緩やかな回復続く鉱工業生産指数(IIP)と底堅い雇用統計をどう見るか?
本日は月末閣議日ということで、重要な政府統計がいくつか公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計がが、それぞれ公表されています。いずれも9月の統計です。まず、鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で見て、前月から+4.0%の増産を示した一方で、失業率は前月と同じ3.0%、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント低下して1.03倍と、雇用は明らかに悪化を示しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響によるものと考えるべきです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
9月の鉱工業生産指数、4カ月連続で上昇 判断「持ち直し」で据え置き
経済産業省が30日発表した9月の鉱工業生産指数速報値(2015年=100、季節調整済み)は前月比4.0%上昇の91.6だった。上昇は4カ月連続。自動車工業や生産用機械工業などで生産の回復が目立ち、業種別では15業種のうち13業種が上昇した。
自動車工業では普通乗用車や駆動伝導・操縦装置部品、自動車用エンジンなどの品目が上昇に寄与した。新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んでいた需要は回復しており、工場の稼働日を増やして増産する動きがあったほか、海外向けの生産も戻りつつあるという。生産用機械工業では需要回復に伴う増産でショベル系掘削機械が増えたほか、海外向けが伸びた半導体製造装置などの品目が押し上げた。
出荷指数は90.4と前月から3.8%上昇した。国内外での経済活動の再開に伴う需要回復で出荷が増えた。在庫は前月比0.3%低下の97.7、在庫率は3.7%低下の118.6となった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では、10月が4.5%の上昇、11月は1.2%の上昇だった。企業の予測値が上振れやすいことや例年の傾向を踏まえ、経産省がはじいた10月の補正値は1.4%上昇だった。
9月の生産の基調判断は「持ち直している」で据え置いた。経産省は先行きについて「生産は当面低い水準が続く。今後の感染症の影響についても引き続き注意してみていく必要がある」と説明した。
あわせて公表した7~9月期の鉱工業生産指数は前期比8.8%上昇の89.0だった。上昇率は現行基準で比較可能な2013年以降で最大だったが、「4~6月期の大幅低下からの戻りとして水準は半分も戻っておらず、生産は今後も回復が続くことが期待される」(経産省)という。
9月の求人倍率1.03倍に低下 非正規123万人減
厚生労働省が30日発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.03倍で前月から0.01ポイント低下した。6年9カ月ぶりの低水準となった。総務省が同日発表した9月の完全失業率(同)は2カ月連続の3.0%だった。非正規雇用者数が前年同月比で123万人少ない2079万人となり、7カ月連続で減少した。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。低下は1月から9カ月連続。9月は企業からの有効求人が前月から0.1%減り、働く意欲のある有効求職者は0.8%増えた。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で17.3%減った。減少幅では生活関連サービス・娯楽業(32.9%)や宿泊・飲食サービス業(32.2%)、卸売業・小売業(28.3%)、製造業(26.7%)が大きかった。建設業は5.9%増加した。
9月の就業者数は前年同月比で79万人減り、6689万人になった。6カ月連続の減少で、特に非正規の雇用環境が厳しい。パート・アルバイトが61万人、契約社員が40万人それぞれ減った。正社員は48万人増え、4カ月連続で増加した。
休業者は197万人で8月から19万人減少した。200万人を割ったのは2月以来になる。過去最高だった4月(597万人)からは大幅に減り、新型コロナウイルスの感染拡大前とほぼ同じ水準に近づいている。
雇用環境は近年、人手不足などを背景に堅調に推移してきたが、新型コロナ禍によって、悪化した。総務省の担当者は9月の雇用情勢について「持ちこたえている状況」と説明する。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は10月28日時点で6万8758人だった。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。製造業と小売業で、それぞれ1万人を超えた。
ふたつの統計を取り上げていますのでやや長くなってしまいましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+3.1%の増産との見込みで、レンジでも+2.5%~+4.0%でしたので、ほぼほぼ上限といえます。増産に寄与した順に少し詳しく見ると、前月比+10.9%増の自動車工業、+11.2%増の生産用機械工業、+4.8%増の電気・情報通信機械工業、+5.7%増の電子部品・デバイス工業など、9月の増産業種には我が国のリーディング・インダストリーであり、それなりに付加価値額の大きな産業が並んでいます。特に、自動車工業については産業としての裾野が広く、波及効果が大きいだけに単なる1産業分野の増産とではなく、さらに幅広いコンテキストで評価する必要があります。さらに、製造工業生産予測調査によると、この先も10月+4.5%、11月+1.2%のそれぞれ増産と見込まれています。もちろん、上振れバイアスの大きな指標ですので、補正値試算が明らかにされており、それでも、+1.4%の増産との結果が示されています。ただし、上のグラフを見ても理解できる通り、9月時点での生産のレベルはまだ90をようやく少し上回ったところであり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)前の水準に回帰しているわけではありません。例えば、昨年2019年12月の指数が99.8、2月が99.5でしたから、9月の91.2というのは、まだ8%超のギャップがあります。鉱工業生産指数(IIP)は付加価値ベースですので、そのままGDPと同じベースと考えることが出来ますが、先行きも、まだまだ緩やかな回復が続くとすれば、COVID-19前の水準に戻るのは時間がかかりそうです。加えて、COVID-19の経済的なダメージについては、鉱工業ではなく人的接触が濃厚なサービス分野に大きいと考えますので、我が国経済について考える際に、鉱工業生産指数(IIP)だけでは上方バイアスが掛かる可能性は考慮に入れるべきです。

鉱工業生産(IIP)の9月データが利用可能になりましたので、在庫循環図を書いてみました。上の通りです。季節調整済みの出荷と在庫率の前年同月比をプロットしています。ピンクの上向き矢印で示された2013年1~3月期から始まって、直近でデータが利用可能な2020年7~9月期までとなっています。私のこのブログでは暫定的に今年2020年5月を景気の底としてグラフを書いていますが、在庫循環図からすればまだ景気後退局面にあり、もうすぐ45度線を越えようか、という段階かとも見えます。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。まず、失業率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは3.1%だった一方で、有効求人倍率の日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1.03倍でしたので、ほぼジャストミートしたものの、代表的な雇用の指標である失業率については市場の事前コンセンサスを下回っており、そこそこ雇用は底堅い、と私は認識しています。もっとも、引用した記事には総務省統計局の見方として「持ちこたえている」という状態なのかもしれません。いずれにせよ、引用した記事にもあるように、やっぱり、非正規雇用が職を離れるケースが少なくありません。前年同月比で見て、今年2020年6月から▲104万人減と▲100万人の大台に乗せ、7月▲131万人減、8月▲120万人減、そして、直近のデータが利用可能な9月▲123万人減となっています。正規職員は逆に6月+30万人増、7月+52万人増、8月+38万人増、9月+48万人増となっています。もちろん、正規と非正規を合算した雇用全体としては減少しています。特に厳しい雇用環境に直面している非正規雇用への対応が必要です。
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