年末年始の2週間に読んだ読書です。ただし、この年末年始の読書は、「鬼滅の刃」のコミック全23巻が中心で、また、中条あやみ主演のNHKドラマで話題になったことから、最近まで『閻魔堂沙羅の推理綺譚』の原作全7巻も読んでいましたので、それとは別枠の通常読書ということになります。このお正月は初詣に出かけることすらなく、ほぼほぼ家で引きこもっていましたから、私の場合、かなり大量の読書をこなしたように思います。ハッキリいって、以下に取り上げた数冊のうちの専門書や教養書については、それほど印象に残るいい読書をした気もしませんから、まあ、すでに忘れ始めているものもあり、簡単なコメントで済ませておきたいと思います。ただし、定評あるミステリ作家の東野圭吾と伊坂幸太郎によるエンタメ小説2冊は面白かったです。コチラは2冊とも大学生協の本屋さんで1割引きで買い求めたもので、買ったかいがありました。
![日本経済新聞社[編]『これからの日本の論点2021』(日本経済新聞出版) photo](http://pokemon.cocolog-nifty.com/dummy.gif)
まず、日本経済新聞社[編]『これからの日本の論点2021』(日本経済新聞出版) です。日本経済、日本企業、世界の3章に渡って、日経新聞の記者が23の論点を取り上げて、先行きの見通しなどをリポートしています。もっとも、脱炭素とか、ジョブ型の雇用とか、どうも誤解、というか、曲解に基づくリポートも見受けられます。第3章の世界の今後については、何分、米国大統領選挙の行方が判然としない段階だったものですから、決定的・断定的な結論が下せていません。バイデン大統領の就任後もしばらくはそうなのかもしれません。でも、米中関係が画期的に改善することもないのだろうという結論は、それなりに受け入れられやすい気もします。何といっても、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックの先行きが誰にもわからないものですから、日本も世界も、経済も政治も社会も、今年2021年がどのようになるかはハッキリしません。もっとも恐ろしいのは、現在の菅内閣がCOVID-19パンデミックについて、ほとんど何も理解していないようにすら見える点です。おそらく、無知や無理解に基づく対応の誤りなのではないかと、私自身は善意に受け止めているんですが、尾身先生がついていてすらこうなのですから、悪くいえば反知性的な対応を取っているようにすら見えかねません。尾身先生ですらダメなのですからどうしようもないこととは思いますが、別の誰かが、ちゃんと科学的な見方を教えてあげればいいのに、とすら思えてしまいます。

次に、冨山和彦『コーポレート・トランスフォーメーション』(文藝春秋) です。これも、どうしようもなくありきたりなコンサルの見方を示しているだけで、何の目新しさもありません。データ・トランスフォーメーションのDXにならって、コーポレート・トランスフォーメーションをCXとしているだけで、プレゼンコトコンサルらしくてお上手なんですが、ほとんど何の中身もないと私は見ました。それから、これもコンサルですから仕方ありませんが、上から目線で、今の日本企業の欠陥をあげつらっているだけです。詳しい人からすれば、こんなこと、まだいってるの、というカンジかもしれません。前の『コロナショック・サバイバル』の続編であり、前作がそれなりに面白かったので図書館で借りて読んでみましたが、本編たる本書は決して出来はよくありません。買っていれば大損だったかもしれません。
次に、ケネス B. パイル『アメリカの世紀と日本』(みすず書房) です。本書も、日本の対米従属を解き明かす鍵があるかと思って読んだのですが、ボリュームほどの内容の充実はありませんでした。日米関係史ではなく、あくまで米国史の中に日本を位置づけているわけで、その意味で、読ませどころはペリーによる開国の要求ではなく、むしろ、第2次世界対戦からコチラの現代史につながる部分なんだろうと思いますが、その中で、第2次世界大戦が終結する前に、米国は明確に「無条件降伏」による戦争の終わり方を目指していた、という下りには目を啓かれるものがありました。ただし、その後の戦後処理から現在に至るまで、米国のサイドから軍事を起点に、外交・政治、経済・社会、そして最終的に生活や文化に至るまで、いかに日本の対米従属を進めたか、そして、日本のエリート支配層がそれをいかに受け入れていったか、といったあたりにはやや物足りないものが残りました。もちろん、経済史ではなくあくまでプレーンな歴史学の研究成果でしょうから、仕方ないのかもしれません。
次に、東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社) です。父親が殺されたアラサーの主人公の視点によるミステリです。なぜか、それほど面識ない叔父、すなわち、殺された父親の弟が事件解決に乗り出します。米国で手品師として成功しただけに手先の器用さや誘導尋問をはじめとする心理戦には強く、ややミステリとしては反則な気がしますが、科学的知識の「ガリレオ」シリーズほどの反則ではありません。いずれにせよ、「ガリレオ」シリーズと違って、ノックスの十戒に反しているわけではないと私は受け止めています。
次に、伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(集英社) です。短編集です。「逆ソクラテス」、「スロウではない」、「非オプティマス」、「アンスポーツマンライク」、「逆ワシントン」の5篇からなっており、私はタイトルにもなっている最初の「逆ソクラテス」は読んだ記憶があり、教員になって改めて「褒めて伸ばす」教育方針の重要性を認識させられています。ほかも、主人公は基本的に小学生、あるいは、せいぜいが中学生といった少年少女の視点からの小説です。バスケットボールや教師の磯憲などでつながりある短編も見受けられますが、すべての短編がつながっているわけではありません。でも、著者独特の正義感が感じられて、私はとても好きです。
最後に、林望『定年後の作法』(ちくま新書) です。著者は、私にはよく判りません。本書の中で、自分で自ら「ベストセラーを書いた」旨を書いていますので、文筆業なのかもしれません。タイトルからしてそうなのですが、上から目線の押し付けがましい内容です。それを受け入れられる人にはいいのかもしれませんが、そうでなければ迷惑に感じそうな気すらします。本書ん冒頭から男女の枠割分担のような観点がポンポンと飛び出し、さすがに後半ではエディターのご注意があったのか、かなり減りますが、ここまで男女の枠割分担を明確にしているのは最近ではめずらしいかもしれません。ほかにも、定年後は1日2食でいいとか、大丈夫かね、エディターはちゃんと見てるのかね、と思わせるヘンな部分満載です。何よりも、定年前の50歳で早期退職したと自ら定年を迎えたことがないことを明らかにしているにも関わらず、こういった本を書かせるエディターの真意を測りかねます。年末年始で最大のムダな読書でした、というか、ここ10年でもまれに見るムダな時間の潰し方だった気がします。
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