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2019年1月19日 (土)

今週の読書は経済書からミステリまで通常ペースで計6冊!

今週もそれなりにボリュームある読書が多かったような気がしますが、冊数的には通常通りの数冊ということで以下の6冊です。これから自転車で近隣図書館を回りますが、来週も数冊くらいの読書になりそうな予感です。

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まず、玄田有史[編]『30代の働く地図』(岩波書店) です。編者は東京大学の研究者であり、幸福学などでも有名ですが、本来のホームグラウンドは労働経済学です。本書は全労済協会が主催した研究会に集まった研究者や実務家の論文を編者が取りまとめています。回答のあるナビゲーションではなく、自ら選ぶ地図をイメージしてタイトルとした、ということのようです。編者が冒頭と締めくくりを担当しているほか、各チャプターごとの著者は研究会の委員さんではなかろうかと想像しています。労働や雇用に関しては、私のようなマクロ経済の観点よりもむしろ、マイクロな選択の問題と考えるエコノミストも少なくありませんし、まあ、毎月勤労統計のような信頼感薄いマクロ労働統計ではなく、マイクロな雇用や労働の分野の方がデータが豊富で、フォーマルな定量分析も盛んです。加えて、経済学だけではなく労使関係ですから法学の分析も必要ですし、実務面からの分析も可能で、本書でも労働組合幹部の執筆するチャプターがあったりもします。高度成長期に成立した新卒一括採用の下での長期雇用、年功賃金、企業内組合という日本的な雇用慣行は、現時点でも、あるいは、高度成長期でも、雇用者の多数を占めていた時期はないんですが、それなりにモデルとしての有用性があったと私は考えている一方で、21世紀に入って大きくモデルとしての第1次アプローチの有用性が崩れていることも事実です。ただ、雇用の柔軟性が必要といわれているとしても、柔軟性が増せば定義的に反対側で安定性が損なわれるわけですし、同時に賃金水準も切り下げられることは経験上明らかです。高度成長期に成立した我が国の労働慣行は、性別役割分担とも関係して、男性正規社員が長期雇用下で無限定に長時間労働する一方で、女性が専業主婦として家計を仕切って男性を支える、というものでした。それが、大きく崩れてきているわけで、本書でも指摘しているように、単に長時間労働の是正にとどまらない抜本的な働き方改革が必要となっています。最後に、本書の対象とする30代は子育て世代であり、かつ、中堅として職場の中核的な働き手なんですが、同時に、本書で取り上げている通り、転職や独立、あるいは、兼職や副業を考えて、自分のキャリアを見直す時期でもあります。私のような60歳超と違って、別の意味で、岐路に立っているともいえます。多くの若い現役世代に参考になる議論を展開してほしい気もしますし、他方で、私のような引退世代の介護との両立についても議論が必要だとも思います。

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次に、川野祐司『キャッシュレス経済』(文眞堂) です。著者は東洋大学の研究者です。タイトル通り、北欧を先進国として欧米だけでなく中国やケニアなど世界で進行中の経済のキャッシュレス化について、現状と展望と可能な範囲で歴史的な背景などを解説しています。ただ、時折、著者の独自の見方が紹介されている部分があり、明確に歩者の意見として提示されているので好感は持てるんですが、やや私の感覚とはズレがあったりもしました。特に、我が国経済のキャッシュレス化については、ソニーのFELICAなどを見ても明らかなとおり、技術的には世界に後れを取ってはいないものの、実際の波及面であまりに数多過ぎる提供主体があって普及面の問題がある、というのは、私の実感と少し違う気もしました。それは別として、オンライン化の推進力として、製造業と同じ理屈を銀行に当てはめ、要するに人件費削減と業務のスピードアップの要請に基づいたキャッシュレス化、という理由を上げています。私はその通りだと思うんですが、少し、デジタル化とキャッシュレス化の混同が見られるような気もしました。特に、ビットコインの記録上の中核技術であるブロック・チェーンについて、アナログでも実現可能というのは、私もそういえばそうなんだと初めて気づいた次第ですが、帳簿上のシンボリックなお金の動きとそれをサポートするデジタル技術については、もう少し詳しく解説してもらえば金融政策上のインプリケーションも出てきそうな気がします。典型的には、キャッシュレス化やデジタル化で、いわゆるナローバンキングに特化する金融機関も出そうな気がする一方で、預金と信用に基礎を置く信用乗数の大きさにどのようなインパクトを及ぼすのか、といった点です。また、私はこういった金融の関係は専門外なんですが、技術革新の進歩の速度が極めて速くなった先の展望を見越すと、本書の賞味期限がどれくらいあるのかは不案内です。読むとすれば、早めに読むのが吉かもしれません。

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次に、ジョン・キーガン『情報と戦争』(中央公論新社) です。著者は、長らく英国サンドハースト王立陸軍士官学校で戦史の教官を務め、2012年に他界しています。英語の原題は Intelligence in War であり、2003年の出版です。最後の邦訳者あとがきにもありますが、本書では厳密には区別されていないながら、英語の intelligence と information について、後者に「生情報」を当てて、前者は「情報」ないしカタカナで「インテリジェンス」と訳し分けているようです。そして、タイトルとは裏腹に、本書に一貫して流れているのは、戦争で勝つために情報収集やその分析は役立つが、戦争遂行のための戦略の立案や物理的な戦闘力がより重要である、という点に尽きます。情報線と関連して、太平洋戦争時のミッドウェイ海戦が上げられて、典型的に情報が勝敗を決した鍵となる戦闘と見なされているようですが、本書では情報とともに、偶然とか、運とか、ツキといった要素にも着目しています。そして、物理的な戦闘力の重要性に関しては、ナチスのクレタ島侵攻をケーススタディのひとつに取り上げ、どのように事前の情報収集が万全で十分であっても、迎え撃つ方の戦闘力が不足していればどうにもならない例、として扱っています。もちろん、情報収集は戦争や戦闘行為に限らないわけで、経営戦略策定の際に無重要な要素となりますが、クレタ島のケースは、例えていえば、売れる商品をリサーチで十分に把握していたとしても、工場の生産能力やロジスティックな配送能力が追いつかなければ十分な売上には結びつかない、といったカンジかもしれません。私も公務員として在外公館の海外勤務を経験しているわけですから、経済的な要素が極めて強いとはいえ、情報収集活動はしたことがあり、しかも、私が大昔に奉職を始めた役所は総合国力の測定を組織のミッションのひとつにしていましたので、情報収集の重要性は理解しているつもりですが、物理的な対応能力も同様に重要である点は本書の指摘する通りだと考えます。

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次に、マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』(国書刊行会) です。著者は英国のミステリ作家・評論家であり、約20冊の長編や50編以上の短編を発表し、自らの作品で英国推理作家協会(CWA)の最優秀短編賞を受賞したほか、多数のアンソロジーを編纂したことがあると紹介されています。上の表紙画像に見られる通り、本書の英語の原題は The Golden Age of Murder であり、2015年の出版です。ということで、主として英国における探偵作家の親睦団体=ディテクション・クラブが発足した1930年前後くらいのの、いわゆる戦間期におけるミステリの黄金時代を歴史的に跡付けたノンフィクションです。ディテクション・クラブ発足当時の会長はチェスタトンであり、女性作家のセイヤーズやクリスティーも会員として集まっており、繰り返しになりますが、このクラブの歴史と作家たちの交流、なぞ解きのフェアプレイの遵守を誓う入会儀式の詳細、会員のリレー長篇出版などの活動、もちろん、知られざる私生活における興味津々のゴシップまで、豊富なエピソードを収録しています。ただ、注意すべき点が2点あり、英国中心のミステリ作家の歴史であり、日本人には気づきにくい英米の違いなどは無視されていると考えるべき、というか、米国の事情は、わけあって英国に移住したカーを唯一の例外として、クイーンやヴァン・ダインなどの名がチラリと登場するくらいで、ほとんど本書のスコープの範囲外となっています。もう1点は、本書の英語の原題を見れば理解できる通り、直訳すれば「殺人の黄金時代」であり、小説の中の事件だけでなく、広く社会を騒がせた殺人事件にも、まあ、一部には小説のモチーフとなったという意味においてであっても、注目されています。ロンドンの「切り裂きジャック」なんぞは日本でも人口に膾炙していますが、私のような不勉強な読者には心当たりのない事件も少なくありません。本書が対象としている時期は、1929年からの大不況の時期を含んでおり、それなりに犯罪も発生したのだろうと想像されます。現在のミステリの隆盛に話題がつながる最終章まで、圧倒的なボリュームで堪能させられます。A5版の大きさに加えて2段組みで製本されており、写真も含めた図版も豪華に、とても読み応えあふれる力作です。私は図書館で借りましたが、たとえA5版2段組みの400ページ余りを読み切れる自信ない場合であっても、蔵書として本棚に飾るのも一案ではないでしょうか。

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次に、渡辺順子『世界のビジネスエリートが身につける教養としてのワイン』(ダイヤモンド社) です。著者は、フランスへのワイン留学を経て、大手オークション会社であるクリスティーズのワイン部門に入社し、NYクリスティーズでアジア人初のワインスペシャリストとして活躍した経験をお持ちだそうです。ということで、タイトルから明らかな通り、ワインに関してビジネス・エリートに解説をしているわけで、私の良いなビジネス・エリートでも何でもない人間は関係なさそうな気もしますが、実は、私も安物のワインは飲んだりもします。1990年代前半の3年間を南米はチリの日本大使館で外交官として過ごし、ちょうどそのころからチリのワインを日本に輸出する事業が始まったこともあり、今でもチリ・ワインは週に何度か飲んだりしています。その名も「サンティアゴ」のメルローなどです。もちろん、ワインに限らず、「飲みニケーション」という雑な言葉がある通り、お酒は飲んで楽しんでコミュニケーションを取るツールとして認識されているのは日本だけではありません。ですから、ほかのお酒、すなわち、ビールや日本酒や焼酎やウィスキーやブランデーなどなど、なんでも飲んでコミュニケーションが取れるとは私は思うんですが、やはり、ビンテージ物のワインにはかないません。また、お酒以外で、私も少し前に『西洋美術史』を読みましたが、絵画・彫刻などの美術を見ながらのコミュニケーションは大きな限界がありそうな気がしますし、クラシックなどの音楽をコンサートで聞きながらではおしゃべりできませんし、文学作品ではあまりに広がりがあって一致点が見出しにくそうな気がします。本書では、欧州と地中海沿岸を中心に、ワインの歴史を振り返るとともに、第1部ではフランスはボルドー5大シャトーやロマネ・コンティ、アンリジャイエなど、第2部ではイタリアを中心に食事とのマリアージュを見て、第3部では米奥などのニューワールドのワインを概観し、さらに、ワインへの投資や関連するビジネスを取り上げています。高校の社会科のように、産地やシャトーやブランド名を暗記するのも目的とするなら、とても味気ない読書になりかねませんが、テーマがテーマだけに楽しく読めればラッキーかな、という気がします。

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最後に、宇佐美まこと『聖者が街にやって来た』(幻冬舎) です。売出し中の女性ミステリ作家で、最近、もっとも話題になった『骨を弔う』を読んだばかりですが、その『骨を弔う』がもっともできがいいといわれていたにもかかわらず、私はあまりにも作り過ぎていて不自然な気がしたんですが、本作品の方がその意味ではより現実味を増したエンタメ作品という気もします。相変わらずプロットがややお粗末で、突っ込みどころが多いんですが、それなりのレベルの作品には仕上がっているような気がします。被害者が5人に上る殺人事件ですから、もっと登場人物がいていいような気がするんですが、この作者はどうもキャラの設定に難があるようで、多人数の登場人物が描き切れないのかもしれません。例えば、本作品でいえば、お花屋さんの3人の女性のキャラが極めて似通っています。店主親子は、まあ、親子ですので性格的にも似通っていていいようにも受け取られるんでしょうが、店主の娘とアルバイト女性のキャラに差異が感じられません。半グレのグループの構成員もほとんど違いが感じられず、仕方ないので体のサイズや外見で区別するしかないような有り様です。もう少していねいに人物の造形やキャラ設定をすれば作品に深みが出そうな気がします。なかなかの力作だけに少し惜しい気がします。もう少しこの作者の作品を23作読んで、もっと読み続けるかどうかを考えたいと思います。今の段階ではギリギリ合格点か、という気もしますが、ファンになるほどではない、というカンジでしょうか。

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