3か月ぶりに小売販売額が前年比プラスとなった10月の商業販売統計をどう見るか?
本日、経済産業省から10月の商業販売統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.9%増の12兆5520億円、季節調整済み指数でも前月から+1.1%の上昇を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。
小売販売額10月0.9%増 緊急事態解除で3カ月ぶり増
経済産業省が29日発表した10月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比0.9%増の12兆5520億円だった。緊急事態宣言が9月末で全面的に解除され、3カ月ぶりに増えた。百貨店や家電大型専門店などが前年同月を上回った。
百貨店は2.5%増の4265億円で3か月ぶりのプラスだった。家電大型専門店は1.9%増の3511億円で5カ月ぶり、ホームセンターは0.4%増の2808億円で6カ月ぶりに前年を上回った。スーパーも1兆2252億円と0.9%増えた。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると1.1%上昇した。経産省は基調判断を「横ばい傾向」に据え置いた。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。前のIIPのグラフと同じで、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。
基本的には、引用した記事のタイトル通りに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する緊急事態宣言が9月いっぱいで解除された要因が大きいのでしょうが、考えるべきポイントが3点あります。すなわち、第1に、自動車小売業が先月9月の▲12.6%から、さらにマイナス幅を拡大して10月には▲19.8%を記録しています。半導体の供給制約に起因する自動車の減産が影を落としています。しかも、東南アジアでのCOVID-19の感染拡大が半導体の供給制約をもたらしていますので、つい最近のオミクロン変異株の影響が東南アジアに及ぶようになれば、さらにこの減産幅が拡大する可能性が高いことは覚悟すべきです。もちろん、単に、国内の小売業販売額だけでなく、輸出への影響も考えられます。第2に、逆に、小売販売額の中で売上げを伸ばしているのが燃料小売業の+26.9%増です。しかし、この商業販売統計は名目値での統計であり、昨今の国際商品市況における石油価格の上昇を反映した燃料価格の上昇によってもたらされている部分が小さくないと考えるべきです。例えば、カテゴリーとして統計的な整合性があるわけではありませんが、総務省統計局の消費者物価指数 (CPI)を見ると、10月ではエネルギーが前年同月比で+11.3%の上昇、ガソリンに至っては+21.4%の上昇ですから、燃料小売業販売額の増加分+26.9%のうちの半分ほどが物価上昇に由来する可能性があります。数量ベースの実力はもっと小さいわけです。第3に、何度か書きましたが、この商業販売統計は基本的に物販のみを対象としており、サービスは含んでいません。ですから、COVID-19の経済的な影響が最も大きかったとされる対人接触の多いサービス、すなわち、飲食や宿泊は含まれていません。ですから、このサービスの変動が緊急事態宣言の解除に従って振れが大きかった可能性が高いと考えられます。また、サービスを含む総務省統計局の家計調査からこの商業販売統計は上振れしている可能性も考慮する必要があります。
先行きについては、何ともいえず、オミクロン株を含むCOVID-19の感染拡大次第としかいいようがありませんし、特に、新たな変異株であるオミクロンについては、私ごときエコノミストが判断のしようもありません。毒性はともかく、感染力が強くてワクチン耐性も高いと報じられているオミクロン株が本格的に日本に入る前に、消費の観点からは、年末年始商戦が活発であってほしいと願っています。
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