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2020年5月30日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計3冊!!!

図書館が活動を再開し始め、私も読書が進むようになっています。今週の読書は、以下の通り、経済書を始めとして、京都本まで含めて計3冊です。

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まず、トマ・ピケティ『不平等と再分配の経済学』(明石書店) です。著者はご存じ、『21世紀の資本』で世界的に著名になったフランスのエコノミストであり、不平等や格差にまつわる経済学を展開しています。本書のフランス語の原題は L'Économie des Inégalités であり、最後の訳者解題にもあるように、邦訳タイトルの「再分配」は原題には含まれていません。この邦訳書は今年2020年に入ってからの出版ですが、原書は1997年から何度か改版を重ねています。本書は原書2015年版だそうです。従って、著者の端書きでは、本書ではなく、とまでかいてはありませんが、『21世紀の資本』を参照されたい旨が明らかにされています。ということで、第1章なんかは私のやっている計測に関する分析で、不平等の変化の計測を試みています。ただ、本書の中心は第2章の労働と資本の分配における不平等、第3章の労働の中における不平等であろうと考えられます。第4章最終章の再分配は、まあ、付け足し的な印象です。著者も明記しているように、単純に資本所得と労働所得=賃金の間の不平等であれば、資本家と労働者の階級の間のマルクス主義的な階級闘争にもつながりかねないわけですが、労働者間での不平等も決して無視できるわけではありません。私も当然そうですが、著者も現在の不平等は社会的に許容されるレベルを超えていると考えていて、それを解決するための財政による所得の再分配が置かれています。特に、第3章の労働所得の不平等に関する現状把握やそれに基づく分析は読み応えがあります。

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次に、諸富徹『資本主義の新しい形』(岩波書店) です。著者は、私の母校である京都大学経済学部の研究者です。本書では、私はよく理解できなかったネーミングなんですが、資本主義の「非物質主義的転回」という言葉を設定して、サービス化の進展や無形資産の活用などをそこに位置づけています。そして、なぜか、サービス経済化のための産業政策が必要であると指摘してみたり、最後はそのラインに低炭素化経済の流れを位置づけて、穴だらけ、とはいなないものの、やや強引な理論展開をしていたりします。私は環境経済学的に、環境グズネッツ曲線を推計した紀要論文を書いた経験もありますが、先進国でエネルギー集約的な産業からサービス化が進んでいる背景で、例えば、鉄鋼業が典型的なところで、新興国や途上国にそういった炭素消費型の産業が移転しているという点は忘れ去られています。まあ、本来の経済発展が進めば不平等の度合いは最初は不平等化が進む一方で、転換点があって後に不平等化が後退する、というのがオリジナルな「発見」だったわけで、それ自体はかなりの程度に自律的な方向性を持っていた可能性があると考えられます。しかし、少なくとも産業構成の変化とそれを背景にした低炭素化は、先進国から新興国や途上国に炭素多消費型産業を移転した結果であることは、本書でもそうですが、都合よく忘れられています。先の例でいえば、もちろん、技術革新などによって、鉄鋼業で低炭素化が図られていることも確かながら、それだけではないと私は考えています。すなわち、日経新聞の記事「19年世界粗鋼生産、3年連続過去最高に」などで指摘されているように、世界全体で鉄鋼の生産は増加している一方で、先進国の生産が減少していて、その分、先進国で低炭素化が進んでいる面を忘れるべきではありません。それを「産業政策」的にバックアップすることは意味ないとはいいませんが、Appleのようなファブレス化が進んで、実体的に中国で生産されて、中国で二酸化炭素排出が増加しているのをもって、Apple本国である米国の二酸化炭素排出が減るのが望ましいことなのかどうか、もう一度考えるべき段階に達しているような気がしてなりません。

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最後に、西川照子『京都異界紀行』(講談社現代新書) です。著者は、民俗学を専門とするジャーナリスト、編集者のようで、本書は、私が年に何冊か読む京都本です。タイトル通り、我が国の古典古代である平安時代を中心に、怨霊にまつわる場所の紀行本です。私なんぞの中途半端な京都人は知らない場所が満載です。本書では、京都の3大怨霊として、菅原道真、平将門、崇徳天皇を上げ、多くは神社仏閣なんですが、京都の異界を紹介しまくっています。多くは観光名所でもあったりするんでしょうが、別の顔を持つ観光名所も少なくないような気がします。ひとつは、私が東京で暮らしていた城北地区に「縁切榎」というのがあって、和宮が中山道を通って降嫁された際には、晒で巻いて隠した、といわれるくらいに、まあ、「由緒」あるものです。ただ、私が知る限り、「縁切り」とはいえ、例えば、喫煙や飲酒も含めて、悪癖と縁を切るとか、に効用あると宣伝されていて、DV夫との「縁切り」などはあるんでしょうが、決して表に出てきません。京都では、私の大学への通学路にあった安井金比羅宮が縁切りのご利益あると昔からいわれていますが、モロに「あの人を殺してほしい」といった願文があるそうで、さすがは京都らしく極めてダイレクトだと感じてしまいました。恨み、つらみを基にした怨霊が発信源なわけですから、それなりに、おどろおどろしい内容が含まれていrたりして、それはそれで読み応えがありました。

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コメント

さすが古都でありますね。怨霊など怖いものの話も豊富です。せいぜい関東は首塚くらいのものです。それに奈良などは古すぎて、怨霊系の話は化石になっておりますね、蘇我氏の遺恨なんかは朽ち果てています。

投稿: kincyan | 2020年5月30日 (土) 11時33分

私は東京で公務員をしていたころから、毎年何冊か京都本を読んでいて、もちろん、ご当地本の中では他地域に比べて圧倒的に京都本を読んでいるんでしょうが、やっぱり、そのご当地に帰ってくると別の感慨があります。

投稿: ポケモンおとうさん | 2020年5月30日 (土) 18時18分

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