6月調査の日銀短観に見る景況感は改善するも業種のばらつきはまだ大きい!!!
本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+9ポイント改善して+14を示した一方で、本年度2021年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+7.1%の大幅な増加となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
景況感、非製造業5期ぶりプラス 6月日銀短観
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業非製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス1と前回の3月調査から2ポイント改善した。プラス圏に浮上するのは2020年3月調査以来5四半期ぶり。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み景況感は徐々に上向きつつあるものの、国内経済の回復力は鈍い。大企業製造業の同DIはプラス14と9ポイント改善した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。今回の調査は5月27日から6月30日に実施した。
大企業非製造業は主要12業種のうち8業種で改善した。長引くコロナ禍で苦境が続いた宿泊・飲食、レジャー施設などの対個人サービスはそれぞれ前回調査から改善したものの、なお大幅なマイナス圏にある。
大企業製造業は4四半期連続の改善。18年12月以来2年半ぶりの高水準となった。世界経済の回復や為替相場の円安傾向を追い風に景況感の改善が続いており、DIは主要16業種のうち14業種で上昇した。IT(情報技術)関連の需要がけん引し電気機械や生産用機械などの輸出関連業種が引き続き好調だったほか、世界的に供給不足となっている木材・木製品も大幅に改善した。
ただQUICKが集計した民間予測の中心値(プラス15)には届かなかった。前回調査で大幅に改善していた自動車は世界的な半導体不足の影響を受け、7ポイント悪化のプラス3となった。
中小企業は製造業が6ポイント改善のマイナス7、非製造業が2ポイント改善のマイナス9と、依然としてマイナス圏にある。コロナ禍の行動制限で業績が大きく落ち込んだ宿泊や飲食、対個人サービスはほぼ横ばいにとどまった。中小は資源高によるコスト増の影響も受けやすく、大企業に比べ業況の回復が遅れている。
3カ月先の見通しを示すDIは大企業製造業でプラス13と足元から1ポイント悪化、大企業非製造業はプラス3と2ポイントの改善を見込む。ワクチン接種が進展するなかでも先行きの見方は力強いとはいえない。大企業を中心とした景況感の改善はなお外需が主導する。コロナの感染状況が抑えられて内需も回復に向かわなければ、景気回復で先行する米欧にさらに水をあけられかねない。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

まず、先週金曜日の3月26日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善してゼロ近傍となる見込みという結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIが+15と報じられていますので、実績が+14ですから、ほぼジャストミートしました。ほかの主要な経済指標とともに、昨年2020年5月ないし4~6月期が直近の景気の底となっているのは、ほぼほぼ共通している印象です。もちろん、業種別にはバラツキが大きく、総じて内需や対人接触型セクターのウェイトが高い非製造業では業況感の改善幅が小さく、かつ、水準も低い一方で、それなりに輸出で需要が見込める製造業では改善が大きく、かつ、水準も高い、との結果が示されています。すなわち、3月調査から直近で利用可能な6月調査への変化幅で見て、大企業製造業が+9の改善で業況判断DIの水準が+14とプラス幅を拡大しているのに対して、大企業非製造業はわずかに+2の改善にとどまり、DIの水準も+1と、ようやくマイナスを脱したばかりです。大企業レベルで製造業と非製造業の産業別の業況判断DIを少し詳しく見ると、6月調査で業況感を大きく改善させたのは、製造業では、造船・重機等が+26ですが、まだDIの水準はマイナスのままです。ほかに、木材・木製品が+24のほか、はん用機械+22、生産用機械+18、などとなっています。ただ、自動車については、昨日公表の鉱工業生産指数(IIP)を取り上げた際にも言及しましたが、半導体の供給制約のために▲7とマインドは低下し、DIの水準も+7となっています。ただし、半導体の供給制約が緩和されれば、ペントアップ生産に伴ってマインドも改善する可能性は十分あります。他方、非製造業では、対個人サービスがようやく+20の改善幅を見せたものの、DIの水準はまだ▲31とマイナスのままですし、卸売も+14回復してプラスに転じましたが、DIの水準はまだ+7となっています。加えて、先行きの景況判断DIについても、製造業・非製造業ともに改善が続くと見込まれているわけではなく、先行きは大企業製造業では▲1の悪化、大企業非製造業でもわずかに+2の改善としか見込まれていません。

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも方向として不足感が広がる傾向にあるんですが、DIの水準として、設備については、まだ大企業ですらプラスで過剰感が残っている一方で、雇用人員についてはプラスに転ずることなく反転し、足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が企業マインドに反映されている可能性があると私はと考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用に関しては、新卒採用について新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がもっとも強く出ている可能性があり、新卒採用計画については、直近の6月調査の全規模で見て2020年度の新卒採用計画が前年度比▲6.8%の減少だった一方で、2022年度採用のリバウンドはわずかに+3.3%増にとどまっています。いずれにせよ、大学教員のヒガミかもしれませんが、雇用調整助成金で現有勢力の雇用を維持する一方で、新卒一括採用のシステムの中で、学生の就活にしわ寄せが来ているように見えなくもありません。

日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、昨年度2020年度は大きく通常と異る動きでしたが、今年度2021年度は従来型の動きに戻っている気がします。3月調査の設備投資計画が全規模全産業で+0.5%増のプラスで始まった後、6月調査では7.2%増に上方修正されています。おそらく、COVID-19のショックがもっとも大きかった昨年度2020年度に設備投資を絞ったため、今年度2021年度の設備投資を増やす、という隔年効果があるものと考えられます。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは大企業設備投資で+7.2%増でしたので、ほぼほぼジャストミートしました。加えて、グラフは示しませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。6月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回っていて、金融機関の貸出態度判断DIも「緩い」超のプラスですが、他方で、全規模全産業の経常利益は昨年度2020年度の▲20.1%減の大きなマイナスから、今年度2021年度はリバウンドするとはいえ+9.1%増にとどまっています。人手不足への対策の一環として設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、やや厳しいものとなる可能性も十分あります。
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