松尾匡ほか『資本主義から脱却せよ』(光文社新書) を読む!!!
松尾匡ほか『資本主義から脱却せよ』(光文社新書) をちょうだいしました。簡単に紹介しておきたいと思います。なお、著者は上の表紙画像にあるように、私の同僚を含むエコノミスト2人と不安定ワーカーの3人がチャプターごとに担当しています。
まず、本書で考える対象となっていて、脱却すべき大元の資本主義とは、どうも、貨幣制度とかの金融面で特徴つけられているようです。すなわち、中央銀行の独立や信用創造については否定的な議論が展開されています。通常の主流派経済学では、資源配分における市場の役割重視か、政府による司令経済か、で資本主義と社会主義・共産主義を区別しているように私は理解していますので、ちょっと違和感ありました。ですから、私が問題と考える市場価格に基づく資源配分は何ら問題とされていません。私は脱却すべき資本主義とは、歪んだ市場価格によって資源配分が決められているシステムだと考えています。すなわち、市場による価格付けが外部経済とか独占とかで大きく歪められており、これを是正することが第1に必要であり、その上で第2に、所得分配を政府の介入、すなわち、税と主として社会保障給付により格差是正を実現する、というのが望ましいと考えています。特に、後段について今までの日本では、いわゆる「土建国家」のために、インフラやハコモノの建設が格差是正や地方振興に対する政策手段に割り当てられていましたが、福祉国家として社会保障により、もちろん、租税政策と組み合わせて、格差是正に向けた所得再分配を目指すべきではないか、と考えているわけです。金融については、私自身が専門性や大した知恵を持ち合わせているわけではありませんが、基本的には、信用創造をすべて否定するのではなく、むしろ適度にコントロールすることを目指すべきであり、例えば、BIS規制などの自己資本比率を大きくして信用乗数を低下させ、ナロー・バンキングに近い銀行活動に誘導するべきと考えています。ただし、それが投機を抑制して設備投資に資金が回ることを保証できるか、といえば、また別問題かもしれません。なお、第8章は本書の中で一番読み応えがあります。決して、オススメするわけではありませんが、立ち読みで済ませるなら、ここだけでも十分かもしれません。
最後の最後に、前の長崎大学に勤務している時に強く感じたのですが、私自身はエコノミストとして現状分析などはそれなりに出来なくはないものの、たしかに重要なのは政策対応であり、私の弱点かもしれません。政策立案の現場である役所で出世できなかったのもこの能力不足のためかもしれません。
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