The death of behavioral economics by Jason Hreha について考える!!!
Jason Hreha という人が The death of behavioral economics と題して、メモを書いてポストしています。一部のエコノミストの間で話題になっています。以下のサイトです。
どういう人かというと、Co-founder of the Walmart Behavioral Science Team や Global Head of Behavioral Sciences at Walmart などのウォルマートの行動科学の研究所や Lead researcher in the Stanford Persuasive Technology Lab の関係者らしいです。私は専門外なので、よく判りません。
私がザッと読んだ印象では、(1) 再現性がなく、(2) ナッジなどの影響力は極めて小さい、という2点が批判の中心になっているように受け止めました。まあ、そもそもが、捏造データに基づくアリエリー教授の研究の発覚に対する批判の一環である可能性はあります。私自身の行動経済学に対する批判は、すでに8月20日の記事で明らかにしていますが、繰り返すと、(1) 学問的な究明よりも、実際の営業担当者のマーケティングの方が経験的に確かであり、実務家の方がデータを持っている、(2) ソーシャル・エンジニアリングなどで設定された目的が社会的に正しいかどうかの検証が不可能、防衛研究が典型ですが、研究費補助次第でどんな目的も正当化されかねない、(3) データがどこまで正確か検証できない、ということになります。私の(3)が「再現性ない」に近いと考えています。もちろん、私にはナッジなどの影響力の大きさは判っていませんでしたので、それはそれで新たな視点かもしれません。
加えて、行動経済学に限定される批判ではありませんが、独自データを取得して進められる研究については、データの検証や再現性について、かなり、幅広く当てはまりかねない批判だという気がします。すなわち、少し前の「小保方問題」なわけです。もっとも、経済学では政府統計などの幅広く検証されたデータが利用可能な一方で、いわゆる理系の自然科学分野では実験データに頼らざるを得ない部分があるのも事実です。そういった分野では、データのチェックはかなり難しい面があるといえます。経済学の場合、独自データを利用するのであれば、例えば、それをどこかにポストして、広く研究者が使えるようにするという手段も考えられます。実際に、東大社研にはデータアーカイブ研究センターが設置され、研究だけでなく、教育目的でも利用可能なデータが大量にポストされています。例えば、結局ヤメにしましたが、私は大学院の授業でマクロミルの Macromill Weekly Index を消費データ分析で利用しようかと真剣に考えたことがあります。こういったアーカイブにデータをポストし、幅広く利用できるようになれば、ピアチェックによってデータの検証や再現性にも有益な気がします。
行動経済学かつ独自データということになれば、捏造データに基づくアリエリー教授の研究までいかなくても、タップリと研究資金さえ得られればどんな研究も可能になる恐ろしい可能性も指摘しておかねばなりません。典型的な例では、6月26日付けの読書感想文で取り上げた瓜生原葉子『行動科学でよりよい社会を作る』です。臓器移植への意識改革と称して、医薬業界から多額の寄付や研究費をせしめれば、まさに、「行動経済学的な」調査票の設定により、かなりの恣意的な結果が得られる可能性が排除できない、と私は恐れています。加えて、独自データに基づく世界にひとつしかない研究成果であれば、ジャーナルの査読に通る可能性も十分あります。そうすると、政治の世界でカネが投票を左右して政権に近づけるのと同じように、学会でもカネで研究成果が買えることになりかねません。防衛研究で特に注意が必要そうな気がするのは私だけでしょうか?
| 固定リンク
コメント