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2018年6月15日 (金)

ご寄贈いただいた『そろそろ左派は<経済>を語ろう』(亜紀書房) を読む!

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とても久し振りに図書をご寄贈いただきました。ブレイディみかこ×松尾匡×北田暁大『そろそろ左派は<経済>を語ろう』(亜紀書房) です。私個人のブログなんぞはとても貧弱なメディアなんですが、図書をご寄贈いただいた折には、義理堅く読書感想文をアップすることにしております。当然です。
まず、私自身については、官庁エコノミストにして左派、という独特の立ち位置にあり、少なくとも左派であることを隠そうとはしていません。例えば、もう定年に達しようという年齢なんですが、そもそもの採用面接でのアピール・ポイントとして、「大学においては経済学の古典をそれなりに読んだと自負している。スミス『国富論』、リカード『経済学と課税の原理』、マルクス『資本論』全3巻、ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』などである。」と、堂々とマルクス『資本論』を読んだことを明らかにした上で経済官庁に採用されたりしています。まあ、その後、立身出世とは縁遠い人生を送ったことも事実ではあります。
ということで、本書の関連としては、著者のおひとりである松尾教授の『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店) をほぼ2年前の2016年5月28日の読書感想文で取り上げ、「ジャカルタから2003年に帰国して以来、ここ十数年で読んだうちの最高の経済書でした。まさに、私が考える経済政策の要諦を余すところなく指摘してくれている気がします。」と極めて高く評価しています。その折にも指摘したところですが、痛みを伴う構造調整による景気拡大でなければ「ホンモノ」ではなく、金融緩和による「まやかし」の成長は歪みをもたらし、加えて、財政赤字を累増させるような拡張的財政政策なんてとんでもないことで、逆に増税で財政再建を進め、デフレや円高を容認して、それらに耐えるように構造改革を進めるべし、といったウルトラ右派的かつ新自由主義的な経済政策観が幅を利かせる一方で、現在のアベノミクスの基礎をなしているリフレ派な、かつケインジアンな政策に対する世間一般の理解が進まないことを私自身はとても憂慮しています。そして、こういった私の懸念を払拭するために強力なサポートが本書でも得られるととても喜んでいます。
北田教授の社会学的な視点などの専門外の部分は別にして、そういった100点満点の本書であることを前提に、ご寄贈に応えるために、今後のご出版のご参考として私見をいくつか書き加えると、国際経済の視点をもう少し盛り込んだ経済政策論が欲しい気がします。というのも、本書で指摘されている通り、右派は内向きであり、左派は外向き、というのはその通りで、私はそれをナショナリストとインターナショナリストと呼んだりもするわけですが、米国や欧州におけるポピュリズムの台頭も横目で見据えつつ、本書では移民に対する左派的な promotive な見方が示されている一方で、自由貿易に対する見解はまったく見受けられません。私は、移民政策も同じなんですが、自由貿易についても、基本は条件付き賛成です。すなわち、移民にせよ、自由貿易にせよ、国民経済全体としてはプラスのインパクトがある一方で、平たい表現をすれば、損をする集団もあれば、得をする集団もあるわけで、その得をする集団の経済的厚生増加の一部を、たとえ期間限定であっても、損をする集団に補償することが必要です。その分配政策なしで無条件に、まあ、誤解を招きそうな表現かもしれませんが、いわば「弱肉強食」に近い形で、移民や貿易の自由化を進めるのは、私は大いに疑問を持っています。例えば、実証なしの直観的な議論ですが、高度な技能を持った移民は大企業に有利にはたらく一方で、低賃金な移民は中小零細企業で活用できそうな気がしますし、レシプロカルに自由貿易を進めると仮定すれば、メリッツ教授らの新々貿易理論の示す通り、大雑把に大企業ではないかと想像される国際競争力ある産業に有利なことはいうまでもなく、逆に、国際競争力ない産業や途上国の低賃金労働に支えられた製品と競合する産業には不利であり、後者は極めて大雑把に、大企業も含まれているかもしれないものの、中小企業も少なくないような気がします。もうひとつは、現在の日本経済の景気観です。左派は多くの場合、景気が悪くて賃金が上がらず、失業が蔓延している、といった否定的な景気観を表明することがあり、本書でもそのラインが踏襲されているような気がします。日本経済の現状は、景気局面について、左派はどう考えているのか、失業率が大きく低下しながら賃金が上がらない、あるいは、労働分配率が低下を続けるのはなぜかのか、そして、それはどのように経済政策で対応すればいいのか、とても重要なポイントのように私は受け止めています。特に、現在の安倍政権のアベノミクスを左派的な視点から高く評価しつつも、他方で、党派的な見地からか、何なのか、本書でも踏襲されている「実績が上がっておらず、景気が悪い」と、一見すれば矛盾するような結論を示されると、私のような左派でありながらも頭の回転の鈍い人間には、なかなか左派の語る経済に関する理解がはかどらないような気がします。最後の方は少し筆が滑りましたが、以上の2点はいずれも本書を批判するわけではありません。あくまで、今後のご出版のご参考です。失礼いたしました。
いずれにせよ、過去何度かの選挙結果を見れば、国民がアベノミクスの経済政策をかなりの程度に支持していることは明らかです。メディアなどで見受けるオピニオン・リーダーらの経済実感と違って、国民の経済観や景気観は決して悪くないんだろうと、少なくとも選挙結果からはうかがえます。もちろん、森友・加計問題の解明や安全保障政策の議論、さらに、憲法改正に対する意見表明などはとても大事ですが、日々の生活を抱えた国民の支持を得られるような経済政策の提示は、いずれの政党党派においても極めて重要な課題であり、その昔の米国大統領選挙で当時のクリントン候補の掲げた "It's the economy, stupid." は今でも忘れるべきではないポイントだと私は考えています。

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