緊急事態宣言に伴う経済損失に見るブルシットな市場価格への無批判な信仰!!!
昨日、グレーバー教授の著書『ブルシット・ジョブ』を引いた東洋経済オンラインの記事を取り上げた際にも、社会的なスピルオーバー効果とか、宇沢教授のようなシャドープライス試算とかを無視した市場価格だけによる資源配分は大きく歪められている可能性を指摘しましたが、今週末にも予想される首都圏での緊急事態宣言の経済損失について、いくつかのシンクタンクが試算結果を取りまとめています。本日午後の時点で私が知る限り以下の通りです。
上のグラフは大和総研のリポートから、緊急事態宣言1カ月間の消費抑制額 を引用しています。どちらのリポートも数ページでコンパクトなもので、私はしっかりと目を通したつもりですが、誠に残念というか、何というか、緊急事態宣言を見送って新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックが拡大した際との機会費用との比較、あるいは、緊急事態宣言による感染拡大防止のスピルオーバー効果などへの言及は一切なしでした。経済学的には、おそらく、緊急事態宣言を見送った場合と発令した場合の限界計算をする必要があるのですが、前者の緊急事態宣言なしのケースを単純な静学的期待、すなわち、現状が継続するとしか考えていないように見受けられ、COVID-19の感染拡大による経済損失はほぼほぼゼロと仮定しているように私には見えます。何と申しましょうかで、少しくらいは、このままCOVID-19の感染拡大を緊急事態宣言見送りで放置した場合の経済損失にも言及するくらいの知恵はなかったんでしょうか。私は個人的に、東京オリンピック・パラリンピックが中止になる確率は決して無視できないと考えていますが、やっぱり、強行開催した際のCOVID-19の感染拡大による経済損失と比較考量するという思考はできないんでしょうね。まあ、極端に難易度は上がりますが、せめて一言言及するくらいの節度は欲しいものです。ちなみに、私がジャカルタのころにバリ島爆弾テロの経済損失を試算したペーパー "Preliminary Estimation of Impact of Bali Tragedy on Indonesian Economy" では、爆弾テロがなかった場合のベースラインをARIMAモデルと状態空間モデルで試算した上で爆弾テロのインパクトを産業連関表にて推計しています。まあ、数式をゴチャゴチャと展開した20ページあまりの学術論文とシンクタンクの数ページのリポートとの差は考慮すべきなんでしょうが、例えば、COVID-19感染拡大防止のスピルオーバー効果について「考慮していない」と言及するのはそう難しくないでしょうし、もう少しベースラインをきちんと明示したり、といった押さえるべきポイントは押さえて欲しい気がします。
経済学で限界革命により古典派経済学から新古典派が誕生したのは19世紀後半の1870年代です。すなわち、英国のジェヴォンズ、オーストリアのメンガー、スイスのワルラスの3人が、ほぼ同時かつ独立に限界効用理論を基礎にした経済学の体系を樹立したとされていて、約150年前の出来事なのですが、我が国シンクタンクの現状はまだこういった新古典派の成果は取り入れておらず、英国古典派的な経済学が幅を利かせているのかもしれません。
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