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2019年12月31日 (火)

よいお年をお迎えください!!!

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あと数時間で今年2019年が終わって、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年の幕開けとなります。

よいお年をお迎えください!

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2019年12月30日 (月)

本年最後の読書感想文でジャレド・ダイアモンド『危機と人類』を読む!

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先週借りておいたジャレド・ダイアモンド『危機と人類』上下(日本経済新聞出版社) を読みました。隣国ソ連に侵攻された1930~40年代のフィンランド、江戸末期にペリー来航などで欧米列強から開国を迫られた日本、世界で初めて選挙によって社会主義アジェンデ政権が誕生した後に軍事クーデターとピノチェトの独裁政権に苦しんだチリ、クーデター失敗と大量虐殺を経験したインドネシア、東西分断とナチスの負の遺産に向き合ったドイツ、白豪主義の放棄とナショナル・アイデンティティの危機に直面したオーストラリア、の6カ国を題材にしたケーススタディです。先月は本書の出版宣伝なのかどうか知りませんが、来日公演会の開催などがあったようです。私の目から見て、かなり著者の専門分野から外れた問題意識を展開しているような気がして、どこまで信頼感を持って読み進めばいいのか不安だったんですが、さすがに、それなりの仕上がりにはなっています。米国まで含めても、せいぜいが200年間の7か国が対象ですし、著者の12項目のクライテリアをもってしても、結論を一般化するのはとても難しい気がしますが、さすがに、エピローグで著者ご自身がナラティブで定性的な議論の展開から、定量的な手法の導入をいわざるを得なくなっていたりします。評価項目の7番目に公正な自己評価というのがありますが、要するに、自分自身あるいは自国を客観的に評価するということだろうと私は理解していて、これがもっとも難しいのだろうと想像します。もうひとつ難しいのは、本書には現れませんが、評価関数の設定です。経済学では、トレードオフという概念があって、要するに、コチラを立てればアチラが立たず、という相反する2つの目標があったりします。そこまでいかなくても、リソースの不足から2つ以上の複数の目標達成は困難で、プライオリティに従ったリソース配分を必要とする場合も少なくありません。いずれにせよ、第3部第10章の日米が直面する高齢化や政治的分裂といった危機に加えて、最後のエピローグ前の第3部第11章に示された危機意識、すなわち、人類全体の危機として核、気候変動、エネルギー、格差が指摘されていて、本書の問題意識はそれなりに重要だと直感的には私なりに理解するんですが、失礼ながら、単なる無責任な問題意識の表明であればともかく、著者ご自身にどこまで解決策を示す能力があるのかどうか、言葉を変えれば、どこまで行っても著者には結論を出せない問題に入り込むような不安が残ります。

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2019年12月29日 (日)

年末年始のお天気やいかに? 初日の出は拝めるのか?

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そろそろ、年末年始の天気予報が明らかにされています。上の画像は、まさに、そのものズバリの年末年始の天気予報であり、ウェザーニュースのサイトから引用しています。
私は基本的に朝に弱くて寝坊するタイプなので、初日の出なんて拝んだこともなく、夜中の富士登山でご来光なんて、とてもではありませんが、60歳の還暦を超えてムリと諦めています。ただ、気になる人は気になるでしょうから、下の地図は日本気象協会のサイトから 2020 初日の出見えるかなMAP を引用しています。何らご参考まで。

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2019年12月28日 (土)

今週の読書は資本主義について考えさせられる経済書をはじめとして計8冊!

今週の読書は、資本主義について深く考えを巡らせる経済書をはじめとして、以下の通りの計8冊でした。大雑把に、都内の区立図書館は今日までの営業のようですが、結局、ダイアモンド『危機と人類』は来週の年末年始休みに回すことにしました。

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まず、根井雅弘『資本主義はいかに衰退するのか』(NHKブックス) です。著者は、我が母校である京都大学経済学部の経済学史を専門とする研究者です。当然ながら、40年ほど昔の私の在学中にも経済学史の先生はいたわけですが、そのころの経済学史担当の先生は時代を先取りしていたというか、「研究室内禁煙」を明記していました。私の所属するゼミの先生なんて、自らパイプを燻らせているような時代でしたので、何となく違和感を覚えた記憶が残っていますが、今なら何ということもなく、私も来年私大の教員になる際には研究室は禁煙にする予定だったりします。それはそれとして、本書の具育大は「ミーゼス、ハイエク、そしてシュンペーター」となっており、20世紀前半から1970年代くらいのオーストリアン学派の中核をなしつつも、必ずしもナチスによるユダヤ人迫害ばかりでもなく、米国の大学に研究の場を求めたエコノミスト3人です。本書のタイトルからして、資本主義から社会主義への移行をテーマにしているわけですが、1990年代初頭に旧ソ連が崩壊して多くの東欧諸国とともに資本主義に移行し、中国・ベトナム・キューバなどの一部に社会主義と自称する国が残ってはいるものの、資本主義と社会主義の歴史的な役割についてはすでに決着がついた、と考えるエコノミストが多そうなところ、それを経済学史的にホントに振り返っています。ご本家のマルクスをはじめとして、マルクス主義のエコノミストの多くは、あくまで私の想像ですが、資本主義から社会主義への移行は歴史的必然であり、好ましいと考えていたわけですが、副題に上げられたオーストリア学派の3人については、少なくともシュンペーターは決して好ましいとは考えず渋々ながら資本主義から社会主義への移行はある程度の歴史的必然であると考えていた一方で、ミーゼスは今でいうところの市場原理主義的なエコノミストですし、ハイエクも社会主義を左派の全体主義、ファシストを右派の全体主義とひとくくりにして論じていたと私は認識していますので、シュンペーターとはかなり見方が異なると考えるべきです。ただ、1930年代にウォール街に端を発する世界大恐慌の中で、古典派的な完全競争を賛美する資本主義はむしろ好ましくなく、何らかの政府の市場介入が必要と考えるエコノミストが多かったことも事実です。ひとつの大きな流れがケインズであるのはいうまでもありません。古典派的なレッセ・フェールの資本主義をいかに安定的な気候に作り替えるかが当時のテーマであり、ミーゼスのように資本主義の不安定性を否定する議論は、当時は受け入れがたかった気がする一方で、気が進まないながら渋々社会主義への移行を見込んだシュンペーターの見方も理解できるところです。経済体制的には大きな意味ある議論とは考えられませんが、資本主義をいかに社会全体に、あるいは、国民に安心できるシステムに磨き上げていくか、という点でのエコノミストの努力を読み取るべきかもしれません。巻末の読書案内が迷惑なくらいに充実しています。私はかなり前に同じ著者の『経済学者はこう考えてきた』を読んで、その際、巻末の読書案内は適当だったような記憶があるんですが、本書のはやや重厚に過ぎる気がしました。もっとも、あくまで個人の感想です。

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次に、望月智之『2025年、人は「買い物」をしなくなる』(クロスメディア・パブリッシング) です。著者は、デジタルマーケティング支援を提供するコンサルタント会社の経営者です。今週号の「東洋経済」のアマゾンで「売れているビジネス書」ランキングで、先週の130位から29位にランクアップしたと注目されていたりしました。ということで、買い物についての将来像を提供してくれています。本書の終章で出て来るのを少し私なりにアレンジすると、その昔は、1日かけて百貨店で買い物をしていたところ、私の子供時代なんかはモータリゼーションの時代で一家そろって朝から自動車でショッピングモールに出かけてランチの後に帰宅するという半日がかりの買い物の時代を経て、自転車で1時間のスーパーの買い物、そして、最近では、リアルの店舗なら10~15分でコンビニ、あるいは、5分以内でインターネット通販で買い物を終える、といったカンジでしょうか。通販を別にすれば、お店に足を運んで、品定めをし、レジに並んでお支払いを済ませ帰宅する、ということで、「家に帰り着くまでが遠足」ではないですが、帰宅までを考えれば、確かに買い物はメンドウです。しかし、他方で、資本主義的な世界観からすれば、典型的にお金を払って買う方とお金をもらって売る方の、決して対等ではあり得ない関係が実現するのが買い物という現実です。例えば、我が家は子供が小さかったということもあって、買い物の荷物を運び込むのに便利な低層階、2~3階に住んでいたんですが、最近ではインターネット通販などで買ったものを運んでもらえば高層階の生活も快適、なんて時代であったりするわけで、お金持ちの国民がお金を払って運ばせる側とお金をもらって運ぶ側に分断されている感すらあります。他方で、本書のいうように、もはや消費の選択すらせずに、AIにお任せでいつものトイレットペーパーや日用品や化粧品などを定期的に購入するようなライフスタイルも可能にあっています。トイレットペーパーの在庫をAIが確認して自動的に発注するとかです。こうなれば、人類がAIの家畜ないしペットになる一歩手前、と感じるのは私だけでしょうか。ネコが飼い主にエサをねだって、トイレの砂を交換してもらうようなもんです。ペットのネコがペットフードに依存して狩りをしなくなるように、人間もAIのチョイスにお任せで買い物をしなくなるのかもしれません。「上級国民」はAIが必需品を発注して、「下級国民」がそれを運ぶ、ということになるのかもしれません。そうならないように、自覚的な民主勢力の行動が求められているのかもしれません。本書もある意味で資本主義について深く考えさせられる読書でした。

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次に、 レイ・フィスマン & ミリアム A. ゴールデン 『コラプション』(慶應義塾大学出版会) です。著者2人は、米国の大学において行動経済学と政治学のそれぞれの研究者です。英語の原題は Corruption であり、2017年の出版です。一般名詞としての「コラプション」には、汚職と腐敗の2通りの邦訳がありますが、本書では前者の意味で用いており、さらに、公務員に対するものだけを対象としています。ですから、少し前に我が国でも話題になった建設業界の談合などは少し違う扱いかもしれません。ということで、本書で一貫して強調されているのは、汚職を含む資源配分ないし所得分配についてもひとつの均衡であるという点です。ですから、限定的とはいえ、経済合理性からいくぶんなりとも説明できるハズ、ということになります。例えば、どこかの駐車場に料金を支払って車を置くか、路上駐車で罰金を支払うか、はたまた、路上駐車で取り締まりの警官に賄賂を支払って罰金を逃れるか、の大雑把に3つの選択肢から、主観的な期待値と確率から最適解を選択するわけです。ただ、一般論ながら、公務員に賄賂を渡して不正な手段で利益を上げるのは、経済的な最適資源配分から歪みを生じて非効率を生み出す可能性が高くなり、これも一般論ながら、汚職は避けるべきであると見なされており、そのための方策についても本書では考えを巡らせています。個別具体的なケーススタディよりも豊富ですが、定量的な分析に重点が置かれているようです。例えば、民主主義と専制主義でどちらが汚職の割合が高いか、については、王政を例外として専制主義の方に汚職がはびこる可能性を指摘していますし、他方で、公務員のお給料を上げれば汚職が減少するケースとそうならないケースの分析など、いろんなケーススタディも示されています。日本に住んでいる我々にはそれほど目につきませんが、途上国では賄賂を贈る汚職は日常的にあり得るものです。実は、私はチリではともかく、インドネシアでも現地の免許証を取って自動車を運転していたんですが、ほとんど現地語を理解しない私がどうやって免許証を取得したかといえば、控えめにいっても、違法スレスレのわいろ性あるつけとどけが効き目あったとしか思えません。ただ、その昔には、本書で紹介されているようなレフの議論にもあるように、極論すれば、途上国の不可解で不合理な規制を回避するために賄賂を贈っての汚職がむしろ経済合理的だった可能性も比叡出来ないわけですが、今ではそんなこともないと考えるべきです。途上国援助や開発に絡んだ汚職は今もって決して例外的なものではなく、基本的にはカギカッコ付きの「文化」とすらいえる段階まで一般化した汚職が、みんながやっているから自分の汚職に対する認識とは別にして、自分もやる、ということにつながっています。前半のみんながやっている、という部分は期待ですから、我が国のデフレ対策と同じで、期待に働きかけて、誤った期待を払拭するのはとても時間がかかります。特効薬はありません。地道な活動が必要、という結論しか出て来ず、私のようなのんびりした田舎者が取り組むべき課題のような気がして、逆に、せっかちな都会人には不向きかもしれません。

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次に、岡奈津子『<賄賂>のある暮らし』(白水社) です。著者はアジア経済研究所の研究者であり、地域的な専門分野は中央アジアです。この読書感想文の直前に取り上げた『コラプション』がケーススタディよりも定量的な評価に重きを置いた学術書だったのに対して、本書も専門的な学術書の要素あるとはいえ、ほぼほぼケーススタディ、しかも、著者が自分で情報を収集した限りのカザフスタンのケーススタディとなっています。本書でも、基本的に公務員や何らかの有資格者に対する賄賂を取り上げており、交通警官をはじめとする警察官や役所への対応における賄賂、さらに、教育と医療の現場における賄賂に着目しています。カザフスタンは1990年代初頭に旧ソ連の社会主義経済から切り離されて独立し、いわゆる移行国として市場経済化が進められる中で、資源依存ながら今世紀初頭から経済成長が本格化し、現在では1人当たりGDPが1万ドルを超える高位中所得国となっています。その中で、本書で取り上げられているようなメチャクチャな賄賂がまかり通るようになっているようです。私はインドネシアの汚職の現状に関する情報もいくぶんかは接する機会がありましたし、そもそも、ビジネス上で賄賂とまでいわないまでも、営業が売り込む際の接待などは我が国でも日常的に見られるわけですし、医療についてもお金持ちほど高額で先進的な医療を受けられるのは、決して賄賂が常態化しているわけではない先進国でも、これまいくぶんなりとも、ご同様です。しかし、本書で取り上げられている教育における賄賂というのはややびっくりしました。いい学校に合格するのも賄賂が効いて、成績も博士号の学位も賄賂次第、というのはどうなんでしょうか。1人当たりGDPが平均的に1万ドルを超えるくらいの高位中所得国における教育の賄賂の相場を本書から見ても、かなり高額であることはいうまでもありません。少なくとも、我が日本においては、それなりに教育の場における公平性というのが確保されてきたことは特筆すべきです。ですからこそ、森友・加計問題が大きな注目を浴びたわけですし、医大入試の性差別もご同様です。もちろん、こういった例外を別にすれば、少なくとも入試の公平性については我が国では信頼感あるわけですし、だからこそ、この暮れの大学入試への民間英語試験導入や記述式問題の見送りなどが大きく報じられているわけです。我が国でのそれなりのブランド大学への信頼感はまだ残っていて、それが悪い方向に作用するケースも決して少なくありませんが、学界はいうまでもなく、政界や官界や実業界などでも大学のランクはそれなりの重みを持ち、単なるシグナリング効果だけにしても、有効なケースも少なくありません。こういった教育の場における賄賂については、カザフスタンの先行きを懸念させるに十分な気がするのは私だけではないと感じました。

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次に、ウォルター・アイザックソン『イノベーターズ』1&2 (講談社) です。英語の原題は Innovators であり、2014年の出版です。著者は、CNNのCEOを務めt顔ともあるジャーナリスト、また、歴史学者であり、本書の冒頭で自身を「伝記作家」と位置付けています。伝記作家としては、今までは個人を取り上げてきており、世界的なベストセラーとなった『スティーブ・ジョブズ』1&2のほか、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』上下、『ベンジャミン・フランクリン伝』、『アインシュタイン伝』、『キッシンジャー伝』などがあります。ただ、本書では特定の個人を取り上げるのではなく、コンピュータやICTとも称される通信技術、もちろん、インターネットも含めてのテクノロジー全般を、発明者というものは存在しないものの、幅広く関連する人物像にスポットを当てています。私は英語版の原書の表紙を見た記憶があるんですが、ラブレス伯爵夫人エイダ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、アラン・チューリングの4人が並んでいたりしました。まず、第1巻では、コンピュータの母といわれ英国の女性数学者でもある伯爵夫人エイダ・ラブレスの存在から、世界初のコンピュータENIACの誕生、プログラミングの歴史、トランジスタとマイクロチップの発明、そしてインターネットが生まれるまでを網羅し、第2巻では、比較的直近までのデジタルイノベーションのすべて、すなわち、パーソナルコンピュータ、ソフトウェア、ブログ、Google、ウィキなどが取り上げられた上で、終章でラブレス伯爵夫人エイダに立ち戻っています。邦訳のイノベーターはそのままイノベーションを行う人という意味ですし、コンピューターやインターネットなどのイノベーション、さらに、人工知能=AIに関する著書の考え方が色濃く示されています。例えば、イノベーションは突出した天才が1人で実行するのか、それとも、テクノクラート的なチームでの達成の成果なのか、という点については、やや残念なことに折衷的な見方が示されており、傑出した大天才がチームを組んでイノベーションを実行する、ということになっています。ただ、後者のAIに関する見方は明確であり、機械が思考することはありえないとのレディ・エイダの考えを示し、機械はあくまで人間のプログラミングに従って動くものと規定しています。ですから、AIが人類の支配者になることは想定していないようです。ということで、ジャーナリスト的な才能ある歴史研究者、というか、その逆の歴史研究者の資質あるジャーナリストでもいいんですが、テクノロジーの詳細な解説はほぼほぼなしに近い点に不満を持つ向きがあるような気がしないでもないものの、人物像を生い立ちから家庭的なバックグラウンドまで迫ってキャラを立て、技術が社会的ンどのような貢献をなしたかを明確に示した歴史書です。時系列的に順を追っているだけでなく、タイトル通りのイノベーターたちという人物を就寝に据えながら、技術を章別のテーマに立てて、かなり判りやすく史実を並べています。決してコンパクトではありませんし、英語版の原書は5年前の出版ながら、キチンと押さえるべきポイントは押さえられており、邦訳がいいのも相まって、私のように工学的な知識がなくても、スラスラと読み進むことが出来ます。

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次に、湊かなえ『落日』(角川春樹事務所) です。著者は、ご存じイヤミスと呼ばれる読後感の悪いミステリ作家です。本作品は直木賞候補作となっています。ということで、同年代30歳過ぎの2人の女性をメインとサブの主人公に配し、20年前の少年・少女時代の地方の一家殺人事件の真相に迫るミステリです。メインの主人公はアシスタント的な役割ながらシナリオライター、サブの主人公は世界を舞台に活躍する映画監督です。この2人は出身地が同じで、その地で起こった一家殺人事件、すでに裁判が終わって判決も確定している事件をテーマとするドキュメンタリー映画の製作に先立って、事件の真相解明に迫ります。その中で、児童虐待が大きなテーマとなり、事件で殺された虚言壁のある高校生、犯人でその兄の男性、その殺人事件のあった家族の隣家に小さいころ住んでいたサブの主人公の映画監督、同じ町でピアニストを目指す姉を交通事故で無くしつつも、まだ生存して世界で演奏活動を続けているフリをするメインの主人公のシナリオライター、それぞれが何らかの異常性とまでいわないとしても、心に闇を持っていて、真実を直視するところまでいかないようなケースが散見されるんですが、それをサブの主人公である映画監督が強力なパワーで切り開いていきます。出版社の宣伝文句では「救い」という言葉も強調されていますが、私が考えるキーワードは裁判と映画です。特に、前者の裁判については精神鑑定も含めての裁判です。映画はサブの主人公の映画監督だけでなく、映画好きの登場人物にも着目すべき、という趣旨です。何となく、イヤミスを連想させるキャラ、例えば、殺人事件の被害者となった虚言壁ある高校生をはじめとして、イヤなキャラクターの登場人物はいっぱいいるんですが、なぜか女性は美人が多くなっています。映画化を意識しているのかもしれません。映画化されたら、おそらく、私は見に行くような気がします。それはともかく、私は長らくこの作者のベストの代表作は、10年余り前のデビュー作『告白』だと感じて来ましたが、少し前の作品あたりからさすがに考えを変更しつつあり、本作品は新は代表作と見なしていいような気がします。

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最後に、秦野るり子『悩めるローマ法王 フランシスコの改革』(中公新書ラクレ) です。ちょっは私とほぼほぼ同年代で読売新聞のジャーナリストのご経験が長いようです。現在のフランシスコ教皇については、就任直後にはとても好意的な報道が多く、私もアルゼンティン出身、初めてのラテン余りか出身の教皇として大いに注目して来たんですが、最近では金銭スキャンダルや性的虐待の問題を背景に、教皇支持の主流派と反主流派の亀裂や混乱が生じているのも事実のようです。少し前に訪日を果たしたばかりでもあり、就任直後の「熱狂的」ともいえる高評価から少し時間を経て、現在のバチカンの真実を読んでみました。まず、私自身は仏教徒であり、浄土真宗の信者である門徒です。ただ、カトリックの南米チリで大使館勤務の経験があり、ムスリムが多数を占めるインドネシアの首都ジャカルタで一家4人で3年間生活した記憶もあります。それなりに多様な宗教に接してきたつもりです。ということで、私自身は今持って、フランシスコ教皇に関するノンフィクションの代表作はオースティン・アイヴァリー『教皇フランシスコ』(明石書店) であると考えており、2016年5月に私も読んでおり、このブログに読書感想文を残しています。本書では、その後の性的虐待問題、これも、ボストングローブ紙『スポットライト 世紀のスクープ』(竹書房) にとどめを刺しますが、何と、同じ2016年5月の『教皇フランシスコ』を取り上げた次の週に読書感想文を残した記憶があります。そういった読書から3年半を経過して、ちょっと新書判で取りまとめられているお手軽なノンフィクションを読んでみましたが、やっぱり、思わしくありませんでした。ほとんど何の収穫もなかった気がします。フランシスコ教皇ご出身のアルゼンティンのペロン政権について、かのポピュリストのペロンを「エビータの夫」的な紹介をするなんて、読者のレベルをどのように想定しているのか、なんとなく透けて見える気がしますし、会計ファーム・コンサルタント会社のPwCが Princewaterhouse というのも、タイプミスと見なすにはレベルが低すぎます。第8章のタイトル「中国市場を求めて」というのも、宗教活動を表現するにはいかがか、という気がしますし、全体的にかなりレベルが低いといわざるを得ません。

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2019年12月27日 (金)

2か月連続で減産となった鉱工業生産指数(IIP)と消費税率引上げのダメージ残る商業販売統計と堅調ながら改善のモメンタム薄れつつある雇用統計!

今日は官庁のご用納めで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で見て、前月から▲0.9%の減産を示し、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲2.1%減の11兆8670億円、季節調整済み指数は前月から+4.5%増を記録しています。雇用統計では、失業率は前月とから▲0.2%ポイント低下して2.2%、有効求人倍率は前月から横ばいの1.57倍と、いずれもタイトな雇用環境が続いているように見受けられます。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、11月も0.9%低下 台風や海外向け低調で
経済産業省が27日発表した11月の鉱工業生産指数速報(2015年=100、季節調整済み)は前月比0.9%低下し97.7だった。10月に4.5%低下と大幅に落ち込んだのに続く2カ月連続の低下となった。生産用機械などで台風19号の影響が続いたほか、海外の設備投資の減速も響いた。企業の先行き予測は上昇を見込むが、基調判断は「弱含み」で据え置いた。
QUICKがまとめた民間予測の中央値(1.2%低下)より低下幅は小さかった。それでも台風19号で被害を受けた10月からさらに減産となり、指数は13年4月以来、約6年半ぶりの低水準となった。
業種別では15業種中12業種が低下した。最もマイナスの寄与が大きかったのが生産用機械で、前月比8.9%低下した。台風19号の影響で部品の調達が滞り、生産が鈍った悪影響が残った。半導体製造装置は海外向けの生産が低調だった。
自動車は10月に大幅に落ち込んだ反動が出たほか、新型車の販売が好調で、11月は4.5%増えた。それでも10月の落ち込み(7.9%低下)を補う力強さはなかった。
経産省は10月の消費増税について「生産面でそれほど大きな影響は見られない」とした。指数を財別でみると、家電などの耐久消費財は4.8%の上昇、食料品などの非耐久消費財は0.3%の上昇だった。
もっとも、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「消費財は10月に大幅に低下した反動で上がっただけで、国内消費の落ち込みは生産に影響している」と指摘する。その上で、11月の指数低下について「米国など海外の設備投資需要の減速も重なった」と語り、台風よりも海外需要が低調であることの影響が大きいとの見方を示した。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査によると、12月は前月比2.8%の上昇、20年1月は2.5%の上昇を見込む。経産省は「先行きは上昇に転じる兆しがある」とする一方で、足元で指数の低下が続いていることから基調判断は「弱含み」のまま据え置いた。予測調査の数字をそのままあてはめると、10▲12月の生産は7▲9月比で低下し、四半期ベースで2期連続のマイナスとなる。
11月の出荷は1.7%の低下と2カ月連続で悪化した。在庫は1.1%低下と2カ月ぶりに前月比でマイナスだった。
小売販売額11月2.1%減 増税で自動車など高額品低調
経済産業省が27日発表した11月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比2.1%減の11兆8670億円だった。10月の消費税率引き上げ前に表れた駆け込み需要の反動減が11月も残った。特に自動車や家電、宝飾品など高額商品の販売が低調だった。10月の7.0%減より下げ幅は縮小したが、前回の増税2カ月目にあたる2014年5月の0.4%減よりは大きかった。
減少は2カ月連続。経産省は「9月までに前倒しで高額品を買った人は購入を控えている」との見方を示した。前回の増税とは季節が違うため単純比較は難しいが、減少率だけを見ると、直後の10月に続いて前回増税時より大きかった。一般的に消費が盛り上がる年末年始も増税を受けた節約モードが続くのかが今後の焦点となる。
小売業販売を商品別にみると、自動車小売業が前年同月比5.9%減と大きく落ち込んだ。新車だけでなく中古車や輸入車の販売も不調だった。家電など機械器具小売業は7.8%減。駆け込み需要が大きかったエアコンなど高額な家電の販売が伸び悩んだ。原油価格が下落し、燃料小売業も6カ月連続で減少した。
業態別では、百貨店の販売額が5.9%減で2カ月連続で前年を下回った。11月は気温が高い日が続き、コートなど冬物衣料の動きが鈍かったことも影響した。訪日観光客の減少も引き続き販売を下押ししている。家電大型専門店は5.5%減った。
一方、コンビニエンスストアの販売額は2.3%増と2カ月連続で増加した。大手コンビニでは10月からキャッシュレス決済に2%分のポイントをその場で還元しており、コンビニでの買い物が増えている。
失業率3カ月ぶり改善 11月2.2%、求人倍率横ばい
総務省が27日に発表した11月の完全失業率(季節調整値)は前月から0.2ポイント改善し2.2%だった。離職者が減ったことで失業者数も減り、3カ月ぶりに改善した。厚生労働省が同日発表した11月の有効求人倍率(同)は3カ月連続の1.57倍となった。製造業など一部業種に陰りがあるものの、全体では堅調な雇用情勢が続いている。
完全失業者数は前年同月比17万人減の151万人。総務省によると、1992年12月の失業者数が144万人となって以来、26年11カ月ぶりの低水準という。自己都合の離職者が12万人減と大幅に減ったことが大きい。
就業者数は同53万人増の6762万人だった。特に女性の就業者が42万人増の3009万人と大きく増えた。男性の就業者数も11万人増の3753万人で増加した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率も3カ月連続の1.13倍となった。雇用の先行指標となる新規求人倍率は前月から0.12ポイント低下し2.32倍だった。
新規求人数は前年同月比6.7%減の90万1638人で、4カ月連続で減少した。米中貿易戦争の影響を受けている製造業が19.3%減と、10カ月連続で減った。サービス業も13.1%減と減少幅が大きかった。

いくつかの統計を取り上げていますので長くなりましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、中央値で前月から▲1.2%の減産、レンジでも▲2.3%~▲0.2%の減産でしたから、おおむねコンセンサス通りの結果といえます。生産・出荷ともに2か月連続で低下を示しており、在庫は引用した記事にもあるように前月比でマイナスとはいえ高止まりしていて、内外の需要の低迷が伺える内容です。業種別では、生産用機械工業と電気・情報通信機械工業が生産・出荷ともに低下している一方で、自動車工業と輸送機械工業(自動車工業除く)、さらに、電子部品・デバイス工業などは増産となっています。ただし、製造工業生産予測指数によれば、足元の12月は+2.8%、来年1月も+2.5%のそれぞれ増産と見込まれており、それほど悲観的になる必要はないものの、12月については予測誤差を考慮すれば前月比で+0.4%の増産にしか過ぎませんから、10月▲4.5%の減産どころか、直近統計の11月▲0.9%にも及びませんから、目先の生産は低い水準で推移すると考えるべきです。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。消費の代理変数となる小売販売額を見ると、消費税率引上げの当月だった10月の前年同月比▲7.0%減から、11月は▲2.1%減とマイナス幅は縮小しました。前回2014年4月の消費税率引上げ後の動向を振り返ると、引上げ当月の4月▲4.3%減、5月▲0.4%減、6月▲0.6%減と、3か月連続マイナスを記録したものの、7月は+0.6%増とプラスに回帰しています。今回の消費税率引上げのダメージがどのくらい続くかにも注目が必要です。11月統計の小売業販売額を業種別に見ると、燃料小売業が大きなマイナスになっているのは国際商品市況における石油価格の下落が朱印としても、引用した記事にもあるように、自動車小売業や電機製品を含む機械器具小売業などの比較的高額な耐久消費財を含む業種のマイナスが大きいのがひとつの特徴となっており、インバウンド観光客の人気の医薬品・化粧品小売業はプラスを続けています。

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続いて、いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた期間は景気後退期を示しています。ということで、失業率は2%台前半まで低下し、有効求人倍率も1.5倍超の高い水準を続けています。加えて、グラフはありませんが、正社員の有効求人倍率も1倍超を記録し、一昨年2017年6月に1倍に達してから、このところ2年半近くに渡って1倍以上の水準で推移しています。厚生労働省の雇用統計は大きく信頼性を損ねたとはいえ、少なくとも総務省統計局の失業率も低い水準にあることから、雇用はかなり完全雇用に近いタイトな状態にあると私は受け止めています。ただ、モメンタム、すなわち、方向性については、失業率も有効求人倍率もジワジワと雇用改善が停滞する方向にあることは確かです。雇用の先行指標である新規雇用者数の業種別統計は季節調整済みの系列が公表されていないため、季節調整していない原系列の前年同月比はすべての産業でマイナスだったんですが、特に、製造業が▲19.3%減、卸売業・小売業が▲9.9%減となっており、米中貿易摩擦に起因する外需の減速と消費税率引上げによる消費の低迷が際立っているように見受けられます。

いつも強調している通り、雇用は生産の派生需要であり、生産が鉱工業生産指数(IIP)で代理されるとすれば、基調判断は「生産は弱含んでいる」であり、先行き、景気局面が転換して景気後退局面に入れば、雇用は急速に冷え込む可能性もあります。生産が雇用増加をけん引しているのであって、人手不足が景気を拡大させているわけではありません。場合によっては、本格的な賃金上昇が始まる前に景気の回復・拡大局面が終了してしまう可能性も排除できません。

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2019年12月26日 (木)

年賀状を出す!!!

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年賀状を印刷して投函しました。現在、私はパートタイム勤務で土日のほかに週半ばの水曜日もお休みの週休3日ですので、昨日のうちに印刷・投函した次第です。
このたびの新機軸は電話番号を入れたことです。それまでは、氏名と住所はもちろんとしても、電話番号なしのメールアドレスだけで済ませていたのですが、久し振りに電話番号を入れてみました。というのは、親戚の、特に亡くなった父親の兄弟は年齢的にもメールに対応できずに、電話に頼っていることが多いと感じたからで、加えて、来年にはフルタイムの大学教員として再就職すべく関西に引っ越す予定で、今の電話番号の有効期間も短くなったので、迷惑電話の被害も少ないだろうと思ったからです。住所・氏名などの上部のスペースには、関西への引っ越しと私大教員への再就職の旨を書き添えました。

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2019年12月25日 (水)

企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率は縮小しつつもプラスが続く!

本日、日銀から11月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。先月10月統計から消費税率引上げがありましたので、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率はジャンプして今月11月統計でも+2.1%を示しています。国際運輸を除く総合で定義されるコアSPPIの前年同月比上昇率も同じく+2.1%を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の企業向けサービス価格、増税除き0.4%上昇
日銀が25日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.0と、前年同月比で2.1%上昇した。伸び率は10月から横ばいで、消費増税の影響を除くと0.4%上昇にとどまった。スポーツ特番や自動車の新車販売の需要で、テレビ広告がマイナス幅を縮小したことが寄与した。
前月比は0.2%上昇した。広告や不動産が押し上げる一方、土木建築など諸サービスが伸び悩んだ。日銀の調査統計局は「消費税率の引き上げ前後で企業の価格設定行動に大きな変化はみられていない」としている。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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先月統計から大きな変化はないんですが、引き続き、労働者派遣サービスや警備を含む諸サービスが前年同月比で+2.7%と高い伸びを示しているほか、景気に敏感な項目である広告についても、前年同月比はまだマイナスながら、そのマイナス幅が縮小しています。運輸・郵便も11月統計で前年同月比+2.2%と高い上昇率なんですが、一方で国際商品市況における石油価格の下落があり、他方で、人手不足もありで、内訳を少し詳しく見ると、道路貨物輸送が+3.5%と上昇を続けているのに対して、外航貨物輸送や内航貨物輸送は前年同月比でマイナスだったりします。また、消費税を除く上昇率は、11月統計で+0.4%と10月統計から変わりないものの、5月統計まで+1.0%の上昇率を示していたのに比べれば、ジワジワと上昇率が縮小し地得ることも事実です。人手不足の影響によりサービス価格はそれなりに堅調であるものの、米中貿易摩擦を背景に景気動向から方向感としては上昇率が縮小してきているのも確かです。

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2019年12月24日 (火)

リクルートジョブズによる11月のアルバイト・パート及び派遣スタッフの賃金動向やいかに?

今週金曜日12月27日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる11月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。

 

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給の上昇率は+3%の伸びで引き続き堅調に推移しています。詳細に見ると、三大都市圏の11月度平均時給は前年同月より+3.1%、+32円増加の1,084円を記録しています。職種別では「製造・物流・清掃系」(+41円、+3.9%)、「フード系」(+32円、+3.2%)、「事務系」(前年同月比増減額+30円、増減率+2.8%)、「販売・サービス系」(+29円、+2.8%)など、全職種で前年同月比プラスとなっており、地域別でも、首都圏・東海・関西のすべてのエリアで前年同月比プラスを記録しています。一方で、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、今年2019年7月統計以降マイナスを続けており、11月はとうとう▲43円減、▲2.6%減の1,619円と、下げ足を速めています。職種別では、「クリエイティブ系」(+56円、+3.2%)、「IT・技術系」(前年同月比増減額+38円、増減率+1.8%)、「オフィスワーク系」(+23円、+1.5%)、「医療介護・教育系」(+16円、+1.1%)の4職種がプラスなった一方で、「営業・販売・サービス系」(▲29円減、▲2.0%減)の1職種だけながらマイナスを示しています。また、地域別でも、関東・東海では前年同月比マイナス、関西では横ばいを記録しています。派遣スタッフの平均時給が唯一低下した「営業・販売・サービス系」の▲2.0%減よりもさらに大きく低下しているのは、職種平均よりもかなり低い時給水準の「医療介護・教育系」のウェイトが増加しているシンプソン効果ではないか、と私は想像しています。というのも、同業のエン・ジャパンによる「エン派遣」3大都市圏募集時平均時給は、11月の前年同月比+1.7%増と、18か月連続で伸びを示しているからです。いずれにせよ、全体としてはパート・アルバイトでは人手不足の影響がまだ強い一方で、一部の職種や地域では派遣スタッフ賃金は伸びが鈍化しつつある、と私は受け止めています。もちろん、景気循環の後半に差しかかって、そろそろ非正規の雇用にはいっそうの注視が必要、と考えるエコノミストも私以外に決して少なくなさそうな気がします。特に、上のグラフを見る限り、右肩上がりの上昇を続けるアルバイト・パートに比べて、派遣スタッフの時給については、単変量のトレンドながら昨年2018年前半から半ばにかけて、いったん直近のピークを付けた可能性があります。ただ、2016年年央にも同じようにピークを過ぎた後、2017年後半からもう一度上昇したこともあり、人手不足をはじめとする労働需給に敏感なだけに、まだ確定的な見方を示すことは出来そうにない気がします。

 

最後に、何度でも繰り返しますが、決して人手不足が景気をけん引しているのではありません。雇用は生産の派生需要であり、景気が後退局面に入ると労働需要が一気に冷え込む可能性は否定できないわけで、この点は絶対に忘れるべきではありません。

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2019年12月23日 (月)

日本総研リポート「訪日韓国人の減少が関西経済に及ぼす影響」やいかに?

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長らく等閑視していましたが、政府観光局の訪日外客統計が先週12月18日に公表されています。最近の動向は上のグラフの通りです。夏休みにもかかわらず8月に訪日外国人が前年同月比マイナスをつけ、最近はさえない動きを占めs知恵いるのはグラフからも読み取れる通りです。この最大の要因のひとつは、広く報じられている通り、外交関係に起因して韓国からの訪日観光客が大きく減少しているためであり、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、8月▲48.0%減、9月▲58.0%減、10月▲65.5%減、11月▲65.1%減となっています。九州は西の端の長崎大学に出向していた私の現地感覚からして、西に行くほど中国・韓国をはじめとするアジアのインバウンドの影響が大きいのは理解できるところで、日本総研から【関西経済シリーズNo.8】として「訪日韓国人の減少が関西経済に及ぼす影響」が12月20日に明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。

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上のグラフは、日本総研のリポートから国籍別の訪日客消費額シェア(2018年)のグラフを引用しています。このグラフで見る限り、西に行くほどアジアのインバウンド観光客比率が高い、という私の実感は統計的に裏付けられているようです。そして、リポートでは、2020年も訪日韓国人数が▲6割減の状況が続けば、関西のインバウンド消費を2019年比で▲9%程度、すなわち、▲1,000億円≒関西の地域総生産(GRP)の▲0.1%程度の下押し圧力となる、と試算しています。来年2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催され、訪日観光客が関西から東京に流れるのか、それとも、東京に来たついでに関西にも立ち寄るのか、どちらの目が出るのか私にはよく判らないながら、韓国からの訪日観光客の▲60%減がこのまま1年間続くとは思えないものの、業界や地域によってはそれなりのインパクトがある可能性も否定できません。

私は、来年、私大の教員になるため、故郷の関西に引っ越そうと予定しています。教えるのは長崎大学のころと同じ日本経済論なんですが、関西経済に関する情報についてもちょっぴり気になり始めたところです。

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2019年12月22日 (日)

上原ひろみ10年ぶりのソロアルバム「Spectrum」を聞く!

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師走も押し詰まったところですが、10年ぶりのソロアルバムとなる上原ひろみ Spectrum を聞きました。私が上原ひろみの新しいアルバムを聞いたのは2016年のトリオ・プロジェクト一環の Spark から3年ぶりです。この3年間に、ソロでもトリオでもなく、矢野顕子とのデュエットで「ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-」とハープ奏者エドマール・カスタネーダとのデュオ「ライブ・イン・モントリオール」がリリースされているんですが、ややパスかなあと考えてしまいました。定年退職で年収が大きく減少し、音楽リソースにつぎ込める余裕がなくなったのも事実です。といった暗い話は別にして、 Spectrum の9曲の構成は以下の通りです。なお、ボーナスCDのついていない通常版です。

  1. Kaleidoscope
  2. Whiteout
  3. Yellow Wurlitzer Blues
  4. Spectrum
  5. Blackbird
  6. Mr. C.C.
  7. Once in a Blue Moon
  8. Rhapsody in Various Shades of Blue (Medley)
  9. Sepia Effec

10年ぶりのソロアルバム、という宣伝文句ですから、その10年前のソロアルバムは Place to Be とういことで、そのタイトル曲は映画『オリヲン座からの招待状』のメインテーマでした。私は、浅田次郎の原作小説も読みましたし、宮沢りえ主演の映画も見ました。でも、ついつい、上原ひろみのソロを聞くと、大昔のコルトレーンのシーツ・オブ・サウンドを思い出すくらいに、びっしりと切れ目なく音が連なっているような気がして、これら2つのソロ・アルバムについては私はそれほど評価しません。師匠筋に当たる、というか、彼女を見出したチック・コリアなんぞはソロでも素晴らしいピアニストですし、ハービー・ハンコックもご同様な一方で、コリアとひろみのデュオ・アルバム「デュエット」も素晴らしい出来だったと私は感じていますが、どうも、私には上原ひろみのソロはピンと来ません。いわゆる新主流派でチック・コリアやハービー・ハンコックと同じ世代のピアニストにキース・ジャレットがいますが、あくまで私の想像ながら、コリアやハンコックにソロではかなわないと思ったのか、キース・ジャレットが独特のソロ・ピアノの領域を開拓したのはよく知られている通りです。独特のソロ・ピアノに進んだのは、まあ、比較されたくないと感じたのも一因ではないか、との私独自のゲスの勘繰りです。話がヘンな方向に逸れてしまいましたが、それでも、私のように、上原ひろみのファンであり、ジャズ・ピアノに大きな興味持つ向きには聞いておくようにオススメします。といいつつ、私は上原ひろみの次のトリオのアルバムを待ちたいとも思います。

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2019年12月21日 (土)

今週の読書ややや失敗感ある経済書など計7冊!!!

今週の読書は、興味深いテーマながら、ややお手軽に書き上げてしまった感のある開発経済学の学術書やかなり特定の党派色強く市場原理主義かつ経済学帝国主義的な経済書、あるいは、経営書、さらに、歴史書などなど、いろいろと読んで以下の計7冊です。やや失敗感ある本が普段に比べて多かった気がします。いくつかすでに図書館を回り終えており、来週の読書も数冊に上りそうな勢いで、さらに、年末年始休みを視野に入れて、かなり大量に借りようとしています。ジャレド・ダイアモンドの『危機と人類』は借りたんですが、来週読むか、その先にするか未定ながら、たぶん、年末年始休みにじっくりと腰を据えて読む体制になりそうな気がします。他方、来週の読書はなぜかコラプション=汚職関係がテーマになった本や、来年のNHK大河ドラマに迎合して明智光秀関係の本も入ったりする予定です。

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まず、トラン・ヴァン・トウ & 苅込俊二『中所得国の罠と中国・ASEAN』(勁草書房) です。著者はベトナム出身の早大の経済学研究者とそのお弟子さん、となっています。本書タイトルにある「中所得国の罠」とは、とても最近の用語であり、 Gill and Kharas (2007) "An East Asian Renaissance: Ideas for Economic Growth" という世銀リポートで提唱された概念であり、その後の10年を考察した世銀のワーキングペーパーで同じ2人の著者による "The Middle-Income Trap Turns Ten" という学術論文も2015年に明らかにされています。本書では、何点かに渡って、「厳密な定義や合意ない」と繰り返されていますが、多くのエコノミストの間で緩やかなコンセンサスがあり、低開発状態から1人当たりGDPで見て3000ドルから数千ドルの中所得国の段階に達したものの、1万ドルを十分に超える先進国の段階に達するのに極めて長期の年数を要した、あるいは、まだそのレベルに到達していない、といった国々が陥っている状態を指しています。本書でのフォーカスはアジアですが、もちろん、東欧や中南米などでも見受けられるトラップです。例えば、ポーランドは1人当たりGDPが1万ドルを少し越えたあたりで伸び悩み始めたといわれています。その原因としては、資源国ではいわゆる「資源の呪い」に基づくオランダ病による通貨の増価、あるいは、その後の段階では、ルイス転換点を越えたあたりで低賃金のアドバンテージを失って、さらなる低賃金の低開発国から追い上げられるとともに、先進国の技術レベルには達しないという意味で、サンドイッチ論などが本書でも紹介されています。このサンドイッチ論は Gill and Kharas (2007) でも展開されています。そして、アジア地域において、歴史的に中所得国の罠を脱して先進国の段階に到達した日本と韓国のケーススタディを実施するとともに、どうも中所得国の罠に陥っている東南アジアASEAN各国、ただし、先進国の所得レベルに達したシンガポールは除き、高位中所得国のタイとマレーシア、低位中所得国のインドネシアとフィリピン、さらに、中国のケーススタディを進め、どうすれば中所得国の罠から脱することが出来るかの議論を展開しています。もちろん、本書くらいの学術書で昼食苦国の罠を脱する決定打が飛び出すはずもなく、それどころか、そのためのヒントすらなく、日本や韓国では資本は海外資本ではなく民族資本に依拠しつつ、技術は海外からの先進技術を導入してキャッチアップしたのに対して、ASEANや中国は資本ごと海外からの直接投資(FDI)に依存した、などという、やや的外れな議論もあったりします。ほとんど、実証らしい実証もなく、大学学部生レベルのデータとグラフで議論を展開していますので、判りやすいといえば判りやすいんですが、それほど学術的な深みも感じられません。議論をスタートさせる一つのきっかけになる本かも知れません。

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次に、井伊雅子・五十嵐中・中村良太『新医療経済学』(日本評論社) です。著者たちは、経済学ないし薬学の博士号を取得した医療経済学の研究者です。本書では、我が国財政が大赤字を出して財政リソースが先進国の中でも限られている中で、その最大の原因をなしている社会保障給付のうちの医療費に関して費用と効果を考える基礎的な経済学的視点を提供しようと試みています。まず、冒頭でベイズ的な確率計算をひも解き、検査結果で擬陽性が出ることによるムダの可能性を指摘することから始まって、基本的に、「最適化」のお題目の下に、財政支出の切りつめを図ろうという意図が明らかな気もします。確かに、その昔は日本の医療は「検査漬け」とか「薬漬け」といわれた時期もあり、ムダはそれなりにあって決して小さくはないと思いますが、命と健康を守るために必要なものは必要といえ勇気も持つべきです。本書でも引用されている通り、ワインシュタインの "A QUALY is a QUALY is a QUALY." といわれており、人々の健康や命にウェイトを付けることは極めて困難であり、本書でも、健康な1年と寝たきりの10年を等価と仮定したりしているんですが、極めて怪しいと私は考えざるを得ません。本書後半の第5章あたりでは、決して経済学的な知見だけで医療へのリソースを左右するものではないとか、いろいろといい訳が並べられているのも理解できる気がします。医療については、教育と同じく、情報の非対称性の問題が市場的、というか、経済学的な解決を困難にしているわけで、この点は本書でも認識しているようですが、決定的に欠けているのは、本書にはルーカス批判の視点がないことです。おそらく、医療政策ないし財政政策が変更されれば、少なくとも、医療提供者である医者や薬剤師ほかの対応は大きく変化を生じると私は考えますし、需要サイドの患者の方でも受診行動に影響が及ぶ可能性は小さくありません。それをナッジで何とかしようという意図が私には理解できません。加えて、医療の場合は少なくとも伝染性の病気の場合、外部性が極めて大きく、罹患した患者ご本人の意向に沿うよりも社会的な感染拡大防止の観点が優先する場合もあり得ます。教育における義務教育と同じで、医療についても憲法25条で定める生存権、すなわち、すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するわけですから、義務教育を健康や医療政策に適応するような形で、必要最低限のレベルの検診を受ける権利があると考えるべきです。現在の医療が過剰かどうかは、私もやや過剰感をもって見ている1人ですが、基礎的な国民の権利とともに分析が進められるべきトピックと感じています。アマゾンにも本書の評価は3つ星と芳しくないレビューが掲載されていますが、その中で、レビュアーは経済学は医療費抑制の切り札になるか、という問いに対して否定的な見方を示していて、私はそのレビュアーの見方には反対で、経済学は医療費抑制の切り札になるものの、経済学にそういう役割をさせるのは誤りであり、エコノミストとして経済学にそういう役割を担ってほしくない、と考えています。ボリュームが違いますので私も強く主張することはしませんが、まあ、左派エコノミストの私なんかとは違って、こういう人たちは、国民生活に直結した医療費などの社会保障や教育費は槍玉に上げても、防衛費の効率性を分析して削減のターゲットにすることは思い浮かびもしないんでしょうね、という気がします。

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次に、平川均・町田一兵・真家陽一・石川幸一[編著]『一帯一路の政治経済学』(文眞堂) です。編著者は、私の直感では亜細亜大学系の地域研究者ではないかという気がします。習近平主席をはじめとする中国首脳部が推進する「一帯一路」=Belt and Road Initiative (BRI)政策に関して、そのファイナンス面を担当するアジアインフラ開発銀行(AIIB)も合わせて、いろんなファクトを集めるとともに、中国の意図や経済的な意味合い、さらに、アジア・アフリカをはじめとして、欧州や日米などの先進国の対応などに関する情報をコンパイルしたリポートです。特に、アナリティカルに定量分析をしているわけではなく、基本的に、ファクトを寄せ集めているだけながら、我が国は対米従属下で米国に追従して一帯一路にもAIIBにも距離を置いていますので、それなりに貴重な情報が本書では集積されています。基本的なラインについては、漠然と私も理解しているように、元安という価格面での対外競争力の維持のために、外為市場に為替介入しまくって元をドルを買っていますので、ドル資金を豊富に保有しており、それを原資にした中国から西に向かう海路=一帯と陸路=一路の整備なわけで、文字通りの物流のための交通インフラ整備とともに、政治外交的な意図もあると本書では指摘しています。すなわち、ひとつは、特にアフリカ圏で天然資源取得とともに、外交面で台湾支持派の切り崩し、というか、台湾から中国へへの転換を目指した動きです。もうひとつは、その昔は日米の加わったTPPに対抗して中国主導の経済研の構想です。ただ、後者についてはトランプ米国大統領というとんでもないジョーカーが出現し、事態は別の様相を呈し始めているのは周知の事実だろうと思います。ただ、これだけでは済まず、中国が鉄鋼などで大きな過剰生産能力を持っていることも周知の通りであり、外為市場介入した結果のドル資金をインフラ整備として一帯一路諸国にAIIBなどを通じて融資するとともに、中国製品の販売先として確保する、という戦略にもつながっています。ですから、本書でも指摘されている通り、返済を考慮しない過剰な貸し付けが実行されたり、あるいは、返済がデフォルトした上で港湾利権を分捕ったりしている例もあるようです。繰り返しになりますが、解析的に定量分析などをしているわけではなく、一帯一路のプロジェクトなどの情報をコンパクトに取りまとめている一方で、惜しむらくは、昨年2018年年央少し前くらいからの米中貿易摩擦から以降の情報は収録されていません。中国にとって他国は輸出先として、その限りで重要なだけで、世界的な自由貿易体制などはどうでもいいと考えているに違いない、その意味では、米国トランプ政権も同じ、と私は見なしているんですが、やっぱり、米国が中国製品の輸出先として重要であった、という事実を改めて突き付けられた現時点で、一帯一路やAIIBからの融資について、中国がどう考えているのか、やや謎です。

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次に、オマール・アボッシュ & ポール・ヌーンズ & ラリー・ダウンズに『ピボット・ストラテジー』(東洋経済) です。著者3人は、大手コンサルタント会社であるアクセンチュアの高級幹部です。英語の原題は Pivot to the Future であり、2019年の出版です。ということで、「ピボット」といえば、私なんぞの経営の門外漢には、むしろ、オバマ政権における外交の軸足設定、すなわち、大西洋から太平洋へ、同じことながら、欧州からアジアへの軸足設定の変更を思い出させるんですが、本書ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)の時代において経営の中心を変更するという意味で使われています。何と、自社アクセンチュアをはじめ、ウォルマートやマイクロソフト、コムキャスト、ペプシコなど世界的な大企業におけるピボットの事例を豊富に紹介しています。当たり前ですが、ひとつの商品やサービスには、いわゆる、プロダクト・サイクルがあり、売れる時期もあれば盛りを過ぎることもあるわけで、多くの製品・サービスは時代とともに消え去ることも不思議ではありません。馬車が自動車に代替されるたり、メインフレームのコンピュータがサーバとPCに置き換わったりするわけで、長期に渡って同じ製品やサービスを供給し続けるのではなく、その軸足を変更する必要があります。それを第1部で「潜在的収益価値を解放する」と表現し、私のいつもの主張とは異なり、マネジメントの経営書にしてはめずらしく、失敗例をいっぱい並べたてています。第2部では「賢明なピボット」として、イノベーションのピボットを集中・制御・志向の3つのコンセプトから解き明かそうと試みています。そして、経済学的にいえば、全要素生産性であらわされるイノベーションのほかの2つの生産関数の生産要素、すなわち、資本=財務と労働=人材の観点からピボット、というか、ピボットのためのイノベーションをサポートする方策を探っています。第2部では第1部と違って、失敗例はほとんどなく、成功例のオンパレードですので、私のいつもの経営書に対する批判、すなわち、成功例の裏側に累々たる失敗例があるのではないか、という疑問がもう一度頭をもたげないでもないんですが、まあコンサルタントによる経営指南書とはこういうものだと考えるほかありません。最初に観点に戻りますが、製品・サービスの有限のプロダクト・サイクルに対して、それを生み出す企業というのは going-concern なわけですので、イノベーションあるいはイミテーションなどを基にした新たな製品・サービスの供給を始めないと継続性に欠けると判断されかねません。一部の公営企業などはそれでいいと私は考えないでもないんですが、民間部門では、当然ながら、大企業ほど経済社会的な影響が大きいわけですので、それなりの生き残り策を必要とするんだろうというくらいは理解します。ただ、理解できなかったのは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の時代における経営の軸足に関するピボット戦略なのかどうか、ありていにいえば、DXの時代でなくても有限のプロダクト・サイクルと going-concern の企業の関係はこうなんではないか、という気がしないでもありませんでした。

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次に、ペトリ・レッパネン & ラリ・サロマー『世界からコーヒーがなくなるまえに』(青土社) です。著者は、ノンフィクション・ライターとコーヒー業界に長いコンサルタントです。フィンランド語の原題は Kahvivallankumous であり、「コーヒー革命」という意味だそうで、2018年の出版です。ということで、私はコーヒーが好きです。オフィスにはコーヒーメーカーがあり、平日すべてではありませんが、お勤めのある日には2~3杯は飲んでいる気がします。しかし、本書の著者はコーヒーが世界からなくなる可能性も含めてコーヒーに関する「革命」あるいは大変革を議論しています。というのも、本書ではフィンランドが世界1のコーヒー消費国であるとされており、実は私の認識では1人当たりコーヒー消費量のトップはルクセンブルクだと思うんですが、確かに、フィンランドに限らず、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、などはトップ10に名を連ねているようにお記憶しています。そのコーヒー消費大国からコーヒーの将来を考える本であり、著者によれば、大量消費と気候変動のせいで、私たちが今までのようにコーヒーを飲める日は終わりを迎えつつある、ということになります。ですから、コーヒーを次世代にも残すために私たちは何をすべきなのか、あるいは、環境に配慮した良心的なコーヒーの生産と消費は可能なのか、といったテーマで議論を展開しています。まず、現在のおーひーの普及状況はサードウェーブとして、消費量拡大のファーストウェーブ、カフェラテなどのアレンジ・コーヒーが普及して多様なの見方が普及したセカンドウェーブから、原料としてのコーヒーに注目し、栽培された地域、コーヒー豆の収穫方法、そして焙煎のもたらす味への影響といった様々な点に注意を払う、という趣旨で、ワインなどと同じ飲み方に進化してきている点を指摘しています。しかし、30年後の2050年やあるいは2080年にはコーヒーは栽培・収穫されなくなっている可能性も指摘されています。サステイナビリティの観点から本書では、まず、栽培サイドのサステイナビリティ、我が国で今はやっている表現からすれば、コーヒー農園における働き方改革のようなものを考え、さらに、需要サイド、すなわち、我々のコーヒーの飲み方まで議論を展開しています。私が知る範囲でも、南米ではコーヒーに砂糖とミルクをたっぷりと入れて飲みます。実は私もそうです。しかし、本書の著者は、質の低いコーヒーに砂糖とミルクを加えてごまかすような飲み方は推奨しませんし、熱すぎるコーヒーも味をごまかそうとする意図がある可能性を指摘します。人間は体温と同じくらいのものがもっとも味を識別できると主張し、キンキンに冷えたビールも低品質のものをごまかしている可能性があるといいます。そういった、栽培サイドと飲用サイドの両方からコーヒーを大切に考え、サステイナビリティに配慮したコーヒーの栽培と飲用を本書では論じています。私は熱いコーヒーに砂糖とミルクを大量にぶち込んで飲む方であり、こういった分野に決して詳しくありませんが、コーヒーに限らず、多くの農産物やあるいは漁業などにも同じ議論が適用できる可能性があるんではないか、という気がします。

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次に、衣川仁『神仏と中世人』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) です。著者は、徳島大学の歴史の研究者です。古典古代を過ぎて、平安後期から鎌倉期にかけての中世の宗教についての論考なんですが、この時期は古典古代の密教に加えて、いわゆる新興仏教、我が家が帰依している浄土真宗や日蓮宗などが起こり、さらに、禅宗が我が国にもたらされている時期となるものの、そういった新興仏教の観点は本書にはほとんどありません、浄土真宗信者の門徒としてやや不満の残るところです。といはいうものの、本書の冒頭では宗教に関して「富と寿」を求める中世日本人から説き起こし、かなり現世的な利益を求める人々の姿を描き出しています。まあ、現代から考えても、貴族や豪族などの当時の経済社会の頂点に近いところにいて、大きな格差社会の中で衣食住に困らない階層の人々は、現世的な利益よりも、むしろ、来世への望み、すなわち、輪廻転生を解脱して極楽浄土への生まれ変わりを願ったのかもしれませんが、明日をも知れぬ命のはかなさと背中合わせの一般大衆としては、来世のことよりも現世的な利益を求める心情は大いに理解できるところです。ただ、私なんぞは現世の利益は自分の努力である程度は何とかなる可能性がある一方で、来世の生まれ変わりだけは宗教に縋る必要あると考えるんですが、まあ、現代のように灯りもなくて暗い夜には魑魅魍魎が跋扈して、いろいろと怖い思いがあったんだろうというのは理解できます。ということで、繰り返しになりますが、現世的な利益のうち、本書で冒頭取り上げられるのは「富と寿」であり、前者の「富」は宗教とともにある程度努力や自己責任で何とかすることも視野に入ります。ただ、後者の「寿」は健康や生死観なんですが、コチラの方は宗教も大いに力ありそうな気がします。というのは、「病は気から」という言葉があるように、肉体的な条件とともに、精神的なパワーで病気を治癒させる可能性は決して小さくないからです。O. ヘンリーの「最後の一葉」なわけです。その点で、近代医学の観点から、その昔の加持祈祷なんて効果ないと見なされがちですが、私は決してそうでもなかろうと受け止めています。また、本書でも指摘されている通り、ホンネとタテマエがあって、農業社会の中で、農業生産が大きなアウトプットを占め、大部分の一般大衆が農民であったころ、天候に左右されがちな農業のため、雨乞いの儀式なんぞはそれなりに重要ながら、為政者も一般大衆も宗教が転校を左右できるとは常識的に考えないとはいえ、為政者としては農業振興のために何らかの宗教的な儀式を執り行うポーズを見せる必要あった、というのも理解できるところです。それにしても、私が子供のころには「バチが当たる」という宗教的表現はそれなりの重みあった一方で、今では耳にすることもないような気がします。

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最後に、山形浩生・安田洋祐[監修]『テクノロジー見るだけノート』(宝島社) です。監修者は、ご存じ、野村総研のコンサルタントで翻訳者と大阪大学の経済学の研究者です。最新テクノロジー、特にAIやIoTなどのICT分野の技術を中心にして、ゲノム解析などのバイオも含め、9つのカテゴリーに分けて、最近の流れを解説しています。その9分野とは、宇宙ビジネス、AIとビッグデータ、モビリティ、テクノロジーと暮らし、戦争とテクノロジー、フードテック、医療技術、人体拡張技術、小売りと製造業のテクノロジー、となっています。文章は平易で読みやすく、イラストもあっさりしているのでスラスラと読めて、各分野のテクノロジーの概要を知ることができます。まあ、テレビや新聞などのメディアでも広く報じられ、それなりの専門書も決して少なくない分野ばかりですから、それなりの教養あるビジネスパーソンであれば、すでに知っている部分も決して少なくないような気がしますが、私のようなテクノロジーが専門外のエコノミストにとっては、平易なイラストで技術をわかりやすく解説してくれるのは助かります。ただ、気を付けなければならないのは、テクノロジーに対して倫理中立的で、あくまで技術面の解説に徹している点です。すなわち、先ほどの9分野でも5番目には何気に「戦争とテクノロジー」が入っていますし、6番目の「フードテック」ではさすがに、遺伝子組み換え作物(GMO)に関する注意書きのような短文が見かけられますが、続く「医療技術」や「人体拡張技術」でのデザイナーベビーやほかの倫理的な議論については触れられてもいません。AIやビッグデータ、その他のICT技術に関してはテクノロジーの倫理中立性を仮定しても構わなさそうな気がしますが、人間はいうに及ばず、植物を含む生物の遺伝子レベルの操作に関するテクノロジーについては倫理的な側面についても、それなりの注意を払うべきではないか、と私は考えています。食品について、植物の天然モノはほぼなくなり、動物食材の天然モノも極めて少なくなって、栽培された植物、あるいは、飼育された動物の食材が多くを占めていますが、それだけに、天然モノの価値も忘れられるべきではありませんし、ヒトはいうまでもなく、植物を含めて生物を遺伝子レベルから操作することの危険性や倫理的な面の議論もバランスよく紹介すべき、と私は考えます。地球環境への配慮や生物多様性の議論も必要ですし、技術的に出来ることは、経済社会的に生産増につながり、人間の効用を増加させるのであれば、やるべき、もしくは、やって構わない、ということにはならないような気がするのは私だけでしょうか?

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2019年12月20日 (金)

力強い上昇ではないながら前年比プラスが続く消費者物価指数(CPI)!

本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から少し拡大して+0.5%を示しています。消費税率引上げの影響を含んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、11月0.5%上昇 増税分除くと弱い水準
総務省が20日発表した11月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が102.2と前年同月比0.5%上昇した。プラスは35カ月連続となるが、消費税率引き上げによる押し上げ効果を除くと、弱い数字だった。
前年同月と比べると、外食や宿泊料などが上昇した。加えて大手が値上げした火災・地震保険料の上昇も物価上昇に寄与した。一方、電気代や都市ガス代、ガソリンなどのエネルギー構成品目が弱く、物価の下げ圧力となった。携帯電話の通信料も大手各社の値下げの影響が引き続き表れた。
物価上昇率は0.4%上昇だった前月に比べると、伸び率は拡大した。これは消費税率引き上げの経過措置として10月は旧税率(8%)が適用されていた電気代や都市ガス代などの一部の商品・サービスが、11月は新税率(10%)の適用となったことが大きい。
総務省の機械的な試算によると、消費税率引き上げと幼児教育・保育無償化の影響を除いた場合、生鮮食品を除く総合の物価上昇率は0.2%程度。これは同じく0.2%上昇だった17年3月以来の低水準となる。
生鮮食品を除く総合では396品目が上昇した。下落は107品目、横ばいは20品目だった。総務省は「伸び幅は鈍化しているものの、依然としてプラスの状況が続いている」と指摘し、「物価は緩やかな上昇が続いている」との見方を据え置いた。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は102.1と前年同月比0.8%上昇した。これは16年4月以来、3年7カ月ぶりの高い水準。「食料、設備修繕・維持など身近なところの幅広い値上げが浸透している」(総務省)とした。生鮮食品を含む総合は102.3と0.5%上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。さらに、なぜか、最近時点でコアコアCPIは従来の「食料とエネルギーを除く総合」から「生鮮食品とエネルギーを除く総合」に変更されています。ですから、従来のコアコアCPIには生鮮食品以外の食料が含まれていない欧米流のコアコアCPIだったんですが、現時点では生鮮食品は含まれていないものの、生鮮食品以外の食料は含まれている日本独自のコアコアCPIだということが出来ます。

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ということで、先月の10月統計から消費税率の引上げと幼児教育・保育無償化の影響が現れており、これを含んだ結果となっていて、引用した記事にもあるように、その影響の試算結果が「消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響 (参考値)」として総務省統計局から明らかにされています。少し話がややこしいんですが、この参考値によれば、10月統計について、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIのヘッドライン上昇率+0.4%に対する寄与度が+0.37%となっていて、その+0.37%に対する消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響が合わせて+0.20%、分けると消費税率引上げが+0.77%、幼児教育・保育無償化が▲0.57%と、それぞれ試算結果が示されています。11月統計ではコアCPI上昇率が+0.5%と少し上昇幅を拡大しているものの、引用した記事にあるような経過措置を別にすれば11月統計と10月統計について消費税率引上げと洋右児教育・保育無償化の影響は同じと考えるべきですので、このコアCPI上昇率+0.5%の半分近くの+0.20%が制度要因といえます。実際に、統計局がExceelファイルで提供している消費税調整済指数では、10月も11月も消費税の影響を除くコアCPIの前年同月比上昇率はともに+0.2%と試算されています。先月統計公表時にこのブログでも言及し、また、上に引用した記事にもあるように、電気・ガス料金などの月をまたぐ物価の経過措置が終了したことによる値上げも含まれていますから、結局、実力としての物価上昇は先月10月統計と同じ、ということなのだと私は理解しています。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+0.5~+0.6%のレンジで中心値が+0.5%でしたので、ジャストミートしたといえます。

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2019年12月19日 (木)

世界経済フォーラムによる男女のジェンダー・ギャップ指数で日本は121位と先進国の中で最悪を記録!

一昨日の12月17日、世界経済フォーラム World Economic Forum から「ジェンダー・ギャップ指数報告書2020」 Global Gender Gap Report 2020 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。いくつかのメディアで報じられているのを見かけましたが、11年連続でアイスランドが世界のトップに君臨するとともに、我が日本は昨年の110位からランクを落として、世界153か国のうち121位と過去最低を記録しています。この指数は、経済・教育・健康・政治の4つの観点、すなわち、Economic Opportunity and Participation と Educational Attainment と Health and Survival と Political Empowerment の4つの指標を合成して作成されているんですが、我が日本は特に最後の政治的な活躍で世界から大きく遅れています。それをビジュアルに示している Figure 4 Range of scores, Global Gender Gap Index and subindexes, 2020 をリポート p.15 から引用すると下の通りです。

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hidarisita、というか、一番下の Political Empowerment subindex の低スコアのところに Japan が見えると思います。加えて、リポート p.27 から Selected Country Performances で国別の特徴が並べられてあるんですが、我が日本は p.31 に現れます。そのまま引用すると以下の通りです。「日本のジェンダー・ギャップは先進国の中でメチャクチャ大きく、しかも、過去何年かで拡大してきている」 "Japan's gender gap is by far the largest among all advanced economies and has widened over the past year." で始まっています。

Japan (121)
Japan's gender gap is by far the largest among all advanced economies and has widened over the past year. The country ranks 121st out of 153 countries on this year's Global Gender Gap Index, down 1 percentage point and 11 positions from 2018. Japan has narrowed slightly its economic gender gap, but from a very low base (score of 59.8, 115th). Indeed, the gap in this area is the third-largest among advanced economies, after Italy (117th) and the Republic of Korea (127th). Only 15% of senior and leadership positions are held by women (131st), whose income is around half that of men (108th). The progress achieved in the economic arena has been more than offset by a widening of the political gender gap. Japan has only closed 5% of the gap in this dimension (144th). At 10%, female representation in the Japanese parliament is one of the lowest in the world (135th) and 20% below the average share across advanced economies. Furthermore, there is only one woman in the 18-member cabinet. This translates into a rate of approximately 5% (139th), 26% below the peer (high income) average. Finally, like more than half of the countries studied, Japan has had no female head of state in the last 50 years.

ほとんど引用ばかりなんですが、最後にダメ押しで、いくつかのメディアから私の趣味で記事を引用しておきます。以下の通りです。

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2019年12月18日 (水)

輸出入ともに減少が続く11月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲7.9%減の6兆3822億円、輸入額も▲15.7%減の6兆4642億円、差引き貿易収支は▲821億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の輸出額7.9%減、12カ月連続の減少
貿易収支821億円の赤字

財務省が18日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比7.9%減の6兆3822億円となった。米国やアジアを中心に世界的な需要の落ち込みが目立った。輸出額の前年割れは12カ月連続。これは2015年10月から14カ月連続で減少して以来の長さとなる。
米国への輸出は12.9%減の1兆2116億円と、4カ月連続の減少となった。減少幅は16年8月(14.5%)以来の大きさだった。自動車や建設用・鉱山用機械の輸出が低迷した。
アジア全体への輸出は5.7%減の3兆6015億円だった。このうち、中国向けは5.4%減の1兆3101億円。中国向けは化学品原料や自動車の部分品などの輸出が減少した。
韓国向けは17%減の3896億円だった。食料品が48.7%減と、下落幅が大きかった。日韓関係の悪化を受け、日本製品の不買運動の影響が現れた可能性がある。欧州連合(EU)向けは7.5%減の6892億円だった。
11月の輸入は15.7%減の6兆4642億円となった。7カ月連続で減少している。原油価格の下落などを背景にサウジアラビアからの原粗油の輸入が減少。中国からの携帯電話などの輸入も減った。
輸出額から輸入額を差し引いた11月の貿易収支は、821億円の赤字(前年同月は7391億円の赤字)だった。2カ月ぶりの赤字となった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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ということで、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは貿易収支の赤字を▲3794億円と見込んでいたんですが、まあ、市場の事前コンセンサスほどの大きな貿易赤字ではなかったとはいえ、メチャメチャにレンジが広いので何ともいえません。何となく、輸出入額とも減少して縮小均衡っぽいとはいえ、季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額の減少が10月の前年比▲9.2%減から11月は▲7.9%減へと縮小した一方で、輸入額は10月の▲14.8%減から11月には▲15.7%減とさらに減少幅が拡大したことから、貿易収支の赤字幅は小さくなっています。輸入額の減少は、海外要因で原油価格の下落を受けた部分と、国内要因で消費税率引上げ後の国内需要の落ち込みの両方を反映しているものと考えるべきです。単純な比較はできませんが、10月と11月の輸入額の落ち込みについて、消費税率引上げについてはイーブンに見えるんですが、台風19号で新幹線が止まった10月よりも11月の方が下げ幅が大きいということは、内需の弱さが際立っている気もします。貿易収支の赤字幅の縮小も内需の弱さに起因していると考えるべきで、決していいことではないような気もします。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、輸出数量については前年同月比でまだマイナスとはいえ、先進国も中国も需要は回復に向かいつつあることから、我が国の輸出数量にもようやく底入れの兆しが見て取れます。

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2019年12月17日 (火)

エン・ジャパンによる「2019年 中小企業『冬のボーナス』実態調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、先週水曜日の12月11日にエン・ジャパンから「2019年 中小企業『冬のボーナス』実態調査」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされており、冬季賞与は前年よりも増額予定などの結果が示されています。経営サイドへのアンケートですので、ややアップサイドのバイアスは見られるかもしれませんが、まず、エン・ジャパンのサイトから調査結果の概要を5点引用すると以下の通りです。

調査結果 概要
  • ★ 22%の企業が「前年より冬季賞与が増額予定」と5年連続で「減額」を上回るも、「増額」は前年から9ポイント減。
  • ★ 賞与を「増額予定」の回答が多かった業種トップ3は、「広告・出版・マスコミ関連」「金融・コンサル関連」「サービス関連」。
  • ★ 賞与の増額率は「1~3%未満」が最多。増額理由は「業績好調」「社員の意欲向上」。
  • ★ 「賞与」に関する悩み。第1位は「社員への評価、賞与の査定基準」、第2位は「支給額による社員モチベーションへの影響」。
  • ★ 半数の企業が「前年より景気回復を感じない」と回答。

とてもよく取りまとめられているので、これで終わりとして、後はグラフを引用するだけにとどめたいと思います。

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まず、上のグラフはエン・ジャパンのサイトから引用しており、今年の冬季賞与の昨年からの変動について問うた結果が示されています。上の方の全社ベースで、引き続き、増額予定が減額予定を上回っていますが、増額予定の比率は昨年よりも▲10%ポイント近く低下しています。下の業種別では、いつものように、「広告・出版・マスコミ関連」や「金融・コンサル関連」といった業種の増額予定が多いんですが、私の受け止めとして「流通・小売関連」ががんばっている印象です。ただ、正社員だけが冬季賞与の対象で、非正規雇用者はそもそも賞与に関してはカウント外と考えられている恐れはあるんではないか、という気もします。

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次に、上のグラフはエン・ジャパンのサイトから引用しており、景気の上昇や回復を実感できているかどうかを問うています。昨年よりも今冬の方が景気実感が悪化しているのは、米中間の貿易摩擦に起因する世界経済の減速からして、まあ、当然なんでしょう。中小企業対象のアンケートですので、景気実感がよくない方に振れているのは事実だろうと思います。

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2019年12月16日 (月)

来年2020年半ばくらいまでの短期経済見通しやいかに?

先週12月9日に内閣府から公表された本年7~9月期GDP統計速報2次QEを受けて、シンクタンクや金融機関などから来年度2020年度末くらいまでの短期経済見通しがボチボチと明らかにされています。四半期ベースの詳細計数まで利用可能な見通しについて、2020年暦年上半期の東京オリンピック前くらいまで取りまとめると以下の通りです。なお、下のテーブルの経済見通しについて詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。計数の転記については慎重を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、各機関のリポートでご確認ください。なお、"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名2019/7-92019/10-122020/1-32020/4-6FY2019
actualforecast
日本経済研究センター+0.4
(+1.8)
▲1.5+0.2+0.5+0.6
日本総研(▲3.7)(+0.9)(+2.3)+0.9
大和総研(▲3.8)(+1.1)(+1.2)+0.9
みずほ総研▲1.2
(▲4.8)
+0.4
(+1.4)
+0.3
(+1.4)
+0.8
ニッセイ基礎研▲1.0
(▲4.0)
+0.1
(+0.4)
+0.5
(+1.8)
+0.8
第一生命経済研▲1.0
(▲3.9)
+0.2
(+0.7)
+0.2
(+0.7)
+0.8
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.9
(▲3.6)
+0.5
(+2.2)
+0.3
(+1.1)
+1.0
SMBC日興証券▲1.1
(▲4.1)
+0.4
(+1.8)
+0.5
(+2.2)
+0.9
農林中金総研▲0.5
(▲2.0)
▲0.3
(▲1.2)
+0.2
(+1.0)
+1.0
東レ経営研▲1.1+0.2+0.3+0.8

一番右の列の2019年度成長率は前年度比そのままですが、四半期成長率については上段のカッコなしの数字が季節調整済み系列の前期比で、下段のカッコ付きの数字が前期比年率となっています。2019年7~9月期までは昨日内閣府から公表された2次QEに基づく実績値、10~12月期からは見通しであり、すべてパーセント表記を省略しています。なお、日本経済研究センターのリポートでは前期比しか出されておらず、逆に、日本総研と大和総研では前期比年率の成長率のみ利用可能でしたので、不明の計数は省略しています。ということで、見れば明らかなんですが、10月の消費税率の引上げの後の動向については、足元の10~12月期はすべての機関でマイナス成長を見込んでいます。
もうひとつの観点は、消費税率引き上げのショックがどの程度長引くかで、多くの機関はマイナス成長は10~12月期の1四半期だけで、来年2020年1~3月期にはプラス成長に回帰すると見込んでいます。この点の少数意見は農林中金総研であり、2020年1~3月期までマイナス成長が2四半期連続で継続すると見込んでいます。ただ、上のテーブルを見ても明らかな通り、2四半期連続のマイナス成長とはいえ、他のシンクタンクが1四半期に大きなマイナス成長で調整速度速く回復に向かうと見ているところ、農林中金総研だけは他のシンクタンクと比較して小幅のマイナス成長が2四半期続く、と見ているように私は解釈しています。調整続度の違いだけなのかもしれませんし、加えて、農林中金総研のリポートでも2020年4~6月期にはプラス成長に回帰すると予測しています。ただし、もしも、農林中金総研の見通しが正しければ、世間では2四半期連続のマイナス成長でテクニカルな景気後退局面入りのシグナルと受け取る可能性がないでもありませんし、マインドに悪影響を及ぼす可能性は否定できませんが、まあ、2020年に入れば、東京オリンピック・パラリンピックの経済効果などもあって、それほど長くマイナス成長は続かないとの見方が多いように私は受け止めています。
なお、私の想像の限りで、三菱総研は年度ベースの短期経済見通しをひとまず出し、その後、四半期ベースの計数を調えるんだろうと思わないでもないんですが、上のテーブルには収録できませんでした。よほど、突飛なものが出ない限り、上のテーブルをアップデートしたり、引き続き短期見通しをフォローするつもりはありません。悪しからず。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研のサイトから引用しています。

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2019年12月15日 (日)

2019年今年の漢字は令和の「令」!

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先週木曜日の12月12日、日本漢字能力検定協会から今年の漢字は令和の「令」と明らかにされました。まあ、そうなんでしょうね。それだけでした。

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1週間遅れで上の倅の誕生日を祝う!!!

誠に遺憾千万で不覚の限りだったんですが、先週日曜日12月8日は上の倅の誕生日でした。大学を卒業し就職して独身寮に入り、手元から離れてしまったものですから、すっかり忘れてしまっていました。8月の下の倅の誕生日も忘れていましたし、そのうちに、自分の誕生日も忘れるのかもしれません。老いの恐ろしさを感じます。
1週間遅れながら、いつものくす玉を置いて、誕生日を祝っておきたいと思います。

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2019年12月14日 (土)

今週の読書は経済書と歴史書を計7冊!!!

今週の読書は、経済書と歴史書、その中間の経済史の本など、以下の通りの計7冊です。今週の読書のうちでは、特に、中身はともかく、『ナチス破壊の経済』がとてもボリューム豊かでした。私は経済史が大学時代の専門でしたので、それなりにていねいに読んだつもりですが、読書に時間をかける人の場合、上下巻2冊で1週間では読み切れない可能性もあります。

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まず、小林大州介『スマートフォンは誰を豊かにしたのか』(現代書館) です。著者は、北海道大学の研究者であり、シュンペーターの学説史がご専門で、本書の副題も「シュンペーター『経済発展の理論』を読み直す」となっていて、実は、スマートフォンを題材にしたシュンペーター的なイノベーションの解説となっています。そして、タイトルの問いに対する回答は本書の最後にあって、あまりにもありきたりですが、関係者すべてを豊かにした、と結論されています。私は少し前にシュンペーターの『経済発展の理論』を読んだ記憶がありますが、本書でも指摘しているように、極めて難解です。もちろん、私も読解力の問題もあるんでしょうが、何がいいたいのか、半分も理解できなかった気がしますので、こういった入門書は必要かもしれません。ということで、シュンペーター的なイノベーションは、基本的に経済動学的に理解されるべきと私は考えているんですが、企業経営においても極めて重視されていることは広く知られている通りです。ですから、私がイノベーションを経済動学的に理解するというのは、逆に、企業経営を知らない公務員を長らく経験してきたなのかもしれない、と考えないでもありません。シュンペーターは、本書でも指摘するように、イノベーションに基づく開発者の独占的な利益を容認し、企業家がその利潤を目指してイノベーションを競い合う経済社会を想定していたんだろうと私は考えていますが、もちろん、テクノロジー的なイノベーションだけでなく経営管理や経営プロパーのイノベーションもある一方で、テクノロジー的なイノベーションが枯渇しつつあるんではないか、特に、1970年代を境にして低いところにあって入手しやすい果実は取り尽くしたんではないか、という考えがいわゆる長期停滞論のひとつの根拠になっていることも事実です。そして、本書の第4章でも注目されているように、スマートフォンが格差拡大につながるかどうか、あるいは、イノベーション一般が格差にどのような影響を及ぼすかも現在の経済社会を考えれば、ひとつの焦点となる可能性もあります。本書でも、シュンペーターはケインズとともに、マルクスとも対比されており、イノベーションが格差拡大や経済社会の不安定性につながりかねない恐れも指摘しています。末期のシュンペーターは、かなり確度高く資本主義から社会主義に移行する可能性を認識していたのは事実ではないでしょうか。ただ、現実にはソ連が崩壊したわけですし、マルクス主義的な理論に基づいて、発達した資本主義国である欧米や日本などが社会主義に移行する兆しすら見られないもの、さらに確たる事実です。やや異なる観点ながら、クズネッツに批判されたよいう「イノベーションの群生」についても本書では議論を回避しているように見受けられます。総合的に考えて、場合によっては高校生から大学新入生くらいに対するシュンペーター的なイノベーションの解説書としてはいいような気もしますが、ビジネスパーソン向けかどうかはやや疑問で、読者のレベルによっては少し物足りない点があるような気もします。

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次に、アダム・トゥーズ『ナチス破壊の経済』上下(みすず書房) です。著者は、英国出身で現在は米国プリンストン大学の歴史学の研究者です。本書は、副題で「1923-1945」となっているように、シュトレーゼマン政権下の1923年、すなわち、ナチスが政権に就く10年前から終戦までの四半世紀近い期間を対象としたドイツの戦時経済史となっています。すなあち、経済をナチスのヒトラー政権の中心に据えてドイツ紙を見直す、というものです。実は、私は出版社の宣伝文句にひかれて、ナチスの経済政策はケインズ政策を先取りしたものであり、アウトバーンなどのインフラ建設をはじめとした財政支出による完全雇用を達成した、とするのは誤り、といった趣旨の宣伝文句だったような気がするんですが、そこまであからさまではありません。ただ、ケインズ政策による完全雇用の達成とはかけ離れて、ドイツ国民のみならず、ユダヤ人はいうに及ばず、占領下のポーランド人やろ愛亜人などの捕虜も含めて、劣悪な労働環境の下で軍需生産に強制的に就労させ、また、英国と比較しても女性労働の徴用が大きかったり、石油の資源確保が不足していたりといったナチスの戦時経済の実態を明らかにしています。そして、結論としては、我が国戦時経済の分析でもよく見かけるので、かなりありきたりな気もしますが、短期に戦争を終結していればドイツに勝機あったかもしれないものの、長期戦となって圧倒的な工業生産力を有する米国の参戦により、経済的生産力の基礎から考えた戦争の帰趨は明らかであった、ということになります。日本の場合も同じで、本書のスコープ外でしょうが、大和魂や何のといっても、戦争遂行能力の基礎は工業力である、ということになります。逆にいえば、最近の中国製造業の興隆に至るまでの時期、例えば、1980年くらいまでは基礎的な工業生産力から考えれば、米国サイドが常に戦勝国となる、ということになります。とすれば、1960~70年代のベトナム戦争の結果はなぜなのか、という疑問も生じますが、これまた、本書のスコープを大きく外れた問いだ、ということになります。冒頭にも記しましたが、本書は読書にかなりの時間を要します。定評ある山形浩生さんの翻訳ですから訳は悪くないんでしょうが、小さい字でページ数のボリュームもあります。それなりの覚悟をもって読み始める必要あると考えた方がよさそうです。

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次に、出川光『クラウドファンディングストーリーズ』(青幻舎) です。著者は、クラウドファンディングに関するディレクターを務めているそうで、リクルートコミュニケーションズを経て、クラウドファンディングのCAMPFIREの創設期にかかわっています。クラウドファンディングとは、いわゆるシェアリング・エコノミーの5つのカテゴリーの中のひとつで、ほかのカテゴリーではAirbnbなどが代表的で民泊と称されるスペースのシェア、また、日本では事業展開できていないものの世界的にはUberが有名なライド・シェア、逆に、日本でしか見られないフリマアプリのメルカリなどのモノのシェア、そして、家事やベビーシッターなどのスキルのシェア、となります。一応、官庁エコノミストとしての私の最後の研究成果はちょうど1年前の昨年2018年12月のシェアリング・エコノミーの研究だったりしますので、それなりに詳しいところです。そして、本書でも明らかにされているように、クラウドファンディングには3種類あり、寄付型と投資型と購入型で、本書では最後の購入型のみを取り上げています。おカネを集めて、何かを作ったりイベントを開催したりして、ファンディングに応じた出資者に対して、その制作物を贈ったり、イベントに招待したり、というリターンがあるわけです。もちろん、資本主義社会ですので、出資額に応じた差がつきます。これを格差というか合理的な違いと捉えるかは、まあ、それぞれかもしれませんが、出資した金額により得られるものが違うというのは自然な気もします。本書では成功した10のケースを取り上げていますが、私の知る限り、ちゃんとしたディレクターがついて目利きの力量があれば、購入型のクラウドファンディングはかなりの程度の成功確率があるんではないか、という気がします。そして、本書では株式会社の創設のような純粋な経済活動ではなく、クラウドファンディングはストーリーを必要とし、強化を基にしたつながりを生むものである、かのように描き出されています。私は半分くらいは希望的観測をもって賛同しますが、半分は懐疑的です。繰り返しになりますが、資本主義経済の下で出資額に応じたリターンがあり、そして、そのリターン品はそのうちにメルカリに出品されたりするんではないでしょうか。それなりに実体を知る者からすれば半信半疑で、やや眉に唾を付けて読むべき本かも知れません。また、どこかの新聞の書評でも見かけましたが、成功例ばかりで取りまとめてあり、それはそれで成功確率高いと知る私なりに理解するものの、失敗例もあれば深みが出たのは確かでしょう。

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次に、リン・ハント『なぜ歴史を学ぶのか』(岩波書店) です。著者は、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の歴史研究者の大先生です。私は2年ほど前に同じ岩波書店のエリオット『歴史ができるまで』を読みましたが、同じように、グローバル・ヒストリーを視野に入れつつ、歴史的な思考についてのリベラルな歴史学に関するエッセイがつづられています。基本的には、排外的あるいは歴史修正的な傾向を強く戒めています。本書冒頭で取り上げられているのは、ポストトゥルースの時代におけるフェイクニュースの類いであり、例えば、トランプ米国大統領がオバマ前米国大統領の出生に関する疑問、にとどまらず、明確な虚偽の情報を流している、といったものです。もちろん、近代史でその最たるものはナチスによるユダヤ人大量虐殺です。600万人という数字を過大だと指摘したり、あるいは、ホロコーストそのものを否定したりする論調は後を絶ちません。我が国の例でいえば、従軍慰安婦であったり、南京大虐殺であったりするのかもしれません。本書で著者は、近代歴史学の祖ともいえるランケに立ち返って、こういった歴史に対する修正というか、ハッキリいえば、ウソがまかり通るよになったのは、一面、歴史が民主化したことも寄与していると指摘します。エリートだけに許されていた歴史学が広く開放されたからだ、といわれればそうかもしれませんが、かつては一部の権力者や知識人から一般大衆に提示されていた歴史が、ある意味で「民主化」され、誰でもが語れるようになると、特にネット上などで改変や修正の憂き目にあうというのも国民の民度を象徴しているような気がします。逆に、そういった歴史の改編や修正を許さず正しい歴史を学ぶ機会を提供することこそが必要です。なぜ歴史を学ぶかといえば、現在ないし将来の問題を解決するためであると私は考えています。もちろん、ランケのいうように、「未来の世代に教訓を垂れるために過去を断罪する目的で歴史を書いているわけではない」というのは判り切っているんですが、それでも、現在の目の前にある問題を解決するヒントを求めて歴史を振り返るんではないでしょうか。視点を変えると、本書の後半は歴史とマイノリティというテーマが設定されています。著者自身が女性であることからジェンダー史なども視野に入れつつ、東洋と西洋、男性と女性、黒人と白人などのうちの歴史におけるマイノリティの分析にも心を砕いています。また、最後の訳者のあとがきにもあるように、かつては歴史学会で大きな勢力を誇ったフランス的なアナール派の歴史観、というか、歴史分析がかなり後景に退き、国としての歴史の浅い米国の歴史学が注目を集め出しているのも事実です。自然科学や社会科学で、例えば、ノーベル賞受賞者で大きな比重を占める米国の学術界ながら、歴史については欧州の後塵を配してきた感あるものの、異常なくらいのナショナリズムやポピュリズムにまったく意味不明の根拠を置いて恣意的な歴史の解釈や意図的な過去の忘却を目指そうという勢力に対し、リベラルな米国歴史学のあり方を垣間見たような気もします。

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次に、佐伯智広『皇位継承の中世史』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) です。著者は、帝京大学の歴史研究者です。本書は、まさに、タイトル通りであり、特に、私なんかの専門外の歴史好きでも知っている中世における天皇継承のトピックとして、持明院統と大覚寺統のいわゆる両統迭立の問題を解き明かそうと試みています。私なんぞは、単純に鎌倉幕府の介入により、持明院統の後深草天皇と大覚寺統の亀山天皇に分かれて、それが室町初期の南北朝の源流となった、くらいの事実関係に関する知識しかないんわけで、セクションのタイトルに「元寇と両統迭立」なんてあったりすると、少しびっくりしたんですが、元寇はさすがに関係ない、との結論が示されています。ただ、本書を読んでもまだ私は得心行かず、両統迭立の結果を招いた原因も、また、北朝、というか、足利氏の幕府側が吉野の南朝を攻め切れなかった原因も、最後に、南朝が約束は反故にされると、後知恵ながら判り切っていたにもかかわらず、北朝に三種の神器という形で正当性を譲った理由も、イマイチよく判りませんでした。私の読解力の問題もありますが、事実関係を淡々と積み重ねていくだけでは歴史の因果関係は明確にならないことを実感しました。加えて、両統迭立から南北朝の分裂、さらに斎藤いるに至る過程が、それほど、というか、私が考える穂と単純ではないのだろうと想像しています。実に、マルクス主義的な唯物史観からすれば、生産力が伸びて生産関係のくびきを破壊するという、かなり一直線な西洋的な史観ですので、そこまで単純に適用できる歴史的な事象というのは、まさに、大雑把な歴史の流れ、というか、もっと超長期に渡る歴史の方向性であって、唯物史観は、個別の歴史的な事象の解明に役立つ手術用のメスではなく、大きな木を切り倒す斧や鉈なのだ、と実感した次第です。また、皇位をめぐる室町期の動向については、3代将軍足利義満による皇位簒奪について今谷明などが議論していますが、本書ではやんわりと否定されています。中世的ないわゆる「治天の君」である上皇による院政などに関しても、本書では豊富に実例を上げて論じており、私のような歴史の好きな人間には知的好奇心を満たしてくれるいい入門書であるという気がします。

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最後に、今津勝紀『戸籍が語る古代の家族』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) です。著者は、岡山大学の国史の研究者です。本書では、正倉院御物に残された現在の岐阜県の襲来の戸籍から、古典古代の律令制の奈良時代の家族像を解明しようと試みています。戸籍は、ある意味では、権力者の側から税を取り立てる単位として取りまとめられたものですから、本書でも明らかにされているように、現在の戸籍のように氏名や性別・生年だけでなく、古典古代においては租庸調の税を勘案して、身体的な特徴、例えば、障害の有無や程度などの課役負担の参考となる個人情報も記されています。まあ、現代的な個人情報保護なんて、何ら念頭にない権力者サイドの記録ですから当然かもしれません。こういった古典古代における戸籍に関する基礎的な知識を明らかにした後、定量的な歴史学が展開され、まず、著者は人口の推計を試みています。そもそも、本書でも指摘しているように、奈良時代とはいえ、日本という国の領域がビミョーに違っているわけで、時の大和政権の支配下にある地域が100年単位で見れば決して同じでないわけですし、加えて、口分田の配分で差別され、それゆえに税負担も異なる身分があり、良民と賤民の違いもあるわけですから、現代的な感覚で人口を見るわけにもいかず、加えて、それ相応の幅をもって見る必要あるものの、8世紀前半の我が国の人口はおよそ450万人とか、9世紀初頭の延暦年間の総人口は540~590万人、あるいは、奈良時代の初めから平安初期のおよそ100年間で100万人の人口増加があった、などの結果が示されています。さらに、出生時の平均余命、いわゆる平均寿命は28歳余りで30歳を下回っていたとか、合計特殊出生率は6.5人くらいとか、人口にまつわるトピックがいくつか推計方法とともに示されています。さらに、タイトル通りに、古典古代における婚姻、通常、日本では妻問い婚の形式が注目されますが、それらと家父長制との関係、また、再婚が決して稀ではなかった子人制度についても戸籍記録から明らかにしています。自然災害との関係では、飢饉と疫病の流行、さらに、飢饉の際に山に入って職を得る、などなど、興味深い古典古代の戸籍に関する話題がいろいろと取り上げられています。

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2019年12月13日 (金)

製造業大企業の業況判断DIがゼロまで落ちた日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から▲5ポイント低下してゼロを示した一方で、本年度2019年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+3.3%の増加と9月調査の結果から上方修正されてます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業景況感、4期連続悪化 日銀短観のDIゼロ
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はゼロとなり、9月の前回調査から5ポイント悪化した。米中貿易戦争で外需の低迷が続き、4四半期連続の悪化となる。大企業非製造業も個人消費の落ち込みで2期連続で悪化した。ただ政府の増税対策もあり、前回増税時よりも小幅の悪化にとどまった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。大企業製造業のゼロは、日銀が大規模緩和に踏み切る直前の2013年3月(マイナス8)以来、6年9カ月ぶりの低水準となる。QUICKによる市場予想の中心値(プラス2)も下回った。
主要16業種のうち、11業種で悪化した。アジア向け輸出が低迷する自動車や鉄鋼のほか、東京五輪の建設需要が一巡した窯業・土石製品などが悪化した。台風19号による工場の操業停止も響いた。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス20で、前回調査から1ポイント悪化した。消費増税の影響で、小売りや卸売りが低迷した。ラグビーワールドカップの特需を受け、宿泊・飲食サービスが改善した。
今回の短観では消費増税による駆け込み需要の反動減や消費意欲の低迷を自動車や小売りなどの業種が受けた。ただ前回の増税直後の14年6月調査では、両業種ともに23ポイント悪化したが、今回調査では自動車が13ポイント、小売りが7ポイントの悪化にとどまった。大企業非製造業は14年6月調査で5ポイント悪化していた。
3カ月先の見通しを示す先行きの業況判断DIは大企業製造業がゼロと足元から横ばいとなる。半導体やスマートフォンなどIT(情報技術)関連の需要回復が見込まれる一方、世界経済の不透明感は続く。非製造業はプラス18で足元から2ポイント悪化となる。増税の個人消費への影響を懸念する声が残る。
短観は日銀が3カ月に1度、全国約1万社の景況感など経営状況を聞き取り公表している。12月調査の回答期間は11月13日から12月12日まで、回収基準日の11月27日までに約7割が回答した。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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んまず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、ヘッドラインとなる大企業製造業の足元の業況判断DIは中央値で+3、レンジでも▲1~+6でしたから、ほぼ下限に近いと受け止めています。加えて、3日前の12月10日に日銀短観予想を取り上げた際には、大企業製造業の足元の業況判断DIはギリギリながらプラスにとどまり、次の3月調査では横ばいないし反転して改善する可能性がある、という旨の結論だった気がしますが、実績が出てみるとかなり悲観的な内容であり、足元でゼロ、さらに、3か月後のの先行きもゼロ、という結果でした。ただし、消費税率の引上げがあったにもかかわらず、大企業非製造業の業況判断DIは意外と底堅く、足元でも9月調査から▲1悪化の+20で踏みとどまり、先行きも▲2悪化の+18と見込まれています。大企業について少し詳しく見ると、自動車が消費税率引上げのダメージあったほか、業務用機械、鉄鋼、生産用機械、造船・重機等、はん用機械などの資本財関連産業の悪化幅が大きくなっている印象です。世界経済の減速を背景に資本財への需要が落ちていると私は受け止めています。非製造業については、企業規模を問わず、小売りの悪化幅が大きく、消費税率引上げの影響が読み取れます。ただ、国際商品市況における石油価格の落ち着きから電気・ガスが景況感を回復させています。先行きについても、9月調査から12月調査の足元への変化と基本的に同じと私は受け止めていますが、意外と目先の景気は底堅いながら、東京オリンピック・パラリンピックを終えた来年2020年の今ごろ、1年先くらいの景気がどうなっているか、OECD先行指標に先進国経済回復の兆しあるとはいえ、何とも見通し難いところです。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても人手不足感が広がっています。ただ、足元で設備と雇用の生産要素については、不足感が和らぐとまでいわないまでも、不足感の拡大は止まりつつあるようですが、大企業製造業の生産・営業用設備判断DIは6月調査の▲1から9月調査では+1の過剰感に転化し、12月調査でも+2とやや過剰感を強めています。また、中堅・中小企業製造業でも同様に設備不足感がゼロないしプラスの過剰感に転じており、設備不足感が和らいでいるのも事実です。ただ、ゼロをはさんだ動きながら、±1~2ポイントの変化はどこまで現実的か、あるいは、統計的に有意か、については議論あると私は考えています。雇用人員判断DIも本日公表の12月調査では前回9月調査から不足感は横ばい、ないし、やや和らいでいますが、先行きは不足感が強まる見込みとなっており、不足感が大企業で▲20を、中堅・中小企業では▲30を軽く超えていますので、設備の不足感が少し和らいだ一方で、まだまだ人手不足は深刻であると考えるべきです。ただ、何度も繰り返していますが、雇用は生産の派生需要であり、景気が後退局面に入ると劇的に労働への需要が減少する可能性は忘れるべきではありません。当たり前ですが、人口減少社会とはいえ、永遠に人手不足が続くわけではありません。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年度2019年度の全規模全産業の設備投資計画は3月調査で▲2.8%減という水準で始まった後、6月調査では+2.3%増に、また、9月調査でもわずかながら+2.4%に上方修正された後、12月調査では+3.3%増に順調に上方修正が繰り返されています。通常の日銀短観の統計としてのクセでは、3月調査は前年度比マイナスから始まるとしても、その後は順調に上方修正される、というのがあり、今年度の設備投資計画も、この動きに沿っていると私は受け止めています。ただ、長期系列が取れないので注目度は高くありませんが、ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資を除くベースでは、前年度比+5.0%増とさらに大きな伸び率ながら、9月調査の+5.1%増の計画からは下方修正されていたりして、世界経済の不透明感もまったく払拭さる気配すらなく、やや設備投資の伸びが力強さに欠ける気もします。もちろん、基本は、先行きの生産や企業利益とともに、人手不足も視野に入れつつ実行される設備投資なんですが、いずれにせよ、今年度2019年度の設備投資計画は前年度比で増加する見込みながら、それほど力強く上向くという実感はないかもしれません。

何度も繰り返しにありますが、おそらく、私は現在の足元から目先の来年前半ないし年央、東京オリンピック・パラリンピックあたりまでの景気は、報道されているより、意外と底堅いと感じていますが、その先、今から1年先くらいの時点の景況感はまったく不透明です。

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2019年12月12日 (木)

4か月連続で前月を下回り基調判断が下方修正された機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から10月の機械受注が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲6.0%減の7988億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注6.0%減 10月、基調判断引き下げ
内閣府が12日発表した10月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比6.0%減の7988億円だった。製造業・非製造業ともに幅広い業種で投資需要が減少した。4カ月連続で前月を下回っていることから、内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」に引き下げた。
受注額はQUICKがまとめた民間予測の中央値(0.9%増)を大幅に下回った。製造業は1.5%減で、10月まで3カ月連続で減少した。海外経済の減速に伴い外需の縮小が続き、生産や情報通信に使う機械の需要が減った。
非製造業は5.4%減で、2カ月ぶりに減少した。農林漁業では10月の消費税率引き上げ後にトラクターなど農林用機械への投資を減らす動きがみられ、需要が約3割減少した。情報サービス業や通信業からの受注減もマイナスに大きく寄与した。内閣府は「農林漁業は例外的な動きで、全体としては消費増税の影響で機械受注が落ち込んだことはない」とした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、電力と船舶を除くコア機械受注の季節調整済みの系列の前月比の中央値は+1.0%増であり、レンジでは▲5.0~+3.5%でしたから、わずかとはいえ、下限をさらに下回る大きな減少でした。しかも、4か月連続の前月割れですので、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「持ち直しの動き」を削除して、「足踏みがみられる」に半ノッチ下方修正しています。また、上のグラフにも見られる通り、受注水準としてもコア機械受注の8000億円割れは2015年年央の7~8月以来の低水準となっています。加えて、10月統計ではコア機械受注のうちの製造業と非製造業(船舶と電力を除く)がともに前月比マイナスで、特に、米中間の貿易摩擦に起因する世界経済の停滞を受けて、製造業では3か月連続のマイナスを記録しています。先月統計の公表時に10~12月期のコア機械受注は季節調整済み系列の前期比で+3.5%増と見込まれていたんですが、とても厳しい四半期スタートとなっています。引用した記事の最後の方で、内閣府の公式見解として、消費増税で機械受注が落ちたわけではない旨の発言が収録されていますし、台風19号の影響もご同様で機械受注への影響はそれほどないものと私には見えるのですが、そうであれば、何ともいえないながら、世界経済の低迷を反映して、我が国経済も停滞の方向に向かっている可能性があるのかもしれません。

ただ、明るい話題、というわけでもないんでしょうが、今週月曜日の12月9日に公表された経済協力開発機構(OECD)の先行指標 CLI=Composite Leading Index を見ていると、あるいは、ひょっとしたら、何と申しましょうかで、中国については少し前から景気反転の兆しがあり、また、米国とOECD加盟国の先進国ではも2019年9月を底に10月から景気が反転し上昇に転じた可能性があるような気がしないでもありません。リポートの3ページ目のテーブルを基にしつつ、私個人の希望的観測を込めた楽観的な見方です。念のため。

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2019年12月11日 (水)

ようやくプラスに転じた企業物価(PPI)と大きくマイナスに落ち込んだ法人企業景気予測調査!

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が、また、財務省から10~12月期の法人企業景気予測調査が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+0.1%と、今年6月統計で前年同月比上昇率がマイナスに転じてから、6か月振りのプラスを記録しました。ただし、10月からの消費税率引上げの影響を除くベースでは▲1.5%の下落と試算されています。続いて、法人企業景気予測調査のヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は7~9月期+1.1の後、足元の10~12月期は▲6.2と、消費税率の引上げや台風の影響などからマイナスに転じたものの、来年2020年1~3月期には+2.0、さらに4~6月期は+1.1と見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の企業物価指数、前年比0.1%上昇 消費税率引き上げで
日銀が11日発表した11月の企業物価指数(2015年平均=100)は102.2と、前年同月比で0.1%上昇した。上昇は6カ月ぶり。消費税率の引き上げが押し上げに寄与する一方、石油・石炭製品の下落などが響き、伸びは小幅にとどまった。前月比でみると、0.2%上昇した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。円ベースでの輸出物価は前年比で5.9%下落し、7カ月連続のマイナスだった。前月比は0.2%上昇した。輸入物価は前年同月比11.2%下落し、前月比は0.2%上昇した。
企業物価指数は消費税を含んだベースで算出している。10月の消費増税の影響を除いたベースでの企業物価指数は前年同月比で1.5%下落した。6カ月連続で前年を下回った。前月比では0.1%上昇だった。
日銀の調査統計局は11月の企業物価について「消費税率引き上げの前後で企業の価格設定スタンスに大きな変化が生じていないことが改めて確認された」としている。
大企業景況感マイナスに 10-12月、米中摩擦など響く
内閣府と財務省が11日発表した10▲12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス6.2だった。マイナスは2四半期ぶり。自動車などで中国を中心とする海外需要が低調だったほか、小売業で消費税率の引き上げや台風の影響もあった。
BSIは前四半期と比べた景況判断で「上昇」と答えた企業の割合から「下降」と答えた企業の割合を引いた値で、7▲9月期はプラス1.1だった。
今回の調査時点は11月15日。大企業のうち製造業はマイナス7.8となり、4四半期連続で「下降」の割合が大きかった。7▲9月期のマイナス0.2からマイナス幅も拡大した。米国との貿易戦争が続く中国で自動車部品や工作機械の需要が落ち込んでいる影響が大きい。10月の台風19号で工場が被災したといった声も聞かれた。
非製造業は2四半期ぶりに「下降」が上回り、マイナス5.3となった。卸売業で中国向けの機械出荷が減った。小売業では家電や百貨店で増税前の駆け込み需要の反動が出た。
全体として大企業の景況感の落ち込みは前回の消費増税後の2014年4▲6月期(マイナス14.6)よりは小幅にとどまった。内閣府と財務省は高水準の企業収益や堅調な設備投資などを理由に「内需を支えるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はこれまで同様にしっかりしている。今回の結果は、緩やかに回復している経済全体の傾向を反映している」との見方を示した。
ただ、外需の縮小で製造業を中心に逆風はなお続いている。先行きの20年1▲3月期に大企業の景況感はプラスへと回復する一方、中堅企業や中小企業はマイナス圏から脱せない見通しだ。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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先月10月統計の国内物価の前年同月比上昇率は消費税を含めても▲0.4%の下落、消費税の影響を除けば▲1.9%と、私は軽いショックを受けたんですが、さすがに、11月統計では消費税を含めればプラスに転じたものの、消費税を別にすればまだ▲1.5%の下落と大きなマイナスを続けていることに変わりはありません。特に、11月統計からは、いわゆる経過措置、すなわち、税率引上げ日の10月1日をまたぐ役務などの料金、例えば、旅客運賃、電気料金、請負工事などについての経過措置が縮小しますから、それだけでも物価押し上げ効果がある点は留意する必要があります。また、前年同月比上昇率を項目別に見ると、相変わらず、石油・石炭製品が▲8.3%の下落、非鉄金属が▲4.3%の下落、化学製品も▲3.5%の下落など、国際商品市況の動向や中国経済の停滞に起因する品目の下落が続いています。なお、先月のブログでも書きましたが、企業物価指数(PPI)のうちの輸入物価の円建て原油価格指数は、昨年2018年のピークが11月の142.5でしたから、本日公表された11月統計でPPI輸入物価に現れる原油価格の前年同月比への影響は底を打つ可能性が高いんではないか、と私は期待しています。来月の統計発表がチョッピリ楽しみです。

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続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは以下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。消費税率が引き上げられたばかりの足元の10~12月期が大きく悪化しているのは、台風もありましたし、ある程度までは想定内の気がします。ただ、グラフはありませんが、私がやや気がかりなのは設備投資計画の下方修正です。すなわち、ソフトウェアを含み土地購入額を除くベースの今年度2019年度の設備投資計画が、前回調査の+8.3%増から+7.8%に下方修正されています。設備判断DIはまだ不足超ながら、その不足幅が徐々に縮小してきているのも事実で、明後日公表予定の日銀短観でも設備投資計画は確認したいと思います。

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2019年12月10日 (火)

今週金曜日12月13日公表予定の日銀短観では企業マインドはどこまで悪下するか?

今週金曜日12月13日の公表を控えて、シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画はもちろん今年度2019年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、いつもの通り、足元から先行きの景況感に着目しています。一部にとても長くなってしまいました。それでも、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+5
+21
<+2.4%>
n.a.
日本総研+3
+13
<+3.0%>
先行き(2020年3月調査)は、全規模・全産業で12月調査対比+2%ポイントの改善を予想。海外情勢の先行き不透明感が残るものの、自然災害の影響が一巡するほか、世界的な半導体需要の持ち直しが業況見通しに反映され、製造業、非製造業ともに改善する見込み。
大和総研+2
+17
<+2.5%>
12月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+3%pt(最近からの変化幅: +1%pt)、大企業非製造業の業況判断DI(先行き)は+16%pt(同: ▲1%pt)と予想する。大企業製造業では、2018年初から続いてきた悪化傾向が止まる見通しだ。ただし、最近の日銀短観において、先行きに慎重な結果が示されるという下方バイアスが見られる点に留意した。
本日(12月5日)閣議決定される財政支出額13兆円の経済対策や、台風被害からの復興・国土強靱化政策に伴う公共事業の活発化が見込まれることは、関連業種の業況を押し上げるだろう。さらに、世界的な半導体需要に明るさが見られ始めたこともプラス材料だ。一方で、世界経済の先行き不透明感の継続は、広範な業種の業況の押し下げに作用するだろう。
みずほ総研+3
+18
<+3.0%>
先行きの製造業・業況判断DIは横ばいを予測する。中国経済を中心とした海外経済の減速や米中交渉を巡る不確実性は残存している。加えて、ブレグジットを巡る英国議会選挙(2019年12月12日実施)の行方や香港情勢の緊迫化、中東における地政学的リスクの高まりなども懸念材料だ。グローバルなIT市場の持ち直しから電気機械業で先行きの景況感は改善が見込まれるが、海外経済の減速傾向が続くことから輸送機械業が横ばい、国際商品市況の軟化を受けて素材業種が悪化することから、全体として製造業の先行きの景況感は改善が見込みづらいだろう。
先行きの非製造業・業況判断DIについては横ばいを見込む。小売業や宿泊・飲食サービス業、対個人サービス業等は消費増税による反動減からの消費の持ち直し期待から先行きの景況感は改善するだろう。一方、幅広い業種について、労働需給のひっ迫に伴う人件費上昇が引き続き重石となることに加え、製造業の不振が非製造業へ波及することへの懸念から卸売業や対事業所サービス業等が下押しするとみている。
ニッセイ基礎研+2
+17
<+2.9%>
先行きの景況感は方向感が分かれそうだ。海外経済の回復は遅れているが、米中貿易摩擦に関して部分合意に向けた交渉が続いており、貿易摩擦緩和への期待が高まっている。また、ITサイクル持ち直しへの期待もあり、製造業では先行きにかけて景況感の持ち直しが示されそうだ。一方、非製造業では、前回消費増税後のように、増税後の内需回復の遅れが懸念されるほか、日韓関係改善に伴う韓国人訪日客の回復も見通せないことから、先行きにかけて景況感の低迷が見込まれる。
第一生命経済研+4
+16
<大企業製造業+9.3%>
1業況判断DIの悪化幅は、大企業・製造業で前回比▲1ポイント。非製造業で同▲5ポイントとなると予測する。果たして、12月会合における追加緩和の予想はどのように変わるだろうか。
三菱総研+2
+17
<+3.2%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業は+2%ポイントと、業況は横ばいを予測する。非製造業は+18%ポイントと、小幅な業況改善を予測する。ただし、消費税増税後の消費の低迷長期化、米中貿易摩擦の一段の激化などによる海外経済の減速、金融市場の不安定化などには引き続き警戒が必要な局面である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+2
+17
<大企業全産業+5.0%>
日銀短観(2019年12月調査)の業況判断DI(最近)は、大企業製造業では、前回調査(2019年9月調査)から3ポイント悪化の2と、4四半期連続で悪化すると予測する。消費増税後の一時的な内需の落ち込みと自然災害が下押し要因となったとみられる。先行きについては、海外経済の不透明感は残る一方、増税の影響が剥落し、内需が堅調さを取り戻すことへの期待が反映され、1ポイント改善の3となろう。
大企業非製造業の業況判断DI(最近)は前回調査から4ポイント悪化の17になると予測する。消費増税に伴う一時的な需要の減少により、小売や宿泊・飲食サービスを中心に悪化するだろう。先行きについては、増税の影響は徐々に剥落するものの、すでにDIが高水準である業種を中心に先行きに慎重となる傾向があり、2ポイント悪化の15となると予測する。

当然ながら、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのうちの大企業製造業の業況判断DIの中央値である+3とほぼほぼ同じ結果となっています。ということは、日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIはやや悪化するものの、日銀による9月調査の先行きと同じ+2近傍で何とかゼロに達する前で踏みとどまり、次の3月調査に相当する先行き業況判断DIは横ばいないし反転、との予想が多くなっています。私が見た範囲では、というのは上のテーブルにある限りのシンクタンクということなんですが、大企業製造業の先行きの業況判断DIが足元と横ばいなのはみずほ総研と三菱総研くらいなもので、ほかのシンクタンクは軒並み先行きは、統計のクセとして慎重な見方が示されるものの、改善を示すとの見方が多数派でした。ただ、大企業製造業とともに大企業非製造業でも先行き業況判断DIの横ばいを見込むのはみずほ総研だけで、三菱総研は大企業非製造業については先行きはプラスと予想しています。ですから、長期に渡って低下を続けた消費者マインドと違って、我が国企業マインドはかなり底堅いと私は受け止めています。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2019年12月 9日 (月)

7-9月期GDP統計2次QEは駆込み需要でちょっとびっくりの高成長!

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.4%、年率では+1.8%と消費税率引上げ直前の駆込み需要込みながら、4四半期連続のプラス成長を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月期のGDP改定値、年率1.8%増 設備投資や個人消費伸びる
内閣府が9日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算で1.8%増だった。速報値(前期比0.1%増、年率0.2%増)から上方修正された。法人企業統計など最近の統計結果を反映した。企業の設備投資や個人消費などの伸びが寄与した。
QUICKがまとめた民間予測の中央値は前期比0.2%増、年率0.8%増と速報値からの上振れが見込まれていたが、これも上回った。生活実感に近い名目GDPは前期比0.6%増(速報値は0.3%増)、年率は2.4%増(同1.2%増)だった。
実質GDPの内訳を見ると上方修正が目立った。民間企業の設備投資は実質で1.8%増(同0.9%増)だった。2日発表の7~9月期の法人企業統計で、ソフトウエアを除く設備投資額(季節調整済み)が伸びたことが寄与した。自動車や通信機械向けの電子部品やオフィスビルなど不動産への投資が目立った。
携帯電話の通話料金などが上昇し、個人消費は前期比0.5%増(同0.4%増)だった。不動産仲介手数料が寄与し、住宅投資は1.6%増(同1.4%増)となった。また民間在庫の寄与度はマイナス0.2%(同マイナス0.3%)、公共投資は0.9%増(同0.8%増)と1次速報値から上方修正された。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がプラス0.6%(同プラス0.2%)に上振れした。輸出から輸入を引いた外需はマイナス0.2%と1次速報値から変わらなかった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期に比べてプラス0.6%と1次速報値から変わらなかった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2018/7-92018/10-122019/1-32019/4-62019/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.6+0.3+0.6+0.5+0.1+0.4
民間消費▲0.2+0.2+0.2+0.6+0.4+0.5
民間住宅+0.4+1.1+1.1+0.5+1.4+1.6
民間設備▲3.4+3.0▲0.2+0.9+0.9+1.8
民間在庫 *(+0.3)(▲0.0)(+0.1)(▲0.1)(▲0.3)(▲0.2)
公的需要▲0.3+0.3+0.1+1.6+0.6+0.7
内需寄与度 *(▲0.5)(+0.7)(+0.3)(+0.8)(+0.2)(+0.6)
外需寄与度 *(▲0.1)(▲0.4)(+0.4)(▲0.3)(▲0.2)(▲0.2)
輸出▲1.8+1.2▲2.1+0.5▲0.7▲0.6
輸入▲1.3+3.8▲4.1+2.1+0.2+0.3
国内総所得 (GDI)▲0.9+0.2+1.1+0.4+0.1+0.5
国民総所得 (GNI)▲1.0+0.3+0.9+0.5+0.1+0.5
名目GDP▲0.6▲0.0+1.3+0.6+0.3+0.6
雇用者報酬+0.3+0.4+0.5+0.9▲0.0▲0.1
GDPデフレータ▲0.3▲0.6+0.1+0.4+0.6+0.6
内需デフレータ+0.8+0.2+0.3+0.4+0.2+0.2

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がジワジワと縮小しつつもまだ十分なプラス成長を示し、需要項目別寄与度では、赤の消費と水色の設備投資がプラスの寄与を示している一方で、灰色の在庫と黒の外需(純輸出)がマイナスの寄与となっているのが見て取れます。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが中央値で前期比+0.2%、年率+0.7%でしたし、レンジでも年率+0.2~+1.2%でしたので、上限を突き抜けるような高成長、と見えますが、おそらく想定以上に消費税率引上げ直前の駆込み需要が大きかったのでしょうから、逆に、10月以降の反動減の大きさも気にかかるところです。でも、内需寄与度が+0.6%、外需が▲0.2%となっており、基本的には1次QE公表時と同じで、私は駆込み需要を考慮しても内需は底堅いと判断しています。ただ、幸か不幸か、駆込み需要が大きいだけに反動減も覚悟すべき、ということになります。いずれにせよ、10~12月期はマイナス成長が確実視されており、年率なら▲3%を超えるマイナス幅も考えられます。いずれにせよ、GDPの需要項目ほぼほぼすべてが上方改定されています。すなわち、上のテーブルに従って季節調整済みの前期比で見て、民間消費+0.4%増→+0.5%増、民間住宅+1.4%増→+1.6%増、民間設備の上方改定幅が特に大きく+0.9%増→+1.8%増、公的需要も+0.6%増→+0.7%増、などなどです。輸出入まで上方改定されていますが、純輸出の寄与度は相殺してか変化ありません。繰り返しになりますが、10~12月期は消費税率引上げによる消費の冷え込みに対して、世界経済がにわかに回復しているとも思えず、マイナス成長が確実です。12月5日に政府が閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」は事業規模26.0兆円、財政支出13.2兆円に上っていますが、足元の10~12月期の成長率に及ぼす効果はほとんどありません。世界経済の低迷が続き、民間需要が消費税率引上げなどでダメージある間は政府が景気を下支えする必要があります。

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加えて、本日は、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支についても、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+2.7ポイント上昇の39.4を、先行き判断DIも+2.0ポイント上昇の45.7を、それぞれ記録しています。また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+1兆8168億円の黒字を計上しています。いつものグラフは上の通りです。

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2019年12月 8日 (日)

先週の読書はいろいろ読んで計6冊!!!

先週の読書は、いろいろ読みました。昨日の土曜日に米国雇用統計が割り込んで、少し多めの印象かもしれません。今週の読書の本もおおむね借りてきており、いつも通りの数冊に上る予定です。また、今週ではありませんが、そろそろ、来週かさ来週あたりにジャレド・ダイアモンドの『危機と人類』上下の予約が回って来そうです。

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まず、曾暁霞『日本における近代経済倫理の形成』(作品社) です。著者は、中国の研究者です。特に、邦訳者のクレジットなどがないので、著者が日本語で書いたのではなかろうかと私は想像しています。とても外国人の日本語とは見受けられませんでした。ということで、西欧におけるウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のプロテスタンティズムに当たる近代資本主義的な倫理を我が国に求めた研究成果です。そして、結論としては渋沢栄一が上げられ、まあ、当然というか、平凡極まりない結果なんですが、その方面での渋沢の代表作である『論語と算盤』を持ち出して、江戸期の儒者2人にその源流を見出しています。これも、平凡極まりない結論なんですが、荻生徂徠と海保青陵です。どこまで肯んずるかは個人的な見方も関係するとは思いますが、大量の書物を残した2人ですので、著者が見出したような個人的な利得を許容するようなテキストも残っているんだろうと思います。まあ、有り体にいえば、ほかの、場合によっては儒学者でない文筆家の著書からも、同じような表現は見つかる可能性は高そうな気もします。近松門左衛門や井原西鶴なんて、とても確率が高そうな気がします。ですから、ここは、荻生徂徠と海保青陵が渋沢栄一に先立つ江戸期の近代的経済倫理の源流と同定するのは疑問が残ります。ただ、本書がすぐれている点もあります。それは、荻生徂徠と海保青陵が江戸期において、明治以降の近代的経済倫理の源流となった経済的な背景をキチンと押さえている点です。単に、個人的な資質やあるいは育った家の特性などから導き出しているわけではなく、江戸期の経済動向を把握した上で荻生徂徠や海保青陵の倫理的思想の意味を考えようとしています。中国の研究者ですから当然かも知れませんが、マルクス主義的な上部構造と下部構造を意識しているのかもしれません。ただ、経済の専門家ではなさそうに感じた点が2点あり、第1に江戸期の支配階層であった武士が米価に経済的に依存しているのと、江戸期の「士農工商」は実は現在でもいくぶん姿を変えて残っていることです。米価の動向に武士が依存していたのは当然です。俸給を武士は米でもらうわけですから、極端にいえば、米が割高で高く売れて、相対価格として米以外が安ければ、武士の生活水準は上がります。もうひとつの「士農工商」については、本書で指摘するように、渋沢は「官尊民卑」を強烈に否定ないし批判したわけですが、それだけ、明治期には広く残存していたわけで、今でも見受けられるのは異論ないものと考えます。ですから、今でもお役人の官が上に来て、農はかなりシェアが小さくなったので脇に置くとしても、工商の順は今でも維持されている場合が少なくありません。例えば、我が国を代表する経済団体のひとつである経団連の会長は製造業からしか選出されず、銀行や保険、もちろん、小売を始めとするサービス業などの非製造業から会長は出ません。ただ、これは西洋でも同じことであり、キリスト教文化の下で利子が否定されたことから派生して、商業がいくぶんなりとも地位を貶められているのは事実ではなかろうかという気がします。ですから、本書では、米によって年貢が収められる税制から明治期に地租という金納制が開始された点を持って、近代資本主義の幕開けとしていますが、実は、講座派の議論を待つまでもなく明治期の日本には広く半封建的な残滓が見られ、さらに現在に至るまで、すべてが払拭された独立した資本主義経済かどうかは疑わしい、と考えるのもひとつの見識であろうと私は受け止めています。

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次に、アニー・ローリー『みんなにお金を配ったら』(みすず書房) です。著者は、アトランティック誌の寄稿編集者を主としてこなしているジャーナリストであり、本書の英語の原題は Give People Money で、2018年の出版です。タイトルから容易に想像されるように、ユニバーサル・ベーシックインカム (UBI=Universal Basic Income) についてのリポートです。全10章のうち終章をコンクルージョンとして、第1章から第9章までが3章ずつのグループをなしており、最初の3章がUBIの原理原則や理論的な背景などを取り上げ雇用との関係を解明を試みており、次の3章では貧困削減という切り口からUBIを論じ、最後の第3部では社会的包摂という観点からUBIの導入につき議論しています。基本的に、UBI導入に向けた賛成論を展開しているわけですが、統計的なエコノミストの分析も豊富に当たっていて、もちろん、ジャーナリストらしい現地取材も十分で、説得力ある議論を展開しています。UBIについては、まず、日米欧の先進国経済で観察されるように、雇用者の賃金がかつてほど上がらなくなった、という事実があります。スキル偏向的な技術進歩が進み、いわゆるスーパースター経済が成立した技術的背景がある一方で、スキルが2山分布のように高スキルと低スキルに分裂し、低スキル雇用がますます増加しています。同時に、低賃金だけからというわけでもなく、低開発国におけるものも含めて貧困問題をUBIが解決の一案となることも確かです。加えて、UBIで最低限の生活が保証されれば、芸術などのハイカルだけでなくボランティア活動に時間的な余裕ができるのも事実です。すなわち、エコノミストの目から見て、現在の市場に基づく雇用の配分は大きく失敗しているわけで、社会的に必要な分野への人間労働の配分が賃金という価格シグナルに従ってなされると、まったく最適化されない、ということです。ですから、私はUBIを強力に支持します。ただ、その支持するという前提で、疑問をいくつか上げると以下のとおりです。すなわち、本書の著者などは、UBIによる勤労意欲の低下を取り上げる場合が多いんですが、私は逆で、雇用主の賃金支払へのインセンティブへの影響を考えるべきです。要するに、UBIの金額だけ賃金カットされれば、何もなりません。現在までのUBIの社会的実験では、地域的に切り離されたりして、あるいは、ランダム化比較試験(RCT=Randomized Controlled Trial)が実行されたりする場合には、賃金差は生じないでしょうが、全国一律でUBIが導入されれば、雇用主の方で賃下げのインセンティブが出るのではないかと考えないでもありません。UBIで人々が働かなくなるのではなく、賃金を支払わなくなるんではないか、という恐れはいかがなもんでしょうか。次に、話題の現代貨幣理論(MMT)との関係で、UBI導入には財源が必要です。インフレになった折にUBI財源はカットできないからです。特に、最初の賃金への影響については、まだ、正面から取り上げた議論に、私は不勉強にして接していませんので、ぜひ考えを深めたいと思います。

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次に、ダレン・マクガーヴェイ『ポバティー・サファリ』(集英社) です。著者は、小説家・ノンフィクションライターです。英語の原題は Poverty Safari であり、2007年の出版です。ということで、「サファリ」とは動物を自然に近い形で見学するためのアミューズメントパークであることはいうまでもありません。要するに、「貧困層を見学する」ということなのでしょう。本書では、著者の実体験から、アルコールや薬物の乱用、犯罪歴、多額の負債、破壊的・暴力的な行為、子供のころ保護者からうけた虐待やネグレクト、教育の不足、若年からの喫煙習慣、総選挙での投票経験の欠如、などなど貧困層、特にイングランドでCHAV、本書の著者のホームグラウンドであるスコットランドでNEDと呼ばれる暴力的な傾向のある貧困層の特徴がよく出ている気がします。なお、約2年前の2017年12月16日付けの読書感想文でオーウェン・ジョーンズ『チャヴ 弱者を敵視する社会』を取り上げています。父親が犯罪で服役する中、母親はアルコールやドラッグに溺れて子供をかまわず、子供は学校にも行かずに小さいころから喫煙して暴力行為を繰り返す、といった印象です。なかなか、日本の、あるいは、古典的な貧困とは様相が違っていて、単純な解決方法などないように思えてなりません。左派的に行政的に財政リソースを配分しても酒代に消えるだけかもしれませんし、右派的な自己責任論を展開しても何にもなりません。私はある程度長期戦を覚悟して教育から始めるしかないような気がします。これは、開発経済学の観点から途上国を見たときと同じ感想なので、なかなかに自信がないんですが、少なくとも「特効薬」的で短期に解決する政策手段は思いつきません。古典的な貧困であれば、それこそ、ベーシックインカムが有効かもしれませんし、そこまで進歩的な政策手段でなくても財政リソースをつぎ込めば何とかなるような気がします。でも、アルコールや薬物の乱用、さらには、英国ですからこの程度ですが、米国になれば銃の問題も生じるような暴力の問題もあります。何とも、根深い貧困問題ですが、何らかの解決方法はあると私は楽観視しています。でも、右派的に自己責任論で押し通すのは何の解決にもなりません。金銭的な裏付けを持って、さらに、ケースワーカーなどの優秀な人材を適切に配置し、子供達はしっかりと教育を受けられる環境に置き、様々なきめ細かい方策を地道に続けていくことにしか解決の道はないのかもしれません。著者のいうように、左派的に社会的問題であり、ネオリベラル的な政策の犠牲者というのも、一面ではそうなのかもしれませんが、社会的な責任とともに、ある程度は自己責任も併せて問題として取り上げる必要があるのかもしれません。エコノミストとして、いささか自信のない分野かもしれませんが、エコノミストこそもっとも力を発揮すべき分野である、と思わないでもありません。

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次に、ポール・モーランド『人口で語る世界史』(文藝春秋) です。著者は、英国出身であり、ロンドン大学気鋭の人口学者だそうです。英語の原題は The Humman Tide であり、2019年の出版です。ということで、マルクス主義的な上部構造と下部構造で経済原理主義的な論調はいくつか見て来ましたが、本書では人口動態原理主義が展開されています。でも、歴史の根本に置けるのは、確かに、経済か人口動態くらいかもしれません。人口が歴史を形作る場合、常に参照されるのはマルサスであり、本書では常識的に、マルサス主義は2度転回した、と結論しています。すなわち、科学技術の発展、本書では産業革命における生産力の大きな伸長をもって、マルサス的な食料生産の限界を超えたことが指摘され、さらに、それにもかかわらず、女性教育の普及や女性の労働市場への参加などから、生産面から支えられるだけの人口増加が見られないようになる、というか、むしろ逆に生産が増える一方で人口が減少に転ずる、という2度の転回を明らかにします。第1の転回は決して農業生産の増加ではなく、むしろ、工業生産の増加やそれに伴う交易の広がりにより、海外からの食料調達が可能になった、と描かれています。その後、英国人研究者ですので英国中心史観でもないのでしょうが、産業革命を真っ先に達成した英国、というか、イングランドから始まって、イングランド以外の英国諸国、大陸欧州、そして米国に視点を変えつつ人口を論じています。さらに視野を広げて、東欧からロシアを論じ、アジア、中南米、アフリカと議論を展開します。人口の増減については、本書冒頭でも指摘されていますが、出生率と死亡率、そして、移民などの人口移動で説明できますが、本書では明記していないものの、出生率の上昇により人口増加がもたらされると、人口構成は若くなり、逆に、死亡率が低下すると人口の中で高齢者の比率が上昇します。この人口構成について、本書では決して無視されているわけではありませんが、やや量的な人口の規模に重点を置くあまり少し軽視されているような気がしなくもありません。エコノミストにはそのあたりが銃と考えられます。すなわち、人口と生産のマルサスの罠を脱すれば、ある意味で、相乗効果があり、人口と生産が手を携えて車の両輪として増加を続ける、という局面があります。出生率が上昇するとともに、死亡率が低下します。日本の戦後の高度成長期などが典型といえます。そして、次の転回に従って、出生率が低下し始め、死亡率の低下も頭打ちとなります。極めて例外的な国を除いて、前者の出生率の低下が始まれば、もう一度出生率が上昇するケールはほぼありません。我が国人口の現状を見れば明らかです、おそらく、これは出生率を引き上げるおいうよりも、その現状を受け入れて対応する、というしかないのかもしれません。最後に、2019年出版の原書1年もたたずに翻訳したのは、たいへんな生産性の高さだという気もしますが、国名の邦訳がややひどい気がします。ひょっとしたら、原書で書き分けられていない気もしますが、USとアメリカ合衆国は大きな違いないと思うものの、イングランドはまだしも、ブリテンとグレート・ブリテンとUKはどう違うんでしょうか。訳者あとがきで、誇らしげに「イギリス」という国名は使わなかった、と邦訳者が自慢していますが、原作者に質問するなりして、もっとキチンと書き分けて欲しかった気がします。

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次に、将基面貴巳『愛国の構造』(岩波書店) です。著者は、オタゴ大学の研究者だそうですが、私は不勉強にしてオタゴ大学というのを知りませんでしたから、ネットで調べるとニュージーランドにあるそうです。本書でいう「愛国」とは、上の表紙画像に見えるように、英語のpatriotismです。最近、ネトウヨの本などを読んでいるんですが、その中では愛国というよりは、反日に対する嫌悪感が充満しているという印象があります。在日はもちろん、外国人は無条件で反日と認定されるようですし、日本人でもリベラルな方向性はあまり親日とは見なされないようです。その中で、反日と親日を分けるものとは少し異なる次元ながら、愛国を考えたのが本書です。ただ、言葉遊びではなく、国という場合、民族を主たる構成員と考えるnation、出身地の地理的な位置関係を重視するcontry、政府とほぼほぼ同じ意味で使われる国家などのstate、の少なくとも3つの概念があり、本書では丹念にひとつひとつ論を進めています。ただ、我が国でいう「国」については私は異論があり、我が国での「国」は統一国家としての日本ではなく、むしろ、その昔の人の表現かもしれませんが、「お国はどこですか」とか、もっと昔の「国持大名」などのように、関西でいえば、河内、摂津、丹波、丹後、大和、紀伊、といったその昔の大名の領域に近い概念ではなかろうかという気がします。もちろん、「国持大名」という表現があるように、大名のすべてが国を持っていたわけではありませんし、島津のように薩摩と大隅の2国を持っていた例もありますが、現在の都道府県よりももう少し細かい単位ではないか、という気がしないでもありません。米国も連邦制の国家であって、よく似た印象を私は持っています。少なくとも、ヤンキーの北部と貴族的な南部は大きく異なります。私は京都南部の小領主や旧貴族の荘園などが点在していた地域の出身ですから、余りそういった気分は理解できなかったのですが、10年ほど前に長崎大学に出向した際に、九州ではそういった「お国自慢」が幅広く言い伝えられており、逆に、自分の出身地についてなーバスである、という気もしました。それはともかく、本書では国家という政治共同体にアイデンティティの基礎を置くことの問題点、特に、国家による聖性の独占の問題をひも解こうと試みています。1890年に明治期の日本では「教育勅語」を明らかにし、このことが大きなターニングポイントであったと指摘しています。その後、天皇の神格化が進み、愛国心の名のもとに青年の命をムダに消耗する戦争へと投入していく、というのが歴史的な事実です。ですから、愛国を持ち出されると私なんぞは懐疑的なメガネを取り出して着用する場合が少なくなく、愛国を唱えるグループはそれだけで損をしている気もしますが、それでも教育現場に「愛国心教育」を持ち込もうという動きは跡を絶ちません。単なる無条件の自国礼賛に陥った愛国に代替するアイデンティティが必要だと私は考えていて、官庁エコノミスト経験者としてだけでなく、大学教員経験者としても、教育の重要性は十分認識しているつもりであり、エコノミストとしての専門性を生かして教育の現場に戻る道を模索しているところです。最後は、少しヘンな話になりました。ご容赦ください。

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最後に、橘玲『上級国民/下級国民』(小学館新書) です。著者は、作家・ノンフィクションライターといったところです。私は、たぶん、この著者の本を読むのは初めてです。本書は、結論からいえば、上級国民とは団塊の世代で高度成長期を満喫して正社員でがっぽり稼いだ既得権益者であり、下級国民はその犠牲になって正規雇用を得られなかったりした若者、ということなんだろうと思います。私自身が団塊の世代の10年後の生まれで、団塊の世代の恵まれた状態をつぶさに見てきた経験があります。とても卑近な例ですが、国家公務員でも団塊の世代までは問題なく「天下り」で再就職したのに対して、私なんぞはものすごく苦労させられているわけです。それを、能力の問題とか、自己責任とか、そういったものにすり替える議論がまかり通っているわけで、正社員になれない若者の能力不足とか、ましてや、自己責任なんてとんでもない、という主張を私もこのブログで繰り返していたりするわけです。経済学的な実証研究の成果として、たとえ正社員であっても、景気後退期に就職した世代は生涯賃金で損をしていることは明らかな事実として確立しており、しかも、米国の場合では就職してから数年でこの賃金格差が縮小する一方で、日本の場合はかなり長期に影響が残る、というのもスタイライズされた事実です。ですから、私は決して国民相互間の分断を煽るつもりはありませんが、引退世代と現役世代の格差は明確に存在し、しかも、それが投票行動に基づいていることから、政治レベルでは解消することが困難である、という事実は十分に認識される必要があると思っています。本書の内容はやや誇張されている部分もあるように見受けますし、一部にあるいは不正確な内容も含まれているかもしれませんが、大筋では恵まれた団塊の世代とその犠牲になった就職氷河期世代、という構図は大きくは間違っていないんではないか、と考えています。それだkらこそ、政府でも就職氷河期世代対策を今さらのように打ち出したりしているわけです。繰り返しになりますが、本書の内容をすべて肯定するつもりもありませんが、世代間格差というものは現に存在し、それは解消されるべきであり、自己責任や能力の問題ではない点は理解されて然るべき、と私は考えています。

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2019年12月 7日 (土)

米国雇用統計はちょっとびっくり+266千人増で利下げストップか?

日本時間の昨夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+2666千人増とちょっとびっくりするくらいの堅調振りで、失業率は先月からさらに▲0.1%ポイント低下して3.5%という半世紀ぶりの低い水準を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、USA Today のサイトから記事を最初の8パラを引用すると以下の通りです。

Economy added booming 266,000 jobs in November and the unemployment rate fell to 3.5%
Hiring picked up sharply in November as employers added a booming 266,000 jobs, underscoring a healthy economy despite trade jitters and sluggish global growth, and easing recession fears.
The gains far outpaced the 184,000 expected even after accounting for the return of striking General Motors workers.
The unemployment rate fell from 3.6% to 3.5%, matching a 50-year low, the Labor Department said Friday.
As the 2020 election draws closer, job creation under President Trump is likely to be scrutinized more closely. The federal tax cuts and spending increases he spearheaded spurred more hiring but his trade fights and immigration crackdown likely have offset much of the gains, leading economists say.
Also encouraging: Job gains for September and October were revised up by a total of 41,000. September's additions were raised from 180,000 to 193,000 and October's from 128,000 156,000.
A six-week GM strike held down employment by 46,000 in October and that dampening effect was expected to reverse last month since the factory workers were back on the job.
Other forces also may have skewed the numbers. Widespread worker shortages could have prompted employers to pull forward hiring or minimize layoffs -- a strategy that often occurs in November during tight labor markets, Goldman Sachs said.
At the same time, Midwest snowstorms likely reduced payroll growth by about 10,000, Goldman said. And the late Thanksgiving may have curtailed job gains in retail, the research firm said. Since Labor's survey is conducted mid-month, it may have missed holiday workers added shortly before Black Friday.
More generally, average monthly job growth has downshifted to about 170,000 this year from 223,000 in 2018, though the latter figure has tentatively been revised down. Many economists expect gains of only about 100,000 next year because of both a slowing economy and a low jobless rate that's making it harder for businesses to find qualified workers.
Consumer spending, which accounts for about 70% of economic activity, has remained on solid footing. But business investment and manufacturing have pulled back amid a sluggish global economy and uncertainty generated by President Trump's trade war with China.
Average hourly earnings increased 7 cents to $28.29, nudging the annual gain from 3% to 3.1%.
Yearly pay increases shot past 3% last year as employers jostled for a limited supply of workers but they've slowed this year. That has helped keep a lid on inflation, allowing the Federal Reserve to cut interest rates three times this year without worrying the moves would rev up the economy and lead to a spike in consumer prices.

ついつい長く引用してしまいましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門と失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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今週半ばに、民間企業の給与計算などのバックオフィスのアウトソース先の企業であるADPから民間企業雇用の増加が11月はわずかに+67千人増、と明らかにされた際には、私も含めて多くのエコノミストが「こりゃ米国経済はヤバい」と感じたんではないかと思うんですが、何とびっくりで、米国労働省の公式統計では11月は+266千人増という結果が飛び出しました。統計の信頼性に関する議論はともかくとして、失業率も3.5%まで低下していますし、米国の雇用は堅調そのものと考えるべきです。先月の今ブログで言及したGMのストライキの終結により、Motor vehicles and parts では+413千人増を記録していますし、製造業全体でも10月の前月差▲50千人のマイナスから11月は+44千人のプラスに転じています。非製造業でも、ブラック・フライデー以降のクリスマス商戦の好調ぶりが伝えられていますが、11月統計では、Wholesale trade が▲4.3千人減となったほか、Retail trade では+2.0千人増ですし、関連する Transportation and warehousing でも+15.5千人増と伸びを高めています。直近3か月の月平均も好調の目安とされる20万人を再び上回っています。ですから、連邦準備制度理事会(FED)では米中間の貿易摩擦に起因する景気不安を和らげるため、連邦公開市場委員会(FOMC)3会合連続で政策金利を引き下げてきましたが、こういった雇用の底堅さを受けて、また、下のグラフに見るように、11月の平均時給は前年同月比+3.1%増と、16か月連続で3%台の伸びを続けていて賃金にも上昇圧力が見られることなどから、今月12月10~11日のFOMCでは4会合ぶりに利下げを見送る見通しとの観測が広がっています。

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ただ、景気動向とともに物価の番人としてデュアル・マンデートを背負ったFEDでは物価上昇圧力の背景となっている時間当たり賃金の動向も注視せねばならず、その前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。米国雇用の堅調振りに歩調を合わせて、賃金上昇率も3%台が続いており、11月も前年同月比で+3.1%の上昇と高い伸びを示しています。日本や欧州と違って、米国では物価も賃金上昇も+2%の物価目標を上回る経済状態が続いている一方で、政権からの圧力もあって利下げが模索されていましたが、しばらく小休止なのかもしれません。ただ、左派エコノミストとして、私はトランプ政権の圧力は別と考えても、一般論ながら、金融緩和策や財政的な拡張政策は貧困解消を含めて国民の生活水準向上に役立つものと考えています。

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2019年12月 6日 (金)

大きく下降した景気動向指数を見て経済対策の必要性を感じる!!!

本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から▲0.1ポイント下降してで91.8を、CI一致指数も▲5.6ポイント下降して94.8を、それぞれ記録し、統計作成官庁である内閣府による基調判断は、先月から「悪化」に引き下げられたまま据え置かれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気指数、6年半ぶり低水準に 消費増税と台風で
持ち直し、年明け以降との見方

国内景気に急ブレーキがかかっている。内閣府が6日発表した10月の景気動向指数は、景気の現状を示す一致指数が94.8と6年8カ月ぶりの低水準になった。消費税率の引き上げと大型の台風が重なり、生産や出荷などの指標が軒並み悪化した。同日発表の家計調査では10月の消費支出が前年同月比5.1%減。景気の持ち直しは年明け以降との見方が多く、停滞が長引く恐れがある。
景気の一致指数(2015年=100)の推移から機械的に決まる基調判断は3カ月連続で「悪化」となり、定義上は景気後退の可能性が高いことを示している。前月比のマイナス幅は5.6ポイントで東日本大震災のあった11年3月以来の大きさだ。前回14年4月の増税時(4.8ポイント低下)よりも落ち込みが激しい。
10月は一致指数のもとになる9項目の統計のうち発表済みの7項目すべてが指数の押し下げ要因となった。特に影響が大きかったのは小売販売額や投資財出荷、鉱工業生産などだ。
小売販売額は自動車やホームセンターなどで増税前の駆け込み需要の反動が出ている。台風で店舗を開けなかったり、客数が減ったりしたことも響いた。投資財出荷ではショベル系掘削機械が台風で部品調達に支障を来す事態などが起きた。鉱工業生産は米中貿易戦争を背景とした世界経済の減速も影を落としている。
指数による景気の基調判断は、最も低い「悪化」から当面抜け出せない公算が大きい。10月の指数が大幅に低下したことが、判断の基準となる3カ月平均や7カ月平均の値に響くからだ。悪化より1段階上の「下げ止まり」への上方修正は「早くて20年1月分」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏)との見方が強い。1月分の指数の発表は3月上旬だ。
10月の消費の落ち込みは総務省の家計調査でも鮮明になった。2人以上の世帯の消費支出は物価変動の影響を除いた実質で前年同月に比べて5.1%減った。落ち込み幅は前回の消費増税後の14年4月(4.6%減)より大きい。
増税前の1年間の平均の消費支出を100とする指数で一時的なブレを除いて比べると、今年10月は95.6で前回増税時の14年4月は95.3とほぼ変わらない水準だった。今回は増税後に消費が急減しないようキャッシュレス決済でのポイント還元などを実施しているなかで、消費減少の要因分析が非常に重要になっている。
西村康稔経済財政・再生相は6日の閣議後の記者会見で、台風の影響に言及しつつ「全体として駆け込みの反動は前回ほどではない」と述べた。日本商工会議所の三村明夫会頭も同日の記者会見で「基調的な落ち込みと台風の影響が大きかったのではないか」と分析した。
14年は消費支出が増税2カ月目の5月も8.0%減と落ち込むなど、前年割れが増税後13カ月続いた。今回も足元の消費の基調自体が弱いとすると、持ち直しは遅れかねない。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、景気局面に関する注目が上がっているのか、まあ、うしろ半分以上は消費動向の記事なんですが、かなり長々と引用してしまいました。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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いつも論じているように、景気動向指数は鉱工業生産指数(IIP)との連動性が高いんですが、10月統計の一致指数のマイナス寄与が大きい順に採用系列を並べると、商業販売額(小売業)(前年同月比) ▲1.92、投資財出荷指数(除輸送機械) ▲1.11、商業販売額(卸売業)(前年同月比) ▲1.11、などとなり、4番目にようやく生産指数(鉱工業) ▲0.72 が来ます。やはり、10月からの消費税率引上げによる商業販売の落ち込みが大きいという印象です。さらに、引用した記事の後半の総務省統計局による家計調査に基づく記事では、やっぱり、今回の消費増税の反動減が前回2014年4月時よりも大きいという結果が示されていますが、2014年と違って今回は消費税に加えて台風19号という自然災害とが相まって景気の下押し圧力がもたらされています。ですから、消費税率引上げ付きの落ち込みが大きく見えるわけで、経済政策当局からすれば想定外・経済外の要因とはいえ、それだけに、何らかの経済対策が必要とされているのは十分理解できます。
ただ、経済対策については、従来型の公共事業に偏重するのは厳に避けるべきです。というのは、クラウディングアウトの恐れが大きくなっているからです。その昔の経済学では、政府支出が資金需要を増加させて金利上昇を招き民間投資が減少する、というタイプのクラウディングアウトを想定していましたが、日本経済の現状からすれば、クラウディングアウトを引き起こす供給制約は資金面や資金に起因する金利ではなく、むしろ人手不足とそれに起因するコストアップです。オリンピック・パラリンピックを前にそれなりの建設需要がある中で、またまた、公共事業に偏った経済対策となれば、民間需要と少ない人手を奪い合うことになり、人手不足の面から民間投資をクラウディングアウトすることにもなりかねません。この点は忘れるべきではありません。

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2019年12月 5日 (木)

来週月曜日公表予定の7-9月期GDP統計速報2次QE予想は上方改定か?

先週の法人企業統計の公表などを終えて、ほぼ必要な指標が利用可能となり、来週月曜日12月9日に7~9月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定です。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。いつもの通り、可能な範囲で、足元から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。今回は、消費税率引き上げ直前の実績成長率と直後の見通しということなんですが、いつもの通り、2次QE予想は法人企業統計のオマケの扱いのシンクタンクも少なくなく、その中で、みずほ総研だけは超長めに引用していて、ほかもそれなりに引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.1%
(+0.2%)
n.a.
日本総研+0.2%
(+0.7%)
7~9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が上方修正となる一方、民間在庫は下方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+0.7%(前期比+0.2%)と、1次QE(前期比年率+0.2%、前期比+0.1%)から上方修正される見込み。
大和総研+0.3%
(+1.2%)

7-9月期GDP二次速報(12月9日公表予定)では、実質GDP成長率が前期比年率+1.2%と、一次速報(同+0.2%)から上方修正されると予想する。需要側統計の法人企業統計の結果を受けて、設備投資が前期比+2.0%に上方修正されることが主因である。
みずほ総研+0.2%
(+0.7%)
今後の日本経済は、10~12月期については消費増税の反動減の影響からマイナス成長は避けられないだろう。来年に入ってからも、消費・投資ともに力強さにかけ、日本経済は低い伸びに留まる見通しだ。
個人消費は、足元消費増税の反動減が下押し圧力として働いている。ただ反動減の影響が徐々にはく落していく来年に入ってからも、所得が伸び悩むなかで、消費の回復テンポは当面弱いとみている。足元の雇用環境をみると、雇用がひっ迫している状況は続いているものの、生産活動の停滞を受けて、製造業を中心に新規求人数が減少している。先行きについても生産の力強い回復が期待しにくいなかで、企業は新規雇用に慎重になるとみられ、雇用者数は当面伸び悩むだろう。また一人当たり賃金についても足元の企業収益が弱含むなか、当面横ばいで推移すると予想する。所得の伸び悩みを考えると、消費の伸びは当面弱いだろう。
設備投資は、省力化投資が下支えとなるものの、調整圧力の高まりから徐々に投資の伸びは鈍化していく見通しだ。米中対立の継続に伴い先行き不透明感が高いことも、投資の伸びを抑制する要因として働こう。
輸出はグローバルなIT需要が底打ちしたことから、徐々に回復していく見通しだ。ただし、世界経済が伸び悩む中ではけん引力に欠け、輸出の伸びは緩やかに留まるだろう。外需主導での日本経済の力強い回復は見込みがたいと考えられる。こうした中、生産活動も精彩を欠いた動きとなる見通しだ。
以上を踏まえると、当面の日本経済は潜在成長率を下回る弱い伸びになるだろう。
ニッセイ基礎研+0.2%
(+0.9%)
19年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.2%(前期比年率0.9%)となり、1次速報の前期比0.1%(前期比年率0.2%)から上方修正されると予測する。
第一生命経済研+0.3%
(+1.2%)
10-12月期の個人消費は大幅な減少が避けられない。前述のとおり設備投資に反動が生じる可能性があることも懸念材料だ。10-12月期の実質GDPについては、筆者は11月14日の段階で前期比年率▲2.8%を予想していたが、さらなる下振れも意識しておく必要があるように思われる。
伊藤忠総研+0.1%
(+0.6%)
7~9月期のGDP成長率は、最終需要が比較的堅調な拡大を維持する中で、輸出の落ち込みと企業の在庫抑制が下押しし、概ね横ばいにとどまることになり、日本経済は10月の消費増税を待たずに停滞していたという判断に変化はない。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2%
(+1.0%)
2019年7~9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.2%(年率換算+1.0%)と1次速報値の同+0.15(同+0.2%)から上方修正される見込みである。ただし、修正は小幅であり、今回の結果によって景気に対する評価が変わることはないであろう。
三菱総研+0.2%
(+0.9%)
2019年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.2%(年率+0.9%)と、1次速報値(同+0.1%(年率+0.2%))から上方修正を予測する。

ということで、各機関とも軒並み1次QEから上方改定され、ほぼ潜在成長率近傍のプラス成長と見込まれているんですが、その見方や解釈にはやや差があり、+1%弱というか、+0%台後半ながら、みずほ総研や伊藤忠総研ではかなり弱めに見ているようです。しかし、たとえ、7~9月期のGDP成長率が潜在成長率見合いのプラスであったとしても、10月には消費税率引上げがあったわけですから、明記していないシンクタンクを含めて、ほぼほぼすべてのシンクタンク、あるいは、エコノミストは足元の10~12月期はマイナス成長と考えています。ですから、もう焦点は来年1~3月期に移りつつあり、2四半期連続のマイナス成長でテクニカルな景気後退シグナルとなるのかどうか、という見方です。まさに、この2四半期連続のマイナス成長を回避するために政府で景気対策が検討されている訳であり、私は大いに期待していますし、テクニカルな景気後退シグナルは避けられるものと考えています。
下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。プラス成長とはいえ、徐々に成長率が低下しているのが見て取れると思います。

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2019年12月 4日 (水)

経済協力開発機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA2018)の結果やいかに?

昨日12月3日、経済協力開発機構(OECD)から昨年2018年に実施された生徒の学習到達度調査 (PISA2018) の結果が公表されています。PISAとは、Programme for International Student Assessment の略であり、15歳児を対象に読解力 reading、数学 mathematics、科学 science の3科目について、3年ごとに国際的に調査を実施し、結果は広く公表されており、データもかなり詳細に提供されています。2000年が初回の調査であり、昨年2018年のPISAは第7サイクルに当たり、79か国・地域の15歳の生徒約60万人が参加しています。以下、OECDの1次資料とともに、国立教育政策研究所のサイトにあるリポートなどをもとに簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上の棒グラフは、OECDのサイトから引用していて、たぶん、読解力 reading の得点でソートされているんではないかと思います。一番上の B-S-J-Z (China) とは、一番下の脚注にあるように、北京・上海・江蘇・浙江のことです。中国はOECD加盟国ではありませんが、かなり前からPISAから参加しているのではないか、と記憶しています。
上のグラフのソートの仕方を見ても判る通り、今回の焦点は読解力に当てられており、ほとんどの生徒がコンピュータを使って回答しています。そして、我が日本は焦点の読解力で世界における順位を下げ続けています。すなわち、2012年調査では4位を占めていたにもかかわらず、2015年調査では8位、そして、今回2018年調査では15位まで後退しました。もっとも、これは首位から4位までの中国各都市やシンガポールといったOECD非加盟国を含めてのお話ですので、OECD非加盟国を加盟国の中では11位ということになります。報道などを見ると、パソコンを使ったコンピューター形式のテスト形式に不慣れなことや、記述式の問題を苦手としていることなどが要因として考えられる一方で、当然ながら、本や新聞などをよく読む生徒の方が平均点は高く、読解力低下の結果には読書量の減少も影響しているのではないか、という見方が示されています。15年前のPISA2003の結果でも、読解力は大きく順位を下げて「PISAショック」というバズワードも出てきたりし、いわゆる「ゆとり教育」を見直すきっかけのひとつとなりました。
ただ、いつも楽観的な見方を示す私としては、いくつか別の観点を示しておきたいと思います。まず、上の画像の一番下にも見られる通り、読解力のOECD平均スコアは487であり、日本の501はこれをまだ何とか上回っています。また、焦点となった読解力は順位を落としている一方で、数学は全79カ国・地域の中では6位なものの、OECD加盟国としては韓国を押さえてトップですし、科学も全79カ国・地域の中で5位、OECD加盟国の中でもエストニアとわずかに1点差の2位につけており、両国スコアの間に統計的に有意な差は見られません。まだまだ、日本の生徒や中等教育は優秀であるといえます。次回の第8サイクル2021年実施のPISAでは数学にスポットが当てられる予定ですので、「ヤッパリ、日本の生徒は優秀」という論調が戻るような気がしないでもありません。

最後に、こういった学習結果の基礎をもとに考えると、現場の技術者は優秀で先進国トップクラスだが、経営者は先進国の中でも平均レベル、という一般的な日本に対する見方を強く支持している、といえそうな気がします。

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2019年12月 3日 (火)

SMBCコンサルティングによる「2019年ヒット商品番付」やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週11月27日にSMBCコンサルティングから「2019年ヒット商品番付」が明らかにされています。SMBCコンサルティングのサイトから引用した下のテーブルの通りです。

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東西の横綱はこの通りなんでしょう。でも、大関について、プロスポーツ選手はともかく、ノーベル賞受賞の先生を「商品番付」に置くのは異論ありそうな気がしないでもありませんが、エコノミストはすべてを商品化しかねませんから、いいとしておきます。続く三役級ではサブスクやタピオカは当然でしょう。私が注目したのは前頭2枚目のこども関連のヒット商品です。弘文堂の『こども六法』は子どもの時から「やってはいけない」ことをきちんと教える重要性を改めて世間に知らしめる結果となりました。プログラミング教育も未来につながるスキルなんでしょう。消費者の嗜好の関係では、私はウィスキーはたしなみがなく、ここで知るまで和製ウィスキーは知りませんでした。
師走に入って、そろそろ1年を振り返る季節を感じます。

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2019年12月 2日 (月)

ほぼ3年ぶりに減収減益となった法人企業統計をどう見るか?

本日、財務省から4~6月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高はほぼ3年ぶりの減収で前年同期比▲2.6%減の349兆4974億円、経常利益は2四半期連続の減益で▲5.3%減の17兆3232億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで+7.1%増の12兆826億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比+1.5%増となっています。なお、設備投資については、前回からソフトウェアを含むベースに変更されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。


設備投資7.1%増 7-9月法人企業統計、売上高は減
財務省が2日発表した2019年7~9月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の売上高は前年同期比2.6%減の349兆4974億円と、12四半期ぶりの減収となった。米中貿易摩擦やそれに起因した中国経済の減速などを背景に、半導体関連製品などの売り上げが落ち込んだ。
製造業の売上高は1.5%減だった。中国向けなどが振るわず、スマートフォン向け部品など「情報通信機械」が18.9%減、半導体製造機械など「金属製品」が15.4%減となった。
非製造業の売上高は3.1%減と、12四半期ぶりの減収となった。消費増税を控えた耐久消費財への駆け込み需要で小売業は増収だったが、原油安を背景とした石油製品などの価格下落で卸売業が減収となったため「卸売業、小売業」は4.0%減となった。賃貸住宅の建設減や前年の大型案件の反動減から「建設業」は8.6%減だった。
全産業の設備投資は前年同期比7.1%増の12兆826億円で、12四半期連続の増加となった。
製造業の設備投資は6.4%増だった。次世代通信規格の5G関連技術や自動車・通信機械向けの電子部品への投資が活発だった「情報通信機械」が18.9%増となった。新工場の増設のあった「生産用機械」は18.6%増だった。
非製造業の設備投資は7.6%増だった。都市部を中心にオフィスビルの取得が多かった「不動産業」や、物流施設の新設が目立った「卸売業」の増加が寄与した。財務省の担当者は「増税前に設備投資に影響が出たとは考えていない」と説明した。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となるソフトウエアを除く全産業の設備投資額は、前年同期比で7.7%増、季節調整した前期比で1.2%増だった。
全産業ベースの経常利益は5.3%減の17兆3232億円と2四半期連続の減益となった。海外での建設機械・半導体製造業の落ち込みを受けて製造業が15.1%減となったことが影響した。非製造業は0.5%増だった。
財務省は「緩やかに回復している景気の動向を反映している」と説明した。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や投資動向を集計した。今回の19年7~9月期の結果は、内閣府が9日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフを見る限り、足元の我が国企業の動向は、かなりの程度に最近のマクロ経済動向とも一致して、製造業を中心に停滞色を強めています。季節調整していない原系列の前年同期比で見て、売上高こそ、非製造業の▲3.1%減の方が製造業の▲1.5%減よりも大きな落ち込みを見せましたが、営業利益と経常利益では非製造業が前年同期比プラスでしのいでいるのに対して、製造業はいずれもマイナスに落ち込んでいます。経常利益に至っては、製造業は統計の分類11業種すべてで前年比マイナスとなっています。ただ、設備投資については製造業・非製造業とも増加を続けています。特に、7~9月期には資本金10億円以上の大企業が前年同期比+10.0%と2桁のプラスを記録しています。業況が伸びない中で人手不足などに対応した合理化投資・省力化投資が下支えしているものと私は想像しています。ただ、後に見るように、ストックの利益剰余金こそ積み上がっているものの、フローの企業収益がかなり悪化しているので、設備投資の先行きについては楽観すべきではないと考えています。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。ソフトウェアを含むベースに今回から再計算しています。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。ということで、相変わらず、太線のトレンドで見て労働分配率は60%前後で底這い状態から脱することなく低空飛行を続けています。他方、設備投資のキャッシュフロー比率はじわじわと上昇して60%台半ばに達しています。もちろん、一番元気よく右肩上がりの上昇を続けているのは利益剰余金です。ストックですから、積み上がる傾向にあるとはいえ、これを賃金や設備投資にもっと回すような政策はないものでしょうか?

本日の法人企業統計を受けて、来週月曜日の12月9日に7~9月期GDP統計2次QEが公表される予定となっています。基本的に、上方改定されるものと私は考えていますが、日を改めて2次QE予想として取り上げたいと思います。

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2019年12月 1日 (日)

阪神タイガース2020年シーズンのチームスローガンは「It's 勝笑 Time! オレがヤル」

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遅ればせながら、11月23日に阪神球団から2020年シーズンのチームスローガン「It's 勝笑 Time! オレがヤル」がプレスリリースされています。阪神タイガースのサイトから引用した上の画像の通りです。

来季こそ15年振りのリーグ優勝と35年振りの日本一目指して、
がんばれタイガース!

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