アジアとの輸出入が減少した6月の貿易統計と国際機関のリポート2本に注目!
本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲6.7%減の6兆5845億円、輸入額も▲5.2%減の5兆9950億円、差引き貿易収支は+5895億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
6月輸出6.7%減、アジア向け減少 上期は8888億円赤字
財務省が18日発表した6月の貿易統計は、輸出が前年同月比6.7%減の6兆5845億円となった。減少は7カ月連続。米中貿易摩擦の影響で、中国を含むアジア向けが大幅に減った。2019年上期(1~6月)も16年下期以来5期ぶりの輸出減となった。
日本の輸出で5割強を占めるアジア向けは、6月が前年同月比8.2%減の3兆5636億円となった。このうち、中国向けは10.1%減の1兆2459億円と4カ月連続で減少した。液晶デバイスに使う半導体等製造装置が27%減、自動車部品は30%減だった。
中国は4~6月の国内総生産(GDP)が物価変動を除いた実質で前年同期比6.2%増と、統計を遡れる1992年以降で過去最低となった。需要が縮小し、日本からの輸出も幅広い品目が減少した。米国政府による中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への事実上の輸出禁止も影響が出ている。
一方で、米国向けは4.8%増の1兆3555億円だった。半導体製造装置や自動車の輸出が好調だった。
6月の輸入額は5.2%減5兆9950億円だった。6月の輸出額から輸入額を差し引いた収支は、19%減の5895億円の黒字だった。
19年上期の輸出は前年同期比4.7%減の38兆2404億円だった。上期の貿易収支は8888億円の赤字と、2期連続で赤字となった。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、6月の貿易収支は+4000億円余りの黒字でしたので、実績で+6000億円近い貿易黒字はやや上振れた印象と私は受け止めています。ただし、輸出入ともに、前年同月から数パーセント減少した上での差し引きの貿易黒字ですから、まあ、縮小均衡と捉える向きもあるかもしれません。もちろん、世界経済の減速が大きな要因となった輸出入額の減少と考えるべきです。やや別の観点ながら、引用した記事もそうなんですが、ついつい、ボリューム感で中国に注目しがちなところ、実は、韓国についても6月貿易統計では輸出入とも減少しており、中国との輸出入の減少幅を上回る2桁減となっていることは忘れるべきではありません。すなわち、数字を少し詳しく取り上げると、6月単月の貿易統計ながら、季節調整していない原系列の統計で見て、対中国貿易は輸出額が▲10.1%減、輸入額が▲5.3%減ですが、対韓国貿易は輸出額が▲14.8%減、輸入額も▲13.6%減を記録しています。今年2019年上半期の1~6月期の統計で見ても、対中国輸出額が▲8.2%減に対して、対韓国輸出は▲11.1%減を示しています。中国については米中間の貿易摩擦とそれに起因する中国経済の減速が大きな要因なんでしょうが、韓国については、まだ情報が十分ではないものの、外交関係の冷え込みないし輸出規制が統計に表れ始めている可能性も否定できません。
輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、まず着目すべきは、ここ数か月の輸出額の減少はほぼほ数量が減少に寄与している点は見逃すべきではありません。6月統計では、季節調整していない貿易指数の前年同月比で見て、輸出額が▲6.7%減で、これを数量と価格に分解すると、価格の寄与は▲1.2%に過ぎず、数量が▲5.5%の寄与を占めています。輸出数量指数は昨年2018年11月から8か月連続で前値比マイナスが続いています。国別で見ると、一番下のパネルの中国の先行指数は、まだ前年同月比でマイナスながら、最悪期は脱して底入れしているようにも見えますし、真ん中のパネルの先進国もそろそろ底入れしそうに見えなくもないんですが、米中間の貿易摩擦の本格化や激化により、決して、世界経済とともに貿易関係も単調に回復に向かうかどうか、私は自信がありません。
続いて、国際機関のリポートを2本取り上げたいと思います。まず、貿易や経常収支とも関連して、昨日7月17日に、国際通貨基金(IMF)から 2019 External Sector Report が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。上のグラフは、リポート p.2 Figure 1.1. Evolution of Current Account Balances and Exchange Rates の 1. Current Account Balances, 1990-2018 (Percent of world GDP) を引用しています。黒い折れ線グラフで示された経常収支の黒字額と赤字額の合計の対世界GDP比は、2006~07年の6%近くから2013年の約3.5%へと急激に縮小した後、縮小ペースがやや鈍化し、2018年には約3%を記録しています。加えて、この不均衡縮小は新興国・途上国の寄与部分が大きく、先進国の不均衡はそれほど縮小していない、と指摘しています。また、フローの経常収支不均衡は縮小しているものの、ストックとしては依然として拡大を続けています。従って、ということで、何分、100ページを超える英文リポートですので、このリポートを取り上げた IMF Blog のサイトの表現を借りれば、主要国で対外債務がさらに拡大すれば、コストの大きい破壊的な調整を誘発する恐れがある "a further increase in countries' external debts in key countries could trigger costly disruptive adjustments" ことから、赤字国も黒字国も協力して、世界経済の成長と安定を支えるかたちで過度の世界的な不均衡を是正できるように取り組まねばならない "both surplus and deficit countries must work together to reduce excess global imbalances in a manner supportive of global growth and stability" と結論しています。その上で、不均衡是正の方法 How to tackle imbalances としては、貿易を歪めるような政策は世界の貿易・投資・経済成長に犠牲をもたらしがちであり、各国ともそうした政策は避けるべきである "all countries should avoid policies that distort trade, as they tend to come at the expense of global trade, investment, and growth" と、間接的な表現ながら、米中間の貿易摩擦を批判的に見ているようです。当然です。
さらに、本日7月18日、アジア開発銀行(ADB)から Asian Development Outlook 2019 Supplement が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。上のテーブルは、リポート p.3 Table 1 Gross domestic product growth (%) を引用しています。アジア途上国の成長率については、貿易摩擦の緊張が続いているものの内需の拡大に支えられ、4月時点の見通しと同じ2019年+5.7%、2020年+5.6%に据え置く "This Supplement maintains ADO 2019 projections from April for growth in developing Asia at 5.7% in 2019 and 5.6% in 2020, with domestic demand supporting expansion as trade tensions persist" と結論しています。
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