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2021年3月31日 (水)

減産を示した2月統計の鉱工業生産指数(IIP)は需要要因か供給要因か?

本日、経済産業省から2月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.1%の減産でした。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の鉱工業生産2.1%低下 半導体不足、自動車に影響
経済産業省が31日発表した2月の鉱工業生産指数(2015=100、季節調整済み)速報値は、前月比2.1%低下し95.7だった。自動車に半導体不足の影響が出たことなどで2カ月ぶりの減産となった。経産省は新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた生産水準は回復傾向にあるとして、基調判断を「持ち直している」に据え置いた。
業種別では15業種中11業種で低下した。乗用車の減産が目立った自動車工業が8.8%の低下と落ち込んだ。2月に最大震度6強を観測した福島県沖地震の影響で部品供給が滞ったことや、半導体不足が響いたとみられる。半導体製造装置などの生産用機械工業は3.7%上昇した。
主要企業の生産計画から算出した生産予測指数では、3月に前月比1.9%低下、4月に9.3%の上昇を見込む。経産省は「回復傾向は続いているが、新型コロナやサプライチェーンの動向を注視する必要がある」としている。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は▲1.3%の減産との見込みでしたし、レンジの下限は▲3.0%でしたので、ジャストミートではないものの、それほど大きな驚きはありません。というのは、引用した記事、あるいは、別の日経新聞の記事にもあるように、3月19日に火災があった半導体大手のルネサスエレクトロニクスの那珂工場の生産停止が3~4か月に及ぶ可能性があるためです。もちろん、サプライズではないとはいえ、自動車生産への影響は10年前の東北大震災に匹敵するという見方もあるようで、決してサプライズでなければいいというものではありません。従って、製造工業生産予測指数でも3月は引き続き▲1.9%の減産の後、4月に+9.3%とドンと増産に転ずると見込まれているんですが、これは、3月21日時点で生産再開の目標時期を「1か月以内」としていた情報に基づくものであり、車載半導体の減産が長引けば我が国リーディング・インダストリーである自動車産業の減産も長引き、ひいては関連業界への影響も決して無視できません。ルネサス社によれば、3月19日の火災前に途中段階まで作っていた仕掛かり品が完成し、出荷するめどが60日以降、さらに、出荷が火災前の水準に回復するには90~120日程度かかる、と説明しており、このため、トヨタ自動車や日産自動車は減産する方向、と日経新聞の記事では報じられており、生産の技術面は専門外ながら、一定の影響は出る可能性については私にも理解できます。今までは、供給サイドの制約については、外食や宿泊などをはじめとする対人接触の大きなセクターが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック防止に伴うソーシャル・ディスタンシングの影響を受けることはあっても、製造業では想定していなかっただけに、COVID-19とは別のところから供給制約が現れたわけです。COVID-19パンデミックについても緊急事態宣言を解除しながら、一向にワクチン接種が進まず、第4波の感染拡大期に入っていることは私のようなシロートの目から見ても明らかなわけですし、需要と供給の両サイドから生産の先行きには不透明感がいっぱいです。

基本的には、日本以外の世界ではCOVID-19ワクチン接種が進んでいますから外需はそれなりに堅調と考えられますが、ワクチン接種の進まない国内需要はCOVID-19パンデミックの第4波に見舞われ、我が国リーディング・インダストリーの自動車産業は供給制約が発生し、内需について目先は回復の腰折れを防ぐ政策が必要です。ついでながら、明日公表予定の日銀短観でも車載半導体の供給制約は織り込まれていない可能性が高く、もしそうだとすれば、少し割り引いて考える必要があるのかもしれません。

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2021年3月30日 (火)

基調判断が上昇修正された2月の商業販売統計はどこまで信頼できるか?

本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも2月の統計です。商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲1.5%減の11兆6280億円、季節調整済み指数では前月から+3.1%の上昇を記録しています。雇用の方は、失業率は前月から横ばいの2.9%、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント低下して1.09倍と、徐々に下げ止まりないし改善を示している印象です。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の小売販売額1.5%減 下げ幅縮小、基調判断上げ
経済産業省が30日発表した商業動態統計速報によると、2月の小売業販売額は前年同月比1.5%減の11兆6280億円だった。減少は3カ月連続だが、下げ幅は前月の2.4%減から縮小した。季節調整済みの前月比でみると3.1%増えており、経産省は小売業販売の基調判断を前月までの「弱含み傾向」から「横ばい傾向」に引き上げた。
基調判断の引き上げは6カ月ぶり。2度目の緊急事態宣言による小売業販売額の落ち込み幅は、宣言が前回発令された2020年4~5月の2桁減と比べると小さい。経産省は「サービス消費は外出自粛で厳しいが、財の消費は在宅需要などで堅調だった」と分析している。
1年前の20年2月はコロナでマスクや消毒用品、紙製品などの買い占めが起きた時期にあたる。ドラッグストアの販売額は前年同月比8.3%減、ホームセンターは0.1%減となった。経産省によると2月の減少は前年の買い占めの反動の影響が大きく、基調は底堅いという。
百貨店は11.8%減と17カ月連続で前年同月を下回った。衣料品販売の低迷が続き、インバウンド需要の蒸発も響いている。スーパーは0.8%減。5カ月ぶりに減少したが、主力の飲食料品は1.9%増と引き続き好調だった。
家電大型専門店の販売額は7.2%増えた。増加は5カ月連続。在宅需要に新生活需要が加わった。ゲーム機やパソコンのほか、洗濯機や冷蔵庫など生活家電の販売が増えた。
有効求人倍率2月1.09倍に低下 失業率は2.9%で横ばい
厚生労働省が30日発表した2月の有効求人倍率(季節調整値)は1.09倍で前月から0.01ポイント低下した。2020年9月以来、5カ月ぶりに低下に転じた。総務省が同日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月に比べ横ばいだった。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1月は1.10倍で前の月から上昇していた。2月は企業からの有効求人が前月から1.5%減り、働く意欲のある有効求職者も0.3%減った。
地域によってばらつきは大きい。就業地別の有効求人倍率は最高の福井県が1.64倍で、最低の沖縄県は0.75倍だった。東京都や大阪府は昨夏以降、1倍を切った状態が続いている。地域によって感染の度合いが異なり、雇用情勢に影響を与えている。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で14.6%減った。減少幅は宿泊・飲食サービス業(41.0%減)や生活関連サービス・娯楽業(23.2%減)、卸売業・小売業(23.2%減)などが大きかった。建設業は10.0%増加した。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は26日時点で9万8千人を超えた。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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小売業販売を季節調整済の系列の前月比で見て、1月統計で▲1.7%減と緊急事態宣言を受けて減少した後、2月統計では首都圏や近畿圏で緊急事態宣言が延長されたにもかかわらず、1月の前月比マイナスを上回る+3.1%増の伸びを示し、季節調整していない原系列の統計の前年同月比でもマイナス幅が縮小しています。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を前月までの「弱含み傾向」から「横ばい傾向」に引き上げています。ただし、この商業販売統計の小売販売額は、基本的に、いわゆる物販だけであってサービス消費が含まれていない点には注意が必要です。すなわち、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響については、いうまでもなく、物販よりも外食とか宿泊などの対人接触型のサービスに大きく現れます。何度かこのブログでも繰り返しましたが、日本のようなワクチン接種後進国ではCOVID-19パンデミック防止のためにはソーシャル・ディスタンシングで対応せねばなりませんから、特に対人接触型のサービスのダメージが大きくなります。ですから、消費の代理変数とはいえ、サービスを含めた消費全体では物販を主とする小売販売額の商業販売統計をそのまま受け取るべきではない可能性があります。総務省統計局の家計調査にもっと信頼性あれば、ソチラも見たい気がします。さらにいえば、対人接触型サービスの落ち込みを避けるためには、例の失政の典型であるGoToキャンペーンを復活させるのではなく、ワクチン接種を進める必要があります。でも現時点で、ワクチン接種はGoToキャンペーンを上回る史上まれに見る失政になっている、と私は認識しています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が3.0%だった一方で、有効求人倍率は1.09倍でしたので、ほぼジャストミートした印象ですし、市場の予想通りに雇用は底堅く下げ止まりから改善に向かっている、と私は認識しています。人手不足の影響がまだ残っている可能性があるわけです。ただし、失業の関係を詳しく見ると、2月の失業者数は1月と同じ203万人で、雇用者が+12万人増加している一方で、休業者も▲16万人減少しています。ですから、失業率は前月から横ばいとはいえ、着実に改善の方向にあることは確認できます。ただし、休業者数だけは季節調整していない原系列の統計であり、失業者や雇用者と整合性が取れていない点には注意が必要ですし、休業者については宿泊業、飲食サービス業で29万人、卸売業、小売業でも28万人と、休業者合計の228万人の内訳として対人接触の多い業種でシェアが高くなっています。有効求人倍率の方でも、全国レベルでは1倍を上回っていますが、都道府県別では1倍を割り込んでいる地域も少なくなく、これも引用した記事にもある通り、就業地ベースで東京都や大阪府では1倍を割っており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により地域的なバラツキが見られます。このように、総合的に見て雇用は下げ止まりないし改善の方向ですが、産業別・地域別では改善の足並みはバラバラです。

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2021年3月29日 (月)

松尾匡ほか『資本主義から脱却せよ』(光文社新書) を読む!!!

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松尾匡ほか『資本主義から脱却せよ』(光文社新書) をちょうだいしました。簡単に紹介しておきたいと思います。なお、著者は上の表紙画像にあるように、私の同僚を含むエコノミスト2人と不安定ワーカーの3人がチャプターごとに担当しています。
まず、本書で考える対象となっていて、脱却すべき大元の資本主義とは、どうも、貨幣制度とかの金融面で特徴つけられているようです。すなわち、中央銀行の独立や信用創造については否定的な議論が展開されています。通常の主流派経済学では、資源配分における市場の役割重視か、政府による司令経済か、で資本主義と社会主義・共産主義を区別しているように私は理解していますので、ちょっと違和感ありました。ですから、私が問題と考える市場価格に基づく資源配分は何ら問題とされていません。私は脱却すべき資本主義とは、歪んだ市場価格によって資源配分が決められているシステムだと考えています。すなわち、市場による価格付けが外部経済とか独占とかで大きく歪められており、これを是正することが第1に必要であり、その上で第2に、所得分配を政府の介入、すなわち、税と主として社会保障給付により格差是正を実現する、というのが望ましいと考えています。特に、後段について今までの日本では、いわゆる「土建国家」のために、インフラやハコモノの建設が格差是正や地方振興に対する政策手段に割り当てられていましたが、福祉国家として社会保障により、もちろん、租税政策と組み合わせて、格差是正に向けた所得再分配を目指すべきではないか、と考えているわけです。金融については、私自身が専門性や大した知恵を持ち合わせているわけではありませんが、基本的には、信用創造をすべて否定するのではなく、むしろ適度にコントロールすることを目指すべきであり、例えば、BIS規制などの自己資本比率を大きくして信用乗数を低下させ、ナロー・バンキングに近い銀行活動に誘導するべきと考えています。ただし、それが投機を抑制して設備投資に資金が回ることを保証できるか、といえば、また別問題かもしれません。なお、第8章は本書の中で一番読み応えがあります。決して、オススメするわけではありませんが、立ち読みで済ませるなら、ここだけでも十分かもしれません。

最後の最後に、前の長崎大学に勤務している時に強く感じたのですが、私自身はエコノミストとして現状分析などはそれなりに出来なくはないものの、たしかに重要なのは政策対応であり、私の弱点かもしれません。政策立案の現場である役所で出世できなかったのもこの能力不足のためかもしれません。

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2021年3月28日 (日)

開幕ダッシュは大成功でヤクルトを3タテ!!!

  RHE
阪  神101010041 8100
ヤクルト000000020 260

序盤からヤクルトを圧倒して3タテでした。
今日も3時前に帰宅してテレビをつけると3-0のリードで、早くも3連勝ムードがいっぱいでした。先発ガンケル投手は安定したピッチングでしたし、何といっても、8回には神様、仏様、サンズ様のスリーランで試合は決定的になりましたので、私は昼間からアルコールに手を伸ばしました。酒を飲み出した途端、ヤクルト山田選手のホームランが飛び出しましたが、まあ、ご愛嬌のご祝儀ということで、大勢に何の影響もありませんでした。

次の広島戦も、
がんばれタイガース!

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2021年3月27日 (土)

序盤から猛虎打線が爆発してヤクルトに連勝!!!

  RHE
阪  神402001002 9130
ヤクルト000021002 5101

序盤から猛虎打線が爆発してヤクルトに連勝でした。
今日の試合はNHK/BSでテレビ観戦だったんですが、3時前に帰宅するとすでに大量リードの左うちわ状態でした。初回にゴールデンルーキー佐藤選手のホームランが飛び出し、序盤好投の青柳投手が失点して中盤から点の取り合いになりましたが、リリーフ陣も桑原投手は失点したものの岩崎投手とスアレス投手を温存し余裕を持って楽勝でした。9回には守備固めで出ていた陽川選手のダメ押しホームラン、あるいは、代走江越選手の盗塁などに選手層の厚さを見せつけられた思いです。それにしても、NHK/BSの宮本+藤川の解説のレベルがとても高いのにびっくりしました。私のようなシロートにはついていけません。

明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書や専門書をはじめとして計4冊!!!

今週の読書は、健康を分析した経済書のほか、ランキングやその他の選択理論についての教養書、また、新書に文庫本と計4冊です。なお、新刊でない読書として、P.G.ウッドハウスによるジーヴズのシリーズ2冊、すなわち、『ジーヴズの事件簿』才智縦横の巻/大胆不敵の巻 (文春文庫) 及び 本日の読書感想文で最後に取り上げたグレイス・ペイリーの別の2冊の短編集、すなわち、『最後の瞬間のすごく大きな変化』と『人生のちょっとした煩い』、いずれも村上春樹訳で文春文庫、については、Facebookでシェアしておきました。今年2021年に入ってからの新刊の読書数は、1月21冊、2月17冊、3月も17冊で、1~3月で合計55冊です。新刊書だけで年に200冊のペースのような気がします。新刊以外に主として文庫本で週2冊年100冊くらいでしょうか。

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まず、小塩隆士『日本人の健康を社会科学で考える』(日本経済新聞出版) です。著者は、官界から学界に転じたエコノミストなんですが、私も含めて官庁エコノミストはマクロ経済分野が多いような気がするものの、著者はマイクロな選択の問題、特に医療や教育の経済学なんかを専門分野にしているように見えます。一橋大学がホームグラウンドです。ということで、医療に限定せずに日本人の健康について、厚生労働省の国民生活基礎調査や中高年者縦断調査という大規模データをもとにしたフォーマルな定量分析を基にした本です。本になる場合、ご自分の分析結果だけでなく、いわゆるサーベイとして、いろんな他のエコのミストの研究成果なども含めて分析結果を取りまとめることが多い気がするんですが、何と、本書はほぼほぼ著者ご自身の分析結果だけで完結しています。共同研究結果はいくつか含まれているものの、その研究成果の多さにややびっくりしました。ということで、医療経済ではなく、健康というテーマですから、ざっくりと、健康状態を分析対象とするわけで、数量的に把握ができる、あるいは、基数的な把握が困難でもディジットなyes or noのダミーとしてに把握ができる数量分析ですから、私がまったく信頼を置いていない市場価格の基数的な数量分析とは異なり、かなり私の考える経済学的に好ましい分析に近いものが仕上がっています。ただ、あくまで観測可能な数量に基づく分析ですので限界はありますし、いくつか媒介変数を考えているのはいいとしても、因果関係における媒介変数について少し誤解がある可能性も指摘しておきたいと思います。第1に、私は健康や医療については各人に何らかの観測不能な状態変数、スカラーや時系列変数に限らずベクトルも含めた何らかの状態変数があると考えており、それが観測可能なデータに現れていると考える方が自然だと認識しています。ですから、第2に、観測されたデータから何らかの観測不能な媒介データを通じて結果にたどり着くのではなく、むしろ、観測不能な固有のデータから観測可能な媒介データを経て結果となる健康状態にたどり着くのであろうと私は考えています。加えて、ホsんホで想定しているような厳密な内生性に基づく因果関係がどこまで政策的に有益かは疑問があります。例えば、低所得と喫煙と肥満と不健康は相互に因果関係を保ちつつ、強い相関関係を形成しています。特に、ビッグデータの時代にあってサンプルが大きい場合は、特に因果関係を重視しない相関関係で十分な場合も少なくありません。本書ではあくまで健康状態を最終的な分析対象にしていますから、その健康状態に至る原因の追求を重視しているのは理解できますが、健康・所得・社会的関係性などなどは相互に強く相関しており、その背後にある観測不能変数の分析とともに、相互関係の分析そのものが重要であり、因果関係はそこそこ考えておけば十分、という気がしないでもありません。でも、興味深い定量分析でした。一般読者向けですから多くの方にも判りやすいんではないかと思います。

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次に、ペーテル・エールディ『ランキング』(日本評論社) です。著者は、ハンガリー出身で米国カラマズー大学の研究者をしています。英語の原題はそのままに Ranking であり、2020年オックスフォード大学出版局からの出版です。ということで、序数的なランキングと基数的なランキングについて簡単な説明を冒頭に置いた後、ランキングも含めた選択や意思決定に関する理論の議論が展開されています。ですから、経済学の分野のツベルスキー&カーネマンのプロスペクト理論などの経済心理学にも大いに関係しています。まず、ランキングについては、すべての項目の中から任意の2つを取り出したときにその優劣が常に決まるという「完全性」、2つのものが同等ではないという「非対称性」、AがBより上位にあり、BがCより上位にあるなら、AはCよりも常に上位でなくてはならないという「推移性」の3条件を満たす必要性があるわけですが、経済学的にはノーベル賞も受賞したアロー教授の不可能性定理などでは、社会的には推移律が成り立たない場合が想定されています。本書でもコンドルセのパラドックスとして紹介されています。単純にいえば、じゃんけんのように、勝ち負け、というか、選好の順位が循環するわけです。本書では登場しませんが、日本経済では鉄の三角形として知られていて、政治家が官僚に指揮命令権を持って優越し、官僚が民間企業に行政指導を行うなど優越し、しかし、民間企業は政治家に献金や票の取りまとめで優越する、という構図です。そして、こういったランキングの前提となる論理を展開しつつ人間の行動や認知について、社会心理学、政治学、計算機科学、行動経済学などの知見を総動員した議論が収録されており、見方によれば、ランキングに関する本ではなく、議論がアチコチに飛んでいて、やや収拾がつかなくなっている印象すらあります。例えば、ランキングが個人に対してだけでなく、社会的な影響力を持つというのはその通りですが、ランキングに限定せずにreputation=評判について話題が飛んでいたりします。この評判やランキングの客観性についても、批判がなされています。繰り返しになりますが、ランキングに限定せずに、ランキングをはじめとして、個人や社会の意思決定、あるいは、選択の問題を広く論じていると考えて読む方がいいと私は考えます。経済の分野から読めば、慶應義塾大学の坂井豊貴教授の社会的選択理論と通ずるところが大いにあると私は受け止めました。

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次に、永濱利廣『経済危機はいつまで続くか』(平凡社新書) です。著者は、第一生命経済研のエコノミストです。昨年2020年10月の出版なのですが、やや情報が古くてアップデートされておらず、その点は残念ですが、日本経済に対する現状把握については正確であると感じました。2020年における新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済的な影響は、2008-09年のリーマン証券破綻後の経済ショックを上回るものがあり、日本のみならず世界的に大きなマイナス成長を記録しています。ただ、米国では積極的な財政支出の拡大によりGDPギャップが埋められて、物価も上昇を続けているわけですが、日本経済についてはまったく財政による需要の下支えが不足しています。本書でもその点は強調されています。米国、中国、欧州に加えて中東や石油関係も概観した後、日本経済についての分析が最後の方に置かれています。繰り返しになりますが、その分析はおおむね正確です。例えば、COVID-19の影響を受ける前に日本経済は2019年10月の消費税率引上げで大きな負のショックを受けていると分析されています。ただ、経済分野ですから、将来見通しはほとんどモノになっておらず、それは仕方ないと諦めるべきかもしれません。

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最後に、グレイス・ペイリー『その日の後刻に』(文春文庫) です。著者は、ロシアから米国に移り住んだユダヤ人の短編小説家であり、邦訳は村上春樹によっています。17篇の短編にエッセイとインタビューを収録しています。この作者の3部作の最終巻であり、その前の2巻は『人生のちょっとした煩い』と『最後の瞬間のすごく大きな変化』で、ともに、村上春樹の邦訳です。邦訳書の出版順とオリジナルの出版順が違っているようなので、私はオリジナルの出版順に読んで、いずれにせよ、本書は3部作の3番めで、私は3冊とも読んでいます。本シリーズの邦訳出版中に著者は亡くなっています。邦訳者の村上春樹はノーベル文学賞の受賞も噂されるんですが、それにしては言葉の扱いが不適当で、「冥福」を祈る旨の記述が文庫本解説にあったりします。どうして、「冥福」が不適当かというと、本作品の作者はロシアから米国に移住したユダヤ人の社会主義者であり、ユダヤ、ロシア、社会主義・共産主義が3大テーマになっています。解説では、ロシア語と英語とイディッシュ語がミックスされた環境で生活した作者の生い立ちが明らかにされています。そして、この3要素とも日本人にはやや理解がはかどらないところかもしれません。特に、前2巻の『人生のちょっとした煩い』と『最後の瞬間のすごく大きな変化』ではなかったように記憶していますが、本書では割礼のお話が出てきます。このあたりは私にはサッパリ判りません。その意味で、とても濃厚、というか、クセのある短編小説です。でも、オーツやマンローなどのように、英語圏では広く知られた女性短編小説家であることは確かです。本書の著者のペイリーはすでに亡くなっていますが、マンローはノーベル文学賞を受賞しました。本書の邦訳者の村上春樹も日本人作家の中ではもっともノーベル文学賞に近いと噂されており、オーツも村上春樹と同じくらいノーベル賞に近い気がします。

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2021年3月26日 (金)

キャンパスのサクラ

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キャンパスのグラウンド周りに植えられているサクラです。
ほぼほぼ満開です。

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3月調査の日銀短観予想やいかに?

来週木曜日4月1日の公表を控えて、シンクタンクから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は4月から始まる2021年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、2021年度の設備投資計画に注目しました。ただし、設備投資をはじめとする先行き企業活動の方向性については、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の終息次第という面があり、シンクタンクにより大きく見方が異なることになってしまいました。それでも、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査 (最近)▲10
▲5
<n.a.>
n.a.
日本総研▲1
▲7
<▲0.0%>
2021年度の設備投資計画は、全規模・全産業ベースで前年度比▲0.0%と、期初の計画としては、例年に比べ高めの数字となる見通し。もっとも、比較対象となる2020年度の実績見込が落ち込むことが主因であり、水準でみると、2020年3月時点の設備投資計画(42.6兆円)を大きく下回る39.6兆円となる見込み。
大和総研+3
▲5
<▲3.2%>
2021年度の設備投資計画(全規模全産業、同ベース)は、前年度比▲3.2%を予想する。新型コロナウイルス感染症の拡大が早期に収束する見込みが立たないなか、中小企業非製造業を中心に設備投資への慎重姿勢が示されるとみている。なお、3月調査において企業が翌年度の設備投資計画を控えめに回答するという統計上の癖があることには注意が必要だ。
みずほ総研+1
▲7
<+0.3%>
2021年度の設備投資計画(全規模・全産業)は、前年度比+0.3%と予想する(図表3再掲)。オンライン関連需要や5G関連需要の増加、米中を中心とした設備・住宅投資の拡大のほか、米国の経済対策に伴う輸出の増加も予想されることから、製造業を中心に3月時点の発射台としては2020年度対比で高い伸びの計画となるだろう。なお、例年通り3月調査時点で設備投資計画が定まっていない中小企業は大幅なマイナスの計画となる見込みだ。
ニッセイ基礎研+1
▲6
<+1.0%>
2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2020年度見込み比で 1.0%増になると予想。例年3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向があるが、今回は2020年度に計画されていた投資の一部が一旦先送りされることで、前年比プラスの伸びが示されると見ている。
ただし、この場合でも、あくまでも先送り分の計上に過ぎず、投資意欲が大幅に改善しているわけではない点には留意が必要になる。また、来年度に投資が実行されるかどうかもコロナの収束動向次第の面が強く、不透明感が否めない。
第一生命経済研▲2
▲4
<大企業製造業▲0.6%>
2021年度は大企業、中小企業ともに前年比マイナスの計画になるとみる。おそらく、中小企業の2021年度の設備投資計画は、初回調査としては弱いものになるだろう。そこには、コロナ禍の長期化を警戒し、たとえワクチン接種が進んだとしても、先行きの不透明感を払拭できない経営者の心理が表れるのではないかとみている。
三菱総研0
▲1
<▲0.2%>
2021年度は、業績が持ち直している製造業や通信、情報サービス業を中心に、中長期の成長につながる投資やDX関連(業務プロセスのデジタル化や製品・サービスの高付加価値化のためのインフラ整備など)投資が設備投資の押し上げ要因となろう。もっとも、新型コロナの感染状況次第では、年度中に設備投資計画の下方修正が行われる可能性もある。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲4
▲4
<大企業全産業+3.8%>
2021年度の設備投資計画は、大企業では製造業、非製造業とも大きめの増加が見込まれる。中小企業でも、年度開始当初としては強めの計画が予想される。20年度の設備投資の実績が前年度比で大幅なマイナスとなることや、ウィズ/アフターコロナの経済活動に適応するための設備投資が急がれること、感染症の影響で20年度に実行できなかった設備投資の持ち越しが相当あると考えられることが、21年度の設備投資計画の強さの背景にある。
なおここで扱っている設備投資計画に含まれないソフトウェア投資についても、企業の生産性向上のためのデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展を背景に大幅な増加が続くとみられ、21年度のソフトウェア投資を含む設備投資は堅調に推移するだろう。

ということで、日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは、9月調査で▲27、12月▲10から3月調査ではゼロ近傍まで回復を見せるという予想が主流となっています。他方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の大きい非製造業はやや回復ペースが遅れると見込まれています。加えて、3月調査では大企業製造業の業況判断DIをマイナスと見込むシンクタンクでも、その先行き6月時点ではプラスに改善するとの予想です。ですから、2021年設備投資計画が3月調査にしては大きめに出ていたりします。もちろん、設備投資については2020年度の減少を受けての前年度比プラスですし、2020年度のマイナスを取り戻すまでの投資増ではありません。さらに、変異株などの影響なのか、欧州でCOVID-19の感染が再拡大していますので、まだまだ先行き不透明感が強く残っていることはいうまでもありません。もちろん、日本はワクチン接種に関しては世界的にももっとも遅れた国のひとつとなっており、その意味でも先行きの不透明感が強くなっています。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2021年3月25日 (木)

リクルートワークス研「定年を境に仕事の価値観は変化するか」?

今週月曜日3月22日にリクルートワークス研から「定年を境に仕事の価値観は変化するか」と題するコラムが明らかにされています。まず、ワークス研のサイトから 定年前と定年後の仕事の価値観の差 のグラフを引用すると以下の通りです。

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まず、コラムではそもそも仕事をする上での価値観について論じているんですが、まあ、それは省略して、定年の前と後における重要性の違いをプロットしています。棒グラフが上に伸びているのは定年後の方がより重要と考えているもの、逆に、下の方に伸びているのは定年後に軽視されるようになったものです。定年後の仕事で重視されているのは、人と交流する機会がある、仕事で自分の責任を果たす、一生懸命に身体を使う、生活のリズムがつく、などとなっています。判る気がします。逆に、定年後に重視されなくなっているのは、高い収入を得る、昇進できる、効率よく対価を得る、安定した職につく、などです。定年に達して、功成り、名もなった上に、それなりの財も得たあと、社会的に自分の居場所を探している年配の退職者の姿が見え隠れしている気がします。

私自身を振り返ると、60歳で役所の方は定年退職したわけですが、今の大学の方も実はフルタイムの正規教員です。ですから、65歳で2度めの定年を迎えます。定年後、ともいえますし、定年前とも見なせます。何とも中途半端な段階なのですが、まあ、このグラフに示された結果は判らなくもありません。

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2021年3月24日 (水)

マイナス幅を縮小させる企業向けサービス価格指数(SPPI)の先行きやいかに?

本日、日銀から2月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は▲0.1%の下落でしたが、変動の大きな国際運輸を除くと保合いでした。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応した緊急事態宣言が首都圏などで続く中、マイナス幅を徐々に縮小させています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業向けサービス価格、前年比0.1%下落 広告は持ち直し
日銀が24日発表した2月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は104.5と、前年同月比で0.1%下落した。前月比では0.2%上昇し、2カ月ぶりの上昇となった。広告など持ち直す分野もあった。
宿泊サービスは新型コロナウイルスの感染再拡大を受けた緊急事態宣言の発令を受け、需要が減少。依然として価格の下押し圧力となった。
広告では年度末に向けた企業による予算消化の動きが見られた。テレビ広告では、携帯各社の新料金プラン開始に伴う出稿が多かった。インターネット広告ではキャッシュレスやエンタメ関連の出稿が堅調だった。
日銀は新型コロナの影響が続くもとで、「ウィズコロナ・ポストコロナの企業間サービスを探る動きが加速してくるのではないか」とみている。
同指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象の146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは58品目、下落は54品目だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

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上のグラフで見ても、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率は、2019年10月の消費税率引上げの効果が剥落した昨年2020年10月からマイナスに陥っていて、それでもまだ、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価上昇率よりは、人手不足の影響などから、マイナス幅は小さくなっています。SPPIの大類別に基づくヘッドライン上昇率への寄与度で見ると、景気に敏感な広告が+0.02%、ソフトウェア開発などの情報通信も+0.02%、労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.01%とプラスを記録しているんですが、他方、リース・レンタルが▲0.05%、運輸・郵便も▲0.04%、不動産も▲0.02%などがマイナス寄与となっています。ただし、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計ながら、前月比では+0.2%の上昇を記録しており、需要の回復とともに徐々に物価も上昇の方向に向かうんではないかと期待しています。何はさておき、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とそれを防止するワクチン接種次第で、先行きの物価や経済動向は決まるのかもしれません。

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2021年3月23日 (火)

世界で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)ワクチン接種はどこまで進んでいるか?

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私の実感では、我が国における新型コロナウィルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種が絶望的に遅れているんですが、データで私の実感を確認しました。上のグラフは Our World in Data の Coronavirus (COVID-19) Vaccinations のサイトから引用しています。見れば判ると思いますが、2つの基本的に同じグラフを結合していて、どちらも最新データが利用可能な3月21日時点での人口100人当たりのワクチン接種者数です。取っているタイムスパンが異なるだけで、上のパネルは今年2021年1月1日からの時系列的な推移をプロットしており、下のパネルは直近でデータが利用可能な基本3月21日時点での接種者数です。
これまた、見れば判りますが、イスラエルが独走しており、すでに、100人を超えていますので2回り目に入っている人も少なくない、ということです。次いで、アラブ首長国連合(UAE)、3番めに最近時点でワクチン接種をものすごいスピードで進めているチリ、そのチリに抜かれたのが4番目の英国、5番目は米国となっています。さらに、西欧・北欧諸国がいくつか続きます。世界のすべての国をプロットしているわけではありませんし、上位国を抜き出しているわけでもありませんから、正確な順位付けはムリです。というのも、世界各国をワクチン接種者数で順位付けすると我が日本はとんでもない低順位に甘んじているからです。下のパネルを見ても、中国、世界平均はもちろん、アジア平均、さらに、バングラデシュ、インドネシア、マレーシアなどなどよりも我が日本はワクチン接種者数が少ないのが見て取れます。100人当たりわずかに0.46人です。「上級国民」向けだったりするんでしょうか?

現在の菅内閣のモットーは「自助、共助、公助」なんですが、ワクチン接種者数がここまで少ない原因として、我々国民の自助が足りないとはとても考えられません。政府の公助が大いに必要です。

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2021年3月22日 (月)

東京オリンピックの開催に関する諸外国の見方やいかに?

昨日3月21日、新聞通信調査会から米国、フランス、中国、韓国、タイの5か国で実施した「対日メディア世論調査」の結果が明らかにされており、東京オリンピック・パラリンピックについて「中止・延期すべき」がいずれの国も70%超との結果が示されています。まず、時事通信のサイトからこの調査結果について報じた記事の最初のパラを引用すると以下の通りです。

東京五輪、7割超が「中止・延期を」 対日好感度、中韓で上昇 - 5カ国世論調査
公益財団法人「新聞通信調査会」は20日、米国、フランス、中国、韓国、タイの5カ国で行った世論調査結果を公表した。新型コロナウイルスが収束しない中での東京五輪・パラリンピックの開催について、「中止すべきだ」と「さらに延期すべきだ」を合わせた回答が、すべての国で7割を超えた。

もちろん、新聞通信調査会の世論調査ですので、いろんな質問が盛り込まれているんですが、時事通信の配信を真似て私のこのブログでも東京オリンピック・パラリンピックにトピックを絞って取り上げたいと思います。

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新聞通信調査会のプレスリリースから、東京五輪・パラリンピック開催についてのグラフを引用すると上の通りです。日本国内や欧米では「開催すべきだ」が¼前後に達していますが、アジアの中国韓国とタイではそこまでの賛同はないようです。いずれにせよ、日本国内を含めて、中止・延期が70%超を占めていて、逆にいえば、今年開催は3割に満たないということです。誰かがどこかで書いていて、私はソースを忘れてしまったんですが、東京オリンピック・パラリンピックの開催については、いわゆる「兵力の逐次投入」の逆で、「五月雨式撤退」になりそうな予感もします。すなわち、まず、すでに決まった海外からの観戦客の受入れをヤメにして、次に、国内の観戦客もヤメにして無観客とし、いくつかの国からの選手団の派遣がポロポロと櫛の歯が抜けるようにヤメになり、最後に開催そのものがヤメになる、というカンジでしょうか。私は早くからムリ筋だと考えていましたし、ここまで国内のワクチン接種が遅れては、政府の責任だと考えます。

最後に、東京オリンピック・パラリンピックとは何の関係もなく、本日、私の勤務する大学の卒業式でした。私は性格的なものかどうか、卒業式とか、入学式とか、あるいは、学園祭とか、決して嫌いではなく、10年ほど前の長崎大学勤務のころには関係なくても出席していたのですが、今はコロナ後の世界となり、卒業生を持たない教員としては少しでも密を避けるために遠慮して欠席しました。私が卒業式を欠席せざるを得なかったのも、いくぶんなりとも、ワクチン接種の遅れが原因だという気がします。

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2021年3月21日 (日)

3月21日雨降る日曜日、本日の雑感やいかに?

今日は雨になりました。
3月に入ってから目についたのは2点あり、阪神タイガースのゴールデンルーキー佐藤選手が連日のホームランで、甲子園、神宮、メットライフドームと3連発は迫力満点でした。一昨日・昨日と打たなかったのが、むしろ目につくくらいです。
もうひとつは、『週刊文春』が出るたびに政治家や官僚が発言を変更することです。しかも、霞が関の高級官僚の記憶力の低下も気にかかります。私が定年退職してほぼほぼ2年が過ぎ、もう忘れ去られているのかもしれません。

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2021年3月20日 (土)

オリックスに競り勝って投手陣は順調な仕上がりを見せる!!!

  RHE
オリックス000000100 151
阪  神00000110x 252

投手戦を制してオリックスに勝利でした。前半は白熱した投手戦、後半もロースコアの試合をものにしました。ゴールデンルーキー佐藤選手は音なしでしたが、投手陣は失点1ながら自責点ゼロで、先発青柳投手をはじめとして順調な仕上がりを見せました。でも、球場が一番沸いたのは、能見投手登場のシーンだったかもしれません。明日がオープン戦締めくくりで、来週金曜日からレギュラーシーズン開幕です。

リーグ優勝と日本一を目指して、
がんばれタイガース!

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今週はクルーグマン教授の経済書をはじめとして新刊読書は計4冊!!!

今週の読書は、クルーグマン教授の経済書のほか、新書や文庫本の小説まで合わせて計4冊です。そろそろ、春休みも終わりますので、来週からもせっせと経済書を読みたいと思います。それから、ある人から私の読書量を問われたので、「新刊書で読書感想文を書いてブログにポストするのが年間で150冊から200冊くらい。そのほかに、エアロバイクを漕ぎながら読む文庫本が年100冊くらい。」と回答しましたところ、前者の方は記録が残りますので本格的に数えたいと思います。ということで、今年2021年に入ってからの結果は、1月21冊、2月17冊、3月は今までのところ本日分を入れて13冊となり、今年に入ってから合計51冊です。1~3月期で50冊強ですから、やっぱり年間200冊くらいかもしれません。なお、新刊読書ではない綾辻行人『深泥丘奇談・続々』と浅田次郎ほか『京都迷宮小路』はFacebookの「おすすめの本」と「本好きの会」などのグループでシェアしておきました。

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まず、ポール・クルーグマン『ゾンビとの論争』(早川書房) です。著者は、ご存じの通り、2008年にノーベル経済学賞を受賞したエコノミストです。英語の原題はであり、2020年の出版です。『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたコラムやブログを中心に、いくつかのテーマに分類して各セクションにエディトリアルのようなまとめの端書きをおいて取りまとめてあります。なお、翻訳は野村総研の山形浩生さんです。『ニューヨーク・タイムズ』紙のクルーグマン教授の連載は2000年から始まっているそうで、ブッシュ政権8年、オバマ政権8年、そして、トランプ政権4年、本書には収録されていませんが、バイデン政権が始まっていて、見事なくらいに共和党と民主党が交代しています。そして、クルーグマン教授は圧倒的に民主党支持です。というか、少なくともコラムやブログなどではその趣旨を展開しています。経済的には高所得者の減税を志向し、ユニバーサルな医療制度などに否定的な共和党政策を批判しまくっているのが本書です。およそ学識は天と地ほどの違いがあるものの、私と経済学の見地からの見方はよく似通っています。しかし、私の場合は何とか妥協点を見出して現在のネオリベ政策を変更させようとするのに対して、本書で示されたクルーグマン教授の舌鋒は止まるところを知りません。私なんぞの穏健派から見ればヤリ過ぎの観もあります。私なんぞは小心者ですし、大昔のコミンテルン流のディミトロフの統一戦線理論ではないですが、左側からジワジワと右側に支持を広げようとするんですが、クルーグマン教授は一刀両断に「アホ、バカ、マヌケ」で終わっているように見えます。大雑把にいって、分配まで市場に任せるネオリベ政策ではなく、キチンとケアすべきはケアするために政府が分配に一役買うリベラル、さらに、歴史的な流れを押し止めようとする保守ではなく、歴史をさらに一歩前に進めるような進歩派、というのが私の立ち位置です。加えて、イデオロギー的に宗教的・狂信的といえるほどかたくなな態度に終止するのではなく、科学的な知見を認めて柔軟に思考や態度を変更させることも必要です。かつて、今世紀初頭に我が国でリフレ派の経済学が受入れられなかったのも、こういった二分論法的な思考が関係していたのではないか、と私は考えています。ですから、現在のネオリベ政策の診断は尽きているわけで、実際にどのように政策変更、もちろん、必要によっては政権交代を含めての政策変更を成し遂げるのかが問題です。私は、実際の戦略は定評あるコンサルあたりに依頼するのも一案かと考えているのですが、リベラル・進歩派の仲間からは私のような柔軟すぎる見方はなかなか受入れてもらえません。最後の最後に、本書はかなりのボリュームです。一応、それなりに伝統ある大学の経済学部の教授職にあり、かつ、それなりの読書量を誇る私ですら、2日半かかって読了しています。ご参考まで。

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次に、原田ひ香『一橋桐子(76)の犯罪日記』(徳間書店) です。著者は、著書多数の小説家ながら、私はこの作品が初めてでした。タイトル通り、高齢女性が生活に困り始めて、犯罪に走って刑務所に入ろうと試みるというストーリーです。章別構成として、万引から始まって、紙幣贋造、闇金関与、詐欺、誘拐に最後は殺人まで、いろいろと凶悪犯罪を試みるのですが、すべてが上手く行かずに、結局は、周囲の人に支えられて幸福な老後を送る、というハッピーエンドになります。つまらない筋の運びと考える読者もいそうですし、私もそれを理解できなくもありませんが、最近の小説は深みがなくてやたらと心温まるストーリーが主流になった気がしますので、そういった小説を好きな人にはオススメです。私自身はビミョーなところです、というのは、私自身は前々からいわゆる青春小説が好きで、例えば、フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』は別格としても、大学生の青春を取り上げたものとして、吉田修一でいえば『横道世之介』、三浦しをんはいろいろありますが、『風が強く吹いている』などなど、万城目学のデビュー作『鴨川ホルモー』、あるいは、高校生を主人公にしたものであれば、これまた、サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を別格としても、恩田陸の『夜のピクニック』とか、朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』、宮下奈都の『羊と鋼の森』なんかです。そして、振り返ってみると、小学生のころには『次郎物語』を読んだ記憶ある人も多いのではないでしょうか。その意味で、この作品はタイトル通りに70代半ばの高齢女性を主人公にしていて、私もとうとうその年齢に達したのかと觀念してしまいそうになりました。たぶん、そうなんでしょう。これから、我が国の高齢化とともに、こういった高齢者を主人公にした小説がヒットするようになるのかもしれません。でも、年齢に抗して『推し、燃ゆ』のような世界を楽しみたいと思います。でも、まだ読んでいなかったりします。

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次に、山竹伸二『ひとはなぜ「認められたい」のか』(ちくま新書) です。著者は、哲学・心理学の分野で批評活動を展開する批評家ということで、特に、ジャーナリストでもないし、ましてや研究者でもありません。本書の承認欲求という点では、私なんかのシロートはまずマズローの5段階を思い出しますし、本書でもチラリと触れています。現代日本の社会にそれほどネグレクトがいっぱいあるわけでもありませんし、私くらいの年齢に達すると他人様の評価も気にならないことはありませんが、我が道を行く方がラクですし、わがままをいうのは年寄りの特権と考えていたりします。ただ、もちろん、古典的なルース・ベネディクトの『菊と刀』において論じられたように、西洋的な内部からくる罪と日本的な外部からくる恥の文化的な特徴は昔からあるわけでしょうし、特に、現代日本では同調圧力が極めて強いわけですので、そういった評価や承認も生きていく上で必要性が高くなっているのは私でも理解できます。少し前には禁煙ファシズムという言葉もありましたし、昨年来のコロナ禍の中でマスクや咳エチケットなどの圧力が高まっていることは私のような鈍感な年寄にでもヒシヒシと感じられます。本書ではさまざまな角度から承認欲求を考えていますが、特に、存在の承認と行為の承認に分けて考察を進め、後者はともかく、前者の存在の承認は基本的人権の自由そのものという指摘は、そうかも知れないと思わせるものがあります。他方で、承認不安は自分自身に自信がないということの裏返しなわけで、他者とうまく付き合う一方で、自己の確立なども必要そうな気がします。最後に、著者はカウンセラーでも研究者でもなく、批評家ですので、解決策を本書に求めるのは間違っています。著者も解決策らしきものを提示してしまっていますが、あまりに一般的で適用可能性はかなり低いと考えるべきです。その点だけは注意が必要です。

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最後に、G.K.チェスタトン『知りすぎた男』(創元推理文庫) です。著者は、ミステリ好きなら知らない人はいないでしょう。ブラウン神父のシリーズで有名です。本書は、記者のハロルド・マーチをワトソン役とは少し違うものの相棒にして、上流社会の政治家ホーン・フィッシャが探偵を務める短編ミステリが8話収録されています。タイトルは収録順に、「標的の顔」、「消えたプリンス」、「少年の心」、「底なしの井戸」、「塀の穴」、「釣師のこだわり」、「一家の馬鹿息子」、「彫像の復讐」となっています。英国の総理大臣や閣僚クラスとも親交ある探偵で、英国上流社会の謎を解くんですが、もちろん、殺人事件も少なくありません。主として、政治や政治家に絡んだ事件が多い印象です。植民地統治論や小英国主義など、パクス・ブリタニカの世界で大英帝国を形成していたビクトリア時代が舞台です。チェスタトンといえば逆説的な謎解きもあるんですが、本書に収録された短編は、ミステリとしてはそれほど難解なものではなく、むしろ、文学や音楽などの上流社会らしい教養を楽しむ中身といえるかもしれません。ただ、繰り返しになりますが、政治や政治家が絡んだミステリですので、それなりに重厚という表現ではないにしても、シリアルな内容の謎となっています。ブラウン神父シリーズ以外のチェスタトンの作品としては、私はこれまでに『奇商クラブ』と『ポンド氏の逆説』くらいしか読んだことがなかったのですが、そういった政治とはほとんど関係のない市民階級のミステリとは、また違った味わいのある短編集です。好き嫌いは分かれるかもしれませんし、ミステリとしてはそれほどの秀作というわけではありませんが、文庫本で300ページほどのボリュームですので、時間つぶしにはもってこいです。

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2021年3月19日 (金)

2月の消費者物価指数(CPI)上昇率は石油市況により下落幅を縮小!!!

本日、総務省統計局から2月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲0.4%の下落と、7か月連続の下落を示しつつも、下落幅は徐々に縮小しています。他方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+0.2%とプラス幅を拡大しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の消費者物価0.4%低下 旅行者減り宿泊料下がる
総務省が19日公表した2月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)によると、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数は101.5と前年同月比0.4%下がった。低下は7カ月連続で、下げ幅は前月の0.6%から縮小した。20年春から下落していた原油価格が反発したため、全体を押し下げているエネルギー関連項目の下げ幅が縮んだ。
エネルギー関連では都市ガス代が10.0%、電気代が7.8%、ガソリンが6.2%それぞれ低下した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は102.0と0.2%上がった。上昇は2カ月連続。
宿泊料は5.1%下がり、前月の2.1%から下げ幅が広がった。2月は政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」は停止していたので影響はなく、総務省の担当者は「旅行者の減少が価格を下げたとみられる」と説明した。
巣ごもり需要の高まりから、ルームエアコンが10.9%、空気清浄機が26.4%それぞれ上がった。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲0.4%の下落でしたので、ジャストミートしました。CPIの下落が続いていることについては、一昨年2019年10月からの消費税率引上げの効果の剥落もさることながら、エネルギーや政策要因の幼児向け教育あるいは高等教育の無償化などに伴う部分が小さくありません。他方で、国際商品市況の石油価格に従って、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率も下落幅を縮小させています。さらに、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率もわずかながら上昇幅を拡大しています。1月統計でのコアCPI上昇率▲0.6%に対して、エネルギーの寄与度は▲0.68%だったのですが、2月のコアCPI上昇率▲0.4%に対しては▲0.57%と寄与度差が+0.11%あります。この1月統計から2月統計にかけてのエネルギーの寄与度差+0.11%のうち、ガソリンが+0.08%を占めます。私自身は自動車に乗らないので大きな実感はありませんが、自転車で走っているとリッター140円から145円くらいのガソリンスタンドが多いような実感があります。ただし、政策要因としては教育費の下落もあります。10大費目の教育費は1月統計の前年同月比で▲2.2%下落、2月も引き続き▲2.1%の下落を記録しており、1月も2月もCPI総合に対して▲0.06%のマイナス寄与を示しています。何と、その教育費のうち、大学授業料(私立)が▲4.3%の下落、寄与度も▲0.04%となっています。まさに、私のお給料のひとつの源泉だったりしますが、高等教育無償化の影響です。

仏果の先行きについては、私は基本的に楽観しています。というのは、もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)次第なんですが、ワクチン接種の広がりに応じて内外の需給ギャップが改善し、国際商品市況における石油や1次産品の価格も上昇の方向にあると考えています。ですから、順調ならば年央くらいにはコアCPI上昇率はゼロからプラスに転じるものと期待しています。

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2021年3月18日 (木)

MMD研究所「オンラインでの就職活動に関する実態調査」の結果やいかに?

一昨日の3月16日に、MMD研究所から「オンラインでの就職活動に関する実態調査」の結果が明らかにされています。対象は15歳から25歳ですので、大学生とは限定せずに就活生全体ということのようです。オンライン就活経験者は69.4%に達し、オンライン就活の普及を期待する就活生は85%を超えています。まず、MMD研究所のサイトから【調査結果サマリー】5点を引用すると以下の通りです。

【調査結果サマリー】
  • 2020年の就活生のうちオンライン就活経験者は69.4%
    オンライン就活で行ったイベントの上位は「説明会」「1次面接」「筆記試験」
  • オンライン就活を行った業界は男女共に「IT業界」が最多
  • オンラインでの就活のメリットは「移動がない」、デメリットは「会社の雰囲気がわかりにくい」
    学生がオンライン就活の際に企業に求めることは「会社に関する資料の提供」
  • オンラインでの就活が今後もっと普及してほしいと回答した人は85.4%
    オンラインにしてほしいイベントの上位は「説明会」「1次面接」「筆記試験」
  • オンライン就活時、ドタキャンをしたことがある人は38.1%
    ドタキャンの回数は1回が最多

私も1年前に大学教員に復帰し、下の倅も4月には4回生に進級してすでに就活が始まっているように聞き及んでいます。なかなかに興味深い調査ですので、MMD研究所のサイトからグラフをいくつか引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはMMD研究所のサイトから 2020年昨年の就活におけるオンライン就活 などに関する調査結果を引用しています。オンライン、対面、そして、オンタイン+対面のハイブリッド、それぞれによさもあれば、そうでない点もあるんでしょう。

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次に、上のグラフはMMD研究所のサイトから オンラインで行った就活イベント に関する調査結果を引用しています。もちろん質疑はあるんでしょうが、ほぼ一方通行の説明会はオンラインの比率が高く、面接も1次の方が2次・3次よりもオンライン比率が高い、という想定される結果となっています。

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次に、上のグラフはMMD研究所のサイトから オンライン就活のメリットとデメリット に関する調査結果を引用しています。10年ほど前に私が長崎大学に出向していた際には、東京での就活はかなり負担ではなかろうかと感じていたのですが、オンラインであれば距離のハンディはありませんから、全国から学生が参加できます。ただ、もちろん、デメリットもかなりありそうな気がします。

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次に、上のグラフはMMD研究所のサイトから オンラインで行ってほしい就活イベント に関する調査結果を引用しています。かなりの程度に実態に沿った回答になっている気がします。

最後に、図表の引用はしませんが、オンライン就活を行った業界については、当然といえば当然ながら、男女ともにIT業界がトップでオンライン就活を活用していて、2番めは男子が自動車・機械、女子は食品、という結果が示されています。はてさて、今年の就活戦線やいかに?

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2021年3月17日 (水)

2月の春節で貿易統計はややイレギュラーな動きを示す!!!

本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比▲4.5%減の6兆380億円、輸入額は逆に+11.8%増の5兆8206億円、差引き貿易収支は+2174億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月輸入、1年10カ月ぶり増加 原油の落ち込み和らぐ
財務省が17日発表した2月の貿易統計速報によると、輸入額は前年同月比11.8%増の5兆8206億円となり、1年10カ月ぶりに増加に転じた。新型コロナウイルスの感染拡大で2020年2月に中国からの輸入が半減した反動が大きいが、原油など燃料輸入も持ち直しつつある。
中国からの輸入は114.5%増の1兆4458億円。伸び率は比較できる1979年からのデータで最大となった。スマートフォンを中心とする通信機が倍増し、衣類なども2.9倍になった。米国からの輸入も3.7%減とマイナス幅が20年5月以降で初めて1桁にとどまり、欧州連合(EU)からの輸入も1年2カ月ぶりに増加に転じた。
原油輸入は30.7%減。マイナス幅は50%を超えた20年11月から3カ月連続で縮まっている。コロナ拡大後に4割減まで落ち込んでいた液化天然ガス(LNG)も15.9%増と19年4月以来で初めて増加に転じた。
輸出額は6兆380億円で4.5%減った。減少は3カ月ぶり。特に米国向けは14.0%減の1兆922億円と2カ月連続でマイナス幅が拡大した。自動車が19.7%減っており、寒波による販売減や半導体不足による減産の影響が出た可能性がある。
中国向けの輸出は堅調だ。春節(旧正月)の影響を考慮して1~2月の合計でみると約2兆4000億円となり、前年同期比で2割弱増えた。2月単月では半導体などの製造装置を中心に3.4%増えた。
輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2173億円の黒字だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は+3950億円の黒字でしたので、それほど大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。季節調整していない原系列の金額ベースの統計で見て、1月は輸出がプラスで輸入がマイナス、2月は逆に輸出がマイナスで輸入がプラス、というやや変則的な結果になっています。この大きな要因は中華圏の春節であり、今年2021年は2月1日ですから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響があるとはいえ、春節休暇は2月となっています。ですから、このカレンダーをにらみつつ生産や貿易活動がなされて、1月には中華圏では春節前に生産を前倒し、日本から見れば輸出が伸びた一方で、2月は中華圏で生産が停滞して日本からの輸出が停滞したわけです。ですから、引用した記事にもあるように、1~2月をならして見れば、大きな変動は見られないと私自身も考えています。すなわち、1~2月をならせば、輸出入ともにほぼ前年同期と変わらない水準で、ただし、輸出がわずかにプラスで輸入がマイナス、しかし、ともに±1%に満たない変動となっています。その中で、米国向けの2月の貿易が、輸出▲14.0%、輸入▲3.7%と、ともに減少を記録しています。私はよく認識していなかったのですが、寒波によって一部の港湾が閉鎖されたことが影響しているという経済外要因を指摘するエコノミストもいます。加えて、輸入統計を見ると、国際商品市況における石油価格COVID-19が世界的に徐々に終息に向かいつつも、なかなか先の見えない中で、貿易活動も少しずつCOVID-19の影響を乗り越えようとしているように見えます。

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続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出金額指数の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国向けの輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。ここでも、2月統計では、中華圏の春節の影響により、OECD先行指数で代理している需要要因ほどには我が国の輸出数量が伸びていません。3月からはCOVID-19の影響次第ではありますが、ワクチン接種が進めば、我が国の輸出も伸びるものと期待しています。

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2021年3月16日 (火)

今年、お花見はするのか、しないのか?

そろそろ、東京でサクラが開花し始め、通常であればお花見シーズンが近づいています。もちろん、昨年から新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で宴会ができませんから、私なんぞにとってはお花見の魅力が激減していることも事実です。ということで、先週いくつかのサイトでお花見に関するアンケート調査結果が明らかにされています。今日取り上げるのは以下の2社です。

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まず、インテージ調査の結果の過去2年も含めたお花見の経験、や予定です。極めて大雑把に、一昨年から2年間でお花見はほぼ半減です。ただし、30歳未満層についてはお花見の意欲の減退が30歳以上の中年層や60歳以上の高齢層ほどは大きくない、という結果が示されています。逆に、私もそうですが、60歳以上層では2年前までお花見に行く人が半分近かった一方で、今年2021年は他の年齢層と大差なくなっています。今も2年前も時間的余裕はタップリあるはずなんですが、コロナに対する耐性の違いが反映されているのかもしれません。

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次に、ぐるなび調査部の花見の予定と同行者の希望です。できればしたいと回答した37.8%は昨年お花見できなかったリベンジお花見ではないかと分析されています。同行者は家族が圧倒的ですが、知人・友人も無視できません。1人でというのは宴会なしであれば可能そうですが、宴会が主目的の場合はなかなか成り立ちにくい気がしないでもありません。

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次に、インテージ調査から同行者の回答結果です。ぐるなび調査部の調査結果と同じで、家族でお花見というのがもっとも多くなっています。ここでも、1人でという人が15%前後の割合を占めています。最後に、グラフは引用しませんが、どこに行くかについては近場の桜の多い公園や河川敷、というのが両社に共通して圧倒的でした。我が家も、子供が小さいころは井の頭公園まで足を伸ばしていましたが、段々と徒歩圏内で済ませるようになった記憶があります。

前の公務員の時とは違って、教員は卒業式や入学式や何やでお花見シーズンがかなり忙しい上に、なぜか、先日、同僚教員と梅の花見に行きましたので、私は今年はお花見はパスしそうな気がします。ただ、近場には御香宮神社とか、太閤さんのお花見で有名な醍醐寺とかがありますので、チラリと見に行きたい気はします。

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2021年3月15日 (月)

3か月ぶりに減少した1月統計の機械受注から何を読み取るべきか?

本日、内閣府から1月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲4.5%減の8417億円と、4か月ぶりに前月比マイナスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の機械受注、前月比4.5%減 市場予想は5.5%減
内閣府が15日発表した1月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比4.5%減の8417億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は5.5%減だった。
うち製造業は4.2%減、非製造業は8.9%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は1.5%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、貿易統計のグラフと同じで、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

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船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月比で▲5.9%減でしたので、実績の▲4.5%減という結果はこの振れの大きい統計から考えれば、まったく何のサプライズもありませんでした。ただ、引用した記事には「QUICKがまとめた民間予測の中央値は5.5%減だった。」とあるのがや不思議です。再集計してビミョーに上方改定されているのかもしれません。いずれにせよ、もともと、先月統計の公表時に、今年2021年1~3月期コア機械受注は前期比▲8.5%減の2兆3,752億円と見込まれていましたので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための緊急事態宣言もあって、3か月連続の前月比増の後の減少ですから、「こんなもん」という受け止めが多そうな気がします。上のグラフのうちの上のパネルに見られるように、トレンドを6か月後方移動平均で見ると、まだ伸びている方向にあるようですので、引用した記事にあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直している」で据え置いています。コア機械受注の先行指標である外需も増加しています。
それでも少し詳しく見ておくと、製造業では前月比▲4.2%減となった一方で、船舶と電力を除く非製造業でも▲8.9%減を記録しています。COVID-19の影響が大きい非製造業でマイナス幅が大きいのは当然といえます。非製造業では、もっと詳しい産業別で見ても、ほぼすべての産業からの受注が減少している印象です。先行きについては、COVID-19の感染拡大次第、逆から見て、ワクチン接種の広がり次第、といえます。その点については、先週3月10日に取り上げた経済協力開発機構(OECD)から「OECD 経済見通し中間報告」OECD Economic Outlook, Interim Report と基本的に同じです。ただ、これも「OECD 経済見通し中間報告」と同じで、財政政策による景気拡大策も重要なのですが、1.9兆ドルの対策を打ち出した米国のバイデン政権と違って、日本政府はまったくその気はないように見受けられます。来月、総理が訪米した際に少しネジを巻いて欲しい気すらします。

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2021年3月14日 (日)

今年は巨人に勝てるかな?

  RHE
読  売000000000 031
阪  神000100000 170

ゴールデンルーキー佐藤選手のホームランの1点だけながら、完封リレーで巨人に勝利でした。昨年はジャイアンツには負け続けでしたので、今年はがんばって欲しいところです。定年までの役所勤めを終え、大学教員に再就職して、ほぼほぼ子供2人も育て上げ、約1年前に生まれ故郷の京都に引越して、2年目の野球シーズンが始まりました。昨年は変則的なシーズンでイマイチ成績もふるいませんでしたが、今年は戦力的には申し分なく、後はベンチワークだけが問題なのでしょうか?

リーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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2021年3月13日 (土)

今週の読書はとうとう経済書や教養書なしで小説と新書の計4冊!!!

今週の読書は、何と、とうとう経済書も教養書も専門書もなしで、小説と新書だけになってしまいました。新書も経済の話題ではありません。来週は出来れば、経済書も読みたいと考えています。まあ、それはともかく、以下の通りの計4冊です。

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まず、加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社) です。著者は、男性アイドルグループNEWSのメンバーとして活動しながら、2012年1月に『ピンクとグレー』で作家デビューしています。私は読んでいません。本作品が初めてだったりしますが、第42回吉川英治文学新人賞を受賞したほか、2021年本屋大賞や第164回直木賞にもノミネートされています。出版社も特設サイトを設けて、営業にも力が入っているようです。ということで、タイトルの「オルタネート」というのは、高校生限定のSNSやマッチングのアプリで、フロウを送ってコネクトして友達、あるいは、カップルになることを目的としたスマホ向けのアプリです。かなり厳重なセキュリティのようで、高校を卒業はもちろん、退学してもアカウントが停止されます。という基礎知識を展開して、ストーリーの舞台は東京にある円明学園高校、幼稚園から大学までのエスカレータ式の私立高です。オルタネートを使わない調理部長の蓉、逆に、オルタネート信奉者でマッチングに大きな期待を寄せる凪津、高校を中退し音楽の道を歩もうとして大阪から単身上京した尚志、の3人を取り巻く人間像を描こうとしています。新学期始まったころから、秋の文化祭までがお話の中心になり、調理部が「ワンポーション」という高校生向けのお料理コンテストの決勝に進むころがピークを迎えます。その後、というか、そのお話が進んでいく中にもいろいろとあるんですが、基本的にはラノベですし、しかも、登場人物はほとんどが高校生ということで、ストーリーも人物描写も荒っぽい気はします。でも、荒っぽい中に、私もフォ組めて、多くの読者の感性が刺激される部分が十分にあり、特の、おそらくは高校生であればさらに共感できる部分が多いのではないかと想像します。私が10年あまり前に長崎大学で教員をしていたころには、高校を卒業したばかりであろう新入生は『リアル鬼ごっこ』でデビューした山田悠介のホラー小説が好きな学生が多く、やや私もびっくりした記憶があるんですが、本書くらいののんびりした内容であれば、高校生や大学生を読者に引き入れる役割が果たせそうで、私は大いに期待しています。

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次に、中山七里『毒島刑事最後の事件』(幻冬舎) です。著者は、売れっ子のミステリ作家であり、私なんぞから紹介するまでもないと思いますが、この毒島刑事シリーズは『作家刑事毒島』というのが数年前に同じ出版社から出ていて、私はすでに読んでいます。前作は主人公の毒島がすでに刑事を辞めていて、警察、といいうか、警視庁に刑事技能指導者として再雇用されているところからスタートしていましたが、本書はその毒島が警察を辞めるまでがメインストーリーになっています。ですから、時間軸でいえば出版順とは逆で本作品は前作の前の現役刑事としての毒島の活躍を追っています。ということで、本作品では各章で取り上げられている犯罪の背後に犯罪を教唆する「教授」を追い詰めるという流れです。私自身も肩書は教授であって、学生や院生からそう呼ばれることも時折ありますが、本作品の「教授」はホントの教授ではありません。各章のタイトルはそれなりに難解な4文字熟語なんですが、大手町連続射殺事件、出版社連続爆破事件、連続塩酸暴行事件、復讐殺人事件と続き、最後に「教授」までたどり着いて逮捕したものの、自死されてしまって毒島が退職する、ということになります。自信過剰で性格が悪いものの、能力的には十分な毒島刑事が事件を解決してゆきます。もちろん、第4章ではやや痴呆症気味の高齢者を操る介護職員を、実は、さらに「教授」が操っている、という構図なので、ホントにそんな事が可能なのか、と疑問に思う向きがあるかもしれませんが、まあ、こんなもんでしょう。かなり多くのフィクションの小説ではムリがあるものではないでしょうか。なお、この作家は特にグロな描写を用いることがありますが、本作品、というか、本シリーズはそうではありません。それほど論理的な謎解きではなく、ミステリとしては物足りないと感じる読者もいるかもしれませんが、まあ、時間つぶしのエンタメ読書には十分でしょう。

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次に、黒木登志夫『新型コロナの科学』(中公新書) です。著者は、がんの基礎研究が専門分野で、公衆衛生とか感染症は専門外なようですが、いろんな視点から新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する科学的な情報を本書で取りまとめています。私はエコノミストですので、本書の著者よりももっとCOVID-19より離れた専門分野なわけですので、必ずしも科学的な地検としてのCOVID-19に関する情報をすべて理解できたわけではありませんが、私にとってももっとも重要な本書から得られた科学的知見は、やっぱり、PCR検査が不足しているという点です。著者も何度か強調しているように、想像の域を出ないまでも、厚生労働省ではPCR検査を多数実施して無症状の感染者に対する医療対応で医療崩壊を来しかねない、という配慮からPCR検査の検査数を制限していることは、感染防止の観点からは望ましくないことはかなり明らかなように思います。すなわち、本書でも指摘しているように、初期には無症状の感染者からの感染が50%を占めていたわけで、無症状であってもPCR検査で陽性であれば隔離する必要があったのですが、それをしなかったにもかかわらず感染が爆発的な拡大を見せなかったのは、私はマスク着用とソーシャル・ディスタンシングで防止したとしか考えられません。「3密」という言葉も流行りましたが、本格的なワクチン接種がほとんど進んでいない現状で、感染防止のためにはマスク着用とソーシャル・ディスタンシングしかありません。日本人はそれを忠実に守ったのだろうという気がします。一部の外国のようにマスクなしでハグしたりすれば、感染が拡大するのは明らかです。PCR検査をケチったという政府対応の誤りを国民の高い意識がカバーした、と私は考えています。いずれにせよ、本書はCOVID-19に関する科学的な知見を集めたものであり、私のような専門外のエコノミストでも、いくぶんなりとも、役に立ちそうな気がします。

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最後に、田中拓道『リベラルとは何か』(中公新書) です。著者は、一橋大学の政治理論お研究者です。本書を読んでいて、5年ほど前の2016年9月10日付けの読書感想文で同じ中公新書で宇野教授の『保守主義とはなにか』を読んだのを思い出しましたが、同時に、ややレベルの差を感じてしまいました。というのも、本書では、カテゴライズにカーテシアン座標を用いるのはいいのですが、横軸が配分・再配分の主体が国家と市場、ここまではOKで、縦軸が保守とリベラルになっているのは、本書のタイトルである「リベラル」の解明にはトートロジーで、リベラルとは保守の反対、ということになってしまいます。宇野教授の『保守主義とはなにか』の感想文でも書きましたが、保守とは歴史の流れを現時点でストップさせようとする考えであり、その逆は進歩主義であると私は考えています。他方で、歴史の流れを逆転させようとするのが反動主義です。その観点からすれば、リベラルとは保守の反対ではなく、むしろ、配分や再配分を市場ではなく政府が主体となる世界観を持つのがリベラルであろうと私は考えています。ですから、本書でいうところのケインズ的な福祉国家はまさにリベラルそのもの、と私は考えています。ただ、ここで注意すべきなのは、配分・再配分については、事後的なものだけでなく、事前的な配分についても考えに含める必要があります。もっとも理解しやすいもので所得の再配分について考えて、徴税と社会福祉で稼得所得を事後的に再配分するのは大いに結構で、私は累進課税の強化と逆進的な消費税の縮小ないし廃止を政策としてすすめるべきとすら考えていルエコノミストなんですが、それだけではなく、事前的な所得に影響する要因への対応という政策もありなわけで、教育とか職業訓練が容易に想像されます。ほかの例を上げることはしませんが、こういった再配分・配分の観点をリベラルと私は考えるべきと主張したいと思います。ということで、繰り返しになりますが、やや物足りない読書でした。

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2021年3月12日 (金)

3四半期ぶりの下降超となった足元の法人企業景気予測調査をどう見るか?

本日、財務省から1~3月期の法人企業景気予測調査が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)は足元1~3月期で▲4.5でした。下降超のマイナスは2020年4~6月期以来3四半期ぶりです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業景況感、1-3月マイナス4.5 4-6月はプラス2.5
財務省と内閣府が12日発表した法人企業景気予測調査によると、1~3月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス4.5だった。3四半期ぶりのマイナスで、前回調査の2020年10~12月期はプラス11.6だった。先行き4~6月期の見通しはプラス2.5だった。
1~3月期は大企業のうち製造業がプラス1.6で、非製造業はマイナス7.4だった。中小企業の全産業はマイナス31.4だった。
21年度の設備投資見通しは前年度比7.6%増だった。20年度は9.2%減だった。
景況判断指数は「上昇」と答えた企業と「下降」と答えた企業の割合の差から算出する。

続いて、法人企業景気予測調査のヘッドラインとなる大企業の景況判断BSIのグラフは下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。これまた、直近の2020年4~6月期直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)で見ると、2020年4~6月期に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応した緊急事態宣言によるロックダウンの影響を受けて、▲47.5の大きなマイナスを記録した後、2四半期連続のプラスを記録したものの、地域限定とはいえ再度の緊急事態宣言により足元1~3月期には3四半期ぶりの下降超となりました。大企業のうち、製造業では+1.6、非製造業では▲7.4ですから、中国や米国など世界経済回復の恩恵を受ける製造業と、人的コンタクトが避けられない宿泊業、飲食サービス業などでまだ低い水準を続ける非製造業の差が出ています。具体的に、足元1~3月期の大企業の産業別で見たBSIは、宿泊業、飲食サービス業が▲76.7、娯楽業▲56.4、生活関連サービス業▲33.3などが大きなマイナスを記録しています。ただし、先行き4~6月期の大企業全産業のBSIは+2.5、7~9月期は+7.1と、プラスに転じてその幅が拡大していくと見込まれています。加えて、2021年度の設備投資計画は+7.6%増と、2020年度の▲9.2%減をカバーするほどではありませんでしたが、増加の計画が示されています。製造業+7.9%増、非製造業+7.4%増と大きな差はありませんもちろん、ワクチン接種の進展に伴う景気回復期待も大きいのでしょうが、この統計のクセのようなものも含まれている可能性が十分あると私は考えています。

さて、4月1日に公表される予定の3月調査の日銀短観やいかに?

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2021年3月11日 (木)

2月の企業物価指数(PPI)上昇率は着実にマイナス幅を縮小!!!

本日、日銀から2月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は▲0.7%の下落を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業物価指数、前月比0.4%上昇 3カ月連続のプラス
日銀が11日発表した2月の企業物価指数(2015年平均=100)は101.2と、前月比で0.4%上昇した。前月比の上昇は3カ月連続。石油製品や化学製品の値上がりが寄与した。一方、前年同月比では0.7%の下落だった。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。2月はサウジアラビアの自主的な追加減産や、バイデン米政権が打ち出した追加経済対策による米国の景気回復期待を背景に、原油市況が強含み、石油製品や化学製品など幅広い分野の価格を押し上げた。中国の需要回復で非鉄金属が上昇したほか、海外の自動車や家電製品の需要持ち直しで鉄鋼も上昇した。
円ベースでの輸出物価は前年同月比0.3%上昇、前月比では1.4%上昇した。円ベースでの輸入物価は前年同月比で3.5%下落、前月比で4.1%上昇した。
公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは287品目、下落したのは353品目だった。

続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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特に、コメントすることもなく、順調に足元で物価が下げ止まりつつあります。ただ、その要因は基本的に石油価格であり、おそらく、2~3か月で確実に石油価格は前年同月比でプラス寄与し始めると私は考えています。どうも、企業物価のヘッドラインとなる国内物価では、前年同月比のマイナス幅が下げ止まるとともに、季節調整していない系列ながら前月比に注目するようになったようで、引用した記事もそうなっています。ということで、前月比+0.4%に対する寄与度で見て、ガソリンなどの石油・石炭製品の寄与が+0.25%ともっとも大きく、化学製品の+0.10%、非鉄金属+0.09%、鉄鋼+0.06%と続きます。引用した記事には、米国バイデン政権の追加経済対策による景気回復期待となっていますが、米国だけではなく中国の景気回復も視野に入れて、国際商品市況で石油をはじめとする各種資源が値上がりしているようです。従来から主張しているように、我が国の物価を見ている限り、日銀の金融政策よりも国際商品市況の影響力の方が大きい気すらしていますから、このままもしも物価が上昇し始めたりすると、他国の景気回復に頼ったデフレ脱却になるのかもしれません。

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2021年3月10日 (水)

OECD「経済見通し中間報告」の成長率見通しはワクチン効果と財政支援策で上方修正も日本は欧米に比べて大きく見劣り!!!

昨日、3月9日付けで、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し中間報告」OECD Economic Outlook, Interim Report が公表されています。見通しのヘッドラインとなる世界の実質経済成長率は今年2021年が+5.6%、来年2022年が+4.0%など、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの普及や米国の追加経済対策の効果を織り込んで、昨年2020年12月時点の予測から上方修正しています。また、副題は Strengthening the recovery: The need for speed とワクチン接種のスピードを強調するものとなっています。もちろん、20ページあまりのpdfの全文リポートプレス向けのプレゼン資料もポストされています。私のこのブログは、週末の書評とともに国際機関のリポートに着目するのをひとつの特徴にしており、こういった資料から図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、プレス向けのプレゼン資料の p.2 Overview と p.6 OECD Interim Economic Outlook projections のスライド2枚を結合させると上の通りです。上のスライドから、3点明らかにされていて、第1に、経済見通しが大幅に改善されたことを強調しつつ、第2に、その改善についてはワクチン接種、財政政策によるサポート、公衆衛生管理、人的コンタクトが大きくCOVID-19の影響が甚大であった部門のシェアなどにより経済パフォーマンスが異なるとし、第3に、その中でもワクチンと財政政策の重要性を指摘しています。下のスライドでは、国別の成長率見通しが来年2022年まで示されています。我が国は+0.3%ポイント以上の上方改定のグループに入っていますが、成長率の数字そのものは他国に比べてかなり低くなっています。

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次に、リポート p.11 から Figure 8. The pace of COVID-19 vaccinations differs substantially across countries を引用すると上の通りです。メディアで広く報じられている通り、イスラエルでもっともワクチン接種が進んでおり、かなり差がありますが、英国と米国がこれに次いでいます。さらに、トルコを含む欧州諸国が続き、ブラジル・中国・ロシアといったBRICs諸国が世界平均の周辺にあり、何と、我が日本がワクチン接種ではもっとも遅れている現状が明らかにされています。中国やサウジアラビアなど、一部に2月28日付けのデータ、と断り書きがありますが、多くは3月1日現在ですから、まさに直近のデータで、この状況です。

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最後に、プレス向けのプレゼン資料の p.11 Differences in fiscal policy and health management are affecting output のスライドを引用すると上の通りです。いずれも日米欧について、左のパネルでは、昨年2020年12月までの財政措置とそれ以降の財政支援の規模を示し、右のパネルではGDP実額の回復度合いをCOVID-19パンデミック前の2019年10~12月期からの乖離としてプロットしています。右のパネルから見て、COVID-19による2020年4~6月期の影響は欧米に比べて我が国では落ち込み幅は小さかった一方で、財政支援規模が欧米に比べて見劣りするため、今年2021年に入って米国に抜かれ、さらに、行くゆくは2020年には欧州にも追いつかれる、という姿が見込まれています。

OECDが強調するワクチンと財政支援のどちらの政策でも我が国は欧米に比べて大幅に遅れが見られるとともに小規模であり、極めて見劣りしています。その昔に、リーマン証券破綻後の日銀の金融政策を too little, too late と表現されたことがありますが、今回のCOVID-19パンデミックでもまったく同じことが繰り返されている気がします。ですから、結果として、上方改定されたとはいえ、先行きの成長率も低いままにとどまります。我が国のメディアでは成長率が上方改定された点を主に報じていますが、もっとしっかりと原典資料に当たって、正確な情報を引き出すことが必要です。

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2021年3月 9日 (火)

下方修正された昨年2020年10-12月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から昨年2020年10~12月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+2.8%、年率では+11.7%と、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で大きなマイナスとなった4~6月期から、7~9月期に続いて2期連続のプラス成長とリバウンドを見せていますが、1次QEからはやや下方修正されました。他方、GDPの実額としては、COVID-19パンデミック前の一昨年2019年10~12月期の548.8兆円にまだ届かない541.6兆円の水準ですし、何よりも、今年2021年に入ってCOVID-19感染拡大第3波により、東京や大阪などに2度めの緊急事態宣言が出された影響もあって、エコノミストの間では1~3月期はマイナス成長が確実とみなされています。その意味で、まだまだ、本格的な回復には時間がかかり、不透明さも払拭されていない気がします。ワクチン接種がいつの時点で広がりを見せるか、気にかかるところです。まず、日経新聞のサイトから長い記事を引用すると以下の通りです。

20年10-12月期の実質GDP改定値、年率11.7%増 速報値より下振れ
内閣府が9日発表した2020年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比2.8%増、年率換算では11.7%増だった。2四半期連続で増えた。速報値(前期比3.0%増、年率12.7%増)から下方修正となった。法人企業統計など最新の統計を反映した。
QUICKがまとめた民間予測の中央値は前期比3.0%増、年率12.6%増と、速報値からやや下振れするとみられていた。
生活実感に近い名目GDPは前期比2.3%増(速報値は2.5%増)、年率は9.6%増(同10.5%増)だった。
実質GDPを需要項目別にみると、個人消費は前期比2.2%増(同2.2%増)、住宅投資は0.0%増(同0.1%増)、設備投資は4.3%増(同4.5%増)、公共投資は1.5%増(同1.3%増)だった。民間在庫の寄与度はマイナス0.6%分(同マイナス0.4%分)だった。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がプラス1.8%分(同プラス2.0%分)、輸出から輸入を引いた外需はプラス1.1%分(同プラス1.0%分)だった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期に比べてプラス0.3%(同プラス0.2%)だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2019/10-122020/1-32020/4-62020/7-92020/10-12
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲1.8▲0.6▲8.3+5.3+3.0+2.8
民間消費▲3.4▲0.2▲7.2+2.6+2.0+1.7
民間住宅▲1.9▲3.7+0.5▲5.7+0.1+0.0
民間設備▲4.5+1.4▲5.9▲2.4+4.5+4.3
民間在庫 *(▲0.1)(+0.1)(+0.1)(▲0.2)(▲0.4)(▲0.6)
公的需要+0.5▲0.2+0.6+2.5+1.8+1.7
内需寄与度 *(▲2.5)(▲0.2)(▲5.2)(+2.6)(+2.0)(+1.8)
外需寄与度 *(+0.6)(▲0.4)(▲3.1)(+2.6)(+1.0)(+1.1)
輸出+0.2▲5.3▲17.2+7.4+11.1+11.1
輸入▲3.2▲3.1+1.3▲8.2+4.1+4.0
国内総所得 (GDI)▲1.9▲0.5▲7.3+5.2+3.0+2.7
国民総所得 (GNI)▲2.0▲0.2▲7.4+5.0+3.2+3.0
名目GDP▲1.2▲0.5▲7.9+5.5+2.5+2.3
雇用者報酬▲0.2+0.3▲3.6+0.6+0.8+0.8
GDPデフレータ+1.5+0.9+1.4+1.2+0.2+0.3
内需デフレータ+1.0+0.8▲0.0+0.2▲0.6▲0.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2020年10~12月期の最新データでは、前期比成長率が7~9月期に続いてプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち赤の消費と黒の純輸出が特に大きなプラス寄与を記録しています。

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繰り返しになりますが、昨年2020年10~12月期のGDP成長率は、季節調整済みの系列で見て、前期比2.8%、年率11.7%となり、1次速報の前期比3.0%、年率12.7%からわずかに下方修正されています。大雑把にいって、内需の各需要項目がチビチビと下方修正された一方で、この内需各需要項目の伸びの鈍化を受けて輸入の伸びが下方修正されたため、外需については小幅に上方修正されています。ただ、内需需要項目の消費、設備投資をはじめとして下方修正されたものの、寄与度ベースでは在庫のマイナス寄与が大きく、というか、よりマイナスに寄与するように修正されています。成長率にはマイナス寄与が大きくあったわけですが、逆から見れば、昨年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに起因して積み上がった在庫の調整が進展した、と私は受け止めています。ですから、1次QEから2次QEへの修正幅が事前の予想通りに小幅であったこと併せて、それほど成長率の下方修正として悲観的になる必要はないものと受け止めています。実質GDPの実額を見ても、2019年10月からの消費税率引上げ直前の2019年7~9月期は559.1兆円に対して、2020年4~6月期には500.1兆円まで落ち込みましたが、2四半期かけて10~12月期には541.6兆円まで回復しましたので、▲59兆円の落ち込みのうち41.5兆円と70%を取り戻したことになります。まだ70%回復にとどまっている現段階で、問題は足元の1~3月期です。年始早々から、COVID-19パンデミックの第3波に伴い、都市部の一部都府県に緊急事態宣言が発せられて、首都圏の1都3県以外の関西圏などは2月いっぱいで解除されたものの、首都圏については2週間の延長がなされています。従って、足元1~3月期はマイナス成長が確実です。ただ、昨年2020年4月からの緊急事態宣言と比べて、飲食店の営業が時間短縮にとどまり全面休業ではなく、地域的にも限定されていることから、成長率もそれほど大きなマイナスにはならないものと多くのエコノミストは考えています。例えば、ニッセイ基礎研のリポートでは「2021年1-3月期は前期比年率▲6.0%と3四半期ぶりのマイナス成長を予想するが、落ち込み幅は前回の緊急事態宣言時を大きく下回るだろう。」と結論されています。同様に、大和総研のリポートでも1~3月期は年率▲5.1%のマイナス成長と見込んでいます。

すべてではありませんが、ワクチン接種の遅れが人的接触を必要とするセクターの消費の抑制要因のひとつとなっています。ワクチン接種の遅れを取り戻し、回復を確かなものとするために、米国並みの200兆円とはいわないまでも、私は財政による家計の所得へのサポートが必要と考えています。

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2021年3月 8日 (月)

景気動向指数と景気ウオッチャーに見る景気回復の兆しをいかに確実にするべきか?

本日、内閣府から1月の景気動向指数と2月の景気ウォッチャーが、また、財務省から1月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気動向指数では、CI先行指数が前月から+1.4ポイント上昇して99.1を、また、CI一致指数も前月から+3.5ポイント上昇して91.7を、それぞれ記録しています。景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+10.1ポイント上昇の41.3を示し、先行き判断DIも+11.4ポイント上昇の51.3を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列で+6468億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを手短に報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

1月の景気一致指数、3.5ポイント上昇
内閣府が8日発表した1月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比3.5ポイント上昇の91.7となった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.4ポイント上昇の99.1だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「下げ止まり」から「上方への局面変化を示している」に変更した。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。
2月の街角景気、現状判断指数は4カ月ぶり改善
内閣府が8日発表した2月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は41.3で、前の月に比べて10.1ポイント上昇(改善)した。改善は4カ月ぶり。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は51.3で、11.4ポイント上昇した。改善は3カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
内閣府は基調判断を「新型コロナウイルス感染症の影響により、このところ弱まっている」から「新型コロナの影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる」に変更した。
1月の経常収支、6468億円の黒字 79カ月連続黒字
財務省が8日発表した1月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は6468億円の黒字だった。黒字は79カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆2296億円の黒字だった。
貿易収支は1301億円の赤字、第1次所得収支は1兆4666億円の黒字だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。意図的に短めの記事を選びはしたものの、統計を3種類並べると長くなるのは仕方ありません。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。

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景気動向指数のうち、CI一致指数についてもう少し詳しく見ると、繰り返しになりますが、前月からは+3.5ポイント上昇して91.7を記録し、3か月ぶりの上昇でした。CI一致指数の水準が90を上回るのは、最初の緊急事態宣言直前の2020年3月の90.0以来10か月ぶりです。さらに、後方移動平均でトレンドを見ると、3か月後方移動平均は+0.90ポイント上昇して、7か月連続の上昇、また、7か月後方移動平均も+2.17ポイント上昇し、3か月連続の上昇となっています。従って、「CIによる景気の基調判断」の基準に示されている通り、7か月後方移動平均(前月差)の符号がプラスに変化し、プラス幅(1か月、2か月または3か月の累積)が1標準偏差分以上となり、かつ、当月の前月差の符号がプラス、の2条件を満たして、引用した記事にあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「下げ止まり」から「上方への局面変化」に上方修正しています。個別系列について、前月差へのプラスの寄与度の大きい順に見ると、有効求人倍率(除学卒)+0.67、鉱工業用生産財出荷指数+0.66、投資財出荷指数(除輸送機械)+0.64、生産指数(鉱工業)+0.59、耐久消費財出荷指数+0.53が+0.5を超えています。まだ、小売業と卸売業の商業販売額はともに+0.10以下のかなり小さな寄与度にとどまっています。他方、2月は2度めの緊急事態宣言が延長されていますが、同時に、医療従事者等のワクチン接種も始まっていることから、先週公表の消費者態度指数や本日公表の景気ウォッチャーに示された消費者マインドも上向いていることから、景気は徐々に回復基調を強める可能性が十分ある、と私は考えています。基調判断の「上方への局面変化」は、「事後的に判定される景気の谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す」と定義されていますので、順調に行けば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響による景気後退から脱して、景気の底がいつであったのか、の議論が今年中に決着されると期待しています。ちなみに、私のこのブログでは、2020年5月を景気の底に仮置しています。

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続いて、景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、景気動向指数のグラフと同じで、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。ということで、景気ウォッチャーの現状判断DIも先行き判断DIも、およそ+10ポイントの大きな幅でジャンプしました。いずれも、家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのコンポーネントが前月から改善を示しています。前月からの改善幅をもう少し詳しく見ると、現状判断DIでは、特に、飲食関連が+16.5ポイント、サービス関連が+12.9ポイント、そして、小売関連が+10.0ポイントと、対人接触の大きなセクターで改善幅も大きくなっています。さらに、現状判断DIでは、家計動向関連よりもむしろ雇用関連の改善幅の方が大きくなっています。雇用が堅調であれば、所得面のサポートにもなりますし、マインド改善だけでなく所得のサポートがあれば、消費の改善に結びつく可能性が高まるものと私は考えています。
景気ウォッチャーの統計を少し離れますが、その意味で、景気回復をより確実かつ力強いものとするため、日本でも財政政策で消費を喚起する政策が必要であると私は考えています。米国では、バイデン政権の目玉となる1.9兆ドル規模の追加経済対策法案が上院で可決されています。米ドルで1.9兆ドルとなれば、日本円であれば200兆円を超えます。対策の一例として、Bloombergの記事Reutersの記事を見ると、年間所得75千ドル(カップルで150千ドル)未満の個人に1400ドルの直接給付するとか、9月まで失業保険給付の上乗せを継続するとかも含まれていて、ワクチン接種の広がりとともに米国経済の回復を強力にサポートするものと私は考えています。米国に比べて、我が国では一般国民に対するワクチン接種が一向に進んでいません。しかも、特定給付金は安倍内閣の1回きりで、菅内閣のもとでは「自助」ばかりが強調されていて、英国やドイツで実施された時限的な消費税率引下げや米国のような所得サポートなどは、まったく視野にも入らないようです。政策の質の違いを感じます。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は経常収支でも最悪期を脱した可能性があります。少し前まで、COVID-19パンデミックの第3波による2番底の可能性も排除できない、と考えていたのですが、その可能性は世界的にはかなり低下しています。例えば、季節調整済みの系列で見る限り、貿易収支は7月統計から黒字に転じ、本日公表の1月統計でも貿易黒字は高い水準を維持しています。輸出が増加するとともに、国内景気の回復に伴って、輸入も増加し始める兆しが見え、日本だけでなく世界的に経済が好循環に入る可能性があると期待しています。その意味で、繰り返しになりますが、米国景気にフリーライドするだけではなく、日本でも大型の経済対策により景気回復を強力にサポートする段階に達しているように私は考えています。

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2021年3月 7日 (日)

日本気象協会による桜開花予想(第4回)やいかに?

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先週木曜日3月4日に日本気象協会から2021年桜開花予想(第4回)が明らかにされています。第3回予想から少し早まっているようで上の画像の通りです。前回第3回予想は2月10日の時点での予想であり、私のこのブログではかなり遅れて2月23日付けで取り上げています。関西代表の大阪は第3回予想では3月25日開花だったんですが、今回の第4回予想では3月22日とやや早まっています。上の画像の下のパネルの通り、今回から満開予想も加わって、大阪での満開は3月30日と平年の4月5日から1週間ほど早いと見込まれています。まあ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のために、今年もお花見での宴会はダメなんでしょうね。誠に残念。ワクチン接種の遅れが恨めしい限りです。

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2021年3月 6日 (土)

今週の読書は経済学と政策形成の歴史に関する経済書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書は、経済学がいかに政策へ反映されていったかの歴史を紐解いたジャーナリストの手になる経済書のほか、将棋界に大きな旋風を巻き起こした藤井聡太八段の勝負の歴史、さらに、メディアやプロパガンダに関する新書の新刊書計4冊、それに、1年半前のミステリ話題作を含めると計5冊です。

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まず、ビンヤミン・アッペルバウム『新自由主義の暴走』(早川書房) です。著者は、ニューヨーク・タイムズのジャーナリストです。英語の原題は The Economists' Hour であり、2019年の出版です。邦訳タイトルはやや意訳が過ぎており、たしかに、結論としては新自由主義ネオリベ経済学の役割が終了したという結論であることは私も同意するものの、少なくともネオリベが暴走したことをジャーナリストとして跡づけているわけではありません。そうではなく、本書は基本的には欧米において経済学がどのように政策形成に影響を及ぼしてきたかについて歴史的な考察を加えています。戦後すぐの米国アイゼンハウアー政権発足のころまではほとんど経済学、あるいはエコノミストは政策形成に影響を及ぼしたとはみなされておらず、ケネディ政権でケインズ政策が本格的に取り入れられるようになり、ニクソン大統領は「今や我々みんなケインジアンである」という人口に膾炙したセリフを口にしたわけですが、その後、1970年代の2度の石油危機からインフレ抑制に失敗したケインズ政策がマネタリズムを始めとするネオリベ経済政策に取って代わられ、1980年前後から政権についた米国レーガン政権、英国のサッチャー政権でネオリベ経済政策が実践され、サプライサイドの重視による減税や規制緩和も含めて、いかに経済的な格差の拡大をもたらし経済を歪め、現在の長期停滞をもたらしたかを明らかにするとともに、2008-09年のリーマン証券破綻後のGreat Recessionでネオリベ政策に終止符が打たれて、ふたたびケインズ経済学に取って代わられるまでの歴史的な経緯をたんねんに追っています。ただし、ジャーナリストらしく、中心に据えられているのは経済学の理念とか方法論ではなく、原タイトルにもあるようにエコノミスト個々人に焦点が当てられています。もっとも、マネタリズムとかのネオリベ経済学がすべて否定されているわけでもなく、典型的にはマネタリストの中心人物だったフリードマン教授が強烈に主張した変動為替相場は今でもEU以外の主要な先進国では堅持されているわけで、経済政策のすべてが大きくスイングしたわけではありません。なお、本書後半で、私が外交官として3年余りを過ごしたチリが取り上げられています。フリードマン教授に率いられたシカゴ学派のシカゴ・ボーイズがピノチェット将軍がクーデタでアジェンデ政権を転覆させた後、民主的ならざる方法でネオリベ政策を展開した例として持ち出されています。現地で経済アタッシェをした経験から、かなりの程度に正確な分析と受け止めています。

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次に、朝日新聞将棋取材班『藤井聡太のいる時代』(朝日新聞出版) です。著者は、朝日新聞のジャーナリスト集団であり、テーマは今をときめく藤井聡太八段です。2016年に史上最年少で四段に昇進してプロ棋士の仲間入りを遂げると、そのまま公式戦での連勝を29まで伸ばして、現在は王位と棋聖の2冠を手中にしています。その藤井聡太八段を2002年の誕生から直近まで朝日新聞のジャーナリストがていねいに取材して構成しています。各章のタイトルが、修行編、飛躍編など、いかにも棋士らしいタイトルにされており、読書の際に心をくすぐられます。私はそれほど藤井八段に関係する本を読んでいるわけではありませんが、本書では中心は人柄とか周囲の人間関係とかに置かれているのではなく、そのものズバリの勝負の軌跡がメインとされています。ですから、まったく将棋のシロートである私にはムズいところがあり、加えて、勝負の展開を中心に据えているにもかかわらず、盤面がほとんど収録されていないので、理解がはかどりませんでした。でも、私も藤井八段がおそらく数十年に一度の棋士であろうことは理解できますし、こういった形で誕生からの歴史を取りまとめておくのも大きな意味があると思います。私なんぞのシロートではなく、将棋にたしなみがあり、藤井八段のファンにはたまらない読書になると思います。

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次に、佐藤卓己『メディア論の名著30』(ちくま新書) です。著者は、京都大学の研究者です。タイトル通りに、メディアの名著30冊について、大衆宣伝=マス・コミュニケーションの研究、大衆社会と教養主義、情報統制とシンボル操作、メディア・イベントと記憶/忘却、公共空間と輿論/世論、情報社会とデジタル文化の6分類で紹介しています。専門外の私が読んだ記憶あるのはパットナム教授の『孤独なボウリング』くらいのもので、書名を聞いたことがあるものですら、リップマンの『世論』とマクルーハンの『メディア論』のほか極めて少なかったです。私は基本的に、原典に当たるのがベストと考えていて、報道を引いてツイートするのとか、書評でもって読んだ気になるのは戒めているのですが、メディア論という専門外の分野では、こういった新書に目を通して古典的な名著を読んだ気になるのもいいかもしれないと考えてしまいました。

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次に、内藤正典『プロパガンダ戦争』(集英社新書) です。著者は、現代イスラムの地域研究を専門とする同志社大学の研究者です。本書の副題は「分断される世界とメディア」となっており、この副題の方が本書の中身をより正確に表しているような気がします。というのも、分断の基となったメディアの報道を引いていて、そういったカッコつきの「プロパガンダ」が分断を引き起こしたといえなくはないものの、結局、イスラム世界の擁護に回っているとしか思えません。私はインドネシアに3年間家族とともに暮らして、宗教的にも地域的にもイスラム世界に偏見や差別は持たないと考えていますが、タイトルからしてプロパガンダによってイスラムや中東世界が先進諸国から分断されている、といいたいんだろうと読んでしまい、かえって逆効果のような気がします。

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オマケで、相沢沙呼『medium』(講談社) です。著者は、ミステリやラノベの分野の作家であり、私は初めてこの作者の作品を読みました。約1年半前の2019年の出版であり、私がこのブログで取り上げる新刊書ギリギリ、もしくは少し外れ気味かもしれませんが、一応、最後に取り上げておきたいと思います。というのも、何せ、出版社の謳い文句そのものに、第20回本格ミステリ大賞受賞、このミステリーがすごい! 1位、本格ミステリ・ベスト10 1位、SRの会ミステリベスト10 1位、2019年ベストブック、の五冠を制したミステリ作品だからです。タイトルのmediumとは「霊媒」という邦訳が当てられており、その複数形がまさにメディアなわけです。ということで、霊媒探偵が降霊によって犯人を特定するというミステリにあるまじき反則技、まさに、ノックスの十戒に真っ向から反するような謎解きに見えるんですが、実はそうではなく緻密な推理による謎解きが最終章にて明らかにされます。極めて論理的な解決です。その意味で、明らかに本格ミステリといえます。ただ、別の観点からはやや反則気味であると指摘する識者もいる可能性は私も否定しません。この「別の観点」は明らかにしないのがミステリ作品紹介の肝だと思います、というか、この点を除けば、本格ミステリ好きのファンには大いにオススメです。本書だけは、別途、Facebookでも紹介してあります。

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2021年3月 5日 (金)

2月の米国雇用統計に見る米国景気の本格回復の要因は何なのか?

日本時間の今夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2020年12月には▲306千人減と減少に転じましたが、今年2021年に入って1月には+166千人増、2月も+379千人増と順調に増加しています。失業率は前月の6.3%から2月にはわずかながら6.2%に低下しました。まず、長くなりますが、USA Today のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

The economy added 379K jobs in February, unemployment fell to 6.2% as COVID cases dropped
Hiring rebounded sharply in February after a two-month slump with employers adding 379,000 jobs as falling COVID-19 cases and easing business restrictions offset harsh winter weather across much of the country.
The unemployment rate fell from 6.3% to 6.2%, the Labor department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg expected about 200,000 job gains, according to their median estimate.
After stalling in December and January while the pandemic spiked, job growth is projected to increasingly pick up steam in coming months amid declining infection rates, easing business constraints and growing vaccinations. About 16% of the population already has been vaccinated and another 25% have immunity as a result of prior infection, economist Ian Shepherdson of Pantheon macroeconomics estimates.
The $900 billion COVID relief package, passed by Congress in December, also likely boosted activity last month, Oxford Economics says. The legislation extended unemployment benefits for 11 million people, sent $600 checks to most households and renewed the Paycheck Protection Program’s forgivable small business loans.
The $1.9 trillion package, which is expected to be passed by Senate this month, is likely to only further juice the rebounding economy this spring.
In February, the number of employees working rose for the first time since October, according to Homebase, which supplies payroll software to small businesses. And early last month, the number of restaurant diners increased to the highest level since November, according to Open Table, an online restaurant reservation service, and Capital Economics.
The snowstorm that devastated southern states such as Texas came too late to dampen Labor’s employment survey, which is conducted during the week that includes the 12th of each month, Oxford says. But harsh weather earlier in the month -- including snowstorms in the Northeast and frigid temperatures in the Midwest and Plains states - might have tempered payrolls in sectors such as construction and leisure and hospitality, according to Oxford and Capital Economics.
The nation has recovered more than half of the 22.2 million jobs wiped out in the health crisis as restaurants, shops and other businesses shuttered by the coronavirus outbreak were allowed to reopen. Many economists are forecasting more than 6 million job gains this year - a surge that would still leave payrolls about 4 million short of pre-pandemic levels and epitomize the scars the crisis is certain to leave.
The chief threat to a booming economy by midyear is the rapid spread of a COVID variant that could outrun the drop in cases, Shepherdson says.

長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+200千人増と予想されていましたので、+379千人増はかなりこれを上回っています。他方で、失業率は昨年2020年12月の6.7%から、今年2021年1月には6.3%まで低下しましたが、2月は6.2%と僅かに0.1%ポイントの改善にとどまりました。やはり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進んで、引用した記事にあるように、ワクチンによって人口の16%が、感染からの回復によって25%が、それぞれ免疫を得た、と報じられています。明らかに、雇用統計に見る米国景気回復はワクチンを含めた新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する免疫獲得という基礎の上に成り立っている可能性が示唆されています。従って、というか、何というか、2月の非農業部門雇用者増をさらに産業別に詳しく見ると、人的接触の大きな Leisure and hospitality が何と+355千人増と非農業部門全体の+379千人増の93.7%を占めています。私の目から見ても、これはかなりホンモノの景気・雇用の回復に見えます。ですから、日経新聞の記事によれば、市場では米国長期金利が上昇して、為替も円安ドル高が進んでいるようです。加えて、引用したBloombergの記事でも報じられている9000億ドルの財政出動もあって、インフレ懸念すら出始めています。我が日本もこれくらいの政策発動が出来ないものなのでしょうか?

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2021年3月 4日 (木)

緊急事態宣言解除に先駆けて2月の消費者態度指数は改善を示す!!!

本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。季節調整済みの系列で見て、3か月振りに改善し前月から+4.2ポイント上昇して33.8を記録しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の消費者態度指数、3カ月ぶり改善 判断「持ち直しの動き」に上げ
内閣府が4日発表した2月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は前月比4.2ポイント上昇の33.8だった。前月から改善するのは3カ月ぶりで、上昇幅は比較可能な2013年4月以降では2番目の大きさだった。内閣府は消費者心理についての基調判断を「依然として厳しいものの、持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。前月は「弱含んでいる」だった。
新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、一部地域での緊急事態宣言は続いているが、1月と比べて全国の新規感染者数が減少傾向にあることなどが消費者心理を上向かせたようだ。指数を構成する「暮らし向き」や「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4指標はいずれも前の月から上昇した。
日ごろよく購入する物の1年後の物価見通し(2人以上の世帯が対象)では「上昇する」と答えた割合が69.8%(原数値)と前の月を4.4ポイント上回った。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について、今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と回答すればゼロになる。調査基準日は2月15日で、調査は全国8400世帯が対象。有効回答数は7595世帯、回答率は90.4%だった。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

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ということで、消費者態度指数は3か月振りに改善を示し、前月統計から+4.2%とかなり大幅な上昇を見せました。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を1月の「弱含んでいる」から「依然として厳しいものの、持ち直しの動きがみられる」へ引き上げています。消費者態度指数は景気に対して先行性あるマインド指標らしく、昨年2020年4月からの第1回目の緊急事態宣言を底として、翌5月から回復を始め、さらにその次の6月の改善幅が+4.4ポイントでしたから、それに次ぐ大きな改善といえます。調査期間は2月22日までであり、調査時点ではまだ緊急事態宣言は解除されていませんでしたが、首都圏を除く関西圏などの緊急事態宣言解除を見通してのマインド改善といえます。ただ、消費者態度指数を構成する指標の前月差を詳しく見ると、「雇用環境」が+6.4ポイントともっとも大きく改善したほか、「暮らし向き」や「耐久消費財の買い時判断」も+4ポイント超の改善を示している一方で、消費の原資となる「収入の増え方」はわずかに+1.9ポイントの改善にとどまっています。まあ、何と申しましょうかで。前月差で+2ポイント近い改善は、それなりに評価すべきとは考えるものの、他の指標との関係で将来の収入の期待がまだそれほど高まっていないのは、やや懸念が残るところです。ただ、何度も繰り返しになりますが、将来期待はすべからく新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック次第であって、経済外要因としか私には考えられません。

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2021年3月 3日 (水)

来週公表の2020年10-12月期GDP統計2次QEは1次QEから小幅修正で足元の1-3月期はマイナス成長か?

昨日の法人企業統計など、必要な統計がほぼ出そろって、来週火曜日の3月9日に昨年2020年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。年末から新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の第3波の感染拡大が始まっていましたが、まだ、その影響は大きく現れたわけではなく、1次QEでは前期比+3.0%、前期比年率+12.7%との結果が示された後、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。1月に緊急事態宣言が出た後、関西の京阪神では2月末をもって解除された一方で、東京都をはじめとする首都圏では3月7日に予定通り終了するかは不透明となっており、そういった影響も気にかかるところです。ただし、何せ2次QEですので、法人企業統計のオマケの扱いのリポートも少なくなく、明示的に足元の1~3月期の動向を盛り込んでいるのはみずほ総研と伊藤忠総研だけでした。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+3.0%
(+12.7%)
n.a.
日本総研+2.4%
(+10.1%)
10~12月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資が大幅な下方修正となる一方、公共投資が上方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+10.1%(前期比+2.4%)と、1次QE(前期比年率+12.7%、前期比+3.0%)から下方修正される見込み。
大和総研+2.8%
(+11.6%)
2020年10-12月期GDP2次速報(3月9日公表予定)では、実質GDP成長率が前期比年率+11.6%と、1次速報(同+12.7%)から下方修正されると予想する。
みずほ総研+3.1%
(+13.1%)
1~3月期については、11都府県を対象として緊急事態宣言が1月に発令され、首都圏を除く6府県については2月末、首都圏の1都3県については3月7日まで延長されたことを受け、サービスを中心とした個人消費の落ち込みは不可避な情勢だ。輸出や設備投資についても、内外の経済活動再開後のペントアップ需要が剥落することに加え、車載向け半導体の供給制約や地震の影響が下押し要因となることで、伸びが鈍化することが見込まれる。1~3月期の日本経済は、3四半期ぶりのマイナス成長となるだろう。
前回(昨春)に比べると、今回の緊急事態宣言による経済活動への制限は緩いものになっている。前回は飲食店への時短営業要請だけでなく、遊興施設や劇場、商業施設などにも休業が要請されたが、今回は飲食店に対する時短要請に的を絞った内容となっており、商業施設等に対しては休業要請ではなく時短の「働きかけ」にとどまる。商業施設の営業が継続されるため財消費の落ち込み幅が小さいほか、生産活動が停滞せず輸出への影響が限定的であることから、昨春と比較すれば日本経済への全体的な影響は抑制されるとみられる。
ただし、対人接触型のサービス消費(外食、宿泊、旅行・交通、娯楽)は大幅な減少が避けられないほか、インバウンド需要も底這いでの推移が続く見通しだ。緊急事態宣言が解除された後も、まん延防止等重点措置や都道府県独自の対策が実施される可能性が高く、時短要請やイベント開催制限などサービス業に対する制約が一定程度残ることになるだろう。予備費の活用などにより、飲食店など対人接触型サービス業種に対する重点的な支援を行う必要がある。
ニッセイ基礎研+3.1%
(+13.1%)
3/9公表予定の20年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比3.1%(前期比年率13.1%)となり、1次速報の前期比3.0%(前期比年率12.7%)から若干上方修正されると予想する。
第一生命経済研+3.0%
(+12.8%)
3月9日に内閣府から公表される2020年10-12月期実質GDP(2次速報)を前期比年率+12.8%(前期比+3.0%)と、1次速報の前期比年率+12.7%(前期比+3.0%)からほぼ変化なしと予想する。内容も1次速報からほとんど変わらず、景気認識に変更を迫るものにはならないだろう。
伊藤忠総研+3.1%
(+12.8%)
設備投資(機械投資)の先行指標である機械受注は10~12月期こそ前期比で大幅に増加し下げ止まったものの、1~3 月期は再び減少が予想されており、建設投資の先行指標である建設着工床面積も減少基調が続いているため、このまま設備投資が拡大傾向に転じるとは見込み難い。足元で大きく増加した電気業の設備投資は振れが大きく一時的な動きの可能性もあり、むしろ設備投資は 1~3月期の反動落ちを見込んでおくべきであろう。
また、個人消費は緊急事態宣言の再発令を受けて確実に落ち込んでおり、3月にある程度の挽回を想定しても 1~3月期は前期比でマイナスとなろう。輸出も欧米向けの増勢に陰りが見らており、少なくともこれまでのような大幅増は期待できない。そのため、1~3月期の実質GDP成長率は前期比マイナス成長に転じる可能性が高いと予想される。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+3.1%
(+13.0%)
2020年10~12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+3.1%(年率換算+13.0%)と1次速報値の+3.0%(年率換算+12.7%)からわずかに上方修正される見込みである。
三菱総研+3.0%
(+12.6%)
2020年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+3.0%(年率+12.6%)と、1次速報値(同+3.0%(年率+12.7%))からほぼ変更なしと予測する。

私の直感からしても、昨日公表された法人企業統計を見る限り、先月内閣府から公表された1次QEでは前期比+3.0%、前期比年率+12.7%の成長でしたが、修正幅は極めて小さいと見込んでいます。もっとも、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比+2.3%、前期比年率+9.4%となっていますので、小幅ながら下方修正を見込むエコノミストの方が多いのかもしれません。しかし、ここで注目すべきポイントは、1次QEからの変更の方向や幅ではなく、足元の1~3月期はかなり確度高くマイナス成長である、という点です。ただし、GDPやその他の経済指標はほぼほぼ市場価格で評価されていますので、本来の社会的なコストやベネフィットを反映していません。何度も強調した点ですが、短期的に目先の経済活動が低迷したとしても、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック拡大の防止に重点を置く方が、結局、中長期的に成長につながるという事実は忘れるべきではありません。
最後に、下のグラフは、みずほ総研のリポートから引用しています。

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2021年3月 2日 (火)

法人企業統計は企業部門が最悪期を脱した可能性を示唆し、も下げ止まりから改善の可能性!!!

本日、財務省から昨年2020年10~12月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は6四半期連続の減収で前年同期比▲4.5%減の332兆903億円、経常利益も7四半期連続の減益で▲0.7%減の18兆4505億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで▲4.8%減の11兆761億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比▲1.2%減の11兆4247億円となっています。加えて、雇用の方は、失業率は前月から0.1%ポイント改善して2.9%、有効求人倍率は前月から0.05ポイント改善して1.10倍と、徐々に下げ止まりないし改善を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

全産業経常利益10-12月0.7%減 製造業10期ぶりプラス
財務省が2日発表した2020年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比0.7%減の18兆4505億円だった。7~9月期の28.4%減から減少幅が縮小した。製造業は21.9%増の7兆1837億円で、10期ぶりにプラスに転じた。自動車などの輸送用機械や生産用機械が好調だった。
自動車は国内での販売が特に伸びた。生産用機械は国内外での建設機械などの販売が回復したという。1年前の19年10~12月には米中貿易摩擦や大型台風の影響で製造業の経常利益が落ち込んだ。20年10~12月の回復は「前年が低かったという影響もある」(財務省)という。
非製造業の経常利益は11.2%減の11兆2668億円だった。前期の29.1%減から減少幅を縮めた。新型コロナウイルス禍で打撃を受ける運輸業・郵便業やサービス業が大きな減益となる一方、卸売業・小売業や建設業が全体を押し上げた。小売業では在宅需要の高まりで家電の販売が好調だった。
財務省は経常利益が大幅に回復したことについて「業種ごとにばらつきがある」と指摘した上で「総じて言えば持ち直してきている」と評価した。
全産業の売上高は4.5%減の332兆903億円、設備投資は4.8%減の11兆761億円と、それぞれ7~9月期から下げ幅を縮小した。設備投資は製造業が8.5%減と落ち込みが大きい。全体を押し下げた食料品や電気機械などで前年度の大型投資の反動が出たという。
1月の失業率2.9%、有効求人倍率1.10倍 2カ月ぶり改善
総務省が2日発表した1月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月に比べ0.1ポイント低下した。厚生労働省が同日発表した1月の有効求人倍率(同)は1.10倍で前月から0.05㌽上昇した。いずれも2020年11月以来、2カ月ぶりに改善した。緊急事態宣言による雇用情勢への影響は1月時点では見極めづらく、改善が続くかは見通せない。
1月の完全失業者は前年同月比で38万人増加した。正社員は36万人増え、8カ月連続で増加した一方、非正規は91万人減り、11カ月連続で減少した。非正規の厳しい雇用情勢が続いている。
昨年末からの感染の急拡大を受け、1月8日には緊急事態宣言が再び発動した。1月の休業者は244万人で前月から42万人増えた。休業者は597万人と過去最高に増えた昨年4月と比較すると大幅な拡大はみられなかった。昨年4月の緊急事態宣言と比較すると営業制限の対象業種や地域が絞られているためとみられる。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1月は企業からの有効求人が前月から3.1%増え、働く意欲のある有効求職者は2.3%減った。厚労省の担当者は「緊急事態宣言の影響は遅れてあらわれる可能性があり、2月や3月の雇用情勢は慎重にみている」と語る。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で11.6%減った。減り幅を産業別にみると、宿泊・飲食サービス業(37.5%減)や生活関連サービス・娯楽業(26.2%減)、卸売業・小売業(17.2%減)が大きかった。
雇用情勢は地域や産業によってばらつきは大きい。就業地別の有効求人倍率は最高の福井県が1.64倍で、最低の沖縄県は0.77倍だった。東京都は0.91倍だった。
産業別の就業者数を対前年の増減でみると、宿泊・飲食サービス業(39万人減)や卸売・小売業(22万人減)は減少した一方、医療・福祉(29万人増)や建設業(22万人増)は増えた。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は2月末時点で累計9万人を超えた。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。

やたらと長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月ないし4~6月期を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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法人企業統計については、メディアでは季節調整していない原系列の統計の前年同期比で報じられることが多い一方で、私はGDP統計との関係でどうしても季節調整済みの系列で見る場合が多いんですが、上のグラフでも明らかな通り、企業部門では売上高や経常利益については完全に最悪期を脱しているように見えます。加えて、売上高も経常利益も水準として決して低くありません。特に経常利益はほぼ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前に水準を取り戻しています。すなわち、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期の経常利益は17.6兆円でしたが、本日公表の2020年10~12月期には17.3兆円まで回復を見せています。もちろん、回復の方向にあることは見ての通りです。その一方で、設備投資は相変わらず低迷したままです。さらに、今日のところは後に雇用統計が控えていますので、いつもの労働分配率や利益剰余金のグラフは省略していますが、利益剰余金については、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期のピークから、昨年2020年1~3月期、4~6月期、7~9月期と3四半期連続で減少を見た後、直近でデータが利用可能な2020年10~12月期には回復に転じています。当然ながら、人的接触の大きな宿泊や飲食といったCOVID-19の感染拡大のために影響大きいセクターはあるわけで、企業部門すべてが回復というわけではないのは十分に承知していますが、先進国の中でもワクチン接種が飛び抜けて遅れているわけですので、もう一度、政策的な支援の重点を消費者=国民に向けることも大いに考えるべきではなかろうか、という気がしています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が3.1%だった一方で、有効求人倍率は1.03倍でしたので、昨年2020年の暮からのCOVID-19パンデミック拡大と今年2021年1月からの緊急事態宣言で、いずれも横ばいないし小幅の悪化を見込んでいたわけですが、実績は市場の事前コンセンサスとは逆に雇用改善と出たわけですから、それなりに雇用は底堅い、と私は認識しています。人口減少の経済的影響がまだ残っている可能性があるわけです。ただし、失業率の関係では、失業者が12月の210万人から1月には203万人に▲7万人減少している一方で、引用した記事にもあるように、休業者は逆に+42万人増加しています。特に、対人接触の多い宿泊業、飲食サービス業では休業者が+16万人増、卸売業、小売業でも+5万人増などと、全体の+42万人増のうちの半分がこの2業種となっています。有効求人倍率の方でも、全国レベルでは1倍を上回っていますが、都道府県別では1倍を割り込んでいる地域も少なくなく、例えば、これも引用した記事にもある通り、就業地ベースで東京都ですら1倍を割っており、東京都をはじめとする1都3県では軒並み1倍を下回っています。近畿圏でも、兵庫県は1倍を超えていますが、京都府と大阪府ではまだ1倍を下回ったままです。このように、全体として雇用は堅調ですが、産業別・地域別では改善の足並みはバラバラです。

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2021年3月 1日 (月)

カミさんの誕生日を祝う!

今日はカミさんの誕生日です。
くす玉のフラッシュ動画のサポートが終了しましたので、ポケモン画像で代替しておきます。

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