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2021年3月30日 (火)

基調判断が上昇修正された2月の商業販売統計はどこまで信頼できるか?

本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも2月の統計です。商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲1.5%減の11兆6280億円、季節調整済み指数では前月から+3.1%の上昇を記録しています。雇用の方は、失業率は前月から横ばいの2.9%、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント低下して1.09倍と、徐々に下げ止まりないし改善を示している印象です。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の小売販売額1.5%減 下げ幅縮小、基調判断上げ
経済産業省が30日発表した商業動態統計速報によると、2月の小売業販売額は前年同月比1.5%減の11兆6280億円だった。減少は3カ月連続だが、下げ幅は前月の2.4%減から縮小した。季節調整済みの前月比でみると3.1%増えており、経産省は小売業販売の基調判断を前月までの「弱含み傾向」から「横ばい傾向」に引き上げた。
基調判断の引き上げは6カ月ぶり。2度目の緊急事態宣言による小売業販売額の落ち込み幅は、宣言が前回発令された2020年4~5月の2桁減と比べると小さい。経産省は「サービス消費は外出自粛で厳しいが、財の消費は在宅需要などで堅調だった」と分析している。
1年前の20年2月はコロナでマスクや消毒用品、紙製品などの買い占めが起きた時期にあたる。ドラッグストアの販売額は前年同月比8.3%減、ホームセンターは0.1%減となった。経産省によると2月の減少は前年の買い占めの反動の影響が大きく、基調は底堅いという。
百貨店は11.8%減と17カ月連続で前年同月を下回った。衣料品販売の低迷が続き、インバウンド需要の蒸発も響いている。スーパーは0.8%減。5カ月ぶりに減少したが、主力の飲食料品は1.9%増と引き続き好調だった。
家電大型専門店の販売額は7.2%増えた。増加は5カ月連続。在宅需要に新生活需要が加わった。ゲーム機やパソコンのほか、洗濯機や冷蔵庫など生活家電の販売が増えた。
有効求人倍率2月1.09倍に低下 失業率は2.9%で横ばい
厚生労働省が30日発表した2月の有効求人倍率(季節調整値)は1.09倍で前月から0.01ポイント低下した。2020年9月以来、5カ月ぶりに低下に転じた。総務省が同日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月に比べ横ばいだった。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1月は1.10倍で前の月から上昇していた。2月は企業からの有効求人が前月から1.5%減り、働く意欲のある有効求職者も0.3%減った。
地域によってばらつきは大きい。就業地別の有効求人倍率は最高の福井県が1.64倍で、最低の沖縄県は0.75倍だった。東京都や大阪府は昨夏以降、1倍を切った状態が続いている。地域によって感染の度合いが異なり、雇用情勢に影響を与えている。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で14.6%減った。減少幅は宿泊・飲食サービス業(41.0%減)や生活関連サービス・娯楽業(23.2%減)、卸売業・小売業(23.2%減)などが大きかった。建設業は10.0%増加した。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は26日時点で9万8千人を超えた。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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小売業販売を季節調整済の系列の前月比で見て、1月統計で▲1.7%減と緊急事態宣言を受けて減少した後、2月統計では首都圏や近畿圏で緊急事態宣言が延長されたにもかかわらず、1月の前月比マイナスを上回る+3.1%増の伸びを示し、季節調整していない原系列の統計の前年同月比でもマイナス幅が縮小しています。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を前月までの「弱含み傾向」から「横ばい傾向」に引き上げています。ただし、この商業販売統計の小売販売額は、基本的に、いわゆる物販だけであってサービス消費が含まれていない点には注意が必要です。すなわち、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響については、いうまでもなく、物販よりも外食とか宿泊などの対人接触型のサービスに大きく現れます。何度かこのブログでも繰り返しましたが、日本のようなワクチン接種後進国ではCOVID-19パンデミック防止のためにはソーシャル・ディスタンシングで対応せねばなりませんから、特に対人接触型のサービスのダメージが大きくなります。ですから、消費の代理変数とはいえ、サービスを含めた消費全体では物販を主とする小売販売額の商業販売統計をそのまま受け取るべきではない可能性があります。総務省統計局の家計調査にもっと信頼性あれば、ソチラも見たい気がします。さらにいえば、対人接触型サービスの落ち込みを避けるためには、例の失政の典型であるGoToキャンペーンを復活させるのではなく、ワクチン接種を進める必要があります。でも現時点で、ワクチン接種はGoToキャンペーンを上回る史上まれに見る失政になっている、と私は認識しています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が3.0%だった一方で、有効求人倍率は1.09倍でしたので、ほぼジャストミートした印象ですし、市場の予想通りに雇用は底堅く下げ止まりから改善に向かっている、と私は認識しています。人手不足の影響がまだ残っている可能性があるわけです。ただし、失業の関係を詳しく見ると、2月の失業者数は1月と同じ203万人で、雇用者が+12万人増加している一方で、休業者も▲16万人減少しています。ですから、失業率は前月から横ばいとはいえ、着実に改善の方向にあることは確認できます。ただし、休業者数だけは季節調整していない原系列の統計であり、失業者や雇用者と整合性が取れていない点には注意が必要ですし、休業者については宿泊業、飲食サービス業で29万人、卸売業、小売業でも28万人と、休業者合計の228万人の内訳として対人接触の多い業種でシェアが高くなっています。有効求人倍率の方でも、全国レベルでは1倍を上回っていますが、都道府県別では1倍を割り込んでいる地域も少なくなく、これも引用した記事にもある通り、就業地ベースで東京都や大阪府では1倍を割っており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により地域的なバラツキが見られます。このように、総合的に見て雇用は下げ止まりないし改善の方向ですが、産業別・地域別では改善の足並みはバラバラです。

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