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2021年1月22日 (金)

日銀「展望リポート」と内閣府「中長期の経済財政に関する試算」と消費者物価(CPI)をあわせて考える!!!

まるで三題噺みたいなタイトルですが、昨日1月21日、日銀から「展望リポート」が、また、内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」が、それぞれ公表されています。また、本日1月22日、総務省統計局から昨年2020年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。「展望リポート」では昨年2020年10月時点の見通しから、着実に上方修正がなされており、また、「中長期の経済財政に関する試算」では、公債等残高対GDP比は試算期間内は概ね横ばいで推移する一方で、成長実現ケースでは安定的な低下が見込まれる、と評価しています。消費者物価(CPI)上昇率については、季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲1.0%の下落と、5か月連続の下落を示した一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.4%の下落を記録しました。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 
消費税率引き上げ・
教育無償化政策の
影響を除くケース
 2020年度−5.7 ~ −5.4
<−5.6>
−0.7 ~ −0.5
<−0.5>
−0.8 ~ −0.6
<−0.6>
 10月時点の見通し−5.6 ~ −5.3
<−5.5>
−0.7 ~ −0.5
<−0.6>
−0.8 ~ −0.6
<−0.7>
 2021年度+3.3 ~ +4.0
<+3.9>
+0.3 ~ +0.5
<+0.5>
 10月時点の見通し+3.0 ~ +3.8
<+3.6>
+0.2 ~ +0.6
<+0.4>
 2022年度+1.5 ~ +2.0
<+1.8>
+0.7 ~ +0.8
<+0.7>
 10月時点の見通し+1.5 ~ +1.8
<+1.6>
+0.4 ~ +0.7
<+0.7>

まず、日銀「展望リポート」で示された2020~2022年度の政策委員の体制見通しのテーブルは上の通りです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀のサイトからお願いします。ということで、日銀の前回の金融政策決定会合の開催が12月半ばでしたから、その後、今年に入ってから首都圏や京阪神などに緊急事態宣言が出されたというタイミングとなり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大の動向にも注意が必要なところです。もちろん、COVID-19の感染拡大だけではないんですが、上のテーブルから明らかな通り、昨年2020年10月時点での見通しから、成長率は下方改定、物価は上方改定、という結果が示されています。これは、緊急事態宣言に伴う供給ショックという受け止めなんだろうと想像されます。すなわち、供給ショックでは、需要曲線は大きくシフトしない一方で、供給曲線が左方にシフトするわけですので、価格は上がって数量は下がります。ただ、物価動向に対して、経済外に近い影響を及ぼす要因がいくつかあり、「展望リポート」のp.4の脚注2で示されています。すなわち、GoToトラベル事業と携帯電話通信料金の引き下げや新たなプランの設定の影響です。前者のGoToトラベル事業による影響については、2020年度が△0.2%ポイント、2021年度が+0.1%ポイント、2022年度が+0.1%ポイント、との試算結果が示されている一方で、後者の携帯電話通信料金については、今回の物価見通しには織り込まれていません。ただ、もうひとつの大きな経済外要因として、東京オリンピックの開催の可否があります。これはさすがに、「展望リポート」には何の言及もありません。他方で、海外メディアの The Times のサイトで、"The Japanese government has privately concluded that the Tokyo Olympics will have to be cancelled because of the coronavirus, and the focus is now on securing the Games for the city in the next available year, 2032." と報じられています。国内にはあくまで虚偽答弁で押し通しながら、海外メディアを使ってアドバルーンを上げるとは、いかにも菅内閣の考えそうな、また、やりそうな陰湿なやり方だという気がします。私はもともと東京オリンピックは中止すべきと考えていますが、この内閣にはまったく信頼を寄せることが出来ません。

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続いて、昨日1月21日に、内閣府から公表された「中長期の経済財政に関する試算」の中の国・地方のPB(対GDP比)及び国・地方の公債等残高(対GDP比)のグラフを引用すると上の通りです。現在のようなCOVID-19感染拡大のコロナ禍においても、まだ、財政収支を期にしているエコノミストは少なくないと思いますが、私はフローの財政収支やストックの債務残高は経済学的にはほとんど意味がない、と考えています。現代貨幣理論(MMT)学派のように、独立した発券機能のある中央銀行を持ち、変動相場制を採用し、自国通貨建ての公債を発行しているのであれば、財政政策運営はインフレによって制約されるだけで、政府の支払い能力には問題はない、とまでは考えませんが、主流派の議論の中でもブランシャール教授のペーパーで分析されているように、成長率を下回る利子率でしかない場合、すなわち、動学的効率性を喪失している場合は、財政のサステイナビリティは問題ないという結果もあります。少なくとも、財政のサステイナビリティよりもCOVID-19の感染拡大防止、ひいては、インフレを招かない範囲で国民生活の安定の方がより重要だということに、多くのエコノミストに理解して欲しいと考えます。

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最後に、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。ということで、コアCPIの前年同月比上昇率は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲1.1%でしたので、ジャストミートではないとしても、大きなサプライズはありませんでした。大きな物価下落は、一昨年2019年10月からの消費税率引上げの効果の剥落もさることながら、エネルギーや政策要因の幼児向け教育あるいは高等教育の無償化やGoToトラベル事業に伴う部分が小さくありません。すなわち、CPIヘッドラインの前年同月比の下落△1.2%への寄与で見て、国際商品市況における石油価格の変動に伴ってエネルギーが△0.64%の寄与があり、大学授業料(私立)はさすがにウェイト小さく△0.04%の寄与にとどまるものの、GoToトラベル事業により宿泊料の寄与度も△0.40%に上っています。日銀金融政策の力不足を否定するものではありませんが、それだけで物価目標が達成されないと評価するにはやや厳しいところです。

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