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2020年12月 1日 (火)

早くも底を打ったように見える法人企業統計と雇用統計をどう見るか?

本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。雇用統計は10月の統計です。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は5四半期連続の減収で前年同期比▲11.5%減の309兆2524億円、経常利益も6四半期連続の減益で▲28.4%減の12兆3984億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで▲11.3%減の9兆6369億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比▲1.2%減の11兆4247億円となっています。雇用統計については、失業率は前月からわずかに0.1%ポイント悪化して3.1%、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント改善して1.04倍と、雇用は徐々に悪化から下げ止まりを示しています。いずれも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が和らいでいるものと考えるべきです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

設備投資10.6%減、7-9月 経常利益は28.4%減
財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の設備投資は前年同期に比べ10.6%減の10兆8006億円だった。新型コロナウイルス禍による先行きの不透明感から、企業は設備投資に慎重になっている。経常利益は28.4%減の12兆3984億円と、46.6%減った4~6月期からは減少幅が縮小した。
設備投資を業種別にみると、製造業は10.3%減の3兆8864億円、非製造業は10.8%減の6兆9143億円だった。季節調整した全産業の設備投資は4~6月期から1.2%減った。
全産業の売上高は前年同期比11.5%減の309兆2524億円だった。コロナ禍で11年ぶりの大幅な落ち込みを記録した4~6月期よりは減少幅が縮小した。緊急事態宣言の解除による経済活動の再開を反映した。
短期借入金は11.8%増の174兆3479億円となった。当面の運転資金を確保する動きが広がっている。
10月の完全失業率3.1% 求人倍率は1.04倍
総務省が1日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は3.1%で、前月比0.1ポイント上昇した。2カ月ぶりに悪化し、2017年5月以来の水準となった。厚生労働省が同日発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.04倍で前月から0.01ポイント上昇した。1年6カ月ぶりに上昇に転じたものの1倍を割る地域が多い。雇用情勢は依然として厳しい。
10月の完全失業者数(季節調整値)は214万人で8万人増えた。非正規労働者の雇用環境が特に厳しく、前年同月に比べ85万人減少し、8カ月連続で減った。就業者数(同)は3万人増加した。正社員は9万人増え、5カ月連続で増加した。
休業者は過去最高だった4月(597万人)から大幅に減り、170万人だった。19年11月以来の水準で、ほぼ新型コロナウイルスの感染拡大前に戻った。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1月から9月まで9カ月連続で低下していた。10月は企業からの有効求人が前月から2.2%増え、働く意欲のある有効求職者は1.1%増えた。
就業地別の有効求人倍率は東京都や大阪府が7月から4カ月連続で1倍を切った。福岡県も5カ月連続で1倍を割り込むなど都市部で厳しい情勢が続く。最高の福井県が1.58倍で、最低の沖縄県は0.73倍だった。都道府県ごとに感染拡大の度合いが異なり、雇用情勢に違いがでている。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で23.2%減った。宿泊・飲食サービス業(38.2%)や生活関連サービス・娯楽業(35.4%)で減少幅が大きい。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は11月27日時点で7万4055人だった。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月ないし4~6月期を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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景気拡大が続いていながらも、雇用者の方はなかなか賃金が上昇しない中でも、企業部門だけは新自由主義的な経済政策による寄与もあって増収増益を続けて、利益準備金がばかり積み上がっていたんですが、やっぱり、さすがに新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は強烈であり、緊急事態宣言が出された4~6月期は企業部門も大きな減収減益を記録したんですが、79月期には売上・経常利益とも底を打って上昇を始めています。上のグラフのうちの上のパネルで示したように、2018年10~12月期を山として景気後退局面に入るわけですが、その直前の2018年上半期の大雑把に売上360兆円、経常利益22兆円のレベルから、2020年4~6月期には売上300兆円、経常利益10兆円のレベルに落ち込みましたが、7~9月期には売上310兆円、経常利益15兆円まで回復しています。売上はまだまだという感じでしょうが、経常利益は緊急事態宣言の時期に落ちた分の⅓以上を回復したことになります。加えて、設備投資にしても、景気後退期に入って大きく減少しているのがグラフから見て取れます。米国サブプライム・バブル末期に近い2006年末や2007年年初には15兆円近かった設備投資が、直近では11兆円を少し超えるレベルまで減少しています。さらに、設備投資は売上や経常利益のように底を打ったわけではありませんが、人手不足への対応という観点から、生産や小売販売などは今年2020年5月を底に緩やかながら回復の兆しを見せ始めている一方で、雇用は回復軌道に戻るまでもう少し時間がかかる可能性があり、雇用、というか、人手不足との見合いで投資がどこまで減少するか、あるいは、底堅いかには、私もそれほどの自信があるわけではありません。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。まず、失業率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは3.1%だったのでジャストミートした一方で、有効求人倍率の日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1.03倍でしたので、実績は市場の事前コンセンサスを上回って上振れており、そこそこ雇用は底堅い、と私は認識しています。人口減少の経済的影響がまだ残っている可能性があるわけです。ただし、引用した記事にもあるように、全国レベルではまだ有効求人倍率は1倍を上回っていますが、都道府県別では1倍を割り込んでいる地域も少なくなく、例えば、首都圏の中でも東京都以外の千葉県、埼玉県、神奈川県は1倍どころか0.9倍を下回っていますし、関西圏でも滋賀県、兵庫県、和歌山県は1倍を下回っています。しかし、有効求人倍率が底を打った可能性があることは確かであり、生産や消費から少し遅れて雇用も改善を示す可能性はあります。他方で、現在の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は再びロックダウンに近い措置を必要とする可能性も否定できず、こういった経済外要因は何とも不透明です。

本日公表の法人企業統計などを受けて、来週火曜日の12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私の直感では下方修正されると見ているんですが、大きな修正はなさそうです。また日を改めて、シンクタンクなどの情報を取りまとめたいと思います。

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