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2021年10月 9日 (土)

今週の読書は経済学の学術書をはじめとして新書も含めて計4冊!!!

今週の読書は、小難しい経済学の学術書を筆頭に新書を3冊の合計4冊でした。そして、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊、さらに、先週までの10月分が4冊に、今日取り上げた4冊を加えて、合計185冊になりました。たぶん、あくまでたぶん、ですが、11月中には200冊を超えるのではないかと予想しています。今日は、大学の就職セミナーが10時からあり、普段よりも少し早めにポストします。

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まず、杉山敏啓『銀行業の競争度』(日本評論社) です。著者は、江戸川大学の研究者であり、本書は学術書と考えるべきです。すんわち、日本の銀行についてオーバーバンキングの観点から邦銀の低収益性について分析を進めています。競争とオーバーバンキングについては、2つの角度からの分析が可能であり、本書でも示されている通り、マークアップの価格面からの分析と市場集中度の構造面からの分析です。本書では後者の構造面については、地域別にハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を算出して分析しています。ただし、オーバーバンキングとしては収益面からの私的であることが多く、やはり、価格面からの分析がより重要となると私は考えます。しかしながら、我が国の現状では、ホントに競争によるオーバーバンキングから、すなわち、過剰競争によって銀行が低収益に苦しんでいるのか、それとも、金融政策に起因して低金利やフラットなイールドカーブにより利ざやが得られないのか、は判然としない恐れがあります。今世紀に入ってから、メガバンクに限定せずとも、地域の地方銀行においても銀行の合併が進んでいることは明らかであり、店舗数も面積も減少していて、おそらく、私の直感では構造的には競争度が低下している可能性が高いと考えています。通常は競争度が低下し独占度が高まれば、希少性の高まりとともに価格設定が有利になって収益が上がる、と経済理論では想定しているわけですが、実際には銀行の収益はむしろ日銀オペなどによって国債から発生しているように私は見ています。ただし、他方で、本書の第6章とかの最後の方でも分析されているように、プルーデンス的には経営の安定性は増すことが実証されており、低収益ながらも経営安定は崩れない、という点は指摘しておきたいと思います。1990年のバブル崩壊後に当時の大蔵省は、いわゆる護送船団方式を放棄して、実際に、破綻に追い込まれる金融機関が出ましたが、金融機関の合併による構造的な競争回避行動は、こういった破綻防止の観点からは有益であったと考えられます。銀行の特殊性は、何といっても、決済機能に由来しており、システミック・リスクを発生させないというプルーデンスの観点も重要です。最後に、ですから、いわゆる too big to fail (TBTF) 原則が金融機関に適用される場合があるわけですが、逆に、足利銀行の例を引いて、地域で巨大な役割を果たす TBTF 銀行であるがゆえに、ゾンビ的な地域企業を支える必要があり、そのために破綻に瀕する可能性が高まる、というのも何となく理解できる気がします。

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次に、金井利之『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書) です。著者は、東京大学の研究者であり、自治体行政学と紹介されています。本書では、昨年来の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)への地方公共団体の対応について、災害対応とも比較しつつ、中央政府と地方政府の関係も踏まえた分析が示されています。国や地方自治体の災害対応については、常時十分な対応体制を取ることはムダが多いのかもしれませんが、でも、東京都のようにCOVID-19パンデミックが目の前に見えている昨年2020年4月1日をもって都立病院の独立行政本陣化を進めるなど、コストセクターの削減を露骨に進めた点については、私は評価低いと考えざるを得ません。資源効率を重視することはそれなりに重要ですが、COVID-19対応のように業務が急速に拡大するおそれある分野については、通常の平時から一定の余裕をもたせた対応も必要です。特に、災害と同じで感染症対応についても地域住民の生命がモロにかかっている点を考慮すれば、余裕持った対応が求められることを忘れるべきではありません。本書で指摘するように、災害対応と同じようにCOVID-19対応についても法的根拠や財政の裏付けがないとして回避するがごとき対応をとってる地方自治体は少なくない印象を私は持っており、そういった地方政府の対応が感染症終息の大きな障害になっていることも事実です。逆に、中央政府を差し置いて東京都や大阪府が主導権を握らんとするような落ち着きない対応もCOVID-19パンデミック初期には見られた部分もあって、中央と地方の連携が重要だと改めて気付かされた気がします。

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最後に、半藤一利『歴史探偵 忘れ残りの記』『歴史探偵 昭和の教え』(文春新書) です。著者は、『週刊文春』や『文藝春秋』の編集長を務め、『日本のいちばん長い日』などの歴史小説でも有名なジャーナリストです。今年2021年1月に亡くなっています。その著者のエッセイのうち、アチコチのコラムなどに掲載されたものを編集して新書にしています。この2冊で終わるのか、さらに何冊か出版されるのか、現時点で私は情報を持ち合わせませんが、この2冊もやや取りとめないながら、なかなか洒脱な軽い読み物に仕上がっています。もともとは、『文藝春秋』の「新刊のお知らせ」とか、朝日新聞の「歴史探偵おぼえ書き」などに掲載されたコラムです。主として、昭和史、編集者のころに関係した文豪、文藝春秋社のあった銀座の街、あるいは、筆者の生まれ育った東京の下町や中学校に通った新潟県長岡などなど、ひとつのテーマに従ったエッセイ集ではありませんが、いくつかはとてもいい仕上がりになっていますし、何より、時間つぶしにはもってこいです。その意味で、とてもオススメです。ただし、私だけかもしれませんが、ほとんど頭には残りません。

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