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2019年3月31日 (日)

ヤクルトに惜敗して開幕3連勝ならず!!

  RHE
ヤクルト200000000 250
阪  神000100000 141

ヤクルトに惜敗して開幕3連勝ならずでした。移籍後初先発の西投手が立ち上がりを攻められて2失点し、この2点がとうとう届きませんでした。西投手は6回を投げきって2失点ですから、実力通りとはいえ、十分なQSであり次の登板が楽しみです。投手陣は開幕3戦29イニングズで3失点なんですから文句なしですが、問題は打線です。ヤクルトを上回る4得点とはいえ、投手陣が1試合平均1失点なんですから3連勝していてもおかしくないわけで、東京ドームでのジャイアンツ戦は打線爆発を期待します。

次のジャイアンツ戦は、
がんばれタイガース!

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明日発表の新しい元号のイメージを表す漢字やいかに?

先週3月28日にインテージから新しい元号の漢字イメージを探る一環として、「新元号時代のイメージを表す漢字ランキング」の調査結果が明らかにされています。明日の11時半に新元号が政府から発表される予定ですが、簡単に昭和と平成とともに振り返っておきたいと思います。

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まず、上のテーブルは昭和・平成と新しい年号の各時代をイメージする漢字のランキングです。昭和については戦争というイメージなんですが、実は、若い世代ほど戦争のイメージが強くなっています。私のようなエコノミストからすれば、むしろ戦後1950年代初頭から1970年台の石油危機までの25年四半世紀近く続いた高度成長の方が印象的なんですが、むしろ、戦争を体験せず情報だけで知っている世代ほど戦争のイメージが強い、というのも判るような判らないような、やや複雑なカンジで私は受け止めています。平成は神戸や東北などで地震が多く、それ以外にも天災や自然災害が多かった印象は確かにあります。新しい年号の時代は、期待も込めて上のような漢字イメーなのだという気がします。

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次に、上のグラフは昭和・平成と新しい年号の時代のそれぞれについて年齢別に各時代が明るいか暗いかのイメージを取りまとめています。見れば明らかですが、昭和については若い世代ほど戦争イメージと同じで暗いと見ていて、逆に、平成については世代が若いほど明るいと受け止めています。新元号の新たな時代については、ほぼ各年代とも明るい印象を持ちつつ、やっぱり、若い世代ほど明るいイメージの割合が高い、との結果が示されています。これも判る気がします。

さて、明日発表の新元号やいかに?

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2019年3月30日 (土)

投手陣が踏ん張ってわずかに4安打のスミ1でヤクルトを退け2連勝!!

  RHE
ヤクルト000000000 011
阪  神10000000x 140

昨日今日と最小得点差での開幕2連勝でした。1回ウラの糸井選手のポール際へのホームランでもぎ取った虎の子の1点を先発岩貞投手から盤石のリリーフ陣が守り切りました。岩貞投手も7回途中降板とはいえ、1安打ピッチングですから、次も期待してよさそうです。もちろん、打線の奮起も期待します。
私はさすがに小山投手がいたころの阪神は知りませんが、村山投手や江夏投手が活躍していたころの阪神は、このような勝ち方が多かった気がします。私は1985年の猛打のダイナマイト打線で日本シリーズを制したタイガースを懐かしく感じるんですが、今の阪神もロースコアで打線がもぎ取った少ない得点を投手陣が守り切る試合展開が多くなるのかもしれません。

明日は移籍後初先発の西投手を押し立てて3タテ目指し、
がんばれタイガース!

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今週の読書は注目の統計に関する学術書から新版のミステリまで計9冊!

今週は、まさに定年退職直前で仕事があろうハズもなく、時間的な余裕がたっぷりありましたし、そろそろ官庁エコノミストではなくなることから、経済に限定せずに幅広い読書に努めたこともあり、いろいろと古典的なミステリなんぞも読んで、以下の通りの計9冊です。

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まず、国友直人・山本拓[編]『統計と日本社会』(東京大学出版会) です。編者や著者は経済統計の研究者や専門家であり、第Ⅲ部の公的統計改革では官庁統計担当感やその経験者などの実務家も執筆に加わっています。ということで、今国会での大きなトピックとして、厚生労働省作成で賃金動向などを調べている毎月勤労統計の不正問題がありますが、とても皮肉なことに、不正問題に相応して統計の重要性がクローズアップされています。私も総務省統計局に出向して消費統計の担当課長を務めた経験がありますし、その何台かあtの高2が本書第11章の執筆に当たったりしていますが、統計が着実にそのマニュアルに基づいて公表されている際には、注目はされても問題にはならないものですが、やや不思議な動きを示して、さらに、それが統計作成上の不正に基づく可能性があれば、今回のような大問題になるわけです。役所の仕事はある麺でそういった部分があり、着実かつ堅実の遂行されているのが当然であって、問題がある方がおかしい、ということなんでしょう。ただし、インフラとしての統計については、中等教育から高等教育にかけて統計が生徒や学生にリテラシーを高めるべく教えられ、政府統計を担う組織や職員が必要に応じて整備される、等々の前提がキチンと整えられないと機能するわけはありません。ITCHING技術の進歩により、ハードウェアはムーアの法則に従った指数関数的な伸びを示し、ソフトウェアについてもそれに従った進歩を遂げている現在、教育現場での若い世代のリテラシーの涵養や、公的部門たる政府や業界団体などでそれにふさわしい体制整備が行われていないと、データをプロセスした結果たる統計の作成や利用が進むハズもありません。私はその意味で、身近な地方公共団体における統計主事の必置義務が、行政改革の一環として廃止された1989年(だと思うんですが、やや自信がありません)の制度改革の影響は無視できないと思いますが、残念ながら、それに言及した分析は本書では示されていません。また、公的統計に限らず、マーケティングにおけるデータにしても、本書で指摘されているようなビッグデータの高解像度、高頻度、多様性豊かなデータの利用が限られたインターネット企業にしか出来ない事実も、独占との関係においてもどこまで許容すべきか、との議論も興味あるところです。Googleのチーフエコノミストに転じたハル・ヴァリアン教授がマッキンゼイ・クォータリーで「今後10年でセクシーな職業は統計家である」と発言したのは2009年で、私が統計局に出向していたのは2010~13年の3年弱ですが、そのころは、まだ統計の重要性については萌芽的な認識しかありませんでしたが、統計偽装問題を経て、統計の我が国における重要性が改めて認識された現在、本書の指摘はもっと国民各層に共有されて然るべきではないか、と私は考えています。

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次に、末廣昭・田島俊雄・丸川知雄[編]『中国・新興国ネクサス』(東京大学出版会) です。著者・編者は東大社研のグループではないかと私は想像しています。改革開放路線を取ってからの中国の経済発展はめざましく、GDPで測った経済規模ではすでに我が国を凌駕し、購買力平価ベースでは米国を上回っている可能性すらあります。その中国が共産主義というイデオロギーではなく、経済、特に貿易や投資という実利の世界で新興国や途上国とのリンケージを強めていて、米国の世界的な覇権を揺るがしかねない、という認識が広まっています。ただ、19世紀的なパクス・ブリタニカや20世紀のパクス・アメリカーナと違って、中国は世界の政治経済の秩序、特に自由と民主主義と多様性を許容する世界秩序の擁護者ではなく、自国、あるいは、中国共産党の利益のためであるという点は忘れるべきではありません。本書ではそこまで明確に指摘しているわけではなく、ほのかに示唆しているだけですが、本書冒頭でツキディディスの罠として、新興リーダーたる中国が旧来リーダーである米国に対抗して戦争になる可能性を指摘しているのは、ややミスリーディングです。一昔前の我が国と同じで、現在の中国は、経済的な利益の追求はしても、政治的あるいは軍事的な覇権を求めているとは私にはとても思えません。ですから、本書でも視点は経済面に集中し、貿易と投資による新興国や途上国と中国との関係を明らかにしようと試みています。ですから、本書でも指摘しているように、アイケンベリーのように米国の構築してきた世界的な制度的秩序が継続するという見方とイアン・ブレマーのようにGゼロという多極化世界が現出するか、という2つの見方は相反するのではなく、経済的にはブレマーの見方が成り立つ一方で、政治外交・軍事的にはアイケンベリーに軍配が上がると考えるべきです。そのうえで、本書の指摘するように、経済的には中国の台頭により米国一極集中ではなく多極化した経済構造になりつつありますが、中国の貿易は一昔前の我が国と同じで水平分業的な構造となっており、途上国や他の新興国からエネルギーや原材料を中国が輸入し、逆に、中国からは工業製品を輸出する、という貿易構造が形成されています。さらに、投資面でもアジアインフラ投資銀行(AIIB)などをテコとして、途上国や新興国のインフラを整備するために、中国の「2つの過剰」、すなわち、貿易黒字の裏側で積み上がっている外貨準備の過剰、そして、共産主義に基づく計画経済が解消を目指した生産過剰、特に鉄鋼やセメントなどのインフラ整備に用いられる素材の生産過剰を解消するための新興国・途上国とのリンケージを中国が築こうとしている可能性を忘れるべきではありません。

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次に、ゲアリー・スミス『データは騙る』(早川書房) です。著者は米国カリフォルニア州のポモナ・カレッジの研究者で専門は経済統計学のようです。英語の原題は上の表紙画像にも見られるように Standard Deviations であり、直訳すれば標準偏差ですから、データの散らばりの度合いということになります。2014年の出版です。ということで、最近の国会論戦では厚生労働省の毎月勤労統計の改ざんが頻繁に取り上げられており、アベノミクスの成果として統計を改ざんして賃金が上昇したように見えかけたのではないか、との質疑をよく見かけました。私も統計局の消費統計担当課長として3年近く出向していましたが、統計に問題がないとはいいませんが、悪質な改ざん、意図的なごまかしはなかったと断言できます。ただ、本書では、そういった意図的なごまかしの手法についていくつか取り上げ、さらに、データ情報の誤った解釈に基づく誤った結論の導出に警鐘を鳴らしています。繰り返しになりますが、著者のご専門である経済分野とともに、スポーツや医療のデータも豊富に実例として引用し、身近で判りやすい例がいっぱいです。特に、本書冒頭で強調されている通り、何らかのパターンを見出してしまう傾向には注意が必要です。コイントスでオモテが出続けているので、次もオモテだろうと考える順張りの発想も成り立てば、そろそろウラが出るとする逆張りの発想も飛び出します。しかし、ホントのところはランダムにオモテウラが出ているのであって、コイントスには決してパターンなどは存在しない、という正解を忘れている場合が多いのは確かです。そして、理論なきデータとデータなき理論の両方は危ういと指摘し、データから理論モデルを組み立てる重要性を論じています。つまるところ、科学と言うんは自然科学にせよ、社会科学にせよ、先週取り上げた『FACTFULNESS』ではないんですが、ファクトたる事実を観察して、それらに共通するパターンを見つけ出し、その理論モデルの適合性を追加データで検証する、というのがもっとも基本となるわけですから、何らかのパターンの想定は必要なんですが、そのパターンに無理やりに合致するデータを集めようというのは統計の改ざんにつながりかねない思考という気もします。パターン化の誤謬のほかにも、交絡因子や生存バイアスなどなど、陥りやすいデータの見方の失敗例を数多く取り上げています。ただ、データ分析の専門家に意図的にデータをミスリードするように見せられたら、それを見破るのはそう簡単ではないと実感しました。

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次に、三浦信孝・福井憲彦[編著]『フランス革命と明治維新』(白水社) です。編著者は東大西洋史学科系統の研究者であり、本書は昨年2018年が明治維新150年であったことを記念して開催されたシンポジウムの発表論文を取りまとめたものです。そのシンポジウムにおいては、明治維新とフランス革命を対比させる試みがなされ、フランスからも研究者を招聘しています。ということで、明治維新を考える際に常にトピックとなるのは、明治維新がブルジョワ革命であって、権力が新興の産業ブルジョワジーに移行したため、社会主義革命が次のステップとする労農派の立場を正しいと考えるのか、それとも、明治維新は封建制の払拭に失敗した不徹底なブルジョワ革命であって、社会主義革命に先立って民主主義革命が必要であり、それに引き続いて社会主義革命が起こる、とする二段階革命説に立つ講座派を正しいと見るか、です。本書では明確に前者の労農派の立場に立っています。一方、何度かこのブログでも書きましたが、寄生地主制の広範な残存やそれがための戦後GHQによる農地改革の実行などに見られるように、私は講座派の見解を支持しています。ですから、かなり根本的な部分で、本書と私は明治維新に対する見方が違っています。それを前提としつつも、まずまず、明治維新とフランス革命に関する対比はよくなされている気がします。例えば、対外的なプレッシャーに関してですが、明治維新は黒船来週に対応する国内政治の動向がヒートアップした結果として生じており、明らかに対外要因に基づく革命である一方で、フランス革命については国内要因に基づき、いわば、自然発生的に生じていますが、逆に、その革命の動きが対外的な軋轢を生じてナポレオンによる対外遠征の原因となっています。日本でも、明治維新後に征韓論が台頭し、西郷が政府から離れるきっかけになったことは歴史的に明らかですが、最終的には西南戦争により国内問題として処理されています。明治末期の日清戦争や日露戦争は、鎖国を廃止して対外開放を実行したという意味のほかは明治革命とは直接の関係なく、むしろ、植民地獲得のための帝国主義戦争ともいえます。加えて、日本でも徳川期の士農工商が四民平等に取って代わったわけで、いわゆる二重の意味で自由な市民が誕生しています。さらに、日本においては封建的な重層的な土地所有を地租改正により一気に一掃したわけで、その裏側で担税力ある寄生地主の存在を許したわけです。ただ、産業資本は育つ余地に乏しく、地租改正などによる税収を上げた上で、その財政的な余裕を生かして、八幡製鉄のような官営工場を設立して産業資本の育成に努めた、この土地所有における強固な寄生地主の存在と産業資本の不足が明治維新をして不徹底なブルジョワ革命ならしめた、ということなんだろうと私は考えています。本書の見方とは異なります。念の為。

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次に、木畑洋一『帝国航路(エンパイアルート)を往く』(岩波書店) です。19世紀後半の明治維新を経て文明開化と呼ばれる富国強兵策を展開する明治期の日本に対して、まさに、パクス・ブリタニカと呼ばれるこの世の春を謳歌していた英国の帝国航路、すなわち、英国からフランスのマルセイユ、エジプトのスエズ、アラビア半島のアデン、インドないしセイロン、シンガポールから香港や上海に通ずる東西の交易路を紹介しています。時代的なスコープは19世紀半ばから第2次世界大戦前までとなっています。この時期、我が国からは欧米に外遊や留学に向かうエリート層が少なくなく、米国向けに太平洋を渡る場合はバツにして、欧州向けに旅立つ場合はこの帝国航路は大陸経由のシベリア鉄道ルートとともに、主要な経路となっています。ただ、NHK大河ドラマ「いだてん」でも用いられたシベリア鉄道ルートと違うのは、帝国航路ではアジア各国の港町を通る点です。ですから、この時期の大きな特徴として、帝国主義的な植民地化の機運とも考え合わせ、本書で何度も指摘しているように、文明開化された英国や欧州の人々と違って、アジアの中国人やインド人などは野蛮・未開で、肌の色が黒くて悪臭を放っているとして、かなり大きな差別感情をむき出しに見ている日本人エリートが多かったようです。そして、アジアが欧州の植民地となるのはほぼ自業自得であり、怠惰で迷信深く野蛮・未開なアジア人は土人であって、勤勉で生産性高く科学的な知見を有している文明人たる欧州に支配されるのは当然、との見方が示されています。そして、その先には、アジア解放の名の下に、欧州の支配に代わって我が国がアジアを支配するようになる道筋が暗黙のうちに想定されていたように思います。実は、今世紀初頭2000~03年に私の仕事の都合により、一家でジャカルタに滞在して帰国した折、まだ生きていた私の父親が、その昔の戦後に南方から帰国した軍人などがいわゆる「南洋ボケ」とか、「南方ボケ」といわれるような、価値観や思考パターンに少しズレを生じていたことを指摘してくれました。我が家の帰国直後に父は亡くなりましたので、父が私やカミさんを見てどのような「南洋ボケ」の判定を下したのかは不明ですが、直感的に私にも理解できるものがありました。昭和一桁の私の父でも、アジア人に対するそれなりの偏見があったのですから、本書のスコープである19世紀的な時代背景では、それなりの偏見があったのも仕方なかったのかもしれません。

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次に、石平『中国人の善と悪はなぜ逆さまか』(産経新聞出版) です。現代中国における腐敗の問題から始まり、一般的社会的な贈収賄の腐敗行為は糾弾されるべきであるにもかかわらず、自分の家族が収賄していい生活を遅れるようになるのは歓迎したり自慢したりできる「全家腐」という善悪の逆転について、その真相を解き明かそうと試みています。すなわち、「宗族」という日本にはない考え方があり、家族のもう少し大きな親類縁者をさらに拡大したような同族関係で成り立つ少国家的な集団、立法や行政や司法の三権も講師しかねない集団である「宗族」について解説を加えています。私は十全に理解した自信はありませんが、血縁でつながったインナーサークルのようなものなんだろうと思います。他の「宗族」と武力抗争もすれば、その集団から科挙合格者を出して栄華を極めたりといったところです。そして、その「宗族」の外の集団に対しては徹底的に残忍になるということなんですが、それはキリスト教徒でも同じことで、殺すなかれとか盗むなかれは同じキリスト教徒の間でだけ通用する戎であり、異教徒は殺してもよいというのがキリスト教ですから、動物一般の殺生も禁じる仏教とは違います。ただ、本書を読んでいて、私の理解が及ばなかった点は、共産党政権の成立に伴って、この「宗族」が徹底的に破壊されたにもかかわらず、人民公社の活動とともに復活を果たした、という点です。人民公社を乗っ取る形で「宗族」が復活したとされているんですが、鄧小平による人民公社解体後も「宗族」がさらに拡大しているようで、なかなか私のような凡人には理解が及びません。でもまあ、何となく中国的な前近代性を垣間見たような気もします。体制が民主的な共和制であろうと、独裁的な共産制であろうと、やや偏見が入っているかもしれませんが、中国という国の本質、あるいは中国人の本性といったものは、4000年の歴史の中でそれほど大きく違わない、ということなのかもしれません。

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次に、レイフ G.W. ペーション『許されざる者』(創元推理文庫) です。著者はスウェーデンを代表するミステリ作家のひとりでありますが、何と、本書は邦訳第1作だそうです。上の表紙画像に見えるように、スウェーデン語の原題は Den Döende Detectiven であり、2010年の出版です。繰り返しになりますが、この作者の初の邦訳です。ということで、元警察庁の長官であり、凄腕の刑事だった主人公が脳こうそくで倒れた際に、その主治医からすでに時効となった事件の犯人についての示唆を受け、同じく引退した刑事仲間とともに再捜査に当たる、というストーリーです。そして、タイトルの「許されざる者」というのは、ズバリ、小児性愛者のことです。私は自他ともに認める知性派の異性にひかれる男ですので、いわゆるロリコンとはかなり遠い距離感を持っているんですが、確かに、大人の女性がいうことを聞いてくれないなどの理由で少女性愛に走る男性は少なくないような気もします。しかも、本書では被害にあった少女の父親がスウェーデンから米国に渡って大成功した大金持ちであり、小児性愛者に私的な制裁を加えている疑いありとされていて、かなり複雑なストーリー展開を示しています。さらに、私がもっとも不自然と感じるのは、すでに時効となった小児性愛犯罪の犯人の特定が、匿名のタレコミによるもので、その裏付けが超法規的なDNA鑑定ですから、やや例外的な事実判明としか思えません。ミステリとしては反則スレスレ、という気もします。でも、一枚一枚タマネギの皮をむくように真実が少しずつ明らかにされていく過程は、作者の小説家としての力量が示されていて、私ですらとても評価できるものだると理解しました。その意味で、プロットはともかく重厚なミステリ描写を楽しむことのできる読書でした。

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次に、エラリー・クイーン『エラリー・クイーンの冒険』(創元推理文庫) です。1934年出版本の新約です。著者は紹介の必要もないでしょう。本格ミステリの王者ともいえます。本書には、「アフリカ旅商人の冒険」、「首吊りアクロバットの冒険」、「一ペニー黒切手の冒険」、「ひげのある女の冒険」、「三人の足の悪い男の冒険」、「見えない恋人の冒険」、「チークのたばこ入れの冒険」、「双頭の犬の冒険」、「ガラスの丸天井付き時計の冒険」、「七匹の黒猫の冒険」、「いかれたお茶会の冒険」の11話が収録されています。タイトルからも伺えるように、シャーロック・ホームズの短編からの影響も強く見られ、ナポレオンの彫像に黒真珠を隠すのに対して、売れない本にめずらしくて高価な切手を隠すとか、いろいろとあります。でも、時代背景とともに、英国と米国の違いもあり、やっぱり拳銃が多用されている気がしますし、その当然の帰結として殺人事件の比率が高い気もします。チャーミングな女性も数多く登場させますし、まあ、総じてやや現代的な色彩がホームズ譚よりも強いのは当然でしょう。

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最後に、G.K. チェスタトン『奇商クラブ』(創元推理文庫) です。これも1905年出版の古典的な短編集です。チェスタトンはブラウン神父シリーズでよく知られているわけですが、そのブラウン神父ものの前に出版されています。「ブラウン少佐の途轍もない冒険」、「赫々(かくかく)たる名声の傷ましき失墜」、「牧師さんがやって来た」、「恐るべき理由」、「家宅周旋人の突飛な投資」、「チャド教授の目を惹く行動」、「老婦人の風変わりな幽棲」の7話が収録されています。バジル・グラントが主人公で、その弟のルーパートとワトソン博士のような役回りで書き留めておくのはスウィンバーンです。奇商クラブのノースオーヴァーが登場する冒頭作から、以下ネタバレかもしれませんが、人に意図的に凹まされる会話応酬世話人、客が厄介払いしたい人物に対する職業的引き止め屋、樹上住宅専門のエージェント、体全体で表現する新たな言語体系の創設者、などなど風変わりなビジネスについて謎解きがなされます。

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2019年3月29日 (金)

やや増産となり景気後退懸念に和らぐ鉱工業生産指数(IIP)と伸びが縮小する商業販売統計と完全雇用に近い雇用統計!

本日、経済産業省から2月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。鉱工業生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.4%の増産を示しており、また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.4%増の11兆240億円、季節調整済み指数の前月比は+0.2%増を記録しています。失業率は前月から▲0.2%ポイント低下して2.3%となった一方で、有効求人倍率は前月と同水準の1.63倍と、タイトな雇用環境がうかがえます。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

2月の鉱工業生産、1.4%上昇 1-3月期ではマイナス見通し
経済産業省が29日発表した2月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み、速報値)は前月比1.4%上昇の102.5だった。上昇は4カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中心値(1.0%上昇)を上回った。自動車などの一部業種で1月に大きく低下した反動が全体を押し上げた。
同時に発表した製造工業生産予測調査によると、3月は1.3%上昇だった。仮にこの予測通りに3月の生産が推移しても、「1~3月期の生産指数は18年10~12月期比でマイナスとなる見通し」(経産省)。なお、4月の製造工業生産予測調査は1.1%の上昇だった。
経産省は2月の生産指数の上昇を「大きな回復ではない」として、生産の基調判断は「生産は足踏みをしている」に据え置いた。
2月の生産指数の業種別では、15業種中10業種で上昇した。1月に一部自動車メーカーが生産を停止した反動で、自動車工業は前月比7.5%増加した。半導体製造装置などを含む生産用機械工業は中国向け輸出の回復で5.6%増加した。電気・情報通信機械工業、汎用・業務用機械工業なども上昇した。
一方、半導体メモリーやスマートフォン(スマホ)向け液晶パネルなどを含む電子部品・デバイス工業は3.7%減と4カ月連続で減少した。自動車工業を除く輸送機械工業も大幅に減少した。
出荷指数は1.8%上昇の101.6と4カ月ぶりに上昇した。自動車工業、生産用機械工業、鉄鋼・非鉄金属工業など10業種で増加した。
在庫指数は0.5%上昇の102.2だった。生産・出荷が減少した電子部品・デバイス工業など9業種で増加した
2月の小売販売額0.4%増 自動車の売れ行き好調
経済産業省が29日発表した商業動態統計(速報)によると、2月の小売販売額は前年同月比0.4%増の11兆240億円だった。経産省は小売業の基調判断を「一進一退の小売業販売」に据え置いた。
業種別では自動車小売業が6.1%増だった。普通乗用車の販売が好調だった。医薬品・化粧品小売業は1.8%増で、花粉症対策のマスクや薬の販売が増えた。機械器具小売業は冷蔵庫や洗濯機の販売が伸び、1.7%増だった。一方、各種商品小売業(百貨店など)は3.2%減となった。気温の高い日が多く冬物需要が伸び悩んだ。
大型小売店の販売額は百貨店とスーパーの合計は1.5%減の1兆4345億円で、既存店ベースでは1.8%減だった。コンビニエンスストアの販売額は3.8%増の9003億円だった
2月の失業率2.3%、人手不足で9カ月ぶりの低水準
総務省が29日に発表した2月の完全失業率(季節調整値)は前月から0.2ポイント改善し、2.3%だった。9カ月ぶりの低水準となった。厚生労働省が同日発表した2月の有効求人倍率は4カ月連続で横ばいの1.63倍で、人手不足を背景に、良好な雇用環境が続いている。
完全失業者数(実数)は前年同月に比べ10万人減り、156万人だった。1月に季節要因で一時的に増えたが、再び減少に転じた。就業者数は同78万人増の6656万人で、6年2カ月連続で増加した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人に対して、企業から何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率は0.01ポイント上昇し、1.15倍だった。雇用の先行指標となる新規求人倍率は2.50倍で、前月を0.02ポイント上回った。新規求人倍率は5カ月連続で上昇した。
2月の新規求人数(実数)は前年同月比2.1%増の103万6945人だった。教育・学習支援業が10.7%増と最も増えており、建設業(5.8%増)、医療・福祉(4.2%増)などが続いた。一方、製造業は3.4%減だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、さすがに、数多くの統計を並べるとやたらと長くなってしまいました。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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上のグラフを見る限り、2月の増産は1月の生産の落ち込みをカバーするにはまったく力不足と考えるべきです。しかし、他方で、製造工業生産予測調査に従えば、上振れバイアスを考慮しても3~4月がわずかながら増産となる可能性が高く、年度明け4月以降の景気後退懸念は、依然として払しょくされたわけではないものの、やや和らいだと私は受け止めています。特に、1月生産の急落が自動車産業に起因し、実に我が国の基幹産業ですから、懸念は小さくなかったんですが、1月減産の後の2月は反発しましたし、基調としては2018年半ばから上昇傾向ですから、自動車の在庫調整は2018年前半で終了し、足下では生産増の局面に入っているという見方が多くなっています。もちろん、外需の動向に左右される部分は小さくないですし、4月の増産はゴールデンウィーク10連休に備えた在庫積み増しの割合も含まれていると考えるべきですから、どこまで額面通りに受け取るかはエコノミストの見方によるかもしれません。ただ、サステイナビリティはないものの、7~9月期は10月からの消費税率引き上げ直前の駆け込み需要があると考えるべきですので、ここ半年くらいの先行き景気動向はかなり複雑です。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた期間は消費者態度指数のグラフと同じく景気後退期です。ということで、小売販売額については、ヘッドラインの前年同月比もかなりゼロに近づきましたし、季節調整済の系列についても、生産と同じで戻りが物足りないと私は受け止めています。引用した記事にある通り、自動車販売が小売業販売をけん引しており、季節調整していない原系列の販売額で見て、昨年2018年年央から前年同月比比プラスに転じ、昨年10月からは+5~6%の伸びを示す場合もあります。今年9月までこのペースが続くとは思いませんし、消費増税の10月以降は反動減で落ち込むことは容易に想像されますが、現状では消費を支えていることは確かです。

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続いて、いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた期間は景気後退期を示しています。失業率は再び2.3%まで低下し、有効求人倍率も1.63倍と高い水準にあり、加えて、グラフにはありませんが、正社員の有効求人倍率も前月から上昇して1.15倍を記録し、一昨年2017年6月に1倍に達してから、このところ1年半余りに渡って1倍を超えて推移しています。厚生労働省の雇用統計は大きく信頼性を損ねたとはいえ、少なくとも総務省統計局の失業率も低い水準にあることから、雇用はかなり完全雇用に近づいており、いくら何でも賃金が上昇する局面に入りつつあると私は受け止めています。もっとも、賃金については、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規雇用が増加することなどから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用状態であり、加えて、雇用不安の払拭から消費者マインドを下支えしている点は忘れるべきではありません。ただ、賃上げは所得面で個人消費をサポートするだけでなく、デフレ脱却に重要な影響を及ぼすことから、マクロの所得だけでなくマイクロな個人当たりの賃上げも早期に実現されるよう私は期待しています。

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2019年3月28日 (木)

3月調査の日銀短観予想でどこまで景況感は下がるのか?

来週月曜日4月1日の公表を控えて、シンクタンクから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画はもうすぐ始まる来年度2019年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、足元から先行きの景況感に着目しています。一部にとても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査 (最近)+19
+24
<n.a.>
n.a.
日本総研+13
+22
<▲2.7%>
先行き(6月調査)は、全規模・全産業で3月調査対比+2%ポイントの改善を予想。米中の対立や欧州政局不安など、海外情勢の先行き不透明感は残るものの、中国での景気刺激効果を受けて中国向け輸出の持ち直しが業況見通しに反映される見込み。
大和総研+10
+20
<▲3.9%>
先行きの日本経済は、在庫調整および外需の低空飛行が続く中、引き続き潜在成長率を下回る低空飛行を続ける公算が大きい。外需が振るわない中、内需の重要性が相対的に増してくる。内需に関連して、消費増税対策は、2019年度内において増税の影響を上回る見通しだが、2020年度以降は消失する。原油価格の下落という好材料も消失しつつある。
結局、日本経済および業況判断の大幅な回復・改善に向けては外需の回復を待つ必要がありそうだ。そうした中で中国政府による各種の景気テコ入れ政策が発表されていることは、当面の日本経済・企業にとって好材料となりうる。とは言え、対策効果が目に見えて数値に表れるまで、日本企業は慎重に業況判断を行うだろう。従って、3月日銀短観では、製造業と非製造業の業況判断DI(先行き)が、いずれも引き続き 悪化すると見込
みずほ総研+15
+23
<▲4.6%>
先行きの製造業・業況判断DIは2ポイント悪化を予測する。
当面は中国経済やIT関連需要の減速が継続することが見込まれることから、先行きの景況感も慎重なものとなるだろう。米国が対中制裁関税の引き上げを延期したことはプラス材料となるものの、米中合意を巡る不透明感が払拭されたわけではない。また、今後本格化する日米交渉の行方を懸念する声も多い。仮に米中間で合意が実現したとしても、米国が次の標的として日本の自動車分野への圧力を強めてくる可能性があるからだ。仮に自動車に追加関税が課された場合、自動車だけでなくそれ以外の幅広い業種に影響が出る恐れがあり、物品貿易協定(TAG)を巡る不確実性が先行きの景況感を下押しするだろう。日米交渉において米国が為替政策を議題に挙げてくる可能性があり、急激な円高圧力が生じるリスクも懸念される。こうした対外的な不確実性が残存している中では、業況感の改善は見込みづらいだろう。
先行きの非製造業については、1ポイント悪化を見込む。消費増税前の駆け込み需要が徐々に顕在化することに加え、改元や大型連休による特需への期待が、小売業やサービス業の景況感を押し上げる要因となろう。また、オリンピックやインバウンド対応需要も、引き続き改善の押し上げに寄与するとみている。一方で、労働需給のひっ迫に伴う人件費上昇や人手不足による供給制約は引き続き下押し要因となるだろう。1月以降の原油価格の上昇が徐々に仕入価格に波及していくこともマイナス材料だ。加えて、先述した海外環境の悪化が国内景気に波及する懸念が広がることで、幅広い業種で先行きの景況感が下押しされ、全体としては小幅に悪化するとみている。
ニッセイ基礎研+13
+21
<▲3.9%>
先行きの景況感もさらなる悪化が見込まれる。今後、米中通商交渉に目処が付いたとしても、次は日本が米国の標的になる可能性が高い。日米通商交渉における自動車輸出規制や為替条項導入の要求といった米政権からの対日圧力の高まりが危惧される。また、英国のEU離脱問題についても引き続き難航が予想され、不透明感を払拭できない。非製造業についても、インバウンドを通じて世界経済との繋がりが強まっただけに海外情勢への懸念が現れやすいほか、人手不足深刻化への懸念も重荷になりそうだ。
一方、消費税率引き上げを控えた駆け込み需要やGWの10連休、中国政府が打ち出した景気対策の効果発現などへの期待が下支えになることで、先行きの景況感の大幅な悪化は回避されると見ている。
第一生命経済研+13
+22
<大企業製造業+4.4%>
先行きDIについては、企業が米中摩擦の長期化をどのくらい警戒しているかというシグナルになる。その点はよく読めないので、現状から先行きへ△2ポイント悪化(現状13→先行き11)とほぼ自然体で数字を置くことにした。金融市場では、4月にずれ込んだ米中協議がまとまることへの期待感が強いが、企業はもっと慎重に先行きをみていると考えられる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+16
+24
<大企業全産業▲0.7%>
日銀短観(2019年3月調査)の業況判断DI(最近)は、大企業製造業では、前回調査(2018年12月調査)から3ポイント悪化の16と、2四半期ぶりに悪化に転じると予測する。素材業種、加工業種ともに悪化するとみられるが、外需の弱さの影響をより強く受ける加工業種の悪化が目立つだろう。先行きについては、3ポイント悪化の13と、米中貿易摩擦の影響や世界経済の減速などを警戒して慎重な見方が示されよう。
三菱総研+15
+24
<▲2.9%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業が+13%ポイント、非製造業が+22%ポイントと、いずれも業況悪化を予測する。消費税増税前の駆け込み需要も見込まれることから国内経済は堅調持続が予想されるものの、米中貿易摩擦の影響が日本経済に波及するリスクや、中国を中心とする海外経済の減速度合い、今後開始される日米物品協定(TAG)交渉の行方などには警戒が必要であり、企業マインドの重しとなるであろう。

ということで、上のテーブルの日銀短観予想を見るまでもなく、昨年2018年12月調査から景況感は着実に後退しています。その主たる要因は世界経済のスローダウンです。そして、そのまた主因は米中間の貿易摩擦と考えるべきです。ですから、多くのシンクタンクでも外需依存の高い製造業の方が景況感の低下が大きいと予想しています。ただ、もうひとつ注目すべきは、DIですのでレベルはさほど重要ではないとはいうものの、まだ水準として大企業製造業の業況判断DIはプラスを続けている点です。また、設備投資計画を見ると、シンクタンクによりややばらつきはあるものの、まあ、こんなもんだという気がします。ちょうど1年前の2018年度計画が▲1%を割るようなところから始まったのが異例なんだろうと思いますので、昨年度と比較するのはそれほど意味があるとも思えません。ただ、2019年度については、世界経済とともに10月から消費増税が予定されていますので、とりわけ不透明感が強いと私は考えています。先行きのついてこれほど信頼感ない年も久し振りな気がします。
下のグラフは業況判断DIの推移を日本総研のリポートから引用しています。

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2019年3月27日 (水)

リクルートジョブズによる2月のアルバイト・パート及び派遣スタッフの賃金動向やいかに?

今週金曜日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる非正規雇用の時給調査、すなわち、2月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を簡単に見ておきたいと思います。

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給の上昇率は引き続き+2%前後の伸びで堅調に推移していて、三大都市圏の1月度平均時給は前年同月より+2.4%、25円増加の1,046円を記録しています。職種別では「事務系」(前年同月比増減額+41円、増減率+4.0%)、「販売・サービス系」(+31円、+3.0%)、「製造・物流・清掃系」(+25円、+2.4%)、「フード系」(+19円、+1.9%)など全職種で前年同月比プラス、地域別でも、首都圏、東海、関西のすべてのエリアで前年同月比プラスを記録しています。一方で、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、昨年2018年11月統計から前年同月比プラスに転じて、2月統計でも前年同月より+7円増加、増減率+0.4%の1,643円を示しています。職種別では、「IT・技術系」(前年同月比増減額+49円、増減率+2.4%)、「オフィスワーク系」(+24円、+1.6%)、「クリエイティブ系」(+25円、+1.5%)の全職種がプラスとなっています。いずれにせよ、全体としてはパート・アルバイトや派遣の非正規職員の雇用も堅調と私は受け止めているものの、景気循環の後半に差しかかって、そろそろ非正規の雇用には注視が必要、と考えるエコノミストも決して少なくなさそうな気がします。

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2019年3月26日 (火)

上の倅が大学を卒業する!

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祝卒業!

今日、我が家の上の倅が通う大学で卒業式がありました。私もカミさんも出席はしませんでしたが、無事に卒業したようです。来週からは立派な社会人です。後は、下の倅の卒業を待つばかりです。恒例のくす玉を置いておきます。

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企業向けサービス価格指数(SPPI)は9か月連続で+1%以上の上昇!

本日、日銀から2月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。前年同月比上昇率で見て9か月連続の+1%以上の+1.1%を示しています。1.1%は前月と同じ上昇率で、68か月連続のプラスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業向けサービス価格、1.1%上昇 人手不足で
日銀が26日発表した2月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は105.1と、前年同月比で1.1%上昇した。前年を上回るのは68カ月連続で、伸び率は1月(1.0%)からやや拡大した。人手不足などを背景に、道路貨物輸送や労働者派遣サービスでの上昇が目立った。
前月比は0.3%上昇と、3カ月ぶりにプラスに転じた。円相場の下落で、円建ての不定期船、外航タンカーの運賃が上昇した。半面、テレビ広告が下落した。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象147品目のうち、前年比で価格が上昇したのは84品目、下落は23品目だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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繰り返しになりますが、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率は昨年2018年6月から今年2019年2月統計まで9か月連続で+1%に達しています。その直前の5月の+0.9%の前の4月も+1.0%でしたので、今年度に入ってから、ほぼほぼ+1%に達する水準をキープしていることになります。加えて、5年半超の68か月連続でプラスを記録しています。また、国際運輸を除くコアSPPIも2月は前年同月比で+1.0%の上昇を示しています。ただし、企業物価(PPI)や消費者物価指数(CPI)ほどではないにしても、SPPIについても、やっぱり、ある程度、エネルギー価格の影響は認められます。ただ、PPIやCPIよりはSPPIの方がより人手不足による賃金動向に敏感であろうことは容易に想像できます。本日公表の2月統計について少し詳しく前年比寄与度の前月からの差を見ると、運輸・郵便が外航貨物輸送や道路貨物輸送などにより+0.06%ポイントの寄与がある一方で、景気に敏感な広告が▲0.09%ポイントのマイナスとなっています。外航貨物輸送の前年比清戸前月差のプラスは石油価格に起因するエネルギー価格の上昇というよりは、円安に起因しているのは引用した記事の通りです。また、前月差でなく、前年号月比そのものを見ると、引き続き、人手不足などの影響から、警備+4.0%、労働者派遣サービス+3.3%、土木建築サービス+2.7%などが高い伸びを示しています。先行きの動向を推し量る上で、今後、年度替わりの4月の価格改定や春闘などにおける賃金交渉の動向が先行き物価にどのような影響を及ぼすか、私は注目しています。

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2019年3月25日 (月)

ピュー・リサーチ・センターによる米国の将来に関する世論調査結果やいかに?

先週3月21日に米国の夜狼調査機関であるピュー・リサーチ・センターから米国の将来に関する世論調査 Looking to the Future, Public Sees an America in Decline on Many Fronts の結果が明らかにされています。米国市民は米国の世界的な重要性は低下し、格差がかくだするとともに、政治的な分断が広がるとの懸念を持っており、将来世代の生活の質の(QOL)の向上のためにヘルスケアと教育に対する政府支出の増加が必要と考えている、との結論となっています。グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。


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まず、ピュー・リサーチのサイトから米国の将来に関する見方のグラフ Public is broadly pessimistic about the future of America を引用すると上の通りです。米国の重要性の低下が60%、格差の拡大が73%、政治的な分断の拡大が65%、とそれぞれ多数を占めています。特に、最後の点では、政党間の見方の差が大きい政策として、環境保護、高齢者へのサポート、そして、教育を上げています。経済的な物が多くを占めそうな格差問題については、ますます格差拡大の方向に向かうと多くの米国市民は受け止めているようです。


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次に、ピュー・リサーチのサイトから政府支出の重点項目に関するグラフ Majorities say increased government spending on health care, education would improve life for future generations を引用すると上の通りです。大雑把に、将来世代の生活の質の(QOL)の向上のためにヘルスケアと教育に対する政府支出の増加が必要と見なされているようです。


今回の調査は2050年を念頭に質問しており、私なんぞはもう人生を終えている気がするんですが、米国民は将来についてはかなり悲観的な印象を持っているとの結論です。tだし、グラフは引用しませんが、ほぼ30年後の2050年の生活水準を問うたところ、18歳以上の大人全体では悪化44%に対して改善20%なんですが、18~29歳ではに対して悪化36%改善28%と、例えば、私と同じ世代である50~64歳の悪化49%、改善15%と比較すれば、もちろん、悪化の割合が改善を上回るにせよ、若い世代の方が相対的に楽観的な見方を示しているようです。古市説に基づく若者観を持ち出すまでもなく、日本も同様な気がするんですが、このあたりが救いなのかもしれません。

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2019年3月24日 (日)

世間に遅れつつも POLYPLUS 『debut』 を聞く!

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とてもユニークな活動を続けてきた POLYPLUS がCDデビューしています。CDは出さない、ホームページも作らない、ライヴしかしない、そして、それぞれが多忙なバンドマンでありながら、ユニークな活動形態を貫いてきたグループですが、結成4年にして初のフル・アルバム『debut』を昨年2018年9月にリリースしています。メンバーは、CalmeraのTSUUJII(サックス)、175RのYOSHIAKI(ドラムス)、JABBERLOOP/fox capture planのMELTEN(キーボード)、同じくJABBERLOOPからYUKI(ベース)ですから、いわばジャズとロックの混合バンド、昔の言葉でいえばフュージョンということになるのかもしれません。収録されているのは以下の9曲です。
  1. we gotta luv
  2. ratz
  3. m'n'dass
  4. ppps
  5. wake me up (cover of Avicii)
  6. tokyo class
  7. sugar
  8. late at night
  9. limiter
私は不調法にしてこのグループのライブは聞きに行ったことはないんですが、さすがに、ライブ感を彷彿とさせる構成となっています。キーボードを演奏しているMELTENのfox capture planの印象と同じで、中毒になるような繰り返しのフレーズが多用されていて、ノッケのwe gotta luvではサックスによりリフレインされていたりします。私は圧倒的にモダン・ジャズですので、少しクラブのダンス音楽とは距離をおいているんですが、エラそうな表現を許してもらえるのであれば、それなりに、聞ける音楽です。大昔のスイング・ジャズと同じと考えていいのかもしれません。50年前のモダン・ジャズ中心ながら、こういった進化した21世紀のジャズも同時に聞きたいと思います。

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2019年3月23日 (土)

今週の読書は経済書より小説が多く計8冊!

今週も文庫本を含めて小説の数が多く、経済書は少なくなっていますが、話題の本も何冊か含まれています。来週くらいまでは数冊の読書ペースを維持したいと考えていますが、来週限りで公務員を定年退職しますので、4月に入れば読書ペースを大きく落として再就職先を探すのをがんばりたいと思います。
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まず、牛山隆一『ASEANの多国籍企業』(文眞堂) です。著者は日本経済研究センターの研究者です。本書では、タイトル通りに、ASEAN諸国、本書ではASEANオリジナルのインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポールの5か国に加えて、ベトナムを加えた6か国の多国籍企業をリストアップしています。従来から、東アジアの中国も含めて、先進国からの直接投資を受け入れる形で経済発展が図られてきた、日韓が国内資本による経済成長を実現したのとは大きく異なる形での経済発展として捉えられてきましたが、1990年台からASEANの東南アジア諸国では、受け入れる対内直接投資だけではなく、対外直接投資を積極的に実施する企業が増加している現状を、基本的に国別の企業レベルで取りまとめています。すなわち、シンガポールやマレーシアについては国策として国営・公営企業やソブリン・ウェルス・ファンドからの投資も含めて、対外投資を実行しており、タイやインドネシアやフィリピンなどは民間企業が、ベト並みは社会主義経済ですので国営企業が、それぞれ表立って対外投資の主役となっています。また、従来、1990年台から貿易に関しては欧州以上に東南アジアでは域内貿易の比率が高くなっているんですが、直接投資についても同様であり、ASEANなどの東南アジア域内の相互の直接投資の比率が高くなっているようです。ただ、本書では記述統計というか、現状どういった企業がどの国に多国籍企業として展開しているか、という点についてはそれなりに詳しいリサーチがなされているんですが、誠に残念ながら、その背後の経済的な諸用因については目が届いていません。例えば、日本に歴史を紐解くまでもなく、我が国では製造業が対外直接投資の主役であり、その要因としては、米国などの先進国に対しては関税や輸出自主規制などの貿易制限的な制度を回避するため、途上国に対しては現地の安価な労働力を活用するため、というのが極めてステレオタイプながら、典型的な理解だったような気がします。他方で、本書で取り上げられているASEAN[の多国籍企業は、通信や運輸が世界的な展開を志向するのは理解できるとしても、それなりに国別の差の大きい食生活で外食産業が海外展開しているのはなぜか、私はとても興味がありますが、本書では踏み込み不足という気もします。実は、例えば、我が国でもカフェをはじめとしてハンバーガーやフライドチキンなどのファストフードも含めて、海外の外食産業はかなり多く日本国内で事業展開しています。ASWEANでも基本的に同じことだとは思うんですが、日本でいえば牛丼やうどん・そばなどの伝統的な外食産業との共存関係も気にかかるところで、多国籍企業だけを単独で分析することは限界があります。ただ、海外事情については、かなり身近なASEANであっても、これだけの情報が利用価値高いんでしょうから、まだまだ入手の壁が高いのかもしれません。
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次に、ステファニー L. ウォーナー & ピーター・ウェイル『デジタル・ビジネスモデル』(日本経済新聞出版社) です。著者2人は米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールの研究者です。本書の英語の原題は What's Your Digital Business Model? であり、2018年の出版で、邦訳は模村総研だったりします。本書では、タイトル通りに、デジタル・ビジネスモデル(DBM)に関して、最近のビジネス書でも共通限度と説得力あるフレームワークが欠けていると主張し、副題にある6つの問いとは、1.脅威:あなたの会社のビジネスモデルに対して、デジタル化がもたらす脅威はどれほど大きいか、2.モデル:あなたの会社の未来には、どのビジネスモデルがふさわしいか、3.競争優位:あなたの会社の競争優位は何か、4.コネクティビティ:「デバイスやヒトとつながって(コネクトして)学びを得る」ために、モバイル技術やIoTをどのように使いこなすか、5.能力:将来のためのオプションに投資するとともに、必要な組織変革の準備をしているか、6.リーダーシップ:変革を起こすために、すべての階層にリーダーとなる人材がいるか?であり、その上で、4つのフレームワークを以下のように示しています。1.サプライヤー:他の企業を通じて販売する生産者(例:代理店経由の保険会社、小売店経由の家電メーカー、ブローカー経由の投資信託)、2.オムニチャネル:ライフイベントに対応するための、製品やチャネルを越えた顧客体験を創り出す統合されたバリューチェーン(例:銀行、小売、エネルギー企業)、3.モジュラープロデューサー:プラグ・アンド・プレイの製品やサービスのプロバイダー(例:ペイパル、カベッジ)、4.エコシステムドライバー:エコシステムの統括者。企業、デバイス、顧客の協調的ネットワークを形成して、参加者すべてに対して価値を創出する。特定領域(例えばショッピングなど)において多くの顧客が目指す場所であり、補完的サービスや、時にはライバル企業の製品も含め、よりすばらしい顧客サービスを保証する(例:アマゾン、フィデリティ、ウィーチャット)、となります。これは、本書p.13の4象限のカーテシアン座標の図を見る方が判りやすいかと思います。大企業などでは、複数のフレームワークに基づく事業展開をしているものもある、と指摘しています。いつもながら、ビジネス書ですので極めて多数のケーススタディを実行していて、サクセスストーリーを数多く紹介しているんですが、その背後にどれくらいの失敗例があるのかは不明です。さらに、成功例について、売上げの伸び率が高いとか、利益率が高いとか、いくつかの数値例を上げていますが、これにつては逆の因果が成り立つ可能性を指摘しておきたいと思います。すなわち、デジタル・ビジネスモデルを確立した事業だから利益率が高い、という因果の流れではなく、逆に、何らかの他の理由で利益率が高いので、デジタル・ビジネスモデルの確立のために豊富なリソースを割くことができる、という可能性です。利益や売上げとR&Dの関係には、一部に、こういった因果の逆転が見られる例もあったのではないかと私は記憶しています。まあ、経営に関する私の知識には限りがあります。
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次に、ハンス・ロスリング & オーラ・ロスリング & アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS』(日経BP社) です。著者はTEDでもおなじみのスウェーデン人医師とその息子とその妻の3人です。ただ、ファースト・オーサーであろうハンス・ロスリングは2017年に亡くなっています。原書は2018年の出版です。本書では、ついつい陥りがちな偏見や先入観を排して、世界の本当の姿を知るために、教育、貧困、環境、エネルギー、人口など幅広い分野を取り上げています。いずれも最新の統計データを紹介しながら、一昔前とは時を経て変化した世界の正しい見方を紹介しています。私のやや歪んだ目から見て、著者の見方はほぼほぼマルクス主義的な経済の下部構造が政治や文化などの上部構造を規定する、というのと、開発経済学的な経済発展による豊かさとともに世界は収斂する、という2つの視点を支持しているように見えます。そして、実際には章別第1章から10章までのタイトルに見られる通り、分断本能、ネガティブ本能、直線本能、恐怖本能、過大視本能、パターン化本能、宿命本能、単純化本能、犯人捜し本能、焦り本能の10のバイアスを克服する必要を説いています。そして、ハンス・ロスリングの医師としての国際協力の現場などでの体験を基に、とても判り易く解説を加えています。世界各国を1日1人当り所得で4つの階層に区分し、それぞれの生活様式がとても似通っている点などは経済の下部構造の重要性を指摘して余りあります。加えて、ハンス・ロスリングは自らを「可能主義者」と定義していますが、私も基本的には世界の先行きについては、とても楽観的な見方をしています。本書では何ら触れていませんが、私は楽観的な見方の根拠には技術革新に対する信頼感があります。人間はなにかの必要に応じて技術革新でもって対応できる、と考えているわけです。そして、技術革新を基礎としつつ、歴史の進歩に対する信頼感もあります。世界はいい方向に向かって進んでいると私は考えているわけですが、基本的に、時系列で考えて、一直線とはいわないまでも単調に増加もしくは減少するものと、何らかの上限もしくは下限があってロジスティックなカーブを描く場合と、カオス的とはいわないまでも循環的に振動するケースの3つがあると私は考えています。もちろん、この組み合わせもアリで、経済は循環しつつ拡大を続け、先進国だけでなく発展途上国も豊かさの点では成長が継続し、世界経済は収斂に向かう、と私は考えています。今週の読書の中では、ベストでした。実は、2月16日付けの読書感想文で『NEW POWER』をもって今年のマイベストかもしれない、と書きましたが、本書もそうかも知れません。今年はマイベストを連発しそうで少し怖かったりします。
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次に、上田岳弘『ニムロッド』(講談社) です。ご存じ、第160回芥川賞受賞作品です。主人公はネット・ベンチャーで仮想通貨を採掘する中本哲史、その恋人で中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の田久保紀子、さらに、小説家への夢に挫折した職場の元同僚であるニムロッドこと荷室仁の3人を軸に物語は進みます。ニムロッドから中本にダメな飛行機コレクションが送られくるのもとても暗示的です。本書のテーマは「「すべては取り換え可能」というものですが、実は、著者はそれを必死になって否定しようとがんばっているような気がします。「取り替え可能」というのは、資本主義の宿命であり、資本主義を象徴するマネーの変種である仮想通貨の採掘を、ビットコインの考案者であるサトシ・ナカモトと同名の主人公にタスクとして割り振っているのも象徴的です。「取り替え可能」を本旨とする資本主義の生産の最前線でがんばっている3人を見る著者の眼差しはとても温かく、励まされるものを感じます。いわゆる純文学ですから、私のよく読むエンタメ小説、というか、ミステリのような解決編、いわゆるオチはありませんが、表現力や構成力は芥川賞にふさわしく感じました。それにしても、数年前までは、私は熱心に芥川賞受賞作品を読んでいて、ほとんど『文藝春秋』の特集号で選評と併せて読んでいたものですが、年齢とともに純文学を読まなくなり、この作品はホントに久し振りの芥川賞受賞作の読書となりました。そこで、斜向かいに感じたのは主人公の年齢が日本社会の高齢化とともにジワジワと上がっているんではないか、という点です。その昔の吉田修一の「パークライフ」では主人公は20代ではなかったかという気がします。そして、芥川賞受賞作で初めてパソコンに関するテーマを私が読んだのは、絲山英子の『沖で待つ』でハードディスクを壊す、というのではなかったかと思うんですが、主人公はアラサーだったような気がします。そして、本作ではアラフォーにまで年齢が上がっています。そのうちに、芥川賞や直木賞も70代の主人公が活躍する小説に授賞されたりするんでしょうか。やや、気が滅入る思いだったりします。
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次に、ジェフリー・ディーヴァー『スティール・キス』と『ブラック・スクリーム』(文藝春秋) です。著者は、ご存じ、米国の売れっ子ミステリ作家であり、終盤のどんでん返しで有名です。実は、『スティール・キス』の方は決して新刊ではなく、2017年の出版なんですが、『ブラック・スクリーム』の出版を知って検索していると、『ブラック・スクリーム』はリンカーン・ライムのシリーズ第13作であって、その前の第12作が『スティール・キス』として出ていたらしいので、少しさかのぼって読んでみたところです。『スティール・キス』の方はいわゆるサイバー・テロの可能性を示唆するもので、『ブラック・スクリーム』は移民や難民に偽装したテロリストの侵入を扱っていて、特に、『ブラック・スクリーム』ではリンカーン・ライムがアメリア・サックスとともに、ニューヨークを出てイタリアに出張してのご活躍ですので、ややめずらしげに目を引きます。また、ご当地イタリアの森林警備隊の隊員が鮮烈なデビューを果たしますから、アメリア・サックスとか、ロナルド・プラスキーのように、リンカーン・ライム率いるチームのレギュラーメンバーになる可能性は低いとは思いますが、今後の成長も楽しみです。『スティール・キス』では、サイバー・テロのホントの首謀者がだれなのか、『ブラック・スクリーム』では難民に偽装したテロリストを暴こうとする意図が、それぞれ、ミスリードされていて最後の鮮やかなどんでん返しが堪能できます。さらに、『スティール・キス』ではライムがアメリアにまったくロマンティックではないセリフでプロポーズしたことが明らかにされ、『ブラック・スクリーム』事件の解決後に2人は欧州でハネムーンを楽しむようです。最後に、すでに米国ではほぼ1年前の2018年春先にリンカーン・ライムのシリーズ第14作が出版されていて、なかなかのペースでの執筆ぶりがうかがえます。
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次に、猪谷千香『その情報はどこから?』(ちくまプリマー新書) です。著者はジャーナリスト出身で、先に取り上げたロスリング一家の『FACTFULNESS』と違って、明確にフェイク・ニュースをターゲットにしています。ただ、そのターゲットは曖昧で、情報リテラシー一般も同時にテーマとなっていて、とても焦点がピンぼけのわけの判らない解説書です。読んでも読まなくても、その前後で情報リテラシーが向上するようには思えません。情報の選別に関しては、従来からの伝統的なメディアであった新聞や雑誌にラジオが加わり、さらにテレビが入ってきて、本書でも指摘するように、この4つが伝統的なメディアなんでしょうが、そこにインターネットが登場し、さらに、個人がSNSなどで情報発信をできるようになり、さらにそれが拡散していく、というプロセスが技術的に可能になった現段階で、明らかに、本書でも取り上げられているようなフィスター・バブルが生じ、また、本書では忘れられているエコー・チェンバーが発生したりしているわけで、その情報リテラシーの向上に何ができるかを考えるべきです。最後の最後に、図書館の利用が唐突に割って入っていますが、図書館のヘビーユーザである私の目から見て、この著者はほとんど図書館を利用していないように見えて仕方ありません。最近、東京などの区立や公立の図書館では、いわゆる指定管理者制度が広範に導入され、図書館職員の質の低下が著しくなっています。私はいろんな図書館に週当たりで3~4回くらいは行くんですが、図書館員すべてではないにしても、図書に対する知識がなく、まるで、できの悪い公務員になったかのように利用者にエラそうな態度で接する図書館員が目につくようになっています。ただ、利用者の方のレベルも低下している可能性があり、何ともいえませんが、図書館の利用が情報リテラシーの向上につながると考えるのは極めてナイーブな視点ではなかろうかと思います。さらに、ジャーナリスト出身らしく、インターネットよりも伝統的なメディアに信頼感があるようですが、単にジャーナリストノヨウニダブル・トリプルで裏を取ることを指した「ファクト・チェック」の用語を使うだけでは何の解決にもならないことは明らかです。経済学の著名な論文に "Who will guard the guardians?" というのがありますが、ファクト・チェックをする人をチェックする必要はどうなんでしょうか。さらに、それチェックする人は? となればキリがありません。
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最後に、カレン M. マクマナス『誰かが嘘をついている』(創元推理文庫) です。この作者のデビュー作です。高校の最終学年の何人かの生徒が登場し、まあ、何となくですが、青春小説風になっています。携帯電話に厳しい先生の授業に携帯電話を持ち込んだというので、作文、反省文の居残りをさせられた5人の高校3年生のうち、日本でいえば学校裏サイトのようなゴシップ情報を集めたアプリを運営している生徒が死にます。ピーナツ・アレルギーらしいんですが、水分補給の際にピーナツオイルをいっしょに摂取し、しかも、保健室にアナフィラキシー補助のエピペンが処分されている、という状況です。殺人と警察で考えられて捜査が進みます。死んだ生徒以外の4人には、学校裏サイトにゴシップをアップさせられる予定があり、それなりの動機があるとみなされます。しかも、この4人は代々イェール大学に進学する一家出身の優等生、大リーグからドラフトにかかりそうな野球のピッチャー、はたまた、マリファナの販売容疑で逮捕東国の前科ある不良、などなど、そろいもそろってクセのある生徒ばかりです。日本でいえばワイドショー的なメディアの取材攻勢があったり、人権保護団体の弁護士が乗り出してきたりと、いろいろとあるんですが、ハッキリいって、謎解きのミステリとしてはレベルが低いです。がっかりです。ただ、高校最終学年の青春小説として読む分にはそれなりの水準だという気もします。

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2019年3月22日 (金)

エネルギー価格のプラス寄与が続き消費者物価(CPI)上昇率は26か月連続の上昇を記録!

本日、総務省統計局から2月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から上昇幅をやや縮小して+0.7%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
2月の全国消費者物価、0.7%上昇 エネルギーの寄与度縮小
総務省が22日発表した2月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は生鮮食品を除く総合が101.3と前年同月比0.7%上昇した。上昇は26カ月連続だが、伸び率は1月(0.8%上昇)に比べて鈍化した。エネルギー構成品目の寄与度縮小が響いた。
QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.8%上昇だった。エネルギー構成品目の寄与度はガソリンなど石油製品の伸び悩みを背景に前月に比べて縮小した。ガソリンは前年同月比1.3%下落した。前年同月比で下落するのは16年11月以来2年3カ月ぶり。
生鮮食品を除く総合では全体の51.2%にあたる268品目が上昇した。下落は188品目、横ばいは67品目だった。生鮮食品を除く総合を季節調整して前月と比べると0.1%上昇した。総務省は「緩やかな上昇傾向で推移している」との見方を示した。
生鮮食品とエネルギーを除く総合は101.2と前年同月比0.4%上昇した。上昇率は1月と同じだった。掃除機やルームエアコンなど家庭用耐久財が押し上げに寄与した。
生鮮食品を含む総合は101.5と0.2%上昇した。伸び率は前月と同じだった。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いも私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。
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生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は、1月の+0.8%からやや縮小して、2月は+0.7%を記録しています。国際商品市況における石油価格はかなり下げているんですが、時間的なラグを伴う国内の電気ガス料金がまだ上昇を続けています。この結果、電機・都市ガス・石油製品などから構成されるエネルギーとしては1月の+0.37%の寄与から、2月は+0.34#の寄与と、小幅に寄与度が縮小しただけで、2月統計でもプラス寄与が継続しています。加えて、2~3月は4月からの新年度を迎えるにあたっての準備期間ですので、それなりに耐久消費財の価格が上昇しやすい時期でもあり、昨年も今年も2月は電機や教養娯楽向けなどの耐久消費財が前年比プラスに転じています。従って、10月の消費増税という撹乱要因はあるものの、石油価格の動向と携帯通信料の値下げ、さらに、幼児教育無償化などを考慮すれば、消費者物価の基調としては、この先年央にかけて上昇率は縮小しゼロに近づくものと私は考えています。もっとも、今年のゴールデンウィークに宿泊料が跳ね上がったりする小規模な撹乱要因はあるかもしれません。加えて、やや不思議なのは、小幅ながら東京都区部のコアCPI上昇率が今年に入って1~2月とやや加速している点です。1~2月ともに+1.1%を記録しています。通常は、東京の物価は全国の先行指標と考えられているんですが、ここ2~3年はそうでもなくなったといわれ続けており、それほどの注目は集めていません。それでも、やや不可解な動きと私は受け止めています。

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2019年3月21日 (木)

来年の東京オリンピックでもっとも紫外線リスクの高い種目は何か?

とても旧聞に属する話題ながら、我が家で購読している朝日新聞で、3月14日付けで「東京五輪、紫外線を最も浴びる種目は? 競技長いアレ」なる記事を見かけました。元になるのは英国のジャーナル Temperature に掲載された学術論文 Downs, Nathan J. et. al. (2019) "Biologically effective solar ultraviolet exposures and the potential skin cancer risk for individual gold medalists of the 2020 Tokyo Summer Olympic Games" のようです。以下にリンクとともに、論文から Figure 4. Total erythematic ultraviolet exposure of 144 gold medal events scheduled to compete in an outdoor environment arranged by sport category for the 2020 Tokyo Summer Olympics を引用しておきます。

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2019年3月20日 (水)

東洋経済オンラインによる企業ランキング正社員数の多い企業と非正社員数の多い企業やいかに?

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やや旧聞に属する話題ながら、東洋経済オンラインにて、3月13日付けで非正社員数の多い企業のランキングが、また、3月18日付けで正社員数の多い企業のランキングが、それぞれ明らかにされています。取りあえず、それぞれの1位から50位までは上のテーブルの通りです。やっぱり、というか、何というか、トヨタはどちらでもトップ5に入っています。改めて、巨大企業だということを実感してしまいました。私は、正社員でも非正社員でも、どちらでもいいので、何とか早めに再就職先を見つけたいと努力していますが、悲しいことに、いまだに成果が出ていません。

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2019年3月19日 (火)

帝国データバンクによる「2019年度の雇用動向に関する企業の意識調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、3月14日に帝国データバンクから「2019年度の雇用動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文ファイルもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨を4点引用すると以下の通りです。
調査結果
  1. 2019年度に正社員の採用予定があると回答した企業の割合は64.2%と、5年連続で6割を超えたものの、3年ぶりの減少に転じた。特に「大企業」(84.8%)の採用意欲は高く、調査開始以降で最高を更新した。しかし「中小企業」(59.1%)は前回調査(2018年2月実施)を下回った。正社員採用は、大企業の積極性が続く一方、中小企業の採用姿勢は高水準ながら一服した
  2. 非正社員の採用予定があると回答した企業の割合は50.3%となり、2年連続で半数を超えたものの、前回調査を2.1ポイント下回り、採用意欲がやや一服した。非正社員が人手不足の状態にある「飲食店」は9割、「飲食料品小売」「医薬品・日用雑貨品小売」は8割を超える企業で採用を予定している
  3. 2019年度の正社員比率は企業の18.3%が2018年度より上昇すると見込む。その要因では、「業容拡大への対応」(45.8%)をあげる割合が最も高く、「退職による欠員の補充」「技術承継などを目的とした正社員雇用の増加」が3割台で続く
  4. 自社において生産性向上に最も効果がある人材育成方法について、短期間(1年以内)の生産性向上に効果がある方法では「職場内における教育訓練(OJT)」が60.1%で突出して高かった。他方、長期間(1年超)の効果では、「職場内における教育訓練(OJT)」(26.8%)、「職場外での教育訓練(Off-JT)」(22.7%)、「職場内における能力開発(OJD)」(22.4%)がいずれも2割台となり、効果的な人材育成方法が分散する傾向が表れた
ほぼほぼ調査結果が網羅されているような印象です。いろんな視点があるとは思いますが、ここでは正社員と非正社員の雇用動向に的を絞って、リポートからグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。
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まず、リポートから正社員採用の動向についてのグラフを引用すると上の通りです。正社員採用予定ありの企業割合は、リーマン証券破綻後の2009~10年度に底を打ってから増加してきており、2019年度は昨年度2018年度からやや低下したとはいえ、それなりの高い水準にあります。また、特に大企業では84.8%に上り、調査を開始した2005年度以降で最高を記録しています。ただ、中小企業は59.1%となり、前回2018年度調査から▲2.2%ポイント減少し、帝国データバンクでは「大企業の積極性が続く一方、中小企業の採用姿勢は高水準ながら一服した」と評価しています。
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次に、リポートから非正社員採用の動向についてのグラフを引用すると上の通りです。ここでも、採用予定ありと回答した企業は50.3%と2年連続で半数を超えているものの、前回調査を▲2.1%ポイント下回り、帝国データバンクでは「採用意欲がやや一服した」と評価しています。
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最後に、リポートから2019年度の正社員比率についてのグラフを引用すると上の通りです。2019年度の正社員比率については、2018年度と比較して上昇と回答した企業は18.3%で、低下の6.1%を12.2%ポイント上回っており、雇用形態の正社員化で一段の進展が見込まれるものの、正社員比率が上昇するとの回答の割合は前回調査から▲2.4ポイント低下しており、その勢いはやや鈍化しているようです。

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2019年3月18日 (月)

5か月振りに黒字を記録した貿易統計の先行きをどう見るか?

本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲1.2%減の6兆3843億円、輸入額は▲6.7%減の6兆453億円、差引き貿易収支は+3390億円の黒字を計上しています。原系列の貿易統計では5か月振りの黒字です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の貿易収支、5カ月ぶり黒字 対中輸出増は春節の影響
財務省が18日発表した2月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3390億円の黒字だった。黒字は5カ月ぶり。輸出入ともに減少したが、原粗油など輸入の減少が大きかった。中国向け輸出は3カ月ぶりに増加したが春節の日並びの影響が大きい。
輸出額は前年同月比1.2%減の6兆3843億円だった。減少は3カ月連続。米国向け自動車やタイ向けの鉄鋼が減少した。
中国向け輸出額は1兆1397億円と5.5%増加した。増加は3カ月ぶり。1月や2月は中華圏の春節(旧正月)日程の影響が出やすく、1月はその春節の影響で大きく減少した。2月はその反動でプラスとなった。品目別で見ると半導体等製造装置や自動車がけん引した。財務省によると、対中国輸出は1月と2月を合算したベースで2兆979億円と前年同期比6.3%減少した。
輸入額は前年同月比6.7%減の6兆453億円。2カ月連続で減少した。原油安で原粗油や石油製品が減少した。2月の原粗油の円建て輸入単価は8.6%下落した。
対米国の貿易収支は6249億円の黒字で、黒字額は0.9%減少した。減少は2カ月ぶり。
2月の為替レート(税関長公示レート)は1ドル=109円66銭。前年同月に比べて0.4%円安・ドル高に振れた。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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2月の5か月振りの貿易黒字は、私の目から見て、短期的な要因として、2月の中華圏の春節を見越しての生産調整の反動が2月に現れた点に加えて、国債商品市況の石油価格が徐々に下落する中で石油輸入額が減少しつつある点の2点の影響なんでしょうが、もうひとる忘れてならないのは、2月統計では貿易黒字を計上したとはいえ、中長期的に、先月まで我が国が4か月連続で貿易赤字を記録していた要因のひとつは、世界経済の景気低迷に比較すれば、相対的に我が国景気の減速度合いが小さいという可能性も忘れるべきではありません。後者のこの中長期的な景気局面の視点は見落としがちなので、強調しておく値打ちがあると私は考えています。従って、中華圏の春節という撹乱要因が終了すれば、我が国の貿易収支は安定して黒字に戻る、とは限りません。国債商品市況における石油価格や非鉄金属価格などの影響も無視できませんが、景気局面が世界経済全体の方がより速く悪化しているのは実感として私も感じていますし、我が国景気が世界経済の景気局面に比べて安定的であれば、逆に、その先で急速に日本の景気が悪化する局面が現れて、まあ、表現はおかしいですが、世界経済の景気局面に追いついてしまう場面があってもおかしくない可能性があります。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、現時点での輸出を見る際の注意点は、中国の景気が上向いているにもかかわらず、まだOECD先行指数が前年同月比でマイナスのままですので、我が国からの輸出が減少を続けていて、先進国加盟国の集合体であるOECDの先行指数は前年同月比マイナス、かつ、下り坂でマイナス幅が拡大していますので、我が国の輸出にとっては中国向けと先進国向けのいずれも需要サイドで減少要因となっています。2月の中国向け輸出が伸びたとはいえ、引用した記事にもある通り、1~2月を合算したベースではまだ前年比マイナスのようですから、この先、貿易摩擦ももちろんですが、中国などの新興国も含めて世界経済の景気動向も注目です。

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2019年3月17日 (日)

日本気象協会による2019年第4回桜開花予想やいかに?

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先週の木曜日3月14日付けで、日本気象協会から2019年の第4回桜開花予想が明らかにされています。日本気象協会のサイトから、今年の桜開花のポイントを3点引用すると以下の通りです。

2019年桜開花予想
  • ◆開花が最も早いのは、福岡や愛媛県宇和島で3月18日、東京は21日の予想
  • ◆満開のトップは高知と愛媛県宇和島で3月29日、東京は30日の予想
  • ◆3月は全国的に気温が平年より高く、桜の開花・満開とも平年より早い

日本気象協会では、この冬は寒気の流れ込みが持続せず暖冬となった上に、来週から4月上旬にかけて気温は平年より高く、開花・満開ともに平年より早いと予想しています。ただ、今週末にかけて寒の戻りとなることから、関東を除く多くの地域で前回第3回の桜開花予想よりは1日から3日遅くなっているようです。

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2019年3月16日 (土)

今週の読書は文庫本の海外ミステリをいくつか読んで計8冊!!!

今週は、経済書・ビジネス書は冒頭の自動車に関するCASE革命の本くらいで、ほかは数学は自然科学、さらに昨年話題になった海外ミステリの文庫本など、以下の通りの計8冊です。なお、すでにこの週末の図書館回りを終えており、来週も芥川賞受賞作や海外ミステリを含めて、数冊の読書に上りそうです。なお、来週は経済書もそれなりに読む予定です。

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まず、中西孝樹『CASE革命』(日本経済新聞出版社) です。著者は、自動車に関するリサーチを行う独立の研究機関の経営者であり、ジャーナリストのような面も持っているんではないかと私は受け止めています。タイトルの「CASE」とは、C=接続 connected、A=自動運転Autnomous、S=シェアリング&サービス Sharing and Service、E=電動化 Electric、の4つのキーワードの頭文字を並べたものです。ということで、自動車産業とは20世紀初頭のフォードT型車から始まって、ハイブリッド車や電気自動車が登場するまでは、例えば、レシプロ・エンジンにはさしたる大きな進化もなく、製品としても産業としても成熟の極みであって、コンピュータが登場した電機などとの差は明瞭だった気もしていたのですが、最近になって、ハイブリッドや電気自動車やさらには燃料電池車まで視野に入れれば駆動方式に大きな変化が見られるとともに、ソフト的にも自動運転の実証実験が次々に実行され、死者が出るたびに大きく報じられたりしていますし、さらに、MaaSやカーシェア、ライドシェアなどの自動車を資産として家庭に保有する以外のサービスの提供元として活用する方法の広がりなどが見られます。本書ではそういった自動車の製品と産業としての最近時点での方向をざっくりと取りまとめるとともに、将来的な方向性を2030年くらいまでを視野に入れて論じています。まあ、いつまでの賞味期限の出版か、私には判りませんし、時々刻々と情報はアップデートされるんでしょうが、現時点での私のような専門外の人間にはとても参考になります。特に、タイトルにありませんし、本書でも重きを置かれているわけではありませんが、人工知能=AIの活用が進めば、さらに自動車が大きな変化を見せる可能性が高まります。私自身は今ではすっかりペーパードライバーですが、その昔は自分で運転を楽しむ方でした。でも、自動運転が大きく普及すると、自動車の運転は現時点の乗馬のように、閉鎖空間でマニアだけが楽しむスポーツのような存在になるのかもしれません。その場合、自動車レースなどはどうなるのか、今の競馬のような位置づけなんでしょうか。また、先ほどの電機産業などと対比して、次々と新製品を生み出したイノベーションあふれる業界ではなく、自動車産業が今まで量的にのみ拡大してきたわけですが、ここに来て、大きなイノベーションを体現して産業としても製品としても大きな進化の段階にあり、逆に、今までこういった進化が出来なかったのはなぜなのか、本書のスコープは大きく超えてしまうものの、自動車産業だけでなく、製造業や産業一般のイノベーションの問題としても、私は興味あるところです。まさか、単なる巨大IT産業経営者の気まぐれ、というわけでもないんだろうと思います。

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次に、ミカエル・ロネー『ぼくと数学の旅に出よう』(NHK出版) です。著者はフランス出身の数学者、専門分野は確率論で、本書のフランス語の原題は Le Grand Roman des Maths であり、2016年の出版です。自然科学の分野の学問領域では、いわゆる実験のような科学の実践があるんですが、社会科学、特に経済学では最近流行りの実験経済学などの一部を除けば実験がそれほど出来ないわけですし、また、自然科学でも数学については実験のような実践手段はなさそうに思えます。ということで、本書では邦訳タイトルに「旅」が入っていますが、旅をしつつ、何らかの数学の実践を盛り込もうと試みています。もっとも、実際には数学というよりも物理学とか天文学ではなかろうか、という例も散見されます。ただ、実践的な数学だけでなく、ほかの物理学とか化学などと違って、数学は高度に抽象化されているわけですから、定義、公理、定理の証明に一見すれば少し矛盾があるようなパラドックスなどまで、幅広く数学的な論理性を追求する姿勢も見せています。また、無限小という普通は取り上げないような数学概念を章として独立させて扱い、ピアソン-ジョルダン測度に代わって、極限関数の積分を可能とするルベーグ測度を実にうまく説明しています。また、ゲーデルの不完全性定理についても、無矛盾性と完全性が同時に成り立つことがない、という観点から、これまた実にうまく説明しています。物理学におけるハイゼンベルクの不確定性定理は位置と運動が同時に決定できない、ということですし、経済学におけるアローの不完全性定理は、私の学生時代には非独裁制が排除されないと飲み方が多かった記憶がありますが、現在では推移律が成り立たないと解釈されますし、専門外の私のようなシロートに、こういった判りやすい説明は歓迎です。ただ、最後に、20世紀初頭のヒルベルトの23問題を取り上げるのであれば、クレイのミレニアム懸賞問題についても言及が欲しかった気がします。実践の数学として暗号を取り上げないというのは、それなりの筆者の見識のような気もしますが、ミレニアム懸賞問題は数学実践として欠かせないと私は考えています。

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次に、リック・エドワーズ & マイケル・ブルックス『すごく科学的』(草思社) です。著者はいずれも英国出身で、テレビ司会者と科学ジャーナリストです。英語の原題は Science(ish) であり、2017年の出版です。副題にも見られる通り、SF映画から最新科学の解説を試みており、取り上げられているSF映画と科学テーマを書き出すと、「オデッセイ」から宇宙や他の惑星での生活について、「ジュラシックパーク」から恐竜や遺伝子について、「インターステラー」からブラックホールについて、「猿の惑星」から進化論や遺伝子について、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」からタイムマシンやタイムトラベルについて、「28日後...」からウィルスの脅威やゾンビについて、「マトリックス」からシミュレーション世界について、「ガタカ」から遺伝子やデザイナーベビーについて、「エクス・マキナ」から人工知能AIについて、「エイリアン」から地球外生命体について、ということになります。私も実は感じていたんですが、四次元ポケットから飛び出すドラえもんの道具となれば、かなりの程度に荒唐無稽ながら子供心に訴えるものがある一方で、これらのSF映画に応用されている科学はかなりの程度に大人に対して真実性をもって訴えかける部分が少なくありませんSF映画で科学を語るというのは、ありそうでなかったアイデアかも知れませんし、ジャーナリスト系の2人の著者ですので、科学者が書いた場合に比べて不正確かもしれませんが、それなりに判りやすく仕上がっているような気もします。また、取り上げられた映画について私なりに論評を加えてお口、。私は少なくとも冒頭の2作品、すなわち、「オデッセイ」と「ジュラシックパーク」については原作となる小説も読み、映画も見ていますし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の映画も見ています。また、ウィルスとゾンビについては「バイオハザード」でお願いしたかった気がします。ただ、シミュレーション社会ということになれば、やっぱり「マトリックス」なんでしょうね。映画化されていないんですが、「リング」の貞子シリーズの「ループ」も悪くないような気がします。最後に、私はジャズファンで、よくCDSのジャケ買い、なんて言葉があったりするんですが、本書については表紙デザインで少し損をしている気がします。もっと壮大な宇宙をイメージするイラストなんぞはダメなんでしょうか?

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次に、ミシェル・フロケ『悲しきアメリカ』(蒼天社出版) です。著者はフランスのテレビのジャーナリストです。対米5年間の経験から本書を取りまとめています。フランス語の原題は Triste Amérique であり、2016年の出版です。タイトルは、レヴィ-ストロースの『悲しき熱帯』 Triste Tropiques を踏まえていることは明らかです。ということで、シリオンバレーの華やかなGAFAといった先進企業や強力な軍隊などの裏側にある米国の素顔、それも決して自慢できるものではない負の面を明らかにしようと試みています。出版社のサイトにかなり詳細な目次がありますので、それを一瞥するだけでもっ十分な気がしますが、まあ、取り上げられている項目はそれほど新規なものではなく、かなりありきたりです。しかも、編集者の能力の限界か、あるいは、著者のこだわりか、トピックが脈絡なく、せめてもう少し章の順番くらい考えればいいのに、と思わないでもありません。取り上げられているトピックは貧困や格差の経済的な問題、黒人やネイティブ・アメリカンの差別の問題、ファストフードなどの食品の工業化による肥満などの健康問題、ラストベルトなどにおける産業の衰退、銃社会における犯罪やひいては戦争の問題、そして、最後に、オバマ前大統領政権下における成果に対する疑問、現在のトランプ政権への批判、などなどとなっていますが、それなりにジャーナリストの取材に基づき、既存文献などからの引用で補強はされていますが、繰り返しになるものの、今までのいくつかの論調をなぞったものであり、新規性はありませんし、加えて、所得格差や貧困などの経済的な問題と薬物や犯罪の問題などが、かなり明瞭にまちまちで議論が展開されているため、これらの問題の本質が総合的に把握されることもなく、悪くいえば、問題の本質をつかみそこねているようにすら見えます。宗教の問題も取り上げられていますが、個々人の価値観の問題と社会的な構造問題は、いわゆる「鶏と卵」のように、どちらがどちらの原因や結果となっているといいわけではなく、一体となって分かちがたく因果を形成しているよう気もしますし、逆に、やはり経済や所得の問題がまず解決されるべきである、というエコノミスト的な見方も成り立ちます。ジャーナリストとして議論する題材を提供したことは大いに評価しますが、やや中途半端で踏み込み不足の感もあります。

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次に、井上章一『大阪的』(幻冬舎新書) です。著者は関西ネタのエッセイで有名な井上センセです。最近では『京都ぎらい』がベストセラーになった記憶があります。本書は、産経新聞大阪夕刊に連載されていたコラムを集めたものです。どうでもいいことながら、東京版では産経新聞は夕刊を出していないような気がするんですが、大阪版では夕刊があるんだと気づいてしまいました。ということで、、上の表紙画像にあるように、基本は、大阪的な「おもろいおばはん」に関するエッセイなんですが、それは1章だけで終わってしまっており、残りの2章から9章は大阪をはじめとする関西の文化一般に関するエッセイです。いつも通りに、さすがに研究者だけあって、調べがよく行き届いています。大阪的な「おもろいおばはん」は中年女性に限ったことではなく、男性も含めて、大阪弁の響きも含めて、ユーモアやウィットに飛んだ会話ができる大阪人あるいは関西人一般に対する印象であり、テレビがそれを増幅している、と著者は分析しています。それから、相変わらず、阪神タイガースに対する鋭い分析が見られ、私も目から鱗が落ちたんですが、関西であっても1960年代くらいまではテレビで放送されるジャイアンツのファンが多数を占めていた、というのは事実のような実感を私も持っています。そして、京都在住だった私の目にはそれほど明らかではなかったんですが、1968年に開局し、1969年から阪神のナイターしあいを試合開始から試合終了まで中継し始めたサンテレビの影響が大きく、一気に関西で阪神ファンが増えた、と分析しています。加えて、1971年からABS朝日放送のラジオで中村鋭一が「六甲おろし」を歌いまくったのも一因、と主張しています。実に、そうかも知れません。私の小学校高学年から中学生のころですので、うすらぼんやりながら、そのような記憶があります。また、神戸と亡命ロシア人の関係については、お節の通り、洋菓子のパルナスやモロゾフなどのロシア名のお店が頭に浮かびます。音楽もそうかも知れません。また、言葉については「がめつい」という形容詞が戦後の造語であって、決して関西伝来の言葉ではないというのは初めて知りました。ちょっとびっくりです。また、芦屋や岡本あたりの山の手の標準語に近い柔らかな関西弁については、今やノーベル文学賞候補に擬せられる村上春樹を上げて欲しかった気がします。

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次に、アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』上下(創元推理文庫) です。昨年我が国で出版された海外ミステリの四冠制覇に輝くベストセラーです。著者はヤングアダルト作品を手がけたほか、人気テレビドラマの脚本もモノにしていたりしますが、私が読んだ記憶があるのは、いわゆるパスティーシュばかりで、ホームズものの『絹の家』と『モリアーティ』、ジェームズ・ボンドの『007 逆襲のトリガー』の3冊であり、少なくともホームズものはやや血なまぐさい殺人事件やビクトリア時代にふさわしくない社会風俗なんぞが飛び出して、ちょっと違和感を覚えなくもありませんでした。でも、007ものは、最新映画の主演であるダニエル・クレイグのようなやんちゃな主役であればOKだという気はしました。英語の原題は The Magpie Murders であり、2017年の出版です。邦訳タイトルはほぼほぼ直訳です。ということで、この作品はメタな構造になっており、現代ロンドンを舞台にした出版界の殺人事件と、その出版会社で出しているミステリである約60年前の1955年の田舎の准男爵邸を舞台にする事件の両方の謎解きが楽しめます。本書の宣伝にある「名探偵アティカス・ピュント」というのは、実際には出版会社が出している小説の中で活躍する探偵であって、本書でダイレクトに扱っている現代ロンドンを舞台とする殺人事件は、その作者の担当編集者が謎解きに挑みます。どこまでホントかはやや疑わしいんですが、現代ロンドンの殺人事件と小説中の殺人事件が、ほどよく絡み合っていたりします。近年にない大傑作とは思いませんが、それなりに水準の高いミステリであることは受賞歴から見ても明らかです。

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最後に、ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』(創元推理文庫) です。『カササギ殺人事件』が昨年の海外ミステリの各賞総なめであったのに対して、この作品は多くのランキングで2位につけていました。作者は長編ミステリ2作目だそうです。英語の原題は The Kind Worth Killing であり、2015年の出版です。邦訳タイトルは、あまりのセンスなさに私は呆れてしまいました。ということで、ロンドンのヒースロー空港のラウンジで出会った男女が男の妻を殺害するという点で意気投合し、米国への帰りの飛行機の中で計画を練る、という出だしで始まります。この女の方がサイコパスなんですが、男の方の浮気されたから妻を殺す、という発想にも少し飛躍があるような気がします。ところが、逆に男が妻の陰謀で殺されてしまい、その妻も同じ実行犯の手で殺され、その実行犯も姿を消す、という極めて複雑怪奇な人間関係の中で、そのカラクリに気づいた刑事が独断で捜査を進めてサイコパスの黒幕を尾行するうちに、刑事の方の異常性が浮かび上がって、などなど、基本的に倒叙ミステリであって、謎解きはほぼほぼないに等しいながら、極めて複雑で不可解な構造が解き明かされます。そして、真相にもっとも近づいた刑事は逆に異常と見なされ、サイコパスの黒幕は無事に逃げおおせる、という結末となるような示唆が示されています。かなりいい出来のミステリなんですが、私が最近ここ数年で読んだミステリの中では『ゴーン・ガール』に類似し、かつそれに次ぐくらいの不可解なミステリだった気がします。最後に、主犯的な主人公を務める女性が逃げ切るというのも似通った結末のように感じました。これまた、『ゴーン・ガール』と同じように、ミステリというよりは、サイコスリラーと呼ぶほうが似つかわしいのかもしれません。翻訳がいいのでスラスラ読めるんですが、映像向きだという気もします。

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2019年3月15日 (金)

ダイヤモンド・オンライン「住みたい市区町村ランキング・ベスト50」やいかに?

今週月曜日の3月11日にダイヤモンド・オンラインで「住みたい市区町村ランキング・ベスト50」が明らかにされています。1位は横浜市で、2位が神戸市、3位に港区が入っています。我が家が今の城北地区に引っ越す前に住んでいたのが港区の青山でした。また、私自身は京都府立病院の当時の伏見分院で生まれたそうなんですが、東京に職を求めて親元を巣立つ前、大学の学生時代までの人生前半の20年余りを両親と暮らした京都の宇治市が44位に入っています。以下のテーブルの通りです。ご参考まで。

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2019年3月14日 (木)

ご寄贈いただいた『アベノミクスの真価』を読む!

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原田泰・増島稔[編著]『アベノミクスの真価』(中央経済社) をご寄贈いただきました。各チャプターのご著者の方々は、ほぼほぼリフレ派のエコノミストであり、束ねているのは日銀審議委員の原田さんと内閣府統括官の増島さんです。
日本経済の現状は、デフレとの関係で考えると、ほぼデフレからは脱却したものの、日銀の物価目標である+2%にはほど遠い、ということであろうかと思います。そして、本書はこれらにまつわる諸問題について回答を与えようと試みていて、一部に失敗しているものもありますが、ほぼ私も同じ結論に達しそうな気がします。例えば、+2%の物価目標未達については、2014年4月からの消費税率引き上げのショック、国際商品市況における石油価格の動向、そして、欧米では+1%から+2%近辺でアンカーされている物価上昇期待が、我が国では0%近傍でアンカーされていること、の3点を上げています。私なんぞは粗雑にも、国際商品市況の石油価格を上げてしまうことが多いんですが、そうなら日本以外の先進各国でも物価上昇率が低迷するわけで、そうなっていないのは、石油価格以外の我が国独自の要因があるというわけです。また、労働市場の現状についても、賃金が本格的に上昇していないわけですから、完全雇用には達していない、というのが私の結論なわけで、本書もまったく同じ分析結果を示しています。また、旧来の日銀理論から、低金利の副作用として債券価格形成の問題や金融機関の経営の問題などが指摘されていますが、少なくとも後者については、本書では預貸率の低さを原因として上げています。ただ、前者の債券価格形成の問題については、日銀が国債のかなりの部分を購入することにより、いわゆる市場の厚みが失われ、債券価格のボラティリティが高くなる問題はあるんだろうと思います。このボラティリティの高まりという点につき、本書では見逃している可能性があります。また、出口論についても一定の前提を置いたシミュレーションを示して、日銀が債務超過に陥る可能性に言及したのは興味深い点です。ただ、日銀が債務超過に陥るのを回避するために、すなわち、日銀自身の財務状況のために、日本経済を犠牲にするというのは本末転倒であり、我が国経済における日銀が果たすべき役割の放棄であるというのはその通りであろうと思います。

ご寄贈いただいた書籍などは、このように、律儀に取り上げることとしております。個人のブログなんぞという、誠に貧弱なメディアではありますが、図書や論文のご寄贈は幅広く受け付けております。

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2019年3月13日 (水)

3か月連続でマイナスとなった機械受注と上昇幅がわずかに拡大した企業物価(PPI)!

本日、内閣府から1月の機械受注が、また、日銀から2月の企業物価 (PPI) が、それぞれ公表されています。機械受注うち変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て、前月比▲5.4%減の8,223億円を示し、PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+0.8%と前月の+0.6%から上昇率がやや拡大し、引き続き、プラスの上昇率を継続しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、3カ月連続減 1月は前月比5.4%減少
内閣府が13日発表した1月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比5.4%減の8223億円だった。減少は3カ月連続。QUICKがまとめた民間の事前予測の中心値(1.7%減)を下回った。製造業は3カ月連続で減少した。世界経済が減速感を強めるなか、先行きに不安を持つ企業心理を映した。
内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」と前月から据え置いた。2018年11月は0.1%、同12月は0.3%と小幅な減少だったが、1月は減少幅が広がった。好調だった設備投資が鈍化する兆しが出てきた。
製造業は1.9%減と3カ月連続で減少した。内訳をみると、17業種中9業種がプラスに、8業種がマイナスに寄与した。マイナスに寄与したのは電気機械と情報通信機械で、それぞれ20.7%、38.1%減った。両業種ともハイテク関連で中国経済の減速を反映したとみられる。
中国では米中貿易摩擦や自国経済への先行き不透明感から投資や生産を控える動きが広がっている。こうした動きを背景に、国内企業は機械の発注に慎重になっているようだ。農林中金総合研究所の南武志主席研究員は「製造業の軟調さが鮮明で、輸出の伸び悩みが機械受注にも影響している」と話す。
1月の中国向け輸出は前年同月比で17%減った。鉱工業生産指数も1月まで前月比で3カ月連続低下しており、外需を起点にした下押し圧力が日本経済に及んでいる。中国や欧州経済など世界経済の先行きの不透明感から、企業は機械の発注や投資を控える姿勢になりつつあるようだ。
船舶・電力を除いた非製造業は8%減と4カ月ぶりに減少に転じた。運輸業・郵便業のほか、通信業がマイナスに寄与した。このほか、官公需は2.7%増だったほか、外需は18.1%減だった。
2月の企業物価指数、前年比0.8%上昇 原油価格上昇で
日銀が13日発表した2月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は101.1で前年同月比で0.8%上昇した。上昇は26カ月連続で上昇率は1月確報値の0.6%から拡大した。原油価格の上昇や米中貿易交渉の進展期待から企業物価指数は上昇した。
前月比では1月の0.6%の下落からプラスに転換し、0.2%の上昇に転じた。原油価格が上昇したほか、米中貿易交渉の進展期待で工業需要のある非鉄金属などの市況が改善した。豚コレラの被害拡大懸念で豚をはじめとする農林水産物の価格も上昇した。
円ベースでの輸出物価は前年比で1.7%下落し、3カ月連続のマイナスとなった。前月比では0.6%上昇した。輸入物価は前年比で0.7%下落し、前月比では1.1%上昇した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。公表している744品目のうち前年比で上昇したのは393品目、下落したのは276品目だった。上昇と下落の品目差は117と、1月の確報値139品目から22品目減った。
日銀の調査統計局は「依然として米中貿易摩擦の不透明感は強く、経済への影響に目を向けていく」との見解を示した。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、船舶と電力を除くコア機械受注の前月比で▲1.7%減でしたし、レンジでも▴.0~+1.7%でしたので、かなり弱い数字と私は受け止めています。統計作成官庁である内閣府でも、基調判断を「足踏み」で据え置いています。コア機械受注について季節調整済の系列の前月比を見ると、昨年2018年11月▲0.1%減、12月▲0.3%減、そして、今年2019年1月も▲5.4%減と、3か月連続でマイナスを示しており、昨年2018年10~12月期の前期比が▲3.2%減でしたから、足元の2019年1~3月期もかなり低い発射台での始まりということになります。特に、貿易摩擦に起因する世界経済の停滞が背景にあるわけですが、昨年2018年10~12月期あたりまでは増加を示していた電力と船舶を除く非製造業も今年2019年1月に入って▲8.0%減を記録し、▲1.9%減の製造業より大きな減少となっています。上のグラフの太い移動平均のラインに見られるように、機械受注は世界経済の停滞によりピークアウトした可能性が高く、基調判断通りの足踏みが続くものと見ていますが、同時に、人手不足に起因する省力化投資や合理化投資による下支えがあることなどから、設備投資のストック調整が急速に進んで、大きな落ち込みを見せる可能性は低いのではないか、とも私は考えています。

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続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。一番上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、真ん中は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、上2つのパネルの影をつけた部分は、機械受注のグラフと同じで、景気後退期を示しています。基本的に、国際商品市況における石油価格に連動した小幅な動きと考えています。すなわち、国内物価のいくつかの項目を前年同月比で見て、石油・石炭製品が前月の▲4.2%の下落から2月統計では▲2.1%と低下幅を縮小したり、非鉄金属も前月の▲7.4%から▲5.6%に下落幅が縮小しています。また、農林水産物も豚コレラの影響などにより前月の▲0.9%から▲0.1%に下落幅が縮小しています。ただ、こういった下落品目の下落幅縮小が中心であり、景気動向に連動した力強い物価上昇ではない、と私は受け止めています。

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2019年3月12日 (火)

3四半期ぶりに景況判断BSIがマイナスを付けた法人企業景気予測調査から何が読み取れるか?

本日、財務省から1~3月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は昨年2018年10~12月期+4.3の後、足元の今年2019年1~3月期は▲1.7と、3四半期ぶりにマイナスを付けた後、さらに、先行き4~6月期も▲0.3と、マイナスを続けると見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業景況感、1~3月はマイナス1.7
財務省と内閣府が12日発表した法人企業景気予測調査によると、1~3月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス1.7だった。マイナスは3四半期ぶり。前回調査の10#xFF5E;12月期はプラス4.3だった。
先行き4~6月期の見通しはマイナス0.3となった。1~3月期は大企業のうち、製造業がマイナス7.3で、非製造業はプラス1.0だった。中小企業の全産業はマイナス11.7だった。
2019年度の設備投資見通しは18年度に比べて6.2%減だった。18年度見込みは前年度に比べて7.4%増だった。
景況判断指数は「上昇」と答えた企業と「下降」と答えた企業の割合の差から算出する。

いつもながら、簡潔かつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは以下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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大企業全企業の景況感を景況判断BSIで見ると、昨年2018年10~12月期の+4.3から今年2019年1~3月期には▲1.7に大きくダウンし、さらに、4~6月期も▲0.3と、やや上昇するとはいえマイナスを続けた後、7~9月期には+5.7にジャンプすると見込まれています。足元の企業マインド悪化は貿易摩擦に起因する海外要因と私は考えていますし、7~9月期の予想はやや先の話でどこまで信頼を置けるかの問題もありますが、今年10月には消費税率の引き上げが予定されていますから、それなりの駆け込み需要はあるものと考えると、あながちムリがあるともいえません。いずれにせよ、先週3月7日に内閣府から公表された景気動向指数を見て、景気局面に関する悲観的な議論が出始めていますが、少なくとも年央にかけて景気がこのまま一気に失速するというマインドが企業に広がっているようには見えない、と私は受け止めています。ただし、10月の消費税率引き上げ後の消費動向は極めて不透明であり、足元の貿易摩擦に起因する海外経済の動向から企業マインドが悪化した後、駆け込み需要を経て消費税率引き上げと続く今年いっぱいの足元ないし先行きに関する企業マインドは複雑な方向性を示す可能性があります。景況感に次ぐ私の注目ポイントである設備投資は、全規模全産業で見て、今年度2018年度の+7.4%増に続いて、来年度2019年度は▲6.2%減と計画されています。特に、年度上半期に+4.9%増の後、下半期には▲16.0%減と見込まれており、他方で、経常利益の見込みについても同様に、2019年度上半期のプラスの後、下半期はマイナスと予想されており、当然ながら、消費増税後の景気動向には目が話せません。

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2019年3月11日 (月)

ワインバザールによるワインの選び方に関する調査結果やいかに?

とても旧聞に属する話題ですが、ワイン情報サイトのワンバザールから2月25日に、ワインの選び方に関するネット調査の結果が明らかにされています。まず、調査のポイントを2点、ワインバザールのサイトから引用すると以下の通りです。

調査のポイント
  • ワインは「種類」(75.4%)「味」(68.9%)「価格」(53.2%)で選ぶ
  • 普段飲むのは「~1000円」のワイン39.2%、「~2000円」34.3%

私も週末を中心にお安いワインを楽しむので、それなりに興味あるところ、簡単にグラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはワインバザールのサイトから ワインを選ぶときにチェック/重視するところ の回答結果を引用しています。「種類」(75.4%)、「味」(68.9%)、「価格」(53.2%)で選ぶ、というトップスリー結果が出ていますが、もちろん、この3つのポイントは重要な一方で、私は4番目の生産国も重視しています。外交官として3年余りを首都サンティアゴ過ごしたチリのワインを選ぶ傾向が明らかに強くなっています。種類は白を飲むことが多く、味はフルーティなものが好きです。価格は次のグラフで詳細な結果が出ています。

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ということで、上のグラフはワインバザールのサイトから 1本いくらのワインを飲むことが多いか の回答結果を引用しています。見れば明らかで、1000円以下がもっとも多く39.2%で、次いで、1000円~2000円が34.3%となっています。すなわち、73.5%が1本2000円以下のワインを選んでいるようです。私はワインへのこだわりはそれほどありませんので、お安く税込みで500円くらいのを選ぶことにしています。

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2019年3月10日 (日)

先週の読書はビジネス書や教養書からラノベまでいろいろ読んで計9冊!!!

昨日の土曜日の読書感想文ブログの定例日に米国雇用統計が割り込んで1日ズレて、ラノベの文庫本が3冊入ったこともあり、先週は計9冊を読んでしまいました。本格的な経済書はないものの、フリマアプリのメルカリのIPOまでを追跡したジャーナリストのドキュメンタリのビジネス書もあれば、私の大好きな作家のひとりである宮部みゆきの最新作まで、以下の通りです。今週も昨日のうちに図書館回りをほぼほぼ終えており、それなりのボリュームを読みそうですが、定年退官までもう1と月もなく、官庁エコノミストではなくなりますから、明らかに読書傾向が変化してきたような気がします。

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まず、奥平和行『メルカリ』(日経BP社) です。著者は日経新聞の編集委員をしているジャーナリストであり、米国のシリコンバレー支局の経験もあるそうです。我が国のフリマアプリ最大手であるメルカリが創業からわずか5年にして昨年2018年6月にIPOに成功しわたけですが、そのメルカリを題材にして、成長の軌跡、特に、フリマアプリ後発であったにもかかわらずトップに立った戦略とそれを支えた経営陣、その中心は創業者の1人である山田会長への取材を通じて取りまとめられたドキュメンタリです。要するに、読後に一言でいえば、資金調達力にものをいわせてCMを流しまくった、という1点に尽きるような気もしますが、そこは、ある程度はインサイダー的な情報を与えられたジャーナリストによるドキュメンタリですから、やや提灯持ちのような視点も少なくなく、現金出品の事件も含めて、きれいに取りまとめられています。私自身はもうすぐ定年退官を迎える公務員ですから、メルカリのようなユニコーンまで成長したスタートアップ企業の経営者とは、ある意味で、対極に位置しているわけですので、ここまで猛烈に働くことは若いころしかしたことがありませんし、なかなか理解するに難しい面もあります。他方で、私は毎朝可能な限り、NHKの朝ドラを楽しみにして見ています。知っている人は知っていると思いますg、いかにも高度成長期後半の昭和の起業家であるチキンラーメンの安藤百福を中心に据えたドラマであり、ドラマの中の起業家が、やや誇張された面はあるとはいえ、天下国家に有益な開発を志していたのに対し、今どきのインターネット関連の起業家やスタートアップ企業が何を目指しているのかが、やや本書では捉え切れていなかった気がします。特に、それが目についたのが米国進出であり、創業者が米国進出をしたいと志したからそうするんだ、という以上の理念めいたもの、あるいは、経済学で考えるところの企業活動の本質である利潤極大化なのか、そのあたりの目的意識めいたものが少し興味あったんですが、本書では必ずしも明らかではありませんでした。でも、かなり狭い世界でスタートアップ企業経営者や幹部が活動いているのはやや意外でした。最後に、どうでもいいことながら、チキンラーメンの日清食品から、「チキンラーメン」ブランドが発売60周年目に史上最高売上を達成、とのプレスリリースが3月4日に出されています。ご参考まで。

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次に、シバタナオキ・吉川欣也『テクノロジーの地政学』(日経BP社) です。著者は、いずれもスタートアップ企業の経営者、すなわち、起業家です。そして、本書のタイトルの地政学というのはやや違ったふうに解釈する向きもありそうですが、本書では米国のシリコンバレーと中国を対比していることをもって地政学と呼んでいるようです。ということで、本書では人工知能、次世代モビリティ、フィンテック・仮想通貨、小売り、ロボティクス、農業・食テックの6分野に渡って、最新のビジネスモデルを解説していています。すなわち、各分野につき、マーケットトレンド、主要プレーヤーの動向、注目スタートアップ、未来展望を米国シリコンバレーと中国のそれぞれに分けて、私のようなシロートにも判りやすく取り上げています。もちろん、それぞれの分野におけるビジネスモデルなので、必ずしも反則ではないんですが、実際の財・サービスの詳細についてはやや省略気味です。それよりも、最初に取り上げている奥平『メルカリ』でも感じたところですが、人脈関係について詳しいような気もします。いくつか、私の記憶にある範囲で印象的な点を取り上げると、まず、人工知能についてタスクの星取表があって、今すでにできている、2-3年以内にできそう、5年かかっても難しそう、に3分類されていますが、自然分での会話が5年かかっても難しそうとされています。いわゆるチューリングテストに通らない、という意味なんだろうと私は解釈しています。次世代モビリティについては、私は従来から自家用車、というか、社用車なんかも含めて自動車は稼働率が低く、要するに、エネルギーを使う割には運べるキャパが少ないと感じています。その点で、電車やバスのような公共交通機関に軍配を上げるんですが、自動車の24時間稼働も含めて、新たなモビリティ技術でどこまで効率を高められるかは興味あるところです。最後のポイントとして、金融関係については、キャッシュレス取引をはじめとして、スピードを強調する意見が多く見られ、本書でも同じ傾向があるんですが、決済についてはスピードと正確性のトレードオフがあり、私は正確性の方を重視すべきと考えています。その観点からの議論が少ない点はやや残念に思います。

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次に、 イ・サンヒ & ユン・シンヨン『人類との遭遇』(早川書房) です。著者は米国カリフォルニア大学リバーサイド校の自然人類学ないし古人類学の研究者と韓国の一般向け科学誌『科学東亜』の編集者・ジャーナリストですが、本書の中身のほとんどはイ教授が書いているんではないかという気がし、ユン氏は編集の方に重きを置いているような気がします。『科学東亜』に2012年2月号から3013年12月号まで連載されていたコラムを単行本化したようですから、オリジナルは韓国語ではなかったのかと想像していますが、フォーブス誌に書評が掲載されているようですから、英語を含めて翻訳されているのだろうと思います。上の表紙画像に見える英語の原題 Cloe Encounters with Humankind はその英訳書のタイトルなのかどうか私は知りませんが、むしろ、日本語タイトルに合わせているような気もします。というのも、扉の裏に韓国語をアルファベット表記、あるいは、それを英語に直訳したしたのであろう IN-RYU-UI GHEE-WON (Human Origins) というタイトルが見えるからです。本書の中身を振り返ると、やや韓国語のタイトルに近い気がします。というのも、もっとも古いホミニンに関する探究を一般向けに短い連載コラムのような形で取りまとめているからです。ところで、ホミニンとは「ヒト亜科」という和約があり、最終的にヒトが類人猿あるいはチンパンジーから枝分かれした後の種のことを指すと本書では考えられているようです。これはもっとも狭義の定義のように私は受け止めています。ということで、人類への進化の過程を取り上げて、従来の俗説めいた定説をいくつか否定しつつ、新たな著者の見方を提示しています。著者が支持する学説のうちで、私の知らなかったもののひとつが、現生人類がアフリカに発祥しその他の旧人類などをすべて駆逐したという完全置換説ではなく、現生人類は複数の地点で発祥し移動しているうちに出会って各地で遺伝的に混合してひとつの種になった他地域新仮説です。加えて、長寿は世代を通じた情報の伝達に有利である点を進化論の立場から解き明かしたり、狩猟採集から農業の開始とそれに伴う農作物の摂取と定住が人類にとって、ホントによかったのかどうかを疑問視したり、私のような一般ピープルの間では進化=進歩という図式を信じているんですが、そうではない例もいくつか取り上げています。さらに、韓国人というアジア人の範疇に入る著者ですので、西洋の白人キリスト教徒中心の人類進化史観にも異議を唱えていたりします。最後に、DNAの分析から現生人類にもネアンデルタール人のDNAは数パーセント残っているという旨の分析を明らかにしていますが、私の知る限り、ヒトとチンパンジーのゲノムを比較すると98パーセント以上が相同で、ほとんど差がない、といった科学本もあります。DNAとゲノムの違いも私には明確ではないんですが、よく判らない点でした。

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次に、アレクサンダー・トドロフ『第一印象の科学』(みすず書房) です。著者はブルガリア出身で、現在は米国プリンストンだ学の心理学研究者です。英語の原題は Face Value であり、2017年の出版です。日本語タイトルは第一印象となっていますが、ほぼほぼ顔といって差し支えありません。髪の毛も抜きの顔です。服装や、ましてや体型は第一印象には入っていないということなのかもしれません。顔写真をモーフィングして、信頼性を高めたり、支配力を強化したりする実験が繰り返されています。特に、顔写真のモーフィングでキーワードとなるのは信頼性と支配性のようです。そして、私にはロンブローゾの名前とともに意識される観相学について、本書の著者は創始者のラヴァーターとともに取り上げていますが、その観相学と心理的な性格はまったく関係がないという論証を延々としているような気がします。みとrん、ロンブローゾの場合は観相学を犯罪者への応用として用いたわけで、それはそれとして大きな逸脱のような気もしますが、いずれにせよ、顔による第一印象と犯罪はもとより性格とは、必ずしも相関がなく、しかも、顔の第一印象が何らかのと因果関係をなしていて、性格を原因として顔の第一印象が結果として目に見える形で現れている、ということは決してありえない、というのが本書の著者の主張です。本書は4部14章構成なんですが、4部のうちの冒頭からの3部までが、観相学の否定に費やされている気がします。その観相学の否定のついでに、いろんな顔から読み取れる、というか、読み取れると多くの人が考えている心理的な性格などについて解説を加えています。そして、人間が持つ顔バイアスは、決して社会性のある経験に基づくものではなく、ほぼほぼ生後数日くらいで社会性のかけらもないような赤ちゃんでもバイアスがあり、さらに、人間ならぬ霊長類にも顔バイアスが見られることが確かめられています。しかし、同時に、人間は顔バイアスとともに、見た目に強い印象を持つことは明らかで、ただ、それが時代とともに変化する点も見逃せません。今ではセクハラまがいの発言かもしれませんが、私はかつて「美人だが、1000年前に生まれていれば、すなわち、平安時代であれば、もっと美人と評価されたかもしれない」といった旨をご本人の前でいったことがあります。絵画などで残る平安美人が今とはやや基準を異にしているのは明らかで、歴史の流れとともに、あるいは、地域性により、どのような顔バイアスの違いがあるのかも私は興味あります。

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次に、武田尚子『近代東京の地政学』(吉川弘文館) です。著者は早稲田大学の研究者であり、2017年9月に同じ吉川弘文館から出版されている『荷車と立ちん坊』を取り上げたこともあります。本書は青山から代々木ないし渋谷に広がる山の手地域の地政学的な位置づけについて、明治期の軍制などとの関係で解き明かそと試みています。しかし、タイトル通りの地政学というよりも、青山・渋谷・代々木あたり、もちろん、明治神宮やその内苑と外苑を中心とする地域の明治期以降の発展史というカンジです。我が家は現在の城北地区に引っ越すまで、南青山の公務員住宅に住まいしていたことがあり、私は表参道駅から地下鉄に乗って役所に通勤していましたので、とても馴染みがあります。今では公務員住宅は売り払われてしまいましたが、表参道の交差点から原宿・神宮前を背にして根津美術館に向かってみゆき通りを歩き、大松稲荷を経て菱形のガラスが印象的なプラダのブティックを右に曲がると住まいがありました。ということで、本書に戻ると、徳川期に大火で江戸城が類焼した際に武器庫を場内に設営していたために被害が大きくなったことから、青山あたりに弾薬庫を設営したことに始まり、明治期になっても地政学的に軍事的な施設が多く置かれ、青山練兵場や代々木練兵場への軍隊の行進や天皇の行幸のために道路などのインフラが整備され、さらに、明治天皇の崩御により遺骨は京都の御香宮に埋葬された一方で、明治神宮が整備されます。そして、戦後はワシントンハイツなどの米軍施設や住宅に衣替えし、それが東京オリンピック施設のために返還され、軍事施設からオリンピックという平和の祭典に活用される、という変遷を歴史的社会的に本書は跡付けています。繰り返しになりますが、我が家が子育てをした馴染みの地域ん歴史を振り返るいい機会でした。なお、どうでもいいことながら、本書冒頭のいくつかの地図のうち、p.2図1に見える表参道交差点は現在のものですが、p.6図4の最下部に見える表参道の電停は今の表参道の交差点ではなく、神宮前の交差点ないし地下鉄でいえば表参道駅ではなく、明治神宮前・原宿駅に相当します。逆に、p.6図4の明治神宮の電停こそが現在の地下鉄表参道駅に相当することになります。100年も違いませんが、ビミョーに地名も変化しているのかもしれません。

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次に、宮部みゆき『昨日がなければ明日もない』(文芸春秋) です。著者は直木賞受賞の売れっ子ミステリ作家です。杉村三郎シリーズの第5弾であり、ちなみに、前4作は『誰か Somebody』、『名もなき毒』、『ペテロの葬列』、『希望荘』となっています。それから、文庫版の『ソロモンの偽証』の最終巻に、杉村三郎を主人公とする「負の方程式」が収録されています。100ページほどの書き下ろし中編です。私は全部読んでいます。知っている読者は知っていると思いますが、第3作の『ペテロの葬列』ラストで杉村は離婚して今多コンツェルンを離れ、第4作『希望荘』から私立探偵を始めます。本作では中編くらいの長さの3話を収録しています。「絶対零度」と「華燭」と表題作です。表紙画像の帯に「ちょっと困った女たち」とありますが、私のような公務員を定年まで勤め上げた人間から見ると、「ちょっと」ではなく、大いに問題ありなのではないか、という気もします。それに、第1話の「絶対零度」は困ったことをするのは女性ではなく、男性ではなかろうか、という気もします。この3話では、困ったことをする人がいて、いわゆる迷惑行為ともいえるんですが、電車の痴漢行為のように一線を越えて犯罪そのものもあれば、犯罪スレスレというものもありそうです。このシリーズの主人公の杉村は常識人であり、この作品の登場人物も常識人が多い一方で、犯罪スレスレの迷惑行為をなす単数ないし複数の人物が本作では登場します。そして、第1話の「絶対零度」と第3話の「昨日がなければ明日もない」では殺人事件で終わり、ネタバレなんですが、迷惑行為をなした人が殺されます。迷惑行為の延長で殺人事件が起きるのではなく、、迷惑行為の行為者が恨みをかって被害者に殺されるわけです。シリーズ内の『名もなき毒』や『ペテロの葬列』では、「困った人」は明確に警察に捕まるんですが、本作品では警察をはじめとする法執行機関ではなく、被害者が迷惑行為者に復讐めいた行為を実行するというのは、杉村が探偵になってからの変化なのかもしれません。すなわち、離婚前の作品では常識人の杉村が被害者だったので非合法手段で迷惑行為者に復讐めいた罰を与えることはしなかったんですが、実は、迷惑行為者だけではなく被害者の方も「困った人」であれば、法執行機関ではなく被害者ご本人が犯罪行為に及ぶケースがある、ということなのかもしれません。そこまで深く読むこともなさそうな気がしますが、迷惑行為の実行者たる純正の「困った人」、迷惑行為を受けて反撃してしまうレベルの「困った人」、迷惑行為を受けて法執行機関に正義を求める人、の3種類の書き分けが興味深かった気がします。どうでもいいことながら、文芸春秋のサイトにある人物相関図は以下の通りです。

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最後に、松岡圭祐『グアムの探偵』、『グアムの探偵 2』、『グアムの探偵 3』(角川文庫) です。著者は売れっ子の小説家であり、軽いなぞ解きのミステリの作品が多い気がします。私は、今まで、「万能鑑定士Q」のシリーズや「特等添乗員α」のシリーズを読んでいて、さらに、前者のシリーズの中で、綾瀬はるか主演で映画化された「モナ・リザの瞳」も見た記憶があります。ただ、これらの2シリーズは主人公がいずれも女性だったんですが、この「グアムの探偵」シリーズでは主人公は男性であり、原住民であるチャモロ人や米国人に交じって日系人3世代、すなわち、77歳の祖父ゲンゾー、49歳の父デニス、25歳の倅レイの3人が属する、というか、ゲンゾーが社長でデニスが副社長を務めるグアム島にある探偵社を舞台にして、軽めのミステリのようななぞ解きを収録しています。初刊から第3巻まで、短編が各5話ずつ収録されています。まあ、繰り返しになりますが、それほど本格ミステリ、というわけでもなく、かなり都合よく解決される謎が多くなっている印象です。ですから、読者によってはラノベに分類する人も多そうな気がしますし、ひょっとしたら、これから先、漫画化される可能性も十分あると私は予想しています。なお、探偵社の名称はイーストマウンテン・リサーチ社といい、親子3代の姓である東山から取られているようです。ゲンゾーの愛車は、デニスはジープ・チェロキー、レイはサリーン・マスタング・ロードスターと、キャラに合わせて米国的に車で表現したりの工夫がなされています。もちろん、グアム島は米国の準州ですから、探偵は探偵でも日本とは異なり、拳銃の携行が許可されていたり、政府公認の私立調査官として警察情報に接することが可能であったり、裁判などでの証言にも重きを置かれる、などの制度的な違いも解説されています。殺人事件がないわけではないものの、基本的には、リゾート地ののどかなトラブル解決が少なくなく、当然ながら旅行や移住でグアム島にいる日本人が巻き込まれる事件が中心です。ただし、グアム島は面積の⅓が米軍基地ですので、軍やスパイも絡んで、それなりの国際的なスケールの広がりのある謎もあります。軽めの読み物ですから、通勤時の時間潰しなどにとてもいいんではないでしょうか。最後にどうでもいいことながら、上に表紙画像を3つ並べていますが、現時点では第3巻の表紙デザインのラインで初刊と第2巻も統一的なデザインとなっています。でも、私が借りて読んだのは上の表紙画像の通りです。念のため。

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2019年3月 9日 (土)

米国雇用統計は降雪により雇用者の伸びが急減速も労働市場の逼迫感は継続!

日本時間の昨夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計からわずかに+20千人増と、降雪などの気象条件悪化もあって大きく伸びが鈍化した一方で、失業率は前月から低下して3.8%を示しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、USA Today のサイトから記事を最初の6パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added just 20,000 jobs in February amid slowing growth, snowy weather
Hiring slowed sharply in February as employers added just 20,000 jobs amid harsh winter weather and a weakening U.S. and global economy.
That's the fewest job gains since September 2017 when employment was curtailed by major hurricanes.
The unemployment rate fell to 3.8 percent from 4 percent, the Labor Department said Friday. The partial government shutdown boosted the jobless rate in January as many federal government employees told Labor survey takers they were unemployed or on temporary leave, and so an offsetting drop was expected as those workers returned.
Economists were looking for a pullback in payroll growth last month after outsize gains in January that were inflated by unusually mild weather. Meanwhile, above- average snowfall when Labor conducted its survey in mid-February was set to reduce total employment by at least 40,000, Goldman Sachs said.
A small consolation: Job gains for December and January were revised up by a total 12,000. December's was upgraded from 222,000 to 227,000, and January's from 304,000 to 311,000.
More broadly, the U.S. economy is expected to slow this year after federal tax cuts and spending increases juiced growth in 2018. The economy grew 2.9 percent last year, the second strongest showing of the nearly 10-year-old expansion, and monthly job growth averaged a robust 223,000. But those stimulus effects are expected to fade by late this year. At the same time, the low unemployment rate is making it harder for employers to find qualified workers. Economists estimate monthly job gains will average about 170,000 in 2019.

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門と失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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ちょっとびっくりの非農業部門雇用者増の大きな鈍化でした。市場の事前コンセンサスでは、通常通りに、+170~180千人増が見込まれていたんですが、わずかに+20千人増にとどまりました。ただ、政府機関の一部閉鎖が解除されたこともあって、失業率は前月の4.0%から▲0.2%ポイント低下して3.8%となっています。+20千人増はハービーやイルマなどのハリケーン被害が大きかった2017年9月の+18千人増以来の低い伸びでした。ただし、最近の雇用統計でも天候要因による振れが大きく、今年2019年は1月が暖冬で+311千人増を記録した後、逆に2月は降雪などもあって+20千人増にとどまりました。ただ、1~2月をならしても+165千人増くらいなわけですので、2018年10~12月期には月平均で+200千人を超える増加がありましたので、今年2019年に入って雇用の伸びが鈍化しているのは事実と考えるべきです。失業率の低下も連邦政府機関の一部閉鎖の解除によるものですから、景気動向に従った失業率低下と考えるのは不適当だという気がします。2月統計の雇用者増を業種別に詳しく見ると、製造業こそ+4千人増とギリギリでプラスを維持したものの、建設業では▲31千人減を示し、小売業でも▲6.1千人減となっています。我が国は企業部門が景気の牽引をしていますが、米国では家計が景気を引っ張っており、小売業の雇用が減少するのは景気の減速ないし後退のシグナルと見なされます。従って、トランプ政権の圧力もあって、米国連邦準備制度理事会(FED)パウエル議長は、中国や欧州などの景気減速の懸念から利上げを一時停止する考えを繰り返し表明しているところですが、本格的に利上げ休止が長引く可能性も出て来たと私は受け止めています。

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ただ、景気動向とともに物価の番人としてデュアル・マンデートを背負ったFEDでは物価上昇圧力の背景となっている時間当たり賃金の動向も注視せねばならず、その前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。雇用者像にブレーキがかかったとはいえ、米国労働市場はまだかなり逼迫を示しており、賃金もジワジワと上昇率を高め、2月は前年同月比で+3.4%の上昇と、昨年2018年8月から+3%の上昇率に達して、半年以上の7か月に渡って3%台の上昇率が続いています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、日本や欧州と違って米国では物価も賃金上昇も+2%の物価目標を上回る経済状態が続いていて、利上げで物価や賃金の上昇圧力に対処すべき考えもあるとは思いますが、物価と雇用のデュアル・マンデートが異なる方向を向いており、何とも政策対応が悩ましいところです。

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2019年3月 8日 (金)

やや上方改定された2018年10-12月期GDP統計2次QEから景気後退の可能性を探る!

本日、内閣府から昨年2018年10~12月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.5%、年率では+1.9%を記録しました。1次QEから上方改定されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP1.9%増に上方修正 10-12月年率、設備投資堅調
内閣府が8日発表した2018年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.5%増、年率換算で1.9%増だった。2月に発表した速報値(前期比0.3%増、年率1.4%増)から上方修正した。企業の設備投資が速報値の推計値から上振れしたことが全体の押し上げにつながった。
設備投資は実質で前期比2.7%増と、速報値の2.4%増から改定した。財務省が1日発表した10~12月期の法人企業統計によると、半導体関連や自動車用電子部品などの投資が堅調だった。
民間在庫も成長率押し上げに効いた。成長率への寄与度は0.01%。原材料や仕掛かり品を中心に金額ベースで在庫が増えたことを反映した。
一方、個人消費は0.4%増と速報値(0.6%増)から下方修正した。飲料や、白物家電を含む「家庭用器具」の出荷の伸びが鈍かった。全体の成長率に対する内需の寄与度は0.8%と、速報値(0.6%)から拡大。内閣府は上方改定の主な要因は「国内需要による」と説明した。
外需の成長率に対する寄与度は0.3%の押し下げだった。輸出は前期比1.0%増と速報値(0.9%増)から小幅に上ぶれたが、全体への寄与度は変わらなかった。
10~12月期の名目GDP改定値も前期比0.4%増、年率換算で1.6%増と速報値(前期比0.3%増、年率1.1%増)から上方修正した。
18年の実質成長率は前年比0.8%増、名目成長率は0.7%増とそれぞれ0.1ポイントの上方修正となった。設備投資の伸びを反映した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2017/10-122018/1-32018/4-62018/7-92018/10-12
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.4▲0.2+0.6▲0.5+0.3+0.5
民間消費+0.5▲0.2+0.9▲0.5+0.7+0.9
民間住宅▲3.2▲2.0▲2.0+0.6+1.1+1.1
民間設備+0.7+1.0+2.5▲2.6+2.4+2.7
民間在庫 *(+0.1)(▲0.1)(▲0.1)(+0.1)(▲0.2)(+0.0)
公的需要+0.0▲0.0▲0.1▲0.3+0.4+0.2
内需寄与度 *(+0.4)(▲0.2)(+0.6)(▲0.5)(+0.6)(+0.8)
外需寄与度 *(+0.0)(+0.1)(▲0.1)(▲0.1)(▲0.3)(▲0.3)
輸出+2.2+0.4+0.4▲1.4+0.9+1.0
輸入+2.3+0.0+1.3▲+0.7+2.7+2.7
国内総所得 (GDI)+0.0▲0.4+0.4▲0.9+0.2+0.4
国民総所得 (GNI)▲0.0▲0.6+0.7▲1.0+0.3+0.4
名目GDP+0.2▲0.3+0.4▲0.5+0.3+0.4
雇用者報酬+0.0+0.7+1.5▲0.5+0.7+0.6
GDPデフレータ+0.1+0.5▲0.1▲0.4▲0.3▲0.3
内需デフレータ+0.6+0.9+0.5+0.5+0.5+0.5

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2018年10~12月期2次QEの最新データでは、前期比成長率がプラスに回帰し、赤い消費と水色の設備投資がプラスの寄与を示している一方で、黒の外需(純輸出)がマイナス寄与となっているのが見て取れます。

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昨日公表の景気動向指数の結果を考え合わせると、評価の難しいところです。一昨日の2次QE予想においては+2%台の成長であれば2018年7~9月期からのリバウンドもあったそれなりの成長と感じられる可能性が出てくると感じていましたが、年率+1.9%成長でしたし、中身を考えるとやや消極的な評価を下すエコノミストも少なくない気がします。すなわち、仕上がりの内需主導の成長はいいんですが、1次QEからの変化の方向を考えると、在庫の寄与度が1次QEの▲0.2%から2次QEで+0.0%に上方改定されていますから、これがほぼほぼ成長率の差の+0.2%ポイントに相当します。瞬間風速で前向きの在庫が積み増された可能性も否定できないものの、現在の景気局面を考慮すると、先行きの在庫調整の可能性を高めるものであろうと考えるべきです。消費の伸びは1次QEの+0.6%から2次QEでは+0.4%に下方修正され、寄与度も▲0.1%ポイント低下しています。一昨日に取り上げた1次QE予想で消費の下方改定を予想していたのはみずほ総研と第一生命経済研だけで、どちらのシンクタンクも1次QEから▲0.1%ポイント伸びを低下せて前期比+0.5%増を見込んでいましたが、ほかはすべて1次QEと同じ前期比+0.6%の伸びを予測していました。他方で、プラスに評価できるのは設備投資の上方改定があります。ほかに、海外要因は外需寄与度が1次QE、2次QEとも▲0.3%ですし、米中の貿易摩擦を考慮すれば、それほど先行き期待できるとも思えません。1次QE公表後のシンクタンクのリポートには、「力強さに欠ける」とか、「低空飛行」といった旨の表現が見られたんですが、今回も同じ傾向かもしれません。

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上のグラフは、価格の変動を取り除いた実質ベースの雇用者報酬及び非居住者家計の購入額の推移をプロットしています。内需主導の成長を裏付けているのは設備投資とともに消費が上げられるわけですが、上のグラフに見られる通り、その背景には順調な増加を続ける雇用者報酬があります。2014年の消費増税後は伸び悩んでいましたが、2016年に入ってから順調な伸びを示し、人手不足を背景に1人当たり雇用者所得と雇用者数の掛け算で増えています。インバウンド消費も順調な拡大を続けており、まだまだ拡大の余地はあると考えられるものの、かつて「爆買い」と称されたほどの爆発的な拡大はそろそろ安定化に向かっている印象ですし、インバウンドに加えて、国内労働市場の人手不足に伴う正規雇用の増加や賃金上昇により、毎月勤労統計などの統計が信頼性低い恐れはあるものの、雇用者報酬が順調な伸びを背景に消費拡大につながることが期待できそうです。まだ、消費者マインドは改善の兆しを見せないものの、人手不足は省力化・合理化投資を誘発して設備投資にも増加圧力となっており、内需主導の成長をサポートしていると考えるべきです。

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なお、GDP統計2次QEのほか、本日、内閣府から2月の景気ウォッチャーが、また、財務省から1月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列で見て、現状判断DIが前月差+1.9ポイント上昇の47.5を記録した一方で、先行き判断DIは▲0.5ポイント低下の48.9となりました。現状判断DIの改善は3か月ぶりであり、家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のいずれも改善を示しています。また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+6004億円の黒字を計上しています。いつものグラフは上の通りです。

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2019年3月 7日 (木)

大きく下降した1月の景気動向指数は景気認識の変更を迫るのか?

本日、内閣府から1月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月差▲1.3ポイント下降して95.9を、CI一致指数も▲2.7ポイント下降して97.9を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の景気動向指数、3カ月連続低下 基調判断下げ
内閣府が7日発表した1月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が97.9と、前月から2.7ポイント低下した。低下は3カ月連続で、13年6月(97.0)以来の低水準。中国経済の減速が輸出や生産の面で日本にも波及していることを映した。同指数の基調判断はあらかじめ決められた条件に基づいて下方修正された。政府が景気認識を改めるかどうかが焦点となる。
一致指数の算出に使う9つの統計のうち、速報段階で公表されている7つすべてがマイナスに寄与した。寄与度が大きかったのが生産・出荷関連の指標だ。中国など世界経済の成長鈍化で日本企業の輸出が振るわない中、産業ロボットや半導体などを中心に企業の生産にも影響が出始めている。指数には生産が占める要素が大きい特徴がある。
指数の基調判断は5段階中、上から3番目の「下方への局面変化を示している」となり、前月までの「足踏み」から引き下げられた。この表現が用いられるのは消費増税の影響が色濃く出た14年11月以来だ。
基調判断は指数の変化に応じて一定の条件を満たせば決まる。「下方への局面変化」になるには、月々の変動をならした7カ月後方移動平均の前月差がマイナスになるなどの条件がある。判断は機械的に決まるため、必ずしも政府の景気認識と一致しない。
内閣府の定義では「下方への局面変化」は事後的に判定される景気の山(ピーク)がそれ以前の数カ月にあった可能性が高いことを示す。ただ14年8~11月に同様の判断になったが、景気の長さを判定する「景気動向指数研究会」はこの間も景気回復が続いていたと認定した。
同期間は政府の月例経済報告も「このところ弱さがみられる」などの文言は付け加えながらも「緩やかな回復基調」との表現は維持した。内閣府の担当者は7日、「政府の景気認識は総合的に判断する」と話した。
茂木敏充経済財政・再生相は1月の月例経済報告で景気回復の長さについて「戦後最長になったとみられる」と表明した。2月の月例経済報告でも「緩やかに回復」としており、指数が示す判断とは食い違う面もある。
茂木氏は5日、景気認識は「生産だけでなく、様々な指標を総合的に勘案して判断する」と述べた。人手不足はなお深刻で企業は賃上げを通じて採用を強化している。良好な雇用環境が国内総生産(GDP)の5割強を占める消費を支えている面もある。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「外需は悪いが、設備投資や消費といった内需には一定の底堅さがある」と話す。
1月の日本の輸出や生産を押し下げたのは、中国や世界経済の減速に加え、今年は中国の春節(旧正月)が例年より早く、同国の経済活動が一時的に落ち込んだ影響もある。春節の影響で基調がつかみにくくなっており、1~2月をならしてみる必要があるという。加えて1月は日本は年初の休みが長かったため、工場の稼働を停止していた日が多い企業もある。
エコノミストの間には「景気後退に入った可能性もある」との声も出ているが、「2月に輸出や生産がどの程度戻るかが焦点だ」(第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミスト)との声は多い。2月の貿易統計は18日、鉱工業生産指数は29日に公表される。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、景気局面がビミョーな時期に入りましたので、かなり熱心に取材したのかインタビュー結果も多く、通常の月に比べてとても長い記事になっています。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気動向指数のうち、基調判断の基準となるCI一致指数の前月差を詳しく見ると、引用した記事にもある通り、トレンド成分を除く7項目がすべてマイナス寄与となっていますが、特に、投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、耐久消費財出荷指数、鉱工業用生産財出荷指数がこの順でマイナス寄与が大きくなっています。鉱工業生産・出荷の関連指数です。昨夜の2次QE予想の記事では、現時点で景気後退局面に入っている、もしくは、年央くらいまでに景気後退局面に入るリスクは1年前や半年前から高まっているのは事実ながら、現時点で景気後退に入っている、ないし、2~3か月先という目先の期間で景気後退局面入りする可能性が高い、とは決して考えていない旨を記しましたが、CI一致指数からは「事後的に判定される景気の谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高い」とされる「下方への局面変化」に統計の基調判断が下方修正されています。引用した記事の最後のパラのように、景気後退局面入りした可能性を指摘するエコノミストもいる一方で、2月の統計を見たいという専門家も少なくないようです。私は根拠なく楽観的な見方を示す方だったりしますので、2月の中華圏の春節効果を除いたトレンドを見たい気もします。

何度か指摘した通り、今年1月まで景気拡大が続けば、米国のサブプライム・バブル期に相当する期間を超えて、戦後最長の景気拡大期間を記録する可能性があったんですが、繰り返しになるものの、本日公表の景気動向指数から機械的に判断される景気の現状は基調判断の通り、「事後的に判定される景気の谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高い」とされる「下方への局面変化」ですから、ますます景気局面に注意が向くようになる気がします。そして、我が国景気のキーポイントは海外要因、ズバリ中国経済です。

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2019年3月 6日 (水)

明後日公表の2018年10-12月期GDP統計2次QEの予想やいかに?

先週金曜日の法人企業統計など、ほぼ必要な統計が出そろい、明後日の3月8日に昨年2018年10~12月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期以降の景気動向を重視して拾おうとしています。ただし、2次QEですので、法人企業統計に関するリポートにのオマケで解説されているだけで、明示的に先行き経済を取り上げているシンクタンクは決して多くありませんでした。その中で、みずほ総研だけは長めに、ほかのシンクタンクもそれなりに、それぞれ引用してあります。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.3%
(+1.4%)
n.a.
日本総研+0.3%
(+1.4%)
10~12月期の実質GDPP(2次QE)は、設備投資が上方修正される一方、公共投資が下方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+1.4%(前期比+0.3%)と1次QEから変わらない見込み。
大和総研+0.5%
(+2.0%)
10-12月期の実質GDPにおける設備投資の伸び率は2四半期ぶりにプラス成長になるものの、1次速報段階と同様に、災害要因に伴う7-9月期の落ち込みからの回復という色合いが強いという評価は変わらない。
みずほ総研+0.6%
(+2.5%)
今後の日本経済については、海外経済減速に伴う輸出低迷を受け、力強さに欠く展開が続く見通しだ。個人消費は、良好な雇用環境を受け底堅く推移するだろう。一方で、設備投資は人手不足を背景にした省力化投資が引き続き下支えになるものの、製造業を中心にストック調整圧力が徐々に高まることから、伸びが鈍化する見通しだ。輸出は、中国経済を中心に海外経済の減速がしばらく続くほか、IT関連の調整局面が当面続くことから、伸び悩むとみている。
リスク要因としては、貿易摩擦の激化に注意が必要だ。一部の企業で既に投資を先送りする動きが出ているが、米中間の貿易摩擦が更に高まれば、輸出の更なる低下や設備投資減速を通じ、景気が下押しされよう。
ニッセイ基礎研+0.4%
(+1.6%)
18年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.4%(前期比年率1.6%)となり、1次速報の前期比0.3%(前期比年率1.4%)から若干上方修正されると予測する。
第一生命経済研+0.4%
(+1.7%)
修正幅自体は小さなものにとどまるとみられ、1次速報から景気認識の修正を迫るものにはならないだろう。自然災害による供給制約を背景とした7-9月期の大幅な落ち込み分(前期比年率▲2.6%)を取り戻せないという姿は変わらない。輸出の頭打ちを主因として18年の景気が踊り場状態にあったという評価に変更はないだろう。
伊藤忠経済研+0.4%
(+1.6%)
2018年10~12月期の実質GDP成長率は、2次速報で前期比+0.4%(年率+1.6%)へ上方修正されると予想。法人企業統計季報を受けた設備投資や民間在庫投資の上方修正が主因。一方で、企業業績は特に製造業でピークアウトが鮮明。中国の一部分野の需要落ち込みによるところが大きいが、その影響は徐々に弱まり、労働分配率の上昇傾向も見込まれるため、景気腰折れは回避。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.5%
(+2.1%)
2018年10~12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.5%(年率換算+2.1%)と1次速報値の同+0.3%(同+1.4%)から上方修正される見込みである。
三菱総研+0.5%
(+2.0%)
2018年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.5%(年率+2.0%)と、1次速報値(同+0.3%(年率+1.4%))から上方修正を予測する。

ということで、いずれの予測も1次QEから上方修正となっており、その主因は法人企業統計で明らかになった需要サイドの設備投資です。ただ、上方修正幅は2グループに分かれていて、修正なしの日本総研も含めて、ニッセイ基礎研、第一生命経済研、伊藤忠経済研の4機関は小幅修正で、仕上がりを見て+1%台半ばから後半であり、+2%に達するとは見ていませんが、大和総研、みずほ総研、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、三菱総研の4機関は仕上がりで+2%に達すると見込んでいます。私自身の見方としては、極めて直感的な結論ですが、前者の小幅修正ではないかと見込んでいます。根拠はとても薄弱です。2月の1次QE公表時には、潜在成長率近傍の結果で、7~9月期の自然災害に起因するマイナス成長からのリバウンドを考慮すると、やや物足りない成長率と私は受け止めましたが、小幅修正なら同様の受け止めが広がる一方で、2%台の成長であれば、それなりのリバウンドがあったということになる可能性が出ます。ただ、繰り返しになるものの、今回は2次QEですから法人企業統計のオマケのような扱いも見られる中で、先行き景気の言及は少ないものの、伊藤忠経済研は小幅改定を見込みながらも「景気腰折れは回避」との見方を明記していますし、私も基本的には、現時点で景気後退局面に入っている、もしくは、年央くらいまでに景気後退局面に入る可能性が高い、とは決して考えていませんが、そのリスクは1年前や半年前から高まっているのは事実であり、その主因は、貿易摩擦の激化かどうかはともかく、海外経済の減速であろうと受け止めています。
最後に、下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。仕上がりの成長率は私の感覚からすれば高過ぎますが、需要項目の方向はこんなもんだろうという気がします。

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2019年3月 5日 (火)

メルカリ・三菱総合研究所による「シェアリングエコノミーに関する共同研究」の結果やいかに?

昨日の続きで、2月26日にメルカリ・三菱総合研究所による「シェアリングエコノミーに関する共同研究」が明らかにされています。具体的には、フリマアプリ上で洋服や化粧品の取引を行うユーザーを対象にアンケートを実施し、フリマアプリ利用前後における行動心理・購買内容の変化を分析しています。ソースは以下の通りです。

研究の結果として、シェアリング時代の新たな消費モデルは SAUSE になる、と結論されています。すなわち、Search (検索) » Action (行動) » Use (一時利用) » Share (再販売) » Evaluation (評価) という流れです。昨夜のマクロミル・ホノテに続いて今夜も、三菱総研のリポートからグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、三菱総研のリポートから 新品購入の際に、将来の売却を意識する人の割合 を引用すると上の通りです。見れば明らかなんですが、洋服で65%、化粧品で50%の人が将来の売却を意識しています。この比率の違いについては、どちらかといえば、洋服の方が化粧品よりも耐久性が高い結果を反映しているような気がします。この将来における売却の可能性の考慮は、昨夜の議論では、ケインズ的な美人投票と高級志向の可能性がある、ということになりそうです。すなわち、昨夜の繰り返しですが、洋服や化粧品の選択に際して、消費者自身の好みだけでなく、いわゆる売れ筋商品を購入して後々の売却の容易さを向上させたり、あるいは、回収の可能性を念頭に高級品志向を高めたりする可能性があります。

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次に、三菱総研のリポートから シェアリングサービス利用後の新品購入の頻度と価格帯の変化 を引用すると上の通りです。別のところのグラフを画像として結合させています。上が頻度の変化で、下が価格の変化です。ここでも、より耐久性の高い洋服の方が化粧品よりも敏感に変化しています。新品購入頻度のアップと高価格帯へのシフトについては、先々の売却を見越した変化方向であり、逆に、頻度のダウンと低価格帯シフトは中古品購入の頻度アップと中古品との価格競争を考慮した結果であろうと私は考えています。

従来から私の気がかりは、こういったシェアリング・エコノミーが消費に及ぼす影響を考えると、格差問題がどちらに振れるかという点です。ひとつのあり得るケースとして、富裕層と貧困層しか存在しないとても単純なモデルで考えて、富裕層が先々の売却を見越して売れ筋ないし高級志向や新品の高頻度購入に流れ、貧困層が低価格志向や中古品購入を増加させる、というケースです。まったくの私個人の直感ですが、パレート最適の観点からすれば富裕層も貧困層もどちらも効用を高めつつ、もしも効用を計測できるのであれば、富裕層の効用の高まりの方が貧困層を上回る、ような気がします。確信はまったくありませんが、可能性としてはあり得る見方ではないかと思わないでもありません。

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2019年3月 4日 (月)

マクロミル・ホノテによる「フリマアプリ利用者1,000人調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、2月25日にマクロミル・ホノテによる「フリマアプリ利用者1,000人調査」の結果が明らかにされています。フリマアプリの普及については、経済産業省のリポート「電子商取引に関する市場調査」でも、2017年の市場規模が4,835億円(前年3,052億円、前年比+58.4%増)と急増していることが明らかにされており、消費生活に大きな変化をもたらしているのは間違いないところですが、私の考える基本は2点あり、すなわち、第1に、先々使い尽くすまで使用するだけでなく、フリマアプリで売りに出す可能性も考慮した消費行動に基づく売れ筋ないし高級志向、第2に、新品購入だけでなく中古品購入の可能性が広がったことによる競争の強まりと価格の下押し圧力です。これは相反する可能性もあるんですが、アンケートなどにより、どういった反応が現れるかも興味あるところです。ということで、マクロミル・ホノテの調査結果につきグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、マクロミル・ホノテのサイトから フリマアプリの直近1年の利用状況 を購入と出品に分けてプロットしています。購入のカテゴリーは、1位「服」41%、2位「書籍・雑誌・コミック」23%、3位「靴・バッグ」21%だった一方で、出品のカテゴリーは、1位「服」60%、2位「靴・バッグ」37%、3位「書籍・雑誌・コミック」36%でした。順位こそは僅差で入れ替わっているものの、いずれも商品カテゴリーの上位の顔ぶれはほぼ一致しており、「服」がダントツで、「靴・バッグ」と「書籍・雑誌・コミック」が2番手グループ、さらに、これに、「コスメ・香水・美容」が続いています。

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まず、上のグラフは、マクロミル・ホノテのサイトから フリマアプリによる生活意識の変化 をプロットしています。なお、グラフは引用していませんが、「フリマアプリで売ることを想定して商品を購入した経験ある」が34%に上っており、出品者の3人に1人が、不要になったものを出品するのではなく、最初から出品を想定して買い物をした経験があるようで、売ることを想定して購入した具体的な商品カテゴリーは、トップスリーが「服」14%、「書籍・雑誌・コミック」9%、「靴・バッグ」7%となっています。そして、具体的な生活意識の変化の項目が上のグラフの通りなんですが、私の目から見て、やや選択肢の設定が難ありの気がします。まあ、「不要品を捨てることが減った」のはいいとしても、将来的に売る可能性を考慮すると、「モノを大切に使う」というのもさることながら、自分の好みだけでなく、売れ筋商品を選択する可能性が高まる気がします。ケインズ的な美人投票であって、自分が美人と感じるかどうかではなく、参加者が美人と感じるかどうかを類推して投票する、という例のアレです。あるいは、先々で売ることを考えれば、やや高級志向に振れる可能性もあります。逆に、新品購入と中古品購入を比較して、価格競争が強まり価格の下押し圧力が増す可能性も高くなると考えるべきです。
このケインズ的な美人投票ともいいえる売れ筋ないし高級志向の可能性と価格競争の強まりは、価格の動きには逆方向に作用する可能性もありますが、もうひとつの注意すべき点は、フリマアプリだけではなく、広くシェアリング・エコノミーに共通する可能性が高いことです。すなわち、定義にもよりますが、我が国でシェアリング・エコノミーという場合、フリマアプリとともに、いわゆる民泊が頭に思い浮かびます。民泊の場合、まあ、高額の住宅ですので服ほどではない可能性が高いんですが、まったく同じケインズ的な美人投票による売れ筋ないし高級志向の可能性と価格競争の強まりがどちらも現れると考えられます。すなわち、人に貸しやすい人気の部屋を我が家として購入したり、あるいは、先々回収できる可能性が高まるので高級物件にシフトしたり、逆に、価格競争圧力が高まる可能性もあります。ただ、服やコスメと違って、後者の価格競争圧力が高まるのは、単に民泊物件だけではなく、既存のホテルや旅館も含めた宿泊施設一般になります。日本では白タク規制などから多くは見られませんが、ライドシェアの普及によってタクシー会社の経営が苦しくなった、という海外事例もあるようですし、民泊の普及による消費者行動の変化の一面である価格競争の高まりは、ホテル・旅館といった既存の宿泊業界の経営に何らかの圧力をもたらす可能性が十分あります。

実は、先週はこのマクロミル・ホノテの調査結果だけでなく、メルカリと三菱総研による共同研究の結果も明らかにされています。明日はソチラを取り上げたいと思います。

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2019年3月 3日 (日)

ウェザーニュース【第3回桜開花予想】やいかに?

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週末は毎度同じような季節の話題を取り上げているんですが、2月26日にウェザーニュースから【第3回桜開花予想】が明らかにされています。ウェザーニュースのサイトからポイントを引用すると以下の3点です。

<ポイント>
  1. 開花予想日: 前回(2/14)の発表から大きな変更なし。東京・靖国神社は3月21日開花の見通し
  2. 西日本は暖冬傾向で休眠打破に遅れ? 開花時期は例年並~やや遅い予想、東・北日本は例年並の開花に
  3. つぼみの生長は昨年とほぼ同じペース。3月は寒暖の変化が大きいが、つぼみの生長は加速と減速を繰り返しつつも順調に進む見込み

東京では、基準となる靖国神社の桜が3月21日、上野恩賜公園が3月22日の開花予想となっています。次回第4回桜開花予想は3月5日の予定だそうです。

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2019年3月 2日 (土)

今週の読書は本格的な生産性に関する経済専門書からエンタメ小説まで計8冊!

今週の読書は生産性に関する経済書をはじめとして、教養書や専門書などを含めて、さらに、米国大統領経験者が共著者となっているエンタメ小説まで、以下の通りの計8冊です。今日も図書館回りはすでに済ませており、文庫本が入るので、来週もそれ相応の冊数を読みそうな予感です。

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まず、森川正之『生産性』(日本経済新聞出版社) です。著者は経済産業総研の副所長であり、官庁エコノミストです。生産性、特にサービス業の生産性を専門分野のひとつとしています。本書では、「実務家」という表現で、ビジネスパーソンにも判りやすく、決して学界の専門家だけを対象とはしていません。広く生産性についての解説や実証研究などのサーベイを盛り込んでいます。もっとも、生産性と成長率の関係についてだけは、あまりに長期の関係ですので、これだけはアプリオリに生産性が向上すれば成長率も高まる、と仮定しているように見えます。ただ、現在の「長期不況」= secular stagnation の一因としての生産性との関係については、IT技術革新の成果が2000年代半ばまでに出尽くしたのと教育投資による人的資本の改善がピークアウトした2点をインプリシットに主張しています。そうかもしれません。また、最近話題になっているトピックについてもいくつか取り上げられており、例えば、AIやロボットによる雇用の代替効果については、そもそもカールワイツのような2045年シンギュラリティに素朴な疑問を呈するとともに、代替される労働は日本でもせいぜい10%足らずとの実証研究を引用していたりしますし、政府の進める働き方改革は、生産性向上に対する効果については疑問であり、労働者の福利改善と理解すべきと主張しています。外国人労働の受け入れについても、地方経済活性化の効果は限定的と分析しています。ただ、本書は供給サイドと生産性の関係だけを論じており、私から見て生産性について論じる場合、需要との関係が本書には決定的に欠けているような気がします。すなわち、あくまで短期的な関係かもしれませんが、資本生産性であれば、短期的には稼働率と生産性は正の相関関係があります。かなり正確に比例関係といっていいかもしれません。労働生産性は資本生産性ほどの比例的な関係ではありませんが、需要との相関は高いと考えるべきです。需要が高まれば労働生産性も高まります。ですから、本書のような長期的な視点ももちろん重要ですが、中期的に、例えば、バブル崩壊後の「失われた20年」で我が国の生産性が停滞したのは、イノベーションや人的資本や教育とかではなく、我が国の需要が盛り上がらなかったからではなかろうか、という短期的な視点をまったく無視するのは適当ではないような気がします。

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次に、デービッド・アトキンソン『日本人の勝算』(東洋経済) です。著者は、ゴールドマンサックスのエコノミストを務め、今では京都で美術工芸社の経営者をしています。何冊かのシリーズで似通った本を出版しているんですが、私もいくつか読んでいて、少しずつビミョーに論調を変化させていますが、経済実態が変化しているんですから、それは当然としても、底流にあるのは、日本人の労働者が優秀である一方で、経営者は水準が低く、高スキルの労働者を低賃金で雇えているのだから、日本企業に競争力があるのは当たり前である、という事実です。本書では、特に、高齢化や少子化などの影響により、社会保障財源のためにも優秀な日本人労働力をさらに生産性を高める必要がある、という論旨で一貫しています。ですから、今年始まる外国人剤の受け入れや消費税率の引き上げなどに小手先の政策対応ではなく、本書では最低賃金の引き上げによる賃金の全般的な底上げにより、逆に、効率や生産性を高める、という方策を推奨しています。その背景には、同様の最低賃金引き上げを実施した英国の例が引用されています。加えて、成人教育の充実も半ば強制的に実施することを提唱しています。本書では言及されていませんが、ノーベル賞も受賞したアカロフ教授が高賃金による贈与経済的な高生産性の実現をモデル化しています。やや、アカロフ的なモデルとは違っていますが、高賃金で経営者に労働の効率化を図り、同時に、労働者のインセンティブも高める、という結果に関しては、ここ何年か試みられた「官製春闘」に似た発想かもしれません。でも、今春闘はこれをギブアップして、安価な外国人労働力の導入という真逆の政策に切り替えたわけですし、「1人勝ち」とメディアに称される安倍内閣ですらできなかった賃金引き上げですから、どこまで本書の政策提言が有効なのかは、私は測りかねています。

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次に、ジョン・ルイス・ギャディス『大戦略論』(早川書房) です。著者は米国イェール大学の研究者であり、米ソ冷戦史が専門です。英語の原題は On Grand Strategy であり、邦訳タイトルはそのままだったりします。2018年の出版です。本書は、著者が米海軍大学校で講じた「戦略と政策」の内容も踏まえ、古典古代のペルシャ戦争やペロポネソス戦争から始まって第2次世界大戦までを対象に、孫子、マキアヴェリ、クラウゼヴィッツの3大家をはじめ、トゥキュディデスからリンカーンまで古今の戦略家・思想家を数多く取り上げ、大戦略の精髄を凝縮して戦略思考の本質を浮き彫りにすることに挑戦しています。ということで、大戦略とは、著者によれば、無限に大きくなる可能性ある願望に対応して、それを実現する能力が有限であるため、その間でバランスをとる必要がある、ということだとされています。本書ではまったく取り上げる素振りもありませんが、東洋の片隅に位置する我が国近代化の過程の中では、日清戦争と日露戦争、特に後者の終わり方に典型的に現れていると私は考えています。そして、このバランスを失したのが第2次世界大戦の終わり方であり、バランスを取るために必要と著者が力説する常識=コモンセンスが当時の我が国には欠けていた、ということになろうかと思います。ただ、私自身はその前段で緻密な情報収集と分析の能力も不可欠だと考えます。そして、本書では一般的な自然科学や社会科学で応用されるようなモデルを前提とする分析ではなく、歴史を分析しケーススタディを繰り返すことを重視しています。個別のケーススタディから汎用的なモデルを抽出して理論構築するのではなく、歴史学の観点から個別の事実を数多く集めて、それを応用することにより将来のあり得る事態におけるよき選択の導きを見出す、という方法論を取っているわけです。そして、繰り返しになりますが、そのスダンが理性であり、常識ともいいかえることができる、と結論しているわけです。個別の観察された事実から共通する要因としての理論やモデルを構築するのではないのは、近代科学の方法論ではないんですが、それだけに戦争というのは各ケースでモデルとして抽象化できる要素は少ない、もしくは、より平たくいえば共通性がない、と著者が考えているのだと私は受け止めています。そうかもしれません。ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を導いたわけですが、古典古代の戦争から第2次世界大戦までの戦争の歴史をかえりみても、共通のものさしで図れる部分は少ない、ということです。なお、どうでもいいことながら、歴史家の意見が一致する点で、米国の歴代大統領のうちでもっとも歴史的な貢献が高いのはリンカーンだと本書の著者は示唆しています。これも、そうだろうという気がします。

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次に、ウンベルト・エーコ『ウンベルト・エーコの世界文明講義』(河出書房新社) です。著者は、ご存じの通り、現代のイタリアのみならず世界を代表する知識人でしたが、2016年に亡くなっています。イタリア語の原題は Sulle spalle dei giganti Umberto Eco であり、著者死後の2017年の出版です。本書は、基本的に、最終章を除いて、2001年から15年までのミラネジアーナという文学・文化・芸術イベントにおける著者の講義・講演の記録を取りまとめたものです。ただ、何年か抜けていますので、15年間で15章ではなく11章です。それに最終章を加えた12章構成となっています。おそらく、エディタの編集にして正しいのではないかと私は思いますが、議論はあるかもしれません。すなわち、エーコ教授が生きていれば違う編集をした可能性は排除できません。それは別にして、本書の各章に通底するのは、美と真実に関する著者の見方、あるいは、美学と真実について延々と10年超に渡って語っている、というのが私の印象です。そして、読者としての私にすれば、美よりも真実の方に力点を置く読み方になってしまいます。でも、専門外ですから当然としても、かなり難解です。真実の相対性を否定し、絶対性を力説することから始まり、真実に対比する概念として、嘘、間違い、偽造などから、秘密を経て、最後は陰謀まで引っ張ります。嘘と間違いは意図の有無で区別されるので判りやすく単純な一方で、最終的な陰謀については、秘密結社が企むものもあって、とても胡散臭いわけですが、そこは、さすがのエーコ教授といえ、薔薇十字団やテンプル騎士団の伝説、フリーメーソンやユダヤの議定書といった陰謀説の歴史と同じ文法で、ケネディ暗殺や9.11テロに関する陰謀説に対する著者の考え方がかなりクリアに示されます。こういった数々の実例を上げつつ、「陰謀症候群の歴史は、世界の歴史と同じくらい古い」と述べる著者の博識には舌を巻きます。その上で、特に『ダ・ビンチ・コード』については明記して取り上げています。ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズについては、私は最新刊の『オリジン』まですべて読んでいるつもりですが、さすがに、フィクションの小説では底が浅い、というか、逆に、エーコ教授の知識の該博さには圧倒されます。美と真実のうちの校舎の真実について長々と感想文を書きましたが、前者の美に関しては、数多くの図版をフルカラーで収録し、それを眺めるだけでも本書の価値あり、と考える読者もいそうな気がするくらいです。

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次に、相澤冬樹『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋) です。著者はNHK大阪放送局(BK)の記者として森友事件の取材にあたった経験を持つジャーナリストです。今はNHKを辞職して大阪日日新聞の記者のようです。ということで、本書は森友事件の取材メモのような体裁で、NHK内部での取材メモやメールのやりとりなども赤裸々に引用されていますが、私のような読者が期待する森友事件の真実を明らかにする目的で公刊されたわけではないようです。ですから、事件発覚後の著者の取材過程や関係者の動向などは本書でかなり明らかにされていますが、事件発覚前、というか、実際に誰によって何がどのような意図のもとになされたのか、という事件をさかのぼった事実解明は本書の眼目ではありません。この点は忘れずに読み進むべきです。本書のタイトルは、いかにも安倍官邸からの圧力に抗してNHKのジャーナリストが報道しようと試みたプロセスを収録しているように見えますが、私が読み逃したのかもしれないものの、安倍官邸からの圧力はまったく出現しません。少なくとも、本書の著者が安倍官邸からの圧力を感じたとは思われません。もちろん、NHK報道局長などの幹部からの圧力が著者の記者にかかったことは記述されていますし、おそらく、直接ではないにしても忖度レベルかも知れないですが、何らかの安倍官邸からの圧力はNHKに対してあった可能性は否定できないものの、本書では実証されていません。広く知られた通り、大阪地検特捜部の結論は全員不起訴、すなわち、公判維持は困難、ということだったのですが、森友事件の実態とともに、この地検特捜部の意思決定の過程にも光を当ててほしかった気がするんですが、ここも消化不良で終わっています。私の期待が筋違いだったのかもしれませんが、ジャーナリストとしての取材の心がけや取材対象との接し方などの記者としてのあるべき姿はよく見えるんですが、NHK内部の幹部と現場記者との関係はともかく、安倍官邸との関係についてはタイトル倒れのような気がします。森友事件に関しては、かなりの程度に事実関係は明らかになりながら、その事実の背景、特に安倍官邸との関係については、何も国民には明らかにされていないわけですから、ジャーナリストとしてその点を掘り下げてほしかった気がします。

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次に、太田省一『テレビ社会ニッポン』(せりか書房) です。著者は社会学者・文筆家であり、テレビと戦後日本社会の関係をメインテーマとしています。本書は、タイトル通りに、テレビ論なんですが、「人はなぜテレビを見るのか?」という問いを発して、回答としては、視聴者が自由を得るためであり、テレビは自作自演的習性、つまり「自分でやったことなのに素知らぬふりをする」習性を持つ一方で、視聴者は番組に出演したり、ツッコミを入れたりしながらも、テレビを実質放置しており、戦後、暗黙の共犯関係によるテレビ社会ニッポンが誕生した、と主張しています。テレビの65年余りに及ぶ歴史を検証し、転換期にあるテレビと視聴者の未来、ポストテレビ社会を展望しようと試みています。 ということで、通例通りに、1950年代のテレビ放送の始まりに際して、プロレス、あるいは、力道山から話が始まります。そして、テレビから放送されるコンテンツとしてはプロレスをはじめとするスポーツはすぐに忘れられて、基本的に、いわゆるバラエティとワイドショーに的が絞られます。ドラマについては目配りされますが、バブル期のトレンディドラマくらいが取り上げられるだけで、ニュース報道にてついてはワイドショーで代表されている印象です。そして、私がもっとも不満に感じているのはアニメがまったく無視されている点です。そして、アニメが無視されていますので、21世紀の現代におけるテレビとゲームの関係がスッポリと抜け落ちています。典型的にはポケモンです。もちろん、ドラえもんやジブリについても、本書では何の言及もありません。ついでながら、ウルトラマンなどの特撮もアニメほどではないにしても、サブカルながら我が国を代表する文化です。忘れるべきではありません。加えて、米国テレビからの影響についても、ワイドショーがスポンサーのヴィックスの関係もあって、NBCの Today をベースにしている点しか触れられておらず、『クイズ100人に聞きました』がABCの Family Fued をベースにしているとかも、まさかと思いますが、ご存じないんでしょうか。テレビ初期の『ライフルマン』や『逃亡者』などについても、我が国テレビ界への影響力という点では忘れるべきではありません。何か所か「テレビが社会になった」という点を力説していますし、有名な「1億総白痴化」も言及されていますが、テレビ業界の内幕を中心とした内容のような気がします。少し物足りない読後感でした。

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最後に、ビル・クリントン & ジェイムズ・パターソン『大統領失踪』上下(早川書房) です。著者は1990年代に2期8年の米国大統領を務め、弾劾裁判にも生き残ったクリントン元大統領と米国の売れっ子エンタメ小説作家パターソンです。英語の原題は The President Is Missing と邦訳タイトルはそのままであり、2018年の出版です。要するに手短かにいえば、タイトルそのままに米国大統領がホワイトハウスから失踪する事件です。そして、どうしてかといえば、米国を標的とする強力なサイバーテロに対処するためです。ということで、現在もしくは近未来をの米国を舞台にしたエンタメ小説であり、サイバーテロリストと電話で連絡を取り合い、そのテロリストが命を狙われていた際にCIAエージェントの1人を犠牲にしてまでもテロリストの命を救った、という嫌疑で議会の公聴会への出席を求められ、場合にっよっては弾劾裁判にも進もうかという男系の米国大統領がホワイトハウスから失踪し、サイバーテロの防止が可能な人物との接触を試みます。そして、結局、ドイツやイスラエルの首脳と協議のうえでカギとなるウィルス無力化のパスワードを探しつつ、国内の対立党との政争や駆け引きに神経を消耗し、さらに、ロシアとの対外関係にも気を配る、というストーリーです。加えて、大統領自身の暗殺を狙うテロリストとシークレットサービスとの攻防戦も見ものです。さらにさらに、で、政権あるいはホワイトハウスの内部にも内通者がいることが明白で、そのあぶり出しや最後のどんでん返しなどなど、エンタメ小説としての面白さが満載です。主人公の米国大統領がどの政党なのかは明記されていませんが、政党のシンボルがロバですから民主党と推察されます。共著者の1人がクリントン元大統領なんですから当然です。そして、私が見た範囲では初めてかもしれないと思うのが、米国大統領が1人称でストーリーを進めている点です。大統領が話者となっている章とテロリストの側の章とが入り混じっているんですが、米国大統領がストーリー・テリングをしている小説なんて、私は初めて読みました。でも、ホワイトハウス内部の事情やシークレットサービスとの関係など、大統領経験者でなければ知りえない情報が盛り込まれているのかもしれません。ミステリとしてのホワイトハウスないし政権の内通者については、かなり底が浅くてすぐに判りますが、エンタメ度はかなり高くて楽しめる読書でした。いつもながら、翻訳者のひとりである越前敏弥の訳はとてもスムーズでリーダブルでした。

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2019年3月 1日 (金)

活発な企業活動を裏付ける法人企業統計と完全雇用に近い雇用統計と下がり続ける消費者態度指数!

本日、財務省から昨年2018年10~12月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は9四半期連続の増収で前年同期比+3.7%増の371兆6227億円、経常利益は10四半期振りの減益で▲7.0%減の19兆4763億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで製造業が+10.9%増、非製造業が+2.7%増となり、製造業と非製造業がともに伸びを示し、全産業では+5.7%増の12兆530億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比+3.3%増となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

設備投資5.7%増 情報通信けん引 10-12月、経常益は10四半期ぶり減
財務省が1日発表した2018年10~12月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比5.7%増の12兆530億円だった。増加は9四半期連続。情報通信機械や不動産業などでの投資がけん引した。一方で全産業ベースの経常利益は前年同期比7%減の19兆4763億円と、10四半期ぶりの減益となった。
設備投資の前年同期比の動向を産業別にみると、製造業は10.9%増加した。半導体や自動車向け電子部品など情報通信機械は60.3%増加した。自動車向け素材や化粧品など化学は21.6%増加した。半導体製造装置など生産用機械は24.1%増加した。
非製造業は2.7%増加した。オフィスビルや商業施設建設が増え不動産業は57.5%増だった。リース用車両など向け投資が増え物品賃貸業は27.8%増だった。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は季節調整済みの前期比で3.3%増と2四半期ぶりに増加した。製造業が前期比8.8%増、非製造業が0.2%増だった。
全産業ベースの経常利益で製造業は10.6%減と2期連続でマイナスとなった。年末に向け原油価格が急落したことで石油・石炭の業種で在庫評価益が減少したことが響いた。非製造業は4.9%減だった。人件費のコスト負担が増加したサービス業の減益などが重荷となった。
財務省は経常利益額は10~12月期としては過去3番目の高水準であることなどから「政府の月例経済報告による『景気は緩やかに回復している』(という基調判断)を反映している」との見解を示した。
また、中国の景気減速の影響について「生産用機械などで中国など海外企業から受注数が落ち込んだ、との声があったほか、情報通信機械で中国メーカーからスマートフォン(スマホ)やタブレットの部品の受注が減少しているとの声があった」と説明した。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や投資動向を集計した。今回の18年10~12月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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この法人企業統計の2018年7~9月期統計の発表を取り上げた昨年2018年12月3日の記事にも書きましたが、2018年7~9月期は広く認識されているように、豪雨、台風、地震など相次ぐ自然災害が経済活動を阻害して、GDPはマイナス成長を記録し、そのほか鉱工業生産指数などの経済統計も同様の傾向にあったんですが、法人企業統計では経常利益こそ前期から低下したものの、売上げは伸びており、売上げと利益で乖離が生じています。基本的に、2018年10~12月期統計でも同様の傾向は続き、季節調整済の前期比で見て、売上げは2018年7~9月期▲0.6%増、10~12月期▲0.7%増と、伸び率は大きく鈍化しましたが、プラスを継続している一方で、利益については営業利益・経常利益とも2四半期連続で前期比マイナスを記録しています。もちろん、引用した記事にもある通り、利益水準はかなりの高水準を続けており、景気局面と何ら不整合はないのは確かです。ただ、他方で、国際商品市況における石油価格はほぼ2018年10~12月期がピークだったでしょうから、基本的に、統計に表れていないながら、対消費者向けよりも企業間取引では原油高などの価格転嫁が進み、実質ベースでは売上げも低下している可能性があるのではないか、と想像しています。繰り返しになりますが、日銀の企業物価指数(PPI)や企業向けサービス価格指数(SPPI)などを見た上での私の想像です。いずれにせよ、季節調整済みの統計を見ている限りでは、売上げがわずかとはいえプラスを記録している点を含めて、利益は減少しているとはいえ高水準にあり、緩やかな回復基調が継続していることは企業活動についても同じであると、私は受け止めています。ただ、このブログで何度も繰り返しましたが、景気循環の拡大局面が後半に入っていることも事実ですので、それなりに注意する必要はいうまでもありません。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。ということで、上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下し上向く気配すらなくまだ下落の気配を見せていますし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞し底ばっており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけは、グングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善の重要なポイントである賃上げ、あるいは、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。ですから、経済政策の観点から見て、官製春闘は終了したとはいえ、企業活動がここまで回復ないし拡大している中で、企業の余剰キャッシュを雇用者や広く国民に還元する政策が要請される段階に達しつつある可能性を指摘しておきたいと思います。

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続いて、本日は総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など1月の雇用統計も公表されています。失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.5%となったものの、新たな求職などで女性の失業率が+0.3%ポイント上昇したためであり、有効求人倍率は前月と同水準の1.63倍と、タイトな雇用環境がうかがえます。いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた期間は景気後退期を示しています。グラフにはありませんが、正社員の有効求人倍率も前月と同水準の1.14倍を記録し、一昨年2017年6月に1倍に達してから、このところ1年半に渡って1倍を超えて推移しています。厚生労働省の雇用統計は大きく信頼性を損ねたとはいえ、少なくとも総務省統計局の失業率も低い水準にあることから、雇用はかなり完全雇用に近づいており、いくら何でも賃金が上昇する局面に入りつつあると私は受け止めています。もっとも、賃金については、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規雇用が増加することなどから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用状態であり、加えて、雇用不安の払拭から消費者マインドを下支えしている点は忘れるべきではありません。ただ、賃上げは所得面で個人消費をサポートするだけでなく、デフレ脱却に重要な影響を及ぼすことから、マクロの所得だけでなくマイクロな個人当たりの賃上げも早期に実現されるよう私は期待しています。

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続いて、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。消費者態度指数は前月から▲0.4ポイント低下して41.5を記録し、まだ反転の兆しも見えず5か月連続で悪化しています。いつもの消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。消費者態度指数が41.5の水準まで下がったのは2016年11月の41.0以来であり、統計作成官庁の内閣府では基調判断を「弱い動き」から「弱まっている」へと、6か月ぶりに下方修正しています。消費者態度指数のコンポーネントを前月差で見ると、「雇用環境」が+0.5ポイント上昇して44.8となったほかは軒並み低下し、「暮らし向き」が▲1.1ポイント低下して39.0、「耐久消費財の買い時判断」が▲0.8ポイント低下して40.9、「収入の増え方」が▲0.1ポイント低下して41.3、をそれぞれ示しています。一時の生鮮食品の値上がりはすでに落ち着いていますし、国際商品市況の石油価格に連動して電気・ガス料金も4月から値下げされる予定であり、消費者マインドもそろそろ上向くんではないかと、私は基本的に楽観視しています。逆から見て、今が底なのかもしれません。

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今日は女房の誕生日!

今日は、誠にめでたくも、女房の誕生日です。
何を思ったか、ホールのデコレーションケーキではなく、ショートケーキなどを買い込んできました。よく食べる下の倅が大阪に下宿して引っ越してしまったからなのかもしれません。上の倅はイチゴのショートケーキを、私はモンブランをいただきました。
いつものくす玉を置いておきます。

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