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2021年3月13日 (土)

今週の読書はとうとう経済書や教養書なしで小説と新書の計4冊!!!

今週の読書は、何と、とうとう経済書も教養書も専門書もなしで、小説と新書だけになってしまいました。新書も経済の話題ではありません。来週は出来れば、経済書も読みたいと考えています。まあ、それはともかく、以下の通りの計4冊です。

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まず、加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社) です。著者は、男性アイドルグループNEWSのメンバーとして活動しながら、2012年1月に『ピンクとグレー』で作家デビューしています。私は読んでいません。本作品が初めてだったりしますが、第42回吉川英治文学新人賞を受賞したほか、2021年本屋大賞や第164回直木賞にもノミネートされています。出版社も特設サイトを設けて、営業にも力が入っているようです。ということで、タイトルの「オルタネート」というのは、高校生限定のSNSやマッチングのアプリで、フロウを送ってコネクトして友達、あるいは、カップルになることを目的としたスマホ向けのアプリです。かなり厳重なセキュリティのようで、高校を卒業はもちろん、退学してもアカウントが停止されます。という基礎知識を展開して、ストーリーの舞台は東京にある円明学園高校、幼稚園から大学までのエスカレータ式の私立高です。オルタネートを使わない調理部長の蓉、逆に、オルタネート信奉者でマッチングに大きな期待を寄せる凪津、高校を中退し音楽の道を歩もうとして大阪から単身上京した尚志、の3人を取り巻く人間像を描こうとしています。新学期始まったころから、秋の文化祭までがお話の中心になり、調理部が「ワンポーション」という高校生向けのお料理コンテストの決勝に進むころがピークを迎えます。その後、というか、そのお話が進んでいく中にもいろいろとあるんですが、基本的にはラノベですし、しかも、登場人物はほとんどが高校生ということで、ストーリーも人物描写も荒っぽい気はします。でも、荒っぽい中に、私もフォ組めて、多くの読者の感性が刺激される部分が十分にあり、特の、おそらくは高校生であればさらに共感できる部分が多いのではないかと想像します。私が10年あまり前に長崎大学で教員をしていたころには、高校を卒業したばかりであろう新入生は『リアル鬼ごっこ』でデビューした山田悠介のホラー小説が好きな学生が多く、やや私もびっくりした記憶があるんですが、本書くらいののんびりした内容であれば、高校生や大学生を読者に引き入れる役割が果たせそうで、私は大いに期待しています。

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次に、中山七里『毒島刑事最後の事件』(幻冬舎) です。著者は、売れっ子のミステリ作家であり、私なんぞから紹介するまでもないと思いますが、この毒島刑事シリーズは『作家刑事毒島』というのが数年前に同じ出版社から出ていて、私はすでに読んでいます。前作は主人公の毒島がすでに刑事を辞めていて、警察、といいうか、警視庁に刑事技能指導者として再雇用されているところからスタートしていましたが、本書はその毒島が警察を辞めるまでがメインストーリーになっています。ですから、時間軸でいえば出版順とは逆で本作品は前作の前の現役刑事としての毒島の活躍を追っています。ということで、本作品では各章で取り上げられている犯罪の背後に犯罪を教唆する「教授」を追い詰めるという流れです。私自身も肩書は教授であって、学生や院生からそう呼ばれることも時折ありますが、本作品の「教授」はホントの教授ではありません。各章のタイトルはそれなりに難解な4文字熟語なんですが、大手町連続射殺事件、出版社連続爆破事件、連続塩酸暴行事件、復讐殺人事件と続き、最後に「教授」までたどり着いて逮捕したものの、自死されてしまって毒島が退職する、ということになります。自信過剰で性格が悪いものの、能力的には十分な毒島刑事が事件を解決してゆきます。もちろん、第4章ではやや痴呆症気味の高齢者を操る介護職員を、実は、さらに「教授」が操っている、という構図なので、ホントにそんな事が可能なのか、と疑問に思う向きがあるかもしれませんが、まあ、こんなもんでしょう。かなり多くのフィクションの小説ではムリがあるものではないでしょうか。なお、この作家は特にグロな描写を用いることがありますが、本作品、というか、本シリーズはそうではありません。それほど論理的な謎解きではなく、ミステリとしては物足りないと感じる読者もいるかもしれませんが、まあ、時間つぶしのエンタメ読書には十分でしょう。

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次に、黒木登志夫『新型コロナの科学』(中公新書) です。著者は、がんの基礎研究が専門分野で、公衆衛生とか感染症は専門外なようですが、いろんな視点から新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する科学的な情報を本書で取りまとめています。私はエコノミストですので、本書の著者よりももっとCOVID-19より離れた専門分野なわけですので、必ずしも科学的な地検としてのCOVID-19に関する情報をすべて理解できたわけではありませんが、私にとってももっとも重要な本書から得られた科学的知見は、やっぱり、PCR検査が不足しているという点です。著者も何度か強調しているように、想像の域を出ないまでも、厚生労働省ではPCR検査を多数実施して無症状の感染者に対する医療対応で医療崩壊を来しかねない、という配慮からPCR検査の検査数を制限していることは、感染防止の観点からは望ましくないことはかなり明らかなように思います。すなわち、本書でも指摘しているように、初期には無症状の感染者からの感染が50%を占めていたわけで、無症状であってもPCR検査で陽性であれば隔離する必要があったのですが、それをしなかったにもかかわらず感染が爆発的な拡大を見せなかったのは、私はマスク着用とソーシャル・ディスタンシングで防止したとしか考えられません。「3密」という言葉も流行りましたが、本格的なワクチン接種がほとんど進んでいない現状で、感染防止のためにはマスク着用とソーシャル・ディスタンシングしかありません。日本人はそれを忠実に守ったのだろうという気がします。一部の外国のようにマスクなしでハグしたりすれば、感染が拡大するのは明らかです。PCR検査をケチったという政府対応の誤りを国民の高い意識がカバーした、と私は考えています。いずれにせよ、本書はCOVID-19に関する科学的な知見を集めたものであり、私のような専門外のエコノミストでも、いくぶんなりとも、役に立ちそうな気がします。

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最後に、田中拓道『リベラルとは何か』(中公新書) です。著者は、一橋大学の政治理論お研究者です。本書を読んでいて、5年ほど前の2016年9月10日付けの読書感想文で同じ中公新書で宇野教授の『保守主義とはなにか』を読んだのを思い出しましたが、同時に、ややレベルの差を感じてしまいました。というのも、本書では、カテゴライズにカーテシアン座標を用いるのはいいのですが、横軸が配分・再配分の主体が国家と市場、ここまではOKで、縦軸が保守とリベラルになっているのは、本書のタイトルである「リベラル」の解明にはトートロジーで、リベラルとは保守の反対、ということになってしまいます。宇野教授の『保守主義とはなにか』の感想文でも書きましたが、保守とは歴史の流れを現時点でストップさせようとする考えであり、その逆は進歩主義であると私は考えています。他方で、歴史の流れを逆転させようとするのが反動主義です。その観点からすれば、リベラルとは保守の反対ではなく、むしろ、配分や再配分を市場ではなく政府が主体となる世界観を持つのがリベラルであろうと私は考えています。ですから、本書でいうところのケインズ的な福祉国家はまさにリベラルそのもの、と私は考えています。ただ、ここで注意すべきなのは、配分・再配分については、事後的なものだけでなく、事前的な配分についても考えに含める必要があります。もっとも理解しやすいもので所得の再配分について考えて、徴税と社会福祉で稼得所得を事後的に再配分するのは大いに結構で、私は累進課税の強化と逆進的な消費税の縮小ないし廃止を政策としてすすめるべきとすら考えていルエコノミストなんですが、それだけではなく、事前的な所得に影響する要因への対応という政策もありなわけで、教育とか職業訓練が容易に想像されます。ほかの例を上げることはしませんが、こういった再配分・配分の観点をリベラルと私は考えるべきと主張したいと思います。ということで、繰り返しになりますが、やや物足りない読書でした。

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