よい年をお迎え下さい!!!
あと数時間で今年2020年が終わって、いよいよ2021年の幕開けとなります。どんな年になるんでしょうか?
よいお年をお迎えください!!!
今日は朝からNHKのBSで「エール総集編」を見て、この朝ドラの出来に改めて感心してしまいました。私はTVドラマはNHKの朝ドラくらいしか見ないんですが、数年前の土屋太鳳主演の「まれ」の駄作からコチラはそれなりの作品が続いていた気がします。でも、その中で「エール」は出色でした。直前の「スカーレット」も、NHK昨年上半期の「なつぞら」も、その前の「まんぷく」や「半分、青い」などもとってもよかったんですが、「エール」にはかないません。
昨日で『鬼滅の刃』全23巻読了です。私はアニメや映画は見ていなくて、コミックだけなんですが、それでも、パッと目につく色の感覚をはじめとして、いろんな世界観が錯綜しています。人間と鬼という単純な善悪の二分論ではなく、弁証法的に時間とともに発展するという歴史観とか、クロスセクションのきずな意識だけでなく、タイムシリーズなつなぐ感覚、もちろん、多数の人間が死ぬわけですので、その生死観も興味深かったです。さらに、主要な登場人物について、個人の生い立ちだけでなく一族のご先祖にまでさかのぼっての現時点での人物像の来し方なんかを、実に克明に解き明かそうと試みている点はびっくりしました。どうでもいいことながら、上の写真のうちカバーをかけてあるのは大学の図書館で配布しているものを利用しました。
と、前置きばかりなんですが、今年1年を振り返ると、やっぱり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の1年だった気がします。個人的には、4月の緊急事態宣言に先立つこと2週間で東京から京都に引っ越し、4月から大学の教員に再就職しました。5月に緊急事態宣言の期間が終わると元のCOVID-19前の世界に戻るのかと思いきや、そこは、またまた弁証法的に新たな世界が広がっていて、何度か歴史は繰り返すようです。
来年も、私自身としては、時の流れに身をまかせつつ天然自然に生きつつも、それだけではなく、ジタバタと自分自身の努力で変えられる範囲はいい方向に変えようとするんではないか、という気がします。ただ、ひとこと言い添えると、私は誰ぞやのいう「自助、共助、公助」はこの順ではなく、逆だと考えています。それはそれとして、なかなかに複雑怪奇で60年余りの私の人生の中でも極めて特異な1年だったことは明らかです。
上の画像の通り、年賀状は天神牛で仕上げました。郵便局から12月25日までに投函を呼びかけていましたので、実は、先週のうちに投函を終えています。しかし、大きなミスがあり、「2020年元旦」と印刷してしまいました。私は宛先は手書きして、ついでに、元旦の日付の前にも一言書き添えるようにしているんですが、ほぼほぼ書き終えた段階でミスを発見しましたので、強引に2020年を2021年とサインペンで上書きしておきました。
私の近くの大きな神社でいうと、伏見稲荷は商売の神様、文武でいうと、石清水八幡宮は武の神様、そして、北野天神は文の神様です。もちろん、明神社があったり、権現があったり、ほかにもいろいろとあり、伊勢系と出雲系とか、いっぱいあるんでしょうが、直感的に、稲荷は商売、八幡は武、天神は文、というカテゴリーでしょうから、公務員をしているころから天神社なんだろうと思いますが、大学に教職を得て、ますますそうなんだろうと思います。しかも、来年は丑年ですし、迷いなく天神牛を図柄として選びました。北野天神にも撫で牛はいるんですが、本来の病気平癒のご祈願ならぬ感染症対策で今年は撫でられない、とニュースで聞いた記憶があります。病気平癒の願いを込めて年賀状を出しておきました。
本日は官庁のご用納めです。ということで、経済産業省から11月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から横ばいでした。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産、11月横ばい 自動車6カ月ぶり低下
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比横ばいの95.2だった。新型コロナウイルスの感染が再拡大し、自動車などで海外向けの生産に弱さがみられた。経産省は基調判断を「持ち直している」に据え置いた。
鉱工業生産は新型コロナの影響で2月から5月まで低下。6月からは5カ月連続で上昇が続いていたが、生産の回復が一服した。生産水準は感染拡大前の1月の水準(99.8)に比べてまだ低い。
前月まで生産回復をけん引してきた自動車工業が6カ月ぶりに低下となった。11月は前月比4.7%低下し全体の指数を押し下げた。全15業種中9業種は上昇した。半導体製造装置など生産用機械工業が6.5%上昇した。ボイラーなど汎用・業務用機械工業も4.8%上昇した。
主要企業の生産計画から算出した生産予測指数は12月に1.1%低下、2021年1月に7.1%上昇を見込んでいる。予測通りであれば感染拡大前の20年1月の水準を超えるが、経産省は「そこまで回復するかは不透明だ。感染の再拡大による国内外経済の下振れリスクには注意する必要がある」としている。
いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+1.2%の増産との見込みで、レンジでも+0.3%~+2.5%でしたので、前月比横ばいという結果は下限を突き抜けてしまいました。引用した記事にもある通り、製造工業生産予測指数によれば、足元の12月も減産という見込みですので、たとえ、来年2021年1月が大幅増産の予想であっても、それほど見通しは明るくありません。特に、我が国のリーディングインダストリーである自動車工業が半年ぶりに減産に転じており、産業別のマイナス寄与度も大きくなっています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う経済の下振れが現実味を帯びてきた気がします。統計作成官庁である経済産業省は基調判断を「持ち直し」で据え置いたようですが、私はむしろ停滞色を強めている気すらします。国内感染が第3波に入っていることは明らかな上に、感染力が強いといわれている変異ウィルスも英国などから我が国に入ってきていますし、欧州を中心に再びロックダウンも始まっており、少なくとも目先は内需・外需ともに経済の下押し圧力が強まってきていると覚悟すべきです。私は早めに東京オリンピック・パラリンピックの開催を断念した上で、COVID-19の感染拡大に最大の努力を傾けることこそが景気回復の最大のカギだと考えています。
松尾匡『左翼の逆襲』(講談社現代新書) をご寄贈いただきました。たぶん、ご寄贈だと思います。というのは、大学のメールボックスに入っていたからです。著者は、立命館大学経済学部で理論経済学を専門としている研究者であり、実は、私の同僚教員だったりします。誰かの言葉を借りれば、タイトル以外はとてもいい本です。レフト1.0から2.0を経て、レフト3.0に至る道筋は、本書で明示されていないながら、とてもヘーゲル的な弁証法の世界を具体化しているように私には見えます。そして、この本の精神を具体化させて国政に活かすのは私達の役割です。ただ、その意味で方法論は必要だろうという気はします。ついでに残念ながら、本書で著者が何度も言及しているれいわ新選組は私の選択肢ではありません。
今週の読書は、今週の読書は経済書や専門書とともに生誕250年のベートーヴェンの新書も含めて計4冊、以下の通りです。
まず、井上哲也『デジタル円』(日本経済新聞出版) です。著者は、日銀出身で今は野村総研(NRI)に転じています。本書では、タイトル通りに、スェーデンのデジタル・クローナなどの先進例を引きつつ、日銀が中央銀行としてデジタルマネー、暗号通貨を発行することについて論じています。「中央銀行デジタル通貨」というのは、英語の頭文字を取ってCBDCなる用語も使われているほど、かなり一般的になっています。ただし、本書でも指摘されているように、あるいは、私も授業で学生諸君にいったことがありますが、M0=ハイパワードマネー、すなわち、キャッシュと日銀当座預金については、日銀の負債である一方で、M1から先の預金通貨については、同じようにマネーや通貨と呼ばれ、円単位でカウントされるものながら、実は、発行した民間銀行の負債であって、中央銀行の負債ではありません。ですから、ペイオフの際に1000万円まで預金保険機構で保証されるとしても、銀行が倒産すれば、というか、支払不能に陥れば、銀行預金は価値を失います。もちろん、現金は中央銀行の負債ですから強制通用力があります。現時点で、紙幣やコインは誰でもが受け入れることが出来ますし、逆に、強制通用力が付与されている法貨でもあります。逆に、預金通貨や、あるいは、クレジットカード、電子マネー、いわんや、QRコード決済などは受け入れてくれない経済主体があるのは、広く知られた通りです。しかし、暗号通貨としてのデジタル円が強制通用力を持たせられると、受け入れざるを得ません。お店によって、あるいは、個人によって、受け入れない場合がある、というか、受け入れ体制が整っていない場合にどうするのか、という問題は残ります。従って、本書では二段階導入を提唱していて、まず大口決済で用いた上で、小口も含めた一般的な流通を図るという方向性を打ち出しています。その上で、金融政策を始めとする経済政策へのインプリケーションを最後に提示しています。通常考えられる通りに、マイナス金利の深堀り、あるいは同じことながら、ゲゼル的なスタンプ貨幣の実用化も視野に入ります。金融政策は、通常、合理的な民間銀行の行動を通じて、かなり長いタイムラグを伴いつつ波及し、しかも、財政政策と違って全国一律のユニバーサルなインパクトを持つ、という性質がありましたが、後者のユニバーサルな効果を保ちつつ、さらに、前者のタイムラグの短期化や各種政策の有効性を高める、ということが可能であると私も考えます。加えて、より経済活動の透明性を向上させ、脱税やマネーロンダリングなどの防止にも有効です。ロゴフ教授などはまず高額紙幣の廃止を提唱していますが、その先には、こういったデジタル通貨の導入があるのかもしれません。なおついでながら、私は、経済書を読む際には参考文献が示されている場合には、興味あれば、pdfなどでダウンロードするんですが、本書はかなりダウンロード件数も多くて、勉強になった気がします。
次に、小熊英二・樋口直人[編]『日本は「右傾化」したのか』(慶應義塾大学出版会) です。編者は慶應義塾大学と早稲田大学の研究者であり、編者も含めた著者は、社会学や政治学などの研究者が多くを占めています。出版社からも完全な学術書といえます。本書は3部構成となっており、第Ⅰ部は国民一般の意識、第Ⅱ部はメディアの論調、第Ⅲ部は政治、をそれぞれ取り上げています。私は長らく公務員をしていて、国会議事堂や総理大臣官邸にもほど近いオフィスに勤務する日々が長かったものですから、ついつい政治レベルで考えてしまいがちですが、明らかに、日本は右傾化しており、さらに、2000年代に入ってからの小泉政権から右傾化が始まったと考えています。本書では政治レベルでは、小泉政権から右傾化が始まったとしつつも、2008年の政権交代を期に、ライバルの当時の民主党が左派なのであれば、政権党を目指す自民党や公明党が対抗する意味で右傾化が強まった、というのはかなりの程度に理解することが出来ます。加えて、地方政治レベルでも大阪維新の会などという右派政党が、何度も否定される「大阪都構想」を持って地方政治に参入し、すでに除名されたとはいえ、北方領土を戦争で取り戻すことを主張する議員もいたわけですから、中央・地方とおしなべて政治レベルでは右傾化が進んだ、と考えるべきです。その上で、いわゆる「上からの右傾化」であって、政治レベルの右傾化が市民レベルまで浸透しているかというのは、少し違う結論を本書でも提示していて、国民連ベルでの右傾化は進んでいない、と結論しています。私はこの結論にやや疑問で、確かに、安保法制や検察法案などで大衆運動が盛り上がって、それに連動する形で世論調査などの結果も左傾化したように見えるかもしれませんが、いわゆるサイレント・マジョリティは右傾化しているのではないか、という危惧を持っています。現在の日本で極めて大雑把に誤解を恐れずに定型化すれば、団塊の世代がヒマになって時間を持て余してその昔の全共闘型の学生運動よろしく世論をリードして、逆サイドでは、常識的な反レイシズムy反ヘイトの意識が高まったのは事実としても、ネトウヨなんぞに集う若者はかなり右傾化している可能性が高い、しかも、それは世論調査などの数字に現れていない可能性が十分ある、と私は考えています。他方、政治レベルに戻ると、本書でも参照されているようなダウンズ型の、あるいは、中位投票者定理の成り立つような政党の中道化が日本では見られていない可能性があり、さらにいえば、日本だけでなく米国のトランプ大統領の当選時の選挙とか、BREXIT投票や大陸欧州における右派ポピュリスト政党の伸長などを見るにつけ、分極化がますます進んで、一方からは左傾化、他方からは右傾化、という政治的な動きが何らかのサイクル的に循環する可能性もあるような気がします。もしそうであれば、もう少し長い目で見る必要もあるかもしれません。
次に、磯田道史『感染症の日本史』(文春新書) です。著者は、国際日本文化研究センターの歴史学の研究者であり、映画化もされた『武士の家計簿』で有名になった気がします。ついでながら、私も読みました。ということで、歴史学者、というか、経済史の研究者として著者に強い影響を与えた慶応大学の速水教授による『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』を引きつつ、また、歴史人口学の観点からの分析を加えて、タイトル通りに感染症の日本史を解き明かそうと試みています。もちろん、感染症とは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が念頭に置かれていることはいうまでもありません。ほかにも、欧米先進各国と比べて我が国のCOVID-19感染状況がそれほどでもなく、死亡率も低いなどの点に関して、歴史をひも解くふりをして、みそぎ、きよめ、とか、穢れを嫌う歴史を提示する怪しげな歴史書や歴史的観点を提供する見方もありますが、本書は違います。キチンと過去の我が国における感染症に対する対応を歴史的に考察しようと試みています。ただ、その中で、私が疑問に感じたのは、加持祈祷などの宗教的な医療から、隔離を主張する医師が出たのを19世紀初頭と同定しているのは、やや疑問が残ります。というのも、英語の検疫 quarentine の語源はラテン語の40であり、おそらく、私の直感ながら古典古代の遅くともローマ時代には検疫が隔離の方法で、たぶん40日間くらい、実施されていた可能性が高いと考えられるので、中国や日本でももっと早くから検疫や隔離が始まっていたのではないか、と私は考えています。それはともかく、本書の読ませどころは第5章であり、歴史から見た感染症対策は素早くて確実な交通遮断にある、経済やオリンピック・パラリンピックを気にして中途半端な対策ではいけない、と結論しています。まったく、私もその通りと考えます。本書で明記されているわけではありませんが、東京オリンピックは中止すべきと私は強く訴えたいと思います。それはともかく、第6章では京都の街中の女学生の日記をひも解いて、1918年から1920年にわたって万円した当時のインフルエンザの感染拡大、また、中央・地方政府の対策や一般市民の対応など、極めて興味深い100年前の日本における感染症パンデミックの実態が明らかにされています。ほかに、皇室や総理大臣もそのインフルエンザに罹患した事実など、「穢れを嫌う清潔な日本」論を否定する材料もいっぱい収録されています。日本のCOVID-19感染の低さに関するXファクターを求めるには適しませんが、歴史的な観点から現時点のCOVID-19感染症について考えるのには、とても科学的にも史学的にも正しい見方が提供されていると私は感じました。
最後に、中野雄『ベートーヴェン』(文春新書) です。著者は、音楽プロデューサーという肩書で紹介されています。本書で取り上げるのが楽聖ベートーヴェンです。本書の帯にあるように、今年2020年はベートーヴェン生誕250周年であるとともに、私の愛聴するジャズの世界では、チャーリー・パーカーの生誕100周年だったりもします。どうでもいいことながら、山中千尋の最新アルバム「Rosa」では、なぜか、ジャズの世界ではコルトレーンの演奏で有名な My Favorite Things から始めて、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番 第3楽章や交響曲第5番が収録されており、もちろん、ジャズ・ミュージックからはパーカーの Donna Lee や Yardbird Suite も入っています。ただ、私はまだアルバムとしては聞いていません。交響曲第5番をはじめ、いくつかの曲を拾い聞きしただけです。どうでもいいことを続けると、山中千尋は以前のアルバム「モルト・カンタービレ」に「エリーゼのために」を入れていたと記憶していますし、上原ひろみも何かのアルバムにピアノ・ソナタ第8番 Pathetique を入れていたと思います。ということで、前置きが長くなったのは、私の場合、ベートーヴェンよりもジャズの方に圧倒的に親しみがあるからですので悪しからず。まず、上の表紙画像にあるベートーヴェンの肖像画はかなり美化されているのではないか、という疑問は本書でも記されています。しかし、私からすれば、ベートーヴェンの革新的な役割は判らないでもないんですが、ロマン主義としての位置づけがもう少し欲しいところだった気がします。ベートーヴェンに続くワグナー、ブルックナー、そして、マーラーのロマン主義の特徴を、私が不案内なだけに、もう少し詳しく解説して欲しいところでした。でも、ベートーヴェンの生きた時代というのがピアノという楽器の進歩の最中であり、楽器としてのピアノの進歩に従ってベートーヴェンの音楽も進化していった、というのは私は知りませんでした。とても勉強になりました。当時のピアノはかなり音階が狭かったのも初めて知りました。いまは88鍵でフルスケールと呼ばれていて、私がチリに持っていったのも88鍵でした。でも、当時のピアノは5オクターブ半くらいの音階ですから、私なんぞにすれば十分という気もしますが、革命的な作曲家には音階が増えていくのは嬉しかったに違いありません。ピアノはドイツ語で Klavier だったと思うのですが、ドイツ語でvは清音で、英語のfに当たるハズなのに、濁ってドイツ語の中ではwと同じ発音になるのは不思議な気がして、知り合いに聞いたところ、外国語だから、という回答でした。私はピアノはドイツやオーストリアが本場ではないのか、と思っていました。でも、確かに、Steinway もそのままドイツ語読みしているわけではない、ということに気付かされました。いろいろと、ベートーヴェン以外の話題で大部分を終えてしまいました。
本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。まず、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.7%増の12兆5700億円、季節調整済み指数では前月から▲2.0%減を記録しています。また、雇用統計については、失業率は前月から0.2%ポイント改善して2.9%、有効求人倍率も前月から+0.02ポイント改善して1.06倍と、11月については雇用指標は改善を見せました。いずれも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が和らいでいるものと考えるべきです。日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
11月の小売販売額0.7%増 百貨店は15.1%減
経済産業省が25日発表した11月の商業動態統計によると、小売業販売額は前年同月比0.7%増の12兆5700億円となった。2カ月連続で前年を上回った。自動車小売業や家電量販店の販売が増えたものの、百貨店は引き続き振るわず、スーパーの衣料品の落ち込みも続いている。
業態別では、家電量販店は通信家電や生活家電などの販売が伸び、25.3%増となった。2019年10月の消費増税の影響で同年11月の販売額が落ち込んでいたため、今年は伸び率が大きくなった。
百貨店は前年同月比15.1%減と14カ月連続で減少した。新型コロナウイルスの感染拡大で遠のいた客足が戻らず、主力の衣料品で同19.0%減と下げ幅が大きかった。スーパーの販売は、飲食料品が4.7%増加したものの衣料品の落ち込みが続き、全体では2.1%増だった。
経産省は基調判断を前月から据え置き、「横ばい傾向にある」とした。季節調整済みの前月比でみると2.0%のマイナスだった。業種別では自動車小売業が前年同月比3.4%増、家電など機械器具小売業が同26.2%増加した。
失業率、11月2.9%に改善 有効求人倍率は1.06倍に上昇
総務省が25日発表した11月の完全失業率(季節調整値)は2.9%で、前月比0.2ポイント低下した。低下は6月以来5カ月ぶり。厚生労働省が25日発表した11月の有効求人倍率(同)は1.06倍で前月から0.02ポイント上昇した。
総務省の担当者は「11月の雇用情勢はよくなったものの、底を打ったとは言えない」と分析する。12月以降、新型コロナウイルスの感染が本格的に再拡大しており、今後の情勢は不透明だ。
就業者数(原数値)は前年同月比55万人減の6707万人となり、8カ月連続で減少した。正社員は6カ月連続で増加する一方、非正規は62万人減と9カ月連続で減った。
雇用情勢は産業別でばらつきが大きい。就業者は情報通信業(前年同月比19万人増)や医療・福祉(同26万人増)で増える一方、宿泊・飲食サービス業(同29万人減)は大きく減った。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示すもので、改善は2カ月連続。1月から9月まで9カ月連続で低下し、10月から上昇に転じていた。11月は企業からの有効求人が前月から3%増え、働く意欲のある有効求職者は1.5%増えた。
就業地別でみた都道府県ごとの有効求人倍率は最高の福井県が1.61倍で、最低の沖縄県は0.79倍だった。東京都は7月から5カ月連続で1倍をきり、11月は前月比0.01ポイント低下の0.89倍だった。地域ごとの感染状況の違いが雇用情勢にも影響を与えているとみられる。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は12月24日時点で7万8979人と8万人に迫る。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。解雇後の状況を把握できているわけではないため、この集計には既に再就職できた人も含まれている。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、とても長くなってしまいました。続いて、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。
小売業販売額の前年同月比で見て、新型コロナウィルス(COVID-19)パンデミック初期の食料品やマスクをはじめとする日用品の買い物をせっせとしていた今年2020年2月の前年同月比+1.6%増を最後に3月からマイナスが続いていたんですが、10月統計で久し振りにプラスに転じたものの、本日公表の11月統計では伸びが大きく鈍化して+0.7%増を記録しています。しかしながら、先月統計の公表時にも指摘した通り、先月10月統計は前年2019年10月に消費税率の引上げがあって、その直前の駆込み需要の反動として昨年10月統計が大きく落ち込んだため、伸び率が大きく見えているわけですから、今日発表の11月統計は「こんなもん」という気もします。ただし、季節調整済みの指数で見ると前月比▲2.0%減と落ちていますので、やや伸びが鈍化しているというのも事実なんだろうと受け止めています。もちろん、この商業販売統計は小売業だけであって、サービス業が調査対象外とされており、飲食や宿泊といった対人サービス業におけるCOVID-19のダメージが大きいわけですので、サービスも含めた消費がパンデミック前の水準に戻るのには、まだ時間がかかりそうです。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。まず、失業率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは3.1%、有効求人倍率の日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1.04倍でしたので、いずれも前月統計から横ばいと予想されていたのですが、実績はいずれもこの市場の事前コンセンサスよりも雇用が改善しつつあることを示しており、そこそこ雇用は底堅い、と私は認識しています。人口減少の経済的影響が人手不足としてまだ残っている可能性があるわけです。ただし、引用した記事にもあるように、地域別や産業別でばらつきが大きく、東京都の有効求人倍率が低下を続けている背景はCOVID-19の感染拡大があるのは容易に想像されるところです。もちろん、現時点でもCOVID-19の第3波の感染拡大は終息しているとはとても思えず、再びロックダウンに近い措置を必要とする可能性も否定できませんし、先行きは何とも不透明です。
最後に、参考ながら、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大や重傷者の増加などにより医療体制が逼迫していると報じられていますが、総務省統計局の労働力調査の追加参考表「就業者及び休業者の内訳」を見ると、休業者を主要な産業別に分類している表3から、医療・福祉の休業者が11月には26万人に上っており、卸売業・小売業の21万人、製造業の19万人、宿泊業・飲食サービス業の11万人よりも多くなっています。就業と休業のシステムはよく判りませんが、こういった休業者を活用することは難しいのでしょうか?
本日、日銀から11月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は▲0.6%の下落でした。変動の大きな国際運輸を除くと▲0.4%の下落でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
企業向けサービス価格、11月は前年比0.6%下落 2カ月連続マイナス
日銀が24日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は104.4で、前年同月比で0.6%下落した。前年同月比での下落は2カ月連続で、下落率は10月(0.5%)を上回った。
広告価格の下落が目立った。年末にかけて新聞を中心に企業の広告需要は高まる時期にあたるが、新型コロナウイルスの感染拡大で企業収益が落ち込んだため、広告出稿が鈍り価格の下押し圧力となった。
不動産では店舗やホテル賃貸の収益が悪化しており、賃料が売り上げや業績に連動する物件を中心に引き下げられた。外航貨物輸送や国内航空旅客輸送の価格下落も続いた。
日銀は新型コロナの感染再拡大で「サービス価格の回復ペースは鈍り、先行きの不透明感が強い」と説明し、今後も動向を注視する姿勢を示した。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。財の企業物価指数(PPI)の国内物価よりも企業向けサービス物価指数(SPPI)の方が下がり方の勾配が小さいと見るのは私だけではないような気がします。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。
引用した記事にもある通り、先月公表の10月統計から、昨年2020年10月の消費税率の引上げによる物価押上げの影響は剥落しましたので、10月統計では▲0.5%、本日公表の11月統計では▲0.6%の下落と、大きくスイングしました。ただし、先月の9月統計でも消費税の影響を除くベースでは前年同月比で▲0.5%の下落でしたので、ヘッドラインの上昇率で見るほど大きな下落ではないと私は受け止めています。ただ気がかりなのは、消費税の影響を除く「実力ベース」の前年同月比で見て、今年2020年5月の▲1.4%の下落を底に、先々月9月統計の▲0.5%まで徐々に下落幅が縮小してきたにもかかわらず、10月統計でも9月と同じ▲0.5%、そして、11月統計では▲0.6%に下落幅の縮小が停滞ないし再拡大しています。この要因は、引用した記事にもあるように、景気に敏感な広告が▲4.3%の下落を示したり、不動産が▲0.7%と下落幅を拡大したりしている他に、消費者物価指数(CPI)と同じで、GoToトラベルによる宿泊費の下落も含まれていると私は受け止めています。すなわち、SPPIの宿泊サービスの前年同月比を見ると、10月▲32.2%、に続いて、11月にも▲32.1%の下落を記録しています。もっとも、消費税率引き上げの影響の剥落により、先月10月統計からSPPIのヘッドライン上昇率がマイナスの下落に転じたとはいえ、上の2枚のグラフにも見られる通り、上のパネルの上昇率で見て、PPIのうちの国内物価よりはまだまだ下落幅が小さいわけですし、下のパネルの指数レベルで見ても、モノの国内物価指数が足元で下落している一方で、サービスのSPPIは足元で上昇しています。従って、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のショックによって、おそらく、人手不足の価格押上げ圧力は、従来ほどではないとしても、まだいくぶんなりとも残っており、そのぶん、モノのPPIよりもサービスのSPPIの方が底堅いという印象を持つのは私だけではないような気がします。
一昨日の12月21日に、野村総研から2019年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模を各種統計などから推計した結果が明らかにされています。pdfもポストされています。
上の画像は、野村総研のサイトから、純金融資産保有額の階層別に見た保有資産規模と世帯数 を引用しています。
上の画像の通り、純金融資産保有額が5億円以上の「超富裕層」と1億円以上5億円未満の「富裕層」との合計で132.7万世帯となります。超富裕層が8.7万世帯、富裕層が124.0万世帯です。この超富裕層と富裕層を合わせた2019年の世帯数は過去最高となり、前回調査の2017年の合計世帯数126.7万世帯から+6.0万世帯増加しています。+4.7%の増加です。超富裕層と富裕層の世帯数は、それぞれ、アベノミクスが始まった後の2013年以降一貫して増加を続けている、と野村総研では指摘しています。
加えて、前回調査の2017年から2019年にかけて、超富裕層と富裕層の純金融資産保有額は、それぞれ+15.6%(84兆円から97兆円)、+9.3%(215兆円から236兆円)増加しており、両者の合計額は+11.1%(299兆円から333兆円)増えています。合計世帯数の伸びが+5%足らずである一方で、合計資産は2ケタの伸びを示していて、しかも超富裕層の伸びの方が富裕層より高くなっているわけです。さらに、超富裕層・富裕層の純金融資産保有総額は、世帯数と同様、アベノミクス下で2013年以降一貫して増加を続けている、と指摘されています。
安倍内閣については、このブログでも指摘してきた通り、不本意非正規雇用はそれほど増加していないし、賃金上昇についても、労働市場に介入せんが如き姿勢で企業側に賃上げを求めましたし、何より、失業率や有効求人倍率など、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大前には、雇用統計が着実に改善していましたので、「憲法改正」を目指す政治姿勢はともかく、それなりに、アベノミクスの経済政策は評価すべきと考えていますが、やっぱり、格差の問題はまだまだ残された課題であることを再認識しました。
先週12月17日付けで、Forbes誌の記事 The Highest-Paid YouTube Stars of 2020 が明らかにされています。トップのRyan Kajiは9歳にして$29.5 million、30億円超を稼いでいたりします。トップスリーは以下の通りです。
トップのRyan Kajiは9歳ですから、ファミリーで支えられていて、今の Ryan's World の前は、Toys Review でしたので、いまでもおもちゃの遊び方なんかを紹介しています。日本語バージョンである「ライアンズ・ワールド」のチャンネルもあります。下の動画がそうです。「ライアンズワールドアニメ! サンタさんのお仕事のお手伝い!」をシェアしています。
まあ、先日も何かの折に書いた記憶がありますが、Rosen (1981) "The Economics of Superstars" Ametican Economic Review 71(5) で明らかにされている通り、デジタル時代の勝者総取りの典型です。ですから、私は大学でオンライン授業なんかはしたくないと考えています。我が勤務する大学をはじめとして、いろんな大学で来年度の授業を対面にするか、オンラインにするかで議論が進んでいることと思いますが、私なんぞはオンライン授業だと、YouTube にアップされた動画と同じで、ブランド大学の有名教授に対抗できるだけの競争力を持ち合わせているとはとても思えません。従って、きめ細かく質問を受け付けたり、対面授業でコミュニケーションを通して学生諸君のニーズに応えるのが唯一の対抗手段ではないかと考えています。あくまで、オンライン授業で行きたいと希望している先生方は、たぶん、とてもご自身の教育力に自信があるんだろうと尊敬しています。
先週金曜日12月18日にニッセイ基礎研から男女、年代、地域別、年賀状を出した人の割合(2020)の分析結果が明らかにされています。まず、リポートから調査結果の要旨を引用すると以下の通りです。
要旨
年末年始の日本の恒例行事に年賀状による新年の挨拶があるが、近年は年賀状離れが伝えられている。では、どういった人が年賀状を出していて、どういった人が年賀状を出さない傾向があるのだろうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が全国の被用者を対象に行った独自の調査から、男女別、年代別、地域別に、2020年用の年賀状を出した人の割合を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、男女別では女性の方が、地域別では中部地方や近畿地方在住者が年賀状を出した人の割合が大きい傾向が見られた。また、年代別では年代が高いほど年賀状を出す人の割合が大きくなっていく傾向が確認された。
今年は年賀状の準備が遅れています。というのも、昨年までは12月23日がお休みだったので、一気呵成に仕上げていたのですが、今年はそういった適当な休日がなくて難儀しています。ということで、リポートからグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。
上のグラフは、リポートから 図1. 男女別年賀状を出した人の割合 を引用しています。グラグのパッと見では、男女に年賀状を出した、出さなかった、の大きな違いは読み取れません。でもさすがに、サンプルサイズが5000余りありますので、フォーマルなプロビットモデルで推計がなされていて、男女で有意な差があるとの分析結果が示されています。年齢的にも、軽く想像されるところながら、年齢が高くなるほど年賀状を出しています。というか、より正確には、「年賀状を出している」と回答しています。地域別にも、関東をベースとして中部地方と関西地方では年賀状を出す比率が有意に高いとの結果が示されています。長らく東京でサラリーマンをして、定年で生まれ故郷の関西に戻った身としては、やや理解できる気がします。
それはさておき、今週は授業の合間に年賀状を作成したいと思います。
先週はとても気温が下がりましたが、昼食はキッチンカーで買って研究室で食べるパターンがいくつかありました。キャンパスに集うキッチンカーのご紹介です。ランチストリートとして、場所を指定されていてローテーションが決まっているようです。以下に紹介するキッチンカーの他に、Kyotoケバブ屋MOTO-3のケバブサンドとB2タコスのタコスは利用したことがあります。ただ、この寒いのに広いキャンパスの遠いところまで出向くのは億劫ですので、研究棟の近くにいるキッチンカーでついつい済ませてしまいます。そこは、20歳前後の学生院生諸君とは寒さに対する耐久力に大きな差があります。
ということで、まず、上の写真は雑然たる我が研究室のデスクの写真です。デスクトップとノートと2台のパソコンを使っています。スプレッドシートはデータ管理でよく使いますが、私はワープロはそれほど使わず、むしと、テキストエディタを愛用しています。今は、無料のEmEditorFreeです。その他、プログラミング向けを含めていくつかのエディタを使い分けています。また、計量ソフトウェアはSTATAだったりします。以下、キッチンカーです。
中津のからあげ吉吾キッチンカーとそのからあげです。鶏肉をボール状に手でこねてから揚げているようです。大きさは、ゴルフボールより大きくテニスボールより小さいくらいです。私はキャンパスでこのキッチンカーを見るまで、「中津のからあげ」なるものをまったく知りませんでした。還暦を過ぎて初体験でした。
続いて、T-STARたこやきのキッチンカーとそのたこやきです。東京では築地銀だこがあまりに有名だったのですが、築地銀だこのように外側をカリカリに固く焼き上げるのは関西風ではあり得ない、とこのキッチンカーの店員さんはいっていました。私は、そもそも、築地銀だこのたこやきの外側がカリカリに固く焼いてあったのかどうかの記憶も定かではなく、ましてや、関西風たこやきについての見識もなく、ただただご意見を拝聴するだけでした。
最後に、みなせんのキッチンカーとそのお好み焼きといちご大福です。いちご大福は生協の本屋さんの前で売っていたもので、基本的には、キッチンカーとは関係ありません。このみなせんのキッチンカーはいか焼きと豚焼きが売り物なんですが、私はMスペシャルというお好み焼きをよく買っています。どうも、粉ものが多いような気がしますが、東京で定年になった後、生まれ故郷の関西に戻って、懐かしい気がしているのかもしれません。
それなりの規模の大学のキャンパスですから、当然に学食はあるのですが、何せ、我が大学の生協の値付けがとても強気なので、私はあまり生協を利用していません。例えば、最初に名刺を作ろうと考えて、長崎大学のころと同じように大学のロゴ入りの名刺を生協で注文しようとしたところ、100枚で4000円を超える定価だったのでびっくりして諦めて、結局、名刺はプリンタで自製しました。1割引の書籍と研究費で払ってもらえる文房具などのほかは、結局、ほとんど生協は利用しなくなってしまいました。従って、キッチンカーでランチを済ませることも少なくありません。
まず、まだ読んでいませんが、「鬼滅の刃」全23巻を衝動買してしまいました。上の通りです。ボーナスが出て、それなりの額でしたので、ついつい無駄遣いしてしまいました。まあ、ボーナスの季節にはありがちです。ナオ、ブックシェルフ代わりに左側に置いてあるのは「閻魔堂沙羅の推理譚」のシリーズ全7巻です。中条あやみの主演ドラマがNHKで放送されましたが、その原作本です。コチラは図書館で借りました。どちらも年末年始休みに読みたいと予定しています。
ということで、本題の今週の読書は、経済書に教育関係の専門書、さらに、地政学関係ではとても興味深い専門書とともに、シャーロッキアンに関する新書の計4冊、以下の通りです。
まず、木村福成{編著}『これからの東アジア』(文真堂) です。編著者は、慶應義塾大学のエコノミストであり、私はごいっしょにお仕事をした経験があって、ジャカルタでODAに携わっていたころには短期で招聘してセミナーを開催してもらった記憶があります。ご専門は東アジアに関する国際経済学であり、製造業立地に関するモデル分析や実証研究、もちろん、自由貿易協定などにも詳しいエコノミストです。ということで、本書では第1章がエディトリアルとなっていて、簡潔に各章の内容を紹介した後、第2章では自由貿易に関する理論的な解説がなされていて、この冒頭の2章が本書のファウンデーションを成しています。その上で、各チャプターごとの専門の著者が自由貿易協定や地域経済などを論じています。また、「東アジア」とは、よくあるパターンで、東南アジアと区別して、日中韓の東アジアだけを指す場合もあるんですが、本書でいう「東アジア」とは、通常考えられる東南アジアに加えて、日中韓を北東アジアとして、この両者を足し合わせた国々を東アジアとしてひと括りにしています。第3章以下の各チャプターでは、経済的な分析だけではなく、第4章では地域統合と安全保障に関して国際政治学の視点からの分析が提供されていたりします。もちろん、東アジアからすれば域外国である米国が重要な役割を果たすことはいうまでもありません。典型的には、オバマ政権の下でTPPに合意しながらも、トランプ政権発足とともにTPPから離脱し、TPPではなくTPP11とか、CPTPPとかのやや変則的な協定になってしまった点が上げられます。バイデン大統領就任で、これまた、大きな変化が生じることとなりますが、日本や中国も含めてアジア諸国にとっては歓迎すべき変化なのであろうと私は考えています。学術書っぽい本ではありますが、必ずしもそうではなく、一般のビジネスパーソン向けにもオススメできるのではないかと私は考えています。経済学の本の場合、特に、学術書であればモデル分析が中心に据えられて、それなりに難しげな雰囲気があるのですが、本書の場合、よくも悪くも、モデルを基にした分析的なものではなく、より記述的な内容、というか、いわば、よく調べ上げたジャーナリストの記事のように、必要な情報が過不足なく、かつ、きちんと系統だって収録されている印象です。バックグラウンドにモデルが感じられない分、やや、私なんかには物足りないものが残りますが、逆に、多くのビジネスパーソンには読みやすいのではなかろうか、という気もします。最終章で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)についての分析が示されています。COVID-19の経済ショックについては、供給ショックのモデルを紹介した「通商白書」と需要ショックの面が強いと分析した「経済財政白書」の2つの見方があるんですが、本書最終章では東アジアの貿易構造などを念頭に、中国からの供給が途絶えたという意味で供給ショック説をとっているように見えます。私も少しこの点については考えを巡らせているところです。
次に、ロバート D. エルドリッヂ『教育不況からの脱出』(晃洋書房) です。著者は、大阪大学大学院で政治学の博士号を取得した研究者であり、2011年3月の東日本大震災の際には、米国海兵隊の政治顧問としてトモダチ作戦の立案に携わっていたそうです。そして、本書では、我が国の経済社会の中で大学の占める位置の大きさを考慮しつつ、さらに、我が国の大学の国際的なレベルを勘案し、大学での教育と研究の水準を引き上げるために、現在多くの大学で採用されているセメスター制からクォーター制へ転換することを提言しています。私も10年振りに大学の教職に復帰し、それなりの興味を持って読んでみたのですが、しかし、上から目線の論調でほとんど説得力ない上に、論理的にも破綻している部分もあり、しかも、クォーター制の利点の論証がメチャクチャなものですから、これではダメだろうなという気がします。どこかの大学で採用されれば、それなりに実証できそうですが、おそらく採用されないでしょうし、採用されても効果はないだろうと見込まれます。でも、効果なしと実証されても、この著者は四の五のいってクォーター制のせいではなく、別の難点をあげつらいそうな気がします。というのは、本書の中で、どこかに、著者が2年間採用されなかった点について、ご本人お能力不足ではなく、別の理由があるかのように記述している部分が目につき、おそらく、クォーター制も同じ論法で、クォーター制が悪いのではなく、その運用とか別の何かが悪い、とすり替えをしてしまいそうな気がします。私の直感ながら、セメスターではない別の何かに起因している問題点、例えば、本書のレベルでいえば、大学の教職員の出席すべき会議が多いとかしかもその会議が蛸足大学でアチコチ離れた場所で開催されるとか、日本人教員の英語力が不足していて海外との交流が少ない、とかは、セメスター制に起因しているわけでもありませんから、クォーター制ではアカデミック・リーブを取れる1年の¼だけ会議出席を免除されるに過ぎないわけで、何の解決にもならないだろうと私は想像します。でも、こういった新たなやり方はどこかの大学で採用して見る価値はあるかもしれません。でも、大阪大学のような名高い大学ではムリでしょうし、さはさりながら、もっと冒険主義的な方針を採用できるクラスの大学はあるんではないか、という気はします。しかし、それにしても、我が学内の議論を脇の方から聞いている限りでも、教員というのは自営業者と同じで独立性高い、という気はします。今、我が学内では、ほかの大学でも同じかもしれませんが、来年度から対面授業をどこまで復活させるか、の議論が進められています。現在のリモート授業・オンライン授業は、やっぱり、教育成果が上がらない恐れがあると私も考えています。例えば、11月4日付けで経済産業研究所のディスカッションペーパー「新型コロナと在宅勤務の生産性」を紹介しましたが、企業の評価によれば職場を100として単純平均で68.3、就労者サーベイに基づく在宅勤務の主観的生産性の平均値は60.6、と示されていました、まあ、オンライン授業もこんなもんではないでしょうか。ですから、私自身は対面授業に積極的に取り組もうと考えています。生産性だけではなく、おそらく、私はオンライン授業では競争力ありません。ハーバード大学の白熱教室ではありませんが、私の授業の動画がDVDで発売されて売れるとはとても思えません。例えば、YouTubeにアップされた動画を比べられたりすると、とても有名ブランド大学の優秀な先生方の授業に勝てるとは思えませんから、リモート授業や動画にはない特徴を生かして、対面で学生の顔色を見たり質問を受けたり、いろいろときめ細かな授業をしないことには、教員としては競争力があるとはとても思えません。おそらく、対面授業に反対している先生方は、ご自分の授業の競争力に大きな自信をお持ちのことなんだろうと想像しています。福田元総理の言葉ではありませんが、私は自分のことをそれなりに客観的に見ることが出来るんではないか、と思ったりしています。そういった競争力のない大学教員の私ですが、それでも、時間のムダと思えるほどの残念な読書でした。
次に、ジョージ・フリードマン『アメリカ大分断』(早川書房) です。著者は、ハンガリー生まれの米国の研究者であり、1996年に世界的インテリジェンス企業「ストラトフォー」を創設し、会長に就任しているそうです。英語の原題は The Storm before the Calm であり、「静けさの前の嵐」くらいのカンジかもしれません。2020年の出版です。もちろん、いうまでもなく地政学的な観点から米国を分析した本なんですが、エコノミストの私の目から見て新鮮だったのは、80年周期の「制度的サイクル」と50年周期の「社会経済的サイクル」をいう、景気循環のような波動を持って分析をしている点です。しかも、その周期が景気循環とは違って、かなり周期が一定というから驚きです。例えば、50年周期の社会経済的サイクルは、1933年のルーズベルト大統領の就任から始まって、第2次世界対戦を物ともせずにサイクルは中断することなく、1981年のレーガン大統領の就任まで続き、そこでサイクルが変わって、現在のトランプ政権でも同じサイクルのままであり、2028年まで続く、と断言しています。そして、この80年周期の「制度的サイクル」と、50年周期の「社会経済的サイクル」は2020年代にサイクルの転換点が交わる、というか、衝突するとされていて、この10年間に未曾有の危機が米国を襲うことになると予言しています。すなわち、80年周期の「制度的サイクル」は1780年代後半の独立戦争の終結と憲法制定から始まり、1865年の南北戦争によって終わり、2度目の制度的サイクルはその80年後、第2次世界大戦の終戦1945年に幕を閉じ、そうなると、現在のサイクルは2025年あたりに移行が起きることになります。そして、先ほどの50年サイクルは2028年に転換点があるわけですから、2020年代後半から2030年にかけて、米国は天地がひっくり返るくらいの大転換期を迎えることになるわけです。ついでながら、出版社のサイトから、このサイクルをよく表した画像を引用すると以下の通りです。
最後に、北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』(中公新書ラクレ) です。著者は、作家、翻訳家、ホームズ研究家であり、いうまでもなくシャーロッキアンです。ひとつ、私が大いに驚いたのは、本書最後の第7章でアーサー・コナン・ドイル卿が書いた正典60編以外のいわゆるパスティーシュや研究所や漫画なんぞを紹介した後に、ゲームもいっぱい紹介しているんですが、そのゲームを紹介する冒頭に、著者が知りうる範囲でという断り書きを入れていて、逆にいえば、同人誌などの極めてマイナーなものを常識的に別にすれば、マンガも含めてホームズものはすべて目を通しているという自信に裏打ちされているものと考えられます。浩瀚な出版物に目を通しているということなのでしょう。それだけで私は脱帽です。私も、おそらく、正典60編はすべて読んでいると思います。特に、短編集の『冒険』については、ほぼ全話タイトルから中身を思い出すことができます。でも、さすがに、60編すべてが頭に入っているわけではありませんし、ましてや、派生モノとなれば、ほとんど知らないに等しい気がします。ジェレミー・ブレット主演のグレナダTVのシリーズも、少なくともNHKで放映された分はほぼすべて見ていると思います。京都はいざしらず、東京の区立図書館ではDVDで収蔵している館も多かったですし、私も随分と借りました。ということで、いまだに大人気のシャーロック・ホームズなんですが、私も本書で指摘しているように、キャラがキッチリと立っているのが最大の特徴であり、世界でここまで広く読まれている大きな要因だろうと想像します。我が国のミステリ界でも、江戸川乱歩の明智小五郎や横溝正史の金田一耕助など、キャラの立った名探偵は少なくありませんが、ビクトリア朝のロンドンという時代と都市を背景にしたホームズほどのキャラは、空前絶後というべきであり、長く読みつがれることと想像します。出版社でも特設サイトを用意するなど、新書としては格別の扱いではなかろうかと思います。シャーロック・ホームズのファンであれば、というか、ミステリに興味あれば、読んでおいて損はないと思います。
本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲0.9%の下落を示した一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.3%の下落でした。ほぼ10年振りの大きな下落幅でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
消費者物価、11月0.9%下落 約10年ぶりマイナス幅
総務省が18日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.2と前年同月比0.9%下がった。4カ月連続の下落で、10年9月に1.1%下がって以来、10年2カ月ぶりの落ち込みとなった。政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」の割引の影響で、宿泊料が34.4%下がった。
消費者物価指数は消費者の支払額をもとに計算するため、「Go To」の割引が反映される。「Go To」事業の影響を除いた試算では、生鮮食品を除く総合指数は0.5%の下落だった。宿泊需要の高まりから、割引を除いた宿泊料は0.7%上がった。
宿泊料以外では、春先の原油価格の下落が影響しエネルギー関係が7.6%下がり全体を押し下げた。電気代が7.3%、都市ガス代が7.1%、灯油が13.9%、それぞれ下がった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は101.8と、0.3%の下落だった。
19年10月の消費税率引き上げから1年たち、物価を押し上げていた効果も薄まった。経過措置として電気代やガス代などは11月から10%の税率が適用されていた。
農林中金総合研究所の南武志氏は「エネルギーは21年3月ごろまで物価下落率をさらに拡大させる可能性がある。感染拡大による自粛ムードの強まりや家計所得環境の悪化も、消費の持ち直しを妨げる」と分析し、21年にかけて物価下落が続くと予測する。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。なお、統計局から小数点3ケタの指数が公表されているようですが、2015年以降のデータしか利用可能ではありませんので諦めました。
コアCPIの前年同月比上昇率は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲0.9%でしたので、ジャストミートしています。ただし、この10年振りの大きな下落は、昨年2019年10月からの消費税率引上げの効果の剥落もさることながら、引用した記事にもあるように、GoToトラベル事業の割引で宿泊料が▲34.4%下がった影響がCPI総合への寄与度▲0.42と大きく、GoToを除くコアCPIの下落は▲0.5%にとどまるとの試算が統計局から示されているようです。加えて、エネルギーも前年同月比で▲5.7%の下落、CPI総合への寄与度▲0.44%ですから、このGoToのあおりを食らった宿泊料とエネルギーの2項目でヘッドラインCPIの前年同月比▲0.9%のマイナスの大部分を説明できてしまう、ということになります。そうはいっても、「実力」CPIでマイナスであることは確かですが、少なくとも公表ベースの「見た目」のCPIよりは「実力」CPIのほうが下落幅はウンと小さい点は忘れるべきではありませんし、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIの前年同月比上昇率は▲0.3%ですので、宿泊料のマイナス寄与▲0.42%を考え合わせれば、コアコアCPIの前年同月比は「実力」ベースではプラスだった可能性すらあります。ですから、GoToトラベルは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大をもたらしたのみならず、日銀のインフレ目標達成に対しても大きな悪影響を及ぼしているようです。
今週月曜日の12月14日に、帝国データバンクから「2021年の景気見通しに対する企業の意識調査」が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を長々と5項目引用すると以下の通りです。
調査結果
- 2020年の景気動向は、「回復」局面であったと考える企業は3.4%にとどまり、前回調査(2019年11月調査)から0.3ポイント減少、3年連続で1ケタ台となった。他方、「踊り場」局面とした企業は24.8%だったほか、「悪化」局面とした企業は56.0%で同24.8ポイント増加し、2012年以来8年ぶりに5割超となった
- 2021年の景気見通しは、「回復」局面を見込む企業は13.8%で、前回調査から7.0ポイント増となった。「踊り場」局面になると見込む企業は28.7%と同4.1ポイント減少。「悪化」局面を見込む企業は同4.8ポイント減少の32.4%となったものの、2年連続で3割を上回った。特に『建設』(44.8%)と『不動産』(40.4%)では悪化を見込む割合が目立っている
- 2021年景気への懸念材料は、新型コロナウイルス感染症などの「感染症による影響の拡大」が57.9%で最も高い(複数回答3つまで、以下同)。次いで、「雇用(悪化)」(21.0%)、「所得(減少)」(19.2%)など、新型コロナに関連する項目が続いた
- 景気回復のために必要な政策では、「感染症の収束」が58.0%で最も高い(複数回答、以下同)。また、「中小企業向け支援策の拡充」(31.6%)、「個人消費の拡大策」(25.0%)が続いた
- アメリカ大統領にバイデン氏が就任した場合に日本経済にどのような影響を与えると思うか尋ねたところ、「プラスの影響」が17.2%となり、「マイナスの影響」の14.2%を上回った。「影響はない」は27.2%となり、「分からない」が41.4%だった
まあ、これで十分という気もしますが、リポートからいくつか図表を引用したいと思います。
まず、リポートから 景気見通しの推移 の推移のグラフを引用するというの通りです。さすがに、リーマン・ブラザーズ破綻直後の2008年11月はその翌年2009年を見通す際に、ものすごくネガな予想だったんですが、現時点で来年を見通すと悪化が32.4%にとどまっていますので、まずまず、こんなものかという気はします。昨年同時期は消費税率引上げ直後だったわけですが、その昨年の方が37.2%の景気予想ですので、消費税率引上げの極めて大きなダメージが、今さらながらに実感できます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のインパクトはかなり大きいわけですが、消費税率引上げはもっと重大だと感じるのはよく判ります。
次に、リポートから 今後の景気回復に必要な政策 のテーブルを引用するというの通りです。何といっても、「感染症の収束」がぶっちぎりのトップです。当然です。補助金付きで人の往来を活発化させて、感染症を拡大させるなんて政策は、考えられる限り、愚策の中でも最大の愚策であり、日本の政権党以外では思いつきもしないんではないでしょうか。ドイツを始めとして、時限措置ながら消費税率を引き下げている国も少なくない中で、昨年10月の景気後退局面における消費税率引上げとともに、最近時点での世界の愚策のツートップという気がします。
最後に、リポートから バイデン氏がアメリカ大統領に就任した場合に日本経済に与える影響 のテーブルを引用するというの通りです。一応、日本経済に「プラスの影響」予想がマイナスを上回る結果となっているものの、それほど大きな差はありません。米国のTPP復帰は歓迎するものの、ジャパン・パッシングで米国の関心が中国に向かう恐れが警戒されているような気もします。でも、中国と貿易戦争をやるよりは、ずっとマシなんではないかと私は考えます。
本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比▲4.2%減の6兆1136億円、輸入額も▲11.1%減の5兆7469億円、差引き貿易収支は+3668億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
11月の輸出4.2%減 貿易統計、自動車がマイナスに
財務省が16日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額は前年同月比4.2%減の6兆1136億円となった。自動車の輸出が3.0%減となった。地域別では米国向け輸出が同2.5%減と再び減少に転じたほか、中国向け輸出も伸びが鈍った。新型コロナウイルスの感染再拡大などで、世界の需要回復が鈍いまま推移していることが背景にあるようだ。
新型コロナで輸出が一時急減した後、足元は回復傾向にあったが、10月の前年同月比0.2%減からマイナス幅が拡大した。
米国向け輸出の減少は3カ月ぶり。自動車の輸出が6.6%増だったが、前年比で2割強増えた10月から伸びが鈍った。
中国向けは半導体などの電子部品が17.0%減となった。化学品原料は28.3%減だった。中国向け全体では3.8%増と5カ月連続のプラスだったが、伸びは鈍った。
中国を含めたアジア全体向けもマイナスに転じた。
輸入は11.1%減の5兆7468億円で、19カ月連続のマイナスとなった。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は3667億円の黒字だった。黒字は5カ月連続。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は+5247億円の黒字でしたので、やや市場予想よりも下振れたとはいえ、ほとんどサプライズはなかったと私は受け止めています。引用した記事にもある通り、我が国の貿易も新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受けましたが、かなりの程度に回復を見せていますが、11月統計では輸出額が前年同月比でマイナス幅を拡大してます。COVID-19の第3波の影響であろうと考えられます。日本の国内経済も影響大きいと考えるのですが、輸入額については本日公表の11月統計まで着実にマイナス幅を縮小させています。ただし、まだ11月統計でも輸入額の前年同月比は2桁マイナスで、▲11.1%となっています。特に、価格下落もあって原粗油が前年同月比でほぼ半減しており、輸入減▲11.1%の半分近くに当たる▲4.9%の寄与度を示しています。貿易に限らず、経済活動全体についていえることながら、先行きについては経済外要因であるCOVID-19の感染拡大とそれに対応した対策次第、ということになります。欧州では再びロックダウンに入った国もある一方で、英米ではワクチン接種が始まっていたりします。しかし、さすがにロックダウンの強度も春先ころと比べれば、それほど極端なものではないとの報道もあり、徐々に貿易も回復の方向に向かうのではないかと私は考えていますが、今日発表の11月統計の輸出のように一時的な揺り戻しはあるのであろうと覚悟すべきです。
そのような観点から、続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。輸出額について、季節調整していない原系列の貿易指数の前年同月比で見て先月の10月統計ではほぼほぼゼロまで回復しましたが、11月統計では再び▲4.2%減を記録しています。地域別に前年同月比で見ると、米国や欧州向け輸出は▲2%台半ばまで縮小している一方で、アジア向け輸出はまだ▲4%超のマイナスとなっています。中国向けは5か月連続で前年同月比プラスを記録しましたが、11月統計では+3.8%増と、先月の+10.2%増から伸びが鈍化しています。我が国の輸出も方向として世界経済の回復とともに増加に転じるのもそう遠い将来ではないと期待したいところです。
調査会社大手のインテージから、先週12月7日と昨日12月14日の2回に渡って、「2020年、今年売れたものランキング」と「2020年、今年販売苦戦したランキング」が明らかにされています。前者の「2020年、今年売れたものランキング」はすでにインテージのサイトにアップされているんですが、なぜか、後者はまだインテージのサイトにはポストされていません。仕方ないので、引用画像の統一性を図るという観点から、どちらも PRTIMES のサイトから引用しておきます。以下の通りです。
見れば判ると思いますが、上のテーブルが売れた方で、下は売れなかった方です。売れた方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止の観点から、マスクや殺菌消毒剤が売れていたり、外出自粛の関係で家で過ごすのに適したグッズがランクインしているように見えます。なお、6位にランクインしている玩具メーカー菓子は「鬼滅の刃」関連がけん引していると解説されています。下の売れなかった方は、逆に、COVID-19の感染拡大のあおりを受けているんではないかと想像されます。化粧品がトップテンに5品ランクインしてしまっていますが、要するに、自粛して外出しないなら化粧品は不要、という意味なんだろうと私は考えています。9位にランクインしている総合感冒薬は、COVID-19対策により同時に風邪の予防が進んだ結果と解説されています。今年はインフルエンザの感染もかなり抑えられているようですし、ご同樣の要因なんだろうと私は受け止めています。ただ、インバウンドの激減もあるんではないか、と考えられなくもありません。いずれにせよ、それほどエコノミストの分析が必要な結果ではないような気もします。
昨日、日本漢字能力検定協会から今年の漢字は「密」と明らかにされています。新語・流行語大賞が「3密」ですから、そうなんでしょうね。上の写真は、朝日新聞のサイトから引用しています。下のテーブルは、過去の「今年の漢字」一覧です。漢検のサイトから引用しています。1995年から四半世紀に渡って続いている重みを感じないでもありません。
年 | 漢字 | 理由 |
2019 | 令 | 新元号「令」和に新たな時代の希望を感じた一年。「令」和が日本最古の歌集・万葉集からの出典で、海外にBeautiful Harmony=美しい調和と説明されたことや、「令」の字が持つ意味・書き方にも注目が集まった。また、法「令」改正、法「令」順守、警報発「令」、避難命「令」としても使われた年。 |
2018 | 災 | 北海道・大阪・島根での地震、西日本豪雨、大型台風到来、記録的猛暑など、日本各地で起きた大規模な自然「災」害により、多くの人が被「災」。自助共助による防「災」・減「災」意識も高まった。 |
2017 | 北 | 「北」朝鮮ミサイルの「北」海道沖落下や九州「北」部豪雨などの災害から、平和と安全の尊さを実感した年。 |
2016 | 金 | リオ五輪に沸き、東京五輪に希望を託した「金」(キン)と、政治と「金」(カネ)問題に揺れた年。スポーツ界に新たな金字塔、マイナス金利初導入、シンガーソングライターの金色衣装などにも注目が集まった。 |
2015 | 安 | 「安」全保障関連法案の審議で、与野党が対立。採決に国民の関心が高まった年。世界で頻発するテロ事件や異常気象など、人々を不「安」にさせた年。建築偽装問題やメーカーの不正が発覚し、暮らしの「安」全が揺らいだ。 |
2014 | 税 | 消費「税」率が17年ぶりに引き上げられ「税」について考えさせられた年。「税」に関わる話題が政財界で多く取り沙汰された1年。 |
2013 | 輪 | 日本中が「輪」になって歓喜にわいた年。人とのつながりの「輪」を感じた1年。未来に向けた更なる「輪」を実感、注目。 |
2012 | 金 | 「金」に関する天文現象の当たり年。数多くの「金」字塔が打ち立てられた1年。「金(かね)」をめぐる問題が表面化。 |
2011 | 絆 | 日本国内では、東日本大震災や台風による大雨被害、海外では、ニュージーランド地震、タイ洪水などが発生。大規模な災害の経験から家族や仲間など身近でかけがえのない人との「絆」をあらためて知る。 |
2010 | 暑 | 夏の全国の平均気温が、観測史上最高を記録して、熱中症にかかる人が続出。また、チリ鉱山事故で熱い地中から作業員全員が無事に生還。 |
2009 | 新 | さまざまな「新しいこと」に期待し、恐怖を感じ、希望を抱いた1年。世の中が新たな一歩を踏み出した今、新しい時代に期待したい。 |
2008 | 変 | 日米の政界に起こった変化や世界的な金融情勢の変動、食の安全性に対する意識の変化、物価の上昇による生活の変化、世界的規模の気候異変などさまざまな変化を感じた年。 |
2007 | 偽 | 身近な食品から政界、スポーツ選手にまで、次々と「偽」が 発覚して、何を信じたら良いのか、わからなくなった一年。 |
2006 | 命 | 悠仁様のご誕生に日本中が祝福ムードに包まれた一方、いじめによる子どもの自殺、虐待、飲酒運転事故など、痛ましい事件が多発。ひとつしかない命の重み、大切さを痛感した年。 |
2005 | 愛 | 紀宮様のご成婚、「愛・地球博」の開催、各界で「アイちゃん」の愛称の女性が大活躍。残忍な少年犯罪など愛の足りない事件が多発したこと。「愛」の必要性と「愛」欠乏を実感した年。 |
2004 | 災 | 台風、地震、豪雨、猛暑などの相次ぐ天災。イラクでの人質殺害や子供の殺人事件、美浜原発の蒸気噴出事故、自動車のリコール隠しなど、目を覆うような人災が多発。 「災い転じて福となす」との思いも込めて。 |
2003 | 虎 | 阪神タイガースの18年ぶりのリーグ優勝、衆議院選挙へのマニフェスト初導入で政治家たちが声高に吠えたこと、「虎の尾をふむ」ようなイラク派遣問題など。 |
2002 | 帰 | 北朝鮮に拉致された方の帰国、日本経済がバブル以前の水準に戻ったこと、昔の歌や童謡のリバイバル大ヒットなど「原点回帰」の年。 |
2001 | 戦 | 米国同時多発テロ事件で世界情勢が一変して、対テロ戦争、炭そ菌との戦い、世界的な不況との戦いなど。 |
2000 | 金 | シドニーオリンピックでの金メダル。南北朝鮮統一に向けた"金・金"首脳会談の実現。新500円硬貨、2000円札の登場など。 |
1999 | 末 | 世紀末、1000年代の末。東海村の臨界事故や警察の不祥事など信じられない事件が続出して、「世も末」と実感。来年には「末広がり」を期待。 |
1998 | 毒 | 和歌山のカレー毒物混入事件や、ダイオキシンや環境ホルモンなどが社会問題に。 |
1997 | 倒 | 山一證券など大型倒産の続出や、サッカー日本代表が並いる強豪を倒してワールドカップ初出場決定。 |
1996 | 食 | O-157 食中毒事件や狂牛病の発生、税金と福祉を「食いもの」にした汚職事件の多発。 |
1995 | 震 | 阪神・淡路大震災や、オウム真理教事件、金融機関などの崩壊などに"震えた"年。 |
本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から+17ポイント改善して▲10を示した一方で、本年度2020年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比▲3.9%の減少と9月調査の結果から下方修正されてます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日銀短観、設備投資・新卒採用に慎重 景況感は改善
日銀が14日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では先行きに慎重な企業の姿が浮き彫りになった。2020年度の設備投資を全規模全産業ベースでみると、前年度に比べ3.9%減で9月調査(2.7%減)から下方修正となった。新卒採用も21年度は大幅減の計画だ。新型コロナウイルスの影響が長引くことに備え、企業は守りを固めている。
全規模ベースの設備投資計画は、QUICKが事前に集計した民間予測の中心値(3.3%減)を下回った。設備投資計画の下方修正は3四半期連続になる。経済への波及効果の大きい大企業で「業績が悪化するなか、不要不急の設備投資を先送りするとの声があった」(日銀)。
大企業の設備投資計画は製造業が0.5%減、非製造業が1.6%減だった。いずれも00~19年度平均を下回る。中小企業は9月調査から上方修正となったものの、13.9%減と大幅なマイナスだ。
デジタル化に向け、ソフトウェア投資はプラスを維持した。全規模全産業で3.4%増だ。ただ、9月調査からは下方修正しており戦略分野でも投資を絞り込んでいることがうかがえる。
雇用も守勢が目立つ。21年度の新卒採用は全規模合計で6.1%減らす。大企業は7.5%減の計画だ。慢性的な人手不足に悩む中小企業は2.0%減で小幅なマイナスだった。
足元の景況感の改善で、人員が「過剰」と回答した企業から「不足」の割合を引いた雇用人員判断DI(指数)は全規模全産業でマイナス10となり、前回調査から4ポイント不足感が強まった。それでも新卒採用を増やそうとする企業は少ない。
企業の資金繰りは政策効果が下支えする。資金繰りが「楽である」と答えた割合から「苦しい」の割合を引いた資金繰り判断DIは全規模合計で7となり、2ポイント改善した。銀行や信用金庫の貸出金の伸びは6%台と高水準だ。政府が経済対策として実施する実質無利子無担保融資の効果が大きい。
企業が収益計画の前提とする想定為替レートは20年度下期で1ドル=106円55銭だ。足元の相場より2円以上の円安水準となっている。欧米では新型コロナの感染再拡大で一部で行動制限を実施し、日本企業の海外事業の収益にも影響が出る見通し。想定レートを超える円高で現地での収益悪化とのダブルパンチになる恐れがある。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。
まず、先週12月11日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善する見込みという結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIが▲14と報じられていますので、実績が▲10ですから、やや上振れした印象はあるものの、現在までの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を考慮し、加えて、先行きの景況感の鈍化を見込めば、ほぼ「こんなもん」と受け止められているような気がします。ほかの主要な経済指標とともに、今年2020年5月ないし4~6月期が底となっているのは、ほぼほぼ共通している印象です。ただ、これもほかの指標と共通していて、回復ペースが緩やか、というより、10~12月期にはモノによってはむしろ悪化すら考えられる指標が出てきそうな印象もあります。前回の9月調査から今回の12月調査で業況判断DIを+20ポイント以上改善させた業種を見ると、大企業製造業では、自動車が+48ポイントと最大なんですが、DIの水準はまだ▲13とマイナスです。次に改善幅が大きいのは+36ポイントの木材・木製品、続いて順に、鉄鋼+30ポイント、非鉄金属+27ポイント、生産用機械+22ポイント、などとなっており、素材業種+16ポイント、加工業種+18ポイントですから、ほとんど差はありません。大企業非製造業では、対個人サービス+22ポイント、宿泊・飲食サービス+21ポイントだけとなっています。GoToキャンペーンの徒花という気もします。いずれにせよ、先行き業況判断DIが、大企業製造業で+2ポイント改善の▲8、大企業非製造業で▲1ポイント悪化の▲6ですから、ほぼ横ばいに近くて、改善幅は大きく縮小、ないし、悪化すると見込まれているわけです。先行き警戒感が強い、と考えるべきです。中でも、製造業が海外需要にリスクを分散できたり、あるいは、中国がすでに回復軌道に回帰しているなど先行きの見通しが上がっている一方で、非製造業は国内市場への依存が高く、国内での感染が拡大している現状で企業マインドが弱くなっています。
続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも過剰感が底を打ったんですが、DIの水準として、設備についてはすでにプラスに転じて過剰感が残っている一方で、雇用人員については不足感が緩和されたとはいえ、まだ過剰感が発生するには至っておらず、絶対的な人数としては不足感が残っている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が企業マインドに反映されていると考えています。ただし、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用に関しては、新卒採用計画について新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がもっとも強く出ており、2019年度まで新卒採用は全規模全産業で+3.3%増と増加傾向だったんですが、2020年度では▲2.6%減とマイナスに転じて、2021年度は▲6.1%減へさらに減少幅を拡大すると見込まれています。雇用調整助成金で現有勢力の雇用を維持する一方で、新卒一括採用のシステムの中で、学生の就活にしわ寄せが来ているように見えます。私は2回生のゼミ生諸君に、この点だけはお知らせしておきました。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、今年度2020年度は違っています。3月調査の設備投資計画から6月調査では全規模全産業で下方修正され、9月調査、12月調査と次々に下方修正されています。しかも、上のグラフは全規模全産業をプロットしてありますが、引用した記事にもある通り、大企業ですら設備投資は前年比マイナスが見込まれています。加えて、グラフは示しませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。12月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回ってプラスですが、全規模全産業の経常利益の2020年度計画は前年比で▲30%台半ばの大きなマイナスです。設備投資の最後の着地点は、かなり厳しいものとなりそうです。
まったくもって忘れていましたが、先週12月8日は上の倅の誕生日でした。東京で生まれ育って、私の再就職に伴う引越しで東京に残してきてしまいました。社会人として立派に日々お仕事していることと思います。
もうすぐサポートが切れますので、フラッシュのくす玉も最後です。
やや旧聞に属する話題かもしれませんが、今年の Time Person of the Year は、米国の当選大統領と副大統領であるバイデン-ハリスの2人でした。当然でしょう。私なんぞから説明の必要はないだろうと思います。なお、今年の候補はTimeのサイトからショートリストを引用すると以下の通りです。これまた、2人目を除いて説明の必要はないと思います。
ついでの登場で誠に申し訳ありませんが、上の通り、Vogue 1月号のカバーは大坂なおみです。ポール・マッカートニー & スティーヴィー・ワンダーによる名曲「エボニー・アンド・アイボリー」を思わせるデザインです。ファッション誌の表紙を飾るわけですから、当然といえば当然ながら、カッコいいです。
今週の読書は、全部で5冊なんですが、単行本の学術書1冊以外はすべて新書です。東京にいたころには、新書はほとんど読まなかったんですが、学生諸君にオススメする必要性もあって、関西に引越してからは盛んに読んでいます。ということで、以下の計5冊です。
まず、三浦秀之『農産物貿易交渉の政治経済学』(勁草書房) です。著者は、杏林大学の研究者であり、専門は、国際関係論や国際政治経済学などです。本書は、タイトル通りの分析を行っているわけですが、戦後日本が経済発展を遂げる中で、高校の社会科でも習うペティ-クラークの法則により、生産や雇用が第1次産業から第2次産業へ、さらに第3次産業へとシフトしていく中で、第1次産業たる農業が貿易や投資の自由化の流れに対して、以下に抵抗してきたか、あるいは、抵抗に失敗してきたか、を跡付けています。農業だけではなく、広く日本の産業一般に見られるステークホルダーの集団として、「鉄の三角形」という3すくみがあります。国会議員のうちのいわゆる族議員、官僚、業界団体です。族議員は官僚に優位を保ち、官僚は行政指導などで業界団体の上位に立ち、しかし、業界団体は選挙の際の票の取りまとめなどで国会議員に対して影響力を行使する、という3すくみです。そして、農業の場合は業界団体がその昔の農協、いまのJAということになります。本書では、それほど昔からの歴史を追っているわけではありませんが、1990年代初頭のウルグアイ・ラウンドの妥結、1990年代なかば以降のAPECにおける貿易自由化、21世紀に入ってからの日本タイ経済連携協定(EPA)、そして、TPPの4ステージを対象としています。基本的背景のモデルとして、パットナム教授の2レベル・ゲーム・モデル two-levels geme modelを用いています。そうです。あの『孤独なボウリング』で有名になったパットナム教授です。そして、この2レベル・ゲーム・モデルとは、国際的な交渉をレベル1、国内の調整をレベル2と考え、合意のためのウィンセットを考え、自国に有利になるように国内の支持を取り付けて自分のウィンセットを大きくしたり、相手国の世論を分断して相手のウィンセットを小さくしたりして、交渉を有利に運ぼうとするモデルです。ただ、このモデルは、私が関連する文献を読んだ限りは、十分シミュレーションに耐える精緻なものなのですが、本書では、枠組みとして用いているだけで、それほど高度な使い方をしているわけではありません。その意味で、学術書としてはやや物足りない一方で、一般ビジネスパーソンにも判りやすくなっている気がします。農業の鉄の三角形の内部の力関係の変化に加えて、農産物は広く一般消費者に需要されますので、その一般消費者が何らかの影響力を行使したり、あるいは、相手国が米国の場合は強い外圧を受けたりと、さまざまなケースでどのような交渉が持たれて、どのような決着が図られたか、なかなかに興味深い分析で、しかも、それが定量的な分析ではなく、とても記述的descriptiveなものですから、印象に流されそうになりましたが、私自身がウルグアイ・ラウンドの最終合意のステージでは大使館で外交官をしていましたので、情報収集にいそしんだ記憶も蘇ったりしました。学術的にも、一般向けとしても、どちらも中途半端な本ですが、ある意味で、お手軽でもあります。
次に、セルジュ・ラトゥーシュ『脱成長』(文庫クセジュ) です。著者は、フランス経済学会の大御所ともいうべき存在で、まだそれなりの影響力を保持しているようです。本書のフランス語現代は La décroissance であり、2019年の出版です。訳者あとがきか何かで見ましたが、本書の日本語タイトルは「脱成長」なわけで、実にピッタリのdécroissanceに対する翻訳だという気がします。私は他に英語とスペイン語くらいしか理解しませんが、英語西語とも仏語と同じでラテン語系の言語であるにもかかわらず、どちらもピッタリの対応する翻訳がないように感じています。そして、本書で著者がもっとも熱心に主張しているのは、「脱成長」とは、当然ながら、「反成長」ではないし、ましてや「マイナス成長」や「ゼロ成長」ではあり得ない、という点です。私自身は、社会経済的な課題、例えば、貧困や不平等の問題を解決するに際して、ゼロ成長では問題解決のためにリソースが再分配だけになってしまって、もう少しリソース欲しい気がするので、成長はそれなりに目指すべきだという意見です。しかし、著者のラトゥーシュ教授の意見とは大きく異なり、例えば、地球環境の観点などからゼロ成長を目標にすべき、と主張するエコノミストは少なくありません。本書の主張は明らかに異なります。経済政策のプライオリティを考えるに際して、成長のポジションをもう少し下げる、あるいは、もっと極端な場合は、成長にプライオリティを置かない、ということであって、決して「脱成長」とはゼロ成長や、ましてや、マイナス成長を目指して、もって二酸化炭素排出を抑える、とか、サステイナビリティに配慮する、などというものではない、というのが著者の主張です。私は大きく目から鱗が落ちた気がしました。まったくその通りであり、私とて、リソース欲しさに成長しないよりは成長した方がいい、という程度の成長賛成論ですので、新たな理論を得た気すらします。ただし、私は引き続き経済政策の目標に主観的な幸福度を据えるのは反対です。本書第2章では主観的幸福度指標ではなく、客観的な生活の水準、Quality of Lifeとか、Well-Beingについて論じており、それは、まあ、経済政策の目標として可能だという気がする一方で、主観的幸福度は、まさか、脳内分泌物質で幸福度を高めるわけにもいかないでしょうから、政策目標としてはポピュリズム的に過ぎる気がしています。最後に、私はすでに終わったアベノミクスについては成長論は盛り込もうという努力はしていた一方で、分配論はまったく欠けていたと評価しています。ですから、量的な拡大を目指す脱成長から質的な豊かさに目を向ける分配論に重点が移行するのは大いに結構だと考える一方で、繰り返しになりますが、SDGsに代表されるサステイナビリティのために成長を抑制するゼロ成長やマイナス成長、これらは本書でも明確に否定されているところで、そういった分配を無視して、引き続き、量だけを論じる経済政策については賛成しかねます。ビミョーなところですが、違いの判るエコノミストでありたいと思います。
次に、鈴木亘『社会保障と財政の危機』(PHP新書) です。著者は、社会保障を専門分野とする学習院大学経済学部の研究者です。本書では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済的な影響の後には、社会保障の問題が浮上するとして、生活保護、医療、介護、年金の現状と対策を取り上げています。他の論考でも同じことながら、COVID-19に対応して、COVID-19とは関係薄クて、従来からの主張が繰り返されている部分も少なくありません。ただ、社会保障と消費税を切り離すというコンセプトは一考すべき価値があるという気がします。消費税を社会保障の財源にするという完全に破綻したいいわけを並べるよりは、かなり問題の真実に近づいて社会保障の課題解決にもつながりそうな気がします。そして、本書でも主張されているのは、切り離すからには社会保障ではなく経済政策の観点から時限的な消費税率の引下げも経済政策の選択肢になる、というポイントであり、共産党をはじめとする野党の主張と極めて近接した見方といえます。私のこのブログでも、7月27日に主張している点でもあります。これまた、何度も繰り返して主張している通り、現在のCOVID-19の経済ショックは、ケインズ的な需要サイドからの過少消費やマルクス的な過剰生産、この両者はとても似通っていますが、こういった従来からの需要ショックではなく、感染拡大防止のために人的接触が避けられないセクターを閉鎖、ないし、活動を抑え込んだ結果なのですから、そういった宿泊や飲食といった人的接触が大きいサービス部門で影響大きいのは当然です。もちろん、人的接触多いセクターだけでなく、街全体をロックダウンしてしまったケースもあります。でも、ロックダウンしても食料品などは日常生活に必要不可欠なわけで、需要はありますし、供給もごく一部の例外的な品目、例えば、一時的な品薄となったマスクなどを別にすれば、需給への影響は大きくありません。他方で、ダメージ大きい宿泊や飲食などの人的接触多いセクターは、COVID-19パンデミックが続く限りは閉鎖して感染拡大を抑える方向で考えるべきです。そして、そのセクターの雇用者に対して万全の所得補償を供与すべきです。そうでないと、シャットダウンされたセクターがある分、通常のケインズ的な乗数が小さくなるからです。しかし、現在の政府のGoToキャンペーンでは、宿泊や飲食などの人的接触多いセクターに補助金をつけて人的接触を奨励する政策であり、まったく真逆でお話になりません。菅内閣がこういった政策を取っている背景として、第1に、財務省的な政策効率の観点があります。本書でも同じように政策の効率性を論じていますが、例えば、10%補助金を付ければ、残り90%は国民自身が負担するわけで、10倍の政策効率が上がります。本末転倒の理論ですが、残念なことに、本書でもよく似た議論が展開されています。第2に、来年の東京オリンピック開催までムリにでも引っ張る意図がミエミエですし、そのために、東京都知事と大阪府知事がビミョーに異なる意見を持っているわけなのでしょう。ですから、私は早めに東京オリンピックを中止するという決定を明らかにすべきである、と主張したいと思います。東京オリンピック・パラリンピックは、延期ではなく、中止の一択だと思います。
次に、岡山裕『アメリカの政党政治』(中公新書) です。著者は、慶應義塾大学の研究者であり、専門は、政治史やアメリカ政治だそうです。米国の政党の極めて緩い構造を歴史的によく解説してくれています。独立直後くらいに、米国では政党政治が否定された時期があった、というのは、私でも知っているくらい有名な事実であり、その昔の名望家とか哲人による政治を理想と考えた点は理解できなくもありません。その上で、現在の極めて強固な民主党と共和党の2大政党制がいかに形作られてきたのか、についても、よく取りまとめられています。もちろん、新書というメディアの特質から、それほど専門的ではなく、私のような米国にも、政治にもシロートである専門外の人間が読んでもひと通りの理解が進むように工夫されています。私が米国の政党政治でとても不思議だった点がいくつかあり、それもほのかに解決されたような気がします。というのは、第1に、リンカーン大統領の奴隷解放ではないのですが、150年ほど前には共和党が進歩的でリベラルだったのに対して、当時の民主党は南部の頑迷固陋な伝統主義や保守主義の政党だったのが、前世紀の終わりころから、今ではすっかり、民主党がリベラルで共和党が保守、という色分けになっています。本書では1970年代からの変化を示していますが、私は1960年代ケネディ政権、さらに、ジョンソン政権の「偉大な社会」政策にケインズ的、というか、左派リベラルの源流を見ていたのですが、確かに、よく考えれば、「今や我々はすべてケインジアンである」と発言したのはニクソン大統領でしたし、1960年代に源流あるとしても、ハッキリと見えだしたのは1970年代から、そして、確定したのが1980年代のレーガン政権から、ということなのかもしれません。第2に、ローズベルト大統領のニューディール政策の際は、議会がほとんど大統領のマシンのように、ポンポンと法律を成立させていた一方で、オバマ政権は私の目から見てとてもリベラルで好ましい政権だったのですが、結局、大きな政的成果は上げられなかったように見えます。メデュケアとメディケイドについてもそうです。似鳥教授の評価によれば、そもそも米国大統領はそれほど大きな権限は持ち合わせていない、ということのようなのですが、この当たりも興味ありました。ただ、最後に、トランプ大統領があまり公約を実行できなかった、という本書の評価は少し疑問あります。というのは、経済面だけですが、TPPからの脱退、それに、中国との関税率引上げによる貿易戦争、というのはとても大きな経済的なインパクトあったのではないか、と私は考えているからです。
最後に、浜矩子『「共に生きる」ための経済学』(平凡社新書) です。著者は同志社大学のエコノミストです。この方のご著書は初めて読みました。本書で展開されているのは、とても観念論的な経済学ですが、判らないでもありません。本書で、共に生きるために満たされるべき条件が4項目上げられており、共感性、開放性、包摂性、依存性、となっています。もう少し定義をハッキリさせておいて欲しいところですが、そこはスルーしていきなり理論的根拠に入るのは少し不満の残るところです。話は逸れますが、私は比較的左派リベラルな本書をホリデー・シーズンの読書案内に入れておいたのですが、やや、ごく一部ながら言葉遣いが下品なので後悔しています。「チームアホノミクス」というのがしばしば出てきて、チームはまだいいとしても、「アホノミクス」というのはどうも下品です。左派リベラルや非主流派で時折見かけるところで、まあ、極右派などにもあるんでしょうが、主流派に反対するあまり、本筋ではないところで激論を飛ばして目立つように試みたり、どぎつい表現で目立つことを望んでいるのではないか、とゲスの勘ぐりを入れたくなるようなケースがあります。私は少なくともエコノミストとしては最左派ながら官庁エコノミストという主流派真っ只中の末席を汚していましたので、あまり表現で目立とうとするのはヤメておいた方がいいと考えています。本書でも、繰り返しになりますが、具体性のない観念的なナラティブで終わっているだけに、それだけに、表現上の「工夫」をしてしまっているのかもしれませんが、そうであれば、もう少し具体性を補って、本筋で目立てるように工夫すべきであり、表現で差別化を図ろうというのはエコノミストのやり方ではありません。ですから、エコノミストの3条件として、独善性、懐疑性、執念深さ、というのが出てくるんだと思います。独善性が開放性や包摂性に矛盾しかねないと考えるのは私だけかもしれませんが、少なくとも、最初に上げた共に生きるために満たされるべき4条件とはかなりかけ離れていると感じるのは私だけではないと願っています。繰り返しになりますが、この著者の一般向けのご著書は初めて読みましたが、学術論文はともかく、一般向けのご著書としては最後の読書になるかもしれません。
来週月曜日12月14日の公表を控えて、シンクタンクから9月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画はもちろん今年度2020年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、いつもの通り、足元から先行きの景況感に着目しています。ただし、先行きについては新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の終息次第という面があり、一部にとても長くなってしまいました。それでも、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。
機関名 | 大企業製造業 大企業非製造業 <設備投資計画> | ヘッドライン |
9月調査 (最近) | ▲27 ▲12 <▲2.7%> | n.a. |
日本総研 | ▲16 ▲4 <▲3.2%> | 先行き(3月調査)は、全規模・全産業で12月調査対比+1%ポイントと、小幅な改善にとどまると予想。国内外で新型コロナの感染が再拡大しており、流行の収束が見通せないなか、先行きの景況感も慎重な見方が続く見込み。 |
大和総研 | ▲15 ▲6 <▲2.5%> | 12月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は▲11%pt(最近からの変化幅: +4%pt)と小幅な改善を見込む一方、大企業非製造業では▲7%pt(同: #x25B2;1%pt)と小幅な悪化を予想する。 ペントアップ需要が残存し、国内外で需要が強い「自動車」などは引き続き改善が見込まれるものの、足元の感染拡大による影響を強く受ける「宿泊・飲食サービス」や「対個人サービス」では慎重な見方が強まるとみられる。 |
みずほ総研 | ▲21 ▲9 <▲3.5%> | 製造業・業況判断DIの先行きは1ポイントの改善と、ほぼ横ばいでの推移を予測する。緊急事態宣言解除後、急速に回復してきた生産は11月をピークに持ち直しが一服し、来年1~3月期も高い伸びは期待できず、コロナ禍前(2019年平均)の95%程度の水準を横ばい圏で推移する可能性が高い。とりわけ、回復をけん引してきた輸送機械(自動車)の生産が一服するとみられる。このような生産の持ち直し一服を受けて、自動車工業のほか、鉄鋼や非鉄金属などの素材業種は小幅な改善にとどまると予想される。一方で、企業収益の悪化を受けて、設備投資は調整が続くとみられることから、生産用機械やはん用機械の業況改善は遅れる見込みだ。 非製造業・業況判断DIの先行きは1ポイントの悪化を見込む。テレワーク関連需要や非接触対応のソフトウェア投資の増加等を受けて、情報通信サービスが改善するだろう。一方で、宿泊・飲食サービスや対個人サービスは悪化する見込みだ。インバウンドの回復が見込まれないことや各種感染予防策継続の必要性に加えて、足元の感染再拡大により先行き不透明感が強まっていることから、対人接触型サービスの業況は下押しされる公算だ。 |
ニッセイ基礎研 | ▲14 ▲4 <▲3.4%> | 先行きの景況感については、製造業と非製造業で方向感が分かれると予想。製造業では、コロナの感染が抑制されている中国を中心とする海外経済回復への期待から景況感のさらなる改善が示される可能性が高い。一方、非製造業は内需型産業が多いだけに、国内で感染拡大を続けている新型コロナへの懸念から、大企業の景況感は横ばい、中堅・中小企業では悪化が示されると予想している。なお、コロナワクチン実用化に向けた進展は前向きな材料だが、国内での普及時期も含めて依然として不透明感が強いため、影響は限られるだろう。 |
第一生命経済研 | ▲7 ▲5 <大企業製造業+2.2%> | 12月の日銀短観は、大企業・製造業が前回比+20ポイントと大幅に改善することを予想する。 |
三菱総研 | ▲13 ▲7 <▲2.9%> | 先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業は▲13%ポイントと横ばい、非製造業は▲9%ポイントと小幅悪化を予測する。GoToキャンペーンの延長等の追加経済対策は明るい材料だが、製造業・非製造業を問わず、先行きの業況に対する不安は強い。新型コロナの感染拡大ペースが強まる中、医療体制のひっ迫などによる防疫措置の一段の厳格化、自粛要請の対象業種・地域の拡大、などが懸念される。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | ▲17 ▲6 <大企業全産業▲1.6%> | 先行きについては、改善は続くものの、足元での感染再拡大への懸念が重石となり、▲12と、5ポイントの改善にとどまろう。 |
ということで、短観の統計としてのヘッドラインである大企業製造業の業況判断DIで見て、ラクに+10ポイントは改善し、大企業非製造業でも、さすがに、プラスに転ずることはないとしても、かなりの程度にマイナス幅が縮小する、という予想となっています。上のテーブルにある限りで、悲観論と楽観論の両極端に位置するのが悲観論のみずほ総研と楽観論の第一生命経済研です。私は圧倒的にみずほ総研に近い見方をしています。加えて、先行きの3月調査は、何といっても、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック次第なんですが、多くのシンクタンクで12月調査から横ばいないし小幅の改善を見込んでいる一方で、私は悪化する可能性がまだまだ十分残されていると考えています。先行き3月調査の業況判断DIの方向性として、一般的には、海外市場の需要が取り込める製造業が改善幅大きく、内需に依存する割合高い非製造業では改善幅が小さい、という見方が多いのでしょう。でも、ウルトラCのニュースが出てしまう可能性高いと私は考えていて、それは「東京オリンピック・パラリンピックの中止」です。現政権は東京オリンピック・パラリンピック近くまで無理矢理にでもGoToキャンペーンを継続するという選択をしたようですが、逆目に出る可能性が高いと考えざるを得ません。そうなると、ネオリベな経済政策運営のために社会保障見直しで医療システムが疲弊しまくって、少ない感染者ながら医療逼迫度の高い日本で大きな国際スポーツ・イベントが開催できるか、という問題になります。もはや、東京オリンピック・パラリンピックは延期ですらなく、中止の一択だと私は考えています。そうなると、各種マインド調査は実体経済以上に冷え込む可能性があると覚悟すべきです。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。
本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は▲2.2%の下落を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
11月の企業物価指数、前年比2.2%下落 石油製品の下げ響く
日銀が10日発表した11月の企業物価指数(2015年平均=100)は99.9と、前年同月比で2.2%下落した。前月比では横ばいだったが、ドバイ市況の悪化で石油製品などの価格下落が続いたのが響いた。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。ガソリンなど石油製品に加え、電力・都市ガス・水道の価格下落が指数を押し下げた。自動車販売の回復でタイヤなど関連製品の生産が戻りつつあり、化学製品の価格は前月比で上向いたものの、前年比では下落が続いた。
円ベースで輸出入物価をみると、輸出は前年同月比2.1%下落し、前月比では横ばいだった。輸入は前年同月比10.6%下げたが、前月比では0.5%上昇した。
日銀は「経済活動の改善ペースは緩やかなものにとどまっている」と指摘。企業物価についても、新型コロナウイルスの感染拡大が「国際商品市況と国内需給の両面から大きな影響を与え続けている」とした。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、ヘッドラインの国内物価の前年同月比が▲2.2%の下落でしたので、ジャストミートしました。季節調整していない原系列ながら、前月比は保合いだったんですが、電力・都市ガス・水道や石油・石炭製品が大きなマイナス寄与を示していて、引用した記事の通り、「ドバイ市況の悪化で石油製品などの価格下落」が主因であろうという印象です。前年同月比でも、石油・石炭製品は11月に▲18.5%の下落と、10月の▲16.2%から下げ足を速めています。電力・都市ガス・水道もご同様で11月▲-10.0%と、10月の▲8.5%から下落幅が拡大しています。もちろん、背景には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックがあるわけで、欧州の中では再びロックダウンを始めた国がある一方で、ワクチン接種も始まっており、専門外の私には方向性はよく判りません。でも、我が日本については、ワクチン接種が大規模に始まったとの報道には接しておりませんし、緊急事態宣言は出ていないものの、第3波を思わせるくらいに感染者数が増加しており、世界の中で遅れ始めている印象を感じます。来年のオリンピックを強行するためなんですかね?
続いて、本日、10~12月期の法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは上の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。これまた、直近の2020年4~6月期直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。ということで、統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)は足元10~12月期で+11.6でした。2020年4~6月期に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応した緊急事態宣言によるロックダウンの影響を受けて、大きなマイナスを記録した後、2四半期連続のプラスを記録しています。大企業のうち、製造業+21.6、非製造業は+6.7ですから、いずれもプラスとはいえ、中国経済回復の恩恵を受ける製造業と、大きく回復したとはいえ宿泊・飲食でまだ低い水準を続ける非製造業の差が出ています。先行き2021年1~3月期の見通しは+3.1、4~6月期は+2.2とプラス幅が縮小していくのは、この統計のクセのようなものと私は考えています。
さて、来週月曜日公表予定の12月調査の日銀短観やいかに?
本日、内閣府から10月の機械受注が表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲4.4%減の7193億円と、まだまだ受注額は低水準ながら、プラスの伸びを記録しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
10月の機械受注、伸び率最大の17.1% 受注額は3月以来の多さ
内閣府が9日発表した10月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は、前月比17.1%増の8425億円だった。増加率は比較可能な2005年4月以降で最大となる。受注額は3月以来7カ月ぶりの水準に回復した。自動車関連やはん用・生産用機械が伸びた。
内閣府は基調判断を「下げ止まっている」に上方修正した。けん引役を担う自動車関連やはん用機械で増加基調が続いたことを反映した。
内閣府の担当者は「経済活動が進み(企業の設備投資活動で)抑えていたものが出てきた」と話した。ただ機械受注統計はブレが大きいとされるだけに、先行きについては「単月では判断しきれない」と慎重な見方も残した。
製造業からの受注額(季節調整済み)は前月比11.4%増の3535億円だった。伸び率は16年3月以来の大きさ。17業種のうち12業種で増えた。非鉄金属で、原子力原動機など規模の大きな案件があったことから約4倍に伸びた。「その他製造業」からは食品加工機械の受注も増えた。自動車・同付属品は13.9%増、はん用・生産用機械は9.0%増だった。
非製造業(船舶・電力を除く)は13.8%増だった。受注額は4840億円と2カ月連続で増えた。金融業・保険業からのシステム関係の受注が増えたほか、卸売業・小売業からの受注額は5割強伸びた。配送センターでの配送システム関連の受注があった。
受注総額は9.7%増の2兆3003億円だった。前月比の増加は2カ月ぶり。外需は前月の反動増などもあり20.7%増、官公需の受注は22.7%減となった。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。
日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月比で+2.3%増、レンジの上限でも+6.3%増でしたから、何があったのかは詳らかではありませんが、かなりの増加だという実感はあります。しかし、引用した記事にもある通り、単月での振れが大きい統計ですから、上のグラフの上のパネルでも、季節調整済みの系列をさらに後方6か月移動平均を取って大雑把な傾向を把握しようと試みています。その移動平均が直近で利用可能な10月統計で上向きになりましたので、とてもunivariateな判断ながら、統計作成官庁である内閣府が基調判断を「下げ止まっている」に上方修正したのも、まあ、アリかなという気がします。
引用した記事にもある通り、イレギュラーな超大型案件があったというわけでもなく、かなり幅広い業種で増加が見られ、製造業と非製造業の両方ともが前月比で2ケタ増を記録しています。ただし、これも記事にあるように、「経済活動が進み(企業の設備投資活動で)抑えていたものが出てきた」という見方は成り立たないことがないとはいいませんが、決して多くのエコノミストからの賛同が得られることはないような気もします。加えて、先行きについては、これまた、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック次第という面があるのは仕方ありません。日本でもすでに第3波に乗った感染者増が始まっていますし、しかも、政府はGoToキャンペーンをまだ続けるという感染拡大を後押しするかのような政策を取っています。この政策が後になってどう判断されるか、私はとても悲観的です。もちろん、海外では一歩先を行っていて、いくつかの欧州の国で再びロックダウン措置が取られています。他方で、ワクチン開発が進んでいるのも事実で、英国ではすでにワクチン接種が始まっているとの報道があります。何とも、足元から目先の経済予測すら見通し難いところです。少なくとも、機械受注が、というか、設備投資がこの先も一本調子で増加を続けるとはとても思えません。
本日、内閣府から7~9月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+5.3%、年率では+22.9%と、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で大きなマイナスとなった4~6月期からリバウンドを見せています。4四半期振りのプラス成長ですが、もちろん、4~6月期の戦後最大のマイナス成長をカバーするほどではありませんでした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
GDP実質年率22.9%増 7-9月改定値、上方修正
内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比5.3%増、年率換算では22.9%増だった。速報値(前期比5.0%増、年率21.4%増)から上方修正となった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は、速報値から変わらずだった。
基準改定により、7~9月期の改定値から過去にさかのぼり参照年が2011年から15年に更新された。法人企業統計など最新の統計も反映した。
生活実感に近い名目GDPは前期比5.5%増(速報値は5.2%増)、年率は23.9%増(同22.7%増)だった。
実質GDPを需要項目別にみると、個人消費は前期比5.1%増(同4.7%増)、住宅投資は5.8%減(同7.9%減)、設備投資は2.4%減(同3.4%減)、公共投資は0.5%増(同0.4%増)だった。民間在庫の寄与度はマイナス0.2%分(同マイナス0.2%分)だった。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がプラス2.6%分(同プラス2.1%分)、輸出から輸入を引いた外需はプラス2.7%分(同プラス2.9%分)だった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期に比べてプラス1.2%(同1.1%だった)。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、内閣府のリンク先からお願いします。
です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした需要項目 | 2019/7-9 | 2019/10-12 | 2020/1-3 | 2020/4-6 | 2020/7-9 | |
1次QE | 2次QE | |||||
国内総生産 (GDP) | +0.2 | ▲1.9 | ▲0.5 | ▲8.3 | +5.0 | +5.3 |
民間消費 | +0.5 | ▲3.1 | ▲0.6 | ▲8.3 | +4.7 | +5.1 |
民間住宅 | +0.0 | ▲1.8 | ▲3.7 | +0.5 | ▲7.9 | ▲5.8 |
民間設備 | +1.0 | ▲4.6 | +1.4 | ▲5.7 | ▲3.4 | ▲2.4 |
民間在庫 * | (▲0.2) | (▲0.1) | (+0.1) | (+0.1) | (▲0.2) | (▲0.2) |
公的需要 | +0.8 | +0.6 | ▲0.2 | +0.6 | +1.9 | +2.3 |
内需寄与度 * | (+0.5) | (▲2.5) | (▲0.2) | (▲5.2) | (+2.1) | (+2.6) |
外需寄与度 * | (▲0.3) | (+0.6) | (▲0.4) | (▲3.1) | (+2.9) | (+2.7) |
輸出 | ▲0.5 | +0.2 | ▲5.3 | ▲17.1 | +7.0 | +7.0 |
輸入 | +1.0 | ▲3.1 | ▲3.1 | +1.4 | ▲9.8 | ▲8.8 |
国内総所得 (GDI) | +0.4 | ▲1.9 | ▲0.5 | ▲7.2 | +4.8 | +5.2 |
国民総所得 (GNI) | +0.3 | ▲2.0 | ▲0.2 | ▲7.3 | +4.4 | +4.9 |
名目GDP | +0.3 | ▲1.2 | ▲0.5 | ▲7.9 | +5.2 | +5.5 |
雇用者報酬 | +0.2 | ▲0.2 | +0.4 | ▲3.7 | +0.5 | +0.5 |
GDPデフレータ | +0.6 | +1.5 | +0.9 | +1.4 | +1.1 | +1.2 |
内需デフレータ | +0.2 | +1.0 | +0.8 | ▲0.0 | +0.1 | +0.2 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率が4~6月期からリバウンドを示し、GDPのコンポーネントのうち赤の消費と黒の純輸出が大きなプラスを記録しています。ただし、水色の設備投資はマイナスのままだったりします。
今回のGDP統計を見る上では、単純に7~9月期の2次QEというだけでなく、2015年への基準改定と国際基準(2008SNA)などについても改定の中身に加えられており、それなりの注意が必要です。利用上の注意については、内閣府の公表資料がポストされています。詳しくはソチラに譲るとして、いくつか特徴的なものとして、第1に、2015年産業連関表の反映として、住宅の改装・改修(リフォーム・リニューアル)が計上されるようになったり、分譲住宅の販売マージン・非住宅不動産の売買仲介手数料が計上されています。これらは今までは中間投入とされていましたが、住宅投資や設備投資などに計上されるようになりました。第2に、2008SNAへの対応として、娯楽作品原本の資本化・著作権等サービスの記録が始まりました。すなわち、情報サービス、映画や書籍などの映像・音声・文字情報制作に細品目として「娯楽作品原本」を定義するということらしいです。第3に、住宅宿泊サービスと住宅宿泊仲介サービスが推計されて加わることになりました。要するに、民泊です。こういった改定により、7~9月期の2次QEに関係ないところで見ると、2019年度の名目GDPが552.5兆円から559.7兆円に+7兆円余り上方修正されています。まあ、私が見た範囲でも、先ほど書いた範囲でも、基準改定ほかを見る限り、上振れする要因が多いようですから、そうなんだろうと思います。
7~9月期の2次QEに話を戻すと、成長率はわずかながら上方修正となっています。季節調整済みの系列のGDP成長率で見て、1次QEが前期比+5.0%、前期比年率で+21.4%から、2次QEでは前期比+5.3%、前期比年率22.9%でした。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率で+21.4%と1次QEから変更なし、という予想でしたが、やや上振れました。レンジの上限が+23.2%ですし、ほとんどサプライズはありません。前期比の伸び率は高くても、実額はまったく復活していません。すなわち、昨年2019年10月からの消費税率引上げ前の実質GDPの実額は年率換算で、2018年10月の山を過ぎて景気後退期に入っていたにもかかわらず、2019年4~6月期558.1兆円、7~9月期559.1兆円と560兆円近くを記録していましたが、消費税率を引き上げた途端に2019年10~12月期には548.7兆円と駆込み需要のの反動もあってアッサリと550兆円を割り込み、今年2020年1~3月期にも545.7兆円、さらに4~6月期には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応する緊急事態宣言も出て500.6兆円まで大きく落ち込みました。これらの流れの中で、10~12月期の527.1兆円ですから先は長そうです。さらに、COVID-19パンデミックは我が国でも第2波とも、第3波とも見なされていますが、欧州ではふたたびロックダウンに入った国もあり、足元の10~12月期は、国内のCOVID-19感染再拡大と海外のロックダウンに伴う輸出の影響もあって、明らかに成長率は減速します。さらに、回復の道のりは遠くなった気すらします。
本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、11月の景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲8.9ポイント低下の45.6を示し、先行き判断DIも▲12.6ポイント低下の36.5を記録しています。10月の経常収支は、季節調整していない原系列で+2兆1447億円の黒字を計上しています。貿易収支が黒字となっており、米国や中国向けの自動車輸出などが回復している一方、輸入は原油を中心に前年同月から減少を示しています。
本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から+0.5ポイント上昇して93.8を、また、CI一致指数も前月から+4.9ポイント上昇して89.7を、それぞれ記録しています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、7月統計まで12か月連続で「悪化」だったんですが、先々月の8月統計から「下げ止まり」に上方修正され、今月の基調判断は据え置かれています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
景気指数10月4.9ポイント上昇 5カ月連続改善
内閣府が7日発表した10月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比4.9ポイント高い89.7となった。上昇は5カ月連続。新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込む前の2月の水準にはまだ戻っていない。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目全てが上昇に寄与した。19年10月の消費税率引き上げ後に消費が低迷した反動から、20年10月の小売業の商業販売額の前年比が大幅にプラスになり、全体を押し上げた。投資財や耐久消費財の出荷指数も大きく改善した。
一致指数の動きから機械的に算出する景気の基調判断は3カ月連続で「下げ止まり」を示した。
数カ月先の景気の動きを表すとされる先行指数は、前月より0.5ポイント高い93.8となった。上昇は5カ月連続。上げ幅は前月の4.2ポイントより縮小した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に認定しています。
CI一致指数を個別系列の寄与度に従って少し詳しく見ると、 商業販売額(小売業)(前年同月比)が+1.07ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.97ポイント、耐久消費財出荷指数が+0.68ポイント、輸出数量指数が+0.60ポイントなどとなっています。前月からの変化がプラスを記録したのは、指数の直近の谷である今年2020年5月を底として、6月から5か月連続です。ただし、3か月後方移動平均は7月からプラスに転じている一方で、7か月後方移動平均はようやく10月統計からプラスとなっています。というのは、基調判断の基準で、「下げ止まり」の次は「上方への局面変化」となっていて、7か月後方移動平均(前月差)の符号がプラスに変化し、かつ、プラス幅(1か月、2か月または3か月の累積)が1標準偏差分以上必要なのですが、まだ、プラス幅が足りないんだろうと私は考えています。なお、7か月後方移動平均の振幅の目安は0.76ポイントとされています。早ければ来月公表の11月統計から基調判断が変更される可能性があるわけですが、上方への局面変化の定義は「事後的に判定される景気の谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す。」ですから、今年2020年4~6月期に景気の谷を超えたと考えるのは、十分理由があることです。ただ、方向として上向きである景気局面はそうなんですが、水準であるボリューム感を把握するために新型コロナウィルス感染症(COVID-19)前の指数を振り返ると、昨年2019年12月のCI一致指数が94.2、今年2020年1月が94.6、2月が94.5であるのに対して、直近で利用可能な10月統計でもまだ89.7ですから、景気回復の先はまだまだ長い、と覚悟すべきです。
とても旧聞に属する話題ながら、12月1日にユーキャン新語・流行語大賞が「3密」に決定しています。それ以外のトップテンは以下の通りです。
これらの中では、私は「鬼滅の刃」押しだったんですが、選に漏れました。毎年、広い意味での芸人さんが入って、今年は「フワちゃん」なんでしょうが、ここに入選すると寿命が短いような気もします。さて、今回の「フワちゃん」やいかに?
今週の読書は、経済の専門書2冊と大学のテキストの補完として読んだ日本経済の概説書、ムック本1冊に、さらに、経済関係も含めて新書が2冊の計6冊です。以下の通りです。なお、実は、別途、12月に入って年末年始のホリデーシーズンが近づき、学生諸君に新書を中心に読書案内を学内サイトにポストしました。年末年始休みは2週間ほどあるんですから、新書の1冊くらいは読んで欲しいと期待しています。機会があれば、この読書案内をブログでも紹介したいと考えています。
まず、エマニュエル・サエズ & ガブリエル・ズックマン『作られた格差』(光文社) です。著者2人は経済学の研究者であり、『21世紀の資本』で有名になったピケティ教授との共同研究をしていたのではなかったかと記憶しています。英語の原題は The Triumph of Injustice であり、2019年の出版です。ということで、租税の面からの不平等を分析しています。すなわち、米国のローズベルト政権下のニューディール政策から直接税の限界税率は極めて高率に設定されていたんですが、それが、レーガン政権のあたりからラッファー曲線の呪縛もあって、累進性が弱められるとともに、租税回避が進み、不平等が大きく進んだ、と結論されています。まったく、その通りです。「パナマ文書」で明らかにされたように、租税回避が進めば、行政当局が諦めてしまって、現状追認の税率引下げとか累進性の低下を招く、というわけです。最近では、OECDでデジタル課税も含めて、Base Erosion and Profit Shifting (BEPS) の議論が進んでおり、私のブログでも今年2020年10月15日付けで取り上げたところです。我が国に限らず、税制は極めて複雑ながら、基本となるのは本書でも指摘されている通り、税率の弾性値が小さいところから取る、すなわち、俗にいわれるように「取りやすいところから取る」ということになります。従って、資本課税は資本の海外逃避が容易という意味で空洞化を招きかねない一方で、労働についてはそうそう国外に逃避することはないですし、消費課税についてはさらに国内消費が海外に漏れる恐れが少ないために、ついつい資本より労働に、そしてさらには消費に偏向した課税体系になっている、といえます。本書では基本的に、米国を対象にしていることから、国際協調のようなものはスコープに入っていないんですが、繰り返しになるものの、OECD/G20ジョイントのBEPSプロジェクトも含めて、米国ではすでに、GILTI=Global Intangible Low-Taxed Income 合算課税というシステムを採用しているわけですから、そういった国際協調があればどうなるか、というのも含めて欲しかった気がします。でも、高額所得に対する累進性の強化、すなわち、高額所得に対しては極めて高率の限界税率を課すことの正当性については、とてもクリアに論証されていました。ただ、やや価値判断を含む論証であり、正しい経済理論が政策に反映されるわけではない、という点については、自由貿易なんかでも見られるとおりであり、長い期間を必要とするんでしょうが、正しい経済政策、不平等を減ずる政策への方向性を私は強く支持します。
次に、清家篤・風神佐知子『労働経済』(東洋経済) です。著者2人は慶應義塾大学の労働経済学の研究者です。本書は2部構成であり、第1部がマイクロな基礎理論、第2部はマクロ政策も含めた実践編となっていますが、どちらもとても標準的な労働経済学の議論が展開されています。特に、バックグラウンドにあるモデルが私レベルでも明快に理解できるようになっており、特に、ノーベル賞受賞者のベッカー教授の人的資本論や結婚の経済理論については、とても判りやすかったと受け止めています。ただし、レベル感が今ひとつハッキリしません。第1部の最初の方なんかは、学部レベルよりもさらに初学者のレベルに近いんですが、引用文献がモロにジャーナル論文だったりしますので、私の専門分野ではないので、十分な判断はできないものの、学部生にはややハードルが高いものも含まれていそうな気がします。ただ、引用文献まで入らなくても、まったくの初学者からマイクロな労働経済学を十分に把握することができそうな気がします。実際の統計データに基づいてプロットされたグラフや表などとともに、無差別曲線なども概念的なグラフとしてていねいに解説されており、専門外の私なんぞにもとても理解しやすくなっています。また、基礎的な理論がしっかり解説されているだけではなく、応用編では日本経済が直面する諸課題もバランスよく取り入れられており、高齢者雇用、女性雇用に加えて、オックスフォード大学の研究者が試算したAIやコンピュータによる職の代替可能性も紹介されています。ただ、大学の研究者なのですから、もう少し若年層の職や雇用についても応用編で取り上げて欲しかった気がします。高度成長期の雇用政策や雇用慣行では、中核労働者を成す中年男性雇用者が企業にメンバーシップ的に所属意識を高められ、長時間労働や無制限のロイヤリティを示すために過酷な労働を強いられていた一方で、配偶者が育児や高齢の親の介護、もちろん、炊事洗濯などの家事全般を受け持つ、というやや偏った性別の役割分担があり、中核労働者ではない縁辺労働者である学生アルバイトや主婦パートタイマーが不況期には雇用の調整弁となり、不況がもしも長引けばそのまま労働市場から退出して、そのため、失業率が高まらない、というシステムとなっていました。また、いわゆる世代効果として、高校や大学を卒業して新卒一括採用される時期が景気後退期に当たれば、生涯賃金にまで響きかねない所得格差を生む慣行が広く観察されたことも事実ですから、学生や若年層、さらには、可能な範囲で、フリーターやニート、などの若年雇用の問題も幅広く取り上げて欲しかった気がします。
次に、小峰隆夫・村田啓子『最新 日本経済入門[第6版]』(日本評論社) です。著者2人は、官界出身のマクロ経済研究者です。基本的に、大学の授業のテキストを意図して作成されている本であると私は認識しています。現時点で、私が授業で教科書として用いているのは、浅子和美・飯塚信夫・篠原総一 [編]『入門・日本経済論[第6版]』(有斐閣)なんですが、いろいろと考えを巡らせて参考までに読んでみました。ただ、結論からいうと、私の授業スタイルを前提にすれば今のテキストの方がベターであると考えています。私自身も考えるところがあるんですが、日本経済論を教えるに当たって、ひと通りの戦後の日本経済の歩みは、特に、戦後GHQのいくつかの経済改革、すなわち、財閥解体や農地開放や労働民主化、さらに、高度成長期に形つくられた慣行、すなわち、終身雇用とまで呼ばれた長期雇用やそれに応じた年功賃金は、例えば、年金制度でサラリーマン雇用者の妻がどうして年金保険料負担なしに年金給付を受けられるか、とか、夫婦と子ども2人のモデル家系をもとにした制度設計が山ほどあるわけですから、それなりに歴史的な経緯を把握しておく必要があると思います。日本評論社版では第2章にあるだけですが、有斐閣版では3章を割いています。また、日本評論社版では物価と為替レートと金融政策が連続しない章でバラバラに取り上げられています。細かい点では、例えば、貿易の章でGATTの下で多国間関税率交渉、いわゆるラウンドが7回に渡って成功した旨の記述があるなら、その7回のラウンドのリストくらいは欲しいんですが、それがなかったりする不便さもあります。そして、何よりも、私は一貫して、経済について解説する場合、バックグラウンドにあるモデルを重視するんですが、日本評論社版では経済の解説に当たって、いくつかの要因を並べるのに忙しくて、やや一貫していないモデルをもとにした説明と受け取られかねない記述が散見されます。ひとつの経済事象について、多面的に見ることも含めて、部分均衡ではなく一般均衡の立場から、複数の要因を並べて解説することはとても重要だと思いますが、その背景となるモデルについては一貫性が求められます。そうでなければ説得力が落ちると感じるのは私だけではないような気がします。最後に、有斐閣版では専門分野のエコノミストがチャプターを分担する形で書き上げていますが、やっぱり、少数のエコノミストが全体を通して教科書を書くのはどうもムリがあるような気がしてなりません。もっとも、この点は私自身がその能力ないから、そう思うだけかもしれません。
次に、高橋源一郎『「読む」って、どんなこと?』(NHK出版) です。作者は、小説家であり、長らく明治学院大学の文学の研究者でもありました。本書では、小学校の国語教科書の抜粋から始まって、6時限目までの授業のような体裁の章割りで続きます。ただし、内容はかなり高度です。すなわち、1時間目のオノ・ヨーコ『グレープフルーツ・ジュース』もそうですが、2時間目の鶴見俊輔『「もうろく帖」後篇』に至っては、高校生でも読みこなせないような気すらします。もちろん、3時間目の永沢光雄『AV女優』は、著者自身も学校では教えないと言い切っていますし、4時間目に坂口安吾『天皇陛下にささぐる言葉』、5時間目に武田泰淳『審判』などは、決して一定の思想傾向ではなく、その時代背景を反映しているだけなのでしょうが、人によっては「危険思想」に分類する場合もありそうな気すらします。ただし、こういったアブナい文章を紹介した後、最後の6時間目は藤井貞和の詩「雪、nobody」でゆったりした気分にさせてくれます。私のようなレベルの低い読者には、とてもついていけないような、ある意味で、高度な内容を満載しています。少なくとも、かなりの程度に文章を読む訓練を受けていて、それなりに感受性も磨かれていないと、何のことだかわけが判らない気すらします。私は図書館で借りて読んだのでダメでしたが、おそらく、ちゃんと手元において定期的に何度も読み返すべき本だと考えます。
次に、伊藤周平『消費税増税と社会保障改革』(ちくま新書) です。著者は、厚生労働省や国立社会保障・人口問題研究所などを経て、現在は社会保障法の研究者です。多面的に、社会保障や消費税をはじめとする税制に関する批判を繰り広げています。序章では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響を受ける前から、すなわち、昨年2019年10月の消費税率引上げから経済が大きな打撃を受けていた、さらに、その前からすでに景気後退局面に入っていたわけですが、そういった需要不足の景気後退局面に入った後で、追い打ちをかけるような消費税率の引上げ、さらに、今年に入ってからのCOVID-19による需要供給両面での経済的な影響などから、医療をはじめとする社会保障が極度に疲弊していることは事実です。ただ、本書では、最初に「多面的に批判」と書きましたが、とても理にかなった批判ながら、惜しむらくは、体系的な全体像ではなく、本書の章別構成を見ても理解できるように、年金・医療・介護に加えて、子育て支援などという形で、現行の社会保障制度を前提にした部分的な、というか、各個撃破的な批判にとどまっています。要するに、基本は政府と同じ土俵の上で、個別政策を批判するという形でしかなく、本来の憲法に従った社会保障のあるべき姿を示し切れていない不満が残ります。その昔の「野党的な何でも反対論」とまではいいませんが、確かに、個別問題を個別に批判して、個別の解決を図る、というのもひとつの方法論として成り立つ可能性は否定しませんが、エコノミストとしては、特に、マクロ経済を考える場合は、いわゆる「合成の誤謬」についても配慮しなければなりませんし、もう少し全体像を背景に持った批判を求めたいと思います。
最後に、島田裕巳『捨てられる宗教』(SB新書) です。著者は、ヤマギシ会の経験もあり、宗教に関する発言も多く出版しています。本書では、我が国に限らず西欧の先進各国で、伝統的な宗教の信者が減少している現状を平均寿命の伸長による「死」への距離から論じようと試みています。すなわち、「死」が身近にあり、いつ死ぬかわからないような時代の死生観Aにあっては、宗教をそれなりに必要とした一方で、現在の日本が典型ですが、人生100年とか、本書の著者によれば人生110年時代を迎えて、死のない世界の死生観Bでは終活さえもが面倒になり、葬式は不要となって宗教は捨てられる、と結論しています。私も、ほのかに理解するところがあります。私自身が還暦の60歳を少し過ぎて、祖父母はすでに亡くなり、父も死んで母だけが残っているというご先祖の構成で、同級生や役所で同僚だった年齢の近い友人は、ほとんどがこの世に残っています。1人だけ役所の同期入庁者が亡くなりましたが、ほぼほぼ例外扱いといえます。そして、もちろん、祖父母や役所の諸先輩が亡くなった際には葬式が営まれるわけですが、どうも、不文律のような基準があって、80歳を過ぎると大規模な葬式はないようです。今年に入ってからも、役所で上司としてお仕えした著名エコノミストが亡くなりましたが、大学の知り合いとともに弔電を打った一方で、お通夜や葬式への出席はもちろん、供花やお香典も受け付けず、ただ、生前の交流関係を知りたいという趣旨で弔電のみ受け付ける、ということでした。こういった形で、「死」を感じない、あるいは、近親以外では葬式やお通夜にも出席しない、という意味での宗教離れが起きているのも実感します。逆に、現在の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの世の中で、宗教は何をしているのか、という気もします。もちろん、病気や科学で治癒を目指すものであって、医学が未発達だった過去の加持祈祷で治すわけではありませんが、人びとの心の平安のためになすべきことがないというのも、どうかとも思います。私は従来から主張しているように日本人としては信心深い方で、念仏を唱えることも少なくありません。宗教が必要とされる出番には、それなりの役割を果たして欲しいと考えているのは、私だけではないと思いたいです。
今夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。新型コロナウィルス(COVID-19)の影響から、非農業雇用者数は4月の大幅減の後、5月統計からはリバウンドして11月にも+245千人増を記録しています。同じく、失業率も一気に悪化した4月からのリバウンドが続き、6.7%に改善しています。でも、まだ、COVID-19前の昨年2019年11~12月や今年2020年2月には3.5%だったわけですから、それらと比べるとまだ2倍近いの水準であることも確かです。いずれも季節調整済みの系列です。まず、やや長くなりますが、USA Today のサイトから統計を報じる記事を最初の9パラだけ引用すると以下の通りです。
Economy adds 245,000 jobs in November as unemployment dips to 6.7% while COVID-19 rages across country
U.S. employers added a disappointing 245,000 jobs in November amid a surge in COVID-19 cases and more state business constraints as well as the looming halt of extended jobless benefits and other federal lifelines for millions of Americans.
The unemployment rate fell from 6.9% to 6.7%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 486,000 jobs were added last month.
Job gain have slowed for five straight months since peaking at 4.8 million in June. The nation has recovered slightly more than half of the 22 million jobs wiped out in the health crisis as states have reopened restaurants, shops and other businesses shuttered by the outbreak, and brought back many furloughed workers.
But the rehiring has been offset by a resurgent virus across most of the country. This week, the nation's one-day death toll passed 3,000 and hospitalizations topped 100,000, both unprecedented nadirs in the crisis. California announced a new stay-at-home order Thursday and states such as Illinois, Michigan and Louisiana have imposed new restrictions on restaurants, gyms and other outlets.
The number of businesses open and employees working fell sharply in November, according to Homebase, which provides employee scheduling software.
Partly as a result, clawing back the remaining jobs shed during the outbreak could take several years, economists say. More temporary job losses are becoming permanent. Many businesses are downsizing or closing for good. Sectors such as business travel and event planning could be diminished for years to come.
Last month, the number of Americans on temporary layoff fell by 441,000 million to 2.8 million as furloughed workers were rehired. About a quarter of unemployed workers said they were on temporary layoff, down from a third the previous month.
The ranks of workers permanently laid roughly held steady at 3.7 million.
やや長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。
米国の失業率については、4月統計で14.7%と一気に悪化した後、5月13.3%、6月11.1%そして、7月10.2%まで2ケタが続いた後、8月には8.4%と10%を割り込み、9月7.9%、10月には6.9%となりましたが、11月には改善幅がわずかに0.2%ポイントまで縮小してしまい、6.7%を記録しています。COVID-19パンデミック前には3%台半ばの水準であっただけに、回復が遅い気がしてなりません。リバウンドが徐々に減衰して来ています。米国非農業部門雇用者の伸びも同様で、4月に前月差で▲2000万人超の減少を見た後、5月+2725千人増、6月+4871千人増、7月+1769千人増、8月+1493千人増、9月+711人増、10月+610千人増、と急速に縮小し、11月にはとうとう+245千人増と、失業率の改善幅も、非農業部門雇用者の増加幅も、急速に改善幅が縮小しています。Bloombergの記事によれば、市場の事前コンセンサスは非農業部門雇用者の伸びは+460千人だったそうですから、物足りない感じが強くしています。なお、6月の雇用改善が大きかったのは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する米国の対応に起因するんだろうと思います。いずれにせよ、米国の雇用改善のペースは明らかに落ちており、従って、COVID-19前の水準への米国経済の回復にはかなりの期間を要する、と見るエコノミストが多いのであろうと考えられます。私もそうです。
今週火曜日12月1日に公表された法人企業統計をはじめとして、ほぼ必要な統計が出そろって、来週月曜日の12月8日に7~9月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で、4~6月期にはかつてない大きなマイナス成長を記録しましたが、その大底から7~9月期にはリバウンドを見せて、1次QEでは大きなプラス成長となりました。2次QEへの修正はどうなるのでしょうか。ということで、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の10~12月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。しかしながら、法人企業統計のオマケで予想も引き続き少なくありませ。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。
機関名 | 実質GDP成長率 (前期比年率) | ヘッドライン |
内閣府1次QE | +5.0% (+21.4%) | n.a. |
日本総研 | +5.1% (+22.0%) | 7~9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が上方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+22.0%(前期比+5.1%)と、1次QE(前期比年率+21.4%、前期比+5.0%)から小幅上方修正される見込み。 |
大和総研 | +5.0% (+21.6%) | 7-9月期GDP2次速報(12月8日公表予定)では、実質GDP成長率が前期比年率+21.6%と、1次速報(同+21.4%)から僅かに上方修正されると予想する。上方修正の主因は設備投資のマイナス幅の縮小が見込まれることである。また、公共投資も仮置きとなっていた 9月分が反映され、上方修正されるとみられる。 |
みずほ総研 | +5.1% (+22.1%) | 10~12月期については、個人消費・輸出を中心にプラス成長が続くとみているが、足元の感染再拡大が下押し要因となり、伸びは鈍化する見通しだ。 個人消費は、10月に入ってからもGo To キャンペーン事業が押し上げ要因となり増加基調が続いていた。しかし、11月以降に北海道や関東・近畿・中部の3大都市圏を中心に感染が再拡大しており、政府は大阪・札幌着の旅行についてGo To トラベルの一時除外を決定したほか、東京都においても飲食店に対して営業時間短縮の要請を行うことを余儀なくされている。政府・自治体による経済活動の制限強化に加え、感染増加を巡る報道が人々を萎縮させる情報効果により外出自粛の動きが広まることで、11月後半から12月にかけてサービス消費は弱含む可能性が高い。冬のボーナスが大幅マイナスとなることも下押し要因となるだろう(みずほ総合研究所の予測では、民間企業の一人当たり支給額は前年比▲7.5%、民間・公務員合わせたボーナス支給総額は前年比▲9.3%と、リーマンショック後以来の大幅マイナスとなる見込みである)。 輸出は、9月までの回復基調の継続によってゲタが高くなっていることに加え、10月も米国向けの自動車輸出や中国向けのIT関連輸出などが牽引してプラスで推移した。11月以降は、欧州の感染拡大が輸送機械や資本財を中心に下押し要因となるものの、EU向け輸出のシェア(1割強)は米国や中国と比較すれば小さい。今回の欧州のロックダウンでは工場の稼働が続いていることも踏まえれば、輸出全体としては増勢を維持するとみている。自動車の増勢は鈍化に向かうものの、IT関連などが下支えし、10~12月期の輸出は前期比で高めの伸びを予想する。 一方、設備投資は横ばい圏での推移を見込んでいる。7~9月期の機械受注・民需(除く船舶・電力)は前期比▲0.1%とほぼ横ばいで推移しており、10~12月期の設備投資は低迷が続くとみられる。 治療薬・ワクチンの普及までに一定の時間を要する中、経済活動の回復は緩やかなものとならざるを得ない。当面の日本経済は、感染が収まるとモビリティ(商業施設や職場への外出状況)が回復してサービス消費が増加し、感染が再拡大するとモビリティが縮小してサービス消費も減少するといった動きを繰り返す「ノコギリ型」での推移が続くだろう。足元は、感染再拡大に伴う下振れの動きが出てきつつある状況だが、重症者数の増加で医療体制がひっ迫する懸念が強まっており(第1・2波と異なり、足元では入院者の多くが中等症以上の高熱・呼吸機能障害であり、重症化リスクが高い)、予断を許さない状況だ。引き続き、感染状況と政府の対応(Go To キャンペーン事業の運用見直しなどの規制強化)の動向を注視していきたい。 |
ニッセイ基礎研 | +5.0% (+21.4%) | 12/8公表予定の20年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比5.0%(前期比年率21.4%)になると予測する。1次速報の前期比5.0%(前期比年率21.4%)と変わらないだろう。 |
第一生命経済研 | +5.0% (+21.6%) | 先行きについても設備投資には期待し難い。新型コロナウイルスの問題収束時期がまだ見通せず、先行き不透明感の極めて強い状況が続くとみられることに加え、企業業績が低水準にとどまることで、投資絞り込みの動きが継続することが予想される。先行き、設備投資の持ち直しペースは緩慢なものにとどまるとみられる。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | +5.0% (+21.4%) | 2020年7~9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+5.0%(年率換算+21.4%)と1次速報値の+5.0%(年率換算+21.4%)から修正されない見込みである。 |
三菱総研 | +4.9% (+21.0%) | 2020年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+4.9%(年率+21.0%)と予測します。 |
ということで、一昨日の法人企業統計を見た際には、私は直観的に1次QEから2次QEには下方修正、と感じたのですが、上方修正を予想するシンクタンクも少なくありません。でも、いずれにせよ、修正幅は小さそうで、前期比+5%、前期比年率+20%というラインではないかと受け止めています。先行き、というか、そもそも、足元の景気から目先の年明けについてすら極めて不透明感が強いといわざるを得ません。もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響です。日本に限らず、各国政府とも、夏くらいまでにCOVID-19の封じ込めに成功したようなつもりになって、気温が下がってインフルエンザなどが流行する季節のことを忘れて、日本のGoToキャンペーンをはじめとして経済活性化へ舵を切ったものですから、季節性の要因ともおそらく相まって、第2波、第3波のパンデミックが生じていることは明らかに観察される通りです。欧州では、再びロックダウンに入ったケースも見受けられる一方で、我が国の場合、「綸言汗の如し」といの言い回しがありますが、政府の「無謬性神話」が顔を出して間違った政策を引っ込めることも出来ず、内閣が立ち往生しているようにすら見えます。
私の見方はすでに先週月曜日11月23日に、世界医学サミット(World Health Summit)におけるグテーレス国連事務総長のビデオ・メッセージを引用しつつ示したように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止と経済活動の両立を目指すという方針は根本的に間違っている、考えています。ですから、まずは、国民の健康、というか、グテーレス国連事務総長の言葉を借りればウィルスからの保護 (Protecting people from the virus) を実現することが政府の第1の役割です。そのために、職を失ったり、経済活動が停滞したりするのであれば、そこに的を絞って経済的な援助の手を差し伸べるべきです。例えば、何度か引用した Guerrieri,Veronica Guido Lorenzoni, Ludwig Straub, and Iván Werning (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" NBER Working Paper 26918 でも、人的接触が多い部門をシャットダウンして、影響を受ける労働者に満額の保障を提供することでファーストベストを達成できる "closing down contact-intensive sectors and providing full insurance payments to affected workers can achieve the first-best allocation" と結論しています。宿泊や飲食といったCOVID-19の影響が大きくて、人的接触の多い部門に補助金をつけて人を向かわせる政策は完全な間違いと考えるべきです。
最後に、下のグラフは、一番長々と引用したみずほ総研のリポートから引用しています。
日本時間の昨夜、経済協力開発機構(OECD)から「OECD経済見通し」OECD Economic Outlook, December 2020 が公表されています。世界経済の成長率は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で今年2020年▲4.2%と落ち込んだ後、来年2021年はリバウンドを示して+4.2%、そして、2021年10~12月期には世界経済(GDP)の水準がCOVID-19パンデミック前の2019年10~12月期の水準に戻ると指摘し、さ来年の2022年は+3.7%成長を見込んでいます。まず、Reuters のサイトから記事の最初の3パラだけを引用すると以下のとおりです。
OECD sees global economy turning the corner on coronavirus crisis
The outlook for the global economy is improving despite a second wave of coronavirus outbreaks in many countries as vaccines emerge and a Chinese-led recovery takes hold, the OECD said on Tuesday.
The global economy will grow 4.2% next year and ease to 3.7% in 2022, after shrinking 4.2% this year, the Organisation for Economic Cooperation and Development said in its latest Economic Outlook.
After a second wave of infections hit Europe and the United States, the Paris-based policy forum trimmed its forecasts from September, when it expected a global contraction of 4.5% before a 5% recovery in 2021. It did not have a 2022 forecast at the time.
最初の3パラだけですので、やや素っ気ない印象ですが、リポートから図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。ただし、今回の見通しについては、2022年までをスコープとしているんですが、ハッキリいって、現下の第3波のパンデミックすら見通せない中で、2022年の見通しは極めて不透明で不確定要素が大きい、と私は考えていますので、2021年までに絞って概観しておきたいと思います。
まず、リポートから見通し総括表として、p.13 Table 1.1. A gradual but uneven global recovery を引用すると上の通りです。中国の力強い回復に助けられて、世界経済(GDP)は2021年末までにCOVID-19パンデミック前の水準に戻るものの、国と地域によって経済パフォーマンスは大きく異る、"Overall, by the end of 2021, global GDP would be at pre-crisis levels, helped by the strong recovery in China, but performance would differ markedly across the main economies." と指摘しています。上のテーブルの通り、繰り返しになりますが、世界経済(GDP)の成長率は今年2020年▲4.2%の後、来年2021年はリバウンドを示して+4.2%成長を記録すると見込まれていますが、先進国であるOECD加盟国では2020年▲5.5%と大きく落ち込む割には、2021年は+3.3%とリバウンドが小さい一方で、OECD加盟国では非加盟国では2020年▲3.0%のマイナス幅を上回って、2021年には+5.1%成長と予想されています。我が日本を見ると、2020年にはOECD加盟国並みの▲5.3%のマイナス成長を記録するものの、来年2021年はわずかに+2.3%成長にとどまるとの見通しです。
次に、リポートから国と地域で経済パフォーマンスが異なる例として、p.30 Figure 1.13. Growth is projected to remain moderate with long-lasting costs のうちの C. GDP in 2021Q4 relative to 2019Q4 を引用すると上の通りです。タイトルそのままで、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期とその2年後の2021年10~12月期のGDPの水準を比較したもので、中国が突出して寄与度が高いのが見て取れます。世界全体ではオレンジの棒グラフで何とかプラスとなっていますが、先進国の中ではプラスなのは米国くらいのもので、オーストラリア以下、もちろん、日本も含めて、軒並み先進国の多くは2年ではパンデミック前の水準に戻らない、と見込まれています。
最後に、リポートから格差拡大の例として、p.27 Figure 1.11. Lower-skilled and low-wage workers have been particularly affected を引用すると上の通りです。左のパネルはオーストラリア、右はカナダの例で、2か国だけなんですが、職種や賃金階層ごとに労働需要へのCOVID-19の影響が異なり、サービス部門、あるいは、低賃金階層に悪影響が大きい、The divergence in outcomes across sectors has also been reflected in differences in labour demand by types of occupation and by earnings levels. と指摘しています。
最後の最後に、本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。季節調整済みの系列で見て、前月から+0.1ポイント上昇して33.7と、3か月連続で前月を上回りましたが、改善幅が極端に小さくなりました。消費者態度指数のコンポーネントのうち、雇用環境がとても低迷していて家計消費の源泉だけに懸念されます。
本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。雇用統計は10月の統計です。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は5四半期連続の減収で前年同期比▲11.5%減の309兆2524億円、経常利益も6四半期連続の減益で▲28.4%減の12兆3984億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで▲11.3%減の9兆6369億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比▲1.2%減の11兆4247億円となっています。雇用統計については、失業率は前月からわずかに0.1%ポイント悪化して3.1%、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント改善して1.04倍と、雇用は徐々に悪化から下げ止まりを示しています。いずれも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が和らいでいるものと考えるべきです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
設備投資10.6%減、7-9月 経常利益は28.4%減
財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の設備投資は前年同期に比べ10.6%減の10兆8006億円だった。新型コロナウイルス禍による先行きの不透明感から、企業は設備投資に慎重になっている。経常利益は28.4%減の12兆3984億円と、46.6%減った4~6月期からは減少幅が縮小した。
設備投資を業種別にみると、製造業は10.3%減の3兆8864億円、非製造業は10.8%減の6兆9143億円だった。季節調整した全産業の設備投資は4~6月期から1.2%減った。
全産業の売上高は前年同期比11.5%減の309兆2524億円だった。コロナ禍で11年ぶりの大幅な落ち込みを記録した4~6月期よりは減少幅が縮小した。緊急事態宣言の解除による経済活動の再開を反映した。
短期借入金は11.8%増の174兆3479億円となった。当面の運転資金を確保する動きが広がっている。
10月の完全失業率3.1% 求人倍率は1.04倍
総務省が1日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は3.1%で、前月比0.1ポイント上昇した。2カ月ぶりに悪化し、2017年5月以来の水準となった。厚生労働省が同日発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.04倍で前月から0.01ポイント上昇した。1年6カ月ぶりに上昇に転じたものの1倍を割る地域が多い。雇用情勢は依然として厳しい。
10月の完全失業者数(季節調整値)は214万人で8万人増えた。非正規労働者の雇用環境が特に厳しく、前年同月に比べ85万人減少し、8カ月連続で減った。就業者数(同)は3万人増加した。正社員は9万人増え、5カ月連続で増加した。
休業者は過去最高だった4月(597万人)から大幅に減り、170万人だった。19年11月以来の水準で、ほぼ新型コロナウイルスの感染拡大前に戻った。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1月から9月まで9カ月連続で低下していた。10月は企業からの有効求人が前月から2.2%増え、働く意欲のある有効求職者は1.1%増えた。
就業地別の有効求人倍率は東京都や大阪府が7月から4カ月連続で1倍を切った。福岡県も5カ月連続で1倍を割り込むなど都市部で厳しい情勢が続く。最高の福井県が1.58倍で、最低の沖縄県は0.73倍だった。都道府県ごとに感染拡大の度合いが異なり、雇用情勢に違いがでている。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で23.2%減った。宿泊・飲食サービス業(38.2%)や生活関連サービス・娯楽業(35.4%)で減少幅が大きい。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は11月27日時点で7万4055人だった。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月ないし4~6月期を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。
景気拡大が続いていながらも、雇用者の方はなかなか賃金が上昇しない中でも、企業部門だけは新自由主義的な経済政策による寄与もあって増収増益を続けて、利益準備金がばかり積み上がっていたんですが、やっぱり、さすがに新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は強烈であり、緊急事態宣言が出された4~6月期は企業部門も大きな減収減益を記録したんですが、79月期には売上・経常利益とも底を打って上昇を始めています。上のグラフのうちの上のパネルで示したように、2018年10~12月期を山として景気後退局面に入るわけですが、その直前の2018年上半期の大雑把に売上360兆円、経常利益22兆円のレベルから、2020年4~6月期には売上300兆円、経常利益10兆円のレベルに落ち込みましたが、7~9月期には売上310兆円、経常利益15兆円まで回復しています。売上はまだまだという感じでしょうが、経常利益は緊急事態宣言の時期に落ちた分の⅓以上を回復したことになります。加えて、設備投資にしても、景気後退期に入って大きく減少しているのがグラフから見て取れます。米国サブプライム・バブル末期に近い2006年末や2007年年初には15兆円近かった設備投資が、直近では11兆円を少し超えるレベルまで減少しています。さらに、設備投資は売上や経常利益のように底を打ったわけではありませんが、人手不足への対応という観点から、生産や小売販売などは今年2020年5月を底に緩やかながら回復の兆しを見せ始めている一方で、雇用は回復軌道に戻るまでもう少し時間がかかる可能性があり、雇用、というか、人手不足との見合いで投資がどこまで減少するか、あるいは、底堅いかには、私もそれほどの自信があるわけではありません。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。まず、失業率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは3.1%だったのでジャストミートした一方で、有効求人倍率の日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1.03倍でしたので、実績は市場の事前コンセンサスを上回って上振れており、そこそこ雇用は底堅い、と私は認識しています。人口減少の経済的影響がまだ残っている可能性があるわけです。ただし、引用した記事にもあるように、全国レベルではまだ有効求人倍率は1倍を上回っていますが、都道府県別では1倍を割り込んでいる地域も少なくなく、例えば、首都圏の中でも東京都以外の千葉県、埼玉県、神奈川県は1倍どころか0.9倍を下回っていますし、関西圏でも滋賀県、兵庫県、和歌山県は1倍を下回っています。しかし、有効求人倍率が底を打った可能性があることは確かであり、生産や消費から少し遅れて雇用も改善を示す可能性はあります。他方で、現在の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は再びロックダウンに近い措置を必要とする可能性も否定できず、こういった経済外要因は何とも不透明です。
本日公表の法人企業統計などを受けて、来週火曜日の12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私の直感では下方修正されると見ているんですが、大きな修正はなさそうです。また日を改めて、シンクタンクなどの情報を取りまとめたいと思います。
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