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2021年6月16日 (水)

貿易統計に見るワクチン輸入増と自動車の輸出増はホントなのか?

本日、財務省から5月の貿易統計が、また、内閣府から4月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計では季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比+49.6%増の6兆2612億円、輸入額も+27.9%増の6兆4484億円、差引き貿易収支は▲1871億円の赤字を計上しています。機械受注では変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比+0.6%増の8029億円億円を記録しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の輸出49%増 自動車好調で41年ぶり伸び率
財務省が16日発表した5月の貿易統計速報によると、輸出額は6兆2612億円で前年同月比49.6%増えた。米国や欧州向けの自動車輸出が大幅に拡大した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で前年に大きく落ち込んだ反動もあり、1980年4月以来の高い伸びを記録した。
輸出は3カ月連続で増え、コロナ感染拡大前の2019年5月と比べても7%上回った。中でも自動車や自動車部品の輸出が前年同月の2倍以上に急増した。
地域別にみると、米国への輸出が1兆1044億円で前年同月比87.9%増えた。米国では中古自動車の価格が高騰するなど需要が高まっており、当面高い伸びが続きそうだ。欧州連合(EU)向けは同69.6%増の6169億円だった。
中国向けは1兆3926億円で同23.6%増加した。半導体製造装置が同63.9%増と高い伸びを記録した。アジア向けは同32.5%増の3兆6386億円だった。
輸入は6兆4484億円で同27.9%増えた。新型コロナのワクチンを大量に輸入したことで医薬品が大幅に膨らんだほか、原油価格の上昇も影響した。
輸出から輸入を差し引いた貿易収支は1871億円の赤字だった。貿易収支が赤字になるのは4カ月ぶり。
4月の機械受注0.6%増、2カ月連続の増加
内閣府が16日発表した4月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)が8029億円となり、前月から0.6%増えた。増加は2カ月連続。半導体の需要や自動車関連の設備投資が増え、製造業が好調だった。
製造業は10.9%増の3796億円で4カ月ぶりの増加となった。業種別では造船業や石油製品・石炭製品などが前月からの反動もあって大幅に増えた。
非製造業は11.0%減の4119億円と2カ月ぶりに減少した。新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、運輸業・郵便業(37.1%減)や情報サービス業(19.9%減)などで落ち込んだ。
内閣府は機械受注の基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に据え置いた。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、2つの統計を並べましたので長くなってしまいました。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は約▲900億円の赤字でしたし、レンジの下限は▲5000億円の赤字でしたので、それほど大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。引用した記事にもありますが、季節調整していない原系列の統計の前年同月比で見て、米中をはじめとする世界各国の景気回復により輸出額が+49.6%増と41年ぶりらしく、また、うち、数量が+38.6%増を記録していますが、なにぶん、昨年4~5月がコロナ・ショックの底であって、そのリバウンドが大きいものですから、それほど単純な評価は控えるべきです。また、これも引用した記事にある通り、輸入の増加のうち医薬品の寄与が大きくなっています。医薬品輸入額の伸びが+31.1%増であり、輸入額全体の+27.9%増に対して+3.0%の寄与を示しています。どこまでがワクチンなのかは統計からは私は把握できていませんが、それなりの大きさなんだろうと想像しています。というのは、米国及びEUからの医薬品の輸入額が前年同月比でそれぞれ+208.4%増、+84.7%増となっているからで、アジアや中国からの医薬品輸入額はむしろ前年と比べてマイナスです。私の計算では、医薬品の輸入増だけで前年同期から約1530億円に上ります。繰り返しになりますが、そのうちのワクチン分は不明です。しかしながら、ワクチン輸入増はホントのようです。目を輸出に転じると、輸出額が伸びたうち、大きな部分は自動車です。前年同月比で+135.5%を倍増を超えており、輸出額全体の伸びの+49.6%増に対して+10.4%の寄与となっています。ですから、引用した記事のタイトルのような評価になるのかもしれませんが、半導体の供給制約から自動車の生産が伸び悩むとの情報が行き渡っており、4月の鉱工業生産指数(IIP)公表時にも、自動車工業は4月には減産したとの結果が示されています。少し調べると、前年2020年5月の自動車輸出額は前年同月比で▲64.2%減とほぼ⅓に減少しており、3倍増=200%増近い大きな伸びにならないと一昨年2019年の自動車輸出額の水準には回帰しません。私が見た範囲では、ニッセイ基礎研のリポートではその点について、「19年5月と比較すると▲15.6%の減少」と鋭く指摘しており、私も同感です。従って、自動車の輸出増というのはやや怪しいと結論せざるを得ません。我が国のリーディング産業に関する分析ですので、単純な評価に終わるのはやや気がかりです。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、貿易統計のグラフと同じで、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+2.5%増でしたし、予測レンジの下限が+0.1%でしたので、大きなサプライズはありませんでした。上のグラフから見ても、明らかに回復ペースが鈍ってきており、統計作成官庁である内閣府の基調判断は「持ち直しの動きに足踏み」で据え置かれています。先月の統計公表時に取りまとめられた4~6月期の見通しでは、コア機械受注の伸びが前期比+2.5%増、うち、製造業が+7.0%、船舶と電力を除く非製造業が+2.7%増と、いささか整合性に欠ける見通しだったのですが、業種別内訳の整合性はともかく、4月統計の実績でも米中をはじめとする世界経済回復の追い風を受ける製造業と停滞したままの内需に依存する非製造業の違いは大きいといわざるを得ず、製造業+10.9%増、船舶と電力を除く非製造業が▲11.0%減となっています。ただし、コア機械受注の先行指標である外需が1兆円超えの高い水準にありますので、今後も緩やかな伸びが期待できると私は考えています。

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