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2022年1月31日 (月)

減産を記録した鉱工業生産指数(IIP)と底堅い商業販売統計と大きく低下した消費者態度指数を考える!!!

本日、経済産業省から昨年2021年12月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.0%の減産でした。減産は3か月ぶりです。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.4%増の14兆6560億円、とコチラは3か月連続の増加を示した一方で、季節調整済み指数では前月から▲1.0%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

21年12月の鉱工業生産、前月比1.0%低下 1月予測は5.2%上昇
経済産業省が31日発表した2021年12月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比1.0%低下の96.5だった。低下は3カ月ぶり。生産の基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比1.0%低下だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では1月が5.2%上昇、2月は2.2%上昇を見込んでいる。
21年12月の小売販売額、1.4%増
経済産業省が31日発表した2021年12月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比1.4%増の14兆6560億円だった。増加は3カ月連続。季節調整済みの前月比は1.0%減だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が1.7%増の2兆1389億円だった。既存店ベースでは1.4%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は3.8%増の1兆596億円だった。

いずれもとてもコンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、前月と比べて▲1.0%の減産という予想でしたので、まさにジャストミートしました。加えて、減産の要因がまたまた部品調達の停滞や物流の逼迫ということですし、足元の1~2月については、製造工業生産予測指数で見て、それぞれ、+5.2%、+2.2%の増産を予測していることから、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。基本的に、広く報じられているように、昨年2021年12月の減産は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株のアジアなどにおける感染拡大により、部品の供給制約、あるいは、物流の停滞などによる減産に起因しています。中でも、汎用・業務用機械工業は前月比で▲4.9%の減産とマイナス寄与がもっとも大きくなっています。これに次ぐのが生産用機械工業の▲3.2%減です。ただ、少し前まで半導体部品の供給制約が最も厳しかった自動車工業は、すでに供給制約が緩和されたのか+1.5%の増産を記録しています。今後の生産の行方はCOVID-19の感染拡大、そして、これに伴うグローバルなサプライチェーンにおける部品供給や物流の停滞次第次第という面はありますが、大雑把には、内需に依存する部分の大きい非製造業とは違って、世界経済の回復とともに製造業の生産は緩やかに回復の方向にあるのは間違いないと私も考えていますが、それほど単純な道のりではない、と考えるべきです。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。前のIIPのグラフと同じで、影を付けた部分は景気後退期を示しています。繰り返しになりますが、通常、この統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で見ています。ですから、昨年2021年12月統計における季節調整済み指数の前月比はマイナスなのですが、経済産業省のリポートでは、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で基調判断を示しているようで、12月の移動平均指数は前月から+0.4%の上昇と試算しています。従って、基調判断は12月までのトレンドで「持ち直しの動きがみられる小売業販売」としいています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。第1に、商用販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていないことから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響は過小評価されている可能性が十分あります。すなわち、飲食や宿泊のような対人接触型のサービスがCOVID-19の感染拡大で受けるネガティブな影響は、商業販売統計には十分には現れていない、と考えるべきです。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、物価上昇があれば販売額の上昇という結果になります。現在、日本では大きなインフレは認識されていませんが、世界では石油などの資源価格の上昇をはじめとする供給要因と世界的な景気の持ち直しによる需要要因とで、物価の上昇が始まっており、米国では中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FED)が3月の利上げを示唆したりしている段階です。我が国でも、小売販売額の前年同月比を業種別に詳しく見ると、燃料小売業が昨年2021年10月+25.8%増、11月+28.9%増、12月+23.3%増と突出して販売額を伸ばしていますが、売上数量が伸びているというよりも、販売単価、すなわちインフレ部分が大きいのではないかと私は想像しています。これら2点を考え合わせると、実際の日本経済の現状についてはこの統計よりも悲観的に見る必要が十分ある、と私は考えています。

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最後に、本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲2.4ポイント低下の36.7を記録しています。雇用環境を中心に、かなり大きな低下であり、当然、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大により消費者心理が冷え込んだと考えるべきです。従って、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きが続いている」から「足踏みがみられる」に下方修正しています。上のグラフは消費者態度指数をプロットしているのですが、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期です。

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2022年1月30日 (日)

大学通信オンラインによる教育力が高い大学ランキング2021(私立大学編)やいかいに?

やや旧聞に属する話題ながら、1月24日付けの大学通信オンラインにて、教育力が高い大学ランキング2021 (私立大学編) が明らかにされています。下のテーブルの通りです。

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私の勤務する大学は、まあ、何とか上のランキング入りしています。関西私学で関関同立とはよくいったものですが、4大学の中では3番手なんですね。私の場合、教員仲間からディスられるのは、決まって、大学院教育を受けていない学卒、とか、学士号しか学位を持っていない、とかなので、年に1本しか論文を書かない研究よりも教育の方に注目しがちなのですが、何だかんだといって、まずまずのランクではないかと受け止めています。
それにしても、私学は圧倒的に東京に集中している点が目につきます。経済学部は首都に位置する、というか、首都でなくても経済的な中心地に位置する、例えば、米国であればワシントンDCよりはニューヨークなど、がそれなりに教育上も有益ではないかと私は考えていますが、他の学部については、経済学部ほどではなく、地方展開が望ましい場合もあるんではないかと想像しています。しかし、東京以外の首都圏、すなわち、神奈川・埼玉すらランキングになく、千葉の1大学のみで、関西も京阪神3府県に限定されます。それ以外の名古屋を含む地方圏は、見ての通りの極めて限定的な大学だけです。地方には国立大学が厚く展開しているので、私学はこうなのか、と思わないでもありませんが、これでいいのか、という気もします。大いにします。

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2022年1月29日 (土)

今週の読書は話題の経済書やミステリをはじめとして計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。純粋な経済所ではないにしても、経済書と呼ぶにふさわしい本をはじめとして、ベテラン作家のミステリ、純文学にエンタメ小説、さらに、昭和史に関する新書まで計5冊です。カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』はかなりいいセンでフェミニスト経済学を展開しています。ただし、批判の対象とすべきは、合理的な経済人ではなく、市場価格でしか評価しない古典派から現在にかけての経済学のあり方だと私は考えます。有栖川有栖『捜査線上の夕映え』はベテランのミステリ作家による重厚なミステリで、コロナを反映した点でも特筆されるべきです。吉田修一『ミス・サンシャイン』は、私の大好きな作者によるラブストーリーであり、年齢の差なんて関係ない恋心を実に巧みに表現しています。芸能3部作を形成すべき2作目と考えています。近藤史恵『たまごの旅人』も、私の好きな作者のエンタメ小説で、女性の旅行添乗員が主人公です。最後に、半藤一利『歴史探偵 開戦から終戦まで』は文藝春秋の編集者による昭和史エッセイの未収録編を取りまとめています。
それから、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の5冊を含めて計17冊となっています。ただ、反省しているのは、昨年のベスト経済書にも選ばれている『監視資本主義』が相変わらず積ん読状態になっている点で、定期試験の採点が終わって、入試のお手伝いが済めば、出来るだけ早く読みたいと考えています。

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まず、カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(河出書房新社) です。著者は、スェーデン出身の英国在住ジャーナリストです。表紙画像にも見える通り、英語の原題は Who Cooked Adam Smith's Dinner? であり、2012年にスェーデンで出版され、2015年に英国の高級紙『ガーディアン』のBook of the Yearに選出されています。ということで、タイトルなどからも容易に想像されるように、フェミニスト経済学を展開しています。すなわち、アダム・スミスが古典的な経済学を確立したエコノミストとして歴史に名を残している一方で、そのスミスを家庭的に支えた、すなわち、本書のタイトルになっているように食事を準備し、あるいは、洗濯や掃除などをはじめとする家事労働によってスミスをサポートしたであろう、おそらくは、女性の貢献が無視されているのではないか、という主張です。私が考えるに、極めて当然です。しかし、誠に残念ながら、経済学的に攻める方向を間違えています。すなわち、本書では、こういったフェミニスト経済学の観点から女性の家事労働などの貢献が経済学的に評価されないのは、ホモ・エコノミカス的な合理的経済人の前提を取っているからであると考えているようですが、違います。市場で、貨幣表示でしか評価されない点が問題であると私は考えています。別の表現をすれば、『人新世の「資本論」』で名を馳せた斎藤幸平流にいえば、コモンズ、あるいは、パブリックとプライベートのうちで、プライベートに属して市場に出回る部分しか評価されない点が問題と考えるべきです。コモンズの活動が評価されないわけで、別の表現をすれば、宇沢弘文龍にいえば、シャドウ・プライスの部分が市場に現れないがゆえに何の評価もされない、という問題です。ここに、資本主義の限界があると考えるべきです。私は深く本書に共感しますが、それは合理的経済人を否定したいがためではなく、市場取引されない経済活動を正当に評価したいためです。女性が担っている家事労働をはじめとする市場取引されない経済活動です。それが、フェミニスト経済学を含む大きな意味での「正しい経済学」のあり方だと、私は考えています。

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次に、有栖川有栖『捜査線上の夕映え』(文藝春秋) です。著者は、関西在住のミステリ作家であり、京大ミス研出身の綾辻行人や法月綸太郎などと同じ世代のベテランです。館シリーズの最終第10巻がなかなか出ない綾辻行人や法月綸太郎と違って、最近時点でもコンスタントに秀作ミステリを発表しています。ということで、エラリー・クイーンと同じで著者がその名のままに作中に現れるシリーズなんですが、学生版と違って作家版です。ですから、名探偵は火村英生ということになりますが、その被村が「名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」(p.281)と発言したりします。殺人事件そのものは単純で、元ホストが鈍器で殴り殺された上にスーツケースに詰め込まれた姿で発見され、かなり腐乱が進んでいて犯行日時の特定が難しい、というものです。そして、作品の最初の方から「ジョーカー」の存在が多くの関係者から推定され、しかし、そのジョーカーは人なのか、モノなのか、出来事なのか、ハッキリしません。私は最初は「コロナ」なのかも、と思ってしまいました。というのも、ミステリ最新刊でもめずらしくコロナの時代を舞台にしているからです。すなわち、2020年の残暑のころから2週間ほどのタイムスパンですので、みんながマスクを付けて登場しているようで、ソーシャル・ディスタンシングにも気を配られています。結局、ジョーカーは人間であり、有栖のいう「誰よりも早く事件を解決」するのはジョーカーのようです。しかし、ジョーカーは真相をかなり明確に把握しながらも動きを見せません。第5症の真相への旅で有栖と火村が旅行する先から、真犯人はどんなに鈍感な読者にも理解できるように出来ていますが、なぜそうなのか、そして、防犯カメラに写ることなく被害者のマンションに侵入した人物が使ったトリックとか、そういった細部に渡っての検証が読ませどころです。そして、真相を把握したジョーカーが不動のままだった理由の解明も興味深いところです。倒叙ミステリではないので、明確な犯人が提示されるわけではありませんが、最後の最後に名探偵が犯人を名指しするわけでもなく、タマネギの皮を剥くように徐々に犯人や犯行の動機や細部が明らかにされていくわけですので、私の好きなタイプのミステリです。流石に、円熟の境地に達した作者の作品だと感じられ、謎解きそのものは決して秀逸とは思いませんが、動機の意外性やマンション侵入の手口、さらに、ジョーカーの心理まで含めて、なかなかによく出来たミステリだと評価できます。ミステリのファンであれば読んでおくべき作品です。唯一の違和感は、特に今年は厳冬とされる時期に読んだにしては、残暑の季節の物語である、という点ですが、まあ、これは仕方ないと考えるべきなのでしょう。今朝の8時前のNHKローカル放送で、本書の舞台になっている香川広島の石切り場などを紹介していました。ご参考まで。

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次に、吉田修一『ミス・サンシャイン』(文藝春秋) です。著者は芥川賞作家であり、純文学もエンタメも、という意味での二刀流をこなす人気作家です。長崎出身で、私がこの作者の作品で最も評価する『横道世之介』などと同じで、主人公、というか、タイトルのミス・サンシャインである昭和の日本を代表する大女優も長崎の出身という設定です。物語は、大学院生が指導教授の勧めで、その昭和の日本を代表する大女優の身の回り品を整理して、指導教授の評価や鑑定を経て、必要に応じて映画関係の博物館などに歴史的な記念物として寄贈するための仕分けのアルバイトをする、という形で進みます。その仕訳や評価は大女優ご本人とそのマネージャーの3人で進められます。そして、その大学院生のアルバイトの裏側で彼の恋物語も進んで破局もします。そして、最後はアルバイト大学院生が女優に恋するというラブストーリーに転化します。そうです、この作品はラブストーリなのです。実在の大女優である原節子にも言及されますが、この作品の主人公である女優は、いわゆるアプレ女優、肉体派の女優として、カンヌ映画祭のグランプリを受賞し、米国のアカデミー賞にもノミネートされます。そして、実に、肉体派女優として出演した映画作品が艶かしく造形されています。吉田修一の作家としての独壇場です。抜群の想像力であると舌を巻きました。私は、ここ数年のラブストーリーとしては、平野興一郎の『マチネの後に』を大いに評価していますし、それとはかなり趣の異なるラブストーリですが、この作品も紛れもないラブストーリであることは確かです。また、この作者の作品で直近に読んだのは『国宝』であり、2019年2月2日に読書感想文をポストしていて、その作品では歌舞伎の世界を描き出しています。そして、この『ミス・サンシャイン』では映画です。次は音楽か何かで、芸能3部作が出来上がりそうな気がします。あるいは、不勉強な私が知らないだけで、ひょっとしたら、もうどこかで連載が始まっていたりするんでしょうか。『国宝』と同じように、ややトリッキーな面があり、素晴らしく出来のいい文学作品とは思いませんが、私のように、この作者のファンであるならば押さえておきたい作品です。その意味では、とてもオススメです。

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次に、近藤史恵『たまごの旅人』(実業之日本社) です。著者は、ミステリをはじめとするエンタメ作家であり、プロのサイクリストを主人公とする「サクリファイス」のシリーズを私は愛読しており、ほかにも、レストランを舞台にした「タルトタタン」のシリーズ、元警察犬のシャルロッテの活躍を描くシリーズなど、とても好きな作家の1人です。この作品では、旅好きが高じて派遣ながらツアー・コンダクタになった女性を主人公にして、風光明媚な景色や食事などの紀行文とともに旅行者の心理を描いています。この作品は5章から成っていて、アイスランド、スロベニア+クロアチア、パリ、西安、そして、最後はこれもコロナの時代になったことから、旅行の添乗員の仕事がなくなって、沖縄のコールセンターのアルバイト住込み3か月、です。わたしはいままで添乗員のいるような豪華な旅行をしたことがなく、仕事の公務出張であれば現地の大使館や総領事館からアテンドがあるものの、それ以外では、ほぼほぼ自分で勝手に航空便もホテルも手配して、現地でも勝手に行動する、という形でした。まあ、役所の中でも国際派でしたし、海外勤務も2回あって計6年を超えます。海外勤務ですから、添乗員のようにアチコチ行くわけではなく、3年ほど現地に腰を据えてそこで仕事するわけですので、かなり趣が異なります。ただ、本書でも典型的な日本人の一面として登場す年配の男性の造形にも見られるように、海外勤務した場合、基本無関心、もしくは関心が薄かったbeforeと違って、勤務後のafterでは、勤務した国が大好きになる場合と、逆に、嫌いになる場合があります。前者の割合が高い国がほとんどなのですが、後者の割合も無視できないバアがあります。この作品では、訪問地というよりも、日本人旅行者の観察に主眼が置かれている気もしますが、本書では出てこないながら、日本では「旅の恥はかき捨て」という言葉があり、ある意味で、旅先ではホンネが出ます。そのあたりは実にたくみに描き出されています。作者の力量を感じます。

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最後に、半藤一利『歴史探偵 開戦から終戦まで』(文春新書) です。著者は、『文藝春秋』や『週刊文春』などの編集者として活躍し、昭和史の碩学としても著名な方で、この「歴史探偵」のシリーズ、すなわち、著者の未収録の昭和史に関するエッセイとして、シリーズ3巻目となります。今回は、タイトル通りに太平洋戦争の開戦から終戦までをスコープとしています。逆に言えば、本書でも明記されているように、満州事変や日中戦争は除外されています。ということで、本書は4章構成となっていますが、一番の読ませどころは冒頭の日本海軍提督に見るリーダーシップ論ではないでしょうか。残りのドイツ論などは付け足しのように見えて仕方ありません。リーダーシプとしては、決断力の有無と責任を取るかどうかの有無で、いわば2x2の4ケースを考えて、それを可能な範囲で日本海軍の提督に当てはめようと試みています。私は不勉強にして、山本五十六以外はほとんど知らない、というか、名前を聞いたこともないような人物が並んでいるので、何とも評価のしようがありませんでしたが、雰囲気としては理解しました。最後に、当時のドイツに関してはヒトラー抜きには考えられないのですが、最近時点で立憲民主党系の重鎮が維新の会のリーダーをヒトラーになぞらえて批判した問題がいくつかのメディアで取り上げられているところ、私は世界の常識に従って、ヒトラーを礼賛することは極めて不適切であるのに対して、ヒトラーになぞらえて批判をするのは「ゴドウィンの法則」からすれば、いわゆる「ゴドウィン点」に達したということであり、論争が十分長引いた、ということなのだろうと理解しています。SNSを含むメディアで「ゴドウィンの法則」に言及した論評を目にしないのがやや不思議です。

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2022年1月28日 (金)

リクルートによる昨年2021年12月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日の2月1日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる昨年2021年12月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、停滞感ありながら底堅い印象で、前年同月比で見て、昨年2021年10月+1.4%増、11月+1.5%増、12月+1.4%増となっています。ただし、昨年2020年9月に+2.6%増を記録してから、1年余り15か月連続で伸び率が+2.0%を下回っています。他方、派遣スタッフの方は昨年2020年5月以降のデータが跳ねていたのですが、今年2021年5月からはそのリバウンドで元に戻っています。その後、昨年2021年9月には+2.1%増を記録したものの、上のグラフの通り、10月は1.2%増、11月+0.3%増と伸びが大きく鈍化し、12月はとうとう▲0.5%減とマイナスになってしまいました。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、12月には+1.4%を記録しています。人手不足がメディアで盛んに報じられていた一昨年2019年暮れから昨年2020年1~3月期のコロナ初期の+3%を超える伸び率から比べるとかなり低下してきているのが実感です。三大都市圏の12月度平均時給は前年同月より+1.4%、+15円増加の1,115円を記録しています。職種別では「営業系」(+107円、+8.3%)、「フード系」(+38円、+3.7%)、「製造・物流・清掃系」(+29円、+2.7%)、「事務系」(+30円、+2.6%)、「販売・サービス系」(+17円、+1.6%)、「専門職系」(+5円、+0.4%)、とすべての職種で増加を示しています。地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、12月は▲9円減少し、伸び率も▲0.5%減を記録しました。+1.2%増の1,735円に達しています。職種別では、「営業・販売・サービス系」(+58円、+4.1%)、「オフィスワーク系」(+57円、+3.7%)、「IT・技術系」(+54円、+2.5%)、「クリエイティブ系」(+10円、+0.5%)はプラスを記録した一方で、「医療介護・教育系」(▲2円、▲0.1%)だけが小幅なマイナスとなっています。派遣スタッフを詳しく見ると、「オフィスワーク系」のOAオペレータ、また、「IT・技術系」のOAインストラクター、さらに、「営業・販売・サービス系」の旅行関連が、前年同月比▲100円を超えて大きなマイナスです。地域別では関西でプラスとなったものの、関東・東海ではマイナスを記録しています。。

派遣スタッフ、アルバイト・パートともに時給上昇率はジワジワと上昇幅を縮小し、やや停滞し始めた気がしますが、まだまだ底堅い印象も十分あります。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響は昨年2020年5月ころに底を打ったように見えることから、雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないとはいえ、人口動態から見た人手不足も解消されているわけではなく、それだけに、アルバイト・パートや派遣スタッフのお給料もまだ底堅さが残っている気がします。

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2022年1月27日 (木)

帝国データバンクのリポート「企業の価格転嫁の動向調査」やいかに?

一昨日1月25日に帝国データバンクのリポート「原油価格の上昇が経済に与える影響」を取り上げましたが、その続編のような形で、昨日1月26日に同じ帝国データバンクから「企業の価格転嫁の動向調査」と題するリポートが明らかにされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 企業の64.2%で前年同月と比べ仕入単価が上昇、リーマン・ショック以来の水準に
  2. 仕入単価が上昇した企業の半数超で、販売単価への価格転嫁ができていない

帝国データバンクからアップされているpdfの全文リポートから、グラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 仕入単価が上昇した企業の割合 を引用しています。仕入単価が上昇した企業とは、「TDB景気動向調査」への回答に置いて、前年同月と比べて仕入単価が「やや上昇」、「上昇」、「非常に上昇」と回答した企業の割合で算出されています。見れば判るように、昨年2021年末の12月には、リーマンショック当時の2008年9月とほぼほぼ同じ割合の企業が仕入単価が上昇したと回答しています。2008年のリーマンショック当時もWTI原油先物価格がバレル当たり150ドル近くまで上昇しましたが、最近時点では80ドル台半ばでこれくらいの仕入価格の上昇が感じられているわけです。コストアップの実感が大きくなっているのが理解できます。

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続いて、上のグラフはリポートから 仕入単価が上昇した企業の販売単価 を引用しています。母集団は最初のグラフで仕入価格が上昇したと回答した企業となっています。上昇していない企業は除外されています。仕入価格が上昇したと回答している企業の中で、転嫁率の大きさは別にしても、販売価格の上昇が出来ている企業の割合は43.8%にしか過ぎません。それよりも大きな割合の47.9%の企業が「変わらない」と回答しています。仕入価格が上昇しているにもかかわらず、販売価格の上昇を実現した企業は半数に届かず、コストアップの価格転嫁が進んでいない実態が明らかにされています。

最後に、一昨日の結論と同じですが、石油価格の上昇などに起因する仕入価格のコストアップを、いかにスムーズに転嫁しデフレ脱却につなげるかが重要であり、消費税率引き上げの際に転嫁促進政策が模索されましたが、現在もそういった政策が必要と私は考えています。

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2022年1月26日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し改定」は成長率見通しを下方改定!!!

昨日1月25日国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。副題は Rising Caseloads, A Disrupted Recovery, and Higher Inflation ですから、「感染拡大、景気停滞、高インフレ」と3つのネガ要因を上げています。まず、IMFのサイトから成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。

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世界経済の成長率は、昨年2021年の+5.9%から今年2022年には+4.4%まで減速するとの見通しが示されています。しかも、昨年2021年10月の「世界経済見通し」で示された2022年成長率見通しから▲0.5%ポイントの下方改定となっています。国別に見れば、G2、すなわち、米中2国の成長率見通しの引下げが大きな要因となっています。IMFからpdfの全文リポートもアップロードされていますが、取りあえず、お手軽ながら、IMF Blogのサイトからいくつか、特に、副題に示された3つの要因から、感染拡大はまあ別として、景気停滞と高インフレのグラフを示しておきたいと思います。

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ということで、上のグラフはIMF Blogのサイトから A Disrupted Global Recovery を引用していますが、▲0.5%ポイントの下方改定のうち、▲0.2%ポイント強が米国、▲0.2%弱が中国、そして、残りの▲0.1%ポイント程度がその他の各国の要因に分解されていることが示されています。なお、リポート p.5 Table 1. Overview of the World Economic Outlook Projections の詳細テーブルを見ると、世界経済全体の今年2022年成長率見通しは、繰り返しになりますが、直近の昨年2021年10月時点から▲0.5%ポイントの下方改定となっていて、先進国では▲0.6%ポイント、新興国・途上国では▲0.3%ポイントとなっています。上のグラフに示された寄与度ではなく、成長率そのものの下方改定幅として、米国▲1.2%ポイント、中国▲0.8%ポイント、ブラジル・メキシコがともに▲1.2%ポイント、などとなっています。テーブルに示された先進国の中で、なぜか日本だけは上方改定されており、昨年2021年10月時点から+0.1%ポイント上振れています。日本の2022年見通しについては特に言及はありませんが、来年2023年については、"Japan's 2023 growth outlook is also revised up by 0.4 percentage point, reflecting anticipated improvements in external demand and continued fiscal support." (リポート p.4) と、来年2023年は外需と財政支援による成長率上振れと分析しています。

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続いて、インフレについて上のグラフは、リポート p.3 Figure 1. Change in Inflation, December 2020 - Latest を引用しています。まだ、消費者物価指数(CPI)上昇率が+1%にも達しない日本には関連薄いインフレなのですが、かなりの程度にエネルギー価格からの波及との分析結果が示されています。なお、緑色のその他の部分について、リポート p.2 では、"ongoing supply chain disruptions, clogged ports, land-side constraints, and high demand for goods have also led to broadening price pressures" と、サプライチェーンの混乱、港湾と陸上の輸送の制約といった供給サイドとともに、需要面の要因も指摘しています。加えて、p.8 では "there is a risk that persistently elevated living costs and tighter labor markets will compel workers to ask for (and firms to accede to) higher wages" とのリスクが指摘されており、人手不足の影響も視野に入っていると私は理解しています。

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最後に、IMF「世界経済見通し」から目を国内の経済指標に転じると、本日、日銀から昨年2021年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除く平均も+0.8%の上昇を示しています。国際商品市況における石油価格の上昇などがジワジワと波及している印象です。グラフは上の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。いずれも、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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2022年1月25日 (火)

帝国データバンクのリポート「原油価格の上昇が経済に与える影響」やいかに?

昨日1月24日に帝国データバンクから「原油価格の上昇が経済に与える影響」と第するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  • 原油価格が7年ぶりの水準に上昇、販売価格への転嫁が追い付かず
  • 原油価格が2022年末までに100ドルへ上昇した場合、企業の経常利益が約1兆5530億円減少

帝国データバンクが毎月明らかにしている「TDB 景気動向調査」ではいくつかの指標を算出しており、その中に、仕入単価DIと販売単価DIというのがあります。下のグラフは販売単価DIを仕入れたんかDIで除して算出した価格添加の推移をプロットしています。この指標が1を超えると仕入れ価格以上に販売単価が上昇していることになり、その意味で、価格転嫁が進んでいるといえますが、逆に、1を割り込むと仕入れ価格ほどには販売価格に転嫁されていないということになります。

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見れば明らかな通り、ガソリンスタンドにおける原油価格上昇のガソリン価格への転嫁率はおおむね90%台後半で推移していますが、それでも、全額を転嫁するには至っていません。ましてや、産業全体では、2021年中ほぼほぼ一貫して価格転嫁率が低下していました。そして、TDBマクロ経済予測モデルでシミュレーションした結果、もしも、2022年末に原油価格がCIF価格で1バレル当たり100ドルまで上昇すれば、燃料価格の上昇によるコスト負担の増加や家計の所得減少にともなう節約行動などにより、2022年度の民間企業の経常利益は▲1兆5530億円減少する、との試算結果も同時に示しています。

原油価格に関しては、日本はかなりの程度にプライス・テイカーの小国になりつつあります。ですから、政府として、原油価格に何らかの影響を及ぼそうとするのではなく、原油価格の上昇をスムーズに転嫁しデフレ脱却につなげる政策が必要と私は考えています。

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2022年1月24日 (月)

みずほリサーチ&テクノロジーズによるリポート「オミクロン株まん延と日本経済」を考える!!!

先週金曜日1月21日にみずほリサーチ&テクノロジーズから「オミクロン株まん延と日本経済」と題するリポートが明らかにされています。まず、リポートのポイントを3点引用すると以下の通りです。

  • 感染スピードが非常に速いオミクロン株のまん延により、全国的に感染者数が急増。先行きのシミュレーションを行うと、東京の感染者数は2月にかけ1日当たり2万人超まで増加する見込み
  • オミクロン株の重症度は低いが、第5波を超える感染増で東京の重症病床使用率は80%超に達し、2月にも緊急事態宣言が発令へ。1~3月期の個人消費は対人接触型サービスを中心に約2兆円減少
  • それでも過去の緊急事態宣言発令時と比べれば経済の落ち込み幅は小さい。3月には感染がピークアウトし、ブースター接種や治療薬の普及を受けて4~6月期以降の景気は回復に向かう見通し

オミクロン型の変異株については、感染力は強いが重症化しにくいと広く報じられているようですが、そのあたりをシミュレーションによって確認しています。

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まず、上のグラフは、リポートからオミクロン株の入院率を引用しています。単純な比較は困難ながら、デルタ型の変異株との対比で0.2~0.6程度に低下している可能性、また、米国の研究成果を引いて入院期間も3.4日短いと指摘しています。ただ、感染力が協力で感染者が多ければ入院率が低かったり、あるいは、入院期間が短くても医療への負担は生じるわけで、感染力の強さと重症化のバランスで決まることになります。

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続いて、上のグラフは、リポートからブースター接種の月別対象者数を引用しています。また、日本で決定的に遅れているのはワクチンの3回目接種、いわゆるブースター接種です。ワクチン2回接種だけでは、半年ほどでオミクロン型変異株に対する感染防止力は10%程度に低下するといわれています。1月17日時点で、全人口対比の3回目ワクチン接種の普及率は英国、イスラエル、シンガポールで50%超、韓国でも40%超の水準に達している一方で、日本のブースター接種普及率は1月20時点で全人口対比1.4%と極めて低い水準にとどまっていて立ち遅れていることが明らかです。

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まず、上のグラフは、リポートから個人消費・GDPへの影響のテーブルを引用しています。まず、1月15日時点までの新規感染者数と重症者数の実績を反映した疫学モデルのシミュレーション結果から、東京の新規感染者数で見て、2月半ばには週当たり15.3万人、1日当たり平均2.2万人に達するとの試算結果を示し、新規感染者数だけを見れば、デルタ型の変異株による感染第5波におけるピークである週当たり3.4万人の4倍以上の水準と指摘しています。このため、重症者数は高齢者を中心に第5波ピーク時並みの1,200人強まで増加し、確保病床数の増加を考慮しても、重症病床使用率は病床数の8割を超えるとの試算結果を示しています。ただし、重症病床使用率が100%を超過するほどの医療崩壊には至らないとの結果も同時に明らかにされています。加えて、新規感染者数は2月後半に、重症者数は3月初めにそれぞれピークアウトし、高齢者のブースター接種や治療薬の普及も相まって、3月後半には新規感染者数、重症者数ともに急速に改善へ向かう見込みと予想しています。これらを基に、経済的な影響としては、すでに、足元では、オミクロン型の変異株の感染拡大により消費行動が慎重化していると分析し、感染拡大の第6波が早期化し、1~3月期の個人消費が約2兆円減少するものの、ならせば下振れの影響は小幅、と結論しています。上のテーブルの通りです。私は感染拡大については見識なく、したがって、経済的影響についても確たる見方を示すことは出来ませんが、結果はすぐに見えてくるようにも考えられます。

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2022年1月23日 (日)

「サイクリーマン」とビワイチのコラボやいかに?

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「サイクリーマン特別編 ビワイチを楽しむ8つのアドバイス」と題する小冊子が配布されています。「サイクリーマン」と滋賀県などのコラボです。昨日1月22日付けの朝日新聞で取り上げられています。「サイクリーマン」は『週刊モーニング』連載だったにもかからわず、なぜか、コミックス3巻で打ち切りとなったのですが、滋賀県や民間事業者などでつくる滋賀プラス・サイクル推進協議会とコラボして、A5判の全18ページの小冊子で帰って来ました。滋賀県内の自転車店などにあり無料で配布されています。私もゲットしました。

昨年末に引越してから、ほぼほぼ1か月が経過しました。自転車、というか、交通に関して、私が少しびっくりしたのは、住民がすべからくよく信号を守っている点で、とても好ましく感じます。東京近郊では、自転車は安全さえ確かめられれば、スキあらば信号無視しようとしているのではないか、と疑われているような気がして、それはそれなりに緊張感をもたらしていたんですが、当地では安心して信号無視はないものと想定できます。逆に、東京では「自転車は原則車道」というのが徹底されていましたが、当地ではどうも自転車は原則歩道とみなされているようで、何と、ロードバイクまで半々くらいのカンジで歩道を走っています。長崎大学のころも、今の大学でも、なぜか、私のゼミには自転車のサークルに入っている学生がいるのですが、ロードバイクが歩道を走っているというのは、スポーツカーに農具をつけて畑を耕しているようなもので、使い方を間違えている、と私は主張していたりします。

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2022年1月22日 (土)

今週の読書は経済書から仏教思想史まで計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。なぜか、東京大学出版会の学術書が2冊とちくま新書も2冊という計4冊です。小説、特に、ミステリは入っていません。著者・編者は、それなりの知名度の経済学の研究者3人と仏教思想研究の大御所です。深尾京司[編]『サービス産業の生産性と日本経済』(東京大学出版会)では経済産業研究所などで開発されているJIPデータベースについての解説や、このデータを利用した定量分析の結果が示されています。ただ、よく、サービス産業の生産性向上が賃金上昇や日本の成長率の引き上げに必要と主張されますが、短期には疑問があると私は考えています。石見徹『日本経済衰退の構図』(東京大学出版会)では、バブル崩壊後の日本経済の失速について様々な角度から議論されていますが、政策的対応の提示に成功しているかどうかは判断が分かれると思います。原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書)では、かなり直感的で大雑把ながら一定の利用可能なデータを用いてコロナ対策の費用対効果について定量的な分析場加えられています。最後の木村清孝『教養としての仏教思想史』(ちくま新書)では、タイトル通りに、仏教の思想史が開祖のゴータマから日本近代まで実にわかりやすく、とは言いつつも、それなりの深さを持って展開されています。
今年それから、2022年に入ってからの新刊書読書は、読書感想文ポストのたびに4冊ずつで計12冊となっています。

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まず、深尾京司[編]『サービス産業の生産性と日本経済』(東京大学出版会) です。編者は、一橋大学の研究者です。出版社から見ても、ほぼほぼ完全な学術書と考えるべきです。ということで、2018年に改定されたJIPデータベースの解説をしていて、少しだけ応用研究の成果も収録しています。JIPデータベースとは経済産業研究所(RIETI)で開発されている産業別の基礎データであり、基本的には、産業構造の変化を把握するために雇用者や資本ストックなどの基礎的なデータを収録していますが、かなり詳細かつマニアックと評価する人もいるかもしれません。本書では、データベースそのものや推計方法などを解説しているほか、必ずしもJIPデータベースを使ったものばかりではありませんが、タイトル通りに、サービス産業の生産性分析を中心に議論を展開しています。もっとも、あまり関係のなさそうに見える論文もあります。2010年代以降、我が国ではかなり投資が抑制されていて、原因としては将来成長率の低下などが上げられていますが、JIPデータベースでも投資の伸び悩みは確認されています。他方で、広く論じられているように、我が国では賃金がまったく上昇しなくなってしまっており、賃金にも投資にも企業の資金が向かわず、ひたすら内部留保として溜め込まれている事実が浮き彫りになっっているといえます。サービス産業の生産性に関しては、人工知能(AI)やロボットとと関連する分析も収録されており、もちろん、こういった最先端技術と生産性は正の相関を示しています。医療サービスの質とコストに関しても分析が加えられているほか、物的な資本だけでなく無形資産や時間利用の観点から、家計の余暇活動、また、人的資本という意味では、不妊治療まで含めた議論が本書では展開されています。ただ、いつも感じる点ですが、生産性を論じる場合、今日強雨サイドのみに着目されて、短期の生産性で需要の果たす役割がまったく無視されている気がします。経済学的に重要な意味を持つ全要素生産性(TFP)は残渣でしか計測されませんが、通常の労働生産性であれば需要を雇用者数で割って求められるわけですから、短期に資本ストックが大きな変動なくても需要が動けば変動しますし、事実、日本の労働生産性はほぼ需要とシンクロして変動しています。もちろん、長い目で見れば供給サイドの分析も大いに有用であり、例えば、高度成長期には生産性の高い産業や企業に雇用者が移動することにより、経済全体の生産性が高まるという効果が見られましたが、少なくとも、1990年代初頭のバブル崩壊以降の時期では、雇用者をアウトプットとの比で減少させることにより生産性を高める努力がなされました。典型的には電気産業がそうです。ですから、もう少し本書とは違う視点が必要な気もします。

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次に、石見徹『日本経済衰退の構図』(東京大学出版会) です。著者は、東京大学の名誉教授であり、本来はマルクス主義経済学のエコノミストです。少し前に同じ出版社から荒巻健二『日本経済長期低迷の構造』という本も出ており、私も2019年9月8日付けの読書感想文をポストしています。最後の1文字が少し違うだけで、紛らわしいタイトルであると思いますが、まあ、仕方ないのかもしれません。ということで、マルクス主義経済学のエコノミスト、特に、その主流ですらない宇野派の東大名誉教授のエッセイですので、私には少し難解な部分もありました。基本は、戦後日本経済の発展や成長を支えてきたメカニズムが大いに弱体化している、ということなのだろうと思いますが、労使協調体制なんかは、現在の同盟労働組合のナショナルセンターである連合を見ている限り、労働組合がひどく経営サイドにすり寄っている気がします。その限りでは、労使協調は引き続き堅持されているのですが、労働者にメリットが及ばない形で、別の表現をすれば、労働者の搾取が激化する形で資本主義の延命、というか、日本経済の成長が支えられている気もします。特に、中小企業の淘汰を進めようとしているアトキンソン理論に対して、かなりの程度に同調を感じさせる部分が少なくなく、これでもマルクス主義経済学の立場からの視点といえるのだろうか、と主流派エコノミストの私ですら心配になります。加えて、日本経済の停滞を少子高齢化という人口動態で説明しようとするのは、まあ、流行りですので仕方ない面があるとは思いますが、少子化の原因のひとつに経済的理由による堕胎を合法化した優生保護法の改正に帰着させるのは、何とも私のは言いようのない違和感が残りました。他方で、財政赤字を経済に対するマイナス要因とする見方も、まあ、これ幅広く流布しているので容認するとして、その財政赤字の原因については正確に法人税などの直接税の引き下げと見抜いていたりもします。どこかの大阪のローカル政党のように「身を切る改革」といいつつも、政党交付金や文通費をちゃっかり懐に収めるのとは、さすがに、分析能力が違うと感心しました。日本経済について、いろんな見方を示しているのはいいと思いますが、互いに同じ本の中で矛盾しかねない論点があったりもしますし、必ずしも説得的ではありません。残念ながら、私は本書をそれほど高く評価するのは難しいと感じました。

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次に、原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書) です。著者は、官庁エコノミスト出身で日銀制作委員も務め、現在は名古屋商科大学の研究者です。というか、私は役所に勤務していたころに何度かこの著者の部下を務めたことがありますが、「日本の実質経済成長率は、なぜ1970年代に屈折したのか」と題する共著論文があるとはいえ、サッパリ評価されていなかったんだろうと思います。ということで、本書では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染抑制のための措置について5章、経済への悪影響緩和のための措置を2章、計7章に渡ってタイトル通りの費用対効果が可能な範囲で考察されています。ただし、私のしるこの著者の性格と合致して、かなり大雑把な定量評価です。少なくとも確率分布を前提にした数量分析ではありませんから、帰無仮説を検定する形はまったく取られていません。例えば、7.8兆円をかけて3.9万床の病床を確保したのだから1床当たり2億円は高すぎる、といったカンジです。特に、興味深かったのは第3章のPCR検査のシーヤ派とスンナ派というネットスラングを使った対比で、私なども当初から指摘していたように、また、本書でも認めているように、ワクチンや特効薬がない初期の段階では検査を大規模に実施して陽性者を隔離する必要があると考えたのが正しいと結論しています。でも、この著者のひねくれたところで、どうしてそうならなかったのかについて、政治力学的な考察も加えています。コロナ不況を分析した後段では、供給ショックか、需要ショックかについて、かなりあいまいな結論しか導けていません。2020年段階では経済産業省の「通商白書」がかなり早い段階から供給ショック説を取り、内閣府の「経済財政白書」が需要ショックを考慮したのにと対象的でしたが、私は、おそらく、当初は供給ショックだったものが、需要ショックも一部に現れ、つい最近時点での自動車の半導体部品供給不足やマクドナルドのポテトSサイズ限定に見られるような供給ショックでも明らかな通り、基本的には供給ショックがドミナントで、一部に需要ショックも見られる、ということなのだろうと理解しています。ですから、本書でもGoToキャンペーンが否定されているように、需要喚起策は費用対効果が悪い、というか、実施すべきではない、と考えています。まあ、政治力学的にはどこかに利権があるのかもしれませんが、私は首都東京から遠く離れた関西に住んでいて、本書の著者ほどには、そのあたりの情報は持ち合わせません。最後に、本書のp.209に費用対効果を取りまとめた表があります。立ち読みで十分と考える向きには、この一表でかなりの程度に理解が進むものと期待されます。

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最後に、木村清孝『教養としての仏教思想史』(ちくま新書) です。著者は、東京大学名誉教授にして、鶴見大学学長なども務めた仏教研究の大御所です。新書ながら、巻末の略年表や索引まで含めると軽く400ページを超える大作です。もっとも、本書のタイトルである仏教思想史を論じるとすれば、学術書であれば10冊あっても足りないでしょうから、これくらいのコンパクトな新書で大雑把な仏教思想史を概観できるのは有り難いと思います。私自身は仏教とは心理の体型であると考えているのですが、何分、本書のテーマはその思想の歴史です。ですから、開祖のゴータマによる仏教の成立から始まって、私のようなシロートには中国に伝来するまでのチベットや東南アジアでとどまっているところまでの思想史はとても難しかったです。中国に伝来して、例の有名な玄奘三蔵法師あたりから少しずつ実感を持って接することが出来るようになり、そして、何と言っても浄土教系の思想が成立する頃からは、さらに身近な仏教を感じることができました。中国に入った仏教は、「陰陽説の影響を受けてまず業と輪廻の思想一定の変質を遂げ」(p.180)、その後の新仏教の時代が始まります。日本では鎌倉時代の仏教であり、圧倒的に浄土宗と禅宗が重要と私は考えています。もちろん、本書で強調するように、同じ禅宗でしかも時期的にも同じころに日本に伝来された栄西の臨済宗と道元の曹洞宗では大きな違いがあります。国家鎮護的な前者と個人の修行を重視する後者の姿には目を開かされます。浄土宗では、少なくとも法然の浄土宗と親鸞の浄土真宗には、私は大きな違いはないものと考えています。少なくとも在野の檀家にはほぼほぼ差はなく、むしろ、戎を受けるかどうかという点で僧侶の方に違いがあると私は認識しています。とても浩瀚な研究を下敷きにしたであろう本書は、私のような熱心な仏教徒からすればとても勉強になるのですが、唯一物足りなかったのは近代日本の明治期における廃仏毀釈の動きです。ほぼほぼ何も本書は語ってくれません。他の国でも廃仏の動きをした国は少なくなく、現在でもアフガニスタンでは偶像崇拝の一言で人類共通の重要な文化遺産が破壊されたりしています。明治期の日本における廃仏運動について、現在の仏教徒も関係がないわけではありませんから、もう少し言及が欲しかった気がします。

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2022年1月21日 (金)

4か月連続でプラスを記録した消費者物価指数(CPI)上昇率の先行きやいかに?

本日、総務省統計局から昨年2021年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+0.5%を記録しています。4か月連続のプラスです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.7%と下落しています。コチラは、2021年4月から9か月連続のマイナスです。逆に、エネルギーを含めたヘッドラインCPIは+0.8%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

21年12月の全国消費者物価、0.5%上昇 上昇は4カ月連続
総務省が21日発表した2021年12月の全国消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が100.0と前年同月比0.5%上昇した。上昇は4カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.6%上昇だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合のCPIは99.1と、0.7%下落した。生鮮食品を含む総合は0.8%上昇した。
あわせて発表した21年平均のCPIは、生鮮食品を除く総合が99.8となり、20年に比べ0.2%下落した。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+0.6%の予想でしたので、やや下振れたとはいえ、まずまず、予想の範囲内といえます。基本的に、国際商品市況における石油価格の上昇に伴って、ガソリン・灯油などのエネルギー価格が前年同月比で+16.4%の上昇を記録して、ヘッドライン上昇率に対して+1.12%の寄与を示していますので、逆に、マイナス寄与の項目を見ると、通信料(携帯電話)が前年同月比▲53.6%の下落で、▲1.48%の寄与となっています。エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落のバランスで、寄与度だけを見ると携帯電話通信料の方が絶対値で大きいのですが、エネルギー価格の上昇が経済全体に波及して、さらに、人手不足の影響などもあって、プラスという結果となったと私は受け止めています。ただ、別の政策要因というか、何というか、昨年のGoToトラベルによる値引きの反動で、宿泊料が前年同月比+44.0%の上昇を見せ、寄与度も+0.29%あります。
先行きの物価動向を考えると、国際商品市況における石油価格の上昇に加えて、人手不足の影響もあり、国内外の景気回復とともに、物価は緩やかに上昇幅を拡大していくものと私は考えています。例えば、日銀から公表されている企業物価指数の国内物価も、10~12月統計では前年同月比上昇率で+8~9%台に達しています。物価は上昇基調にあると考えるべきです。

我が国のデフレの初期に「悪い物価下落」と「いい物価下落」という二分法が幅を利かせた時期があります。今回も石油価格上昇に伴うコストプッシュのインフレですので、同じような二分法の議論も聞かれます。しかし、適切に賃上げが進めば、我が国にとってはデフレ脱却のチャンスとなる可能性もあることから、決して悲観的に考える必要はないと私は受け止めています。

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2022年1月20日 (木)

5か月連続で貿易赤字を記録した貿易統計から何を読み取るべきか?

本日、財務省から昨年2021年12月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+17.5%増の7兆8814億円、輸入額も+41.1%増の8兆4638億円、差引き貿易収支は▲5824億円となり、5か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。

21年12月の貿易収支、5824億円の赤字
財務省が20日発表した2021年12月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5824億円の赤字だった。赤字は5カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は7840億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比17.5%増の7兆8814億円、輸入額は41.1%増の8兆4638億円だった。中国向け輸出額は10.8%増、輸入額は20.5%増だった。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、貿易黒字が+8000億円弱でしたので、実績の▲5824億円の赤字は、予想レンジの上限である▲6229億円を超えて、貿易赤字は赤字ながら小幅にとどまった、という印象です。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は5か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は今年2021年5月から始まっていて、したがって、8か月連続となります。輸出入に分けて見ると、季節調整していない原系列のデータでも、季節調整済みの系列でも、輸出入とも増加のトレンドにあり、いずれも2020年初頭の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前の水準を超える勢いです。足元では、半導体などの部品の供給制約から脱しつつある自動車生産の回復に伴って輸出が増加する一方で、輸入では国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の上昇が我が国輸入額の押上げに寄与していることは明らかです。
12月の貿易統計を輸出入別に少し詳しく見ると、輸出については輸出全体では前年同月比で+17.5%増と回復を示しています。我が国の主力輸出品である自動車が半導体などの部品供給の制約から出しつつあり、1兆1030億円、+17.5%増と伸びを高めています。自動車以外にも、我が国の主要輸出品である一般機械が1兆5654億円、+17.6%増、電気機器も1兆4629億円、+14.9%増を記録しています。現在のオミクロン型の変異株によるCOVID-19パンデミックの影響は何とも計り知れませんが、足元では我が国のリーディング・インダストリーは輸出を伸ばしているといえそうです。輸出を全体としてみれば、主として先進国の景気回復に従って我が国の輸出は今後とも増加基調を続けるものと私は予想しています。ただし、先進国ではなく中国向け輸出についてはやや注意が必要かもしれません。すなわち、1月に公表されたOECD先行指標(CLI)では、"China: Growth losing momentum" と指摘されており、私の計算でも、中国の国別の先行指標が前年同月比で見て昨年2021年10月からマイナスを示していて、少しずつながらそのマイナス幅が拡大しています。まったくタイミングを同じくして、我が国の輸出数量指数の前年同月比も昨年2021年10月から12月までマイナスを続けています。中国経済については、先行きの動向が注目されるところです。輸入については、原油及び粗油の12月の輸入額は8675億円と前年同月比で+116.6%の大きな増加を記録しています。ただし、数量ベースでは+7.1%増にとどまっていますので、増加の圧倒的な要因は価格ということになります。繰り返しになりますが、国際商品市況で石油価格が大きく上昇していますから、それほど価格弾力性が大きくないとはいえ、我が国の輸入額を大きく押し上げています。我が国の輸入合計の前年同月比伸び率は12月の貿易統計で+41.1%増でしたが、原油及び粗油以外の液化天然ガスなども含めて、鉱物性燃料の寄与度がほぼ半分の+20.1%を占めています。ただ、従来から主張しているように、私は必要な財貨・サービスは輸入をケチるべきではないと考えています。5か月連続の貿易赤字を批判するオピニオンリーダーがいるかも知れませんが、私はエコノミストとして貿易赤字を「悪いこと」だとは考えていません。例えば、12月統計の輸入では半導体等電子部品の輸入額が3569億円、+70.5%増となっていますが、これは自動車の生産、ひいては輸出に必要な部品の輸入ですから、輸入すべきは輸入すればいいと考えています。

繰り返しになりますが、貿易、特に、輸出の先行きについては、世界経済の回復とともに緩やかに回復するものと見込んでいます。ただし、オミクロン型の変異株をはじめとする新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大がどこまで広がるのか、また、パンデミックの経済的な影響も含めて、それほどの見識を有しているわけではありません。このあたりはエコノミストの守備範囲を超えていると諦めています。マクドナルドのポテトの大きなサイズはいつになったら提供できるのでしょうか?

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2022年1月19日 (水)

グレート・ギャッツビー曲線と日本の親ガチャの現状やいかに?

グレート・ギャッツビー曲線というのがあります。横軸に不平等をジニ係数で取って、縦軸に世代間の所得の移動可能性の低さを取ってプロットします。カナダのオタワ大学のCorak教授が最初に提唱したのだと思いますが、そのCorak教授が開設している Economics for public policy のサイトから引用すると以下のグラフです。

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博士前期課程の大学院生を対象にした今学期の経済政策の授業で、私は教育政策を取り上げて、その参考としてこのグレート・ギャッツビー曲線についても簡単に解説しておきました。こういった所得格差、あるいは、貧困を世代間で継承してしまわないために教育が重要です、というわけです。その際には、このCorak教授のグラフではなく、まあ、何と言いましょうかで、より広く知れ渡っている米国大統領経済諮問委員会による「大統領経済報告2012」の p.177 Figure 6-7 The Great Gatsby Curve: Inequality and Intergenerational Mobility を示しておきました。国のカバレッジが少し違いますし、ベース年が違うかもしれませんが、基本的に同じです。すなわち、ジニ係数で代理した所得の不平等の度合いの高さと、世代をまたいだ不平等や貧困の継承のされにくさ、の間には正の相関がある、という結論です。どちらが原因で、どちらが結果かについては問いませんが、通常の高校で習う関数型である y=f(x) の即していえば、横軸の所得の不平等が縦軸の世代間の移動性を決めている、と暗黙裡に考えられています。上のグラフでいえば、左下にある日本は、ドイツや北欧諸国などとともに、所得の不平等の度合いが低くて、同時に、世代間での移動性も高い、といえます。そして、赤いラインに沿って右上に行くほど、所得が不平等で、それが世代をまたいで継承=「相続」されてしまう、ということになります。
振り返って、ホントに日本はそうか、というと、昨年2021年の新語・流行語大賞のトップテンに「親ガチャ」が入っています。「ガチャガチャで出てくるアイテムのように親を自分で選べないことで、親が当たりだったりはずれだったりすることをひと言で表現したことば」と説明されています。誰かがツイッタでつぶやいていたのですが、中央教育審議会初等中等教育分科会(第134回)会議資料の中で、資料3 東京大学大学院教授 中村先生・早稲田大学准教授 松岡先生・オックスフォード大学教授 苅谷先生発表資料がまさに、親ガチャでいっぱいです。資料のタイトルは「臨時休業時における児童生徒・保護者の対応 -家庭・学校間の格差に注目して-」となっていて、家庭を「両親とも大卒」、「両親いずれか大卒」、「両親とも非大卒」、「シングルマザー大卒」、「シングルマザー非大卒」、「シングルファーザー」と「その他」の7つのカテゴリーに分類し、休校期間中の学習状況や休校期間中の学習形態などが分析されています。結論として最終ページの分析結果のまとめでは、「宿題や何をすべきか明確な枠付けをしているプリント学習では、相対的に差は目立たなくなる」一方で、「非大卒層の子供が特に家庭学習上の課題を抱えている傾向」があり、「休校期間中の家庭学習にも家庭間格差が連動」している、と指摘されています。諸外国と比較すれば、日本はグレート・ギャッツビー曲線の左下に位置するのかもしれませんが、それでも、家庭間格差は教育にも反映されることから、世代をまたいで継承されてしまう面が決して小さくない、と私は受止めました。

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2022年1月18日 (火)

日銀「展望リポート」の物価に関するリスクは上下にバランスと評価!!!

昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。報道などでは、気候変動対応の新制度が注目されていますが、金融政策決定会合の本旨である金融政策では、短期金利を▲0.1%、長期金利の指標になる10年物国債利回りを0%程度に誘導する長短金利操作=イールドカーブ・コントロールの維持を決定しています。加えて、私は経済見通しにより興味があります。ということで、2021~2023年度の政策委員の大勢見通しのテーブルを引用すると以下の通りです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 2021年度+2.7 ~ +2.9
<+2.8>
0.0 ~ +0.1
< 0.0>
 10月時点の見通し+3.0 ~ +3.6
<+3.4>
0.0 ~ +0.2
< 0.0>
 2022年度+3.3 ~ +4.1
<+3.8>
+1.0 ~ +1.2
<+1.1>
 10月時点の見通し+2.7 ~ +3.0
<+2.9>
+0.8 ~ +1.0
<+0.9>
 2023年度+1.0 ~ +1.4
<+1.1>
+1.0 ~ +1.3
<+1.1>
 10月時点の見通し+1.2 ~ +1.4
<+1.3>
+0.9 ~ +1.2
<+1.0>

見れば明らかな通り、足元の2021年度については成長率見通しも、物価見通しも、小幅ながら引き下げられています。この背景には、足元での新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン変異株の感染拡大の経済的な負の効果がある一方で、海外、というか、国際商品市況における石油などの資源価格の上昇があります。日銀が公表している企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価上昇率が2021年11~12月の統計では+10%近い上昇を記録していることは広く報じられている通りです。来年度2022年度になれば、消費者物価指数(CPI)への波及も起こることから、生鮮食品を除くコアCPIも一定の上昇率に達すると見込まれています。いつも、このブログで指摘してるように、金融政策よりも資源価格の方が国内物価への影響が大きいわけですから、金融政策当局の舵取りもタイヘンです。また、政策委員の経済・物価見通しとリスク評価のグラフを引用すると以下の通りであり、少し前までリスクは下方にあったように記憶していますが、昨年半ばからは、ほぼほぼリスクはニュートラルといえます。「展望リポート」でも、物価見通しについて、これまで「下振れリスクの方が大きい」としていたのですが、本日公表のリポートから「概ね上下にバランスしている」と修正しています。ついつい、見通しに注意を向けがちなのですが、こういったリスク評価も私は重要だと考えています。

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私自身も、先行き経済や物価の見通しについては、基本的に、日銀と同じ方向感覚を共有しており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が終息すれば、所得と需要の好循環が復活する可能性が十分あると考えています。しかし、最大のリスクは政府要因です。すなわち、大前提となるコロナ終息なんですが、コロナ終息の意思も能力もまったくなかった前政権よりは、現在の岸田内閣は少しマシではないかと期待するものの、3回目のブースター接種が先進各国の中で大幅に遅れているわけですし、すべからく、いろんな経済見通しがCOVID-19次第となっているので、何とも不透明です。

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2022年1月17日 (月)

基調判断が上方修正された12月統計の機械受注の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から昨年2021年11月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+3.4%増の9003億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。

21年11月の機械受注、前月比3.4%増 市場予想は1.4%増
内閣府が17日発表した2021年11月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比3.4%増の9003億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.4%増だった。
製造業は12.9%増、非製造業は0.8%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は11.6%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」とした。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

コンパクトながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事には「QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.4%増だった」とありますが、私の確認したところでは、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+1.3%の増加の見通しでした。従って、実績の+3.4%増は、レンジの上限の+6.8%増の範囲内とはいえ、かなり上振れた印象があります。それもあって、また、季節調整済みの前月比増減で見て、昨年2021年8月統計では▲2.4%減、9月▲0.0%減から、10月統計で+3.8%増、そして本日公表の11月統計で+3.4%増ですから、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を昨年2021年10月の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から、11月統計では「持ち直しの動きがみられる」に半ノッチ上方改定しています。伸び率だけではなく、コア機械受注の水準も9003億円と、2019年11月の9102億円以来の受注額であり、2年ぶりにコロナ以前の受注水準に戻ったといえます。ただし、多少なりとも、海外からの外需の受注のある製造業と国内景気に依存する割合の高い非製造業で違いが際立っており、製造業が前月比+12.9%増であるのに対して、非製造業は▲0.8%減を記録しています。もっとも、これは10月統計の製造業▲15.4%減、非製造業+16.5%増の反動という面もあります。特に、非製造業のうちの運輸業・郵便業が10月統計で+170.1%の大きな増加を示した後、11月統計ではその反動もあって▲58.6%減となった影響が大きく現れています。

すべての経済の先行きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)、特にオミクロン変異株の動向次第なのですが、先行指標である機械受注に現れる設備投資の動向については、私は世界経済や日本経済の拡大に従って、緩やかな回復基調に向かうものと考えています。ただ、繰り返しになりますが、コロナ次第である点は注意が必要です。

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2022年1月16日 (日)

大学入学共通テストが取りあえず終わる!!!

大学入学共通テストが、取りあえず、終わりました。
昨日、東大の近くで受験生などを切りつける殺人未遂事件が発生し、広く報じられたところです。私も入試の関係で、今日はキャンパスに出勤しましたが、昨日を知らないので何とも言えないながら、我が大学でも、それなりの警備強化がなされていたのかもしれません。
大学入学共通テストに関しては、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の関係で追試なども予定されており、追試も受けられなかった受験生のためには幅広い救済策が用意されているようで、すべての大学入学共通テストが終わったわけではありませんが、ひとまず一段落といった受験生も少なくないものと思います。

まだ、個別大学の入試があるとはいえ、
がんばれ受験生!

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2022年1月15日 (土)

今週の読書は経済書を中心にミステリも入れて計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、ハンナ・フライ『アルゴリズムの時代』(文藝春秋)、竹信三恵子『賃金破壊』(旬報社)、グイド・キャラブレイジ『法と経済学の未来』(弘文堂)、M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫) の計4冊です。『アルゴリズムの時代』はアマゾンのリコメンデーションなどで我々も広く接するようになったアルゴリズムについて、数学者としてかなり客観的な議論を展開しています。『賃金破壊』は賃金を支える組合運動の重要性に焦点を当てていますが、特に、警察や検察による関西生コンの労働組合弾圧の実情が詳しく紹介されています。衝撃的です。M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)はワシントン・ポーのシリーズ第2弾で、とても複雑なサイコパスによる犯罪偽装を主人公のチームが謎解きします。なお、今年に入って、これまでのところ、新刊書読書はわずかに8冊にとどまっています。大学の授業がそろそろ終わって、リポートなどの採点はあるものの、時間的な余裕が出来ればもう少しピッチを上げて読書したいと考えています。

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まず、ハンナ・フライ『アルゴリズムの時代』(文藝春秋) です。著者は、英国の数学の研究者です。英語の原題は Hello World であり、2018年の出版です。タイトル通りに、データ処理のアルゴリズムについて豊富な実例を上げつつ論じています。章構成が奮っていて、影響力、データ、正義、医療、クルマ、犯罪、芸術の7章構成です。特に、驚いたのは、米国では裁判の量刑判断にアルゴリズムを使う場合があるようで、そこまで出来るのか、というのは初めて知りました。実際の実用可能性もさることながら、社会的な許容度も日本とは違うのだろうという気がします。なお、厳密に言えば、AIとアルゴリズムは違うのかもしれませんが、本書を読んだ印象では、かなり近いという気がします。すなわち、AIにせよ、アルゴリズムにせよ、私は確率計算であって、もっとも確率のいい方法を選ぶ、ということなんだろうと思います。ですから、本書でも指摘されているように、エラーは2通りあって、偽を真と間違う場合と、真を偽と間違う場合です。コロナ検査を例に持ち出すと、陽性なのに陰性と判定してしまうエラー1と陰性なのに陽性と判定してしまうエラー2です。医療などでは、このコロナの検査のケースなどでは、エラー1の方が潜在的なリスクが大きく、エラー2の方が許容範囲が大きいといえます。ですから、医療では、末期ガンの患者には残りの人生を短めに告知するバイアスがあると広く考えられていたりするわけです。ただし、そういったバイアスはヒトが主体的に行っているわけで、アルゴリズムが確率的に中立な回答をすれば、かなり世の中の受止めも変化する可能性があります。さらに、こういった社会的な許容度に関しては分野も大いに関係します。戦略の選択、例えば、野球で強硬策かバントで手堅く送るか、といった判断にアルゴリズムを使うことに対しては、ほとんど社会的な批判は生じないと考えられて許容度が高いのに対して、先ほどの例のように、刑事裁判の量刑や民事裁判の賠償額にアルゴリズムを適用することに対しては慎重な意見が多く出そうな気もします。ただ、そうはいいつつも、人間、というか、医師や裁判官といった専門家が判断するよりも、アルゴリズムに判断を委ねる比率が上昇する傾向にあることは確かでしょうし、本書のような観点から、そのアルゴリズムの特徴や欠陥や利点を知っておく必要はますます大きくなりそうです。

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次に、竹信三恵子『賃金破壊』(旬報社) です。著者は、ジャーナリスト出身の研究者ですが、本書の立ち位置はジャーナリストと考えていいのではないでしょうか。ですから、タイトルに見られるように研究者として賃金を主に論じているわけではなく、賃金を支える基盤としての労働組合をジャーナリストの視点から議論しています。そして、インタビュー先の労働組合とは産別の関西生コンです。私も東京にいる間はまったく知識が乏しかったのですが、関西に来て私大の教員となった後、同僚教員にも支援している人がいると知り、それなりに知識が蓄えられてきましたが、本書が指摘するように、まだまだ間違った見方も少なくないのではないかと思います。しかも、そういった謬見に基づいて警察や検察が、意図的かどうかは別にして、労働組合に対して敵対するような捜査活動をしている点は、本書で積極的に明らかにされています。そして、私の読後感でも、警察や検察は、おそらく、意図的に労働組合運動に対して敵対している可能性が高い、という気がしています。私の研究者としての見方からすれば、労働組合は賃金上昇の強力なテコであり、我が国で賃金が下がり続けているひとつの要因としての組織率の低下や労働組合の右傾化があります。組織率の低下は今さら論ずるまでもありませんし、最近、連合がナショナルセンターとして立憲民主党に対して昨年の総選挙結果に照らして共産党との決別を迫るなど、労働組合とは思えない、まるでどこかの与党別働隊の大阪ローカル政党のような方向性を打ち出した点など、ひどい有様です。もう10年ほど前の学術論文ですが、Galí, Jorge (2011) "The Return of the Wage Phillips Curve," Journal of the European Economic Association 9(3), June 2011, pp.436-61 においても、賃金への説明変数として労働組合の要因が正の相関関係を持って関数に入っていたりします。本書で指摘するように、公権力が労働組合運動を弾圧する日本というのは、私には信じられませんでしたが、こんな国では賃金が上がらないわけだと納得させられるものがありました。多くの人が本書を手に取って読むことを願っています。

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次に、グイド・キャラブレイジ『法と経済学の未来』(弘文堂) です。著者は、もうすでに引退した年齢ながら米国イェール大学ロースクールの研究者であり、法と経済学の学祭分野の大御所です。英語の原題は The Future of Law and Economics であり、2016年の出版です。本書ではマスグレイブ教授などの指摘するメリット財を中心に議論しています。ただ、我が国経済学界ではメリット財よりも「価値財」と呼ぶ方が一般的な気もします。もっとも、法学界は違うのかもしれません。マスグレイブ教授は著名な財政学や公共経済学の研究者でしたが、いわゆる消費の非競合性や非排除性を有する公共財と少し違って、価値財=メリット財はある個人が消費すれば、社会的な利益が他の人にも及ぶ財のことです。本書では徴兵や兵役を例に上げています。現時点での日本にはコロナのワクチン接種がある程度当てはまると考えます。ある個人がワクチンを摂取すれば、コロナに感染しにくくなって社会的な利益につながるからです。こういった価値財=メリット財は通常の市場において個々人の購買力に応じた資源配分をすることが適当ではないと考えられます。例えば、ゲームソフトであれば、お金持ちがいっぱい持っていても許容されるのでしょうが、お金持ちだけが何度もワクチン接種を受けられる一方で、経済的な余裕ない人はワクチン接種も十分に受けられない、というのは、社会的に許容されないだろうと考えられます。本書の例では、徴兵、というか、お金持ちがその経済力でもって兵役を逃れるのは社会的に疑問であるとしています。こういった価値財は、通常の財と同じで、基本的に多ければ多いほどいいのですが、その天井が通常の財よりもかなり低いと考えるべきです。まあ、ビールを何十リットルも飲めるわけではありませんが、ビールであれば「多々益々弁ず」の世界ですが、ワクチンでは回数を多く打てば青天井にそれだけ有効性が高まる、というものでもなく、上限値はそれほど高くないと考えられます。ですから、他方で、分配というものが重要になります。通常、エコノミストは一般財であれ、価値財=メリット財であれ、多ければ多いほど好ましく、他方で、分配が平等に近いほど好ましい、と考えます。ただ、それは、特に価値財=メリット財の場合は市場において達成されないわけですから、法律による強制を含めて考慮する必要がある、というわけです。経済学的には、私の専門とするマクロ経済学ではなく、もろにミクロ経済学的な分野なので、私も十分に理解できたわけではないかもしれませんが、新自由主義的な経済政策の下で格差が大きく拡大した日本でも、本書で展開されているような議論が必要となるような気がします。

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最後に、M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫) です。著者は、英国のミステリ作家です。刑事ワシントン・ポーのシリーズ第2作であり、英語の原題は Black Summer であり、これは地名です。原作は2019年の出版です。私はシリーズ第1作の『ストーンサークルの殺人』も読んでいて、昨年2021年9月25日付けの読書感想文で取り上げています。本日着目するシリーズ第2作も、第2作と同じでとっても手が込んでいます。相変わらず、主人公のポーを分析巻のティリー・ブラッドショーとポーの上司のステファニー・フリン警部がサポートする、という作品です。さらに、本作品から病理医のエステル・ドイル医師も加わって、ポーの援護陣が手厚くなっています。それというのも、主人公のポーの危機が前作よりもさらに深刻化して、とうとう殺人犯として指名手配されてしまったからです。事件は、数年前にポーが解決に努力した殺人事件、ミシュランで3ツ星を取った英国のカリスマ・シェフがじつの娘を殺害したとされる事件で、その被害者が警察に出頭した、というか、正確には図書館に駐在している警察官のところに来た、ということから始まります。裁判でも殺人者と断定されたカリスマ・シェフはポーから見れば明らかなサイコパスなんですが、そのサイコパスは当然のように冤罪を主張しますし、加えて、地元警察のエリート警察官からも冤罪の原因を作った犯罪者のようにみなされて、ポーが地元警察から必要な捜査支援も得られず、それどころか、指名手配されて身動きができなくなりながらも、キチンと事件を解決する、というストーリーです。極めて複雑なプロットで、実際にはありえないタイプの犯罪だろうとは思いますが、それもまたミステリ小説の楽しみです。

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2022年1月14日 (金)

企業物価指数(PPI)の上昇はいつまで続くのか?

本日、日銀から昨年2021年12月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+8.5%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから記事をやや長めに引用すると以下の通りです。

12月の企業物価、8.5%上昇 1980年以来の高水準続く
日銀が14日発表した2021年12月の企業物価指数は前年同月比で8.5%上昇した。伸び率は11月の9.2%から小幅に鈍化したものの、オイルショックの影響があった1980年12月(10.4%)以来の歴史的な高水準で推移している。原油など資源価格の高騰や円安で原材料にかかる輸入品の値上がりが顕著だ。新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の影響で供給制約が長引けば、物価上昇圧力をさらに強める可能性もある。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。QUICKがまとめた市場予測の中心値(8.8%)を下回った。21年春以降は物価上昇のペースが加速し、前年を上回るのは10カ月連続だ。11月の伸び率は速報値の9.0%から9.2%に上方修正された。21年(暦年)の企業物価指数は前年比4.8%上昇し、日銀の長期データによると80年(15.0%)以来の高水準となった。
21年12月の指数を品目別にみると、ガソリンや灯油などの石油・石炭製品、木材・木製品、鉄鋼の上昇が目立った。特に木材・木製品の上昇率は前年同月比で61.3%、石油・石炭製品は36.6%と2桁台の大幅な伸びが続いた。原油先物相場は12月に一服したものの高水準で推移しており、鉄鋼や電力・都市ガスなどでも資源価格の上昇を転嫁する動きが広がる。
円安の影響も大きい。輸入物価の上昇率は円ベースで41.9%と2カ月連続で40%を超え、80年6月(46.6%)以来の高い水準が続く。ドルなどの契約通貨ベースでは33.3%の上昇で、円換算した輸入品の値上がりが顕著になっている。輸出物価は円ベースで13.5%の上昇だった。
日銀が公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは487品目と全体の65%を占めた。下落の179品目を大幅に上回った。物価上昇の波は家計への影響が大きい飲食料品など幅広い分野に広がってきている。
自動車産業などではコロナ禍で強まっていた部品調達の供給制約が次第に解消されつつある。ただ、足元では新たな変異型「オミクロン型」の流行が国内外に広がり、再び供給制約の影響が強まる恐れもある。国内経済のけん引役である輸出や生産の回復に水を差しかねず、原材料コストの上昇だけが先行すれば企業収益を圧迫する懸念もある。

とてもコンパクトに取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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このところ、欧米をはじめとして世界的にはインフレが高まっています。米国では昨年2021年12月の消費者物価上昇率が+7.0%に達した、と昨日の日経新聞の記事で見たばかりだったりしますし、日本ではまだまだ本格的にデフレから脱却した、とまでは言い切れない物価状況ながら、消費者物価指数(CPI)で見ても、本日公表の企業物価指数(PPI)で見ても、いずれも、足元で物価が下げ止まり、ないし、上昇しつつあると私は評価しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスではPPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で+8.8%の上昇と予想されていましたから、実績の+8.5%にほぼジャストミートしています。要因は主として2点あり、いずれもコストプッシュです。すなわち、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、オミクロン型の変異株を含む新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による供給制約です。とはいえ、あくまで我が国に限った考えかもしれませんが、物価の上昇そのものは本格的なデフレ脱却には好条件を提供している可能性があります。コストプッシュなのですから、粛々と製品価格に転嫁する企業行動がデフレ脱却につながる可能性です。もっとも、日本では企業規模格差に伴って、下請中小企業が大企業に対して価格引上げを要求しにくいという面は無視できませんし、合わせて、国際商品市況における資源価格の動きが一巡すれば上昇率で計測した物価も元に戻ることは覚悟せねばなりません。
ということで、国内物価について品目別で前年同月比を少し詳しく見ると、木材・木製品が+61.3%、石油・石炭製品が+36.6%、非鉄金属が+26.9%、鉄鋼+25.5%、化学製品+13.5%までが2ケタ上昇となっています。ただし、これら品目の価格上昇の背景にある原油価格について、企業物価指数(PPI)の中の輸入物価の円建て指数で見ると、昨年2021年11月の143.0をピークに、12月には141.7に小幅ながら低下しています。前年同月比上昇率で見ても、11月+116.0%、12月+100.4%と上昇率がホンの少しながら落ちているのも事実です。私はこの方面に詳しくないものですから、いつものように、日本総研のリポート「原油市場展望」とか、みずほ証券のリポート「マーケット・フォーカス」とかを見ているんですが、石油価格は高値圏での推移が見込まれているようです。もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大次第ではありますが、前年同月比上昇率で見ればピークアウトに向かっている動きに大きな変わりはない可能性が大きい、と私は楽観しています。ただ、石油価格は伝統的に米ドル建ての取引であり、石油価格の上昇が米国のインフレ、すなわち、米ドルの貨幣価値の低下を招けば、それがまた、石油価格の上昇につながる、という形でインフレ・スパイラルを生じる可能性には注意が必要かもしれません。

問題は今日発表された企業物価指数(PPI)の上昇が消費者物価(CPI)に波及した場合の対応です。例えば、ということで、国民生活が苦しくなるのを無視して、政府や労働組合が企業のコストアップに対応するために賃金抑制に協力するがごとき対応をするなら、日本では本格的なデフレ脱却が遠のくことになります。企業がコストアップを製品価格に転嫁するのであれば、労働者の側でもそれに見合う賃金上昇を要求すべきです。そして、国民の中の物価に対する期待を変化させることができれば、日本経済はさらに本格的なデフレ脱却に近づくと私は考えています。

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2022年1月13日 (木)

クラウドファンディングで購入したオフィスチェアが届く!!!

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先日、クラウドファンディングで購入したオフィスチェアが届いて組立てを終え、本格的に使い始めています。上の写真の通りです。
何ら宣伝をするような意図はありませんが、客観的な事実として、Makuakeのサイトで募集されていたCOFO Chairです。500,000円の目標金額に対して、3,337人がサポートして233,192,600円を集めたようです。私も昨秋に応援購入し、新年早々に届きました。グレードが2段階あって、私はお安い方のProですから、高級な方のPremiumとは機能的に見劣りしますが、まあ、高級品が10万円弱、私の買った普及品が5万円弱の定価ですから、こんなもんだという気はします。割合と早くに目をつけていたので、それなりのディスカウント率で購入できました。
前の長崎大学ではイスやソファを研究費で買えたのですが、現在勤務する大学では、イスや机については支給品扱いとなっています。すなわち、研究費で購入することは認められていません。特に、私が買ったのは「リラクゼーション分野のテクノロジーを追求する」と自称する企業の製品ですので、作業効率よりはお昼寝に適しているようにすら見受けられ、研究費で購入するのは少しははばかられるかもしれません。ただし、パソコンほどではないとしても、オフィスチェアは大学教員にとって極めて重要な「商売道具」であることは明らかです。机よりはイスの方が重要性高いのは多くの教員が同意するものと思います。ですから、同僚教員の中にも何人か自費でイスを購入している人もいます。私が今回購入したイスの5倍を越える高級品を自慢する教員もいました。

イスの場合は耐久性が問題ですので、現時点で評価するのはややリスクが高い気もしますが、たしかに「リラクゼーション分野のテクノロジーを追求する」雰囲気は理解できます。来週で本年度下期の授業は終了です。来年度が明けるまで、しばらく、リフレッシュとリラクゼーションしたいと思います。

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2022年1月12日 (水)

4か月連続で改善を見せた景気ウォッチャーはオミクロン株の感染拡大前の過去の数字か?

本日、内閣府から昨年2021年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2021年11月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.1ポイント上昇の56.4と小幅に改善した一方で、先行き判断DIは▲4.0ポイントと大きく低下しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列で+8973億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を手短に、日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

21年12月の街角景気、現状判断指数は4カ月連続改善
内閣府が12日発表した2021年12月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は56.4で、前の月に比べて0.1ポイント上昇(改善)した。改善は4カ月連続。家計動向、雇用が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は49.4で、4.0ポイント低下した。低下は2カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が悪化した。
内閣府は現状の基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
21年11月の経常収支、8973億円の黒字 民間予測は5850億円の黒字
財務省が12日発表した2021年11月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は8973億円の黒字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は5850億円の黒字だった。
貿易収支は4313億円の赤字、第1次所得収支は1兆7907億円の黒字だった。

短いながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、景気ウォッチャーは現状判断DIが小幅ながらも4か月連続で上昇を示した一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン株の感染拡大などを背景に、先行き判断DIは大きく低下をしています。現状判断DIの小幅改善も、先行き判断DIの低下も、すべての要因は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響に基づくマインドの変化と考えるべきです。現状判断DIの前月差で見ても、昨年2021年12月統計では小売関連はなんとかプラスながらも、飲食関連では早くもマイナスを記録しており、先行き判断DIでは小売関連、飲食関連、サービス関連、住宅関連と、すべての家計動向関連が前月から低下しています。現状判断DIが前月差でプラスであるため、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「新型コロナの影響は残るものの、持ち直している」としていますが、「持ち直し」の基調判断は風前の灯といえます。いずれにせよ、いつもの私の考えですが、経済の先行き見通しは完全にCOVID-19のオミクロン株の感染拡大次第となりました。唯一、明るい見方を提供しているのは雇用関連であり、人口動態に伴って人手不足が根強く残っている点は、家計の所得を下支えする可能性があります。他方で、先行き判断DIが50を下回ったのは、やや古いDIの見方かもしれませんが、景気の転換点を示唆するわけですので、やや気がかりではあります。ともかく、以前の安倍政権と菅政権は検査体制を含めて医療体制の整備にはほとんど関心を示さず、感染拡大に従って緊急事態宣言が出て、感染減少に伴って緊急事態宣言が解除される、古いタイプの Stop and Go 政策の繰り返しでしたが、現在の岸田内閣には、PCR検査の拡充も含めて、何とか抜本的な医療体制整備を図ってほしいと私は期待しています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+6000億円近い経常黒字となっており、ほぼほぼ実績にジャストミートしました。季節調整済みの系列で見て、貿易収支は昨年2021年8~10月の3か月連続で赤字を記録していましたが、11月統計では小幅ながら黒字に戻っています。自動車生産の正常化に伴う動きであろうと私は受け止めています。ただし、ここでも、対外収支に大きな影響を及ぼす世界経済と国内経済の先行きはCOVID-19次第ということかもしれません。

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2022年1月11日 (火)

2か月連続で改善した11月の景気動向指数はオミクロン株感染拡大前のあだ花か?

本日、内閣府から昨年2021年11月の景気動向指数公表されています。CI先行指数が前月から+1.5ポイント上昇して103.0を示し、CI一致指数も前月から+3.8ポイント上昇して93.6を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから手短に引用すると以下の通りです。

21年11月の景気一致指数、3.8ポイント上昇 基調判断は据え置き
内閣府が11日発表した2021年11月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比3.8ポイント上昇の93.6となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は3.7ポイント上昇だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.5ポイント上昇の103.0だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏み」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、統計作成官庁である内閣府では、昨年2021年3月統計から基調判断を上方改定して、8月統計まで6か月連続で「改善」に据え置いた後、引用した記事にもあるように、9月統計から「足踏み」に下方修正して、先月の10月統計、そして、本日公表の11月統計でも据え置かれています。基準がどうなっているかというと、「3か月後方移動平均が3か月連続して上昇していて、当月の前月差の符号がプラス」となっています。本日公表の11月統計では、7か月後方移動平均は4か月連続でマイナスを続けていますが、基準指標となっている3か月後方移動平均は11月統計からプラスに転じています。5か月振りの上昇です。11月統計について、CI一致指数を詳しく見ると、プラスの寄与が大きい順に、耐久消費財出荷指数、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、輸出数量指数などとなっており、これらの系列は先月統計では先々月統計の下降からのリバウンドによるプラス寄与でしたが、11月統計では10月統計に継続しての上昇となっています。加えて、11月統計の特徴のひとつは、マイナス寄与が極めて小さい上に、トレンド成分を通じた寄与である労働投入量指数(調査産業計)と営業利益(全産業)のみとなっている点です。したがって、実質的にほぼほぼすべての系列でプラス寄与となっているわけで、10月統計に続いて、緊急事態宣言が解除されたことに伴う景気の拡大であると考えるべきです。ただ、どの時点から顕在化するかは私には判りかねますが、足元の年末年始にはオミクロン変異株が米軍基地の所在する地域をはじめとして感染拡大が進んでまん延防止等重点措置が取られていることは広く報じられている通りであり、先行き景気はまったく不透明です。

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2022年1月10日 (月)

成人の日おめでとう!!!

成人の日おめでとうございます。

小中高と違って、大学では授業のある期間は祝日は無視して授業をする場合が少なくないのですが、20歳の成人式を大学生として迎える学生はかなり多いですし、成人の日だけは大学の授業は行わず、式典などへの参加を暗黙裡に推奨しているように私には見受けられます。でも、今年については新型コロナ感染症(COVID-19)のオミクロン株が、特に米軍基地のある地域をはじめとして感染拡大していることから、成人式の式典などを通常通りに開催できない場合もあるように報じられています。もう、第6波に入ったような気すらして、誠に残念です。私のゼミにも沖縄出身の学生がいますし、はたして、この先、どうなりますことやら?
私は、密になるのを避けて、琵琶湖岸まで自転車に乗って出かけたのですが、帰り道で住宅建設現場の迷路に入り込んで出られなくなり、あげくに転倒してしまいました。国道1号線への脱出路を探ってキョロキョロし、当然ながら、ノロノロと走っていただけなので、体の方はヒザをすりむいたくらいなのですが、ライトを壊してしまいました。新しい我が家の近くにある行きつけのチェーン店の自転車屋さんでライトを買い求めたら、充電式をオススメされました。USBから電源を取るのだそうです。時代の進歩に乗り遅れている気がしてしまいました。

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2022年1月 8日 (土)

今年初めてのブログ投稿は4冊分の読書感想文から!!!

昨夕にようやくインターネットが開通しました。引越しを機に回線業者を変更し、とても快適なネット環境を手に入れることができました。
ということで、今週、というか、2022年が明けて最初の読書感想文は以下の通りです。この私のブログの土曜日の恒例の読書感想文です。いつもは午前中の早い時間帯にポストするのですが、今日は実は、通常出勤日でした。大学生という20再前後の若者を相手にする大学教育ですので、明後日の「成人の日」は重要なイベントです。その月曜日の授業を本日の土曜日に代替して出勤する、というか、正確には私の場合は出勤したわけではなく、オンライン授業を行ったわけです。まあ、そこそこお給料はくれるのですが、人使いの荒い職場だという気がしないでもありません。この3連休は軽いウォーミングアップの期間とし、来週火曜日からは本格的にブログを復活させるべく計画しています。

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まず、小倉義明『地域金融の経済学』(慶應義塾大学出版会) です。著者は、早稲田大学の研究者です。本書は7章構成となっていますが、第3章まではたいとるのような地域金融機関ではなく、ゼロないし低金利下で利ざやが極めて薄くなった金融機関の経営分析などに当てられており、地域金融機関だけではなく、ほぼほぼすべての金融機関に当てはまる分析となっています。著者も十分認識しているようで、第4章の冒頭にはその旨の断り書きがあったりします。それはさておき、私は今回の引越しでもまとまった額の住宅ローンを組んだのですが、地元の地銀から借りました。大学の給与振込も同じ地元地銀です。実は、東京で初めて買ったマイホームはメガバンク系列の信託銀行から住宅ローンを借り入れたのですが、ハッキリいって、かなり大きな差を感じました。今度の地銀のようなビジネスをやっていては顧客が逃げます。私自身も出来る限り早くローンを返却して、ローンを返却し終えた暁には、給与振込も別の銀行に変更して、早々に口座を解約したいと考えています。それほどひどいビジネスをやっています。私も実体験をしてびっくりしました。ですから、昨年2021年12月11日付けの読書感想文でも、平凡社新書の高橋克英『地銀消滅』を読んで取り上げましたし、もう少し専門的な本書を大学の図書館から借りてみました。本書でも、金融の大幅緩和下で利ざやが縮小し、リスクテイクに走る地銀の姿が定量的に浮き彫りにされています。ただ、本書では、地域経済の困難を人口減少の観点からだけ捉えて、それを指標とした定量分析を行っています。確かに、都道府県別で地域経済衰退のひとつの指標としては考えられるところであるものの、ほかの代理変数はなかったのだろうかと思わないではいられませんでした。私も長崎という高知などとともに地域経済の衰退の激しい県で大学教員をしていた記憶がありますし、人口というのもいいような気もしますが、最大の懸念は人口がそれなりにキープされている沖縄県が特殊な例外になりそうな気がする点です。もう一つは、私の実体験に基づく実感で、人口減少との関連性低く地銀ビジネスの展開が極めて低レベルである点です。この地銀ビジネスのクオリティの低さが、ひょっとしたら、低金利下の利ざや縮小や人口減少とは関係なく地銀経営悪化の大きな要因なのではないか、と思わなくもありません。

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次に、フィリップ・コトラーほか『コトラーのH2Hマーケティング』(KADOKAWA) です。著者は、現在のマーケティング界の大御所といえる存在であり、長らく、米国ノースウェスタン大学の研究者でした。でも、本書については、私のクレジットでは「ほか」で済ませてしまったのですが、ファルチ教授とシュポンホルツ教授の2名の共著者がいるようで、実は、この2名のドイツ語の出版が元になっているようです。英語の原題は H2H Marketing であり、2020年の出版です。ということで、本書第5章のpp.308-09の2ページに渡って、戦後の学術的なマーケティングの歴史がコンパクトなテーブルに取りまとめられているのですが、本書はその流れから大きく外れて、H2H、すなわち、Human to Human、人と人を結ぶマーケティングがクローズアップされています。そして、今までのマーケティングは、私が行動経済学と対比させているように、いかに消費者、あるいは、他企業の購買部門を「騙して」とまではいわないまでも、「丸め込んで」自社の製品やサービスを購入させるか、という点に重点が置かれていたマーケティングを大きく転換し、「愛される企業」=Firms of Endearmentを目指すか、を目標に掲げています。私は経営学や、ましてや、マーケティングについてはそれほど専門的な知識も経験もありませんが、伝統的な経済学では、企業とは利潤最大化を目標とするgoing-concernの経済主体であると考えられています。そして、企業においては資本ストックと労働力を組み合わせて、付加価値を生み出す生産関数を基に活動を行っていると私は理解しています。ですから、本書の「愛される企業」と伝統的な経済学の両方が正しいとすれば、企業が愛されるようになれば利潤も増加し、最終目標である利潤最大化に対する目先の第1次目標が「愛される企業」である、と、理解することが出来ます。しかし、私は自信がありません。違っているような気もします。というのは、本書で、マーケティングについて論じている一方で、ユニバーサルなベーシックインカムについても取り上げていたりします。ホンの少しだけ言及している程度ですが、マーケティングの学問領域を大きくはみ出している気がします。もはや、マーケティングというよりは大きなく、ウリでの経済社会の哲学を論じているような雰囲気すらあります。決して、「オススメ」とまではいいませんが、とても興味深い議論の展開で、私自身も共感できる部分が少なくありませんでした。

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次に、山口薫・山口陽恵『公共貨幣入門』(インターナショナル新書) です。著者は、同志社大学から、現在はトルコの国立アンカラ社会科学大学の研究者と日本未来研究センターの研究者です。タイトル通りに公共貨幣ということで、中央銀行から発行される負債証券としての貨幣ではなく、政府が発行する資産としての貨幣に置き換えることを主張しています。日銀は廃止されて貨幣発行に関する政府部門となり、銀行のプルーデンス規制は字部分準備制度から100%準備を要求され、決済機能に特化したナローバンキングとなることを想定しているように私は読みました。そもそも、そんな貨幣制度改革が可能か、あるいは、必要かという議論が完全に抜け落ちていて、著者2人の信念を延々と展開しているだけですので、それほど判断材料がありませんでしたが、この公共貨幣システムに移行すれば、現在の日本経済が成長を取り戻すというロジックは、頭の回転が鈍くて私には理解できませんでした。おそらく、リフレ派と同じように、公共貨幣に切り替えた上で、ジャカスカ貨幣供給を増加させる、そして、財政資金はマネタイズして財政からも高圧経済を目指す、ということなのだろうと想像しています。他方で、現代貨幣理論(MMT)は激しい批判の対象となされています。直感的な私の理解によれば、公共貨幣論者は私のようなリフレ派よりも、そして、ついでながら、MMT)論者よりも、さらに左派の経済学ではないかと思うのですが、伝統的、というか、現時点での主流派的な私の経済学の理解では、本書をキチンと評価することは難しいような気がします。お手上げです。

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最後に、武井彩佳『歴史修正主義』(中公新書) です。著者は、学習院女子大学の研究者であり、専門はドイツの現代史、特に、ホロコースト研究だそうです。本書では、決して学術的ではなく、科学的な歴史学ではない「歴史修正主義」、そして、その歴史修正主義にすら入らないホロコースト否定論について議論を展開しています。日本でも、1995年2月に文藝春秋社が発行していた雑誌『マルコポーロ』がホロコーストを否定する記事を掲載して自主廃刊したこともありますし、ナチスやアウシュビッツなどのホロコーストに焦点を当てた本書のスコープの外ながら、日本でも侵略戦争を美化し、アジア四国を欧米の植民地から「解放」した、とする論調の歴史修正主義もまだまだ見受けられるところですから、こういった本書のようなキチンとした論者による解説は有益であろうと私は考えます。欧州でもネオナチのようなポピュリスト政党が支持を伸ばし、フランスでも右翼政党が大統領選で得票を上げるなど、ポピュリスト化や右翼化が進む中で、政治的な思想信条の自由、あるいは、表現の自由から大きくはみ出した形での歴史改竄の形を取る歴史修正主義に対しては、フェイクニュースなどのチェックとともに、ポストトゥルースの時代にあって、正しい対応を身につける必要があるといえます。

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