赤字を記録した貿易統計と予想外の伸びを示した機械受注の先行きをどう見るか?
本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から昨年2020年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計を見ると、季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比+6.4%増の5兆7798億円、輸入額は逆に▲9.5%減の6兆1037億円、差引き貿易収支は▲3239億円の赤字を計上しています。また、機械受注の方を見ると、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比+5.2%増の8,996億円と、まだまだ受注額は低水準ながら、3か月連続でプラスの伸びを記録しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
輸出、1月6.4%増 中国向けが増加
貿易収支は7カ月ぶり赤字
財務省が17日発表した1月の貿易統計速報によると、輸出額は5兆7798億円と前年同月から6.4%増えた。中国向けが増加し、2カ月連続のプラスだった。輸入額は落ち込み幅が縮小し、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7カ月ぶりに赤字となった。
中国向けの輸出は1兆2326億円と37.5%増え、約10年ぶりの伸び幅となった。中国全土で工場が停止する春節(旧正月)は輸出が大きく減少する。2020年は1月、21年は2月に春節があり、時期のずれが前年同月比でみた増加につながった。
半導体などを製造する装置の輸出が韓国向けに急増したことも加わり、輸出はアジア全体でみても19.4%増の3兆3657億円と堅調だった。
新型コロナウイルスの感染が再拡大した米国向けの輸出は4.8%減の1兆14億円。落ち込み幅は20年12月の0.7%から再び拡大した。自動車輸出が減少に転じ、航空機や原動機も大幅に減った。欧州連合(EU)向けも1.6%減の5322億円と低調だった。
全体の輸入額は9.5%減の6兆1036億円。20年5月から二桁減が続いていたが、下げ幅が縮小した。原油の輸入は国内の経済停滞を反映して41.9%減と落ち込みが続いているが、液化天然ガス(LNG)は減少幅が小さくなった。貿易収支は3238億円の赤字となった。
20年12月の機械受注、前月比5.2%増 民間予測は6.6%減
内閣府が17日発表した2020年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比5.2%増の8996億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は6.6%減だった。
うち製造業は12.2%増、非製造業は4.3%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は11.8%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」へと変更した。
同時に発表した20年10~12月期の四半期ベースでは前期比16.8%増だった。1~3月期の見通しは前期比8.5%減だった。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
長くなりましたが、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は▲6050億円の赤字でしたので、やや市場予想よりも小幅とはいえ、赤字は赤字ですから、それほど大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。ただし、上のグラフを見ても明らかな通り、季節調整済みの系列では昨年2020年7月から半年超に渡って貿易黒字を計上しています。広く報じられている通り、貿易をはじめとする我が国の経済活動も新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受けましたが、本日公表の貿易統計についても、かなりの程度に回復を見せています。中国向けは、引用した記事にもあるように、中華圏の春節の時期のズレにより大きく伸びた一方で、ワクチン接種が始まったとはいえ、まだCOVID-19のパンデミックが続く欧米向けは輸出が伸び悩んでいます。従って、まだまだ先行きの貿易動向にはCOVID-19に起因する不透明感が強く、すでに欧米先進国では広くワクチン接種が始まっている一方で、我が国ではまだ医療関係者への接種が始まろうとしている遅れた段階であり、まだ、東京や大阪、あるいは、私の住んでいる京都も含めて緊急事態宣言は解除されていません。加えて、今年2021年の春節は2月12日から始まっており、中華圏の経済動向、ひいては、我が国の貿易にも大きな影響を及ぼすと考えるべきですが、昨年2020年のCOVID-19パンデミックから1年を経過して、中華圏、特に中国の春節の過ごし方がどのように変化したかについて、現状では情報が少なく、なんとも計り知れない部分が残されています。

続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、貿易統計のグラフと同じで、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。まず、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月比で▲6.6%減、レンジの上限でも▲0.6%減でしたから、+5.2%増という結果はかなりのサプライズでした。製造業では、11月統計の前月比▲2.4%減を軽くカバーする+12.2%増でしたし、船舶と電力を除く非製造業でも4か月連続の前月比プラスで、12月統計では+4.3%でした。これらを合計したコア機械受注でも、10月統計から3か月連続の前月比プラスで、10~12月期は6期ぶりの前期比プラスで+16.8%増を記録しています。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」へと変更しています。半ノッチの上方修正という気がします。ただし、先行きが安定してプラスを期待できるかといえば、私はそう考えていません。すなわち、今年2021年1~3月期は前期比で▲8.5%減が見込まれていますし、12月統計が大きなサプライズとしても、世界的なCOVID-19パンデミックの動向も含めて、設備投資や機械受注の先行きはまだまだ不透明で、それほど楽観できるはずもありません。
| 固定リンク
« 米国ニューヨーク連銀のブログに見る新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響による労働市場の不平等の拡大やいかに? | トップページ | 文部科学省「新型コロナウイルスの影響を受けた学生への支援状況等に関する調査」やいかに? »
コメント