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2020年11月18日 (水)

緊急事態宣言前の3月の輸出入水準を取り戻した10月統計の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比▲0.2%減の6兆5661億円、輸入額も▲13.3%減の5兆6932億円、差引き貿易収支は▲777億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の輸出額、前年同月比0.2%減 減少率は縮小傾向
財務省が18日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比0.2%減の6兆5661億円だった。パナマ向け船舶や台湾向けの鉄鋼が落ち込み、23カ月連続で減少した。これは1985年9月~87年7月に23カ月連続で減少して以来の長さ。減少率は5月(28.3%)以降徐々に縮小し、前年並みの水準に近づいている。財務省の担当者は「輸出動向は回復傾向にある」と話した。
輸入額は13.3%減の5兆6932億円となった。原油や液化天然ガス(LNG)などのエネルギー資源のほか、米国からの航空機が減少した。減少は18カ月連続で、これは2015年1月~16年12月に24カ月連続で減少して以来の長さ。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は8729億円の黒字だった。4カ月連続の黒字だった。
対中国の輸出額は10.2%増の1兆4578億円だった。半導体などの製造装置や自動車が伸びた。輸入額は3.7%減の1兆5355億円で、衣類などで減少が目立った。貿易収支は777億円の赤字だった。赤字は8カ月連続。
対米国の輸出額は2.5%増の1兆2993億円だった。自動車のほかギアボックスなどの自動車関連部品が増えた。輸入額は15.6%減の6008億円で、航空機や石炭などが減った。貿易収支は6986億円の黒字で、2カ月連続で黒字となった。
対欧州連合(EU)の貿易収支は396億円の赤字だった。赤字は16カ月連続。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は+2500億円の黒字でしたので、やや市場予想よりも下振れたとはいえ、ほとんどサプライズはなかったと私は受け止めています。引用した記事にもある通り、我が国の貿易も新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受けましたが、かなりの程度に回復を見せています。すなわち、輸出入の金額ベース・数量ベースとも季節調整していない貿易指数の原系列で見て、今年2020年5月が前年同月比で最大のマイナスを記録していましたが、輸出額については本日公表の10月統計でほぼほぼゼロの▲0.2%まで回復してきています。もっとも、実は、今年2020年2月の輸入数量が中国の春節とCOVID-19のダブルパンチで最大の下げ幅を記録しているんですが、これを別にしたお話です。もちろん、COVID-19の影響は時とともに減衰していくわけではなく、日本でもすでに第3波の感染拡大局面に入っている可能性が指摘されていますし、欧州では英仏が全国レベルではないものの再度のロックダウンに入っています。米国でも政権交代とともに、何らかのロックダウンやそれに近い措置が取られる可能性もあります。ですから、貿易の先行きはCOVID-19次第でかなり不透明です。基本的に、COVID-19については供給サイドではサービス業などの対人接触の多い部門の供給制約あるものの、貿易財ではない可能性が高いわけですので、貿易に及ぼすCOVID-19の影響は通常のケインズ経済学的な需要ショックを想定すべきと私は考えています。

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そのような観点から、続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。輸出額について、季節調整していない原系列の貿易指数で見て、繰り返しになりますが、前年同月比でほぼゼロまで回復を見せていて、先行き不透明ながら、輸出額・輸出数量とも10月統計で今年2020年3月の緊急事態宣言前の水準を取り戻しました。ただ、欧州や米国、さらに我が国におけるロックダウンを含めたCOVID-19の第3波の動向に大きく左右される可能性は残ります。

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今週月曜日の11月16日に、内閣府から公表された7~9月期のGDP統計1次QEでは、7~9月期には緊急事態宣言のあった「4~6月期に落ち込んだ▲43兆円のうちの半分強に当たる24兆円しか取り戻せていません」と書きましたが、逆に、貿易の方がここまで早期に回復した理由は世界貿易の落ち込みが小さかったからといえます。上のグラフはオランダの CPB Netherlands Bureau for Economic Policy AnalysisWorld Trade Monitor から世界の貿易数量のデータを取ってプロットしています。最新データは8月までしかありませんが、今年2020年前半におけるCOVID-19による貿易数量の落ち込みは2008年後半からのリーマン・ショック時と比べてもかなり小さいと見て取れます。その理由は今後の分析をもう少し待つ必要がありますが、中国におけるCOVID-19の早期終息と米国経済が本格的なロックダウンを実施しなかったこと、の2点が要因ではないか、と私は考えています。ただ、後者についてはホントにそれでいいのかどうかという議論はあり得ます。

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最後に、貿易に関連して、2020年11月15日に、極めて広域を対象とする自由貿易協定である地域的な包括的経済連携(RCEP)協定がインドを除く15か国で署名されています。協定の詳細については、外務省のサイト経済産業省のサイトに譲るとして、上のグラフは、日本国際問題研究所(JIIA)のサイトからRCEPによる経済効果(実質GDPの変化)のグラフを引用しています。米国パーデュー大学で開発・運営されているGlobal Trade Analysis Projectの汎用的なCGEモデルであるGTAPモデルと2014年を基準年とするデータベース10を使用しているそうです。見れば判ると思いますが、RCEPない場合をベースラインとし、インドを含むRCEP16およびインドを含まないRCEP15とのそれぞれの乖離を見ています。複数年に渡る効果とはいえ、我が国の場合20兆円を超えるGDP拡大効果があると見込まれています。

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