設備投資の抑制が続く1-3月期の法人企業統計をどう見るか?
本日、財務省から1~3月期の法人企業統計が公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は7四半期連続の減収で前年同期比▲3.0%減の334兆2549億円、経常利益は8四半期ぶりに増益となり+26.0%増の20兆746億円、設備投資は▲7.8%減の14兆4702億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比▲0.4%減の11兆4271億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
1-3月期の設備投資、4四半期連続減 多くの業種で投資抑制続く
財務省が1日発表した2021年1~3月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比7.8%減の14兆4702億円だった。減少は4四半期連続。一方、全産業の経常利益は8四半期ぶりに増加に転じた。自動車含む輸送用機械など製造業の増益率は大きかったものの、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、多くの業種で投資抑制傾向が続いた。
設備投資の内訳を見ると、製造業は前年同期比6.4%減だった。輸送用機械は25.6%減で、財務体質強化のため投資を抑制する傾向があったという。電気機械も18.0%減だった。
非製造業は8.5%減と、20年10~12月期(2.6%減)から減少率が拡大した。需要の減少を背景に不動産業、運輸業、郵便業などが大幅に減少した。
全産業ベースの経常利益は26.0%増の20兆746億円と8四半期ぶりに増加した。そのうち製造業は10四半期ぶりに増加に転じた前回(21.9%増)をさらに上回る63.2%増と、大幅な増益となった。国内外で需要が好調だった輸送用機械、原油価格の上昇が追い風になった石油・石炭が寄与した。新型コロナの影響で需要が激減した前年同期が低水準だった反動も出た。
非製造業も10.9%の増益と5期ぶりに増益に転じた。純粋持ち株会社が分類されるサービス業が40.6%増と大幅な増益となっており、ソフトバンクグループ(9984)の寄与が大きいと見られる。純粋持ち株会社分を除くとサービス業は減益だった。
全産業の売上高は3.0%減の334兆2549億円と、7四半期連続で減少した。製造業は1.4%減、非製造業は3.6%減だった。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる金融業・保険業を含む全産業のソフトウエアを除く設備投資額は、前年同期と比べると9.3%減だった。20年10~12月期(5.9%減)から減少幅は広がった。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や投資動向を集計した。今回の結果は内閣府が8日発表する21年1~3月期GDP改定値に反映される。
やたらと長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月ないし4~6月期を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

ということで、法人企業統計の結果を短く表現すると、企業活動や企業業績はかなりの程度に回復が見られる一方で、先行き不透明感から設備投資には慎重姿勢が続く、ということになろうかと思います。加えて、世界の景気回復の恩恵を受ける製造業と緊急事態宣言を受けた国内景気の停滞の影響が強い非製造業の違いが、昨年2020年101~2月期よりもさらに鮮明になった気がします。引用した記事の季節調整していない原系列の前年同期比の計数とはかなり印象が異なりますが、いずれも季節調整済みの系列やその前期比で見て、売上高は製造業が+3.4%増と3四半期連続の増収であったのに対して、非製造業は▲0.5%と減収でしたし、経常利益も製造業が+12.5%増の2ケタ増益を記録したのに対して、非製造業はわずかに+1.4%の増益にとどまっています。ただし、非製造業でも売上高が減収であるにもかかわらず増益であったのは、企業活動の回復を示唆していると私は受け止めています。特に、経常利益水準は1~3月期に18兆8771億円に達し、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期の18兆920億円を超えています。さらに、設備投資も製造業では前期から+0.5%増と1年半6四半期ぶりの増加を記録した一方で、非製造業は▲0.9%減となっています。もっとも、設備投資については製造業・非製造業ともに企業収益の回復と違って低迷が続いており、国内で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が一向に進まず、先行き不透明感が残っているためであろうと考えられます。

続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。見れば明らかなんですが、労働分配率は再び低下を始め、設備投資/キャッシュフロー比率もご同様で上向かず、他方で、ストック指標なので当然とはいえ、またまた利益剰余金だけが積み上がり始めています。COVID-19ショックで企業のキャッシュフローもダメージを受けたとはいえ、利益剰余金を広く社会に還元する方策が必要と私は考えています。
最後に、本日の法人企業統計を受けて、来週6月8日に内閣府から1~3月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私は1次QEから大きな変更はないものの、修正の方向は上方修正であろうと考えています。また、日を改めて取り上げたいと思います。
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