減産続く鉱工業生産指数(IIP)と正規雇用にシフトしつつある雇用統計をどう見るか?
本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2020年12月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から△1.6%の減産でした。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による影響と考えるべきです。また、雇用統計については、失業率は前月から変わらず2.9%、有効求人倍率も前月と同じ1.06倍と、11月については雇用指標は底堅い動きを示していますが、COVID-19に関連した解雇・雇い止めにあった人数は見込みを含めて1月22日時点で83千人を超えています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
20年12月の鉱工業生産指数、2カ月連続低下 20年は13年以降で最低
経済産業省が29日発表した2020年12月の鉱工業生産指数速報値(2015年=100、季節調整済み)は前月比1.6%低下の93.2と、2カ月連続で低下した。ただ、20年10~12月期では6.2%の上昇と2四半期連続で上向いていることや、21年1月の企業見通しの回復傾向を踏まえ、経産省は生産の基調判断を「持ち直している」に据え置いた。
20年12月の生産を業種別にみると、15業種のうち10業種が前月比で低下し、5業種が上昇した。一般用蒸気タービンなどの汎用・業務用機械工業が前月までの需要増による反動減で3カ月ぶりに低下したほか、需要減によって自動車工業も低下した。
20年12月の出荷指数は92.3と前月から1.6%低下した。低下は2カ月連続。在庫指数は前月比1.1%上昇の95.3、在庫率指数は同2.0%上昇の113.6だった。
製造工業生産予測調査では、21年1月は8.9%の上昇、2月は0.3%の低下だった。例年の傾向などを踏まえて経産省がはじいた1月の補正値は4.4%の上昇となった。今回の調査は1月当初の計画に基づくもので、緊急事態宣言の発出や対象地域拡大の影響は十分に織り込んでいないという。先行きへの影響について経産省は「前回の宣言発出時ほど大きくはない」との見方を示したものの、「内外の感染拡大による経済の下振れリスクの高まりにも十分注意する必要がある」としている。
同時に発表した20年の鉱工業生産指数(原指数)は90.9と、現在の基準で比較可能な13年以降では最も低くなった。前年比では10.1%の低下と2年連続で低下。下げ幅も13年以降では最も大きかった。
20年の有効求人倍率、下げ幅45年ぶり大きさ 休業者最大
2020年の雇用情勢は大幅に悪化した。厚生労働省が29日発表した20年平均の有効求人倍率は1.18倍で前年比0.42ポイント低下した。下げ幅はオイルショックの影響があった1975年以来45年ぶりの大きさだ。総務省が同日発表した労働力調査によると20年平均の休業者数は過去最大となった。完全失業率は2.8%で11年ぶりに悪化した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す指標。19年は1.60倍で過去3番目の高水準だったが、20年は14年(1.09倍)以来の水準に低下した。働く意欲のある有効求職者数は6.9%増え182万人に達したのに対し、企業からの有効求人数は21%も減り216万人になった。
20年12月の単月でみた有効求人倍率(季節調整値)は前月と同じ1.06倍だった。就業地別でみた都道府県ごとの有効求人倍率は最高の福井県が1.62倍で、最低の沖縄県が0.79倍だった。東京都は0.88倍で、7月から6カ月連続で1倍を割り込んだ。
20年の休業者は春の緊急事態宣言の発令後に大幅に増加した。昨年4月に597万人と過去最大に増え、6月まで高水準が続いた。20年平均の休業者数は前年から80万人増の256万人で比較可能な1968年以降最も多い。昨年12月時点では新型コロナウイルスの感染拡大前の水準にほぼ戻っているが、今年1月の再発令で再び急増する懸念もある。
休業者を除く雇用者の働く時間も減った。週35~42時間働いた人は全体の36.1%で前年比3.1ポイント増加した一方、週43時間以上働いた人は軒並み減少した。
20年の完全失業率は前年比0.4ポイント上昇した。リーマン・ショックの影響を受けた09年は前年から1.1ポイント上昇し、5.1%に悪化した。失業率はリーマン時ほどは悪化しなかったが、休業者の増加などで踏みとどまっているとみられる。
非正規雇用が特に厳しい。非正規社員は2090万人と75万人減少し、比較可能な14年以降で初めて減った。正社員は3539万人と前年に比べ36万人増加した。人手不足の産業が正社員を中心に採用を進めた。完全失業者は191万人で29万人増えた。
20年12月の就業者数は6666万人で9カ月連続で減少した。「勤め先や事業の都合」で離職した人は40万人で前年同月に比べ20万人増加した。11カ月連続の増加で、厳しい経営環境で解雇を迫られている企業が増えている。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は1月22日時点で8万3千人を超えた。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。解雇後の状況を把握できていないため、再就職できた人も含まれている。
やたらと長くなりましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は▲1.5%の減産との見込みでしたので、ほぼほぼジャストミートしています。ただ、産業別に季節調整済みの系列の前月との比較で詳しく見ると、増産は無機・有機化学工業+2.2%、その他工業+0.7%、電子部品・デバイス工業+0.7%が寄与度高い一方で、汎用・業務用機械工業が△11.7%、自動車工業△3.0%、電気・情報通信機械工業△2.4%など、我が国基幹産業の減産幅が大きくなっています。基本的に、欧米先進国向におけるCOVID-19感染拡大の影響による輸出の動向に起因していると私は考えています。特に、自動車工業は11月△4.5%に続く2か月連続の減産となっています。ですから、第2波までのCOVID-19で落ち込んだ分のペントアップ生産が一巡し、同時に、第3波のCOVID-19感染拡大の影響も出ているのではないか、と私は想像しています。ただ、1月の製造工業生産予測指数がとても強気な計画で上がってきており、補正なしなら+8.9%の増産、上方バイアスを補正しても+4.4%の増産ですから、実績の11月の減産△0.5%と12月の△1.6%を上回るリバウンドを見せる勢いです。特に、電子部品・デバイス工業、生産用機械工業、汎用・業務用機械工業などで増産が見込まれています。この強気な1月生産計画とは逆に、2月は減産との見込みです。いずれにせよ、国内的には2月7日までの予定の緊急事態宣言が、1週間前になってもまったく見通せないんですから、経済の先行きがCOVID-19との連動を強める中で、もはや、エコノミストには経済見通しは不可能に近くなっているような気がします。鉱工業生産や出荷も同じことです。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。まず、失業率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは3.0%、有効求人倍率についても、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1.05倍でしたので、いずれも前月統計から悪化と予想されていたのですが、実績はいずれもこの市場の事前コンセンサスよりも堅調であり、雇用が改善しつつあることを示しており、そこそこ雇用は底堅い、と私は認識しています。人口減少の経済的影響が人手不足としてまだ残っている可能性があるわけです。ただ、別の日経新聞の記事では、総務省統計局から「完全失業率は横ばいだが、就業者数は減少、完全失業者数は増加しており、いずれも悪い方向」との認識が示された旨が明らかにされています。もっとも、私は雇用全体として量的にはその通りという気がするものの、質的に正規雇用に切り替わっている点も見逃すべきではないと考えています。すなわち、役員を除く雇用者が2019年12月の5698万人から2020年12月には5626万人と1年間で△72万人減少している一方で、同じ期間の1年間に正規が3518万人から3534万人と+16万人増加し、非正規はといえば2179万人から2179万人から2093万人へと△86万人減っています。季節調整していない原系列ながら、なぜか、整合性がありません。それはともかく、従って、非正規比率は2019年12月の38.2%から2020年12月には37.2%へと△1%ポイント低下していたりします。全体の雇用としては減少しているわけですので、評価は単純ではなく難しいところですが、正規雇用の改善もそれなりに評価すべきと私は考えています。なお、統計局の労働力調査だけでなく、厚生労働省の職業紹介業務統計でも同様の傾向は見られ、例えば、12月統計で正規雇用の有効求人倍率が11月から上昇している一方で、パートの有効求人倍率は逆に低下していたりします。ですから、正規職員とパートの有効求人倍率の乖離は、2016年ころには0.8を超えていた時期もありますが、2020年12月には0.3まで縮小しています。あくまで相対的な評価ながら、パートへの就職が難しくなった一方で、正規職員への就職はそれほど難しくなくなった、とも評価できます。繰り返しになりますが、評価はそれほど単純ではありません。
最後に、本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。いつものグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。季節調整済みの系列で見て、前月から▲2.2ポイント低下して329.6と、2か月連続で前月を下回りました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を前月までの「足踏みがみられる」から下方修正し、「弱含んでいる」としています。COVID-19により消費者マインドはかなり影響を受けています。
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