2021年4月30日 (金)
増産を示す鉱工業生産指数(IIP)と堅調な雇用統計の先行きやいかに?
本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも3月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.2%の増産でした。雇用の方は、失業率は前月から▲0.3%ポイント低下して2.6%、有効求人倍率も前月から+0.01ポイント上回って1.10倍と、徐々に下げ止まりないし改善を示している印象です。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
3月の鉱工業生産、20年2月以来の水準回復 挽回生産や需要増で
経済産業省が30日発表した3月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み、速報値)は前月比2.2%上昇の97.7だった。新型コロナウイルスの影響が大きく出る前の2020年2月(98.7)以来の水準を回復した。自動車工業を中心に、21年2月に発生した福島県沖地震で減少した生産の挽回や需要回復が寄与した。3月下旬に発生した車載用半導体などを製造するルネサスエレクトロニクス(6723)工場火災の影響はまだ小さかった。
上昇は2カ月ぶりで、QUICKがまとめた民間予測の中心値(2.0%低下)を大幅に上回った。経産省は「地震からの挽回や需要増で計画以上の増産となったのではないか」との見方を示した。基調判断は「生産は持ち直している」を据え置いた。
業種別では全15業種中、自動車工業、無機・有機化学工業、プラスチック製品工業など9業種が上昇した。一方、電気・情報通信機械工業など6業種は低下した。
出荷指数は0.8%上昇の95.2と2カ月ぶりに上昇した。自動車工業、無機・有機化学工業、鉄鋼・非鉄金属工業など9業種が上昇した。
在庫指数は0.1%上昇の94.5と3カ月ぶりに上昇した。生産回復で過去最低水準にある在庫がやや回復した。在庫率指数は0.8%低下の108.9だった。
製造工業生産予測調査では、4月は8.4%上昇、5月は4.3%の低下を見込む。同予測は実際より上方に出る傾向があり、経産省が上方バイアスを補正した先行きの試算(4月)は4.6%上昇だった。3月にルネサスの火災があった影響など「半導体不足は4月以降、(自動車工業含む)輸送機械工業の減産に働く効果があるのではないか」(経産省)としている。
20年度の鉱工業生産指数速報値は前年度比9.5%低下の90.4だった。新型コロナウイルスの感染拡大による年度前半の生産減少が響いた。
有効求人1.10倍、20年度46年ぶり下げ幅 失業率2.9%
厚生労働省が30日発表した2020年度平均の有効求人倍率は1.10倍となり、前年度を0.45ポイント下回った。下げ幅は石油危機の影響があり、0.76ポイント下がった1974年度以来46年ぶりの大きさで、比較可能な63年度以降では2番目になる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、非正規の就業者数が減った。
総務省が同日発表した2020年度平均の完全失業率は2.9%と、前年度を0.6ポイント上回った。悪化するのはリーマン・ショックの影響があった09年度以来11年ぶりとなる。上昇幅は09年度の1.1ポイントよりは抑えられた。雇用調整助成金の特例措置や休業支援金といった政策の効果があったとみられる。
20年度の完全失業者数は198万人で36万人増えた。増加幅は09年度(68万人)以来の水準となる。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業などから何件の求人があるかを示す。20年度は企業からの有効求人が前年度に比べて22.3%減り、働く意欲のある有効求職者が9.8%増えた。
総務省調査によると、20年度平均の就業者数は6664万人で、9年ぶりに減少した。非正規の就業者数は2066万人と97万人減った。過去に遡れる14年度以降では減少は初めてだ。
特に女性の非正規職員・従業員が1407万人と65万人少なくなった。コロナの影響を受けやすいのは飲食や宿泊業といった対面サービスが伴う業種で、女性の非正規労働者が多い職場のためだ。宿泊・飲食サービスの就業者は381万人と37万人減った。
一方で女性の正社員は1208万人と36万人増えた。人手不足の産業で女性の正社員を採用する動きは出ている。
21年3月単月の有効求人倍率(季節調整値)は1.10倍と前月を0.01ポイント上回った。上昇するのは2カ月ぶり。都道府県別では最高が福井県の1.70倍、最低が沖縄県の0.76倍だった。東京都は0.88倍で9カ月連続で1倍を割り込んだ。
21年3月の完全失業率(同)は2.6%と前月から0.3ポイントの低下だった。就業者数は6649万人と前年同月より51万人少なく、12カ月連続の減少となった。完全失業者は188万人と前年同月より12万人多く、14カ月連続の増加だった。「勤め先や事業の都合による離職」は10万人増えた。
失業には至っていないものの仕事を休んでいる休業者数は20年度平均で261万人と前年度に比べて80万人増加した。確認できる1968年度以降では最大となった。
最初の緊急事態宣言が発令された20年4月に過去最大の597万人に達した。その後は減少し、感染拡大の第3波の11月から再び増加した。足元の21年3月は220万人となっている。
長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は▲2.0%の減産との見込みで、レンジの上限でも▲0.6%でしたので、実績値の+2.2%には私は少し驚きました。予想通り、というか、何というか、電気・情報通信機械工業、汎用・業務用機械工業、生産用機械工業、電子部品・デバイス工業などのいわゆるハイテク産業は軒並み減産だったのですが、適当に在庫があったためか、3月下旬のルネサスエレクトロニクス工場火災に伴う車載用半導体などの供給制約がまだ本格化していないのか、自動車工業が+7.5%の増産でハイテク産業のマイナス分をカバーした印象です。加えて、自動車工業の増産の背景にはワクチン接種が進むとともにバイデン新政権のもとで大規模な財政拡大政策が取られている米国経済が本格的的に拡大し始めた影響もあるものと考えるべきです。我が国も、米国のバイデン政権を見習って、ワクチン接種を大規模に進めて、緊縮財政を放棄して積極財政に切り替えれば、もっと経済回復が力強くなるものと私は考えています。でも、ワクチン接種はまったく進みませんし、貴重な人員を夜の飲食店の見回りに使うなんて、およそ財政リソースのムダ使いとしかいいようがありません。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が2.9%だった一方で、有効求人倍率は1.09倍でしたので、これらの予想よりも改善が進んでいる印象です。雇用は底堅く下げ止まりから改善に向かっている、と私は認識しています。人手不足の影響がまだ残っている可能性があるわけです。加えて、3月の年度替わりの統計ですので、非労働力人口が大きく増加して失業者の減少につながっている面がありそうです。傍証ながら、雇用者はわずかに増加しているものの、就業者は減少しています。年度末に就職を諦めた失業者がいることを伺わせる内容と私は受け止めています。

鉱工業生産指数(IIP)と雇用統計に加えて、本日、内閣府から4月の消費者態度指数も公表されています。前月から▲1.4ポイント低下し 34.7となっています。3回目の緊急事態宣言が消費者マインドに影を落としていることはいうまでもありません。上の消費者態度指数のグラフでは、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。このグラフも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。
最後に、生産と雇用の先行きについては、海外経済との関係で複雑ながら、私は外需に支えられて生産は堅調に推移する一方で、その生産の派生需要ながら雇用については、特に、緊急事態宣言の下でこの先はやや弱い動きを示すのではないか、という気がしています。私の予想通りに、東京オリンピック・パラリンピックが中止に追い込まれれば、雇用については確実に悪化すると考えざるを得ません。
2021年4月29日 (木)
我が国におけるワクチン確保はどこまで進んでいるのか?
昨日に取り上げたアジア開発銀行(ADB)の「アジア開発見通し」Asian Development Outlook (ADO) 2021 でも指摘されていましたが、経済回復の鍵のひとつがワクチン接種による新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の軽減であることはいうまでもありません。少し調べて、Duke Global Health Innovation Center のサイトから Number of Doses procured per Inhabitant = 住民1人当りのワクチン調達量のグラフを引用すると以下の通りです。
日本の場合、1人当たり2.5回分に近いワクチンが確保されているというグラフです。1人あたり2回の接種とすれば、125%近いカバー率といえます。香港がちょうど1人当り2回で100%のカバー率です。ワクチン接種がもっとも進んでいると報じられているイスラエルは1人当たり3回分少々の確保量なんですが、実にスムーズに接種が進められている、ということなんでしょう。日本が先進国の中でもワクチン確保量が少ないのは、COVAXファシリティで途上国に配慮している、ということなのかもしれません。それにしても、ホントにこれだけ確保しているのであれば、ワクチン接種が進まないのは政府の怠慢としかいいようがありません。首都圏でワクチン接種の対象者となる高齢者が900万人と聞き及んでいますが、大規模会場を設営するとしても1日1万人では途方もない時間がかかってしまいます。もちろん、ホントはこれほど確保されていない可能性も否定できません。前の安倍総理から今の菅総理も、虚偽の発言が多すぎると私は感じており、それほどの信頼感は持ち合わせていません。例えば、Courrier Japon のサイトでは「日本でこれまでに接種されたワクチンの回数はざっと270万回。EUから輸出された5230万回分から差し引くと、まだ4960万回分ものワクチンが使われずに日本のどこかに眠っていることになる。」と指摘しています。ワクチンの有効期限が過ぎて廃棄するハメにならないことを願っているのは私だけではないと思います。
今日は、世間一般には祝日のお休みながら、大学の授業は平常通りだったりします。重い話題ながら、軽く調べられるトピックで済ませておきます。ついでながら、私もツイッターデモのトレンドに乗って、#看護師の五輪派遣は困ります。
2021年4月28日 (水)
アジア開発銀行(ADB)「アジア開発見通し」Asian Development Outlook (ADO) 2021 やいかに?
本日、アジア開発銀行(ADB)から「アジア開発見通し」Asian Development Outlook (ADO) 2021 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。日本を除くアジア新興国・途上国の経済成長率は、昨年2020年に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響により▲0.2%のマイナス成長を記録した後、今年2021年+7.3%とリバウンドし、さらに、さ来年2022年も+5.3%と、COVID-19パンデミック前の一昨年2019年の+5.0%を上回る成長となるものと見込まれています。まず、アジア開発銀行のサイトから国別・地域別の成長率とインフレ率の総括表を引用すると以下の通りです。なお、この総括表はリポート p.xxii と同じだと思います。
大雑把にいって、2020年はCOVID-19の影響により、マイナス成長にはならないまでも、たとえプラス成長であったとしても、成長率が大きく鈍化した一方で、今年2021年は成長率がリバウンドし、来年2022年はパンデミック前の水準を回復する、という見通しです。ただ、観光業が大きな比重を占める太平洋の島嶼諸国はCOVID-19のダメージ大きく、2020年の成長率のマイナス幅が大きい上に、2021年もマイナス成長が続く国もいくつかあります。加えて、ミャンマーは広く報じられているクー・デタにより経済が停滞するのは当然でしょう。この間、インフレは安定的に推移すると見込まれています。
私が注目する懸念材料はインドです。上のテーブルに示されたアジア開発銀行の見通しでは、2020年に▲8.0%のマイナス成長の後、今年2021年は+11.0%と大きくリバウンドし、来年2022年も7.0%と順調な成長に回帰すると見込まれていますが、これも広く報じられているように、一部メディアが「インド型」と名付けるようなCOVID-19ウィルスの変異株が感染拡大を招く可能性が十分あります。ですから、私が知り得た範囲でも、USBの4月20日付けの Global Forecasts では、インドの成長率見通しが下方修正されています(p.3)。もっとも、下方修正されたとはいえ、2020年▲8.0%、2021年+10.0%、2022年+7.5%ですから、アジア開発銀行の「アジア開発見通し」Asian Development Outlook (ADO) 2021 と大きく異るところではありませんが、他方で、cnnのサイトには「インドの感染者、5億超の可能性も 実態は公式統計よりはるかに深刻」とする報道もあったりします。
最後に、分析編では、いつもの国別見通しのほか、(1) Asia remains resilient, amid divergent recovery paths、(2) Financing a green and inclusive recovery、と題する分析がなされており、アジアの回復は着実だが経路のばらつきが大きく、その要因はワクチン確保にあると指摘するとともに、環境に優しくSDGsに配慮し、さらに、多くの国民を包摂する回復を目指す点を強調しています。
目を国内に転じると、本日、経済産業省から3月の商業販売統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.2%増の13兆4980億円、季節調整済み指数では前月から+1.2%の上昇を記録しています。グラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

2021年4月27日 (火)
日銀「展望リポート」に見る経済見通しの先行きリスク要因は何か?
昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。2021~2023年度の政策委員の大勢見通しのテーブルを引用すると以下の通りです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、 です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。
実質GDP | 消費者物価指数 (除く生鮮食品) | |||
2020年度 | −5.0 ~ −4.9 <−4.9> | −0.4 | ||
1月時点の見通し | −5.7 ~ −5.4 <−5.6> | −0.7 ~ −0.5 <−0.5> | ||
2021年度 | +3.6 ~ +4.4 <+4.0> | 0.0 ~ +0.2 <+0.1> | ||
1月時点の見通し | +3.3 ~ +4.0 <+3.9> | +0.3 ~ +0.5 <+0.5> | ||
2022年度 | +2.1 ~ +2.5 <+2.4> | +0.5 ~ +0.9 <+0.8> | ||
1月時点の見通し | +1.5 ~ +2.0 <+1.8> | +0.7 ~ +0.8 <+0.7> | ||
2023年度 | +1.2 ~ +1.5 <+1.3> | +0.7 ~ +1.0 <+1.0> |
見れば明らかな通り、足元の2021年度については成長率見通しを引き上げた一方で、物価見通しは下方改定されています。フィリップス曲線的には不整合な動きといえますが、この背景には、海外経済の順調な回復による外需主導の成長加速に加えて、携帯電話料金の引下げがあります。前回1月の「展望リポート」では各社のプランが出そろっていないことから、まだ織り込まれていませんでしたが、今回からは携帯電話料金の引下げも含めたことで物価見通しが下振れしたというわけです。また、「展望リポート 2021年4月」から、政策委員の経済・物価見通しとリスク評価のグラフを引用すると以下の通りであり、リスクはどちらかといえば、下方にある可能性が高い、と理解すべきです。
私自身も、先行き経済や物価の見通しについては、基本的に、日銀と同じ方向感覚を共有しており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が終息すれば、所得と需要の好循環が復活する可能性が十分あると考えています。しかし、最大のリスクは政府要因です。すなわち、第1に、大前提となるコロナ終息なんですが、ワクチン手配をはじめとして、現内閣にコロナ終息の能力がまったくないことが上げられます。第2に、緊縮財政への傾向が垣間見えます。例えば、昨日4月26日に開催された経済財政諮問会議において、「経済・財政一体改革の進捗」と題する資料が内閣府から提出されており、最大の眼目は財政赤字のようです。今回のコロナ・ショックにより、財政赤字が拡大したのは事実ですが、私は少なくとも短期に財政バランスを回復する方向に政策を転換すべきではないと考えています。政府が増税や緊縮財政の政策を採用することが先行き経済の最大のリスクです。
2021年4月26日 (月)
半年ぶりにプラスに転じた3月統計の企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率の今後を考える!!!
本日、日銀から3月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+0.7%とプラスの上昇率に回帰し、変動の大きな国際運輸を除く平均も+0.6%の上昇を示しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応した緊急事態宣言が首都圏などで続く中、マイナス幅を徐々に縮小させています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを手短に報じる記事を引用すると以下の通りです。
3月の企業向けサービス価格、前年比0.7%上昇 前月比0.7%上昇
日銀が26日発表した3月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.3で、前年同月比で0.7%上昇、前月比で0.7%上昇した。
とてもコンパクトな記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率は、2019年10月の消費税率引上げの効果が剥落した昨年2020年10月からマイナスに陥っていましたが、3月統計でとうとうプラスに転じました。従来から、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価上昇率よりは、人手不足の影響などから、SPPIの方がマイナス幅は小さくなっていたんですが、SPPI前年同月比上昇率がプラスに回帰するのは、消費税率引上げの効果が剥落する前の昨年2020年9月以来、半年ぶりです。少し詳しく、SPPIの大類別に基づくヘッドライン上昇率への寄与度で見ると、テレビ広告やインターネット広告を含む広告が+0.30%と大きく、マイナス幅を縮小させた宿泊サービスなどの諸サービスが+0.13%、プラスに転じた外航貨物輸送や国内航空旅客輸送がを含む運輸・郵便が+0.12%などとなっています。広告はいわゆる景気敏感項目なんですが、3月統計では携帯電話各社の新料金プランに合わせた大量出稿があったと聞き及んでいます。ただし、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック防止のために、4都府県で緊急事態宣言が発令され、短期ながらも強力な措置が講じられているところですので、宣言の延長があるかどうかも含めて、今後、需給両サイドでどのような影響が出るのかは、極めて不透明です。
2021年4月25日 (日)
2021年4月24日 (土)
今週の読書は経済書と新書で計5冊!!!
今週の読書は、足元経済を概観してシンクタンクが取りまとめた入門経済書に加えて、やや的はずれなデータ分析のスキル本、さらに、教育分野を対象にした新書、また、最後に、松山英樹の優勝で注目を集めたマスターズについての新書まで、幅広く読んで以下の5冊です。小説をレビューしていないんですが、40年ほど前に出版されたジェフリー・アーチャーの『ロスノフスキー家の娘』を読みましたので、Facebookでシェアしておきました。来週からはゴールデンウィークが近づいてきますので、近くの図書館から小説を少し借りてきています。
次に、熊谷亮丸・大和総研『世界経済の新常識2021』(日経BP) です。著者は、大和総研(DIR)のエコノミスト一同ということになるんだろうと思います。執筆者プロファイルは巻末にあります。構成としては、米国、欧州、中国、新興国の4国・地域を章別に取り上げ、さらに、横割りでSDGsを5章で、サプライチェーンを6章で取り上げ、残る3章、すなわち、7~9章は日本経済に焦点を当てています。このシリーズは6年目らしいのですが、私は初めて手にしました。中身は、当たり前の分析ばかりでそれほど新規の分接結果が示されているわけではなく、常識的にそつなく取りまとめてあるという印象です。いくつか、特にオススメの分析としては、新興国の章では、オックスフォード大学の厳格度指数(Stringency Index)を応用した分析が面白かったのですが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染拡大の時期がビミョーに異なるので、大雑把に2020年4~6月期がGDP成長率が底だったとはいっても、どこまで正確な分析になっているかという懸念は残ります。また、SDGsについては、さすがに、企業活動に必要不可欠な要素となってきている現状を垣間見ることが出来ました。それほどの目新しさはありませんが、p.175にあるSDGsとESGとCSRの関係については整理がよく出来ている気がします。そのうちに、授業で引用したいと思います。サプライチェーンに関してはグローバルな展開が急ピッチで進み、新興国や途上国の中でもグrーバル・サプライチェーンに積極的に組み入れられる方が成長が高くなっていた、というのは事実としても、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、こういったサプライチェーンの再構築が進む可能性があり、どこまで中国の生産をASEANなどのアジアでできるかが問題なのですが、本書の分析では少なくとも数年から数十年の時間がかかると結論しています。でも、中国はもっと早かった気がするのは私だけでしょうか。昨年終了したアベノミクスについては、かなり私と似通った評価がなされているような気がします。ただ、p.210の成績表で財政だけが×になっているのは、要するに財政赤字が拡大したということなのでしょうが、財政赤字なしには景気や雇用がダメだった可能性は考えられていないようです。また、日本経済だけの課題ではありませんが、デジタル化やインターネット経済の進展に伴って、不平等が拡大している現状があります。特に、アベノミクスは分配が置き去りでしたので、所得の不平等を是正するためにも分配の分析がもっと欲しかった気がします。
次に、松本健太郎『データから真実を読み解くスキル』(日経BP) です。著者は、データサイエンティストということです。本書は「日経ビジネス電子版」で2019年に始まった連載を単行本化していて、目的は「データ分析のお作法を学ぶ」という、とても上から目線の目的となっています。私はデータ分析には何らかの目的があり、データをデータとして把握するというのもOKなんだと思うのですが、多くのデータ分析の目的は、何らかの実体とか実像とかいう直接には観察不能なものがあって、それを集合的に把握するためなのではないか、と考えています。加えて、データは数量で表される指標とは限りません。ミステリ小説の中で名探偵が「犯人を特定するにはデータが不足している」というのを読んだことがある人も多いのではないでしょうか。ですから、データそのものを考えるのには少しムリがあるような気がしています。私の専門分野に引きつけていえば、本書で例示されているように、景気を判断するのにもGDPとか、有効求人倍率とかの単一の指標で判断できるハズもないと思います。それが出来ないからといって指標を批判するのも的外れですし、どうも、ほかにも的外れな点が多く含まれています。タイトルも、データから真実を読み解くのも結構ですが、真実を得るためにいかにデータを活用するか、という視点が本書からは読み取れません。ですから、本書を一昨日の木曜日の午前中に読み終えて、やや評価は低いなと感じつつアマゾンのレビューを見ると、やっぱり、私と同じように感じた人が多いのか、5ツ星が満点で平均して2ツ星の評価でした。4ツ星と5ツ星のレビュアーはまったくなく、すべてのレビューは星3ツ以下でした。最初のレビュアーのタイトルが「読む必要なし」だったのには、読み終えたばかりの私も思わず苦笑させられました。もちろん、「日経ビジネス電子版」の連載ですでに見たので重複を嫌がって、という読者もいそうですが、いずれにせよ、評価の低い内容です。データ・ドリブンな経済社会といわれていますが、やや趣旨を取り違えて便乗したのかもしれません。単に、データを加工するだけで何かが得られるというわけではなく、もちろん、一般に知られていないデータを発見したり、加工したりするテクニックが重要なのではなく、キチンとした目的意識を持って、何を得たいからどういったデータが必要なのか、を考える姿勢が重要だと思います。ですから、最近は、web調査でかなり精度のいいデータが手に入りますので、独自のアンケートを設計してほかにないデータを入手する、という方法もあります。たぶん、金銭的な負担は大きいような気がしますが、早稲田大学の修士論文を見ていて、大学院生ですらwebの独自アンケート調査を使ってデータを取っているのにびっくりした経験もあります。あまりおすすめできない残念な読書でした。私ならアマゾンで星1ツのレビューとするかもしれません。
次に、小松光/ジェルミー・ラプリー『日本の教育はダメじゃない』(ちくま新書) です。著者は、ともに、大学の教育学の研究者です。本書の対象は高校までであり、私が飽食する大学教育はスコープ外なのですが、私自身の実感として、日本の教育は、もちろん、学校教育をはじめとして、塾などの学外学習、あるいは、一般的な意味での家庭学習も含めて、かなり高レベルにあって、日本人の認知能力はかなり高い、と考えていますので、まったく私の感覚が裏付けられた気がします。まず、本書は2部構成になっており、第Ⅰ部で日本の教育に関する通説、特に、否定的な評価を下している14の通説を批判しています。そして、第Ⅱ部では将来に向けて4つの提案がなされています。最初の通説批判は国際機関などのデータとして、経済開発協力機構(OECD)のPISA(学習到達度調査)とPIAAC(国際数学・理科教育動向調査)、それに、TIMSS(国際成人力調査)のデータを駆使していますが、特に小難しい計量手法を取っているわけではなく、先進各国やアジア諸国と日本の結果を並べて評価しているだけですので、一般向きといえます。批判の対象となっている14の通説を列挙すると、知識がない、創造力がない、問題解決ができない、学力格差が大きい、大人の学力が低い、昔に比べて学力が低下している、の6点が第1章で国際比較データから検証されており、日本は学力が高いとの結論を得ています。そして、第2章では、勉強のしすぎ、高い学力は塾通いのおかげ、授業が古臭い、勉強に興味がない、自分に自信が持てない、学校が楽しくない、いじめ・不登校・自殺が多い、不健康、の8点が検証されており、特段、代償が大きいわけではない、と結論しています。第Ⅱ部第3章では将来に向けた積極的な提案として、現実を見ない教育政策をやめよう、「安定した不安」を持ち続けよう(保護者向け)、レベルの高さに気づこう(学校の先生・教育行政向け)、もっと世界に発信を(教育研究者・メディア関係者向け)の4点を主張しています。もしも、あくまでも、もしも、ですが、お手軽に立ち読みで済ませようと考える向きにはp.65の①から⑥に本書の前半のエッセンスが凝縮されています。今週の読書感想文では、別のどこかの本でアマゾンのレビューを参照しましたが、本書の場合、レビューの平均が5ツ星の満点で4.5のスコアを弾き出しており、星5ツの満点とレビューしたレビュアーが65%に上ります。私も教員の端くれとして本書はオススメに値すると考えています。
次に、坪内祐三『最後の人語天声』(文春文庫) です。著者は、編集者、エッセイストとして知られています。昨年2020年初頭に亡くなっています。生年は私と同じ1958年です。本書は、同じ文春新書のシリーズで、『人語天声』、『人語天声2』の続刊であり、月刊誌『文藝春秋』の巻末に掲載されていた名物コラムを収録しています。私は年位1回か2回くらいしか月刊誌の『文藝春秋』は読まない上に、前2巻は未読なので、全体を通じたコラムの感想にはなり得ませんが、本書から受けた印象として、繰り返しになりますが、まったく同年生まれながら、東京の文化に長らく接していて、趣味や教養の方向としてはやや老成したところがあり、団塊の世代並みの素養を感じました。すなわち、スポーツ観戦でしたら、私のような野球ではなく大相撲ですし、映画やエッセイの素養も十分で、神保町の古本街、あるいは、ご出身校である早大周辺の地理なども、京都出身の私などとはかなり違って精通していることが伺われます。ただし、宇宙や生物などの自然科学方面にはそれほど興味ないようにも見受けられます。加えて、歌舞伎などの古典芸能についてもほとんど取り上げられていません。映画ばっかりという気もします。出版関係もホームグラウンドですから詳しく、私は今『2016年の週刊文春』を図書館に予約していて、もうすぐ回ってきそうなのですが、「週刊文春」の取材や週刊誌ジャーナリズムに対する考え方なども大向こうを唸らせるものがあります。文化だけでなく経済社会的な話題も決して少なくなく、コンビニで賞味期限切れの商品はレジが反応しないなんて、私は知りませんでした。ただ、こういった話題を「フードロス」というキーワードで表現して欲しかった気もします。ただ、元号を災害と結びつけようという試みには感心しませんでした。これも、キーワードとなる気候変動、地球温暖化、などと適切に結びつけて雑感が語られている方が私の目には快かったのではないか、という気がします。もちろん、そういったキーワードなしで月刊誌巻尾のエッセイを続けていたわけですから、とても興味深い視点と判りやすい語り口が大いに楽しめます。
最後に、本條強『マスターズ』(ちくま新書) です。著者は、ゴルフに関するジャーナリストです。ちょうど、松山英樹が日本人として初めて優勝した直後に私は本書を読みましたので、それなりに感じるものがありました。経済学を教える身として、松山英樹のマスターズで売上げが伸びているかもしれない、なんて考えたりもしました。ただ、私は海外勤務していた折にはゴルフもしましたが、日本に帰国してからはサッパリで、そもそも、チリやインドネシア在住の時にも、しばしばゴルフコースに出ていたにもかかわらず、ゴルフの腕前はほとんど上達しませんでした。ですから、ゴルフというスポーツそのものにもそれほど詳しくもありません。松山選手のマスターズ優勝というのは、そんな私にも何らかの刺激を与えてくれるものでした。ということで、毎年、マスターズの開催されるオーガスタ・ナショナルのゴルフコースというハードウェアと、そこでのプレーというソフトウェアの両方をバランスよく解説してくれています。オーガスタ・ナショナルは広く知られたように、球聖ボビー・ジョーンズが当時のグランドスラムを成し遂げて引退した結果取り組んだコースです。当然のように、セント・アンドルーズを模範として設計されているのですが、さぞや難しいチャンピオンコースと思いきや、設計思想はそうではなく、バンカーで苦しむゴルファーを見たくない、とか、みんなで楽しくゴルフするというコンセプトから、バンカーは少なく、フェアウェイとグリーンは広く、などなど、アベレージ・ゴルファーでもそれなりに楽しめる作りになっているらしいです。もちろん、私のようなアベレージ・ゴルファーよりもかなり腕前の落ちるプレーヤーはダメなんでしょう。ジャーナリストの著者らしく、コースだけでなくロッカールームやクラブハウスなども詳細に取り上げています。そして、プレー、というか、優勝者をはじめとする上位のゴルファーについては、もっと詳細に紹介しています。アーノルド・パーマーやジャック・ニクラウスといった20世紀なかばのスターから、最後のスターであったタイガー・ウッズまで、そして、最近時点では、例えば「帝王」と呼ばれるようなゴルファーはなく、混戦模様となっている点なども明らかにされています。まあ、強力に君臨する絶対的な王者がいなかったからこそ、松山英樹が優勝するチャンスが広がった、という見方もできるかもしれません。私のようなゴルフのシロートにも楽しめる良書です。
2021年4月23日 (金)
マイナスが続く消費者物価(CPI)上昇率に対応して緊急事態宣言を実効性あるものにする強力な財政拡大が必要!!!
本日、総務省統計局から3月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲0.1%の下落と、8か月連続の下落を示しつつも、下落幅は徐々に縮小しています。他方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+0.3%とプラス幅を拡大しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインだけを報じる記事を引用すると以下の通りです。
3月の全国消費者物価、0.1%下落 下落は8カ月連続
総務省が23日発表した3月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.8と前年同月比0.1%下落した。下落は8カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.1%下落だった。2月は0.4%下落だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合のCPIは102.2と、0.3%上昇した。生鮮食品を含む総合は0.2%下落した。
併せて発表した20年度平均のCPIは、生鮮食品を除く総合が101.4となり、19年度に比べ0.4%下落した。
いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲0.2%の下落でしたので、ジャストミートしました。CPIの下落が続いていることについては、一昨年2019年10月からの消費税率引上げの効果が昨年10月統計で剥落したことあるものの、エネルギーや政策要因の幼児向け教育あるいは高等教育の無償化などに伴う部分が小さくありません。例えば、エネルギーの総合指数の対前年同月比上昇率への寄与度は2月統計では▲0.57でしたが、本日公表の3月統計では▲0.34まで縮小しています。コアCPIの上昇率がまだマイナスながら、そのマイナス幅が着実に縮小している大きな要因のひとつと考えるべきです。また、3月統計で幼稚園保育料(私立)の前年同月比上昇率は▲88.5%、総合への寄与度も▲0.12%と大きくなっています。ですから、政策要因の幼児向け教育無償化がなければ、そろそろコアCPI上昇率はゼロないしプラスになっていてもおかしくないわけです。こういった国際商品市況の石油価格の動きなどに従って、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率も下落幅を着実に縮小させています。
今月については、日経新聞の記事「コロナ下、物価8カ月連続下落 インフレ加速の米欧と差」に触発されて、いまだに消費者物価上昇率がマイナスを続けている日本の異常さを指摘しておきたいと思います。すなわち、4月の「月例経済報告」の主要経済指標のうち、最後の主要経済指標の国際比較の2ページめに消費者物価上昇率の比較表があります。繰り返しになりますが、日本の消費者物価上昇率は3月統計でヘッドライン▲0.2%、コアCPI▲0.1%の下落なのですが、主要経済指標の国際比較では、同じ3月統計で、米国は+2.6%、ユーロ圏欧州でも+1.3%、うち、あれほどインフレを嫌うドイツでも+1.7%のほか、アジア諸国も、中国が2月までのマイナス圏から3月統計では+0.4%に転じていますし、韓国も+1.5%を記録しています。もう、長らく指摘され続けてきたことながら、これまでデフレが続く異常事態に対応して、日銀は強力なリフレ策に転じています。財政政策当局はドイツや英国のような消費税率の引下げを拒否し続けてきましたが、第3次の緊急事態宣言に応じて財政拡大による強力な支援策を打ち出すべきタイミングに達していると私は考えています。
2021年4月22日 (木)
Economist 誌「オンライン会議疲れの新しい研究」やいかに?
やや旧聞に属する話題ながら、先週 The Economist 誌で "A new study suggests that "Zoom fatigue" is worse for women than men" と題する記事がありました。4月17日付けの Daily chart の記事です。まず、そのグラフィックを The Economist 誌のサイトから引用すると以下の通りです。
3枚あるグラフのうち、左側の大きなグラフは疲労度の密度関数を男女別にプロットしていて、男性の平均が2.75、女性は3.13と、女性の方がビデオ会議の疲労度が高くなっているのが、The Economist 誌の記事のタイトルになっているわけです。画像の下の方にやや雑な出典がありますが、キチンとした学術論文からの引用であり、元となる論文を私が見た限りで、SSRNのサイトのサイテーション情報とAbstractは以下の通りです。
Abstract
There is little data on Zoom Fatigue, the exhaustion that follows video conference meetings. This paper administers the Zoom Exhaustion & Fatigue scale to 10,591 participants from a convenience sample and tests the associations between five theoretical nonverbal mechanisms and Zoom Fatigue - mirror anxiety, being physically trapped, hyper gaze from a grid of staring faces, and the cognitive load from producing and interpreting nonverbal cues. First, we show that daily usage predicts the amount of fatigue, and that women have longer meetings and shorter breaks between meetings than men. Second, we show that women have greater Zoom fatigue than men. Third, we show that the five nonverbal mechanisms for fatigue predict Zoom fatigue. Fourth, we confirm that mirror anxiety mediates the difference in fatigue across gender. Exploratory research shows that race, age, and personality relate to fatigue. We discuss avenues for future research and strategies to decrease Zoom fatigue.
著者たちは基本的に米国スタンフォード大学の心理学の研究者グループです。最初に示した The Economist 誌のサイトにあるグラフは、論文の p.4 Fig. 1. Density plot of ZEF score and histograms of video conference usage の4枚のうちの3枚をアレンジしています。どうでもいいことながら、右上のグラフのタイトルのうちの "video call" は "video conference" の間違いだと思います。
ということで、メディアの記事を引用するだけではなく、出来る限り、原典に当たるよう学生や院生に教えている私ですので、SSRN のサイトから論文をダウンロードして斜め読みしてみました。でも、ほぼほぼ引用したAbstractで説明がつくようで、まず、下線を付した部分にあるように、男女を問わずビデオ会議で疲れやすいのには4つほど原因が上げられていて、"mirror anxiety, being physically trapped, hyper gaze from a grid of staring faces, and the cognitive load from producing and interpreting nonverbal cues" ということになります。少し私なりに解釈を加えれば、(1) 心理学で「鏡の不安」と呼ばれるもので、ビデオ会議では自分を見続けることから生じ、(2) カメラのレンズで動きが制約され、身体的に閉じ込められている感覚があり、(3) 従来の会議のように発言する時だけ注目されるのではなく、常に注目されている感覚もあり、(4) 非言語的なボディランゲージなどを理解しようと努力せねばならない、ということになろうかと思います。ただ、私がビデオ会議に参加する多くの場合、ビデオも音声もオフにしてしまいますので、これらの疲れる原因はなくなるか、大いに軽減されるんではないか、と思います。加えて、この論文の発見として4点上げており、(1) 男性よりも女性の方が会議参加時間が長く、逆に、休憩が短かい、(2) 男性よりも女性の方がビデオ会議で疲れやすい、(3) 非言語的なボディランゲージには5種類ある、(4) 「鏡の不安」が性別の疲労の違いをもたらす、ということのようです。疲労の4要因について男女別に回帰分析結果の係数を判りやすく比較したのが下の画像であり、論文の p.7 Fig. 2. Multiple mediation model を引用しています。まん中の列に縦に並んだ4要因が上から順に、最初に上げたビデオ会議が疲れる4要因の(1)から(4)に該当します。何せ、英文で書かれている専門外の心理学ですから、これくらいにしておきます。
私の勤務する大学では、昨年2020年4月に着任してから、教授会はすべてオンラインで開催されています。10年ほど前に長崎大学にいたころは、もちろん、ビデオ会議の教授会なんて1回もありませんでした。1年ほど前にこのブログで、教授会の司会進行をしている学部長が「オンライン会議は疲れる」と発言していたのに対して、私は教授会とはそもそも疲れるものである、と書いたような気がしますが、やっぱり、学部長が正しくて、オンライン会議は疲れるもののようです。
2021年4月21日 (水)
巨人に逆転負けで8連勝でストップ!!!
一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | R | H | E | ||
阪 神 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 5 | 1 | |
阪 神 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | x | 3 | 12 | 0 |
今シーズン初めての逆転負けで8連勝でストップでした。
初回に近本外野手とマルテ内野手の2本のソロホームランで先制したものの、巨人岡本選手がソロホームランを連発して追いつかれます。6回の守備では青柳投手が踏ん張って、見事なフィールディンででホーム・タッチアウトもありましたし、およそクリーンヒットはなかったんですが、不運な当たりが続いて逆転され、そのままズルズルと巨人に逃げ切られました。セカンドやショートの守備がまずかったわけでもなく、むしろ、3回のノーアウト三塁のチャンスを逃したりして、2回以降に得点できなかった打撃陣が敗因ではないかと思います。明日の試合は、ひょっとしたら、今シーズンの先行きを占う一戦となるかもしれません。
なんとしてでも明日は勝つべく、
がんばれタイガース!
インテージによるゴールデン・ウィークに関する調査結果やいかに?
そろそろ、ゴールデン・ウィークのトピックを取り上げたかったのですが、今年も新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックがまったく収まらず、ワクチン接種もまったく進まずで、昨年に続いて巣ごもり状態が続きそうです。しかし、先週木曜日4月15日にインテージからゴールデン・ウィークに関する調査結果が明らかにされていますので、以前のゴールデン・ウィークを偲んで簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、インテージのサイトから、今年2021年GWの予定ということで、過去2年と比べての過ごし方を問うた結果のグラフを引用しています。見れば明らかな通り、昨年の段階で「自宅で過ごす」が一昨年から25%ポイントジャンプしています。今年の予定でも、昨年と同じような水準で変わりなく¾超が「自宅で過ごす」と回答しています。他方で、「ショッピング」などの外出を伴う活動も、昨年に比べて増加していることが見て取れます。ただし、「近所の公園や寺社に行く」を別にすれば、一昨年の水準まで戻っている活動は見られません。引き続き、「ステイホーム」がゴールデン・ウィークのメイン活動となりそうです。また、グラフは引用しませんが、家で何をするかといえば、「テレビやDVDを観る」、「インターネットをする」、「ゴロゴロする・寝る」がトップ3となっており、一昨年より昨年に少し増え、今年の予定としても昨年と同水準となっています。他方、昨年より今年の予定として注目すべきは「部屋の掃除・洗濯などの家事をする」と「ストレッチや筋トレ」で一昨年の1.5倍以上となっています。清潔に保ち、運動不足を解消するという意味で、健康志向のひとつの現われかもしれません。
次に、インテージのサイトから、今年2021年のGWにかける金額ということで、これも過去2年と比べての金額を問うた結果のグラフを引用しています。エコノミストとしては気にかかるところですが、昨年にドンと落ち、今年は少し盛り返したものの、まだ一昨年の水準には遠く及ばず、半分強というところです。
次に、インテージのサイトから、COVID-19の感染拡大につながった可能性も指摘されて評判の悪い「Go To トラベルキャンペーン」に関する考え方を問うた結果のグラフを引用しています。これも見れば明らかな通り、「再開は控えたほうが良い」という人がほぼほぼ60%に達し、大きな部分が慎重な姿勢を示しています。もちろん、感染状況により感じ方に差が生じるのは当然ですが、国民の大きな部分が否定的な考えを持っていることは明らかです。Go To トラベルのキャンペーンは旅行業界の利権のために国民の健康を犠牲にするものであり、私も従来から強く反対しています。
2021年4月20日 (火)
リクルートワークス研によるコロナショック下における雇用調整に関する分析結果やいかに?
昨日4月19日付けのコラムですが、リクルートワークス研から今回のコロナ・ショックと2008年のリーマン・ショックにおけるGDPと雇用の変化についての分析結果が明らかにされています。
まず、上のグラフはリクルートワークス研のサイトから引用していて、見れば判る通り、3枚の折れ線グラフを結合しています。実質GDP/雇用者/失業率のそれぞれの基準点からの変動をプロットしています。基準点は、リーマン・ショックでは2008年4~6月期、コロナ・ショックでは2019年10~12月期としています。まあ、妥当なところです。コロナ・ショックにおける実質GDP/雇用者/失業率の3変数の変動については、失業率こそリーマン・ショックときのワーストのレベルまで悪化していませんが、失業率以外の実質GDPと雇用者はコロナ・ショックの際の悪化の方がリーマン・ショックを上回っており、ショックの大きさとしてはより深刻といえます。ただ、最悪期からの回復については、まだ、コロナ・ショック後の足元で1年4四半期くらいしかデータが観察されていませんので、確実なところは何ともいえませんが、直感的な印象として、コロナ・ショックはリーマン・ショックよりも悪化のペースも立ち直りのペースも、いずれもスピードとしては速いとの印象を持つのは私だけではないでしょう。もちろん、業種別のショックの大きさが違うでしょうし、リクルートワークス研では特に分析をしていませんが、不良債権の積み上がりの有無が影響しているのではないか、と私は考えています。
そして、コロナ・ショックとリーマン・ショックにおける業種別のダメージと並んで重視すべきは、雇用形態別のダメージです。ということで、上のグラフはリクルートワークス研のサイトから引用していて、2枚の棒グラフを結合しています。雇用者数減少の内訳について、正規雇用者、アルバイト・パート、派遣社員、その他非正規雇用者に分類して積み上げています。リーマン・ショック後の雇用者の減少は、比較的初期から、さらに、2年8四半期を経過したころから顕著に、正規雇用者+派遣社員が減少する一方で、アルバイト・パート+その他非正規雇用者が増加するというパターンでした。しかし、コロナ・ショック後の現在の足元では、逆に、アルバイト・パート+派遣社員+その他非正規雇用者の非正規雇用者全般が減少する一方で、正規雇用者は増加しています。リクルートワークス研では、第1に、コロナ・ショックでは飲食・宿泊業などのもともとがパート・アルバイトの比率の高い業界のダメージが大きい、第2に、ショックが短期に終了する可能性、第3に、人手不足の深刻化、の3点を上げています。第2の点は先ほどの議論と共通しています。また、パート・アルバイトがその昔の労働経済学的にいって中核ではない縁辺労働力ばかりともいえない現状があり、非正規雇用者が減って正規雇用者が増えるのがいい、とは必ずしもいえない点は確認しておく必要があります。
2021年4月19日 (月)
3月貿易統計から米中間の緊張関係のリスクを考える!!!
本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比+16.1%増の7兆3781億円、輸入額も+5.7%増の6兆7144億円、差引き貿易収支は+6637億円の黒字を計上しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
3月の貿易統計、輸出16.1%増 中国向けは単月で過去最高
財務省が19日発表した3月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比16.1%増の7兆3781億円と2カ月ぶりに増加した。中国向け輸出が単月で過去最高となったことなどが寄与した。各国への自動車輸出も好調だった。輸入額は5.7%増の6兆7144億円だった。2カ月連続の増加で、医薬品などの輸入が伸びた。
輸出から輸入を差し引いた貿易収支は6637億円の黒字だった。黒字は2カ月連続。
対中国の輸出額は37.2%増の1兆6344億円と、単月で過去最高となった。プラスチックなど化学製品や原料品、半導体等製造装置、自動車など幅広い商品が前年同月を上回った。輸入額は10.0%増の1兆5768億円で、パソコンなど電算機類(周辺機器含む)、カメラなど音響映像機器(部品含む)などが伸びた。
対米国の輸出額は4.9%増の1兆2395億円だった。自動車や建設用・鉱山用機械などが伸びた。輸入額は6.5%増の7902億円で、穀物類や医薬品などが伸びた。
対欧州連合(EU)向け輸出は12.8%増だった。自動車部品や自動車の輸出が増えた。輸入は19.0%増だった。医薬品などが伸びた。
同時に発表した2020年度の輸出額は前年度比8.4%減の69兆4873億円と、リーマン・ショック直後の2009年度(17.1%減)以来の減少幅となった。世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響により自動車や原動機、航空機類などの輸出が大幅に減少した。輸入も11.6%減の68兆1803億円だったため、貿易収支は1兆3070億円の黒字と3年ぶりの黒字になった。
20年度の地域別では、米国や欧州との輸出入はいずれも減少した一方、いち早く経済回復の兆しを見せた中国向けは輸出・輸入とも増加した。輸出は精製銅など非鉄金属や半導体等製造装置が伸び、輸入はテレワークの普及などを背景にパソコンなど電算機類(周辺機器含む)が伸びた。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は+4932億円の黒字でしたので、それほど大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。なにぶん、先月2月統計が中華圏の春節に当たっていたため、米国の寒波とともに、統計的にはやや不連続な部分も見られますが、おしなべて世界経済の順調な回復に従って我が国輸出も増加している、と私は受け止めています。輸入について季節調整していない原系列の統計の前年同月比で見て、金額ベースで+5.7%増、価格と数量で分解して数量が+3.9%増、価格が+1.8%増となっています。3月の税関長公示レートは1ドル当たり107.13 円となっており、前年同月と比べた円高が落ち着いてきたことから、輸入価格の低下に歯止めがかかりつつあると私は考えています。季節調整済みの系列の前月比で見ると、輸出が+4.5%だったのに対して、輸入は▲0.9%減となり、2月に貿易赤字を記録しましたが、3月統計では黒字に回帰しています。というか、むしろ、2月が中華圏の春節でややイレギュラーな統計だったと考えるべきです。

続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出金額指数の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国向けの輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。例えば、一番下のグラフで2021年3月の中国のOECD先行指数の前年同月比は1か月のリードを取って+20%なんですが、上限目盛りの+18%を突き抜けています。グラフからも明らかな通り、OECD加盟の先進国も中国も、ワクチン接種で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を脱しつつあり、中でも米国はバイデン政権の大型財政政策で急速な回復を見せています。我が国だけがワクチン接種も進まず、世界経済の回復に伴う輸出の増加をテコに景気回復を目指す政策を展開しているようです。加えて、3月統計では、金額ベースで米国向け輸出が+4.9%増の1兆2395億円だった一方で、中国向けは+37.2%増の1兆6344億円に達しており、米中間の緊張関係の高まりによるリスクが現実味を帯びてきたように見るのは私だけでしょうか?
2021年4月18日 (日)
猛虎打線の爆発で打撃戦を制して7連勝!!!
一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | R | H | E | ||
ヤクルト | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 4 | 2 | 0 | 7 | 9 | 0 | |
阪 神 | 1 | 0 | 5 | 2 | 0 | 0 | 2 | 0 | x | 10 | 16 | 1 |
序盤から猛虎打線爆発でヤクルトとの打撃戦を制して7連勝でした。
序盤の大量得点で左うちわ状態だったんですが、終盤にリリーフ陣がヤクルト打線に打ち込まれて壮絶な打撃戦となりましたが、最後は阪神が逃げ切りました。1回と3回に2度のノーアウト満塁のチャンスが4番大山選手に回って、ともに得点しました。この3点差で逃げ切ったともいえます。ノーアウト満塁で得点できるのが今年の阪神打線の進化かもしれません。ピッチャーに目を転じると、先発ガンケル投手は安定感抜群だったんですが、点差が開いたリリーフ陣がヤクルト打線に追い上げられてしまって、結局、勝ちパターンのリリーフ陣を注ぎ込み逃げ切りました。もっとも、昨日が雨天中止で明日は移動日ですので、そこそこいい調整になったのではないかと期待しています。
火曜日からの巨人戦は、
がんばれタイガース!
2021年4月17日 (土)
今週の読書は遅ればせながらの綾辻行人『Another 2001』のほか計4冊!!!
今週の読書は、昨年9月発売の綾辻行人『Another 2001』のほか、リベラル左派のジャーナリストによる気候変動問題に関するコラム集、新書に文庫本と以下の4冊です。私の趣味に従って、綾辻行人『Another 2001』に大きな比重を起きつつ読書感想を取りまとめています。なお、今年に入ってからの読書は、新刊書読書としてブログにポストした分に限定して、1~3月に56冊、4月は今日の分までで毎週4冊×3週で12冊、計68冊となっています。
次に、ナオミ・クライン『地球が燃えている』(大月書店) です。著者は、カナダ生まれのリベラル派、というよりも、明確に左派のジャーナリストです。英語の原題は On Fire であり、2019年の出版です。本書では、地球温暖化や気候変動についてのコラムを執筆の時期の順で取りまとめています。ですから、特に目新しい点はなくて、逆に、トピックが飛ぶ印象があるかもしれません。ジャーナリストがいろんな観点から気候変動を論じているわけですから、いろんな事実関係が網羅されていますが、もっとも重要なのは、本書の冒頭で強調されているように、気候変動問題は「市場経済の生み出す局所的な危機と切り離せるものだとは思っていない。」(p.44)との観点が重要です。もちろん、その直後に、資本主義の解体を否定しているんですが、本書の著者だけでなく、英国のかの有名な『スターン報告』The Stern Review でも、"climate change is the greatest and widest-ranging market failure" と強調されているのですから、基本的な認識は共通しているわけです。その上で、エネルギーの生産と消費に関するネオリベな経済政策への批判、グローバル化の進展に関する懸念、最後には、グリーン・ニューディールの必要性などを論じています。日本では遅れている気候変動に関する議論なんですが、歴史的並びに最新の論調に接することが出来ます。
次に、綾辻行人『Another 2001』(角川書店) です。著者は、我が母校の京都大学ミス研出身の新本格ミステリ作家であり、ホラーにも手を伸ばしている作家です。奥さまはホラー作家の小野不由美だったりします。本書は、1作めの『Another』、スピンアウト作品の『Another エピソードS』に続くシリーズ第3巻です。シリーズ特設サイトも出版社が開設しています。ついでながら、続巻があり、それでもってシリーズを締めくくる予定らしいです。作者のあとがきも含めれば800ページを超える超大作で、私が3日半かかって読了するくらいのボリュームです。なお、続巻は8年後を舞台とする『Another 2009』(仮)らしく、もしもそうなら、本書の主人公である比良塚想がかかっている精神科医の碓氷希羽が小学2年生ですから、中学3年生を1年超えてしまいます。次作の最終作では成長した碓氷希羽が主要な役割を果たすんではないか、と私は想像していたのですが、違うかもしれません。いずれにせよ、800ページのボリュームながら、読み飽きることはありません。プロットとしては超常現象ですので、何ともいえませんが、死者の発見に至る謎解きは秀逸ですし、いかにも綾辻行人らしくミスリードを誘う表現力は抜群です。なお、1作めの『Another』は映画化されており、私はこの橋本愛主演の映画も見ています。
以下、シリーズ全体に渡る ばっかりですので、未読の方はご注意下さい。まず、舞台は夜見山中学校です。これはシリーズ共通です。たぶん、続巻もそうでしょう。夜見山中学校の3年3組が中心になります。この夜見山中学3年3組に死者がよみがえってまぎれ込み、災厄が生じて人死がいっぱい出る、ということなんですが、その範囲は3年3組の担任教員と生徒の2等身以内、で定義されています。そして、まぎれ込んだ死者を死に還すことにより災厄が終了するんですが、この重大ポイントは人々の記憶から容易に忘れ去られてしまいます。そして、対策としては「いないもの」を指定して、3年3組のクラス全員がシカトする、という厳しいものです。1作めの『Another』では1998年の夜見山中学が舞台で、見崎鳴が「いないもの」になって、夜見山に引越してきた榊原恒一が主人公となります。そして、災厄の解決策を探すうちに、死者の色が判る見崎鳴の人形の目の力を使って、クラスにまぎれ込んだ死者をクラスの副担任である三神怜子であると特定し、主人公の榊原恒一が死者を死に還します。8月のクラス合宿の際に大規模な災厄が生じ、死者も多数出ましたが、その混乱の際に榊原恒一が三神怜子を死に還しています。なお、三神怜子は榊原恒一の母の妹ですから、叔母に当たります。スピンオフ作品の『Another エピソードS』は『Another』の8月のクラス合宿の前に1週間ほど夜見山を離れて緋波町に滞在していた見崎鳴が主人公で、その時のお話を榊原恒一が聞くという形を取っています。緋波町には見崎鳴の家の別荘があり、見崎鳴は賢木昇也の幽霊に出会います。賢木昇也は1987年の大災厄の年に夜見山中学3年3組であり、1996年に中学1年生の見崎鳴と出会ったことがあり、1998年5月に自殺してしまいました。なぜかは忘れましたが、賢木昇也の自殺は伏せられ、幽霊は自分の死体を探し始めます。ここで、自分のことを賢木昇也の幽霊だと考える小学6年生が本作『Another 2001』の主人公となる比良塚想です。3年後ですので中学3年生になり、夜見山中学3年3組の生徒となっています。舞台は2001年です。1作めの『Another』では生徒ではなく、副担任の教師が死者だったというオチですが、本作『Another 2001』では、対策を厳重にし「いないもの」を2人指定しまったがために、よみがえってまぎれ込む死者の方も2人になってバランスが取れてしまう、というのがトリックの鍵になります。最初に死に還される死者は主人公である比良塚想の従姉妹の赤沢泉美であり、1作めの『Another』と同じで見崎鳴の人形の目が特定して、主人公である比良塚想が濁流流れる川に落として、死者を1人死に還すのですが、その後も災厄は発生し死者が出ます。そして、2人めのまぎれ込んだ死者も見崎鳴が入院患者の牧瀬未咲であると特定して、比良塚想ではなく見崎鳴がナイフを振るって死に還します。2001年9月11日のテロも効果的に取り入れられています。
次に、三浦瑠麗『日本の分断』(文春新書) です。著者は、国際政治学者で山猫総研の主催者です。本書のタイトルは判りにくいのですが、副題が「私たちの民主主義の未来について」となっていて、コチラの方に私は興味ありましたし、それなりに為になったのも分断の方ではなく、民主主義の分析と未来の方でした。ということで、特に本書の前半は山猫総研などが2019年に実施した「日本人価値観調査」のデータ分析になっています。おそらく、私の想像ではサンプル数が少なすぎてフォーマルな定量分析ができなかったのであろうと思いますが、一般的にも判りやすいグラフを示した印象論で分析を進めています。まず、分断の方については、銃規制や妊娠中絶などで超えられない溝のある米国と違って、日本では大きな分断は生じていないと結論しています。それはそうでしょう。その上で、日本における対立軸は安保・外交問題と改憲問題であると指摘します。そのため、野党が本格的に政権を取るためには、現在の自公政権と同じように、とまではいわないとしても、外交と安全保障でリアリズム政策を取る必要を説きます。私はここまでいうと否定的です。そうなると、ホテリングのアイスクリーム・ベンダー問題になってしまって、各政党が同じ政策で争うことになれば、資金力で決着がつきそうな気がします。加えて、私は昨年までの安倍政権は経済政策がとても左派的でリベラルであったのが特徴のひとつと考えています。その点も本書では見逃されています。おそらく、現政党の中で最左派の共産党が政権を取れば、理論的根拠なく財政均衡を目指しそうな気がするのは私だけではないと思います。
最後に、綾辻行人『緋色の囁き <新装改訂版>』(講談社文庫) です。著者については、先の『Another 2001』と同じですのでパスします。本書はもともと1988年に単行本として出版され、もちろん、文庫化されて、その上で、昨年に<新装改訂版>として出版されています。いわゆる「囁き」3部作の最初の作品です。この作品のほかは『暗闇の囁き』と『黄昏の囁き』になります。私はすべて読んでいますが、登場人物については共通部分はなかったのではないかと記憶しています。記憶が間違っているかもしれませんが、たぶん、そうです。しつけが厳しいことで有名な名門女子校に転校して来た主人公の周囲で起こる殺人事件、かなり、綾辻作品らしくホラー調の進行もあいまって、おどろおどろしく進みますが、その殺人事件の謎解きがメインです。最初の被害者の兄が事実関係を調査したりしますが、ホームズのようないわゆる名探偵は登場しません。私は物覚えが悪いので、謎解きのミステリは何度読んでも新鮮で楽しめるのですが、この作品はなぜか記憶にあって、途中ですっかり思い出してしまいました。でも、『暗闇の囁き』と『黄昏の囁き』については、まだ記憶の底に眠っているような気もしますので、<新装改訂版>がでたら読むんではないかと思います。
2021年4月16日 (金)
米国経済に依存する我が国経済の回復について考える!!!
このブログでもたびたび指摘していますが、米国バイデン政権がワクチン接種を進めると同時に、次々と強力な財政政策ほかを打ち出しており、米国経済の回復が強力に進むことから、我が国へのその波及効果が期待されています。特に、一昨日の4月14日に大和総研から「米国経済V字回復による日本経済への恩恵」と題するリポートを明らかにしています。まず、リポートから1ページ目の[要約]4点を引用すると以下の通りです。
[要約]
- 米国では、新型コロナウイルスワクチン接種による経済の正常化と、大型景気対策によるV字回復への期待感が高まっている。米国の内需の急回復は、輸入の増加を通じて、貿易相手国経済にもプラスの効果をもたらす可能性が高い。
- 地域別では、米国との結びつきが強いカナダ、メキシコ経済への好影響が特に大きいとみられる。加えて、米国最大の輸入相手国である中国でも輸出の大幅な増加が見込まれる。日本の輸出への影響はこれらの国と比べると小さくなるとみられるものの、輸出感応度は比較的高いため日本の米国向け輸出も高い伸びが期待される。
- 日本の輸出関数を推計すると、米国の国内需要1%の増加に対して、米国向け輸出は3.8%増加するという関係が確認される。当社の米国経済見通しを基にすれば、2021年の米国向け実質輸出は2020年から約4.8兆円増加し、実質GDPを0.9%程度押し上げると推計される。業種別では、米国向け輸出に占めるウエイトが最も高い輸送用機器が特に米国内需拡大の恩恵を受けやすい。
- ただし、足元では部材となる半導体の不足によって、世界的に自動車メーカーは減産を余儀なくされる状況が広がっている。自動車の大幅な増産は当面難しいとみられ、米国向け輸出のけん引役として期待される自動車輸出の回復は半導体不足が解消するまで後ずれする可能性が高い。
ということで、リポート冒頭丸々1ページのテキストを引用していますので、これで十分という気もしますが、次に、リポートp.4/5の 図表3:世界各国輸出の米国内需に対する感応度と対米貿易依存度 を引用すると下の通りです。
見て明らかな通り、米国と国境を接するメキシコやカナダほどではなく、日本の米国向け貿易収支の対GDP比で代理した縦軸の米国依存度については、図中の11か国中7位と必ずしも高くないものの、米国国内需要に対する輸出感応度で測った横軸の輸出感応度はブラジル、カナダ、中国、メキシコに次いで5番目に高いことが示されています。ですから、米国内需の拡大によって米国向け輸出は他国に比べて増加しやすい経済構造となっていることが確認されています。高度成長期には「米国がクシャミをすると、日本が風邪を引く」と例えられたこともありますが、逆に、米国の高成長が日本に輸出を通じて経済的な恩恵をもたらすこともあるわけです。そして、最初に引用したリポートの[要約]のように、大和総研では今年2021年に米国経済のV字回復により、日本経済には+5兆円、GDP比で+1%近い押上げ効果があるのと試算結果を示しています。もちろん、産業別には輸送機械、というか、自動車の比率が高く、半導体不足から自動車の減産が計画されていますので、この押上げ効果が半導体生産の回復まで後ズレする可能性が十分あるものの、現在のワクチン接種の大きな遅れや経済政策の無策のために、政治が新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックを防げず、経済の足を引っ張る構図が少しでも緩和される方向にあることは確かです。
最後に、昨日、日銀支店長会議にて「さくらリポート」(2021年4月) が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもポストされています。各地域の景気の総括判断と前回との比較は下のテーブルの通りで、北海道と東北の景気判断は下方修正された一方で、他の地域は据え置かれています。「厳しいながらも、持ち直し」というのが大雑把な平均でしょうか?
【2021年1月判断】 | 前回との比較 | 【2021年4月判断】 | |
北海道 | 新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあり、足もとでは持ち直しのペースが鈍化している | ↘ | 新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあり、横ばい圏内の動きとなっている |
東北 | 厳しい状態にあるが、持ち直しの動きがみられている | ↘ | 基調としては持ち直しているが、足もとはサービス消費を中心に新型コロナウイルス感染症再拡大の影響が強まっているとみられる |
北陸 | 厳しい状態にあるが、持ち直しつつある | → | 厳しい状態にあるが、持ち直しつつある |
関東甲信越 | 引き続き厳しい状態にあるが、持ち直している。ただし、足もとではサービス消費を中心に感染症の再拡大の影響がみられている | → | サービス消費を中心に引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している |
東海 | 厳しい状態が続く中でも、持ち直している | → | 厳しい状態が続く中でも、持ち直している |
近畿 | 新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状態にあるが、全体として持ち直しの動きが続いている | → | 新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状態にあるが、全体として持ち直している。もっとも、まん延防止等重点措置が実施されるもとで、サービス消費への下押し圧力は強い状態にある |
中国 | 新型コロナウイルス感染症の影響から、依然として厳しい状態にあるが、持ち直しの動きが続いている | → | 新型コロナウイルス感染症の影響から、依然として厳しい状態にあるが、持ち直しの動きが続いている |
四国 | 新型コロナウイルス感染症の影響から一部に足踏み感もあるが、全体としては持ち直しの動きがみられている | → | 新型コロナウイルス感染症の影響から一部に弱い動きもみられるが、全体としては持ち直しの動きが続いている |
九州・沖縄 | 厳しい状態にあるものの、持ち直しつつある | → | 厳しい状態にあるものの、輸出・生産を中心に持ち直しつつある |
2021年4月15日 (木)
海外紙の論調を見つつ東京オリンピック中止の決断について考える!!!
やや旧聞に属する話題も含めて、海外紙でいくつか開幕100日前のタイミングで東京オリンピックに関するコラムが取り上げられています。まず、もっとも注目すべき論調のひとつとして、今週月曜日の4月12日に New York Times 紙にて "It's Time to Rethink the Olympics" と題するコラムが掲載されています。タイトルは幅広くオリンピックについて考え直すことを提唱していて、例えば、北京冬季オリンピックのボイコット問題なども取り上げています。しかし、日本では、もちろん、今夏の東京オリンピックに対してとても否定的な見解が示されたと受け止められています。例えば、共同通信は「東京五輪は『最悪のタイミング』 一大感染イベントと米紙」と題して発信されています。まず、New York Times 紙のサイトから記事のうちの東京オリンピックに関する4パラだけを引用すると以下の通りです。
It's Time to Rethink the Olympics
In July, yet another wildly overbudget Summer Games, originally slated for 2020 but postponed because of the pandemic, will begin in Tokyo.
The timing remains awful.
Japan has worked hard to tamp down the coronavirus, but now cases are creeping up, and the nation's vaccination rate is lagging. Organizers just rerouted the torch relay planned this week to reach the streets of Osaka, where one health official said the spread of new variants had pushed the medical system to "the verge of collapse."
Into this troubled environment, 11,000 athletes from all corners of the globe will descend, along with coaches, officials, Olympic support staff, media workers and more. The Tokyo Games could end up being a three-week superspreader event that leads to death and illness across Japan and far beyond.
引用したうちの大きなサイズの青いフォントの部分が共同通信のタイトルになっている「最悪のタイミング」とか、「一大感染イベント」に相当するんではないかと思います。ほかに、英国紙も否定的な論調を示しており、取りあえず、タイトルだけ示すと以下の通りです。
- The Times: 100 days until Tokyo and only certainty is the uncertainty...
- The Guardian: The Guardian view on the Tokyo Olympics: must the show go on?
ということで、後者の The Guardian では明確に "With coronavirus surging in Japan and internationally, this summer's Games are a risky prospect" と指摘していますし、前者のThe Times では "The question of whether the Games will happen appears resolved for now, though whether they should is a debate still causing vexation among the Japanese public, with more than 70 per cent in the latest poll against staging the Games this summer." として、我が国の国内世論も否定的であると論じています。
その国内世論について、私が直近で見た新聞社の世論調査でも、先週末の調査結果が朝日新聞のサイトにあり、東京オリンピックは中止35%、延期34%で、今夏開催は28%にとどまっていて、国内の支持もほとんどないといえます。同じ朝日新聞のサイトからそのグラフを引用すると上の通りです。観客についても通常通りとする意見はごく少数です。このブログでも3月22日付けで新聞通信調査会から「対日メディア世論調査」の結果を取り上げていて、諸外国でも調査対象となったすべての国で中止+延期が70%を超えていると紹介しましたが、日本でもまったく同じです。
私も、東京オリンピック・パラリンピックは中止すべきであると考えています。ただ、3月22日の記事でも指摘したように、いわゆる「兵力の逐次投入」の逆で、「五月雨式撤退」になりそうな予感もします。すなわち、まず、すでに決まった海外からの観戦客の受入れをヤメにして、次に、国内の観戦客もヤメにして無観客とし、いくつかの国からの選手団の派遣がポロポロと櫛の歯が抜けるようにヤメになり、最後に開催そのものがヤメになる、というところなんでしょうが、最後の決断を現政権は出来ない可能性も併せて指摘しておきたいと思います。ですから、おそらく、米国あたりからの強力な外圧をもってオリンピック中止の判断が下るのではないか、と私は予想しています。恐ろしいことに、現在の菅内閣はそこまで無能な気がしてなりません。
2021年4月14日 (水)
森下投手をノックアウトして広島に大勝!!!
一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | R | H | E | ||
広 島 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 1 | |
阪 神 | 0 | 1 | 0 | 2 | 2 | 0 | 1 | 0 | x | 6 | 7 | 1 |
投手戦が予想されながらも、始まってみれば序盤から猛虎打線が火を吹いて、森下投手をノックアウトして広島に大勝でした。
阪神先発の西投手はすばらしいピッチングで8回までをゼロに抑えました。最終回も小林投手が危なげなく締めくくりました。打線は序盤の2回にルーキー中野内野手のタイムリーで先制した後、4回はこれもスーキーの佐藤選手が、また、5回はマルテ選手が、それぞれおツーランを森下投手にお見舞いして勝負を決しました。ラッキーセブンにはまたも佐藤選手がダメ押しタイムリーを放って、私はお気楽な思いでお風呂に向かいました。やっぱり、ホームランは効果的ですね!!!
明日は2タテ目指して、
がんばれタイガース!
基調判断が下方修正された機械受注の先行きをどう見るか?
本日、内閣府から2月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲8.5%減の7698億円と、2か月連続で前月比マイナスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
2月の機械受注、前月比8.5%減 市場予想は2.8%増
内閣府が14日発表した2月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比8.5%減の7698億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は2.8%増だった。
うち製造業は5.5%減、非製造業は10.9%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は7.1%減だった。
内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に変更した。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、貿易統計のグラフと同じで、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+2.3%増、予想レンジの下限でも▲1.9%減でしたので、実績の▲8.5%減という結果は、この振れの大きい統計から考えても、かなりのサプライズと受け止められています。ですので、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府でも基調判断を「持ち直している」から、「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に半ノッチ下方修正しています。ただし、上のグラフを見ても分かる通り、6か月後方移動平均の太線ではまだ下方に屈折したというわけではありません。その意味で、基調判断も半ノッチの下方修正にとどめているのであろうと、私は想像しています。
コア機械受注は1~2月と前月比マイナスが続き、しかも、製造業、コア非製造業ともマイナスです。当然ながら、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を受けているわけで、製造業よりも船舶と電力を除く非製造業のマイナス幅の方が大きくなっています。ただ、世界的な半導体の供給不足で自動車メーカーには生産調整の計画もあり、今後の動向は不透明です。なお、先行きの設備投資を占う上ではコア機械受注が指標となりますが、他方で、外需がその先行指標となっているのも事実です。その外需は、上のグラフに見られるように、2月に大きくジャンプしています。前月比+76.2%増の1兆8061億円に上りました。コア機械受注の2倍を超えるわけです。このため、コアだけではない機械受注総額は前月比+26.4%増の3兆312億円に達しています。バイデン政権の積極的な財政政策に支えられた米国などの景気回復はかなり本格的ですし、またまた、機械受注も外需主導の増加を示しているといえます。
ワクチン接種政策はひどいもので、財政政策もダメ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大を一方的に国民の気の緩みに押し付けている政府や地方公共団体のどうしようもない失策のために、経済も足踏みするしかないのかもしれません。
2021年4月13日 (火)
前年割れが予想される夏季ボーナスはどれくらい消費に影響するか?
先週から今週にかけて、例年のシンクタンク3社から2021年夏季ボーナスの予想が出そろいました。どうも、みずほ総研とみずほ情報総研が合併して、みずほリサーチ&テクノロジーズになって、ボーナス予想から撤退したようです。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。可能な範囲で、消費との関係を中心に取り上げています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員の組合員ベースの予想、と聞き及んでおります。
機関名 | 民間企業 (伸び率) | 国家公務員 (伸び率) | ヘッドライン |
日本総研 | 37.1万円 (▲3.2%) | 66.5万円 (▲2.2%) | 新型コロナの賞与への影響は、既に顕在化。昨年の賞与は、大企業において一人当たり賞与額の削減、小企業において支給の見送り(支給対象人数の削減)を主因に減少。業種別では、飲食サービス、生活関連サービス、運輸・郵便(旅客輸送)が大幅な落ち込みに。 こうした傾向は今夏も続き、賞与支給総額は、同▲4.1%の減少となる見込み。一人当たり支給額に加え、支給対象者数の減少も続く見込み。新型コロナの感染拡大前に2020年度の支給額が決まっていた大企業では、今夏から新型コロナの影響が本格化。 |
第一生命経済研 | (▲3.6%) | n.a. | 20年については、雇用者報酬が悪化するなかでも、特別定額給付金の支給によって所得が増加した世帯が多く、雇用や賃金の減少が消費の制約にはなっていなかった。だが、給付金の支給がない21年については、賃金の減少が可処分所得の悪化に直結する。今後はこうした所得の悪化が景気回復の頭を押さえる材料としてクローズアップされてくるだろう。新型コロナウイルスの感染者数が再び増加に転じていることもあり、個人消費の先行きについては慎重に見ておく必要がある。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | 37.5万円 (▲2.3%) | 66.1万円 (▲2.8%) | 一人当たり支給額の減少の大きさに加え、支給事業所割合も大幅に低下したことから、冬のボーナスの支給総額1(一人当たり支給額×支給労働者数)は16.1兆円(前年比-5.5%)と、東日本大震災の影響が残る2012年以来8年ぶりに前年を下回った。もっとも、特別定額給付金支給や株高の影響もあって家計金融資産は20年末時点で過去最高を記録しており、予算制約が個人消費の回復を制限する懸念は小さいだろう。 |
いずれにせよ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの中で、ワクチン接種が遅れて第4波の感染拡大が始まっているわけですから、夏季ボーナスが増加するとはとても思えません。毎月の定額のお給料もそうですが、ボーナスは特に強く景気に相関するからです。しかも、1人当りの支給額が減少するのに加えて、支給対象労働者数も減少しますから、その積で求められる支給総額はダブルパンチで減少を示すこととなります。支給総額について、日本総研では前年比▲4.1%減、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは▲4.8%減、第一生命経済研ではビミョーに表現が異なっていて「ボーナスの支給がない労働者も含めた平均」として▲5.0%減を見込んでいます。マクロの消費の要因となるのはコチラの支給総額であり、こういった支給総額の減少が消費に及ぼす影響についてはシンクタンクの間でも見方が分かれています。すなわち、日本総研では特に言及ありませんが、第一生命経済研では「個人消費の先行きについては慎重に見ておく必要」としている一方で、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは「特別定額給付金支給や株高の影響もあって家計金融資産は20年末時点で過去最高を記録しており、予算制約が個人消費の回復を制限する懸念は小さい」と指摘しています。支給総額の減少幅については両機関でそれほど大きな違いは見られませんので、純粋に分析の結果に依存する、ということになります。私自身の感触としては、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの分析結果のように金融資産の取崩しによる流動性制約の解決というよりは、従来から、我が国家計の消費は恒常所得仮説がある程度成り立っており、その意味で、ボーナスという臨時収入よりも所定内賃金とかの恒常的な所得により強く反応し、この程度のボーナスの落ち込みに対する消費のダメージは決して大きくない、と見込んでいます。ただ、こういったボーナス減も繰り返して長期化すればダメージは決して無視できず、我が国家計に対する再度の特定給付金支給、あるいは、時限的であっても消費税率の引下げないし廃止などの実質所得をサポートする政策が必要と考えています。
下は夏季賞与の支給総額のグラフを日本総研のリポートから引用しています。
誠についでながら、NHKのサイトにある世界のワクチン接種回数 (100人あたり)のグラフを引用すると以下の通りです。このブログの3月23日付けで取り上げたのと同じ Our World in Data の Coronavirus (COVID-19) Vaccinations のサイトのデータを参照しているようです。第一生命経済研のリポート「ワクチン接種率で決まる世界経済」では、我が国のワクチン接種率は英米の1/40にしか過ぎず、「ワクチン接種率が圧倒的に遅いとなると、日本経済の回復が諸外国に比べて大幅的に遅れることが必然」であると、タイトル通りの主張がなされています。従って、ワクチン接種後は国や地域によりK字型の回復になると指摘しています。英米はK字型の上の方、日本は下の方、なんでしょうね。ボーナスは減るし、景気回復は大きく遅れそうだし、原発処理水は海洋放出するし、で、結局、総選挙の結果で国民の意志を示すしかないのでしょうか?
2021年4月12日 (月)
+1.0%の上昇を示した3月の企業物価(PPI)をどう見るか?
本日、日銀から3月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+1.0%を示しています。まず、REUTERSのサイトから記事を引用すると以下の通りです。朝刊休刊日のためか、日経新聞のサイトに記事が見当たりません。
企業物価、3月は前年比+1.0% 13カ月ぶり上昇
日銀が12日に発表した3月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数(2015年=100.0)は前年比プラス1.0%となり、13カ月ぶりに上昇した。ロイターがまとめた市場予想(プラス0.5%)も上回った。前年比プラスとなったものの、コロナ前の水準を回復したと判断するのは早計だという。
前年比の上昇幅は2020年1月以来の大きさ。電力・都市ガス・水道、プラスチック製品などがマイナス方向に寄与したものの、非鉄金属、石油・石炭製品、スクラップ類などがプラスに寄与し、指数全体を押し上げた。国内の需要動向を比較的反映しやすい鉄鋼や木材・木製品も緩やかながら回復している。
744品目中、前年比で上昇したのは307品目、下落したのは333品目。下落が上昇を26品目上回った。下落品目数が上昇品目数を上回っている状況を踏まえると、「完全にコロナ前の水準に戻ったというのはまだ早い」(日銀の担当者)という。
前月比ではプラス0.8%と4カ月連続のプラス。石油・石炭製品、非鉄金属、化学製品などが押し上げに寄与した。最もプラスに寄与した石油・石炭製品は、2月中旬から3月にかけての原油市況がサウジアラビアの自主的な追加減産の継続や米国経済の回復などを背景に上昇したことを受けて値上がりした。
日銀の担当者は「価格上昇の裾野が広がっている様子がみられたが、主な押し上げ寄与は原油や非鉄金属などの国際市況上昇からきている。国内の需要がものすごく強まっているというより、米中経済の回復にけん引されている側面が強い」とコメントした。
続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

先月統計の公表時にも、このブログで「順調に足元で物価が下げ止まりつつあります」と評価していますが、まさに、その通りの展開と受け止めています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、引用した記事にあるロイターがまとめた市場予想も、ともにPPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で+0.5%の上昇でしたから、やや上振れたといえます。私はかなりの程度に順調に物価上昇率が拡大していると受け止めていますので、引用した記事のように、上昇と下落の品目数で物価の基調を見るのもどうかと思います。品目別で前年同月比を詳しく見ると、非鉄金属が+28.7%、石油・石炭製品が+9.8%、鉄鋼が+2.2%などとなっています。季節調整していない原系列の統計ながら、前月比も+0.8%の上昇を示しており、品目別でも、石油・石炭製品、非鉄金属、化学製品の寄与が大きく、国際商品市況における石油ほかの1次産品価格の上昇とともに、中国をはじめとする新興国における景気回復が背景にあるものと考えるべきです。その意味で、これも引用した記事にあるように、米中経済の回復にけん引された物価上昇である可能性が高いと考えられます。内需主導ではなく、物価まで外需主導になっているわけです。まあ、それはそれで、デフレから本格的に脱却できればいいような気がしないでもありません。
2021年4月11日 (日)
ミャンマー民主化闘争連帯の集会+デモに参加する!!!
今日の夕刻、ミャンマー民主化闘争連帯の集会+デモに参加しました。午後4時から京都市役所前で集合し集会に出て、その後、仏光寺公園までデモをしました。集会では、我が同僚教員が最初にスピーチだったようです。というのは、私は少し遅刻して行って聞き逃しました。コロナ禍の下のデモですので、静かな行進かと想像していたのですが、ややしょぼいシュプレヒコールがあったりしました。
昨日の読書感想文でも、関係ないところで意見表明しましたが、私は良識あるエコノミストとして、多数の苦しんでいる人々の方に味方したいと直感的に考えています。すなわち、重火器を含めて武装し訓練され、かつ、お給料も払われている軍隊よりも、丸腰で報酬をもらわずに民主化を訴えるデモに参加する多数の国民のサイドを私は熱烈に支持します。
2021年4月10日 (土)
引き締まった投手戦を青柳投手とリリーフ陣が守り切って横浜に連勝!!!
一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | R | H | E | ||
阪 神 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 4 | 8 | 0 | |
横 浜 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 |
引き締まった投手戦を制して横浜に連勝でした。阪神先発の青柳投手はすばらしいピッチングでしたし、横浜先発の上茶谷投手も好投でした。
4回の大山選手の先制タイムリーは、それほどいい当たりではなかったものの、9回サンズ選手のツーランは目のさめるような豪快な一打でした。昨夜の佐藤選手の場外弾に匹敵すると思います。青柳投手が7回までゼロを並べ、8回は岩崎投手がピシャリと抑え、点差が開いた9回はスアレス投手が締めました。初スタメン・初打点・初盗塁の中野内野手のプレーも光っていました。横浜に完勝して今シーズン10勝一番乗りでした。
明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!
今週の読書は経済書2冊と新書2冊の計4冊!!!
今週の読書は、ネット経済の中で巨大な独占企業を形成しているGAFA、特に、インターネット広告の過半を両社で独占しているGoogleとFacebookなどの経済活動について批判した経済書と、まったく逆に、大企業の経済活動を徹頭徹尾擁護したリバタリアンで脳天気な経済書、ほかに、新書を2冊の計4冊です。ほかに、新刊書ではないのでここでは取り上げませんが、柳美里『JR上野公園口』(河出文庫)を読みました。ご案内の通り。英訳版 Tokyo Ueno Station が、TIME 誌の2020年の必読書100選に選ばれ、米国の文学賞である全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞しています。なお、今年に入ってからの読書は、新刊書読書としてブログにポストした分で1~3月に56冊、4月には今日の分までで8冊、計64冊となっています。新刊書読書以外の分は除外しています。
まず、マシュー・ハインドマン『デジタルエコノミーの罠』(NTT出版) です。著者は、訳者解説によれば、米国ジョージ・ワシントン大学の研究者であり、インターネットの政治学を専門としています。英語の原題は The Internet Trap であり、2018年の出版です。著者は、冒頭で本書は関心経済=アテンション・エコノミーの本であると宣言し、次のコーエン教授の大企業擁護本と違って、インターネットやデジタルの世界では規模の経済が大きいために独占や企業から顧客への支配が生まれやすいと結論しています。ですから、インターネット上の広告収入はGoogleとFacebookでほぼ⅓を占めています。加えて、スイッチする切り替えコストが大きいためにロックインが生じ、その分、非効率となってしまう可能性が高くなります。逆から見れば、インターネット普及の初期に期待されたように、参入障壁が低いことから大手メディアの独占を崩して、ブログやSNSの個人でも参入できる零細なメディアが多数生まれて、発信者がすべて平等という意味で、経済学でいえばスミスの完全競争市場のようなメディアの選択肢の拡大が生まれる、との希望的観測は幻想に過ぎなかった、ということになります。現実に、GAFAが超巨大企業となり、本書では取り上げられていませんが、こういったシリコンバレーなどのIT企業が米国を始めとする政府や議会に大規模なロビー活動を行っていることも事実です。ある意味で、政府や議会の決定に影響を及ぼしているわけです。メディアの世界では、関心=アテンションはごく少数のサイトに集中してしまい、個人サイトどころか地方メディアのサイトすら関心を引きつけられないという現実が明らかにされています。最終第8章では、最後にある第8章に、次のような一節がある。「つまり、「インターネット」について述べるときの問題は、インターネットが1つではなく、2つあるということだ。最初のものは、実際に存在して私たちのほとんどが日々、いや途切れなく使い続けているものだ。第2のものは、ここでは空想のインターネットと呼ぼう - 理想化され、フィクション化され、現実的なものとして扱われるインターネットで、通信と経済生活を民主化していると「だれもが知っている」存在だ。」(p.252)として、民主的で発信者が平等なインターネットの世界というのは、結局のところ、幻想に過ぎなかったと結論しています。そして、これを商用に大規模に利用して巨大な利益を上げているのがGoogleとFacebookであり、政治的なプロパガンダに利用したのがケンブリッジ・アナリティカとトランプ全米国大統領、といえるのではないかと私は考えています。経済や市場が歪められるのと同じように、政治や民主主義が歪められる可能性を十分に警戒すべきである、という警告を発する書といえます。
次に、タイラー・コーエン『BIG BUSINESS』(NTT出版) です。著者は、米国ジョージ・メイソン大学の経済学研究者です。英語の原題は邦訳タイトルそのままであり、2019年の出版です。ということで、前書の冒頭にも書いたように、本書はインターネット企業を含めて、世間で悪者視されている大企業を擁護する目的を持っています。ビジネスの生産性が高くて、大量の従業員を高給で雇用し、場合によっては、日本でもそうですが、健康保険などの政府が担うべきインフラも肩代わりする存在として大企業を描き出そうと試みています。加えて、大企業CEOの報酬が高いのは、そういったマネジメント能力を持つ人材が希少なためであり、決して問題とはならない、とか、シリコンバレーの巨大IT企業、GAFAなどの独占力は潜在的な参入企業の存在があってコンテスタブルであり、問題となならず、積極的なイノベーションにも取り組んでいる、とか、金融産業は重要な貢献をしているとか、大企業が政治や行政に対する影響力を強めているわけではないとか、かなり眉唾な論点をことごとく企業サイドの見方で反論しています。ただ、おそらく、本書の中に、本書を再反論する根拠が示されています。すなわち、企業と個人のどちらが悪質かという議論の中で、具体的にはp.35に履歴書の少なくとも40%には露骨な嘘が含まれており、76%は事実を飾り立てていて、59%は重要な情報をあえて書かない、と指摘しています。本書は、この中の多数派に入っていそうな直感的な感触を持つ読者は、私以外にも少なくなさそうな気がします。私は良識あるエコノミストとして、多数の苦しんでいる人々の方に味方したいと直感的に考えています。すなわち、ミャンマーのクー・デタについては、詳細な事実を私は把握していませんが、重火器を含めて武装し訓練され、かつ、お給料も払われている軍隊よりも、丸腰で報酬をもらわずに民主化を訴えるデモに参加する多数の国民のサイドを支持したいと思います。加えて、そう考える人が日本人の中で少なくないことを願っています。本書の大企業批判に戻ると、おそらく、専門外なので、あくまでおそらく、なんですが、大企業に対する厳しい見方は、商業的・金銭的に成功する前後の芸術家などに典型的に見られる心情が参考になるのではないか、という気もします。例えば、セザンヌやゴッホは生ある間はまったく評価されなかったわけですが、死後に高い評価を受けています。音楽家ではそういう例は決して多くないのですが、ままあったりします。極めて少数のファンにしか理解できない例えながら、赤い鳥で「竹田の子守唄」を歌っていた時の山本潤子(旧姓新居潤子)と、その後、ハイ・ファイ・セットでヒットを飛ばして紅白歌合戦にも出た山本潤子の芸術性は、私はまったく変わりないと思うのですが、前者の方を尊ぶ感性は理解できなくもありません。といったことではないでしょうか。
次に、中山智香子『経済学の堕落を撃つ』(講談社現代新書) です。なかなかすごいタイトルです。著者は、東京外国語大学の研究者であり、社会思想史が専門です。専門的にいうと、経済学の歴史を自由と公正の観点からひもといて、最後は、ポランニーからウォーラーステインの世界システム分析にたどり着き、p.192で示されているような3段階論、すなわち、物質文明・日常世界を土台とし、その上に市場経済が成立し、最上層に資本主義が君臨するわけです。ですから、利益を上げる資本主義の世界よりも、日常的に「食べること」を重視する経済学を取り戻そう、というのが本書の趣旨ではないかと想像していますが、私自身の読解力が貧困なために、それほどの自信がありません。逆にいって、かなりアチコチにお話が飛んでいて、そうそうスンナリと読める読者は少なそうな気がします。タイトルもややエゲツない気がします。ただ、私は貿易なんかで「自由貿易」と「公正な貿易」について、誰かの書評で書いたことがあり、少なくとも無条件な自由貿易を支持するリスクがあり、むしろ、公正な貿易のほうが好ましい、と結論したこともあったような気がします。ただ、本書では著者がことさらに世界システム分析の中心と周辺の概念をかなり広範に応用して、資本主義と社会主義・共産主義、帝国と植民地、などなど、対立的な構図に説得力を持たせようとしていますが、私は逆に、書評を書いた時に、公正な自由貿易というものは私も無条件に支持する、と明記して、少なくとも貿易活動においては自由と公正が対立するものではなく、自由かつ公正な貿易というものがあり得る、と示唆しています。しっかりとバックグラウンドで研究を進めてきたというのは引用の豊富さから理解できますし、それなりに共感できる内容ではありますが、もう少しSDGsをはじめとして地球環境問題とか、あるいは、もっと不平等を掘り下げるとか、正義や公正以外の何らかの計測可能な観点が欲しかった気がします。単に、概念的な正義や公正だけであれば、従来から独裁者の得意とするところですし、現在でもミャンマーの軍部は正義を強く主張していそうな気がします。話の最初から正義という観念論で始めているのが敗因だったかもしれません。そういった商業的・金銭的な成功に対する心理的な反感から大企業批判が形成される可能性があるのではないか、という気がするわけです。判りにくい例えで失礼します。
最後に、八木正自『古典籍の世界を旅する』(平凡社新書) です。著者は、古書店主であり、今もやっているのかどうか、TV番組の鑑定団で鑑定をしていたことがある、あるいは、今もしているようです。本書は古典籍を扱う古書店主の回想録であり、ですから、書画・骨董のうちの前者の書画の文化財的な価値について幅広く論じています。冒頭に、古本と古書と古典籍の違いが説明されてあり、古本はセカンドハンド、古書はオールド、古典籍はレアなのだそうです。私は長崎大学経済学部の図書館の武藤文庫に所蔵されているアダム・スミスの『国富論』の初版本をガラス越しに見学したことがあります。日本語ではいわゆる稀覯本なのですが、これあたりが古典籍に当たるんではないか、と考えつつ本書を読み進みました。ただ、冒頭にもあるように、日本では古典籍といえば明治期よりも前の本であり、手で書き写されたものも少なくありません。当然ながら、『源氏物語』の初版本は当時にはあったのかもしれませんが、今では利用可能ではありませんし、おそらく、多くは書き写されたものであろうと考えるべきです。その場合、コピーを取っているわけではありませんから、書き写す人の趣味によって修正が施される場合があるらしいです。たとえば、私の知る限りは、西洋世界では、それこそ、アレクサンドリアの図書館とか、中世の修道院とかでシステマティックに写本をしていた時代があり、日本でもお経はお寺でシステマティックに写経されているものが少なくありません。本書ではそういった文字の本だけでなく、書画ですから、壺や皿や焼き物は別にしても、絵画のたぐいはいくつか触れられています。もちろん、本ではなく、手紙といった媒体もありなんだろうと思います。本書では、著者が内外のオークションや定期市などで発見した古典籍、時代でいえば、奈良時代から明治時代にかけての写本や木版画、かわら版、直筆手紙といった、骨董的な価値の高い古典籍について紹介しています。ただ、それだけでは紙幅が保たなかったのだろうと想像しますが、著者の人生を振り返って影響を受けた古書店主やコレクターについても幅広く個人名を出して紹介されています。骨董品ですから、その内容が何か歴史の修正を迫るような学問的な価値があるかどうかは問題にされておらず、むしろ、美術品的な価値を主とした解説です。私は途中までしか読んでいませんが、ラノベやコミックの「京都寺町三条のホームズ」シリーズ、あるいは、そういった本やマンガが好きであれば、バックグラウンドの知識として読んでおく値打ちがあります。
2021年4月 9日 (金)
東洋経済オンライン「2.5万人の就活生が選ぶ『就職人気ランキング』」の結果やいかに?
すでに、大学では就活が始まっています。学部4回生や大学院修士課程の2回生などについては、授業の進捗などについて私も配慮するようにしています。その中で、4月4日に東洋経済オンラインにて「2.5万人の就活生が選ぶ『就職人気ランキング』」の結果が明らかにされています。私は昨年4月に今の大学に赴任したばかりで、まだ来年卒業の4回生のゼミは持っていませんが、下の倅もこの4月から最終学年に入って就活に励んでいるようですし、もちろん、大いに気にかかるところです。下のテーブルは、東洋経済オンラインのサイトから引用しています。男女ともに伊藤忠商事がトップだったりします。
2021年4月 8日 (木)
景気ウオッチャーと消費者態度指数に見るマインドは改善続く!!!
本日、内閣府から3月の景気ウォッチャーと消費者態度指数が、また、財務省から2月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+7.7ポイント上昇の49.0を示した一方で、先行き判断DIは▲1.5ポイント低下して49.8を記録しています。消費者態度指数は前月から+2.2ポイント上昇し36.1となっています。経常収支は、季節調整していない原系列で+2兆9169億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを手短に報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
街角景気、現状判断指数は2カ月連続改善
内閣府が8日発表した3月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は49.0で、前の月に比べて7.7ポイント上昇(改善)した。改善は2カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は49.8で、1.5ポイント低下した。低下は4カ月ぶり。家計動向、企業動向が悪化した。
内閣府は基調判断を「新型コロナの影響による厳しさは残るものの、持ち直している」に変更した。
3月の消費者態度指数、前月比2.2ポイント上昇の36.1
内閣府が8日発表した3月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比2.2ポイント上昇の36.1だった。内閣府は消費者心理の判断を「依然として厳しいものの、持ち直しの動きが続いている」で据え置いた。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について、今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と回答すればゼロになる。
2月の経常収支、2兆9169億円の黒字 80カ月連続黒字
財務省が8日発表した2月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は2兆9169億円の黒字だった。黒字は80カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆9803億円の黒字だった。
貿易収支は5242億円の黒字、第1次所得収支は2兆6311億円の黒字だった。
3つの統計を取り上げましたので、やや長くなりましたが、いつもの通り、よく取りまとめられた記事だという気がします。次いで、景気ウォッチャーと消費者態度指数のグラフは下の通りです。上のパネルは景気ウォッチャーの現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、下の消費者態度指数のグラフでは、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。どちらのグラフも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

景気ウォッチャーについては、ままあることながら、現状判断DIが上昇した一方で、先行き判断DIは低下しています。現状判断DIでは、コンポーネントの家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてのDIが上昇しています。特に、飲食関連は+12.2ポイントと2ケタの上昇を示しています。ただし、先行き判断DIでは、家計動向関連と企業動向関連は低下し、雇用関連だけが上昇を示しています。先行き判断DIが低下しているのは、足元で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染者が増加していることがマインドに反映しているのであろうと私は考えています。消費者態度指数はすべてのコンポーネントが前月から上昇していて、詳しく見ると、「雇用環境」が+3.3ポイント、「耐久消費財の買い時判断」が+2.0ポイント、「暮らし向き」が+1.8ポイント、「収入の増え方」が+1.6ポイント、それぞ上昇しています。景気ウォッチャーでもマイナスを示した先行き判断DIにおいて、雇用関連だけがプラスでしたし、消費者態度指数のコンポーネントも「雇用環境」がひときわ大きなプラスを示しています。おそらく、人口動態の影響からしても、人手不足が雇用に楽観的な見方をもたらしているのではないかと考えられます。いずれにせよ、マインド調査の結果は極めて整合的と私は受け止めています。景気ウォッチャーの基調判断は、この統計の特徴で、ゴチャゴチャといろんな限定を付しつつ「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」に半ノッチ上方修正されています。

次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は経常収支でも最悪期を脱した可能性があります。季節調整済みの系列で見る限り、貿易収支は7月統計から黒字に転じ、本日公表の2月統計で小幅に赤字に転じていますが、これは中華圏の春節による影響ではないかと考えられます。COVID-19のために、インバウンド消費はもうどうしようもありませんが、それ以外の財貨とサービスの輸出入は米国などでワクチン接種が進んで、かなりカッコつきながら「正常化」しているように私は感じています。米国のワクチン普及と大型の財政支出を見るにつけ、我が国の政策の不毛を感じます。政府はやるべきことをやってほしいと思います。
2021年4月 7日 (水)
緊急事態宣言の影響で悪化した2月の景気動向指数をどう見るか?
本日、内閣府から2月の景気動向指数公表されています。CI先行指数が前月から+1.2ポイント上昇して99.7を示した一方で、CI一致指数は前月から▲1.3ポイント上昇して89.0を記録しています。統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
2月の景気一致指数、1.3ポイント低下
内閣府が7日発表した2月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.3ポイント低下の89.0となった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.2ポイント上昇の99.7だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「上方への局面変化」で据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。
短いながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。意図的に短めの記事を選びはしたものの、統計を3種類並べると長くなるのは仕方ありません。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。

まず、CI先行指数については、消費者態度指数と日経商品指数(42種総合)が大きなプラス寄与を示しています。消費者態度指数は明らかにマインド指標ですし、日経商品指数もそういえなくもありません。ということで、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン普及への期待もあって、先行きはかなり見通しが明るくなった気がします。本日公表の日銀「生活意識に関するアンケート調査」(第85回)でも同様のマインドがうかがわれ、足元の改善はそれほどでもないんですが、1年後の先行きはレベルとしてはまだマイナスというものの、かなり改善が進むというマインドが示されています。他方で、CI一致指数のマイナス寄与は、耐久消費財出荷指数、輸出数量指数、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数などで大きくなっています。2月時点での足元は、緊急事態宣言が首都圏で解除されていなかったこともあって、家計も企業も経済活動はまだ回復が進んでいませんでした。しかし、基調判断の基準となる7か月後方移動平均や3か月後方移動平均はまだ余裕でプラスなので、引用した記事にもある通り、「上方への局面変化」の判断は維持されています。
2021年4月 6日 (火)
国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」見通し編を読む!!!
この週末に予定されている春の世銀・IMF総会に向けて「世界経済見通し」見通し編 World Economic Outlook が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。ヘッドラインとなる世界の経済成長見通しは今年2021年+6.0%、来年2022年+4.4%と見込まれています。今年2021年1月時点での見通しから、2021年は+0.5%ポイント、2022年も+0.2%ポイント、それぞれ上方改定されています。まず、成長率の総括見通しのテーブルをIMFのサイトから引用すると以下の通りです。ただ、これではあまりに愛想がないので、下の画像をクリックすると、リポート pp.8-9 Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections だけを抜き出したpdfファイルが別タブで開きます。
昨日のうちに分析編を概観しておきましたので、本編たる見通し編についても簡単に取り上げておきたいと思います。

まず、大学教員として気にかかる教育面での新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響ですが、上のグラフはリポートから p.5 Figure 1.9. Global Education Losses Due to the COVID-19 Pandemic を引用しています。昨年2020年における平均的な教育の損失日数をプロットしてあります。軽く想像される結果ですが、先進国では教育損失はそれほど大きくありませんが、低所得国ほど損失が大きくなっています。この教育の損失は世界的な国間レベルでの格差拡大のひとつの要因と考えるべきです。

次に、上のグラフはリポートから p.7 Figure 1.13. Effect of Lockdowns on Activity: Beginning versus End, 2020 を引用しています。2020年4月までの第1波の感染拡大と10~12月の第3波の感染拡大におけるロックダウン強度を横軸の stringency index で計測し、縦軸は composite PMI なんですが、大雑把に経済活動のレベルと考えていいでしょう。2020年年初の状況を示す赤いドットにおいては、我が日本はロックダウンの強度はそれほどでもなかったのですが、10~12月期はかなり平均的なロックダウン強度と経済活動の落ち込みを記録しているように見えます。
いずれにせよ、IMFのリポートをザッと読んだ限りでは、経済回復のカギはワクチン接種にあります。ですから、政治的な利権が絡んだGoToキャンペーンに執心するより、ワクチンをしかるべく確保し効率的に接種するような手立てが、実は、経済回復にはもっとも重要な政策手段なのだろうと私は考えています。その点で、日本政府は絶望的に遅れているとしか思えません。
2021年4月 5日 (月)
国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編を読む!!!
春の世銀・IMF総会に向けて「世界経済見通し」分析編 Analytical Chapters of the World Economic Outlook が公表されています。今回の「世界経済見通し」分析編は豪華3本立て、以下の通りです。
- Ch 2
- After-Effects of the COVID-19 Pandemic: Prospects for Medium-Term Economic Damage
- Ch 3
- Recessions and Recoveries in Labor Markets: Patterns, Policies, and Responses to the COVID-19 Shock
- Ch 4
- Shifting Gears: Monetary Policy Spillovers During the Recovery from COVID-19
各チャプターからグラフを引用して簡単に取り上げておきたいと思います。もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響が中心になります。なお、明日は第1章の見通し編が公表される予定です。

まず、第2章はタイトル通り、中期的な新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響を分析しています。上のグラフはリポート p.54 Figure 2.12. Medium-Term Output Losses を引用しています。中期とはどれくらいかというと five-year horizon としています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のGDP損失は先進国よりも新興国・途上国で大きいと見込まれています。どうして先進国でダメージが小さいかというと、政策支援とワクチンの効果、their larger policy support and anticipated faster access to vaccines and therapies と分析しています。ただ、前回のリーマン証券破綻後の世界金融危機よりも今回のCOVID-19の方が経済損失が小さい理由は特に触れられていません。私はCOVID-19の経済的ダメージは短期的には金融危機よりも大きかったと考えているのですが、逆に、中期的に小さい理由は不良債権の発生が少ないからだろうと想像しています。我が国が1990年代初頭のバブル崩壊後に長い経済停滞に陥ったのは、もちろん、日銀の不適切な金融政策対応もありますが、膨大な不良債権が積み上がったことも大きな要因と考えています。その意味で、リーマン証券破綻後の世界金融危機は世界レベルで不良債権が発生しましたが、今回のCOVID-19ショックではそれほどの不良債権の発生を見ていないのは明らかです。

次に、第3章ではCOVID-19の経済的影響のうち労働市場に関する不平等が拡大する方向のインパクトを分析しています。上のグラフはリポート p.64 Figure 3.1. Labor Market Conditions in Advanced Economies を引用しています。実は、この次の Figure 3.2. は新興国・途上国における同じ趣旨のグラフであったりします。大きくは違いませんし、日本は先進国でしょうからコチラのグラフを引用しておきます。ということで、左側のパネルは縦に見て失業率の変化、右側は労働参加率の変化、ということになります。年齢的にはいわゆる壮年よりも若年層が不利な結果を受け、性別には男性、熟練度では低熟練労働者に対して、それぞれ大きなマイナスのショックが及んでいます。年齢階級は24/25歳でカットしていて、熟練度は大卒かそれ未満かで区別しています。ちょっと意外なのは、女性よりも男性の方のショックが大きい点です。ただ、失業率と労働参加率で計測していますので、労働市場から退出した女性がそのまま就労意欲を低下させて非労働力人口化した可能性が十分あると私は考えています。

最後に、第4章ではCOVID-19の経済的ダメージからの回復局面において、ワクチン接種と大規模な財政政策で米国が先行しているわけですが、その米国経済の回復がもたらす金利上昇が新興国や途上国経済に決していい影響を及ぼすものではない、と分析しています。すなわち、2013年のテイパー・タントラムの再来、a repeat of the "taper-tantrum" episode of 2013 を思い起こさせるとしています。特に、途上国ではワクチンへのアクセスに遅れが生じており、加えて、財政支援の余地が限定されているため、途上国では先進国の景気回復に比べて時間がかかる見込みであるからです。上のグラフはリポート p.90 Figure 4.12. Effects of Positive News about US Economic Activity を引用しています。米国マクロ経済の代表的な指標である雇用統計のうちの非農業部門雇用者数の2標準偏差のサプライズに対する反応を中心値と90%信頼区間で表示しています。米国雇用統計の positive news に対して、途上国では金利が上昇し景気回復にマイナスの影響を及ぼしかなねい結果が示されています。
2021年4月 4日 (日)
京都市内にポケふた出現!!!
通称ポケふたとして知られるポケモンをあしらったマンホールがとうとう3月末に京都市内にも登場しました。

上から順に、以下の通りです。
- ホウオウ (京都府京都市右京区嵯峨中ノ島町)
- ピチュー・ピィ・ププリン (京都府京都市東山区円山町)
- チコリータ・ダーテング (京都府京都市右京区西京極新明町)
- ヒノアラシ・ヒヒダルマ (京都府京都市左京区岡崎最勝寺町)
- ワニノコ・マリルリ (京都府京都市下京区観喜寺町)
最初のホウオウは、パッと住所を見るだけでは判りませんが、いわゆる嵐山の渡月橋のすぐ近くで、私が50年ほど前に十三参りに行った法輪寺のそばです。2番めのピチュー・ピィ・ププリンは祇園八坂神社の裏手になり、大谷祖廟の北隣に位置します。3番めのチコリータ・ダーテングは西京極総合運動公園の北側にあります。4番目のヒノアラシ・ヒヒダルマは岡崎公園の北端、というか、平安神宮の南側になります。最後のワニノコ・マリルリは京都駅から伸びる山陰本線に沿って、鉄道博物館と水族館の間に位置しています。当然ながら、マンホールとして機能していますので歩道にあるようです。私もそのうちに自転車で訪れたいと希望しています。
木津川市上狛の松原邸を見学する!!!
いろいろあって、取り上げるのが遅れたのですが、今週、木津川市上狛にある松原邸をカミさんと2人で見学に行きました。国宝や重要文化財などを収録している文化庁の国指定文化財等データベースに従えば、正しくは、旧松原家住宅主屋というのだそうです。1909年の建築ということで、京都南部の豪農の近代和風住宅です。文化財等データベースのサイトにある解説は以下の通りです。
解説
市西部の集落にある農家主屋。南正面の入母屋造桟瓦葺、平屋建で四周に下屋を廻し、下屋上に虫籠窓を穿つ。東に土間、西の前後に各3室を配して中廊下を通し、前列上手に座敷を設ける。伝統形式を踏襲しつつ平面や座敷等の意匠に時代感覚を現す近代和風住宅。
上の写真は、松原邸の門にある文化財のプレートと門を入って玄関にてご当主と私の記念写真です。豪壮な農家の邸宅を拝見し、ご当主の維持管理上のご苦労もしのばれました。また、松原邸近くの泉橋寺の日本一大きな地蔵菩薩の石仏や玉臺寺の満開のサクラなども拝見できました。
昨年2020年1月末に、引越しに際しての住宅の確認や大学研究室の下見などの際に、帰路に名古屋の叔父を訪ねたのですが、その叔父に強く勧められ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染者は増加傾向ながら、公式には緊急事態宣言も解除されましたので、この春休みを活用しました。
2021年4月 3日 (土)
今週の読書は子育てに関する経済書をはじめとして計4冊!!!
今週の読書は、ややタイトルが紛らわしいながら、子育てに関する一般向けの経済書を2冊、売れっ子ミステリ作家による連作短編の小説、さらに、著名社会学者による新書の計4冊です。これらの新刊書読書のほかに、読み逃していた東野圭吾『魔力の胎動』(角川書店)を文庫本の宣伝で見つけて文庫本になる前の単行本で読み、また、須賀しのぶ『革命前夜』(文春文庫)の2冊を読んだんですが、どちらもFacebookに触発されて読んだので、重ねてFacebookでシェアすることはしませんでした。新刊書の読書は、先週土曜日の読書感想文で、1月21冊、2月17冊、3月も17冊、と書いたんですが、月曜日の3月29日に大学の同僚教員からいただいた新書を読んで読書感想文をポストしたので、3月は18冊、1~3月で合計56冊になりました。4月の読書感想文は今のところ本日分だけの4冊です。
まず、マティアス・ドゥプケ+ファブリツィオ・ジリボッティ『子育ての経済学』(慶應義塾大学出版会) と山口慎太郎『子育て支援の経済学』(日本評論社) です。著者は、ドイツ出身の米国大学の研究者、イタリア出身の米国の大学の研究者、そして、東大の研究者です。まず、『子育ての経済学』の方は英語の原題は Love, Money and Parenting であり、2019年の出版です。計量的なエビデンスを用いつつも、著者2人の幅広い経験に基づいて、さまざまな地域的な特徴を備えた子育て論を展開しています。育児スタイルについてバウムリンド教授の研究に基づき、親が子供に押し付けがちな専制型、逆に子供の自主性に任せる迎合型、その中間的なタイプで親が子供を誘導する指導型の3類型を考え、さらに、放任ないし無関与を加えて、親の方からの反応性と子供の選択への関与により4分類しています(p.47)。その上で、ホバリングして子供のすべてに関与しようとするヘリコプター・ペアレント、あるいは、中国的なタイガー・マザーなども分析の対象としています。その昔の子育ては放任型ないし無関与であったところ、何よりも、1960-70年代ころから子育てに注目が集まるようになったもっとも大きな経済的要因として、格差の拡大を上げています。ベッカー教授的な視点から子供の人的資本の蓄積を図っておくと、その後の成人してからの子供の幸福に差が出る、というわけです。もちろん、学校制度についても重要であり、日本やフランスなどのように、いわゆる受験が人生を大きく左右しかねない社会では親の子育ての熱心度が上がるのも当然です。子育て指南書ではありませんが、子育ての大きなマクロの枠組みについて明快な分析結果を提供しています。いずれにせよ、親は経済も含めた時代の流れに合致するように、子供が幸福になるべく最善を尽くす、という思想が底流にあります。そして、格差が大きくて、教育のリターンが大きいと、親の子育てへの関与が大きくなる、という分析結果が示されているわけです。他方、『子育て支援の経済学』についてはもっとマイクロな計量分析が中心になっています。というか、分析の結果については、当然ながら、時代や国や地域により差が大きいことから、分析結果よりも分析手法に重点が置かれているようにすら見受けられます。加えて、子供が出来てからの子育てだけではなく、そもそも夫婦ないしカップルが子供を作ろうとするかどうか、別の表現をすれば、少子化対策まで少しさかのぼった分析から始まっています。そのため、差の差分析、回帰不連続デザイン、操作変数法、媒介分析、RTCなどがしょっちゅうボールドの太字にされていたりして、やや読みにくいと感じる人もいそうな気がします。すなわち、各章は少子化対策とか、育休分析とか、学校教育の分析とかのテーマがあるんですが、分析方法が何度も何度も同じように繰り返されます。私のようなエコノミストですら、専門外であれば分析方法の説明の重複が多くて読みにくい、と感じてしまいます。もちろん、それらの分析の結果として、現金給付よりも保育所整備などの現物給付が有効だったり、女性の時間的な余裕が必要だったり、といった政策的な方向性は決して軽視されているわけではありませんが、なぜか、印象に残らないようになっている気すらします。同じ著者の前著である『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)は、私のこのブログでも一昨年2019年10月12日付けの読書感想文で取り上げていて、ソチラは国民生活の中での一般的な結婚や育児、夫婦関係などを扱っていて、とても好評だったのですが、本書は「経済セミナー」の連載をそのまま単行本にしたこともあって、社会問題としての子育てを分析対象にし、政策効果の計測やその結果の各国比較などが大きなウェイトを占めています。私のようにエコノミストながら子育て方面は専門外で一般ピープルに近い読者からすれば、「二匹目のドジョウ」に失敗した、ように見受けられなくもありません。
次に、中山七里『銀齢探偵社』(文藝春秋) です。著者は、ベストセラー連発のミステリ作家であり、私なんぞが紹介するまでもありません。主人公の2人は、まず、裁判所判事を体感した80歳の高遠寺静とその10歳年下で名古屋の不動産デベロッパーにして商工会議所の会頭を務める経済界の名士の香月玄太郎です。高遠寺静は『静おばあちゃんにおまかせ』に登場しており、香月玄太郎も『さよならドビュッシー』の香月遥の祖父として登場しています。加えて、上の表紙画像の副題の「静おばあちゃんと要介護探偵2」に見られるように、この2人は『静おばあちゃんと要介護探偵』、すなわち、このシリーズの第1巻で共同して事件解決に当たっています。ただし、第1巻では舞台が名古屋だったのに対して、この第2巻では東京になっています。高遠寺静が練馬の病院へ健康診断に行くと、名古屋から香月玄太郎がんの手術でやって来た、という安直な設定です。5話の連作短編から構成されていて、とてもストーリーがテンポよく進みます。ミステリとしてはそれほど凝ったものでなく、謎解きとしては物足りないと感じる読者もいるかもしれませんが、繰り返しながら、物語のテンポがいいのと登場人物のキャラが際立っているので、楽しくスラスラと読めます。ただ、最後の方は、3月13日付けの読書感想文で取り上げた『毒島刑事最後の事件』と同じように、人を操って犯罪を犯すというパターンなので、光文社と文藝春秋の出版社が違えど同じようなトリックになってしまっている点が心配です。さらにさらにで、この第1巻と第2巻の後日譚が『静おばあちゃんにおまかせ』だろうと思いますが、孫の高遠寺円が主人公で、静の助力を得て事件解決に当たる謎解きながら、静はすでに死んでいる幽霊という設定になっています。毒島刑事シリーズの接続はそれほど難題でもなかった気がしますが、この高遠寺静と円のシリーズはどうつなぐんでしょうか。興味あるものの、危うい気すらします。
最後に、上野千鶴子『在宅ひとり死のススメ』(文春新書) です。著者は、東京大学を退職したものの、我が国でもっとも有名な社会学者の1人です。本書は、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『男おひとりさま道』(文春文庫)、『おひとりさまの最期』(朝日文庫)の3部作に続く最終巻だそうです。といっても、私はその前の3部作を読んでいませんので、悪しからず。一般的には恐ろしくも「孤独死」と呼ばれているのですが、本書のタイトルでは「在宅ひとり死」と改められています。現象としては同じだろうと私は受け止めています。独身シングルで70歳を超えた著者なものですから、当然ながら、タイトル通りに、「孤独死」だか、「在宅ひとり死」をオススメしているわけです。すなわち、家族から離れて1人暮らしをし、もちろん、老健施設などにも入らず、慣れ親しんだ自宅で自分らしい最期を迎えることの幸せが詰め込まれており、その最新事情も著者自身が取材していたりします。具体的に、医師・介護士・看護師などのコーディネートを考慮したり、費用を試算したりというコンテンツもあります。ただ、私個人の心配として、「在宅ひとり死」に至るまでの経済的なコスト、すなわち、所得や貯蓄面での必要ライン、さらに、防災や治安面での懸念がどこまで解消されるべきか、といったご自分の「覚悟」以外の客観的な条件整備については情報が不足しているような気がします。まあ、かけ声だけで終わっているのは政府の政策と同じかもしれません。
2021年4月 2日 (金)
100万人近い雇用者増を記録した米国雇用統計をどう見るか?
日本時間の今夜、米国労働省から3月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2020年12月には▲306千人減と減少に転じましたが、今年2021年に入って1月には+166千人増、2月も+379千人増、そして、本日公表の3月統計では何と+916千人増と大きく増加し、順調な景気回復を裏付けています。失業率は前月の6.2%から3月には6.0%に低下しています。まず、長くなりますが、USA Tooday のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を最初の6パラだけ引用すると以下の通りです。
The economy added 916K jobs in March, unemployment fell to 6% as states eased restrictions on businesses, vaccinations spread
U.S. hiring kicked into a higher gear in March as employers added a booming 916,000 jobs amid falling COVID-19 cases, a relaxation of business constraints in many states and a growing number of Americans receiving vaccinations.
The unemployment rate dropped from 6.2% to 6%, the lowest in a year, the Labor department said Friday.
The advances, the most since August, were again driven by substantial gains at restaurants and bars, as well as construction and education.
Economists surveyed by Bloomberg expected 643,000 additional job gains. Another positive: Employment gains for January and February were revised up by a total of 156,000.
Infections continued to fall through the first half of March, and many states - including Texas, Florida, Arizona and Louisiana - have lifted all occupancy limits on restaurants and other businesses. That has prompted the outlets to recall more furloughed workers or step up hiring. OpenTable reported a sharp rebound in online restaurant reservations, which are back to pre-pandemic levels in Texas, Goldman Sachs says.
COVID cases have risen recently in a surge tied to spring break, less stringent social distancing requirements and a fast-spreading virus variant. But deaths have continued to trend down, and 29% of Americans have received at least one vaccine shot, according to Pantheon Macroeconomics.
長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+643千人増と予想されていましたので、+916千人増はかなりこれを上回っています。他方で、失業率は昨年2020年12月の6.7%から、今年2021年1月には6.3%に低下し、2月6.2%、3月も6.0%と、着実に低下を示しています。やはり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進んでいることが大きく、引用した記事にあるように、ワクチンが人口の29%まで進んでいるようです。ですから、雇用統計に見る米国景気回復はワクチンによる新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響の克服が大きな要因をなしています。従って、というか、何というか、3月の非農業部門雇用者増をさらに産業別に詳しく見ると、人的接触の大きな Leisure and hospitality が何と+280千人増と非農業部門全体の+916千人増の⅓近くを占めています。私の目から見ても、2月から3月にかけての米国経済はかなりホンモノの景気・雇用の回復に見えます。これに、バイデン政権の積極的な財政支援政策が加わるわけです。ひるがえって、我が国政府はワクチン接種はまったく一般国民には普及させることが出来ず、欧州諸国のように消費税率の一時的な引下げ政策や米国のような財政支出の拡大もできず、もっぱら、COVID-19の感染拡大は国民の責任に押し付けられたままです。昨年の今ごろはホストクラブが槍玉に上げられていましたし、その後は接待を伴う夜の会合が悪者にされ、最近では、若者の卒業記念や新入生歓迎などのコンパが感染拡大を招いているという、何とも科学的根拠のないエピソードベースの都市伝説もどきの見方が、政府や首都圏自治体から示されているというお粗末さです。目先半年のうちに政権選択を占う衆議院の総選挙があります。国民の的確な選択が示されることを私は強く期待しています。
世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数2021」に見る日本の男女格差やいかに?
広く報じられている世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数2021」Global Gender Gap Report 2021 ですが、事実関係だけを簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、国内メディアの主要な報道は以下の通りです。
- 時事通信: 男女平等、日本120位 先進国で最低―世界経済フォーラム調査
- 朝日新聞: 男女格差、日本は世界120位 G7で最下位
- 読売新聞: 日本の「男女平等度」120位、G7で最低…政治・経済分野に女性少なく
- 毎日新聞: 日本のジェンダーギャップ指数120位 過去ワースト2位
- NHK: 世界各地の男女格差 日本は156か国中120位
まず、pdfの全文リポートにおける日本のカントリー・スコア・カード p.233 は上の通りです。画像をクリックすると別タブで1ページだけを抜き出したpdfファイルが開きます。スコアが0.656、ランクが120となっており、ランクについては広く報じられている通りです。
スコアを構成する4つのカテゴリーのうち、Educational attainment が0.983、Health and survival が0.983と、この2項目については男女格差はそれほど大きくありませんが、Economic participation and opportunity と Political empowerment の格差が大きくなっています。Economic participation and opportunity のカテゴリーで0.604、Legislators, senior officials and managers では何と0.061となっていて、この2項目の格差がとりわけ大きくなっているのが見て取れます。
2021年4月 1日 (木)
業況判断が大きな改善を見せた3月調査の日銀短観をどう見るか?
本日、日銀から3月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは昨年2020年12月調査から+17ポイント改善して▲10を示した一方で、本年度2021年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比▲3.9%の減少なっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、コロナ前回復 日銀短観
日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は5と前回の2020年12月調査から15ポイント上昇した。米中など海外経済の持ち直しで輸出や生産活動が拡大し、3四半期連続で改善。新型コロナウイルスの感染拡大前の水準を回復した。大企業非製造業はマイナス1で4ポイント上がったものの改善幅は小さい。コロナ禍からの景気回復は二極化の様相が強まっている。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。大企業製造業は新型コロナの影響で20年6月にリーマン・ショック後の水準と同じマイナス34まで落ち込んでいた。その後は改善傾向が続き、今回、コロナ以前の19年9月(プラス5)の水準に並んだ。QUICKが集計した民間予測の中心値(ゼロ)を上回った。
主要16業種のうち13業種で改善した。米中をはじめとする世界経済の持ち直しや為替相場の円安・ドル高基調で、輸出環境が好転したことが幅広い業種に追い風になった。自動車は23ポイント改善のプラス10で、コロナ前の19年9月以来のプラスに転じた。鉄鋼や非鉄金属など素材関連業種にも恩恵が広がった。リモートワークの普及や巣ごもりによるIT(情報技術)需要の増加も電気機械などの改善を後押しした。
大企業非製造業は主要12業種のうち7業種で改善した。不動産や情報サービスなどの業種が上向いた。ただ、1月に大都市圏で緊急事態宣言が再発令され、外出自粛や店舗の営業時間短縮の動きが広がったことで、対面型のサービス業は総じて厳しい結果になった。
政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」の停止も響き、前回は景況感が回復した宿泊・飲食サービスは15ポイント悪化のマイナス81に沈んだ。レジャーなどの対個人サービスは8ポイント悪化のマイナス51。サービス業が重荷になり、大企業非製造業の景況感はコロナ前の19年12月の水準(プラス20)からはほど遠い。
中小企業でも製造業は14ポイント改善のマイナス13、非製造業は1ポイント改善のマイナス11と回復度合いに差が出た。外出自粛などの影響を受けやすい宿泊・飲食は規模の小さい企業が多く、サービス業の苦境は中小でより目立つ。
3カ月先の見通しを示すDIは、大企業製造業でプラス4と足元から1ポイントの悪化を見込む。半導体不足の影響で自動車などの景況感が悪化する。今回の調査は2月25日から3月31日に実施した。半導体大手ルネサスエレクトロニクスの工場火災の影響は十分に織り込まれておらず、製造業の回復は一段と足取りが鈍くなる恐れもある。
大企業非製造業はマイナス1と横ばいを見込む。巣ごもり需要の反動減が見込まれるほか、新型コロナのワクチン接種のもたつきでサービス消費の回復がどこまで進むかも不透明だ。内需の弱さが続くなかで製造業も停滞すれば、国内景気の回復は緩慢になる。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

まず、先週金曜日の3月26日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善してゼロ近傍となる見込みという結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIがゼロと報じられていますので、実績が+5ですから、やや上振れした印象はあるものの、現在までの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を考慮し、加えて、先行きの景況感の鈍化を見込めば、ほぼ「こんなもん」と受け止められているような気がします。ほかの主要な経済指標とともに、昨年2020年5月ないし4~6月期が直近の景気の底となっているのは、ほぼほぼ共通している印象です。もちろん、業種別にはバラツキが大きく、総じて内需や対人接触型セクターのウェイトが高い非製造業では業況感が低く、他方、それなりに輸出で需要が見込める製造業では改善が大きい、との結果が示されています。すなわち、昨年2020年12月調査から直近で利用可能な3月調査への変化幅で見て、大企業製造業が+15の改善で業況判断DIの水準が+5とプラスに達したとなったのに対して、大企業非製造業はわずかに+5の改善にとどまりDIの水準も▲1とマイナスを続けています。大企業レベルで製造業と非製造業の産業別の業況判断DIを少し詳しく見るとは、3月調査で業況感を大きく改善させたのは、製造業では石油・石炭製品が+31のほか、生産用機械+29、非鉄金属+24、自動車+23、鉄鋼+20などとなっています。他方、非製造業では通信+29、情報サービス+21など、在宅勤務の増加などで業況を改善させていると思われる産業もいくつかありますが、宿泊・飲食サービスでは▲15とさらに悪化が加わってDIの水準も▲81に達しています。対個人サービスも▲8悪化してDI水準▲51となっています。ただし、製造業・非製造業ともに改善が続くと見込まれず、先行きは大企業製造業では▲4の悪化、大企業非製造業でも改善なしを見込んでいます。

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも方向として不足感が広がる傾向にあるんですが、DIの水準として、設備についてはまだプラスで過剰感が残っている一方で、雇用人員についてはプラスに転ずることなく不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が企業マインドに反映されている可能性があると私はと考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用に関しては、新卒採用について新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がもっとも強く出ている可能性があり、新卒採用計画については6月調査と12月調査でしか実施されず、本日発表の3月調査には含まれていませんので、次の6月調査の日銀短観を見たい気がします。いずれにせよ、雇用調整助成金で現有勢力の雇用を維持する一方で、新卒一括採用のシステムの中で、学生の就活にしわ寄せが来ているように見えなくもありません。

日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、今年度2021年度は違っています。3月調査の設備投資計画が全規模全産業で+0.5%増のプラスで始まっています。おそらく、COVID-19のショックがもっとも大きかった昨年度2020年度に設備投資を絞ったため、今年度2021年度の設備投資を増やす、という隔年効果があるものと考えられます。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは大企業設備投資で+2.7%増でしたが、実績は+3.0%増でした。加えて、グラフは示しませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。3月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回っていて、金融機関の貸出態度判断DIも「緩い」超のプラスですが、他方で、全規模全産業の経常利益は2020年度の▲30.3%減の大きなマイナスから2021年度はリバウンドするとはいえ+8.6%増にしか過ぎません。人手不足への対策の一環として設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、やや厳しいものとなる可能性も十分あります。
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