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2019年3月23日 (土)

今週の読書は経済書より小説が多く計8冊!

今週も文庫本を含めて小説の数が多く、経済書は少なくなっていますが、話題の本も何冊か含まれています。来週くらいまでは数冊の読書ペースを維持したいと考えていますが、来週限りで公務員を定年退職しますので、4月に入れば読書ペースを大きく落として再就職先を探すのをがんばりたいと思います。
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まず、牛山隆一『ASEANの多国籍企業』(文眞堂) です。著者は日本経済研究センターの研究者です。本書では、タイトル通りに、ASEAN諸国、本書ではASEANオリジナルのインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポールの5か国に加えて、ベトナムを加えた6か国の多国籍企業をリストアップしています。従来から、東アジアの中国も含めて、先進国からの直接投資を受け入れる形で経済発展が図られてきた、日韓が国内資本による経済成長を実現したのとは大きく異なる形での経済発展として捉えられてきましたが、1990年台からASEANの東南アジア諸国では、受け入れる対内直接投資だけではなく、対外直接投資を積極的に実施する企業が増加している現状を、基本的に国別の企業レベルで取りまとめています。すなわち、シンガポールやマレーシアについては国策として国営・公営企業やソブリン・ウェルス・ファンドからの投資も含めて、対外投資を実行しており、タイやインドネシアやフィリピンなどは民間企業が、ベト並みは社会主義経済ですので国営企業が、それぞれ表立って対外投資の主役となっています。また、従来、1990年台から貿易に関しては欧州以上に東南アジアでは域内貿易の比率が高くなっているんですが、直接投資についても同様であり、ASEANなどの東南アジア域内の相互の直接投資の比率が高くなっているようです。ただ、本書では記述統計というか、現状どういった企業がどの国に多国籍企業として展開しているか、という点についてはそれなりに詳しいリサーチがなされているんですが、誠に残念ながら、その背後の経済的な諸用因については目が届いていません。例えば、日本に歴史を紐解くまでもなく、我が国では製造業が対外直接投資の主役であり、その要因としては、米国などの先進国に対しては関税や輸出自主規制などの貿易制限的な制度を回避するため、途上国に対しては現地の安価な労働力を活用するため、というのが極めてステレオタイプながら、典型的な理解だったような気がします。他方で、本書で取り上げられているASEAN[の多国籍企業は、通信や運輸が世界的な展開を志向するのは理解できるとしても、それなりに国別の差の大きい食生活で外食産業が海外展開しているのはなぜか、私はとても興味がありますが、本書では踏み込み不足という気もします。実は、例えば、我が国でもカフェをはじめとしてハンバーガーやフライドチキンなどのファストフードも含めて、海外の外食産業はかなり多く日本国内で事業展開しています。ASWEANでも基本的に同じことだとは思うんですが、日本でいえば牛丼やうどん・そばなどの伝統的な外食産業との共存関係も気にかかるところで、多国籍企業だけを単独で分析することは限界があります。ただ、海外事情については、かなり身近なASEANであっても、これだけの情報が利用価値高いんでしょうから、まだまだ入手の壁が高いのかもしれません。
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次に、ステファニー L. ウォーナー & ピーター・ウェイル『デジタル・ビジネスモデル』(日本経済新聞出版社) です。著者2人は米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールの研究者です。本書の英語の原題は What's Your Digital Business Model? であり、2018年の出版で、邦訳は模村総研だったりします。本書では、タイトル通りに、デジタル・ビジネスモデル(DBM)に関して、最近のビジネス書でも共通限度と説得力あるフレームワークが欠けていると主張し、副題にある6つの問いとは、1.脅威:あなたの会社のビジネスモデルに対して、デジタル化がもたらす脅威はどれほど大きいか、2.モデル:あなたの会社の未来には、どのビジネスモデルがふさわしいか、3.競争優位:あなたの会社の競争優位は何か、4.コネクティビティ:「デバイスやヒトとつながって(コネクトして)学びを得る」ために、モバイル技術やIoTをどのように使いこなすか、5.能力:将来のためのオプションに投資するとともに、必要な組織変革の準備をしているか、6.リーダーシップ:変革を起こすために、すべての階層にリーダーとなる人材がいるか?であり、その上で、4つのフレームワークを以下のように示しています。1.サプライヤー:他の企業を通じて販売する生産者(例:代理店経由の保険会社、小売店経由の家電メーカー、ブローカー経由の投資信託)、2.オムニチャネル:ライフイベントに対応するための、製品やチャネルを越えた顧客体験を創り出す統合されたバリューチェーン(例:銀行、小売、エネルギー企業)、3.モジュラープロデューサー:プラグ・アンド・プレイの製品やサービスのプロバイダー(例:ペイパル、カベッジ)、4.エコシステムドライバー:エコシステムの統括者。企業、デバイス、顧客の協調的ネットワークを形成して、参加者すべてに対して価値を創出する。特定領域(例えばショッピングなど)において多くの顧客が目指す場所であり、補完的サービスや、時にはライバル企業の製品も含め、よりすばらしい顧客サービスを保証する(例:アマゾン、フィデリティ、ウィーチャット)、となります。これは、本書p.13の4象限のカーテシアン座標の図を見る方が判りやすいかと思います。大企業などでは、複数のフレームワークに基づく事業展開をしているものもある、と指摘しています。いつもながら、ビジネス書ですので極めて多数のケーススタディを実行していて、サクセスストーリーを数多く紹介しているんですが、その背後にどれくらいの失敗例があるのかは不明です。さらに、成功例について、売上げの伸び率が高いとか、利益率が高いとか、いくつかの数値例を上げていますが、これにつては逆の因果が成り立つ可能性を指摘しておきたいと思います。すなわち、デジタル・ビジネスモデルを確立した事業だから利益率が高い、という因果の流れではなく、逆に、何らかの他の理由で利益率が高いので、デジタル・ビジネスモデルの確立のために豊富なリソースを割くことができる、という可能性です。利益や売上げとR&Dの関係には、一部に、こういった因果の逆転が見られる例もあったのではないかと私は記憶しています。まあ、経営に関する私の知識には限りがあります。
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次に、ハンス・ロスリング & オーラ・ロスリング & アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS』(日経BP社) です。著者はTEDでもおなじみのスウェーデン人医師とその息子とその妻の3人です。ただ、ファースト・オーサーであろうハンス・ロスリングは2017年に亡くなっています。原書は2018年の出版です。本書では、ついつい陥りがちな偏見や先入観を排して、世界の本当の姿を知るために、教育、貧困、環境、エネルギー、人口など幅広い分野を取り上げています。いずれも最新の統計データを紹介しながら、一昔前とは時を経て変化した世界の正しい見方を紹介しています。私のやや歪んだ目から見て、著者の見方はほぼほぼマルクス主義的な経済の下部構造が政治や文化などの上部構造を規定する、というのと、開発経済学的な経済発展による豊かさとともに世界は収斂する、という2つの視点を支持しているように見えます。そして、実際には章別第1章から10章までのタイトルに見られる通り、分断本能、ネガティブ本能、直線本能、恐怖本能、過大視本能、パターン化本能、宿命本能、単純化本能、犯人捜し本能、焦り本能の10のバイアスを克服する必要を説いています。そして、ハンス・ロスリングの医師としての国際協力の現場などでの体験を基に、とても判り易く解説を加えています。世界各国を1日1人当り所得で4つの階層に区分し、それぞれの生活様式がとても似通っている点などは経済の下部構造の重要性を指摘して余りあります。加えて、ハンス・ロスリングは自らを「可能主義者」と定義していますが、私も基本的には世界の先行きについては、とても楽観的な見方をしています。本書では何ら触れていませんが、私は楽観的な見方の根拠には技術革新に対する信頼感があります。人間はなにかの必要に応じて技術革新でもって対応できる、と考えているわけです。そして、技術革新を基礎としつつ、歴史の進歩に対する信頼感もあります。世界はいい方向に向かって進んでいると私は考えているわけですが、基本的に、時系列で考えて、一直線とはいわないまでも単調に増加もしくは減少するものと、何らかの上限もしくは下限があってロジスティックなカーブを描く場合と、カオス的とはいわないまでも循環的に振動するケースの3つがあると私は考えています。もちろん、この組み合わせもアリで、経済は循環しつつ拡大を続け、先進国だけでなく発展途上国も豊かさの点では成長が継続し、世界経済は収斂に向かう、と私は考えています。今週の読書の中では、ベストでした。実は、2月16日付けの読書感想文で『NEW POWER』をもって今年のマイベストかもしれない、と書きましたが、本書もそうかも知れません。今年はマイベストを連発しそうで少し怖かったりします。
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次に、上田岳弘『ニムロッド』(講談社) です。ご存じ、第160回芥川賞受賞作品です。主人公はネット・ベンチャーで仮想通貨を採掘する中本哲史、その恋人で中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の田久保紀子、さらに、小説家への夢に挫折した職場の元同僚であるニムロッドこと荷室仁の3人を軸に物語は進みます。ニムロッドから中本にダメな飛行機コレクションが送られくるのもとても暗示的です。本書のテーマは「「すべては取り換え可能」というものですが、実は、著者はそれを必死になって否定しようとがんばっているような気がします。「取り替え可能」というのは、資本主義の宿命であり、資本主義を象徴するマネーの変種である仮想通貨の採掘を、ビットコインの考案者であるサトシ・ナカモトと同名の主人公にタスクとして割り振っているのも象徴的です。「取り替え可能」を本旨とする資本主義の生産の最前線でがんばっている3人を見る著者の眼差しはとても温かく、励まされるものを感じます。いわゆる純文学ですから、私のよく読むエンタメ小説、というか、ミステリのような解決編、いわゆるオチはありませんが、表現力や構成力は芥川賞にふさわしく感じました。それにしても、数年前までは、私は熱心に芥川賞受賞作品を読んでいて、ほとんど『文藝春秋』の特集号で選評と併せて読んでいたものですが、年齢とともに純文学を読まなくなり、この作品はホントに久し振りの芥川賞受賞作の読書となりました。そこで、斜向かいに感じたのは主人公の年齢が日本社会の高齢化とともにジワジワと上がっているんではないか、という点です。その昔の吉田修一の「パークライフ」では主人公は20代ではなかったかという気がします。そして、芥川賞受賞作で初めてパソコンに関するテーマを私が読んだのは、絲山英子の『沖で待つ』でハードディスクを壊す、というのではなかったかと思うんですが、主人公はアラサーだったような気がします。そして、本作ではアラフォーにまで年齢が上がっています。そのうちに、芥川賞や直木賞も70代の主人公が活躍する小説に授賞されたりするんでしょうか。やや、気が滅入る思いだったりします。
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次に、ジェフリー・ディーヴァー『スティール・キス』と『ブラック・スクリーム』(文藝春秋) です。著者は、ご存じ、米国の売れっ子ミステリ作家であり、終盤のどんでん返しで有名です。実は、『スティール・キス』の方は決して新刊ではなく、2017年の出版なんですが、『ブラック・スクリーム』の出版を知って検索していると、『ブラック・スクリーム』はリンカーン・ライムのシリーズ第13作であって、その前の第12作が『スティール・キス』として出ていたらしいので、少しさかのぼって読んでみたところです。『スティール・キス』の方はいわゆるサイバー・テロの可能性を示唆するもので、『ブラック・スクリーム』は移民や難民に偽装したテロリストの侵入を扱っていて、特に、『ブラック・スクリーム』ではリンカーン・ライムがアメリア・サックスとともに、ニューヨークを出てイタリアに出張してのご活躍ですので、ややめずらしげに目を引きます。また、ご当地イタリアの森林警備隊の隊員が鮮烈なデビューを果たしますから、アメリア・サックスとか、ロナルド・プラスキーのように、リンカーン・ライム率いるチームのレギュラーメンバーになる可能性は低いとは思いますが、今後の成長も楽しみです。『スティール・キス』では、サイバー・テロのホントの首謀者がだれなのか、『ブラック・スクリーム』では難民に偽装したテロリストを暴こうとする意図が、それぞれ、ミスリードされていて最後の鮮やかなどんでん返しが堪能できます。さらに、『スティール・キス』ではライムがアメリアにまったくロマンティックではないセリフでプロポーズしたことが明らかにされ、『ブラック・スクリーム』事件の解決後に2人は欧州でハネムーンを楽しむようです。最後に、すでに米国ではほぼ1年前の2018年春先にリンカーン・ライムのシリーズ第14作が出版されていて、なかなかのペースでの執筆ぶりがうかがえます。
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次に、猪谷千香『その情報はどこから?』(ちくまプリマー新書) です。著者はジャーナリスト出身で、先に取り上げたロスリング一家の『FACTFULNESS』と違って、明確にフェイク・ニュースをターゲットにしています。ただ、そのターゲットは曖昧で、情報リテラシー一般も同時にテーマとなっていて、とても焦点がピンぼけのわけの判らない解説書です。読んでも読まなくても、その前後で情報リテラシーが向上するようには思えません。情報の選別に関しては、従来からの伝統的なメディアであった新聞や雑誌にラジオが加わり、さらにテレビが入ってきて、本書でも指摘するように、この4つが伝統的なメディアなんでしょうが、そこにインターネットが登場し、さらに、個人がSNSなどで情報発信をできるようになり、さらにそれが拡散していく、というプロセスが技術的に可能になった現段階で、明らかに、本書でも取り上げられているようなフィスター・バブルが生じ、また、本書では忘れられているエコー・チェンバーが発生したりしているわけで、その情報リテラシーの向上に何ができるかを考えるべきです。最後の最後に、図書館の利用が唐突に割って入っていますが、図書館のヘビーユーザである私の目から見て、この著者はほとんど図書館を利用していないように見えて仕方ありません。最近、東京などの区立や公立の図書館では、いわゆる指定管理者制度が広範に導入され、図書館職員の質の低下が著しくなっています。私はいろんな図書館に週当たりで3~4回くらいは行くんですが、図書館員すべてではないにしても、図書に対する知識がなく、まるで、できの悪い公務員になったかのように利用者にエラそうな態度で接する図書館員が目につくようになっています。ただ、利用者の方のレベルも低下している可能性があり、何ともいえませんが、図書館の利用が情報リテラシーの向上につながると考えるのは極めてナイーブな視点ではなかろうかと思います。さらに、ジャーナリスト出身らしく、インターネットよりも伝統的なメディアに信頼感があるようですが、単にジャーナリストノヨウニダブル・トリプルで裏を取ることを指した「ファクト・チェック」の用語を使うだけでは何の解決にもならないことは明らかです。経済学の著名な論文に "Who will guard the guardians?" というのがありますが、ファクト・チェックをする人をチェックする必要はどうなんでしょうか。さらに、それチェックする人は? となればキリがありません。
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最後に、カレン M. マクマナス『誰かが嘘をついている』(創元推理文庫) です。この作者のデビュー作です。高校の最終学年の何人かの生徒が登場し、まあ、何となくですが、青春小説風になっています。携帯電話に厳しい先生の授業に携帯電話を持ち込んだというので、作文、反省文の居残りをさせられた5人の高校3年生のうち、日本でいえば学校裏サイトのようなゴシップ情報を集めたアプリを運営している生徒が死にます。ピーナツ・アレルギーらしいんですが、水分補給の際にピーナツオイルをいっしょに摂取し、しかも、保健室にアナフィラキシー補助のエピペンが処分されている、という状況です。殺人と警察で考えられて捜査が進みます。死んだ生徒以外の4人には、学校裏サイトにゴシップをアップさせられる予定があり、それなりの動機があるとみなされます。しかも、この4人は代々イェール大学に進学する一家出身の優等生、大リーグからドラフトにかかりそうな野球のピッチャー、はたまた、マリファナの販売容疑で逮捕東国の前科ある不良、などなど、そろいもそろってクセのある生徒ばかりです。日本でいえばワイドショー的なメディアの取材攻勢があったり、人権保護団体の弁護士が乗り出してきたりと、いろいろとあるんですが、ハッキリいって、謎解きのミステリとしてはレベルが低いです。がっかりです。ただ、高校最終学年の青春小説として読む分にはそれなりの水準だという気もします。

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コメント

長い間、ご苦労様でした。ポケモンおとうさんほどのインテリジェンスがあれば、まだまだ世の中に立つ仕事があると思います。次のステージでのご活躍を祈念しております。

投稿: kincyan | 2019年3月25日 (月) 00時57分

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