今週の読書は経済書の読書に失敗しつつ計6冊!!!
今週も、梅雨のうっとおしいお天気が続く中で、それなりに読書に励み、以下の通りの計6冊を読みました。経済書は1冊だけだったんですが、とんでもない失敗読書でした。先週取り上げた原真人『日本銀行「失敗の本質」』並みのトンデモ経済学が展開されていました。その分、とても私好みの左派的な英国労働党コービン党首にスポットを当てたノンフィクションを読みましたので、これは読書の甲斐がありました。
まず、野口悠紀雄『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎) です。著者は、財務省から学界に転じたエコノミストです。ですから、相も変わらずに、ものすごく上から目線の仕上がりになっています。ということで、いきなりネタバレかもしれませんが、結論を先取りすると、要するに、昭和の時代から続いてきたバブル経済に浮かれて世界経済の変化を見抜けず、従来手法による対応しか取れずに変化への対応を誤った、ということになります。ここでの対応とは、必ずしも政策対応に限定せず、企業経営の方にむしろ比重が置かれています。政策対応として特徴的なのは、これまた従来からのこの著者の主張で、金融政策は景気局面によって非対称であり、景気引き締めには有効性が高い一方で、逆の景気浮揚策としては力不足、というか、ほとんど有効ではない、ということになります。ですから、物価目標はヤメにして、実質賃金上昇率を金融政策の目標とすべきであるとの議論を展開しています。というか、全然展開していないんですが、主張はしています。とても矛盾していることは著者ご本人は気づいていないようです。世界経済の大きな変化は、ひとつには、インターネットの普及に依る部分があり、著者はインターネット上にポータルサイトを作ろうと試みたことがあるようで、その時点ではアマゾンやヤフーとそう違わないポジションだった、と自慢していますが、それを企業化できないところが、すなわち、企業の新陳代謝の少なさが我が国経済のひとつの弱みになっていることは気づかないようです。政権交代による民主党内閣の成立が平成という時代を画するひとつの特徴だったと私は考えているんですが、わずかに、この民主党政権の評価はいい線いっています。ほとんど実現する裏付けない公約で政権交代したところで、なんの意味もなかったというのは明白です。ほかは、インターネットのポータルサイトと同じで、かなりのボリュームが著者の自慢話した個人的な平成回顧に当てられています。特に、第4勝広範のスタンフォード大学でのサバティカルについては、なんの意味もなしておらず、単なる自慢話と個人的な回想にとどまっています。せめて、第5章の米国の住宅バブルを取り上げたところに入れれば格好もついたような気がするんですが、編集者の責任もあるかもしれません。もともと、左派エコノミストである私とは主張が大きく食い違っていますし、経歴からしてガンガン上から目線で迫ってくるわけですが、著者もお年を召したような気がして、ややモノにならないように思えてなりません。ハッキリいって、先週取り上げた原真人『日本銀行「失敗の本質」』並みの失敗読書でした。
次に、アレックス・ナンズ『候補者ジェレミー・コービン』(岩波書店) です。著者は、ライター・ジャーナリストのようですが、2018年から、まさに、労働党のコービン党首のスピーチライターを務めています。本書の英語の原題は The Candidate であり、初版が2016年に出版された後、最終第15章に2017年の英国総選挙を増補した改訂版が2018年に第2版として出版されており、本邦訳書はその第2版を底本として翻訳されています。ということで、初版本は英国労働党の投手戦でジェレミー・コービン現党首が選出されるまでのドキュメントであり、繰り返しになりますが、増補第2版において2016年のBREXIT国民投票や2017年英国総選挙に関するルポを含めるようになっています。上下二段組で400ページを超えるボリュームです。軽く英国労働党の最近の歴史をおさらいすると、ご案内のように、1997年にブレア党首がニュー・レイバーとして、まあ、何といいましょうか、右派を代表した現実路線から選出された上で総選挙にも勝利し政権を奪取したんですが、例の2001年のアル・カイーダによるテロ、9.11ニューヨークの貿易センタービルへのテロに対する報復で、英国は米国とともにイラクへの多国籍軍の中心となり、結局は、米国ブッシュ政権に加担しただけでの結果に終わり、さらに、2008年の米国サブプライム・バブル崩壊の余波をもっとも大きく受けた国のひとつとして、労働党は大きく国民の支持を失い、ニュー・レイバーのブレア-ブラウン政権から2010年の総選挙で労働党は敗退し、ミリバンド党首を経て、本書の舞台となる2015年の労働党の党首選において現在のコービン党首が選出されています。2017年の英国総選挙においては、労働党の政権返り咲きこそならなかったものの、選挙前の大方の予想を裏切って大躍進を果たし、英国保守党を過半数割れに追い込みました。本書では、コービン党首を始めとして、どうしても人物を中心に据えて語られていますので、私のように英国政治のシロートにはやや難しいところがありますし、いろいろと魑魅魍魎の跋扈する陰謀論的な政治の世界は判り難いんですが、私自身左派エコノミストを自称していますし、経済政策的には反緊縮や国民本位の財政支援、あるいは、を志向する左派的な経済政策でもって、労働党員の間でも、国民の中ででも支持を拡大したコービン党首の政策志向は大いに賛同できるものです。我が国の社会主義政党を振り返って、その昔の社会党にはいわゆる「左翼バネ」というものがあり、選挙や大衆運動で苦境に陥った際には左派的な政策志向が社会党に作用して、「苦しい時の左派頼み」のような方向性が打ち出される傾向があったように記憶していますし、英国でも同じような「左翼バネ」があるのかもしれませんが、私のような左派のエコノミストから見れば、本書でいうような反緊縮や反貧困・反格差の経済政策は正しい方向性を示していると考えています。特に、コービン支持に回った若年層の置かれた状況は、英国でも日本でも大きな違いはないように感じています。本書で示された、著者のいうコービン党首に目立つ「個人的な温かみや寛容さ」、そして「誠実さ、原則を守る姿勢、倫理的な力」などとともに、こういった個人的な資質にとどまらない左派的な政策志向も読み取るべきではないか、と私は考えています。
次に、富増章成『読破できない難解な本がわかる本』(ダイヤモンド社) です。上の表紙画像にあるように、世界の名著60冊のダイジェスト的な解説本なんですが、巻末に参考文献がツラツラと記されており、著者もオリジナルの古典はほとんど読んでいないようです。世界の名著の解説書を読んだ上でのコンパクトな解説に仕上げた、といったところです。私は基本的にこういった古典の解説書は評価しないんですが、何を血迷ったか、ついつい手が伸びてしまいました。誠に残念ながら、60冊の大量のダイジェストですので、あまり頭に入らず、モノにならなかった気がします。やっぱり、古典はちゃんと読まないとダメな気がします。私は海外に出た折には国内では出来ないことをしようと試み、スポーツに勤しむとともに、ボリュームのある古典的な名著を読むことに挑戦しています。チリに行ったときに失敗したんですが、やっぱり、本場ラテンアメリカのスペイン語の本を読もうと考えて、ガルシア-マルケスの『100年の孤独』を丸善で高い値段で洋書を買って持って行ったのはよかったんですが、よくよく考えれば、チリではスペイン語の本はお安く売られていて、到着後に現地で買えばよかったと後悔した記憶があります。それはともかく、ジャカルタではフロムの『孤独な群衆』とブルクハルトの『イタリア・ルネサンスの文化』を読みました。上の倅が大学に入って心理学だか、社会学だかを勉強するといい出した折に、私の本棚にある『孤独な群衆』を見て、それなりに関心してくれたのを思い出します。本書でも取り上げられています。ただ、ブルクハルトは取り上げられていません。また、このブログにも書いた記憶がありますが、定年退職するまで奉職していた経済官庁の採用面接で、「大学時代に何をしましたか」というありきたりな質問に対して、経済学の古典を勉強したことについて言及し、スミス『諸国民の富』、リカード『経済学と課税の原理』、マルクス『資本論』、ケインズ『雇用・利子及び貨幣の一般原理』を読んだと自慢して感心されたことがあります。特に、ほかはともかく、『資本論』を学生のころに読んだキャリア公務員は少ないだろうといわれてしまいました。最後に、忘れていた著者についてですが、大学の哲学科や神学部を卒業し、予備校で日本史などの社会科系の学科の講師をしているそうです。ですから、哲学や社会科学系の本が多く取り上げられており、こういった名著の中に、当然に入るべき、ニュートンの『プリンピキア』やダーウィンの『種の起源』が落ちていて、ついつい笑ってしまいました。
次に、スティーブン・ジョンソン『世界が動いた「決断」の物語』(朝日新聞出版) です。著者は、ジャーナリストではなさそうですが、いわゆるノンフィクション・ライターを職業としているようなカンジです。よく調べが行き届いているという点では、ジャンルはまったく異なりますが酒井順子のエッセイを思わせるものがあります。英語の原題は Farsighted であり、2018年の出版です。この著者は何冊かベストセラーを書いているんですが、この著者の本では、私は昨年2018年1月27日付けで同じ朝日新聞出版から出ている『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語』の読書感想文をアップしています。ということで、本書はタイトル通りに決断、意思決定のノンフィクションです。ただ、意思決定に関しての研究者ではありませんから、それほど深い内容ではなく、一般向けの本と考えるべきです。題材になっているのはいくつかのエピソードであり、特に私の頭に残っているのはビン・ラディンを急襲する件に関する当時の米国オバマ大統領の決断、そして、決断へ至るまでの情報収集についてが秀逸です。ほかにも、ダーウィンの結婚や人生の岐路に立った際の決断も取り上げていますし、いろいろあります。こういった個別具体的なエピソードについて、第1章から第3章までを使って、情報収集とそれに基づく予測、そして、何といっても本書のタイトルである決断について考察しています。基本的な方法論はトベルスキー-カーネマン的な経済心理学や行動経済学です。プロスペクト理論こそ出てきませんが、損失回避や限定合理性などを基礎にした考察がなされています。4章と5章では、グローバルに考えるべき決断と個人の問題を持ち出しています。最後の個人の問題とは、ニューヨークから温暖なカリフォルニアに引っ越す際の著者個人の体験に基づく引っ越しの決断で、ちょっとどうかなという気もしました。まあ、ほかのエピソードはともかく、当時の米国オバマ大統領がビン・ラディンを襲撃するに際して行った決断の件だけでも、経済心理学や行動経済学の観点から考えるとこうなる、という考察が示されており、それなりに読む価値はあることと思います。
次に、新井一二三『台湾物語』(筑摩選書) です。著者は、ジャーナリストを経て明治大学の研究者です。本書の副題は『「麗しの島」の過去・現在・未来 』となっており、台湾等の別名である美麗島にちなんでいます。まず、簡単な台湾の近代史のおさらいですが、日清戦争の賠償の一環として1895年に当時の清から日本に割譲されます。本書に従えば、台湾にいる人々の一部は列強の介入を求めて運動したようです。でも、遼東半島と違って台湾は返還されませんでした。そもそも、朝鮮半島のように戦場になるわけでもなく、どうして台湾が日本に割譲されたのかといえば、まあ、本書では何も触れていませんが、清から見てそれほどの価値がなかった、ということなんではないかと私は勝手に想像しています。そして、1945年の終戦まで50年間に渡って日本の統治下にありました。本書でも盛んに登場しますが、李登輝元総統の言葉で「私は22歳まで日本人だった」というのがあります。帝国主義的な植民地政策の一環でしょうから、良し悪しは別にして、台湾には日本語ネイティブの人が少なくないようです。その台湾も、1949年に大陸で共産党政権が成立して中華人民共和国となり、国民党の残党が蔣介石を筆頭に200キロの海峡を中国本土から台湾に渡って来て、事実上の亡命政権が成立します。日米をはじめとして少なからぬ国がこれを中国正当の国家として認め、国連にも常任理事国として参加したりします。その後、長らく続いた戒厳令も終わり民主化されて、国民党ではない民進党の総統が選挙で選出されたりします。ですから、いまだに本省人と外省人の差別があったりもしますし、国民党政権が渡って来た当初には中国語を理解しない台湾人も少なくなかったといいます。むしろ日本語だったらしいです。そういった日本でそれほど話題にならない台湾にスポットを当てています。観光資源としての有名な名所や温泉地、もちろん、グルメスポットなども紹介されています。昨年度下期のNHK朝ドラの「まんぷく」のチキンラーメン、というか、日清食品創業者の安藤百福も台湾人だと記憶しています。また、本書の中のトピックで、私が唯一知っていたと自慢できるのは2007年に封切られた映画の『練習曲』から流行り始めた「環島」です。主人公がギターを背負って自転車に乗り、高雄から反時計回りに台湾島をぐるっと一周するだけの、ロードムービーです。私は長崎でこの映画の上演会に出席した記憶があります。まあ、同僚教員が参加している市民オーケストラの演奏会にも行きましたし、単身赴任で時間があったんでしょう。それはさて置き、長崎はさすがに東京よりも中国や台湾やアジアに近い、と実感したことを覚えています。なお、知っている人は知っていると思いますし、今の映画の説明でも理解できようかと思いますが、「環島」とは、自転車やオートバイ、あるいは、鉄道でぐるっと台湾を一周することで、島ですから海沿いの道や鉄道が多いらしく、亜熱帯の海の風光明媚なところを堪能できるといいます。海沿いですから大きな起伏もないでしょうし、私も定年になったら自転車で1~2週間ほどかけて台湾を環島したいと、かねがね思っていました。でも、現実は、「貧乏暇なし」でいつになったら体が空くのか判ったものではありません。
最後に、米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社) です。著者は、私も好きな人気ミステリ作家の1人です。主人公は高校2年生の男子生徒2人、堀川次郎と松倉詩門で、ともに図書委員です。ですから、本書のタイトルの前半は「本」となっています。なお、どうでもいいことながら、日本語タイトルの「季節」は上の表紙画像に見られるように、英文タイトルには現れません。そして、後半の「鍵」は主人公のうちの1人が探す父親の自動車の鍵です。地理的な舞台が東京西部の北八王子にあるとされている公立高校の図書室を起点としますから、何となく古典部シリーズと似た雰囲気を感じ取る読者もいるような気がします。6編から成る短編集ですが、第1話の「913」は金庫を開ける暗号ミステリを中心に据えており、私は何かのアンソロジーで読んだ記憶があります。第2話以下の5編は初めてのようです。第2話以下のタイトルは順に、「ロックオンロッカー」、「金曜に彼は何をしたのか」、「ない本」、「昔話を聞かせておくれよ」、「友よ知るなかれ」となっており、最後の2話が鍵にまつわる物語です。高校2年生の男子2人を主人公に、図書室から始まるストーリーながら、それほど軽いトピックではありません。年寄りを死んだことにしたり、美容院の窃盗、校内暴力で割られたガラス、自殺した高校3年生の読んでいた本、そして最後の2話は、犯罪を犯して刑務所に収監されている男が隠した盗品探し、がそれぞれのテーマとなっています。ですから、同じ作者の古典部シリーズとか、小市民シリーズのような日常の話題に即した軽い謎解きミステリではなく、モロに犯罪が絡んで来ますので、その意味で、重いストーリーといえます。しかも、最終話は完結させていません。作者が意図的に完結させていないわけですので、続編はないもの、と私は受け止めています。あるいは、続編があっても、主人公が1人に減っているものと考えられます。最後に未読のファンに対するご注意で、繰り返しになりますが、高校2年生が主人公とはいっても、古典部シリーズや小市民シリーズのような日常的な謎解きを含んだ青春物語ではありません。モロの犯罪や人死にに2人の高校生が向き合っています。
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コメント
台湾の自転車一周旅行はよいみたいですよ。60歳過ぎの輪友二人が去年行ってきました。あちらで、ジャイアントの自転車が借りれるようで、ヘルメットだけ持っていきました。自転車用の道も整備されていて、飯も美味かったようです。一度トライしてみてください。
投稿: kincyan | 2019年7月 1日 (月) 16時37分
台湾の「環島」いいみたいですね。私はもともとがGIANTに乗っていますし、借りられるんであれば、なおOKだという気がします。実は、国家公務員のころは国交のない国には渡航できないようでしたので、思いっきりハズレの北朝鮮はいうに及ばず、台湾もダメらしかったんですが、もう定年退職してしまいましたので、そのうちに行ってみたいと考えています。
投稿: ポケモンおとうさん | 2019年7月 3日 (水) 18時36分