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2021年11月30日 (火)

大学院留学生を引率してSPring-8の見学に行く!!!

今日は大学のキャンパスからバスを仕立てて、大学院留学生を引率してSPring-8の見学に行ってきました。すでに、施設の概要については、不十分ながら、一昨日日曜日のブログで取り上げていますので、今日の分は写真集です。上から順に、SACLAを見学する院生たち、SACLAで記念撮影、最後に、SPring-8を歩く院生たち、です。真ん中の記念撮影のみ、私も入っています。

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片道3時間ほどのバスツアーで、見学に要したのは事実上2時間ほどでした。でも、とってもタメになった気がします。その昔に、相模原のJAXAを見学した時と同じようなワクワク感を持った気がします。

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2021年11月29日 (月)

3か月ぶりに小売販売額が前年比プラスとなった10月の商業販売統計をどう見るか?

本日、経済産業省から10月の商業販売統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.9%増の12兆5520億円、季節調整済み指数でも前月から+1.1%の上昇を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

小売販売額10月0.9%増 緊急事態解除で3カ月ぶり増
経済産業省が29日発表した10月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比0.9%増の12兆5520億円だった。緊急事態宣言が9月末で全面的に解除され、3カ月ぶりに増えた。百貨店や家電大型専門店などが前年同月を上回った。
百貨店は2.5%増の4265億円で3か月ぶりのプラスだった。家電大型専門店は1.9%増の3511億円で5カ月ぶり、ホームセンターは0.4%増の2808億円で6カ月ぶりに前年を上回った。スーパーも1兆2252億円と0.9%増えた。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると1.1%上昇した。経産省は基調判断を「横ばい傾向」に据え置いた。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。前のIIPのグラフと同じで、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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基本的には、引用した記事のタイトル通りに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する緊急事態宣言が9月いっぱいで解除された要因が大きいのでしょうが、考えるべきポイントが3点あります。すなわち、第1に、自動車小売業が先月9月の▲12.6%から、さらにマイナス幅を拡大して10月には▲19.8%を記録しています。半導体の供給制約に起因する自動車の減産が影を落としています。しかも、東南アジアでのCOVID-19の感染拡大が半導体の供給制約をもたらしていますので、つい最近のオミクロン変異株の影響が東南アジアに及ぶようになれば、さらにこの減産幅が拡大する可能性が高いことは覚悟すべきです。もちろん、単に、国内の小売業販売額だけでなく、輸出への影響も考えられます。第2に、逆に、小売販売額の中で売上げを伸ばしているのが燃料小売業の+26.9%増です。しかし、この商業販売統計は名目値での統計であり、昨今の国際商品市況における石油価格の上昇を反映した燃料価格の上昇によってもたらされている部分が小さくないと考えるべきです。例えば、カテゴリーとして統計的な整合性があるわけではありませんが、総務省統計局の消費者物価指数 (CPI)を見ると、10月ではエネルギーが前年同月比で+11.3%の上昇、ガソリンに至っては+21.4%の上昇ですから、燃料小売業販売額の増加分+26.9%のうちの半分ほどが物価上昇に由来する可能性があります。数量ベースの実力はもっと小さいわけです。第3に、何度か書きましたが、この商業販売統計は基本的に物販のみを対象としており、サービスは含んでいません。ですから、COVID-19の経済的な影響が最も大きかったとされる対人接触の多いサービス、すなわち、飲食や宿泊は含まれていません。ですから、このサービスの変動が緊急事態宣言の解除に従って振れが大きかった可能性が高いと考えられます。また、サービスを含む総務省統計局の家計調査からこの商業販売統計は上振れしている可能性も考慮する必要があります。

先行きについては、何ともいえず、オミクロン株を含むCOVID-19の感染拡大次第としかいいようがありませんし、特に、新たな変異株であるオミクロンについては、私ごときエコノミストが判断のしようもありません。毒性はともかく、感染力が強くてワクチン耐性も高いと報じられているオミクロン株が本格的に日本に入る前に、消費の観点からは、年末年始商戦が活発であってほしいと願っています。

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2021年11月28日 (日)

SPring-8の下調べ!!!

明後日は大学のキャンパスからバスを仕立てて、大学院留学生を引率してSPring-8の見学に行く予定です。SPring-8とは大型放射光施設なのですが、経済学部出身の文系の私がこれだけで理解できるとはとても思えませんから、何の施設かについてSPring-8のサイトから和文・英文で最初の1パラだけ引用すると以下の通りです。

SPring-8とは?
SPring-8とは、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設です。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来しています。
What's SPring-8?
SPring-8 is a large synchrotron radiation facility which delivers the most powerful synchrotron radiation currently available. Consisting of narrow, powerful beams of electromagnetic radiation, synchrotron radiation is produced when electron beams, accelerated to nearly the speed of light, are forced to travel in a curved path by a magnetic field. The research conducted at SPring-8, located in Harima Science Park City, Hyogo Prefecture, Japan, includes nanotechnology, biotechnology and industrial applications. The name "SPring-8" is derived from "Super Photon ring-8 GeV" (8 GeV, or 8 giga electron volts, being the energy of electron beam circulating in the storage ring).

まあ、これを読んでも理解できるとは思えませんが、ないよりマシでしょう。私は何度か施設の名前は聞き及んでいますが、ハッキリと覚えている初出は東野圭吾のミステリ『聖女の救済』で毒物の検査をしたというストーリーではなかったかと思います。いずれにせよ、とっても楽しみです。当日のブログで取り上げるつもりです。

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2021年11月27日 (土)

今週の読書は福祉国家に関する専門書のほか新書や文庫も併せて計5冊!!!

午前中、休講した講義の補講を延々としていたので読書感想文を取りまとめるのが遅くなってしまいました。
今週の読書は、研究費で買った福祉国家に関する経済書のほか、環境や経済などに関する新書が3冊、さらに、京都を舞台にした文庫のラノベと、以下の通り計5冊です。特に、最初の2冊はなかなかにオススメです。誠に残念ながら、今週はミステリに手が伸びませんでした。それから、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、その後、本日の5冊を含めて10~11月分が216冊になりました。年間250冊は少しムリそうな気がします。12月に入ったら、学生諸君に「年末年始の読書案内」として新書の経済書を何冊かオススメしようと考えています。果たして、どれだけ読んでくれるのかは不安です。

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まず、デイヴィッド・ガーランド『福祉国家』(白水社) です。著者は、スコットランド生まれで、現在はニューヨーク大学の研究者です。よくわからないんですが、専門は犯罪学とか刑罰社会学だそうで、なぜに、福祉国家を論じているのかは、私には謎です。今年2021年9月11日付けの読書感想文で取り上げたカリド・コーザー『移民をどう考えるか』(勁草書房) と同じように、英国オックスフォード大学出版局から出ている A Very Short Introduction のシリーズの1冊で、英語の原題は The Welfare State であり、2016年の出版となっています。福祉国家=Wealfare Stateを短くしたWS1.0から2.0、そして、3.0まを論じているのですが、歴史的な発展段階に対応するとともに、大雑把に、福祉国家に対する考え方にも対応させている気がします。すなわち、第1に、WS1.0は貧困層に対する福祉の面を重視します。そして、WS2.0では殆どの先進国で広義の社会保障と呼ばれる分野をカバーします。すなわち、日本の場合には医療、年金、介護、そして、生活保護です。最後に、WS3.0というのは、まさに本書が焦点を当てているところであり、国家としての統治に関する福祉を念頭に置きます。ですから、多くの先進国は現在時点でまだWS2.0の段階にありますが、将来的には、国家のガバナンスについて福祉国家を中心に置くWS3.0の世界になるのかもしれません。私の専門分野である経済を中心に考えれば、従来のWS2.0的な所得の再分配だけでなく、資源配分のメカニズムとしての市場、そして、経済成長のコントロール、雇用はもちろん、財政や金融まで幅広く包含する国家システムとしての福祉国家を考える、ということになろうかと思います。ですから、著者の専門分野である犯罪学なんかも福祉国家の中で論じられるのかもしれません。あまり、私は自信ありませんが、そうなのかもしれません。もちろん、上の表紙画像の帯に見られるように、こういった議論の先駆者はデンマークのエスピン-アンデルセン教授であり、あまりにも有名で、私なんぞも授業で教えている福祉レジーム論、すなわち、自由主義的レジーム、社会民主主義的レジーム、保守主義的レジームから出発して、最終的にはWS3.0、すなわち、ガバナンス=統治の問題として福祉国家を必要不可欠なものとして捉えようとしています。ですから、WS3.0に至れば、ネオリベな経済政策の対極にある福祉国家ではなく、すなわち、市場と社会保障を対置させるのではなく、福祉あるいは社会保障を国家運営に絶対必要な要素として、どのように組み込むか、あるいは、活かすか、という観点です。最後にどうでもいいことながら、エシピン-アンデルセン教授の福祉レジーム論は、2012年版「厚生労働白書」第4章 「福祉レジーム」から社会保障・福祉国家を考えるで取り上げられており、私も授業で大いに活用しています。ひょっとしたら、軽くこの福祉レジーム論を見てから本書に進んだほうが理解がはかどるかもしれません。何ら、ご参考まで。

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次に、明日香壽川『グリーン・ニューディール』(岩波新書) です。著者は、東北大学の研究者なのですが、かなり過激にアクティビストの面もあるようで、デモ行進大好きな大学教員として私は好感を持っています。本書のタイトルであるグリーン・ニューディールは米国下院議員のAOC=Alexandria Ocasio-Cortezとセットで固有名詞的に語られるケースが多いような気がしますが、本書ではどうも普通名詞として扱っているようです。著者は、正義=ジャスティスの問題として気候変動=地球温暖化問題を考えており、私はまったく同感です。エコノミストの私が格差問題を数ある政策選択肢のひとつと考えておらず、社会正義に包含されるひとつの政策課題と受け止めているのと同じ考え方ではないか、と勝手に想像しています。私は定年まで公務員を勤め上げましたが、公務員の本領というのは、国民の選良であり、意思決定を下す国会議員に対する選択肢を提示することと、それらの中から選ばれた政策を効率よく実行することの2点が重要と、常々考えてきたのですが、経済的な格差是正とか、あるいは、気候変動の課題とかは、オプションを示すのではなく絶対的な正義の方向に政策を進めるのがもっとも重要と考えています。その意味で、本書には共感できる部分が少なからずあった気がします。ただ、経済学的な自由貿易の価値を実現するための貿易交渉が、実務的にはその昔の「バナナの叩き売り」のように、エセ国益を求めて交渉するようになってしまっているように、最近のロンドンでのCOP26も議論がどこまで実行されるのか不安です。気候変動=地球温暖化だけは人類だけでなく、地球上の多くの生物を絶滅の危機に晒しかねないわけですので、キチンとした科学的に正しい議論がなされることが必要です。本書は、グラフや画像が少なくて、逆に、字がいっぱい詰まっていて、一見すると読みにくそうなのですが、実は、説得力抜群です。懐疑論への反論も切れよく展開されています。とってもオススメです。

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次に、野口悠紀雄『データエコノミー入門』(PHP新書) です。著者は、ご存じ、財務省というよりも大蔵省ご出身のエコノミストです。ややタイトルに難ありで、本書でデータエコノミーに着目しているのはごくはじめの方だけで、残り大部分は銀行業務に関する記述で終始しています。なぜに、データが経済を回すのか、あるいは、企業活動としてデータが収益を生み出すのか、といった点はかなりの程度に「当然」なのか、無視されています。私の意地の悪い見方からすれば、データエコノミーなんて、ひと昔前のクレジットカードと同じで、停滞しつつある消費を無理やりに喚起するものでしかないような気もしなくもない、という見方に対する反論も聞きたい好奇心は満たされませんでした。広告をタイムリーに打てば消費者の購買意欲を強くそそる、ということなのでしょうが、代替される部分はどう考えるべきなのか、やや疑問です。ただ、著者に成り代わって私自身の見方に反論しておくと、おそらく、単純な広告宣伝の有効性を高めるだけではなく、マネーに関すデータが経済に有益で企業にも収益をもたらす、ということなのだろうと思います。というのは、本書でも指摘されているように、現金=キャッシュは金利がつかないだけでなく、極めて匿名性の高いマネーです。ですから、日本では高額紙幣がいくらでも通用しますが、私の経験では、例えば、米国の街中のスーパーやコンビニでは100ドル紙幣は大いに嫌がられます。光を当てたりして、ホンモノかどうかをかなり厳密にチェックした後でなければ受け取ってくれません。しかし、デジタルなマネーはデータとして追跡しやすいわけですし、マネーに関するデータは確かに収益を生みそうな気もします。ただ、本書はそこまで説得力あるわけではなく、私のような浅い読み方では、銀行業の新しい方法を少し垣間見る程度のお話、という気がしました。本書の内容が薄いのか、私の理解が浅いのか、まあ、そんなところです。

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次に、杉田俊介『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』(集英社新書) です。著者は、批評家ということらしく、本書を読む限りでも、性差別などに関して広範な文献に当たっているようです。ということで、本書でいう「マジョリティ男性」とは、私の受け止めでは支配的な役割にある、というか、そういう役割にかつてあった男性ということのようです。日本ですから少し判りにくい気はしますし、「マジョリティ」がホントに「多数派」の意味で使われているかどうかも不安ですが、米国でいうなら、もう死語かもしれないものの、WASPということになりそうです。そして、日本社会では、おそらくあくまでおそらく、ですが、私は本書で指摘する「マジョリティ男性」に入っているものと自覚しています。そして、本書でも指摘しているように、日常的に無感覚で特段の意識をしたり葛藤があったりしないのがマジョリティの最大の利点である一方で、それなり大小があることも事実です。ただ、マジョリティでないという意味でのマイノリティよりもそのコストが格段に小さい点は当然です。マジョリティでないグループのコストのうちでは、各種の差別や偏見があるわけで、本書(p.24)では民族差別、性差別、障害者差別、社会的排除を受ける困窮者などを想定しています。そして、これらはひょっとしたら資本主義社会である限りは存在する可能性を指摘もしています。そうかもしれません。総合的に、いろんな文献をよく勉強されていて、一見、学術論文に近い印象を持つのですが、映画をいちいち長々と紹介して、ヘンに意味をもたせようとするのはやや疑問に感じました。私は「ゾートピア」以外の映画はよく知らなかったのですが、「ズートピア」って、私はヘッセの「車輪の下」のような見方をしていました。謎。

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最後に、白川紺子『京都くれなゐ荘奇譚』(PHP文芸文庫) です。著者は、同志社大学ご卒業の小説家であり、「後宮の烏」シリーズで人気のようですが、私は不勉強にして存じ上げませんでした。初めての作品です。ということで、基本的にファンタジー小説、ただし、女子高生JKを主人公にした青春小説ともいえます。長野の蠱師の一家に生まれ、「20歳まで生きられない」という呪いをかけられた少女を主人公として、タイトル通りに場所は京都を舞台としています。私も京都に住んでいますが、霊的なものがいっぱいいそうな土地ということになれば京都なのかもしれません。私の世界観とかなり共通する部分があるのですが、おそらく、シリーズ化されるであろう最初の作品のようですから、まだ本書の世界観は深まっていない印象です。加えて、ファンタジーというよりも、ややホラーなところもあり、好き嫌いは分かれるかもしれません。ハッキリとした主人公に対する敵キャラがいるわけではないのですが、どういう位置関係にあるのか不明な1000年蠱の高良の存在が気にかかりますし、主人公のJKは多気女王の血筋、というか、生まれ変わりなのかもしれませんし、まだまだ謎が多い展開です。私はラノベは決して嫌いではないので、何となく図書館で借りてしまいましたが、この先も読み続けるかどうかはビミョーなところか、という気がします。

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2021年11月26日 (金)

森記念財団都市戦略研究所による「世界の都市総合力ランキング 2021」やいかに?

一昨日11月24日に森ビルで有名な森記念財団の都市戦略研究所から「世界の都市総合力ランキング 2021」と題するリポートの概要版が明らかにされています。

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まず、縮小したためにものすごく見にくいのですが、都市戦略研究所のサイトから、48に上る対象都市を地図上に示した画像を引用すると上の通りです。次に取り上げる6分野の評価対象がレーダーチャートで示されており、大きい方が評価高く、1位がロンドン、2位がニューヨーク、3位が東京となっています。ランキングは最後の画像でも詳細を示します。

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次に、同じく都市戦略研究所のサイトから、評価の6つの指標の画像を引用すると上の通りです。見れば明らかですが、上の経済から時計回りに、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野となっています。

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最後に、都市戦略研究所のサイトから、総合ランキングのグラフを引用すると上の通りです。対象が48都市ですので、48位まであるハズなのですが、まあ、適当に30位のヘルシンキで足切りしています。繰り返しになりますが、1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位東京、4位パリ、5位シンガポール、などとなっています。リポートp.8で確認できる限り、2012年から10年連続で1位ロンドン、2位ニューヨークは変わっていません。東京は2016年にパリを抜いていたいの3位をキープしています。リポートp.11で分野別ランキングを詳しく見ると、東京の場合、評価対象の6分野のうち、経済、研究・開発、文化・交流、交通・アクセスの4分野ではコンスタントに4位となっているのですが、想像通り、というか、何というか、居住では9位、環境はもっと低くて17位となっています。まあ、そうなのかもしれません。日本国内では、東京の他に大阪と福岡が48対象都市に入っているのですが、居住と環境ではともに東京を下回った評価しか得ていません。まあ、これもそうなのかもしれません。

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2021年11月25日 (木)

8か月連続で上昇を記録した企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.0%を記録し、変動の大きな国際運輸を除く平均も+0.6%の上昇を示しています。国際商品市況における石油価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格1.0%上昇
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.4で、前年同月比1.0%上昇した。前年比のプラスは8カ月連続。国際輸送の価格上昇や宿泊サービス価格の下げ幅縮小などが寄与し、2001年11月以来およそ20年ぶりの高水準だった。

恐ろしいほどコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、石油価格が大きく下落した2020年5月の反動で、今年2021年5月に+1.5%を記録した後、6月+1.2%、7月+1.1%、8月+1.0%、9月+0.9%、そして、直近で統計が利用可能な10月には+1.0%の上昇となっています。8か月連続の上昇を記録しているわけです。基本的には、石油をはじめとする国際商品市況の上昇がサービス価格にも波及していると私は考えています。もちろん、昨年のCOVID-19による影響からの反動という面も残っています。もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく10月統計のヘッドライン上昇率+1.0%への寄与度で見ると、石油価格の影響が強い運輸・郵便が+0.42%、景気に敏感なテレビ広告をはじめとする広告が+0.29%、土木建築サービスなどの諸サービスが+0.16%、などとなっています。前年同月比上昇率でも、特に、広告はテレビ広告の+10.4%、インターネット広告+8.7%などをはじめとして広告全体で+6.1%の上昇を示しています。昨年のCOVID-19による経済への影響の反動が含まれているとはいえ、景気に敏感な広告の上昇率が高いのはひとつの特徴かと考えています。加えて、石油価格の影響を強く受ける運輸・郵便も+2.7%の上昇率です。

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2021年11月24日 (水)

リクルートによる10月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日の11月30日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる10月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、停滞感ありながら底堅い印象で、8月+1.4%増、9月+1.0%増に続いて、10月も+1.4%増となっています。ただし、昨年2020年9月に+2.6%増を記録してから、1年余り13か月連続で伸び率が+2.0%を下回っています。他方、派遣スタッフの方は昨年2020年5月以降のデータが跳ねていたのですが、今年2021年5月からはそのリバウンドで元に戻っています。上のグラフの通り、今年2021年10月は+1.2%を記録しています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、10月には+1.4%を記録しています。人手不足がメディアで盛んに報じられていた一昨年2019年暮れから昨年2020年1~3月期のコロナ初期の+3%を超える伸び率から比べるとかなり低下してきているのが実感です。何度も繰り返しますが、三大都市圏の10月度平均時給は前年同月より+1.4%、+15円増加の1,103円を記録しています。職種別では「事務系」(+33円、+2.9%)、「フード系」(+25円、+2.4%)、「製造・物流・清掃系」(+19円、+1.8%)、「販売・サービス系」(+16円、+1.5%)、「専門職系」(+7円、+0.6%)、「営業系」(+3円、+0.2%)とすべての職種で増加を示しています。地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、10月は+21円増加、+1.2%増の1,735円に達しています。職種別では、「営業・販売・サービス系」(+58円、+4.1%)、「オフィスワーク系」(+57円、+3.7%)、「IT・技術系」(+54円、+2.5%)、「クリエイティブ系」(+10円、+0.5%)はプラスを記録した一方で、「医療介護・教育系」(▲2円、▲0.1%)だけが小幅なマイナスとなっています。派遣スタッフを詳しく見ると、「オフィスワーク系」のOAオペレータ、また、「IT・技術系」のOAインストラクター、さらに、「営業・販売・サービス系」の旅行関連が、前年同月比▲100円を超えて大きなマイナスです。地域別では関西でプラスとなったものの、関東・東海ではマイナスを記録しています。。

派遣スタッフ、アルバイト・パートともに時給上昇率はジワジワと上昇幅を縮小し、やや停滞し始めた気がしますが、まだまだ底堅い印象も十分あります。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響は昨年2020年5月ころに底を打ったように見えることから、雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないとはいえ、人口動態から見た人手不足も解消されているわけではなく、それだけに、アルバイト・パートや派遣スタッフのお給料もまだ底堅さが残っている気がします。

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2021年11月23日 (火)

チリ大統領選挙の決選投票の行方やいかに?

私は今を去ること30年ほど前の1990年代前半の3年間を大使館の経済アタッシェとしてチリの首都サンティアゴで過ごしたのですが、この日曜日の11月22日にチリ大統領選挙が実施されています。過半数を制する候補がいなかったので、左派連合の Sr. Gabriel Boric Font (政党は Convergencia Social 所属)と中道右派連合の Sr. José Antonio Kast (政党は Partido Republicano 所属)の間で、12月19日に実施される決選投票となるようです。

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ワクチン接種が進んでいて、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大はかなり下火のようですが、成長率はそこそこ高い一方で、南米特有のインフレ体質の経済もあって、国際商品市況における石油価格高騰の影響を受けて物価上昇率が高まっています。上のグラフは第一生命経済研のリポート「チリ大統領選、右派と左派の両名による決選投票へ」から引用しています。

もうあまりコンタクトはありませんが、3年余りを過ごして、いい思い出がいっぱいある国です。10年前の2010年にチリが経済開発協力機構(OECD)に加盟した際には、当時のアレジャーノ蔵相が会議に出席していたようですが、30年前に私がチリ大使館に勤務していたころは大蔵省の予算局長をしていました。私も何度かあった記憶があります。それだけに、決選投票が少し気にかかるところです。

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2021年11月22日 (月)

みずほリサーチ&テクノロジーズのリポート「経済対策は過去最大の財政支出規模」に見る経済効果やいかに?

岸田内閣は、先週金曜日に財政支出55.7兆円規模の過去最大と称する「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定しています。内閣府で公表している資料は以下の通りです。

  1. 「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」 概要
  2. 「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」について 閣議決定
  3. 「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の経済効果

内閣府では支出が直接的に実質GDPを下支え・押上げする効果を+5.6%程度と見込んでいるのに対して、みずほリサーチ&テクノロジーズでは「経済対策は過去最大の財政支出規模」と題するリポートを明らかにし、GDP押し上げ効果は2021年度で+0.3%、2022年度で+1.0%との試算結果を示しています。

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まず、みずほロサーチ&テクノロジーズのリポートから 経済対策の事業規模・真水 を引用すると上の通りです。事業規模が78.9兆円程度、そこから民間資金分を除いた財政支出が55.7兆円程度、さらに、財政投融資の6兆円を除けば、国と地方の歳出で真水の49.7兆円程度、ここまでは内閣府のリポートと同じ額です。最後に、みずほロサーチ&テクノロジーズのリポートでは、国土強靭化、家計向け給付、GoTo再開などを受けて、貯蓄に回る分を除いて経済効果としては7~8兆円を見込んでいます。というのは、例えば、家計向けの現金給付については、クーポンやマイナポイントにしても、それ自体は消費に回るとしても、元々使う予定だった部分がその分貯蓄に回る可能性を考慮し、予算額の29%を経済効果と見込んでいます。ただし、防災・減災、国土強靭化関連の公共投資についてはGDPの押し上げ効果が大きいと見込んでいます。

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続いて、内閣府のリポートから 実質GDPの直接的な下支え・押し上げ効果 を引用すると上の通りです。みずほロサーチ&テクノロジーズのリポートでは、上に書いたように、家計向けの現金給付をはじめとして、予算額のうちの経済効果として現れる部分が決して大きな部分を占めるわけではない、と考えているのに対して、私の想像ながら、おそらく、内閣府ではこれらを100%として試算しているのだろうと受け止めています。ですから、この経済対策によるGDPの押し上げ効果は+5.6%と見込まれています。

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続いて、みずほロサーチ&テクノロジーズのリポートから 経済効果 (需要項目別) を引用すると上の通りです。結果的に、みずほロサーチ&テクノロジーズの経済効果試算は、2021年で+0.3%、2022年でも+1.0%と、内閣府の試算と比較してかなり小さくなっています。中でも、公共投資の部分がかなり大きいのが見て取れます。

経済効果試算は民間シンクタンクと政府でかなり大きさが異なりますが、いずれにせよ、経済を下支えする効果は見込まれます。私はデフレ脱却のためにも、もちろん、国民生活の向上のためにも、より拡張的な金融財政政策により、GDPギャップをもっと大きなプラスに持っていくような高圧経済が必要と考えています。

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2021年11月21日 (日)

やっぱり、ロードバイクを買うかな?

東京ではGiantのマウンテンバイクに乗っていたのですが、京都に引越してクロスバイクにしました。年齢的な要因はいうに及ばず、腰が悪いのもあって、ドロップハンドルを避けたわけですが、やっぱり、ロードバイクが欲しいと思い始めています。
それほど本格的にツーリングするわけでもありませんが、自転車なら2台持っていてもそれほどヘンでもなかろうと考えています。ホントは、GiantのContendなんかが、その昔から、親しみあるのですが、100キロも乗らないうちに、やっぱり、ドロップハンドルはダメ、ということにならないとも限りませんから、超安物から始めようと考えています。

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2021年11月20日 (土)

今週の読書は研究費で買った経済書2冊と図書館で借りた新書2冊の計4冊!!!

今週の読書は、新刊の経済書を研究費で購入したほか、新書を2冊読みました。昨年と同じように、学生諸君に「年末年始休みの読書案内」を差し上げるために、せっせと新書を読んでいます。小生つは含まれておらず、以下の通りの計4冊です。それから、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、先週土曜日の恒例の読書感想文で取り上げた4冊と今週日曜日の2冊、さらに、今日の4冊を含めて10~11月分が211冊になりました。なお、どうでもいいことながら、経済週刊誌から今年のベスト経済書の推薦依頼があり、私は9月11日付けの読書感想文で取り上げた野口旭『反緊縮の経済学』(東洋経済)をトップに上げておきました。同僚教員との立ち話の雑談でも、「アレはいい本だ」という賛同を得ていたのですが、なぜか、参考リストに入っていませんでした。謎です。

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まず、原田泰『デフレと闘う』(中央公論新社) です。著者は、私の先輩であり、官庁エコノミストから大和総研に転じた後、日銀政策委員まで上り詰めています。私は適度に離れた年回りや業務が似通っていことなどから、3度も部下を務めて共著論文もあります。ですから、かなり経済学的な志向は似通っているのかもしれませんが、政治的、というか、私は官庁エコノミストの中でも、おそらく、最左派であることは間違いない一方で、本書で著者自身も自分のことをネオリベと認めています。ただし、左派と右派の違いはあっても、一昨日に取り上げた岡三証券のリポートではないですが、アベノミクスが世界標準からすればとても左派リベラルの経済政策であり、まったく分配政策を欠いているがために格差拡大の問題はあるとしても、雇用の増加につながっていた点は同じ認識ではないかという気がします。もちろん、本書は基本的に、日銀政策委員としての回顧録であり、この著者らしく、あまり、ポリティカル・コレクトネスを意識せずに、面白おかしくざっくばらんに書いています。口語体で本を書いている印象です。あとがきにもあるように、批判に反論するという傾向が強く、現在の与党連合のうちの宗教政党を支持している宗教団体が「折伏」という言葉で呼んでいる行為を私は思い起こしてしまいます。金融に関する回顧録ですが、タイトル通りに、デフレ克服が出来ていない点については、この著者らしく、景気はよくなった、雇用も増加した、その上でインフレになっていないんだからもっといいじゃないか、というスタンスのように見受けました。ただ、本書でも強く指摘されているように、金融政策とは期待に働きかける部分が大きく、従って、本書では白かった時代の日銀の金融政策によって、デフレ期待が強く強く国民に浸透してしまった点に加えて、財政政策でアベノミクスが2度に渡って消費税率を引き上げた点をデフレ脱却に至らなかった理由として上げています。それはそうだという気が、私もしますが、でも、黒くなった後の日銀も「日銀が金融政策をしても、あるいは、何をしても物価は上がらない」という好ましくない事実を示してしまったために、このデフレ期待をかえって強めてしまった失策がある点を、見事に見逃しています。岩田教授が副総裁に任命される際の国会審議で、自信満々で2年間での物価目標達成を豪語しながら、加えて、辞任でもって責任を取ると明言しておきながら、結局、8年余りを経過してもサッパリインフレ目標の2%に近づきもしない現状が、白い日銀のころのデフレ期待を、リフレ派の黒い日銀が意図せずして補強してしまっている、という点は明らかです。その意味で、それなりに罪深いものである気がします。

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次に、倉坂秀史『持続可能性の経済理論』(東洋経済) です。著者は、環境庁ご出身で現在は千葉大学の研究者です。環境経済学という分野があって、本書では、それとほぼほぼ同義の持続可能性に関する経済学、というのをタイトルにしているわけです。その昔の環境経済学については、公害などが典型的なのですが、私的コストと社会的コストの差がある外部経済、あるいは、経済の外部性、すなわち、市場の失敗として処理していたように思うのですが、本書を読んだ私の感想として、環境経済学の対象が自然である点が大きく強調されているように感じました。すなわち、自然から環境サービスというものを供給されて、個々の消費者、というか人類といってもいいのですが、我々はそれを需要、ないし、消費しているわけです。パッと考えつくのは森林浴などですが、それほど直接的でなくても、極地の氷河やアフリカの動物多様性などといった環境サービスも消費しているわけです。ただし、これらの環境サービスは人間が生産したものではありません。私は講義でよく経済学的な生産とは、資本ストックと労働を組み合わせて付加価値を得ることである、と学生諸君に教えています。ですが、環境サービスはこういった旧来の経済学で考えている生産から生み出されるものではありません。自然が供給してくれるわけです。ですから、極地の氷河やアフリカの生物多様性をはじめとして、人工的に再生産が不可能なものが多く、また、ある一定の限界を超えると永遠に失われるものも少なくありません。というか、ほぼほぼすべてそうです。加えて、自然が供給しているにしても、100年どころか、数億年に渡って生産される環境サービスもありますし、時間的なスパンが人間の生存世代を遥かに超えていたりします。ですから、市場における価格メカニズムでは最適な資源配分ができなくなっています。まあ、最後は市場の失敗に行き着くわけですが、私的なコストと社会的なコストのカイリよりは壮大な理論に仕上がっているわけです。本書ではそういった理論的な展開を、人工的な経済財の「私」-「フロー」-「名目」と自然が供給する環境財の「公」-「ストック」-「実質」などに組み直して、かなり判りやすく解説を加えています。そもそも、スミスなどの初期の古典派経済学ではサービスという概念も希薄で、財貨=モノを中心とする分析でしたから、環境経済学的な概念も成立しませんでしたが、現状では、先日のCOP26でも議論されているように、気候変動や温暖化防止まで幅広く含めた経済学の再構築が必要になっています。私はいかんせん不勉強な教師なのですが、専門外の理論とはいえ、このあたりの基礎は身につけておきたいと思います。

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次に、橘木俊詔『日本の構造』(講談社現代新書) です。著者は、ご存じ京都大学を退官したエコノミストです。先週取り上げた『日本経済図説 第5版』(岩波新書)に続いて、グラフやテーブルで豊富なデータも収録した図版集です。著者の専門分野に応じて、経済を中心に、労働・賃金、生活、社会保障や財政、などを収録していますが、教育や格差にまつわるいろんな話題、すなわち、地域蚊kさや所得格差なども幅広く取り上げています。先週の『日本経済図説 第5版』(岩波新書)と違うところは、事実を事実として明らかにするだけでなく、やや偏りある著者の見方ながら、そういった事実の背景にある原因や要因について著者なりの仮説を提示しているところです。もちろん、新書という限られた紙幅ですので、その仮設の検証はしていませんし、仮説を出しっぱなしになっているのですが、怪しげな説が散見されるものの、それはそれなりに、決して荒唐無稽なトンデモ論を展開しているわけではありません。その意味で説得力ある仮説といえるものが少なくありません。特に、成長と分配で総選挙に臨んだ岸田総理、当初の分配重視から成長に押されて腰砕けになっただけに、改めて、格差を直視し、項目としても多く取り上げて、分配の重要性を主張する点は意味あると私は考えています。特に、第5章の老後と社会保障、第6章の富裕層と貧困層について論じている部分では、高齢層に我が国の社会保障が偏っていて、家族や子供への支出が少ない点、あるいは、格差が親から子供に継承される割合が高まっている点など、ついつい、保守的なエコノミストが故意に隠そうとしている点を明らかにしているのは好感が持てます。

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最後に、岩田弘三『アルバイトの誕生』(平凡社新書) です。著者は、武蔵野大学の研究者であり、専門は教育社会学です。ですから、大学生、というか、高等教育機関に属する学生雅楽業の傍らにする労働についての歴史をひも解いています。その中心に東京帝国大学ないし東京大学を置いていますから、かなり偏っているんではないかと私は読む前から感じていたのですが、そんなことはありませんでした。そもそも、明治期に開始された近代的な学校制度における高等教育機関の学生は、かなりの程度の富裕層の子弟であり、学業の傍らに働く必要なんてなかったのではないか、と私は想像していましたが、決してそんなことはなく、学費にも事欠く学生が一定の割合でいたことは少し驚きでした。さらに、終戦直後の混乱期とはいえ、東大生がふすま張りをやったり、大工仕事を請け負ったりと、驚きの歴史が展開されます。もちろん、学生アルバイトに対する偏見は根強く、アルバイト経験ある学生は採用しないといい出す大企業があったり、といった歴史も明らかにされます。就学の必要から切羽詰まった学生アルバイトから、今では「小遣い稼ぎ」という言葉もありますが、遊興費のためのアルバイトなど、働く側の学生にとっても幅広い対応がなされるとともに、雇用する側の企業にとっても、ほぼほぼ正社員ばかりだった高度成長期には、人手不足で正社員採用ができない人員を補充するために消極的な採用を行う学生アルバイトから、今では正社員を代替する戦力としての積極的なフリーターやアルバイトの活用まで、大きく労使ともに姿勢が変わってきてしまいました。私は大学教員として目の当たりにしていますが、現在のコロナ禍で学生アルバイトもまた大きな変化を迫られています。こういった学生生活に不可欠な要素となったアルバイトを考える上で、なかなかの参考文献といえます。

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2021年11月19日 (金)

2か月連続でプラスを記録した消費者物価指数(CPI)の動向をどう考えるか?

本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+0.1%を記録しています。1年6か月ぶりのプラスです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.5%と下落しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の全国消費者物価、2カ月連続上昇 エネルギーが大幅上昇
総務省が19日発表した10月の全国消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が99.9と前年同月比0.1%上昇した。上昇は2カ月連続。ガソリンや電気代などを含むエネルギーの上昇幅が11.3%と、08年9月(14.7%)以来、13年1カ月ぶりの上昇率となりCPIを押し上げた。QUICKがまとめた市場予想の中央値(0.1%上昇)と同じだった。
原油価格の高騰を背景に、エネルギー関連の上昇が同指数を押し上げた。「灯油」(25.9%上昇)や「ガソリン」(21.4%上昇)は、前月から伸び率が拡大した。「都市ガス代」は、19年8月以来2年2カ月ぶりにプラスに転じた。原油相場の影響がガソリンより遅行する「電気代」も7.7%上昇した。
政府による前年の観光需要喚起策「Go To トラベル」の反動で「宿泊料」は前年同月比59.1%上昇した。火災・地震保険料の上昇もプラスに寄与した。
一方、携帯電話の通信料は前年同月比53.6%下落し、下げ幅は過去最大となった。携帯大手各社による新料金プランが影響した。
生鮮食品を除く総合指数は前月比で0.1%低下した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比0.7%下落した。マイナスは7カ月連続。生鮮食品を含む総合は0.1%上昇し、2カ月連続のプラスとなった。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+0.1%の予想でしたので、実に、ジャストミートしています。基本的に、国際商品市況における石油価格の上昇に伴って、ガソリン・灯油などのエネルギー価格が前年同月比で+11.3%の上昇を見せて、ヘッドライン上昇率に対して+0.79%の寄与を示した一方で、通信料(携帯電話)が前年同月比▲53.6%の下落で、▲1.47%の寄与となっています。エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落のバランスで、エネルギー価格の上昇と波及が上回ってのプラスという結果であると私は受け止めています。ただ、これも引用した記事にあるように、別の政策要因というか、何というか、昨年のGoToトラベルによる値引きの反動で、宿泊料が前年同月比+59.1%の上昇を見せ、寄与度も+0.35%あります。先行きの物価動向を考えると、国際商品市況における石油価格の上昇に加えて、国内外の景気回復とともに、物価は緩やかに上昇幅を拡大していくものと私は考えています。例えば、日銀から公表されている企業物価指数の国内物価も、10月統計では前年同月比上昇率で+8%に達しています。物価は上昇基調にあると考えるべきです。
さて、ここで、国際商品市況における石油や天然ガス価格の動向については、先月のCPIを取り上げた際などに論じていますので、今日のところはパスしておきます。

我が国のデフレの初期に「悪い物価下落」と「いい物価下落」という二分法が幅を利かせた時期があります。今回も石油価格上昇に伴うコストプッシュのインフレですので、同じような二分法の議論も聞かれます。しかし、私は我が国にとってはデフレ脱却の機会である可能性もあることから、政府や日銀の政策当局の適切な判断を期待しています。

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2021年11月18日 (木)

岡三証券のリポート「なぜ若者の自民党支持率が高いのか」に見るアベノミクスの評価やいかに?

先日の総選挙では、私は野党連合に大いに期待していたのですが、結局、自民党と公明党の連立与党で安定過半数を制し、しかも、野党の中でもほぼほぼ与党の補完勢力化している維新が躍進したりして、とっても失望させられたのですが、一昨日11月16日付けの岡三証券のリポート「なぜ若者の自民党支持率が高いのか」を見て、何となく納得できるところがありました。
要するに、5年半ほど前の2016年5月28日付けの読書感想文で明らかにした通り、松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)の主張と同じで、アベノミクスなどの与党の経済政策に若者が強い支持を与えた、という分析結果となっています。私も強く賛成します。実は、原田泰『デフレと闘う』(中央公論新社)を読んでいて、なかなか読み終わらないのですが、そこでもまったく同じようにアベノミクスに対して、雇用拡大などの面から強い肯定的な評価を下しています。左派リベラルはまだまだ非正規雇用が多い、とかいってアベノミクスを批判的に見ているようですが、国民目線からズレを生じているような気がしてなりません。
証券会社のリポートですので、バブル崩壊後の資産運用の失敗のトラウマを引きずっているとか、いないとか、そういった分析もあったりしますが、私の目から見て、何といっても雇用です。若い世代は雇用を生み出したことをもってアベノミクスを評価している点は忘れるべきではありませんし、逆に、長期雇用慣行がまだ色濃く残っている中で、すでに雇用されていて、いわば、雇用という既得権益を得ている年長層からの評価が低い、ということになっている気がします。野党連合でも、立憲民主党の枝野代表などは国債発行による財政拡張政策、すなわち、高圧経済を目指す政策への志向を明らかにしましたが、ベーシック・インカムへの反対論も見受けられますし、日本の左派リベラルはまだまだ緊縮志向が強いのではないか、と私なんかは恐れています。しかしながら、左派リベラルが政権を取るためにはアベノミクスを超えるような拡張的な経済政策でもって高圧経済を目指す姿勢を明らかにすることが必要と私は考えています。
最後に、リポートからアベノミクスを若者が評価する一つの根拠としている日本の自殺者数の推移のグラフを引用しておきます。

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2021年11月17日 (水)

赤字の続く貿易統計と、持ち直しの動きに足踏みがみられる機械受注の先行きをどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が、また、内閣府から9月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+9.4%増の7兆1840億円、輸入額も+26.7%増の7兆2514億円、差引き貿易収支は▲673億円の赤字を計上しています。機械受注については、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲0.0%減の8,389億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。

10月の貿易統計、自動車は36%減 輸出額の伸び率縮小
貿易赤字は3カ月連続

財務省が17日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額は前年同月比9.4%増の7兆1840億円だった。伸び率は5カ月連続で縮小した。新型コロナウイルス禍の部品調達難が続き、自動車が36.7%減ったことが響いた。原油高で輸入額も3割弱増え、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は673億円の赤字。赤字は3カ月連続となる。
自動車輸出は36.7%減の6692億円だった。東南アジアでの新型コロナ感染の再拡大による供給網の乱れを受けた減産の影響が続いているとみられる。台数ベースでも35.7%減った。輸出額は新型コロナ禍の反動で前年同月比で2ケタの伸びが続いていたが、鈍化が鮮明になった。
米国向けの輸出額は1兆3030億円で0.4%増えた。自動車が46.4%減った一方で、半導体製造装置(72.1%増)やパワーショベルなどの建設用・鉱山用機械(49.6%増)などが輸出額を押し上げた。
アジア向けは15.0%増の4兆2447億円となり、この地域向けでは統計を遡れる1979年1月以降で過去最高の輸出額となった。パキスタン向けなどの鉄鋼製品が76.4%増えた。数量ベースでは1割増にとどまっており、鉄鋼製品の価格上昇が輸出額を押し上げたようだ。台湾向けの半導体製造装置なども全体の伸びをけん引した。
中国向けの輸出額も1兆5968億円と9.5%増えた。EU向けも12.1%増だった。
輸入額は26.7%増の7兆2514億円だった。アラブ首長国連邦(UAE)を中心とする原油の輸入額が6175億円と81%増えた。石炭、液化天然ガスの輸入額もそれぞれ2.3倍、67.6%増となるなど、エネルギー関連の伸びが全体を押し上げた。
9月の機械受注、前月比0.0%減 市場予想は1.8%増
内閣府が17日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比0.0%減の8389億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.8%増だった。
製造業は24.8%増、非製造業は11.7%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は12.5%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いた。
同時に発表した7~9月期の四半期ベースでは前期比0.7%増だった。10~12月期は7~9月期から3.1%増の見通し。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

とても長くなってしまいましたが、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、貿易赤字が▲2900億円でしたので、実績の▲673億円の赤字は、予想レンジの上限である▲700億円の範囲内であり、まあ、こんなもん、という印象を私は持っています。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は3か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は今年2021年5月から6か月連続となります。しかも、貿易赤字の棒グラフが下向きに拡大しているのが見て取れます。輸出入に分けて見ると、季節調整していない原系列のデータでも、季節調整済みの系列でも、輸入については増加のトレンドにあるように見える一方で、輸出については、特に、季節調整済みの系列のグラフで見て、停滞し始めているのが読み取れます。ただ、それほど大きな悲観材料とはならないと私は受け止めています。まず、輸入についてはワクチン輸入という特殊要因もあるとはいえ、最近時点での国際商品市況における石油価格の上昇が我が国輸入額を押し上げていることは明らかです。例えば、原油及び粗油の10月の輸入額は前年同月比で+81.0%の大きな増加を記録していますが、数量ベースでは逆に▲0.6%の減少となっています。価格が大きく上昇していますから、それほど価格弾力性が大きくないとはいえ、需要曲線に沿って輸入量が減っているわけです。実に、経済学の知見通りの結果です。なお、ついでながら、国内でのワクチン接種が一巡したからなのか、どうなのか、私は専門外ですが、ワクチンを含む医薬品の輸入額は季節調整していない原系列の前年同月比で+12.7%増と、やや落ち着いてきた印象も持ちます。
他方、輸出については輸出全体では前年同月比で+9.4%増ながら、我が国の主力輸出品である自動車が何と▲36.7%減、乗用車に限れば▲40.9%減と、先月9月統計に続いて半減近くまで落ち込んでいます。輸出を全体としてみれば、主として欧米の景気回復に従って我が国の輸出は今後とも増加基調を続けるものと私は予想していますが、中国は別としても、特に東南アジアで新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が深刻となってきている点については注意が必要であり、アジア域内の需要サイドではなく供給サイドの要因で、半導体の供給制約から自動車生産が停滞しており、この先も輸出に一定の影響を及ぼす可能性が大きくなっています。例えば、一般機械+23.0%増や電気機械+10.5%増と比べて、我が国のリーディング・インダストリーのひとつであり、競争力も十分と考えられる自動車が▲40.9%減というのは、これら製品の需要サイドにそれほど差がないとすれば、供給面の制約と考えるべきです。この先行きも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が再び生じるのか、その経済的な影響も無視できませんが、そもそも、国内での感染拡大についてもそれほど確実な見通しを持たない私なんぞは、東南アジアでのコロナ禍についてはまったく見識ありません。このあたりはエコノミストの守備範囲を超えている、とやや諦め気味です。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+2%程度の増加の見通しでしたので、実績の▲0.0%減は、レンジの下限▲1.1%減の範囲内とはいえ、やや下振れた印象があります。もっとも、7~9月期の四半期ベースでは前期比+0.7%増だったわけですし、さらに、先行きについても10~12月期は前期比で+3.1%増の見通しですから、悲観する必要はそれほどないと私は考えています。ただ、1点だけ、貿易統計でも言及しましたが、半導体の供給制約に起因する自動車生産の停滞の影響が懸念されます。より長期的に考えれば、こういった供給制約がある際にはイノベーションの契機となって投資が進む可能性も否定できないものの、短期的には設備投資にマイナス材料となる可能性も十分あります。いずれにせよ、緊急事態宣言がまだ続いていた9月の統計ですから、それを考慮に入れる必要があるものと私は受け止めています。すなわち、10月以降の統計をじっくり見てみたい気がします。

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2021年11月16日 (火)

今年の年末ボーナス予想はほぼ前年から横ばいか?

先週半ばに、例年のシンクタンク4社から2021年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。

機関名民間企業
(伸び率)
国家公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.9万円
(▲0.4%)
61.1万円
(▲6.5%)
人流抑制策が非製造業の売上にマイナスに作用。輸出企業では、円安が収益押し上げに作用する例が散見されるものの、自動車産業をはじめ、半導体などの部品不足が生産回復の重石に。さらに資源価格の上昇が、幅広い産業の収益を圧迫。また、大企業では、新型コロナの感染拡大前に昨年度の支給額が妥結済であった影響で、今年度に新型コロナの影響が本格化。
みずほリサーチ&テクノロジーズ38.4万円
(+0.8%)
67.9万円
(▲6.3%)
2021年冬はボーナス算定のベースとなる所定内給与がほぼ前年並みにとどまる一方で、支給月数が増加する結果、民間企業の一人当たりボーナス支給額(支給事業所における一人当たり平均)は前年比+0.8%の増加を予想する。昨冬の減少幅(同▲2.6%)に比べると小幅な伸びにとどまり、コロナ前の水準を取り戻せない見通しだ。
第一生命経済研38.3
(+0.7%)
n.a.今冬のボーナスは増加が見込まれるものの、あくまで昨年の大幅な落ち込みからの反動の域を出ず、昨年の落ち込み分を取り戻すには至らない。コロナ前である19年よりも水準は低いままであり、ボーナスの回復は依然道半ばといえる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング38.0万円
(▲0.1%)
60.8万円
(▲7.0%)
2021年冬の民間企業(調査産業計・事業所規模5人以上)のボーナスは、前年比-0.1%とコロナ禍の影響が一巡し、減少に歯止めがかかろう。もっとも、業績の改善が先行している製造業では回復の動きがみられる一方、非製造業では底ばいが続こう。

ということで、ほぼほぼ前年からの横ばい圏内で推移するんではないか、と予想されているようです。すなわち、ヘッドラインで取った文言にあるように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が一巡して下げ止まったと見るか、底ばいが続いていると見るか、ややビミョーなところです。でも、COVID-19前の2019年と比較すれば大きく減少していることは事実であり、個人消費を喚起するためにも賃上げが必要との私の見方に変わりありません。特に、ここ何年か最低賃金が政策的な誘導もあってそれなりの伸び率を維持している中で、ボーナスがこういう形で伸び悩んでいると、特に、耐久消費財には影響が出そうな気がします。昨日取り上げた7~9月期のGDP統計速報1次QEで消費が大きなマイナスを記録したのは、自動車が半導体部品の供給ショックで生産が減少したためであると考えるべきですが、高度成長期の3種の神器、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、そして、3C、すなわち、自動車、クーラー、カラーテレビといった耐久財が消費の伸びを牽引した姿を想像することが難しくなってきている気がします。私自身は技術的なイノベーションが停滞して、魅力的な製品が出なくなったとはまったく思いません。需要が、そして、その基礎をなす所得が伸び悩んでいるのが我が国の成長率鈍化の大きな要因です。その根底にはデフレがあるわけですが、デフレ脱却のためにも、政策的に高圧経済を実現するとともに、民間企業の賃上げを促進するようなパラダイムの転換が必要です。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2021年11月15日 (月)

7-9月期のGDP統計速報1次QEは自動車産業への供給ショックで大きなマイナス成長を記録!!!

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.8%、年率では▲3.0%と、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の緊急事態宣言の影響と輸出の停滞でマイナス成長となっていす。まず、日経新聞のサイトから長い記事を引用すると以下の通りです。

7-9月の実質GDP、年率3.0%減 2期ぶりマイナス
内閣府が15日発表した2021年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.8%減、年率換算で3.0%減だった。マイナス成長は2四半期ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言などで個人消費が落ち込み、自動車の減産で輸出も伸び悩んだ。
年率換算のマイナス幅はQUICKがまとめた7~9月期の民間エコノミスト予測の中心値(年率0.7%減)を大きく上回った。前期比で0.8%減った要因をみると、内需が0.9ポイント分押し下げ、外需が0.1ポイント分押し上げた。
GDPの半分以上を占める個人消費は前期比1.1%減と、2四半期ぶりに減少した。自動車の販売減が響いたほか、パソコン需要が一服するなど家電も落ち込み、耐久財は13.1%減で2四半期ぶりに減少した。衣服などの半耐久財も5.0%減だった。サービス消費は0.1%増とほぼ横ばいだった。外出自粛や飲食店での時短営業による消費抑制が続いた。
内需のもう一つの柱である設備投資は3.8%減で、2四半期ぶりのマイナスだった。企業の投資意欲は底堅いものの、自動車や生産用機械などが振るわなかった。半導体不足も影響した。住宅投資は2.6%減、公共投資は1.5%減だった。
政府消費(政府支出)は1.1%増で2四半期連続のプラスだった。新型コロナのワクチン接種が進み、ワクチンの購入や接種にかかる費用が増えたのが要因だ。
外需では輸出が2.1%減り、5四半期ぶりにマイナスに転落した。東南アジアでのコロナ感染拡大による部品供給の遅れや半導体不足を受けた自動車の減産が響いた。輸入も2.7%減で4四半期ぶりに減少した。携帯電話や衣服などが減った。
収入の動きを示す雇用者報酬は名目で前年同期比1.8%増となった。
10月以降は緊急事態宣言が解除されて人出が戻っている。飲食店でも時短営業の制限がなくなり酒類提供が再開したため、10~12月期は個人消費を中心に持ち直す想定で、プラス成長に転じる見通しだ。
21年の日本のGDPは1~3月期は東京などへの緊急事態宣言の発令で個人消費が落ち込んだのを背景に3四半期ぶりのマイナスになった。4~6月期は企業による設備投資の再開を受けて1.5%増のプラスに転じた。7~9月期は東京五輪・パラリンピックが開催される一方、緊急事態宣言が東京や大阪などに拡大・延長した時期と重なる。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2020/7-92020/10-122021/1-32021/4-62021-7-9
国内総生産GDP+5.4+2.8▲1.1+0.4▲0.8
民間消費+2.7+1.8▲0.5+0.8▲1.4
民間住宅▲5.7▲0.0+1.1+2.0▲2.6
民間設備▲2.2+4.3▲1.0+2.2▲3.8
民間在庫 *(▲0.2)(▲0.5)(+0.4)(▲0.3)(+0.3)
公的需要+2.5+1.6▲1.6+0.4+0.6
内需寄与度 *(+2.8)(+1.8)(▲0.5)(+0.8)(▲1.4)
外需(純輸出)寄与度 *(+2.7)(+1.0)(▲0.2)(▲0.3)(+0.1)
輸出+7.4+11.7+2.4+3.2▲2.1
輸入▲8.2+4.8+4.0+5.3▲2.7
国内総所得 (GDI)+5.4+2.8▲1.7▲0.0▲1.4
国民総所得 (GNI)+5.2+3.0▲1.5▲0.0▲1.4
名目GDP+5.5+2.3▲1.1▲0.2▲0.6
雇用者報酬 (実質)+0.8+0.9+2.1▲0.7+0.1
GDPデフレータ+1.1+0.1▲0.2▲1.1▲1.1
国内需要デフレータ+0.0▲0.8▲0.5+0.2+0.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された今年2021年7~9月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤の消費や水色の設備投資のプマイナス寄与が大きく見えます。

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先週金曜日のこの私のブログでも1次QE予想を取り上げましたが、私はマイナス成長ながら横ばい圏内くらいの数字を予想していました。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは年率で▲0.7%のマイナス成長予想でしたし、予測レンジの下限は年率で▲2.2%でしたから、大きく下振れした印象を持つエコノミストも少なくない気がします。そして、引用した記事の3パラ目にあるように、消費を少し詳しく見ると、自動車や家電などの耐久財、衣類などの半耐久財、食品などの非耐久財、そして、サービスのうちで、特に落ち込んだのは耐久消費財の前期比▲13.1%であり、緊急事態宣言の影響を大きく受ける飲食や宿泊などを含むサービスはほぼほぼ横ばいの+0.1%増でした。まあ、緊急事態宣言の期間中ながら、東京オリンピック・パラリンピックを強行開催した効果なのかもしれません。ですから、消費が大きく落ち込んだ最大の要因のひとつは、半導体の供給制約による自動車の生産減です。もちろん、緊急事態宣言はサービス以外の消費に対しても抑制要因となったと考えられますが、消費減少の最大の要因は部品供給元である東南アジアでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う供給ショックで自動車の生産が大幅に減少したことです。ですから、緊急事態宣言による需要ショックではなく半導体の部品という供給ショックですから、可能性としては、生産が回復すれば景気が以前にもまして拡大することも考えられます。しかし、他方で、日本国内で緊急事態宣言が解除され、COVID-19の感染拡大が抑制されているからといって、足元の2021年10~12月期に消費が高い伸びを示すかどうかは不透明です。直近の国内景気は、むしろ、国外からの半導体部品供給の回復次第という面が強いと考えるべきです。

昨年のCOVID-19による大きなマイナス成長は、中国からの部品輸入の減少に伴う海外からの供給ショックで始まりました。もちろん、その後に対人接触機会の大きな飲食や宿泊などのセクターの需要ショックがあったことは確かですが、10年前の2011年には東日本大震災に起因する供給ショックも忘れるべきではありません。バブル崩壊などの需要ショックだけでなく、自然災害や感染症による供給ショックが景気を悪化させるケースは、極めて稀だと私のような古いタイプのケインジアンのエコノミストは考えていましたので、少し認識を変える必要があるのかもしれません。

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2021年11月14日 (日)

クイーン新訳版で『フォックス家の殺人』と『十日間の不思議』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む!!!

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週末ミステリ読書の感想文です。エラリー・クイーン『フォックス家の殺人』『十日間の不思議』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読みました。どちらも、越前敏弥さんによる新訳です。なぜか、帯で京大ミス研OBである2人のミステリ作家が推薦の言葉を送っています。英語の原題は The Murderer Is a Fox 及び Ten Day's Wonder となっています。ここ数年、『九尾の猫』『災厄の町』の新訳が出版されていて、この2冊は読んでいて、いずれも、2016年3月12日付けの読書感想文をポストしているのですが、本日取り上げるのはライツヴィルを舞台とするシリーズの『災厄の町』に続く作品です。新訳版は『フォックス家の殺人』が昨年2020年12月、『十日間の不思議』が今年2021年2月の出版ですから、どちらもまだ1年を経過しておらず、新刊本として読書感想文をポストしたいと思います。
ライツヴィルを舞台とするシリーズは、1942年出版の『災厄の町』、さらに、本日取り上げる1945年『フォックス家の殺人』と1948年『十日間の不思議』に続いて、1950年『ダブル・ダブル』、1955年『帝王死す』、1970年『最後の女』と6作あります。私はまだ3作しか読んでいないのですが、夫婦の2人に加えて愛情の三角関係からの殺人事件が多いような気がします。また、3作目の『十日間の不思議』が、法月綸太郎が指摘した「後期クイーン的問題」の嚆矢となります。推理小説におけるゲーデル的、すなわち、作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できない、という問題です。私はこれを論じるにはまだまだ勉強不足なのですが、効果不効果、ミステリの読書感想文ですので、このあたりで終わりにしてもいいような気がします。

私は週末にはエアロバイクを1時間漕いで、さらに、プールで2-3キロ泳ぐ、という実に健康的な生活を送っているのですが、エアロバイクを漕ぐ時に図書館で借りた文庫本を読みます。まあ、プールで泳ぐ時に読書ができないことは自明ですが、多くの場合、週末の土日で2冊読むわけです。エアロバイクを漕ぎながら、ウォークマンで音楽を聞きつつ読書もするわけです。30年前に在チリ大使館に勤務していたころ、私は週に4日Reebok Stepで汗を流し、3日テニスをプレーし、2日ゴルフと、スポーツに興じていまして、「アンタは週に何日あるんだ?」と聞かれたこともありますが、まあ、1度に、あるいは、1日にいくつかを同時にこなすわけです。

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2021年11月13日 (土)

今週の読書は経済の学術書と新書の計4冊!!!

今週の読書は、あまり一般社会人であるビジネスパーソンにはオススメできないながら、学術書の経済書2冊に加え、経済と環境に関する新書2冊の計4冊、以下の通りです。それから、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、先週までの10~11月分が21冊と、すでに、11月初旬に200冊を超え、本日取り上げた4冊を加えて、合計205冊になりました。

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まず、焼田党ほか[編著]『新型コロナ感染の政策課題と分析』(日本評論社) です。編著者は、日本応用経済学会の会長をはじめとする経済学の研究者であり、本書は仁保膿瘍経済学会の2020年度春季大会(オンライン)で開催された特別セッションに寄稿された論文を収録しています。2部構成となっており、第1部が政策課題、第2部は経済分析です。いうまでもありませんが、完全な学術書であり、一般ビジネスパーソンにはやや敷居が高いかもしれません。私も専門外ですので、チンプンカンプンな論文がたくさんありました。この1冊で17章の論文が詰め込まれています。冒頭は政策課題ということで、日本では決定的にPCR検査が遅れて後手を踏んだという分析結果がいくつか示されています。1年ほど前までは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)という病気は、ワクチンや特効薬がなく、感染力が強い上にデータは少ないものの致死率がそれなりの水準に達するおそれがあったわけであり、このCOVID-19の脅威から国民の生命を守るためには、ハッキリいって、ソーシャル・ディスタンシングしか手段がなかったわけです。しかも、特に若年層の間では無症状夜や軽症状のケースも少なくなく、感染拡大防止の決め手は検査と隔離であったにもかかわらず、検査が進まなかったのは、非正規雇用が極めて多数に上って検査のための休暇取得が困難であった点とともに、実は、キャパの問題であったにもかかわらず、PCR検査の信頼性という虚偽のPRを広めて検査数を抑え込んだ政権の罪は大きいとの結論が示されています。そして、理論的なモデルからも、検査については精度よりも震度を重視して、多数の対象に頻度高く検査を実施すべきである、との結論が示されている論文も見受けました。私もまったく同感です。その安倍政権は突然の辞任で逃げ切って、菅内閣を人身御供にして東京オリンピックとパラリンピックを強行開催し、大きな感染拡大を招き、結局、1年で内閣を交代させて総選挙を乗り切った、という戦略を許してしまったのは残念至極という気がします。本筋に戻ると、本書では、基本的に、SIRIモデルを基にしていくつかのシミュレーション結果や定量的な分析結果が示されています。第2部では、特に経済的なダメージの大きかっら観光産業、犯罪発生、財政問題、などとともに、より長期的な人的資本の蓄積への影響なども分析されています。さらに、こういった分析の多くが定性的な方向性を示すだけでなく、定量的な結果を持って説得力ある結論を導いています。EBPMの必要性が高まる中で、やや怪しい論文があるのも事実ながら、力の入った分析論集だと私は受け止めています。

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次に、小川英治[編]『グローバルリスクと世界経済』(東京大学出版会) です。著者は、一橋大学の名誉教授であり国際金融論が専門です。本書は、日本経済研究所の元会長だった下村治博士の生誕100年記念の特別研究の成果を取りまとめています。出版社からしても、一般ビジネスパーソン向けではなく学術書と考えるべきです。ということで、今世紀に入ってからでも、2008年の米国のサブプライム・バブル崩壊後の金融危機、2010年のギリシアの債務危機、2016年の英国のEU離脱、いわゆるBREXIT、あるいは、米国のトランプ大統領当選もそうかもしれませんし、極めつけは、2020年からのコロナ危機といえます。本書は必ずしも十分に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響を十分に取り込んでいるわけではありませんが、一部に言及されています。そして、基本的に、本書の各論文に共通しているのは、Baker, Bloom and Davis (2016) "Measuring Economic Policy Uncertainty" において提唱された政策不確実性指数、あるいは、これを基に新たに計測された経済産業研究所による日本の政策不確実性指数を用いた定量的な分析を多く示しています。基本的には、この指標はテキスト・マイニングを基に作成されていて、米国のシカゴ市場におけるインプライド・ボラティリティから計算されるVIX指数と少し違った動き方をしている気が私はしています。本書も2部構成であり、第Ⅰ部では大規模な脅威として、米中貿易戦争、金融における中国のバブル崩壊のリスク、そして、BREXITをはじめとする欧州経済のリスクを各章で取り上げ、第Ⅱ部ではより細かな視点に基づく分析として、米国から新興国への資金フロー、アジア諸国に対する直接投資、グローバルリスクの株価への影響が分析されています。特に、私にとって興味深かったのは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のリスクについてキチンと整理されていて、まず、世界的な供給ショックがあり、中国からの輸入が途絶えた点が出発点となっています。次に、国内の正の需要ショックが発生し、まあ、マスクはやや徒花としても、食料品やマスク以外の衛生用品に正の需要ショックが生じて、高齢者が極めてしばしばスーパーに買物を繰り返すという行動が見られたことも事実です。テレワークのためのIT関連製品も品薄になりました。そして、第3段階として最後に、極めて大きな負の需要ショックが発生しました。例えば、対人接触の大きな外食産業や宿泊業などの需要は「蒸発」したとさえいわれました。こういったリスクが、主要紙に対するテキスト・マイニングでどこまで正確に把握できるのかについては、私は専門外なのでよく判りませんが、20年ほど前に日本がデフレに陥ったころにも、国内要因だけでなく、国際的な需給ギャップへの反応という点が議論されたことも私は記憶しており、グローバル化がここまで進み、サプライチェーンやバリューチェーンが広がりを見せているわけですので、国内にとどまらない国際的なリスク分析も必要であることはいうまでもありません。

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次に、宮崎勇・本庄真・田谷禎三『日本経済図説 第5版』(岩波新書) です。著者は、大臣経験もあり、個人ながら、官庁エコノミストの大先輩である宮崎勇をはじめとして、大雑把に大和総研グループと考えてよさそうです。私は誠に不勉強ながら、「第5版」にして初めて手にとって読みました。ということで、実は、昨年も学生諸君に「年末年始の読書案内」として、新書をいくつかピックアップしようと試みているのですが、これもその一環として読んでみました。各ページ見開きで、右の偶数ページに説明文が展開されている一方で、左の奇数ページに図表が並んでいます。そして、構成としては、11章から成っていて、歴史を概観した後、日本経済の構造とその変化のその1とその2、情報通信の発展と情報化社会、雇用・労働、金融・資本市場、財政、国際収支、国民生活、日本経済の展望、となっています。確証に10項目ですから、計110項目なのだと思います。ひとつだけ、難をいえば「環境」が抜けているのですが、その分、というわけでもないながら、最近時点でのコロナの記述はそれなりに充実している気がします。環境が抜けているとはいいつつ、少なくとも、日本経済を学ぶ際には軽く歴史を概観しておく必要がある、という点を実践していることはオススメのポイントです。中には、辞書的に必要な項目を拾い読みする向きもありそうですし、それも十分有益な読書といえますが、やはり、全体を通して読むのがオススメです。というのは、自分の興味ある分野は詳しく読む一方で、ついつい、興味ない分野は飛ばし読みすることがある私としては、日本経済を深く学ぶためには、やはり、歴史を含めて全体像を把握するほうがいいのではないか、と考えています。基礎的な理論をある程度把握している読者を考えれば、圧倒的な情報量ですし、キチンと図表の出典も明記されていますから情報をアップデートすることも容易です。ですから、学生諸君への読書案内に入れておこうと考えています。

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最後に、森川潤『グリーン・ジャイアント』(文春新書) です。著者は、産経新聞や週刊ダイヤモンドなどでの勤務経験のあるジャーナリストです。つい最近のロンドンでのCOP26については、グレタ・トゥーンベリ女史の評価と同じで、私はハッキリと失敗だったと受け止めていますが、それでも、気候変動や温暖化防止のための活動は続くわけで、SDGsはアカデミックな世界よりもビジネスの世界で極めて重視されていることは間違いありません。そういった産業界、経済界における脱炭素ビジネスについて、広範に取りまとめています。例えば、冒頭では、石油メジャーとして有名な超巨大企業であるエクソンを株式総額で一瞬にせよ追い抜いたネクステラという企業を紹介しています。フロリダにある地方電力会社ながら風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーのシェアが高く、この10年で株式価格が10倍に値上がりしたと指摘されています。その他にも、イタリアのエネルやスペインのイベルドローラなど、私なんぞの意識低い人間は聞いたこともない企業が数多く取り上げられています。政府首脳が集まっては失敗を繰り返しているCOPの世界会合に比べて、世界の産業界や経済界はSDGsとともにグリーン産業に大きくシフトしようとしています。我が国政府は化石賞をちょうだいするほどの遅れぶりですし、産業界もまだまだ気候変動や温暖化防止に積極的ではないような印象を私は持っています。経済的な格差を拡大する新自由主義的な政策を世界標準として、積極的に取り入れた我が国政府も、あるいは、我が国の経済かも、こういった世界の潮流を把握して、脱炭素化を進めグリーン・ジャイアントの育成に積極的に取り組まなければ、またまた、世界から取り残されるガラパゴス化の憂き目に合うことにもなりかねません。こういった点で、我が国経済界、あるいは、学界もそうですが、政府とともに国際経験の不足が露呈しているような気もします。本書はそういう意味で、世界の脱炭素の進み具合と日本の政府や経済界、あるいは、ひょっとしたら、暗示的に学界も、それぞれのポジションを明らかにしていて、ひとつの出発点としてとても有益な読書だった気がします。オススメです。

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2021年11月12日 (金)

来週月曜日公表予定の1次QE予想はマイナス成長の予想が並ぶ!!!

必要な統計がほぼ出そろって、来週月曜日の11月15日に7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。9月末まで首都圏や関西圏などに4回目の緊急事態宣言が出ていて消費が冷え込んだ上に、半導体不足などの供給制約を背景に自動車をはじめとして輸出が減少しており、これらの影響が気にかかるところです。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の10~12月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。もっとも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向は、いまだに終息とはいいがたいと受け止められており、何とも不透明ですから、各シンクタンクでも、そのあたりは気にかけているようで、ほとんどの機関で先行きについて言及しています。逆に、先行きについて言及がないのは、テーブルの下の方の三菱系の2機関、すなわち、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと三菱総研だけでした。逆に、大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートでは長々と10~12月期の見通しを詳述しているのですが、ここでは少し短めにカットしてあります。これらも含めて、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。なお、どうでもいいことながら、第一生命経済研は新旧の2種類のリポートを明らかにしており、腰の定まらないところなんですが、成長率予想の数字については新しいリポートから、ヘッドラインの文言については古い方のリポートから、それぞれ引用しています。リンク先も古い方のリポートです。"pdf" が何のことか分からない人はリポートのダウンロードを諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.1%
(▲0.5%)
10~12月期を展望すると、ワクチン接種の進展と、それに伴う活動制限の緩和を背景に、個人消費の回復が本格化するほか、自動車生産の持ち直しも景気を押し上げるため、高めのプラス成長となる見通し。
大和総研▲0.2%
(▲0.9%)
10-12月期の日本経済は、ワクチン接種の進展などにより感染状況が大幅に改善し、経済活動の正常化が進むことで、個人消費を中心に回復基調が鮮明になろう。自動車の供給制約が残存することで家計の自動車購入や輸出は緩やかな増加にとどまるものの、実質GDPは2四半期ぶりのプラス成長となると見込んでいる。
個人消費は、4回目の宣言などが9月30日をもって解除されたことにより宿泊、飲食、教養娯楽関連などへの支出の増加が見込まれる。10月25日には首都圏4都県と大阪府で飲食店への営業時間短縮の要請が解除されるなど、経済活動の正常化が進んでいる。ただし、店舗においては引き続き一定の感染症対策が取られ、人出の回復も緩やかなものとなるとみられることから、個人消費は当面、感染拡大前の水準を下回って推移するだろう。自動車購入については、複数の自動車メーカーが10月以降も当初の予定より減産する見通しであり、供給制約が続くことで軟調に推移するとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.0%
(+0.1%)
10~12月期以降の経済活動は、回復に向かうとみてよいだろう。政府は感染や医療体制の状況改善に伴い、9月末で緊急事態宣言とまん延防止等重点措置を全面的に解除した。解除後1カ月は経過措置として飲食店の時短要請やイベント開催制限を実施(罰則はない)したが、感染者数が引き続き全国的に減少傾向で推移したことを受け、10月25日には東京都など首都圏4都県と大阪府で飲食店に対する時短要請が解除された。また、政府は10月に接種・陰性証明者への制限緩和策(「ワクチン・検査パッケージ」)の実証実験を一部地域で行い、11月から本格的に運用する方針だ。民間企業においても、「ワクチン・検査パッケージ」に類似した営業システム・サービスを独自に導入する動きがみられる。年度後半はワクチンが現役世代まで普及することに加え(20~30歳代の2回目普及率も11月中には70%程度まで達する見通し)、こうした官民でのワクチン接種証明の利活用が押し上げ要因になり、サービス消費は回復に向かう見通しだ。個人消費のけん引役は財からサービスへのシフトが鮮明になるだろう。
ただし、デルタ株の感染力の強さやワクチンの感染防止効果に関する研究結果等を踏まえると、ワクチン普及のみでは集団免疫の獲得は難しく、2022年も感染の懸念が残る状況になると考えられる。ワクチンを打っていない子どもと同居する親世代、あるいは重症化した場合の感染リスクが相対的に高い高齢者などを中心に、消費者の一部ではワクチン接種後も慎重姿勢が残ることが予想され、ペントアップ需要は全体としてみれば限定的になるだろう。
ニッセイ基礎研▲0.2%
(▲0.9%)
緊急事態宣言は9月末で解除されたため、10月以降は外食、旅行などの対面型サービスを中心に個人消費が持ち直しているとみられる。現時点では10-12月期の実質GDPは民間消費の高い伸びを主因として前期比年率5%台の高成長を予想している。ただし、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う行動制限の強化、半導体不足などの供給制約の長期化、国際商品市況の上昇を受けた交易条件の悪化など、リスク要因は多い。
第一生命経済研▲0.2%
(▲0.7%)
10-12月期については持ち直しを予想している。感染者数の減少により9月30日をもって緊急事態宣言は解除され、人出も戻りつつある。これまで抑制されてきたサービス消費の増加が予想されることから、10-12月期から1-3月期にかけて個人消費のリバウンドが予想される。7-9月期に大幅減産となった自動車について、10-12月期以降に持ち直しが見込まれることも押し上げ要因になるだろう。
一方で懸念されるのはエネルギー価格の上昇だ。これから冬を迎え、エネルギー消費が増えるタイミングでの価格高騰は、家計の実質購買力低下やマインド悪化を通じて景気回復ペースを抑制する要因になりうる。また、中国経済の減速が輸出に与える影響にも注意が必要だ。10-12月期以降に高成長が実現するという見方を変更する必要はないとみているが、回復のペースについてはこれまで予想していたよりも鈍いものになる可能性が出てきた。
伊藤忠総研▲0.1%
(▲0.2%)
翌10~12月期は、個人消費がコロナ感染の沈静化や緊急事態宣言解除に伴う各種制限の緩和などを受けて回復に向かい、輸出も欧米など需要地においてコロナ感染の影響が徐々に収束し再び増勢を取り戻す見通しである。こうした内外需の復調を受けて設備投資も拡大基調は維持し、実質GDP成長率は前期比でプラスを取り戻すと予想。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.5%
(▲2.2%)
2021年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比-0.5%(年率換算-2.2%)と2四半期ぶりにマイナス成長に陥る見込みである。夏場の感染第5波の拡大と4回目の緊急事態宣言の発出によって経済活動が抑制されたことに加え、半導体不足やグローバルサプライチェーンの混乱の影響で自動車の生産が急減したことが影響した。
三菱総研▲0.4%
(▲1.7%)
2021年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比▲0.4%(年率▲1.7%)と2四半期ぶりのマイナス成長を予測する。

テーブルを見れば明らかな通り、みずほリサーチ&テクノロジーズを除いて軒並みなマイナス成長が予想されています。ただ、押しなべてゼロ近傍の横ばい圏であることも確かです。GDPコンポーネントで少し詳しく見ると、基本的には、緊急事態宣言に伴う消費の低迷、さらに、半導体供給制約をはじめとする世界的なサプライチェーンの混乱などの要因により自動車生産が急減し輸出が停滞したことなどが響いている印象です。消費の低迷については、いくぶんなりとも、無観客にせよ東京オリンピック・パラリンピックを強行開催したツケであると考えるべきです。そのために、内閣がひとつ交代させられたわけです。逆に、足元から先行きについては、これらのネガな要因が緩和されることによる成長加速が見込める、というのが各シンクタンクの一致した見方となっています。もっとも、消費がコロナ前にそのまま戻るとは考えられませんし、サプライチェーンの混乱がどこまで解消できるかもコロナ次第の面があります。加えて、国際商品市況における石油価格の上昇がインフレ圧力を強めており、我が国だけは「デフレ脱却に追い風」のような考えが成り立たないわけではないものの、家計や企業の実質購買力には当然ダメージがあり、景気の下押し要因となる可能性が高いと考えるべきです。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから引用しています。

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2021年11月11日 (木)

今日は我が家の結婚記念日!!!

帰りが遅くなって、すっかり忘れてしまわないうちに、今日は、我が家の結婚記念日でした。昨年が25周年の銀婚式でしたので、今年は26年目を通過して、27年目に入った、ということになります。

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高い上昇率となった10月の企業物価指数(PPI)の先行きをどう見るか?

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+8.0%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

10月の企業物価指数、前年比8.0%上昇 前月比1.2%上昇
日銀が11日発表した10月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は107.8と前年同月比で8.0%上昇、前月比で1.2%上昇だった。市場予想の中心は前年比7.0%上昇だった。
円ベースで輸出物価は前年比13.7%上昇、前月比で2.1%上昇した。輸入物価は前年比38.0%上昇、前月比で4.1%上昇した。

とてもコンパクトに取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、2020年5月を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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このところ、消費者物価指数(CPI)でみても、本日公表の企業物価指数(PPI)でみても、いずれも、順調に足元で物価が下げ止まり、ないし、上昇しつつあると私は評価しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスではPPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で+7.0%の上昇と予想されていましたから、実績の+8.0%はやや上振れた印象です。国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の上昇に起因するコストプッシュとはいえ、物価の上昇そのものはデフレ脱却には有益な可能性があります。もっとも、この動きが一巡すれば上昇率で計測した物価も元に戻ることは覚悟せねばなりません。ということで、国内物価について品目別で前年同月比を少し詳しく見ると、木材・木製品が57.0%、石油・石炭製品が+44.5%、非鉄金属が+31.2%、鉄鋼+21.8%、化学製品+14.1%が2ケタ上昇となっています。ただし、これら品目の上昇幅拡大の背景にある原油価格の前年同月比上昇率は、今年2021年5月の+238.8%をピークに、6月+173.2%、7月+102.8%、8月+68.6%、9月統計+63.3%と来て、足元の10月統計では+88.7%と上昇率が再拡大しています。私はこの方面に詳しくないものですから、日本総研のリポート「原油市場展望」とか、みずほ証券のリポート「マーケット・フォーカス」とかを見ているんですが、石油に対して暖房需要の高まる冬場を越えて、春からは需給のひっ迫感が和らぐにつれて、原油価格は徐々に水準を切り下げる見込みも示されています。従って、前年同月比上昇率で見ればピークアウトに向かっている動きに大きな変わりはないものと私は楽観しています。言葉を代えれば、国際商品市況における石油ほかの1次産品をはじめとして、中国などの新興国における景気回復に伴って、基礎的な資源価格の上昇が背景にあると考えるべきであり、つまり、必ずしも日本ではなく世界のほかの国の景気回復により、我が国の物価が上昇幅を拡大している、というわけなのかもしれません。

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2021年11月10日 (水)

日本経済研究センターによる9月の景気後退確率は71.0%に急上昇!!!

昨日11月9日に日本経済研究センター(JCER)から9月の景気後退確率が明らかにされています。警戒レベルの67%を超えて71.0%に急上昇しています。まず、JCERのサイトから景気後退確率(2021年9月)のグラフを引用すると以下の通りです。

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昨日取り上げた景気ウォッチャーにも現れているように、おそらく、10月の確率は大きく落ちるのではないか、と私は考えていますので、それほど神経質になる必要はない、と受け止めています。

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2021年11月 9日 (火)

大きく改善した10月の景気ウォッチャーと輸出の停滞続く9月の経常収支をどう見るか?

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+13.4ポイント上昇の55.5と大きく改善し、先行き判断DIも+0.9ポイント上昇の57.5を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列で1兆337億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を手短に、読売新聞日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

10月「街角景気」の現状、2か月連続で改善...宣言解除受け
内閣府が9日発表した10月の景気ウォッチャー調査によると、景気に敏感な小売店主らに聞いた「街角景気」の現状を3か月前と比べた判断指数(DI、季節調整値)は前月比13.4ポイント高い55.5で、2か月連続で改善した。緊急事態宣言の解除などを受け、水準は2014年1月(55.7)以来の高さとなった。
2~3か月先の景気の見通しを示す先行き判断指数は前月比0.9ポイント上昇の57.5となり、2か月連続で改善した。
9月の経常収支、1兆337億円の黒字
財務省が9日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆337億円の黒字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆601億円の黒字だった。
貿易収支は2299億円の赤字、第1次所得収支は1兆7532億円の黒字だった

短いながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。

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ということで、景気ウォッチャーは現状判断DIが大きくジャンプし、先行き判断DIも小幅に改善しました。すべての要因は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響の緩和であり、ひとつは新規感染者数の減少により、予定通りに、9月末をもって緊急事態宣言が解除され、しかも、まん延防止等重点措置も講じられることなく、完全解除となりましたから、マインド的には大きなインパクトあったと考えるべきです。現状判断DIの前月差で見て、先月9月統計の+7.4ポイント上昇に続いて、今月の10月統計も+13.4ポイントの改善ですから、それ自体として大きな上昇なんですが、3つのカテゴリーに分けると、家計動向関連が+15.4ポイント上昇したのに対して、企業動向関連は+8.6ポイントにとどまっています。もちろん、半導体などの自動車部品の供給制約による生産の停滞も含めての結果と考えるべきです。家計動向関連の中でも、飲食関連+31.2ポイント、サービス関連+20.6ポイント、小売関連+12.5ポイント、などとなっています。このため、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を9月の「持ち直しの動きがみられる」に、から10月統計では「緩やかに持ち直している」と、ビミョーに上方修正しています。ただし、いつもの私の考えですが、経済の先行き見通しは完全にCOVID-19次第となりました。季節が進んで気温が下がって乾燥するので、COVID-19に限らずコロナ・ウイルスの感染は拡大する方向ですし、またまた、新たな変異株が新規感染者を増加させて緊急事態宣言が出たりすると、元の木阿弥になりかねません。少なくとも、安倍政権と菅政権は検査体制を含めて医療体制の整備にはほとんど関心を示しませんでしたから、感染拡大に従って緊急事態宣言が出て、感染減少に伴って緊急事態宣言が解除される、古いタイプの Stop and Go 政策の繰り返しでしたが、現在の岸田内閣には、PCR検査の拡充も含めて、何とか抜本的な医療体制整備を図ってほしいと私は考えています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。引用した記事では、輸出が大幅増としていますが、昨年2020年は全体として新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済への影響が大きかった時期ですので、今年2021年中は前年同月比で見れば、輸出入とも増加を示している結果となっています。特に、輸出の実勢はそれほど伸びているわけではありません。すなわち、世界経済が順調に拡大している需要面での輸出への好影響は見られるものの、供給面では、間接的ながら新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響があり、東南アジアにおける半導体などの供給が滞っているために世界的なサプライチェーンが混乱を見せ、生産が減少して輸出への悪影響が出ています。他方で、輸入は国内景気が伸び悩む中で、国際商品市況における石油価格の値上がりから増加を示している、ということになります。

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2021年11月 8日 (月)

基調判断が「足踏み」に下方修正された9月の景気動向指数を考える!!!

本日、内閣府から9月の景気動向指数公表されています。CI先行指数が前月から▲1.6ポイント下降して99.7を示し、CI一致指数も前月から▲3.8ポイント下降して87.5を記録しています。まず、統計のヘッドラインを手短に報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

9月の景気一致指数、3.8ポイント低下 市場予想3.8ポイント低下
内閣府が8日発表した9月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比3.8ポイント低下の87.5となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は3.8ポイント低下だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.6ポイント低下の99.7だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏み」と、前月の「改善」から変更した。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。

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ということで、統計作成官庁である内閣府では、3月に基調判断を上方改定して、8月統計まで6か月連続で「改善」に据え置いた後、引用した記事にもあるように、本日公表の9月統計から「足踏み」に下方修正しています。明確に1ノッチ下げたわけです。基準がどうなっているかというと、「3か月後方移動平均が3か月連続して上昇していて、当月の前月差の符号がプラス」となっています。8月統計からすでに3か月後方移動平均がマイナスになっていたのですから、1か月前から「足踏み」ではなかったのか、と私は考えます。かなり機械的に判断を下すシステムですので、まさか、総選挙が近いので「改善」の看板を続けた、ということはないのだろうと私は考えています。
9月統計について、CI一致指数を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、耐久消費財出荷指数、鉱工業用生産財出荷指数、輸出数量指数、生産指数(鉱工業)などの系列でマイナス寄与が大きくなっています。逆に、プラス寄与はトレンド成分で仮り置きしてある営業利益(全産業)のほかは、有効求人倍率だけしかありません。加えて、統計には反映されていないものの、生産や輸出については、半導体の供給制約とアジアにおける新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う部品不足が自動車工業の先行きに影を落としています。我が国の基幹産業であるだけに今後の動向が懸念されます。

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2021年11月 7日 (日)

クライマックス・シリーズを連敗して阪神終戦!!!

  RHE
読  売003000010 470
阪  神020000000 2112

リーグ戦2位通過ながらクライマックス・シリーズは、巨人に連敗して終戦でした。私はテレビ観戦がバカバカしくなって、ラッキーセブン終了の時点で負けを確信し、出かけてしまいました。
まあ、これだけ塁上を賑わして、7安打の巨人を上回る11安打を放ちながら決定打なく2得点でしたから、普段通りの戦いが出来た気はします。普段通りに負けただけですし、実力通りなのかもしれません。これだけの戦力があるわけですから、キャンプに加えて、ポストシーズンの試合に向けた調整の失敗なんだろうと思います。

来シーズンは、
がんばれタイガース!

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2021年11月 6日 (土)

打線に決定打なくクライマックス・シリーズ第1戦はボロ負け!!!

  RHE
読  売000012010 490
阪  神000000000 050

決定打なく、クライマックス・シリーズ第1戦はボロ負けでした。
まあ、超短期決戦ながら、初戦敗戦は想定内のような気もします。ただ、ここまで何の抵抗もできずに、5安打無得点でアッサリと敗戦とは、明日につながるものがあるんでしょうか。やや心配ではあります。

明日はもう後がない、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書と歴史書に加えて新書まで含めて計4冊!!!

今週の読書は、統計学や計量経済学の大御所の先生による50年の資本主義の歴史を振り返った経済書、西暦1000年とかなり早い時期をグローバリゼーションに起点に置いた歴史書、さらに、新書を加えて計4冊でした。以下の通りです。それから、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、先週までの10月分が17冊に、本日取り上げた4冊を加えて、合計201冊になり、年間予想の200冊を11月初旬で超えてしまいました。すでに、研究費で何冊か経済書を買い込んでおり、年内にどこまで積み上がるか、自分自身でも興味深いところです。なお、自分自身の読書とは別口ながら、昨年も「年末年始休みの読書案内」と称して何冊か新書を紹介しましたが、今年も準備を始めています。昨年分に何冊か付け加えていますので1ダースほどになるんではないかと思います。

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まず、宮川公男『不確かさの時代の資本主義』(東京大学出版会) です。著者は、一橋大学名誉教授であり、統計学や計量経済学の大御所といえます。本書は「ニクソン・ショックからコロナまでの50年」との副題が付されており、1970年から50年間の米国および日本経済を跡づけています。分厚い中流階級を持ち、格差の小さな戦後経済から1980年代のレーガン政権による新自由主義的な経済政策の採用やスキル偏重型の技術進歩に加え、いわゆるペティ-クラーク法則に合致した農業から製造業さらに非製造業と産業構造が変化していく中で、特に、米国の場合は金融業の肥大化が進み、現在のような格差が大きな経済社会が形成されていった様子が克明に明らかにされています。ただ、著者の専門分野らしく、統計などのデータで明らかにするわけではなく、時代を画するような名著をサーベイした上で、そういった50年間の歴史の流れを明らかにしようと試みています。英語文献に親しみを得ようとする向きにはいいのかもしれませんが、私はやや批判的な視点を持って読み進みました。すなわち、まあ、何といいましょうかで、統計が著者の専門ですので、文献だけでなく、もう少しデータの裏付けがあったもよかったんではないか、という読者もいそうな気がします。加えて、50年の歴史の流れについては、本書のタイトルのように「不確かさ」とか、不確実の語で代表させていいのかどうか、私には疑問です。すなわち、従来のように、親の世代から子の世代へ、さらに、孫の世代に着実に豊かになっていくというパースペクティブが失われた、という意味で不確実性に焦点を当てているわけですが、そうであれば、家業を継いでいた中世封建制のころが確実でよかったのか、というわけでもなかろうという気がするからです。もうひとつは、日米の経済的不平等の進み方の差について、やや不親切な気がします。すなわち、米国では、典型的には、もともと所得の多かった企業経営層がさらに稼ぎを増やして、いわば、富裕層がさらにリッチになる形で格差が拡大したのに対して、日本では非正規雇用の拡大に見られるように、所得がもともと少なかった層がさらに所得を減らす形で格差が拡大しています。それだけに、我が国の経済的格差の拡大は米国よりも一層深刻であるとの見方すら成り立ちます。単に、新自由主義制作により格差が拡大した、というひとくくりの議論では、その対策となるべき政策課題が見えてこない可能性もあります。注意が必要です。最後に、出版社から受ける印象ほど、決して学術書という内容ではありません。多くのビジネスパーソンにも判りやすく書かれています。

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次に、ヴァレリー・ハンセン『西暦1000年 グローバリゼーションの誕生』(文藝春秋) です。著者は、米国イェール大学の歴史の研究者です。京都大学への留学経験もあるようです。英語の原題は The Year 1000: When Explores COnnected the World - and Globaliation Began であり、2020年の出版です。タイトル通りに、グローバリゼーションの誕生を1000年に置いた歴史研究となっています。すなわち、通常は、15世紀終わり、典型的にはコロンブスの米州大陸発見とか、バズコ・ダ-ガマの希望峰発見とかの欧州勢による大航海時代の始まりを持ってグローバリゼーションの開始とする見方が多い中で、本書ではそれを500年前においた歴史観を提示しています。そのエポックのひとつが、遼と宋の澶淵の盟に置かれており、宋=南宋は海外交易にせっせと精を出し始め、例えば、中国王朝の伝統的な財源であった土地や農作物、あるいは、塩などへの課税から、今でいう関税を導入し、課税対象を輸入品に切り替えた点などが強調されています。もちろん、その後のモンゴルによるユーラシア大陸当時を横断した大帝国の成立と、現在も言葉として残る郵便制度の確立による交通の発達がこれに続き、さらに、明初期の鄭和提督による大航海にもつながります。ただ、私の見方としては、残念ながら、この鄭和提督による大航海がそこでブチ切れているわけで、近代から現代へとつながっているわけではありませんから、現在の世界的なグローバリゼーションが1000年ころに起源を持つというのは、やや同意が困難という気がします。何度か、このブログで強調したように、現時点で、あくまで現時点ながら、欧米諸国が世界に覇権を及ぼしている、というか、世界の先進国である唯一最大の理由は産業革命を経験しているからであると私は考えており、その産業革命を先導したグローバリゼーションとしては、断絶ある明初期の鄭和提督による大航海よりも、コロンブスやマゼランなどの欧州勢による大航海のほうがグローバリゼーションの歴史の中で重視されるべきである、と私は考えます。なお、巻末に関連図書と見学先のリストが章別に示されています。最初に書いたように、作者は京都大学への留学経験もあることから、本書でも、仏教の末法に関して平等院への言及、あるいは、お香に関して『源氏物語』への言及もありますが、京都のいくつかの博物館、また、平等院が見学先として上げられています。ご参考まで。

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次に、冨山和彦・田原総一朗『新L型経済』(角川新書) です。著者は、コンサルタントとジャーナリストです。タイトルの「L型経済」とか、L型企業とはローカルの頭文字であり、グローバルな大企業であるG型企業と対比させて、地方の中小企業というくらいの緩い定義で使われています。基本は、安倍政権や菅政権が推進して、かなりの程度に国民に否定されつつある新自由主義的な政策の継続的な推進を要求する内容となっていて、私はとてもガッカリしました。しかも、かなりの程度に相矛盾した主張が展開されています。矛盾したご意見だけに、適用する相手や主張先により、適宜、入れ替えて何度も利用できるのかもしれません。いくつか論点を整理すると、東京一極集中から地方経済の活性化のために、L型企業の地方展開を促したり、逆に、企業数が多過ぎるとして生産性の上がらない中小企業の淘汰を主張したり、加えて、最低賃金を引き上げて中小企業淘汰に利用したりする方向を示したり、そうかと思えば、「令和の大徳政令」による中小企業のリセットなど、取りとめもなく、いろんなL型企業への政策対応が整合性を持たずに展開されています。私は、基本的に雇用者に対して最低賃金引き上げの恩恵が行き渡るべく、賃金上昇によるコスト増に対応するよう中小企業を支援する、という方向性です。ひとつだけ指摘しておくと、体力のある中小企業だけが残るような淘汰を主張すれば、実は、本書でも指摘されているように、雇用を生み出さないGAFAのようなネット企業と同じタイプの中小企業、たとえネット企業やデジタル産業でなくても、雇用を生み出さない企業しか残らない、という事実が見えていないようです。ですから、GAFAに典型的に見られるように、米国では高所得層がさらに所得を増加させることにより格差が拡大したわけですが、富裕層はそういった経済政策を要求するのだろうという、水面下の事情が透けて見えます。日本は米国などとは逆に、非正規雇用の拡大に見られるように、低所得層がさらに所得を減少させる形で格差が広がっています。このあたりは、主流派経済学でも数量的に確認された事実です。これを無視しているとしか私には見えないわけで、日本では中小企業や非正規の労働者を底上げするような経済政策が必要だという確立された事実に理解が及んでいません。とても残念な読書でした。

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最後に、見波利幸『平気で他人をいじめる大人たち』(PHP新書) です。著者は、日本のメンタルヘルス研修の草分けとして活躍してきたそうです。私の拙い知識からすると、心理学には社会心理学という経済学でいえばマクロ経済学に当たる分野と臨床心理学というミクロ経済学に当たる分野があって、本書は後者に属するんだろうと受け止めています。ですから、大人のいじめに関して、特に、職場におけるパワハラを中心に、ご近所付き合いのママ友とか、大人のいじめや嫌がらせを幅広く、実例も含めて取り上げて解説を加えています。そして、それらのカテゴリーとして、自分の感情をコントロールできない「感情型」、自己愛が強い「自己愛型」、他者が自分にとって使える人間かどうかでしか判断しない「他者利用型」に分類した上で、敵対的な反応はかえって逆効果になる場合があると指摘しつつ、どのような対抗策があるのかを論じています。加えて、長い目で見て最も有効な解決策として、他者と本当の信頼関係を作り上げる「傾聴」のスキルについても論じています。私は割合と平穏無事なサラリーマン生活を送ってきて、それほど職場の人間関係に困難を来したことはなかったのですが、今の教員はかなりの程度にパパママ・ストアの独立性を有した職業ですので、チームで仕事をする配慮にかて人格に疑問ある教員もままいたりします。まあ、大学教授なんて変わり者が多いという世間一般の見方もあながち否定できない実態があるわけで、私自身も今夏からはひどいバッシングにあって、ごく限られた業務に難色を示したことに端を発して、大学教員としての全人格を否定しかねないひどい非難のメールを送りつける教員もいたりして、体重が激減した記憶があります。どこの職場にも人格が破綻した人がいるものながら、大学という白亜の巨塔はそれなりに怖いという気がしました。私を攻撃した人は自慢話が大好きですから、たぶん、本書の分類では自己愛型ではなかったか、という気もします。

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2021年11月 5日 (金)

10月統計に見る米国雇用は雇用拡大が続いて人手不足が深刻か?

日本時間の今夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は今年2021年に入って着実にプラスを記録していて、本日公表の10月統計では+531千人増に上っています。同時に、失業率は前月の4.8%から10月には4.6%に低下しています。まず、長くなりますが、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を、久しぶりに長々と、15パラに渡って引用すると以下の通りです。

Economy adds 531,000 jobs in October as COVID cases drop, unemployment falls to 4.6%
Hiring rebounded sharply in October as COVID-19 cases tumbled while the reopening of most schools and expiration of unemployment benefits prodded some Americans to return to work.
The economy added 531,000 jobs and the unemployment rate, which is calculated from a different survey, fell from 4.8% to 4.6%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 450,000 jobs were added last month.
Also encouraging: Job gains for August and September were revised up by a total 235,000, depicting a far brighter picture of the labor market during the delta variant-fueled COVID spike the past two months.
So far, the U.S. has recovered 18.2 million, or 81%, of the 22.4 million jobs lost during the depths of the pandemic in the spring of 2020. That leaves the nation 4.2 million jobs below its pre-crisis level.
October's healthy payroll gains were broad-based.
Leisure and hospitality, the industry hit hardest by the pandemic, added 164,000 jobs, with restaurants and bars adding 119,000. Professional and business services added 100,000. Manufacturing added 66,000 in a sign persistent supply-chain bottlenecks may be easing.
Transportation and warehousing added 54,000 jobs. Construction added 44,000 despite severe worker shortages and rising material prices. Health care added 37,000 and retail, 35,000.
Federal, state and local governments shed 73,000 jobs as public education jobs fell by 65,000 after seasonal adjustments. Labor partly chalked up the third straight large monthly drop to pandemic-related distortions of seasonal hiring and layoffs at schools.
Some economists said several factors likely coalesced last month to jolt a job market that had sputtered in August and September.
New daily COVID cases have fallen by half since mid-September to about 70,000 - still well above the low of 12,000 in early July. And nearly 80% of people over 12 have been fully vaccinated.
Recently 1.7 million fewer people said they weren't working because they feared contracting the virus or were caring for sick friends or relatives, according to the Census Bureau's most recent household pulse survey and Oxford Economics.
Meanwhile, in September, most schools reopened for in-person learning, allowing many parents to rejoin the workforce, says Oxford economist Lydia Boussour. That month, federal unemployment benefits expired for 11 million people, nudging some to resume their job searches, Boussour says.
Those developments will likely continue to play out in coming months, she says, easing worker shortages that have crimped hiring this year despite a near-record 10.4 million job openings in August.
Although they likely meant a larger pool of applicants to some employers last month, their overall impact was modest. The number of Americans working or looking for jobs grew by about 100,000 but the share of all adults participating in that labor force was unchanged at 61.6%.

とてつもなく長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、2020年4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+450千人とか、+500千人の雇用増が予想されていましたので、+531千人増はやや上振れた印象です。加えて、9月統計も+200千人足らずから+312千人と大きく上方修正されましたし、さらにさらにで、失業率は今年2021年年初には6%前後だったんですが、最近では5%を下回る水準までまで低下を示しています。ということで、やはり、10月統計については、緩やかながらも雇用の改善は続いており、人手不足であることは確か、というのが大方のエコノミストの見方ではないでしょうか。特に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進んでいたところに、バイデン政権の大幅な財政拡大があって、雇用改善が進んでいたわけなんですが、国際商品市況における石油価格の上昇もあって、米国のインフレはかなり高進していますから、連邦準備制度理事会(FED)は見事に市場との対話に基づいてテイパリングへと舵を切りました。私のような高圧経済支持者からすれば、パンデミック前には失業率は3%台半ばだったわけですから、現状ではまだCOVID-19の影響を脱したとはいえまず、いま少し需要拡大を図るのも一案だと考えていますが、インフレ動向からすれば金融政策が引き締め方向に進むのは当然かもしれません。

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2021年11月 4日 (木)

労働政策研究・研修機構「コロナ禍における仕事・生活とメンタルヘルス」やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、11月2日に労働政策研究・研修機構(JILPT)から「コロナ禍における仕事・生活とメンタルヘルス」と題するリポートが公表されています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が長期化する中で、仕事・生活状況とメンタルヘルスについて、2021年6月時点における感染不安や行動自粛にともなうストレス、加えて、所得減少等にともなう生活不安についての分析結果をリポートしています。

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中でも私が注目したのが、メンタルヘルスの悪化要因を計量分析した上のテーブルです。もちろん、労働政策研究・研修機構(JILPT)のサイトから引用しています。メンタルヘルスはK6スコアで計測されています。K6スコアとは、うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的としてKesslerらが開発した6項目の尺度であり、その中でも、メンタルヘルス悪化をK6スコア5点以上になる確率でみて、ロジット・モデルで推計しています。テーブルの限界効果の欄で見て取ることが出来ます。属性として、年齢が高かったりするとメンタルヘルスは悪化せず、有配偶の場合もメンタルヘルスには好影響との結果が示されていますが、経済的な要因としては、COVID-19の経済的影響によって自身の収入減少の場合にはK6スコアが5点以上になる確率が8%高くなり、本人ではなく世帯の生活水準が低下すると22%も確率が高くなります。経済的要因のほか、周囲にCOVID-19罹患者がいる場合、罹患者がいない場合と比べて、K6スコアが5点以上になる確率が7%高くなり、持病があると12%ほど確率がアップするようです。行動自粛もわずかな確率上昇ながら統計的に優位なメンタルヘルス悪化要因といえます。ただ、ワクチン接種がメンタルヘルスの悪化防止につながっていない結果が示されていますが、これは、本年2021年6月段階で、ワクチン接種の広がりが限定的だった可能性があり、現在では違う結果が得られるかもしれません。

いずれにせよ、COVID-19は典型的にフィジカルな病気であって、肺炎から死に至る可能性もあるわけであり、医学的な課題なのでしょうが、同時に、これだけの広範な影響が各方面に及ぶことになれば、経済的な影響も含めて、COVID-19に罹患しなくてもメンタルヘルスに悪影響を生じることもあり得るわけで、その詳細が分析されることは意義あることだという気はします。

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