雇用調整助成金で雇用を維持すると中長期的にどうなるのか?
経済産業研究所から、先月7月に雇用調整助成金が企業業績に及ぼす中長期的な影響を計測したディスカッションペーパーが明らかにされています。参照文献として示せば以下の通りです。なお、タイトルにある "Short-Time Compensation" とは、本文では STC と省略されていますが、「雇用調整助成金」のことです。
私自身は、その昔、いわゆる生産要素、労働や資本を生産性低い分野から高い企業・産業に移動させることにより、我が国全体の生産性が向上する、という意味で、極めて右派的な経済学を信奉していたんですが、今ではそうでもなくなっています、このディスカッション・ペーパーでは、雇用調整助成金により雇用を維持することが抽象気的な企業業績を向上させる、という結論を導いています。ペーパーの p.21 Table 4-1 The Estimated Effect of STC on ROA を引用すると以下の通りです。推計結果は、雇用調整助成金受給企業の「当該年と受給前年のROAの差」から非受給企業の「当該年と受給前年のROAの差」を差し引いたものであり、2年後以降は統計的に有意な差があることがアスタリスクで示されています。なお、このテーブルは、ROA への雇用調整助成金の効果ですが、このテーブルの後に、営業利益 profit margin や売上 sales などに対する影響の推計結果も示されています。
その理由は、労働コストを引き上げることなく売上を伸ばすことによってもたらされている "STC leads to sales growth without raising labor costs" ためであり、雇用調整助成金が企業業績にプラスに働くことは、伝統的な雇用調整助成金の効果、すなわち、解雇抑制効果、それに伴う企業特殊的人的資本の喪失を防ぐ効果、あるいは解雇による職場のモラル低下を抑制する効果 "preserving firm-specific human capital and avoiding the negative morale effect of layoffs" に加えて、雇用調整助成金によるワークシェアリングは危機感の共有からチームワークを高め、企業業績向上のための改革に雇用者が協力的になる、という効果も見られるのではないか、と結論しています。まったく、その通りですし、こういった見方が実証的に数量分析によって示されたのは意義あることではないかと私も考えています。
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