消費税率の引上げにもかかわらず伸び悩む消費者物価(CPI)上昇率!
本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から少し拡大して+0.4%を示しています。消費税率引上げの影響を含んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
消費者物価0.4%上昇 10月、消費増税後も低水準
総務省が22日発表した10月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合が102.0と前年同月比で0.4%上昇した。消費税率10%への引き上げ後の初めての集計として注目されたが、税率引き上げによる押し上げ効果を除くと弱い数字だった。
外食や宿泊料などが引き続き上昇に寄与した一方、電気代が前年同月比で下落に転じるなど、エネルギー構成品目の下落が物価の下げ圧力となった。携帯電話の通信料も6月に大手各社が値下げした影響が引き続き表れた。
総務省は同時に、消費税率の引き上げと幼児教育・保育無償化の物価上昇率への影響の試算値を公表した。試算では消費税率の引き上げによって、物価上昇率は0.77ポイント程度押し上げられる。一方、同時に始まった幼児教育・保育無償化が0.57ポイント程度の押し下げ要因となるとした。
消費税率引き上げと、幼児教育・保育無償化の影響を除いた場合、生鮮食品を除く総合の物価上昇率は0.2%で、2年7カ月ぶりの低水準となる。
生鮮食品を除く総合では391品目が上昇した。下落は111品目、横ばいは21品目だった。総務省は物価の基調について「原油価格の下落などで、上昇には鈍化が見られる」と指摘しつつも「緩やかな上昇が続いている」との見方は据え置いた。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は102.0と前年同月比0.7%上昇、生鮮食品を含む総合は102.2と0.2%上昇した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。さらに、なぜか、最近時点でコアコアCPIは従来の「食料とエネルギーを除く総合」から「生鮮食品とエネルギーを除く総合」に変更されています。ですから、従来のコアコアCPIには生鮮食品以外の食料が含まれていない欧米流のコアコアCPIだったんですが、現時点では生鮮食品は含まれていないものの、生鮮食品以外の食料は含まれている日本独自のコアコアCPIだということが出来ます。

ということで、10月から消費税率の引上げと幼児教育・保育無償化の影響が現れており、これを含んだ結果となっていて、引用した記事にもあるように、その影響の試算結果が「消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響 (参考値)」として総務省統計局から明らかにされています。少し話がややこしいんですが、この参考値によれば、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIのヘッドライン上昇率+0.4%に対する寄与度が+0.37%となっていて、その+0.37%に対する消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響が合わせて+0.20%、分けると消費税率引上げが+0.77%、幼児教育・保育無償化が▲0.57%と、それぞれ試算結果が示されています。コアCPI上昇率の半分が消費税率引上げと幼児教育・保育無償化の影響に起因するわけで、いわゆるコアCPIの「実力」としては+0.4%のうちの半分くらいの+0.2%、ということなのかもしれません。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+0.2~+0.6%のレンジで中心値が+0.4%でしたので、ジャストミートしたといえます。
エネルギー価格の動向については、国際商品市況における石油価格の影響が大きく、私ごとき定年退職した元エコノミストにはまったく予想もつきません。ですから、利用可能な専門家のリポートを読んだりするんですが、先月も引用したみずほ証券によるリポート「マーケット・フォーカス 商品: 原油」では、 WTI原油先物価格について2019年度中の予想レンジは1バレル=50ドル~70ドルとし、「原油は上昇一服か」(11月14日付けリポート)と結論しているようです。何ら、ご参考まで。

最後に、上のグラフは勤労者の所得分位別の消費者物価(CPI)上昇率の推移のうち、もっとも所得の低い第Ⅰ分位(~439万円)ともっとも所得の高い第Ⅴ分位(913万円~)の消費バスケットに合わせた物価上昇率をプロットしています。10月CPI統計において、第Ⅰ分位家計の直面する物価上昇率は第Ⅴ分位家計を下回ってマイナスを記録しています。キチンとした分析はしていませんが、直感的に、ひょっとしたら軽減税率の効果かも知れないと私は受け止めています。ただ、グラフは示しませんが、支出弾性値が1以上の選択的支出と1未満の基礎的支出のそれぞれの物価上昇率については逆に出ており、選択的支出の物価上昇率が10月統計では低下した一方で、基礎的支出の方は上昇しています。食品などの基礎的支出に軽減税率が適用されたと私は考えていますが、そうではない可能性もあったりするんでしょうか。
最後に、目を海外に転じると、昨日11月21日に経済協力開発機構(OECD)から「OECD 経済見通し」OECD Economic Outlook, November 2019 が公表されています。ヘッドラインとなる成長率見通しの総括表は上の通りです。我が国の成長率については、前回見通しから据え置かれています。このテーブルはOECDのサイトから引用しています。また、日を改めてもう少し詳しく取り上げたいと思います。
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