加えて、ドイツにおける財政刺激策が世界経済の上方修正の背景となる要因 "new tax reductions and spending increases in the United States and additional fiscal stimulus in Germany are key factors behind the upward revision to global growth prospects" ということになります。ただし、中期の成長見通しは従来と同じで脆弱 "medium-term growth prospects remain much weaker than prior" とも指摘し、加えて、間接的ながら、通商問題にも言及し、ルールに基づく国際通商システムが成長と雇用の支持につながる "safeguarding the rules-based international trading system will help to support growth and jobs" と主張しています。後は通常通りに、ゆっくりとした金融政策正常化、財政政策や構造政策の適切な運用が雇用を拡大し長期にわたる包摂的成長を実現する、との政策提言を行っています。

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なお、本日、内閣府から1月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て前月比+8.2%増の8723億円を記録しています。いつものグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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2018年3月13日 (火)

企業物価(PPI)は円高で上昇率を縮小させつつも2月の国内物価は+2.5%の上昇!

本日、日銀から2月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は前月統計からやや上昇幅を縮小して+2.5%を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業物価指数、前年比2.5%上昇 伸び率は円高で鈍化
日銀が13日発表した2月の企業物価指数(2015年=100)は100.3で前年同月比2.5%上昇した。上昇は14カ月連続だが、伸び率は3カ月連続で縮小した。市場予想の中央値(2.6%上昇)も下回った。外国為替市場の円高基調で、円ベースでの原油価格の上昇が抑えられたことが、指数の伸び鈍化につながった。
前月比では横ばいだった。ポリエチレンなどの化学製品や鉄鋼製品の価格が上昇した一方、石油・石炭製品や非鉄金属などの価格が下落した。
米国の利上げ加速観測などを背景にした市場のリスク回避ムードに伴い、非鉄金属など国際商品相場の上昇が一服している。「商品市況が悪化すれば国内の取引価格に波及する可能性もある」(日銀の調査統計局)という。
円ベースの輸出物価は前年同月比で0.8%上昇した。前月比では円高基調を受けて1.1%下落した。
円ベースの輸入物価は前年同月比で4.4%上昇した。前月比では0.1%下落した。
企業物価指数は企業間で売買するモノの価格動向を示す。公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは381品目、下落は248品目だった。下落品目と上昇品目の差は133品目で、1月(確報値)の131品目から拡大した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の上昇率は、前年同月比で見て昨年2017年10~12月に+3.5%をつけた後、12月+3.0%、今年2018年1月+2.7%、そして、本日公表され直近で統計が利用可能な2月+2.5%と徐々に上昇幅を縮小させています。特に、今年に入ってからは円高に振れた為替の影響も無視できず、ドル円為替相場について前月比で見ると、1月▲1.9%、2月▲2.6%の円高が急速に進んでいます。輸入物価のウェイトの¼強を占める石油・石炭・天然ガスは2月の前年同月比で見て、円ベースでは+13.6%の上昇と1月の+13.7%と変わりない上昇率でしたが、実は、契約通貨ベースでは+18.8%の上昇を記録しており、上昇幅で▲5%ポイントくらいの縮小が見られます。国内物価ベースでも、石油・石炭製品の+11.6%の上昇をはじめ、非鉄金属の+8.6%、鉄鋼の+6.1%のそれぞれの上昇など、資源や素材を中心にした物価上昇ですが、上のグラフのうちの下のパネルの需要段階別の物価上昇率に見られるように、素原材料の上昇幅が中間財段階では抑えられ、さらに、最終財ではさらに上昇幅が小さくなる、という構図は従来から変わりありません。企業努力によりコスト削減を実施して川下に物価上昇が波及しないような構造と言えますが、川上の資源や素材の値上がりを川下に転嫁しにくい、とも言えそうです。ある意味で、賃金などで価格上昇の圧縮を図るんではなく、デフレ脱却により値上がりが転嫁しやすい構造になるのも賃上げのためには必要なのかもしれません。

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2018年3月12日 (月)

法人企業景気予測調査に見る企業部門の好調さは先行きも続くのか?

本日、財務省から1~3月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は7~9月期の+5.1の後、10~12月期にはを+6.2記録し、先行きについては、来年2018年1~3月期は+5.2に、また、4~6月期は+0.5と、それぞれプラスを維持すると見通されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業景況感、3期連続プラス 1~3月
半導体や設備投資好調

財務省と内閣府が12日発表した法人企業景気予測調査によると、1~3月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス3.3だった。半導体需要の増加や活発な設備投資などを背景に3四半期連続でプラスを維持した。財務省は企業の景況感について「緩やかな回復基調が続いている」とする判断を据え置いた。
指数は自社の景況が前期に比べ「上昇」したとの回答割合から「下降」の割合を引いた値。調査基準日は2月15日で、資本金1千万円以上の企業1万2811社から回答を得た。
大企業のうち製造業はプラス2.9だった。国内外で建設機械や半導体製造装置の需要が増え、生産用機械器具製造業の景況感が大きく改善した。汎用機械器具製造業はファクトリーオートメーション(FA)向けを中心に好調だった。
非製造業はプラス3.4だった。都市部の再開発が活発になるなか建設業の景況感が上向いたほか、情報通信業ではシステム開発や広告収入が増えた。
大企業(全産業)の先行き4~6月期の見通しはプラス0.3、7~9月期はプラス5.8となった。一方、中小企業(全産業)の景況感は1~3月期はマイナス9.9と落ち込んだものの、4~6月期がマイナス2.6、7~9月期がマイナス1.6と依然マイナスではあるが、徐々に改善する見通しだ。
2018年度の設備投資見通しは17年度に比べ6.5%減だった。17年度(見込み)が前年度に比べ5.0%増となるなど高水準だったことから反動を想定する見方が多いようだ。17年度は自動車向けやスマートフォン(スマホ)向けの素材・部品の生産能力を増強する投資が相次いだほか、鉄道の安全対策投資や複合施設の建設も活発だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは以下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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企業部門については、先日公表された法人企業統計に示されたリーマン・ショック前を軽く上回る経常収支に見られる通り、ハードデータでは好調を維持していることが明らかで、マインドのソフトデータについても、昨年12月の日銀短観でも私は「満月の欠けたるところもなし」と形容したんですが、法人企業景気予測調査の景況判断BSIでも先行き上昇超となっています。今回調査結果で明らかとなった7~9月期については、大企業だけでなく、中堅企業でもBSIは軒並みプラスであり、中小企業でもマイナス幅がどんどん縮小していくと見込まれています。景況感以外のBSIについては、引き続き、雇用に関する従業員数判断BSIでは人手不足が明らかとなっています。すなわち、今年2018年3月末の現状判断で、大企業が過剰に対する不足超21.9、同じく、中堅企業34.8、中小企業31.9となっていて、採用しやすい大企業よりも中堅・中小企業で人手不足感が広がっているように見受けられます。最後に、私が注目している設備投資計画は、全産業ベースで2017年度で前年度比+5.0%増と、前回調査の+3.4%増から上方修正されました。人手不足にも対応して、設備投資も増加する方向にあるようです。ただし、2018年度についてはまだ計画が固まっていないのか、▲6.5%減を見込んでいます。

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2018年3月11日 (日)

先週の読書は経済書や小説も含めてまたまた計9冊!

昨日に米国雇用統計が割り込んで、読書感想文は先週分になってしまいました。読書日が1日多かったこともあり、先々週に続いて先週も9冊を読み切ってしまいました。2週連続で9冊の読書感想文というのは、やや異常の域に入るかもしれません。ということで、経済書や安全保障・危機管理などに関する教養書に加えて、小説まで含めて以下の通りの計9冊です。この週末は昨日に図書館を自転車で回りましたが、さすがに今週は3週連続で9冊とはならず、いくぶんなりとも読書のペースダウンが図られそうです。

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まず、ジョージ・ボージャス『移民の政治経済学』(白水社) です。著者は米国ハーバード大学の労働経済学者であり、専門は移民の経済学です。本書は2015年にハーバード大学出版局から刊行されたテキスト Immigration Economics に続いて、一般向けに手ごろな分量でシンプルで率直な刊行物として2016年に出版された We Wanted Workers の邦訳です。前者のテキストは未訳ではないかと思います。なお、英語の原所のタイトルは、本書でも出て来る "We wanted workers, but we got poeple instead." すなわち、「我々が欲しかったのは労働者だが、来たのは生身の人間だった。」というスイスの作家フリッシュの発言に由来しています。ということで、我が国でもそうですが、企業経営者が声高に人口減少に対抗する手段として移民の必要性を強調するのは、安価な労働者としてなんでしょうが、実は、社会保障の対象となったり、あるいは、本人だけではなく子弟が教育の対象となったりするという意味も含めて、実は、生身の人間がやって来るわけです。もちろん、生活や文化もいっしょですから、話は逸れますが、隣国に人口規模という意味で超大国が控えている日本においては、私は移民には反対しているわけです。数百万人単位で生身の人間が隣国の人口超大国から移住してくれば、「安価な労働者」の範疇を大きく超える日本社会へのインパクトになることはいうまでもありません。本書の書評に戻って、本書の著者は、米国における移民の経済効果を極めて率直かつドライに定量的に評価しています。すなわち、例えば高度技能を持った移民が現在の国民と補完的な役割を果たせれば、お互いにウィン-ウィンの関係を結べる可能性があるものの、移民と同じ、というか、代替的な技能を持つクラスの国民に対しては賃金引き下げ要因となり、その結果、5000億ドルの所得移転が労働者から企業にる、と結論し、「移民とは単なる富の再配分政策」と指摘しています。日本でも同じだろうと私は受け止めています。そして、ある意味で、あらゆる手段を駆使して移民が我々全員にとっていいことだとの証明を試みたコリアー教授を批判的に紹介しています。まあ、自由貿易もそうですが、すべての国民にプラスということはあり得ません。トータルでプラスなので、何らかの所得補償を実施すれば、という前提の下で自由貿易も国民のマクロの厚生にプラス、ということなんだろうと思いますし、移民も同じと考えるべきです。ただ、これらの計量的な結果をもってしても、12歳で母親とともにキューバから移民して来た著者は移民に対する暖かい眼差しを忘れません。欧米でポピュリズムが台頭し、排外的な思想の下で移民に対する見方がネガティブに傾く中で、しっかりと基本を押さえている経済書・教養書だと思います。

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次に、木内登英『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社) です。著者は野村総研・野村證券のエコノミストであり、2012年から5年間日銀の政策委員会の審議委員を務めています。そして、少なくとも任期後半、特にマイナス金利の実施以降は日銀執行部の議案に反対を続けて来たような印象があります。まあ、私のような部外者が見ていて、民主党内閣で任命されたので、アベノミクスに経済政策が大きくレジーム・チェンジしても、最後まで任命してくれた民主党に義理を感じ続けたんだろうか、という気もしなくもなかったんですが、本書を読んで認識の間違いに気づきました。というのは、以前から何となく雰囲気で理解していたつもりなんですが、やはり、マイナス金利については金融機関、特に銀行出身者にはとても過酷な政策に見えるようです。要するに、金融機関の収益を収奪しているような見方が主流のようです。しかも、本書でも指摘しているように、そのころの日銀執行部、というか、黒田総裁は金融政策当局と市場の対話については重視せず、むしろ、サプライズの方が政策効果が上がると見ていたフシもあり、その唐突な登場とともにマイナス金利がいかに金融機関の収益を圧迫するがゆえに忌み嫌われているのか、を改めて強く実感しました。加えて、イールドカーブ・コントロール(YCC)も同じように長期の利ザヤを稼ぐ機会を奪うことから金融機関に嫌われており、本書の著者は強く反対しています。その昔の旧法下では、総裁などの執行部のほかに、都銀・地銀・商工業・農業代表、などと出身のグループが明らかでしたが、現在もほのかに透けて見えるものの、出身母体の利益を代表するポジション・トークではなく、もう少し国民経済の観点からの議論をお願いしたいものだという気もします。加えて、日銀財務の健全性を相変わらず強調し、言うに事欠いて、日銀が物価の安定という本来のマンデーとよりも日銀財務の方のプライオリティが高いと見えかねない行動を取れば、円通貨に対する信認が失墜する可能性を示唆し、まさに、そのように日銀に行動させようと考えている著者の見方は何だろうかと不審を持ってしまいます。さすがに、ハイパー・インフレの可能性こそ言及されていませんが、旧来の日銀理論も随所にちりばめられており、かなり批判的な読書が必要とされそうです。

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次に、肖敏捷『中国 新たな経済大革命』(日本経済新聞出版社) です。著者はSMBC日興証券のエコノミストであり、中国経済を分析するリポートを配信しています。昨年の党大会にて「核心」となり、着々と権力の一極集中を測り、本書によれば毛沢東以来の権力者と見なされつつある習近平主席について、本書の著者の見立てによれば、反腐敗などによる権力闘争はほぼ終了し、経済の軸足を移行しつつある、と分析されています。しかも、それまでの成長一辺倒、というか、雇用の拡大による量的な民政安定から、分配を通じた安定化の方向に転換を図ろうとしている、ということのようです。私は中国経済の専門家ではありませんし、それほど中国経済をフォローしているわけでないんですが、本書の著者も指摘している通り、中国においては政策運営は、経済中心ではなくあくまで政治が主導し、共産党がすべての指導原理となっている、と私は認識しており、従って、私のようなエコノミストの目から見て、経済合理性に欠ける政策運営も辞さない政治的な圧力というものがあるんだろうと想像して来ましたが、他方で、経済的には別の動きがあるのかもしれません。それにしても、中国に限らず、アジアの多くの国は雁行形態論ではないんですが、やっぱり、日本の後を着実に追っている気がします。例えば、現在の我が国の若者などがインバウンドの中国人旅行者のマナーの悪さを指摘したりしますが、実は、1985年のプラザ合意後に大きく円高が進んで円通貨の購買力が高まって海外で買い物に走った日本人も30年ほど前には同じような視点で欧米先進国の国民から見られていたんではないか、という気もします。加えて、日本で高度成長が終了した1970年代前半と同じような経済状況が現在の中国にもありそうな気がします。その意味で、何と、本書ではまったく出世しない私が、現在は日銀審議委員まで出世されたエコノミストと共著で書いた学術論文「日本の実質経済成長率は、なぜ1970年代に屈折したのか」を大きくフィーチャーして引用(pp.86-87)していただいているのは誠に有り難い限りです。昨年、私自身が所属する国際開発学会で学会発表した最新の学術論文 "Japan's High-Growth Postwar Period: The Role of Economic Plans" ももっと売れて欲しいと願っています。

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次に、佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(マガジンハウス) です。タイトル通り、昨年のノーベル経済学賞を授賞されたセイラー教授の授賞理由である話題の行動経済学をテーマにし、まんがで伝統的な経済学の前提するような合理性をもたない「ヘンテコ」な人間の経済活動を解説したベストセラーです。まんがは23話に上り、なかなかよく出来ている気がします。そして、まんがを終えて最後のパートに出て来るグラフはとても有名なツベルスキー=カーネマンのプロスペクト理論のS字形のグラフです。我が家がジャカルタにいた2002年にカーネマン教授がノーベル経済学賞を授賞された功績の大きな部分をなしている理論です。フレーミング効果アンカリング効果、おとり効果など、おそらくは実際のマーケティングに大いに活用されている行動経済学の原理を分かりやすく解説していますが、ホントに合理的な経済活動を実践している人には不思議に思えるかもしれません。例えば、私の所属する研究所では忘年会にビンゴをするんですが、私は毎年のようにビンゴのシートを始まる前に交換を申し入れます。すると、ビンゴが始まる前ですから、各シートはすべて確率的に無差別のハズなんですが、一度配布されて自分のものとなったシートを交換に応じてくれる人はとても少数派です。たぶん、80%くらいの圧倒的多数はビンゴのシートの好感には応じません。また、第1話の最後のページの解説に国民栄誉賞の授賞が決定したイチロー選手が辞退したニュースが取り上げられていて、報酬が動機を阻害するアンダーマイニング効果として紹介されていますが、本書でも取り上げられているハロー効果=後光効果の一例として、リンドバーグを上げることが出来ます。ロックバンドのリンドバーグではなく、「翼よ、あれがパリの灯だ」の大西洋横断飛行に成功したリンドバーグです。私の小学生か中学生のころの1970年代前半に米国がベトナム戦争の中で、いわゆる北爆=北ベトナムへの空爆を強化するとの方針が明らかにされたことがあり、何と、中身はすっかり忘れてしまいましたが、リンドバーグが何かコメントしていました。新聞で見かけたような気がします。大西洋横断飛行を成功させたのが1927年で、その45年ほど後にも飛行機にまつわる話題の専門家としてコメントしていたのだと想像しています。イチローとりがって、若くして偉業を成し遂げて、その後忘れ去られていたのではないか、という気もします。

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次に、森本敏・浜谷英博『国家の危機管理』(海竜社) です。著者は防衛大臣も務めた安全保障の専門家と同じく安全保障や危機管理を専門とする研究者です。冒頭で、日本語の危機管理のうちの「危機」が英語のcrisisなのか、risukなのか、あるいは、「管理」がcontrolなのか、managementなのか、から始まって、いわゆる他国との武力衝突めいた安全保障だけでなく、テロ活動はもちろん、震災や津波などの自然災害なども含む幅広い危機を対象とし、さらに、管理の方でも事後的な後始末めいた活動だけではなく、発生を予防したり、あるいは、災害などで減災と呼ばれる方向、もちろん、情報収集活動も含めた幅広い活動を取り上げています。一般に、リスクが進行したり拡大したりしてクライシスになるんだということのようですが、経済分野ではその昔のナイト流の危険の分布が既知のリスクと不明な不確実性に分ける方法もありますし、また、明らかにクライシスの分類に入りそうなのに「システミック・リスク」と呼ばれるものもあります。ということで、私は大きく専門外ながら、本書でいえば第3章後半のISILによるテロ活動とか、第4章の原発事故や北朝鮮の核開発などが読ませどころかという気がします。私の認識している北朝鮮との軍事衝突シナリオと、ほぼほぼ同様の見方が本書でも提供されている気がしました。米国や韓国が先制攻撃するとすれば、一瞬で戦闘を終わらせて北朝鮮を制圧しなければ、国境を接する中国と韓国に戦闘が広がることはないとしても、難民が流れ込むなどが生じたりしますし、逆に、北朝鮮としてはとてもではないが米国とそれなりの黄な戦闘行為を継続するだけの能力はない、といったところではないかと思います。また、自然災害にほぼ絞られるんですが、米国のFEMAにならったREMAなる緊急対応組織を日本にも設置するような提案がなされています。私は危機対応における私権制限が気がかりだったんですが、本書では極めてアッサリと、道路では日常的に私権が制限されている、と指摘して緊急の危機時に私権が制限されるのは当然、という見方のようです。でも、一般道におけるスピード制限とか、信号によるゴー&ストップ規制が私権制限とは、私には考えられないんですが、いかがなものでしょうか。

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次に、古川勝久『北朝鮮 核の資金源』(新潮社) です。著者はどういう人か知らないんですが、本書との関係では、国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの委員経験者です。2016年4月まで4年半の国連勤務だそうです。ということで、日米韓を先頭に独自制裁も含めて、厳しい国連の経済制裁を受けながらも、私のようなシロートにも北朝鮮は着々と核ミサイルの技術力を向上させているように見えるんですが、どういったカラクリで輸出を実行して外貨を資金調達し、同時に、国内で入手困難な開発必需品を輸入しているのか、それを明らかにしようという試みが本書に結実しています。要するに、いかに北朝鮮が制裁をかいくぐって、あるいは、他国からお目こぼしを受けているかを取りまとめています。例えば、お目こぼしをしている主要な大国として中国とロシアが上げられますが、中国の林業用トラックが北朝鮮に輸出されてミサイル運搬に使われていたりする一方で、輸出した中国企業の方では、軍事転用しないと一札取っているのでOKなんだ、と言い張ったりするわけです。ただ、似たような話は昔からあって、例えば、日本に寄港する米国の軍艦などが核兵器を搭載しているのではないか、という野党の追求に対して、非核三原則を堅持している日本への核兵器の持ち込みだったか、安保条約の事前協議に対象だったか、私はすっかり忘れましたが、日本へ核兵器を持ち込むに際しては米国からの事前協議があるハズであり、その事前協議がないので核持ち込みはない、と政府は強弁していたわけです。私が役所に入った1980年代前半なんてそんなもんでした。そして、世界でもっとも北朝鮮に厳しく対応している我が国でさえ、霞が関の官僚のサボタージュに近い対応により、抜け穴がいっぱいあったりします。例えば、日本には船舶を資産凍結する法律がない、と本書の著者は指摘しています。もっとも、パチンコ資金が北朝鮮に流れているんではないか、という伝統的な見方は本書では取り上げられていませんでした。我が国以外のアジア諸国では、ひとつの中国政策により、国として認められていない台湾はダダ漏れのようですし、東南アジアも決して効果的な政策を採用しているわけではありません。アジア以外でも、中南米もワキが甘いと指摘されていますし、欧州大国でも縄張り争いなどにより、決して効率的に制裁が実行されているわけではありません。もちろん、国連の査察でも、本書にある通り、それほど強力なものではありません。何となく、私のようなシロートは、大柄で重武装した米兵がドアを蹴破ってどこでも入り込み、銃を構えているところに国連職員が乗り込んで、洗いざらい書類や証拠品を持ち去るイメージだったんですが、あくまで当事国の合意ベースの査察のようです。ともかく、やや誇張が含まれていそうな気がしないでもないんですが、私のようなシロートが知らないイベントやエピソードが山盛りです。しかも、ノンフィクションとしてとてもよく書けています。ある意味で、エンタメとしても面白く読めたりもします。

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次に、万城目学『パーマネント神喜劇』(新潮社) です。著者はご存じ売れっ子のエンタメ小説化であり、我が母校京都大学の後輩だったりもします。ですから、大阪などの関西方面を中心にご活躍と思います。本書は、名も知られぬ縁結びの神社の神様を主人公に、コミカルでありながらも心温まるストーリーの短編を4話収録しています。主人公やその仲間の怪しげな神様が、いかにも神様らしく時間を停止させて対象者に語りかけ、願いを成就させるわけで、男女間の恋愛がうまく行ったり、作家として新人賞を受賞して文壇デビューしたり、オーディションに合格してドラマや映画に出演したり、などといった夢を見させてくれるという形で、いわば神頼みのエンタメ小説です。ただ、神様が何から何まですべてをアレンジしてくれるわけでもなく、まあ、行動経済学のセイラー教授的な用語を用いれば、そっと肩を押すナッジのような役割を果たしています。もっとも、本書ではもっと現実的に2度発言することにより、行動を根本から変える言霊を神様が打ち込むことにより願い事が実現の方向に向かいます。第1話「はじめの一歩」では、付き合って5年も経つのに一向に進展しない同期入社カップルの話、第2話「当たり屋」では、神さまが神宝の袋にストックしていた言霊の源7コが当たり屋の男に届き、いろいろと当たりまくりながらも男がまっとうな仕事につく話、第3話「トシ&シュン」では、作家志望の男と女優志望の女のカップルが主役でともに神様の力で成功する夢を見る話、そして、第4話の表題作では地震がテーマとなり、東北大地震なのか、熊本地震なのかは私にはハッキリしませんでしたが、正面切って「地震をなくして欲しい」という願い事が神様に届けられながらも、地震で神社の神木は折れ、お調子者の神もただ沈黙する状況下で、神と人と自然の力が一体となり小さな奇跡が起こる話、の4話構成です。基本的に、この作家本来の、といってもいいですし、関西風の、と表現もできますが、コミカルで軽妙なストーリー展開や豊かな表現力の中に、ある意味で、シリアスで人生や自然というものを考えさせられる短篇集です。なかなか出来のいい小説で、私はほぼ一気読みしてしまいました。

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次に、柚月裕子『盤上の向日葵』(中央公論新社) です。著者は売れっ子のミステリ作家であり、私は堅持を主人公にした佐方貞人シリーズの短編が好きなんですが、長編小説で何度か直木賞の候補に上がったこともあると記憶しています。長編でも、刑事を主人公にしたミステリを何冊か読んだことがあり、この作品もそうです。平成6年が舞台ですから、まだっさいたま市になる前の大宮市の山中で発見された遺体が一式数百万円の値がつく高価かつ貴重な将棋の駒を持っていたことから、この名駒の所有者を探して埼玉県警でも指折りの名刑事が、何と、奨励会出身ながら年齢制限でプロ棋士になり損ねた刑事と組んで捜査に乗り出します。私の場合、このあたりから早々に現実感覚が失われていった気がします。そして、章ごとに、平成6年の本書の舞台となっている時点での将棋のタイトル戦の挑戦者のパーソナル・ヒストリーが明らかにされて行きます。すなわち、小学生3年生の時点で母親を亡くし、父親から虐待を繰り返される中で、定年退職した教師による将棋の手ほどきや生活面での支援があり、天才的な頭脳を有する高IQ児でもあることから、東大から外資系企業に就職し、すぐに独立起業して億万長者となった後に、今度は将棋の世界では破格の進撃からプロ棋士となり、そして、本書の舞台である平成6年の時点で将棋界でもっとも栄誉あるタイトルに挑戦するまでの半生です。ただ、埼玉県警の名駒を追った捜査とこの棋士のパーソナル・ヒストリーの構成がとても雑で、埼玉県警の捜査の方は1年くらいの期間である一方で、棋士のパーソナル・ヒストリーはラクに25年を超えるわけですし、その上に、無駄に長くて、しかもしかもで、ほとんどあり得ないパーソナル・ヒストリーなものですから、とても読みにくくて少し落胆も覚えてしまいました。将棋の棋譜については、私はまったくのシロートなんですが、面白く読む上級者もいそうな気がします。この作品の作者はだんだんと作品のボリュームが増えて行くような気がしてならないんですが、それが単なる冗長に堕しているように私には見えます。繰り返しになりますが、検事を主人公とした短編シリーズが、ある意味で、この作品の作者の代表作だという気もします。

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最後に、福田慎一『21世紀の長期停滞論』(平凡社新書) です。著者は東大経済学部でマクロ経済学を担当する教授であり、マクロ経済に関して我が国を代表するエコノミストの1人といえます。ただ、私の目から見て、例えば、先日3月7日付けの日経新聞の経済教室の寄稿のように、やや経済の構造面、中長期的な側面を重視する傾向がありそうで、それゆえに、人口減少を過大に重視し、逆に、数年くらいのスパンで運営される金融政策の効果を軽視しているような気もします。ということで、こういった福田先生のマクロ経済学説に対する私の見方を強めこそすれ、改めようという気にはさらさらなれない本です。通常、日本のみならず米国や欧州も含めた広範な先進国において21世紀型の長期停滞とは、サマーズ教授のいい出した secular stagnation であり、本来の実力より低いGDP水準に加えて低インフレと低金利の状態が長期に渡って続くという特徴を持ちます。そして、その原因は需要不足ないし供給過剰にあると世界的なエコノミストが多く指摘しているところなんですが、著者の福田先生は、日本では、というか、日本に限って、2013年のアベノミクス以降、雇用関連など力強い経済指標は存在するが、賃金の上昇は限定的で物価上昇の足取りも依然として重い上に、構造的に少子高齢化や財政赤字の拡大などの成長を促進するとは思えない要員が目白押しであり、日本では需要不足や供給過剰への対応、要するに、需給ギャップ対策の経済政策ではなく、構造改革こそが必要だと主張します。ですから、アベノミクスのような従来からあるケインズ型の需要喚起策では不十分であり、人口減少に対応する移民受け入れ策を検討すべき、となります。なんだか、やっぱりね、という既視感に襲われます。裁量労働制の拡大による絶対的剰余価値の生産は、ようやく働き方改革法案から削除されましたが、経営側はどうしても安価な労働力が必要と考えているようです。今週の読書感想文の最初に取り上げたボージャス教授の『移民の政治経済学』に実に適確に示されているように、移民の拡大は労働者から企業への所得分配を促進しますので、我が国で移民を受け入れれば、今以上に労働分配率は低下し、企業の内部留保は積み上がります。そうではありません。現在の景気回復・拡大が実感を伴わずに、力強さに欠けると認識されているのは、企業が内部留保を溜め込んで労働者に分配せず、賃金が上がらず消費も増やせないことに起因しています。移民受け入れはまったく逆効果の政策対応であり、企業サイドの党派的、もしくか、階級的な要求事項だということを認識すべきと私は考えています。

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2018年3月10日 (土)

300千人超の雇用増を記録した米国雇用統計により3月利上げは確実か?

日本時間の昨夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+313千人増と、市場の事前コンセンサスだった+200千人くらいの増加という予想を大きく上回り、失業率も前月と同じ4.1%という低い水準を続けています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、USA Today のサイトから記事を最初の6パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added booming 313K jobs in Feb.
U.S. employers added a blockbuster 313,000 jobs in February as the hot labor market showed no sign of cooling despite persistent worker shortages.
The unemployment rate, which is calculated from a differnt survey, was unchanged at 4.1%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg expected 205,000 job gains. Many predicted that unseasonably warm weather and light snowfall would boost employment, particularly in industries such as retail, restaurants and construction.
Average hourly earnings rose 4 cents to 26.75, pushing down the annual increase to 2.6% from January’s 2.9%. The drop suggests that January’s big increase was an anomaly caused by a sharp decline in average weekly hours as a result of harsh weather and a nasty flu season.
The jump in January was the largest in nearly nine years. It appeared to signal that growing competition among employers for fewer available workers was finally leading to stronger wage growth. But what seemed like good news triggered a massive market sell-off as investors feared it would prompt faster interest rate hikes by the Federal Reserve to head off excessive inflation. Higher rates for bonds make stocks less attractive.
February's pullback in wages could ease investor worries and boost markets.

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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ということで、1月の+239千人の雇用増の後、繰り返しになりますが、2月は+313千人増と、ちょっとびっくりするくらいの雇用の増加を記録しています。引用した記事にもある通り、ブルームバーグなどでは+205千人と、大雑把に米国の雇用の好調さのひとつのメルクマールとなる+200千人増周辺が市場の事前コンセンサスだったんですが、これを大きく上回っての+300千人超の雇用増です。米国の雇用は極めて堅調と考えるべきです。設備投資が好調で建設業が+61千人の雇用増を示し、トランプ大統領が重視する製造業でも+31千人増、これまた好調な消費を反映して小売業でも+50.3千人増と、産業別に見ても軒並み雇用増を記録しています。
従って、3月20-21日に予定されている米国連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げが極めて濃厚になったと、私を含めた多くののエコノミストやアナリストは受け止めています。というか、文句なしでしょう。2月5日に就任したばかりのパウエル米国連邦準備制度理事会(FED)新議長の下での最初のFOMCが追加利上げの決定で幕を開けるということになります。むしろ、今後は利上げのペースに注目が集まることになりそうです。すなわち、昨年暮れの段階から2018年は年3回の利上げペースが予告されていましたが、パウエル新議長の下で、年4回の利上げの可能性が取り沙汰されることになりそうです。

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最後に、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じつつも、もう一段の加速が見られないと考えられてきましたが、それでも、2月は前年同月比で+2.6%の上昇を見せています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、+2%の物価目標を上回る賃金上昇が続いているわけですから、そろそろ金融政策で対応すべき段階であるのかもしれません。

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2018年3月 9日 (金)

2か月連続で実質賃金が減少した毎月勤労統計から何が読み取れるか?

本日、厚生労働省から1月の毎月勤労統計が公表されています。名目賃金は季節調整していない原数値の前年同月比で+0.7%増の27万1640円を示していますが、物価上昇を差し引いた実質賃金は2か月連続で減少し、1月は▲0.9%減となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の実質賃金0.9%減 半年ぶりの大幅減
厚生労働省が9日公表した毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた1月の実質賃金は前年同月に比べて0.9%減った。減少は2カ月連続で、半年ぶりの減少幅だった。物価上昇が実質でみた賃金を押し下げた。1人当たりの名目賃金にあたる現金給与総額は27万1640円で、前年同月比0.7%増加した。
名目賃金の内訳をみると、基本給を示す所定内給与は23万8811円で、前年同月比0.2%増加した。基本給を雇用形態別にみると、フルタイム労働者は0.5%増、パートタイム労働者の時間あたり給与は2.7%増と堅調。残業代を示す所定外給与は全労働者で1万9315円と、前年同月と同水準だった。
ただ、1月は生鮮食品などの価格が上昇し、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く)が前年同月比で1.7%上がった。上昇幅は15年3月以来2年10カ月ぶり。消費者の実感覚に近い実質賃金は減少した。
1月はパートタイム労働者の比率が前年同月に比べて0.33ポイント増と大幅に増え、賃金全体に下押し圧力となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

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上のグラフのうちでも、一番上のパネルの所定外労働時間は鉱工業生産の動向と整合的に1月統計では減少しています。しかしながら、引用した記事にもあるように、毎月勤労統計で注目すべきは、最近では、賃金なわけですが、昨年2017年12月と今年2018年1月の2か月連続で実質賃金が減少しています。原因としてはいくつか考えられるところ、ひとつには物価上昇です。消費者物価(CPI)のうち、生鮮食品を除くコアCPIの1月の上昇率は+0.9%でしたが、生鮮食品を含むヘッドラインのCPI上昇率は+1.4%ですし、実質賃金上昇率を算出するためのデフレートに用いる持家の帰属家賃を除く総合は+1.7%の上昇率となっています。コアCPI上昇率以外のヘッドラインと持家の帰属家賃を除く総合については、エネルギー価格の上昇と天候要因による野菜の値上がりなどにより1月は前月12月から、それぞれ+0.3%ポイント上昇幅が拡大しており、逆から見て、なかなか上がらない実質賃金の下押し圧力となっています。名目賃金は長らく+1%を上回る上昇を継続したことはなく、物価の方が+1%を上回る上昇を示せば、明らかに実質賃金は減少となります。ただ、デフレ脱却のこの時期には、こういった実質賃金の下落を通じた雇用の拡大が需給ギャップの縮小をもたらし、長い目で見て賃金上昇につながる、と考えられるのも事実です。もうひとつはパートタイム雇用比率の上昇です。引用した記事にもある通り、パートタイム比率は前年同月と比べて+0.33%ポイント上昇しており、上のグラフの4枚目の一番下のパネルでも、1月統計でパートタイム雇用の大きな増加が確認できます。賃金水準の低いパートタイム雇用の増加は雇用者全体の平均賃金の下押し圧力となります。

毎月勤労統計調査の1月統計だけをもって判断するのは早計かもしれませんが、これだけ人手不足がクローズアップされている中で、それでも上がらない賃金の動きには改めてデフレの厳しさを感じざるを得ません。

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2018年3月 8日 (木)

大きく上方修正された2017年10-12月期GDP統計2次QEから何を読み取るか?

本日、内閣府から昨年2017年10~12月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.4%、年率では+1.6%を記録しました。先月公表された8四半期連続のプラス成長で、+1%をやや下回るといわれている潜在成長率を上皮る成長率で、しかも内需主導の成長でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質GDP、年率1.6%増に上方修正 10-12月 設備投資が上振れ
内閣府が8日発表した2017年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算で1.6%増だった。速報値(前期比0.1%増、年率0.5%増)から大幅に上方修正した。民間企業の設備投資が想定より好調だったほか、在庫の積み増しも全体を押し上げた。
プラス成長は16年1~3月期から8四半期連続で、約28年ぶりの長さとなる。物価変動の影響を加味し、生活実感に近いとされる名目GDPは前期比0.3%増(速報値は0.0%減)、年率では1.1%増(同0.1%減)だった。
設備投資は実質で前期比1.0%増と、速報段階の0.7%増から上振れした。製造業で半導体関連を中心に生産能力を引き上げる動きが広がったほか、人手不足で需要が高まっているファクトリーオートメーション(FA)機器を生産する設備の導入が相次いだ。財務省の法人企業統計での実績値を反映した。
民間在庫は速報値ではGDPを0.1ポイント押し下げていたが、在庫の増加幅が拡大したことで、改定値では0.1ポイントの押し上げに転じた。原油や天然ガス、鉄鋼など原材料在庫が増えたことも寄与した。在庫が増えると付加価値を生んだとみなされ、FDPの押し上げ要因となる。
このほか実質GDPの項目別をみると、住宅投資(2.6%減)や公共投資(0.2%減)が上方修正された。個人消費は前期比0.5%増と速報段階から変更はなかった。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需が速報値(プラス0.1ポイント)から上ぶれし、プラス0.4ポイントとなった。輸出から輸入を差し引いた外需はマイナス0.0ポイントで変わらなかった。総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期比プラス0.1%(速報値はプラス0.0%)だった。
同時に発表した2017年暦年のGDP改定値は、実質で前年比1.7%増(速報値は1.6%増)だった。名目では同1.5%増(同1.4%増)だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2016/10-122017/1-32017/4-62017/7-92017/10-12
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.3+0.5+0.6+0.6+0.1+0.4
民間消費+0.1+0.5+0.8+0.2+0.5+0.5
民間住宅+0.8+1.2+0.9▲1.7▲2.7▲2.6
民間設備+1.5+0.2+1.2+1.0+0.7+1.0
民間在庫 *(▲0.2)(+0.1)(▲0.1)(+0.4)(▲0.1)(+0.1)
公的需要▲0.6+0.1+1.2▲0.5▲0.2▲0.0
内需寄与度 *(▲0.1)(+0.4)(+0.9)(+0.1)(+0.1)(+0.4)
外需寄与度 *(+0.4)(+0.1)(▲0.3)(+0.5)(▲0.0)(▲0.0)
輸出+2.7+2.0+0.0+2.1+2.4+2.4
輸入+0.6+1.7+1.9▲1.2+2.9+2.9
国内総所得 (GDI)▲0.0+0.1+0.8+0.5▲0.2+0.0
国民総所得 (GNI)▲0.0+0.3+0.8+0.7▲0.3▲0.0
名目GDP+0.2+0.3+0.9+0.7▲0.0+0.3
雇用者報酬+0.1▲0.2+1.1+0.6▲0.4▲0.4
GDPデフレータ▲0.1▲0.8▲0.3+0.2+0.0+0.1
内需デフレータ▲0.4+0.0+0.4+0.5+0.5+0.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2017年10~12月期の最新データでは、前期比成長率が8四半期連続でプラスを示し、赤い消費と水色の設備投資と灰色の在庫といった内需項目がプラスの寄与を記録している一方で、黒の外需(純輸出)がマイナス寄与となっているのが見て取れます。

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まず、年率成長率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのが中心値で+0.8%で、レンジでも年率+0.6~+1.7%でしたので、ほぼレンジの上限ですから、かなり大きな上振れだったといえます。その主要な要因は企業部門であり、引用した記事にもある通り、あるいは、上のテーブルにも見られる通り、需要項目としては設備投資と在庫増です。年率にしていない前期比で、設備投資の寄与度が+0.1%、在庫が+0.2%、それぞれの寄与度が上方修正されており、この2つの需要項目だけでGDP前期比成長率の1次QE+0.1%から2次QEの+0.4%の0.3%ポイントの差をすべて説明できてしまいます。1次QEと2次QEの差として、もちろん、法人企業統計をはじめとして、利用可能でなかった統計が利用可能となったわけですが、昨年2017年10~12月期の時間の経過とともに企業部門が上向いた可能性も無視できません。他方、家計部門は1次QEの時点と2次QEとで大きな差はなく、引き続き、つましい消費生活を送っている、という評価が成り立つのかもしれません。消費に対する私の評価としては、リーマン・ショックのあった2009年以降、政策動向から、ある意味で、消費を押し上げてきたエコカー減税や家電エコポイント制度、あるいは、消費増税前の駆け込みによる需要の先食いの悪影響が一昨年2016年くらいからようやく緩和し、耐久財の買い替えサイクルが戻って来たように感じていますが、ひとつには天候要因や国際商品市況の動向などに起因して、生鮮野菜やガソリン価格などが値上がりし、物価が上昇する中で賃上げが進まず、10~12月期の実質雇用者報酬は前期比で▲0.4%減となっていて、物価上昇と鈍い賃上げの狭間で消費が力強さに欠ける結果となっています。そして、家計の所得が伸び悩み、消費に停滞感があることから、8四半期連続のプラス成長の果実が企業部門に独占されて家計部門に及んでいないのが実感なき成長の大きな原因であると私は考えています。今春闘における本格的な賃上げが望まれるゆえんです。

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後にグラフを取り上げていますが、本日は、財務省から1月の経常収支も公表されています。季節調整していない原系列の統計で1月には+6074億円の経常黒字を計上しており、かなりの大きさに達しています。上のグラフは、季節調整された四半期データに基づいて経常収支対GDP比の推移をプロットしています。米国のトランプ政権が鉄鋼やアルミに対する高率関税を適用すると示唆して、それに対応する中国や欧州では報復も可能性なしとせず通商政策が世界的に注目される中、実は、中国だけでなく我が国の対外黒字もかなりの大きさに積み上がっている点は留意する必要があります。我が国の経常収支対GDP比は最近時点では+4%を超えて推移しています。

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最後に、本日、内閣府から2月の景気ウォッチャーが、また、財務省から1月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲1.3ポイント低下して48.6を、先行き判断DIも▲1.0ポイント低下して51.4を、それぞれ記録し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+6074億円の黒字を計上しています。いつものグラフだけ、上の通り示しておきます。

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2018年3月 7日 (水)

CI一致指数が大きく下降した景気動向指数は景気拡大局面の終わりを示唆するのか?

本日、内閣府から1月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月比▲1.8ポイント下降して104.8を、CI一致指数は▲5.7ポイント下降して114.0を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の景気一致指数、4カ月ぶりマイナス 「改善」は維持
内閣府が7日発表した1月の景気動向指数(CI、2010年=100)は、景気の現状を示す一致指数が前月比5.7ポイント下落し、114.0となった。4カ月ぶりのマイナスで、生産や出荷など企業部門の指標が悪化した。内閣府は景気の基調判断は「改善を示している」で据え置いた。
CIを構成する指標のうち、前月と比較可能な7つの指標すべてが低下要因になった。中でも鉱工業生産や生産財出荷指数の下落寄与度が大きい。自動車や機械など幅広い品目で前月まで高い伸びが続いた反動が出た。中国の旧正月(春節)が前年と時期がずれたことが要因とみられる。一部地域では大雪の影響も出たもようだ。
内閣府は一致指数の動きから機械的に判断する基調判断を、16年10月以降続く「改善を示している」との判断のまま据え置いた。第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストは「現実の経済活動はこれほど落ち込んでいない。1~2月は春節などでもともと季節調整が難しい」と見る。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出し、月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。前の月からの指数の変化で景気の「向き」を示し、水準で「勢い」をみることができる。1月の下落幅は東日本大震災があった11年3月(7.0ポイント低下)以来の大きさだった。
数カ月先の景気を示す先行指数は前月より1.8ポイント低下し、104.8となった。前月と比較可能な9つの指標のうち、在庫など5つの指標が指数の低下要因となった

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、引用した記事にもある通り、東日本大震災が起きた2011年3月の▲7.0ポイントの下降以来、CI一致指数は最近にない大きな下降を示しましたが、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」に据え置いています。というのは、1月の鉱工業生産指数(IIP)が中華圏の春節の影響などにより、大きな減産を示したカレンダー要因を考慮しているのではないか、と私は想像しています。例えば、上に示したグラフのうちの上のパネルにプロットしたCI一致指数の形があまりに1週間前の鉱工業生産指数(IIP)に似ているのが見て取れるかと思います。前月統計から▲1ポイントを超える大きな下降の寄与度を示したCI一致地数のコンポーネントが3項目あり、生産指数(鉱工業)▲1.36、鉱工業用生産財出荷指数▲1.34、耐久消費財出荷指数▲1.22と、いずれも鉱工業生産指数のうちの生産、出荷の項目です。この3項目の寄与度を合計すれば、それだけで前月差▲5.7ポイントのうちの半分超の▲4ポイント近くに達してしまいます。また、CI先行指数の▲1.8ポイントの下降の、これまた半分超の寄与を示しているのが新規求人数(除学卒)であり、これだけで▲0.98の寄与があります。しかも、先週3月2日に雇用統計を取り上げた際に明記した通り、雇用の先行指標のうち新規求人数は大きく低下している一方で、新規求人倍率はそこまで大きな低下ではありませんでしたから、何か、統計のあやのようなものを感じてしまいます。
いずれにせよ、明日公表予定の昨年2017年10~12月期のGDP統計2次QEをはじめとして、昨年12月までの経済指標は明らかに景気の回復・拡大を示している一方で、今年2018年1月から一揆に景気拡大が終了して景気後退局面に入った可能性は、まあゼロではないとしても、まだかなり小さいのではないかと私は考えています。例えば、帝国データバンクのTDB景気動向調査では2018年1月の景気DIは8か月連続の改善を示した後に、2月の景気DIが悪化したりしています。もちろん、日本経済研究センターの景気後退確率などのほかの指標も見てみたい気がしますが、直観的には、景気動向指数のCI一致指数が1月に大きく下降したのは、中華圏の春節によるカレンダー要因の可能性の方が大きいような気もしますので、もう少し先の2~3月、あるいは、さらに先の4月以降の統計も見つつ、ならして景気を判断する必要がありそうに思えてなりません。

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2018年3月 6日 (火)

明後日公表予定の2017年10-12月期GDP速報2次QE予想やいかに?

先週木曜日3月1日の法人企業統計をはじめとして、ほぼ必要な統計が出そろい、明後日の3月8日に昨年2017年10~12月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期から2018年の景気動向を重視して拾おうとしています。しかしながら、何分、2次QEですので、法人企業統計のオマケの扱いだったりして、明示的に先行き経済を取り上げているシンクタンクは決して多くなく、みずほ総研と第一生命経済研だけでした。しかも、みずほ総研はタイトルこそ「2018年も緩やかな景気回復が続く見込み」としているんですが、ヘッドラインに取り上げた通り中身は1月の鉱工業生産指数(IIP)からお話が始まっていて、まあ、確かに今年に入っての足元の経済情勢なんですが、やや怪しげでした。いずれにせよ、この2機関は2パラずつ引用しているほか、他機関のリポートについてもより詳細な情報にご興味ある向きは一番左列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.1%
(+0.5%)
n.a.
日本総研+0.2%
(0.7%)
10~12月期の実質GDP(2次QE)は、公共投資が下方修正となる一方、設備投資、在庫変動は上方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+0.7%(前期比+0.2%)と1次QE(前期比年率+0.5%、前期比+0.1%)から小幅上方修正される見込み。
大和総研+0.3%
(+1.0%)
10-12月期GDP二次速報(3月8日公表予定)では、実質GDP成長率が前期比年率+1.0%(一次速報: 同+0.5%)と、一次速報から上方修正されると予想する。基礎統計の直近値の反映により公共投資のマイナス幅が縮小するほか、需要側統計の法人企業統計の結果を受けて設備投資は上方修正される見込みだ。
みずほ総研+0.1%
(+0.6%)
1月の鉱工業生産は前月比▲6.6%と大幅な落ち込みを記録したが、元々1月は自動車産業をはじめとする工場の稼働日数や中華圏の春節休暇の影響で、季節調整値でも振れやすい傾向があることに留意が必要だ。実際、2月の予測指数は、1月に大きく減産した輸送機械工業を中心に、前月比で+9.0%(補正値でも+4.7%)と大幅な増産計画となっている。IT関連財や一般機械類を中心に輸出が増勢が続き、設備投資は五輪関係や省力化投資も加わって回復基調を辿ると見込まれるなど、景気の回復基調は維持されるだろう。ただし、個人消費については、堅調な雇用・所得情勢が下支えする一方、食料品やガソリンといった生活必需品の価格上昇や、大雪などの天候要因が逆風となり、当面力強さを欠きそうだ。
株価の乱高下は足元では落ち着きつつあるが、為替が円高に振れるなど、金融市場発の下ぶれリスクには依然として留意が必要だ。中国における構造改革の足取りや、北朝鮮情勢を中心とする地政学リスクにも引き続き目配りが欠かせない。
ニッセイ基礎研+0.2%
(+0.8%)
3/8公表予定の17年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.2%(前期比年率 0.8%)となり、1次速報の前期比0.1%(前期比年率 0.5%)から若干上方修正されると予測する。設備投資は下方修正されるが、民間消費、民間在庫変動、公的固定資本形成の上方修正がその影響を上回るだろう。
第一生命経済研+0.3%
(+1.0%)
GDP以外の経済指標においても10-12月期は良好なものが多く、景気は好調な推移が続いていると判断して良いだろう。
先行きについても、世界経済の拡大に伴う輸出の増加と好調な企業業績を背景にした設備投資の持ち直し傾向は続くとみられる。景気を取り巻く環境は良好であり、今後も景気は改善を続ける可能性が高い。
伊藤忠経済研+0.2%
(+1.0%)
2017年10~12月期の実質GDP成長率は2次速報で前期比+0.2%(年率+1.0%)へ小幅上方修正されると予想。設備投資のほか、公共投資や民間在庫も若干上方修正される見込み。潜在成長率程度の成長となり、デフレ脱却に向けた底堅い拡大が確認されよう。引き続き円高の企業業績への影響が懸念されるが、労働分配率の底入れは明るい材料。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2%
(+0.8%)
2017年10~12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.2%(年率換算+0.8%)と1次速報値の同+0.1%(同+0.5%)からわずかに上方修正される見込みである。
三菱総研+0.1%
(+0.4%)
2017年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.1%(年率+0.4%)と8四半期連続のプラス成長を予測する。外需は若干のマイナス寄与となるものの、内需は消費・設備投資を中心に底堅く推移した。

上のテーブルを眺める限り、最終行の三菱総研を除いて、すべての機関で先月公表の1次QEの推計値である前期比+0.1%、年率+0.5%をやや上回る予想となっています。すなわち、三菱総研も含めて+0%台半ばから+1%くらいまでのレンジであり、ビミョーなところながら、潜在成長率並みといえそうです。法人企業統計のサンプル替えの影響を強調するニッセイ基礎研を除いて、設備投資は法人企業統計の結果を受けて上方改定される一方で、個人消費は1次QEから大きな変更なく、引き続き消費は冴えない展開ながら、設備投資の上振れが2次QEでの上方修正の大きな要因と指摘されています。下方修正を見込む三菱総研も含めて、8四半期連続、つまり2年間一貫してプラス成長が続き、第一生命経済研のリポートが指摘するように、GDP統計以外の経済指標も足元で好調を維持継続しており、設備投資が上向くのであれば、我が国経済の回復・拡大はもう少し続くものと考えてよさそうです。他方で、先行きリスクを考えると、上に引用したリポートではまったく触れられておらず、もちろん、目先のお話しではないかもしれませんが、米国トランプ政権の通商政策の動向が上げられます。鉄鋼やアルミに中国からの輸入品だけでなく日欧の同盟国からの輸入品にも高関税を課し、欧州政府も貿易戦争も辞さずとの姿勢と報じられています。減税政策が強く支持されてきた一方で、いよいよ、トランプ政権の通商政策リスクが顕在化するんでしょうか。
下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。ご参考まで。

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2018年3月 5日 (月)

就活が始まり「東大生1800人が選ぶ、就職注目企業ランキング」やいかに?

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先週は雇用統計を取り上げ、1月の失業率が何と2.4%まで低下しているわけで、人手不足が一段と進んでいる中、2019年春卒業の大学生などに対する企業の就職説明会などのいわゆる就活が3月から開始されました。実は、我が家の上の倅がまさに該当しますので、私も親として興味を持って目配りをしていたりします。
ということで、就職・転職のための企業リサーチサイトVorkersから、2019就活調査レポート第1弾として「東大生1800人が選ぶ、就職注目企業ランキング」が明らかにされています。上のテーブルの通りで、Vorkersのサイトから引用していますが、コンサルと外資系が注目されているように見受けられます。正月休みに就活について倅と話をしたところ、ハードワークのゆえにコンサルはイヤ、といっていましたので、実に私の倅らしいと大いに親子のつながりを感じてしまった記憶があります。

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2018年3月 4日 (日)

暖かい週末に花粉が飛びまくる!

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昨日もかなり暖かだったんですが、今日も一段と気温が上がっています。となると、花粉が飛びまくりです。去年まで私は基本的に鼻だけだったんですが、今年はとうとう目もやられ始めています。
ということで、上の画像はウェザーニューズのサイトから引用しているんですが、何と、関東/東海・甲信南部では全国のどこよりも先駆けてスギ花粉のピークが始まっています。とても困るんですが、誰に文句をいうわけにも行きません。私にとっては、じっと耐え忍ぶ季節です。

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2018年3月 3日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとしてとうとう9冊読んでしまう!

先週末はいろいろと図書館を回って、かなり集めに集めてしまい、こういうめぐり合わせもあるのかと思うほど予約の本を引き取ってしまいました。結局、各種の読書を合わせて計9冊でした。以下の通りです。

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まず、清田耕造・神事直人『実証から学ぶ国際経済』(有斐閣) です。著者は慶応大学と京都大学の国際経済学を専門とする研究者です。なぜか、私は母校の京都大学の神事教授ではなく、東京にあるという理由だという気もしますが、慶応大学の清田教授と面識があったりします。ということで、かなり標準的な国際経済学の理論モデルと実証について、ヘクシャー・オリーンの要素均等化定理から始まって、とても幅広くサーベイしています。本書では著者が国際経済に関して独自に実証研究をした結果を示している、というわけではなく、定評あるジャーナルなどから実証研究の結果をサーベイしているわけです。最初の方は、ヘクシャー・オリーン定理に基づいて貿易を決定する要因を分析したモデルの実証結果を示し、続いて、クルーグマン教授のまさにノーベル経済学賞の受賞理由となった差別化と規模の経済に基礎を置く産業内の水平貿易の理論モデルと実証を示し、メリット教授の企業の生産性と海外展開に関する新々貿易理論モデルと実証結果にスポットを当てています。第5章以降では貿易政策を分析対象とし、関税や保護貿易の理論モデルと実証結果をサーベイしています。付録として、データの在り処や簡単な入門編の計量経済分析の手法の紹介なども収録されています。全体として、学部生というよりは、博士前期課程くらいの大学院生を対象とするテキストのレベルかと思います。終章で、無作為化比較実験(RTC)に関する脚注で、「国際経済学の隣接分野である開発経済学では、フィールド実験などの手法を取り入れ…」(p.270)といった記述が見られて、私の専門分野の開発経済学は国際経済学の隣接分野なんだ、ということを改めて実感しました。しかしながら、海外生活の経験も豊富で、開発経済学を専門とし昨年は所属の国際開発学会で研究成果の学会発表もしていて、私自ら「国際派エコノミスト」を自称しているんですが、国際経済学に関しては見識があまりないことを実感しました。大学院教育を受けていないから仕方ないのかもしれませんが、それなりに官庁エコノミストとしてのお仕事で実証研究はしてきたつもりですが、この年齢に達してなお勉強不足を感じさせられた1冊でした。

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次に、松島斉『ゲーム理論はアート』(日本評論社) です。著者は東大経済学部教授であり、本書のタイトル通り、ゲーム理論について『経済セミナー』に連載したコラムや賀寿靴論文の解説などを本書で取りまとめています。いろいろな日常生活に関する話題から、ハッキリと日常生活から大きく離れたトピックまで、ゲーム理論でどのように解釈できるかについて数式を交えずに解説を加えています。ただ、冒頭のサッカーのPK戦でゴールキーパーの取るべき戦略について考えた上で、「ランダムに左右に飛ぶ」というのは、ゲーム理論の結果導出される最適戦略としても、やや情けない気もします。それは別としても、本書では、ヒトラーのような全体主義的な独裁制が現出するかどうか、また、オークションなどもテーマとして取り上げ、いわゆるマーケット・デザインやメカニズム・デザインを積極的にゲーム理論により我が国に適用しようという意欲はあるようです。他方、本書の著者らの設計による「アブルー・松島メカニズム」の簡単な解説も盛り込んでおり、アカデミックな自慢話もしたい意欲も大いに感じられます。ただ、悪いんですが、著者ご本人は本書を一貫したテーマで見つめることが出来るのかもしれませんが、一般読者を代表した私の目から見て、ハッキリとバラバラで取りとめないテーマが並べられているように感じてしまいます。メカニズム・デザインに話を絞って入門書的に構成を改めた方がよかった気がしますが、まあ、著者の好みなんでしょうね。また、細かい点を指摘すれば、確かにオークションにおける勝者の呪いは、情報の非対称性のために誤った情報に基づいて高値で競り落としてしまった、ということも出来るんですが、通常は違う理解ではないかという気もします。ヒトラーを支えたアイヒマンに対するハンナ・アーレントの「小役人的」という評価についても、ゲーム理論というよりも、本書でも取り上げられているジンバルドー教授のスタンフォード監獄実験などで示された心理学的な知見に基づいて理解したほうが、一般的にはすんなりと頭に入るような気もします。もちろん、私のような末端のエコノミストでも経済学中華思想というのを持っていて、東大教授がゲーム論中華思想に浸っているのは当然という気もします。ビジネスマンなどの一般の読者には少しオススメしにくい本かもしれません。

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次に、高橋洋『エネルギー政策論』(岩波書店) です。著者はよく判らないんですが、学部レベルでは東京大学法学部を卒業した後、大学院レベルでは東京大学大学院工学系研究科の博士課程を修了して学術博士の学位を取得し、現在は都留文科大学社会学科教授だそうです。本書は出版社の紹介を見る限り、明記はしていませんが、エネルギー政策論の入門編ないし大学の学部上級生向けの教科書を意図して企画されたようです。私の大学生時代は遥か彼方の昔ですが、環境経済学すら講座としては確立されていませんでした。今は、京都大学経済学部にも環境経済学の授業があるようですが、エネルギー政策論については、おそらく経済学部が適切ではないかという気もしますが、大学や大学院のどこの学部に置けばいいのかも確立された結論はないような気がします。その中で、公共経済学や環境経済学はもちろん、安全保障を含む国際関係論、そして、工学的な知識も必要でしょうし、エネルギー政策論は極めて学際的かつ多角的な位置にある一方で、2011年の福島原発事故から、本書でエネルギー・ミクスと呼ぶエネルギーの将来像、もちろん、原発の位置づけも含めたエネルギー調達のあり方に関する議論の必要性が高まっているのも事実です。そういった中で、極めて高品質な試みといえますし、和y太氏のような専門外のエコノミストが太鼓判を押しても仕方ないんですが、確かにこのまま教科書としても適用可能なレベルに達しているような気がします。そして、その昔、私が公務員試験を受ける際にミクロ経済学のテキストは岩波書店の『価格理論』でしたし、岩波書店とはそういった良質の教科書を刊行する出版社のひとつであると目されていました。その面目躍如という気がします。その上で、いくつか指摘しておきたい点があります。第1に、1次エネルギーと2次エネルギーに関して、同じ点と違う点をもっと明確にすべきではないかと思います。現在の技術水準からして、かなり多くのケースでは燃料か何かで熱を発して水を沸騰させて、その昔の蒸気機関の応用でタービンを回して動力を得る、というケースが多いかと思います。もちろん、蒸気機関でタービンを回して電気という2次エネルギーを得る場合もありますし、そのまま動力として用いるケースもあります。私の限定的な工学の知識からすれば、タービンを回さ図に直接電力を得るのは太陽光発電だけです。タービンを回すものの熱は発しないのは風力発電や潮力発電などです。いずれも2次エネルギーである電力を取り出すために用いられると認識しています。この燃料と電力の同じ点と違う点をもう少し工学的な視点と経済学的な視点から解説して欲しい気がします。第2は、細かい点ですが、経済成長と二酸化炭素排出のでカップリングまで取り上げるのであれば、その背景にあるクズネッツ環境曲線も紹介しておけばいいんではないか、という気がします。第1の点に比べて第2の点は極めて些末ですが、経済学、特に私の専門である開発経済学の観点からは決して意味ないことではないと感じています。

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次に、奈良潤『人工知能を超える 人間の強みとは』(技術評論社) です。著者は、私から見ればよく得体の知れない人物なんですが、基本的にはコンサル活動をしているようで、認知心理学者ゲイリ ー ・クライン博士に師事して、クライン博士の教えを忠実に守って普及に努めているようです。そして、本書でもハイライトされているんですが、その教えとは naturalism を邦訳した現場主義の直観による判断、ということになります。そして、そのクライン博士の直観勝負に対比させているのが、とても迷惑そうな気がしますが、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授です。コチラは、ヒューリスティックにバイアスがあり、システム1よりもシステム2でじっくりと判断を下すほうが望ましい、という考え方です。本書の著者はかなり手薄な論証でクライン博士の直観勝負こそが人間が人工知能(AI)を超える強みであると結論します。まあ、判らないでもありません。というのは、カーネマン教授や心理学一般で用いられるシステム2の方こそAIが膨大な情報を参照しつつディープ・ラーニングで確立させた判断方法であり、少なくとも情報量の点からは人間の頭脳がAIにかなうわけはありません。ですから、人間がAIに勝てるとすればイステム1の領域であるのは、ある意味で、当然のことだともいえます。ただ、かなりお粗末な議論の進め方であり、人間の強み、特にAIに対する強みが直観に起因するとしても、それを直観で議論を進めているような印象であり、ツッコミどころがあまりにも多くて、逆に、説得的な部分が少ない気がします。AIを否定せんがために、シンギュラリティは来ないというのは言論の自由の一部のような気がしますが、他方で、2045年に来るというカーツワイルを支持する人達もいるわけで、単なる信念の表明に終わっているだけでは、何ともお粗末としかいいようがありません。結論を提示した後はスペースを埋めるのに苦労したようで、ページ数で半分も行かないうちに直観を鍛えるためのトレーニング法の4章とか、5章ではコツの伝授にトピックが移っていきます。そして、6章以下は読むに耐えないので、私はかなり飛ばし読みをしてしまいました。そして、「AI憎し」の思想の普及を図っているのかもしれませんが、もしそうだと仮定すれば、その意図は失敗しています。繰り返しになりますが、心理学的なシステム2では人間はAIに太刀打ちできないことは明らかながら、それをもっと便利に利用するという指向方向が見えません。システム2でAIに負けるならシステム1で勝負、とばかりに、システム1を鍛える方向に話が行ってしまい、支離滅裂な出来栄えとなっています。ここ数年の読書の中でも最低レベルの1冊でした。

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次に、キース E. スタノヴィッチ『現代世界における意思決定と合理性』(太田出版) です。著者はカナダにあるトロント大学の名誉教授の大御所であり、専門分野は認知心理学です。オックスフォード大学出版局から刊行されている判断・意思決定論シリーズの1冊でとして2010年に出版されています。英語の原題は Decision Making and Rationality in the Modern World であり、邦訳タイトルはそのままではないかと思います。ということで、伝統的な主流派経済学がホモエコノミクスとして超合理的な個人の経済行動を分析対象とする一方で、20世紀後半の認知革命から生まれた人間の認知研究や認知科学、すなわち、経済学でいえば行動経済学ですし、心理学ならば進化心理学などで、人間の意思決定における不合理性を次々に明らかにしてきたという歴史的な背景の下に、本書は書かれており、入門編かもしれませんが、確実に学術書と見なすべきです。本書の著者は合理性について道具的な合理性と認識的な合理性の区別を導入しますが、前者の道具としての合理性はまさに経済学の前提とするところであり、効用もしくは利得の最大化を目指す最適化行動の判断といえます。同時に著者は薄い合理性と広い合理性の区別も導入し、実は、本書は最終章に至るまで前者の薄い合理性につき考察の対象としていますが、薄い合理性とは目的の正当性を問わないものと考えてよさそうです。すなわち、ヒトラーが世界征服のためにいかに合理的な手段を取るかどうか、といった判断について考えるものです。本書で展開している合理性、あるいは、現実の人間行動の非合理性については、行動経済書きや実験経済学ではほぼほぼ明らかにされてきており、カーネマン教授がノーベル経済学賞を授賞されたのは、まさにその功績です。ツベルスキー-カーネマンのプロスペクト理論が本書でもスポットを当てられています。また、カーネマン教授の『ファスト&スロー』でも取り上げられていたシステム1とシステム2、ほぼ前者がヒューリスティックに相当するんだと私は考えていますが、このシステムの違いは行動経済学や心理学ではかなりの程度に受け入れられてきています。ですから、入門編の学術書ながら、行動経済学について読書している向きには、特に目新しい要素は少ないような気もしますが、最後の最後にある合理性を合理的に判断するメタ合理性については、何か、目を開かせるものがありました。最後に、学術的にはとてもよく取りまとめられている一方で、経済学と心理学の用語の差なのかもしれないんですが、私には邦訳がイマイチしっくり来ませんでした。

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次に、アーサー・ディ・リトル・ジャパン『モビリティ進化論』(日経BP社) です。著者はコンサルティング・ファームのコンサルタントであり、自動運転やモビリティの観点から、交通サービスの方向性や今後の自動車産業について論じています。昨年2017年2月から7月にかけて、日経テクノロジーオンラインにアップされていた記事を加筆修正して書籍化しているようです。一昨年2016年に同じ出版社からデロイト・トーマツ・コンサルティングの『モビリティー革命2030』という本が出版されていて、このブログの2016年12月24日付けの読書感想文で取り上げていて、かなり二番煎じに近いんですが、まあ、注目の自動運転技術ですし読んでみた、というところです。人口規模と人口密度で都市構造と交通サービスを整理するところまではよかったんですが、世界における交通サービスや自動車産業の動向と日本国内の動きをゴッチャにして論じてしまっていて、かなり整理が悪い気がします。もう少し顧客のことを考慮すれば、この程度の内容では、少なくともトヨタをはじめとする自動車メーカーは食いつきが悪そうな気がします。というのも、本書の結論で注目すべきポイントのひとつは、p.185に示されている各国別の自動運転による自動車生産への影響なんでしょうが、日本が▲18%ともっともネガティブ・インパクトが大きく、米国の▲4%や欧州の▲11%を上回っているわけで、貿易のみならず、国内産業への波及の大きさからいっても、我が国はかなり自動車製造業のモノカルチャーに近い産業構造であり、その昔にコーヒー豆がコケたらブラジル経済がコケたように、自動車産業がコケると日本経済は停滞しかねないわけですから、自動車産業についてはよりていねいな分析がなされるべきです。それが、自動運転やレンタカーに代わるカーシェアリングやUberのようなライドシェアリングで自動車への需要が落ち込む可能性も含めて分析対象となっていながら、コスト面での試算にとどまっているのは不親切な気がします。コンサル的に、というか、オンライン・マガジン的に仕方ないのかもしれませんが、ポンチ絵でごまかしている雰囲気が強く、私には説得力不足と見えました。

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次に、アビゲイル・タッカー『猫はこうして地球を征服した』(インターシフト) です。著者は「スミソニアン」誌のジャーナリストであり、サイエンス・ライターです。そして、何よりも猫好きのようです。英語の原題は The Lion in the Livingroom であり、Carl Van Vechten による The Tiger in the House を大いに意識したものとなっています。2月3日付けの日経新聞の書評を見て借りてみました。その日経新聞の書評では、「昨年暮れ、日本でのネコの推定飼育数がイヌのそれを初めて上回ったというニュースが流れた。その差はおよそ60万匹。ただし、米国ではネコの方が1200万匹も多いという。」としています。私はどちらかんといえば、というか、ハッキリと猫好きであって、母親が好きだったので、京都の生家では猫を飼っていたことが多く、犬は飼ったことがありません。ですから、まったくどうでもいいことながら、私は猫の蚤取りが出来ます。白っぽい猫は蚤取りがやりやすいのも知っていたりします。要するに、私から見て猫はかわいいわけです。ですから、まあ、教養というほどのこともなく、井戸端会議的な雑学知識として本書も読んでいます。現在のイエネコの祖先はリビアヤマネコであり、西暦600年くらいまではいわゆる柄の差はなく、ほとんどすべてが今でいうキジトラの柄だったのが、ここ1000年ほどで柄に差が出て来た、というのは雑学知識としては極めて貴重です。また、洋の東西を問わず、猫は鼠を捉まえると考えられていて、それだけに船に乗せられて世界各地に猫が生息地を広げた、といわれているんですが、実はほとんど鼠を捉まえることはしない、でも、野良犬と違って野生が残っていて自活は出来る、ということらしいです。ついでながら、飼い犬が野良になるとゴミなどの残飯以外には食料確保が難しく、野良犬が子を残すことは極めてまれな一方で、野良猫は大いに食料確保の能力があり、祖先のリビアヤマネコの名から想像される通り、中東のご出身ということでラクダ並みとはいかないものの、水分補給もさして必要とせずに狩りの獲物から生き血をすすり、まったく問題ないようです。私の知る限りの犬と猫の違いとしては、犬は人に住み、猫は家に住む、というのがあって、本書では犬の方はともかく、猫はフェロモンの臭いでコミュニケーションを取ろうとするので場所に住むというのは確からしいというのは確認できました。また、私の父親がよくいっていたんですが、人間とペットの関係は、犬の方が誤解して人のペットになっていて、猫については人の方が誤解して猫をペットにしている、というのがあり、少なくともその雰囲気は感じ取ることが出来ました。特に、インターネットがこれだけ普及し、静止画像や動画が手軽にアップロードできるようになれば、見た目で犬よりも猫の勝ちだと私は考えます。いずれにせよ、食物連鎖の頂点に立つ超肉食獣の猫が大好きな読書子にはオススメできる1冊かもしれません。

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次に、鈴木貴博『仕事消滅』(講談社+α新書) です。オックスフォード大学のフレイ&オズボーン論文などで、人工知能(AI)の深化・普及やそれらをインストールしたロボットにより人間労働が代替されるとの研究成果が示されていて、このブログでも取り上げた記憶がありますが、本書はそれに対してコンサルタントの著者が正面から回答を出すべく試みています。職の数のベースで、すなわち、雇用者の人数ベースではなく、あくまで分類上の職の数のベースでほぼ半数の職が失われる、というぜんていで、本書ではわかりやすく、2025年には、まずタクシーなどのドライバーの仕事が消滅し、金融ではAIファンドマネジャーが人間を駆逐する、そして、2030年には銀行員、裁判官、弁護士助手など専門的頭脳労働者がAIに換わる、さらに、2035年には経営者、中間管理職、研究者、クリエイターもAIに置き換えられ、サラリーマンは逆年功序列化する、としています。特に、専門的な頭脳労働の方がAIに置き換えやすいというのは、常識に反するかもしれませんが、説得的です。というのも、肉体労働に置き換わるロボットについては生産設備の能力の限界があって、そうそうはロボットを製造できない一方で、デジタル・データと見なされるAIについては容易にコピーが可能だからです。そして、職が奪われるという事実に対して、本書の著者はビル・ゲイツのロボットへの課税を換骨奪胎して、ロボットに賃金を支払うようにし、その賃金は政府に収め、それを原資にベーシック・インカムを充実させる、という方向性を打ち出しています。とても斬新です。ロボットの登録には自動車などの登録と同じで車検制度により自動車の整備状況を把握しているのと同じシステムが使えると主張し、実現可能性について決して夢物語ではないと結論しています。ただ、国際的な何らかの抜け穴を国際協調によりふさがないことには、例えば、実体的に中国にあるロボットの製品が日本国内市場を席巻すれば、国内に未登録で賃金を支給されていないロボットがあるのと同じことですから、その国際的な取り決めによる抜け穴の防止は必要です。今週は人工知能(AI)に関する読書を2冊したわけですが、圧倒的に本をが優れています。ロボットへの賃金支払い、というか、課税とベーシック・インカムを組み合わせて対応するというのは理論的にはあるいはかなり優れていそうな気がします。ただ、大きなハードルは、裁量労働制の拡大による剰余価値の獲得に熱心な経営者なのかもしれません。

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最後に、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの挑戦』(創元推理文庫) です。著者は英国の歴史家であり、同時に、アイルランドの歴史やケルトの歴史文化についてノンフィクションや学術論文を発表しており、その道の権威でもあるようです。この修道女フィデルマのシリーズは7世紀後半のアイルランド南部を舞台に、アイルランドの5王国のうちのモアン王国の国王の妹であり、修道女にして、古代アイルランドのブレホン法の弁護士・裁判官の資格も持つ美貌の女性フィデルマが探偵役を務めるミステリです。主人公フィデルマはシリーズの進行とともに年齢を重ねて行っているようですが、20代後半から30前後に達しています。相棒として、ホームズに対するワトソンやくではないんですが、サクソンの修道士エイダルフが配されることも多くなっています。ネットで調べる限り、このシリーズは20作を超えていますが、2012年でストップしているようです。なぜか、邦訳の発行順が原書と違っていて、私は原書の発行順に邦訳を読んだのでOKだったんですが、邦訳書の発行順に読むとかえって混乱しそうな気もします。本書は邦訳では3冊目の短編集であり、学問所入所直後にフィデルマの身の回りの品を入れたポウチ紛失の謎を解く「化粧ポウチ」、学問所の最終試験の課題として出された頭蓋骨消失事件に挑む「痣」、そして学問所を卒業後、ドーリィの資格を得て修道女になってからの4つの事件、すなわち、殺された女性の身元と犯人を推理する「死者の囁き」、3晩続けて聞かれた死を告げるバンシーの声の正体を解く「バンシー」、有名なローマ第9ヒスパニア軍団の鷲の謎にフィデルマが挑む「消えた鷲」、消えた川船にまつわる犯罪を暴く「昏い月 昇る夜」の全6編を収録しています。第5話は500年ほど昔の謎に挑むということで、御手洗潔のシリーズのような立てつけだったりします。私は本シリーズは邦訳が出版されている限り、すべて読んでいますが、主人公のフィデルマが王妹としての身分も、ドーリーとしての学識も、とても優れていることは確かにしても、それにしても、極めて高ビーで威圧的な態度で事件解決に当たる一方で、古代アイルランドの法体系や基本的な意識が近代の男女同権や個人の方の下での平等などに極めてよく合致しており、どこまでが歴史的な事実か、それとも創作家は知りませんが、主人公には好感持てないものの、法体系や社会的な制度体系にはそれなりの好感を持って読み進んでいます。なお、11世紀イングランドの修道士カドフェルを主人公にしたエリス・ピーターズ作のミステリのシリーズと合せて読むと、数百年の間にほとんど中世という時代は進歩していないんではないか、と思わされてしまいます。

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2018年3月 2日 (金)

ほぼほぼ完全雇用を示す1月の雇用統計からデフレ脱却を考える!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも1月の統計です。失業率は前月から大きく▲0.3%ポイント低下して2.4%を示した一方で、有効求人倍率は前月と同じ1.59倍となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の完全失業率2.4% 24年9カ月ぶり低水準
完全雇用状態続く

総務省が2日公表した労働力調査によると、1月の完全失業率(季節調整値)は2.4%で1993年4月以来24年9カ月ぶりの低い水準となった。雇用環境の改善で失業者が減った。前月比0.3ポイント改善し、総務省は「非常に大きな改善となった」としている。厚生労働省が同日発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)は前月と同水準の1.59倍だった。
完全失業率は働く意欲のある人のうち、職がなく求職活動をしている人の割合を指す。求人があっても職種や年齢などの条件で折り合わずにおきる「ミスマッチ失業」は3%程度とされる。1月は3%を大きく割り込み、働く意志のある人なら誰でも働ける完全雇用状態にあるといえる。
失業率の内訳をみると、失業して仕事を探している完全失業者数は前年同月比で38万人と大幅に減った。減少幅は14年8月以来約3年ぶり。
ハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す有効求人倍率は、1974年1月以来の高水準だ。労働需要は依然として高い。就業者数は6562万人で前年同月比で92万人増加した。
就業者を産業別にみると、飲食・宿泊サービス業で前年同月比23万人増加した。そのほか教育・学習支援業(18万人増)や情報通信業(10万人増)で増加が目立った。
企業は人材の確保が難しく、人手不足が深刻になっている。求人に対して実際に職に就いた人の割合を示す充足率(季節調整値)は14.7%だった。ハローワークを通さない求職は含まないが「7人雇おうとしても採用できるのは1人」という計算になる。
将来の人手不足を見越して長期間雇える正社員の雇用を増やす企業も多い。正社員の有効求人倍率(季節調整値)は1.07倍で前月と同様、高水準だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは以下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。

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上に並べた3枚のグラフについて、失業率が景気動向に対して遅行指標、有効求人倍率が一致指標、新規求人が先行指標と、多くのエコノミストは認識しており、先行指標の新規求人数が大きく下げたのはやや気がかりですが、私がこのブログで示している新規求人数は下げた一方で、新規求人倍率をチェックすると上のグラフほどは下げていませんから、やや先行きに懸念を残しつつも、失業率の大きな下げに注目する論調が現時点では主流ではないかという気がします。ということで、失業率はもちろん、有効求人倍率もかなりタイトな労働需給を示しています。加えて、グラフは示しませんが、正社員の有効求人倍率も前月と同水準で1.07倍と1倍を上回って推移しています。ただし、今日の雇用統計には含まれていませんが、繰り返しこのブログで指摘している通り、毎月勤労統計などを見る限り、まだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、まだ完全雇用には達していない可能性がある、と私は考えています。ですから、失業率が、引用した記事に見られる通り、ホントに3%が完全雇用なのだとすれば賃金上昇が生ずるハズですし、有効求人倍率がまだ上昇を続けているのも事実です。要するに、まだ遊休労働力のスラックがあるということで、グラフは示しませんが、性別年齢別に考えると、高齢男性と中年女性が労働供給の中心となっています。もっとも、定量的な評価は困難ながら、そのスラックもそろそろ底をつく時期が迫っているんではないかと思います。特に、採用しやすい大企業に比べて、中小企業では人手不足がいっそう深刻化する可能性もあります。少なくとも、失業率が2%台前半に入ったということは、かなりその遊休スラックの限界に近づいた事実を示している可能性があります。加えて、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規職員が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用状態であり、さらに、雇用面の不安や懸念が大きく軽減されていることから、株高ほどではないとしても、それなりに消費者マインドを下支えしているのではないかと私は考えています。ただし、賃上げは所得面で個人消費をサポートするだけでなく、デフレ脱却に重要な影響を及ぼしますから、マクロの所得だけでなく今春闘では個人当たりの賃上げも何とか実現して欲しいと思います。

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2018年3月 1日 (木)

企業部門の好調さを示す法人企業統計と消費者マインドが落ち続ける消費者態度指数!

本日、財務省から昨年2017年10~12月期の法人企業統計が、また、内閣府から今年2018年2月の消費者態度指数が、それぞれ公表されています。まず、法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は5四半期連続の増収で前年同期比+5.9%増の358兆2061億円、経常利益も6四半期連続の増益で+0.9%増の20兆9410億円、設備投資は製造業で+6.5%増、非製造業で+3.0%増となり、製造業が牽引する形で、全産業では+4.3%増の11兆4000億円を記録しています。一般に内部留保と呼ばれる利益剰余金は前年同期比+11.2%増の417兆2895億円に上っています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資は前期比+3.1%増の10兆7928億円となっています。また、消費者態度指数は前月から▲0.4ポイント低下して2月は44.3を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10~12月期の設備投資5四半期連続プラス 法人企業統計
財務省が1日発表した2017年10~12月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比4.3%増の11兆4000億円だった。プラスは5四半期連続。国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は季節調整済みの前期比で3.1%増と2四半期連続で増加した。
設備投資の前年同期比の動向を産業別にみると、製造業は6.5%増加した。スマートフォン(スマホ)に使う半導体の需要増などを背景に情報通信機械業で生産能力を増強する動きが旺盛だった。非製造業は3.0%増えた。運輸業で船舶や航空機の取得が増えたほか、物品賃貸業でリース資産が増加した。「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額の内訳は製造業が季節調整済み前期比7.7%増、非製造業が0.6%増だった。
全産業ベースの経常利益は前年同期比で0.9%増の20兆9410億円だった。増益は6四半期連続。製造業が2.5%伸びた半面、非製造業は0.0%減とわずかに前年実績を下回り、2四半期連続のマイナスとなった。建設業で好調だった前年の反動が出たほか、小売業で出店費用などコストが増えた。
売上高は5.9%増の358兆2061億円と5四半期連続で増収となった。製造業は4.7%、非製造業が6.4%それぞれ増えた。中国などで建設機械や半導体製造装置の売れ行きが好調だったほか、石油製品の値上がりも寄与した。小売業ではインバウンド(訪日外国人)需要を取り込んだ。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や収益動向を集計。今回の17年10~12月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。
2月の消費者態度指数が低下 野菜・ガソリン値上がりで、基調判断引き下げ
内閣府が1日発表した2月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は44.3と前月に比べ0.4%低下した。葉物野菜やガソリンが値上がりするなか、上旬の株価急落も重なって消費者心理が悪化した。内閣府は基調判断を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」から「足踏みがみられる」に下方修正した。
指数低下は2カ月ぶり。消費者態度指数を構成する4項目のうち「暮らし向き」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」が前月から低下。「収入の増え方」は上昇した。
1年後の物価見通し(2人以上世帯)について「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月比1.1ポイント低い81.3%となり、7カ月ぶりに前月を下回った。「変わらない」は6カ月ぶりに、「低下する」は2カ月ぶりに、それぞれ増加に転じた。
基調判断は前月、「持ち直している」から「持ち直しのテンポが緩やかになっている」に下方修正したばかり。内閣府の経済社会総合研究所は「指数の水準自体は高く、悲観するような動きではない」と分析している。
調査基準日は2018年2月15日。調査は全国8400世帯が対象で、有効回答数は5919世帯(回答率70.5%)だった。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と答えれば「ゼロ」になる。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2つの統計を並べるとかなり長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフのうちの上のパネルに示されたように、売上高についてはサブプライム・バブル崩壊前はいうに及ばず、いわゆる「失われた10年」の期間である1990年代のピークすら超えられていませんが、経常利益についてはすでにリーマン・ショック前の水準を軽くクリアしており、我が国企業の収益力は史上最強のレベルに達しています。季節調整していない原系列の統計ながら、2017年10~12月期の売上高経常利益率は製造業が7.4%、非製造業が5.2%を記録しています。資本金別でも、10億円以上の上場企業クラスが8.0%に対して、1億円~10億円が4.4%、1億円以下でも4.2%と、低金利時代の利子率を軽く上回る水準を記録しています。国内経済も着実に回復・拡大を示している景気の現状に加えて、世界経済が順調に回復・拡大を見せていることから、製造業が非製造業よりも高い収益力を示しています。従来からのこのブログでお示ししている私の主張ですが、我が国の企業活動については一昨年2016年年央くらいを底に明らかに上向きに転じ、昨年2017年は年間を通じてこの流れが継続していることが確認できたと思います。また、設備投資についてもかなり伸びが本格化して来た印象です。季節調整済みの系列で見て、全産業ベースの設備投資は2017年10~12月期に前期比で3.1%増でしたが、製造業で+7.7%増、非製造業で+0.6%増を示しており、利益率が高い製造業の方で投資の伸び率が高くなっており、為替がまだ円安水準にあったことも影響している可能性があります。もっとも、現下の人手不足の影響は非製造業においてより大きいと考えられますので、今後は非製造業でも設備投資が活発化する可能性が大いにあります。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。ということで、上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しましたし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞が続いており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけは、2017年7~9月期に少し足踏みを見せたものの、グングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。また、経済政策の観点から見て、企業活動がここまで回復ないし拡大している中で、春闘の賃上げを政府から要請することもさることながら、企業の余剰キャッシュを雇用者や広く国民に還元する政策が要請される段階に達しつつある可能性を指摘しておきたいと思います。ですから、もしも裁量労働制が労働時間の短縮につながらずに企業利益を増加させるだけに寄与するのだとすれば、むしろ、労働時間を短縮して実効性の面から企業のキャッシュを雇用者に配分するような政策が必要なのかもしれません。

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続いて、消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。消費者態度指数を構成する4項目のコンポーネントについて、2月統計を前月差で詳しく見ると、上昇したのは「収入の増え方」だけで+0.3の上昇となったほか、「雇用環境」が▲1.0ポイント低下、「耐久消費財の買い時判断」が▲0.5ポイント低下、「暮らし向き」が▲0.4ポイント低下をそれぞれ示しています。ただ、「雇用環境」については、前月差では最も大きく低下を示したものの、指数の水準では48.7であり、コンポーネントの中でもっとも高くなっています。直近のピークは2017年11月の44.9であり、そこからジワジワと指数は低下を続けており、2月統計の公表に当たって、統計作成官庁の内閣府では基調判断を「持ち直しのテンポが緩やか」から「足踏み」に下方修正しています。先月1月統計の公表時には「持ち直している」から「持ち直しのテンポが緩やか」に下方修正したところですので、2か月連続の下方修正となります。その理由として、引用した記事のタイトルでは、野菜・ガソリン値上がりがクローズアップされていますが、むしろ、私は米国市場発の株安の影響の方が大きいんではないかと考えていて、どこまで消費者マインドの基調が変化したかは疑問だと考えていますが、内閣府では1月に続いて2月も消費者マインドの基調が変化した可能性が高いと考えているようです。

本日発表の法人企業統計などを基に、来週3月8日には内閣府から2017年10~12月期のGDP統計2次QEが公表される予定となっています。また、日を改めて取りまとめたいと思います。

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