大きな減産を記録した鉱工業生産指数(IIP)と引き続きタイトな労働市場を示す雇用統計をどう見るか?
本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも6月の統計です。鉱工業生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲3.6%もの大きな減産を示した一方で、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.3%と低い水準にあり、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント低下したものの1.61倍と、タイトな雇用環境がうかがえます。まず、長くなるんですが、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。
6月の鉱工業生産3.6%低下 18年1月以来の下げ幅
経済産業省が30日発表した6月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み、速報値)は前月比3.6%低下の101.1だった。低下は3カ月ぶりで、18年1月(4.2%低下)以来の下げ幅だった。QUICKがまとめた民間予測の中心値(1.9%低下)を下回った。経産省は生産の基調判断は「生産は一進一退」に据え置いた。
業種別では、15業種中13業種で減少した。5月の上昇を受けた反動減で自動車工業や電気・情報通信機械工業が伸び悩んだ。このほか、生産用機械工業や汎用・業務用機械工業で6月から7月へと納期ズレを起こした企業があったことも全体を押し下げた。
出荷指数は3.3%低下の100.6と3カ月ぶりに減少した。自動車工業や生産用機械工業など11業種で減少した。在庫は0.3%増の104.6だった。在庫率は2.8%増の109.4だった。
4~6月期の生産指数は前期比0.5%上昇の102.9だった。4、5月の指数の堅調な伸びが上昇に寄与した。
製造工業生産予測調査によると、7月は2.7%上昇だった。8月は0.6%の上昇を予測している。7月に実施した対韓輸出管理の強化については「大きな影響はないとみている」(経産省)という。
同予測は下振れしやすく、経産省が予測誤差を除去した先行きの試算(7月)は0.3%低下だった。
女性就業者、初の3000万人突破 6月労働力調査
総務省が30日発表した2019年6月の労働力調査によると、女性の就業者数(原数値)は3003万人と、比較可能な1953年以降で初めて3千万人を突破した。前年同月に比べて53万人増え、就業者全体の伸びの9割近くを女性が占めている。専業主婦らが新たに仕事に就くことが増えているためだ。6月の完全失業率(季節調整値)は2.3%で前月から0.1ポイント下がった。
男女合わせた就業者は6747万人。女性の就業者が全体の44.5%を占め、09年平均と比べて2.6ポイント上昇した。欧米の主要先進国の大半は40%台後半で、日本もその水準に近づきつつある。
女性の就業者を年代別にみると、65歳以上の伸びが目立ち、19年6月は359万人と09年平均と比べて145万人増えた。一方、65歳以上の女性の就業率は17.7%で、男性(34.3%)と比べて低く、引き続き増加が見込まれる。日本の人口全体の減少が続くなか、「女性」「高齢者」が働き手の不足を補う意味で存在感を増している。
女性の生産年齢人口(15~64歳)の就業率は71.3%で、前年同月に比べて1.9ポイント上昇し過去最高になった。年代別では15~24歳は50.5%と、同年代の男性を上回る。25~34歳は78.1%、35~44歳は77.8%と10年前より10ポイント以上高い。
女性の場合、30歳前後から結婚や出産を機に仕事を辞め、就業率が下がる「M字カーブ」が課題とされてきたが、解消に向かっている。政府による育児休業制度の充実などが寄与した。ただ働き方には課題が残る。女性の雇用者のうち、全体の55%がパートなど非正規だ。男性の非正規は23%で2倍以上の差がある。
働き方の違いから、女性管理職の割合が欧米と比べて低くなっている。独立行政法人の労働政策研究・研修機構によると、日本の管理職に占める女性の割合は16年時点で12.9%にとどまる。一方、米国は43.8%、フランスは32.9%だ。
日本では終身雇用と長時間労働を前提とする働き方がなお主流だ。出産や育児で休職や短時間労働が必要になる女性は昇進する際、依然として不利になりやすい。人口の減少が続くなか、安定した経済成長を保つためには働き手の多様化が欠かせない。勤務年数でなく、能力に応じて評価する仕組みづくりなど、男女を問わず働きやすい環境を整える必要がある。
6月の男女合わせた完全失業者数は前年同月比6万人減の162万人だった。新たに転職活動する人などが減ったことが影響した。一方、厚生労働省が30日発表した6月の有効求人倍率(同)は前月から0.01ポイント低下し1.61倍。低下は2カ月連続だ。正社員の有効求人倍率は1.15倍と、前月から横ばいだった
2つの統計を並べると、とても長くなってしまいました。特に、女性の雇用に関して強く注目された記事のようです。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。
まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは▲1.9%の減産であり、レンジでも▲2.2~▲1.3%の減産でしたから、下限を突き抜けての大きな減産であることは間違いなく、同時に、製造工業生産予測指数による先行き見通しについても、7月+2.7%、8月+0.6%の増産と見込んでいますが、製造工業生産予測指数はバイアスの大きい統計であり、予測誤差の加工を行った補正値では7月▲0.3%の減産と試算されており、6月に大きな減産を記録した後に、7月も小幅ながら2か月連続で減産となる可能性も十分あります。業種別でもっとも減産幅が大きかったのが我が国のリーディング・インダストリーである輸送機械工業であり、6月統計で前月比▲7.9%減を示し、続いて、生産用機械工業▲6.9%減、電気・情報通信機械工業▲4.7%減がマイナス寄与度の順となります。輸送機械工業以外でも、我が国の製造業をけん引する産業が並んでいるわけです。また、四半期でならせば、今年2019年1~3月期の前期比▲2.5%減からはプラスに転じ、4~6月期は+0.5%増を記録しています。来週金曜日の8月9日には内閣府から4~6月期GDP速報、いわゆる1次QEが公表される予定ですが、4~6月期はプラスの成長率と予想されるひとつの根拠であろうと私は受け止めています。もっとも、1~3月期のマイナス幅に比較して4~6月期の戻りは小さいといえます。最後に、昨日の商業販売統計を取り上げた際にも言及しましたが、本日公表の鉱工業生産指数(IIP)では輸出を含むので、国内需要だけの傾向を読み取るのは難しいんですが、それでも、少なくとも自動車には消費税率引き上げ前の駆け込み需要の影響は小さい、というか、駆け込み需要そのものが小さいような気がしてなりません。
続いて、いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた期間は景気後退期を示しています。失業率は2%台前半まで低下し、有効求人倍率も1.61倍と高い水準を続けています。加えて、グラフはありませんが、正社員の有効求人倍率も前月と同じ1.15倍を記録し、一昨年2017年6月に1倍に達してから、このところ2年近くに渡って1倍を超えて推移しています。厚生労働省の雇用統計は大きく信頼性を損ねたとはいえ、少なくとも総務省統計局の失業率も低い水準にあることから、雇用はかなり完全雇用に近づいており、いくら何でも賃金が上昇する局面に入りつつあると私は受け止めています。もっとも、雇用は生産の派生需要であり、生産が鉱工業生産指数(IIP)で代理されるとすれば、基調判断は「一進一退」であり、先行き、賃金上昇に直結するかどうかはビミョーなところです。ただ、賃金については、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、雇用者そのものが増加して失業者が減少したり、あるいは、雇用の中身として非正規雇用ではなく正規雇用が増加することなどから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用状態であり、加えて、雇用不安の払拭から消費者マインドを下支えしている点は忘れるべきではありません。またまた、逆接の接続詞で、しかしながら、賃上げは所得面で個人消費をサポートするだけでなく、デフレ脱却にも影響を及ぼすことから、マクロの所得だけでなくマイクロな個人当たりの賃上げも早期に実現されるよう私は期待しています。
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