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2020年1月 7日 (火)

貧困と剥奪スコアの関係やいかに?

昨夜に続いて、年末年始休み読んだ学術論文のうち、今夜は社会保障・人口問題研究所の『社会保障研究』から「剥奪指標による貧困の測定」です。論文アップロード先は以下の通りです。

先日の読書感想文『本当の貧困の話をしよう』にもかきましたが、貧困指標にはいくつかあって、英語ながら私は長崎大学の紀要論文 "A Survey on Poverty Indicators: Features and Axioms"で簡単に取りまとめていたりするんですが、私の紀要論文でもすべてが金銭的指標であり、途上国で貧困を定義する場合、1人当たりの所得額、いわゆるヘッドカウントで見て、先進国では相対的貧困率、すなわち、等価可処分所得の中央値の50%を貧困ラインと定義して、その貧困ラインを下回る所得の人数の比率を算出するものが主流となっています。ただ、こういった金銭的な貧困指標だけでなく、本論文のタイトルにもなっている剥奪率という非金銭的な指標の開発が進められてきている点が注目されます。ここで、「剥奪」とは英語の deprivation であり、より広い概念としては「社会的剥奪」social exclusion といったものもあります。社会における標準的な生活様式を享受するための資源が欠如している状態を指していて、典型的に想像されるのは、水道がないために、歩いて1時間ほどもかかる井戸まで子供が水汲みに行かねばならない、といった途上国の剥奪の状況を耳にした人も多いんではないでしょうか。現在の日本で上水道へのアクセスがないというのはやや極端と感じられる人もいる可能性がありますが、本ペーパーの著者が剥奪項目として上げたのはペーパー p.280 表4 項目別の剥奪者率・普及率 から、以下の通りです。

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これらの剥奪項目から、金銭的な理由により所有やアクセスのない人数の比率で剥奪率を産出しています。テーブルの真ん中ちょっと上に「自動車」というのがあって、定年までキャリアの国家公務員を務め上げた私が主たる所得稼得者であった我が家には自動車がありませんでしたが、ひょっとしたら、これは金銭的な理由ではない、と判断されるかもしれません。なお、単純な剥奪項目数についてもカウントしています。

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所得と剥奪の状態をプロットしたのが、上の 図1 等価所得階級別の剥奪項目数・剥奪率 です。ペーパー p.282 から引用しています。所得に従って剥奪が減少しているのは明確なんですが、等価可処分所得600万円を超えるあたりから横ばいとも見えます。もちろん、単純な平均値的な集計結果だけでなく、各種のモデルに基づく推計も実施されており、線形回帰モデルとトービット・モデルの結果がペーパー p.283 表8 回帰分析の推定結果 に示されています。コチラのテーブルは情報量が多い分、やや見づらい気もするので引用はしませんが、簡単に解説しておくと、第1に、個人の基本的な属性に関しては、年齢と等価可処分所得は明らかに収奪スコアと統計的に有意な負の相関関係にあります。所得が高いほど収奪スコアは低いわけで、年功序列賃金がかなり残っているとすれば当然です。ただ、性別について女性ダミーは収奪スコアと負の符号を取るものの、統計的に有意ではありません。第2に、家族構成としては、所得をコントロールしてもなお、単身世帯や夫婦のみ世帯は収奪スコアと負の相関関係で、統計的にも有意な結果が示されており、逆に、基準となっている夫婦と未婚の子のみの世帯、すなわち、子供を持つことは収奪スコアと正の相関関係にあるようです。もっとも、子供を持つ前に若い年齢層の夫婦のみ世帯と、我が家のように子供が独立してしまった後の高齢の夫婦のみ世帯では、少し事情が違うような気がしないでもありません。それから、ひとり親と未婚の子どもの世帯も収奪スコアと統計的に有意な正の相関関係となっています。母子家庭などの収奪の現状を考えるとそうかもしれません。三世代家族は収奪スコアと正で統計的に有意な相関関係なんですが、おそらく、私の直感では、因果関係は逆であり、三世代同居により収奪スコアが大きくなるわけではなく、収奪スコアの大きな家族は三世代同居をするんだろうという気がします。ただ、同じ『社会保障研究』第4巻第3号には「三世代同居と相対的剥奪」と題する論文も収録されており、そこでは、生活が苦しいので同居せざるを得ない、という私のような見方とともに、家屋が古いとか、老親介護のための同居の可能性、などが指摘されています。いずれにせよ、三世代同居してなお収奪スコアが高いのですから、三世代同居は収奪スコアを高める原因となるリスクを持つ可能性も考えるべきかもしれません。最後に第3に、その他の3つの指標については、主観的健康ダミーと持ち家ダミーは収奪スコアと統計的に有意に負の相関関係があり、健康と感じれば、あるいは、持ち家を持っていれば、収奪スコアが低いことを意味します。そして、最後の最後に興味深いのは、就業ダミーが統計的に有意に正の相関を収奪スコアと有しています。もちろん、因果関係は逆であって、収奪が高いので就労せざるを得ない、という意味なのかもしれませんが、解釈の難しいところです。

エコノミストとしては、ついつい主流派の議論で、あくまで所得の増加が貧困や収奪の軽減に有効であることはいうまでもないところながら、家族構成などは個人や世帯の価値観に基づく判断で決定される、とはいうものの、決して自己責任ばかりではないわけですから、貧困や収奪との関係でさまざまな議論を展開すべき時期に来ているのかもしれません。また、私個人としても、途上国での井戸への水汲みの例も出しましたが、日本国内における議論とともに、途上国の現状についても把握に努めたいと考えます。

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