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2020年2月29日 (土)

今週の読書はペースダウンしつつも、スティグリッツ教授の経済書をはじめ計4冊!!!

今日までの2月いっぱいで、ほぼほぼ住宅の契約関係、すなわち、現住居の売却と新居の購入の契約などは終えました。もちろん、実際の引越しなどは3月の下旬になるわけですが、契約関係は私が全面に出るとしても、引越しなどの実務は女房が指揮を執ることになります。そして、東京都民最後の1ト月となり、読書の方も少しずつペースダウンしています。今週はスティグリッツ教授の印象的な資本主義論をはじめとして以下の計5冊です。

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まず、ジョセフ E. スティグリッツ『スティグリッツ・プログレッシブ・キャピタリズム』(東洋経済) です。著者は、リベラルなエコノミストであり、ノーベル経済学賞受賞者です。英語の原題は People, Power, and Profits であり、2019年の出版です。ということで、先々週2月9日付けの読書感想文で取り上げたエリック A. ポズナー & E. グレン・ワイル『ラディカル・マーケット』と同じ出版社から、同じ趣旨の資本主義の修正を迫る内容となっています。市場における資源配分を基礎とする資本主義が、もはや、効率的な経済や、ましてや、公平で公正な分配をもたらすことはあり得ない、と多くのエコノミストが認識し、今や、ごく限られた一部の富裕層や大企業にのみ奉仕するシステムになり果てていることは、エコノミストならずとも、多くの一般国民が実感しているところではないでしょうか。特に、米国の場合、トランプ政権成立後は国内的な分断が激しく、格差問題をはじめとする経済だけでなく、フェイク・ニュースをはじめとして、政治的に民主主義が危機に瀕しているとの見立てすらあります。日本と違って、米国の場合は宗教的なものも含めて迫害から逃れて移民して来た人々が建国した国ですので、少数者を多数者の専横から保護するシステムも発達していますが、そういった米国本来の民主主義が歪められていると見る有識者も少なくありません。本書でも、主眼は経済なのかもしれませんが、第2部冒頭の第8章をはじめとして、民主主義の重要性を主張している論調も少なくありません。累進課税の復活や教育をはじめとする機会均等の実現などなど、米国独自の課題は少なくありませんが、日本と共通する部分もかなり私には見受けられました。一般読者を対象にした啓蒙的な内容を主とする経済書ですが、専門的な原虫が100ページを超えており、私はそれなりにていねいに読んだつもりですが、この原虫を含めてしっかり読めば、かなり理解が深まるような気がします。冒頭に言及した『ラディカル・マーケット』やバルファキス教授の『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』などとともに、経済を民主化して国民生活をより豊かで実り多いものにすることを目指しているのであれば必読です。

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次に、ジェームズ C. スコット『反穀物の人類史』(みすず書房) とルイス・ダートネル『世界の起源』(河出書房新社) です。国家や世界の起源に関する2冊を強引かつ無理やりにいっしょに論じようとしています。ズボラで申し訳ありません。まず、『反穀物の人類史』の著者は米国イェール大学の政治学の研究者で、英語の原題は Against the Grain であり、2019年の出版です。『世界の起源』の著者は、英国レスター大学の英国宇宙局に在籍する宇宙生物学を専門とする研究者で、英語の原題は Origins であり、2018年の出版です。この著者の本としては、同じ出版社から邦訳が出ている『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』を数年前に私は読んだ記憶があります。ということで、まあ、理解できるところですが、『反穀物の人類史』は経済社会的な視点から国家の成立を論じ、ティグリス=ユーフラテス川の流域に国家が生まれたころから、せいぜいがギリシア・ローマの古典古代の奴隷制経済までをスコープとしているのに対して、『世界の起源』は宇宙物理学や宇宙生物学の視点から世界の成り立ちを追っていますから、ホモ・サピエンス登場以前から産業革命後までも含めて、さらに壮大な長期を対象にしています。私が注目している現代貨幣理論(MMT)では、貨幣の起源を国家による徴税への強制的な支払いに求めていますが、『反穀物の人類史』では穀物が国家の税金として採用されたのは、熟する時期が限定されており、同じように保存のきく豆類との違いを上げています。ただ、生産力の成長とそれに合わせた奴隷制の成立については、少し私には違和感あります。やっぱり、著者も言及しているエンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』ほどには私の直感に響きませんでした。『世界の起源』では、人類の物語を本当に理解するには、地球そのものの経歴を調べなければならないと説き、地表だけでなく地下の構造、大気の循環、気候地域、プレートテクトニクス、大昔の気候変動などを対象として分析し、環境が人類に残した痕跡を探ろうと試みています。

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次に、松山秀明『テレビ越しの東京史』(青土社) です。著者は、建築学の学生から都市の映像学に転じた研究者であり、本書は著者の博士論文をベースにしています。ということで、タイトル通りに、戦後の東京を大雑把に20年ごとに区切って、テレビと東京との関係、すなわち、著者のいうところの首都としての東京論と東京の空間論について、p.29の三角形、テレビによる東京という放送制度論、テレビに描かれた東京、東京の中のテレビという東京空間におけるテレビの3つの視覚から歴史的に考察を加えています。もちろん、その背景にはテレビというハードウェアとそのハードウェアの普及を促すソフトウェアの提供があるはずなんですが、1959年の皇太子ご成婚と1964年の東京オリンピックをそれに当てています。ただ、ハードウェアとソフトウェアという用語は本書では用いられていません。ちなみに、私の記憶する限り、力道山をはじめとするプロレスもテレビの普及に貢献したと考えているんですが、これも著者はほぼほぼ無視しています。ハイカルでもなければ、サブカルでもないし、やや偏った印象を私は受けました。そして、もうひとつ、奇っ怪だったのはテレビドラマの見方です。TBSの「岸辺のアルバム」はいいとしても、お台場に移転したフジテレビのいわゆる月9枠のテレビドラマ、典型は「東京ラブストーリー」を、お台場というイントラ東京の地域性だけ論じようと試みています。これはいくら何でもムリがあります。バブル経済という経済的な時代背景を視野に入れずして語ることは大きな片手落ちというべきです。本書でも指摘している通り、大宅壮一の「一億総白痴化という批判を前に、お堅いドキュメンタリーやノンフィクションの報道から始まったテレビのひとつの到達点なんですがら、ここはチキンと抑えて欲しかった気がします。あと、せっかくオリンピックから始まったテレビですので、スポーツをもっとていねいに取り上げて欲しかった気がします。堺屋太一のいう「巨人、大鵬、卵焼き」にも登場するプロ野球と大相撲を無視したのは私には理解できません。ということで、これから大学教員になる私の目から見て、かなりレベルの低い博士論文だという気がします。私が主任教員であれば決して通さなかったでしょう。

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最後に、今週の読書唯一の小説で、道尾秀介『カエルの小指』(講談社) です。著者は、直木賞作家の小説家です。この作品は『カラスの親指』の続編、十数年後という位置づけです。ですから、武沢竹夫が主人公で、まひろ、やひろ、貫太郎らも登場します。繰り返しになりますが、十数年後という設定ですから、まひろがアラサー、やひろも40歳近い年齢に達しており、やひろと貫太郎の夫婦にはテツという小学生の子供も生まれています。前作の『カラスの親指』と同じように、大規模なペテンを仕掛けたように見えつつも、実は、…、という設定です。ということで、主人公の武沢竹夫は詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器に実演販売士として真っ当に生きる道を選んだんですが、謎めいた中学生のキョウがその実演販売に水を差し、未公開株式詐欺にあって呉服屋を倒産させられた祖父母や母のかたき討ちを持ち込まれて、再び派手なペテンを仕掛けようと試みます。前作と違って、そこの詐欺を糾弾するフリをしたテレビ番組も巻き込んで、大規模なペテンが始まりますが、最後の最後に、やっぱり、大きなどんでん返しが待っています。私は前作の『カラスの親指』は原作も読みましたし、石原さとみと能年玲奈が出演した映画も見て、それなりに満足しましたが、この作品は前作ほど面白くもなければ、ミステリとして出来もよくありません。何となく、国民がそのまま高齢化した日本社会の「つまらなさ」を体現しているような小説です。でも、私のような道尾秀介ファンは読んでおくべき作品といえます。

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2020年2月28日 (金)

新型コロナウィルスの影響で先行き不透明な鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計!!!

本日は月末閣議日ということで、重要な政府統計がいくつか公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月の統計です。鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で見て、前月から+0.8%の増産を示し、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.4%減の11兆7890億円、季節調整済み指数は前月から+0.6%増を記録しています。雇用統計では、失業率は前月とから+0.2%ポイント上昇して2.4%、有効求人倍率は前月から▲0.08ポイント低下して1.49倍と、いずれもタイトながら雇用は悪化のモメンタムが続いているように見受けられます。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産0.8%上昇 1月、輸出品は低調
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数速報(2015年=100、季節調整済み)は99.6と前月比0.8%上昇した。自動車などの生産が増え、2カ月連続で伸びた。ただ半導体関連などの輸出品目は低調で、19年10~11月の大幅な低下からの戻りは鈍い。2~3月も新型コロナウイルスの影響で生産計画よりも下振れする可能性が高まっている。
1月の上昇率はQUICKがまとめた民間予測の中央値(0.2%上昇)より大きかった。業種別にみると、15業種中8業種が上昇した。上昇への寄与が最も大きかったのが自動車で前月比5.5%増えた。国内・海外向けともに増産となった。一方、半導体製造装置などの生産用機械は3.4%減、汎用・業務用機械も2.8%減となった。海外向けの生産は低調だった。
1月まで2カ月連続の上昇になったとはいえ、19年10~11月に大きく低下してからの戻りは限定的だ。経産省は「足元は上昇が続いたものの勢いは感じられない」との見方を示した。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査によると、2月は前月比5.3%の上昇、3月は6.9%の低下と見込む。経産省は基調判断を前月までの「弱含み」から「一進一退ながら弱含み」に変更した。ただ調査は2月上旬時点で、新型コロナウイルスの感染拡大による影響は織り込まれていない。経産省は今後について「下振れする可能性がある」としている。
小売販売額、1月0.4%減 先行きは新型コロナ警戒感
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比0.4%減の11兆7890億円だった。マイナス幅は前の月の2.6%から縮小し、昨年10月の消費税率引き上げの影響は和らぎつつある。ただ2月以降は新型コロナウイルスの影響が出ており、経産省は「百貨店などを中心に大きな落ち込みが予想される」とみている。
減少は消費税率を引き上げた昨年10月以降4カ月連続。自動車小売業が1.7%減と引き続き不振で、全体の重荷となった。1月は例年に比べて記録的な暖冬となり、冬物衣料やエアコンの販売も伸びなかった。
業態別にみると、百貨店が前年同月比3.2%減、スーパーマーケットが0.8%減だった。どちらも暖冬で主力の衣料品の販売が不調だった。
一方、1月は家電大型専門店の販売額が0.1%増となり、増税以来初めてプラスに転じた。パソコンや大型テレビ、レコーダーの販売が好調だった。
2月以降は新型コロナウイルスの感染拡大の影響が最大の焦点となる。経産省のヒアリングでは「2月に入って訪日外国人客が来ない」「マスクを売りたくても商品がない」などの声が聞かれたという。1月時点では、ドラッグストアでマスクやウイルス除去製品の販売が増えるといった影響にとどまっていた。
求人倍率の大幅低下、製造業の生産低迷が影 1月1.49倍
堅調だった雇用情勢に変調の兆しが出始めた。厚生労働省が28日発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0.08ポイント下がり、1.49倍だった。企業の新規求人数が前年同月に比べ16%減った。同省は「求人票の記載項目を拡充した影響が出た」とみるが、製造業で契約社員のライン工が減るなど生産低迷が影を落としており、情勢判断を下方修正した。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1.50倍を下回るのは2017年5月以来だ。0.08ポイントの低下は公表時ベースで09年2月以来。正社員の有効求人倍率は1.07倍で前月から0.06ポイント低下した。
厚労省は雇用情勢について「改善が進む中、求人が求職を大幅に上回っている」とした。前月までは「着実に改善」としており、今回から「着実」を削除した。判断の下方修正は7年3カ月ぶり。
雇用の先行指標となる新規求人は主要産業全てで減った。特に落ち込みが大きいのは製造業で26.1%減だ。宿泊・飲食サービス業も20.6%減った。
厚労省は1月から企業の出す求人票に昇給や賞与制度の有無などを記載するよう拡充した。19年12月に「駆け込み求人があり、20年1月に反動減が起きた」と説明する。同省は、求人票見直しで有効求人倍率を0.05~0.06ポイント押し下げたと試算する。
ただ有効求人倍率の低下は2月も続く可能性がある。新型コロナウイルスによる中国人の旅行者の減少などに関連して「ハローワークや労働局に観光業や製造業から相談が来ており、今後を注視する」(厚労省幹部)。
総務省が合わせて発表した完全失業率(季節調整値)は2.4%で0.2ポイント上昇した。転職のための自発的な離職が増えた。

いくつかの統計を取り上げていますので長くなりましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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まず、生産は2か月連続の増産となり、前月比で+0.8%増でしたから、ややこれを上回りましたが、レンジの上限は+1.4%増でしたので、まあ、予想の範囲内ということなのかもしれません。上のグラフの通りに、一見したところV字回復に見えなくもないんですが、生産の先行きは新型コロナウィルス次第ということで、まったく不透明です。マスクについては、電機メーカーのシャープが生産に乗り出すとか、増産の勢いが強いものの、これは例外的な見立てになりますし、一般的には、需要サイドからも供給サイドからも新型コロナウィルスは生産にはマイナスの影響としか考えられません。製造工業生産予測指数によると2020年2月は前月比+5.3%の増産の後、3月は▲6.9%の減産となっていて、2月の補正値試算後の生産指数は+2.0%の増産となっていますが、調査期日が2月10日であり、新型コロナウィルスの影響については十分に織り込まれていないおそれが強く、2~3月は予測調査から下振れする公算が大きいと考えるべきであり、1~3月期は3四半期連続の減産の高3が高くなっていると私は受け止めています。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。消費の代理変数となる小売販売額を見ると、消費税率引上げの当月だった10月の前年同月比▲7.0%減から、11月は▲2.1%減、12月▲2.6%減から、今年2020年1月は▲0.4%減まで、着実にマイナス幅は縮小しました。前回2014年4月の消費税率引上げ後の動向を振り返ると、引上げ当月の4月▲4.3%減、5月▲0.4%減、6月▲0.6%減と、3か月連続マイナスを記録したものの、7月は+0.6%増とプラスに回帰しています。今回の消費税率引上げのダメージは前回の引上げ幅より小さいにもかかわらず、景気局面の違いなどから少し長引いているのかもしれません。

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続いて、いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた期間は景気後退期を示しています。ということで、失業率は2%台前半まで低下し、有効求人倍率もほぼ1.5倍くらいの高い水準を続けています。加えて、グラフはありませんが、正社員の有効求人倍率も1倍超を記録し、一昨年2017年6月に1倍に達してから、このところ2年半に渡って1倍以上の水準で推移しています。厚生労働省の雇用統計は大きく信頼性を損ねたとはいえ、少なくとも総務省統計局の失業率も低い水準にあることから、雇用はかなり完全雇用に近いタイトな状態にあると私は受け止めています。ただ、モメンタム、すなわち、方向性については、失業率も有効求人倍率も、そして、特に先行指標である新規求人数を見れば、ジワジワと雇用改善が停滞する方向にあることは確かです。何度もこのブログで繰り返して表明してきましたが、本格的な景気後退局面に入れば、雇用は急速に悪化するおそれがあります。「人口減少で人手不足」なんてステレオタイプの見方は吹っ飛ぶ可能性がありますので十分な注意が必要です。

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2020年2月27日 (木)

ダイヤモンド・オンライン「花粉症の人が多い都道府県ランキング【47都道府県・完全版】」やいかに?

いよいよ、本格的に花粉症のシーズンに突入してしまいましたが、2月25日付けダイヤモンド・オンラインに、一般社団法人ストレスオフ・アライアンスの実施による大規模インターネット調査『ココロの体力測定2019』を基にした「花粉症の人が多い都道府県ランキング【47都道府県・完全版】」がリポートされています。男女の性別になっているんですが、男性のランキングをダイヤモンド・オンラインのサイトから引用すると以下の通りです。

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実は、私は来月3月、ほぼほぼ1か月以内に東京都から生まれ故郷の京都府に引越す予定なんですが、50パーセントのトップテン内外の似たようなポジションにあるようです。沖縄県が並外れて低い比率を示しているのは、やっぱり、なにか気候的な違いがあるんだろうと想像しています。

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2020年2月26日 (水)

1次QE後の短期見通しやいかに?

先週2月17日に内閣府から公表された昨年10~12月期GDP統計速報1次QEを受けて、シンクタンクや金融機関などから短期経済見通しがボチボチと明らかにされています。四半期ベースの詳細計数まで利用可能な見通しについて、2020年半ばのの東京オリンピックの後、今年2020年いっぱいくらいまで取りまとめると以下の通りです。なお、下のテーブルの経済見通しについて詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。計数の転記については慎重を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、各機関のリポートでご確認ください。なお、"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名2019/10-122020/1-32020/4-62020/7-92020/10-12
actualforecast
日本経済研究センター▲1.6
(▲6.3)
▲0.2
(▲0.7)
+0.5
(+1.9)
+0.7
(+2.6)
+0.3
(+1.0)
日本総研(+1.8)(+2.4)(+2.3)(+1.2)
大和総研+0.3
(+1.3)
+0.6
(+2.6)
+0.3
(+1.0)
+0.2
(+0.9)
みずほ総研+0.2
(+1.0)
+0.3
(+1.3)
+0.3
(+1.4)
+0.5
(+2.1)
ニッセイ基礎研▲0.3
(▲1.0)
+0.7
(+2.9)
+0.5
(+2.2)
+0.2
(+0.8)
第一生命経済研▲0.3
(▲1.3)
+0.2
(+1.1)
+0.7
(+2.7)
+0.5
(+2.0)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2
(+0.8)
+0.3
(+1.1)
+0.5
(+2.0)
+0.2
(+0.5)
三菱総研+0.2
(+1.0)
+0.4
(+1.5)
+0.4
(+1.7)
+0.1
(+0.6)
SMBC日興証券+0.5
(+2.1)
+0.5
(+2.2)
+0.6
(+2.3)
+0.2
(+0.7)
農林中金総研▲0.0
(▲0.0)
+0.2
(+0.9)
+1.0
(+4.0)
▲0.1
(▲0.3)
東レ経営研▲0.4+0.3+0.6+0.5

各列の計数については上段のカッコなしの数字が季節調整済み系列の前期比で、下段のカッコ付きの数字が前期比年率となっています。2019年10~12月期までは内閣府から公表された1次QEに基づく実績値、今年2020年1~3月期からは見通しであり、すべてパーセント表記を省略しています。なお、日本経済研究センターのリポートでは前期比年率の成長率しか出されておらず、逆に、東レ経営研では前期比の成長率のみ利用可能でしたので、不明の計数は省略しています。ということで、見れば明らかなんですが、10月の消費税率の引上げの後の動向については、足元の1~3月期はマイナス成長予測とプラス成長予測が拮抗している一方で、目先の4~6月期はすべての機関がプラス成長回帰を予想しています。また、2020年には東京オリンピック・パラリンピックの経済効果などがありますが、最終四半期の10~12月期には息切れを見込む向きも少なくないように私は受け止めています。
我が国景気に対する私の基本的な見方は、足元の2020年1~3月期もマイナス成長を記録し、テクニカルな景気後退シグナルが発せられるとともに、景気動向指数などの指標を見るにつけ、2018年10~12月期を景気の山として、すでに我が国は景気後退局面に入っているのではないか、というものです。直近のCI一致指数のピークは2017年12月であり、鉱工業生産指数(IIP)で見ると2018年10月です。2019年3月に定年退職した私のそのあたりまでの景気の実感として、このIIPのピークの2018年10月あたりが景気の山と考えるべきではないか、という気がしています。それにしては、景気後退の落ち方のスロープが緩やかなんですが、人手不足を背景とした雇用が国民生活の安定を支えたことに加えて、東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設需要、さらに、緩和の続く金融政策が経済活動を下支えしている、といったあたりが理由と考えられます。ただ、何としても不透明な要因として、新型コロナウィルスによる肺炎の流行があります。多くのシンクタンクなどの見通しでは、4~6月期に終息し、年央は東京オリンピック・パラリンピックで景気も盛り上がり、年末にかけて息切れする、というのが基本シナリオなんですが、極論としては、ロンドンが東京の代替案として浮上しているように、新型コロナウィルスが猖獗を極めて東京でのオリンピック・パラリンピックの開催がそもそも不可能となり、一気に景気が奈落の底に突き落とされる、という可能性もゼロではありません。まあ、限りなくゼロに近いとは思いますし、東京で新型コロナウィルスが猛威を振るえば、おそらく、私の引越し先である関西方面ではもっと大規模なパンデミックに陥っている可能性が高いわけですから、何としても避けたいシナリオであることは間違いありません。
最後に、下のグラフは、ニッセイ基礎研のリポートから引用しています。実質GDP成長率の推移(四半期)です。

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2020年2月25日 (火)

1月の企業向けサービス物価(SPPI)上昇率は+2.3%に加速!!!

本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。昨年2019年10月統計から消費税率引上げがありましたので、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は1月統計で前月からやや加速し+2.3%を示しています。国際運輸を除く総合で定義されるコアSPPIの前年同月比上昇率も同じく+2.3%でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業向けサービス価格、増税除き0.6%上昇
日銀が25日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は104.7と、前年同月比で2.3%上昇した。伸び率は2019年12月(2.1%上昇)から拡大した。消費税率引き上げの影響を除くと0.6%上昇と、半年ぶりの大きさだった。環境規制強化による燃料切り替えを背景にしたコスト増で、貨物輸送が上昇した。土木建築サービスや職業紹介サービスの上昇も目立った。
前月比では0.3%下落した。テレビ広告などが下落した。
1月は新型肺炎の感染拡大の影響が明確に現れた品目はなかった。日銀は調査先からの聞き取りを踏まえ、「2月以降は旅客貨物などの運輸関連や宿泊関連サービスを中心に影響が出る可能性が聞かれている」としている。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業向けサービス物価指数(SPPI)上昇率のグラフは以下の通りです。ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上昇率がやや加速したとはいえ、先月統計から大きな変化はないんですが、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率+2.3%の内訳を大類別の寄与度で見ると、引き続き、労働者派遣サービスや土木建築サービスなどを含む諸サービスが+0.92%と大きな寄与を示しているほか、ソフトウェア開発などを含む情報通信が+0.47%、道路貨物輸送や鉄道旅客輸送などを含む運輸・郵便が+0.46%となっており、情報通信は携帯電話料金の引下げが議論されているにもかかわらず、上昇寄与が大きくなっていたりします。情報通信を別にすれば、諸サービスと運輸・郵便の2つの大類別は人手不足の影響がうかがえます。これらの業種については、純粋な値上げというよりも、消費税率引上げの転嫁が進んでいる、と考えるべきなのかもしれません。ただし、消費税を除く上昇率が試算されているんですが、消費税率引上げ直後の昨年2019年10~12月の各月統計で+0.4%となっていた一方で、引用した記事にもあるように、1月統計では+0.6%にやや加速しているのも事実です。ただ、昨年2019年5月統計まで+1.0%の上昇率を示し、消費税率引上げ直前の昨年2019年8~9月統計で+0.5%の上昇率だったのに比べて、ほぼほぼ上昇率は同じくらいの水準が続いている、のも事実です。加えて、日々の報道に見られるように、先行き最大の不透明要因は新型コロナウィルスの経済への影響であるのは明らかであり、今後の物価動向は需要サイドからは低下、供給サイドからは上昇、ということなのであろうと私は受け止めています。

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2020年2月24日 (月)

この3連休は花粉がいっぱい!!!

一昨日と昨日はかなり花粉の飛散を感じましたが、今日も含めて、この3連休は大量の花粉が飛散するようです。土曜日恒例の図書館回りを別にすれば、この3連休は基本的にインドア志向でプールで泳いだりしているんですが、昨日午後は、プールから上がった途端に明らかに花粉を吸い込んでのくしゃみが出てしまいました。下の地図は本日2月24日の花粉飛散予想で、ウェザーニュースのサイトから引用しています。

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今日もプールに泳ぎに行くんですが、抗アレルギー薬も強めのを活用しつつ、そろそろ市販の目薬から処方薬の点眼薬に切り替えたいと考えないでもありません。

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2020年2月23日 (日)

日本気象協会による「桜開花予想」は記録的な早さを予想!!!

今週木曜日2月20日に日本気象協会から「桜開花予想」が明らかにされています。日本気象協会のサイトから引用した下の桜前線の地図の通りです。

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今年のサクラの開花は、3月16日に福岡からスタートする見込みで、関東から東北では、平年より10日前後早く開花すると予想されており、全国的に平年より早く、というか、記録的な早さで開花すると見込まれています。我が家が関西に引越すよりも早くに開花し始めるのかもしれません。

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2020年2月22日 (土)

今週の読書はややペースダウンしつつも計5冊!!!

今週の読書は話題の現代貨幣理論(MMT)に関する経済書をはじめ、以下の計5冊です。既に、今日のうちに図書館回りを終えていて、そろそろ読書のペースはダウンさせつつあります。引っ越しまでそろそろ1か月くらいになりました。図書館環境が文句なしに日本一の東京から関西へ引っ越しますので、それなりにペースダウンする上に、10年近く前に経験あるとはいえ、大学教員に復帰するんですから、少なくとも1年目は大忙しだろうと思います。読書の時間は取らねばなりませんが、お仕事に必要な読書の割合が飛躍的に高まるのは当然だろうと予想しています。

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まず、藤井聡『MMTによる令和「新」経済論』(晶文社) です。著者は、京都大学の工学分野の研究者で、防災などの内閣官房参与を務めたこともあります。本書タイトルのMMTとは、もちろん、Modern Monetary Theory であり、現代貨幣理論についてレイ教授の入門書に即して平易に解説しています。要するに、MMTの肝は、インフレ率を目標関数にするのは財政政策の役割であって、世界のエコノミストの多くが思い描いているように、金融政策が物価水準を決める主要な政策ではない、という点に尽きます。MMTの理論に沿って、貨幣は国家=統合政府たる狭義の政府と中央銀行の統合体の債務であって、逆から見て民間部門の資産であり、貨幣が流通するのは国家が税金の支払いを貨幣でもって行う強制力を持っているためである、ということになります。そこから敷衍して、通貨発行権を独占する国家が債務超過に陥ったり、破綻することはあり得ない、ということになります。私はこの点までは、MMTの考えるモデルの説明であって、ここまではとても整合性あるモデルである点は認めるべきだと思います。理論的なモデルとしては十分なんですが、問題は操作性、というか、政策への応用だと私は受け止めています。すなわち、金融政策がインフレ率の決定要因となる場合、古典派的な貨幣数量説を応用すれば、極めて直感的かつ直接的な把握が可能である一方で、財政政策から物価への波及経路は極めて複雑です。基本は、需給ギャップを通じたルートなんでしょうが、波及ラグを考慮すれば、財政政策オペレーションは金融政策の公開市場操作に比べて決して単純ではありません。もっとも、私は需給ギャップだと思っていますが、本書では財政政策を通じた貨幣流通量を重視しているようです。財政赤字が大きいほどマネーストックも増加するというMMTモデルの基礎となる部分です。ただ、本書でも指摘されているように、金融政策が経済主体の経済合理的な行動を前提として、かなりの程度に間接的な政策であるのに対して、財政政策は国家としての強制力のある直接的な政策であることも確かです。ですから、ここから先は本書にはありませんが、金融政策では期待の役割を重視し、デフレマインドが払拭しきれないために、我が国でインフレ目標の達成ができない一方で、財政政策は強制力を持って税金として民間からマネーを徴収したり、逆に、国民のポケットにマネーを供給したり、といった直接的な政策手段を持ちます。特に、MMTでは歳出政策と歳入政策がほぼほぼ完全に切り離されますので、政策の自由度は大きくなりそうな気がします。いずれにせよ、MMTは本書で指摘するように、何ら理論的な裏付けない「トンデモ理論」では決してないことは、かなり多くのエコノミストに理解されて来たと思いますが、金融政策による貨幣数量説的な単純なモデルに比べて、財政政策による需給ギャップを通じた複雑な経路を経るように見えるモデルのどちらが物価への影響が大きいかは、理論的な帰結ではなく、大いに実証的な問題と私は考えます。本書で示されたMMT理論について、多くのエコノミストが理解を進めて、理論的なモデルの解説からさらに実証的な検証に進む段階に達したように私は感じています。かつてのような「非ケインズ効果」のように実証的なエビデンスが得られれば、それが、実際のデータであれ、モデルのシミュレーションであれ、その段階に達したらMMTはさらに説得力を増すと考えるべきです。

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次に、馬文彦『14億人のデジタル・エコノミー』(早川書房) です。著者は、世界最大級の中国政府系ファンド「中国投資有限責任公司(CIC)」で長らく投資を行ってきた実務家のようですが、私はよく知りません。副題は「中国AIビッグバン」となっているんですが、ほとんどAIのトピックは出て来なかったように記憶しています。まあ、私が読み飛ばしただけかもしれません。私の読書結果としては、要するに、米国のGAFAに対して中国でBATと称されるバイドゥ、アリババ、テンセント、あるいは、そのさらに先を走る次世代企業のTMD,すなわち、トウティアオ、メイトゥアン、ディディチューシンをはじめとして、企業活動を中心に据えつつ、中国のデジタル企業の現状を紹介したものです。逆に、利用者サイドの情報はそれほど充実しているとはいえません。まあ、投資活動が長かった著者のようですから、ある意味で、当然です。なお、最近私が目にしたところでは、先のBATにフアウェイを加えてBATHと語呂のいい4文字にしている例も見かけましたが、米国に制裁対象にされてやや陰りが見えるのかもしれません。ということで、、私は1年と少し前の2018年11月に国連統計委員会の会議で北京を訪問したのが中国メインランドに旅行した唯一の経験なんですが、その時点で、知り合いの大使館書記官から「タクシーは現金では乗れない」といわれたくらいに、キャッシュレス決済が普及していて、まあ、これは日本でもそうですが、あらゆる人がスマホをいじっている気がしました。私の見方からすれば、アテンション経済と称される奏、自分のデータを気軽にお安く売って、アテンションの値打ちが低い気がしないでもありません。ただ、それだけに、その裏側では、アテンションやデータを収集する企業の方は極めて高収益を上げているのは間違いありません。本書でも紹介されている通りです。GAFAと同じように、デジタル企業ではデータを収集して分析し、いろんな経済活動に活かしているわけですが、本書の明らかなスコープ外ながら、私がついつい思い浮かべてしまったのは、現在の新型コロナウィルスのデジタル経済への影響です。例えば、インターネット通販に関していえば、店舗での接触を避けられるという意味でOKそうな気もします。ただ、そもそも、「世界の工場」である中国で製造業の稼働率がかなり低下し、流通する財が品薄になれば小売りはどうしようもありません。もちろん、小売りに限らず、現在の中国はそれなりに世界の分業体制の中で、というか、流行りの用語でいえば、サプライチェーンの中で重要な位置を占め、小売りはもちろん川下産業への影響も大きくなっています。また、かえる跳びのリープフロッグ経済のデジタル分野における利点を並べていますが、逆に、別のリープフロッグに追い抜かれるリスクもあるわけで、そのあたりはイノベーション次第という気もします。最後に、第8章ではプライバシーを取り上げていて、フェイスブックのザッカーバーグCEOはプライバシー重視に路線転換を図っているようですが、中国でこそプライバシー意識が希薄、というか、プライバシーよりも天下国家の安寧秩序の方に大きな重点を置くんではないか、という気がしてなりませんでした。

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次に、青木理『暗黒のスキャンダル国家』(河出書房新社) です。著者は、共同通信ご出身のジャーナリストであり、特に、ジャーナリストとして権力の監視に熱心であり、その意味で、反権力的なバイアスを持っているように見られがちな気もします。私は、本書の著者が取りまとめたノンフィクションでは新書版の『日本会議の正体』を読んだ記憶があります。ということで、毎日新聞に著者が掲載している「理の目」と題するコラムなどから、著者のコメンタリーを収録しています。タイトルこそかなり激しい調子の印象を受けますが、中身の主張についてはかなり抑制のきいた文体で時論を展開しています。冒頭から、「ジャーナリストは反骨で当然」という趣旨の議論が展開され、権力に対するチェック・アンド・バランスという意味で、ジャーナリズムが権力を監視する意気込みを強く感じさせます。2012年年末の総選挙で政権交代があり、その後、現在の安倍政権が継続しているわけですが、その総選挙後だけでも、特定秘密保護法・安全保障法制・テロ等準備罪法の強行姿勢から始まって、本書のタイトルとなっているスキャンダルについては、森友・加計学園の問題を筆頭に沖縄県辺野古への米軍基地移設、東北地方などへのイージス・アショア配置問題、改元に伴う元号のあり方への疑問、現在の国会論戦で展開されている桜を見る会の招待客問題、あるいは、高検検事長の定年延長問題などなど、あれやこれやとにわかには信じられない政権の暴挙が一強政権下で連続しています。もちろん、現政権の目指すところは憲法改正であることは明確です。こういった流れの中で、私のようなエコノミストの目から見て、本書でも安倍政権が経済政策を全面に押し出して選挙で勝利したような表現が見受けられましたが、やっぱり、現政権の横暴を許さないためには選挙でのプレッシャーが必要ではないかという気がします。決して、本書が「上から目線」とは思いませんが、国民生活に密着してお給料が上がって豊かな消費が楽しめるような政策を打ち出せないと、左派リベラルは選挙で負け続けて、経済を全面に打ち出して選挙に強い現政権が、経済政策だけでなく安全保障などをひっくるめてすべての政策を支配しかねません。正面から言論で政権批判を展開するのも結構ですが、国民目線で豊かな生活につながって、それが現政権への監視に役立つような政策の提示も、同時に必要ではないでしょうか。本書では、現政権の究極の目標であろうと推察される憲法改正について何も取り上げていないに等しいのも気がかりですし、何を差し置いても、選挙で負け続けては改憲を防げないという点は強調しておきたいと思います。

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次に、ジョナサン・シルバータウン『美味しい進化』(インターシフト) です。著者は、英国エディンバラ大学の進化生態学の研究者です。本書の英語の原題は Dinner with Darwin であり、2017年の出版です。ヒトや動物の進化とともに、また、調理の発展とともに、ヒトと食べ物の関係がどのように変化して来たのかを歴史的にひも解こうと試みています。すなわち、150万年前に初めて料理したとされるヒトの進化の方向付けには食習慣が大きく作用していたことは明らかとしても、同時に、ヒトの食べ物になった品種も進化してきたわけで、身近な食べ物を材料に食べる方と食べられる方の両方の生物学的な進化を読み解こうと試みています。私にははなはだ専門外なんですが、進化や生物学の見方からすれば、わずかの数の遺伝子の並びがホンの少し違うだけで味覚が異なるのはあり得ることなのでしょうし、また、ヒトやほかの動物の味覚に合わせて、食べられる方の主として植物がその繁栄を目的として進化を遂げたりする様子が、とてもリアルかつ判りやすく活写されています。動物はともかく、ヒトは狩猟生活から、あるいは、生肉を食べる狩猟生活から熱を加えて調理する狩猟生活に移り、さらに、農耕生活に発展するわけですが、そのあたりの料理や調理とヒトの共進化が、私のような専門外のシロートでも「なるほど」と思わせるように描き出されています。私は関西の出身で、よく「何か食べられないものはあるか?」と問われて、辛いものが苦手である旨を伝えることがしばしばあるんですが、鳥は辛さを感じないなんて、まったく知りませんでした。ただ、やっぱり、というか、私なんぞから見てもっとも興味深かったのは、第10章 デザート から始まって、第11章 チーズ と第12章 ワインとビール だった気がします。やや順番を入れ替えて、チーズはマイクロバイオーム、すなわち、膨大な数の最近の塊であるといい切り、よく乳糖不耐症は人類の過半を占めるといわれますが、乳糖を分解できる酵素を持たなくても、牛乳の有益な成分を体内に取り込むことのできる食物と指摘しています。そして、何といっても醸造酒の代表であるビールとワインについては、アルコール中毒になる人、ならない人についての解説も詳しかったですし、人類がアルコール飲料からいかに多くの示唆を得てきたかが実感されます。でも、やっぱり、ある意味で最高のエネルギー源である糖類について、デザートを取り上げた10章も深みを感じさせました。エネルギー源としての魅力を増すため、別の表現をすれば、ヒトを引き付けるために甘くなったのか、それとも、エネルギー源として望ましい故に甘く感じつようにヒトの方が進化したのか、たぶん、後者だろうと思うんですが、甘いものを求めるヒトの欲求というのは、私にもよく理解できます。本書では現れませんが、ヒトの両性の中でも男性よりも女性の方が甘いものを好むのは、ひょっとしたら、子供を産むという役割にそれだけ重要性を置いているのかもしれない、と感じたりしました。

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最後に、田村秀『データ・リテラシーの鍛え方』(イースト新書) です。著者は、旧自治省の公務員から学界に転じた研究者のようです。ただし、データ分析、というか、統計や計量の専門家なのかどうかはやや疑問です。ネット・アンケートやランキングについて疑問を呈しつつ、さらに、データを用いた表現振りから真実を見抜く方法、最後に、データ・リテラシーの鍛錬まで、データや情報に関する幅広い話題を取り上げています。ただ、データの信憑性については、「無作為抽出ではない」という点に最大の力点が置かれており、無作為抽出ではないデータや情報を否定するばかりで、そういったバイアスのかかったデータをどう理解すべきか、という踏み込んだ論考はなされていません。もちろん、新書ですから、そのあたりは限界かという気もします。後半の投資案件の表現振りへの批判もご同様で、章タイトル通りに、「うまい話」には裏があるというのは、それなりの教養ある常識人には判っていることですから、さらに踏み込んで、そういったカラクリを見抜くだけでなく、どういったデータや情報が役立つのかを解き起こして欲しい気がします。データや情報の選択や解釈に関する書物は巷に溢れていますが、本書についてはややレベルが低い、という気がしました。逆に、入門編として手に取る向きにはいいのかもしれません。その意味で、高校生レベルにはオススメかもしれません。

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2020年2月21日 (金)

1月の消費者物価(CPI)はエネルギー価格が上昇に転じて37か月連続のプラス!

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から少し拡大して+0.8%を示しています。また、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+0.8%でした。いずれも、消費税率引上げの影響を含んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の全国消費者物価、0.8%上昇 ガソリン上がる
総務省が21日発表した1月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が102.0と前年同月比0.8%上昇した。プラスは37カ月連続。材料費や人件費の高止まりを背景とした外食などの上昇に加え、ガソリン価格が8カ月ぶりにプラスに転じたことも物価上昇に寄与した。1月中旬時点の調査結果のため、新型コロナウイルス感染症の影響は「見られなかった」(総務省)という。
上昇率は2019年12月の0.7%から、小幅に拡大した。原油価格の上昇でガソリンや灯油の価格が上昇に転じた。もっとも、足元で原油価格は下落傾向にあり、総務省は「今後の動きを注視したい」とした。携帯電話の通信料は大手各社の値下げの影響で、引き続き物価の下げ圧力となった。
1月の生鮮食品を除く総合では388品目が上昇した。下落は110品目、横ばいは25品目だった。総務省は「緩やかな上昇が続いている」との見方を据え置いた。
1月の全国CPIで、生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は101.9と0.8%上昇した。生鮮食品を含む総合は102.2と0.7%の上昇。暖冬の影響で、タマネギやブロッコリーなどの生鮮野菜の出荷水準が高く、野菜価格が高騰していた19年1月に比べると「価格が下がっている」(総務省)という。
総務省は昨年12月の消費税率引き上げの影響を配慮したCPIの試算値も公表した。総務省の機械的な試算によると、消費税率引き上げと幼児教育・保育無償化の影響を除いた場合、1月の生鮮食品を除く総合の物価上昇率は19年12月と同じ0.4%だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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ということで、昨年2019年の10月統計から消費税率の引上げと幼児教育・保育無償化の影響が現れており、これを含んだ結果となっていて、引用した記事にもあるように、その影響の試算結果が「消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響 (参考値)」として総務省統計局から明らかにされています。少し話がややこしいんですが、この参考値によれば、10月統計について、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIのヘッドライン上昇率+0.4%に対する寄与度が+0.37%となっていて、その+0.37%に対する消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響が合わせて+0.20%、分けると消費税率引上げが+0.77%、幼児教育・保育無償化が▲0.57%と、それぞれ試算結果が示されています。1月統計ではコアCPI上昇率が+0.8%と少し上昇幅を拡大しているものの、このコアCPI上昇率+0.8%のうちの+0.20%が制度要因からの寄与と考えるべきです。実際に、統計局がExceelファイルで提供している消費税調整済指数では、10月と11月は消費税の影響を除くコアCPIの前年同月比上昇率はともに+0.2%でしたが、12月統計と1月統計では+0.4%にやや加速しています。このコアCPI上昇率の加速の大きな要因はエネルギーであり、かなりの程度に、国際商品市況における石油価格に連動しています。ただし、生鮮食品及びエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も12月と1月統計では+0.6%に達しています。先行きについては、新型コロナウィルスの動向が何とも不透明です。ウィルスそのものの動向が不透明なうえに、ウィルスの影響についても未確定です。常識的に考えれば、需要の減退から需給ギャップがマイナス方向に振れて物価引下げ要因になると考えられますが、「世界の工場」の中国が震源地であり感染拡大の中心ですから、何らかの財のサプライチェーンにおけるボトルネックの発生から物価上昇につながるリスクも無視できません。加えて、これまた、新型コロナウィルスの影響なんですが、その前に1月の石油価格の上昇は、米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことにより、中東の地政学的リスクに起因するわけで、それはそれで一時的に収束する一方で、新型コロナウィルスによる中国経済の停滞は石油価格を押し下げる要因となります。ですから、エネルギー価格が我が国物価を押し上げたのは1月だけの一時的な現象と考えるべきで、2月以降はむしろ新型コロナウィルスによりエネルギー価格は下落に向かい、そのため、我が国物価の下押し要因となる可能性が高い、という予測が多いように私は受け止めています。例えば、日本総研のリポート「新型肺炎による原油市場への影響をどうみるか」、あるいは、みずほ証券のリポート「マーケット・フォーカス 商品: 原油・金・銅」などでは、新型コロナウィルスによる中国の原油需要の下振れとそれに伴う原油価格低下の可能性を示唆しています。さらに加えて、4月からは高等教育無償化が始まり、いっそうの物価引下げをもたらしかねませんから、日銀の物価目標達成はまだまだ先のことかもしれません。

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2020年2月20日 (木)

2020年大統領選挙の年の米国民の政策優先順位はどうなっているか?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、ちょうど1週間前の2月13日付けで米国の世論調査機関であるピュー・リサーチ・センターから As Economic Concerns Recede, Environmental Protection Rises on the Public's Policy Agenda と題する調査結果が明らかにされています。堅調な経済動向を反映して、依然として経済がトップ・プライオリティながら後景に退き、環境保護や気候変動に政策の優先順位が移りつつあるようです。いくつか図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、ピュー・リサーチのサイトから For the first time, environmental protection rivals the economy among the public's top policy priorities と題するグラフを引用しています。実にウィットに富んだタイトルを付けたもので、経済が好調であるがゆえに政策の優先順位を下げ、プライオリティを上げた環境が経済に肩を並べるほどになっているのが見て取れます。クリントン米国政権期の "It's the economy, stupid!" はまだ何とか成り立っているものの、少しずつ経済政策や雇用確保の重要性は低下しているのかもしれません。

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次に、上のグラフは、ピュー・リサーチのサイトから Wide partisan gaps on climate change, environment, guns and stronger military と題するグラフを引用しています。現在のトランプ米国政権下で米国の分断はさらに大きくなり、環境や気候変動、さらに、銃政策などのプライオリティで大きな党派間の差が生じているのが見て取れます。

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最後に、上のグラフは、ピュー・リサーチのサイトから Environment a top priority for younger adults; older Americans prioritize defense, Social Security と題するテーブルを引用しています。党派間だけでhなく、年代別でも政策プライオリティに差を生じており、65歳以上世代と30歳未満世代の差が計算されています。高齢世代では軍事や社会保障が重視され、若い世代では教育、気候変動、環境の重要性が認識されているようです。

さて、いくつかの州で政党の予備選が始まっていて、米国大統領選挙戦はスタートしているといっても過言ではありません。2期目の現職が強いのは通例としても、どのような選挙戦が展開されるのでしょうか。私もそれなりの興味をもって見ています。

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2020年2月19日 (水)

中華圏の春節で赤字が膨らんだ貿易統計と相変わらず低空飛行の続く機械受注!

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から昨年2019年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計では季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲2.6%減の5兆4305億円、輸入額も▲3.6%減の6兆7431億円、差引き貿易収支は▲1兆3126億円の赤字を計上しており、機械受注のうち変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲12.5%減の8248億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

1月の貿易収支、1兆3126億円の赤字 3カ月連続赤字
財務省が19日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆3126億円の赤字だった。赤字は3カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆6819億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比2.6%減の5兆4305億円、輸入額は3.6%減の6兆7431億円だった。中国向け輸出額は6.4%減、輸入額は5.7%減だった。
19年12月の機械受注、前月比12.5%減 市場予想は8.8%減
内閣府が19日発表した2019年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比12.5%減の8248億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は8.8%減だった。
うち製造業は4.3%増、非製造業は21.3%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は3.5%減だった。
内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いた。
19年10▲12月期の四半期ベースでは前期比2.1%減だった。1▲3月期は前期比5.2%減の見通し。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

やや長くなりましたが、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、中央値で▲1兆7046億円の貿易赤字が予想されていましたので、▲1兆円超の貿易赤字とはいえ、まずまず、大きなサプライズをもたらしたわけではありません。ただ、上の輸出入のグラフ、特に下のパネルの季節調整済の系列でトレンドを見ると、明らかに輸出入ともに減少のトレンドにあります。特に、1月統計では中華圏の春節による工場停止などの供給サイドへの影響とともに、極めてわずかながら、新型コロナウィルスの影響が需要サイドに出始めていると考えるべきですし、2月統計にはさらに大きなインパクトがもたらされるのは当然です。中華圏の春節について考えると、各企業は当初は1月24~30日を春節期間として見越して1月中旬までに輸出を終えた影響が大きいと私は考えています。というのも、新型コロナウィルスが明らかになったのは1月末日の31日であり、より大きく本格的な影響が出るのは2月ということになります。さらに、当初は1月30日で終わるハズだった春節が、公式に2月2日まで休暇が延長され、さらに、日系企業を始めとする多くの大手企業は2月9日まで工場やオフィスを閉鎖したところも少なくないわけで、再開後も本格稼働に至っていない企業もあるのは当然です。中国への依存が大きい我が国の貿易は、輸出入ともに停滞を見せることが十分予想されます。

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続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、世界経済とともに中国の景気も最悪期を脱し、これから上向きになろうかという矢先の新型コロナウィルスですので、繰り返しになりますが、ダイレクトに中国向けだけでなく、中国向け輸出比率の高いアジア諸国向けの輸出も、我が国では当然に欧米諸国などよりも割合が高く、輸出を通じた日本経済へのダメージは少なくないものと考えます。中国向けの直接の輸出だけでなく、加えて、サプライチェーンの中で中国の占めるポジションからして、部品供給の制約から貿易への影響を生じる可能性も無視できません。欧米向け輸出についても、OECD先行指数を見る限り最悪期を脱したと考えられますが、中国経済の変調に連動する部分もあり得ることから、今後の動向は不透明です。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。これも、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月比▲8.3%減でしたから、実績の▲12.5%減はレンジ加減に近く、やや大きなマイナスという印象です。引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いています。12月統計でも明瞭に特徴が現れているように、製造業は新型コロナウィルスの影響を別にすれば、というか、まだ12月統計には影響が現れていませんので、下げ止まりの兆しあるものの、非製造業では緩やかな減少が続いています。また、コア機械受注を四半期でならしてみて、2019年10~12月期は前期比▲2.1%減となり2四半期連続の減少を記録しましたが、2020年1~3月期の見通しは▲5.2%減と、いっそうの減少が見込まれています。ただ、この1~3月期の見通しは、12月末時点の情報に基づいており、内閣府でも新型コロナウイルス感染症の影響はほぼ織り込まれていない、と見ているようですから、さらに下振れする可能性も十分あります。貿易と同じことで、産業や企業ごとの中国のサプライチェーンに占めるポジション次第では、よりダメージが大きくなることも覚悟せねばならないかもしれません。

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2020年2月18日 (火)

ダイヤモンド・オンライン「都道府県『生活満足度』ランキング」やいかに?

3月の引越し先について、生まれ育った京都府南部を中心に考えているところですが、昨日2月17日付けのダイヤモンド・オンラインの記事で「都道府県『生活満足度』ランキング」が報告されていました。ダイヤモンド・オンラインのサイトから引用した以下のテーブルの通りです。

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昨年11月と12月にも、各種の都道府県ランキングが同じダイヤモンド・オンラインで明らかにされており、2019年11月19日に「都道府県『幸福度』ランキング」が、2019年12月25日に「住み続けたい都道府県ランキング」が、それぞれ掲載されています。前者の「幸福度」ランキングでは京都府は11位ながら、後者の住み続けたいランキングでは京都府は6位につけています。ほかに、余り経済とは関係ないながら、「地元民が自慢できる」とか、「魅力度」とか、「食事がおいしい」といった都道府県ランキングもダイヤモンド・オンラインで掲載されており、京都府はいずれもトップテンに入っているようです。

人生の終末期、とまでいかないとしても、定年退職後の第2の人生を送るに当たって、こういったランキングを見ていると、関西、特に京都に回帰するのがとても楽しみです。

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2020年2月17日 (月)

消費税率の引上げで大きなマイナス成長を記録した昨年2019年10-12月期のGDP統計1次QE!!!

本日、内閣府から昨年2019年10~12月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲1.6%、年率では▲6.3%と消費税率引上げ直後のため大きなマイナス成長でした。5四半期振りのマイナス成長です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10-12月期GDP、年率6.3%減 5四半期ぶりマイナス
内閣府が17日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.6%減、年率換算では6.3%減だった。5四半期ぶりにマイナス成長に転じた。19年7~9月期は年率換算で0.5%増だった。消費増税前の駆け込み需要の反動減が響いたほか、大型台風や暖冬による消費の伸び悩みも重荷となり、年率でのマイナス幅は14年4~6月期(7.4%減)以来の大きさだった。QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比1.0%減で、年率では3.9%減だった。 生活実感に近い名目GDPは前期比1.2%減、年率では4.9%減だった。名目でも5四半期ぶりのマイナス成長となった。
実質GDPの内訳は、内需が2.1%分の押し下げ効果、外需の寄与度は0.5%分のプラスだった。
項目別にみると、個人消費が実質2.9%減と5四半期ぶりのマイナスとなった。10月からの消費増税を背景に購買意欲が鈍り、個人消費を押し下げた。
設備投資は3.7%減と3四半期ぶりのマイナスだった。民間在庫の寄与度は0.1%のプラスだった。
住宅投資は2.7%減と2四半期ぶりのマイナスとなった。公共投資は1.1%のプラスだった。
輸出は0.1%減だった。米中貿易摩擦のあおりを受けた世界経済の減速などを背景に2四半期連続でマイナスとなった。輸入は2.6%減と3四半期ぶりのマイナスだった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス1.3%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.7%のプラスだった。
同時に発表した19年通年のGDPは実質で前年比0.7%増、生活実感に近い名目で1.3%増だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2018/10-122019/1-32019/4-62019/7-92019/10-12
国内総生産GDP+0.5+0.6+0.5+0.1▲1.6
民間消費+0.4+0.0+0.6+0.5▲2.9
民間住宅+1.7+1.5▲0.2+1.2▲2.7
民間設備+4.3▲0.5+0.8+0.5▲3.7
民間在庫 *(▲0.0)(+0.2)(▲0.1)(▲0.2)(+0.1)
公的需要+0.3+0.1+1.7+0.8+0.4
内需寄与度 *(+1.0)(+0.2)(+0.8)(+0.4)(▲2.1)
外需寄与度 *(▲0.4)(+0.5)(▲0.3)(▲0.3)(+0.5)
輸出+1.6▲1.9+0.4▲0.7▲0.1
輸入+4.3▲4.3+2.0+0.7▲2.6
国内総所得 (GDI)+0.3+1.0+0.4+0.3▲1.5
国民総所得 (GNI)+0.5+0.8+0.5+0.2▲1.6
名目GDP+0.1+1.2+0.5+0.5▲1.2
雇用者報酬 (実質)+0.4+0.5+0.8▲0.4▲0.3
GDPデフレータ▲0.6+0.1+0.4+0.6+1.3
国内需要デフレータ+0.2+0.3+0.4+0.2+0.7

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10チルダ12月期の最新データでは、前期比成長率が大きなマイナスを示し、内需の赤の消費と水色の設備投資などがマイナスの寄与を示している一方で、黒の外需(純輸出)がプラスの寄与となっているのが見て取れます。

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先週金曜日に取り上げた1次QE予想では、マイナス成長は確実なるも、季節調整済み系列で見た前期比年率で▲3~4%くらいのマイナス幅が予想されていましたが、実績はこれらの市場の事前コンセンサスを下回り、年率▲6%を超える大きなマイナス成長でした。もちろん、主として10月からの消費税率引上げの影響ですから、公的需要を別にすればほぼほぼ内需項目は大幅マイナスとなっています。インパクトをやや大きく見せるために、季節調整済みの系列の前期比年率で示せば、消費が▲11.1%、設備投資が▲14.1%、住宅投資が▲10.4%と主要な民間内需項目が軒並み2ケタ減を記録しています。逆に、外需、というか純輸出はプラスの寄与となっているんですが、これも輸出入とも減少しつつ、内需の減少に起因する輸入減の方が大きいための外需寄与プラスですので、ややトリッキーな要因が大きいと私は感じています。ただ、消費税率引上げだけではなく、全国紙夕刊の報道ではキチンと伝えていたようで、私は10月上旬の例の新幹線まで止めた台風19号の影響が大きかった、と考えています。根拠は2つあり、第1に、直前7~9月期の駆込み需要がそれほどでもなかったのに比較して、10~12月期の落ち込みが大き過ぎます。第2に、消費税にはニュートラルと見なせる設備投資まで大きな減少を見せている点です。おそらく、素直に駆込み需要の反動減が現れたのは住宅投資だけではないか、という気すらします。ということで、内外需枕を並べて全部マイナス寄与、というわけではないものの、内需のマイナスが大きい故の外需寄与度プラスです。ですから、この10~12月期のGDP統計はもはや「過去の数字」という受け止めのエコノミストも少なくないようで、むしろ、足元の1~3月期から先行きの見通しが重要となります。特に、足元1~3月期もマイナス成長ということになれば、テクニカルな景気後退シグナルと受け止める報道も出る可能性がありますし、あわせて、1~3月期も低空飛行であれば消費税率引上げの影響が大きかった、ということが事後的に確認される可能性があります。そうでなければ、台風19号の影響も無視できない、ということになりそうですし、加えて、2月が29日まである「うるう年効果」も注目されます。しかし、それにしても、何とも大きな不確定要素が新型コロナウィルスです。一般的に便利な用語の「想定外」とともに、エコノミストには「経済外要因」という業界特有のさらに便利な言い回しもあったりするんですが、少なくとも私には先行き不透明としかいいようがありません。いずれにせよ、こういう時こそ、政府支出が短期的に需要を下支えする必要があります。

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続いて、上のグラフは、価格の変動を取り除いた実質ベースの雇用者報酬及び非居住者家計の購入額の推移をプロットしています。雇用者報酬の伸び悩みが始まっているように見えます。10~12月期は消費税率引上げによりデフレータも上昇して実質所得はさらに停滞を見せたと考えるべきです。加えて、インバウンド消費も、さすがに、まだ新型コロナウィルスの影響は現れていないタイミングながら、韓国との関係悪化などを背景に、伸びが大きく減速しています。消費者マインドは少しずつ改善の兆しを見せていますが、まだ、賃金が増えて消費者マインドが上向くタイミングに達したとは考えられません。繰り返しになりますが、新型コロナウィルスの感染拡大とそれに伴う経済への影響次第ですが、目先の景気後退は避けられる可能性は十分あるものの、政府の対策が渋ければトンネルが長くなりそうな気もします。

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2020年2月16日 (日)

引越しと転職に際してイメージチェンジを考える?

3月中に関西に引越して、4月から新しい職場に転職、というか、再就職するに当たって、イメージチェンジを考えないでもありません。というのも、下の倅は大阪に引越して大学生になるに際して、特段の変化は見せなかったんですが、上の倅は大学を卒業して就職する際、髪型を変えてメガネもコンタクトに変更したりしていました。もちろん、服装も出勤の際は、私は見たことありませんが、スーツにネクタイなんだろうと思います。
ということで、私もイメチェンを考えると、まず第1に、髪型です。実は数年前に、役所の後輩が、やっぱり、大学の教員になる直前に髪を丸刈りにしたことがありました。それなりの年齢に達して髪の毛が細くなったり、やや薄毛になったりするのはあり得ることで、一時、役所の研究所で丸刈りにする男性が何人か出たのも事実です。しかし、私は60年余りの生涯で未だかつて頭を丸刈りにしたことがなく、抵抗が大きいと感じました。もちろん、長髪も想定外です。第2に、髪型と同じような顔の造作を考えて、ヒゲはどうかという気もしました。しかし、これも10年余前に試みた経験があるんですが、私の場合、髪の毛について頭頂部が薄くなってはいるものの、まだかなり黒っぽく見える一方で、10年余前ですらヒゲはほとんど白髪でした。従って、これも諦めた方がよさそうな気がします。第3に服装です。実は、10年近く前まで私は統計局で本省課長を務めており、その際は、通常のサラリーマン的なスーツにネクタイでした。でも統計局勤務を終え、国立の研究機関を経て親元官庁の研究所に戻って、最終的に定年退職するまで研究職が長く、すっかり、ズボンは細身のチノパンで、トップスは、アイロンもかけないヨレヨレのオックスフォードのボタンダウシャツにノーネクタイ、それにユニクロあたりのソフトジャケットを羽織る、というスタイルになってしまいました。クツもその昔のリーガルのビジネスシューズではなく、さすがにスニーカーではないものの、適当な合成皮革のカジュアルシューズを愛用しています。平気で役所にデザートブーツを履いていったりします。大学教員であれば、ジーンズにスニーカーでもOKそうな気がしますから、さらにドレスダウンする余地は残されているものの、大きな変化でもなさそうです。
従って、見た目の変化は大きくなさそうなんですが、ひとつふたつ、プールで泳ぐ際のスイムキャップは、トリコットからシリコンゴム製に買い替えました。見た目の変化とともに、髪の毛へのダメージを小さくしたいと考えています。それから、年齢とともに腰痛や肩こりがひどくなり、今までリュックを片肩だけでかけていたのを、両肩にかけるようにしようとも考えています。ともに小さな変化です。しかし最後に、見た目ではないんですが、言葉がネイティブの関西弁に戻りそうです。というのも、私は独身のころ浅草にほど近い大関横丁や三ノ輪橋あたりのアパートを借りていて、チャキチャキの下町言葉を駆使します。意識しないと「まっすぐ」とはいえず、「まっつぐ」になってしまいます。言葉は生まれ故郷の関西に引越せば、関西弁にムリなく戻りそうな気がします。

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2020年2月15日 (土)

今週の読書は忙しい中でやや毛色の変わった経済経営書から小説まで計7冊!!!

1年近く前に一線のキャリア公務員を定年退職したにもかかわらず、ここ数年来でトップクラスの多忙さを極めています。というのも、4月から雇ってもらう私学から人事関係の手続き書類の提出を求められるとともに、授業のシラバスについては経済学部から1月の入力を求められていたにもかかわらず、私のミスにより今週から来週にかけて、もう一度アップせねばなりません。そろそろ、不動産の売買も佳境に入りつつあり、他方で、その昔の私の研究成果を大学院で研究したいという知り合いからの要請にも応え、結局のところ、現在のパートお勤めのお仕事が手につかずに人任せになっているのが現状です。といいつつ、実は以下のように今週も7冊ほど読書が進んでいたりします。でも、レビューはごくごく短めに済ませておきたいと思います。

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まず、中山淳雄『オタク経済圏創世記』(日経BP社) です。著者はコンサルタント会社の役員のようです。経済よりは経営という観点かもしれません。ということで、オタク文化・経済ということながら、冒頭で、2019年4月に我が国プロレスが米国ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンの会場を満員にした、という事実から始まっています。でも、プロレスは米州大陸、米国やメキシコから日本に輸入された文化ではないのか、という疑問が芽生えました。でも、その後は基本的にアニメ、というか、マンガ・アニメ・ゲームの三位一体で売り込むオタク経済のお話です。ドラゴンボールやポケモンが典型でしょう。ただ、アニメだけながら、ジブリのように日本独自の文化や経済を形成している場合もあります。なかなかにまじめに読ませます。

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次に、パラグ・カンナ『アジアの世紀』上下(原書房) です。著者は、インド出身の国際政治や外交などの研究者です。ということで、アジアの世紀なんて、もう言い古されたフレーズだと思っていたんですが、今までは多くは中国の経済的な体等に触発されて、世界の経済的な重心が欧米からアジアや太平洋に移行してきている事実を指摘するにとどまっていましたが、本書では、少なくとも中国だけでない多様なアジアについて、しかも、経済中心ながら経済にとどまらずに幅広いトピックを取り上げています。ですから、経済的な生産力、特に、中国を中心とする製造業の生産力や資源、あるいは、人的なマンパワーだけでなく、宗教や文化、さらに、様々な終刊に至るまで膨大なファクトを積み重ねています。

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次に、大村大次郎『信長の経済戦略』(秀和システム) です。著者は表紙画像にある通り、元国税調査官ということのようです。決してマルクス主義的な経済学が背景にあるとも思えませんが、織田信長の経済的な基礎を考察し、信長が天下統一に向かったのは、交易による財政的な基盤が強く、兵農分離を果たして常備軍を整備したためである、と結論しています。史料の分析にははなはだ不安あるものの、その後の楽市楽座政策とか、経済的な基盤が兄弟であった比叡山をはじめとする宗門との対立を考えに入れれば、納得できる仮説のような気もします。ただ、そこから飛躍して、信長以外の戦国武将に天下統一の意志がなかったので、一国経営に専念したため信長が抜きん出て天下統一を果たした、という観念論に陥っているのは理解できません。

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次に、林香里[編]『足をどかしてくれませんか。』(亜紀書房) です。先週の読書感想文でも男女のジェンダー問題を取り上げた読書を紹介しましたが、とても小規模なものながら、ダイバーシティやフェミニズムはややマイブームになっている感があります。ただ、私自身はいわゆる「ハマる」ということのない人間だと自覚はしています。本書はジェンダーの問題を、かなり狭い範囲で、メディアに関係する女性からの発信の問題として取りまとめられています。メディア業界以外にも、もちろん、大いに発展させることのできるトピックなんですが、ここまでメディア業界に特化しては、TBSの女性記者が誹謗中傷されたように「売名行為」という非難も巻き起こしかねない危惧はあります。何といっても、女子アナは極めて限られた人々であって、私のような世間の一般ピープルはサラリーマンやOLが多いのではないでしょうか?

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最後に、ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム6 死すべき女』上下(早川書房) です。スティーグ・ラーソンからダヴィド・ラーゲルクランツが書き継いで、とうとう全6部のシリーズが完結です。リスベットとミカエルの2人が、もちろん、最終的に勝利しますが、本書では、とうとうスウェーデンの大臣が主要登場人物の1人となり、エベレスト登頂や二重スパイなど、かなり複雑なストーリー展開になっています。どうしても、欧米系の人名に馴染みがなく、人的な相関図が頭に入り切らずに、やや散漫な読書になってしまいましたが、そのうちに、時間を作って一気に全6巻を読むような読書が必要なんだろうと気づかされました。でも、さすがに最後は圧巻でした。

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2020年2月14日 (金)

昨年2019年10-12月期の1次QE予想はマイナス成長確定か?

1月末の鉱工業生産指数(IIP)の公表などを終えて、ほぼ必要な指標が利用可能となり、来週月曜日2月17日に昨年2019年10~12月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定です。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。消費税率の引上げ直後ですので、当然のように10~12月期はマイナス成長ながら、可能な範囲で、足元から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。今回は、新型コロナウィルスに注目が集まっています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲1.0%
(▲3.9%)
2020年1~3月期を展望すると、消費増税や台風などによる一時的影響が剥落するにつれて、消費・生産活動は持ち直す見込み。堅調な所得環境、世界的なIT需要の回復など、内外景気のファンダメンタルズは上向き方向。もっとも、新型肺炎に伴う訪日中国人の大幅減少により、成長率は前期比ゼロ近くまで下振れる可能性。
大和総研▲0.9%
(▲3.5%)
先行きの日本経済は、潜在成長率を若干下回る低空飛行を続ける公算が大きい。
個人消費は、消費増税前の駆け込み需要の反動減が緩和することで、2020年1-3月期は持ち直すとみられる。消費増税に伴う物価上昇による家計の購買力低下は消費の下押し要因となるものの、当面は各種経済対策の効果もあり底堅く推移すると考えられる。ただし、多くの経済対策は時限付きのものであるため、春以降は段階的に対策効果が剥落し、消費がいくらか抑制されることで一進一退での推移になるとみている。
住宅投資は、駆け込み需要の反動減による緩やかな減少が続いた後、横ばい圏で推移するとみている。消費増税に伴う各種住宅購入支援策が住宅投資を下支えする一方で、住宅価格が高水準にあることは住宅投資の下押し要因となるだろう。
設備投資は緩やかな増加を見込んでいる。人手不足に対応した合理化・省人化投資や、研究開発投資は拡大基調が続くとみている。また、2019年12月に策定された経済対策も ICT投資等の追い風となるだろう。ただし、世界経済の不透明性の増大が企業の設備投資を慎重化させる可能性にも細心の注意が必要だ。
公共投資については、前述した「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018年12月閣議決定)や「安心と成長の未来を拓く総合経済対策経済対策」(2019年12月閣議決定)が押し上げ要因となる。ただし、公共投資は既に高水準にあり、建設業の人手不足や資材価格の高まりを踏まえると執行ペースを上げにくい状況にあることから、先行きは横ばい圏での推移が続くとみている。
輸出は、地域ごとに濃淡はあるものの、当面は足踏みが続くとみている。アジア向け輸出は半導体需要の回復を背景に緩やかな増加基調を維持する一方、米国、EU向けは足下の景気の減速を受け、横ばい圏での推移が続くだろう。足踏みの後は、世界経済の回復に伴い緩やかに持ち直すとみている。
なお、新型肺炎の影響には警戒が必要である。仮に中国人訪日客が100万人(10%)減少すると、波及効果を含めて、日本のGDPは2,500億円程度押し下げられる。このほか、中国の消費や生産活動が落ち込むことで日本の対中輸出が減少したり、中国に進出している日本企業のサプライチェーンが混乱したりすることも想定される。さらに、他国の経済活動が停滞することで中国向け以外の輸出が減少するといった間接的な影響にも注意が必要だ。
みずほ総研▲0.9%
(▲3.5%)
2020年の日本経済は、年前半にかけては弱い伸びに留まり、回復は年後半に入ってからになる見通しだ。年前半は世界経済が回復に至らないなか、自動車や資本財などを中心に輸出は伸び悩むとみている。輸出の回復が見込めない中では製造業の業況も持ち直すには至らず、雇用・所得は伸び悩み、個人消費の増税の反動減からの回復も弱いだろう。設備投資は、省力化ニーズなどからソフトウェア投資は堅調に推移するとみているが、足元の受注状況を見る限り、機械投資は横ばいとなるほか建設投資は弱含み、総じてみれば 横ばい圏になるだろう。
さらに足元急拡大しているコロナウィルスによる中国経済減速が、日本にも影響を及ぼす可能性が高まっている。中国からの訪日来客数低下や日系現地メーカーの生産調整にともなう企業収益の下押しなどの直接的な影響に留まらず、中国国内の消費低迷による消費財輸出の低下、現地での生産調整による中国向け部材輸出の下押しなど間接的な影響もでてくると考えられる。影響のインパクトや期間の不透明感が高いが、前回SARS(2003年)の経験を踏まえれば、正常化するには数か月程度かかる可能性が高い。日本経済の回復は、中国経済が正常化し、世界経済が持ち直していく年後半に入ってからになりそうだ。
ニッセイ基礎研▲1.1%
(▲4.4%)
2020年1-3月期は駆け込み需要の反動が和らぐことで民間消費、設備投資が持ち直すものの、欧米向けを中心に財の輸出が低迷することに加え、新型コロナウィルス感染拡大の影響で中国からの訪日客が急減し、サービスの輸出も大きく落ち込むことが見込まれるため、ほぼゼロ成長にとどまることが予想される。
第一生命経済研▲1.1%
(▲4.5%)
2020年1-3月期はプラス成長になると予想するが、19年10-12月期の大幅な落ち込みからの戻りとしては鈍いものにとどまるだろう。個人消費は10-12月期の大幅減からの反動でプラスを見込むが、増税に伴う家計負担増の影響が残存することに加え、そもそもの所得の伸びが弱いことから、高い伸びにはならないとみられる。1-3月期の個人消費を前年比でみるとマイナス圏の推移となり、抑制された状態が続く見込みだ。加えて、前述の輸入・在庫要因も足を引っ張る可能性があるだろう。IT部門を中心として世界的に生産活動が上向きつつあることを背景として輸出は増加が見込まれるため、内需・外需総崩れという事態は回避されるが、20年1-3月期も景気には停滞感が残るとみられる。
また、リスク要因として懸念されるのは新型肺炎による悪影響。新型肺炎の議論ではインバウンド需要への悪影響が強調されることが多い。そのこと自体は否定しないが、さらに懸念されるのが中国経済への悪影響だ。移動の規制や外出の手控え等によるサービス消費の悪化に加え、工場の操業停止などが広がり生産活動が下押しされる懸念もある。少なくとも短期的には悪影響は避けられないだろう。中国は日本にとって米国と並んで最大の輸出相手先の一つであり、中国経済の悪化は日本の輸出抑制に直結する。また、中国経済のプレゼンスはかつてに比べて格段に高まっていることから、世界経済への下押し圧力も、SARS の時と比較して大きくなるだろう。世界経済の下押しを通じた日本経済への波及のルートも軽視すべきではない。また、仮に日本国内でも感染が広がるようであれば、外出の手控え等によって個人消費への悪影響が広がる可能性があり、内需の下押しが懸念される。消費増税後の個人消費は予想以上に悪化した。1-3月期以降にはその落ち込みからの持ち直しが期待されていたが、その期待が裏切られる可能性があるだろう。
伊藤忠総研▲0.9%
(▲3.7%)
2020年1~3月期は、米中摩擦の一時中断もあってプラス成長へ戻ると見込んでいたが、新型肺炎の影響により中国経済の停滞が不可避の状況となりつつあり、中国向け財・サービス輸出の大幅な落ち込みを主因に、2四半期連続のマイナス成長となる可能性が十分にあろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.9%
(▲3.7%)
2019年10~12月期の実質GDP成長率は、消費増税による個人消費の落ち込みを主因として前期比-0.9%(年率換算-3.7%)と5四半期ぶりにマイナス成長に転じたと予測される。
三菱総研▲0.8%
(▲3.0%)
2019年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比▲0.8%(年率▲3.0%)と、5四半期ぶりのマイナス成長を予測する。消費税増税後の反動減などから、内需が総じて減少したとみられる。

ということで、各シンクタンクともマイナス成長は確定というカンジで、むしろ、焦点は足元の2020年1~3月期であり、ニッセイ基礎研のリポートにあるように、中国初の新型コロナウィルスの影響によりほぼゼロ成長にとどまる、というのが正直なところで、伊藤忠総研のリポートのように、私も従来は、米中間の貿易摩擦の一時的な中断により、消費税率引上げに伴うマイナス成長からのリバウンドでプラス成長に回帰すると見込んでいましたが、2四半期連続のマイナス成長による敵にカルナ景気後退シグナルという可能性も否定できません。私のようなエコノミストの理解を越えたところにあるような気もします。ただし、内外需そろって総崩れというわけではなく、新型コロナウィルスの影響は不明ながら、世界経済は持ち直しの動きを見せ始めており、我が国内需が不振で輸入が減少することもあって、外需はプラス寄与ではないかと見込まれます。でも、繰り返しになりますが、新型コロナウィルスの影響次第ですので、何とも先行き不透明であることに変わりありません。
下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから引用しています。

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2020年2月13日 (木)

1月の企業物価(PPI)上昇率は原油高が一時的に押し上げ!

本日、日銀から昨年1月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計ののヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+0.9%の上昇と、10月から消費税率が引き上げられた影響でプラスが続いています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業物価指数、前年比1.7%上昇 原油高が押し上げ
日銀が13日発表した1月の企業物価指数(2015年平均=100)は102.5と、前年同月比で1.7%上昇した。上昇は3カ月連続で、上昇率は18年11月以来の高さとなった。米中貿易協議の進展や米イラン関係の緊迫を受けた原油価格の高騰が、押し上げに寄与した。もっとも新型肺炎への懸念から原油価格は足元で下落しており、物価上昇への影響も一時的となりそうだ。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。円ベースでの輸出物価は前年同月比で1.4%下落した。下落は9カ月連続。前月比では0.3%上昇した。輸入物価は前年同月比0.7%下落し、前月比では0.7%上昇した。
企業物価指数は消費税を含んだベースで算出している。19年10月の消費税率引き上げの影響を除くと、指数は前年同月比0.1%の上昇だった。増税の影響を除くベースでの前年同月比の上昇は8カ月ぶり。前月比では0.1%上昇した。
品目別に見ると石油・石炭製品や非鉄金属といった商品市況の影響を受けやすい品目の上昇が目立ち「企業の価格設定スタンスに基調的な変化はみられない」(日銀・調査統計局)という。日銀は「2月以降は新型肺炎への懸念を背景とした原油価格の下落が指数に相応の影響をもたらすとみられ、影響を注視していく」とした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、上のグラフのうちの上のパネルの国内物価の推移に示されているように、昨年2019年10月の消費税率引上げからジワジワと情報幅が拡大しています。ただ、これは、どちらかといえば、引用した記事にもある通り、国際商品市況における石油価格の上昇を反映したものであり、季節調整していない原系列の指数ながら、国内物価のうち石油・石炭製品の前月比上昇率は+2.9%、前年同月比は+9.2%に達しています。この石油価格の上昇は1月早々に、米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、それを受けて、イランが報復措置を繰り出したことから、中東をめぐる地政学リスクの一時的な上昇に起因しており、足元では逆に中国の新型コロナウィルスの影響で石油価格は下落を強めています。私は石油価格については見識ないので、いつものように、マーケットに関するリポートを引用しておくと、みずほ証券のリポート「マーケット・フォーカス」では「20年の予想レンジを1バレル=50~70ドルで維持」と見ており、日本総研のリポート「原油市場展望」では一進一退の展開で50ドル台後半を中心としたボックス圏での推移」を予想しています。相変わらず、日銀の金融政策よりも原油価格の方が我が国物価への影響力が強いようです。

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2020年2月12日 (水)

日本経済研究センターの景気後退確率を見て、やっぱり、リセッションは回避できるか?

普段は、それほど注目していない指標なんですが、日本経済研究センターの景気後退確率が一昨日の2月10日に明らかにされています。日本経済研究センターのサイトから引用した下のグラフの通りです。

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ということで、上のグラフを見れば明らかな通り、昨年2019年12月の景気後退確率は54.8%に低下しています。この景気後退確率計算の基礎となっているのは、内閣府が公表している景気動向指数のCI先行指数であり、マルコフ・レジーム・スイッチング・モデルにより試算していると私は認識しています。このCI先行指数が8か月ぶりに上昇に転じたことが、景気後退確率の低下に寄与しています。CI先行指数の上昇要因としては、新規求人数や日経商品指数、消費者態度などの改善となっています。景気後退確率は2018年5月以来、何と19か月ぶりに景気後退入りの目安となる赤いラインの67%水準を下回ったことになります。単純に、この景気後退確率の低下だけを考えると、我が国は景気後退を回避できそうな気がしますが、昨年2019年12月の時点では、中国の新型コロナウィルスによる景気停滞の影響がまだ現れていません。ですから、我が国がホントに景気後退を脱したのかどうかは、新型コロナウィルスを含めて、今しばらく様子を見る必要がありそうです。

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2020年2月11日 (火)

経済学で使う計量ソフトウェアの特徴やいかに?

2月も半ばになって、次の勤務先の私大への転職に向けて、アドミの各種書類作成とシラバスの作成に大忙しにしています。諸手続き関係では、いかんせん、まだ新しい住まいが決まっていないので、現住所は今の東京城北地区の現住所を記入して済ませていますが、写真も必要だったり、住民票も添付しなければならないなど、まあ、役所でよく知っている手続きの煩雑さというのは学校でも変わりないような気もします。事務作業はかなりありますが、公務員というのはこういった事務処理が専門分野みたいなものですから、せっせとこなしています。
授業のシラバスの方も着々と進めているんですが、経済学部の学生諸君への授業やゼミはともかく、なくはないものの、やや経験薄い大学院の授業の方で少し考えるところがあります。すなわち、経済学の場合、大学院教育でかなり特徴的なのは、学部のころよりも計量ソフトウェアによるプログラミングの比重が増す点です。それほど高いレベルを要求されなければ、私はひと通り近いこなせる自信はありますが、自分で使うのと院生諸君に教えるのとでは少し勝手が違うような気がします。ということで、ネット情報ながら、参考にしたのは、順不同で以下の2つのサイトです。

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上の画像はの参考サイトの上の方の経済学で使える統計ソフト6選から引用した 統計ソフトの見取り図 です。フツーのパソコンにプリインストールされている表計算ソフトの Excel は別にして、私は Eviews と Stata を候補に考えています。というのは、やっぱり、R はむずいからです。私自身は Excel のマクロを使って BASIC でプログラムが組めますので、それなりに使いこなせる方だと自負していますし、一応、R は統計局勤務時に研修で受講したりしたんですが、それでも R はむずい気がします。大学院生の手に余る気がしてなりません。私の方で十分に教えられない恐れもあります。従って、候補として残るのは、繰り返しになりますが、Eviews と Stata になります。私は過去の研究で、ストック・ワトソン型の確率的景気指数を求めるのに、状態空間モデルをカルマンフィルターで解くのに Eview を使ったことがあり、また、賃金センサスの個票を用いてミンサー型の賃金関数を推計するのに Stata も使ったこともあります。まあ、ほかに、マルコフ・レジーム・スイッチンゴ・モデルを使うのに RATS を使ったこともありますし、大昔には TSP を愛用していた時代もあります。でも、極めて大雑把な分類として、マクロの時系列データの分析には Eviews が適していて、マイクロな個票やパネル分析には Stata がいいんではないか、と考えています。さらに情報を収集して、また、着任後は院生諸君の希望も徴しつつ、いろいろと考えを巡らせたいと思います。

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2020年2月10日 (月)

新型コロナウィルスで大きく低下した景気ウォッチャーの先行きマインドと黒字基調の続く経常収支!

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2019年12月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+2.2ポイント上昇の41.9を、先行き判断DIは▲3.0ポイント低下の41.8を、それぞれ記録し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+5240億円の黒字を計上しています。まず、やや長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、先行き指数が2カ月連続で悪化 新型肺炎の影響懸念で
内閣府が10日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、2~3カ月後の景気の良しあしを判断する先行き判断指数(DI、季節調整済み)は41.8と前月から3.7ポイント低下し、2カ月連続で悪化した。新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大への懸念が、景気の先行きに対する警戒を強めている。
先行きについて分野別にみると、指数を構成する家計動向、企業動向、雇用がいずれも前の月から悪化した。特に観光業を含むサービス関連が大きく落ち込んだ。新型肺炎の影響で「インバウンドの減少に加え、感染を警戒して国内旅行も減る傾向が出始めている」(近畿の観光型旅館)といった声があった。このほか「間接的に、様々な経済的影響が出てくるとみられる」(北海道の家具製造業)、「国内外の生産活動への影響が懸念される」(東海の輸送業)、「観光関連の仕事が減少し、求人数も減少傾向と予測」(沖縄の求人情報誌製作会社)など、影響の広がりを警戒する声が相次いだ。
調査期間は1月25日から月末で、中国政府が同国の海外への団体旅行を禁止したほか、日本政府が新型コロナウイルスによる肺炎を感染症法で定める「指定感染症」にする方針を閣議決定した時期に重なる。内閣府は先行きについて「新型コロナウイルス感染症の拡大などに対する懸念がみられる」とまとめた。
3カ月前と比べた足元の街角の景気実感を示す現状判断指数(DI、季節調整済み)は41.9と前月から2.2ポイント上昇(改善)した。消費税引き上げに伴う駆け込み需要の反動が和らぎ、小売関連が大きく持ち直したことなどが寄与し、3カ月連続で改善した。もっとも暖冬や新型肺炎に伴う消費の落ち込みを懸念する声も多く、内閣府は現状の見方を「このところ回復に弱い動きがみられる」に据え置いた。
経常収支5240億円の黒字 19年12月、66カ月連続黒字
財務省が10日発表した2019年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は5240億円の黒字だった。黒字は66カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は4646億円の黒字だった。
貿易収支は1207億円の黒字、第1次所得収支は4001億円の黒字だった。
同時に発表した2019年の経常収支は20兆597億円の黒字だった。

かなり長くなりました。これらの記事さえしっかり読めば、それはそれでOKそうに思えます。いずれにせよ、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。

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景気ウォッチャーの季節調整済みの現状判断DIを前月差で見ると、昨年2019年10月の消費税率の引上げでドンと▲10ポイント近く低下した後、11月から今年2020年1月まで3か月連続でジワジワと回復を示してます。基本は家計動向関連の上昇に見合ったものと私は受け止めており、特に、家計動向関連の中でも小売関連が上昇に寄与している印象です。他方で、企業動向関連では10月の落ち込み幅が家計動向関連ほどではなかったのもありますが、その後の回復は思わしくありません。新型コロナウィルスを別にすれば、現在の世界経済の停滞が反映されているものと考えるべきです。ただ、人手不足がクローズアップされて長いながら、最近時点では雇用動向関連が低下を続けている点は気がかりです。景気ウォッチャーですから、それぞれの業界の供給サイドのマインドを反映しており、雇用と家計のそれぞれの動向が直接にリンクするわけではありませんが、雇用に関して派遣会社などのマインドは当然に家計の雇用改善へのブレーキを反映する場合があります。先日取り上げた三菱総研のリポートでも、先行き我が国経済が景気後退を回避でるとすれば、人手不足に起因する雇用の堅調さがひとつのキーポイントになることは間違いありません。逆にいえば、雇用が悪化し始めると景気後退に陥る可能性が高まります。さらに、先行き判断DIに織り込まれ始めている新型コロナウィルスによる肺炎の拡大も大きな懸念材料です。いくつかのリポートを先週の段階でピックアップして紹介しましたが、まったく私には先行きが見通せません。私の先行き不透明感ほどひどくはないのかもしれませんが、企業でも同じように先行き不安を抱えるところは少なくないものと想像しています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。いずれにせよ、仕上がりの12月統計でも黒字を記録しており、引用した記事の通り、季節調整していない原系列の統計では2014年7月に黒字に転換して以来、また、季節調整済みの系列ではさらに早くて2014年4月の黒字転換以来、5年半に渡って経常収支は黒字を継続しています。重要なコンポーネントのひとつである貿易収支は国際商品市況の石油価格の変動に応じて赤字になったり黒字になったりしている一方で、安定的な海外からの第1次所得収支の黒字が大きな部分を占めている点については変わりありません。本日公表の12月経常収支についても同様といえます。加えて、実績の+5000億円強の黒字に対するに、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、+5000億円弱の黒字の予想でしたので、サプライズもありませんでした。ただ、貿易収支については、この先、世界経済のいっそうの停滞により輸出にマイナスの影響がある一方で、中国発の新型コロナウィルスによる肺炎の拡大により国際商品市況において石油価格が下落していて輸入額が減少する可能性もあり、どちらのインパクトが大きいか、によると考えられます。

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2020年2月 9日 (日)

先週の読書は話題の歴史書『スクエア・アンド・タワー』をはじめ計8冊!!!

先週は、図書館の予約本の巡りもあって、ついつい読み過ぎたようです。興味深い経済書や歴史書から、やや疑問符が大きい小説まで、以下の通りの計8冊です。

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まず、エリック A. ポズナー & E. グレン・ワイル『ラディカル・マーケット』(東洋経済) です。著者は、法学の研究者ながら経済学の学術書も少なくないポズナー教授とワイル氏はマイクロソフトの主席研究員です。英語の原題は Radical Market であり、2018年の出版です。副題に「脱・私有財産の世紀」とあるように、財貨の私有と契約自由を基礎とする現在の資本主義的な生産様式に変更を加えようとする試論を展開しています。もちろん、議論はかなり雑であり、右派的な市場原理主義やネオリベ論者からすれば突っ込みどころがいっぱいあるんでしょうが、かなり先進的な議論を提供していることも事実です。副題は第1章のみを対象としているように私には見えますが、第1章では私有財産、第2章では民主主義、第3章では移民、第4章では株式会社制度、第5章ではデータ、のそれぞれについて論じています。ある意味で、もっともアディカルな私有財産への制限については、共同所有自己申告税(common ownership self-assessed tax=COST)の導入を提案しています。すなわち、私有財産は本質的に独占的なものであることから、私有財産については一定の制限を加える、というか、共同所有に移行する都市、具体的には、財産を自己申告で評価し、その自己申告評価に基づいて課税しつつ、もしも、その評価額を支払う意志ある者に対しては譲渡する義務を課す、というものです。課税額を低く抑えようとして財産を低く評価すると、その評価額を支払う意志ある人に強制的に売却しなければなりませんから、それなりに高く評価する必要がありますが、たほうで、高く評価すれば納税額も高くなる、という仕組みです。また、現行の投票制度では、多数者が大きな影響力を持ち、少数者の利益は守られないおそれがある一方で、イシューによって関心の強さは人それぞれでまちまちだが、その関心の強さを票に反映することは不可能になっているため、その投票権を関心の高い分野に集中して使えるようにする投票西土、ただし、平方根で減衰する投票権として2次の投票(Quadratic Vote=QV)を導入して、関心薄い分野の投票行動を回避して投票権を貯めておき、関心高い分野でその貯めておいた投票権を一気に使う、ただし、貯めておいた投票権はリニアで使えるのではなく平方根で減衰させる、という投票制度の導入を現行民主主義の修正として提案しています。これは、副題ではなく主タイトルの「ラディカル」を民主主義に当てはめたといえます。そして、第3章以下では、移民や移住者へのVISAの割当、機関投資家による株式会社のガバナンスの独占、巨大なプラットフォーム企業による個人情報の収集といったテーマを各章で取り上げています。そして、それらの解決策、というか、著者たちの提案の基礎となっているのがオークション理論です。おそらく、巻末の日本語版解説を寄せている安田准教授は、このオークション理論の観点から選ばれたんではないか、と私は想像するんですが、解説者ご本人の意向か、あるいは、依頼した編集者がすっかり忘れたのか、オークション理論についてはまったく取り上げられていません。最後に、繰り返しになりますが、反対の立場を取るエコノミストから見れば、穴だらけの議論だろうとは思うものの、私のような左派で格差是正も重視すべきと考えるエコノミストからすれば、議論の取っかかりとしては、まずまず評価できる内容を含んでいると考えています。

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次に、伊藤真利子『郵政民営化の政治経済学』(名古屋大学出版会) です。著者は、平成国際大学の研究者であり、ご専門は歴史ないし経済史のように私は受け止めました。出版社からしても、かなりの程度に学術書の色彩が強いとの覚悟の上に読み進むべきです。本書は著者の博士論文をリライトしたようですが、タイトルはやや誇大な表現となっており、本書がフォーカスするのは郵政民営化の中でも、郵便貯金に的を絞っています。ということで、戦後の郵便貯金の歴史を解き起こすところから始まって、田中角栄元総理という極めて特異な政治家の庇護により拡大した後、記憶に新しい小泉政権で民営化の大きな節目を迎えた、という歴史を跡付けています。何よりも特徴的な郵便貯金の歴史として、本書の著者は「銀行の支店展開が行政指導により制限を受ける中で、郵便事業の展開とともに貯金も扱う郵便局が銀行支店を上回るペースで拡大し、しかも、金利が自由化される前の段階で金利先高観とともに郵便貯金に資金が流れ込む仕組みを「郵貯増強メカニズム」と名付け、郵貯に集めた資金をもって当時の大蔵省の資金運用部資金を通じて公庫公団の財政投融資制度などから先進国に遅れを取っていた社会インフラの整備へ充当され、国土開発や国民生活の環境整備などをサポートした歴史が明らかにされる前段を受けて、後段では、当然ながら小泉政権における郵政民営化がメインになりますが、その前の橋本政権下での行財政改革のパーツとしての郵政公社化や資金運用部への預託義務の廃止から始まって、2005年の郵政解散がピークとなります。その意味で、タイトルからすれば、やや前段が長すぎる気もしますが、第6章が本書の読ませどころと考えるべきです。もちろん、そのバックグラウンドとして、政府財政が均衡主義を放棄し国債市場がそれなりの厚みをもって形成されたことも忘れるべきではありません。最後に、私が国家公務員として政府に奉職していたこととは必ずしも関係なく、本書の著者は優勢に対する田中角栄元総理の並々ならぬ貢献については、とてもよく目が行き届いている気がするんですが、国政選挙などにおける郵便局ネットワークの果たした役割については、少し目配りが足りておらず、さらに、小泉政権の「古い自民党をぶっ壊す」というスローガンについては、「古い自民党」=旧田中派という事実に関しては、まったく見落としているように見受けられます。学術的な分析の対象にはなりにくい気もしますが、郵政民営化が自民党内の旧田中派への強力な弱体化攻勢であった点は、どこかで何らかの視点からか取り上げて欲しかったと思わないでもありません。ただ、学術書としては難しい面があるのも、判らないでもありません。

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次に、松岡真宏『時間資本主義の時代』(日本経済新聞出版社) です。著者は、野村総研ご出身で、今は共同代表を務めるコンサルタント会社を立ち上げた経営者です。本書では、時間の使い方を切り口に、時間の希少性をいかに使うかを問うています。といえば、聞こえはいいのかもしれませんが、私には何を訴えたいのかがイマイチ理解できませんでした。本書冒頭で、すきま時間を効率的に活用しよう=スマホを電車でいじろう、という内容と早合点したんですが、そうではなく、すきま時間の効率化を手段として、効率化により節約された時間をかたまり時間としてうまく活用しよう、という主張だと理解して読み進みましたが、これはこれでその通りのいい主張ではあるものの、途中から大きくよれてしまいます。時間を基礎にして本書第2章のタイトルである時間の経済学を展開すれば、著者も気づいているように、経済学的には労働価値説になります。ただ、これは供給サイド、というか、時間をひとつの生産要素と考える場合です。他方で、本書ではすっかりスコープの外に置かれていますが、時間をうまく消費するビジネスも展開されていますし、本書でも、著者が明示的には気づいていないうちに取り上げたりもしてます。例えば、本書では、時間の効率化と時間の快適化を2つの軸に据えていますが、前者の時間の効率化は機会費用の高い人が、その生産を高めるために生産以外の時間を節約しようとするものである一方で、後者の時間の快適化は多少コストをかけても快適な時間を過ごすわけですから、時間消費型のビジネスということも出来ます。そして、p.179 の時間とお金と人材のマトリクスが典型なんですが、やっぱり、機会費用が高い高収入層が何らかの時間節約も可能となるという意味で、時間とお金はおそらく賦存条件において正の相関にあるんではないか、と私は想像します。でも、そうなら、このようなマトリクスを分析する意味はありません。時間価値という言葉も、生産性に近い印象なんですが、著者は否定しています。で、結局のところ、時間価値とは稼ぐ力の機会費用、としか私には見えません。そうであれば、特に目新しさもなく、1日24時間、1年365日がすべての人に平等に行き渡っている以上、何らかの経済的な格差が生じるのは、主として、時間単価の違いに依存します。もちろん、私のように短時間で切り上げたいタイプと、長時間働く人との違いがあって、時間単価ではなく労働時間の差が格差を生み出すともいえますが、労働時間の差はせいぜい2~3倍までであり、それ以上の格差が観察される現状は時間単価の差でしかあり得ません。ですから、時間を節約するよりも、時間価値、というか、伝統的な経済学でいうところの時間単価を高める必要があるんですが、本書ではこういった価格で測った質的な時間単価ではなく、量的な時間の方に目が行っているようです。ただ、1点だけ、スマホの普及により公私混同が激しくなった、という分析には目から鱗が落ちた気がします。私自身については、職務専念義務ある国家公務員を定年退職するまでスマホは持ったことがなかったので、こういった公私混同は経験ありませんが、今はひょっとしたらそうなのかもしれません。

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次に、ニーアル・ファーガソン『スクエア・アンド・タワー』上下(東洋経済) です。著者は、英国出身で現在は米国のスタンフォード大学やハーヴァード大学の研究者であり、テレビなどでも人気の歴史家です。英語の原題は The Square and the Tower であり、2017年の出版です。どうでもいいことながら、いつものクセで、表紙画像を縦に並べてしまいましたが、デザイン的には横に並べた方がいいのかもしれません。ということで、最後の著者によるあとがきや訳者あとがきでは、英語の原題は「広場と塔」と訳されています。前者の広場は横に広がるネットワークの象徴であり、後者の塔は縦に構成される階層制組織の象徴とされているようです。階層制組織は、比喩的に日本語では「ピラミッド型」と呼ばれることがあるヒエラルキーであり、今でも、政府、特に、軍隊などで幅広く見られる組織原理である一方で、特に情報通信技術、ITCの発達によりフラットなネットワークの重要性も認識されていることはその通りです。特に、本書ではネットワークを人的なつながりで、また、階層制については組織原理として、それぞれ歴史を通じてどのように作用してきたかを概観しようと試みています。歴史的なスコープとしては、あくまでヒストリアンの著作ですので、中世末期、というか、いわゆるルネサンス期からネットワーク形成に際する活版印刷の果たした役割あたりから始まって、宗教改革、科学革命、産業革命、ロシア革命、ダヴォス会議、アメリカ同時多発テロからリーマン・ショックまで、幅広いトピックが取り上げられますし、人的ネットワークという観点では、本書の書き出しはイルミナティだったりします。もちろん、フリーメイソンについても詳述されています。私も大学時代は経済史を選考していたりしたんですが、通常、歴史家というのは階層制の組織の変遷を跡づける場合が多く、人的なネットワークについては軽視してきたような気がします。まあ、どうしても、歴史研究は階層制組織の最たるものである国家が残したドキュメントに多くを依存しますし、こういったドキュメントを作成するのは、ウェーバー的な広い意味での官僚制の得意とするところです。例えば、中国でいえば、漢や唐や、あるいは、モンゴルによる元、漢民族の明から満州族の清、といった王朝の変遷を追う歴史研究が多いわけです。他方で、劉備・関羽・張飛の3人が桃園の誓いにて義兄弟となる人的ネットワークについては、どちらかといえば、天下国家の歴史の大きな要素ながら、大衆的な小説や演劇の世界になってしまうわけです。ただ、これは私の勝手な例示であり、本書の著者によれば、近代的なネットワークは先述の通り活版印刷によりもたらされた、ということのようです。もちろん、階層とネットワークは明確に分類できるとも思えませんし、時に混ざり合ったりもするような気がしますが、歴史家の常として、著者は膨大な事実関係を提示し、それらを基に、著者自身で理論的な組み立てをするとともに、それなりの教養ある読者を想定したのか、かなり読者の読み方次第、という部分も少なくないような気がします。例えば、現代に近づくに従って、情報の重要性が高まってきていることが行間に織り込まれていて、しかも、その情報伝達の速度の重要性が高まっている点は、おそらく、現代人が強く感じているところでしょうが、それを肌で感じることが出来る人がより本書について深い理解が得られるような気がします。ただし、従来の階層制組織から解き明かす歴史に対して、ネットワークから解明を試みる歴史観というのは、いわゆるグローバル・ヒストリーですでに着手されており、本書が何も初めて、というわけでもなければ、本書が大きな画期的な歴史書、というわけでもない、ということは忘れるべきではありません。著者が著者だけに、本書を過大評価する向きもあるかもしれませんが、私は本書を高く評価しつつも過大評価は慎みたいと思います。

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次に、実重重実『生物に世界はどう見えるか』(新曜社) です。著者は、農林水産省の官僚出身で、局長を務めていますので、私なんぞよりもよっぽど出世しています。回文になっていて、何ともいえないお名前なんですが、実名なんでしょうか。よく判りません。ということで、「どう見えるか」となっていますが、実は、視覚に限定せずに、世界をどう認知しているか、に幅広く対応しています。例えば、第1章で取り上げるのはゾウリムシですし、第2章に至っては大腸菌、第3章でも植物ですから、これらの生物に世界がどう認識されるか、に着目しています。単細胞生物であるゾウリムシには視覚をつかさどる目はないですし、視覚情報を伝達する神経も処理する脳もないわけですから、モノが見えるわけではないと常識的には考えられますが、それでも、栄養になるものがあれば近づき、逆に、点滴のシオカメウズムシからは逃げようとするそうです。ミミズは簡単な2次元の内的地図が理解できるようですし、鳥類は人間的な意味での視力がいいのは高速で飛翔するので当然としても、哺乳類の中でも犬は視覚よりも嗅覚に依存した世界認識を持つというのも理解できる気がします。そして、私は本書の読書に事前には期待していなかった成果として、意識というものについて、あるいは、本書では用語としては用いられていないものの、心の働きについて、単細胞製粒や植物から始まって、ある意味で、情報処理能力としては人間を超える人工知能(AI)にどこまで本書の議論が適用できるか、も興味深いところです。何らかの事故の外にある世界を認識し、それを伝達して情報処理し、何をどうすれば「意識がある」といえるのか、本書の用語に即していえば、本能とか先天的に獲得済みの能力は「意識的」な行動を促すのか、あるいは、「無意識」の行動というべきなのか、興味あるところです。当然ながら、本能に従っていても、一般に「無意識的」な反応と表現されても、少なくとも外界からの情報に対して、三時からの個体の中で、あるいは、群れの集団で、何らかの処理を加えて、それを個体や群れの行動に活かすというのは、本書では「意識」と表現されそうな気がします。そうであれば、AIにも本書的な「意識」がある、といえそうな気がします。でも、別の「意識」の定義により、AIには「意識」がない、とする論説も多く見かけます。例えば、AIに意識を持たせようとする人工意識(AC)の研究も盛んですし、実際に、ACをビジネスとして展開するベンチャーもあります。少なくとも、私は本書に近い立場であり、事故から見た外界から何らかの情報を得て、それに対応した行動を取る能力をもって「意識」を定義すれば、本書でも言及されている記憶の長さにもよりますが、AIには「意識」がある、と見なさざるを得ません。

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次に、グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』(フィルムアート社) です。著者は英国人であり、本書の本意に即していえば男性であり、やや古い男性の特徴あるものの、女装趣味=トランスヴェスタイトがあったりします。現代社会を風刺した、陶芸やタペストリー、彫刻、版画といったメディアの現代アート作品で知られるアーティストであり、テレビ司会者、作家でもあります。英語の原題は The Descente of Man であり、2016/17年の出版です。上の表紙画像は、p.026 に解説があり、英国におけるデフォルトマン、すなわち、白人・ミドルクラス・中年・ヘテロセクシュアル(異性愛であり、同性愛ではない)男性、ということです。ということで、私はすでに60歳に達して定年退職して、ほぼ、本書でいうところの男性ではなくなった気がしますが、いわゆる社会的な男性、別の表現をすれば、ジェンダーとしての男性の役割はまだ持っているかもしれません。ただ、例えば、朝の通勤時にものすごく速く歩いたりはしませんし、本書の著者の紹介にあるように、坂で他のサイクリストを全員追い越したい、なんぞとは決して思いません。性的な面とともに社会的に規範とされている男性性、本書でいうマスキュリニティというのは、背が高くて力も強く、やや乱暴なところがある、といったものかという気はしますが、私はラテンアメリカのマッチョの国で外交官をしていましたので、欧米諸国などにおける「レディ・ファースト」というのは、か弱き女性を保護せんとするマッチョな男性の男女差別の裏返しだと受け止めました。かといって、男尊女卑の我が国の亭主関白がいいとも思いません。男女の別をハッキリさせようとする試みは、私から見れば、男女交際に対して厳格たろうとする願望ではないか、という気がします。男女をいっしょにしておくと、いちゃついたりして、生産性が上がらない可能性が高い、ということなんではないかと勝手に想像しています。ただ、男性を男性たらしめていて、その呪縛から解き放つ最大の難敵はやっぱり男性なんだろうという本書の著者の分析には大いに同意します。逆から見て、男性が男性である最大の犠牲者も男性なんだろうと思います。少なくとも、本書で解き明かそうと試みている男性のひとつの特徴である「無謬性」については、これはお役所でもそうなんですから、何としても解放されたい気がします。他に、本書の著者は、男性の権利として認めてほしいものとして、傷ついていい権利、弱くなる権利、間違える権利、直感で動く権利、わからないと言える権利、気まぐれでいい権利、柔軟でいる権利、などを上げ、締めくくりとして、これらを恥ずかしがらない権利にも言及しています。権力や単なる力と訳されるパワー=powerを女性より多く有していて、それを基にした思考や行動の原理に従った存在として男性があるように私は受け止めていますが、そういった特性や特徴を descent するのに、本書が役立って欲しい気がします。特に、男女平等やフェミニズムを主張するのに、男女間で性差があるような気がするんですが、こういったやや風刺がきついながら男性性に関して考えようとする本が著名人から出版されるのは意義あるように受け止めています。もっとも、男子の草食化進む我が国はこの面で世界トップを走っているのかもしれません。ただ、ひとつだけ気がかりなのは、p.055 にもあるように、ジェンダーの平等はいわゆるウィン・ウィンではなく、ルーズ・ルーズになる可能性が高い、という点です。回避する方策はないものでしょうか?

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最後に、額賀澪『競歩王』(光文社) です。誠に不勉強ながら、私はこの作者は知りませんでしたし、この作者の作品も読んだことはありません。ということで、この小説はメタな構造になっています。すなわち、主人公は小説家です。もっとも、天才高校生作家としてデビューしながら、その後はパッとせずに大学生をしていて、本書の最後の方では、モラトリアムの延長を目指して大学院に進んだりしています。そして、競歩の陸上選手を主人公に据えた、というか、大きくフィーチャーした小説を書こうとしています。そして、大きなポイントは、本書最後の献辞にもあるように、2017年ロンドン世界陸上50km競歩 銅メダリストの小林快選手をモデルとしていて、大学陸上部で長距離走者としては諦め、競歩に転向することを余儀なくされた経験からの成長を綴る青春小説となっています。小林選手ご自身は早稲田大学の出身ですが、もちろん、小説では架空の陸上競技部が名門である大学とされています。今年の東京オリンピック・パラリンピックを大いに意識した作品で、何かのテレビか新聞でチラリと見た記憶があり、ついつい、その気になって図書館で借りましたが、出来の方は期待はずれでした。私は『横道世之介』を始めとする青春小説は大好きで、それなりによく読んでいるつもりなんですが、本書はあまりにも平板で盛り上がりに欠け、主人公の達成感もやや規模が小さい気がします。少なくとも、キャラが立っているのが、大学新聞部の女子記者だけで、主人公の元天才高校生作家、主人公が小説の題材にしようと取材している競歩選手、国内トップクラスのほかの競歩選手、主人公と時折行動をともにする出版社の編集者、主人公とライバルあるいは仲間である若手小説家、少なくともキャラとしては、ほぼほぼすべてに決め手を欠きます。ややライバルに遅れを取っている作家と競歩選手が、何といっても青春小説ですから、それぞれ、成長していく、というのがストーリーなんですが、余りにも平板です。特に、長距離から競歩に転向するのは、目の前の起こったことではないのでいいとしても、20kmから50kmに変更する際の心の動きや人間関係などが描けていません。ただ、歴史書のようにひたすら事実関係が記述されているだけです。リオデジャネイロ・オリンピックから東京オリンピック直前のほぼほぼ4年間を対象としていますので、ここの事実関係が希薄化されるのは仕方ないとしても、ラストでなくてもいいので、盛り上がる場面は欲しい気がします。もちろん、スポーツにおいては結果の重視されるケースが少なくないことは理解しますが、それだけが盛り上げどころではないでしょうし、結果を取り上げるだけであれば、ジャーナリストの報道と何ら変わりありません。フィクションの小説として、時間を置いて出版するのであれば、単に事実関係をいっぱい加える量的な付加価値だけでなく、もっと質的な付加価値も欲しかった気がします。

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2020年2月 8日 (土)

米国雇用統計は人手不足でも雇用者が前月から+225千人増加!!!

日本時間の昨夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+225千人増と人手不足にもかかわらず、まだ伸びを示し、失業率は先月から0.1%ポイント悪化したものの、それでも3.6%という半世紀ぶりの低い水準を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、超コンパクトに Bloomberg のサイトから記事を最初の2パラだけ引用すると以下の通りです。

U.S. Jobs Top Estimates With 225,000 Gain, Wages Accelerate
U.S. employers ramped up hiring in January and wage gains rebounded, providing fresh evidence of a durable jobs market that backs the Federal Reserve's decision to stop cutting interest rates and hands President Donald Trump an early election-year boost.
Payrolls increased by 225,000 after an upwardly revised 147,000 gain in December, according to a Labor Department data Friday that topped all estimates of economists. The jobless rate edged up to 3.6%, still near a half-century low, while average hourly earnings climbed 3.1% from a year earlier.

まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。

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まず、大きな影響は見られないと私は受け止めていますが、今回の2020年1月統計から雇用者のベンチマークがアップデートされています。それにしても、+225千人増という数字は、先月12月の+147千人増や昨年2019年の月平均+175千人増を大きく上回っていますし、Bloombergによる市場の事前コンセンサスの+165千人増もはるかに超えています。米国雇用がこれだけ堅調な背景には、米中間の貿易摩擦の休戦で米国の企業家心理が向上している点が上げられます。例えば、米国サプライチェーン・マネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数(PMI)は1月に50.9まで上昇し、半年ぶりに50を超えています。ただ、金融政策の方向感覚がやや不透明です。下のグラフに見られるように、賃金上昇は落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、まだ+3%台をキープしていますし、雇用は堅調ですから引締めの方向を示唆する可能性があります。他方で、中国の新型コロナウィルスというとんでもない特殊要因から、いったんは2020年中は利下げストップといわれながら、この中国発の先行き景気不安から、FED内でも利下げの必要性をめぐる議論が高まりそうです。私なんぞから見ると、やや方向感のない金融政策動向になりつつある気がしないでもありません。

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ということで、物価上昇圧力の背景となっている時間当たり賃金の動向は上のグラフの通りです。米国雇用の堅調振りに歩調を合わせて、一昨年2018年8月以来、賃金上昇率も3%台の水準が続いており、1月も前年同月比で+3.1%の上昇とインフレ目標を上回る高い伸びを示しています。ただ、上のグラフに見られるように、+3%を超えるとはいえ賃金の伸びが鈍化しているのは、米中間の貿易摩擦の影響もあって、雇用増が製造業ではなく賃金水準の低いサービス業、例えば、Leisure and hospitality や Health care and social assistance などで発生している点もひとつの要因です。ただ、左派エコノミストとして、私はトランプ政権の圧力は別としても、一般論ながら、金融緩和策や財政的な拡張政策は貧困対策や格差是正の観点を含めて国民の生活水準向上に役立つものと考えています。

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2020年2月 7日 (金)

「悪化」の基調判断が続く景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2019年12月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から+0.8ポイント上昇して91.6を、CI一致指数は前月と同じ94.7を、それぞれ記録し、統計作成官庁である内閣府による基調判断は、5か月連続で「悪化」で据え置かれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の景気一致指数は横ばい 基調判断「悪化」は5カ月連続
内閣府が7日発表した2019年12月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比横ばいの94.7だった。内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を5カ月連続で「悪化」に据え置いた。
一致指数を構成する9系列中、速報段階で算出対象となる7系列のうち3項目が指数のプラスに寄与し、4項目がマイナスに寄与した。台風の影響で部品供給が遅れていたショベル系掘削機械で生産が再開した影響で「投資財出荷指数(除輸送機械)」などが伸びた。半面、自動車工業を含む「鉱工業生産財出荷指数」や家電など「耐久消費財出荷指数」は落ち込んだ。
数カ月後の景気を示す先行指数は前月比0.8ポイント上昇の91.6で8カ月ぶりに上昇した。景気の現状に数カ月遅れて動く遅行指数は前月比2.5ポイント上昇の106.9と、2カ月連続で上昇した。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気動向の大きさやテンポを表し、景気の現状を暫定的に示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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CI一致指数は前月から横ばいだったものの、3か月後方移動平均は3か月連続の下降で▲1.90ポイント下降しています。繰り返しになりますが、5か月連続で、統計作成官庁である内閣府の基調判断は「悪化」で据え置かれています。ただし、CI先行指数は昨年2019年4月を直近のピークに11月まで半年余り下降を続けていたんですが、12月統計では上昇に転じました。単月の動きですが、先行きの明るさを見た気が品でもありません。ということで、CI一致指数の前月差への寄与度をみると、投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、商業販売額(卸売業)(前年同月比)がプラスを示している一方で、マイナス寄与は耐久消費財出荷指数が▲0.52と圧倒的に大きく、昨年2019年10月の消費税率引上げの影響がまだ残っていることがうかがえます。ほかに、鉱工業用生産財出荷指数、有効求人倍率(除学卒)、商業販売額(小売業)(前年同月比)の寄与もマイナスなんですが、投資財出荷指数(除輸送機械)がプラス寄与で、鉱工業用生産財出荷指数がマイナス寄与というのも、やや違和感あるものの、いずれにせよ、耐久消費財出荷指数に次いでマイナス寄与が大きい鉱工業用生産財出荷指数でも▲0.17ですから、消費の回復が政策プライオリティから見て最大の課題のひとつと考えるべきです。

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ということで、ついでながら、本日、総務省統計局から昨年2019年12月の家計調査の結果が公表されていますにで、簡単に見ておきたいと思います。ヘッドラインとなる2人以上世帯の消費支出は1世帯あたり32万1380円で、物価変動の影響を除いた実質の変動調整値で前年同月比▲4.8%減少しています。昨年2019年10月の消費税率の引上げから3か月連続の減少となっています。同時に、統計局から、追加参考図表もいくつか明らかにされており、上のグラフはそのうちから 消費税率引上げ前後における消費支出 (季節調整済実質指数) の推移 を引用しています。3%の消費税導入前後、3%から5%への引上げ前後、5%から8%へに引上げ前後、そして、今回の8%から10%への引上げ前後、のそれぞれの時期の消費支出の推移をプロットしています。今回昨年2019年10月の8%から10%への引上げ時は、前回2014年4月の5%から8%への引上げ時に比べて、引上げ幅が小さいとともに食料品などに軽減税率の適用がなされたこともあり、直前月の駆込み需要は小さかったのですが、その後の反動減はそれほど大きな差はないように見えます。加えて、前回2014年時には消費税率引上げから8か月に渡ってマイナスを続けた点も見逃せません。今回2019年10月の消費税率引上げに対しては、現在の中国における新型コロナウィルスの影響など、経済外要因かつ先行きの極めて不透明な要因も加わっていますが、消費にはかなり大きなインパクトが認められる、と覚悟すべきです。

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2020年2月 6日 (木)

新型コロナウィルスの経済への影響はどうなのか?

まったく私の専門外ながら、中国で新型のコロナウィルスによる肺炎などが拡大し、WHOで緊急事態宣言が出されたことは広く報じられている通りなんですが、もちろん、経済に及ぼす影響についてもいくつかリポートが明らかにされています。「いくつか」というよりも、余りにもいっぱいあり過ぎるんですが、取りあえず、私の印象に残った以下の2つのリポートをかんたんに取り上げておきたいと思います。

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当然ながら、2003年のSARSとの比較が中心になり、まず、感染拡大なんですが、今回の新型コロナウィルスの感染は極めて大規模でありSARSとは比較になりません。上のグラフは、日本総研のリポートから ウイルス感染者数(累計) を引用しています。グラフの注にある通り、SARSについては、感染者8,422人、うち死者916人でしたから、感染の拡大はそれほどではなかったものの、致死率がほぼ10%に上り、かなりの強毒性という印象でした。今回の新型コロナウィルスについては、現時点ではSARSほどの致死率は見られず、日本経済研究センターのリポートが引用している恒大研究院の情報によれば、2.2%ということらしいんですが、それはそれで高い致死率ですし、何よりも、大幅な感染拡大というのも厄介です。もっとも、前回2003年のSARSについては、中国が情報を隠蔽していたために感染者数などが過小に報告された一方で、死者数はごまかしが効かなかった、という根強い中国政府への不信感もチラホラと見かけないでもありません。そのあたりは、私には何とも判断がつきかねます。

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上のテーブルは、日本経済研究センターのリポートから引用していますが、もともとは、恒大研究院の情報ということのようです。上のテーブルを見れば明らかなんですが、流行が3~4月までに収束するシナリオ1でも、足元1~3月の成長率は直前の2019年10~12月の+6.0%を大きく下回って+4%程度となる可能性もあり、通年でも+5%台半ばの成長にとどまりますし、さらに収束が遅れるシナリオ2~3では経済へのダメージがより大きいのはいうまでもありません。

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最後に、上のグラフは、大和総研のリポートから引用しています、スペインのバンコ・デ・エスパーニャの研究成果 "Global Impact of a Slowdown in China" からの応用で、中国人観光客にスポットを当て、団体旅行禁止令に伴う中国人の海外旅行客数の減少に関して、リスクシナリオ①では新型肺炎の流行期間が3か月で済み、日本への中国人観光客が▲100万人(2019年比で約▲10%)減少と想定し、リスクシナリオ②では流行が1年続くことから団体旅行禁止令の実施期間も1年程度延長されると想定し、インパクトはほぼほぼ4倍です。2020年の世界経済の成長率は▲0.2~▲0.7%ポイント押し下げられ、我が国の成長率もリスクシナリオ②に、円高の影響などを加えると、▲0.9%の押し下げになることから、2020年の日本経済はマイナス成長の可能性すらある、と結論しています。

SARSが発生した2003年の4~6月期は、台湾と香港でマイナス成長を記録しましたし、アジア、ひいては日本への経済的な影響は決して無視できません。さらに、収束の時期にも依存しますが、今回の新型コロナウィルスの経済への影響は2003年SARSの際よりも大きいことは覚悟した方がよさそうです。

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2020年2月 5日 (水)

昨年10月の消費税率引上げは景気後退につながるか、つながらないか?

2月1日付けの三菱総研の『MRIマンスリーレビュー』2月号にて、5番目の記事として「『消費税10%』は景気後退につながるか」と題する短いリポートが収録されています。これを含めた2月号の全文リポートがpdfファイルにてアップされており、このリポートはわずかに1ページだったりします。まず、三菱総研のサイトからPOINTを3点引用すると以下の通りです。

POINT
  • 日本経済が景気後退入りするとの懸念が高まっている。
  • 経済の自律性を示す国内民間需要(除く在庫)の動向が一つの焦点。
  • 国内民間需要が持ちこたえ、日本経済は景気後退を回避すると予想。

わずかに1ページの短いリポートで、上のPOINTの通りなんですが、グラフとともに、簡単に取り上げておきたいと思います。

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上のグラフは、三菱総研のサイトから [図] 国内民間需要(除く在庫)の推移と景気動 を引用しています。さ来週月曜日の2月17日には昨年2019年10~12月期のGDP統計速報、いわゆる1次QEが内閣府から公表されますが、消費税率引上げのあった四半期ですので、当然ながら、大きなマイナス成長という予想がエコノミストの間では一般的です。ただ、その後、足元の1~3月期にもマイナス成長となって、テクニカルな景気後退のフラグが立つのか、どうか、については議論あるところながら、リポートでは上のグラフに見られる通りに在庫を除く国内民間需要を重視し、消費については雇用・所得環境が労働需給のひっ迫を背景にそれほど悪化しないと予想し、同時に、設備投資は製造業で過剰感が出てきた一方で、人手不足に悩む非製造業の省力化投資が下支え要因になると指摘し、「標準シナリオでは日本経済は景気後退の瀬戸際で踏みとどまる」との結論を示しています。おそらく、私を含めてエコノミストの多数意見と一致しているような気がします。ただ、人手不足をここまで重視するのは、やや落とし穴がありそうな懸念がないでもありません。

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2020年2月 4日 (火)

インテージによる「イマドキのバレンタイン事情」やいかに?

連夜のインテージからの引用ですが、先週1月30日付けで「イマドキのバレンタイン事情」と題した調査結果が明らかにされています。私なんぞは定年退職して60歳もとうに過ぎていますので、まあ、若い年代の人達をチラチラ眺めるだけですから、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから バレンタイン、個人で用意するもの のグラフを引用すると上の通りです。見れば判るように、家族チョコがもっとも高いという結果になっています。ほぼ半分近い女性が用意するようです。特に、40代の女性では50%を超えています。ほかに年代別の特徴あるのは、当然ながら、本命チョコは20代で特に高い結果が示されています。もはや死語かもしれませんが、「適齢期」という言葉が私の頭をよぎりました。しかし、20代を過ぎて30代になると自分チョコが多くなるのはやや悲しい気もしないでもありません。ただし、その前の10代では友チョコがとても多くなっています。

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次に、インテージのサイトから バレンタイン、個人で用意するチョコの金額観 のグラフを引用すると上の通りです。義理チョコがもっとも安価な価格帯に落ちるのは理解できますし、もっとも多くの女性が用意すると回答した家族チョコなんですが、まあ、当然ながら、本命チョコには価格帯では及びません。何と、もっとも価格感が高かったのは自分チョコで2000円に近く、やはり、ごほうび消費に積極的なビジネスウーマンがけん引しているとインテージでは分析しており、ビジネスウーマンに限定した自分チョコの平均額は2919円だったようです。さて、2月14日の戦果やいかに?

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2020年2月 3日 (月)

生活者の花粉症対策やいかに?

とても旧聞に属する話題ながら、インテージから「花粉症-市場規模推移と生活者が重視する対策」と題する調査結果が1月14日に明らかにされています。2月に入って、そろそろシーズンインですので、簡単に図表とともに取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから 花粉症実態 を引用すると上の通りです。オリジナルサイズに少し縮小をかけたので見にくいかもしれませんが、左上の円グラフでは、花粉症の人の割合がとうとう50%超と示されています。下の棒グラフでは、花粉症の症状として、くしゃみや鼻水などの鼻の症状とかゆみや充血などの目の症状が多いことが判ります。また、その症状に対応して、花粉飛散数と連動しつつ市販薬の販売金額も100億円を超えているグラフが示されていますが、このブログでは割愛します。

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次に、インテージのサイトから 直近シーズンに実施した花粉症対策 重視率ランキング を引用すると上の通りです。やっぱり、マスクと処方薬です。私もこの通りです。私は、ほぼほぼ、通年性のアレルギーなんですが、この花粉症の季節だけは錠剤の抗アレルギー薬とともに目薬も処方してもらうことにしています。

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次に、インテージのサイトから 花粉症対策で利用したことのある食材・サプリメント を引用すると上の通りです。すなわち、薬だけでは不足ですので、食材やサプリメントでも補うわけです。ヨーグルトと乳酸菌の圧勝となっています。私も朝食にはヨーグルトを欠かすことがありません。何とか、今シーズンも乗り切りたいと希望しています。

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2020年2月 2日 (日)

今週後半から強烈な寒気到来か?

今年は暖冬だと言われ続けてきましたが、今週後半木曜日あたりから、いよいよ本格的で強烈な寒気が到来しそうです。

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上の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。今週火曜日の4日の立春以降は日本列島の上空に寒気が流れ込みやすくなり、特に、5日(水)から6日(木)にかけてが寒気のピークで、北海道の上空5000m付近には-42℃以下の今シーズンもっとも強い寒気が流れ込む予想となっています。最後のセンター試験は終了したものの、大学入試の本番はこれからです。特に、受験生諸君は体調に万全の配慮で悔いのないようがんばりましょう。

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2020年2月 1日 (土)

今週の読書は経済書や大学改革の本まで読んで計7冊!!!

いろいろあって、読書だけは進みました。以下の通り、7冊読みました。

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まず、岩田一政・日本経済研究センター[編]『2060デジタル資本主義』(日本経済新聞出版社) です。著者は日銀副総裁を務め、現在は日本経済研究センターの理事長です。本書では、その著者はもちろん、定年退職して60歳を過ぎた私ですらも生き長らえていないような40年後の2060年のデジタル経済について、いくつか、あり得るシナリオ、冒頭に停滞、改革、悪夢の3つのシナリオを置いて始まります。ということで、従来の経済学的な生産関数の変数となる労働や資本は、特に、資本は物的な生産設備を意味する場合が多かったんですが、本書でいうところのデジタル資本主義では無形資産が中心となるような、実例でいえば、GAFAのような企業が生み出す価値を中止とする資本主義経済を念頭に置いています。さらに、その無形資産とは、情報通信(ICT)技術とそれにより収集したデータをいかに活用できるかの能力にかかっているわけです。その点で、いくつかのシナリオでは、特に、日本企業のマネジメント上の能力的な限界により生産性を高めることに失敗する可能性にも言及しています。他方で、人口の少子高齢化は目先ではとてつもなく進み、社会保障の改革なども待ったなしの状況、ということになります。その情報通信などのデジタル技術と、とても牽強付会ながら少子高齢化による社会保障給付の抑制、さらにCO2排出までを両天秤、というか、考えられる大きな現代日本の諸課題を分析の対象にしていて、やや強引な議論の運びと感じないでもないですが、はたまた、その解決策のひとつが雇用の流動化、といった、なかなかに多面的、というか、わずか200ページ少々のコンパクトなボリュームで思い切り詰め込んだ内容、それなりに強引あるいは無謀な議論を展開しているような気もします。ただ、コンパクトですので、あまり多くを期待せずに、手軽に短時間で方向性を把握するには適当な気もしますし、本書を足がかりにして、さらに詳細な情報を求めるきっかけにもなりそうにも思います。なお、雇用流動化については、あくまで雇用を守ろうとする労働組合的な左派と雇用者全員を非正規にしたいが如きネオリベな右派の議論の中間を行こうとするかのように、10年くらいの中期的に保障された雇用、という、何とも中途半端なプランを提示しています。どこまで本気なのか、アドバルーンを上げただけなのか、もう少し詰めた議論を待ちたいと思います。

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次に、若奈さとみ『巨大銀行のカルテ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) です。著者は、興銀を降り出しに、いくつかの金融機関や格付け機関での勤務経験があり、研究者というよりも金融業界の実務者なんだろうと思います。リーマンショックが2008年9月にあって、その後の約10年を振り返っているわけですが、特に目新しさがあるわけではありません。交換言い尽くされた金融機関、というか投資銀行を含めた外資の銀行に関する会社情報、というあ、まあ、『四季報』を詳しくしたもののように考えておけばいいような気がします。繰り返しになりますが、特段の目新しい情報もなければ、鋭い分析があるわけでもありません。各種の情報をコンパクトにコンパイルしたという入門書という受け止めです。大陸欧州から始まって、第1章でドイツのドイツ銀行、第2章でフランスのBNPパリバ、第3章では極めて浅く広くリーマンショックが米銀に与えた影響を概観した後、第4章で米国の4大金融機関であるJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴに着目し、第5章でゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを取り上げています。最終章はコンクルージョンです。各金融機関の財務に関する簡単な紹介や創業者から最近の経営トップまでの経営陣の流れ、さらに、金融業界における評価や社風などなど、なかなかのリサーチ結果だという気はします。特に、ライバル関係にある競合同業者との対比はそこそこ面白く描き出されており、時々のマーケットの状況や各社のポジショニングなども調べ上げています。事実関係を事実として情報収集した結果であり、力技でマンパワーを投じれば出来る仕事のような気もしますが、そういった情報収集をしっかりマネージすることもお上手なんだろうとは思います。ただ、そのリサーチ結果を積み上げた上で示されても、「だから何なの?」という気はします。特に、私ががっかりしたのは第3章で、リーマンショックの影響、欧米銀行に及ぼした影響を事実関係を積み上げて分析しようと試みているんですが、ハッキリいって、失敗しています。モノになっていない気がします。広い四角い部屋の真ん中あたりを丸く掃くようなお掃除の結果で、取りこぼした内容が多すぎます。著者の力量からしてやや手に余る課題を取り上げてしまった気がします。でも、それがなければ、まったくモノにならないという事実を認識していることは立派だと思います。著者がそうなのか、編集者がそうなのかは私には判りません。

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次に、岡本哲史・小池洋一[編著]『経済学のパラレルワールド』(新評論) です。編著者をはじめ、各チャプターの執筆者は経済学の研究者です。タイトルからは判りにくいところですが、副題の方の「異端派総合アプローチ」が判りやすいと思います。というのは、本書では、主流派経済学に対抗して、「異端派」の経済学を各チャプターで取り上げているからです。ただ、その昔に、サムエルソン教授なんかが新古典派総合を提唱したのには、それなりに理由があるような気がするものの、非主流派ないし異端派を「総合」することはムリがあるような気がします。ということで、もちろん、いの一番の第1章はマルクス経済学です。どうでもいいことながら、私自身は「主義」を付けて、マルクス主義経済学と書くことが多いんですが、もちろん、同じです。マルクスの『資本論』を基にして発展してきた経済学です。ただ、本書では主流派経済学がスミス以来の古典派ないし新古典派のマイクロな経済学とされていて、その意味から、ケインズ経済学やシュンペタリアンもやや異端に近い位置づけがなされていたりします。本書冒頭 p.3 で経済学史とともに図で展開されているところですが、ちょっと注意が必要かもしれません。というのも、私の長い官庁エコノミストの経験からして、マクロなケインズ経済学やマネタリスト経済学は、多くの場合、十分、主流派経済学の範囲に入る、と考えられるからです。加えて、出版社のサイトなんかでは、「社会人・学生・初学者に向けて平易に説く最良の手引き」なんてうたい文句があったりするのですが、それ相応に内容は難しいと考えるべきです。冒頭のマルクス経済学では、置塩の定理、すなわち、企業が正の利潤を上げているならば、搾取が存在する、という基本定理をかなり正確に解説しているんですが、私も経済学部の学生時代に一応、理解したつもりになっていましたが、現在でははなはだ怪しい理解しか持っていないと告白せざるを得ません。しかし、マルクス経済学をはじめとして、本書でスポットが当てられている非主流派、というか、異端の経済学も、主流派経済学の暴走を食い止める、あるいは、特にマルクス経済学は資本制経済の暴走やその先の崩壊を阻止する、という重要な役割があり、例えば、ネオリベ的な格差拡大に対する抑止能力が問われている、という本書の立場はその通りだと思いつつ、それでも、主流派経済学に対する抑止力だけでなく、現実の経済政策への働きかけももっと欲しい気がするのは、私だけなのでしょうか。

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次に、ケント E. カルダー『スーパー大陸』(潮出版社) です。著者は、長らく米国プリンストン大学で研究者をした後、現在では、米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究者であり、国際政治学分野でのビッグネームをといえます。英語の原題も Super Continent であり、2019年の出版です。上の表紙画像にも見えるように、スーパー大陸とはユーラシア大陸のことであり、日本の読者からすれば「当然」という受け止めがあるかもしれませんが、著者は本書の中で少し前までのスーパー大陸は米州大陸だったと考えているような示唆をしていたりします。そして、その議論を地政学ではなく、地経学的な観点から進めています。そのバックグラウンドは、もちろん、中国の経済的な巨大化にあります。ですから、圧倒的な人口と石油を始めとする巨大な天然資源の潜在的な賦存からして、ユーラシア大陸をスーパー大陸と考える意味は大いにあるわけです。その上で、著者の地経学的な観点から連結や統合といったキーワードを駆使して議論が進みます。いくつかの要素を本書でも取り上げており、途上国感のいわゆる南南貿易、中国の主導する一帯一路構想による経済的な結びつきの強化、エネルギー開発を通じた中国・ロシアの蜜月関係、などなどです。他方で、かつてのスーパー大陸だった米州謡力では、特に、米国のトランプ大統領による米国第一主義、というか、伝統的なかつてのモンロー主義的な孤立主義により、世界的なプレゼンスが低下しているのも事実であり、それが、逆にユーラシア大陸の「スーパー性」を高めているわけです。中国に加えて、インドの発展もユーラシアのど真ん中である国としてプレゼンスを高めており、決して無視できる存在ではありません。むしろ、ロシアの方の比重が石油価格の低迷ととともに下がっているような気がします。通常、派遣外交する場合には、いわゆるツキディディスの罠といわれて、大規模な戦争が生じる可能性もあったりするんですが、米国から中国への派遣の移行、あるいは、スーパー大陸が米州大陸ではなくユーラシア大陸となる際に置いては、ひょっとしたら、大規模な武力行使なしに終わる可能性もあると、私なんぞは楽観的に予想しており、従来とは様変わりのスーパー大陸の移行が生じる可能性もあるんではないかという気がします。ですから、本書では共同覇権はありえない、としていますが、ひょっとしたら、米中のG2の共同覇権も従来にない形でありえるような気もします。いずれにせよ、日本国内にいては把握できないような国際情勢の変化をより大きなスケールで感じ取ることが出来る読書でした。

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次に、吉田右子・小泉公乃・坂田ヘントネン亜希『フィンランド公共図書館』(新評論) です。著者は、図書館学の研究者ないし本書のタイトル通りにフィンランドの図書館勤務者となっています。全編、ほぼほぼフィンランドの公共図書館の事実関係などの紹介にとどまっており、私は図書館学というのはどういう学問分野なのか、よく知りませんが、図書館運営に関する学術的な分析とは見えません。学術的というよりも、謝名リスト的に事実関係を幅広く情報提供している、というカンジです。私も地球の裏側のチリという小国に経済アタッシェとして3年間駐在し、日本国内にチリの経済情報がほとんど注目されたりしていない中で、経済統計をそのままローデータとして外務省本省におくるだけで、それだけで十分な役割を果たすことが出来た時代があり、フィンランドの公共図書館についても、ある意味で、日本国内ではそういった位置づけなのか、と思わずにはいられませんでした。従って、おそらく、実際の国内図書館運営には何の示唆にもならないような気がしてなりません。単に、「うらやましい」で終わりそうな気すらします。どこかの低所得国に国民に対して、我が国の国民生活や経済社会を伝えるようなものです。電気や水道が行き渡り、舗装された道路を自動車が走り、ビジネスマンはパソコンを相手にデスクワークにつき、高校生はスマホでゲームする、という事実を、片道数キロを水汲みに行く子供がめずらしくないどこかの低所得国の国民に伝える、それが経済学の役割だとは私は思いません。開発経済学ばかりがすべてではありませんが、低開発国経済の経済発展に寄与するような経済学が求められるわけです。その意味で、本書については、完全に踏み込み不足であり、我が国の図書館、特に私が利用している東京都内の公共図書館は、かなりの程度に民間企業に運営委託し、その結果として、おそらくご予算削減には役立ったのでしょうが、専門性低く意識はもっと低い図書館員の割合が増え、従って、図書の管理も利用者の利便性も落ちている可能性が高い、という現状をどのように打破するかを、フィンランド公共図書館をお手本にしつつ、幅広く議論して欲しい気がします。例えば、本書でも、フィンランドのいくつかの図書館では、フローティング・コレクションがなされているとの記述がありますが、日本でフローティング・コレクションが採用されていないのはなぜなのか、あるいは、日本でフローティング・コレクションを行えば、どのようなメリットやデメリットが図書館サイドと利用者サイドにあるのか、などなど、ご予算増額を別にしても、議論すべきトピックは尽きないように思う私なんぞにとってはやや残念な読書でした。

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次に、ジル・ルポール『ワンダーウーマンの秘密の歴史』(青土社) です。著者は、ハーヴァード大学の歴史学研究者であり、専門はアメリカ合衆国史で、雑誌『ニューヨーカー』のスタッフライターも務めています。本書の英語の原題は The Secret History of Wonder Woman であり、ハードカバーが2014年、ペーパーバックが2015年の出版で、邦訳書は2015年のペーパーバックを底本としています。ということで、著者は、ワンダーウーマンをフェミニズム運動の観点から説き起こそうと試みて、主として原作者である心理学研究者のパーソナル・ヒストリーから解明を試みています。すなわち、現在の21世紀では単なるフェミニズムではなく、移民を主たる論点としつつ、性別だけでなくエスニックな多様性が議論されていますが、20世紀には男女の性差別の観点から20世紀初頭のファーストウェーブのフェミニズムと1970年代のセカンドウェーブのフェミニズムがあり、前者は女性参政権運動やそのやや過激な形のサフラジェットなどがあった一方で、校舎は米国におけるベトナム反戦運動の盛り上がりとも呼応しつつ進められたわけですが、その間のミッシング・リンクを埋めるアイコンとしてワンダーウーマンがどこまで重要化、といった観点です。出版社の宣伝文句には、第2時大戦期にワンダーウーマンが枢軸国のアチスドイツや日本をやっつける、なんて謳い文句もあったようですが、アッサリと、そのあたりは無視してよさそうです。さらに、戦後の黄金期ないし我が国で言えば高度成長期になりますが、この時期は同時に米ソの冷戦期でもあり、戦後期のアカデミズムないしハイカルチャーとポップカルチャーないし、我が国でいうところのサブカルチャーとの間の架け橋として、ワンダーウーマンがどこまで位置づけられるのか、も考察の対象となっています。それを、原作者であり、嘘発見器の開発者でもある心理学研究者のマーストン教授とその家族の歴史もあわせてひも解こうと試みています。ファーストウェーブのフェミニズム期における産児制限の展開もあわせて、それなりに貴重な歴史的考察なんですが、本書でも取り上げられているように、DCコミックの中で、少なくとも我が国においてはスーパーマンやスパイダーマンほどの人気がワンダーウーマンにあるとも思えず、どこまでフェミニズムとあわせて興味を引きこすことが出来るかは、私はやや疑問に感じています。ただ、極めて大量の史料と資料に当たって、さらに、関係者へのインタビューも含め、貴重な歴史的事実を引き出している点は、極めてニッチな米国現代史のトピックながら、さすがに学識を感じないでいられません。

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最後に、佐藤郁哉『大学改革の迷走』(ちくま新書) です。著者は、一橋大学などを経て、現在は同志社大学の研究者です。タイトルはとても正確で、今年に入って、1月4日付けで広田照幸『大学論を組み替える』を取り上げ、4月から教員として大学に復帰するに際しての準備の読書を進めているところだったりするんですが、本書もその一環だったりします。ただ、前の『大学論を組み替える』より数段落ちる内容です。単に、現在の大学改革の進行を批判するだけで終わっています。そもそもの大学改革の必要性が論じられた背景などに目が行くわけでもなく、現在の日本の大学に何らかの改革が必要かどうかに対しても、著者には十分な見識ないように見受けられますし、さらに踏み込んで、大学改革がどうあるべきかについても定見あるようには見えません。確かに、本書で議論されているように、文科省という役所の無謬主義がネックになって大学改革が迷走しているのは事実ですし、文科省の思惑とはズレを生じつつも一部の大学が予算獲得に走っているのも事実です。かつての国会論戦における万年野党のように、ひたすら反対を繰り返すだけで、積極的な対案も持たず、大学の現状に対しても、あるべき大学論や必要な大学改革も、何も論ずることなく、現在の大学改革の動きを批判するだけなら誰にでも出来ますし、本書の場合は、単に著者の「気に入らない」で済ませるような論調も気がかりです。日本の将来がどうあるべきか、あるいは、どうしたいか、の大きな議論から初めて、それに貢献する大学の教育と研究とはどういうものかを考えた上で、現状の大学を分析し、あるべき大学像を明らかにし、それに向けた改革の方向を探る、というのが大学論の目指すべき方向だと私は考えます。まるで民主党政権時のように、ひたすら、文科省と財務省などの役所を敵役にし、逆に、著者サイドの大学を免責にしている印象です。やや期待はずれ、というよりも、まったく的外れの議論を展開している新書でした。

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