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2021年12月18日 (土)

今週の読書は新書なしの経済書・専門書と重厚な小説だけで計4冊!!!

今週の読書は、久しぶりに、新書はなく、経済書や教養書とともに、重厚な小説まで計4冊です。このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、その後、本日の4冊を含めて今週までに10~12月で48冊、今年の総計で229冊になりました。

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まず、ペリー・メーリング『21世紀のロンバード街』(東洋経済) です。著者は、米国ボストン大学の経済学者です。英語の原題は The New Lombard Street であり、2011年と10年前の出版です。もちろん、英国人のバジョットの古典的な名著である『ロンバード街』になぞらえたタイトルです。2011年の出版ですから、2007-08年のサブプライム・バブルの崩壊の後の金融危機の解明を試みています。ただ、その解明については成功しているとはいい難く、そのために邦訳が大きく遅れたともいえます。まあ、出版社の営業的な見方かもしれませんが、このコロナ禍の中で日本語版への序言を含めて出版される運びになったんではないか、と私はゲスの勘ぐりをしていたりします。やや言葉の遊びではないかと見えるレッテルの貼り替えで経済の本質を説明しようとし過ぎているきらいがあります。経済学ビューとファイナンシャル・ビューを対立させて中に著者のマネー・ビューを紛れ込ませたり、金融危機の際の銀行への流動性供給に関しても、バジョット的な適格担保に対する懲罰的な高金利による「最後の貸し手」機能に対置させる最後のディーラーなんて、どの程度の経済学的な意味があるのかは不明です。確かに、2008年からの金融危機の際には、インターバンクの取引が機能不全に陥ったために、民間銀行が中央銀行に開設している準備預金口座残高に付利して中央銀行の準備預金口座に流動性を確保した上で、それらを民間銀行に還流させるという手法が取られたことは確かですが、その後、欧州のECBや日銀では準備預金の一部なりともマイナス金利を適用する試みが続けられていますし、果たして、中央銀行が本書でいうところの「最後のディーラー」機能を発揮しているとはいい難い気もします。マイナス金利の登場前、というか、本格的なマイナス金利の分析が行われる前に本書は出版されていますので、スコープには含まれていません。10年前の出版物にそこまで期待するのは酷というものでしょうから、ある程度の制約があるものと理解した上で読み始めるのが吉かもしれません。また、米国人エコノミストの著作ですから、英国の実際のロンバード街、というか、イングランド銀行や米国の連邦準備制度理事会(FED)の活動の本質、あるいは、歴史的な考察にまで幅広く取り上げているわけではありません。ちょっと、物足りないかね、という気はします。強くします。

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次に、宮路秀作『経済は統計から学べ!』(ダイヤモンド社) です。著者は、代々木ゼミナール地理講師であり、2017年には『経済は地理から学べ!』を出版しています。この前著は私は未読であり、なかなかに興味深いタイトルなのですが、本書については、経済学が統計から学べるのはあまりにも当然ですから、まあ、そんなもんかという気がします。別の観点からロスリング『FACTFULNESS』の影響を受けているのは明らかです。ということで、経済を6つの視点から読み解こうと試みています。すなわち、人工、資源、貿易、工業、農林水産業、環境です。特に、貿易については日本は世界でも有数世界第4位の貿易高を有している、というのは、この数字を意外と思う人はかなり経済に関してシロートだという気がします。私は経済学部生向けの今週の授業でも取り上げましたし、この授業の最初の方の回で「日本は経済大国である」と明らかにしています。まあ、ついでに「軍事大国でもある」と付け加えたかったのですが、授業のスコープ外でしたのでヤメにしました。本書に視点を戻すと、そもそも本書は大学受験を控えた高校生向け、ないし、経済学の初学者向けでしょうから、それなりの読みどころはありそうで、私のように、逆に、大学で経済学を教えているエコノミストやビジネスパーソンには物足りないのは、ある意味で、当然かもしれません。ただ、高校の社会科でも学習するように、ペティ-クラークの法則などからも明らかで、非製造業が取り上げられていないのはやや不安に感じます。でも、さはさりながら、こういった良書を読んで経済学を志す高校生が増えてくれることを願っています。強く願っています。

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次に、ドミニク・フリスビー『税金の世界史』(河出書房新社) です。著者は、英国人の金融ライターであり、コメディアンでもあると紹介されています。やや、私には理解不能だったりします。日本ではこういう人は少ないような気がしますが、でも、コメディアンで家電に強い、といった人は少なからずいたりしますので、家電が金融に置き換わっているだけかもしれません。英語の原題は Daylight Robbery となっており、2019年の出版です。ということで、英語の原題は本書冒頭にあるように、著者の本国である英国で中世に窓に対して課税したため、窓の少ない家が建築されて日光の取り込みが出来なく不健康になった故事に加え、税金が白昼堂々の泥棒行為に近いという比喩の意味も込めて付けられているようです。ただ、さすがに、中世の窓税などは経済学的な観点ではなくエピソード的な役割を果たしているだけで、経済学的な意味からはさすがに近代以降の税金、特に、金本位制下の税金と現在のような不換紙幣制における税金では、かなり意味が違いますから、より現在に近い税制に私は興味を持ちました。もちろん、20世紀に入ってからも、本書にあるように、ラッファー・カーブのように、ブードゥー経済学に近い扱いを受けている税制理論もあったりします。ですから、税制に関する経済学的な理論解明、というよりは、いろんなエピソードを楽しみながら税金について考える、あるいは、リバタリアン的に政府や税制を揶揄して溜飲を下げる、といった利用が想定されているのかもしれません。例えば、ということでは、米国の南北戦争はホントは奴隷制を争点にした南北の対立から生じたわけではなく、北部諸州の関税確保のための武力行使だった、とかです。ほかに、リバタリアン的な観点から管理者のいないビット・コインが解説されていたり、デジタル・プラットフォームを運営するシェアリング・エコノミー業者、例えば、UberやAirbnbとかの企業活動と課税の問題などもいい線いっている気がします。税金については永遠に話題性が失われることはありませんし、読んでおいて損はないような気もします。

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最後に、小池真理子『神代憐れみたまえ』(新潮社) です。著者は、ミステリやホラーの分野を得意とする小説家ですが、本書はそういったミステリやホラーの要素はそれほど強くはありません。主人公は1951年生まれの百々子であり、大手製菓企業のご令嬢として大学までピアノを勉強します。しかし、小学校6年生のときに大手製菓会社の跡取りの両親を惨殺され、お手伝いさんの家でその一家に囲まれて生活して成人します。ほぼほぼ、ミステリの要素はありませんが、この主人公の両親の殺人事件の犯人、そしてその犯人の殺人の動機は、最後に名探偵が一気にどんでん返しに明らかにするのではなく、私の好きなパターンで、小説の進行とともに徐々に明らかにされて行きます。そして、私とほぼ同年代の主人公が60歳過ぎになった段階で、かなり特殊な終わり方をします。主人公が若年性痴呆症と診断されるのです。最後の終わり方が壮絶であるのは好みによりますが、主人公の人生そのものがかなり波乱万丈であっただけに、私の好みとしては、もっと淡々と終結を迎える方がよかった気もします。もちろん、こういった壮絶な終わり方を好む読者もいっぱいいそうな点は私のような不調法者にも理解できます。先ほど、極めて単純に「波乱万丈」と、私らしく貧弱な表現をしてしまいましたが、人生の進行に伴って生じるプラスのエピソードとマイナスのイベント、私のような単純で平凡な人生ではなく、いかにも小説になりそうな「塞翁が馬」的な人生、12歳の小学校高学年のころから、私のような平凡なサラリーマンであれば定年を超えた60歳過ぎまで、昭和に生まれて平成の終わりころまでの50年間を追った圧巻の一代記です。

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