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2019年6月22日 (土)

今週の読書は歴史上の偉大なエコノミスト12人の伝記をはじめ小説も含めて計7冊!

一昨日の木曜日6月20日に、ご寄贈いただいた松尾匡[編]『「反緊縮!」宣言』(亜紀書房) を取り上げましたが、今週の読書はほかに、以下の通り、私の予想に反して意外と人気の出なかった『アダム・スミスはブレグジットを支持するか? 』はじめとして、経済書を中心に以下の6冊です。実は、先週取り上げた『「追われる国」の経済学』についても、私はもっと話題になるんではないか、と考えていたんですが、どうもそれほど注目を集めているわけではないようです。官庁エコノミストを定年退職してから、私の読書眼もやや鈍っているような気がします。

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まず、リンダ・ユー『アダム・スミスはブレグジットを支持するか?』(早川書房) です。著者は、英国のキャスターであるとともに、オックスフォード大学で経済学博士号を取得しているエコノミストでもあります。英語の原題は The Great Economists であり、2018年の出版です。本書では、邦訳タイトルのように、アダム・スミスが英国のEU離脱を支持するかどうか、など、歴史上の著名なエコノミスト12人が現代的な経済課題にどう答えるか、という体裁を取っていますが、もちろん、そんなことにストレートに回答できるハズもなく、実は、12人のエコノミストの伝記になっている、と考えるべきです。私が読んだ限りでは、少なくとも、アダム・スミスがBREXITを支持するかどうかは明確ではありませんでした。私が読み逃しただけかもしれませんが、まあ、そんなことは判りません。スミスが自由貿易を支持したことは明記されていますが、そんなことは本書を読まなくても理解できるでしょう。ただ、今さらながらに思い起こしてしまったのは、マルクス的な共産主義の最も基本は公平と公正だということです。でも、マルクスが現在の中国経済をどう評価するかは、確かに、ビミョーなところかもしれません。ほかにも基本的なラインを思い出したのは、マーシャル的な経済学は政策科学であり、政策的な解決策を提示する必要ある、というのは重要なポイントだと思います。私はエコノミストとして、現状判断はそう無理なくできるような気がしますが、コンサル的に処方箋を書くのは少し苦手だったりしますので反省しています。かなり現在に近くて、それだけに仮定的な判断のあり方に興味あったのは、リーマン・ショック後の金融危機に対するフリードマン教授の対処方法です。本書の著者は、フリードマン教授は日本に量的緩和をオススメした実績もあり、FEDが当時のバーナンキ議長の下でQEを実施したのは支持するだろうと判断しています。私もそうなんだろうと思います。ということで、最後に、繰り返しになりますが、現代的な経済問題に対する歴史上の偉大なエコノミストの対応を仮定的にせよ期待するのではなく、あくまで、偉大なエコノミストの生い立ちを含めた伝記だと思って読み進むことをオススメします。

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次に、森信茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社) です。著者は、財務省から退官後は研究者に転じた税法の専門家です。実に興味あるタイトルであり、例のロボット課税とか、あるいは、税制ではないにしてもベーシック・インカムの議論なども収録されていますが、基本は、かなり課税に関するテクニカルな議論が展開されていると考えるべきであり、その意味でかなり難しい内容です。私は半分も理解できた自信はありません。ただ、GAFAなどのIT大企業がタックスヘブンの利用や極めてアグレッシブな課税回避スキームの利用で、ほとんど税金を収めていないのは広く知られた通りです。本書では、double Irish with a Dutch sandwitch などの手法を詳細に解説しており、経済協力開発機構(OECD)の試算では1,000~2,400億ドルの課税漏れが生じている、などと紹介しています。ただ、これも本書で取り上げていますが、こういった課税逃れについては、まっ先に指摘されたのは英国におけるスターバックスです。結局、本書でも指摘しているように、スターバックスは自発的に年間1,000万ポンドの納税を行っているそうですが、要するに、デジタル経済でなくても、本書で指摘しているようなアグレッシブなものも含めたタックスへ分bを利用した移転価格による課税逃れは、多国籍企業には広く見られるものではないのか、という気はします。すなわち、デジタル経済特有の問題ではないと私は考えます。これも、本書で取り上げられている武富士創業者一族による相続課税逃れも同じです。その意味で、最初に触れたロボット課税とか、AIとロボットによる雇用の喪失に伴うユニバーサルなベーシック・インカムの問題こそがデジタル経済に特有の税制問題であろう、と私は考えるんですが、本書では極めて限られたスペースでしか論じられていません。誠に残念です。

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次に、野村総合研究所『ITロードマップ 2019年版』(東洋経済) です。これも、税制の本と同じで、工学的な技術、それも、この先5年位を見据えた技術動向ですから、誠に情けないながら、私にはサッパリ理解できない内容だった気がします。毎年出版して、今年で14冊目、ということのようですが、恥ずかしながら、私は初めて読みました。今まで何をしていたのかは不明だったりします。これまた、半分も理解できた気がしませんが、巻末に用語解説がありますので、場合によっては、先にそれに目を通しておくのも一案かもしれません。日本語の用語集で、エンティティや決定木くらいならともかく、勾配ブースティングになると、私にはサッパリ判りません。また、量子コンピュータというのは何度も聞いたことはあるものの、0と1だけでなくその中間的な値を取れる、などと解説されても理解にはほど遠い気がします。工学的な技術動向に疎いエコノミストに理解できて興味あったのは、例えば、Amazon Go といった無人店舗の拡大と雇用の問題とか、AIに特化したチップの製造が試行されているとか、3Dプリンタによる製造が試作品などの付加製造からより幅広く実用化される方向にあるとか、といった点です。特に、カスタマー・エクスペリエンス(CX)から、今後はエンプロイー・エクスペリエンス(EX)の現実化に進むといわれれば、そうかもしれないと考えたりもします。アリババが国家と一体化して進めているように、信用スコアの構築と実用化なんかも今後の課題になりそうです。セキュリティ面で、Google のゼロ・トラスト・モデルで、ソフトウェアも、人も、何も信用しない、というのはゼロ・トレランスからの発想だろうか、と思わないでもありません。最後に、どうでもいい指摘で、データ・サイエンティストがセクシーであるというのは、2012年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』ではなく、もっと前の『マッキンゼー・クォータリー』ではなかったか、と私は覚えています。私が統計局に出向したのが2010年の夏で、その着任挨拶で引用した記憶があります。

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次に、羽賀祥二[編]『名古屋と明治維新』(風媒社) です。編者は、名古屋大学をホームグラウンドとしていた研究者で、すでに引退しているようです。チャプターやコラムごとの著者には、名古屋市博物館や蓬左文庫の学芸員などが名を連ねています。ということで、あまりまとまりもなく、統一性や整合性も十分ではないような気もしますが、それぞれの観点から幕末から明治初期の名古屋について歴史的に跡付けています。というのは、私のようなシロートから見ても、明治維新の立役者は薩長土肥といった西南雄藩であり、その敵役は会津藩などであり、徳川政権の親藩ご三家については、第8代将軍吉宗以来の伝統で、14代の家茂もそうなんですが、宗家の本流といっても差し支えないくらいの紀伊、逆に、徳川宗家とは距離を置き反体制派的な色彩すらある水戸、に対して、親藩ご三家筆頭ながら何となく特徴に欠ける尾張、という受け止めが一般的ではないでしょうか。ですから、新政府軍は名古屋を素通りしたりしています。ただ、支配階層から見た歴史はそうなのかもしれませんが、民衆の指示というのは目には見えなくても不可欠なわけで、例えば、本書でもp.57に新しい勢力の一半として、薩摩芋や長芋で薩長を暗示しつつ、尾張大根もOKといった政治風刺のチラシが紹介されているなど、当時の一般国民レベルでは尾張藩も薩長土肥と同列とはいわないまでも、改革派と見なされて支持されていたようです。ただ、やや強引に見える立論もあり、例えば、青松葉事件から尾張藩関係者が明治新政府で栄達しなかった原因を探るのはムリがありますし、入鹿池の決壊から成瀬・竹腰両付き家老の勢力伸長を解き明かそうと試みるのも強引な気がします。いずれにせよ、ややまとまりに欠ける名古屋論集だという気がして残念です。

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次に、柚月裕子『検事の信義』(角川書店) です。著者は、本書の検事佐方貞人シリーズなどで売れっ子のミステリ作家です。本書はシリーズ4作目だそうですが、私は過去3作すべて読んでいると思います。本書は著者の作家デビュー10周年記念作品だそうで、佐方貞人を主人公とする短編4作を収録しています。主人公のモットーは「まっとうに罪を裁かせる」であり、真実に迫る姿勢が好ましく感じられます。私自身は、かなり融通を利かせる方ですので、やや取り組み方の姿勢が違っているんですが、「青臭い」部分もある佐方健司検事の方に共感を寄せそうな読者がいっぱいなんでしょう。ということで、舞台は平成10~12年ころ、約30年前の東北地方にある架空の県庁所在都市である米崎市の米崎地検に勤務する検事の佐方と佐方を補佐する事務官の増田、地検で佐方の上司に当たる副部長の筒井、さらに捜査機関である米崎東警察の南場署長らの登場人物がお話を進めます。佐方は任官4~5年目ですから、まだ30歳前後であり、米崎市は東京から北に新幹線で2時間だそうですから、ほぼほぼ仙台をイメージしてよさそうです。軽いミステリの謎解きになっていますが、謎解きが主眼の小説ではありません。むしろ人間模様というか、人間性の発露のようなものを描くのを目的とした小説です。ということで、私はこのシリーズの中では主人公の佐方検事や補佐役の増田事務官もさることながら、上司の筒井副部長のキャラが好きです。第2話の終わりの方に「俺は、恨みは晴らさないが、胸に刻む主義だ」とうそぶいていたりします。佐方は「覚えておきます」と答えています。なかなかの会話だという気がします。

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次に、久住祐一郎『三河吉田藩・お国入り道中記』(インターナショナル新書) です。著者は、豊橋市美術博物館の学芸員です。冒頭に、「古文書から読み解く参勤交代の真実=リアル」とあるように、徳川後期の参勤交代について、譜代大名で三河吉田藩に封じられている松平家の若殿様が、天保年間に父親の名代としてお国入りする際の大名行列について、目付けとして実務を担当した藩官僚の記録から解明を試みています。ところが、ページ数のボリュームで数えて、⅔くらいまで実際の参勤交代は出発しません。それだけ、準備がタイヘンだということであり、「道中心得方之留」などといったマニュアルが紹介されたりもします。正室が江戸詰めであるわけですから、若殿は通常江戸の生まれ育ちであり、父親たる大名の名代として初めてお国入りする際の行列の規模については、通常よりも大きめ、でも、名代ではなく大名を相続してからのお国入りよりは小さく、ということに決まります。19世紀に入ってからの天保年間ですから、徳川政権が成立してからはもちろん、参勤交代が制度化されてからも200年が経過しており、藩官僚としては参照すべき前例がタップリ蓄積されているわけです。そして、天下泰平が続く中で、先週取り上げた『壱人両名』にあったように、本音と建前を使い分けて、融通を利かせるように制度も変化を続けています。そういった例がいくつも見られ、微笑ましいというか、日本人の知恵といったものに感心させられます。

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最後に、原真人『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書) です。著者はジャーナリストです。かなりひどく経済政策について理解していない気がしますが、まあ、こういったジャーナリストからの政策当局に対する批判は、当然ありうべきものです。日銀などの先進国における中央銀行が政府から独立しているとはいえ、政策当局が国民から独立しているわけではないと私は常々考えていますので、国民サイドからの何らかのチェックは必要です。ただ、日銀による金融政策運営を軍部による戦争になぞらえるのは、やや下品な気もしますが、批判論者の立場がよりクリアになるということであれば、それなりにアリなのかもしれません。例えば、冒頭から、「異次元緩和」は真珠湾攻撃、「マイナス金利」はインパール作戦、「枠組み変更」は沖縄戦に、それぞれなぞらえられたエピグラフが配されています。批判の中心は、現在の黒田日銀の異次元緩和が財政ファイナンスにつながり、財政赤字が積み上がっていくことに対する素直な恐怖なのかもしれません。それはそれで、エコノミストの側で理解すべきです。まあ、自然科学の素養のない大昔の人が暗闇を怖がったのと同じなのかもしれません。というのは、本書の議論のバックグラウンドには特段の経済学的な裏付けはないと私は感じたからです。決して、オススメはしませんが、何かの点で現政権に反対意見を持ちたいという党派的な読者には好意的に受け入れられる可能性があります。ただ、それなりの基礎的な知識あるエコノミストや現在のアベノミクスを支持している多くの国民からは、とても疑問の多い内容だと思います。繰り返しになりますが、正面切ってまじめに論評するレベルには達していない一方で、権力に対する批判は、これくらいの健全ではない批判であっても許容されるんではないかと、私は広い心を持ちたい気がします。

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