大きな減産を記録した5月の鉱工業生産指数(IIP)は悲観的ではないものの楽観も出来ず!!!
本日、経済産業省から5月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲5.9%の減産でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
5月の鉱工業生産5.9%低下 半導体不足で自動車減産
経済産業省が30日発表した5月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は94.1となり、前月比5.9%下がった。低下は3カ月ぶり。世界的な半導体不足を受けた自動車工業の記録的な減産が響いた。新型コロナウイルスの感染拡大当初に生産が停滞した20年5月(10.5%低下)以来の下げ幅となった。
鉱工業生産指数の水準は20年12月以来の低さだった。15業種のうち13業種が低下した。自動車工業が19.4%下がったほか、半導体製造装置など生産用機械工業が5.9%、自動車用電気照明器具など電気・情報通信機械工業が4.5%それぞれ低下した。
自動車工業は20年5月以来の大幅な低下となった。マイナスは2カ月連続で、指数の水準は80.0と20年6月以来の低さとなった。5月の鉱工業生産指数の低下の半分は自動車の減産による押し下げだった。世界的な半導体不足や3月に発生した半導体大手ルネサスエレクトロニクスの工場火災の影響で生産が滞った。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は6月が前月比9.1%上昇、7月は1.4%低下となった。このうち自動車などの輸送機械工業は6月に14.2%上昇、7月も7.9%上昇を見込んでいる。経産省の担当者は自動車工業の生産に関して「5月を底に持ち直すのではないか」と述べた。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、2020年5月を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は▲2.3%の減産との見込みで、レンジの下限でも▲3.8%でしたので、もともと減産が予想されていたとはいえ、実績値の▲5.9%はこれを大きく下回り、第2次緊急事態宣言入り直前の2020年12月に記録した指数値94.0以来の低水準ということになります。先月4月統計の生産指数の速報値は99.6に達し、さらに、確報で100.0に上方修正されたものですから、上のグラフに見る通り、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前に記録した2020年1月の99.1を上回ったんですが、「三日天下」というか、何というか、5月速報値は94.1ですから、1か月でアッサリと、しかも、大きく下回ってしまいました。ただし、引用した記事にもあるように、この生産の下振れは自動車部品のうちの半導体の供給制約に起因しており、それほど悲観視する必要はない、と私は考えています。すなわち、この半導体供給が復旧すると、いわゆるペンとアップ生産で、急速に生産も回復する可能性があります。ですから、製造工業生産予測指数では6月は+9.1%の増産、この製造工業生産予測指数のバイアスを補正しても+5.4%の増産と見込まれていますので、5月速報値の▲5.9%減を取り戻せるかどうかは微妙なところながら、統計作成官庁である経済産業省では、ここまで大きな減産にもかかわらず、基調判断を「生産は持ち直している」で据え置いています。例えば、引用した記事でも言及されているルネサス エレクトロニクス社のプレスリリースでも、3月19日に火災が発生し、4月17日に生産を再開した那珂工場では、「6月24日夜、火災発生前対比で100%の生産水準に復帰」したと明らかにしていますから、繰り返しになりますが、生産は数字に見られるほど悲観する必要はないものと私も考えています。もっとも、決して楽観的というわけでもなく、産業別に少し詳しく見て、大きな減産の要因は、確かに、自動車工業▲19.4%減なんですが、ほかにも、生産用機械工業▲5.9%減、電気・情報通信機械工業▲4.5%減、汎用・業務用機械工業▲4.1%減など、我が国主力産業が軒並み減産を記録しているのも事実です。加えて、常に経済の先行きに影を落とす新型コロナウィルス感染症(COVID-19)についても、感染再拡大やワクチン供給不足で職域接種の停止などが広く報じられており、まったく私には想像もつきません。
ということで、基本的に生産は、我が国よりも格段に進展している先進国でのワクチン接種に支えられた世界経済の回復に伴う輸出の増加により、増加の基調にあると私も考えていますが、我が国国内の諸条件の制約もあり、それほど楽観的にもなれず、その昔に流行った表現をすれば、cautiously optimistic ということになります。
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