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2021年7月30日 (金)

改善を示す鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計の先行きやいかに?

本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも6月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+6.2%の大きな増産でした。また、商業動態統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.1%増の12兆2970億円ながら、季節調整済み指数では前月から+3.1%の伸びを記録しています。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.9%、有効求人倍率は前月から大きく上昇して1.13倍と、雇用は着実に改善を示しているように見えます。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

6月の鉱工業生産、6.2%上昇 7月予測は1.1%低下
経済産業省が30日発表した6月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比6.2%上昇の99.3だった。上昇は2カ月ぶり。生産の基調判断は「持ち直している」に据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比5.0%上昇だった。
出荷指数は4.3%上昇の96.3で、在庫指数は2.3%上昇の95.9。在庫率指数は0.3%低下の108.5だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では7月が1.1%低下、8月は1.7%上昇を見込んでいる。
6月の小売販売額、0.1%増
経済産業省が30日発表した6月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比0.1%増の12兆2970億円だった。増加は4カ月連続。季節調整済みの前月比は3.1%増だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が2.2%減の1兆6422億円だった。既存店ベースでは2.2%減だった。
コンビニエンスストアの販売額は1.7%増の9731億円だった
6月の完全失業率2.9% 前月比0.1ポイント低下
総務省が30日発表した6月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は2.9%で前月比0.1ポイント低下した。QUICKがまとめた市場予想の中央値は3.0%だった。
完全失業者数(同)は202万人で、前月比2万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は7万人減、「自発的な離職」は2万人減だった。就業者数(同)は6666万人で21万人増加した。
6月の有効求人倍率、前月比横ばいの1.13倍
厚生労働省が30日に発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.04ポイント上昇の1.13倍だった。有効求人数の増減率が横ばいだった一方、有効求職者の増減率(3.6%減)が低下した。全体として、ワクチン接種前に求職活動を控える動きがあったという。
新規求人数(原数値)は、前年同月比5.4%増加した。製造業のほか、教育、学習支援業などが伸びた一方、宿泊業、飲食サービス業は減少した。コロナ前の2年前に比べ、建設業は公共工事や人手不足などを背景に上昇した。
有効求人倍率は、QUICKがまとめた市場予想では平均の中央値で1.10倍と5月から0.01ポイントの上昇を見込んでいた。
雇用の先行指標とされる新規求人倍率(季節調整値)は2.08倍と、前月比で0.01ポイント低下した。正社員の有効求人倍率(同)は前月比0.04ポイント上昇の0.94倍だった。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、2020年5月を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+5%の増産との見込みで、レンジの上限が+6.5%でしたので、ほぼ上限に近いながらレンジの範囲内でした。ただし、足元の7月については、製造工業生産予測指数で見る限り、▲1.1%の減産を予測しており、順調な回復軌道に戻ったと評価するのはまだ早い気がします。もっとも、先月の統計公表時には7月の減産幅は▲1.7%と見込まれていたことに比べれば、わずかながら減産幅が縮小しているのも事実です。ということで、基本的には、6月の増産は5月の半導体の供給制約による自動車の減産からのリバウンドと考えるべきであり、それほどのポジティブな評価をするべきではないと私は考えています。すなわち、私は先行きの生産については緩やかな改善を見込んでいるのですが、それにしても、6月統計のような急ピッチな増産は長続きしないと考えるべきです。ただし、今日の首都圏や関西圏での緊急事態宣言に見られるように、内需に依存する部分の大きい非製造業とは違って、世界経済の回復とともに製造業の生産は緩やかに回復するのは確かながら、それでも6月統計のような大きな増産は続かないと考えるべきです。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。繰り返しになりますが、通常、この統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で見るわけで、その数字は前年同月比+0.1%増の12兆2970億円ながら、季節調整済み指数では前月から+3.1%の伸びを示しています。GDP統計なんかの消費は季節調整済み系列で判断することを考えれば、月次で+3%というのはかなりの伸びと私は受け止めています。ただし、経済産業省のリポートでは、季節調整済指数の3か月後方移動平均で見ると、6月の指数水準はまだ100.0であり、前月比から▲0.7%低下していることから、基調判断は「横ばい傾向」で据え置いています。商用販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていないことから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための緊急事態宣言によるダメージは過小評価されていると考えるべきです。すなわち、飲食や宿泊のような対人接触型のサービスが緊急事態宣言で受けるネガティブな影響は、商業販売統計には現れないことが予想され、実際の日本経済の先行きについてはこの統計よりも悲観的に見るべきであると私は考えています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が3.0%と前月統計から横ばいが予想されていた一方で、有効求人倍率は1.10倍と前月の1.08倍から改善する見込みであったものの、これらの予想を上回る改善が進んでいる印象です。人口減少過程に入った日本経済における人手不足の影響と考えられます。

生産、小売販売、雇用、いずれの経済指標も本日公表の政府統計では市場の期待よりも改善が進んでいるように見えますが、足元の7月末の時点では、オリンピックを政府が強行開催したことから新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が大きな勢いで広がっているため、首都圏と関西の大都市部と沖縄県で緊急事態宣言が出されることとなりました。当然、日本経済の先行きについては本日公表の統計よりは悲観的な方向で考えるべきであると私は考えています。

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