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2020年1月31日 (金)

明日からプロ野球はキャンプイン!

いよいよ、球春です!
明日からプロ野球12球団がいっせいにキャンプインします。下の画像は時事通信のサイトから引用している 2020年プロ野球キャンプ地 です。

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我が阪神タイガースは沖縄は宜野座でキャンプインです。

今年こそ、リーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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2020年1月30日 (木)

本日と明日のブログはお休み!!!

諸事情あって、今、東京を離れています。
本日と明日のブログはお休みとし、明後日の土曜日には自宅に戻る予定ですので、可能な限り、この私のブログのもっとも重要なコンテンツである読書感想文はアップしたいと考えています。ただ、明日は月末閣議日で、鉱工業生産(IIP)や雇用統計などの経済指標が公表される予定なのですが、今月はパスします。

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2020年1月29日 (水)

前月統計から横ばいだった1月の消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。2人以上世帯の季節調整済みの系列で見て、前月比横ばいの39.1となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の消費者態度指数、前月比横ばいの39.1
内閣府が29日発表した1月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は前月から横ばいの39.1だった。指数を構成する4指標のうち、「暮らし向き」と「収入の増え方」が4カ月ぶりに低下した一方、「雇用環境」と「耐久消費財の買い時判断」は上昇した。内閣府はここ数カ月の指数の動きを踏まえて、消費者心理の判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
2人以上の世帯で、日ごろよく購入する物の1年後の物価見通しでは「上昇する」と答えた割合が78.2%(原数値)と前の月を0.6ポイント下回った。「低下する」「変わらない」と答えた割合はいずれも前の月よりも小幅に増加したものの、依然として物価上昇を見込む声が多い。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について、今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と回答すればゼロになる。調査基準日は1月15日で、調査期間は1月5▲20日だった。調査は全国8400世帯が対象で、有効回答数は6601世帯、回答率は78.6%だった。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。`

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消費者態度指数を構成する4つのコンポーネントで詳しく見てると、「暮らし向き」が▲0.6ポイント、「収入の増え方」が▲0.3ポイント、それぞれ低下した一方で、「雇用環境」が+0.5ポイント、「耐久消費財の買い時判断」が+0.4ポイント、それぞれ上昇しています。統計作成官庁である内閣府の基調判断は、10月までの「弱まっている」が、11月に「持ち直しの動きがみられる」に上方改定されてから、本日公表の1月統計まで、3か月連続で据え置かれています。雇用環境のマインドが改善しながらも、収入の増え方についてのマインドが悪化するという、やや変則的な動きながら、基本的に、人手不足に基づく堅調な雇用が消費者マインドを下支えしているものと私は受け止めています。収入面で期待が高まらないだけに、マインドだけで消費を牽引するのはサステイナブルではないながら、消費税率引上げ直前の消費者マインドの最悪期は脱したと考えるべきです。ただ、1月統計では早くも前月比横ばいという結果に終わり、力強いマインドの改善にはもう少し時間がかかりそうです。さらに、報道を見ると春闘が始まりましたが、賃上げのゆくえはマインドにも大きく影響するものと考えています。デフレ脱却のためにも、家計の将来不安を払拭して景気をさらに上昇させるためにも、大幅な賃上げが効果的です。

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2020年1月28日 (火)

ジワジワと上昇率を縮小させる企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から昨年2019年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。先月10月統計から消費税率引上げがありましたので、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は今月12月統計でも前月と同じ+2.1%を示しています。国際運輸を除く総合で定義されるコアSPPIの前年同月比上昇率も同じく+2.1%を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の企業向けサービス価格、増税除き0.4%上昇
日銀が28日発表した2019年12月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.0と、前年同月比で2.1%上昇した。消費税率引き上げの影響を除くと同0.4%の上昇だった。人手不足に伴い土木建築サービスや労働者派遣サービスの価格上昇が目立った。燃料費上昇による外国貨物輸送の値上がりも寄与した。
前月比の伸び率は横ばいだった。運輸・郵便などが上昇する一方、広告価格が下落した。
2019年の企業向けサービス価格指数(増税の影響を除く)は前年比0.7%上昇した。上昇は6年連続で、伸び率は18年(1.2%)から縮小した。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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先月統計から大きな変化はないんですが、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率+2.1%の内訳を大類別の寄与度で見ると、引き続き、労働者派遣サービスや土木建築サービスなどを含む諸サービスが+0.89%と大きな寄与を示しているほか、道路貨物輸送や鉄道旅客輸送などを含む運輸・郵便が+0.38%となっており、この2つの大類別は人手不足の影響がうかがえます。ほかに、ソフトウェア開発などを含む情報通信も+0.38%を示しています。これらの業種については、純粋な値上げというよりも、消費税率引上げの転嫁が進んでいる、と考えるべきなのかもしれません。ただし、消費税を除く上昇率が試算されているんですが、10~12月の各月統計で+0.4%となっており、5月統計まで+1.0%の上昇率を示し、消費税率引上げ直前の8~9月統計で+0.5%の上昇率だったのに比べれば、ジワジワと上昇率が縮小して来ていることも事実です。人手不足の影響によりサービス価格はそれなりに堅調であるものの、景気動向から方向感としては上昇率が縮小してきているのも認識すべきであろうと私は受け止めています。

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2020年1月27日 (月)

キャッシュレス決済に関するMMD研とビザ・ジャパンの調査

とても旧聞に属する話題ですが、ちょうど1週間前の1月20日にビザ・ワールドワイド・ジャパンとMMD研究所が共同で実施した「【第1弾】2020年キャッシュレス・消費者還元事業における利用者実態調査」の結果が明らかにされています。各社のニュースリリースは以下の通りです。

続いて、ビザ・ワールドワイド・ジャパンのサイトから調査結果のTOPICSを7点引用すると以下の通りです。

TOPICS
  • 「キャッシュレス・消費者還元事業」の認知・理解は進んでいるか?
    ⇒キャッシュレス・消費者還元事業の認知は約9割、内容の理解は約6割
  • 「キャッシュレス・消費者還元事業」を知ったチャネルは何だったのか?
    ⇒認知キッカケはテレビのニュース番組が最多。CMも含めると約5割がテレビ
  • 「キャッシュレス・消費者還元事業」でキャッシュレス決済での支払いは変化があったのか?
    ⇒「キャッシュレス決済の支払いが増えた」が約4割
  • 「キャッシュレス・消費者還元事業」が始まる前後(10月1日以前と以降)で支払い方法の種類に変化は?
    ⇒クレジットカードが9割近い利用率を維持、スマホ決済(QR・非接触)が増加
  • 最も利用している「キャッシュレス決済」は?
    ⇒ 最も利用するキャッシュレスは「クレジットカード」が52.0%、次いで「カード型電子マネー」が19.2%、「QRコード決済」が18.2%
  • キャッシュレス決済の利用が増えた場所は?
    ⇒キャッシュレスの利用場所TOP3は「コンビニ」、「スーパーマーケット」、「ドラッグストア」
  • キャッシュレス決済から想起すること、普及体感、期待は?
    ⇒キャッシュレス決済のイメージは「クレジットカード」、普及の体感は48.9%、期待は54.9%

いくつかグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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続いて、上のグラフは、ビザ・ワールドワイド・ジャパンのサイトから 諸飛車還元事業前後の決裁利用 を引用しています、というか、前と後の2つのグラフを連結しています。見れば判ると思いますが、消費者還元事業前後の支払い方法として、当然トップの「現金」を別にしてキャッシュレス決済の中では、依然として、「クレジットカード」が高い利用率なんですが、消費者還元事業の前後で変化なく、変化の幅で見れば、「QRコード決済」は10%ポイントの増加を見せています。「クレジットカード」をはじめ、「カード型電子マネー」などの他のキャッシュレス決済は統計的に有意な差が出ているようには見えません。

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さらに、上のグラフは、ビザ・ワールドワイド・ジャパンのサイトから 消費者還元事業後のキャッシュレス決済利用が多くなった場所 を引用しています。消費税増税に伴うキャッシュレス・ポイント還元事業は、基本的に、政府施策としては中小企業対象だったハズなんですが、政府施策ではない企業独自のポイント還元が少なくなく、むしろ、日用品を扱う大手チェーンストアでの利用が促進され、幅広くキャッシュレス決済を利用する人が増える方向にあることが見て取れます。

私は、エコノミストとして、高額紙幣とか現金決済は金融腐敗や、場合によっては、犯罪の温床になりやすいと危惧しています。スマホへの依存を強めたり、セキュリティ上の懸念は残りますし、実際に、セブンイレブンが大きくコケた例もあったりしますが、高額紙幣での現金決済をいかに減らすかについても、政府や日銀の積極的な取組が必要だと考えています。

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2020年1月26日 (日)

今週のお天気は大荒れか?

実は、4月から勤務する私大の研究室を見せてもらったり、不動産屋さんに新しい住まいの候補となる物件をいくつか見学させてもらうため、今週後半関西方面に出かける予定なんですが、東京も関西もお天気が大荒れのような雰囲気で、やや心配です。

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まず、上の天気図はウェザーニュースのサイトから引用しています。週明けの明日1月27日(月)は低気圧の接近に伴い、西日本の広い範囲で荒れた天気となるようで、特に、東シナ海を進む低気圧と大陸の高気圧との気圧差が大きく、沿岸部は東よりの風が強まる見込みとなっており、低気圧や前線に向かって暖かな空気が流れ込むため、1月としては記録的な大雨の可能性があります。取りあえず、今週前半の西日本のお天気ですから、私が行く週後半はここまで荒れたお天気ではない可能性もあります。

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次に、上の天気図もやっぱりウェザーニュースの別のサイトから引用しています。週明けの交通機関への影響予測なんですが、‹鉄道›、‹高速道路›、‹空の便›、の3部作から私が使う鉄道のみを引用しています。週後半の東海道新幹線への影響が気がかりですので、引き続きフォローしたいと思います。

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2020年1月25日 (土)

今週の読書はかなりたくさん読んで文庫本まで含めて計8冊!!!

今週は、データ経済におけるプライバシー保護や英国における階級分析の社会学をはじめとして、文庫本のシリーズ3巻まで含めると、以下の計8冊の読書でした。そろそろ、ペースを落とそうと思いつつ、なかなか巡り合わせがそうなりません。

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まず、日本経済新聞データエコノミー取材班[編]『データの世紀』(日本経済新聞出版社) です。データをいかにビジネスに生かして収益を上げるか、その際のプライバシーの扱いはどうなるのか、こういった疑問に関して、かなり否定的な見方を提供しています。日経新聞のジャーナリストのリポートらしくない気もします。本書の謳い文句なんですが、20世紀は石油の世紀であって、でも、産油国が我が世を謳歌したわけではなく、むしろ、石油をうまく利用した製品を生み出した先進各国の世紀だった一方で、21世紀のデータの世紀もデータを生み出した国が中心になるわけではなく、そのデータを上手く利用する国が国民に豊かな生活を提供するわけです。ということで、急遽設えられた雰囲気のある第0章のリクナビによる内定辞退率の提供問題から始まって、米国のGAFAが個人情報を収集・利用したビジネスで大きな収益を上げている事実を基に、経済学的な用語としてはまったく用いられていませんが、データ利用の外部性について、個人データを提供させられているサイドと、それを利用して実に効率的なビジネスを構築したサイドを対比させて、このままでいいのか、あるいは、個人情報や付随するデータをどのような利用に供するのが個人と情報企業の最適化につながるのか、考えさせられる部分が大きいです。それにしても、先週の読書感想文で取り上げた『デジタル・ミニマリスト』でも書いたんですが、FacebookやInstagramなどのSNSで嬉々としてアテンションと個人情報を提供している人達を見るにつけ、それはそれで幸福度が上がるのであればいいんではないか、ある意味で、データに関する前近代性をさらけ出しているような気がして、もはや意味のある個人データ保護がどこまで可能なのかに疑問すら生じます。例えば、リクナビ問題でも、就活学生サイドからすれば、個人情報を提供することなく採用に関する企業情報だけを得たいわけでしょうし、逆に、採用する企業サイドからすれば、企業サイドの採用に関する情報を開示することなく、就活学生の情報だけを得たいわけです。ただ、注意すべきは、情報企業だけでなく、自動車だって、電機だって、製品に関する情報は企業の方が消費者よりも圧倒的に持っているのは変わりありません。ですから、製造物責任のような制度を情報産業に対しても適用できるか、あるいは、外部経済の大きな産業に特有な独占の形成をいかに規制するか、その際、スティグラー的な「規制の虜」をいかに政府は克服するか、こういった問題を新たな産業でいかに国民本位に運営するかの問題と考えるべきです。すなわち、決して、本書のように、利便性と個人方法提供の間のトレードオフというわけではない、と私は考えています。

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次に、マイク・サヴィジ『7つの階級』(東洋経済) です。今日の日経新聞の書評欄で取り上げられていました。著者は、英国ロンドンスクール・オブ・エコノミクスの社会学の研究者です。明示的にクレジットとして上げられているこの著者の他にも、社会学や教育学の研究者が何人かで共著しています。ただ、エコノミストはいなかったように見受けられました。英語の原題は、上の表紙画像に見られるように、Social Class in the 21st Century であり、2015年の出版です。栄子くんBBCが2011年に調査した結果を2013年に取りまとめて公表し、それらを学術的な出版物として取りまとめた成果であると私は認識しています。結論からすれば、邦訳タイトルのように、英国には7つの階級が存在し、上流から順に、(1) エリート7%、(2) 確立した中級25%、(3) 技術系中流6%、(4) 新富裕労働者15%、(5) 伝統的労働者14%、(6) 新興サービス労働者19%、(7) プレカリアート15%、となっています。そして、超えらの階級における3つの資本の賦存、すなわち、第1に、フローの所得やストックの金融資産や不動産といった経済資本、第2に、オペラ鑑賞や美術館での美術鑑賞、ほかに読書などのハイカルなどの文化資本、第3に、学歴や人脈やクラブの所属などの社会関係資本、の3つの資本で階級を可視化しようと試みています。(1) エリートは3つすべての資本を多く持ち、(2) 確立した中流はエリートについで3つの資本を持ち、(3) 技術系中流は比較的裕福で社会関係資本がやや少なく、(4) 新富裕労働者は比較的裕福で文化資本が少なく、伝統的労働者は3つの資本すべてがやや少ないものの、バランスがよく、(6) 新興サービス労働者は年齢的に若いこともあって、経済資本が少ないながら、文化資本と社会関係資本は持っていて、(7) プレカリアートはすべての資本に恵まれない、ということになります。また、それぞれの個人の人生は登山に例えられて、山を登るように3つの資本を蓄積して、従って、階級を上昇させる、と考えられていますが、もちろん、同じ地点から登山を始めるわけではなく、前の世代から受け継ぐものに大きな違いがあり、登山を始めるベースキャンプの標高には大きな差があるのは当然です。マルクス主義的な階級観では、生産要素の所有もしくは雌雄が基礎にあり、その経済的な下部構造が上部構造の文化や意識を決定する、と大雑把に考えられています。土地を所有する貴族、資本を所有するブルジョワジー、自分の労働力以外の生産手段を保有しない労働者階級、ということになり、それぞれの下部構造が上部の文化や社会関係を規定します。本書の社会学的な分析では、経済資本は他の2つと並列のひとつの要素に過ぎません。この3つの資本を本書のように分けて理解するか、マルクス主義的な階級観のように、経済資本が他の2つの資本を規定すると考えるか、議論は決定していない気がします。少なくとも、マルクス主義のように経済資本から文化資本や社会関係資本への一方的な決定論も、本書のように3つの資本相互間のインタラクティブな関係を考慮の外に置いて各資本を独立に扱うのも、どちらも片手落ち、というか、やや深みに欠けるな気がします。

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次に、保阪正康『昭和史7つの裏側』(PHP研究所) です。著者は、編集者や在野の歴史研究家となっています。本書の「昭和史」というのはやや広すぎる表現なんですが、昭和20年くらいまでの戦争に関する歴史に焦点を絞っていると考えるべきです。その中で、タイトルにあるように、章立ての順に従って、(1)「機密戦争日誌」はいかに保存されたか、(2)「昭和天皇独白録」の正体、(3) 学徒出陣壮行会で宣誓した学生代表の戦場(江橋慎四郎へのインタビュー)、(4) 逆さまに押した判子と上司・東条英機(赤松貞雄へのインタビュー)、(5)「日本はすごい」と思っていなかった石原莞爾(高木清寿へのインタビュー)、(6) 本当のところが知られていない東条英機暗殺計画(牛嶋辰熊へのインタビュー)、(7) 陸軍省軍務局で見た開戦経緯(石井秋穂へのインタビュー)という構成になっています。なんだか、ほとんど第2章から第7章までのが取材対象者、というか、歴史の実体験者からの証言、的に構成されているんですが、私には疑問に思える部分も少なくありませんでした。当然ながら、いろんな歴史上のイベントが生じてから、まず、終戦という大きな不連続点を通過し、さらに、それなりの年月を経過した後のインタビューです。しかも、インタビューの対象が、東条英機の秘書だった赤松貞雄、あるいは、石原莞爾の秘書だった高木清寿など、傍で見ていた観察者ではなく、実際の当事者に近い存在ですから、どこまで脚色されているのかが判りかねます。その上、同じ帝国陸軍軍人ながら、開戦から本土決戦まで主戦派だった東条英機と、いわゆる「最終戦争」まで隠忍自重を主張した石原莞爾では、まったく方向性が異なるわけですし、陸軍関係者ばかりのインタビューで、海軍サイドの見方は欠けており、例えば、ホントに海軍が開戦に反対だったら太平洋戦争は始まらなかった、とか、中国で陸軍が華々しい戦績を上げているのを海軍は羨んでいた、などと主張されると、ますます信頼性が低下するような気がします。たしかに、組織的な隠滅工作が実施されて、戦争に関する史料が極端に少ないのは理解しますが、それをインタビューで埋めようとするのは、やや疑問です。主として、誘拐事件などで論じられるストックホルム症候群のような現象が取材者と取材先で生じるようなリスクも感じられます。細かな人間関係などのマイクロな開戦や終戦の理由ではなく、もっと歴史的な必然性を炙り出すような大きな流れを解明する歴史観が必要ではないでしょうか。もちろん、開戦や終戦のバックグラウンドとなる経済社会的な実情についても考えを巡らせるべきであろうと思います。

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次に、エドワード・スノーデン『スノーデン独白』(河出書房新社) です。6年前の2013年の衝撃的な情報漏洩事件の首謀者の自伝です。CIAとNSAという世界最強の米国諜報業界(IC=たぶん Intelligence Circle)を敵に回して、結局、ロシアから出られなくなった人物です。情報漏洩、あるいは、リークという意味では、いわゆる「パナマ文書」によるモサック・フォンセカからの流出と、本書のスノーデンからのリークが今世紀前半では「大事件」といえるんでしょうが、モサック・フォンセカが単なる民間の一会計事務所であるのに対して、スノーデン文書の方は米国諜報機関の赤裸々な活動実態を明らかにしているだけに、より興味をそそられる、というのも事実でしょう。スノーデン本人の生まれ育ちから、リークに至るまでとさらにリーク直後の事実関係を、おそらく、かなり正確に描写している気もします。ただ、スノーデン本人、すなわち、リークした側からすれば、「やった、やった」というカンジで過大に評価するバイアスがかかる一方で、CIAやNSAのようにリークされた側では「たいしたことではない、情報の価値は低い」などと過小評価するバイアスがかかるでしょうから、本書については、それなりに、眉に唾してハッタリをかまされないように気を付けながら読み進む必要があるかもしれません。私自身は昨年3月に定年退職するまで長らく国家公務員として政府に勤務しており、国家公務員でなければできない職業として、スパイと外交官と軍人がある、なんぞとうそぶいていた人間ですので、本書の情報リークに関しては、それなりにリークされた側にシンパシーを感じかねないバイアスがあるような気もします。例えば、007ジェームス・ボンドは、小説上の設定ながら、MI7に勤務する海軍将校であり、当然、国家公務員なんだろうと思います。ですから、私はスノーデン個人がどれだけの知性を持った人物か、加えて、どれだけの覚悟をもってリークしたのか、を読み取ろうとしましたが、なかなかに難しい課題だった気がします。リーク事件直後の直感的な受け止めで、スノーデンの知性は高くない、という印象は本書を読んでも否定されませんでした。ただ、覚悟については、それなりに理解が進んだ気がします。ルービック・キューブのシールにマイクロSDを隠して情報を持ち出すシーンや、リーク後の香港出発やロシアの空港でのやり取りなど、それなりにサスペンスフルな場面もありましたが、私にはそれほど印象的ではありませんでした。ただ、映画化されれば見に行くような気もします。

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次に、米澤穂信『Iの悲劇 』(文藝春秋) です。著者は、古典部シリーズなどで人気のミステリ作家です。この作品は、小市民シリーズのように、ある意味で、ユーモア・ミステリ、というか、ややブラックなユーモア・ミステリで、殺人などの深刻な犯罪行為は出て来ませんし、でも、かなり論理的で本格的な解決が示されるミステリ長編、ないし、連作短編集といえます。舞台と主たる登場人物は、市町村合併で巨大な市が形成された中で、とうとう、数年前に無人になった集落にIターンとして人を呼び戻すため、まだ使える家屋などを低廉な家賃で貸し出して、移住者を集めて定住化を促進しようとする市役所の支所で働く3人の公務員です。定時で帰宅してそれほど仕事熱心とも見えない課長と、やや社会人というには幼い新人女性にはさまれた男性が主人公に据えられています。別サイドには無人化した集落に移住を希望する人々が据えられ、でも結局、すべての移住希望者が去ってしまい、有名なミステリのタイトルよろしく「そして誰もいなくなった」で終わります。最初の方は、公務員3人のキャラがよく出ていて、それでも、仕事熱心と思えない課長の謎解き能力に驚かされたりもしますが、だんだんと読み進む上でタマネギの皮をむくように真実が明らかになっていきます。最終章に至るまでに、この作品の作者のファンであれば、ほぼほぼ全員が真相にたどり着くことと思います。また、各章で問題を起こしたり、あるいは、去っていく維持遺希望者も立派なキャラが立っていて、読み進んでも混乱をきたすことはありません。というか、私自身は、こういった限界集落のような田舎に移住したいとは思いませんから、この作品に登場するような移住希望者は、やっぱり、少し変わったところがあるんだろうと楽しく読めます。ただし、第5章だけは、ヤル気なし課長の守護神、火消し役としての面が明らかにされるほかは、後半は主人公と弟の間で延々と電話の会話がIターンの意味について考えさせられる、という意味で、この連作短編集の中で、それなりの重要性はあるものの、章として独立させる意味があるのかはやや疑問です。作者の力量からすれば、こういった課長の守護神=火消し役としての能力やIターンの意義に貸しては、個別にところどころに溶け込ませることも十分可能ではないかという気がします。まあ、こういった個別の章建てで論じてもらえば、私のような頭の回転の鈍い読者にも結論が見えてくる、という意味では意味あるかもしれませんが、やや冗長な章立てだっという気もしました。でも、この1点を別にすれば、とても秀逸なミステリだと思います。ここまで素晴らしいミステリは久々です。出来のいいミステリが多い作家であることはいうまでもありませんが、ひょっとしたら、本作が代表作といえるかもしれません。でも、やっぱり、クローズド・サークルの『インシテミル』かなという気もします。

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最後に、ハーラン・エリスン[編]『危険なヴィジョン 完全版』123(ハヤカワ文庫SF) です。編者は、米国のSF作家であり、よく「奇才」と称されたりしているんではないかと思います。本書では、SFをScience Fictionではなく、Speculative Fictionnと称していたりします。全3冊に渡る30編余りの短編で編まれており、アシモフやスタージョンをはじめ、キラ星のようなSF作家が作品を寄せています。第1巻巻末の解説にあるように、作家協会の会員が選ぶネビュラ賞やファン投票で決まるヒューゴー賞を受賞あるいは最終候補に残った作品もいくつか含まれています。全編書下ろしといううたい文句です。米国で原書が出版されたのは50年以上も前の1967年なんですが、さすがに、やや古いと感じさせる短編もある一方で、まだまだ輝きを失っていない作品も少なくありません。もちろん、米ソの冷戦の環境下で、また、そもそも海外SF小説ということで、ソ連の技術的な脅威を過大評価していたり、あるいは、やや残虐な場面が少なくないような気もします。短編作品ごとに付された編者の序文や著者のあとがきがウザい気もしますし、もちろん、短編ごとの統一感ないのは承知の上で読み始める必要があります。ただ、古さを感じさせる作品も含めて、ある意味で、いくつかある米国SF小説の黄金時代のうちのひとつの雰囲気を感じることが出来ると思います。読みようによっては、各巻1時間ほどで読み切ることも可能ですし、逆に、じっくりと時間をかけるだけの読み応えもあります。

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2020年1月24日 (金)

2019年12月の消費者物価(CPI)はエネルギー価格動向により上昇幅を拡大!

本日、総務省統計局から昨年2019年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から少し拡大して+0.7%を示しています。また、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+0.9%でした。いずれも、消費税率引上げの影響を含んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

19年12月の全国消費者物価、0.7%上昇 伸び率拡大
総務省が24日発表した2019年12月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合が102.2と18年12月に比べ0.7%上昇した。プラスは36カ月連続。材料費や人件費の高止まりを背景とした外食、宿泊料などの上昇に加え、損害保険大手が火災・地震保険料を引き上げたのも物価上昇に寄与した。
上昇率は19年11月の0.5%から拡大した。宿泊料などの上昇に加え、原油価格の上昇でガソリンや灯油の価格の下落幅が縮小したのも物価上昇につながった。一方、携帯電話の通信料は大手各社の値下げの影響で、引き続き物価の下げ圧力となった。
19年12月は生鮮食品を除く総合では387品目が上昇した。下落は112品目、横ばいは24品目だった。総務省は「緩やかな上昇が続いている」との見方を据え置いた。
総務省は昨年10月の消費税率引き上げの影響を勘案したCPIの試算値も公表した。総務省の機械的な試算によると、消費税率引き上げと幼児教育・保育無償化の影響を除いた場合、19年12月の生鮮食品を除く総合の物価上昇率は0.4%となる。
19年12月の全国CPIで、生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は102.1と18年12月比0.9%上昇した。生鮮食品を含む総合は102.3と0.8%の上昇だった。
あわせて発表した2019年平均の全国CPIは、生鮮食品を除く総合が101.7と18年比0.6%上昇した。上昇は3年連続。外食やエネルギー関連項目の上昇がけん引した。前の年と比べた上昇率は18年の0.9%から縮小した。生鮮食品とエネルギーを除く総合は0.6%上昇、生鮮食品を含む総合は0.5%上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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ということで、昨年2019年の10月統計から消費税率の引上げと幼児教育・保育無償化の影響が現れており、これを含んだ結果となっていて、引用した記事にもあるように、その影響の試算結果が「消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響 (参考値)」として総務省統計局から明らかにされています。少し話がややこしいんですが、この参考値によれば、10月統計について、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIのヘッドライン上昇率+0.4%に対する寄与度が+0.37%となっていて、その+0.37%に対する消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響が合わせて+0.20%、分けると消費税率引上げが+0.77%、幼児教育・保育無償化が▲0.57%と、それぞれ試算結果が示されています。12月統計ではコアCPI上昇率が+0.7%と少し上昇幅を拡大しているものの、このコアCPI上昇率+0.7%のうちの+0.20%が制度要因といえます。実際に、統計局がExceelファイルで提供している消費税調整済指数では、10月と11月は消費税の影響を除くコアCPIの前年同月比上昇率はともに+0.2%でしたが、12月統計では+0.4%にやや加速しています。このコアCPI上昇率の加速の大きな要因はエネルギーであり、かなりの程度に、国際商品市況における石油価格に連動しています。ただ、やや話がややこしいのは、まだ12月統計でもエネルギー価格が下落している点です。すなわち、11月統計では前年同月比で見たエネルギー価格の下落は▲2.1%でしたが、12月統計では▲0.6%に下落幅を縮小させ、その分、コアCPI上昇率の上昇幅拡大に寄与しています。その寄与度差は+0.13%と統計局のリポートで示されています。この寄与度差+0.13%のうち、ガソリンだけで+0.14%に上っており、自動車に乗らない人にはやや実感が薄いかもしれません。また、このエネルギー価格の下落幅の縮小によるコアCPI上昇率へのプラス寄与については、2018年11月に国際商品市況で石油価格がピークを打っていますので、その1年後の2019年11月に物価上昇へのマイナス寄与がもっとも大きくなっているわけで、その後、というか、この先数か月に渡ってエネルギーは我が国物価にプラス寄与しそうです。従って、国際商品市況における石油価格や為替レートの動向にも依存しますが、この先、今年2020年年央くらいまでコアCPI上昇率は+1%近い上昇率を続ける、との見方がエコノミストの間で広がっていることも事実です。その後、消費税率引上げの物価押上げ効果も剥落し、コアCPI上昇率は減速する、との見立てです。金融政策よりもエネルギー価格の方が、我が国物価へのインパクト大きい、という点は変わりないようです。

年初早々に、米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したとの報道があり、中東の地政学的リスクから石油価格の動向を私は懸念したんですが、その後、国際商品市況において石油価格が急騰したということにはなっていないようで、例えば、私が時折拝見しているみずほ証券の「マーケット・フォーカス 商品:原油 2020/1/9」では、中東リスクによる不透明感あるものの、「長期的な原油価格の変動要因としては地政学リスクよりも世界景気に軍配があがろう」と指摘していますし、私の知り合いも、米国内のシェール・オイルなどの裏付けあって、石油価格の高騰を招く可能性小さいと考えたからこその軍事行動である、との指摘も受けました。石油価格動向は私には極めて不案内で専門外なんですが、そうなのかもしれません。

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2020年1月23日 (木)

2か月連続で貿易赤字を記録した12月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から昨年2019年12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲6.3%減の6兆5771億円、輸入額も▲4.9%減の6兆7296億円、差引き貿易収支は▲1525億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

19年12月の貿易収支、1525億円の赤字 通年は2年連続赤字
財務省が23日発表した2019年12月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1525億円の赤字だった。赤字は2カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1510億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比6.3%減の6兆5771億円、輸入額は4.9%減の6兆7296億円だった。
併せて発表した19年の貿易収支は1兆6438億円の赤字だった。通年ベースの貿易赤字は2年連続。輸出額は18年比5.6%減の76兆9278億円、輸入額は5.0%減の78兆5716億円だった。

いつもの通り、コンパクトながら包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが貿易赤字▲ 1510億円でしたから、実績の▲1525億円の赤字はほぼほぼジャストミート、何のサプライズもなかったといえます。また、季節調整済みの系列を見ても、12月の貿易収支は▲1025億円の貿易赤字となっており、2018年年央7月からほぼ1年半に渡って貿易赤字を続けており、黒字を記録した月は例外的ともいえ、2019年中では2月と6月だけで、前者2019年2月の黒字は明らかに中華圏の春節の影響だと私は考えています。この1年半の間、上のグラフの下のパネルに見られるように、季節調整済みの系列で見て、輸出入とも緩やかに減少のトレンドにあるように見えるのは、明らかに、米中間の貿易摩擦による関税率引上げに起因した世界的な貿易の停滞やひいては世界経済の需要低迷の影響であると考えるべきです。ここ1年半ほどのトレンドとして、日経新聞の記事「輸出入3年ぶりマイナス 米中貿易戦争で需要減」をはじめとして、年統計に注目した報道の通りといえます。このブログでは景気動向に私自身の興味があるものですから、出来る限り、high frequency という観点から、年統計よりも四半期統計、四半期よりも月次統計を重視していますが、報道では年統計に着目したものが多いので、ここでは、少しニッチを狙って四半期統計に着目したいと思います。すなわち、2018~19年の2年に渡って貿易収支は赤字を続けているわけですが、2019年の各四半期でも、季節調整していない原系列のベースながら、4四半期連続で貿易収支は赤字を続けました。特に、直近では2019年7~9月期▲5263億円、10~12月期▲2249億円となっており、ホントは経常収支ながら貿易収支だけから見て、2019年10~12月期の貿易収支の赤字幅が縮小していますからGDP成長率に対して外需はプラス寄与する可能性が高い、と私は考えています。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、輸出数量については前年同月比でまだマイナスとはいえ、12月統計では輸出数量の前年同月比のマイナス幅が大きく縮小していることも事実であり、先進国も中国も需要は回復に向かいつつあることから、我が国の輸出数量にもようやく底入れの兆しが見て取れます。

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2020年1月22日 (水)

世界経済フォーラム主催のダボス会議におけるOXFAMのリポートやいかに?

いくつかの報道に見られる通り、今週1月21日から24日までダボス会議が開催されています。その中から まあ、私の趣味に従って、昨年と同様にOXFAM のリポート Time to Care に注目したいと思います。ダボス会議の主催者である世界経済フォーラムのサイトにも言及がありますし、もちろん、pdfの全文リポートサマリーリポートもアップされています。このリポートでは、性差別経済が不平等の危機を拡大している "our sexist economies are fuelling the inequality crisis" と、特に以下の3点を例として強調しています。OXFAMのサイトから引用しています。

Time to Care
  • The 22 richest men in the world have more wealth than all the women in Africa.
  • Women and girls put in 12.5 billion hours of unpaid care work each and every day - a contribution to the global economy of at least $10.8 trillion a year, more than three times the size of the global tech industry.
  • Getting the richest one percent to pay just 0.5 percent extra tax on their wealth over the next 10 years would equal the investment needed to create 117 million jobs in sectors such as elderly and childcare, education and health.

下の INFOGRAPHICS は、全文リポートの p.8 から引用していますが、サマリーリポートの p.6 にもほぼほぼ同じものが掲載されています。

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男女間の性別の不平等をはじめとして、格差や不平等は単に不正義であるだけでなく、大きく経済を歪めていると私は考えています。何としてもこれらの不平等を是正し、経済を正常な状態に戻す方策を探る必要があります。その意味でも、OXFAM Japan が2018年9月限りで解散したのは誠に遺憾千万、残念この上ありません。

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2020年1月21日 (火)

IMF「世界経済見通し改定」やいかに?

本日1月21日から開催されたダボス会議を前に、昨日1月20日に国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update, January 2020 が公表されています。副題は、Tentative Stabilization, Sluggish Recovery? とされており、前半部分もさることながら、特に後半部分がよく中身を表している気がします。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、成長率の総括表をIMFのブログ・サイトから引用すると以下の通りです。

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見れば明らかなんですが、昨秋2019年10月時点の見通しから全般的に成長率については下方修正されています。今年2020年の世界経済の成長率は昨年10月時点の見通しから▲0.1%ポイント下方改定されて+3.3%と見込まれている上に、来年2021年も▲0.2%ポイント下方修正されて+3.4%と予測されています。この下方修正の要因は、リポートでは、"The downward revision primarily reflects negative surprises to economic activity in a few emerging market economies, notably India" と、インドに起因することを明記しています。広く報じられた通り、住宅金融のノンバンクであるデワン・ハウジング・ファイナンス(DHFL)のデフォルトによる金融混乱を指していると多くのエコノミストは受け止めていることと思います。ただ、同時に、IMFのブログ・サイトでは、"some risks have partially receded with the announcement of a US-China Phase I trade deal and lower likelihood of a no-deal Brexit" と、米中間の第1段階の貿易合意の発表、また、合意なきBREXITの可能性の低下などをリスク低下の要因として上げています。私が見た範囲では、全国紙各紙とも見通し下方修正の要因としてインドに軽く触れている一方で、もっと明るい話題というか、何というか、米中貿易合意とか、BREXTの方の注目度が高かった気がします。先行きについては、リポートでも、"On the positive side, market sentiment has been boosted by tentative signs that manufacturing activity and global trade are bottoming out" と、製造業と世界貿易の落ち込みがボトムアウトする兆候により市場センチメントが向上する、とする一方で、"few signs of turning points are yet visible in global macroeconomic data" と、世界のマクロ経済には転換点を示すデータはまだほとんどない、と先が長い可能性も示唆しています。
日本の成長率見通しについては、今年2020年が+0.7%成長と前回見通しから+0.2%ポイント上方修正された一方で、来年2021年は変わらず+0.5%と見込まれています。このあたりが潜在成長率近傍なのかもしれません。なお、今年2020年の成長率を上方改定した理由は、"healthy private consumption, supported in part by government countermeasures that accompanied the October increase in the consumption tax rate,robust capital expenditure, and historical revisions to national accounts" と、昨年2019年10月の消費税率引上げに合わせた政府経済対策にも部分的に支援されて消費が堅調であり、設備投資も伸びているとしています。ただ、最後のポイント、すなわち、過去にさかのぼっての国民経済計算統計の改定という理由は、まあ、わざわざこんなことを明記するんですから、統計の信頼性に対する苦情にやや近い気もします。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 
消費税率引き上げ・
教育無償化政策の
影響を除くケース
 2019年度+0.8~+0.9
<+0.8>
+0.6~+0.7
<+0.6>
+0.4~+0.5
<+0.4>
 10月時点の見通し+0.6~+0.7
<+0.6>
+0.6~+0.8
<+0.7>
+0.4~+0.6
<+0.5>
 2020年度+0.8~+1.1
<+0.9>
+1.0~+1.1
<+1.0>
+0.9~+1.0
<+0.9>
 10月時点の見通し+0.6~+0.9
<+0.7>
+0.8~+1.2
<+1.1>
+0.7~+1.1
<+1.0>
 2021年度+1.0~+1.3
<+1.1>
+1.2~+1.6
<+1.4>
 10月時点の見通し+0.9~+1.2
<+1.0>
+1.2~+1.7
<+1.5>

最後に目を国内に転ずると、本日、日銀「展望リポート」が公表されています。政策委員の大勢見通しは上のテーブルの通りです。各セル下段の>< >内は中央値となっています。ただし、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、その他の情報とともに、引用元である日銀の「展望リポート」のサイトからお願いします。IMF見通しに従って、というわけでもないんでしょうが、日銀見通しも成長率については上方修正されていて、日銀自身も「展望リポート」1ページめのサマリーで、成長率については「2020年度を中心に、上振れている」と見ている一方で、物価の見通しについて「おおむね普遍」と自己評価しています。上のテーブルで明らかな通り、実は、やや下方修正という見方も成り立つような気がします。

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2020年1月20日 (月)

「中長期の経済財政に関する試算」の結果やいかに?

先週金曜日、1月17日に経済財政諮問会議が開催され、スマート化・グリーン化投資と関連人材投資を軸とした産業構造・経済構造の再構築などをはじめとする2020年前半の主要議題や来年度予算とともに、「中長期の経済財政に関する試算」、すなわち、財政収支と公債残高のGDP比の試算が2029年度まで示されています。

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見れば判ると思いますが、上のパネルが国・地方のプライマリ・バランスのGDP比、下が国・地方の公債等残高のGDP比となっています。報道では、プライマリ・バランス黒字化が目標の2025年度に達成できず、赤でプロットされている成長実現ケースでも2027年度に先送りされ、青のベースラインケースでは試算期間中の2029年度までではプライマリ・バランスは赤字のまま、という点が強調されていたように私は受け止めています。でも、上のグラフをよく見れば、プライマリ・バランス赤字を続けるベースラインケースでも、公債残高のGDP比は190%くらいで安定します。現代貨幣理論(MMT)を持ち出すつもりもありませんが、このあたりで十分ではないでしょうか。

なお、国際通貨基金(IMF)のサイトによれば、「世界経済見通し」World Economic Outlook の改定が本日1月20日のダボス会議で明らかにされる予定となっています。また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2020年1月19日 (日)

今年の花粉飛散予想やいかに?

つい先日までお正月気分だったんですが、早くも1月の終わりに近づき、2月に入れば花粉の季節となります。やや旧聞に属する話題ながら、東京都福祉保健局から先週1月16日に「令和元年度東京都花粉症対策検討委員会(第2回)検討結果」として、花粉の飛散開始日は2月14日から18日ごろ、また、今春の飛散花粉数は、例年の6割、昨春の6割程度、との報道発表資料が明らかにされています。参考資料の「飛散花粉の総数の予測」のpdfファイルから都内12地点平均の飛散花粉数の経年変化のグラフを引用すると以下の通りです。

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おそらく、3月中には私は関西に引っ越す予定なんですが、昨シーズンや平年の6割程度の飛散であれば、かなりラクそうな気もします。

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2020年1月18日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして文庫本まで含めて計7冊!!!

先週の読書は巡り合わせにより経済書がなかったりしたんですが、今週の読書は、明々白々たる経済書が2冊あり、経済活動にも十分配慮した進化心理学の専門書、モバイル機器を通じたアテンション経済に対する批判など、以下の計7冊の読書だったんですが、うち3冊は文庫本だったりします。この先、しばらく、読書のペースは落ちそうな気がします。

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まず、鶴光太郎・前田佐恵子・村田啓子『日本経済のマクロ分析』(日本経済新聞出版社) です。著者3人は、経済企画庁ないし内閣府において「経済白書」または「経済財政白書」の担当部局の課長補佐や参事官補佐を経験したエコノミストです。ただし、なぜか、というか、何というか、課長や参事官を経験したわけではないようです。いずれにせよ、私自身が従来から考えているように、本流の官庁エコノミストはこういった白書などのリポートを、政府全体や個別の役所の公式見解として取りまとめることを担当する人たちなんだろうと思います。私も、とある白書を1回だけ執筆担当したことがありますが、「経済白書」や「経済財政白書」といった役所を代表する白書ではありませんでしたし、それもたった1回のことです。他方、私の場合は長らく研究所に在籍して、「役所の公式見解ではなく、研究者個人の見解」という決まり文句をつけた学術論文を取りまとめることが多かったような気がします。まあ、私は傍流の官庁エコノミストなのだと改めて実感しました。ただ、どうでもいいことながら、最近知ったんですが、私が白書を担当したころとは違って、「経済財政白書」なんぞは執筆担当者の個人名が明記されるようになったりしています。少しびっくりしました。というおとで、本書は我が国のバブル経済が崩壊した1990年ころ以降から現在まで約30年間の日本経済を概観し、いくつかのパズルを設定して解き明かそうと試みています。第1章で成長の鈍化をほぼほぼすべて生産性と要素投入という供給サイドで説明しようと試みていて、私なんぞの傍流と違って、本流の官庁エコノミスト諸氏はやっぱり供給サイド重視で、見方によればかなり右派的な思考をするんだと感心してしまいます。ただ、3章の景気循環あたりから需要サイドにも目が向くようです。全体として、大きなテーマに対して索引まで含めても250ページ足らずのボリュームの本に仕上げようとしていますので、よく表現すれば、とてもコンパクトに日本経済を概観して諸問題を提起している、といえますし、他方で、やや辛口に表現すれば、もう少していねいに掘り下げた分析も欲しいところ、という気もします。これは私自身でもまったく実践できていないんですが、エコノミスト的に問題に対する診断を下すことは出来ても、コンサルタント的に問題に対処する実践的な処方箋を提示することは難しい、と常々感じます。その昔に、よくゴルフをプレーしていたころの判りやすい例として、エコノミスト的には「ボールをティーアップしてドライバーを振って、250ヤード先のフェアウェー中央に飛ばす」というのがアドバイスとしてどこまで適当なのかどうか、もっと実践的に、ヘッドアップしないとか、脇を締めるとか、そういったアドバイスが必要なのではないかと思わないでもありません。繰り返しになるものの、私自身も実践できていませんが、本書におけるパズルへの回答は、その意味で、エコノミスト的なようにも見えます。

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次に、井上智洋『MMT 現代貨幣理論とは何か』(講談社選書メチエ) です。著者は、駒澤大学の研究者です。従来から、AI導入経済におけるベーシックインカム、左派的な財政拡張論などで、私は注目しています。ということで、本書はコンパクトに現代貨幣理論(MMT)について取りまとめた入門書となっています。ただ、著者もまだ完全にMMT論者として、MMTのすべての理論に納得しているわけではないことは明記しています。貨幣の成り立ちについても、その昔の宋銭の導入などの商品貨幣の例を見ても、「万人が受け取る」という主流派経済学の考え方は捨てがたく、MMTの根源的な貨幣論への部分的な反論も持ち合わせています。私は貨幣論の方はともかく、いまだに、MMTの財政によるインフレのコントロールについては疑問を持っています。すなわち、本書では取り上げていませんが、財政政策は基本的に法定主義であって、認知ラグと波及ラグはともかく、決定ラグが金融政策よりもかなり長い可能性が高くなっている上に、本書でもやや批判的に紹介している雇用保障プログラム(Job Guarantee Program=JGP)の運用については、財政支出の柔軟性がどこまで確保されるかはもっとも疑問大きいところです。すなわち、デフレであれば財政赤字を増やして、インフレであれば財政赤字を削減するわけですが、そもそも、それほどの機動性を確保できるかが疑問な上に、どのような歳入や歳出が柔軟に増減できるかは未知数といわざるを得ません。現在の日本のようにデフレだから何らかの財政支出を増加させるとしても、インフレに転じた時に簡単にその財政支出をカットできるかどうか、その点が疑問であるとともに、そんなに簡単にカットできるような歳出をして雇用を維持すべきかどうかも疑問です。私の基本的な経済に対する見方として、財政よりも雇用の方がとても重要性が高いのは十分に認識していて、おそらく、日本のエコノミストの中でも財政と雇用の重要性の開きがもっとも大きなグループに属しているのではないか、とすら思っているんですが、インフレ時に簡単にカットできるような歳出によって維持すべき雇用の質については、国民のモチベーションをどこまで引き出せるかは否定的な思いを持ってしまいます。加えて、本書の著者が指摘しているように、10年やそこらの期間であれば現在の日本クラスの財政赤字のサステイナビリティは問題ないとしても、30年とか50年の期間を考えれば、JGBを取り扱う金融市場がどのように動くかは、何とも、経済学のレベルでは予測がつきません。ただ、逆にいえば、5年とか10年くらいで集中的にデフレ脱却を目指す政策としてはMMTはかなり可能性あるんではないか、という気もします。いずれにせよ、昨年2019年11月9日の読書感想文で取り上げたレイ教授の『MMT 現代貨幣理論』では、立命館大学の松尾教授が「MMTの命題は『異端』ではなく、常識である」と題した巻末解説を寄せていましたが、数年間でのデフレ脱却を目指す政策の観点からは、その通りだと私も考えます。ただし、本書の著者はユニバーサルなベーシックインカムの推進論者なんだと私は理解していますが、MMT理論に基づくとベーシックインカムの財源は財政赤字ではなく、キチンとした財源が必要、という点は忘れるべきではありません。インフレに転じたからといって、ベーシックインカムを削減したり、取り止めたりすることはできないからです。

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次に、ウィリアム・フォン・ヒッペル『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか』(ハーパーコリンズ・ジャパン) です。著者は米国出身で、現在はオーストラリアのクイーンズ大学の研究者をしています。英語の原題は The Social Leap であり、2018年の出版です。ということで、上の表紙画像に見られるように、「進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略」ということですので、やや読み始める前には懸念があり、進化心理学ですから、すべてを種の保存、あるいは、狭義にはセックスに結び付けているんではないか、とおもっていたところ、さすがにそうではありませんでした。3部故末井となっており、第1部はわれわれはどのようにヒトになったのか、第2部は過去に隠された進化の手がかり、第3部は過去から未来への跳躍、と題されていて、最後の第3部の「跳躍」が英語の原題のLEAPに当たりますし、第1部でも、熱帯雨林の樹上生活からサバンナへの移動も「社会的跳躍」と位置付けられています。その第1部は、その昔に読んですっかり内容は忘れたものの、エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』を進化心理学から解き明かしたような中身になっていて、人類史をかなり唯物史観で見ている気すらしました。本書第1部は、チンパンジーとアウストラロピテクスなど人類の祖先との比較から始まります。チンパンジーは集団で狩りをしたり敵の群れを攻撃したりする時のみ、少しだけ協力するものの、彼らは怠け者と協力者をほとんど、あるいはまったく区別しようとせず、怠け者のフリーラーダーも同じ獲物にありつける一方で、類人猿のアウストラロピテクスは集団的な石投げで狩りを行い、協力しない者を集団から追放、あるいは、処罰したと推測しています。そして、当時の生活状況からすれば、類人猿の集団から追放されれば生き残れる確率が格段に低下しただろうとも推測しています。第2部では、経済学の分野のイノベーションも考察の俎上に上ります。偉大なイノベーションを起こした人はそれほど実生活が充実しているわけではない、と指摘していたりしますし、その他、極めて多くの進化心理学の研究成果が紹介されており、出版社のサイトに目白押しで取り上げられています。たとえば、最近の経済活動の上で「モノ消費」から「コト消費」、すなわち、耐久消費財などを買うよりも旅行などの体験を重視する消費へのシフトも進化心理学の研究成果から、その正しさが裏付けられていたりします。加えて、60歳を超えた私なんぞが少し注目したのは、高齢者の孤独は喫煙などよりもよっぽど危険であり、年を取れば、むしろタバコを吸いながら仲間と談笑する方がリスクが小さいと指摘されていました。ひょっとしたら、そうなのかもしれません。今週の読書の中では、350ページ超ともっともボリュームがありましたが、トピックも楽しく邦訳も上質で一気に読めます。

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次に、カル・ニューポート『デジタル・ミニマリスト』(早川書房) です。著者は、米国ジョージ・タウン大学の研究者であり、専門分野はコンピュータ科学だそうです。英語の原題は Degital Minimalist であり、2019年の出版です。タイトルのデジタル・ミニマリストとは、トートロジーですが、デジタル・ミニマリズムを実践している、あるいは、実践しようとしている人のことであり、著者は、実際に、何人か集めてデジタル・ミニマリズムを実践することまでやっているようです。ただ、私としては、本書で使っている他の用語「アテンション・レジスタンス」の方が、より適当な気がしています。ということで、本書が指摘するように、いろんなところで、口を開けてスマホの操作に熱中している人を見かけると、私もモバイル機器の操作、おそらくは、スマートフォンを使ってのゲームとSNSには中毒性があるんではないか、と疑ってしまいます。本書では、30日間のスマートフォン断食などを提唱する一方で、スマートフォン操作に代わって、人生をもっと豊かにする趣味の充実などを提唱しています。ただ、読んでいて、私もようやく今月になってスマートフォンに切り替えましたが、私自身はミニマリズムではないとしても、少なくとも合理的な範囲でのオプティマイズは出来ている気がします。TwitterやInstagramは使っていませんが、さすがの私もFacebookは使っていて、おそらく、毎日30分くらいは使っていそうな気がします。でも、ほぼほぼ機械的に「いいね」のボタンを押しているだけで、その対象は半分以上が趣味の世界、特に阪神タイガースに関する記事だったりします。メールはスマートフォンでチェックこそすれ、実際に読む価値あるメールはスマートフォンではなく、パソコンで読んでいます。スマートフォンでそのまま削除するメールも決して少なくありません。ですから、繰り返しになりますが、パソコンも含むデジタルではなく、スマートフォンなどのモバイルに特化したタイトルにした方が判りやすかった気がします。著者は、スマートフォンをヤメにしてフィーチャーフォンに切り替え、SNSなどはパソコンからのアクセスを推奨しています。私も、ご同様に、スマートフォンなどのモバイル・デバイスからSNSにアクセスするのと、パソコンからのアクセスはかなり違うと感じていて、パソコンを多用しているのが実態です。その上で、私は私自身の「アテンション」にそれなりの価値があると自負していて、スマートフォンからのSNSへのアクセスに限らず、私のアテンションを向ける先は合理的に厳選しているつもりです。中毒性ある行為に対してはもちろん、期待値がマイナスになるに決まっているギャンブル、喫煙や過度の飲酒などなど、非合理的なアテンションの向け方、あるいは、時間の使い方は決して賢明ではないと考えていて、それなりに、主流派経済学が前提とするような合理的なホモ・エコノミカスとして考えて行動したい、と願っています。もっとも、どこまで実践できているかは不明です。

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次に、モーム、フォークナー他、小森収[編]『短編ミステリの二百年 1』(創元推理文庫) です。上の表紙画像にも見られるように、明確に第1回である旨が示されており、上中下を越えて4巻以上のシリーズになるものと私は予想していますが、詳細は明らかではありません。本書冒頭でも示されている通り、私も昨年の今ごろは江戸川乱歩[編]『世界推理短編傑作集』の第1巻から第5巻までを読んでいたりしましたが、本書が嚆矢となるシリーズについてはよく知りませんでした。江戸川乱歩編のシリーズは1844年から1951年が対象となっているらしい一方で、本書のシリーズは前後ともにさらに長いタイムスパンを持つ200年です。編者である小森収ご本人が、そういった詳細について、本書の後半部分で「短編ミステリの200年」として取りまとめていますが、序章と第1章の途中で終わっている印象で、続巻でさらに明らかにされるんではないかと私は受け止めています。出版社のサイト「Webミステリーズ」の情報でもよく判りかねます。ということで、、シリーズの全貌は不明な部分が多いんですが、取りあえず、この第1巻の収録作品は、リチャード・ハーディング・デイヴィス「霧の中」、ロバート・ルイス・スティーヴンスン「クリームタルトを持った若者の話」、サキ「セルノグラツの狼」及び「四角い卵」、アンブローズ・ビアス「スウィドラー氏のとんぼ返り」、サマセット・モーム「創作衝動」、イーヴリン・ウォー「アザニア島事件」、ウィリアム・フォークナー「エミリーへの薔薇」、コーネル・ウールリッチ「さらばニューヨーク」、リング・ラードナー「笑顔がいっぱい」、デイモン・ラニアン「ブッチの子守歌」、ジョン・コリア「ナツメグの味」、となっています。「さらばニューヨーク」の作者のウールリッチは別のペンネームはウィリアム・アイリッシュであり、アイリッシュ名義で書かれた『幻の女』はオールタイムベストのトップ10に必ず入るくらいのミステリの名作だったりしますが、サキの2作品など、あまりミステリとは考えられない短編の週録も少なくなく、どういった編集方針なのかは私にはよく理解できません。ただ、ミステリかどうかはともかく、短編の名作が収録されていることは確かですし、十分に読書を楽しめると考えてよさそうです。

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最後に、キャロル・ネルソン・ダグラス『ごきげんいかが、ワトスン博士』上下(創元推理文庫) です。シャーロック・ホームズを出し抜いたほぼほぼ唯一の女性であるアイリーン・アドラーを主人公にした「アイリーン・アドラーの冒険」シリーズの第3作です。アイリーン・アドラーが探偵役で、ホームズを出し抜いて事件を解決します。当然、シャーロック・ホームズのパスティーシュです。このシリーズで邦訳されたのはすべて同じ出版社からの文庫本で、第1作の『おやすみなさい、ホームズさん』では正典の「ボヘミアの醜聞」をアイリーン・アドラーの側から捉えた小説であり、第2作の『おめざめですか、アイリーン』ではパリの事件を解決します。これは、ホームズものの中の、いわゆる「書かれざる物語」で、ワトソン博士が言及しただけの事件なのかもしれませんが、私はそれほど熱心なシャーロッキアンではありませんから、よく知りません。第3作の本作品では、正典作者のドイル卿が混乱を示しているワトソン博士の銃創について作者なりの解釈を示しています。すなわち、ワトソン博士はアフガニスタンでの従軍により銃創を負ってロンドンに帰還するわけですが、その銃創が肩なのか、足なのかで正典に混乱が見られ、この作品では、ワトソン博士は肩に銃撃を受けた後、現地の熱病にかかって生死の境をさまよい、その際に足にも銃創を負った、という解決を示しています。ストーリーとしては、アフガニスタンの戦役でワトソン博士に命を助けられたという退役士官とアイリーン・アドラーがパリで遭遇し、ワトソン博士が命を狙われている事実を突き止め、もちろん、ホームズを出し抜いて鮮やかに解決に導く、ということになります。

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2020年1月17日 (金)

明日から始まる最後のセンター試験、首都圏は雪の可能性!?

明日から最後のセンター試験が始まりますが、ウェザーニュースによれば、下の画像の通り、首都圏で雪の可能性があるようです。早めの行動が必要です。

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がんばれ受験生!!!

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来週から始まるダボス会議を前に Global Risks Report 2020 やいかに?

来週の1月21日からダボス会議が始まります。その主催団体である世界経済フォーラムから、「グローバル・リスク報告書 2020」The Global Risks Report 2020 が明らかにされています。今週になって、私が毎日のように世界経済フォーラムのサイトを見ていたところ、月曜日の1月13日付けで "Published" と高らかに明示されたものの、"Coming Soon!" が長らく続き、pdfの全文リポートがアップされて、私の方でダウンロード可能になったのは1月15日でした。

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ということで、まず、上の INFOGRAPHICS は、世界経済フォーラムのサイトから引用しており、見れば判りますが、TOP GLOBAL RISKS: From economic to environmental. Climate now tops the risks agenda, while the economy has disappeared from the top five とのタイトルが付されています。リポート冒頭にある Figure I: The Evolving Risks Landscape, 2007-2020 を少しデフォルメしたものだと受け止めています。タイトル通りに、経済リスクが大きく後退してトップ5には見られなくなった一方で、環境リスクがクローズアップされています。Likelihood でソートすると、トップ5すべてが環境リスクで占められており、(1) Extreme weather、(2) Climate action failure、(3) Natural disasters、(4) Biodiversity los、(5) Human-made environmental disasters、の順となります。ただし、資産バブルの発生や財政危機などが後景に退いたとはいえ、この環境リスクの裏側には経済活動である企業の生産や家計の消費などが大きな要因となっているわけですから、これらの経済活動が地球環境と調和するような方策を探る必要がある、というのが大きなメッセージとなっています。下のグラフは、リポート冒頭にある Figure II: The Global Risks Landscape 2020 を引用しています。横軸にリスクが顕在化しそうな Likelihood、縦軸にはリスクが顕在化した際のダメージである Impact を取ったカーテシアン座標にさまざまなリスク要因がプロットされています。右上にプロットされているリスクほど警戒が必要、といことなんだろうと思います。

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2020年1月16日 (木)

イレギュラーな大型案件で増加した機械受注と消費税率引上げでプラスを続ける企業物価!

本日、内閣府から昨年2019年11月の機械受注が、また、日銀から昨年2019年12月の企業物価 (PPI) が、それぞれ公表されています。機械受注のうち変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、イレギュラーな大型案件があり、季節調整済みの系列で見て前月比+18.0%増の9,427億を示しており、PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+0.9%の上昇と、10月から消費税率が引き上げられた影響で先月からプラスが続いています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の機械受注、前月比18.0%増 市場予想3.3%増内閣府が16日発表した2019年11月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比18.0%増の9427億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は3.3%増だった。
うち製造業は0.6%増、非製造業は27.8%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は5.3%増だった。内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いた。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
12月の企業物価指数、前年比0.9%上昇 消費増税・原油高が寄与
日銀が16日発表した2019年12月の企業物価指数(2015年平均=100)は102.3と、前年同月比で0.9%上昇した。上昇は2カ月連続。消費税率の引き上げの影響に加え、原油価格の上昇で石油・石炭製品が値上がりしたことが寄与した。前月比では、0.1%上昇した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。円ベースでの輸出物価は前年比で4.1%下落し、8カ月連続のマイナスだった。前月比は0.2%上昇した。輸入物価は前年同月比6.8%下落し、前月比で0.9%上昇した。
企業物価指数は消費税を含んだベースで算出している。10月の消費増税の影響を除いた企業物価指数は前年同月比で0.7%下落した。7カ月連続で前年を下回った。
2019年(暦年)の企業物価指数は101.5で前年比0.2%上昇した。消費増税の影響を除くと0.2%下落と、3年ぶりに前年実績を下回った。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注については、昨年2019年6月に季節調整済みの系列の前月比が+13.9%増を記録した後、7月▲6.6%減、8月▲2.4%減、9月▲2.9%減、10月▲6.0%減と4か月連続でマイナスが続いて来たんですが、本日公表の11月統計では、運輸業・郵便業で2件のイレギュラーな大型受注があり、前月から比率で+108.3%増、額で+1,026億円増、を記録したため、コア機械受注全体でも+18.0%増となりました。ただ、コア機械受注全体の増加額は+1,439億円ですから、運輸業・郵便業の増加額を差し引いても約+400億円強が増加したわけで、前月からの増加率も+5%超と考えて差し支えありません。すなわち、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月比で3%を少し上回る増加だったわけですから、予測レンジ上限の+6.2%増の範囲内とはいえ、やや強めの数字と考えるべきです。ただ、イレギュラーな大型案件受注による大幅増でしたので、基調判断は変更しがたく、「足踏み」で据え置かれています。先行きについては、先月の機械受注統計公表時にお示ししたように、基本的に、横ばいないしやや減少のトレンドではないかと私は見ていますが、もしも、経済協力開発機構(OECD)の先行指標 CLI=Composite Leading Index に示されている "Stable growth momentum and below-trend growth" から、世界経済が本格的に上向けば機械受注も増加に転じる可能性が高まるような気がします。

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機械受注の方は、ちょっとびっくりの結果だったんですが、企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスである+0.9%の上昇にジャストミートしました。2か月連続のプラスですが、ただし、日銀から公表されている消費税を除く上昇率は12月でもまだ▲0.7%であり、11月の▲1.5%から下落幅を縮小したとはいえ、まだ前年同月比マイナスが続いています。引用した記事のタイトルにあるように、消費税率の引上げに大きく支えられ、国際商品市況における石油価格の上昇も寄与しているようで、物価動向に対して金融政策はそれほどの重要性ないのかもしれません。あるいは、現代貨幣理論(MMT)のモデルが正しくて、物価には金融政策ではなく財政政策を割り当てるべきなのか、私は基本的にリフレ派エコノミストでしたが、やや自信がなくなって来ています。

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2020年1月15日 (水)

2020年1月の日銀「さくらリポート」で示された地域の景気動向やいかに?

日銀では支店長会議が開催され、本日午後、「さくらリポート」が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。各地域の景気の総括判断と前回との比較は下のテーブルの通りで、6ブロックで横ばい、3ブロックで下方修正という結果となっています。

 【2019年10月判断】前回との比較【2020年1月判断】
北海道緩やかに拡大している緩やかに拡大している
東北一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな回復を続けている弱めの動きが広がっているものの、緩やかな回復を続けている
北陸緩やかに拡大している引き続き拡大基調にあるが、その速度は一段と緩やかになっている
関東甲信越輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに拡大している海外経済の減速や自然災害などの影響がみられるものの、基調としては緩やかに拡大している
東海拡大している緩やかに拡大している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな拡大を続けている一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな拡大を続けている
中国一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに拡大している幾分ペースを鈍化させつつも、基調としては緩やかに拡大している
四国回復している一部に弱めの動きがみられるものの、回復している
九州・沖縄緩やかに拡大している緩やかに拡大している

繰り返しになりますが、3ブロックで前回判断から下方修正されているものの、各地域の景気の総括判断はすべての地域で「拡大」または「回復」と示されています。この背景として、日銀では、海外経済の減速や自然災害などの影響から輸出・生産や企業マインド面に弱めの動きがみられる一方で、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きな循環が引き続き働いており、設備投資や個人消費といった国内需要が増加基調を続けている点を上げています。
このように、地域ブロック別の景気判断では横ばいないし下向きの修正があるにもかかわらず、来週1月20日から2日間にわたって開催される金融政策決定会合で決定される「展望リポート」に関して、以下の日経新聞や朝日新聞では、成長率見通しを引き上げるとの見込みを報じています。やや混乱を招きかねない報道だと私は受け止めていたんですが、実は、昨年末に公表された国民経済計算の確報レベルでGDPの実額が下方修正され、その後の成長率が発射台との関係で先行き見通しがやや上方修正される、というのが真相のようです。ご参考まで。

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2020年1月14日 (火)

2か月連続で改善した景気ウォッチャーと安定した黒字が続く経常収支!

本日、内閣府から昨年2019年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2019年11月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.4ポイント上昇の39.8を、先行き判断DIは▲0.3ポイント低下の45.4を、それぞれ記録し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+1兆4368億円の黒字を計上しています。まず、とても長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の街角景気、現状指数は2カ月連続改善
内閣府が14日発表した2019年12月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、3カ月前と比べた足元の街角の景気実感を示す現状判断指数(DI、季節調整済み)は39.8と前月から0.4ポイント上昇した。消費税引き上げに伴う駆け込み需要の反動が和らいできたことや米中貿易摩擦への懸念が薄れたことなどが寄与し、2カ月連続で改善した。
分野別にみると、企業動向を示す指数が3カ月ぶりに改善した。米中貿易摩擦や世界経済の減速などに関するコメントが前月より減少した。「半導体関連の設備に景気上向き傾向が一部にみられ、受注量も増えている」(九州の一般機械器具製造業)といった声があった。
一方、家計動向を示す指数は2カ月ぶりに低下した。消費増税の影響が和らぎつつあるとの声があった一方、暖冬の影響で冬物衣料や暖房器具などの販売が伸び悩んだとの声があった。降雪量が少なくスキー場が開けないといったコメントや忘年会やクリスマスなど年末イベントの簡素化の影響が出ているとの指摘もあった。
2~3カ月後の景気の良しあしを判断する先行き判断指数は45.4と前月から0.3ポイント低下し、3カ月ぶりに悪化した。年末年始商戦への期待感が一巡したことなどで家計動向を示す指数が低下したことが響いた。
内閣府はウオッチャーの見方について「このところ回復に弱い動きがみられる」に据え置いた。「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が一部にみられる」といったただし書きも変えず、先行きについても「海外情勢などに対する懸念もある一方、持ち直しへの期待がみられる」と前月と同じ表現を維持した。
経常黒字75%増の1.4兆円 19年11月、貿易赤字が縮小
財務省が14日発表した2019年11月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆4368億円の黒字だった。黒字は65カ月連続。黒字幅は18年11月に比べ75%拡大した。貿易収支の赤字幅縮小や、第1次所得収支の黒字幅拡大が寄与した。
19年11月の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は25億円の赤字(18年11月は5396億円の赤字)だった。輸出額は10.2%減、輸入額は16.6%減だった。原油価格の下落などを背景に中東からの原粗油などの輸入が減った。輸入額の大幅減少を受け、差し引きの貿易赤字幅が縮小した。
海外企業から受け取る配当金や投資収益を示す第1次所得収支は1兆4575億円の黒字だった。黒字幅は0.1%の拡大。海外の親会社に支払う配当金が減ったため。
サービス収支は18年11月に比べ約4倍となる1630億円の黒字だった。研究開発費やコンサル費用などの赤字幅が縮小したことが大きい。

かなり長くなりました。これらの記事さえしっかり読めば、それはそれでOKそうに思えます。いずれにせよ、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。

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ということで、景気ウォッチャーは現状判断DIも、先行き判断DIも、いずれも小幅な動きで、ほぼ横ばい圏内の気がします。引用した記事には、家計部門と企業部門を対比させる内容となっていますが、私はやや異なる印象を持っています。というのも、12月統計の本日公表の景気ウォッチャーとは時点が違うんですが、先週公表され11月統計だった景気動向指数から、「企業も家計もともに停滞している中で、相対的に企業部門の方が大きな落ち込みを示している」との見方を示しました。景気ウォッチャーでも11月統計の現状判断DIを見ると、家計動向関連が前月差プラスで、企業動向関連はマイナスとなっていて、本日公表の12月統計ではこれが逆転して、家計動向関連がマイナス、企業動向関連がプラス、となっているわけです。このあたりはもう少し均して見る必要があるのかもしれませんが、私自身の先週の見方を否定するようで心苦しいものの、企業動向が依存する世界経済は米中間の貿易摩擦もさることながら、マクロの世界経済は明らかに改善に向かっている一方で、家計動向は少なくとも年内くらいまで10月の消費税率引上げのダメージが続く、と私は考えています。他方で、企業部門は景気動向にかなり敏感に反応してボラティリティ高い一方で、家計の消費はやや粘着性が強いとも考えられます。このパラの冒頭部分に戻りますが、基調判断が先月から変更ないのも、横ばい圏内の動きで方向感に乏しいためであろうと私は考えています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。いずれにせよ、仕上がりの11月統計でも黒字を記録しており、季節調整していない原系列の統計では2014年7月に黒字に転換して以来、また、季節調整済みの系列ではさらに早くて2014年4月の黒字転換以来、5年を超えて経常収支は黒字を継続しています。重要なコンポーネントのひとつである貿易収支は国際商品市況の石油価格の変動に応じて赤字になったり黒字になったりしている一方で、安定的な海外からの第1次所得収支の黒字が大きな部分を占めている点については変わりありません。本日公表の11月経常収支についても同様といえます。加えて、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、+1兆4263億円の黒字の予想でしたので、サプライズもありませんでした。ただ、貿易収支については、この先、世界経済のいっそうの停滞が予想されるとともに、韓国向け輸出の動向も日韓関係の行方に左右される部分もあって不透明と考えるべきです。

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2020年1月13日 (月)

今シーズンのインフルエンザの流行やいかに?

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やや旧聞に属する話題ですが、1月10日付けでウェザーニュースから「インフルエンザ流行予想」が明らかにされています。厚生労働省から発表されるインフルエンザ発生状況に加えて、気象データとの相関をとり、今後のインフルエンザ流行予想を算出したところ、東京では昨年より早く流行が早くなっている、としています。さらに、東京では1月下旬にかけて流行度の高まる傾向が続くとも予想しています。ウェザーニュースのサイトから引用している上のグラフの通りです。
実は、私は今シーズンも昨シーズンもインフルエンザの予防接種はしていません。それまでは着実に予防接種をしていたのですが、昨シーズンは下の倅も大学に通い始めて受験生がいなくなり、今シーズンも昨シーズンと同様に、「インフルエンザにかかれば仕事を休む」という安直な姿勢を貫いています。来シーズンは予防接種をどうするか、はこれから考えます。なお、参考まで、ウェザーニュースのサイトでは都道府県別の流行予想を示しているところ、明記してあるように、上のグラフはあくまで東京のパターンであって、実は、大阪もこれに近いんですが、京都はまったく違います。3月ころには関西に引っ越す予定だけに、やや地域性も気になるところです。

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2020年1月12日 (日)

先週の読書は経済書なしで計6冊!!!

先週は、経済書なしで以下の通りの計6冊です。先週、定年退職する直前まで勤務していた役所の研究所の後輩とお話をしていたんですが、今の家を引き払って関西に引っ越しすることとなれば、私の読書ペースがかなり落ちるんではないか、と指摘されてしまいました。まさにその通りと思っています。私のことを読書家であると、善意の誤解をしている知り合いも何人かいたりするんですが、実は、私の読書量は東京都特別区の極めて潤沢な予算に裏付けられているわけで、おそらく、関西に引っ越せば読書量は半減以下に低下し、加えて、読書のタイミングも出版からかなり遅れる可能性があるような気もします。

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次に、高橋直樹・松尾秀哉・吉田徹[編]『現代政治のリーダーシップ』(岩波書店) です。著者・編者は、政治学などの研究者です。2部構成であり、副題が上の表紙画像に見られるように「危機を生き抜いた8人の政治家」となっていて、第1部と第2部に4人ずつ配置しています。第1部はリーダーの個性や資質を強調していて、英国のメージャー首相、ドイツのコール首相、ベルギーのフェルホフスタット首相、アイルランドのヴァラッカー首相であり、フェルホフスタット首相とヴァラッカー首相は執筆時に現役首相だったといいますから、それくらいの時点でどこまで評価できるのかはやや疑問です。第2部はリーダー個人の個性や資質に言及しつつも、リーダーを取り巻く制度や環境にも重点を置いていて、英国のブレア首相、フランスのミッテラン大統領、ロシアのエリツィン大統領、そして、メキシコのゴメス中央銀行総裁というラインナップです。本書のタイトルにもあるリーダーシップについては、私の認識では、バーンズのその名も『リーダーシップ』が本書でも古典的なテキストとされていて、もうすっかり大昔に読んだので私は忘れましたが、何種類かのリーダーシップが解説されています。ただ、編者のあとがきにもあるように、平時で status quo で昨日と同じ今日と明日を送っていればいい時期ならば、いわゆる前例踏襲の官僚で十分なのですが、何らかの危機においては微分不可能な下方への屈曲が起きていますので、従来通りの計画をそのまま実行しているのではなく、計画を大きく変更する必要に迫られるわけで、そこにリーダーシップが必要となります。ただし、本書では「英雄待望論」の立場は排されています。ただ、いくつか気になるところがあり、第1部のコール首相は東西ドイツ統一時の政治的トップでしたし、それなりの決断力と指導力は認めるものの、フェルホフスタット首相とヴァラッカー首相は、単に個性的というだけで選ばれているような気がします。第2部のブレア首相が後継のブラウン首相とのツートップ的な環境で議論されているとすれば、同じくミッテラン大統領についても、典型的なねじれ現象であったシラク首相との関係にも言及が欲しかった気がします。英国や日本のようなウェストミンスター議会でなく、大統領と首相の両方がいる場合、一般に、ドイツなどのように先進国では首相が優先し、途上国では韓国などのように大統領がトップを務める、というパターンが多いような気がしますが、フランスだけは並立し、しかも、社会党という左派のミッテラン大統領とコアピタシオンながらド・ゴール派の流れをくむ共和国連合のシラク首相が並立していた時期があります。わずかに2年ほどで、隣国ドイツ統一の少し前の時期であり、ドイツ統一時は大統領・首相ともに社会党だったんですが、政治的リーダーを取り巻く環境や制度を論じるのであれば、ミッテラン大統領とシラク首相はぜひとも分析対象に乗せるべきだと私は考えます。メキシコのゴメス中銀総裁について、金融政策の専門性や事務処理能力についてはともかく、人脈などのソーシャル・キャピタルに重点を当てるのであれば、もはや、リーダーシップではないような気もするんですが、いかがでしょうか。最後に、リーダーシップについて、私の考える我が日本の2点を確認しておくと、第1に、田中角栄総理が総理を辞任してからのリーダーシップはすごかったんではないかという気がします。もっとも、リーダーシップではなく、単なるパワー=政治力という気がすることも確かです。第2に、リーマン・ショック後に「政治主導」を掲げて政権交代に成功した民主党政権は、危機時のリーダーシップのあり方として、とても方向性は正しかった気がするんですが、結果的に大きくコケたのはどうしてなんでしょうか。さまざまな分析あるものの、私はまだコレといった決定打を発見していません。

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次に、池田太臣・木村至聖・小島伸之[編著]『巨大ロボットの社会学』(法律文化社) です。著者や編者は、大学の社会学の研究者です。ロボットについては、1963年にアニメ放送が開始された「鉄腕アトム」と「鉄人28号」が我が国での嚆矢となるわけですが、本書では、「巨大ロボット」ということで、鉄腕アトム的なサイズではなく、大きなロボットであって、でも、鉄人28号のように外部のリモコンで操作されるわけでもなく、かといって鉄腕アトムのようにAIよろしく自立的に行動するわけでもなく、ガンダム的にコクピットに人間が入って操作する巨大ロボット、のアニメの社会学を展開しています。「鉄腕アトム」と「鉄人28号」の放送開始の1963年は私は小学校に上がる直前であり、私個人は「鉄人28号」に熱狂した記憶があります。お絵描きでは常に題材は鉄人28号でした。今でも主題歌は歌えるのではないかと思います。また、本書で定義する「巨大ロボット」、すなわち、ドラえもんや鉄腕アトムのサイズではなく、見上げるような大きさのロボットであり、コックピットに人間が入って操縦するロボット、トランスフォーマーのような棒筒などではなくヒト型であり、しかも、それがアニメで放送されたものとなると、その典型である「ガンダム」が放送開始された1979年には20歳過ぎの大学生のころであり、それなりにアニメにも関心の高い年代であり、私としても親しみを覚えます。ただ、本書では「ガンダム」が放送開始された1970年代末はむしろ、巨大ロボットがマンネリ化していた時期であり、むしろ、「ガンダム」は例外的なヒットを飛ばした、ということなのかもしれません。また、1990年代半ばから放送された「エヴァンゲリヲン」も、基本的には「ガンダム」の路線を引き継いで社会的現象も引き起こしました。例えば、私の記憶が正しければ、日本酒の「獺祭」は、「エヴァンゲリヲン」の特務機関ネルフの将校であった葛城ミサトが愛飲していたことから流行に波に乗った、と私は考えているんですが、私と同世代ないし若い世代の酒飲みといっしょに「獺祭」を飲んでも、この葛城ミサトの事実は認識されていないようです。「エヴァンゲリヲン」を見ていないのだろうと思います。同じヒット商品ということで経済的な観点では、ガンダムについては1/144HGスケールをはじめとするガンプラが大きな影響力を持っていたと私は考えています。我が家の倅2人も小学生のころからガンプラ作成にいそしみ、上の倅なんぞは中学・高校・大学と模型クラブに所属して、中学・高校の文化祭はいうに及ばず、大学祭でもガンプラの作品を展示していた記憶があります。こういった経済的・社会的現象も引き起こした「巨大ロボット」について社会学的に解明した結果を、本書は興味深く取りまとめています。

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次に、伊岡瞬『不審者』(集英社) です。作者は、注目の小説家であり、私は初めて作品に接しました。この作品は、会社員の夫と5歳の息子、それに、夫の母親と都内は調布市に暮らす30代前半の主婦を主人公に設定しています。ストーリーのあらすじは、主人公は主婦業のかたわら、フリーの校閲者として仕事をこなす一方で、子供の幼稚園バスのママ友との通り一遍ながら交流もあり、平凡な日々を送っていましたが、ある日、夫がサプライズで客を招き、その人物は、何と、21年間音信不通だった夫の兄だといい出します。その義兄は現在では起業家で独身だと夫はいうものの、最初は自分の息子本人だと信用しない義母の態度もあり、主人公は不信感を募らせるのですが、夫の一存で1週間ほど義兄を同居・居候させることになってしまいます。それから、というか、その直前くらいから、主人公の周囲では不可解な出来事が多発するようになり、主人公は特に子供の安全について不安を募らせる、というカンジです。要するに、ネタバレの結論をいえば、私が読んだ中では、デニス・ルヘインの『シャッター・アイランド』のように正常と異常が反対な作品と同じだったりします。なお、さすがに、ネタバレ部分は透明フォントを使っており、カーソルなどで範囲指定して色を反転させても見ることはできませんが、それなりにhtmlの知識があり、あくまで見たいのであれば、見ることはできるでしょう。約300ページの出版物の中の最後の方の250ページ目くらいから謎解きが始まるんですが、ここに達するまでに、かなり多くの読者は謎が解けているくらいの割合と平凡なプロットで、ミステリとしては凡庸な仕上がりです。もっと、早くからタマネギの皮をむくように、徐々に真相に迫るような運びの方が望ましいのですが、まさか、そこまでの表現力ないとは思いませんから、作者があくまで意図的に最後に一気に真相を明らかにする手法を選んだのではないか、と私は受け止めています。ただ、もしそうだとすれば、やや疑問が残るところです。なお、私の知り合いでオススメしてくれた読書人からの受け売りながら、最後の最後に犯人の弁護をするために登場する白石法律事務所は、同じ作者の別の作品である『代償』や『悪寒』にも出ているそうです。私の読後感としては、謎解きこそ少し疑問あってミステリとしては物足りない気がしますし、かなり、「小説的」な異常なシチュエーションで展開されるストーリーではありますが、主人公の視点から見た平凡な日常が崩れていく、という意味では、それなりのスピード感あふれるサスペンスとしていい出来ですし、別に代表作があったりするんではないか、とも気にかかりますし、ということで、もう少しこの作家の作品を読んでみたい気もします。引っ越しで忙しくて、読まないかもしれませんが、それなりに読書意欲はあります。

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次に、いとうせいこう『「国境なき医師団」になろう!』(講談社現代新書) です。著者は小説家、ノンフィクション・ライターです。2017年だったと思うんですが、同じ著者が『「国境なき医師団」を見に行く』という本を同じ出版社から出していますので、その続編ということになり、本書でも、前著が「俺」を主語にして、やや興奮気味の内容だったのに対して、本書はもっとすそ野を広くと考えたと記しています。ということで、やや落ち着いて、1999年にノーベル平和賞を受賞した「国境なき医師団」MSF=Médecins Sans Frontières について、日本国内のスタッフとともに、海外の現に活動しているサイトのスタッフをインタビューした内容です。本書にもあるように、「国境なき医師団」とはいえ、もちろん、医師以外にも医療スタッフは必要なわけですし、本書でもロジスティックスに携わるスタッフが登場したりして、医療が半分、非医療も半分という構成が明らかにされています。ですから、医師でなくても「国境なき医師団」になれるわけです。私はエコノミストであって、もちろん、医師ではありませんし、医療関係のスキルも、ロジスティックスのスキルもなく、紛争地帯などにおける医療活動を支えることは出来そうもありませんが、本書でも、地震被害が大きかったハイチやアフリカの紛争地帯を想像させるウガンダ・南スーダンといったサイトでのインタビューもありますが、フィリピンについては「錨を下ろして活動する必要」という言葉があります。必ずしも本来業務ではないものの、私も開発経済に携わるエコノミストとして、ささやかながらインドネシアで3年間活動した経験があります。もちろん、公務員の活動の一部として辞令1枚で赴任した私なんぞと違って、"too motivated" という表現が本書にもありますが、過大とさえいえる意欲をもって「国境なき医師団」の活動を進めるスタッフには、その使命感のレベルの差は歴然としています。ただ、基本は、各個人の持っている能力や専門性を生かして、途上国の発展や途上国の人々の幸福のためにどれだけ役立てられるか、ということであると私は考えています。現在の資本主義の実態を見れば、その昔のスミス『国富論』的に個人の経済的利益の追求が見えざる手により経済全体の厚生を高める、という神話はほぼ崩壊したわけですし、自主的な利他的活動が求めらるのはいうまでもありません。本書では、個々のインタビュー結果の事実関係を通じて、個人的な小さな物語から大きな物語、すなわち、いかに、世界、特に、途上国で大きな困難を抱える人々の役に立つかの精神や使命感の高さを読み取って欲しいと私は期待します。もちろん、世界に目を向けつつも、国内で困難を抱える人も少なくないわけで、資本主義的な自己の利益追求から、国内外を通じて、より広い視野での活動の大切さを感じ取って欲しいと思います。


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最後に、マルティン・エスターダール『スターリンの息子』上下(ハヤカワ文庫) です。作者は、スウェーデンのミステリ作家であり、本書は初めての邦訳書だそうです。スウェーデン語のタイトルは BE INTE OM NÅD であり、解説によれば「慈悲を乞うなかれ」という意味だそうです。スウェーデン語の原書の出版は2016年ながら、邦訳書は2018年出版のドイツ語版から訳出されているそうです。3部作の第1作のようです。ということで、舞台は基本的に1996年2月から3月にかけてのストックホルムなんですが、時折、1944年1月のストックホルムも振り返られたりします。軍隊から恋人の勤務する通信コンサル会社に転職した主人公は、その恋人がロシアで消息を絶ったことで捜索を始めるところからストーリーが動き出します。もちろん、主人公はロシアに行くことになるんですが、ストックホルムとともに虚々実々のスパイもどき、というか、スパイそのものの駆け引きや、外国小説らしく拳銃がドンパチやったり、爆弾が炸裂したりと、かなり残虐な場面もあったりします。最後は、まあ、それなりに意外感あるのではないでしょうか。スウェーデンにはエリクソンなどの通信機器メーカーが有名ですし、小説の舞台となっている1996年の時点でも、かなり先行き有望観があったでしょうから、こういった北欧通信機器企業に旧ソ連のスターリン主義者、というか、スターリン信奉者が暗躍する一方で、第2次世界大戦終盤の1944年のソ連のよるストックホルム誤爆、というか、空爆の謎を絡めたサスペンスとしてストーリーが進みます。旧ソ連崩壊から数年を経たエリツィン政権下のロシア経済の混乱、特に、経済マフィア的なギャングの暗躍をスウェーデンの秘められた歴史とともにストーリーを進めるのは、私はそれなりに面白く感じないでもないんですが、体感的に理解できる読者とそうでない読者がいそうな気がします。出版の20年前の1996年を舞台に選んだのも、戦争終盤の1944年から50年、ということで、戦争の生き残りがまだいる可能性を残したかったんでしょうが、ややムリありますし、欧州にはまだまだネオナチ的なヒトラー信奉者がいそうな気がする一方で、ロシアにまだスターリン信奉者なんているのか、というシロート目線の疑問もあります。加えて、海外作品ですから仕方ありませんが、馴染みのない人物名がとても複雑な人間関係を構築してくれて、私のような人名記憶キャパの小さい読者はなかなか理解がはかどりません。私自身は、ラーソンからラーゲルクランツに書き継がれている「ミレニアム」のシリーズは大好きですし、スウェーデンをはじめとする北欧ミステリの作品のレベルの高さを知っているだけに、今後の作品に期待なのかもしれません。

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2020年1月11日 (土)

雇用者+145千人増の12月米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の昨夜、米国労働省から昨年2019年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+145千人増とまずまずの堅調振りで、失業率は先月と同じ3.5%という半世紀ぶりの低い水準を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、コンパクトにUSA Today のサイトから記事を最初の4パラを引用すると以下の通りです。

Economy added disappointing 145,000 jobs in December and the unemployment rate was unchanged at 3.5%
U.S. hiring slowed sharply in December as employers added 145,000 jobs, raising concerns that trade worries and a persistent downturn in manufacturing may be taking a bigger toll on the broader economy.
The unemployment rate was unchanged at a 50-year low of 3.5%, the Labor Department said Friday.
Also mildly disappointing: Job gains for October and November were revised down by a total 14,000. October's tally was nudged from 156,000 to 152,000 and November's, from 266,000 to 256,000.
On the one hand, a slowdown from November's booming additions was not surprising. And the economy added an average 176,000 jobs a month in 2019. That's below the 223,000 average the previous year -- a figure that's expected to be revised down -- but more than many experts anticipated in light of slowing growth and a dwindling supply of available workers.

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。

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米国雇用統計の何をどう見るかで見方も違ってくるわけですが、先月11月統計の雇用者増+256千人増とか、市場の事前コンセンサスの+180千人増などと比べれば、引用した記事のように、disappointing 物足りない、という評価になるかもしれませんが、米国連邦準備制度理事会(FED)のように、インフレを加速しない巡航速度の雇用者増を+100千人増と考えていたり、あるいは、半世紀振りの低水準である3.5%の失業率を見たりすれば、雇用は堅調という見方も出来ます。私はどちらかといえば後者の、米国雇用はまずまず堅調、という見方です。加えて、今年は米国大統領選挙の年であり、トランプ政権サイドから見ても、両方向の見方ができるかもしれません。すなわち、「よくやった」説を取る場合、北朝鮮に対する態度と同じで、十分な成果が上がったとやや無理やりにでもこじつける見方もできますし、「まだまだ」説を取って、中国やイランに対する態度と同じで、さらなる譲歩≒緩和を求める方向を取ることも出来るでしょう。タイミングも関係するかもしれませんし、年が明けて各政党内の予備選はともかく、本格的な選挙戦に突入すれば、対抗陣営は現政権の政策や成果を否定する一方で、トランプ大統領が共和党の予備選を勝ち抜けば、「まだまだ」説から徐々に「よくやった」説に変化して行くんではないかという気がします。

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ただ、景気動向とともに物価の番人としてデュアル・マンデートを背負ったFEDでは物価上昇圧力の背景となっている時間当たり賃金の動向も注視せねばならず、その前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。米国雇用の堅調振りに歩調を合わせて、賃金上昇率も3%前後の水準が続いており、12月も前年同月比で+2.9%の上昇とインフレ目標を上回る高い伸びを示しています。ただ、上のグラフに見られるように、賃金の伸びが鈍化しているのは、米中間の貿易摩擦の影響もあって、雇用増が製造業ではなく賃金水準の低いサービス業、例えば、Leisure and hospitality や Health care and social assistance などで発生している点もひとつの要因です。日本や欧州と違って、米国では物価も賃金上昇もインフレ目標を上回る経済状態が続いている一方で、政権からの圧力もあってFEDでは利下げが模索されていましたが、「まだまだ」説から「よくやった」説に変化するタイミングを待ちつつ、しばらく小休止なのかもしれません。ただ、左派エコノミストとして、私はトランプ政権の圧力は別と考えても、一般論ながら、金融緩和策や財政的な拡張政策は貧困対策を含めて国民の生活水準向上に役立つものと考えています。

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2020年1月10日 (金)

4か月連続で「悪化」を示す11月統計の景気動向指数は景気後退を示唆するのか?

本日、内閣府から昨年2019年11月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から▲0.7ポイント下降して90.9を、CI一致指数も▲0.2 ポイント下降して95.1を、それぞれ記録し、統計作成官庁である内閣府による基調判断は、4か月連続で「悪化」で据え置かれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気、くすぶる後退観測 11月の動向指数も「悪化」
内閣府が10日発表した2019年11月の景気動向指数(CI、2015年=100)は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.2ポイント低下の95.1だった。10月の消費税率引き上げ後、2カ月続けて前月を下回り、13年2月以来の低水準に落ち込んだ。指数の推移から機械的に決まる基調判断は4カ月連続で「悪化」となり、景気後退の懸念がくすぶり続けている。
指数による基調判断の「悪化」は定義上、景気後退の可能性が高いことを示す。「悪化」が4カ月続くのは12年10月~13年1月以来だ。当時は事後的な認定で景気後退局面とされた期間に重なっており、12年11月が景気の谷だった。
足元の一致指数は増税と大型の台風が重なった10月に急落し、11月もさらに下がった。指数を構成する9統計は7項目が判明ずみで、このうち4項目が指数を押し下げる方向に働いた。
マイナスの度合いが最も大きかった投資財出荷指数は、台風で部品調達が滞った建設機械の出荷減が響いた。世界経済の減速で低迷が続く鉱工業生産指数も、台風による物流の停滞などで一段と落ち込んだ。
政府が月例経済報告で示す公式の景気認識は18年1月から「緩やかに回復」との表現を続けている。直近の19年12月も製造業の弱さに言及しつつ、堅調な雇用などを背景に回復との認識は変えなかった。このため統計指標から機械的にはじく景気動向指数の判断とはズレが生じている。
世界銀行が8日改定した経済見通しによると19年の世界の成長率は推定で2.4%と、金融危機の影響から脱し始めた10年以降で最低になった。市場では日本経済が景気後退局面に入っているとの声がくすぶる。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「景気は既に山を越えた」とみている。米中貿易戦争が激しくなった18年秋以降は下り坂で、19年10月の増税も重荷になっている。
もっとも過去の景気後退局面と比べると、経済指標の落ち込みは小さいとの指摘もある。日本総合研究所の松村秀樹氏は「下押し圧力を超えて回復が持続する」と予想する。内需は堅調で、増税後の個人消費も底割れしないとの見方だ。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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いつも論じているように、景気動向指数は鉱工業生産指数(IIP)との連動性が高いんですが、11月統計の一致指数のマイナス寄与が大きい順に採用系列を並べると、投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、有効求人倍率(除学卒)と、最初の3項目にはIIP関連の指標が登場します。 逆に、プラス寄与の大きい順だと、商業販売額(小売業)(前年同月比)や耐久消費財出荷指数が上位に並んで、企業部門の低迷と家計部門の堅調という、消費税率引上げ直後としては考えられない部門間の動きを示しています。というのは、私の考えでは、企業も家計もともに停滞している中で、相対的に企業部門の方が大きな落ち込みを示している、ということなのだろうと考えられます。企業部門の落ち込みを家計部門が下支えしている構図なわけですが、そのひとつの要因として、人手不足による雇用の堅調な動向が上げられます。ただ、私が何度もこのブログで明らかにしているように、景気後退局面に入って雇用が落ち始めると、それこそ、底なし沼のように景気と雇用があいまって大きく落ちる可能性も否定できません。日経新聞の記事で最後の方に紹介されているシンクタンクのエコノミスト2氏の見方は、あるいは、どちらも正しくて、おそらく景気はピークを超えたのでしょうが、まだ、大きな落ち方を示す局面には到達していない、ということなのかもしれません。私も判断に迷うところですから、景気局面の判断はそれなりに時間が経過した後でないと出来ない、というのも理解できるところです。

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2020年1月 9日 (木)

債務が財政危機をもたらすのだろうか?

年末年始の学術論文紹介シリーズ第3回にして早くも最終回です。国際通貨基金(IMF)のワーキング・ペーパー2020年第1号にして "Debt Is Not Free" と題する債務と財政危機の関係に対する論考です。いつもの論文アップロード先は以下の通りです。

ここで、タイトルがあくまで "Debt" となっているところがミソで、引用文献には決して現れないながら、いかにも、ケルトン教授やレイ教授の現代貨幣理論=MMTを十分に意識した内容となっていますが、決して、政府の国内債務に限定することなく議論を展開しています。まず、やや長くなりますが、IMFのwebサイトから英文のままSummaryを引用すると以下の通りです。

Summary
With public debt soaring across the world, a growing concern is whether current debt levels are a harbinger of fiscal crises, thereby restricting the policy space in a downturn. The empirical evidence to date is however inconclusive, and the true cost of debt may be overstated if interest rates remain low. To shed light into this debate, this paper re-examines the importance of public debt as a leading indicator of fiscal crises using machine learning techniques to account for complex interactions previously ignored in the literature. We find that public debt is the most important predictor of crises, showing strong non-linearities. Moreover, beyond certain debt levels, the likelihood of crises increases sharply regardless of the interest-growth differential. Our analysis also reveals that the interactions of public debt with inflation and external imbalances can be as important as debt levels. These results, while not necessarily implying causality, show governments should be wary of high public debt even when borrowing costs seem low.

批判的に検討を加えているのは、MMTではなく、むしろ、IMFのチーフエコノミストも務めて、身内ともいえるブランシャール教授が American Economic Review で明らかにした論文、というか、講演録 "Public Debt and Low Interest Rates" あたりが念頭にあるのかもしれません。この論文では、現在の低金利の米国では安全資産の金利が成長率を下回っており、政府債務は資本蓄積を妨げ経済的な厚生コストを発生させるとしても、"Put bluntly, public debt may have no fiscal cost." とブランシャール教授は主張しています。長崎大学の紀要論文「財政の持続可能性に関する考察 - 成長率・利子率論争と時系列データによる検定のサーベイ -」で私が主張したように、国債金利が成長率を下回る動学的不均衡の状態にあるならば、政府債務は破綻せずサステイナブルである、というのがブランシャール教授の論点です。

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本論文 "Debt Is Not Free" では、別のアプローチを取っています。すなわち、上のグラフは本論文 p.40 から Figure 13. Overall Interaction Strength を引用しているんですが、政府債務そのものではなく、国内貯蓄で賄い切れなくなった結果として、公的対外債務が累積すると過去の財政危機の履歴と相まって財政危機を引き起こす可能性が高くなる、という点が強調されているような気がします。英文で70ページ近い論文なものですから、ひょっとしたら、私の方で十分把握できていない恐れもあったりするんですが、財政危機と対外収支危機も峻別されていないような印象すらあります。ともかく、MMTはもとより、ブランシャール教授の動学的不均衡下での政府債務の持続可能性についても、反論できていないように感じるのは私だけでしょうか?

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2020年1月 8日 (水)

ユーラシア・グループによる Top Risks 2020 の1番目は米国大統領選挙!

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地政学的なリスクなどの情報提供・分析を行う米国企業であり、イアン・ブレマー率いるユーラシア・グループが今年も昨日1月6日付けで、Top Risks 2020 を明らかにしています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。上の画像はリポートの表紙であり、トップ10の今年2020年のリスクが明記されています。以下の通りです。

  1. Rigged!: Who governs the US?
  2. The Great Decoupling
  3. US/China
  4. MNCs not to the rescue
  5. India gets Modi-fied
  6. Geopolitical Europe
  7. Politics vs. economics of climate change
  8. Shia crescendo
  9. Discontent in Latin America
  10. Turkey

トップリスクは米国の大統領選挙です。ユーラシア・グループでは今まで米国国内政治をトップリスクに上げることはなかったとしながらも、米国の政治、特に、大統領選挙の結果生じうる不確実性の増大や国際政治から米国の影響力が後退する空白に伴って生じる不安定性などを上げています。リポートでは、"American Brexit" なんて表現が p.4 に出てきたりします。それにしても、エコノミストにはまったく理解できないところで、米軍によるイランのイスラム革命防衛隊の「コッズ部隊」ソレイマニ司令官らの殺害なんぞは、在イラクの複数の米軍基地に弾道ミサイルによる攻撃があったようですが、今後、どういう展開を見せるんでしょうか。2番めと3番めはともに米中関係に起因しており、私なんぞはエコノミストですから3番めの米中間の貿易摩擦のエスカレーションが今年最大の懸念材料と考えていますが、このリポートでは中国が技術的な面における米国依存から脱するデカップリングの方を先に位置付けています。後は、多国籍企業、インド、欧州、地球環境、シーア派、中南米、トルコと並んでいて、経済パワーに従って世界的な影響力も大きく後退した我が日本はアジェンダには上がっていません。それから、世界経済フォーラムの主催するダボス会議が1月21~24日に開催され、その前に World Risks Report が明らかにされると思いますので、また、その際は取り上げたいと予定しています。

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目を国内の経済指標に転じると、本日、内閣府から昨年2019年12月の消費者態度指数も公表されています。2人以上世帯の季節調整済みの系列で見て、前月から+0.4ポイント上昇して39.1となり、3か月連続で前月を上回りました。いつもの消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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2020年1月 7日 (火)

貧困と剥奪スコアの関係やいかに?

昨夜に続いて、年末年始休み読んだ学術論文のうち、今夜は社会保障・人口問題研究所の『社会保障研究』から「剥奪指標による貧困の測定」です。論文アップロード先は以下の通りです。

先日の読書感想文『本当の貧困の話をしよう』にもかきましたが、貧困指標にはいくつかあって、英語ながら私は長崎大学の紀要論文 "A Survey on Poverty Indicators: Features and Axioms"で簡単に取りまとめていたりするんですが、私の紀要論文でもすべてが金銭的指標であり、途上国で貧困を定義する場合、1人当たりの所得額、いわゆるヘッドカウントで見て、先進国では相対的貧困率、すなわち、等価可処分所得の中央値の50%を貧困ラインと定義して、その貧困ラインを下回る所得の人数の比率を算出するものが主流となっています。ただ、こういった金銭的な貧困指標だけでなく、本論文のタイトルにもなっている剥奪率という非金銭的な指標の開発が進められてきている点が注目されます。ここで、「剥奪」とは英語の deprivation であり、より広い概念としては「社会的剥奪」social exclusion といったものもあります。社会における標準的な生活様式を享受するための資源が欠如している状態を指していて、典型的に想像されるのは、水道がないために、歩いて1時間ほどもかかる井戸まで子供が水汲みに行かねばならない、といった途上国の剥奪の状況を耳にした人も多いんではないでしょうか。現在の日本で上水道へのアクセスがないというのはやや極端と感じられる人もいる可能性がありますが、本ペーパーの著者が剥奪項目として上げたのはペーパー p.280 表4 項目別の剥奪者率・普及率 から、以下の通りです。

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これらの剥奪項目から、金銭的な理由により所有やアクセスのない人数の比率で剥奪率を産出しています。テーブルの真ん中ちょっと上に「自動車」というのがあって、定年までキャリアの国家公務員を務め上げた私が主たる所得稼得者であった我が家には自動車がありませんでしたが、ひょっとしたら、これは金銭的な理由ではない、と判断されるかもしれません。なお、単純な剥奪項目数についてもカウントしています。

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所得と剥奪の状態をプロットしたのが、上の 図1 等価所得階級別の剥奪項目数・剥奪率 です。ペーパー p.282 から引用しています。所得に従って剥奪が減少しているのは明確なんですが、等価可処分所得600万円を超えるあたりから横ばいとも見えます。もちろん、単純な平均値的な集計結果だけでなく、各種のモデルに基づく推計も実施されており、線形回帰モデルとトービット・モデルの結果がペーパー p.283 表8 回帰分析の推定結果 に示されています。コチラのテーブルは情報量が多い分、やや見づらい気もするので引用はしませんが、簡単に解説しておくと、第1に、個人の基本的な属性に関しては、年齢と等価可処分所得は明らかに収奪スコアと統計的に有意な負の相関関係にあります。所得が高いほど収奪スコアは低いわけで、年功序列賃金がかなり残っているとすれば当然です。ただ、性別について女性ダミーは収奪スコアと負の符号を取るものの、統計的に有意ではありません。第2に、家族構成としては、所得をコントロールしてもなお、単身世帯や夫婦のみ世帯は収奪スコアと負の相関関係で、統計的にも有意な結果が示されており、逆に、基準となっている夫婦と未婚の子のみの世帯、すなわち、子供を持つことは収奪スコアと正の相関関係にあるようです。もっとも、子供を持つ前に若い年齢層の夫婦のみ世帯と、我が家のように子供が独立してしまった後の高齢の夫婦のみ世帯では、少し事情が違うような気がしないでもありません。それから、ひとり親と未婚の子どもの世帯も収奪スコアと統計的に有意な正の相関関係となっています。母子家庭などの収奪の現状を考えるとそうかもしれません。三世代家族は収奪スコアと正で統計的に有意な相関関係なんですが、おそらく、私の直感では、因果関係は逆であり、三世代同居により収奪スコアが大きくなるわけではなく、収奪スコアの大きな家族は三世代同居をするんだろうという気がします。ただ、同じ『社会保障研究』第4巻第3号には「三世代同居と相対的剥奪」と題する論文も収録されており、そこでは、生活が苦しいので同居せざるを得ない、という私のような見方とともに、家屋が古いとか、老親介護のための同居の可能性、などが指摘されています。いずれにせよ、三世代同居してなお収奪スコアが高いのですから、三世代同居は収奪スコアを高める原因となるリスクを持つ可能性も考えるべきかもしれません。最後に第3に、その他の3つの指標については、主観的健康ダミーと持ち家ダミーは収奪スコアと統計的に有意に負の相関関係があり、健康と感じれば、あるいは、持ち家を持っていれば、収奪スコアが低いことを意味します。そして、最後の最後に興味深いのは、就業ダミーが統計的に有意に正の相関を収奪スコアと有しています。もちろん、因果関係は逆であって、収奪が高いので就労せざるを得ない、という意味なのかもしれませんが、解釈の難しいところです。

エコノミストとしては、ついつい主流派の議論で、あくまで所得の増加が貧困や収奪の軽減に有効であることはいうまでもないところながら、家族構成などは個人や世帯の価値観に基づく判断で決定される、とはいうものの、決して自己責任ばかりではないわけですから、貧困や収奪との関係でさまざまな議論を展開すべき時期に来ているのかもしれません。また、私個人としても、途上国での井戸への水汲みの例も出しましたが、日本国内における議論とともに、途上国の現状についても把握に努めたいと考えます。

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2020年1月 6日 (月)

企業規模と賃金、労働生産性の関係やいかに?

昨年末に明らかにされ、年末年始休みにパラパラと読んだ学術論文からいくつかピックアップしたいと思います。まず、財務省財務政策総研のディスカッション・ペーパー「企業規模と賃金、労働生産性の関係に関する分析」です。論文アップロード先は以下の通りです。

大学生諸君の終活などでは、その昔は「寄らば大樹の陰」などといわれて、規模の大きな企業への就職がひとつの目標だった時期もありますが、単に、倒産しない、つぶれない、というだけでなく、日本のみならず、米国などにおいても規模の大きな企業ほどお給料や厚生などの待遇がいいことは広く知られている通りです。本論文では財務省の法人企業統計の個票を用いて、従業員数で代理された企業規模と賃金や生産性などとの関係につき、製造業とサービス業の産業別で回帰分析しています。ただ、極端な外れ値を処理するため、分布の両端0.05%を棄却しています。従業員規模は、①1~4人、②5~9人、③10~19人、④20~49人、⑤50~99人、⑥100~249人、⑦250~499人、⑧500人以上、の8階級に分割し、生産性は付加価値額を従業員数で除しています。回帰分析は、「企業規模-賃金」、「企業規模-労働生産性」及び「労働生産性-賃金」の間で左側の変数を従属変数、右側を独立変数としているんですが、少なくとも3番目の回帰分析はそれほど大きな意味あるとは私には思えません。従って、最初の2つのモデルのうち、企業規模と賃金のあ医大で典型的に中央値比較をしたグラフ、図3 企業規模と賃金 をペーパー p.9 から引用すると以下の通りです。

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ペーパー p.10 には、図5 企業規模と労働生産性 として同じような企業規模と労働生産性のグラフがあります。製造業では企業規模とともに賃金や労働生産性が単調増加するのに対して、サービス業の賃金や生産性が従業員数250人を超える規模のあたりで横ばいないし低下に転ずるのは、ペーパーでも指摘しているように、生産性の低い小売業のシェアが高まるのもさることながら、同時に、非正規雇用の比率に大きく影響されているのではないか、と私は考えています。その点の分析をしていないんですから、やや物足りない仕上がりと感じてしまいます。賃金や労働生産性を高めるためには正規雇用の増加が重要です。

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2020年1月 5日 (日)

コルトレーン「Blue World」を聞く!!!

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コルトレーンの「Blue World」を聞きました。マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds)と組んだオリジナル・カルテットの名演で第1に指を屈せられる「至上の愛」から半年前の黄金のコンボによる未発表スタジオ録音です。1964年年央にカナダ国立映画制作庁の委嘱で、フランス語映画「Le chat dans le sac (英題: The Cat in the Bag)』(日本未公開ながら、直訳すれば『袋の中の猫』)のために、ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオにて、映画のサウンドトラックとして録音された音源らしいんです。音質は、私のように1940年代のモノラル録音を聞いてもモダンジャズ創世記の演奏に感激するような耳の人間には、何とも評価できませんが、絶頂期のコルトレーンの演奏ということで十分ではないでしょうか。「至上の愛」と同じインパルスからの発売であり、取りあえず、収録曲は以下の通りです。

  1. Naima (Take 1)
  2. Village Blues (Take 2)
  3. Blue World
  4. Village Blues (Take 1)
  5. Village Blues (Take 3)
  6. Like Sonny
  7. Traneing In
  8. Naima (Take 2)

相変わらず、ロリンズに因んだ曲名ながら、6曲目はアラビア音楽としか聞こえないんですが、ノッケのナイーマがとてもいいです。続く2曲めから5曲目までブルーズが3曲配置されていて、とてもゆったりとしたテンポで、何ともいえず緊張感ありながらも十分にくつろげる出来上がりとなっています。いかにも的なジャケットともに、ジャズファンであれば聞いておくべきアルバムではないかという気がします。

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2020年1月 4日 (土)

年末年始休みの読書やいかに?

年末年始の読書は、すでに火曜日に取り上げたジャレド・ダイアモンド『危機と人類』を別にして、いろいろと取り混ぜて、以下の通りです。なお、今日の日経新聞に、昨年2019年12月28日の読書感想文で取り上げたアイザックソン『イノベータース』上下と11月30日付けの青山七恵『私の家』の書評が掲載されていました。大手新聞に先んじたのはとても久しぶりな気がします。なお、まだ正月休みが私の場合続いていて、夕方から缶ビールを開けている上に、全部で9冊もありますので、手短かにして手を抜きます。悪しからず。

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まず、ミレヤ・ソリース『貿易国家のジレンマ』(日本経済新聞出版社) です。著者は、メキシコ出身のエコノミストであり、現在は米国ブルッキングス研究所の東アジアセンター所長を務めており、中学生の頃に日本語を勉強していて当時の大平総理と会ったことがあるそうです。英語の原題は Dilemmas of a Trading Nation であり、2017年の出版です。ということで、タイトルにあるジレンマとは、本書では2つ指摘されていて、ひとつは既得権益に切り込む決断が求められる局面になるほど反対論が広がり、幅広い合意を得にくくなる点であり、もうひとつは自由化で不利になる部門に対する補助金の支出と、一部の産業に縮小や退出を求める改革の断行が出来にくくなる点、とされています。自由貿易の場合、一国全体ではお得なわけですが、あくまで得をするセクターと損をするセクターを比べて、前者から後者に補償がなされるとういう前提ですので、ジレンマと称するのは少し違う気もしますが、現実には、そういった補償は十分ではなく、確かに焦点を当てる値打ちはあるのかもしれません。本書でも指摘されている通り、損をするセクターはツベルスキー-カーネマンのプロスペクト理論からして主張する声が大きくなりますので、それなりの補償が自由貿易を公正な貿易にするために必要です。本書では、当然ながら、日本についても大きな注目を払っています。

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次に、石井光太『本当の貧困の話をしよう』(文藝春秋) です。著者は、ノンフィクション・ライターであり、貧困や格差に注目しているようですが、エコノミストではありませんから、本書ではかなりアバウトな議論が展開されていると覚悟して読み始めるべきです。例えば、冒頭から、世界の貧困と日本の貧困が並べられていますが、前者の世界レベルは絶対的貧困である一方で、後者の日本レベルは相対的貧困率ですので、著者が意図的にそれを狙っているとは思いたくありませんが、詳しくない読者は日本人の7人に1人が1日1.9ドル未満で暮らしていると勘違いすることと思います。ただ、若年者にスポットを当てた貧困論、あるいは、格差論を展開していますので、私は好感を持ちました。貧困を論ずる場合、どうしても、母子家庭、高齢者、疾病が3大要因となっている現実がありますので、高齢層に注目してしまう例もあるんですが、母子家庭を含めて若年者の貧困や家庭問題に着目しているのは評価できます。また、日本国内だけでなく、広く世界の貧困の実態にも目配りが行き届いています。

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次に、広田照幸『大学論を組み替える』(名古屋大学出版会) です。著者は、東京大学大学院教育学研究科教授などを経て、現在は日本大学文理学部教授、日本教育学会会長を務めています。出版社からしても、かなり学術書に近い印象です。何度か書きましたが、私は今年は生まれ故郷の関西に引っ越して、4月から私大経済学部の教員になる予定です。ただ、学生諸君への教育や自分自身の研究とともに、公務員出身ですので何らかの大学運営に携わることも期待されているのではないか、と勝手に想像して、大学改革論を1冊読んでみました。教育については、医療などとともに、いわゆる非対称性の大きい分野であり、市場経済では効率性が確保されません。その上、学問の自由や大学自治が絡むと、かなりヘビーなイシューとなります。今年の1年目からいきなり大学や学部の運営に関わることはないとは楽観していますが、これから、先々勉強することとしたいと考えています。

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次に、ニール・ドグラース・タイソン & エイヴィス・ラング『宇宙の地政学』上下(原書房) です。著者は、米国自然史博物館の天体物理学者と同じ博物館ん研究者・編集者です。英語の原題は Accessory to War であり、2018年の出版です。ノッケから、天体物理学がいかにも戦争のために利用可能な現状を宣言し、中世から天文学者が戦争において果たした役割の解説から始まったりします。でも、本書は純粋な天文物理学書でもないことは当然ながら、軍事的な武器の解説書といった内容でもなく、もっと散文的なコンテンツを想像していた私には、かなり詩的な表現ぶりに驚かされたことも事実です。中世から始まって、宇宙の軍事利用の歴史をかなり長期にさかのぼって振り返り、米ソの宇宙開発の戦争利用の可能性を広く主張し、私も含めてついつい人々が目を逸らしがちな現実を明らかにしてくれています。

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次に、加藤陽子『天皇と軍隊の近代史』(けいそうブックス) です。著者は東大の歴史研究者であり、近代史がご専門と認識しています。ということで、タイトル通りの内容なんですが、明治以降の近代で初めて譲位という形で天皇の交代があり、開眼した経験を経て、近代における天皇と軍隊の歴史を振り返ります。天皇から「股肱の臣」と呼ばれた軍隊に対して、軍人勅語が示され、統帥権の独立、というか、内閣からの不感症を確立して戦争に突き進む実態が歴史研究者によって明らかにされています。ただ、内容的には、掘り尽くされた分野ですので、特に新たな史的発見があるわけではありません。ただ、振り返っておく値打ちはありそうな気がする分野です。

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次に、諏訪勝則『明智光秀の生涯』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) と外川淳『明智光秀の生涯』(三笠書房知的生きかた文庫) です。著者は、陸上自衛隊高等工科学校教官と歴史アナリスト・作家です。今年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主役は明智光秀だったりしますので、私も少し勉強してみたく、2冊ほど借りて読みました。明智光秀といえば、当然ながら、織田信長を暗殺した本能寺の変なんですが、その要因としても、現代でいえばパワハラに反発した怨恨説から、天下奪取説、調停や室町幕府や果ては秀吉までが絡む黒幕説、などなど、いろいろと持ち出されているんですが、斉藤利三首謀説まで飛び出しています。ただ、斉藤利三が仕掛けたのだとすれば、春日局が取り立てられることはなかった気もします。それは別として、跡付けの歴史的な観点からすれば、天下統一後の政治的展開を考えれば、重厚な家臣団を擁する織田か徳川くらいしか治世展開を続けることが出来ず、成り上がりの豊臣秀吉とか、明智光秀も天下統一を維持して天下泰平まで実現することは難しかっただろうと私は考えています。明智光秀は確かに文化人だったのかもしれませんが、それだけで天下はどうにもなりません。

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最後に、グレン・サリバン『海を渡ったスキヤキ』(中央公論新社) です。著者は米国ハワイ生まれで、1984年に来日し、英会話学校教師として勤務後、雑誌『日本語ジャーナル』の英文監修者・翻訳家として活動した後、1992年に帰米してコーネル大学大学院でアジア文学を履修、とあり、邦訳者のクレジットがありませんから、著者が日本語で書いたものであろうと私は想像ています。基本的に、和食が米国でどのように受容されていったのかの歴史を展開しているんですが、その和食を持ち込んだ日本人が米国で受容されたのかの歴史にもなっています。もちろん、第2次世界対戦時の収容所についても言及があり、悲しい歴史にも目を背けていません。天ぷらは本書では注目されていませんが、スシや鉄板焼など、とても家庭の主婦が調理するとは思えない料理が、ついつい、米国をはじめとする諸外国では「日本食」として認識される中で、そういった誤解を助長しかねない本書なんですが、それはそれで、和食・日本食の海外展開での歴史を知ることが出来るような気がします。

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2020年1月 3日 (金)

下の倅といっしょに出かけてガラケーを格安スマホに買い換える!!!

今日は、下の倅といっしょに外出して、docomoからY!mobileに切り替えた上で、スマートフォンに乗り換えました。4月から新しい関西の私大に再就職しますので、携帯電話番号まで一新です。上の倅は4年近く前からスマホなんですが、私と下の倅は初めてです。いろいろと試していますが。私はGoogleアカウントをいっぱい持っているので、なかなか設定が難しそうです。GoogleアカウントやGmailはひとつに絞ったほうがいいのかもしれません。

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2020年1月 2日 (木)

母親の見舞いに行く!!!

今日は、私の妹が面倒を見てくれている母親の見舞いに出かけました。上の倅は別用があり、一家3人で出かけ、妹夫婦といっしょに老健施設を訪ねます。寄る年波には勝てないようで、だんだんと弱っているのは事実なんでしょうが、まずまず元気にしているようでひと安心でした。

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2020年1月 1日 (水)

近所の神社に初詣に行く!!!

改めまして、
あけましておめでとうございます!

穏やかないいお正月です。近くの神社に初詣に行きました。子どもたちが成人するまでは、我が家では一家そろって初詣に出かけていたんですが、すでに子どもたちは独立し、今では老夫婦2人の暮らしになっていますので、一家バラバラで初詣に出かけています。私がひとりで向かったのは、近くの氏神さまなんでしょうが、天神系の名称ではないかと想像しています。行きは昨年買い求めた破魔矢を持ってお焚きあげにお供えしましたが、今年はもうこの氏神さまの元を離れることが確定していますので、帰りに新しい破魔矢を買い求めたり、おみくじを引いたりはしませんでした。
下の写真は初詣に行った我が家の近くの神社です。

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あけましておめでとうございます!!!

あけましておめでとうございます!

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新しい年2020年がつい先ほど数分前に明けました。
毎年元旦には、エコノミストの端くれとして、日本と世界の経済が上向き、国民生活が豊かになることを祈念しています。
特に、今年は夫婦で関西へ引っ越しをして、わずかながら残る人生を私大教員として学生諸君への教育と私自身の研究に余すところなく活かしたいと思っています。
なお、どうでもいいことながら、ねずみ年ですから、ねずみポケモンといえばピカチュウしかいません。上の画像の通りです。どこから拝借したのかは失念しました。悪しからず。
また、先ほど終わった紅白歌合戦については、椎名林檎や Perfume もとてもよかったんですが、それでも AKB48 の「恋するフォーチュンクッキー」が一番だった気がします。

それでは、そろそろ寝ます。おやすみなさい。

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