2四半期連続で景況感が悪化した日銀短観の先行きをどう見るか?
本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から▲5ポイント低下して+7を示した一方で、本年度2019年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+2.3%の増加と3月調査から上方修正されてます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
6月日銀短観、大企業・製造業DIは2期連続で悪化 非製造業は2期ぶり改善
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でプラス7だった。前回3月調査のプラス12から5ポイント悪化した。悪化は2四半期連続だった。
大企業・製造業DIは16年9月(プラス6)以来の低い水準となった。業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。大企業・製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値であるプラス9も下回った。回答期間は5月28日~6月28日で、回収基準日は6月11日だった。
米中貿易摩擦の激化など、世界経済の先行き不透明感が業況感の悪化につながった。中国の景気減速懸念による生産用機械業や、ITサイクルの調整遅れによる電気機械業の悪化が目立った。
3カ月先の業況判断DIは大企業・製造業がプラス7と横ばいの見通し。市場予想の中央値(プラス7)と同じだった。世界経済の先行き不透明感が引き続き重荷となる一方、米中貿易摩擦の改善や半導体市況の回復に対する期待感は支えになった。
19年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業・製造業で1ドル=109円35銭と、実勢レートより円安・ドル高だった。
大企業・非製造業の現状の業況判断DIはプラス23と前回を2ポイント上回った。改善は2四半期ぶり。国内消費が総じて堅調なほか、大型連休の需要で宿泊・飲食サービス業が改善した。3カ月先のDIは6ポイント悪化のプラス17だった。五輪関連の需要一服や大型連休の追い風がなくなることなどが先行きの不透明感につながった。
大企業・全産業の雇用人員判断DIはマイナス21となり、前回(マイナス23)から低下幅が縮まった。DIは人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもので、マイナスは人員不足を感じる企業の割合の方が高いことを表す。
19年度の設備投資計画は大企業・全産業が前年度比7.4%増と、市場予想の中央値(8.3%増)を下回った。収益増加を受けた設備投資意欲は強く、都市開発関連の需要や人手不足を背景にした省力化投資の需要も追い風となった。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。
引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスはヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIで見て、3月調査から▲3ポイント低下の+9でしたから、これを下回り、やや弱い数字という印象なんですが、他方で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは大企業非製造業の業況判断DIは3月調査から▲1ポイント低下の+20を見込んでいたものの、実績は+2ポイント改善の+23でしたから、コチラを考慮すれば、強い数字という気がしないでもありません。大企業製造業の業況判断DIは市場の事前コンセンサスの下限近くな一方で、大企業非製造業の方は市場の事前コンセンサスの上限を突き抜けています。今回の6月調査の日銀短観で、評価の分かれるところかもしれません。ただ、大企業製造業の業況判断DIをヘッドラインとして扱っているのは、大企業から中堅・中小企業へ、また、製造業から非製造業へと波及するという経験則が背景にあるわけで、今後の動向を占う上でもっとも重視されるには理由があります。少し詳細に業種別に景況判断DIを見ると、大企業製造業では金属製品のほか、我が国のリーディング・インダストリーである生産用機械、自動車、電気機械などが3月調査からの下げ幅が大きくなっています。当然ながら、米中間の貿易摩擦やそれに伴う中国をはじめとする世界経済の減速の影響、あるいは、それらに対する不透明感が背景にあると考えるべきです。逆に、業況判断DIが改善した大企業非製造業を見ると、物品賃貸、宿泊・飲食サービス、運輸・郵便、卸売、小売などの改善幅が大きく、ゴールデンウィークの10連休や石油価格の再下落などの恩恵が背景にあると考えられます。先行きについては、大企業の製造業と非製造業で、これまた、見方が分かれ、大企業製造業は悪化に歯止めがかかって底堅く横ばいと見込んでいるのの対して、大企業非製造業では▲6ポイントの大きな低下が予想されています。私が従来から最大のリスク要因として注目している為替レートについては、大企業製造業による今年度2019年度の想定為替レートは対ドルで109.35円が見込まれており、市場の実勢よりもやや円安水準と私は受け止めています。為替相場の先行きについては私は何ら見識ありませんが、先行きの企業業績については、場合によっては、下振れする要因となる可能性を頭にとどめる必要がありそうです。
続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても人手不足感が広がっています。ただ、このところ、設備と雇用については、少し異なる動きを示していますが、大企業製造業の生産・営業用設備判断DIは3月調査の▲2から6月調査では生産・営業用設備判断1に、また、中堅・中小企業製造業でも同様に設備不足感がやや和らいでいます。ただ、±1~2ポイントの変化はどこまで現実的かは議論あると私は考えています。雇用人員判断DIも6月調査では3月調査から1~3ポイント不足感が和らいでいますが、大企業で▲20を超え、中堅・中小企業では▲30を超えていますので、まだまだ人手不足は深刻であると考えるべきです。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年度2019年度の全規模全産業の設備投資計画は3月調査で▲2.8%減という水準で始まった後、6月調査では+2.3%増に上方修正されています。設備不足感がやや和らいだとはいえ、設備投資意欲はそれほど低下していないと私は受け止めています。日銀短観の統計としてのクセもありますから、9月調査ではさらに計画が上方修正されるんではないか、と考えるエコノミストが多いだろうと私は想像しています。ただ、2019年度の設備投資計画が前年度比で増加なのは、2018年度の計画が最後の最後で6月調査の実績を見ると、大きく下方修正されているという要因もあります、基本は、人手不足も視野に入れつつ実行される設備投資なんですが、いずれにせよ、2019年度の設備投資計画は前年度比で増加する見込みながら、それほど力強く上向くという実感はないかもしれません。
最後に、本日は、内閣府から6月の消費者態度指数も公表されています。2人以上世帯の季節調整済みの系列で見て、前月の39.4から6月はまたまた▲0.7ポイント低下して38.7となり、何と、9か月連続で前月を下回りました。コンポーネント4項目のうち、「耐久消費財の買い時判断」と「暮らし向き」と「雇用環境」の3項目が前月から低下し、他方、「収入の増え方」は前月から横ばいとなっています。日銀短観に示された企業マインドも評価が分かれるところですが、消費者マインドの悪化はまだ続くんでしょうか?
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