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2018年6月 9日 (土)

今週の読書は経済書などいろいろあって計7冊!

本日、6月9日の土曜日は別途の予定があり、極めて異例ながら、未明の早い時間帯に読書感想文のブログをアップしておきます。経済書をはじめとして、フリードマンの最新作にして最後の著書と示唆されている『遅刻してくれて、ありがとう』を含め、以下の7冊です。

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まず、太田康夫『没落の東京マーケット』(日本経済新聞出版社) です。著者は日経新聞のジャーナリストであり、本書に代表されるように、金融セクターに強いんではないかと想像しています。我が国の金融市場のアジア、ひいては世界におけるプレゼンスが1990年前後のバブル期から大きく低下している事実を取り上げています。そして、その原因のひとつとして日銀による緩和的な金融政策運営を上げ、規制緩和なども進んでいない現状を批判していたりします。確かに、著者の主張は私にも判らないでもないんですが、では、金融市場でそれ相応の金利を復活させて金融機関の利益が上がるようにするのが、果たして国民経済にとっていい金融政策なのか、といわれると大いに疑問です。金融政策は金融機関の健全な経営や運営もマンデートのひとつなんでしょうが、国民経済を犠牲にしてまで特定業界の利益を図るとすれば別問題で、私は大いに疑問です。そもそも、エコノミストの中には金融産業が我が国の比較優位であるかどうかを疑問視する意見もありますし、比較優位にないからこそ、本書でいうところの「没落」する産業なのに、どこまで政策リソースをつぎ込むかは見方が分かれるといわざるを得ません。著者ご自身が取材の対象としていて、おそらくは、知り合いも多いと考えられる業界の支援策をどこまで優先順位高いと考えるかは、ジャーナリストとしての資質にもかかわる可能性すらあります。

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次に、デヴィッド S. エヴァンス & リチャード・シュマレンジー『最新プラットフォーム戦略』(朝日新聞出版) とニコラス L. ジョンソン『プラットフォーム革命』(英治出版) です。一方向への直線的な経済活動を行う伝統的な企業と異なり、ITC技術の進展に裏付けられたデジタル・エコノミーの発達とともにマルチサイドのプラットフォーム企業の活動の場が整備されて来ています。もちろん、中小企業金融などで、その昔からマルチサイドなプラットフォーム企業、あるいは、そういった経済活動は決して存在しなわけではありませんでしたが、民泊などのシェアリング・エコノミーやアマゾン、グーグル、マイクロソフト、アリババ、フェイスブック、ツイッターなどはプラットフォームを顧客に対し提供し、顧客同士がつながるビジネスを展開しています。ここで取り上げる2冊のうち、『最新プラットフォーム戦略』の方がやや理論的な側面が強く、『プラットフォーム革命』はビジネスの実務的な側面が強いといえます。私は開発経済学を施文とするエコノミストとして、『最新プラットフォーム戦略』で取り上げられているケニアのMペサの成功などがとても参考になりました。ただ、『プラットフォーム革命』でも、3~4章あたりではかなり理論的な解説を加えており、5章からの実務的なケーススタディと少し趣きが異なります。『最新プラットフォーム戦略』では、Rochet and Tirole (2003) "Platform Competition in Two-sided Markets" の理論がキチンと解説されています。なお、同じように「プラットフォーム」というバズワードをタイトルに含むマカフィー & ブリニョルフソン『プラットフォームの経済学』(日経BP社) も手元に届きましたので、来週の読書感想文で取り上げたいと思います。

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次に、元村有希子『科学のミカタ』(毎日新聞出版) です。著者は毎日新聞のジャーナリストであり、科学環境部長を務めています。章別に、「こころときめきするもの」とか、「すさまじきもの」とかの、『枕草子』の引用をタイトルにしており、物理、化学、生物をはじめとする自然科学を広くカバーしつつ、さらに、宇宙、医療、気象、などなど、親しみやすいテーマで取り上げています。教育学部出身ながら教員免許は「国語」ということで、必ずしも専門知識のない一般読者にも判りやすく解説を加えています。私は第Ⅱ章 すさまじきもの が印象的でした。気候変動や生物多様性の問題など、今後の地球に対する科学的なリスクが取り上げられています。最終章の医療分野の尊厳死や再生医療などは科学的にできることと社会的に受け入れられることの違いがキチンと表現されていたような気がします。さすがに、ジャーナリストらしく読みやすい文章で、スラスラと一気に読めます。ただ、それだけに、頭に残りにくいような気がしたのは私だけかもしれません。

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次に、トーマス・フリードマン『遅刻してくれて、ありがとう』上下(日本経済新聞出版社) です。著書はご存じの通りの「ニューヨーク・タイムズ」のジャーナリストであり、世界的なベストセラーとなった『レクサスとオリーブの木』や『フラット化する世界』の著者でもあります。本書では、現代を「加速の時代」と位置づけ、そのバックグラウンドにはICT技術の中でも、いわゆるムーアの法則に則った指数的なハードウェアの高集積化、さらにこれに伴うソフトウェアも高度化高速化しています。グーグルのマップリデュースからハドゥープといったソフトウェアがまさにそれに当たります。他方で、著者は『孤独なボウリング』的なコミュニティの崩壊には同意せず、特に第12章以降では著者が生まれ育ったミネソタ州のユダヤ人の比率の高いコミュニティへの回帰を希望を持って楽観的に示唆しています。ただ、ICT技術の発展と対をなすグローバル化の進展で、もはや、中スキルで高所得といった職はなくなったことも事実として受け入れています。本書のタイトルは、宣伝文句にあるように、今までの常識が通用しない世界に入りつつある、ということと、同時に、少し立ち止まって遅刻した相手を待つ間にでも思考のための一時停止が必要、という二重の意味を込めているようです。伏見威蕃の訳であり、クルーグマン教授の著書の翻訳で有名な山形浩郎や少し前にクイーンの国別シリーズの新訳を上梓した越前敏弥などとともに、私のもっとも信頼する翻訳者の1人です。

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最後に、スティーブン・スローマン & フィリップ・ファーンバック『知ってるつもり』(早川書房) です。心理学とマーケティングのそれぞれの認知科学の学際領域の専門家2人が共著者となっています。何を論じているかでどちらの著者が書いているのかがよく判ったりします。幅広くいろんなテーマについて認知の問題を論じているいんですが、特に秀逸だったのは認知の観点から民主主義のあり方を論じた第9章、そして、賢さについて論じている第10~12章です。ポピュリズムの議論を待たずとも、直接民主主義は代議制の間接民主主義よりも望ましい制度とは私にはとても思えなかったんですが、本書の著者たちも同じ考えのようで心強かったです。また、少し前に人間と動物の賢さについて生物学的な観点から論じたフランス・ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』を昨年2017年11月4日に取り上げましたが、同じような問題意識が共有されているような気がしました。難をいえば、いわゆるボケ老人の認知症についても何らかの言及が欲しかった気がしますが、何かが判ったようで判らない、認知の不思議さに触れた気がします。

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