国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」に見る世界経済の先行きやいかに?
日本時間の昨日、国際通貨基金(IMF)からIMF・世銀総会に向けて「世界経済見通し2020年10月」 World Economic Outlook, October 2020 が公表されています。副題は A Long and Difficult Ascent であり、ビートルズのヒット曲である Long and Winding Road を思い起こさせます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、世界経済の成長率は今年2020年は▲4.4%に落ち込むものの、来年2021年は+5.2%にリバウンドを示す、と見込まれています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。6月予想から2020年で+0.8%ポイント上方改定されたものの、2021年は▲0.2%ポイントの下方改定となっています。我が日本は、2020年▲5.3%のマイナス成長の後、2021年は+2.3%に回復すると見込まれています。6月時点での見通しと比較して、2020年は+0.5%ポイントの上方改定、2021年は▲0.1%ポイントとわずかながら下方改定となっています。
上のテーブルは、IMFのサイトから世界の成長率の総括表を引用しています。画像をクリックすると、別タブでリポート pp.9-10 にある Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections を抜き出したpdfファイルが開くと思います。見れば明らかな通り、COVID-19の発生源であったにもかかわらず、というか、発生源であったからこそ、なのかもしれませんが、早期の終息ないし安定化に成功した中国を唯一の例外として、世界各国おしなべて2020年はマイナス成長に陥っています。そして、2021年のリバウンドによる成長の回復は、これまた、中国を例外として、おしなべて2020年のマイナス成長をカバーするには至りません。ほぼほぼ先進国はすべてそうですし、新興国でもインド、ロシア、ブラジルなどで、2021年のリバウンドは2020年のマイナス成長に届いていません。ただし、今年2020年6月時点での最新のIMF見通しと比較すれば、上方修正となっている国が多く見受けられます。6月時点での想定よりもCOVID-19が終息ないし安定化に向かっているということなのだろうと私は理解しています。すなわち、現時点で経済見通しはCOVID-19の感染拡大次第、あるいは、感染拡大に従って、どこまでロックダウン措置を強めるか次第、というべきであり、ハッキリいえば、経済見通しはエコノミストの出る幕ではなさそうに感じてしまいます。以下では、私の目についたグラフをいくつかリポートや IMF Blog のサイトから引用しておきたいと思います。
まず、上のグラフは、リポート p.12 Figure 1.12. GDP Losses: 2019-21 versus 2019-25 を引用しています。少し前に、Guerrieri, Veronica, Guido Lorenzoni, Ludwig Straub, and Iván Werning (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" NBER Working Paper 26918 に着目して、今回のCOVID-19ショックによるリセッションはケインズ的な需要ショックではなく、contact-intensive なセクターが供給をストップしたことによる供給ショックに起因する、というモデルがありました。たぶん、私もそうですが、「通商白書 2020」で取り上げられたのでみんなが注目するようになったんではないかと思います。このほかにも、Acemoglu, Daron, Victor Chernozhukov, Iván Werning, and Michael D. Whinston (2020) "A Multi-Risk SIR Model with Optimally Targeted Lockdown." NBER Working Paper 27102 では、何とも古典的なSIRモデル、すなわち、Kermack and McKendrick (1927) "A contribution to the mathematical theory of epidemics" に基づくSIRモデルを応用して、年齢やリスクに応じてターゲット化されたロックダウンの最適化なども研究されています。こういったモデルからの結論も含めて、短期的な経済ショックと中期的な供給サイドも含めた影響を試算したのが上のグラフです。短期のショックと供給サイドも含めた中期のショックはかなりの程度に相関していることが読み取れます。ただし、ナナメに引かれた45度線からして、短期のショックの方が中期的な供給サイドも含めた影響よりも大きい国が多い、というのは当然でしょう。
続いて、上のグラフは、IMF Blog のサイトから Uneven impacts across gender and age groups を引用しています。リポート p.72 Figure 2.6. Differentiating the Mobility Impact of Lockdowns by Gender and Age Group に相当するんではないかと思いますが、より判りやすくなっています。上のパネルは性別の不平等です。lockdown とはしていませんが、stay home order の後で女性の方が男性よりもより強く移動を制約された可能性を示唆しています。下のパネルでは、明らかに、年齢が若いほど移動の制約が強かったとの試算結果を示しています。決して、我が国の各種 Go To キャンペーンがすべて利権がらみだとは思いませんが、特定の業種や業界を支援するだけでなく、性別や年齢別、もちろん、職種別なども含めて、今回のCOVID-19ショックは従来からの格差をさらに拡大させた可能性があり、逆進性の高い消費税率の引下げをはじめ、格差や不平等へ十分に目が行き届いた経済政策が必要です。
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