資源高で赤字の続く貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+20.5%増の7兆3670億円、輸入額も+43.8%増の8兆3218億円、差引き貿易収支は▲9548億円となり、4か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。
11月の貿易収支、9548億円の赤字 資源高で輸入額は過去最大
財務省が16日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9548億円の赤字だった。赤字額は2020年1月(1兆3154億円)以来1年10カ月ぶりの大きさ。貿易赤字は4カ月連続となる。QUICKがまとめた民間予測の中央値は6750億円の赤字だった。原油など資源価格の上昇の影響で、輸入額が遡ることができる1979年1月以来過去最大となり、貿易赤字の拡大につながった。
輸入額は前年同月比43.8%増の8兆3218億円と10カ月連続で増加した。価格上昇で原粗油が同2.3倍、液化天然ガス(LNG)が同2.4倍、石炭は同3倍と大幅に上昇した。
輸出額は前年同月比20.5%増の7兆3671億円で、11月としては過去最大だった。韓国向けなどの鉄鋼が同87.8%増となったほか、中国向けが伸長した半導体等製造装置は同44.7%増だった。
地域別では対アジアが輸出入金額とも過去最大となった。輸出は鉄鋼や半導体等製造装置が伸び、輸入は半導体等電子部品やLNGが増えた。対中国では、輸出は半導体等製造装置や半導体等電子部品の伸びで前年同月比16.0%増、輸入は衣類や有機化合物などが増えて同17.2%増となった。輸入額は過去最大だった。
品目別では世界的な半導体や部品不足により減少が続いていた自動車の輸出金額が前年同月比4.1%増と3カ月ぶりに増加に転じた。数量はまだ減少している。EU向けやアジア向けが伸びた一方、米国や中国向けでは減少が続いた。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、貿易赤字が▲7000億円弱でしたので、実績の▲9548億円の赤字は、予想レンジの下限である▲9111億円を超えて、かなり大きな貿易赤字だという印象です。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は4か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は今年2021年5月から7か月連続となります。しかも、貿易赤字の棒グラフが下向きに拡大しているのが見て取れます。輸出入に分けて見ると、季節調整していない原系列のデータでも、季節調整済みの系列でも、輸入については増加のトレンドにあるように見える一方で、輸出については、特に、季節調整済みの系列のグラフで見て、停滞し始めているのが読み取れます。ただ、それほど大きな悲観材料とはならないと私は受け止めています。まず、輸入についてはワクチン輸入という特殊要因もあるとはいえ、最近時点での国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の上昇が我が国輸入額の押上げに寄与していることは明らかです。例えば、原油及び粗油の11月の輸入額は7205億円と前年同月比で+129.2%の大きな増加を記録していますが、数量ベースでは+8.6%増にとどまっています。価格が大きく上昇していますから、それほど価格弾力性が大きくないとはいえ、需要曲線に沿って輸入量が伸び悩んでいるわけです。実に、経済学の知見通りの結果です。なお、ついでながら、私は専門外ながら、ワクチンを含む医薬品の輸入額は3621億円となり、季節調整していない原系列の前年同月比で+47.8%増と、引き続き大きな伸び率を示しています。
他方、輸出については輸出全体では前年同月比で+20.5%増ながら、我が国の主力輸出品である自動車が+4.1%増にとどまり、乗用車に限れば+0.8%増と、引き続き、半導体などの部品供給の制約から停滞を示しています。輸出を全体としてみれば、主として欧米の景気回復に従って我が国の輸出は今後とも増加基調を続けるものと私は予想していますが、中国は別としても、特に東南アジアで新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が深刻となってきている点については注意が必要であり、アジア域内の需要サイドではなく供給サイドの要因で、半導体の供給制約から自動車生産が停滞しており、この先も輸出に一定の影響を及ぼす可能性が大きくなっています。例えば、一般機械の+22.6%増や電気機械の14.2%増と比べて、我が国のリーディング・インダストリーのひとつであり、競争力も十分と考えられる自動車が+0.8%増にとどまっているのは、これら製品の需要サイドにそれほど差がないとすれば、供給面の制約と考えるべきです。
ですから、貿易、特に、輸出の先行きについては、世界経済の回復とともに、自動車生産のペントアップも含めて、私は緩やかな増加を見込んでいますが、この見通しも、オミクロン変異株をはじめとする新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が再び生じるのか、また、需給両面での経済的な影響も含めて、それほどの見識を有しているわけではありません。このあたりはエコノミストの守備範囲を超えている、とやや諦め気味です。
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