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2018年11月30日 (金)

大きな増産を記録した鉱工業生産指数(IIP)と小幅に悪化したものの完全雇用に近い水準が続く雇用統計!!

本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP) が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、さらに、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。鉱工業生産指数と雇用統計は10月の統計です。鉱工業生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.9%の増産を示し、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇したものの2.4%と低い水準にあり、有効求人倍率も前月から▲0.02ポイント低下の1.62倍と、タイトな雇用環境がうかがえます。消費者態度指数は前月から▲0.1ポイント低下して42.9を記録し、まだ反転の兆しも見えません。まず、3つの統計を取り上げますので長くなりますが、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

10月の鉱工業生産、2.9%上昇 基調判断を上方修正
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み、速報値)は前月に比べて2.9%上昇の105.9だった。QUICKがまとめた民間予測の中心値(1.2%上昇)を上回った。経産省は10月の生産の基調判断を「緩やかな持ち直し」に上方修正した。
生産指数は15業種のうち13業種で前月を上回った。業種別に見ると、コンベヤや水管ボイラなど汎用・業務用機械工業が最も上昇に寄与した。電子部品・デバイス工業はスマートフォン向けに使われるアクティブ型液晶パネル(中・小型)の生産が好調だった。自動車工業は国内向けの普通乗用車や小型乗用車の生産が増えた。
出荷指数は前月比5.4%上昇し106.6。在庫指数は1.4%低下の101.2、在庫率指数は7.4%低下の97.4だった。
同時に発表した、メーカーの先行き予測をまとめた11月の製造工業生産予測指数は前月比0.6%の上昇となった。12月の予測指数は2.2%上昇だった。
10月求人倍率8カ月ぶり低下 1.62倍、なお高水準
厚生労働省が30日発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は前月を0.02ポイント下回り1.62倍だった。8カ月ぶりに低下したが、水準そのものはなお高い。総務省が同日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイント悪化し2.4%だった。よりよい条件を求め、自発的に職を探す人が増えている。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0.01ポイント下がり1.13倍だった。
求人倍率が下がったのは、9月の自然災害で滞った求職活動が再開され、求職者が増えたため。新規求職の申込件数は前年同月から3.0%増え42万2089件だった。
10月の完全失業率(季節調整値)は2.4%で3カ月ぶりに悪化した。完全失業者数(同)が8万人増えて168万人になったことが影響した。特に男性で自発的に仕事を辞め、よりよい条件の職を探す動きが活発になった。15~64歳の男女合計の就業率は前月から0.1ポイント上昇し77.4%。女性の就業率は70.5%で、いずれも過去最高を更新した。
人口が減る一方、働く人の数は増えている。就業者数は6725万人と、2カ月連続で過去最多を更新した。高齢者や主婦に加え、アルバイトで働く若者が増えた。
求人があっても職種や年齢などで条件があわない「ミスマッチ失業」は3%程度とされる。失業率が3%を下回ると完全雇用状態にあるといえる。潜在的な労働力の掘り起こしがいっそう重要になってくる。
11月の消費者態度指数、前月比0.1ポイント低下の42.9
内閣府が30日発表した11月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、前月比0.1ポイント低下の42.9だった。内閣府は消費者心理の判断を「弱い動きがみられる」に据え置いた。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について、今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と回答すればゼロになる。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。一番上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、真ん中は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。そして、一番下のパネルは、後述のように、今回の統計では基準改定がなされていますので、旧来の2010年基準指数と新しい2015年基準指数を並べてプロットしてみました。どちらも、2015年=100となるように基準化されています。

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まず、このブログでは注目していませんが、9月確報の公表時点から統計の基準が2015年基準に改定されています。すなわち、生産や出荷などの指数の基準年が2010年=100から2015年=100になったわけです。ウェイト算定年次はもちろん、業種分類や採用品目が変更されています。この基準改定に関する詳細は経済産業省のホームページに関連情報がアップされていますが、概要だけ軽く触れると、付加価値額ベースの生産指数の10,000分比のウェイトで、食料品・たばこ工業(613.9→1313.8)が倍増したのをはじめ、汎用・業務用機械工業(571.9→728.6)がウェイトを増加させている一方で、電気・情報通信機械工業(1121.1→839.3)や電子部品・デバイス工業(818.6→580.8)が低下を見せています。食料品のウェイト倍増というのは、なかなか想像できませんでした。ただ、食料品・たばこ工業は速報時には算入されませんので、確報時に大きく修正される可能性が高まった可能性はあり、その点は注意が必要です。
そして、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+1.2%の増産でしたから、軽くこれを上回りました。基本的には、9月の豪雨・台風・地震といった自然災害に伴う供給制約や物流の停滞からの自然な復旧であると私は受け止めています。要するに、俗にいうところの「挽回生産」なわけです。従って、統計作成官庁である経済産業省では、基調判断を前月の「生産は緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」から「生産は緩やかに持ち直している」に上方改定しています。ただ、製造工業生産予測調査を見ると、11月生産は10月統計公表時の▲0.8%の減産から上方修正されたとはいえ、本日の11月統計公表時でも+0.6%の増産にとどまっていますので、プラスの上方バイアスを持つ製造工業生産予測調査のクセを修正すると、▲3.1~▲1.1のレンジで減産となる可能性が高いと推計されています。そうであっても、7~9月期GDPはマイナス成長でしたが、10~12月期GDPはプラス成長に回帰する可能性が高いと私は受け止めています。

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失業率、有効求人倍率、正社員有効求人倍率がそろって前月から悪化した結果を示していますが、依然として雇用指標はかなり完全雇用に近い水準にあり、そろそろ賃金が上昇する局面に入りつつあると私は受け止めています。もっとも、賃金については、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規雇用が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用状態であり、加えて、雇用不安の払拭から消費者マインドを下支えしている点は忘れるべきではありません。ただ、賃上げは所得面で個人消費をサポートするだけでなく、デフレ脱却に重要な影響を及ぼすことから、マクロの所得だけでなくマイクロな個人当たりの賃上げも早期に実現されるよう私は期待しています。

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消費者態度指数の4つのコンポーネントについて、前月差で少し詳しく見ると、、「暮らし向き」が▲0.6ポイント低下、「雇用環境」が▲0.2ポイント低下した一方、「収入の増え方」は+0.5ポイント上昇、「耐久消費財の買い時判断」は前月と変わらず、となっています。収入が増えながら暮らし向きが悪化する、というのはよく理解できないところですし、自然災害による生鮮食品価格も落ち着きに向かっているわけですから、なおさらです。消費者態度指数は今年2018年1月の44.6から今年はほぼ一貫して低下を続けているわけですが、12月の冬のボーナスの後に反転する可能性はあるんでしょうか。

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2018年11月29日 (木)

燃料価格の上昇により10月商業販売統計の小売販売額は増加!!

本日、経済産業省から10月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.5%増の11兆9280億円、季節調整済み指数の前月比は+1.2%増を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の小売販売額、前年比3.5%増 石油製品の価格上昇で
経済産業省が29日発表した商業動態統計(速報)によると、10月の小売販売額は前年同月比3.5%増の11兆9280億円だった。前年実績を上回るのは12カ月連続。経産省は小売業の基調判断を「緩やかに持ち直している」に据え置いた。
業種別では燃料小売業が14.7%増と伸びが目立った。原油高による石油製品の価格上昇が続いた。自動車小売業は6.6%増。新型普通車の販売が好調だった。医薬品・化粧品小売業は6.2%増となった。一方、織物・衣服・身の回り品小売業は0.4%減。気温が高く冬物衣料が振るわなかった。
大型小売店の販売額は百貨店とスーパーの合計で0.2%減の1兆5862億円だった。既存店ベースは0.8%減だった。コンビニエンスストアの販売額は横ばいの9986億円だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。

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ということで、引用した記事もある通り、昨年11月から12か月連続で小売販売額は前値同月比プラスを続けており、その12か月の中でも直近2018年10月統計の+3.5%増は、昨年2017年12月の3.6%に次いで大きな伸びを示しています。加えて、上のグラフを見ても理解できる通り、季節調整していない系列の前年同月比で見ても、季節調整済みの指数で見ても、今年2018年5月から伸びがグングンと高まっています。ただ、商業販売統計は名目ですから最近の消費者物価(CPI)の動向にも左右される部分があり、実は、生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率が、今年2018年5月の+0.7%を直近の底として、上昇幅を拡大させているのにも、ある程度は、相関していると考えるべきであり、引用した記事の石油製品価格の上昇にシンクロして小売販売額が伸びている、という見方も成り立ちます。燃料小売業の販売額を季節調整していない原系列の統計で見ると、昨年2017年11月から1兆円の大台に乗せ、今年2018年3月の+7.1%増を唯一の例外として、昨年2017年11月から、これまた、12か月のうちの11か月で前年同月比2ケタ増を記録しています。来週公表される総務省統計局の家計調査の結果も気がかりなんですが、物価上昇を考慮した実質の消費の伸びは、少なくとも、CPI上昇率がプラスなわけですから、名目消費の伸びよりも小さいと考えるべきです。国際的にも、例えば、本日2018年11月29日付けの日経新聞経済教室で主張されている通り、アベノミクスの下で日本経済は好調に推移している一方で、家計消費が伸び悩んでいるのはパズルである、という結論になりそうな気がします。日経新聞経済教室では、アベノミクスにより円安が進んで輸出企業が利益が増えた一方で、輸入価格の上昇に消費者がが直面し、家計から輸出企業に所得が移転した一方で、企業部門が賃金や投資に資金を回さないため、賃上げが進まず労働分配率が低下する、という流れを提示しています。輸出企業の利益が賃金上昇の形で家計に還元されないわけです。従って、私を含む多くのエコノミストの考えでは、日本では賃上げとそれに伴う消費の拡大が喫緊の課題であり、景気の観点からも、デフレ脱却のためにも、賃上げの必要性は大きいといわざるを得ません。

最後に、今年の米国のクリスマス商戦 Holiday Shopping 最近5日間の売上げが全米小売業協会 (NRF) から明らかにされているようです。NRF のサイトにはプレスリリースを発見できなかったので、参照したニュースメディアのサイトだけ、以下に示しておきます。今年の米国年末商戦の序盤戦はやや期待外れ、という印象かもしれません。

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2018年11月28日 (水)

リクルートジョブズによる9月のアルバイト・パート及び派遣スタッフの賃金動向やいかに?

明日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる非正規雇用の時給調査、すなわち、アルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の10月の調査結果を見ておきたいと思います。

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給の上昇率は引き続き+2%前後の伸びで堅調に推移していて、三大都市圏の10月度平均時給は前年同月より+2.6%、26円増加の1,047円となり、2006年1月の統計開始以来の最高値を記録しています。職種別では「製造・物流・清掃系」前年同月比+3.0%、「事務系」+2.9%、「販売・サービス系」+2.7%、「フード系」+2.3%など、全職種で前年同月比プラスとなり、地域別でも、首都圏、東海、関西のすべてのエリアでプラスを記録しています。一方で、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、最近では2017年9月から12か月連続でプラスを続けた後、9月が▲4円、▲0.2%減の1,640円の後、直近の10月は▲13円、▲0.8%減の1,639円と続落しています。ただし、職種別に詳しく見ると、「オフィスワーク系」、「営業・販売・サービス系」、「IT・技術系」、「クリエイティブ系」、「医療介護・教育系」の5職種のうち、「IT・技術系」と「クリエイティブ系」が前年同月比でマイナスと落ち込み、地域別では東海、関西はプラスなのに対して、首都圏がマイナスを記録しています。マイナスとなった「IT・技術系」をさらに詳しく見ると、運用管理・保守が▲3.4%減と特に低下が大きく、また、カテゴリ全体では初任給アップの「医療介護・教育系」でも看護師・准看護師は▲11.4%減と大きな低下を見せています。全体としてはパート・アルバイトや派遣の非正規職員の雇用も堅調と私は受け止めていますが、景気循環の後半に差しかかって、そろそろ非正規から雇用に陰りが見え始めた、と受け止めるエコノミストもいそうな気がします。

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2018年11月27日 (火)

テレビ広告の価格上昇により企業向けサービス物価(SPPI)は+1.3%の上昇!!

本日、日銀から10月の企業向けサービス物価指数 (SPPI)が公表されています。前年同月比上昇率で見て前月からややプラス幅を拡大して+1.3%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業向けサービス価格、前年比1.3%上昇 テレビ広告が伸びる
日銀が27日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は105.3で、前年同月比で1.3%上昇した。伸び率は9月確報と比べて0.2ポイント拡大した。自然災害の影響で先延ばしされていたテレビのスポット広告が伸びた。人手不足による人件費の上昇も価格を押し上げた。
前年同月比での上昇は64カ月連続となる。テレビ広告は9月に前年同月比でマイナスだったが10月はプラスに転じた。人件費上昇の影響で労働者派遣サービスや警備、土木建築サービスなどの価格も上昇した。冬場のエネルギー需要の増加に備えた動きから、外航タンカーなど外航貨物輸送も値上がりした。
ただテレビのスポット広告は振れが大きいため、日銀は「来月以降も今月程度の伸びが持続するかは明かではない」(調査統計局)との見方を示した。
同指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象の147品目のうち前年比で価格が上昇したのは79品目、下落したのは30品目だった。上昇から下落を引いた差は49品目。差し引きでのプラスは23カ月連続となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ここ半年ほどのヘッドラインSPPIの前年同月比で見て、4月+1.0%、5月+0.9%、6月+1.1%、7月も+1.1%、8月に+1.3%に高まった後、9月は自然災害などもあって+1.1%、そして、10月も+1.3%を記録しています。10月直近の上昇率については、引用した記事にもある通り、自然災害の影響で先送りされていたテレビ広告が9月の▲3.6%の下落から10月には+0.9%に盛り返し、広告全体でも9月の▲0.4%の下落から10月には+1.6%の上昇となっています。そして、相変わらず、人手不足の影響は、土木建築サービス+3.3%、警備+4.3%、労働者派遣サービス+2.4%などに現れています。
直接、SPPIに関係するものではなく、むしろ、消費者物価指数(CPI)の方の話題かもしれませんが、昨日、総務省の有識者会議、正式名称は「モバイル市場の競争環境に関する研究会」に置かれた「ICTサービス安心・安全研究会」と「消費者保護ルールの検証に関するWG」の合同会合が開催され、「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」案が示されています。通信料金の適正化に向けた提言なんですが、2年縛りや4年縛りといった長期契約で端末代を割り引くといった手法が通信料の高止まりを招いているとし、通信料と端末代の完全分離を要請しつつ、シンプルで分かりやすい料金プランの実現を目指すとしており、通信料金の動向が注目されるところです。以下に、「緊急提言」案のリンクを置いておきます。ご参考まで。

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2018年11月26日 (月)

大阪万博EXPO25の経済効果は約2兆円?

広く報じられている通り、2025年に大阪夢洲にて万博EXPO25の開催が決定されました。「経済効果2兆円!」と報じているメディアが多いように見受けられるんですが、私の知る限り、万博だけでなくカジノなどの統合型リゾート(IR)も含めての試算で、しかも、1年近くも前に明らかにされた結果ながら、日本総研の2.6兆円がもっとも大きい万博の経済効果試算のような気がします。ということで、下の画像は、日本総研のリポート「夢洲における万博・IR (カジノを含む統合型リゾート) の概要と課題について」 p.9 から (図表7) 政府・大阪市見通しをベースとした経済効果試算 のテーブルを引用しています。今夜は遅くなったので簡単に済ませておきます。

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2018年11月25日 (日)

今年は大学祭には出向かず!!

この3連休は、我が家の上の倅の大学祭をやっていました。来春は、私の定年退官とともに、上の倅も大学を卒業する予定の最終学年で、当然ながら、最後の大学祭ですから、私も行こうかと考えていたんですが、今年はガンプラ作品の出展もなく、本人も今日明日と暗くなってからしか出かけませんので、私も出向くのをヤメにしました。実は、キャンパスにはイチョウ並木があり、この季節ですので昨年行った折には色づきも美しかった記憶があります。イチョウは大学のシンボルマークにも入っています。
ということで、特に何の関係もなく、11月6日に日本気象株式会社から明らかにされた「2018年紅葉見頃予想 (第3回)」のサイトから、紅葉見頃予想マップ と紅葉見頃予想時期を引用すると以下の通りです。関東の平野部でも、まだ、もう少し紅葉が楽しめるのかもしれません。

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2018年11月24日 (土)

先週と今週の読書は合わせて11冊!!!

先週は土曜日11月17日まで北京出張のイレギュラーな週でしたので、本日、先週と今週の読書11冊を合わせてレビューしておきたいと思います。経済所がとても少なく、中にはごく短めの読書感想文もあります。

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まず、根井雅弘『英語原典で読む経済学史』(白水社) です。著者は我が母校である京都大学経済学部の経済学史を担当している研究者です。経済学の父と呼ばれるアダム・スミスから始まって、20世紀の巨人ケインズまで、一部にマルクス主義経済学の文献も織り込みつつ、加えて、タイトルからは少し離れて英語以外のフランス語やドイツ語の原典も引きつつ、さまざまな経済書を取り上げています。タイトルの順番通りに、経済学史の勉強は後回しで、「英語原典で読む」の方に重点が置かれています。別の言い方をすれば、、スミスをはじめとして経済学史的に重要というよりも、有名で人口に膾炙した表現を多く拾っている印象があります。何かの折に、経済学の名著の英語原典を引用するには便利そうな気がします。

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次に、ローレンス・フリードマン『戦略の世界史』上下(日本経済新聞出版社) です。著者は、英国ロンドン大学キングス・カレッジ戦争研究学部に在籍した研究者です。意地悪な解釈をすれば、シンギュラリティが訪れてAIに取って代わられる前に、人類が築き上げた戦略の要諦について取りまとめた労作といえます。戦争や戦闘行為の戦略から始まって、個人の選択の問題、さらに、現代ビジネスマンの興味分野である企業経営の戦略などに至るまで、幅広い「戦略」に関しての歴史を集大成しています。第1部では、戦略の起源を、聖書、古代ギリシャ、孫子、マキャベリ、ミルトンに探り、ナポレオン、ジョミニ、クラウゼヴィッツ、モルトケ、マハン、リデルハート、マクナマラ、カーン、シェリング、ロレンス、毛沢東などの軍事戦略をひも解こうとしています。このあたりはまだ、私のような専門外のエコノミストにも馴染みがあるといえます。でも、下巻に入ると企業経営戦略も含まれているとはいえ、私なんぞには難しく感じられ始めます。すなわち、「下からの戦略」として、ガンジーらの非暴力運動、キング牧師らの公民権運動、クーンの科学革命論、フーコーの哲学、アメリカ大統領選挙戦など、多様な話題を通じて戦略思想の変容をとらえる一方で、「上からの戦略」として、テイラー、スローン、フォードら経営者、ドラッカーなどの経営理論家の思想、さらには、ゲーム理論などの経済学の隆盛、社会学的な取り組みを明らかにし、合理的選択理論の限界、ナラティブ、ストーリーとスクリプトの有効性を取り上げています。まあ、何かの記念に読んでおくのも一案かという気がします。

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次に、イワン・クラステフ『アフター・ヨーロッパ』(岩波書店) です。著者はブルガリア出身の政治学研究者です。欧州における極右・ポピュリズムの台頭、米国優先政治を掲げる米国トランプ政権、これらは、リベラリズム、民主主義、寛容といったキリスト教と啓蒙主義の遺産ともいえる西欧的な価値観を根底から覆しつつあるとの危機感を出発点として、従来の欧米価値観について論じています。すなわち、一般大衆がコスモポリタン的なエリートとトライバルな志向の移民の両方にNOを突きつけた結果としてのポピュリズムの台頭と捉え、その原因として、難民・移民危機はどのように欧州社会を変化させたか、支配階層にあるエリートへの有権者の反乱はなぜ起こっているのか.EU諸国のリベラル・デモクラシー体制がポピュリズムの台頭で内部的危機に直面する現在、その原因を解き明かし,どのように対応すべきかを論じています。ただ、その結論は私には説得的ではありません。といって、私自身が解決策を持っているわけでもなく、解がない問題なのかもしれません。私の偏見かもしれませんが、著者の出身から、どうしても視点が中欧ないし東欧に置かれている気がしてしまい、自由と民主主義の本流である西欧的な価値観に著者がやや理解が浅い気もしなくはありません。もちろん、専門外の私の理解が浅いだけかもしれません。

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次に、吉田忠則『農業崩壊』(日経BP社) です。著者はジャーナリストであり、現在の肩書は日本経済新聞社編集委員となっています。本書では我が国の農業について、小泉進次郎、植物工場、企業の農業参入の3つをキーワードに、問題点のあぶり出しとその解決策を模索しています。私は農業問題にはそれほど詳しくないんですが、中学や高校のころから、日本農業の問題点として上げられて来た経営規模の問題だけでなく、最新技術の応用や作物育成から流通問題まで、幅広い視野で農業を見ています。ただ、私の直観ながら、農業政策の本流の視点ではないような気もします。というのも、農政問題については、先の経営規模の問題と関係して、農地所有のあり方や補助金の問題などを議論して来たと思うんですが、本書ではこの2点はまったくといっていいほど触れられています。本書でスポットを当てられている植物工場に至っては、失敗例ばかりが並んでいる印象すらあります。植物工場は、企業の農業参入とともに、うまく立ち行かない我が国農業に経営効率の視点から、上から目線で農業に取り組んだ企業の失敗談とも読めます。将来の総理候補とまでいわれる小泉代議士についてもまだまだ未知数の部分が大きいのも事実です。やや眉に唾つけて読むべき本なのかもしれませんが、それなりに示唆に富む内容と受け取る向きもありそうです。

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次に、鈴木董『文字と組織の世界史』(山川出版社) です。著者は長らく東京大学東洋文化研究所をホームグラウンドとしていた研究者であり、オスマン・トルコ帝国の歴史が専門とあとがきにあります。本書は、いわゆるグローバル・ヒストリーを基礎としており、一国史やせいぜい地域史の範囲を超えて、ネットワークとして世界史を俯瞰する試みのひとつといえます。そのネットワークやリンケージのキーワードとして、タイトルにある言語と組織を基礎的な視点にして議論を展開しています。なお、小耳にはさんだウワサなんですが、東大東洋文化研究所では新しい世界史とタイトルされたサイトを解説しています。また、東大生協駒場書籍部における2018年9月度の人文書部門で『ホモ・デウス』につぐ第2位だったそうです。ということで、元に戻ると、タイトルにある文字と組織については、私の読み方が悪かったのかもしれませんが、圧倒的に文字に重点が置かれている気がします。むしろ、組織よりも文字にあわせた宗教の方がキーワードになっている気がします。我が国は、もちろん、文字や言語の点からは中国を拠点とする漢字圏なんですが、宗教的にはインドを拠点として東南アジアに広がっている梵語圏の中心をなす仏教の影響も大きいですし、経済的には少なくともアジアの中では西欧から米州大陸に広がるラテン語圏の影響も小さくありません。もちろん、グローバル化の進展の中で、東欧からロシアに広がるキリル語圏や中東からアフリカ北部のアラビア語圏とも決して関係が浅いわけでもないといえます。歴史書でいつも私が注目しているポイントのひとつに、欧米が現時点までで世界的な覇権を握っているのは英国を期限とする産業革命をいち早く成功裏に開始したからであり、どうして産業革命が西欧で始まったかは歴史家の間でもコンセンサスがないことから、この産業革命の視点がありますが、本書では極めてアッサリと、ウェーバー的な『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で済ませていて、やや物足りないと感じましたが、400ページ近い本書にしても、1冊ですべての世界史を十分な深さで取り上げられるわけではないと考えるべきなのかもしれません。いずれにせよ、グローバル・ヒストリーの見方に触れ、それなりの世界の歴史観を感じ取れる読書だった気がします。

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次に、野村進『どこにでも神様』(新潮社) です。著者は大学の研究者であるとともに、ノンフィクション・ライターとしても活躍していて、何冊かノンフィクションの書籍を出版しているようです。本書では、副題にもある通り、出雲と神様をキーワードとして、出雲から少し広い範囲のや山陰地方の伝統文化や精神構造などを解き明かそうと試みています。すなわち、出雲ならざる鳥取の水木しげるの視点から、神様ならざる妖怪を取り上げたり、今では同じ島根県とはいいつつも、石見地方の神楽に注目しています。本書の後半で詳しく論じられますが、専門家ならざる私の見方でいえば、国譲りの伝説にもある通り、古典古代の我が国に置いては出雲政権は大和政権に敗れた、と考えているんですが、本書の著者は少し違った視点も盛り込んでいます。もちろん、古典古代においては極東に位置する我が国からして、中国という隣国はあらゆる意味において地域どころか世界の超大国であり、漢字を文字として受け入れたことに典型的に現れているように、中国やその文化の経由地である朝鮮半島に近い出雲の方が大和よりも先進地域であったことは想像に難くありません。もちろん、大和政権も九州かどこかはともかく、西から大和に攻め上ったんでしょうが、中国や朝鮮の直接の窓口をなる位置にある出雲の方が先進地域であった可能性の方が高いと私は考えています。しかし、21世紀の今、というよりももう少し前の20世紀半ばの戦後においては、本書でも「裏日本」とか、今でも山陰という表現があるように、決して、文化や政治経済の中心とはいえないのが現状であるという気がします。でも、神様や妖怪をキーワードに出雲周辺の歴史を振り返り、文化に着目するのはいい試みかもしれません。

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次に、東野圭吾『沈黙のパレード』(文藝春秋) です。著者は、ご存じの通り、売れっ子のミステリ作家であり、本書は人気のガリレオ・シリーズ最新刊です。湯川は米国留学を経て教授に昇進し、草薙も警視庁捜査一課で係長に昇進しています。本書では、グレーから極めてクロに近い犯罪容疑がありながら、かつては「証拠の王様」であった自白を避けて黙秘を通すことにより、「疑わしきは罰せず」の刑法の原則に従って無罪となった男が、いかにも、ということで、事件の犯罪被害者とその友人から殺害されたようなシチュエーションから始まります。そして、私もこのブログで何度か、例えば、同じ著者の『夢幻花』を5年前の2013年6月15日に取り上げた際に明記したように、この著者の遵法精神以外に何も感じられない正義感に疑問を感じていたんですが、ガリレオこと湯川教授に独白させ、『容疑者Xの献身』における一般的な善悪の感覚や広く受け入れられた道徳よりも、単なる遵法精神をあまりに優先させ倫理観にやや欠ける解決に対する反省の弁が見られます。私なんぞには理解できないガリレオ・シリーズ特有の殺害方法も首尾よく解決され、私も湯川教授の犯罪被害者とその友人に対する態度や考え方に深く納得しましたので、いい読書だった気がします。直木賞を授賞された『容疑者Xの献身』よりも、私は個人的に高く評価します。

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次に、池井戸潤『下町ロケット ゴースト』及び『下町ロケット ヤタガラス』(小学館) です。このシリーズの第3作と第4作だと思います。当然ながら、大田区の町工場地域にある佃製作所が舞台であり、第1作では、まさに、ロケットのエンジンに使うバルブそのもの、そして第2作の『ガウディ計画』では人工心臓向けのバルブを諦めての心臓の人工弁、そして、この最近2作のでは前2作のハイテク路線からグッとローテクに回帰して、農業機械、トラクタなどのエンジンとトランスミッションに挑戦します。『ゴースト』ではトラクタのトランスミッションに挑戦し、『ヤタガラス』ではトラクタのエンジンとトランスミッションを帝国重工に供給しつつ、その自動運転化技術にも挑みます。相変わらず、この作者の作品らしく、善悪が明瞭に分岐していて、悪いヤツはトコトン悪く、いい人はどこまでも勝ち続けます。経済学や物理学などのモデル分析を主流にする科学に親しもあればともかく、善悪をあいまいなままでコトが進む日本的な風土で、ここまでこの作者の作品が支持され、テレビでもドラマとして成功を収めているのはやや不思議な気がしますが、私が読んでも面白いんですから、かなり完成度は高いといえます。この2作と前の『沈黙のパレード』の3冊の小説は買って読みました。3冊も買うのは久し振りかもしれません。

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最後に、森本公誠『東大寺のなりたち』(岩波新書) です。著者は我が母校の京都大学のイスラム史の専門家であり、東大寺の長老としても名高い僧侶です。「東大寺」の懐かしい響きを感じ、ついつい借りてしまいました。聖武天皇の勅から始まったと考えられがちな東大寺の造営につき、その前の段階からていねいに歴史をひも解きつつ、東大寺や国分寺のなりたちや役割について解き明かしています。私は中学高校と6年間ずっと奈良に通っていたんですが、まさに南大門を入って大仏殿の前に校舎がありました。今はかなり離れたところに移転し、私が通ったころの2クラス100人足らずの生徒数から、倍くらいに大規模化したように聞き及んでいますが、男ばかりのムサイ6年間ながら、京都大学の学生時だよりも青春そのものの想い出深い時代でした。いまだに Facebook でつながっている仲間もいますし、逆に、顔も見たくないイヤなヤツもいます。それも合わせて、貴重な青春の6年間だった気がします。その中学高校は東大寺からのいくばくかの補助があったと聞いたことがあり、京都の名門である洛星高校などよりは、それなりに学費負担も大きくなく、決して恵まれた所得があったとはいえない我が家でも私を通わすことが出来たのかもしれない、と思い起こしています。約10年前に100歳超で亡くなった祖母が、私の学校との関係で東大寺のお水取りに加わって喜んでいたのは、もう40年以上も前のこととなりました。改めて、東大寺への感謝の気持ちを込めて拝読しました。

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2018年11月23日 (金)

阪神タイガースの2019年シーズンのチームスローガン!!

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本日、我が阪神タイガースの2019年シーズンのチームスローガン「ぶち破れ! オレがヤル」が明らかにされています。何といっても、今年は最下位でしたから、来年は浮上しかないわけで、ぶち破って欲しいものです。

来季こそ、
がんばれタイガース!

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今年の米国のクリスマス商戦やいかに?

昨日は米国では Thanksgiving Day の休日であり、今日11月23日はいわゆる Black Friday です。米国小売業協会では、すでに、10月3日の時点で「クリスマス商戦は4.3~4.8%の伸び」"NRF forecasts holiday sales will increase between 4.3 and 4.8 percent" で、売上げは $717.45 billion to $720.89 billion に達するとの予測を明らかにしています。そして、先週11月16日には Thanksgiving Day から Cyber Monday までの5日間の日次の売上を以下のグラフのように予想しています。休暇明けの売上げ速報は11月27日に明らかにされるようです。果たして、今年の米国のクリスマス商戦やいかに?

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2018年11月22日 (木)

OECD「経済見通し」は米中貿易摩擦で経済成長率を下方修正!

日本時間の昨夜、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し 2018年11月」OECD Economic Outlook November 2018 が公表されています。このブログでは、こういった国際機関のリポートを取り上げるのをひとつの特徴としていますので、プレスリリース資料からグラフなどをいくつか引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います

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まず、上の画像はプレスリリース資料から p.25 Key messages を引用しています。見れば明らかなんですが、世界経済の成長が減速しており、米中の貿易摩擦に伴う関税率の引き上げが先行きリスクを高めていることから、自由貿易の維持強化を図る必要を主張しています。まあ、各種のメディア報道もそうですし、多くのビジネスマン・エコノミストの共通認識ではないかと私は思います。

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次に、上の画像はプレスリリース資料から p.4 Real GDP growth revised down のグラフを引用しています。要するに、世界経済の成長率が下方修正されているわけです。今年2018年の世界経済の成長率は5月の前回の「経済見通し」では+3.8%、9月の「中間経済見通し」では+3.7%に下方修正された後、昨日公表の「経済見通し」では+3.5%にさらに下方修正されました。来年2019年についてもご同様で、5月の前回の「経済見通し」では+3.9%、9月の「中間経済見通し」では+3.7%に下方修正された後、昨日公表の「経済見通し」では+3.5%にさらに下方修正されています。我が国の成長率についてもまったく同じような傾向を示しており、今年2018年は5月の前回の「経済見通し」と9月の「中間経済見通し」ではともに+1.2%と見込まれていましたが、昨日公表の「経済見通し」では+0.9%に下方修正されています。少なくとも我が国の成長率については、先週公表されたGDP統計1次QEで自然災害などの影響により7~9月期の成長率がマイナスとなった発射台の成長率の低下が大きな要因なんでしょうが、来年2019年についても、5月の前回の「経済見通し」と9月の「中間経済見通し」ではともに+1.2%と見込まれていましたが、昨日公表の「経済見通し」では+1.0%に下方修正されています。ただし、東京オリンピック・パラリンピックの開催されるさ来年2020年の成長率は+1.9%と高まると見込まれています。

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次に、上の画像はプレスリリース資料から p.13 Tariff hikes act as a brake on GDP growth のグラフを引用しています。世界経済の成長率の下方修正を招いた最大の要因のひとつである米中間の貿易摩擦に起因する関税率の引き上げが成長率に及ぼす影響を試算した結果がプロットされています。凡例にあるように、第1段階の青の部分は2018年9月までの追加関税引き上げの影響、第2段階の紫の部分が、米国が中国からの2,000億ドルの輸入に対して追加関税を現行の10%から25%に引き上げ、加えて、中国が米国からの600億ドルの輸入に対して報復措置を取った場合、第3段階のオレンジの部分が、加えて、一次産品を除くすべての米中二国間貿易に対し、2019年7月以降に25%の追加関税が課された場合、さらに、第4段階として、投資リスクプレミアムが不確実性の高まりに応じて上昇する場合、などを前提した試算結果です。ただし、この分析では、関税引上げによる負担の大部分は物価上昇を通じ米国の消費者に転嫁されると想定されているようなんですが、中国側の価格設定行動次第で中国の輸出業者及び生産者が負担をこうむる結果になる場合もある、と指摘されています。我が国への影響は明示されていないんですが、私のこのブログでは、今年2018年7月24日付けの記事で大和総研のリポート2本、「米中通商戦争はそんなに悪い話なのか?」「続・米中通商戦争のインパクト試算」を引用して、結論としては、日本経済へのマイナスの影響は決して大きくない、との見方も紹介しています。

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次に、上の画像はプレスリリース資料から p.15 A slowdown in China would weigh on growth across the world のグラフを引用しています。関税率の引き上げの影響に関しては、我が国は明示的にグラフに取り込まれていなかったんですが、さすがに上のグラフに見る通り、中国経済の減速の影響については、米欧よりも我が国成長率へのマイナスの影響が方が大きい、すなわち、2%ポイントの中国の需要減少のショックに対して、我が国の成長率は▲0.2%を超える影響を受ける、と分析されています。

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最後に、目を国内経済に転じると、本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月と同じ+1.0%を示しています。国際商品市況における石油価格などのエネルギーの値上がりに起因する物価上昇と私は受け止めています。いつものグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いも私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。

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2018年11月21日 (水)

結婚指輪はつけるか、つけないか?

先日、職場の女性と結婚指輪に関する雑談をしていたんですが、一昨日の11月19日にGMOリサーチの運営するネット調査 for Real? から、あなたは結婚指輪をつける派? つけない派? を大調査! の結果が明らかにされています。

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上のグラフは、for Real? のサイトから、男女別年代別に結婚指輪を毎日つけるかどうかの質問に対する回答結果を引用しています。20代と30代では男女ともに結婚指輪を毎日つける人が過半なんですが、40代では半数以下に割合が下がり、しかも、つけない人の方が多くなってしまいます。そして、50代ではこの傾向がさらに強く現れます。まあ、判る気がします。
そして、グラフは引用しませんが、男性について結婚指輪をつけない理由としては、「仕事上つけることができないため」26.6%、「つけるのが面倒なため」24.4%、「特に理由はない」20.3%がトップスリーとなっています。グラフから見て選択肢にはないようなんですが、「太って結婚指輪が入らないから」という選択肢があれば構な割合を占める可能性があるような気がします。というのも、上のグラフを見る限り、40代では男性よりも女性の方が結婚指輪をする比率が高い一方で、50代になると女性の方が比率が低くなります。まあ、50代くらいから未亡人になる可能性があるとはいえ、女性の方が年齢を重ねて太るのではないか、という気がしないでもありません。単なる私の憶測です。
ということで、私についてはビミョーなところです。というのは、カミさんと私がおそろいで持っている指輪としては2組あり、結婚式で交換した結婚指輪とハネムーンで買ったカルティエの三連があります。前者の結婚指輪は、実は、長崎大学に出向して単身赴任していた折になくした経験があり、新たに買わざるを得なかった私の指輪は、なくさないように大事に仕舞い込んであります。ですから、カルティエの三連は週に1日くらいつける一方で、狭義の結婚指輪はほとんどつけず、代替の何らかのリングを左手薬指にしています。その意味では、左手薬指には毎日指輪をつけてオフィスに通っています。かなり、取っかけ引っかけ、ほぼほぼ毎日のように違う指輪をしていたりしますので、左手薬指にする指輪だけで1ダースでは利かないくらい大量に持っていたりします。男性ではめずらしいんではないかと勝手に自負しています。

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2018年11月20日 (火)

帝国データバンク「消費税率引き上げに対する企業の意識調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、11月14日付けで帝国データバンクから「消費税率引き上げに対する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。pdfの全文リポートもアップされています。もともと、2015年10月に消費税率10%へと引き上げられる予定でしたが、2014年11月と2016年6月の2度に渡って消費税率引き上げは延期され、現在、来年2019年10月の消費税率10%への引き上げを実施する予定となっているのは広く知られている通りです。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 消費税率10%への引き上げ、「予定どおり実施すべき」と考える企業が43.3%となった。「延期」「現行維持」「引き下げ」など2019年10月の引き上げに否定的な見方をする企業も計43.1%となり、二分する結果となった
  2. 企業活動への影響、「(業績に)マイナスの影響がある」(34.2%)と「(業績以外で)マイナスの影響がある」(20.9%)を合わせると企業の55.1%が懸念。特に『小売』は81.2%に達する企業がマイナス影響を見込む
  3. 軽減税率導入への対応、「軽減税率制度の内容の確認」が41.8%でトップ。以下、「影響が生じる事務の確認」(36.7%)、「会計システム等の導入・改修・入れ替え」(23.5%)が続く
  4. 政府に優先的に取り組んでほしい政策は、「景気対策」が67.8%で突出。以下、「少子化対策」(37.3%)、「中小企業支援の充実・拡大」(33.2%)、「財政再建」(33.1%)、「税制改革」(32.7%)が3割台で続く

かなり詳細な調査結果の要約ですので、これ以上の情報は必要なさそうな気もしますが、リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 消費税率の引き上げに対する企業の見解 に関するグラフを引用すると上の通りです。「予定どおり(2019年10月に)実施すべき」が43.3%となった一方で、「実施するべきでない(現行の8%を維持)」の24.5%が続いたほか、「時期を延期して実施するべき」(12.0%)や「消費税率を引き下げるべき」(6.6%)を含めて、予定通りの消費税率引き上げに否定的な企業の割合が計43.1%となり、予定どおり実施すべきと考える企業と二分する結果が示されています。ただ、グラフの引用はしませんが、企業規模別の結果では、規模が大きいほど「予定どおり(2019年10月に)実施すべき」の割合が高く、逆に、規模が小さいほど「実施するべきでない(現行の8%を維持)」の割合が高くなっています。

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次に、リポートから 消費税率引き上げにより「マイナスの影響がある」割合を業界別に取りまとめたグラフを引用すると上の通りです。全体では、「(業績に)マイナスの影響がある」が34.2%、また、「(業績以外で)マイナスの影響がある」(20.9%)を合わせて、企業の半数超となる55.1%が消費税率引き上げにより企業活動にマイナスの影響がある見通しを持っており、企業活動に「影響はない」(27.6%)を大きく上回っています。上の業界別のグラフから、「小売」で特にマイナスの影響を見込む割合が高くなっていることが読み取れます。このマイナスの影響に対して、グラフは引用しませんが、政府に優先的に取り組んでほしい政策を複数回答で質問したところ、「景気対策」が67.8%となり、突出してトップとなっています。次いで、「少子化対策」(37.3%)、「中小企業支援の充実・拡大」(33.2%)、「財政再建」(33.1%)、「税制改革」(32.7%)が30%超で続いています。

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2018年11月19日 (月)

貿易赤字を記録した10月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+8.2%増の7兆2434億円、輸入額は+19.9%増の7兆6927億円、差引き貿易収支は▲4493億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の貿易収支、4493億円の赤字 原油高で輸入増える
財務省が19日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4493億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶり。輸出入ともに増加したが、中東からの原油輸入の増加を背景に輸入額の増加が上回った。QUICKがまとめた民間予測の中央値は488億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比8.2%増の7兆2434億円だった。増加は2カ月ぶり。米国向け自動車や船舶エンジンがけん引した。
輸入額は19.9%増の7兆6927億円。7カ月連続で増加した。原油高を背景にサウジアラビアから原粗油の輸入が増えた。アジアからの輸入額は17.2%増の3兆7577億円となり、過去最大だった。
10月の対米国の貿易収支は5734億円の黒字で、黒字額は11.0%減少した。減少は4カ月連続。輸出は11.6%増、輸入は34.3%伸びた。
10月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=112円90銭。前年同月に比べて0.4%円安・ドル高に振れた。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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繰り返すになりますが、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいていますので、2か月振りの貿易赤字ということなんですが、季節調整済みの系列で見ると4か月連続の赤字ですし、2018年に入ってから1月から10月までの10か月間で6か月が貿易赤字を出していることになります。輸出入額ともに増加を示していますが、特に、輸入額が増加しているのは国際商品市況における石油価格の値上がりに起因しています。ですから、産油国からの輸入額をいくつか見ると、いずれも季節調整していない原系列の統計で見て、中東からの鉱物性燃料の輸入額は+33.1%増、ロシアも同様に+31.0%増を記録しています。ただし、輸出額については9月の自然災害に伴う供給制約や物流の停滞を10月は克服して、反動増も含めて増加を示しています。季節調整済みの系列をプロットした上のグラフのうちの下のパネルで見ても、青いラインの輸出額がやや横ばいになって停滞を示しつつあります。輸出額の停滞については次のグラフの後に引き続き取り上げます。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。季節調整済みの系列の統計で見て、輸出がかなり横ばいになって来ているのは、上のグラフの真ん中のパネルに見るように、先進国経済の拡大テンポの低下が大きくなっており、我が国輸出への影響に関しては、一番下のパネルに見るような中国経済の拡大が先進国の減速に追いつかなくなっている、ということなんだろうと私は受け止めています。どうでもいいことながら、先進国経済で景気拡大局面の成熟化が進んでいる、ということで、我が国の景気局面もご同様といえます。また、世間の注目を引いている米中間の貿易摩擦ですが、少なくとも、10月統計でその影響が現れているとは私はまだ考えていません。

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2018年11月17日 (土)

北京に出張して国連統計局主催のデジタル経済に関するセミナーに出席!

少しブログをお休みしていましたが、中国の首都北京に出張し、国連統計局の主催するデジタル経済に関するセミナー High Level Seminar on the Digital Economy に出席していました。
ものすごい大気汚染で、埃っぽいことこの上なく感じてしまいました。会議も宿泊も同じ場所で、天安門近くのホテルにほぼほぼ缶詰めになって、年齢のせいもあってかなり疲れてしまいました。国際派エコノミストを自称しているんですが、もうセミナーのプレゼンなどの表行事よりも、むしろ、コーヒーブレークやランチタイムなどでのおしゃべりの裏技の社交での情報交換などの方が重点になってしまうのかもしれません。今回のセミナーでは、私のようなエコノミストよりも、ハル・ヴァリアンが「セクシー」と称した statistician が大部分を占めていたことも疲労の原因かもしれません。メキシコからの出席者とそれなりのスペイン語で会話しつつ、私自身はエコノミスト半分、statistician 半分と自己分析しておきました。長らく役所に勤務して、3月の定年退官を目前にして、最後の海外出張かもしれません。

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2018年11月13日 (火)

2018年冬のボーナスは増えるのか?

先週までに、例年のシンクタンク4社から年末ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因ですので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研の公務員ボーナスだけは地方と国家の両方の公務員の、しかも、全職員ベースなのに対して、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員の組合員ベースの予想と聞いたことがあり、ベースが少し違っている可能性があります。注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研39.3万円
(+3.3%)
72.2万円
(+5.9%)
今冬の賞与を展望すると、民間企業の一人当たり支給額は前年比+3.3%と、年末賞与としては2年連続のプラスとなる見込み。
背景には、2018年度上期の好調な企業収益。個人消費、設備投資など内需の持ち直しのほか、販売価格の引き上げにより売上が増加。一方で、変動費の抑制など収益体質の強化も進んだため、売上の増加が利益の拡大に結びつきやすい構造に。
大企業の雇用が大きく増加したことも、一人当たり賞与の押し上げに作用する見込み。製造業、情報通信業など、もともと支給水準の高い業種の正規雇用者が増加し、全体をけん引。
第一生命経済研(+4.2%)n.a.民間企業の2018年冬のボーナス支給額を前年比+4.2%と予想する。夏(前年比+4.7%)に続いて高い伸びになるだろう。ただし、毎月勤労統計では、サンプルの入れ替えやサンプルを加重平均する際のウエイト更新の影響に伴って2018年1月以降に断層が生じており、実態よりも伸び率が大幅に上振れていることに注意が必要である。実態としては、18年夏が前年比+2.1%程度だったとみられ、冬については+1.9%になると予測している。
(途中略)
7-9月期の個人消費は、台風、地震といった自然災害が相次ぎ、外出機会が抑制されたことが下押し要因になったことに加え、野菜価格やエネルギー価格の上昇も痛手となり、低調な推移となった。10-12月期については、こうした下押しからの反動に加え、冬のボーナス増も後押しとなることから、個人消費は再び増加に転じると予想される。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング39.2万円
(+3.0%)
72.4万円
(+6.3%)
2018年冬の民間企業(調査産業計・事業所規模5人以上) のボーナスは、企業業績の拡大が続き、労働需給が極めてタイトな状況下で、前年比+3.0%と堅調に増加すると予測する。
雇用者数の増加が続いており、ボーナスが支給される事業所で働く労働者の数も増加が見込まれる。冬のボーナスの支給労働者数は4,,217万人(前年比+1.3%)に増加し、支給労働者割合も83.5%(前年差+0.2%ポイント)に上昇しよう。また、ボーナスの支給総額は16.5兆円(前年比+4.4%)に増加する見通しである。夏に続き、冬も支給総額が高い伸びとなることは、今後の個人消費にとってプラス材料である。
みずほ総研38.8万円
(+2.0%)
76.6万円
(▲0.7%)
民間企業・公務員を合わせた冬季ボーナスの支給総額は、前年比+2.4%(前年: 同;3.1%)と増加基調を維持するだろう。上記の通り公務員の支給総額は減少が見込まれるものの、民間企業の堅調な伸びがけん引する公算である。ボーナス支給総額の拡大による家計の所得環境の改善は、個人消費に対する当面の下支え要因となろう。
ただし、消費者マインドの動向を表す消費者態度指数が引き続き弱含んでいることを踏まえると、今冬はボーナス支給総額の増加ほど消費が拡大しない可能性がある。消費者マインドが弱含む一因と考えられるのが、物価上昇である。物価面では、今後、ガソリン価格の上昇ペースが徐々に鈍化していくとみられる一方、電気代の伸びが拡大するとみられ、物価の基調を示すコア消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年比+1%前後の上昇傾向を続けると見られる。こうした物価上昇による実質所得の目減りが、家計の積極的な消費拡大を抑制する要因となろう。

ほぼ今冬の年末ボーナスは1人あたりでも、支給総額でも、民間企業でも、公務員でも、それなりの増加を示しそうなコンセンサスがありそうです。しかし、ボーナスが増加する一方で、上のテーブルに取り上げたシンクタンク4機関の消費に対する考えがビミョーに違っていることが読み取れます。日本総研はボーナスから消費への波及についてはコメントしていないのに対して、第一生命経済研と三菱リサーチ&コンサルティングはボーナス増は消費にプラスとの見方を示しているものの、みずほ総研は消費者マインドの動向も引きつつ、物価上昇から実質所得の目減りにより消費が抑制される可能性を示唆しています。確かに、日本では、長らく見られた雇用慣行として長期雇用と年功賃金があって、かなりの程度に恒常所得仮説が成り立っており、残業やボーナスと消費の関係はそれほど相関は大きくない、ないし、やや不安定であるというのが従来からの定説です。もちろん、こういった雇用慣行は大きく変化しており、どこまで従来の見方が成り立つのかも何ともいえないところです。ただ、一般論としてボーナスの増加が消費にマイナスの相関を持つとは考えられないわけですから、1年弱に迫った消費増税も考え合わせて、それなりの消費への効果を見込んでいるエコノミストも少なくないと私は考えています。
下のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから引用しています。

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2018年11月12日 (月)

引き続き+3%近い上昇率を続ける企業物価(PPI)!

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+2.9%と前月から少し上昇率が縮小したものの、引き続き、高い上昇率を継続しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業物価指数、前年比2.9%上昇 石油製品の値上がりで
日銀が12日発表した10月の国内企業物価指数(速報値、2015年平均=100)は102.3となり、2014年11月(102.4)以来、約4年ぶりの高水準となった。前年同月に比べて2.9%上昇し、伸び率は9月確報からやや鈍化したが、22カ月連続で前年同月を上回った。前月比でも0.3%上昇した。
米国によるイラン制裁を背景に、供給面での減少懸念から9月の原油価格が上昇。原油相場の上昇を受けた石油関連製品の値上がりが伸びをけん引した。
品目別では、石油・石炭製品が前年同月比25.5%上昇した。鉄鋼が同4.7%、化学製品は同3.7%上昇した。一方で、非鉄金属は同3.0%下落した。米中間の貿易摩擦への懸念が下押し要因となった。
今後の企業物価動向については「足元で原油価格が大きく下落しているほか、米中貿易摩擦の影響が需要面から押し下げ方向に働く可能性も念頭に置きつつ動向をみていきたい」(日銀調査統計局)という。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている気がします。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。一番上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、真ん中は需要段階別の上昇率を、また、一番下は企業物価指数のうちの円建て輸入物価の原油の指数そのものと前年同月比上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、上2つのパネルの影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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繰り返しになりますが、企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は7~9月の3か月連続の+3.0%から少しだけ上昇幅を縮小させて+2.9%を記録しまた。基本は、国際商品市況における石油価格の上昇や高止まりに起因する部分が大きいと私は受け止めています。中国をはじめとするエネルギー消費型の途上国や新興国経済の成長回帰に加え、米国のイラン制裁への懸念から石油価格が上昇しています。上のグラフの一番下のパネルに見られる通り、輸入物価のうちの原油については、指数のレベルでも、前年同月比上昇率でも、引き続き高い水準となっています。他方で、米中の貿易摩擦の影響もチラホラ垣間見え、国内物価のコンポーネントでは非鉄金属がマイナス幅を拡大したのに加え、金属製品も上昇幅を縮小させており、同時に、輸入物価では金属・同製品の前年同月比が9月の+0.4%上昇から10月は▲2.6%の下落に転じています。ただ、どこまでが米中貿易摩擦によるものかは、現時点では明確には判りかねます。いつも、このブログで私が主張している通り、我が国の物価は日銀金融政策動向よりも国際商品市況における一次産品価格の動向により敏感に反応するようです。

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2018年11月11日 (日)

ユーキャン新語・流行語大賞2018やいかに?

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やや旧聞に属する話題ながら、11月8日(木)にユーキャン新語・流行語大賞のノミネート語30組が明らかにされています。上の画像はキャプチャしたものです。
ただ、いつも思うんですが、新語・流行語ではなく、流行そのもの、も含まれています。すなわち、「ひょっこりはん」とか、「グレイヘア」です。例えば、「金足農旋風」となれば新語・流行語のカテゴリーになるような気がしますが、「金足農」であれば、甲子園の高校野球に出場した高校そのものなのではないでしょうか。上の30語にも、流行そのもの、というか、流行した人物や現象が紛れ込んでおり、流行語とはやや異なるカテゴリー、という気もしなくもありません。まあ、ビミョーなところです。ということで、昨年の「インスタ映え」と「忖度」に続く今年の大賞やいかに?

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今日は我が家の結婚記念日!!!

今日は、我が家の結婚記念日、というか、カミさんと私の結婚記念日です。忘れないうちに、下のクス玉とともにお祝いしておきます。

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2018年11月10日 (土)

いろいろ事情があって今週の読書は計9冊読み飛ばす!!!

今週は経済書や話題の小説をはじめとして、計9冊とかなり大量に読みました。というのも、来週の予定を考えに入れると、今週中に読んでおきたい気がしたからです。今週も自転車で図書館回りを終えていますが、諸般の事情により来週の読書はちょっぴり抑える予定です。ついでながら、今週の読書感想文は読んだ本の数が多くて、感想文のボリュームは抑えてあります。

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まず、大矢野栄次『ケインズの経済学と現代マクロ経済学』(同文舘出版) です。作者は久留米大学の研究者です。冒頭のプロローグにあるんですが、「現代経済学の流れのなかで、唯一、現代の世界経済の考え方と経済政策の方向性を変革しうる経済学が『ケインズ経済学』であり、『ケインズ革命』の再認識であると考える」との意識から書き始めていますが、本書の中身は、大学の初学年ではないにしても2年生ないし学部レベルのケインズ経済学の解説に終止しています。それなりの数式の展開とグラフは判りやすく取りまとめられていますが、1970年台に石油危機に起因するインフレと景気後退のスタグフレーションにおいてケインズ経済学批判が生じ、そして、2008年のリーマン証券破綻から再び見直され始めた流れについてはもう少していねいに解説してほしかった気もします。

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次に、ルチアーノ・カノーヴァ『ポップな経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) です。著者はイタリアの行動経済学を専門とするエコノミストです。原書はミラノで2015年の出版ですから、ややトピックとしては古いものも含まれていて、逆に、新しい話題は抜けています。当然です。冒頭ではAIによる職の喪失から話を始め、行動経済学のナッジやゲーミフィケーションの活用、クラウドファンディングの台頭についてはやや唐突感もあるんですが、テクノロジーの進歩による情報カスケードによすフェイクニュースの蔓延、ビッグデータの活用、大学教育の変革などなど、どこまでポップかは議論あるかもしれませんが、それなりに興味深いトピックを論じています。繰り返しになりますが、2015年の出版ですので新しいトピックは抜けていますが、概括的な解説としてはいいセン行っている気がします。

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次に、本田由紀[編]『文系大学教育は仕事の役に立つのか』(ナカニシヤ出版) です。8人の研究者によるチャプターごとの論文集です。科研費を利用してマクロミルのネット調査からデータを収集し、かなり難しげな計量分析手法により、タイトルの文系大学教育と実務のレリバンスを探っています。ただ、自ら指摘しているように、あくまでアンケート対象者が役立ったと思っているかどうかのソフトデータであり、ホントに客観的なお役立ち度は計測しようがありません。その上、東大教育学部の研究者と大学院生が半分を占める執筆陣ですから、本書のタイトルの問いかけに対して否定的な回答が出るハズもありません。各章についても、ラーニング・ブリッジングといわれても、教育者により定義や受け止めは違うでしょうし、理系と文系の対比がありませんから、やや物足りない気もします。しかし、奨学金受給者が専門分野には熱心な学習姿勢を示しつつも、正規職員就職率には差が見られない、という計量分析結果については、やや悲しい気がしました。

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次に、持永大・村野正泰・土屋大洋『サイバー空間を支配する者』(日本経済新聞出版社) です。著者3人の打ち最初の2人は三菱総研の研究員で、最後の土屋先生は慶応義塾大学の研究者です。芸剤の先進国に限らず、新興国や途上国でも、国民生活も企業活動も、もちろん、政府に政策も、何らかの形でサイバー空間と関係を持たないわけには行かないような世界が形成されつつあります。そこでは、おどろおどろしくもサイバー攻撃、スパイ活動、情報操作、国家による機密・個人情報奪取、フェイクニュース、などなど、ポストトゥルース情報も含めて乱れ飛び、そしてグーグルを筆頭とするGAFA、あるいは、中国のバイドゥ、アリババ、テンセントのBATなどに象徴される巨大IT企業の台頭が見られます。そして、従来は、国家の中に企業や組織があり、その中に家計や個人が属していたという重層的な構造だったんですが、多国籍企業はいうまでもなく、個人までも国家や集団をまたいで組内する可能性が広がっています。私の専門がいながら、安全保障面でも、米国を始めとして軍にサイバー部隊を創設したり、何らかのサイバー攻撃を他国や他企業に仕かける例も報じられたりしています。こういった中で、サイバー空間の行方を決める支配的な要素として技術と情報を考えつつ、我が国がどのように関与すべきかを本書の著者は考えようとしています。ただ、私としては左翼の見方として対米従属に疑問を持つ見ながら、ここはサイバー空間においては米国に頼るしかないんではないか、という気もしないでもありません。

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次に、ジェイムズ Q. ウィットマン『ヒトラーのモデルはアメリカだった』(みすず書房) です。著者はイェール大学ロースクールの研究者です。英語の原題は Hitler's American Model であり、年の出版です。米国での出版ですから、ドイツで発禁処分となっている『わが闘争』からの引用もいくつかなされていたりします。タイトルから容易に想像される通り、ユダヤ人への差別、というには余りにも過酷な内容を含め、ナチスの悪名高いニュルンベルク諸法のモデルが、実に不都合な事実ながら、自由と民主主義を掲げた連合国の盟主たる米国の有色人種を差別する諸法にあった、という内容です。ジム・クロウ法とか、ワン・ドロップ・ルールなど、1950~60年代の公民権運動のころまで、堂々と黒人やネイティブ・アメリカンは差別されていたわけで、それなりの研究の蓄積もありますので、特別な視点ではないような気もしますが、2016年大統領選挙でのトランプ大統領の当選などを踏まえて、こういった差別をキチンと考え直そうという動向は米国だけでなく、日本も含む世界全体をいい方向に導くような気がします。

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次に、平野啓一郎『ある男』(文藝春秋) です。弁護士を主人公に、林業に従事する中年男性が事故で亡くなったところ、兄が来て写真を見て「これは弟ではない」と言い出し、そこから未亡人の依頼を受けて弁護士の調査が始まります。もちろん、戸籍の違法な取得や交換が背景にあるわけですが、例えば、宮部みゆきの『火車』のように、決して、ミステリとして謎解きが主体のストーリー展開ではなく、登場する人々の人生について深く考えさせられる純文学といえます。調査する弁護士は、まったく人種的な違和感ないものの、在日三世で高校生の時に日本人に帰化しているという経歴を持ちますし、中年以降くらいの人間が過去に背負ってきたものと人間そのものの関係、さらに、『火車』では借金が問題となるわけですが、本作では殺人犯の子供から逃れるための戸籍の違法な取引が取り上げられています。こういった、ひとりの人間を形作るさまざまな要素を秘等ひとつていねいに解き明かし、人間の本質とは何か、について深く考えさせられます。ただし、私はこの作者の作品としては『マチネの終わりに』の方が好きです。でも、来秋の映画封切りだそうですが、たぶん、見ないような気がします。

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次に、三浦しをん『愛なき世界』(中央公論新社) です。作者は私も大好きな直木賞作家であり、私は特に彼女の青春物語を高く評価しています。この作品も青春物語であり、舞台は東京は本郷の国立T大学とその近くの洋食屋さんであり、主人公はT大の生物科学科で研究する女性の大学院生とその院生に恋する洋食屋の男性のコックさんです。まあ、場所まで明らかにしているんですから、東大でいいような気もしますが、早大出身の作者の矜持なのかもしれません。タイトルは、ズバリ、植物の世界を表しています。コックさんは2度に渡って大学院生に恋を告白するんですが、大学院生は研究対象である植物への一途な情熱から断ります。そして、最後は、研究対象である植物への情熱こそ愛であるとお互いに認識し、新たな関係構築が始まるところでストーリーは終わっています。一体、どのような終わり方をするんだろうかとハラハラと読み進みましたが、この作者らしく、とてもポ前向きで明るくジティブな結末です。この作者の作品の中では、直木賞を授賞された『まほろ駅前多田便利軒』などよりも、私は『風が強く吹いている』や『舟を編む』が好きなんですが、この作品もとても好きになりそうです。

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次に、堂場瞬一『焦土の刑事』(講談社) です。終戦の年の1945年から翌年くらいの東京は銀座などの都心を舞台に、刑事を主人公に据えて殺人事件の舞台裏を暴こうとします。終戦前の段階で、東京が空襲された後の防空壕に他殺の女性の死体が相次いで発見されたにもかかわらず、所轄の警察署による捜査が注されて、事件のもみ消しが図られます。そして、その殺人事件は終戦後も続きます。特高警察や戦時下の異常な体験などの時代背景も外連味いっぱいなんですが、最後の解決は何とも尻すぼみに終わります。特高警察や検閲への抗議、あるいは、殺人事件のもみ消しなどは吹き飛んで、実につまらない解決にたどり着きます。大いに期待外れのミステリでした。

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最後に、久原穏『「働き方改革」の嘘』(集英社新書) です。著者は東京新聞・中日新聞のジャーナリストであり、本書は取材に基づき、現在の安倍政権が進める「働き方改革」とは労働者・雇用者サイドに立ったものではなく、残業を含めて使用者サイドに長時間労働を可能にするものだという結論を導いています。そして、最後の解決策がやや寂しいんですが、人を大切にする企業活動を推奨し、「官制春闘」といった言葉を引きつつ、労使自治による雇用問題の解決を促しています。私が考えるに、現在の我が国における長時間労働、いわゆるサービス残業を含めた長時間労働は、マルクス主義経済学の視点からは絶対的剰余価値の生産にほかならず、諸外国の例は必ずしも私は詳しくありませんが、もしも先進国の中で我が国が突出しているのであれば、我が国労使の力関係を示すものであるともいえますし、逆に、政治的に使用者サイドを支援せねばならないくらいの力関係ともいえます。いずれにせよ、長時間労働の問題と現在国会で議論が始まろうとしている外国人労働者の受入れは、基本的に、まったく同じ問題であり、抜本的な解決策の提示が難しいながら、エコノミストの間でも考えるべき課題といえます。

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2018年11月 9日 (金)

来週11月14日に公表予定の7-9月期GDP統計1次QE予想やいかに?

先週公表の鉱工業生産指数(IIP)をはじめとして、ほぼ必要な統計が出そろい、来週水曜日の11月14日に今年2018年7~9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の10~12月期以降の景気動向を重視して拾おうとしています。ほとんどのシンクタンクで、7~9月期が自然災害などに起因する供給や物流の制約からマイナスないし大きく減速と予想している一方で、10~12月期以降は緩やかな成長軌道に戻ると見込んでいます。しかしながら、下2つの三菱系シンクタンクは明示的に先行き経済を取り上げていませんでした。大和総研とみずほ総研は超長めに、ほかのシンクタンクもそれなりに、それぞれ引用してあります。なお、大和総研は引用した後に、さらに公共投資と輸出の需要項目が続くんですが、省略してしまいました。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.5%
(▲2.1%)
当面を展望すると、自然災害による悪影響は徐々に解消に向かっていることから、高めのプラス成長に復する見通し。10月の鉱工業生産予測調査では増産が計画されているほか、機械受注も回復基調が持続しており、10~12月期の設備投資の増加を示唆。個人消費についても、賃金上昇ペースの加速を背景に、持ち直す見込み。もっとも、世界的な貿易摩擦の深刻化や中国経済の減速懸念が強まっているため、輸出の鈍化や企業マインドの悪化には留意が必要。
大和総研▲0.4%
(▲1.6%)
日本経済は、踊り場局面から徐々に回復し、緩やかな成長が続くとみている。
まず、個人消費は一進一退が続くと見込む。労働需給の一段のタイト化に伴う雇用者報酬の増加が個人消費の下支え要因となろう。ただし、人手不足に伴う賃金上昇を、賃金カーブのフラット化や残業削減によって企業が相殺することにより、雇用者報酬の増加ペースが鈍る可能性には注意を払っておく必要がある。
住宅投資は、2019年10 月の消費増税を見据えた駆け込み需要が徐々に顕在化することにより、一旦持ち直すとみている。もっともこれは単純な需要の先食いであり、消費増税実施後の反動減を拡大させる効果も同時に予想される。ただし、住宅エコポイントの導入や住宅ローン減税・すまい給付金の拡充が行われることになれば、住宅投資の駆け込み・反動減もいくらか緩和されるだろう。
設備投資は緩やかな増加を予想する。円高懸念は一旦後退し、企業の潤沢なフリーキャッシュフローが下支えの要因となろう。また、人手不足に対応した合理化・省人化投資や、研究開発投資は拡大基調を維持するだろう。ただし、資本ストック循環の成熟化や一部のサプライヤーの供給制約などにより、増加ペースは緩やかなものに留まるだろう。
みずほ総研▲0.3%
(▲1.3%)
10~12月期以降の景気は再び回復基調に復する見通しだ。7~9月期の景気下押し要因となった自然災害からの復旧は順調に進んでおり、今後は消費・輸出への下押し圧力は解消するとみている。
個人消費については、労働需給のひっ迫とそれに伴う賃上げ率の高まりが実質所得の押し上げ要因となる見通しだ。ただし、エネルギー価格の上昇が実質所得の下押し要因となり、回復ペースは緩やかにとどまるとみている。設備投資は良好な投資マインドを背景に、堅調な推移が続くだろう。輸出は、中国経済にやや減速感はみられるものの、米国を中心に世界経済全体では回復基調が続くとみられ、今後は持ち直す見通しだ。ただしこれまで輸出のけん引役となっていたIT需要はすでにピークアウト感が出てきており、輸出の伸びは緩やかにとどまるだろう。
リスク要因としては、当面、貿易摩擦の激化に注意が必要だ。現時点では、日本経済への影響は限定的なものにとどまっているが、米中間の貿易摩擦が更に高まった場合、日本に間接的ながら景気下押し圧力として働く可能性がある。また、米国が自動車への追加関税を強行した場合、自動車の輸出低下に留まらず、関連産業への波及、雇用を通じた消費への影響がでる恐れも十分にある。そのほか、不確実性の高まりが企業の投資マインドの下押し材料になる懸念もあり、その点でも留意が必要だろう。
ニッセイ基礎研▲0.2%
(▲0.8%)
2018年7-9月期のマイナス成長は、4-6月期の高成長の反動や自然災害に伴う供給制約によるところも大きいが、輸出は基調として2018年に入り減速している。現時点では、10-12月期は供給制約の緩和に伴い民間消費、設備投資、輸出がいずれも増加に転じることから、年率1%程度とされる潜在成長率を上回る成長になると予想しているが、米中貿易戦争が一段と激化するようなことがあれば、輸出の失速を起点として景気が後退局面入りするリスクが高まるだろう。
第一生命経済研 ▲0.2%
(▲0.7%)
7-9月期のマイナス成長は、基本的には前期からの反動や自然災害といった一時的要因によるところが大きいとみられる。10-12月期には自然災害の悪影響が徐々に解消され、挽回生産の動きも生じることから反動増が予想され、潜在成長率をはっきり上回る成長となる可能性が高いとみられる。均してみれば、企業部門を牽引役とした景気の回復傾向に変化はないとみて良いだろう。ただ、ひとつ気がかりなのは輸出の動向である。7-9月期の輸出は自然災害による供給制約やインバウンド需要の減少により下押しされたが、それ以外に、海外経済の景気拡大ペースが鈍化していることも影響していると思われる。米国経済を牽引役に世界経済は回復を続けているという評価は変わらないが、他地域では減速が目立つ状況になっており、回復のモメンタムは鈍化している。世界経済の動向次第では、10-12月期の反発力が思いのほか鈍くなるリスクがあることに注意が必要だろう。
伊藤忠経済研+0.0%
(+0.1%)
輸出落ち込みの主因である関西空港の台風被害は概ね復旧しており、米中貿易摩擦による影響も当面は限定的なため、輸出は今後、持ち直すとみられる。設備投資も、企業の積極的な計画や増勢を強める先行指標から判断する限り、少なくとも当面は高水準を維持しよう。個人消費も、賃金の上昇を背景に底堅く推移するとみられ、10~12月期以降はデフレ脱却に向けて緩やかな回復を取り戻すと見込まれる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.3%
(▲1.0%)
2018年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比-0.3%(年率換算-1.0%)と2四半期ぶりにマイナスに転じたと予想される。マイナス成長の主な要因は天候不順と災害の発生による一時的な下押し圧力の強まりによるものであり、景気回復の動きが途絶えているわけではないが、これら一時的な下振れ要因を除いても回復の勢いは鈍化している可能性がある。
三菱総研▲0.2%
(▲0.7%)
2018年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比▲0.2%(年率▲0.7%)と、2四半期ぶりのマイナス成長を予測する。背景には、4-6月期の高い伸びの反動に加え、相次いだ自然災害の悪影響がある。

上のテーブルを見れば一目瞭然なんですが、7~9月期はマイナス成長を予想するシンクタンクが多くなっています。私の実感としては年率で▲1%に達しないくらいのマイナス成長で、第一生命経済研やニッセイ基礎研などが仕上がりの数字としては、いいセン行っているような気がします。そして、各シンクタンクとも一様に主張している通り、7~9月期のマイナス成長は台風や地震といった自然災害に起因する供給面や物流の制約が大きな要因であり、そういったマイナス要因の想定されない10~12月期以降については、緩やかな成長パスに戻る、と見込まれています。そして、先行きの下振れリスクとしては、海外要因が上げられており、盛んに報道されている米中間の貿易摩擦・貿易戦争が我が国の場合、輸出の減速を招く可能性が指摘されています。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研のサイトから引用しています。

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2018年11月 8日 (木)

初のゴールデン・グラブ賞おめでとう梅野捕手!!

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阪神タイガースの選手で唯一、梅野捕手がゴールデン・グラブ賞受賞です。誠におめでとうございます。今季は規定打数にも達したそうですし、来年はさらなる活躍を期待しています。セリーグの盗塁阻止王として、梅野キャノンを目指してください。上の画像は三井ゴールデン・グラブ賞のサイトをキャプチャしています。

来季こそ、
がんばれタイガース!

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自然災害により大きく減少した9月の機械受注と回復に転じた10月の景気ウォッチャーと貿易収支が赤字になった経常収支!

本日、内閣府から機械受注景気ウォッチャーが、また、財務省から経常収支が、それぞれ公表されています。機械受注と経常収支は9月の統計であり、景気ウォッチャーだけ10月の統計です。機械受注のうち変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て、前月比▲18.3%減の8022億円を示しています。景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.9ポイント上昇して49.5を記録した一方で、先行き判断DIは全角黒三角 ▲0.7ポイント下降して50.6となり、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+1兆8216億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の機械受注、前月比18.3%減 市場予想10.1%減
内閣府が8日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比18.3%減の8022億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は10.1%減だった。
うち製造業は17.3%減、非製造業は17.1%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は7.0%減だった。
内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられるものの、9月の実績は大きく減少した」とした。
7~9月期の四半期ベースは前期比0.9%増だった。10~12月期は3.6%増の見通し。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
10月の街角景気、現状判断指数は2カ月ぶり改善
内閣府が8日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は49.5で、前の月に比べて0.9ポイント上昇(改善)した。改善は2カ月ぶり。家計動向が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は50.6で0.7ポイント低下した。低下は2カ月連続。企業動向、雇用が悪化した。
内閣府は基調判断を「緩やかな回復基調が続いている」に据え置いた。
9月の経常収支、1兆8216億円の黒字 51カ月連続黒字
財務省が8日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆8216億円の黒字だった。黒字は51カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆7860億円の黒字だった。
貿易収支は3233億円の黒字、第1次所得収支は1兆6945億円の黒字だった。

なるべく短めの記事を選んだつもりなんですが、それでも3つの統計を並べるとやたらと長くなりました。いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは電力と船舶を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比▲10%ほどの減、レンジでも▲15.0~▲6.4%でしたので下限を突き抜けて、これも引用した記事にあるように、統計作成官庁である内閣府による基調判断を「持ち直しの動きがみられるものの、9月の実績は大きく減少した」と、単月ながらただし書きをつける必要が感じられるほどの落ち込みでした。業種別でも、製造業・非製造業ともに2ケタ減を記録しています。ただ、四半期でならして見ると、7~9月期の前期比+0.9%増とやや減速した後、10~12月期は+3.6%増と増加率を拡大する見込みとなっています。2017年7~9月期から、見通しの2017年10~12月期まで無理やりにカウントすれば、四半期ベースでは6四半期連続で前期比プラスということになりそうです。9月統計の大きな前期比マイナスについては、このところ、判で押したように自然災害の影響といえます。供給面の制約に加えて、関空などの流通面からも生産が停滞したと考えるべきです。ですから、10月以降の統計を見れば、需要が想定される通りに緩やかに増加している限り、この機械受注をはじめとして各種の経済指標はそれなりの回復を示すと私は期待しています。機械受注のような生産サイドの統計は、さらに、いわゆる「挽回生産」によって短期的には上振れすることもめずらしくありません。ですから、大型案件の受注に伴って、機械受注はもともと単月での振れの激しい指標ですし、少なくとも、9月統計だけでは趨勢的な判断は難しい気がします。他方で、これだけ落ち込みが大きく、市場のコンセンサスを大きく超えれば、基調判断にも何らかの反映が必要、ということなのかもしれません。私も統計局出向の経験がありますので、こういった役所の対応はそれなりに理解は出来ます。

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続いて、景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。同じ内閣府の統計ながら、消費者態度指数が需要サイドの消費者マインドを代表しているのに対して、この景気ウォッチャーは供給サイドの消費者マインドを色濃く反映しています。ですから、季節調整済みの系列の現状判断DIの前月差で見て、9月は自然災害の影響などで、わずかながら▲0.1ポイントの下降を示したものの、直近の10月には+0.9ポイントの上昇を記録しました。特に家計動向関連、さらのその中の住宅関連と飲食関連などが大きな前月差プラスとなっています。ですから、9月の自然災害に起因するマインド低下は10月には回復している可能性が高いと私は受け止めています。もっとも、これも季節調整済みの先行き判断DIについては、9月10月と2か月連続で下降を示しました。特に、9月は家計動向関連がほぼほぼ横ばいだったのに対して、企業動向関連が製造業関連・非製造業関連ともに大きな前月差マイナスを記録しています。やや複雑な動きながら、統計作成官庁の内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いている」に据え置いています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。まず、9月の貿易収支は赤字を計上しています。すなわち、節調整済みの統計で見て、震災後の貿易赤字から黒字に転換したのが2013年10月であり、その後、一貫して貿易黒字を計上していたところ、今年2018年2月は、おそらく、中華圏の春節効果で久し振りに赤字となりましたが、2018年9月統計ではそれ以来の貿易赤字となっています。季節調整していない原系列の統計ではまだ貿易収支は黒字ですので、メディアなどではそれほど注目されていないものの、自然災害に伴う供給制約の国内要因に加えて、先進国経済の減速という海外要因に伴う我が国からの輸出の停滞が大きかったと私は考えていますが、さらに、国際商品市況における石油価格の上昇による輸入額の増加もあり、この先も、貿易収支は赤字を計上する月が増えそうな気がします。もちろん、上のグラフでは赤い積み上げ棒グラフで示されている1次所得収支の黒字が大きいことから、刑事う収支が赤字になることは、少なくとも現時点では考えにくいものの、米中間の貿易摩擦も含めて貿易動向は注意が必要かもしれません。

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2018年11月 7日 (水)

基調判断が「足踏み」に下方修正された景気動向指数と賃金上昇続く毎月勤労統計!

本日、内閣府から景気動向指数が、また、厚生労働省から毎月勤労統計が、それぞれ公表されています。いずれも9月の統計です。景気動向指数のうち、CI先行指数は前月差▲0.6ポイント下降して103.9を、CI一致指数も▲2.1ポイント下降して114.6を、それぞれ記録しています。また、毎月勤労統計のうち、名目賃金は季節調整していない原数値の前年同月比で+1.1%増の27万256円に上昇しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の景気一致指数が低下 基調判断を下方修正、災害の影響などで
内閣府が7日発表した9月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比2.1ポイント低下の114.6だった。低下は2カ月ぶり。内閣府は「台風や北海道地震などの影響が大きく出た」としている。
内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏みを示している」に下方修正した。基調判断の下方修正は3年4カ月ぶりで、「足踏みを示している」との表現を用いるのは2年ぶり。
一致指数を構成する9系列中、速報段階で算出対象になる7系列全てが指数のマイナスに寄与した。
鉄鋼や輸送機械が振るわなかった鉱工業用生産財出荷指数のマイナスが大きく影響した。災害による工場の稼働停止などで乗用車・二輪車がマイナスとなった耐久消費財出荷指数の低下も指数を押し下げた。物流網に混乱が生じたことで商業販売額(卸売業)も低下した。
数カ月後の景気を示す先行指数は0.6ポイント低下の103.9と2カ月ぶりに下落した。景気の現状に数カ月遅れて動く遅行指数は1.4ポイント上昇の119.8だった。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気動向の大きさやテンポを表し、景気の現状を暫定的に示す。
9月の名目賃金、前年比1.1%増 増加は14カ月連続、毎月勤労統計
厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、9月の名目賃金にあたる1人あたりの現金給与総額は前年同月比1.1%増の27万256円だった。増加は14カ月連続。基本給の増加が続いた。
内訳をみると、基本給にあたる所定内給与が0.8%増の24万4054円だった。残業代など所定外給与は0.4%増。ボーナスなど特別に支払われた給与は13.3%増だった。物価変動の影響を除いた実質賃金は0.4%減だった。名目賃金は増加したが、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が上昇し、実質賃金を押し下げた。
パートタイム労働者の時間あたり給与は2.1%増の1136円。パートタイム労働者比率は0.15ポイント低下の30.63%だった。厚労省は賃金動向について「基調としては緩やかに増加している」との判断を据え置いた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、2つの統計を並べると長くなってしまいました。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は、毎月勤労統計のグラフとも共通して、景気後退期を示しています。

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まず、景気動向指数は、CI先行指数もCI一致指数もともに前月差で下降し、基調判断が「改善」から「足踏み」に1ノッチ下方修正されました。内閣府の発表資料によれば、基調判断の基準として、足踏みに下方修正するばあいは、当月の前月差がマイナスであり、3か月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、1か月、2か月または3か月の累積マイナス幅が1標準偏差分以上の場合に適用されることとされています。そして、「改善」と「足踏み」の先は、「局面変化」ということになりますから、事後的に判断される景気の山がその前の数か月にあった可能性が高い、とされています。来週には7~9月期GDP統計速報、いわゆる1次QEが公表される予定となっており、出来れば今週中にもシンクタンクの予想を取りまとめるつもりですが、7~9月期成長率はマイナスとの予想が強くなっています。ただ、そのマイナス成長の要因は自然災害による供給制約や物流面での問題であり、その後の10~12月期には緩やかな景気回復軌道に復する可能性も見込まれています。ですので、景気動向指数の9月統計だけからすでに景気の転換点を過ぎている可能性を高いと判断するのは少し早計かもしれません。なお、9月統計ではCI一致指数の構成系列は押しなべてマイナス寄与を示していますが、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額(卸売業)(前年同月比)などが絶対値で大きく寄与しています。

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続いて、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。ということで、景気に敏感な製造業の所定外時間指数は低下を示していますが、賃金はそれなりに上向きと私は見ています。2番目のパネルの季節調整していない原系列の賃金指数の前年同月比のプラス幅も、3番目の季節調整済みの系列の賃金指数も、ともに上向きに見えます。さすがに、人手不足がここまで進んでいますので、正規雇用の増加とともに、賃金上昇の圧力はそれなりに大きいと私は受け止めています。

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2018年11月 6日 (火)

マクロミルと三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「2018年スポーツマーケティング基礎調査」やいかに?

10月29日に、マクロミル三菱UFJリサーチ&コンサルティングの共同企画として「2018年スポーツマーケティング基礎調査」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートがアップされており、調査結果概要を7点引用すると以下の通りです。


  • スポーツ参加市場規模は約2.5兆円。
  • スタジアム観戦の支出額は年間38,423円で昨年より12.8%増。
  • スポーツ人気で野球とサッカーとの差が縮まる。自分で行うスポーツはウォーキング、ジョギング、水泳など年配層でも続けられる手軽なスポーツが人気。
  • プロ野球ファン人口は2,775万人で昨年比微減。ワールドカップでベスト16となったサッカー日本代表のファンは3,324万人で昨年比401万人増の一方、Jリーグファン人口は1,154万人で微増にとどまる。
    B.LEAGUEファン人口は603万人、Vリーグファン人口は416万人。
  • スポーツブランドではナイキ、アディダスが根強い人気。若年層ではアンダーアーマーの人気上昇。
  • 好きなスポーツ選手は米大リーグで活躍した大谷選手が1位、フィギュアスケート羽生選手が2位。
    全米オープンテニスで優勝した大坂選手が大躍進。
  • eスポーツの認知は全体の1/4。オリンピック種目への導入に対しては、反対が25.9%と賛成の15.1%を10ポイント以上上回った。

いずれもごもっともで納得できる結果かという気がします。私は週末に水泳をしていますが、還暦を迎えて、まさに、「年配層でも続けられる手軽なスポーツ」ということが出来ます。また、スポーツブランドとしてはアディダズが好きです。昨年2017年のリポートでは、野球人気が盛り返し始めているという結果が示されていましたが、今年のプロ野球ファン人口は微減に終わったようです。プロ野球ファン人口のテーブルをひとつだけ引用すると以下の通りです。

プロ野球球団ファン人口
2017年2018年
阪神タイガース438万人641万人
読売ジャイアンツ577万人504万人
広島東洋カープ415万人244万人

これを見て、やや調査結果の信頼性が低下したような気がします。昨年から今年にかけて、我がタイガーズはファン人口を減らして、ジャイアンツは横ばいか微増、広島カープは増やした、というのが私の実感です。監督交代にも現れています。10月15日付けのブログでプロ野球機構(NPB)から明らかにされた観客動員数などの統計を取り上げたブログでも、そうなっています。
今夜は遅くなりましたので、これだけにとどめます。

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2018年11月 5日 (月)

@nifty何でも調査団による「自転車についてのアンケート・ランキング 第2弾」やいかに?

私は週末に自転車に乗って周辺自治体の図書館を回って、読書のための本を借りたり返却したりしているんですが、おそらく、体力的にはややキツい可能性はあるものの、時間的・金銭的には効率よく回れていると自負しています。そんな折に、や野球分に属する話題ながら、10月26日に、@nifty何でも調査団から「自転車についてのアンケート・ランキング 第2弾」の結果が明らかにされています。興味ある2つのテーマに関するグラフを引用して簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは@nifty何でも調査団のサイトから自転車を使用する頻度に関する質問への回答結果です。【週に1回以上】は男性34.1%、女性31.1%で男性の方が多くなっています。でも、【毎日】の割合は、男性9.3%に対し、女性は13.4%と、こちらは女性の割合のほうが高くなっています。まあ、私は週に1~2回ですかね。ほぼほぼ⅓が週1回以上自転車に乗っているようです。

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次に、上のグラフは@nifty何でも調査団のサイトから自転車のタイプに関する質問への回答結果です。ギアのあるなしを通じて、ママチャリなどのシティサイクルが半分近くを占めます。最近、よく見かけるんですが、電動アシスト付き自転車6%ほどに過ぎません。私はマウンテンバイクに乗っているんですが、マウンテンバイク・クロスバイク・ロードバイクのスポーツサイクルは合わせて10%強といったところでしょうか。

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2018年11月 4日 (日)

長らく続いた秋晴れがそろそろ終わり東京は夕方から雨の予報!

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先週はほぼほぼまる1週間秋晴れが続いたんですが、さすがにそろそろ天気は下り坂のようで、東京は夕方から雨の予報です。私はこれから出かける予定なんですが、自転車ではムリそうで傘を持って行く必要がありそうです。上の画像は日本気象協会のサイトから引用しています。

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2018年11月 3日 (土)

今週の読書は話題の経済書をはじめ大量に読んで計9冊!

今週の読書は、かなり大量に読みました。日経センターの金融政策に関する話題の経済書をはじめ、経済的な不平等に関するリポートなど、以下の通りの計9冊です。今週の図書館巡りはすでに終えており、来週もそれなりに読書がはかどりそうな予感です。

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まず、岩田一政・左三川郁子・日本経済研究センター[編著]『金融正常化へのジレンマ』(日本経済新聞出版社) です。今春に黒田総裁が再任され、2期目10年の人気まっとうを目指して、引き続き、異次元緩和の金融政策が続いています。しかし、他方で、10月末に明らかにされた「展望リポート」でも政策委員の大勢見通しは、またもや、成長率も物価もともに下方修正され、日銀のインフレ目標達成の時期は先送りされっぱなしです。そして、本書は副総裁経験者である岩田理事長を筆頭に日本経済研究センターの金融分析部門を上げて、金融正常化への道を探ろうと試みています。本書では章ごとにジレンマを付して金融政策を概観していますが、何といっても最大の問題点は第2章の強力な緩和を続けつつも物価が上昇しない点です。おそらく、現状では人で不足に現れている通り、実体経済は景気循環的にはピークを過ぎたという議論はあり得るものの、景気はかなり好況を呈していると考えるべきであり、需給ギャップは需要超過であることはいうまでもありません。他方で、政府による女性や高齢者の労働市場への参加拡大策の成功等により、労働のスラック墓だ完全には尽きているとはいい難く、賃金が上昇する気配すらありません。賃金と物価のスパイラルによる内生インフレの段階には達していないわけです。それだけに、日銀による財政ファイナンスや日銀財務の健全性の問題などの観点からの批判も絶えません。ただし、本書の底流にある、こういった日銀金融政策のカッコつきの「正常化」を目指すべしとの見方は、日銀を浮き世離れして国民生活から切り離されたかの視点からの議論であり、私はどうも受け入れがたい気がしています。まず、デフレではない状態になった経済の現状から、さらに一歩進めてデフレ脱却にどのような政策が必要か、金融政策だけでは物価目標達成がムリなのであれば、いかなるポリシー・ミックスが考えられるのか、もう少し突っ込んだ議論が求められています。

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次に、木下智博『金融危機と対峙する「最後の貸し手」中央銀行』(勁草書房) です。著者は日銀から学界に転じたらしいんですが、法学部出身であり、専門分野は物価をターゲットとする金融政策ではなく、金融システムの安定性をターゲットにしたプルーデンス政策のようです。特に、本書ではプルーデンス政策の中でも最後の貸し手としての中央銀行、Lender of Last Resort (LLR) を分析対象としています。もちろん、バックグラウンドには2008年9月のリーマン証券破綻をどう考えるか、の疑問があります。従って、冒頭からいわゆる日銀特融23件を分析対象にしつつ、巷間指摘される銀行の救済は、誤ったイメージであると主張します。すなわち、日銀から流動性が供給されても、両建てで借方と貸方の両方に日銀から供給された流動性が計上されるわけですから、債務超過の額は日銀からの流動性供給の前後で変わりないというわけです。しかし、私は大きな疑問を持ちます。すなわち、流動性供給による支払能力の維持が救済であって、債務超過の解消をもって「銀行救済」と考える人はいないハズです。資本注入は政府のプルーデンス政策であり、中央銀行の場合は流動性供給による支払能力、すなわち、ソルベンシーの確保であると考えるべきです。こういった根本的な疑問がありつつも、金融政策の経済分析ではなく、金融の安定性確保のケーススタディもなかなかに興味深いもんだということが本書を読んでいてわかった気もします。すなわち、私の専門のひとつである景気循環の平準化などのマクロ経済の安定性確保とともに、金融システムの安定性確保もシステミック・リスク回避の観点から大きな意味があります。ただし、どちらも恣意的に解釈されて不必要な政策対応となり、いわゆるモラル・ハザードにつながる危険もあります。本書では、中央銀行の最後の貸し手としての原則を確立した19世紀半ばのバジョット原則を基本として、日米英欧州などの中央銀行による最後の貸し手昨日の実際の発揮のケーススタディが豊富に取り入れられています。また、BOX 17で中央銀行の債務超過は問題かどうかを論じていて、中央銀行の会計上の健全性と金融システムの安定性確保との関係の複雑性が解説されています。

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次に、ファクンド・アルヴァレドほか[編]『世界不平等レポート 2018』(みすず書房) です。「ほか」に入れてしまいましたが、『21世紀の資本』で有名なピケティ教授も編集人に名を連ねています。そのベストセラー『21世紀の資本』を作り出したデータべースを基に、世界各国及び世界経済の不平等の最新動向を世界横断的にの100人以上の研究者ネットワークを駆使して、隔年で報告する新たなリポートとして発汗される運びとなったと出版社のサイトにはあります。第Ⅰ部ではWID.worldプロジェクトと経済的不平等の測定と題して、本リポートの目的意識などを明らかにし、第Ⅱ部では世界的な所得不平等の傾向を取り上げ、米国、フランス、ドイツなどの先進国はもとより、中国・インド・ロシアなどの新興国や途上国の不平等、この場合はフローの所得の不平等を、場合によっては100年以上の歴史的なタイムスパンで跡付けます。もっとも、我が国はデータがないのか、取り上げられていません。第Ⅲ部では公的資本と民間資本の動向を分析し、我が国はバブル経済期において不動産価格が高騰したことなどから、先進国の中でも民間資本が公的資本に比べて大きな割合を占めていると指摘しています。第Ⅳ部では富の不平等に着目し、ストックである富はフローの所得よりも不平等の度合いがさらに大きいと結論しています。そして、最後の第Ⅴ部では不平等と闘うとして、累進課税の役割の重視やタッkスヘブンでの課税逃れに対応するため世界金融資産台帳の必要性を明らかにし、教育の重要性に焦点を当てています。繰り返しになりますが、国によっては100年を超える超長期に渡るデータに基づく議論を展開し、不平等の改善のための政策についてはやや弱いところがありますが、事実をまず明らかにして今後の研究のツールとするという姿勢が読み取れます。なお、邦訳書は7,500円プラス消費税と高額ですが、以下のWID.worldのサイトでは英語版のpdfファイルが無料でダウンロードできますし、その他、各章のもととなっているワーキングペーパー、さらに、本リポートで用いられているデータはもとより、データプロセッシング向けのプログラムコードも圧縮ファイルでアップされています。大学院生向けのような気もしますが、ご参考まで。

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次に、佐藤航陽『お金2.0』(幻冬舎) です。著者は、私はよく知らないんですが、いわゆる青年起業家なんだろうと思います。タイトルからして、お金や経済についての話題が多いものの、副題が上の表紙画像に見られるように「新しい経済のルールと生き方」となっていますので、仮想通貨やブロックチェーンなどのFINTECHの簡単な解説も含まれていますが、同時に、人生論を始めとして、哲学的とまではいわないまでも、かなり抽象度の高い、決して具体的な応用可能でない議論も展開されています。その意味で、年配の経営者の人生を振り返ったエッセイに近い印象もあります。本書の底流に一貫して流れているのは、今までの常識を疑うという視点であり、逆から見て、事故を確立し自分なりの味方ができるように自分を鍛える、教養や見聞を広める、ということになります。電車の広告などで、メチャメチャ目についたので借りてみましたが、確かに、私のように大きな組織の中でのうのうとサラリーマンをしてきて定年に達してしまった人間には出来ない発想もいっぱいありましたが、特に、マネーキャピタルとソーシャルキャピタルを対比させて、前者の資本主義的色彩と後者のより共同体的、というか、人によっては社会主義的な色彩まで読み取る読者もいるかも知れません。ただ、起業家として資本主義のルールのもとで成功して、十分な所得を得たからいえるのかもしれない、と思わないでもない部分も少なくなかった気がします。年齢的に、上から目線になっていないのも好ましい点かもしれません。私のような年配の読者ではなく、もっと若い学生からなりたてビジネスマンくらいの読者を想定しているように受け取れる部分もありました。ただ、我が家の倅どもに読ませたいとは私は思いませんでした。むしろ、私くらいの引退世代に近い読者の方が理解が進むような気がします。ただし、複数の経済システムが共存する世界、というのは、不勉強にして私は理解できませんでした。

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次に、大原扁理『なるべく働きたくない人のためのお金の話』(百万年書房) です。著者は、数年前から25歳にして東京都内国立市にて「隠居生活」を実践し、定収入のもとで支出の少ない生活を送っていて、今では台湾に移り住んで同様のケチケチ生活を海外で続けているそうです。私も、来年3月には定年退官し、無職無収入に陥る可能性もかなりあり、あるいは、参考になるかもしれないと考えて読んでみました。もっとも、私の場合はカミさんがパートにでも出てくれれば、私は楽ができますし、今の人で不足が叫ばれる東京で私もまだ何らかの収入ある職につける可能性は少なくないと楽観しています。私も大学を卒業してから現在まで、キャリアの国家公務員として、ほぼほぼ日本国民としての平均的な生活を保証するだけの収入を得てきましたが、60歳で定年退官すれば自力で収入を得る必要があるわけで、それが出来なければ、本書で低回しているようなケチケチ生活を送らねばなりません。もっとも、本書ではケチケチ生活のすすめを展開しているわけではなく、桶ねとの付き合い方の基本論を展開しています。ただ、私が疑問に受け止めたのは、お金との付き合いであって、お金を稼ぐための労働観とか働くということについての著者の考えがまるで伝わってきませんでした。勤労という行為は、一面では社会的な貢献、あるいは、社会的貢献をしている自分に対する責任感であり、他面から見れば個人や家族の生活の基となる収入を得る手段です。マルクスが喝破した通り、資本制下では商品生産がその特徴を表し、商品を市場において貨幣と交換するために労働力しか持たないプロレタリアートはその労働力を売ることを余儀なくされます。そして、本書の著者は支出を低水準に抑える結果として、労働も低水準の供給しかしない、という選択をしています。あるいは、低生産性の労働にしか従事しない、ともいえます。労働供給と生活水準は、どちらが卵か鶏かは議論が分かれる可能性もありますが、私は本書の著者のように生活が先にあってそれに必要な労働供給があるんだろうという気がしています。単なるケチケチ生活の実践だけでなく、なかなかに、基本哲学がしっかりしていて驚きました。

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次に、キャス・サンスティーン『#リパブリック』(勁草書房) です。著者は、憲法専門とする米国ハーバード大学の法科大学院(ロースクール)の教授であるとともに、ノーベル経済学賞を受賞したセイラー教授らとともに行動経済学や実験経済学の著作を公表したり、あるいは、その見識をもってオバマ政権において行政管理予算局の規制担当官を務めたりしています。本書は、タイトルからは判りにくいかもしれませんが、もう15年以上も前に刊行された『インターネットは民主主義の敵か』の問題意識をいくぶんなりとも共有し、熟議民主主義に重点を置いた現在の民主制に対して、インターネットや進歩の激しいテクノロジーが何をもたらすかについて考察を巡らせています。特に、ツイッターやフェイスブックなどのSNSを対象に、フルター・バブル≅情報の繭≅エコーチェンバー(共鳴室)により意見を異にする他者からの断絶を生じかねない、また、それを快いとも感じかねない情報やコミュニ受け―ションのあり方に疑義を呈しています。少なくとも、その昔の新聞は、完璧とはほど遠いながらも、それなりに異なる意見を収録し、例えば、私が見ている範囲でも、専門家の意見として両論併記を試みたりしているわけですが、ネット上のSNSなどでは意見を同じくする集団が形成されてしまい、その中に取り込まれて自分と同じ意見だけに接するようになると、それなりに快く感じたりする一方で、熟議に基づく民主主義の健全な運営にはマイナス要因ともなりかねない、というのは一般にも理解できるのではないでしょうか。我が国におけるネトウヨなんかがひょっとしたら当てはまるのかもしれません。そこに、無制限の表現の自由を許容するのではなく、何らかの政府による規制が必要になる可能性の端緒があります。米国的な極端なリバタリアンの世界ではなく、日本的な世論形成を考えれば、本書の主張はもっと判りやすいような気がします。かなり難しい内容ですが、テクノロジーと民主主義の未来について、次に取り上げる『操られる民主主義』とともに、考えさせられる1冊でした。

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次に、ジェイミー・バートレット『操られる民主主義』(草思社) です。英国の左派シンクタンクに属するジャーナリストで、上の表紙画像に見られる通り、英語の原題は The People vs Tech であり、今年2018年の出版です。前の『#リパブリック』と同じように、民主主義が技術の進歩により歪められる危険を指摘しています。例えば、典型的には、先の2016年の米国大統領選挙においてトランプ陣営で暗躍したケンブリッジ・アナリティカの果たした役割などです。もちろん、行動経済学や実験経済学の見識からして、アルゴリズム的に処理された情報に基づく一連のナッジの支配下に人々が置かれる危険はあり、私もこういった技術の過度の利用、というか、悪用に近い利用により世論が歪められる危険があるのは理解できますが、選挙などでは逆の陣営もこういった技術を利用し始めるわけですから、長期的には民主主義には悪影響はないものと理解していましたが、例えば、独占が形成されるなどにより長期に渡って技術の悪用により世論が歪められる可能性がある点は理解が進んだ気がします。また、本書では民主主義を支える人々へのベーシックインカムの必要性も主張していますが、同時に、ベーシックインカムはあくまで基礎的な生活の必要をまかなうだけであり、決して格差を解消するほどのパワーはないと結論しています。こういったリスクは当然にあるわけですが、私は民主主義も技術に合わせて、というか、やや遅れつつも、システムとして進歩するんではないか、という気がしています。本書ではカーネマン教授の言うところのシステム2に基づく熟慮の民主主義に重点を置いていますが、そのためには一定の時間的な余裕も必要ですから、生産性の向上も不可欠です。経済と民主主義が車の両輪としてともに進化する中で、技術の過度の進歩に起因する民意の歪曲などの問題は、個々人の自覚ではなく、社会経済のシステムの問題として、システムそれ自身の進化や進歩により、あるいは言葉を変えれば、同じ意味ながら、技術革新により解消される部分が小さくないというのが私の直観的な理解です。その意味で、民主主義に関しては、私は本書の著者ほど悲観的ではありません。

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次に、ノーマン・オーラー『ヒトラーとドラッグ』(白水社) です。著者はドイツの作家・ジャーナリストであり、本書のドイツ語原題は Der totale Rausche となっていて、直訳すれば、「全面的な陶酔」ということにでもなりそうです。ドイツ語原書は2015年の出版ですが、邦訳のテキストは2017年出版のペーパーバックだそうです。ということで、ナチス・ドイツの総統だったヒトラーとその主治医モレルを中心に据えて、ヒトラーが重度のジャンキーであったことを本書は主張しています。私自身のイメージとしては、ナチスは道徳的に退廃しきったワイマール帝国への嫌悪感や反省からドラッグに対しては厳しい態度で臨み、同時に、自分の肉体は自分の裁量下にあるというユダヤ的、あるいは、マルクス主義的な見解ではなく、いかにも全体主義的な遺伝子のベクターという見方に立脚して、肉体的にも精神的にも健全なアーリア人の育成に努めていた、と思っていたんですが、まったく事実は異なるようです。ヒトラー自身は菜食主義者であったのは有名ですし、ヒトラー・ユーゲントでは今どきの田舎のボーイスカウトよろしく、地産地消などの大地に根ざした活動を進めていたと私は認識していて、それはそれで、田舎っぽくて私の趣味に合わない、と感じていたんですが、カギカッコ付きで「超都会的」な薬物中毒だったとは知りませんでした。前線兵士については、特に日本の神風特攻隊の兵士などは薬物で精神的に高揚しきった状態でなければ、とても任務に臨むのは不可能だったとは容易に想像できますが、いやしくも国家の最高指導者であったヒトラーが薬物中毒のジャンキーだったわけですから、第三帝国が英米連合国に負けたのも当然といえます。それなりにショッキングな内容の本でした。私はもともとがマルクス主義をバックボンとする左翼ですので、ファシズム・ナチズムやヒトラーは目の敵なんですが、その感をいっそう強くした気がします。

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最後に、中澤克昭『肉食の社会史』(山川出版社) です。本書の著者は当然ながら歴史の研究者です。本書では古典古代ほどではないものの、律令制の成立した平安期くらいから近世江戸期くらいまでを対象に、我が国における肉食の歴史を宗教史とともにひも解いています。すなわち、我が国では明治維新まで動物を殺して肉食するという文化が、いわゆる「薬食い」などで例外的な肉食はあったものの、決して肉食は一般的ではなかった、という俗説的な理解はそれほど正しくない、というのが本書の著者の主張です。その日本での肉食を本書では歴史的に跡付けているわけですが、その際のひとつの観点は、天皇を頂点とする身分制の中での差別と格差の問題であり、もうひとつは殺生を禁じた仏教という宗教的な影響です。まず、身分の違いによる肉食については、天皇家から始まって、摂関家、侍(≠武士)の食事を解明し、それなりに肉食が行われていた実態が明らかにされます。加えて、宗教の観点からも、動物が人間に肉食されることにより、食べた方の人間が死ぬ際に同時に成仏できる、との宗教観もあながち一般的でなくもなかった、との見方を著者は示します。そうかも知れません。ただ、本書で強調しているのは、明治維新まで肉食される対象はあくまで野生の動物が狩りによって仕留められた場合であって、肉食を目的として飼育されていた家畜を屠殺してまで肉食のもととなることはない、という点です。すなわち、我が国では家畜は農耕などの際の実用的な使役獣であって、肉食の目的で飼育されているわけではない、ということで、これは西洋的な家畜の概念とは大きく異なっているような気がします。

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2018年11月 2日 (金)

中間選挙直前の10月米国雇用統計は好調な労働市場を反映し利上げをサポート!

本日、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+250千人増と、市場の事前コンセンサスだった+190~+200千人の増加という予想を大きく上回って伸びが加速し、失業率も前月と同じ3.7%を示し、約半世紀ぶりの低い水準を続けています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、USA Today のサイトから記事を4パラ引用すると以下の通りです。

Economy adds robust 250,000 jobs in October in last employment report before election
The economy added a healthy 250,000 jobs in October, the Labor Department said Friday in the last employment report before midterm elections that President Trump has cast as a critical referendum on his stewardship of the economy.
The unemployment rate was unchanged at a near 50-year low of 3.7 percent. Annual wage growth topped 3 percent for the first time in nine years.
Economists had estimated 200,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
Trump has boasted that low unemployment is a result of the cuts to taxes and regulations championed by his administration, and warned ominously that electing Democrats would reverse the gains.

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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ということで、中間選挙を間近に控えた10月米国雇用統計は、トランプ政権与党共和党に追い風をもたらすくらい出来過ぎの内容で、雇用者は増加し失業率も半世紀振りの低い水準を保っています。このブログでは、先月の米国雇用統計公表の際に、「ほぼ完全雇用の状態にある米国労働市場では、雇用者募集をかけてもスラックがほぼ尽きた状態になっているとすれば、新たな雇用増は生み出されないわけで、労働市場が完全雇用水準に達したということであれば、雇用増の鈍化と失業率の低下は整合的、」と書きましたが、+250千人の雇用増ということはまだ労働力のスラックはあった、ということなのかもしれません。それはともかく、この労働市場における人手不足はトランプ政権の減税政策がもたらしたと考えられます。まだ、中国製品締め出しの貿易戦争の影響は出ていないとみられるからです。加えて、労働市場が完全雇用であるならば、トランプ政権の圧力がどうあれ、独立した中央銀行である米国連邦準備制度理事会(FED)の利上げ継続路線はサポートされるということになると考えるべきです。FEDは年内にもう一度の利上げを見込んでいますので、12月18~19日に開催予定のの米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが決定されるのはほぼほぼ確実と私は考えています。

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最後に、その物価上昇圧力の背景となっている時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、じわじわと上昇率を高め、9月は前年同月比で+2.8%の上昇と、このところ、+3%近い上昇率が続いています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、日本や欧州と違って米国では物価も賃金上昇も+2%の物価目標を上回る経済状態が続いていて、10年振りに近い+3%超の賃金上昇ですから、12月FOMCでの追加利上げは賃金上昇からも十分に正当化されると私は考えています。

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2018年11月 1日 (木)

マクロミル・ホノテによる「AIに置き換わる職業」に関する世論調査結果やいかに?

先週木曜日の10月25日にネット調査大手のマクロミルから「AIに置き換わる職業」に関する世論調査の結果が明らかにされています。専門家の見識によるキチンとした精査を経たテクニカルな結果ではなく、あくまで、世論調査結果であって、人々がどのように想像しているか、ですので、どこまで当てになるかどうかは別にして、世間一般のイメージのようなものは、ほのかに伝わって来るような気がします。まず、マクロミル・ホノテのサイトから調査結果のTOPICSを4点引用すると以下の通りです。

TOPICS
  • AI導入を進めるべき職業は「工場作業員」54%、必ず人間が行うべき職業は「医師」57%
  • クリエイティビティを要する「ミュージシャン」「小説家」は、6割強が“AIに置き換わらない”と予想
  • 「労働力の確保」に期待する人が7割弱、一方で「雇用喪失」の心配も5割
  • 66%がAIの普及を「歓迎すべき」

その昔の2015年12月に、野村総研が英国オックスフォード大学のオズボーン准教授やフレイ博士との共同研究により、コンピューター技術による代替確率を試算した結果があり、「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」と、その逆の「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業」が明らかにされていたりするわけで、そういった専門家の分析結果ではなく、あくまで、一般人を対象にした世論調査結果なんですが、それなりに、世間一般の雰囲気をよく捉えているような気もします。いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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マクロミル・ホノテのサイトから、AIに置き換わると思う職業・置き換わらないと思う職業 上位5位 のテーブルを引用すると上の通りです。実は、グラフの引用はしていませんが、この前に、AI導入を進めるべき職業とAIの導入が望まれていない職業のアンケート結果が示されており、そこで「進めるべき」と「望まれていない」それぞれの職業が上位に来ています。まあ、要するに、実際にどうなるかの予想ではなく、べき論に基づいた結果といえそうです。そこは世論調査らしいといえます。

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次に、マクロミル・ホノテのサイトから、AIの普及は歓迎すべきことだと思うか の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。実は、私はそれほど楽観的ではないんですが、上のグラフに見られる通り、「歓迎すべき」と「まあまあ歓迎すべき」を合わせると⅔ほどに達しますので、世論調査結果ではおおむね好意的に受け入れられそうな雰囲気が感じられると私は考えています。

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