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2020年11月30日 (月)

回復が遅れる鉱工業生産指数(IIP)と物販は回復続く商業販売統計!!!

本日は月末日ということで、重要な政府統計がいくつか公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計です。いずれも10月の統計です。まず、鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で見て、前月から+3.8%の増産を示した一方で、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.4%増の12兆4300億円、季節調整済み指数でも前月から+0.4%増を記録しています。消費の代理変数となる小売販売は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染再拡大で減少が続くという結果が出ています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の鉱工業生産、3.8%上昇 回復なお途上
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数速報(2015年=100、季節調整済み)は前月比3.8%上昇し95.0だった。5カ月連続でプラスとなった。経産省は基調判断を「持ち直している」に据え置いた。12月には低下が見込まれ、新型コロナウイルス感染症の再拡大で経済活動が鈍る恐れもある。
新型コロナの影響が出始めた2月は99.5だった。減産が続き5月に78.7まで下がった指数の回復が続くものの、水準はなお低い。
業種別では15業種中12業種が上昇した。自動車工業は6.8%上昇した。自動車に限ってみれば新型コロナの感染拡大前の1月の水準を超えた。海外向けに普通乗用車などの輸出が増え、5カ月連続で回復した。
コンベアなどの汎用・業務用機械工業は17.9%上昇した。コンピューター関連の電気・情報通信機械工業も8.4%上昇した。一方、電子部品・デバイス工業は5.2%低下、航空機部品などの輸送機械工業が9.9%の低下となった。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査によると、11月は前月比2.7%の上昇、12月は2.4%の低下を見込む。経産省は「新型コロナの感染が再拡大しており、国内外経済の下振れリスクにも注意する必要がある」とする。低下が予想される12月については「上昇の連続が一服するということではないか」とみている。
10月の小売販売額 前年比6.4%増 消費増税の反動
経済産業省が30日に発表した10月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比6.4%増の12兆4300億円だった。前年実績を上回ったのは8カ月ぶり。1年前の10月は消費増税前に出た駆け込み消費の反動で落ち込んだため、伸び率が大きくなった。
季節調整済みの前月比でみると0.4%増で、2カ月ぶりにプラスに転じた。10月は新型コロナウイルスの感染拡大が一定程度落ち着いており、消費者心理が改善した。経産省は小売業販売の基調判断を前月から据え置き、「横ばい傾向にある」とした。
自動車小売業は前年同月比16.4%増で、13カ月ぶりにプラスに転じた。家電など機械器具小売業は27.4%増加した。エアコンや洗濯機などの販売が堅調だった。
業態別にみると、百貨店は2.5%減だった。減少は13カ月連続。コロナ感染拡大前の今年1月以来初めて下げ幅が1桁にとどまったものの、落ち込みが長引いている。外出機会の減少などで主力の衣料品の販売が戻らず、回復の重荷となっている。

ふたつの統計を取り上げていますのでやや長くなってしまいましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+2.3%の増産との見込みで、レンジでも+1.5%~+4.0%でしたので、ほぼほぼ上限といえます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前の今年2020年1月の指数が99.8とほぼ100だったんですが、ボトムの5月には78.7と指数レベルで▲21.1、比率で▲22%ダウンし、その後、本日公表の10月統計で95.0ですので、指数レベルで+16.3、ボトムからの比率で77%を回復したことになります。もしも、11月統計が製造工業生産予測指数の補正値通りに+0.4%の増産と仮定しても、まだボトムからの戻りは80%に達しません。加えて、12月は▲2.4%の減産が見込まれていますから、回復の足取りは極めて緩やか、というか、足元のCOVID-19感染拡大を考慮すれば、「緩やか」以上に逆行して再び減産に入る可能性すら考えられます。ですから、10月統計だけを取り出して評価しても、私はそれほど意味あるとは思えません。加えて、我が国のリーディング・インダストリーであり、ここまでの生産の回復を支えてきたのは自動車工業です。すなわち、自動車産業の指数水準を見ると、1月の104.3に対して、ボトムの5月には45.4と半減以下に大きな減産を記録しましたが、10月統計では104.7とパンデミック前の水準を超えています。しかし、他方で、製造工業生産予測指数を見ると、自動車工業のカテゴリーはないんですが、輸送機械工業の分類では11月▲3.9%減、12月▲2.5%減と2か月連続の減産が見込まれています。COVID-19の感染拡大次第では、さらに下振れする可能性が十分あると覚悟すべきです。ペントアップのいわゆる挽回生産が続いて来ましたが、COVID-19パンデミック前の生産水準に戻る前に、国内の感染拡大や欧州のロックダウンによる輸出への影響などから、生産は回復が減速するどころか、回復を続けることすら危うくなった、と私は認識しています。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。ということで、小売業販売額の前年同月比で見て、新型コロナウィルス(COVID-19)パンデミック初期の食料品やマスクをはじめとする日用品の買い物をせっせとしていた今年2020年3月の前年同月比+1.6%増を最後に4月からマイナスが続いていたんですが、本日公表の10月統計で久し振りにプラスを記録しています。しかしながら、引用した記事のタイトルの通り、これは前年2019年10月に消費税率の引上げがあって、その直前の駆込み需要の反動として昨年10月統計が大きく落ち込んだため、伸び率が大きく見えていることが一因です。従って、前年同月比+6.4%増はそのままだと過大評価になるわけですが、他方で、季節調整済みの指数で見るとパンデミック初期の今年2020年1月102.6、2月103.1に対して、この水準を初めて超えたのは8月103.2であり、その後も9月103.1、そして本日公表の10月103.5と、かなり底堅い動きを示していることも事実です。もちろん、この商業販売統計は小売業だけであって、サービス業が調査対象外とされており、飲食や宿泊といった対人サービス業におけるCOVID-19のダメージが大きいわけですので、消費がパンデミック前の水準に戻ったと考えるべきではありませんが、COVID-19のダメージが大きいサービスはまだまだとしても、少なくとも物販については底堅い、と考えるべきです。

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2020年11月29日 (日)

大山選手が阪神のキャプテンに!!!

本日、大山内野手が阪神タイガースのキャプテンに就任することが明らかにされました。デイリー・スポーチのサイトから記事を引用すると以下の通りです。

阪神・大山が来季チームキャプテン「覚悟と責任感」投手キャプテンは岩貞
阪神は29日、来季からチームキャプテンに大山悠輔内野手、投手キャプテンに岩貞祐太投手が就任することを発表した。
矢野監督が甲子園での秋季練習開始前に円陣で発表。全体を引っ張るチームキャプテンに指名した大山に対しては、「大山にはどちらかと言えば、ぐいぐいと引っ張っていくキャプテンでは現状、ないかもしれませんけど、大山らしくその立場からどう成長していくかを楽しみにしたいと思います」と期待を込めた。
大山は4年目の今季、主に4番として116試合で打率.288、リーグ2位タイの28本塁打、同3位の85打点を記録。今年12月には26歳を迎え、今後はチームの中心として期待される。
矢野監督からは28日に伝えられたことを明かし、「チームの勝敗を全て背負うというか、そういうような覚悟と責任感を今年以上にもっともっと強く持って、やっていきたいなと思っています」と話した。
投手キャプテンを託される岩貞は、今季途中からリリーフに転向。38試合に登板して7勝3敗、防御率3.30と奮投した。
今季限りで藤川が現役を引退し、能見も退団。来季8年目を迎える岩貞には、投手陣の大黒柱としての期待がかかる。「球児さんもそうですし、能見さんもそうですし、言葉、背中、いろんなところで引っ張っていく方を見てきたので。お二方には全く足元にも及びませんが、みんなで頑張っていく、輪の中心でいられるようにやっていきたいと思います」と決意表明した。
また、阪神では2019年から2年間は糸原がキャプテンを務めていた。矢野監督は糸原に対して「特に今年はすごく成長して、チームを引っ張って、チームを前に向けてくれました。糸原は名誉キャプテンということで、大山をサポートしてくれる立場になってくれると思いますし、僕としてはもちろん、全員がキャプテンという気持ちでやってもらえればもっとうれしいので」と話した。

阪神のキャプテンといえば、やっぱり、鳥谷選手が思い浮かびます。私は『キャプテン』も読みました。でも、その後、福留選手がキャプテンになったりもしましたが、いくら何でも高校野球じゃあるまいし、外野手のキャプテンはあり得ません。投手に近い内野手がキャプテンを務めるべきです。その意味で糸原選手はキャプテンシーについては物足りない部分もありましたが、よくがんばっていたと思います。来季は大山選手に大いに期待します。キャプテンとしてホームラン王のタイトルも狙って下さい。

来季は優勝目指して、
がんばれタイガース!

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結婚25周年のお祝いをちょうだいする!!!

今年は、カミさんと私の結婚25周年です。とうことで、同僚教員からお祝いとしてお茶のセットをお送りいただき、先週半ばに届きました。

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上の写真は箱詰めのまま、下は箱から取り出したお茶のセットです。お茶とか、ジャムとか、クッキーが入っていました。いただいた日の夕食後、てまり茶をちょうだいしました。

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京都の生麩に手毬麩というのがあるんですが、お湯を注ぐ前の固まった状態が上の写真です。さすがに、てまり茶は、手毬麩ほど精密には作りようがないんでしょうが、かたい蕾のままです。それがお湯を注ぐと開いて下の写真のようになります。

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最後についでながら、インドネシアのお土産のお茶とコーヒーです。特に、結婚25周年と関係はありません。コチラはまだ私はちょうだいしていません。私は不調法者ですので、チリ・ワインはともかく、こういったお茶やコーヒーなどには嗜みがないんですが、カミさんはいずれもいいものをもらったと喜んでいます。まあ、大部分はカミさんの腹に収まるんだろうと、私の方でも覚悟はできています。

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2020年11月28日 (土)

今週の読書はコロナ危機に関する経済書と家族に関する社会学書と新書が3冊の計5冊!!!

今週の読書は、主流派のエコノミストによる経済書と広く社会学ないし社会科学の専門書に加えて、大学に再就職してから学生諸君にオススメするために盛んに読んでいる新書3冊の合計5冊、以下の通りです。

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まず、小林慶一郎・森川正之[編著]『コロナ危機の経済学』(日本経済新聞出版) です。経済産業研究所の関係者の研究者が集まって、まさに、コロナ・パンデミックの経済学を展開しています。第1部 今、どのような政策が必要なのか、と、第2部 コロナ危機で経済、企業、個人はどう変わるのか の2部構成であり、各部が10章ずつの大量の論文を収録するとともに、序章や終章まであって、とても盛りだくさんな内容です。ただ、それだけに、精粗まちまちな印象はありますが、この時期のこのテーマの出版でそこまで求めるのは酷というものだと私は思います。まあ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)とは何の関係もなく、おそらくは従来からの自説を展開しているだけ、に近い印象の論文も第9章と第10章をはじめとして、いくつか含まれているような気がします。加えて、私なんかにはとても勉強になるんですが、一般のビジネスパーソンに役立つというよりは、学術書の要素の方が強そうです。私が特に興味を持ったのは、第1に、パンデミックに関するSIRモデルです。古い古いモデルで、1927年にKermackとMcKendrickの論文で明らかにされています。このSIRモデルにおいては、国民を免疫のない非感染個体(S)と感染個体(I)と免疫を保持した回復個体あるいは隔離個体(R)の3カテゴリーへ分割され、①非感染個体(S)は感染個体(I)に移行し、その際、非感染個体(S)と感染個体(I)の積に比例して定率で移行します。そして、②感染個体(I)は別の定率で回復個体あるいは隔離個体(R)に移行します。また、③感染期間は指数分布に従うとして、この①から③が仮定されます。時刻tの時点における免疫のない非感染個体数S(t)と感染個体数I(t)と回復個体あるいは隔離個体数R(t)の3つの未知関数の時間変化に伴う増減は時間tで微分されていますから、その連立微分方程式を解けばいいわけです。これで理解できた人は素晴らしく頭がいいんですが、私自身もまだ一知半解な部分も残っています。少なくとも、パラメータを置いて表計算ソフトで手軽に計算できそうな気がします。そのうちに挑戦したいと思います。第2の関心は、当然ながら、雇用に関するものです。第2部のいくつかの章で格差の拡大、エッセンシャル・セクター労働者の過重労働の問題、在宅勤務の生産性の問題、などが取り上げられていました。現時点までの、というか、本書が執筆された5月時点くらいまでのデータでどこまで実証分析が可能なのかの問題はありますが、ongoingで展開している問題ですので、こういった分析を早めに世に問うのはとても意味あると私は受け止めています。

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次に、津谷典子ほか[編著]『人口変動と家族の実証分析』(慶應義塾大学出版会) です。多数に上るチャプターごとの著者は、津谷教授の定年退職を記念して集まられたような雰囲気があり、最後に、津谷教授の履歴・研究業績が示されています。どちらかといえば、家族を中心にしているので人口学や社会学の系統なんだと私は理解していますが、経済学とも密接に関連していることは事実です。私は大学で学部でも大学院でも「日本経済論」という授業を担当していて、この授業の呼称は10年ほど前の長崎大学とも共通するのですが、マクロ経済学の応用分野である日本経済論いついては、日本経済の大きな特徴である少子高齢化や人口減少をどこまで重視するのか、というスタンスの違いが現れます。本書は人口減少を人口変動のひとつのバリエーションとして分析対象としており、まあ、人口増加はスコープ外ながら、人口変動が経済に及ぼす影響も同時に別の意味でスコープ外となっています。私自身は人口減少は日本経済の停滞の要因である可能性は否定しないものの、それほど大きな影響を及ぼしているとは考えていません。ほかにいっぱいあります。ただし、高齢化については財政や社会保障の分野、特に、サステイナビリティの観点から大きな影響があると考えています。それほど突き詰めて考えたことはないという気もしますが、ある意味で、役所のカルチャーの部分もあろうかと思います。例えば、平成20年版の「経済財政白書」の第3章などでは、明確に人口減少が成長率の低下につながることを否定していますし、逆に、14~15世紀のペストのパンデミックが成長率を引き上げた事例なども紹介していたりします。ですから、吉川先生の中公新書『人口と日本経済』なんかもすんなりと頭に入りました。かつての日銀白川総裁が藻谷浩介『デフレの正体』に飛びついて、デフレは日銀の金融政策が悪いからではなくて人口減少のせいである、年て主張し始めたときはとても下品なものを感じました。まあ、それはともかくとしても、本書は完全な学術書です。家族というマイクロな社会学の対象から、マクロ経済学への橋渡しとなるのが人口動態だと私は考えています。その意味で、なかなかに勉強になる読書でした。少なくとも、私の専門分野からして、実証的な分析手法に大きな違いはなかったような気がします。

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次に、太田康夫『スーパーリッチ』(ちくま新書) です。著者は日経新聞のジャーナリストです。一昨日のブログで、もっとも重要な新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的帰結のひとつは格差拡大であると、いくつか授業の教材を紹介しつつ主張しましたが、IMFブログやBrookingsなどが社会的な海藻の下の方の女性や黒人や若年者に注目して、支援を呼びかけているのに対して、逆に、本書ではタイトル通りに超富裕層について取り上げています。COVID-19パンデミックでは、インターネット宅配のアマゾンをはじめとして、GAFAとマイクロソフトなどが在宅勤務で収益を増加させ、あるいは、在宅時間の増加とともにSNSも収益を上げていると私は考えており、ますます格差が拡大しています。ただ、決して覗き見趣味ではないつもりですが、本書の第3章で取り上げられているようなスーパーリッチの新貴族文化については、私も興味ないわけではありません。もっとも、私なんぞのサラリーマンで一生を終える一般ピープルには手の届かないことばっかりで、ついついため息が出そうです。特に、従来勢力というか、王侯貴族をはじめとする欧米先進国のスーパーリッチだけでなく、最近の時点でシェアが増加している中国人のスーパーリッチは、かつての日本人的な「成金趣味」がうかがえる部分もありました。格差先進国の中国の動向を中止しつつ、格差拡大が進めば経済社会がどうなるのかについてもエコノミストとして考えを巡らせたいと思います。

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次に、坂本貴志『統計で考える働き方の未来』(ちくま新書) です。著者はリクルートワークス研の研究者です。内閣府に出向して官庁エコノミストとして「経済財政白書」を執筆していた旨の紹介がなされています。失礼ながら、「官庁エコノミスト」のカテゴリーがとても広い意味で使われ始めた気がします。まあ、私も大学教授なんですから、いろんなカテゴリーを幅広く使うのはいいことかもしれません。ということで、高齢社会が進む一方で、様々な観点から高齢者の労働参加促進が政府の重要な政策のひとつとなっており、いくつかの統計からいろんな観点を提示しています。さすがに、私にとっては目新しい視点があったわけではありませんが、楽しく読めるビジネスパーソンも少なくないように思います。政府の視点からは、本書では出て来ませんが、年金支給までなんとか食いつないでもらうために、高齢者をおだて上げてても、企業を叱りつけてでも、なんとか65歳まで所得を政府以外から得て欲しいと考えていることは明白です。ですから、女性雇用などとセ抱き合わせにして、かつ、働き方改革なんて、勤労世代をはじめとして全世代を巻き込む形で高齢者の労働参加を促進する政策が展開されています。しかし、「生涯現役」を喜んで受け入れる高齢者がいる一方で、私もそうですが、従来から主著している通り、「生涯現役」なんて真っ平御免で、一定の年令に達したら引退してラクをしたい、と考える人々も一定数いることは本書でも主張されています。まあ、どこまで健康寿命が伸びるかにも依存しますが、果てしなく「生涯現役」はカンベンして欲しいです。

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最後に、筒井淳也『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書) です。著者は、社会学を専門としており、何と、学部は違えども、私と同じ大学の社会科学の研究者です。どこにも明示的に書かれていないんですが、おそらく、大学に入学したばかりの20歳前後の学生を対象にしているんではないか、という気がします。ですから、専門外の私なんかにはそれなりにフィットしたレベル感でした。前の書評と重なりますが、経済学と社会学は同じ社会科学であり、同じ経済社会の分析をします。おそらく、私のような計量的な分析を主とする研究者であれば、分析手法も大きくは違っていません。何が違うかといえば、分析の対象です。経済学が経済行為や経済システムを分析対象とするのに対して、社会学はもっと広義の社会、ないし、経済関係で結ばれているわけではない家族や地域を分析します。ですから、本書のどこかにありましたが、「系」ということばは社会学では「家系」とか、「母系と父系」などのように、家族なんかのつながり方で用いる一方で、経済学では自然科学と同じで「システム」という意味でしか使いません。物理学の「太陽系」と同じです。でも、どちらも社会や社会をなして生活ないし生産している人間はとても緩い関係を保っていますので、太陽系の万有引力の法則みたいなのは十分な説明力を持たない場合がほとんどです。それでも、私は世のため人のために役立つようにと願って経済学の研究と教育を続けています。

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2020年11月27日 (金)

NHK朝ドラ「エール」最終回の再放送を見終える!!!

NHK朝ドラ「エール」の最終回の再放送を見終えました。
久々にとても高評価の朝ドラでした。昨年度前期の「なつぞら」もよかったんですが、広瀬すずの主演以外のストーリーはイマイチでしたし、「エール」は最近の朝ドラでは出色の出来だった気がします。
今日の最終回では、やっぱり、本職というか、森山直太朗と山崎育三郎の「栄冠は君に輝く」が何といっても最高でしたが、豊橋の馬具職人役だった吉原光夫の「イヨマンテの夜」がとっても上手で響き渡って、少しびっくりしました。

さて、年度後半の杉咲花主演の「おちょやん」やいかに?

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リクルートジョブズによる10月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日12月1日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる10月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。

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アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、ジワジワと停滞感を増していて、10月にはとうとう前年同月比で+1.3%まで上昇幅が縮小したのは上のグラフで見て取れると思います。他方、派遣スタッフの方は5月以降のデータが跳ねています。上のグラフの通り、10月にはとうとう前年同月比で+5.2%に達しました。現時点で判断するのはややムリで、何があったのかは私には判りかねます。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は繰り返しになりますが、とうとう+1%台の伸びまで縮小し、人手不足がメディアで盛んに報じられていた昨年暮れあたりの+3%を超える伸び率から比べるとかなり低下してきています。三大都市圏の10月度平均時給は前年同月より+1.3%、+14円増加の1,088円を記録しています。職種別では「営業系」(+49円、+3.8%)、「専門職系」(+23円、+2.0%)、「事務系」(+18円、+1.6%)、「製造・物流・清掃系」(+12円、+1.1%)の4職種で前年同月から増加し、「販売・サービス系」(▲4円、▲0.4%)と「フード系」(▲13円、▲1.3%)の2職種で減少となっています。例月になく、営業系が大きな伸びを見せたのは、テレフォンアポインターが+87円、+6.7%増を記録したからです。地域別でも、首都圏・東海・関西のすべてのエリアで前年同月比プラスを記録しています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、昨年2019年7月統計から先月2020年4月統計まで10か月連続でマイナスを続けた後、5月度以降給は前年同月から大きく増加し、9月も+3.5%、57円増加の1,690円に増加しています。職種別では、「医療介護・教育系」(+71円、+4.9%)、「営業・販売・サービス系」(+33円、+2.4%)、「IT・技術系」(+42円、+2.0%)、「クリエイティブ系」(+16円、+0.9%)の4職種が前年同月比プラスとなり、マイナスは「オフィスワーク系」(▲7円、▲0.5%)だけにとどまっています。なお、9月統計で前年同月比マイナスだった「営業・販売・サービス系」が10月統計ではそこそこのプラスに転じたのは、旅行関連の+97円、+6.7%増が寄与しているという気がします。GoToトラベルのあだ花だと私は受け止めています。また、地域別でも、首都圏・東海・関西のすべてのエリアでプラスを記録しています。1年近く前年同月比マイナスを続けてきた派遣スタッフの時給が5月からジャンプしたのですが、アルバイト・パートの時給上昇率はジワジワと停滞し始めていますし、2008~09年のリーマン・ショック後の雇用動向を見た経験からも、COVID-19の経済的な影響は5月ころに底を打ったように見えるものの、雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないことから、先行き、非正規雇用の労働市場は悪化が進む可能性がまだ残されていると覚悟すべきです。同時に、相反することながら、意外と底堅いという印象もあります。この底堅さが、一昨日の企業向けサービス価格指数(SPPI)の動きの背景をなしているのではないか、という気もします。

最後に、リクルートジョブズでは、先月9月統計からアルバイト・パートだけ北海道と福岡県のデータの公表を始めています。現時点では、首都圏・東海・関西にはまだ統合されていませんし、派遣スタッフはなくアルバイト・パ^トだけのようですので、そのうちに様子を見つつ私の方でも考えたいと思います。

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2020年11月26日 (木)

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済的帰結やいかに?

大学の授業の準備をしています。実は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止の観点から、最終回の定期試験が許されておらずリポート提出になりますので、それに当てるべき回は授業をしなければなりません。ということで、最終回の授業は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済的帰結を取り上げることにしました。来年2021年1月の授業ですので、まだ、アップデートする可能性は十分ありますが、もっとも重要なCOVID-19の経済的帰結のひとつは格差拡大だと私は考えていて、現時点で以下のような教材をピックアップして授業資料作成に励んでいます。

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最初の IMF Blog はすでに7月16日付けで取り上げているので省略することとし、Brookings Institution の Why are Blacks dying at higher rates from COVID-19? (Rashawn Ray) April 9, 2020 から COVID-19 Diagnoses for Blacks by State を引用すると上の通りです。ミシガン州では週全体のCOVID-19陽性率が15%ですが、黒人の間では35%に上っています。ほかにも、イリノイ州では16%と30%のように、黒人の陽性率が州平均より高くなっています。また、グラフはありませんが、ルイジアナ州では黒人は州人口の⅓程なんですが、COVID-19による死者の70%を占め、多くがニュー・オーリンズに集中していると指摘していたりもします。

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続いて、Brookings Institution の Race gaps in COVID-19 deaths are even bigger than they appear (Tiffany N. Ford, Sarah Reber, and Richard V. Reeves) June 16, 2020 から Figure 1. COVID-19 death rates by age and race を引用すると上の通りです。Figure 2 では中年層に的を絞ったグラフがあるんですが、いずれにせよ、アジア人は分類に含まれていないながら、白人・黒人・ヒスパニックの人種別に分類すると、10万人当たりのCOVID-19による死者数で黒人が群を抜いているのが見て取れます。

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最後に、Institute for Policy Studies の U.S. Billionaires Wealth Surges $931 Billion since Beginning of Pandemic (Chuck Collins) October 20, 2020 から Wealth of U.S. Billionaires Grows $931 Billion (32%) in 7 Months を引用すると上の通りです。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOをはじめとして、話題のGAFAなんかの経営者がCOVID-19によるインターネット通販や在宅勤務の拡大、あるいは、在宅時間が長くなってSNSの利用が増加したことなどから、軒並み資産を大幅に増加させています。ただし、ひとつだけ注釈があって、ウォルマートの3人が入っているのは創業者の死亡による相続ではないか、ということのようです。でも、食品販売などのエッセンシャル・セクターを担うウォルマートも儲かっているのかもしれません。

ということで、オリジナルの情報はまったくないんですが、こういった海外情報を取りまとめるのもこのブログの特徴のひとつですし、大学の授業からのスピルオーバーでもあります。

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2020年11月25日 (水)

消費税率引上げの影響が剥落しマイナスとなった10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は▲0.6%の下落でした。変動の大きな国際運輸を除くと▲0.4%の下落でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

サービス価格、10月0.6%下落
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は104.2と、前年同月比で0.6%下落した。前年同月比の下落は13年5月以来7年5カ月ぶりとなる。19年10月の消費税率引き上げから1年が経過し、影響が剥落した。消費税率引き上げの影響を除くベースでは、下落は8カ月連続だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。財の企業物価指数(PPI)の国内物価よりも企業向けサービス物価指数(SPPI)の方が下がり方の勾配が小さいと見るのは私だけではないような気がします。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

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引用した記事にもある通り、本日公表の10月統計から、昨年2020年10月の消費税率の引上げによる物価押上げの影響は剥落しましたので、消費税を含む先月9月統計の+1.3%の上昇から、10月統計では▲0.6%の下落に大きくスイングしました。ただし、先月の9月統計でも消費税の影響を除くベースでは前年同月比で▲0.5%の下落でしたので、ヘッドラインの上昇率で見るほど大きな下落ではないと私は受け止めています。ただ気がかりなのは、消費税の除く「実力ベース」の前年同月比で見て、今年2020年5月の▲1.4%の下落を底に、先月9月統計の▲0.5%まで徐々に下落幅が縮小してきたにもかかわらず、10月統計では▲0.6%に下落幅が再拡大しています。この大きな要因は、消費者物価指数(CPI)と同じで、GoToトラベルによる宿泊費の下落だと私は受け止めています。すなわち、SPPIの宿泊サービスの前年同月比を見ると、8月▲34.8%、9月▲30.1%、に続いて、10月には▲34.5%を記録しています。消費税の影響を細かい品目で取り除くのは難しいので、8~9月の下落率は消費税の影響を含んだベースになって、10月とはベースが異なるんですが、引用した日経新聞の記事にはないものの、ロイターの記事から記者会見を想像する限り、日銀当局はGoToトラベルによって宿泊需要は回復した一方で、ビジネスホテルを中心に関東における値下がりの影響が大きく出た、と説明しているようです。もっとも、SPPIのヘッドライン上昇率がマイナスの下落に転じたとはいえ、上の2枚のグラフにも見られる通り、上のパネルの上昇率で見て、PPIのうちの国内物価よりはまだまだ下落幅が小さいわけですし、下のパネルの指数レベルで見ても、モノの国内物価指数が足元で下落している一方で、サービスのSPPIは足元で上昇しています。従って、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のショックによって、おそらく、人手不足の価格押上げ圧力は、従来ほどではないとしても、まだいくぶんなりとも残っており、そのぶん、モノのPPIよりもサービスのSPPIの方が底堅いという印象を持つのは私だけではないような気がします。

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2020年11月24日 (火)

国際機関と中央銀行への女性進出はどこまで進んだか?

昨日、国際通貨基金(IMF)から Gender Diversity in the Executive Board : Progress Report of the Executive Board to the Board of Governors と題するリポートが公表されています。トップの専務理事にゲオルギエバ女史をいただくIMFのことですから、女性の進出ないし性別の多様化には熱心なことと私は想像しています。

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まず、上のグラフは、リポートから Gender Diversity of International Financial Institution Member Country Boards を引用しています。過去1年で、世銀と欧州開銀では女性役員のシェアが8%ポイントの増加を見せた一方で、国際決済均衡では6%ポイント、欧州中央銀行では4%ポイントだった、と指摘しています。The number of women directors increased by eight percent for the World Bank, by eight percent for the European Bank for Reconstruction and Development, by six percent for the Bank for International Settlements, and by four percent for the European Central Bank.

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続いて、上のグラフは、リポートから Gender Diversity in G7 Central Banks, ECB and BRICS を引用しています。中央銀行では、欧州中央銀行がわずかな改善を見せたほかは、ほぼ変わりない、と報告しています。Across central banks, most have remained stable with the European Central Bank recording a slight improvement in the number of women.

アジア開発銀行(ADB)や日銀で女性の進出が進んでいないように見受けるのは私だけでしょうか?

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2020年11月23日 (月)

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止と経済活動の両立は出来るのか、目指すべきなのか?

結論を先取りすれば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止と経済活動の両立を目指すという方針は根本的に間違っていると私は考えています。GoToキャンペーンの失敗は、ここに起因するのではないかとすら思えます。
とても旧聞のトピックながら、先月2020年10月にベルリンで開催された世界医学サミット(World Health Summit)におけるグテーレス国連事務総長のビデオ・メッセージから一部を抜き出して引用すると以下の通りです。

There is no choice between saving people's lives and saving jobs. Protecting people from the virus is the best way to keep schools open and businesses running. It will prevent the virus from spreading even more widely and returning in wave after wave.

まずは、国民の健康、というか、グテーレス国連事務総長の言葉を借りればウィルスからの保護(Protecting people from the virus)を実現することが政府の第1の役割です。そのために、職を失ったり、経済活動が停滞したりするのであれば、そこに的を絞って経済的な援助の手を差し伸べるべきです。確かに、宿泊とか飲食とかの人的接触の多いサービス業界がCOVID-19の影響が特に大きかったことは事実ですが、供給をシャットダウンせざるを得なかったセクターに補助金付きで一般国民を送り込んで感染拡大を促進するような政策は、失敗する確率がとても高いと考えるべきです。感染拡大防止と経済的な活動とを両立させようとする政策は失敗する、と覚悟すべきです。

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上のグラフは、入院治療等を要する者・重症者・新規陽性者数等の推移です。一昨日の11月21日に開催された新型コロナウイルス感染症対策本部(第47回)の配布資料から引用しています。テレビで聞いた医師会長の表現が耳に残っていますが、朝日新聞のサイトから引用すると、「GoToトラベル自体から感染者が急増したというエビデンスはなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」のは誰もが認めるところです。「静かなマスク会食」なんて言ってずに、トラベルだけではなく、GoToキャンペーンで人的接触を奨励するような政策は今すぐ中止すべきであると私は考えます。

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2020年11月22日 (日)

寒くなった週末はダウンがいっぱい!!!

先週は、雨の降った金曜日を別にすれば、いいお天気が続いて陽射しもあり、雨の金曜日も含めて気温が上がりました。でも、昨日から気温が下がり、このまま季節が進む実感があります。今日も昨日よりさらに気温が下がった気がします。街中はダウンがいっぱいでした。ウルトラライトダウンが中心でしたが、ロング丈のウエストから下を広げたおばさんダウンも見かけました。私は、どこかの商標になっているらしいウルトラライトダウン®は持っていなくて、モコモコのダウンしか持ちつけていません。何と、実は、高校生のころに親に買ってもらったものを、物持ちよくまだ着ています。今日、昔の写真を探したら、6年近く前の2015年正月の初詣の写真で着ていました。その時、なぜか時代を先取りして、上の倅がマスク姿で写真に収まっていました。

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ということで、私はまだ丈の短いフリースジャケットです。上の写真の通りです。安物のデジカメで撮ったので表現力が不足していますが、とても鮮やかなレモン・イエローです。その昔の定年前に、役所の研究所に来て行ったら、この色のフリースはどこで売っているのか、と質問されたことがあります。ハイ。ウルトラライトダウン®を商標にしているユニクロです。質問されたのは数年前ながら、最近、山科のユニクロの店舗に行ったところ、確かに、ここまで鮮やかなレモン・イエローは売っていませんでした。というか、紺とか、チャコールとかの落ち着いた濃い色が多かった気がします。さらに、私はほとんどがプレーンなフリースなんですが、ファーリーフリースの方が色の品ぞろえがよかった気もします。

モコモコのダウンがまた流行るかどうかはまったく自信がありませんが、還暦を過ぎて段々と最新ファッションから遅れて、そのうちに周回遅れの先頭に立ってしまいそうな気すらします。

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2020年11月21日 (土)

今週の読書は重厚な経済書のほか新書やファンタジー小説もあって計6冊!!!

今週の読書は、よく読んで以下の6冊でした。重厚な経済書から新書やファンタジーのボンコ本までさまざまなバリエーションです。なお、経済週刊誌から「今年のトップ経済書」のアンケートが来ていましたが、今週のうちに回答を投函しておきました。実は、私自身は先週の読書感想文で取り上げた吉川洋『マクロ経済学の再構築』を一番にあげようかと考えないでもなく、また、ようやく図書館の予約が回って来て今日にも取りに行こうかと考えている小林・森川[編著]『コロナ危機の経済学』も考えなくもなかったんですが、前者は候補リストになく、あまりに小難しい学術書と受け止められている可能性があり、また、後者もリストにない上にアンケート回答の締切に読書が間に合わないという勝手な事情もあり、回答には加えませんでした。私の職業柄からビジネス書ではなく、それなりの学術書っぽい経済書や教養書がよかろうと考えて、また、先週も書いたように、トップグループの経済書を選ぶのではなく、2番手か3番手の経済書を選んで、その上で、目立つような気の利いたコメントを付ける、という戦略を取っておきました。10年ほど前の長崎大学経済学部のころは首尾よく私のコメントが掲載されましたが、今回はいかに?

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まず、ポール・コリアー『新・資本主義論』(白水社) です。著者のコリアー教授、というか、ナイトの爵位を授与されていますのでポール卿というべきかもしれませんが、著者は英国オックスフォード大学の開発経済学や公共政策の重鎮です。ひょっとしたら、そのうちに、ノーベル経済学賞を授与されるかもしれません。もっとも、英国では、マーシャルやケインズなどの系譜からケンブリッジ大学の経済学が目立っています。本書の英語の原題は The Future of Capitalism であり、2018年の出版です。著者の出身であるシェフィールドの鉄鋼業の衰退などから説き起こして、戦後世界経済の黄金期であった1950-70年代への回帰を強くにじませつつ、行き過ぎた市場原理主義た利益に走る経営者などの個人を格差拡大の観点から批判しつつ、倫理観ある経済社会を目指した経済書です。しかも、私には理解できないながら、強く共同体主義(コミュニタリアニズム)に基づく社会民主主義を推奨し、ナショナリストあるいはポピュリストを批判するとともに、逆に、共産主義も排除しています。前者のポピュリズムの方は英国のBREXITや米国のトランプ大統領、あるいはフランスのルペン党首などが念頭にあるのは容易に理解できるものの、後者の共産主義への嫌悪感は私にはよく理解できません。スターリン的なソ連型の共産主義や毛沢東型の中国が念頭にあるのかもしれませんが、大陸欧州のイタリア、フランス、スペインなどのユーロ・コミュニズムは、私の印象ではかなり社会民主主義に近い印象がある一方で、コミュニタリアニズムとはかなり違っているという受け止めなのかもしれません。ただ、さすがに、私だけでなく、多くのエコノミストや社会科学者はヘーゲルによる弁証法的な歴史の発展を念頭に置きますので、1950-70年代の戦後世界経済の黄金期への単純な回帰ではお話になりません。そこで、著者は、経済人 economic man から社会人 social man への転換とともに、経済的父権主義から社会的母権主義への転換も主張しています。これは私の理解を超えている第1点です。私の理解できない第2点は、格差の発生と拡大を高学歴者の高スキル職業の獲得とその内輪での結婚や家族構成などに起因すると見ている点です。もしそうであれば、社会の中のかなり幅広い層が当てはまることとなり、実際に、本書でもどこかに社会の半分が高所得に該当するやの表現がありましたが、実際には所得階層の上位1%、あるいは、0.1%への集中が見られるのが格差問題の本質のひとつであり、それがいわゆる「オキュパイ運動」で現れたのではないか、と私は考えています。第3の点は、社会民主主義をど真ん中の中道と主張する点で、これは左右の両翼への拒否からむしろ分断を深めることになりはしないかと不安すら覚えます。ということで、著者がやや専門外でがんばり過ぎて、アサッテの方向に行ってしまった感はあります。その上、せめて昨年のコロナ前に邦訳が出版されていたらよかった気がします。もちろん、米国大統領選挙で結果が出た後に読んだ私も悪いのかもしれませんが、出版のタイミングも遅きに失した感があります。ややビミョーな読書でした。なお、詳細な記事が朝日新聞の読書サイトで著者本人のインタビューなどとともに掲載されています。ただ、私は本書は「ど真ん中」の社会科学の本だと思うんですが、なぜか「じんぶん堂」というコーナーで取り上げられています。謎です。

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次に、西村淸彦・山澤成康・肥後雅博『統計 危機と改革』(日本経済新聞出版) です。すべて元職ながら、著者は、統計委員会委員長、統計委員会担当室長、統計委員会担当室次長の3人です。西村先生と山澤先生は大学の研究者、肥後さんは日銀です。私は本書の中で展開されている統計改革のごく一部のお仕事に関わったことがあり、役所勤務のころに研究成果も出していますし、著者3人ともお会いしたことがあります。もっとも、面識あるとまではいえないかもしれません。本書の中身は、一般のビジネスパーソン2対ステはあまりにも技術的な内容に過ぎる気がしますが、政府や地方公共団体などの役所に勤務する公務員向けなのか、という気もします。というのは、「犯罪白書」だか、「警察白書」だかが、警察官昇進試験向けに警察官に愛読されているようなものだ、と仄聞したことがありますが、本書も同じような印象があります。ですから、同時期に経済統計に関わった私などからすれば、行政改革担当大臣の下で議論された統計改革に携わった東大名誉教授のことがまったく出てこないのは、何となく理解できますし、逆に、もっと大きな問題についても、やや等閑視されている印象すらあります。大きな問題というのは、私が考える限り、SNA統計≒GDP統計中心主義がこれでいいのか、という点と、統計作成上の個人や企業のプライバシーをどう考えるのか、という2点です。私は現時点では、本書で当然の前提のように考えられているSNA統計中心主義、別の表現をすれば、その他の統計はすべからくより正確なGDPの算出のために設計・実施されるべきである、というのは、十分理由のあることなのだと考えています。ただ、内輪にいれば理解できるものの、一般の学生・院生やビジネスパーソンにはもう少していねいな解説が必要かもしれません。そして、ホントに景気動向を把握するための統計でGDPがピカイチかといえば、まったく疑問がないわけでもありません。ただし、例えば、同じ内閣府で作成している景気動向指数についてもSNA統計と同じ加工統計であって、1次統計から作成されるわけですから、景気動向指数をSNA統計に代替して中心に据えたところで、大きな変化はありません。ですから、国連主体でマニュアルが作成され国際的な比較が可能なGDPを中心に据えた統計システムを構築するのは、現時点で、十分理由があると理解はしていますが、まったく新たな景気統計を日本主導で世界に示すのも視野に入れるべきではないか、という壮大な展望も示すことも意味あるかもしれません。第2のプライバシーの問題については、そこまで単純ではないながらも、実に単純にアッサリと示すと、もしも統計が重要な公共財であるなら、マーケットとの取引についてはプライバシーを制限する、あるいは、極端には認めない、という方向も国民から理解を得られる可能性があります。ただ、他方で、マーケットを相手にしないベッドルームのプライバシーは断固として守られるべきです。その点は忘れるべきではありません。ひとつ戻って、マーケットとの取引については、典型的には消費や投資なわけですが、何を売り買いしたかはプライバシーに関わりなく記録されているのが実情です。ただ、現状では、現金決済がまだ後半に見られるため、支払った方の「誰が」が不明の場合が多くありそうな気もします。しかし、キャッシュレス決済、これはスマホのQRコード決済だけでなく、クレジットカードや電子マネーも含めてのキャッシュレス決済であれば、支払った方の記録も残ります。誰が何を売り買いしたのかはプライバシーと今は考えられていますが、拳銃やポルノやその他の倫理的な問題ある買い物は、逆に、プライバシー保護が緩和されれば、ひょっとしったら、好ましい方向に向かう可能性すらあります。ですから、悪い見方をすれば、統計作成のための便宜とはいえ、ある意味で、買い物を政府に監視されるわけですから、気持ち悪いのは当然ですが、それ以上の公共の福祉への貢献があるかどうかがポイントになります。信号のある交差点で好きに進めないのは公共の福祉の観点から受け入れられているわけですから、あるいは、国民や企業のお買い物の中身を政府に情報として、あくまで統計作成のための情報として提供することは、ひょっとしたら、受け入れられる可能性もあります。伊藤計劃の代表作で『ハーモニー』がありますが、健康状態に関する情報開示をお買い物に関する情報提供に置き換えることが出来るなら、ああいった世界かもしれません。

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次に、繁田信一『平安朝の事件簿』(文春文庫) です。著者は、歴史の研究者です。本書は、治安を司る検非違使の長である別当を務めた藤原公任の残した「三条家本北山抄裏文書」、すなわち、『北山抄』のバックグラウンドとなる公文書を基に、我が国の古典古代末期の平安朝の中期、色んな意味で色んなものが緩み始めたころ、その時代の庶民ではないとしても、貴族社会の最下層に生きる人々のリアルな生活、というか、凶悪事件を含むさまざまな違法事案を取り上げています。ほかにも、当時の生活をしのばせるいろんな情報があり、「侍」とは武士と同じ意味で使われるんですが、実は、その後の用人のような存在であり、主の入浴と排泄と部屋の掃除が欠かせない役目、などといった文書が明らかにされています。どこかの時代小説に「用人は藩主の尻拭い」といった旨の表現がありましたが、その通りかもしれません。他にも、他人の水田の稲を刈り盗る狼藉者の侍とか、根拠となる証文ないにも関わらず高利貸の横暴な取り立てに苦しむ未亡人とか、海運業者なんだか難破船を襲撃する海賊だかわからない瀬戸内の船首とか、壁が朽ちているとかの刑務所の設備が劣悪なことが原因で拘留していた犯罪者を逃がした責任を問われる刑務所長が連名で施設の改善を要求したりとか、広く一般的には、上位の貴族に根拠ない無理難題を突きつけられる下級貴族の苦悩とか、などなどが広く収録されています。繰り返しになりますが、決して私のような一般庶民ではなく、下級貴族の世界、すなわち、その昔に日本史で習った「かみ・すけ・じょう・さかん」の中の下2つくらいの位階の下級貴族の世界をしのぶことができます。私は電車やバスの中なんかで読書していて、平気で笑い出したりする「ヘンなジーサン」なんですが、当のご本人たちは大真面目ながら、後世の我々の読書では笑える部分も決して少なくありませんでした。

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次に、佐々木閑・小原克博『宗教は現代人を救えるのか』(平凡社新書) と釈徹宗『歎異抄救いのことば』(文春新書) です。前者は仏教研究者とキリスト教研究者の対話で構成されており、後者は仏教研究者の「歎異抄」解説です。2冊とも仏教研究者は浄土真宗が対象であり、3人とも京都ないし大阪の大学の研究者です。ということで、私も前々から理解していたのですが、2点ほど明らかになりました。すなわち、第1に、キリスト教が社会変革、というか、社会全体を救済しようとしているなかなか立派な宗教であるのに対して、我が浄土真宗は社会の救済なんて露ほども念頭になくて、ジコチューな宗教であることが、今やハッキリと理解できるようになりました。「駆け込み寺」という表現がありますが、仏教は本来的には社会に対峙するものではなく、社会には弾き出されたものを出家、あるいは、在家のままでも受け入れる寺、というか、より正しくはサンガを用意している宗教だということです。第2に、やっぱり、そうはいいつつも、浄土真宗とキリスト教は一神教という観点をはじめとして、かなりの似通った点がある、ということです。ただ、阿弥陀仏は天地創造をしたキリスト教の神様と違って、私のような凡人を極楽浄土に生まれ変わらせてくれるだけであり、その1点に特化した存在です。その意味で、私のようなズボラ者にはよくあっていると思います。その昔の聖徳太子のころは、仏教といえば中国や挑戦などの最新の文化とともに日本に入って来て、少し前の韓国におけるキリスト教のような受け止められ方だったんでしょうが、まあ、平南末期から鎌倉期にかけて新仏教で覚醒するまでは、かなり堕落していたような気もします。加えて、高校生のころから慣れ親しんだから、というわけでもないでしょうが、やっぱり、「歎異抄」の親鸞聖人のお言葉はとてもよく理解できます。人生の指針となる部分がいくつか含まれている気がします。ただ、この2冊に共通して私が疑問と考えたのは、特に、浄土真宗に限定するわけではありませんが、仏教の世界における末法思想について特段の言及がなかった点です。おそらく、仏教界全体で末法の世は認識されていたでしょうが、特に、浄土真宗や日蓮宗などは末法思想が強い一派であると私は考えています。その末法の世をいかに生きるかが焦点となっているわけで、ある意味では、キリスト教の最後の審判にも近い部分があるような気もしますし、何らかの言及あって欲しかった気がします。特に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックを経験した後の世界をどのように末法と関連させるか、は私の興味あるところです。

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最後に、望月麻衣『満月珈琲店の星詠み』(文春文庫) です。著者は、北海道出身ながら、現在は京都の城陽市に在住らしく、京都本をよく書いています。実は、城陽市には10年ほど前まで私の祖母が住んでいました。祖母はさすがになくなりましたが、まだ、叔父夫婦は住んでいますし、木津川北岸の城陽市は我が父祖の地です。ただ、京都的な感覚からすれば、洛外もいいところです。ということで、作品としては、私も読んだことがあるのは、「京都寺町三条のホームズ」シリーズ、「京洛の森のアリス」シリーズ、「わが家は祇園の拝み屋さん」シリーズなどがあります。タイトルから容易に想像されるように、京都本です。私は最後のシリーズは読んだことがありませんが、前2シリーズは読んだことがあります。「京都寺町三条のホームズ」シリーズは女子高生-女子大生の真城葵と鑑定士の家頭清貴を主人公にした謎解きミステリです。20巻近くまで続いていると思います。「京洛の森のアリス」シリーズは3巻で終わってしまいましたが、ファンタジー小説です。そして、本書『満月珈琲店の星詠み』がこれからシリーズ化するかどうかは現時点では不明ながら、猫が喫茶店=満月珈琲店を店主として運営するというファンタジーです。しかも、キッチンカーらしくアチコチに出没します。そして、客の注文は聞かずに店側で飲み物や軽食を用意します。タイトルにあるように「星詠み」もします。ただホントは「星読み」なんだろうと私は考えています。決して、星を入れた歌を詠むわけではありません。星の動きを解説するわけです。ですから、猫ではなくケンタウロスの役目ではないか、と私は考えるんですが、ホグワーツ近くの禁じられた森ならケンタウロスもふさわしいかもしれませんが、京都の鴨川の河原であれば猫が適当であるという気分も私は理解します。ゆるく読めますので、時間潰しには最適です。

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2020年11月20日 (金)

大きな下落となった10月統計の消費者物価(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲0.7%の下落を示した一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.2%の下落でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、10月0.7%下落 GoToで9年半ぶり下げ幅
総務省が20日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2015=100)は、変動が大きい生鮮食品を除く総合指数が101.3と、前年同月比0.7%下がった。下落は3カ月連続で、9年7カ月ぶりの下げ幅となった。政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」事業の割引で宿泊料が37.1%下がった。
消費者物価指数は消費者の支払額をもとに計算する。10月から東京発着の旅行も「Go To」事業で割り引いたため9月より下落幅が拡大した。11年3月の0.7%以来の大幅なマイナスだ。「Go To」の影響を除いた試算では、生鮮食品を除く総合指数は0.2%の下落だった。
19年10月の消費増税から1年たち、物価上昇率を高める効果も薄れた。同時に始めた幼児教育・保育の無償化の影響を加味しても9月には増税の影響で0.2ポイント程度押し上げていた。
宿泊料以外では電気代が4.7%、ガソリンが9.2%下がるなどエネルギー関連も大きく下落した。9月に2.4%だった家庭用耐久財の上昇率は0.8%に縮んだ。
この2年間は前年比の物価上昇率がずっと1%未満で、4月以降はエネルギー価格の下落や新型コロナウイルス禍を受けた需要減によりマイナスの月が多かった。総務省の担当者は「新型コロナのワクチンへの期待が高まり、足元では原油価格が上昇している。今後はエネルギー関連の価格が戻る可能性がある」と話した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。もっとも、最近になって発見したのですが、統計局から小数点3ケタの指数が公表されているようですので、今後は、これを用いる可能性があります。

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コアCPIの前年同月比上昇率は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲0.7%でしたので、ジャストミートしています。ただし、この10年振りの大きな下落は、昨年2019年10月からの消費税率引上げの効果の剥落もさることながら、引用した記事にもあるように、GoToトラベル事業の割引で宿泊料が▲37.1%下がった影響がCPI総合への寄与度▲0.45と大きく、GoToを除くコアCPIの下落は▲0.2%にとどまっています。それでも、「実力」CPIでマイナスです。加えて、エネルギー価格も、足元では上昇しているものの、10月統計では寄与度が▲0.44%となっており、ガソリンや電気代が下げ幅を大きくしています。そして、ここ最近半年、あるいは、10月からの動きでとても特徴的と私が考える点を2つだけ上げておきたいと思います。第1に、サービス価格が8月から急にマイナス幅が大きくなったのは、明らかにGoTo事業の影響と考えるべきですが、実は、消費者物価指数(CPI)では4月から、企業向けサービス価格指数(SPPI)では3月から4月にかけて、下げ幅を拡大しています。これは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により対人接触の多いセクターで供給ショックがあった、と、従来のケインズ型の需要ショックではない点を強調するNBERのワーキングペーパー、すなわち、Guerrieri, Veronica, Guido Lorenzoni, Ludwig Straub, and Iván Werning (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" NBER Working Paper No.26918, April 2020 と整合的な物価の動きだといえます。第2に、昨年2019年10月からの消費財率引上げの物価への影響が剥落したため、同時に、軽減税率の効果も剥落しています。ですから、勤労世帯の第Ⅰ分位家計と第Ⅴ分位家計のそれぞれの消費バスケットに対する物価上昇率の差が、長らく低所得の方の物価上昇率が低い状況だったんですが、10月統計から逆転して、第Ⅰ分位家計の消費バスケットに対応する物価上昇率の方が高くなってしまいました。ちなみに、私の計算では、10月統計で各家計平均の帰属家賃を除く総合CPI上昇率が▲0.4%、第Ⅰ分位家計の消費バスケットに対応するCPI上昇率が▲0.2%、そして、第Ⅴ分位が▲0.6%となります。わずかな差とはいえ、所得の少ない家計の消費バスケットの方が、所得の多い家計より物価上昇率が高くなっていて、物価上昇を除く実質消費では逆進的な影響が出始めたということになります。

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2020年11月19日 (木)

今冬の年末ボーナスはコロナ禍の影響で大幅ダウンか?

先週から今週にかけて、例年のシンクタンク4社から2020年年末ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。可能な範囲で、消費との関係を中心に取り上げています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研の公務員ボーナスだけは地方と国家の両方の公務員の、しかも、全職員ベースなのに対して、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員の組合員ベースの予想、と聞き及んでおり、ベースが違っている可能性があります。私の方で詳細な確認は取っていませんが、注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
国家公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.9万円
(▲2.6%)
66.1万円
(▲3.9%)
リーマン後と比べると、一部の業種・企業に新型コロナの悪影響が集中している点が特徴的。中小企業では、既に今夏の賞与において、飲食、生活関連サービスなどを中心に支給労働者数が急減。もっとも、賞与支給がなかった企業は、一人当たり平均支給額算出に際し除外されるため、もともと支給水準の低い企業の支給見送りに伴い、中小企業の一人当たり支給額はかえってプラスに。一方大企業では、新型コロナ前に夏季賞与の水準が妥結していた企業も多く、業況悪化の反映は年末賞与から本格化する見込み。
みずほ総研36.0万円
(▲7.5%)
72.3万円
(▲3.8%)
民間企業・公務員を合わせた冬季ボーナスの支給総額は、前年比▲9.3%とリーマンショック後以来の大幅マイナスが見込まれる。夏冬合わせて雇用者報酬のおよそ2割を占めるとされるボーナス減少の影響は大きく、今後の消費回復への重石となろう。
また、今冬のボーナスは、特に特定業種におけるボーナスの大幅減少が懸念される。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、宿泊・飲食サービス業(247.8千円)、生活関連サービス・娯楽業(263.6千円)の賃金水準(月額)は全体平均(307.7千円)対比でもともと低い水準にある。これら特定業種に属する労働者の一部は所得水準が低い中、ボーナスが急減し、深刻な所得減少に直面する可能性が高い。既に国民全員に対して、1人当たり10万円の特別定額給付金が支給されたが、政府には、こうした所得の急減に見舞われた労働者に対象を絞って、給付金を再度支給するなど、支援を一層強化していくことが求められよう。
第一生命経済研(▲8.0%)n.a.冬のボーナスは一段の悪化が必至である。多くの企業では春闘時にボーナス支給額を決めることから、20年の春闘では新型コロナウイルス前の業績をもとに交渉がされていた。そのため、夏のボーナスは、新型コロナウイルスによる悪影響を反映しきれていない。一方、今冬のボーナスでは、急激に落ち込んだ20年度前半の業績を元に支給する企業が夏対比で増えることから、大幅悪化が避けられない。加えて、厳しい経済状況を受けて、ボーナスの支給を見送る企業も増加することが予想される。ボーナスの支給がない労働者も含めた平均では前年比▲11.5%と、二桁の減少になるだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング34.8万円
(▲10.7%)
65.8万円
(▲4.3%)
企業業績の悪化に伴う人件費削減の動きから雇用者数の増加は頭打ちとなったことに加え、ボーナスの支給を見送る事業所も増えるとみられ、ボーナスが支給される事業所で働く労働者の数は4,257万人(前年比-2.4%)と、リーマンショックの影響が大きかった2009年以来11年ぶりに減少することが見込まれる。また支給労働者割合も82.5%(前年差-2.4%ポイント)と、1990年以降での最低水準にまで低下するだろう。これにより、ボーナスの支給総額は14.8兆円(前年比-12.8%)と大幅に減少する見通しである。支給総額の大幅な減少は、コロナ禍からの回復の過程において、個人消費の足を引っ張り、日本経済の回復を阻害することが懸念される。

もはや、コメントする気力もありませんが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で年末ボーナスは総崩れです。しかも、民間企業が賃上げしないために、国家公務員のボーナスも▲0.05か月分引下げとの人事院勧告が10月7日に出ています。1人当り支給額もマイナスなら、支給人数も減少することが予想されており、その積である支給総額はダブルパンチで大きなマイナスと見込まれています。日本総研を別とすれば、支給総額はほぼ▲10%のふたケタ減が予想されています。恒常所得仮説ではボーナスは消費には影響しないとの結論が導かれますが、もちろん、実際には、消費にもそれなりの影響が出るものと考えるべきです。しかも、いくつかのシンクタンクのリポートで明記されているように、COVID-19の経済的な影響は業種によってかなり大きなばらつきがあり、もともと給与水準が低い業種の雇用者、あるいは、非正規雇用者がさらにボーナスの支給減、あるいは、ひどい場合には、支給停止すらあり得ます。GoToキャンペーンが悪いとはいいませんが、何らかの政策的な救済が必要です。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから 年末賞与の支給総額(前年比) を引用しています。

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2020年11月18日 (水)

緊急事態宣言前の3月の輸出入水準を取り戻した10月統計の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比▲0.2%減の6兆5661億円、輸入額も▲13.3%減の5兆6932億円、差引き貿易収支は▲777億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の輸出額、前年同月比0.2%減 減少率は縮小傾向
財務省が18日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比0.2%減の6兆5661億円だった。パナマ向け船舶や台湾向けの鉄鋼が落ち込み、23カ月連続で減少した。これは1985年9月~87年7月に23カ月連続で減少して以来の長さ。減少率は5月(28.3%)以降徐々に縮小し、前年並みの水準に近づいている。財務省の担当者は「輸出動向は回復傾向にある」と話した。
輸入額は13.3%減の5兆6932億円となった。原油や液化天然ガス(LNG)などのエネルギー資源のほか、米国からの航空機が減少した。減少は18カ月連続で、これは2015年1月~16年12月に24カ月連続で減少して以来の長さ。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は8729億円の黒字だった。4カ月連続の黒字だった。
対中国の輸出額は10.2%増の1兆4578億円だった。半導体などの製造装置や自動車が伸びた。輸入額は3.7%減の1兆5355億円で、衣類などで減少が目立った。貿易収支は777億円の赤字だった。赤字は8カ月連続。
対米国の輸出額は2.5%増の1兆2993億円だった。自動車のほかギアボックスなどの自動車関連部品が増えた。輸入額は15.6%減の6008億円で、航空機や石炭などが減った。貿易収支は6986億円の黒字で、2カ月連続で黒字となった。
対欧州連合(EU)の貿易収支は396億円の赤字だった。赤字は16カ月連続。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は+2500億円の黒字でしたので、やや市場予想よりも下振れたとはいえ、ほとんどサプライズはなかったと私は受け止めています。引用した記事にもある通り、我が国の貿易も新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受けましたが、かなりの程度に回復を見せています。すなわち、輸出入の金額ベース・数量ベースとも季節調整していない貿易指数の原系列で見て、今年2020年5月が前年同月比で最大のマイナスを記録していましたが、輸出額については本日公表の10月統計でほぼほぼゼロの▲0.2%まで回復してきています。もっとも、実は、今年2020年2月の輸入数量が中国の春節とCOVID-19のダブルパンチで最大の下げ幅を記録しているんですが、これを別にしたお話です。もちろん、COVID-19の影響は時とともに減衰していくわけではなく、日本でもすでに第3波の感染拡大局面に入っている可能性が指摘されていますし、欧州では英仏が全国レベルではないものの再度のロックダウンに入っています。米国でも政権交代とともに、何らかのロックダウンやそれに近い措置が取られる可能性もあります。ですから、貿易の先行きはCOVID-19次第でかなり不透明です。基本的に、COVID-19については供給サイドではサービス業などの対人接触の多い部門の供給制約あるものの、貿易財ではない可能性が高いわけですので、貿易に及ぼすCOVID-19の影響は通常のケインズ経済学的な需要ショックを想定すべきと私は考えています。

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そのような観点から、続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。輸出額について、季節調整していない原系列の貿易指数で見て、繰り返しになりますが、前年同月比でほぼゼロまで回復を見せていて、先行き不透明ながら、輸出額・輸出数量とも10月統計で今年2020年3月の緊急事態宣言前の水準を取り戻しました。ただ、欧州や米国、さらに我が国におけるロックダウンを含めたCOVID-19の第3波の動向に大きく左右される可能性は残ります。

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今週月曜日の11月16日に、内閣府から公表された7~9月期のGDP統計1次QEでは、7~9月期には緊急事態宣言のあった「4~6月期に落ち込んだ▲43兆円のうちの半分強に当たる24兆円しか取り戻せていません」と書きましたが、逆に、貿易の方がここまで早期に回復した理由は世界貿易の落ち込みが小さかったからといえます。上のグラフはオランダの CPB Netherlands Bureau for Economic Policy AnalysisWorld Trade Monitor から世界の貿易数量のデータを取ってプロットしています。最新データは8月までしかありませんが、今年2020年前半におけるCOVID-19による貿易数量の落ち込みは2008年後半からのリーマン・ショック時と比べてもかなり小さいと見て取れます。その理由は今後の分析をもう少し待つ必要がありますが、中国におけるCOVID-19の早期終息と米国経済が本格的なロックダウンを実施しなかったこと、の2点が要因ではないか、と私は考えています。ただ、後者についてはホントにそれでいいのかどうかという議論はあり得ます。

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最後に、貿易に関連して、2020年11月15日に、極めて広域を対象とする自由貿易協定である地域的な包括的経済連携(RCEP)協定がインドを除く15か国で署名されています。協定の詳細については、外務省のサイト経済産業省のサイトに譲るとして、上のグラフは、日本国際問題研究所(JIIA)のサイトからRCEPによる経済効果(実質GDPの変化)のグラフを引用しています。米国パーデュー大学で開発・運営されているGlobal Trade Analysis Projectの汎用的なCGEモデルであるGTAPモデルと2014年を基準年とするデータベース10を使用しているそうです。見れば判ると思いますが、RCEPない場合をベースラインとし、インドを含むRCEP16およびインドを含まないRCEP15とのそれぞれの乖離を見ています。複数年に渡る効果とはいえ、我が国の場合20兆円を超えるGDP拡大効果があると見込まれています。

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2020年11月17日 (火)

米国バイデン政権は日本経済にどのような影響をもたらすか?

やや旧聞に属する話題ながら、先週木曜日11月12日に大和総研から「バイデン政権誕生が日本経済に与える影響」と題するリポートが明らかにされています。まず、リポート1ページめの要約を4点引用すると以下の通りです。

[要約]
  • 世界中で注目された 11月3日の米国大統領選挙では、民主党候補のバイデン氏の勝利が確定的となった。バイデン氏の掲げる政策は「大きな政府」を志向する伝統的な民主党の考えに沿ったものである。バイデン氏は法人および富裕層に対する増税を提案しているが、増税による税収増以上に大幅な財政支出を掲げ、総じて見れば景気刺激的な政策を目指している。
  • 議会でのねじれ継続が見込まれる中、民主・共和両党の意見が対立する政策の実現は難しい。共和党が強硬に反対するオバマケアの拡充などが実現する可能性は低く、財政政策の規模はバイデン氏の公約から大幅に縮小する公算が大きい。ねじれ議会シナリオでは、米国の GDP の押し上げ効果は2022年から2025年の平均で+0.5%程度と見込む。
  • 当社マクロモデルを用いた試算では、ねじれ議会下でのバイデン氏の政策が日本の実質GDPに与える影響は、2022年が+0.33%、2023年が+0.54%、2024年が+0.61%と見込まれる。
  • ただし、バイデン氏は"Buy American"による国内製造業の振興を政策として掲げ、公共投資などに伴う米国政府の調達においては、従来以上に米国内からの調達を重視する可能性がある。このため、輸出の増加を起点とした日本経済への影響も限定的となる可能性がある点には留意が必要である。

私のブログのような貧弱なメディアであれば、これだけで十分という気すらします。一応、1点だけ、リポートp.6から 図表4 米国の選挙結果が日本のGDPに与える影響試算 を引用すると以下の通りです。

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上のグラフの中で、「トリプルブルー」とは「バイデン氏の掲げる公約が全て実現」するというシナリオで、もうひとつの「バイデン+ねじれ議会」とは「ねじれ議会下において一部の政策(ヘルスケア、税制改革)が実現されない」と想定したシナリオとなっています。ただ、リポートでは財政政策以外にも言及があり、環境規制や金融規制が厳格化された場合には米国経済だけでなく、日本経済にもネガティブな影響が及ぶ可能性があり、また、引用した[要約]の4点目にあるように、米国政府の調達次第では、日本からの輸出を通じた影響が限定的となる可能性も指摘されています。また、詳細なテーブルの引用はしませんが、日本経済への影響については、輸出とそれに誘発される設備投資の影響が大きくなるとの試算結果で、逆から見て、家計の消費や住宅投資への影響は小さいことが示唆されています。

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2020年11月16日 (月)

本日公表の7-9月期GDP統計1次QEから何を読み取るか?

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+5.0%、年率では+21.4%と、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で大きなマイナスとなった4~6月期からリバウンドを見せています。4四半期振りのプラス成長ですが、もちろん、4~6月期の戦後最大のマイナス成長をカバーするほどではありませんでした。まず、日経新聞のサイトから長い記事を引用すると以下の通りです。

GDP7-9月年率21.4%増 4期ぶりプラスでも回復途上
内閣府が16日発表した2020年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で4~6月期から5.0%、年率換算で21.4%増えた。新型コロナウイルス禍で年率28.8%減と戦後最大の落ち込みだった4~6月期から4期ぶりのプラス成長だがコロナ前の水準は遠い。
前期比の増加率は1968年10~12月期以来、約52年ぶりの大きさ。統計を遡れる55年以降で4番目となる。大幅なプラスとはいえ政府の緊急事態宣言などで経済活動が滞った4~6月期の落ち込みの半分強を回復したにすぎない。年換算の金額は507.6兆円と、コロナ前のピークだった2019年7~9月期の94%の水準にとどまる。
GDPの過半を占める個人消費が前期比4.7%増えた。8.1%減った4~6月期の反動で、自動車などの耐久財や飲食や旅行といったサービス消費が上向いた。
輸出は7.0%増と前期の17.4%減から持ち直した。自動車関連などの回復が目立つ。
設備投資は3.4%減と減少に歯止めがかからない。業績悪化や先行きの不透明感から企業の投資意欲は低いままだ。
10~12月期のGDPは回復ペースが鈍るとの見方が多い。国内外の感染の再拡大が影を落とす。内閣府幹部は「基本的なシナリオとしては持ち直しの動きが続くが不透明感はある」と述べた。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2019/7-92019/10-122020/1-32020/4-62020/7-9
国内総生産GDP+0.0▲1.8▲0.6▲8.2+5.0
民間消費+0.4▲2.9▲0.7▲8.1+4.7
民間住宅+1.3▲2.3▲4.0▲0.5▲7.9
民間設備+0.2▲4.8+1.7▲4.5▲3.4
民間在庫 *(▲0.2)(+0.0)(▲0.1)(+0.3)(▲0.2)
公的需要+0.9+0.4▲0.0▲0.1+1.9
内需寄与度 *(+0.3)(▲2.3)(▲0.3)(▲4.9)(+2.1)
外需(純輸出)寄与度 *(▲0.2)(+0.5)(▲0.2)(▲3.3)(+2.9)
輸出▲0.6+0.4▲5.3▲17.4+7.0
輸入+0.7▲2.4▲4.1▲2.2▲9.8
国内総所得 (GDI)+0.3+0.2▲1.7▲0.6▲6.8
国民総所得 (GNI)+0.2▲1.8▲0.6▲7.1+4.8
名目GDP+0.4▲1.5▲0.4▲7.8+5.2
雇用者報酬 (実質)▲0.2▲0.2+0.5▲3.8+0.5
GDPデフレータ+0.6+1.2+0.9+1.4+1.1
国内需要デフレータ+0.2+0.7+0.7▲0.1+0.1

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率が4~6月期からリバウンドを示し、GDPのコンポーネントのうち赤の消費と黒の純輸出が大きなプラスを記録しています。

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ということで、先週11月13日の金曜日に1次QE予想を取り上げた際に、前期比年率で「+20%前後のリバウンド」と書きましたが、その通りだったようです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止を目的とした緊急事態宣言で4~6月期には経済活動が大きく停滞した後、7~9月期には経済活動が再開され始めたわけですので、大きなリバウンドも当然です。ただし、実質GDPの実額を示しておくと、今日発表の今年2020年7~9月期は507.6兆円、さかのぼって、大きなマイナス成長を記録した4~6月期は483.6兆円、さらにさかのぼって、1~3月期は526.6兆円ですから、4~6月期に落ち込んだ▲43兆円のうちの半分強に当たる24兆円しか取り戻せていません。しかも、足元でほかの経済指標の回復度合いが緩やかになっているのも事実ですから、ペンとアップ生産は続くとはいえ、GDPの水準がCOVID-19前に回帰するのにはかなり時間がかかる、と考えざるを得ません。また、内外需の寄与度を大雑把に見ておくと、4~6月期の前期比▲8.2%のマイナス成長の内訳は、内需▲4.9%の寄与に対して、外需寄与度は▲3.3%となっていて、内需主導の落ち込みだったのですが、逆に、本日公表の7~9月期の+5.0%成長の内訳では、内需寄与度+2.1%に対して、外需寄与度は+2.9%あり、やや外需主導のリバウンドとなっています。加えて、すでに第3波の感染拡大が始まっているとの見方もあります。英仏ですでに始まっているロックダウンは我が国から欧州への輸出に影響を及ぼすことは確実です。我が国でもCOVID-19の感染拡大のための何らかの措置が取られる可能性も否定できず、そうなると、回復どころか2番底の可能性も出て来ます。

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最後に、雇用者報酬の推移と非居住家計の購入額のグラフは上の通りです。いずれも、2011年基準の実質額をプロットしています。つい先ほど、4~6月期は内需主導の落ち込み、7~9月期はやや外需主導のリバウンドと書いたばかりですが、実質の雇用者報酬は46月期に前期比で▲3.8%減と、かなり落ちたとはいえ、7~9月期には緩やかながら回復を示しており、水準も260兆円を超えています。しかし、4兆円を超えていたインバウンド消費はほぼ「蒸発」して0.5兆円しか残りませんでした。もちろん、特に今回のようなCOVID-19のパンデミックの条件下では、輸出入とインバウンド消費のボラティリティを同一に論じるのはまったく適当ではありませんが、英仏のロックダウンを見るにつけ、雇用者報酬の増加そのものである賃金上昇と雇用拡大を実現させ、しっかりした内需に基礎を置く景気回復に資するような政策が必要と私は考えます。

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2020年11月15日 (日)

ガスファンヒーターを買ったが活躍の機会はまだ先か?

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先週半ばに気温が急に下がって、還暦を超えた身としては寒い冬はツラいところで、急遽、ガスファンヒーターを買い込みました。しかし、昨日や今日は典型的ですが、最高気温が20度を上回って、こういったストーブの出番はありません。今週は一般に気温が高そうで、ガス暖房の出番はもう少し先になりそうです。地球温暖化は関係あるんでしょうか。実は、青山の公務員宿舎に入っていたころはガスストーブが使えたんですが、そのころから8年ぶりのガス暖房です。役所を定年退職して大学に再就職し、京都に引っ越す際の住宅探しの私の最重点要望項目が、ガス暖房が使えるという点でした。というのは、我が家では住宅の決定はカミさんの専管事項となっています。まあ、住宅に限らず、私の稼ぎをカミさんが使う、というのが我が家の掟です。
ところで、今冬はラ・ニーニャの影響で冬は寒くなるというらしいです。天候は別として、私はスペイン語は理解するんですが、「ラ・ニーニャ」はよく判りません。「エル・ニーニョ」は明らかです。スペイン語では el niño です。英語に直訳すれば、the child であり、まさに「父なる神と子なるイエスと精霊」の三位一体の「子」であるイエス・キリストに他なりません。でも、la niña は単純化すれば el niño の女性形なんですが、それが何を意味するのかは、私には理解できません。マリアなのかもしれません。

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2020年11月14日 (土)

今週の読書は超難しい経済書をはじめとして新書も入れて計4冊!!!

今週の読書は、重厚なマクロ経済学の超難しい学術書をはじめとして、それなりにボリュームある以下の4冊です。実は、久しぶりに経済週刊誌から今年のベスト経済書のアンケートが届きました。長崎大学に出向していたころから数えてほぼほぼ10年ぶりです。こういったベスト経済書の回答については、私はケインズ的な美人コンテストに似たアプローチを取ります。すなわち、株式投資の際によく引き合いに出されるケインズ的な美人コンテストは、ホントに自分自身が美人と思うかどうかではなく、コンテスト参加者が広く美人と受け止めるかどうかに従って投票する、というものですが、こういった経済書アンケートについては、逆に、トップになりそうな経済書を選んでしまうと、私なんぞは著名エコノミストに埋もれてしまう恐れが高く、トップグループの経済書を選ぶのではなく、2番手か3番手の経済書を選んで、その上で、目立つような気の利いたコメントを付ける、という戦略を取ります。どうしても、今年はAI/デジタル経済、あるいは、最新のコロナとかがキーワードになります。そうでないニッチな経済書を選考したいと思います。

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まず、吉川洋『マクロ経済学の再構築』(岩波書店) です。著者は日本を代表するエコノミストであり、専門分野はマクロ経済学です。ほぼほぼ私と同じ専門分野なんですが、まあ、そこは比べるのも畏れ多いというものです。本書の中身は基本的にタイトル通りであり、1970年代にケインズ経済学がインフレを招いたことによりネオリベ的な方向につながったクラシカルな経済学の批判、すなわち、マクロ経済学のミクロ的な基礎づけに対する批判で成り立っています。特に、DSGEモデルに発展した実物的景気循環理論(RBC)や雇用のサーチ理論などに対して、ヘテロな個人に対応して代表的な消費者・家計や雇用者といったホモな存在を強く否定し、それらに対置するに、統計物理学に基づく経済物理学を応用しています。一番判りやすいのがp.35にある概念図であり、個別のミクロ経済主体がバラバラに集まってマクロを形成しているのではなく、まずミクロの経済主体の周囲に小宇宙があって、その小宇宙がマクロを形成している、というものです。加えて、価格がすべてではない(p.37)、とか、供給サイドの生産性の伸び悩みではなく需要の飽和こそが経済成長を規定する(第5章)とか、同じ5章の一部ながら、生産=供給サイドと需要サイドをつなぐルイス2部門モデルとか、アカデミックなレベルはかなり異なるとしても、私の従来からの主張と極めて類似した論点が含まれていることは感激しました。しかし、いかんせん、アカデミックなレベルが高すぎます。税抜8000円という価格も数が出ないという価格付けなんだろうという気がします。おそらく、大学院のそれも博士後期課程の教科書なんだろうと私は受け止めています。というのも、一応、それなりのレベルを誇る大学の経済学部教授を職業とする私からみても難解です。誠に失礼ながら、一般のビジネスパーソンの通常業務にとって有益かどうかは議論が分かれます。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー『カッティング・エッジ』(文藝春秋) です。著者はご存じのミステリ作家であり、本書は著者の代表的な2シリーズのうちのNYをホームグラウンドとする四肢麻痺の犯罪科学者リンカーン・ライムのシリーズの最新巻です。と行っても、実は、著者の新しいシリーズの『ネヴァー・ゲーム』というコルター・ショウを主人公とする新刊が出たと新聞で見て探したところ、昨年に本書がすでに出版されていたという事実を知った次第で、お恥ずかしい限りです。ということで、ストーリーとしては、ニューヨークの有名なダイアモンド・デザイナーと顧客の計3人が殺害された事件から始まって、著者独特のどんでん返しが何回か繰り返されます。まあ、それにしても、ニューヨークの地価に豊かなダイアモンド鉱脈が眠っているというのは、誰がどう見てもムリがありますから、さらにその先のどんでん返しがありそうなのは容易に想像できますので、それほどの意外感はありません。前作『ブラック・スクリーム』ではニューヨークを飛び出してイタリアに出向いて国際的な活躍を見せつけたライムとサックスの夫婦は、本書ではニューヨークから、というよりも、ライムは自宅のタウンハウスからすら出ませんし、前作と比較して地味な印象は免れません。おそらく、著者もその点は自覚しているようで、ご本人の登場はともかく、著者のもうひとつの看板シリーズの主人公であるキャサリン・ダンスへの言及があったり、本書のケースの背景にウォッチメイカーがいたりと、それなりに工夫は凝らされています。まあ、私のように本書の著者のファンであれば、押さえておくべきアイテムであることは間違いありません。

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次に、橘永久&ジェフリー・トランブリー『日本人の9割がじつは知らない英単語100』(ちくま新書) です。著者は、開発経済学の研究者と英語コミュニケーションの研究者です。これはなかなかに面白い英語の本です。日本人の多くが馴染みある単語であっても、ネイティブがまったく異なる意味で使っている単語を、タイトル通り、100取り上げています。どこかに書きましたが、和足は大学の経済学部でこの2020年度下半期には週6コマもの授業を受け持っているんですが、何と、加えて負担が重いことに、うち週2コマが英語の授業だったりします。それなりに、教える方の私も下調べをしたりして英語力がついた気がしなくもなく、そのおかげか、いくつかすでに知っている、使っている単語もあったりしました。経済学とは馴染みの深い094 wageなんかがそうです。また、090 tipは本書にはズバリの用法はありませんでしたが、tipping pointなんて使い方はよく知られているような気もします。また、080 sportについては、『グレート・ギャッツビー』で村上春樹が日本語に訳し切れなかったold sportなんて、呼びかけも取り上げて欲しかった気がします。

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最後に、辻田真佐憲『古関裕而の昭和史』(文春新書) です。最後に、古関裕而本です。著者は、よく知りませんが、軍歌の研究者とどこかで見た記憶があります。まあ、古関裕而とはそういう存在なのかもしれません。もっとも、私が盛んに古関裕而の新書を読んでいるのは、当然ながら、NHKの朝ドラ「エール」の影響です。朝ドラ「エール」もいよいよ最終場に差しかかってきましたが、本書でも明らかにされているように、古関裕而のお坊ちゃん育ちのいい性格とともに、金子の猛女振り、かかあ天下振りもより一層に明確にされているような気がします。朝ドラの最後は東京オリンピックなんでしょうか。

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2020年11月13日 (金)

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)からリバウンドを見せる1次QE予想やいかに?

先月末の鉱工業生産指数(IIP)をはじめとして、ほぼ必要な統計が出そろって、来週月曜日の11月16日に7~9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で、4~6月期にはかつてない大きなマイナス成長を記録しましたが、その大底から7~9月期にはリバウンドを見せて、逆に大きなプラス成長となるのではないかとの予想が主となっています。ただし、シンクタンクの予想が正しく、7~9月期のリバウンドが大きいとしても、緊急事態宣言以前の1~3月期の水準をまだ大きく下回っている点は忘れるべきではありません。ということで、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の10~12月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+4.8%
(+20.5%)
10~12月期を展望すると、イベント収容人数制限の一段の緩和やGoToキャンペーン拡大の効果などもあって、景気は回復基調を維持する見込み。もっとも、失業率の上昇や冬季賞与の減少など雇用所得環境の悪化や、欧米を中心とした感染再拡大による海外景気の下振れが重石となり、回復ペースは7~9月期から大幅に鈍化する見込み。
大和総研+4.4%
(+19.0%)
先行きの日本経済は、緩やかな回復傾向が続く見込みだ。ただし、コロナショック前の水準に戻るまでには相当な時間を要するだろう。
個人消費は、社会経済活動と感染拡大防止のバランスを模索する中で、非常に緩やかな増加傾向が続くとみている。10-12月期以降は消費の牽引役が財からサービスへと移り変わるだろう。7-9月期に消費の牽引役となった耐久財は、特別定額給付金の効果の一服などにより、当面は調整局面が続くとみられる。一方、7-9月期に弱い動きだったサービス消費は「GoToキャンペーン」が追い風となり緩やかな増加が続くだろう。
住宅投資は感染拡大に伴う雇用・所得環境の不確実性の高まりが住宅購入意欲を減退させ、弱い動きが続くとみられる。
設備投資は、先行指標である機械受注の動向を踏まえると10-12月期も低迷することが見込まれるものの、2021年1-3月期以降は生産・営業稼働率の上昇を受けて増加に転じよう。ただし、感染拡大の長期化で先行き不透明感が高まる中、企業は能力増強投資などを一部先送りするとみられる。そのため、増加ペースは緩やかなものに留まろう。
公共投資は、振れを伴いながらも高水準での推移が続くとみている。前述した「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」の対象期間は2020年度で終了するものの、建設業の人手不足などを背景に執行が遅れており、未執行分が2021年度に繰り越されると考えられる。なお、2020年度の第1次、第2次補正予算では公共事業関係費はほとんど計上されなかったが、第3次補正予算で計上されれば先行きの公共投資の押し上げ要因となろう。
輸出は緩やかな増加傾向が続くとみているものの、欧州向けを中心に下振れリスクが高まっていることには留意が必要であろう。同地域ではこのところ感染再拡大が深刻化しており、各国政府は感染拡大防止策を強化している。感染拡大の勢いが止まらず、4、5月のような厳しい措置が全域で実施されれば、景気が二番底をつける可能性が考えられる。
みずほ総研+4.4%
(+18.6%)
7~9月期の日本経済は、個人消費や輸出の高い伸びを主因として大幅なプラス成長になったとみられる。国内外の経済活動の再開に伴い、日本経済が回復傾向にあることを確認する結果となるだろう。ただし、それでも4~6月期の落ち込みの半分程度を取り戻したに過ぎない。また、個人消費については前期からのゲタの影響が大きく7~9月期の実勢としては数字ほどの力強さは無い点に留意する必要がある。
10~12月期も個人消費・輸出を中心にプラス成長が続くとみている。個人消費は、(感染再拡大がなければ)Go to キャンペーン事業が押し上げ要因となり増加基調が続く見込みだ。輸出も、9月までの回復基調の継続によってゲタが高くなっていることに加え、10月以降も米国・中国向けを中心に底堅い推移が続くことで、プラスの伸びを維持するだろう。ただし、欧州ではフランス・ドイツなどで感染再拡大に伴い部分的なロックダウン再実施の動きが出てきており、欧州向け輸出は下振れのリスクがある。
来年1~3月期を含めた年度後半の日本経済の回復ペースは緩慢なものになるとみられる。企業収益の悪化を受けて賃金・設備投資の調整が進むことが下押し要因となろう。冬のボーナスは大幅減が見込まれるなど、厳しい雇用所得環境が続くほか、設備投資も機械・建設投資を中心に低迷が続くとみている。さらに、外食・旅行・娯楽などの消費活動についてはソーシャルディスタンス確保のための制限が残るほか、感染再拡大を巡る不確実性が家計・企業の活動を萎縮させる状況が続くだろう。
実際、日銀短観(9月調査)をみると、「先行き」の業況判断DIは大企業・製造業が▲17%Pt(9月調査の「最近」の業況判断DIからの変化幅は+10%Pt)、非製造業が▲11%Pt(同+1%Pt)と、感染再拡大への懸念から非製造業を中心に改善幅は限定的だ。サービス業を中心に、企業が年度下期の需要の戻りを慎重にみていることを示唆している。
治療薬・ワクチンの普及までに一定の時間を要する中、経済活動の回復は緩やかなものとならざるを得ない。足元では、欧米で感染が再び拡大しており、先行き不透明感が高まっている。日本においても、「Go to」キャンペーン事業を受けた外出増加が感染再拡大につながるリスクがある。高齢者の感染拡大が冬場にかけて急激に進んだ場合、医療体制がひっ迫する可能性は皆無ではなく、引き続き予断を許さない状況に変わりはない。
こうした中、報道によれば、政府は年内に第3次補正予算案を編成し、追加的な経済対策を打ち出す方針のようだ。持続化給付金や家賃支援給付金、雇用調整助成金といった企業向け給付措置の延長に加え、Go toキャンペーン事業の延長、防災・減災などの国土強靭化関連の公共事業、医療・検査体制の拡充などが盛り込まれるとみられる。これまでの第1次・第2次補正予算に比べれば財政支出の規模は小さなものになると思われるが、2021年度にかけての成長率の押し上げ要因となる。政策動向も注視していきたい。
ニッセイ基礎研+3.8%
(+16.1%)
経済正常化に向けた動きが継続することから、10-12月期も高めの成長となるものの、7-9月期の経済成長を牽引した民間消費、輸出の伸びが鈍化することから、7-9月期から大きく減速する可能性が高い。現時点では、前期比年率6%程度のプラス成長を予想している。
第一生命経済研
その2
+4.5%
(+19.2%)
Go To キャンペーンや経済活動制限の緩和等によりサービス消費の持ち直しが予想されることに加え、輸出も中国、米国向けを中心に回復が期待できることから、今後も景気は持ち直しは続くとみられるが、成長率は10-12月期以降に大きく鈍化することが避けられない。経済活動が新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻るには長い時間がかかるだろう。
伊藤忠総研+4.6%
(+19.9%)
成長率で7~9月期に急反発を見せた日本経済であるが、前年同期比で見ると▲6.0%と未だ大きく水面下に沈んでおり、中国の+4.9%はもとより、米国の▲2.9%に比べても見劣りする。米国は7~9月期に設備投資(民間非住宅投資)が前期比+4.7%、住宅に至っては+12.3%もの大幅増を記録、個人消費も4~6月期の前期比▲9.6%から7~9月期は+8.9%へかなり戻している。日本の出遅れは、7月の感染第2波で経済活動が一旦停滞した影響によるものであろう。ただ、その結果が、感染再加速の米国と、何とか踏みとどまっている日本との違いであり、それが今後の景気回復ペースに影響を与えよう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+5.2%
(+22.4%)
2020年 7~9月期の実質GDP成長率は、輸出の順調な増加と、緊急事態宣言解除後の個人消費の回復を受けて、前期比+5.2%(年率換算+22.4%)と急上昇する見込みである。しかし、コロナ禍の落ち込み(2020年1~3月期および4~6月期)の6割弱を取り戻したに過ぎない。景気は最悪期を脱したとはいえ、経済活動の水準は低いままであり、設備投資の落ち込みが続くなど、依然として回復の足取りは重い。
三菱総研+4.3%
(+18.2%)
2020年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+4.3%(年率+18.2%)と予測します。

ということで、4~6月期の前期比年率▲28.1%減の後、7~9月期には+20%前後のリバウンドが予想されています。ただし、いくつかのリポートに明記されているように、これでもまだ緊急事態宣言のあった4~6月期に落ち込んだ部分の半分ほどに達するだけです。しかも、現在の足元で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は第3波の感染拡大期に入ったの見方もあり、7~9月期に比べて10~12月期には成長率は大きく鈍化すると見込まれています。具体的な数字を上げているのはニッセイ基礎研のリポートだけで+6%程度と言及されています。私を含めて、エコノミストの多くは2018年10~12月期に始まった景気後退は今年2020年4~6月期に底を打った可能性が高いと考えていますが、COVID-19の感染拡大を別としても、景気回復の足取りは極めて緩やかで、加えて、感染拡大による下振れリスクが大きい、と覚悟しています。~9月期の前期比年率+20%前後の実感もさほどない中、先行きも不透明です。すべては、COVID-19次第という気がして、経済見通しはエコノミストのお仕事でなくなった気すらします。
最後に、下のグラフは、ニッセイ基礎研のリポートから引用しています。

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2020年11月12日 (木)

下げ止まりつつある機械受注と消費税率引上げの影響が剥落した企業物価指数(PPI)!!!

本日、内閣府から9月の機械受注が、また、日銀から10月の企業物価 (PPI) が、それぞれ公表されています。機械受注のうち、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲4.4%減の7193億円と、まだまだ受注額は低水準ながら、プラスの伸びを記録し、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は▲2.1%の下落を示しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の機械受注、前月比4.4%減 市場予想0.9%減
内閣府が12日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比4.4%減の7193億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は0.9%減だった。
うち製造業は2.0%増、非製造業は3.2%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は11.5%減だった。内閣府は基調判断を「下げ止まりつつある」で据え置いた。
同時に発表した7~9月期の四半期ベースでは前期比0.1%減だった。10~12月期は前期比1.9%減の見通し。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
10月の企業物価指数、前月比0.2%下落 石油製品が下押し
日銀が12日発表した10月の企業物価指数(2015年平均=100)は99.9と、前月比0.2%下げ、2カ月連続の下落となった。9月中旬から10月にかけてのドバイ市況の悪化で石油製品の価格が下げ、物価を下押しした。前年同月比では2.1%の下落だった。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。10月は夏季電力料金の適用期間が終了したことも下押し要因となった。
円ベースで輸出入物価をみると、輸出は前年同月比1.7%下落し、前月比では0.1%下げた。輸入は前年同月比で10.6%下落し、前月比では0.1%下がった。
企業物価指数は消費税を含んだベースで算出している。消費増税の影響を除くベースでの企業物価指数は前年同月比で2.1%下落し、前月比では0.2%下落した。
日銀は「新型コロナウイルスの感染拡大は国際商品市況と国内需要の両面から企業物価に大きな影響を与え続けている」と指摘。そのうえで「国内外の実体経済の動向を注意してみていきたい」としている。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

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まず、コア機械受注に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、中央値で前月比▲0.9%の減と報じられています。レンジはそこそこ広くて▲3.2%減~3.8%増、ということでしたが、その下限を下回る減少でしたが、ギリギリでそれほどのサプライズにはならなかったような気がします。ひとつの要因は、季節調整の綾で、産業別に見て製造業と船舶・電力を除く非製造業の両方で前月比プラスとなった点が上げられます。また、この四半期の7~9月期でさかのぼること2か月の7月+6.3%増、8月+0.2%増と2か月連続の前月比プラスの後の9月▲4.4%減ですから、もともとが単月で見た振れの激しい統計だけに、ならしてみてトントン、というカンジなのかもしれません。ただし、四半期でならすと、景気後退に入っているので当然という気もしますが、2019年4~6月期に前期比プラスを記録した後、直近で統計が利用可能な7~9月期まで6四半期連続の前期比マイナスが続き、しかも、引用した記事にもある通り、10~12月期見通しも▲1.9%減が見込まれていますから、7四半期連続、1年半超のマイナスが続くことはほぼほぼ確実です。コア機械受注の水準も低迷しており、景気後退局面入り前には1兆円を超えていた月もありましたが、4月の緊急事態宣言からは7000億円カツカツの水準となっています。細かい産業を見ても、自動車・同付属品が底堅いのは、リーディング・インダストリーとして頼もしかったのですが、9月統計では4か月ぶりの前月比マイナスでした。今後も、設備投資が盛り上がるとは思えませんし、しかも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)第3波の増加が始まっている可能性も高くて、設備投資の動きが本格的に回復するのはまだ先なのかもしれません。基調判断の「下げ止まりつつある」に意義を申し立てるつもりこそありませんが、機械受注、ひいては、設備投資の本格回復までは時間がかかりそうです。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、機械受注と同じように、このブログのローカルルールで勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。ということで、まず、企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、中央値で前月同月比▲2.0%の下落、ということでしたので、やや下落幅が大きい印象があります。ひとつの要因は、引用した記事にもある通り、国際商品市況で9月中旬から10月にかけてドバイの石油価格が悪化したことであり、いつも書いているように、金融政策よりも国際商品市況、それも石油価格にひときわ敏感な国内物価の特徴が出ています。加えて、前々から理解されていたように、10月統計では昨年の消費税率の引上げの影響が剥落しますので、下げ幅が一段と大きく出ています。物価もこの先どこまで低迷が続くのか、COVID-19の第3波の影響もある中、なんとも見通すのが難しくなっています。

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2020年11月11日 (水)

色づくキャンパス!!!

キャンパスの研究棟です。手前のイチョウなどはすっかり色づいています。


 


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私は何と週に6コマ、教授会がある火曜日以外はすべて授業を持っていたりします。授業負担が重いと文句ばっかりいっている割には、お手軽に論文を書いたりしています。ただ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のせいで、授業以外にスポーツ施設を開放していないのが残念です。特にプールの利用が早く開放されると有り難いと感じています。

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今日は25回目の結婚記念日!!!

今日は、カミさんと私の結婚記念日です。何と連れ添って25年になりました。すなわち、銀婚式です。この夏あたりから、カミさんが記念の銀製品を見繕っていましたが、まだ出来上がっていません。そのうちに手元に届けば写真をポストしたいと思います。いつものくす玉を置いておきます。そろそろ、フラッシュ動画もサポートが切れますので、このブログ特有のくす玉も最後かもしれません。

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2020年11月10日 (火)

急回復を示す景気ウオッチャーとほぼコロナ禍前の水準に戻った経常収支!!!

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、10月の景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+5.2ポイント上昇の54.5を示し、先行き判断DIも+0.8ポイント上昇の49.1を記録しています。9月の経常収支は、季節調整していない原系列で+1兆6602億円の黒字を計上しています。貿易収支が黒字となっており、原粗油の輸入が量も価格も落ち込んでいます。まず、統計のヘッドラインを手短に報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

10月の街角景気、現状判断指数は6カ月連続改善
内閣府が10日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は54.5で、前の月に比べて5.2ポイント上昇(改善)した。改善は6カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は49.1で、0.8ポイント上昇した。改善は3カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
内閣府は基調判断を「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直している」から「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、着実に持ち直している」に変更した。
9月の経常収支、1兆6602億円の黒字 75カ月連続の黒字
財務省が10日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆6602億円の黒字だった。黒字は75カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆9924億円の黒字だった。
貿易収支は9184億円の黒字、第1次所得収支は1兆7139億円の黒字だった。
同時に発表した4~9月期の経常収支は6兆6901億円の黒字だった。貿易収支は95億円の黒字、第1次所得収支は10兆3639億円の黒字となった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、長かったです。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に認定しています。

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よく知られているように、消費者マインド指標としては、本日公表の景気ウォッチャーとともに消費者態度指数があり、どちらもこのブログで取り上げているところながら、消費者態度指数はダイレクトに消費者世帯のマインドを調査しているのに対して、景気ウォッチャーは消費者マインドを反映しそうな事業者の供給サイドの指標となっています。ですから、消費者態度指数は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染の再拡大が明確に認識されるようになった8月には、雇用環境、暮らし向き、収入の増え方が低下したことから前月差でマイナスを記録しましたが、7月下旬からGoToキャンペーンの一部が開始されたこともあって、供給サイドのマインドである景気ウォッチャーの方はほぼほぼ一貫して前月サプラスとなり、特に、9月からは飲食関連がジャンプするなど、引用した記事にもある通り、COVID-19による緊急事態宣言が出た4月を底として6か月連続で前月から改善を示しています。しかも、現状判断DIの水準が54.5ですので2013年末から2014年1~3月期、すなわち、アベノミクス初期の消費税率の5%から8%への引上げ前の水準に達してしまいました。4月の水準が7.9だったわけですから、この9~10月の伸びは私も少し驚いています。ただ、先行き判断DI8~9月にはジャンプしたものの、10月統計では伸びが小さくなっていますので、さすがに、私が懸念するほどまでには楽観的ではない、ということなんだろうと推測しています。特に、飲食関連の先行き判断DIが10月には前月差▲2.5ポイントの大きなマイナスとなっています。これは先行きのマインドをそのまま反映しているのか、それとも、GoToキャンペーンが期待したほどではなかった、ということなのか、景気判断理由を見ても私には判然としませんでした。いずれにせよ、もうひとつの需要サイドのマインド指標である消費者態度指数が10月統計でやや伸びが小さくなっていますので、景気ウォッチャーもご同様にこの先少し伸びが鈍化する可能性が十分あるんではないか、と私は考えています。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、上のグラフを見れば明らかなんですが、COVID-19の影響は経常収支でも最悪期を脱した可能性があります。内外の景気動向の差に基づく貿易赤字が主因となって経常収支が落ち込んでいましたが、季節調整済みの系列で見る限り、貿易収支は7月統計から黒字に転じ、本日公表の9月統計でも貿易黒字が拡大しいています。経常収支も上のグラフに見られるように、急回復を示しており、COVID-19の影響は最悪期を脱している可能性が高いと考えるべきです。ついでながら、もうすぐ、7~9月期GDP統計統計速報1次QEが公表されますが、経常黒字GDP比は私の計算では4~6月期には+1.6%まで落ちていたところ、おそらく+3%前後まで上昇するんではないか、と想像しています。

その7~9月期1次QE予想は日を改めて取り上げる予定です。

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2020年11月 9日 (月)

景気動向指数は4か月連続で改善を示す!!!

本日、内閣府から9月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から+4.4ポイント上昇して92.9を、また、CI一致指数も前月から+1.4ポイント上昇して80.8を、それぞれ記録しています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、先々月の8月統計まで12か月連続で「悪化」だったんですが、先月の8月統計から「下げ止まり」に上方修正され、今月の基調判断は据え置かれています。まず、統計のヘッドラインを手短に報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

9月の景気一致指数、1.4ポイント上昇
内閣府が9日発表した9月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.4ポイント上昇の80.8となった。数カ月後の景気を示す先行指数は4.4ポイント上昇の92.9だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「下げ止まり」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に認定しています。

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CI一致指数を個別系列の寄与度に従って詳しく見ると、耐久消費財出荷指数が+0.52ポイント、生産指数(鉱工業)が+0.45ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が+0.44ポイントと、生産や出荷の指標が高いプラス寄与を示している一方で、商業販売額(小売業)(前年同月比)や有効求人倍率(除学卒)などがマイナス寄与となっています。所定外労働時間指数(調査産業計)もわずかにマイナス寄与ですし、景気回復初期のことでどうしようもありませんが、企業部門の伸びが景気を牽引し、家計部門はまだ小売や雇用の指標を見る限り回復には遠い印象です。ただし、CI先行指数に採用されている消費者態度指数は+1.25と10月統計の先行指数への最大のプラス寄与を示していて、消費者マインドは上向きです。明日午後には景気ウォッチャーも公表予定ですので、消費者マインドの詳細情報が得られるものと私は期待しています。
ということで、繰り返しになりますが、先月の統計公表時に「悪化」から「下げ止まり」に上方修正された基調判断は据え置かれています。他方、先々週の金曜日10月30日に明らかにされた景気動向指数を予測する第一生命経済研のリポートでは、「仮に今後も順調に景気の持ち直しが続き、CI一致指数も上昇傾向で推移するのであれば、12月分で『上方への局面変化』へと基調判断が上方修正、さらに翌21年1月分では『改善』に上方修正される可能性が高い」と指摘しています。でも、このリポートでは、9月の景気動向指数CI一致指数を前月差+1.3ポイントと、これだけ算定方法の透明性高い統計で計算間違いしており、信頼性がどこまであるかはビミョーです。

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2020年11月 8日 (日)

先週の読書は経済書なしで小説を中心に計5冊!!!

先週の読書は、経済書がなく、教養書もやや旧聞というカンジのAIに関して否定的な見方を提供するものだけで、何と、画期的なことに小説が2冊あり、ほかに新書も2冊読んでいます。ただ、新書のうちの1冊はモロに経済に近いテーマだったりします。この週末はいろいろあって読書感想文に手が回らず、遅くなったこともあって簡単にご紹介だけしておきたいと思います。

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まず、松田雄馬『人工知能に未来を託せますか?』(岩波書店) です。著者は、NEC中央研究所ご出身の技術者であり、現在はベンチャー企業を起業しているようです。タイトルは半ご否定という形式であり、AIに未来は託せない、という結論を導き出しています。要するに、AIは人間を代替できない、という結論です。ただし、少なくとも、AIが人間を代替するだけでなく、人間を支配することもないような「未来予想」となっています。著者の強い信念の吐露は感じられましたが、私にはやや根拠薄弱と見えました。でも、そうなればイイナというのは確かです。

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次に、池井戸潤『アルルカンと道化師』(講談社) です。半沢直樹シリーズ最新刊ではなかろうかという気がします。というのは、私は少なくとも文藝春秋と講談社から出ている半沢直樹シリーズは新刊時にすべて読んでいるんですが、文庫本になった後、半沢直樹+数字のタイトルの改題の文庫本を図書館で見かけたことがあり、改題の際に何か改変があったかどうかについてはフォローしていません。これも、どうでもいいことながら、私の好きな居眠り磐音シリーズは、改題こそありませんが、文庫本を別の出版社から出す際に内容を修正していると聞いたことがあります。ということで、本題に戻って、美術雑誌出版社を買収すると見せかけて、バンクシーを思わせるような落書きのある本社ビルをまるごとM&Aしてしまおうとするベンチャー企業経営者に対して、大阪西支店の半沢融資課長がガンとして融資継続の姿勢を崩さず、本社や大阪営業本部のM&A推進方針に抗して、バンカーとしての心意気を示す、というストーリーです。いつもの半沢直樹シリーズと同じで、いかにも小説らしく現実にはありえないような都合のいいストーリ展開なんですが、小説としてはあざとい気がする一方で、うまくまとめ上げればドラマとしてはヒットするのかもしれません。

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次に、朝井まかて『グッドバイ』(朝日新聞出版) です。私はまったく存じ上げなかったんですが、先月10月6日に本願寺文化興隆財団から公表があり、本年度の親鸞賞受賞作品です。でも、本願寺とか、親鸞とか、浄土真宗とかが前面に出て来るわけではありません。私が浄土真宗の信者の門徒だから反応しただけで、失礼ながら、権威の高い文学賞なのかどうかは私は存じません。本願寺文化興隆財団のサイトを見たところ、ほかに、蓮如賞というのもあるようです。親鸞賞11回の歴史の中で、私が読んだ小記憶があるのは和田竜『村上海賊の娘』だけでした。ということで、本書は、幕末から明治維新期に長崎の大店、菜種油を扱う大浦屋を継いだ希以(けい)、後に同じ読み方で漢字を恵とした女性商人の一代記です。扱いを菜種油から茶葉に変更し、開国に伴って米国への輸出に乗り出した女傑の生涯を描き出します。もちろん、小説ですのでノンフィクションではないんだろうと思いますが、壮大なスケールで広い視野からの当時の女性像を余すところなく書き切っています。とても爽やかな読後感を保証したいと思います。ちょっと大河ドラマというわけにも行かないでしょうが、朝ドラあたりにならないものかと期待しています。でも、もう、朝ドラの「あさが来た」で似たようなのがありましたからダメですかね。

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次に、森永卓郎『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(集英社インターナショナル新書) です。著者は、ご存じ、JTご出身のエコノミストです。私にも理解できるような非常にリベラルな論を展開するタイプのエコノミストですし、私も本書には大いに賛同できる点があります。ということで、国連のSDGsなどに議論を紹介しながら、この新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大前までのグローバル資本主義の限界を指摘し、ある意味で、ガンディー的な社会主義、というか、「隣人を助ける」原理を包含する経済社会に向けた方向性を打ち出しています。冒頭から、マルクス主義的な経済学の復権を指摘していますので、ベルンシュタイン的な修正主義的社会民主主義ではなく、共産主義の前段階としての社会主義が念頭にあるのかもしれません。立派な見立てだと私も同意します。ただ、実際の適応にあたっての「トカイナカ」とか、ベーシックインカムを別にすれば、私の頭の中で???が並ぶようなアイデアでしたので、私にはやや理解が及びませんでした。誠に残念。

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最後に、刑部芳則『古関裕而-流行作曲家と激動の昭和』(中公新書) です。著者は、日本近現代史を専門とする研究者です。ただ、学術書という感じはありません。私は何よりも現在放送中のNHKの朝ドラ「エール」を高く評価していますので、その主人公夫妻を取り上げた本書をとても楽しんで読むことができました。ドラマは今もって現在進行形です。今月で終了予定と明らかにされています。軍歌「露営の歌」で一世を風靡し、軍歌や戦時歌謡の覇者となった後、戦後はラジオドラマ「鐘の鳴る丘」とか、鎮魂歌「長崎の鐘」もヒットさせ、東京五輪行進曲「オリンピック・マーチ」の作曲者でもあります。私にとっては何といっても阪神タイガースの応援歌である「六甲颪」の作曲者と認識されています。朝ドラとともに、大いに楽しい読書でした。

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ユーキャン新語・流行語大賞のノミネート語やいかに?

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やや旧聞に属する話題ながら、11月5日にユーキャン新語・流行語大賞のノミネート語が30ほど明らかにされています。まあ、当然ながら、「アベノマスク」、「クラスター」、「3密」などの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関係するキーワードがいくつか入っているのが目立つような気がします。大賞ほか、トップテンは12月1日に発表の予定だそうです。ややどうでもいいことながら、昨年はノミネート語が50あったような気がするんですが、私の記憶違いでしょうか?

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2020年11月 7日 (土)

改善が鈍化する10月統計の米国雇用統計をどう見るか?

昨夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。新型コロナウィルス(COVID-19)の影響から、非農業雇用者数は4月の大幅減の後、5月統計からはリバウンドして10月にも+638千人増を記録しています。同じく、失業率も一気に悪化した4月からのリバウンドが続き、6.9%に改善しています。でも、まだ、COVID-19前の昨年2019年11~12月や今年2020年2月には3.5%だったわけですから、それらと比べるとまだ2倍近いの水準であることも確かです。いずれも季節調整済みの系列です。まず、やや長くなりますが、USA Today のサイトから統計を報じる記事を最初の5パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy adds 638,000 jobs in October as unemployment falls to 6.9% amid COVID-19 spikes
The U.S. economy added 638,000 jobs in October as payroll growth roughly held steady despite a surge in COVID-19 cases and Congress's failure to provide more aid to unemployed Americans and struggling businesses.
The unemployment rate fell from 7.9% to 6.9%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 600,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
The report comes as Democrat Joe Biden edged closer to victory in a presidential election that partly served as a referendum on President Trump's response to the pandemic and its punishing economic toll.
Although last month's employment gains were outsized by historical standards, the increases have slowed for four straight months since peaking at 4.8 million in June. The nation has recovered about 12 million, or 55%, of the 22 million jobs wiped out in the health crisis as states have reopened restaurants, shops and other businesses shuttered by the outbreak, and brought back many furloughed workers.

やや長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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米国の失業率については、4月統計で14.7%と一気に悪化した後、5月13.3%、6月11.1%そして、7月10.2%まで2ケタが続いた後、8月には8.4%と10%を割り込み、9月には7.9%、そして、10月統計でも引き続き低下して6.9%まで達しました。ただし、リバウンドの方も徐々に減衰してきた気がします。米国非農業部門雇用者の伸びも、4月に前月差で▲2000万人超の減少を見た後、5月+2725千人増、6月+4781千人増、7月+1761千人増、8月+1493千人増、9月+672人増と急速に縮小し、10月+638千人増と、失業率の改善幅も、非農業部門雇用者の増加幅も、急速に改善幅が縮小しています。なお、6月が大きかったのは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する米国の対応に起因するんだろうと思います。そして、10月の雇用増については、引用した USA Today の記事では、3パラめに "Economists had estimated that 600,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey" とあるように、市場の事前コンセンサスはBloombergを引いて+600千人増でしたから、ややこれを上回ったとはいえ、ほぼほぼ予想通り、というカンジではないかと思います。ただ、私が不思議に思うのは、Bloomberg の記事では "580,000 median estimate of economists surveyed by Bloomberg" とされており、少し違いがあったりします。いずれにせよ、米国の雇用改善のペースは明らかに落ちており、従って、COVID-19前の水準への米国経済の回復にはかなりの期間を要する、と見るエコノミストが多数派であろうと私も考えています。

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2020年11月 6日 (金)

本日公表の「経済財政白書」やいかに?

本日、「経済財政白書」が公表されています。副題は「コロナ危機: 日本経済変革のラストチャンス」となっています。まあ、コロナ危機でもっとも大きな影響を受けたのは「経済財政白書」の刊行そのものだったのかもしれません。というのは、今年の「通商白書」は通常と同じ時期に公表されましたが、「経済財政白書」は通常から3か月以上も遅れているような気がします。それは冗談としても、何だかんだで、300ページを軽く超えるボリュームですので、読み切れるはずもなく、基本として第1章の現状分析の部分から、軽くいくつか図表を引用しておきたいと思います。

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まず、「経済財政白書」の p.6 第1-1-1図 実質GDPの推移 と p.7 第1-1-2図 海外経済の動向 を結合した上で引用しています。上のパネルから、コロナ危機に入る前に、2019年10~12月期にすでに大きなマイナス成長を記録している点を忘れるべきではありません。いうまでもなく、2019年10月からの消費税率引上げに起因しています。ですから、個人消費が大きなマイナスとなっていて、2020年1~3月期にはこの個人消費のマイナス寄与は一度縮小するんですが、4~6月期には緊急事態宣言による影響もあって、さらに大きなマイナスに陥っています。まあ、こんなもんなんでしょうね。下のパネルの世界主要国の成長率と見通しもこんなもんという気がします。

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次に、「経済財政白書」の p.49 第1-2-2図 雇用保蔵の推計 と p.50 第1-2-3図 雇用者数の減少と非労働力化の背景 を結合した上で引用しています。上のパネルのうちの雇用保蔵の試算については、マイナスもあるようですから、ほぼほぼ人手の過不足と考えてよさそうです。2008年のリーマン・ショック時に雇用保蔵が大きくプラスになった後、細菌時点まで人で不足が続いていましたが、2019年の消費税率引き上げから、またまた、雇用保蔵の人手過剰に転じていて、コロナ危機でその過剰がさらに拡大しています。下のパネルから、非正規雇用を中心に雇用が減少していて、特に女性の減少が大きい点が明らかにされています。

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最後に、「経済財政白書」の p.81 第1-3-7図 家計を巡る経済の循環 を引用しています。足元の第16循環が緑色のラインで示されています。製造業と非製造業の企業部門 ⇒ 雇用者数 ⇒ 雇用者報酬 ⇒ 個人消費 ⇒ 企業部門 へと循環する矢印が示されています。2018年10~12月期を山として景気後退期に入ったわけですが、非製造業を中心に大きな生産の減少がある一方で、雇用調整助成金や特別給付金などにより雇用者数と雇用者報酬は下支えされている一方で、雇用者報酬よりも大きく個人消費が減少しています。だいぶ前に、Guerrieri, Veronica, Guido Lorenzoni, Ludwig Straub, and Iván Werning (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" NBER Working Paper 26918 に着目して、今回のCOVID-19ショックによるリセッションはケインズ的な需要ショックではなく、contact-intensive なセクターが供給をストップしたことによる供給ショックに起因する、というモデルを取り上げました。今年の「通商白書2020」でも注目されたモデルなんですが、雇用者報酬へのショックが大きくない割に消費が落ちているのは、やっぱり、供給ショックなのかもしれません。そんな事を考えさせられるグラフでした。

繰り返しになりますが、現時点で、今年の「経済財政白書」をすべて読んだわけでもありませんし、第1章を中心に取り上げているだけです。ただ、公表当日にこのブログで取り上げることはとても重要、と私は考えています。

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2020年11月 5日 (木)

労働政策研究・研修機構ディスカッションペーパー「コロナ禍における在宅勤務の実施要因と所得や不安に対する影響」を読む!!!

昨日の経済産業研究所のディスカッションペーパーに続き、今日も労働政策研究・研修機構(JILPT)から10月29日に明らかにされたディスカッションペーパー「コロナ禍における在宅勤務の実施要因と所得や不安に対する影響」を取り上げたいと思います。慶應義塾大学の研究者3名の共著になっています。私自身はペーパーのタイトルの後半である「所得や不安」についてはやや不案内なので、前半の在宅勤務の実施要因について詳しく見てみたいと思います。

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ペーパーから 図2 在宅勤務実施率と在宅勤務可能性調整済み在宅勤務実施率 のグラフ4枚を引用すると上のとおりです。(A)雇用形態別、(B)年収別、(C)学歴別、(D)企業規模別の4種類のグラフです。4月時点と5月時点に分けられています。もはや、見れば明らかで、軽く想像される通り、(A)雇用形態別ではパートとアルバイトの在宅勤務実施率が極端に低くなっており、(B)年収別では年収が高いほど在宅勤務実施率が高く、(C)学歴別では4年制大学卒業以上で在宅勤務実施率が高く、(D)企業規模別では大企業ほど在宅勤務実施率が高い、という結果が示されています。なお、画像では「4年制大学卒業以下」となっていますが、「4年制大学卒業以上」のタイプミスだと考えられます。
やや話が逆になるかもしれませんが、このペーパーは労働政策研究・研修機構(JILPT)が連合総研と共同で2020年5月に実施した調査「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」のデータと、これに先立って2020年4月に連合総研により実施された「第39回勤労者短観調査」のデータを基に、さまざまな勤労者の属性を要因分析しています。基本はプロビット分析となっています。上に引用した4つの属性のほか、年齢層ダミー、既婚ダミー、12歳以下の子どもありダミー、要介護者ありダミー、勤続年数、労働組合参加ダミーなどの連続変数とカテゴリカル変数がモデルに加えられていますが、上の画像の変数のほかは目立って統計的に有意な説明要因とはなっていません。煩雑になりますのでテーブルの引用は控えますが、ペーパーp.25にある 表2 個人属性が在宅勤務実施確率に与える影響 に推計結果が示されています。結論のひとつとして、「大卒や正社員、高収入、企業規模の大きい企業の労働者などで在宅勤務実施率が高くなっており、学歴や雇用形態、年収、企業規模などの点で格差が生じている」ことが強調されています。常識的に軽く想像されるとおりなのですが、フォーマルな数量分析で確認されたことは重要だと私は受け止めています。

果たして、コロナ禍による在宅勤務、というか、私の場合はリモートからのオンライン授業なんですが、これはいつまで続けるんでしょうか。昨日取り上げた経済産業研究所による分析でも、在宅勤務はオフィスでのお仕事に比べて⅔くらいの生産性しか上げられません。たぶん、オンライン授業の学習到達度も⅔とか、そんなもんだろうという気がします。強くします。

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2020年11月 4日 (水)

経済産業研究所「新型コロナと在宅勤務の生産性」を読む!!!

日付はハッキリしませんが、先週に経済産業研究所の森川所長のディスカッションペーパー「新型コロナと在宅勤務の生産性: 企業サーベイに基づく概観」が明らかにされています。、経済産業研究所が東京商工リサーチに委託して2020年8~9月に実施した「経済政策と企業経営に関するアンケート調査」のデータを基にした分析です。在宅勤務の生産性は、企業の評価によれば職場を100として単純平均で68.3となり、就労者サーベイに基づく在宅勤務の主観的生産性の平均値である60.6よりもいくぶん高い、との結果を示しています。やっぱり、在宅勤務は生産性低い、という結果は当然としても、ここまで低いのか、という気もします。ペーパーのタイトルからはこれで終わりなんですが、いくつか、私の興味あるテーブルがあり、それだけ引用しておきたいと思います。

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まず、上のテーブルは、ディスカッションペーパーから p.16 表2 在宅勤務制度の採用実態 を引用しています。軽く予想される結果ながら、大企業のほうが中小企業よりも在宅勤務を高い比率で導入しており、産業別では情報通信業が高い一方で、人的接触が大きい小売業では在宅勤務はそれほど導入されていません。東京都の企業は他府県と比べれば飛び抜けて在宅勤務を導入しています。

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次に、上のテーブルは、ディスカッションペーパーから p.17 表4 在宅勤務実施確率の推計 を引用しています。連続変数とダミー変数がゴッチャになって報告されていますが、これも軽く想像される通り、企業規模大きいほど、大卒比率高いほど、また、賃金も高いほど在宅勤務が導入される確率が高くなっています。東京都や人口密度高いほど確率高く、逆に、小売業では統計的に有意に導入確率が低くなっています。産業別で逆相関を示しているのは、卸売業、小売業、サービス業となっていますが、統計的に有意な逆相関は小売業だけです。女性比率は正の相関となっています。非正規比率は在宅勤務の導入と逆相関が示唆されていますが、統計的な有意性はありません。

ころ名前の在宅勤務導入を「アーリー・アダプター」、コロナ後の導入を「ニュー・アダプター」として、いろんな違いを分析するなど、ここに取り上げなかったいくつかの分析結果もディスカッションペーパーには盛り込まれています。

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2020年11月 3日 (火)

Top 20 Country GDP (PPP) の変遷やいかに?

WawamuStats が YouTube にポストしている World GDP (PPP) by Country の動画です。このグループは、細菌では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関連する動画が多い気もしますが、経済関係ではもっともポピュラーなGDPを基準にした1800年から予想を含めて2040年までの超長期のデータに基づく動画となっています。もうちょっとBGMに工夫があれば、という気もしますが、ご参考まで。

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2020年11月 2日 (月)

みずほ総研「インバウンド蒸発による悪影響の総括的検証」やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週10月28日に、みずほ総研から「インバウンド蒸発による悪影響の総括的検証」と題するリポートが明らかにされています。1ト月半ほど前の9月17日付けのこのブログで紹介したように、私も紀要論文で「訪日外国人客数およびインバウンド消費の決定要因の分析: VAR過程に基づく状態空間モデルの応用」とのタイトルで、小難しい状態空間モデルをVARプロセスで応用して、インバウンド消費の分析をしていますので、インバウンド消費や新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などについても、私も十分な関心を持っています。ということで、リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 図表2 世界産業連関表を用いたインバウンド蒸発によるGDP下振れ率の試算 を引用すると上の通りです。経済協力開発機構(OECD)による2015年基準の OECD Inter-Country Input-Output (ICIO) Tables を基に、非居住者家計による国内での直接購入がすべてゼロになったケースを試算しています。クロアチア、マルタ、キプロスなどの欧州の小国が並びますが、タイ、ギリシャ、ポルトガルなどでGDP下押し効果が極めて大きいことが明らかで、日本は試算対象の中で下から数えて4番目と、インバウンド蒸発の影響は小さくなっています。GDPのサイズが大きいこともありますが、まだまだ観光立国にはほど遠い、ということなのだろうと私は理解しています。

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次に、リポートから 図表4 インバウンド蒸発による生産下振れ率の試算・主要業種別 を引用すると上の通りです。これも、インバウンド消費額の全項目がゼロになった場合の試算です。日本は世界の中では影響小さいとはいえ、もちろん、産業ごとにインパクトは異なるわけで、軽く想像される通り、宿泊業や航空輸送でインバウンド消費蒸発の影響大きい、との結果が示されています。ついで、運輸附帯サービスや貸自動車業などでもマイナスの下振れが大きく、加えて、ボリュームの大きい小売でもかなりの影響あるものと私は考えています。

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最後に、リポートから 図表5 インバウンド依存度・都道府県別 を引用すると上の通りです。各都道府県のインバウンド消費を各都道府県の名目GDPで除したパーセント表示です。インバウンドに限定せずとも、沖縄・京都・北海道といった観光の比率がいかにも高そうな道府県に加えて、東京や大阪といった東西の大都市がトップ5に上げられています。まあ、当然でしょう。京都の先斗町でもインバウンド消費が蒸発して、飲食店が苦しい経営に陥っているらしい、という噂を私も聞いたことがあります。

最後に、リポートでは、国内観光需要に対するCOVID-19の影響も試算していて、インバウンド消費と同じで、宿泊業、航空輸送、運輸附帯サービスといった業種で影響が大きく、「観光関連業への支援継続が必要であるが、悪影響の大きい業種・地域に的を絞った支援の拡充が望まれる」と結論しています。

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2020年11月 1日 (日)

本格的に寒くなる11月が始まる!!!

今日から11月が始まりました。和名では霜月ということになりますが、10月が神無月だけに、以下のように、11月を「神帰月」、「神来月」、「神楽月」などとも呼ばれているそうです。下の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。

 

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