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2019年9月 2日 (月)

製造業の停滞を示す4-6月期の法人企業統計をどう見るか?

本日、財務省から4~6月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は11四半期連続の増収で前年同期比+0.4%増の345兆9,119億円、経常利益は2四半期振りの減益で▲12.0%増の23兆2,325億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで1.9%増の10兆8687億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比+1.5%増となっています。なお、設備投資については、以下に引用する記事にもある通り、データの蓄積に伴って、今回からソフトウェアを含むベースに変更されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

4-6月期の製造業の設備投資、2年ぶり減 米中貿易摩擦など影響
財務省が2日発表した2019年4~6月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比1.9%増の10兆8687億円だった。増加は11四半期連続。ただ、製造業の設備投資は2年ぶりの減少となった。製造業は経常利益も大幅な減少で、米中貿易摩擦などの影響が出た。
製造業の設備投資は6.9%減の3兆6156億円だった。情報通信機械が43.4%減と大きく落ち込んだのが響いた。半導体需要の減少により、生産能力投資を抑制する動きが出たといい、財務省は「半導体の(低調な)サイクルの中で米中貿易摩擦の影響もあった」と説明した。石油・石炭は、石油精製設備の新設投資をした前年の反動が出て48.7%減となった。
非製造業の設備投資は7.0%増と、11四半期連続で前年同期を上回った。都市部オフィスビルの取得が寄与した不動産業が45.5%増、情報通信機器などリース資産を増やした物品賃貸業が29.4%増だった。
季節調整済み前期比の設備投資額は1.5%増だった。非製造業が4.7%増加し、製造業(4.3%減)の不振を補った。同数値は国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となっているが、ソフトウェアに関するデータが蓄積されたため、今回からソフトウェアを含む数値となった。
全産業ベースの経常利益は12.0%減の23兆2325億円だった。減益は2四半期ぶり。製造業が27.9%減となったことが響いた。情報通信機械業が、米中貿易摩擦によるスマートフォン向け製品の減少などで84.6%減と大きく落ち込んだ。
全産業の売上高は0.4%増と、11四半期連続の増収となった。非製造業は1.0%増だった一方、製造業は1.2%減と10期ぶりの減収だった。
財務省は「緩やかに回復している景気の動向を反映している」と説明した。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や投資動向を集計した。今回の19年4~6月期の結果は、内閣府が9日発表する同期間のGDP改定値に反映される。
同時に発表した2018年度の法人企業統計によると、設備投資額は前年度比8.1%増の49兆1277億円と過去最高だった。売上高は0.6%減の1535兆2114億円と3年ぶりの減少、経常利益は0.4%増の83兆9177億円で過去最高だった。
19年3月末時点の金融業と保険業を除く全産業の内部留保にあたる利益剰余金は3.7%増の463兆1308億円と、7年連続で過去最高だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフとベースを同じにして季節調整済の系列で考えると、昨年の我が国企業の動向は、かなりの程度に最近のマクロ経済動向とも一致して、製造業を起点にやや停滞色が強くなりつつあります。すなわち、上に引用した記事では、前年同期比で見て売上高は11四半期連続の増収とされていますが、グラフにプロットした季節調整済みの系列の前期比で見ると、今年2019年に入ってから1~3月期▲0.6%減の後、本日公表の4~6月期も▲0.1%減と2四半期連続の減収を記録しています。経常利益にしても、四半期ごとに増減を繰り返している点は、季節調整していない原系列も季節調整済みの系列も同じで、4~6月期は前期比▲5.0%の減益となっています。設備投資については、繰り返しになりますが、今回からソフトウェアを含むベースに変更され、4~6月期は+1.5%増と前期比プラスを記録したものの、製造業だけを取り出して見れば、1~3月期▲2.0%減の後、4~6月期は▲4.6%減と2四半期連続の2四半期連続の前期比マイナスで、マイナス幅が拡大している点も見逃せません。ただ、非製造業の設備投資が人手不足などを背景に底堅く推移しており、製造業を合わせた全産業では3四半期連続の前期比プラスとなっています。もちろん、製造業の低迷が進んだ背景には世界経済の減速があります。先週金曜日に公表された「月例経済報告」でも国内景気判断は「緩やかに回復」と据え置いた一方で、世界経済については「アジアやヨーロッパの中に弱い動き」を併記して景気判断を半ノッチ下げて、いよいよ政府も世界経済の減速を認めたようですし、米中間の貿易摩擦がヒートアップすれば、製造業はさらに逆風が強まる可能性がある点は注意すべきです。加えて、為替相場における円高の進行も大きなリスクです。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。ソフトウェアを含むベースに今回から再計算しています。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。ということで、上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下し上向く気配すらなくまだ下落の気配を見せていますし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は60%を超えて少し上昇のトレンドとも見えますが、まったく力強さに欠けており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけは、グングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善の重要なポイントである賃上げ、あるいは、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。ですから、経済政策の観点から見て、企業活動が回復ないし拡大し、所得低迷の激しい家計との格差が無視できないとすれば、企業の余剰キャッシュを雇用者や広く国民に還元する政策が要請される段階、特に、消費税率引き上げを目前にして、何らかの家計に対する所得増加を志向すべきではないか、と私は考えています。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週月曜日の9月9日に内閣府から4~6月期のGDP統計2次QEが公表される予定となっています。直感的には下方改定なんでしょうが、改定幅はごくわずかで大きな変化ないんではないか、と私は予想していますが、また、日を改めて取り上げたいと思います。

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