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2022年2月28日 (月)

2か月連続の減産となった鉱工業生産指数(IIP)と基調判断が下方修正された商業販売統計の先行きはどうなるか?

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.3%の減産でした。減産は2か月連続です。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.6%増の12兆2950億円、とコチラは4か月連続の増加を示した一方で、季節調整済み指数では前月から▲1.9%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

1月鉱工業生産、前月比1.3%低下 2月予測は5.7%上昇
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比1.3%低下の95.2だった。低下は2カ月連続。生産の基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比0.7%低下だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では2月が5.7%上昇、3月は0.1%上昇を見込んでいる。
1月の小売販売額、1.6%増
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比1.6%増の12兆2950億円だった。増加は4カ月連続。季節調整済みの前月比は1.9%減だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が3.0%増の1兆6770億円だった。既存店ベースでは2.6%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は2.9%増の9537億円だった。

いずれもとてもコンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、前月と比べて▲0.7%の減産という予想でしたので、まずまず「こんなもん」という受止めかという気がします。加えて、減産の要因が、またまた、部品調達の停滞や物流の逼迫ということですし、足元の2~3月については、製造工業生産予測指数で見て、それぞれ、+5.7%、+0.1%の増産を予測していることから、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。もっとも、製造工業生産予測指数の上方バイアスを取り除いた補正値では、2月増産は+0.7%に大きく圧縮されますが、それでも増産は増産です。繰り返しになりますが、1月の減産は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株のアジアなどにおける感染拡大により、自動車工業を中心として、部品の供給制約、あるいは、物流の停滞などのグローバルなサプライチェーンに起因しています。ですから、経済産業省による解説記事「1月生産は2か月連続の前月比低下」では、中でも、自動車工業が前月比▲17.2%の減産となって、ヘッドラインの▲1.3%の減産を超えて、というか、その約2倍の▲2.69%の寄与度を持っています。今後の生産の行方はCOVID-19の感染拡大、そして、これに伴うグローバルなサプライチェーンにおける部品供給や物流の停滞などに加えて、ロシアのウクライナ侵攻の経済的影響次第という面があり、いずれも、私のような不勉強なエコノミストには到底予測し難いのですが、大雑把には、内需に依存する部分の大きい非製造業とは違って、世界経済の回復とともに製造業の生産は緩やかに回復の方向にあるのは間違いないと私も考えています。でも、それほど単純な道のりではない、と考えるべきです。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。前のIIPのグラフと同じで、影を付けた部分は景気後退期を示しています。繰り返しになりますが、通常、多くのエコノミストや報道では、この統計のヘッドラインとなる小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で見ているような気がします。しかしながら、経済産業省のリポートでは、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で基調判断を示しているようで、1月の移動平均指数は前月から▲0.7%の低下と試算しています。3カ月ぶりの低下であり、1月統計における季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比はプラスながら、基調判断は12月までの「持ち直しの動き」から、1月までのトレンドで「横ばい傾向」に下方修正されています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、本日公表の商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていないことから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響は過小評価されている可能性が十分あります。飲食や宿泊のような対人接触型のサービスがCOVID-19の感染拡大で受けるネガティブな影響は、商業販売統計には十分には現れていないわけです。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、物価上昇があれば販売額の上昇という結果になります。現在、日本では先進各国におけるような大きなインフレは認識されていませんが、世界では石油などの資源価格の上昇をはじめとする供給要因と世界的な景気の持ち直しによる需要要因とで、物価の上昇が始まっており、米国では中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FED)が3月の利上げを示唆したりしている段階です。我が国でも、小売業販売額の前年同月比伸び率を業種別に詳しく見ると、燃料小売業が昨年2021年10月から+20%を超え、1月統計では+22.8%を記録していますが、売上数量が伸びているというよりも、販売単価、すなわちインフレ部分が大きいのではないかと私は想像しています。これら2点を考え合わせると、実際の日本経済の現状についてはこの統計よりも悲観的に見る必要が十分ある、と私は考えています。

いずれにせよ、経済の先行き見通しは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)、とくに、オミクロン型変異株の感染状況、それに、ロシアのウクライナ侵攻、などに大きく左右されそうな気がします。

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2022年2月27日 (日)

交通事故にあってオープン戦を見逃す!!!

久しぶりに交通事故にあいました。東京にいた時に、高島平警察のお世話になって以来、数年ぶりかという気がします。
国道1号線を四日市方向に向かって帰宅途中、右折してきた大型二輪に接触してしまいました。どちらの車線もやや渋滞気味で自動車がノロノロと動いている時で、私の自転車も大型二輪も時速10キロもでていなかったので、大きな事故ではありませんでした。まあ、私の見方からすれば、直進する自転車と右折の大型二輪ですから、右折車の方により大きな注意義務がありそうな気はします。大型二輪はかすり傷ひとつなかったのですが、クロモリ軽量フレームの自転車の私は転倒して、両膝をすりむきました。駆けつけて来たおまわりさんが大きな絆創膏を持っていたので応急処置で貼っておきました。
一応、自転車は行きつけのサイクルベースあさひに持ち込んで点検してもらっています。事故現場からラクに3キロは自走して、自転車を預けた後も私は1キロ近くを歩いて帰宅しましたので、私の体も自転車も大したダメージはないものと楽観していますが、明日の朝起きた段階でなにか気がかりなことがあれば、大学に出勤しする予定ですので保健センターの医者に見てもらおうかと考えています。おかげで、阪神とヤクルトのオープン戦を見逃してしまいました。

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2022年2月26日 (土)

今週の読書はカーボンニュートラルに関する経済書3冊を中心に新書を合わせて計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。いろいろと必要性あって、カーボン・ニュートラルに関する本を集中的に読みました。1人だけ著者に知り合いがいましたので、メールをやり取りしていたら偶然にもあってランチを共にしたりしましたが、まあ、知り合いなだけに関係のない四方山話で終わってしまいました。
1冊め、小林光・岩田一政『カーボンニュートラルの経済学』(日本経済新聞出版)では、カーボン・ニュートラルの推進に関しては、自然体でも人口減少や省エネにより5割削減が十分可能で、さらにDXをの適切な進展を加えれば3割削減がオンされ、8割削減までは可能とした上で、カーボン・プライシングを現在の軽課の炭素税=環境税に大きく上乗せして、さらに、二酸化炭素回収・貯留(CCS/CCUS)の低コスト化が必要と指摘しています。2冊め、巽直樹『カーボンニュートラル』(日本経済新聞出版)では、脱炭素化について多角的に考える必要を強調し、自動車や鉄鋼やといった産業ごとの分析も数多く取り入れています。3冊めボストン・コンサルティング・グループ『BCGカーボンニュートラル経営』(日経BP)では、国際的なコンサルティング・ファームらしく判りやすい立論とシナリオ分析をビジュアルな形で示していますが、結局、現状分析→戦略選定→強力な推進、という、何にでも使える処方箋が中心になっているような気がします。最後に4冊め、アジア・パシフィック・イニシアティブ『検証 安倍政権』(文春新書)では安倍政権でもっとも重要であったアベノミクスの分析から始め、景気や経済に敏感な若者を左派的、リベラルな経済政策で引きつけておきながら、安保法制といった右派政策を強行し、それでも、「憲法改正」には失敗した安倍内閣の検証を行っています。
なお、これで、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の4冊を含めて計36冊となっています。

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まず、小林光・岩田一政『カーボンニュートラルの経済学』(日本経済新聞出版) です。著者は、環境省の事務次官経験者と内閣府から日銀に転じて副総裁まで務めて現在は日本経済研究センター(JCER)理事長の2人ほかです。タイトル通りに、2050年を目標とするカーボン・ニュートラルの経済学を論じています。第1章の展望から始まって、第2章では構造というタイトルの下で今後の産業構造の動向を論じ、第3章ではエネルギー構造などの戦略を考え、第4章においてカーボン・ニュートラルを達成する上でもっとも重要な制度である炭素税などのカーボン・プライシングを制度の枠組みの中で取り上げています。そして、第5章の変容でマイクロな経済主体である企業や家計の行動変化の方向性を論じ、第6章の政策ではカーボン・プライシング以外の規制政策に着目し、第7章ではそれらの地球規模での世界的な協力について考え、最後の第8章で安全保障の側面からカーボン・ニュートラルを捉えています。2020年10月に就任早々の当時の菅総理が政府として2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロ、すなわち、カーボンニュートラルを目指すと表明したのはまだ記憶に新しいところです。これはかなりショッキングに受け止める向きもあったのですが、本書では、第1章冒頭で、省エネや人口減により自然体(BaU=Business as Usual)でも5割減、DXを適切に進めればさらに3割削減がオンされて、8割減まではそう難しくない、との分析結果が示されます。ですから、その上で、残り2割をいかに削減してカーボン・ニュートラルに持って行くか、という議論となります。本書でも当然に認識されているように、経済的な手段であるインセンティブに基づくカーボン・プライシングと直接的な規制、さらに、イノベーションの進展を促進して二酸化炭素回収・貯留(CCS/CCUS)の低コスト化、などが中心的な政策課題となります。その中でも、カーボン・プライシングは世界的に注目されていて、世銀でも毎年 State and Trends of Carbon Pricing というリポートを発行しています。現状では、日本の炭素税=環境税は余りに産業界の意見を聞き過ぎて軽課となっており、本書では1万円/㌧で8割削減が可能となり、さらに国際的に広く合意された+1.5℃目標の達成には税率を2.1万円超/㌧にするほか、脱原発を達成するのであれば、追加的にCCS/CCUSのコストダウンで実用化を促進する必要があると結論しています。従来から、私は資本主義的な市場価格による資源配分は明確に破綻しており、典型的な例のひとつが、この地球温暖化=気候変動に現れていると考えています。市場メカニズムだけに頼っていたのでは、炭素価格が長期的な地球温暖化=気候変動を許容した水準にしか決まらないわけです。経済政策のひとつの要諦は、この市場価格、あるいは、別の何らかの均衡点が経済社会の厚生にとって好ましくない場合、その均衡点を「歪める」ことであると私は理解しています。そして、現在の喫緊の課題のひとつはこの脱炭素化です。その脱炭素化をはじめとするSDGsについては、少なくとも大企業を中心とするビジネス界ではかなり広範に必要性に対する認識が広がっています。経済政策の基本となる経済学の知見がどこまで活かせるかは政府の取り組み次第といえます。

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次に、巽直樹『カーボンニュートラル』(日本経済新聞出版) です。著者は、コンサルティング・ファームでアドバイザリ・サービスを提供しています。本書では、実にコンパクトにカーボン・ニュートラルにまつわる世の中の情報がよくまとめられています。私のようなシロートが、多種多様な知識を得るにはいいんではないかという気はします。他方、シロートの私には評価ができないものの、本書から得られる新しい情報がどこまで盛り込まれているかはやや疑問なしとしません。まず、第1章ではカーボン・ニュートラルとは何かを解説し、地球温暖化=気候変動やそれに対応する京都議定書から説き起こして、そもそも論を議論しています。特に、2020年10月に当時の菅総理が表明した2050年カーボン・ニュートラル、また、その後2021年4月に気候サミットで表明した中間目標の2030年▲46%削減、という目標については、「ナローパス」と表現して、決して達成容易ではないという世間一般の感覚に近い捉え方をしています。第2章では具体的な日本の論点を展開し、産業レベル、特に、グリーン成長戦略について、また、政策レベルでは、やっぱり、肝となる炭素税と排出権取引といった経済的インセンティブの活用などを取り上げています。第3章はでは、2030年の現実解と2050年への展望と題して、脱炭素化について多角的に考える必要を強調しています。すなわち、『カーボンニュートラルの経済学』が、かなり直線的に脱炭素化を進めるための経済学を用意しているのに対して、本書は脱炭素化以外にも重要な政策目標はいっぱいある、という、これまた、世間的に理解がしやすい論点を準備しています。特に、その次の第4章の脱炭素経営の解説とともに、人口減少やデジタル化や分散化なども併せて複層的な解決を連立方程式を解くように求める必要性が強調されています。特に私が注目したのは環境規制の強化に伴う空洞化の恐れです。そして、理由はともかく、ビジネスに関する流れを第6章の投資やファイナンスに結びつければいいのですが、なぜか、第5章ではイノベーションを取り上げて寄り道をしています。イノベーションでいえば、もちろん、色々とあるのですが、私は無敵のCCS/CCUSのコストダウンに注力すべきと考えています。もう一度第6章に戻ると、いわゆるESG投資などの人口に膾炙した用語で平易に解説されています。私が感激したのは、本書を1冊読めば、私のようなシロートにはかなりの程度の情報量が得られるという点です。加えて、数字やグラフなどの引用元もかなり豊富であり、学生諸君に教えねばならない教員という身として、とても実務的に参考になります。本書を手元において、参照先のwebサイト一覧を完成させれば、私のような環境経済学を教えているわけではなく「広く、浅く」をモットーとする専門外の教員としては、それなりの指導目標が出来ます。

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次に、ボストン・コンサルティング・グループ『BCGカーボンニュートラル経営』(日経BP) です。著者は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)日本法人の共同代表、シニアパートナー、パートナー、コンサルタントなどであり、コンサルティング・ファームでもカーボン・ニュートラル=脱炭素の経営は大きな課題となっていることが伺えます。コンサルタントらしく、そもそも論から入って、それなりの整理はよくなされているのですが、いかんせん、ワタシ的な表現ながら、観念論で終わっています。戦略指針として、超積極対応、積極対応+スピード調整、後進グループ的対応、実質消極対応、と4分割し、楽観シナリオ、中間シナリオ、悲観シナリオのシナリオを組み合わせた経営指針を打ち出していますが、シナリオ分析はコンサルタントの得意とするところであって、エコノミストには不得手な部分ですので、それなりに参考になりましたが、やや荒っぽい議論に終止しているような印象がありました。私はある程度読み飛ばしてしまいましたが、『カーボンニュートラル』では自動車や鉄鋼や電力といった産業ごとの詳細な分析や指針が示されている一方で、コンサルタントらしく、まあ、何と言いましょうかで、「気合で突破」的なところはさすがに少ないものの、極めてオーソドックで多くの業界、多くの企業に当てはまるような戦略の枠組みが示されていて、それほどの具体性には乏しい、と感じるビジネスパーソンもいそうな気がします。 すなわち、自社の置かれている現状を把握する、いろいろなシナリオを考慮しつつ自社の進むべき方向性を明らかにして戦略を選択する、トップも巻き込んでその戦略を強力に推進する、という方法論で、別に、カーボン・ニュートラル=脱炭素化でなくても何でも同じじゃん、と受け止める向きもありそうです。私もそうだったりします。ただ、さすがにBCGだと思ったのは、脱炭素化を進める指針を示す国際機関だけではなく、世界の主要な企業の動向もキチンと把握して参考にしている点です。ここまで、企業レベルで海外企業のカーボン・ニュートラルの進め方を参考にできるのは国際コンサルティング・ファームの強みだと感じさせられました。ただ、いつもの不満なのですが、こういった成功例の裏側には、成功例を上回るような失敗例が横たわっている気もします。最後に、誠に残念ながら、私の授業の腹の足しにはあまりならないように受け止めました。

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最後に、アジア・パシフィック・イニシアティブ『検証 安倍政権』(文春新書) です。著者は、アジア・パシフィック・イニシアティブ=APIとなっていますが、これは朝日新聞社主筆を務めた船橋洋一理事長の団体であり、基本的に編集ということではないか、要するにいわゆる「お座敷貸し」であろうと私は受け止めています。ですから、アベノミクス、選挙・世論対策、官邸主導、外構・安全保障、TPP・通商、歴史問題、与党統制、女性政策、憲法改正のチャプターごとに著者が各々の専門分野の執筆に当たっています。ただ、本論に入る前に、ということで、私も同意しますが、やっぱり、安倍政権といえば経済政策=アベノミクスが飛び抜けた重要性を持っています。そして、このアベノミクスの経済政策から派生する形で、若年層が与党支持に回り、女性問題の解決や労働問題、特に同一労働同一賃金については、かなりの程度に左派リベラルな政策展開がなされたと私は考えています。ですから、本書でも「憲法改正」には失敗したと結論していますが、改憲を含み安保法制に代表される安全保障政策や外交政策とは大きな断層を私は感じます。特に、本書でも指摘されていますが、若年層ほど経済や景気には敏感です。高齢者になって年金を受け取れる年代に達すれば、いわば、国家公務員に就職したのと同じですから、景気に関係なく所得の変動は別の要因から生じることになります。逆に、若年層、若者はそもそも就職できるか、という点から始まって、景気に敏感な所得を実感しています。その若年層を経済からひきつけて支持を伸ばし、右派的な政策まで丸ごと支持させようとしたのが安倍政権だったと私は考えています。ですから、そういった方向は左派リベラルこそ追求すべきであり、今の野党が、特に民主党は成犬にあったときには日銀の独立性を履き違えて、当時の白い日銀のデフレ政策を野放しにしたり、三党合意と称して均衡財政を目指す増税に舵を切ったりと、経済政策がまさに「悪夢」だったわけです。改憲や安保法制などにはしっかりと反対しつつ、若年層を引きつけるアベノミクスのいい点は取り入れて、「野党は反対ばっかり」と揶揄されないことも含めて、単に、安倍政権のすべて反対を向くような政策ではない政策を左派リベラルには求めたいと思います。

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2022年2月25日 (金)

ロシアのウクライナ侵攻に関する経済学的、あるいは他の観点からの雑感

ロシアがウクライナ侵攻を始めました。マクロ経済を専門とするエコノミストとして、理解不能なのはマイクロな指導者としての決断、というか、判断力なのですが、『日経ビジネス』誌のコラムでその正解を見つけたような気がします。コラムの著者ご本人のツイッタで見つけましたので、それに触発されたわけです。なお、このコラムは「2022年2月26日 8:17まで無料で読めます」とのことです。

しかし、プーチン大統領が有能なリーダーであるのかどうかについては、議論が分かれる。
私は、無能なのだろうと思っている。
はじめから無能だったのかどうかは、ともかくとして、絶対的な権力を手にしてから後は、無能な政治家に成り果てたのだろうと考えている。
というのも、ちょっと恫喝してみせるだけで、およそあらゆる要求を通すことのできる人間が、有能であり続けることは不可能だと思うからだ。
中小企業のボスによくあるタイプだ。

このコラムは、英国の歴史家である Lord John Dalberg-Acton, 1st Baron Acton アクトン男爵の有名な警句 "Power tends to corrupt and absolute power corrupts absolutely." 日本語では「権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対的に腐敗する。」を思い起こさせます。コラムの著者は「中小企業のボス」を引き合いに出していますが、実は、割合と最近まで我が国行政府のトップである内閣総理大臣がそうだったわけで、「恫喝」すら必要なく、部下たる高級公務員が「忖度」しまくっていたわけです。
別の観点から、経済学と関係ないトピックを続けると、ロシアは核保有国であり核の使用を招きかねないため、米国などの他の大国が介入をためらっている、という説もまことしやかに流れています。今さらながら、だからこそ、核保有国のこういった横暴を許さないためにも、核廃絶を進めるべきであるという重大な根拠と考えるのは私だけではないでしょう。
話を強引に経済に引き戻すと、我が経済学では、マイクロな経済学で効率的な資源配分を論じ、各経済主体である家計や企業やといったレベルでの選択を考える一方で、私の専門分野であるマクロ経済学では経済社会全体の集計的あるいは合算した社会的効率性や経済厚生を考えるわけです。マイクロな権威主義的な政治体制のもとでの絶対的権力者の選択の結果が、マクロの経済社会全体の効率性や効用を最大化するハズもありません。石油価格が上昇するの、株価が下落するの、といったマーケット動向以前の問題です。

必ずしも経済学的な観点だけからではなく、どのような観点からも、そもそも、戦争や大規模な戦闘行為は正当化されませんし、特に、目の前にある今回のロシアによるウクライナ侵攻が許容できるはずもありません。微力ながら、また、貧弱なメディアながら、私なりの考えを主張しておきたいと思います。

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2022年2月24日 (木)

東京商工リサーチによる2022年度「賃上げに関するアンケート」の結果やいかに?

3日前の2月21日、東京商工リサーチから2022年度「賃上げに関するアンケート」の結果が明らかにされています。2022年度に賃上げ実施を予定する企業は71.6%に上り、前年度から+1.3%ポイント上昇したものの、コロナ前の実施率80%台の水準には遠く及ばない状況となっています。図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは東京商工リサーチのサイトから引用しています。2022年度に賃上げを実施すると予定している企業は回答企業6,781社のうち4,857社、71.6%に上りました。しかし、グラフから明らかな通り、コロナ前の2019年度までコンスタントに80%を越えていましたが、2020年度に急落した後、いまだに70%そこそこにとどまっています。また、賃上げを実施するとしても、「定期昇給」が大部分の81.8%を占め、「ベースアップ」は32.1%にしか過ぎません。

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続いて、上のテーブルは東京商工リサーチのサイトから引用しています。1%刻みのレンジで、昨年度の最多帯は「2%以上3%未満」の33.4%だったのですが、今年度は「1%以上2%未満」の36.2%となっています。さらに、もう少し大括りにして「3%未満」のレンジを見ると、昨年度は50.8%だったのですが、今年度は73.1%と全体的に賃上げ率も停滞気味です。

米国ほかの先進国ほどではありませんが、我が国でもジワジワと物価上昇率が高まりつつあります。日銀は2%ターゲットの物価目標達成のための金融政策運営を行っています。物価上昇にふさわしい賃上げが必要です。

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2022年2月23日 (水)

そろそろ県内でも花粉が飛び始めたか?

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ウェザーニューズの花粉飛散マップが更新されています。2月22日の更新は上の画像の通りです。ウェザーニューズのサイトから引用しています。この情報によれば、今シーズン初めて2月15日に福岡県と長崎県で飛散が確認された後、2月17日には東京都でも確認され、そして、昨日2月22日にはとうとう隣県の三重県で飛散が始まっているようです。ウェザーニューズの目安としては、「各都道府県内ので3割以上のポールンロボが2日以上10個を上回る花粉を観測」ということになっています。しかしながら、こういった観測装置や基準ではなく、私の鼻には少し前から花粉飛散がもう検知されています。今週日曜日には1日寝込みましたし、健康には気をつけたいと思います。

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2022年2月22日 (火)

企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率はコンスタントに+1%を超える!!!

本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.2%を記録し、変動の大きな国際運輸を除く平均も+0.9%の上昇を示しています。国際商品市況における石油価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

1月の企業向けサービス価格、前年比1.2%上昇 前月比0.5%下落
日銀が22日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.5で、前年同月比で1.2%上昇、前月比では0.5%下落した。

極端なまでにコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。影を付けた部分は景気後退期です。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年4月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+1.0%の上昇となった後、本日公表された今年2022年1月統計まで10か月連続で+1%以上の上昇率を続けています。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及していると私は考えています。もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく1月統計のヘッドライン上昇率+1.2%への寄与度で見ると、石油価格の影響が強い運輸・郵便が+0.35%、土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービスが0.34%、景気に敏感なテレビ広告をはじめとする広告が+0.24%、などとなっています。諸サービスのうち宿泊サービスには「GoToトラベル」の影響が見られると考えるべきです。また、前年同月比上昇率でも、特に、広告はテレビ広告の+10.0%をはじめとして、広告全体で+5.2%の上昇を示していますし、運輸・郵便も+2.2%に上っています。広告の上昇率が高いのは、景気に敏感なためなのか、それとも、北京オリンピックの影響なのか、私には判りかねますが、サービス価格も上昇基調にあると考えるべきです。

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2022年2月21日 (月)

第一生命経済研のリポート「円安悪玉論の誤解」を読む!!!

本日、第一生命経済研究所から「円安悪玉論の誤解」と題するリポートが明らかにされています。私はほぼほぼこのリポートの趣旨に賛成ですので、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。なお、リポート1ページめが(要旨)になってるのですが、あまりに長くて要旨の役割ではなさそうなので割愛します。

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まず、上のグラフはリポートから 10%円安の影響 を引用しています。ただし、第一生命経済研のリポートが、そもそも内閣府のリポート「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)の構造と乗数分析」を引用しています。念のため。そして、第一生命経済研のリポートで指摘しているように、「内閣府や日銀などのすべてのモデルで円安が実質GDPの増加に寄与」との結果は、私自身ですべての計量モデルをチェックしたわけではないものの、たぶん、そうだろうと思います。そしてもっと言えば、内閣府のモデルでも消費にもおおむねプラスの影響があります。上のグラフでは1年目にわずかにマイナスになっているのですが、3年目までをならしてみるとプラスなのは明らかです。加えて、グラフの引用はしませんが、リポートでは輸入物価を円ベースと契約通貨ベースで比較し、「輸入物価上昇の為替要因は¼程度に過ぎない」と結論しています。私の直感でもその程度ですし、そもそも、現状、日本の消費者物価指数(CPI)上昇率が+1%にも満たないわけで、デフレから完全に脱却したとまでは言い難いのですから、円安による物価上昇を懸念するのはいかがか、という気もします。

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続いて、上のグラフはリポートから 設備投資と為替の関係 を引用しています。そして、リポートでは、「2013年のアベノミクス以降、円安のメリットは輸出増よりも企業の設備投資の増加のほうが大きい」と指摘しています。ただ、この円安→設備投資、という関係は、むしろ、中に株高が入って、円安→株高(=期待収益の上昇)→設備投資なんだろうと私は考えています。まあ、学術論文ではなく、シンクタンクのリポートですので、厳密な論証ではなく、直感的なグラフを比較しての結論ですが、それほど的を外しているわけではないと私も考えます。

何度か、私が主張してきたところですが、円高とデフレは通貨にまつわる同じ現象のコインの表裏だと考えるべきです。すなわち、円高は円通貨と外貨の間で円が希少であることの結果であり、デフレは円と財・サービスの間で円が希少であることの結果です。すなわち、黒田総裁が2013年に就任する以前の日銀では、円が希少になる金融政策運営を行ってきたために、その結果として円高とデフレを招いてしまったわけです。まあ、黒田総裁就任以降、というか、その直前から、円高の方は何とか是正された一方で、デフレからの本格的な脱却はそれほど進んでいませんが、少なくとも、現在の金融政策の方向は正しいと私は考えていますし、円安とデフレ脱却が同時に達成されることは理論的には円の希少性の低下によってもたらされる同じコインの表裏であると考えています。

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2022年2月20日 (日)

花粉症でダウン!!!

鼻水が止まらず、花粉症でダウンです。抗アレルギー剤を飲んで寝ていましたが、午後から少しだけノッソリと起き出して、阪神タイガースの練習試合をテレビ観戦していたりします。9回の猛攻に満足です。明日は通常活動に復帰したいと思っています。

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2022年2月19日 (土)

今週の読書は最新かつ実証的な経済書2冊のほかミステリも含めて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。まず、宇井貴志ほか『現代経済学の潮流 2021』(東洋経済) では、2020年度に開催された春秋の日本経済学会の大会から会長講演論文、各賞受賞講演、特別報告、パネルディスカッションなどを収録しています。伊藤公二『グローバル化と中小製造業の選択』(京都大学学術出版会) では、著者が京都大学出向時の研究成果を取りまとめていて、メリッツ教授の新々貿易理論を我が国の中小製造業に当てはめた実証分析を展開しています。織守きょうや『花束は毒』(文藝春秋)は結婚直前に送られてくる脅迫状にまつわる謎が解き明かされます。田村秀男『「経済成長」とは何か』(ワニブックスPLUS新書)では、ジャーナリストの著者が、タイトルにとらわれずに幅広く経済社会を解説していますが、一般的なビジネスパーソンよりも少し経済学や経済の知識が不足していても十分読みこなせるようなレベルを目指しているのかもしれません。すなわち、一般的なビジネスパーソンにはやや物足りないかもしれません。最後に、中井治郎『日本のふしぎな夫婦同姓』(PHP新書) では、結婚した男女の96%が男性の姓に合わせている日本の夫婦同姓について、社会学の研究者であり、女性の姓に合わせた著者が自分の経験を含めて不思議かつ不可解なシステムを解明します。詳細は以下の通りです。
なお、これで、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の5冊を含めて計32冊となっています。それから、このブログでは取り上げませんが、高嶋哲夫『イントゥルーダー』が今年に入ってから新装版として文春文庫から出版されています。Facebookでシェアしてありますのでご参考まで。

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まず、宇井貴志ほか『現代経済学の潮流 2021』(東洋経済) です。著者は、日本経済学会の発行する『季刊理論経済学』のエディタであり、本書は2020年度に開催された春秋の日本経済学会の大会から会長講演論文、各賞受賞講演、特別報告、パネルディスカッションなどを収録しています。収録は、まず、第1章 「ナッジで人を救えるか」は大竹文雄教授の会長講演です。第1章については、第7章とともに、後ほど詳しく考えます。第2章 「経済理論と実証分析に基づく電力市場設計」では電力産業におけるマーケット・デザインに関して経済学研究の現状をサーベイしています。第3章 「社会・経済ネットワークの多様性は経済の発展や強靭性にどのように影響するか」では「よそ者」と「密」なつながりを区別しつつネットワークの経済分析をサーベイしています。第4章 「国際課税制度が企業活動に与える影響」では日本における2009年税制改正での国税額控除から国外所得免除方式への移行に際した実証分析です。第5章 「バイアスを持つ個人によるベイズ学習」では観察者ではなく、意思決定を行う経済主体が誤ったモデルスペックを適用することについての理論分析なのですが、恥ずかしながら、それほど私の理解が進んだとは思えません。第6章 「経済学を伝える」と第7章 「神経経済学」はともにパネルディスカッションであり、第6章では出版社やメディアなどの実務家が経済学の伝え方などについて議論しています。そして、第7章では行動経済学について神経医学、特に、fMRIの実験結果を基にした議論が展開されていて、実験経済学や行動経済学についても言及されています。なお、7章は英語で収録されています。ということで、行動経済学、あるいは、経済学に限定せずに行動科学について第1章と第7章を併せて論じたいと思いますが、私は第1章のタイトルに対する回答はyesだと思っています。ただし、ナッジで人を救うことが可能であるのと同時に、スラッジで人を陥れることも可能だと思います。第7章では、外国人研究者がかなり露骨に "Entire marketing science is about nudging." (p.238) と指摘しています。それに対して、日本人研究者から p.241 にて、マーケティングとナッジには2点違いがあり、企業による販売や利益と社会的厚生という "purpose" の違い、さらに、"cognitive bias" を "fix" することであると反論していますが、私は全面的に外国人研究者に賛成です。かつて、特定民族を絶滅収容所に送り込んで絶滅することが社会的厚生にプラスであると考えた政府があったわけですし、それに反対する認知バイアスを矯正することが目的にされた可能性も否定できません。ですから、私は行動経済学については、積極的に何かの行動変容をもたらすポジティブな方向で研究されるべきではなく、むしろ、一般企業のマーケティングあるいはGAFAのようなデータ産業による情報操作による行動変容をチェックする、別の言葉でいえばマーケティング活動などに対するネガチェックの役割が重視されるべきであり、その角度からの研究が必要と考えています。

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次に、伊藤公二『グローバル化と中小製造業の選択』(京都大学学術出版会) です。著者は、経済産業省の産業分析官、経済産業研究所の研究者であり、本書は京都大学出向時の研究成果を取りまとめています。テーマは一貫していて、メリッツ教授の新々貿易理論を我が国の中小製造業に当てはめた実証分析です。すなわち、どうして貿易がなされるかについては、リカードの比較生産費説に続き、20世紀後半にはクルーグマン教授らの新貿易理論が、また、今世紀初頭のメリッツ教授の論文から新々貿易理論が説明しようと試みています。新々貿易理論においては、貿易には固定費が必要であり、そのために、すべての企業が一定割合を輸出するわけではなく、生産性が高くて規模の大きな企業が輸出を行う、という実際の経済社会で観察される事実を説明できる、と考えられています。我が国における既存研究では、「企業活動基本調査」の個票に基づいて30人以上事業所とか、50人以上事業所の零細企業を含まない研究が朱でしたが、本書では4人以上事業所を対象とする「工業統計調査」の個票を用いています。ただ、それほどはさかのぼれませんので、2000-10年のデータが用いられています。まず、冒頭では自由貿易協定の効果が分析され、輸入が事業所退出確率を引き下げる効果が認められるものの、その影響は極めて小さいと結論しています。通常は、自由貿易協定の締結後に輸入が始まれば、その業界の企業のうち生産性の低い事業所は淘汰される、と認識されていますので、やや私は違和感を覚えました。製造業と農業とでは異なる結果がもたらされるのかもしれません。そして、新々貿易理論が説明しようと試みている大きなポイント、すなわち、生産性が高くて規模の大きな企業・事業所が輸出を始めるのか、因果関係は逆であり、生産性が高くて規模の大きな企業・事業所だからこそ輸出が出来るのか、というポイントについては、本書の著者は前者の因果関係については認められたと考えているようです。校舎の関係については、プロペンシティ・スコア・マッチングによる差の差(PSM-DID)分析で、しかも、これは本書の論文すべてに共通する点ですが、バイナリ、すなわち、輸出しているか、輸出していないか、を変数として用いていますので、ある程度幅を持って考えるべきだという気がします。私が考えるに、直接何らかの生産物を輸出するかどうかをバイナリ変数で用いるのはデータの制約から仕方ないことだとはいえ、出来ることであれば、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)に付加価値額として、どれくらい参加できているのか、について分析できればベストだという気がします。その差異、統計の個票を用いるのもいいのですが、ある程度のメゾスコピックな集計値、例えば、従業員4人から10人、11人から20人、21人から30人、などの集計値も利用可能であれば頑健性を確認しておきたいところです。もっとも、私はこの分野の統計にそれほど詳しくないので、データの利用可能性については不案内です。悪しからず。

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次に、織守きょうや『花束は毒』(文藝春秋) です。著者は、現役の弁護士であるとともに作家でも成功しているリアル二刀流のようです。でも、私は不勉強にして、この作家さんの作品を読むのは初めてでした。どこまで期待していいか、やや不安だったのですが、とっても面白かったです。本の帯に「100%騙される戦慄!」とありますが、私は全300ページ弱の作品の200ページ過ぎあたりで、何となく正解に気づいてしまいました。ということで、主要な登場人物は3人で、主人公の法学生である木瀬、木瀬が中学校のころの1年先輩の北見理花は探偵です。そして、被害者はこれも木瀬が中学校のころに家庭教師をしていた当時医学生の真壁です。真壁が結婚を控えているにもかかわらず、結婚を断念するよう要求する脅迫状が届き、木瀬が北見に真相解明と解決を依頼します。真壁が直接依頼しないのは、4年前に医学生だった時に強姦で訴えられて罪を認めて被害者と示談に及んだ経験があるからです。それを結婚直前のフィアンセに知られたくないわけで、北見に依頼するのは木瀬ということになり、木瀬は北見のアシスタント的に真相に迫るため、聞込みなどの活動に加わったりします。当然、脅迫状の差出し人は強姦事件の示談の相手先、というか、関係者である可能性が高いわけで、真壁の医学生時代の友人や元カノも含めて情報収集に当たって、示談の相手先、あるいは、強姦事件の被害者の特定に迫ります。そして、脅迫状の差出し人を特定して北見が会うわけなのですが、最後の最後に、真相が明らかになる、という仕掛けです。ひとつのあり得る読ませどころとして、代々続く法律家の家系の法学生であり、検察官を目指している木瀬、そしてその木瀬の家庭教師で、これまた、代々続く医者の家系で医学生だった真壁、という恵まれた家庭環境にある若者2人の境遇が大きく違ってきているにもかかわらず、真壁がそれほど人格的にダメージを受けているわけではなく、相変わらず、いいところのお坊ちゃん風に思考・行動しているあたりも注目です。「100%騙される」というわけではありませんが、確かに騙される読者は多い気がします。でも、いわゆる叙述トリックで引っかけているわけではないと私は思います。ちゃんと読めばちゃんと正解にたどり着けます。というか、私にしても、途中で完全なる正解にたどり着いたわけではありません。すなわち、素直に読んだケースAともうひとつのあり得る読み方のケースBに気づいたわけです。そして、ひねくれた私のような読者の読み方のケースBの方が最終的にはこの作品の正解なわけだったりします。最後の最後に、読後に当たってややアサッテの教訓として、私にも倅がいますが、犯罪に関して警察や検察からどんな証拠を突きつけられたとしても、子供の言うことを信じる親でありたいと思います。その点で、伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』でオズワルドに仕立て上げられた青柳の父親は、ともかく逃げろとテレビカメラに言い放つわけですから、とってもエラかったと思います。

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次に、田村秀男『「経済成長」とは何か』(ワニブックスPLUS新書) です。著者は、日経新聞を定年(?)の60歳で退職した後、産経新聞に移籍したジャーナリストです。私はこのワニブックスPLUS新書のシリーズについてよく知らず、おそらく、初めて読んだのではないかと思いますが、一般的なビジネスパーソンよりももう少し、本書でいえば、経済学や経済の知識が不足していても十分読みこなせるようなレベルを目指しているのかもしれません。すなわち、一般的なビジネスパーソンにはやや物足りないかもしれません。私は、まあ、入学して間もない学生諸君が読むかもしれない、という観点から読み進みました。ということで、著者は、ジャーナリストに対する財務省の「洗脳」にもかかわらず、財政均衡の必要性については私と同じくらい低い価値しか見出していないようです。それはいいのですが、本書のタイトルに即した部分は新書判300ページあまりのうちの100ページ少々であり、なかなか、脱線が多くを占めている気がします。特に、団塊の世代という著者の年代からして、マルクス主義経済学を引き合いに出して、旧ソ連流の社会主義と中国型の市場社会主義、あるいは、日本を含む欧米先進国型の資本主義を比較して、ややアサッテの方向の話をしたがる傾向は疑問です。おそらく、タイトルを考慮せずに、学術的にどうこうというよりも、すなわち、経済学的な成長を論ずるだけではなく、経済や成長に関係させつつ、ご自分の主張を披露することに力点が置かれているのではないか、と私は想像しています。ですから、むしろ、経済学の初学者向けではありません。80%同じながら20%の違いを際立たせるような同年代の経済論者との対話向けのような気もします。経済学の観点からすれば疑問がいっぱいですが、特に経済学を勉強しようというのではなく、時間潰しに軽い読み物が欲しい、という向きには最適ですが、それでも、一定程度は批判的な見方が必要そうな気がします。

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最後に、中井治郎『日本のふしぎな夫婦同姓』(PHP新書) です。著者は、龍谷大学の研究者です。社会学の専門らしいのですが、本書のテーマとはそれほど関係ないということのようです。本書の冒頭で指摘されているように、日本では結婚した男女の96%が男性の姓に合わせています。女性が姓を放棄しているわけです。しかも、世界の中で夫婦が姓を同一にしなければならないと法的に強制されているのは、どうも、日本だけらしいです。しかし、本書の著者は妻の姓になることを選んだそうです。そこで経験した数々の理不尽な出来事を実体験としてリポートし、併せて、日本の結婚制度と戸籍制度や家族の歴史についてもひも解いています。最後には、「男の沽券」という言葉に合わせて、男の悲哀を語り、最終2章では、著者と同じように妻の姓に合わせたサイボウズの青野社長とのインタビュー、さらに、青の社長も含めた何人かでのディスカッションも収録しています。個人的な味方からすれば、私は60歳過ぎの男性としては、ごく普通に、96%の方に属していて、カミさんの方が私の姓に変更しています。しかし、近隣諸国では、韓国も中国も夫婦別姓であることは広く知られています。ただ、選択的別姓ではなく強制的別姓、すなわち、結婚によって姓は変更されない、ということだと理解しています。ですから、私の方は何の不便もなかったのですが、カミさんの方はあったのかもしれません。いずれにせよ、現在日本で話題になっているのは選択的夫婦別姓であって、結婚に当たって、現在は男女どちらかの姓に統一するように法的に強制されているのを別姓を選択することを可能にする、という変更なわけで、私のような人間からして、これがどうしてダメなのかはまったく理解に苦しみます。必ず別姓にしなければならないわけでもなく、おそらく、選択的夫婦別姓にしたところで、96%が低下するのは明らかでしょうが、それほど大きく低下するとも思えません。憲法からして、結婚は両性の合意によってのみ成立するわけですし、その結婚の結果の姓をどうするかも両性の合意によって決めればいいことなのではないでしょうか。まったく関係のない新しい姓に変更する、というのは、私のような年配者にはやや抵抗あるものの、現行のように、夫婦どちらかの姓に統一するもよし、あるいは、結婚前の姓を引き続き使うもよし、ということでいいのではないでしょうか。そもそも、私のような庶民に姓を名乗ることが許されるようになったのは、ここ150年ほどのことです。それまで姓がない国民が大部分だったわけですから、そのあたりは柔軟に構えて然るべき、と私は考えています。

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2022年2月18日 (金)

前年同月比プラスを続ける消費者物価指数(CPI)上昇率の先行きやいかに?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+0.2%を記録しています。コアCPI上昇率は、昨年2021年8月の前年同期比横ばいの後、9月に+0.1%を記録し、今年2022年1月までか5月連続のプラスです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は1月には▲1.1%と下落しています。コチラは、2021年4月から10か月連続のマイナスです。逆に、エネルギーを含めたヘッドラインCPIは+0.5%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の全国消費者物価、5カ月連続上昇 エネルギーが41年ぶり上昇幅
総務省が18日発表した1月の全国消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が100.1と前年同月比0.2%上昇した。上昇は5カ月連続。原油など資源価格の高騰を受けたエネルギーの上昇がCPIを押し上げた。
一方、政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」事業の反動で前月まで大きく上昇していた宿泊料の伸びが鈍化したため、上昇幅は前月(0.5%上昇)から縮小した。QUICKがまとめた市場予想の中央値(0.3%上昇)も下回った。
エネルギーは前年同月比17.9%上昇と、1981年1月以来、41年ぶりの上昇幅となった。原油相場の影響がガソリンより遅行する「電気代」も15.9%上昇と、1981年3月以来40年10カ月ぶりの上昇幅。「都市ガス代」も17.8%上昇と騰勢を強めた。「灯油」や「ガソリン」は引き続き高水準ながら、上昇幅は前月に比べ縮小した。
「Go To」の停止による上昇要因がはげ落ちた「宿泊料」は前年同月比0.6%上昇と、前月(44.0%上昇)から急速に伸びが縮小した。
携帯電話の通信料は前年同月比53.6%下落した。携帯大手各社による新料金プランが影響した。家庭用耐久財は3.1%下落した。
生鮮食品を除く総合指数は前月比で横ばいだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比1.1%下落し、10カ月連続のマイナスとなった。生鮮食品を含む総合は前年同月比0.5%上昇し、5カ月連続でプラスとなった。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+0.3%の予想でしたので、やや下振れたとはいえ、まずまず、予想の範囲内といえます。基本的に、エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落の差し引きで決まってきている部分が大きく、加えて、これも引用したい記事にある通り、昨年2021年12月統計までは「GoToトラベル」事業停止によって宿泊料の上昇がありましたが、本日公表の今年2022年1月統計からはこの効果は剥落しています。第1要因のエネルギー価格が前年同月比で+17.9%の上昇を記録して、ヘッドラインCPIの上昇率に対して+1.23%の寄与を示している一方で、マイナス寄与の項目を見ると、第2要因の通信料(携帯電話)が前年同月比▲53.6%の下落で、▲1.47%の寄与となっています。ついでに、第3要因の宿泊料は2021年12月統計では+44.0%の上昇でヘッドラインCPI上昇率に対して+0.29%の寄与度でしたが、1月統計では上昇率が+0.6%、寄与度が+0.01%に大きく縮小しています。要するに、エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落のバランスで、寄与度だけを見ると携帯電話通信料の方が絶対値で大きいのですが、エネルギー価格の上昇が経済全体に波及して、さらに、人手不足の影響などもあって、仕上がりのコアCPI上昇率としてはプラスという結果となったと私は受け止めています。特に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大で懸念されるサービス業の価格動向についても、上のグラフでサービスのマイナス寄与が大きく見えるのは、携帯電話通信料の影響であろうと考えられます。。
先行きの物価動向を考えると、国際商品市況における石油価格の上昇に加えて、人手不足の影響もあり、国内外の景気回復とともに、物価は緩やかに上昇幅を拡大していくものと私は考えています。例えば、日銀から公表されている企業物価指数の国内物価も、昨年2021年10月統計から今年2022年1月統計では前年同月比上昇率で+8~9%台に達しています。米国をはじめとしてインフレ率の上昇が見られるケースでは金融緩和は終了に向かっていますが、日銀は指値オペに踏み切っており、日本国内では金融緩和は継続していますし、物価は上昇基調にあると考えるべきです。ただし、私の直感的な感覚ながら、物価の基調は日銀が目標としている+2%にはまったく達しておらず、賃金上昇とそれに伴ういっそうの需要拡大が伴わなければ、我が国の物価上昇率が2%に達するのはまだまだ時間がかかる可能性が高いと私は受け止めています。

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2022年2月17日 (木)

大きな貿易赤字を記録した1月の貿易統計と基調判断が上方改定された12月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から昨年2021年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。統計のヘッドラインは、まず、貿易統計では、季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+9.6%増の6兆3320億円、輸入額も+39.6%増の8兆5231億円、差引き貿易収支は▲2兆1911億円の赤字となり、6か月連続で貿易赤字を計上しています。機械受注では、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+3.6%増の9324億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を引用すると以下の通りです。

1月の貿易収支、2兆1911億円の赤字
財務省が17日発表した1月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆1911億円の赤字だった。赤字は6カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆6069億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比9.6%増の6兆3320億円、輸入額は39.6%増の8兆5231億円だった。中国向け輸出額は5.4%減、輸入額は23.7%増だった。
機械受注、21年12月3.6%増 市場予想は1.3%減
内閣府が17日発表した2021年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比3.6%増の9324億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.3%減だった。
製造業は8.0%増、非製造業は0.1%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は5.1%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」に変更した。
同時に発表した10~12月期の四半期ベースでは前期比6.5%増だった。1~3月期は前期比1.1%減の見通し。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1.5兆円を超える貿易赤字が見込まれていたものの、予想レンジの最大の貿易赤字としては▲1兆8700億円でしたので、実績の▲2兆円超えの貿易赤字はややサプライズという印象です。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年1月までの6か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年6月から始まっていて、したがって、8か月連続となります。季節調整していない原系列の貿易赤字は▲2兆1911億円なのですが、季節調整済みの系列では▲9326億円と、▲1兆円にも達していません。私の主張は従来通りであり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字はそれほど悲観する必要はない、と考えています。少なくとも、1月の貿易赤字を品目別に見て、輸出では物流と部品供給の制約から自動車の輸出がやや停滞しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで▲11.7%減、金額ベースで▲1.0%減となっています。輸入では、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油の輸入が大きく増加しています。これも前年同月比で見て数量ベースで+4.7%増に過ぎないにもかかわらず、金額ベースで+84.6%増に上っています。加えて、ワクチンを含む医薬品が急増しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+27.5%増、金額ベースで+44.0%増を記録しています。私の直感ながら、少なくとも、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は極めて少数派ではないかと考えられます。国別では中国からの輸入が急増しています。前年同月比で+23.7%増です。これは、中華圏が2月1日から春節の休暇に入るため、その前の段階で在庫確保に努めた結果であると考えるべきであり、これも経済合理的な行動です。
繰り返しになりますが、1月の貿易統計では、輸出が前年同月比+9.6%増であった一方で、輸入は+39.6%増であり、石油やワクチンの輸入増に起因する貿易赤字と私は受け止めています。少なくとも短期的には、こういった輸入の増加による貿易赤字は許容すべきと考えるべきです。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で▲1%を超えるマイナスの予想でした。従って、実績の+3.6%増は、レンジの上限の+2.3%増を超えて、ややびっくりの大きな上振れでした。それもあって、また、季節調整済みの前月比増減で見て3か月連続の+3%台の増加でしたから、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を昨年2021年11月統計から「持ち直しの動きがみられる」に上方改定したばかりなのですが、さらに、本日公表の12月統計を受けて「持ち直している」に上方改定しています。2か月連続の基調判断の上方改定なわけです。ただし、懸念される点が2点あり、第1に、製造業と非製造業の跛行性が大きくなっています。12月統計では製造業が+8.0%増の4798億円であった一方で、船舶・電力を除く非製造業では▲0.1%減の4654億円と低迷しています。製造業はいくぶんなりとも資源高の影響もあって受注が堅調に推移している一方で、内需の依存度合いが大きい非製造業の停滞が目立つ形になっています。第2に、今年202年1~3月期のコア機械受注の見通しは前期比で▲1.1%減の2兆6,749億円と反落が見込まれています。同時に、足元の1~3月期の予想でも製造業の前期比+5.0%増に対して、船舶・電力を除く非製造業では▲8.5%減と見込まれています。もちろん、昨年2021年10~12月期は、船舶・電力を除く非製造業の受注が前期比で+9.0%と運輸・郵便業で大型案件があって大きく伸びた反動も考慮すべきですが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大などの影響も含めて、そうそう毎月のように基調判断を改定すべきなのか、と私は少し疑問を感じています。

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2022年2月16日 (水)

花粉はもうすでに飛んでいるのか?

実は、今週の日曜日2月13日の夕方に鼻水が出て止まらなくなりダウンし、その翌日の月曜日2月14日も鼻水に悩まされていました。どうも、花粉が飛び始めているらしいと感じています。そこで、日本気象協の情報を探すと、とっても旧聞に属する話題ながら、1月20日付けで2022年春の花粉飛散予測(第3報)が明らかにされていました。その中に、スギ花粉飛びはじめ予想 というのがありましたので日本気象協会のサイトから引用すると以下の通りです。

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私は決して福岡や東京やといった2月上旬にスギ花粉の飛散が始まる地域に住んでいるわけではないのですが、私の鼻は明らかに花粉の感作を受けています。毎日服用している抗アレルギー剤ではなく、さらに強めの症状が出たとき向けの頓服薬として処方された薬を飲んでダウンしていました。まあ、2時間ほど横になっただけですが、それでも、かなり苦しかったです。一昨日の月曜日はいいお天気になって気温が上がったこともあって、花粉が飛ぶ条件はそろっていた気がします。

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日本気象協会の情報によれば、大阪の花粉飛散のピークは、スギ花粉が3月上中旬、ヒノキ花粉は4月上中旬だそうです。また、上のテーブルは日本気象協会のサイトから 各地域の花粉飛散傾向 を引用しています。関西地方では、今年の花粉飛散は前年・例年からやや少なめ、ないし、前年・例年並みのようです。

鼻水とくしゃみの原因は、たぶん、花粉なのだろうと思いますが、大学の成績入力も山を越えて、先週末の3連休は3日連続でプールに行き、3000メートル、2000メートル、3000メートルと3日で8キロもがんばって泳いだので体力的にへばったところに花粉が飛び始めた、ということなのだろうと思います。スポーツの量を減らすつもりはあまりありませんので、半年ほど前に放棄した朝食のヨーグルトを復活させようと、近くのスーパーでヨーグルトとミューズリーを買い込みました。アレルギーに効果あることを願っております。

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2022年2月15日 (火)

2021年10-12月期GDP統計速報1次QEはコロナ感染の谷間で大きなプラス成長!!!

本日、内閣府から昨年2021年10~12月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.8%、年率では+3.0%と、9月末での新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の緊急事態宣言の解除による消費の拡大などを受けてプラス成長となっていす。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

21年10-12月期GDP、年率5.4%増 個人消費好調で
内閣府が15日発表した2021年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.3%増、年率換算では5.4%増だった。2四半期ぶりにプラス成長となった。緊急事態宣言の解除により個人消費が伸長した。自動車などの部品調達難も緩和し、輸出増につながった。
QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比1.4%増、年率換算で5.9%増だった。
実質GDPの内訳は、内需寄与度が1.1%分のプラス、外需の寄与度は0.2%分のプラスだった。
項目別にみると、個人消費は前期比で2.7%増加した。緊急事態宣言が解除され外出に伴う飲食や宿泊需要が回復した。増加率は5四半期ぶりの大きさ。
住宅投資は0.9%減、設備投資は0.4%増だった。民間在庫の寄与度は0.1%のマイナスだった。
公共投資は3.3%のマイナスだった。
輸出は自動車生産の回復などにより1.0%増となった。輸入が0.3%減少したこともGDPにプラスに寄与した。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.5%増、年率では2.0%増だった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてマイナス1.3%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは1.1%のプラスだった。
同時に発表した2021年の実質GDPは前年比1.7%増と、3年ぶりにプラスとなった。名目GDPは0.8%増だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2020/10-122021/1-32021/4-62021-7-92021/10-12
国内総生産GDP+1.8▲0.5+0.6▲0.7+1.3
民間消費+1.6▲0.8+0.7▲0.9+2.7
民間住宅▲0.1+0.9+1.0▲1.6▲0.9
民間設備+1.2+0.4+2.0▲2.4+0.4
民間在庫 *(▲0.2)(+0.1)(+0.0)(+0.1)(▲0.1)
公的需要+0.9▲0.8▲0.1+0.2▲0.9
内需寄与度 *(+1.1)(▲0.4)(+0.7)(▲0.8)(+1.1)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.8)(▲0.1)(▲0.1)(+0.1)(+0.2)
輸出+10.7+2.2+3.1▲0.3+1.0
輸入+5.5+3.0+3.8▲0.9▲0.3
国内総所得 (GDI)+1.9▲1.1+0.1▲1.5+0.7
国民総所得 (GNI)+2.1▲1.0+0.2▲1.5+0.8
名目GDP+1.3▲0.4+0.2▲1.0+0.5
雇用者報酬 (実質)+1.7+1.2+0.2▲0.2+0.3
GDPデフレータ+0.2▲0.1▲1.1▲1.2▲1.3
国内需要デフレータ▲0.7▲0.5+0.3+0.5+1.1

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2021年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤の消費や水色の設備投資、また、黒の純輸出のプラス寄与が大きく見えます。

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昨日も1次QE予想を取り上げましたが、多くのシンクタンクが大きなプラス成長を見込んでいました。また、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも前期比+1.4%、前期比年率+5.9%という結果が示されています。そして、実績が前期比+1.3%、前期比年率+5.4%ですから、ほぼほぼジャストミートしたと私は受け止めています。高成長の要因は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大と深く関連していて、需要面からは、2021年9月末で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する緊急事態宣言が解除され、今年2022年1月に入ってからのCOVID-19のオミクロン型変異株の猛烈な感染拡大が始まる前、いわば、COVID-19の感染の谷間に2021年10~12月期がスポンとはまったことから、消費が大きく伸びました。供給面からは、自動車などの部品供給制約の緩和が進み、生産や輸出が回復しています。ですから、この2021年10~12月期の高成長は完全に過去の数字であり、今年2022年1月以降の回復継続はCOVID-19次第です。今年2022年1~3月期の成長率については、よくて成長率の大幅低下、悪ければマイナス成長の可能性もあります。現時点で1月の主要統計すらすべてが利用可能となっているわけではありませんので、何とも見通し難いわけながら、私の勝手な希望として何とかプラス成長を願っています。世間一般では、大和総研のリポートでは「前期比年率+0.3%」、ニッセイ基礎研のリポートでも「前期比年率ゼロ%台のプラス成長」などとされている一方で、第一生命経済研のリポートでは「1-3月期のマイナス成長の可能性も否定できない状況」などと指摘されています。
その上で、特に報道などでは取り上げられていませんが、私の独自観点も含めて上のテーブルから2点だけ指摘しておきたいと思います。いずれも原因は石油をはじめとする資源価格の上昇なのですが、第1に、交易条件が悪化しています。2021年10~12月期には、GDP成長率が+1.3%に達している一方で、国内総所得(GDI)の伸びは+0.7%、国民総所得(GNI)も+0.8%にとどまっています。この差は大雑把にいえば交易条件の悪化です。2021年中の交易条件のGDP成長率への寄与度は、1~3月期▲0.6%、4~6月期▲0.5%、7~9月期▲0.8%、そして、10~12月期も▲0.6%となっています。交易条件の悪化とは、すなわち、輸入するために、より多くの輸出をしなければならなくなっているわけです。第2に、同じように資源価格の上昇から、GDPデフレータと国内需要デフレータが逆の動きをしています。上のテーブルにも見られる通り、2021年4~6月期から10~12月期まで3四半期に渡ってGDPデフレータは▲1%超の大きなマイナスを記録し、しかもマイナス幅が大きくなっています。これは、資源価格の上昇を受けて輸入デフレータが上昇し、輸入がGDPから控除されるために、輸入デフレータの上昇がGDPデフレータにはマイナスで寄与しているためです。他方で、国内需要デフレータは同じ時期に3四半期連続でプラスとなり、そのプラス幅が拡大して、10~12月期には+1%超を記録しています。この国内需要デフレータの上昇は資源価格の上昇が国内で波及しているために生じています。おそらく、家計や企業の物価に関する実感は、下がり続けているGDPデフレータではなく、国内需要デフレータの動きと同じ方向感なのだろう、と私は考えています。ですから、GDPデフレータに着目した分析や政策運営は、おそらく、混乱をもたらすだけなので避けるべきです。

繰り返しになりますが、10~12月期の高成長は足元から目先の経済動向を考える上で、ほとんど何の参考にもなりません。よりていねいに経済動向を見る必要があります。

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2022年2月14日 (月)

昨年2021年10-12月期GDP統計速報1次QE予想は+5%超の大きなプラス成長か?

先々週の商業販売統計や雇用統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日火曜日の2月15日に昨年2021年10~12月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大抑制のために、昨年2021年9月末まで首都圏や関西圏などに4回目の緊急事態宣言が出ていて、逆に、今年2022年1月に入ってからてオミクロン型変異株の感染拡大が猛烈な勢いで進んで、まん延防止等重点措置が多くの都道府県で出されていますが、その谷間に当たる昨年2021年10~12月期ですから、それなりの高成長が見込まれています。でも、すでに「過去の数字」なのかもしれません。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向は、今年2022年1月に入ってから新たなオミクロン型変異株の感染拡大が猛烈な勢いで進むとともに、足元の2月半ばには感染拡大がすでにピークを過ぎた地域もあるように見受けられ、何とも不透明であることはいうまでもありません。以下のシンクタンクの中でも、三菱系の2機関、すなわち、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと三菱総研、それに、農林中金総研の3機関を除いて、かなり多くのシンクタンクで1~3月期以降の言及があり、特に、大和総研のリポートでは1~3月期の需要項目別の見通しを詳述し、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートでは4~6月期の予測まで取り上げているのですが、ここでは少し短めにカットしてあります。これらも含めて、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+1.8%
(+7.4%)
2022年1~3月期を展望すると、オミクロン株の感染急拡大や、それに伴う行動制限の強化を背景に、個人消費の増勢が鈍化する見込み。もっとも、挽回生産が継続する自動車を中心に製造業生産が回復し、景気を下支え。輸出や設備投資の増加を背景に、プラス成長を維持する見通し。
大和総研+1.1%
(+4.7%)
2022年1-3月期の日本経済は、感染力が強いオミクロン株の感染が急拡大し、経済活動が再び抑制されることが重石となろう。サービス消費が減少するほか、感染者・濃厚接触者の増加を受けた供給制約により財消費にも下押し圧力が働こう。一方、輸出や設備投資などの回復が下支えし、実質GDPは2四半期連続のプラス成長(前期比年率+2.0%)となると見込んでいる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+1.2%
(+5.0%)
家計への影響については、食品・エネルギーを中心とした日用品の値上げを受け家計の節約志向が強まり、身の回り用品や被服・履物、交際費、教育費等の支出が減少する可能性が高い。特に、日用品に対する支出ウェイトが高い低所得世帯で影響が大きいだろう。交易条件悪化の影響で、2021年度後半から2022年度前半にかけて、設備投資が▲0.4%、個人消費が▲0.3%、GDPは▲0.2%程度下押しされると当社では試算している。
以上のとおり、2022年初の日本経済はいくつもの下押し要因により回復が阻害され、1~3月期はほぼゼロ成長になる可能性が高い。
一方、オミクロン株による感染は2月後半にはピークアウトする可能性が高く、経口治療薬・ブースター接種の普及に伴い、4~6月期以降は経済活動の回復が見込まれる。
ニッセイ基礎研+1.4%
(+5.6%)
2021年10-12月期の実質GDPは、コロナ前(2019年10-12月期)比で▲0.3%まで回復したが、直近のピーク(2019年4-6月期)に比べれば▲3.0%低い。2022年入り後、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて、34都道府県でまん延防止等重点措置が適用されている。2021年1-3月期は10-12月期の成長を牽引した民間消費が減少に転じる可能性が高く、成長率の急低下は避けられないだろう。現時点では、2021年1-3月期の実質GDPは、民間消費の減少を輸出や輸出の増加がカバーすることにより、前期比年率1%程度の成長を予想しており、実質GDPがコロナ前の水準を回復するのは2022年4-6月期までずれ込む公算が大きい。緊急事態宣言の発令などにより行動制限をさらに強化すれば、マイナス成長に陥る可能性が高まるだろう。
第一生命経済研+1.3%
(+5.4%)
1月に入って状況は一変しており、景気下振れリスクが強まっている。1-3月期については、新型コロナウイルスの感染者数が急拡大し、人々の行動が慎重化していることに加え、1月に再び部品調達難による自動車の大幅減産が実施されていることが景気を下押しする。感染状況次第のところはあるが、1-3月期がマイナス成長となる可能性もあるだろう。
伊藤忠総研+1.2%
(+5.1%)
1~3月期は、オミクロン株の流行によるコロナ感染急拡大を受けて個人消費の停滞は確実であり、海外においても景気の減速が見込まれるため輸出の持ち直しも一時停止しよう。設備投資は先行指標が拡大再開を示唆しているが、実質GDP成長率は大幅な減速が避けられないと予想。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+1.4%
(+5.8%)
2021年10~12月期の実質GDP成長率は、前期比+1.4%(年率換算+5.8%)と高い伸びが見込まれる。緊急事態宣言が解除されたことで対面型サービスの需要が順調に持ち直したこと、生産制約が解消に向かったことで自動車販売が増加したことなどにより、個人消費が前期比+2.0%と大きく伸びて全体をけん引した。また、経済活動が活発化する中で、設備投資、輸出も前期比で増加に転じた。
三菱総研+1.5%
(+6.2%)
2021年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+1.5%(年率+6.2%)と2四半期ぶりのプラス成長を予測する。
農林中金総研+1.0%
(+4.0%)
10~12月期のGDP成長率見通しについては、実質成長率は前期比1.0%(同年率換算4.0%)と、2四半期ぶりのプラスと予想する。ただし、前年比は▲0.2%と3四半期ぶりのマイナスとなる見込みであり、GoToトラベルやGoToイートなどの需要喚起策で押し上げられた20年10~12月期の水準には及ばない。

テーブルを見れば明らかな通り、プラス成長、それもかなり大きなプラス成長が見込まれており、一番渋い農林中金総研でも前期比+1.0%、前期比年率+4.0%となっており、一番気前のいい日本総研は前期比+1.8%、前期比年率+7.4%を予想しています。極めて大雑把に、前期比で+1%台半ば、前期比年率で+5%台、というカンジです。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも前期比+1.4%、前期比年率+5.9%という結果が示されています。繰り返しになりますが、昨年2021年7~9月期は菅内閣ひとつを潰してまで東京オリンピック・パラリンピックを強行開催し、第5波の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染拡大が発生し、GDPも前期比で▲0.9%のマナス成長を記録しました。しかし、その感染拡大も9月中にいったん終息し、9月末で緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面的に解除されるたことで、行動制限が緩和され対人サービス消費などが増加したため、10~12月期は、これまた、いったん高成長を記録したと見られます。しかし、広く報じられている通り、今年2022年1月に入ってCOVID-19オミクロン型変異株が猛烈な勢いで感染拡大を始めていて、多くの都道府県でまん延防止等重点措置が出され、今でも解除されていません。ですから、上のテーブルに取りまとめたような昨年2021年10~12月期の高成長は一時的なものであり、今年2022年1~3月期は大きくブレーキがかかったと考えるべきです。その意味で、明日公表予定の2021年10~12月期のGDP成長率は完全に過去の数字と考えるべきです。足元の1~3月期はギリギリでプラス成長と見込むシンクタンクが多い一方で、COVID-19の感染拡大次第では、特に、緊急事態宣言が出されればマイナス成長の可能性もあるものと私は受け止めています。
下のグラフは、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

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経済評論の日記 | | コメント (0)

2022年2月13日 (日)

入国制限が緩和されて留学生が授業に出席できるか?

我が家で購読している朝日新聞の本日朝刊1面トップは入国制限の緩和でした。朝日新聞のサイトから記事の最初のパラだけを引用すると以下の通りです。

入国制限3月緩和へ 1日上限5千人軸 対象はビジネス・留学生
新型コロナウイルスの水際対策について、政府は3月からビジネス関係者や留学生らを対象に、段階的に外国人の入国制限を緩和する方向で調整に入った。感染状況や世論の動向の推移を見ながら、早ければ来週にも具体的な内容を決める方向だ。複数の政府関係者が明らかにした。

私は、いわゆる修士論文に向けた研究指導以外にも、大学院生向けの授業をいくつか担当していて、今年度の後期授業では10人足らずの院生のうち3人がまだ入国できておらず、オンライン授業を受講していました。大学は通常4年間ですが、大学院の修士課程はたったの2年間です。ですから、1年間入国できないとすれば、その半分に当たるわけです。私は、一方的に教員から学生や院生に動画を配信するだけの授業ではなく、特に少人数のゼミや大学院の授業ではインタラクティブな反応を伺いつつ、授業を進めたいと考えています。その意味でも、何とか、留学生が早く入国できるよう希望しています。

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2022年2月12日 (土)

今週の読書はポストコロナの経済政策について考えさせられる経済書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書感想文は、ポストコロナの新しい世界において、やや疑問あるながらも政策構想を示した経済書、他にも話題の小説など以下の通り計5冊です。
まず、小林慶一郎・佐藤主光『ポストコロナの政策構想』(日本経済新聞出版)は、やや効率性や生産性を重視して公平性や公正を軽視しかねない恐れはあるものの、決してプレコロナには戻らないポストコロナの政策構想を提示しています。丸ごと信じ込むのではなく、批判的に受け止めるべき提案と私は考えています。三浦しをん『エレジーは流れない』(双葉社)は、東海道沿いの温泉街の高校生を主人公とする青春小説です。母親が2人いる複雑な家庭環境の主人公が同級生と過ごす明るい日々がよく描き出されています。伊吹有喜『犬がいた季節』(双葉社)は昨年の本屋大賞3位入選作品であり、四日市の高校を舞台にバブル経済まっ盛りの時期に高校に迷い込んだ犬と高校生たちの青春をかなり長期にトラックしています。美術部の部長の名にちなんでコーシローと名付けられたイヌを中心に、なかなかに心温まるストーリーです。市川憂人ほか『あなたも名探偵』(東京創元社)は6人の人気ミステリ作家による6編から成る短編集です。途中で【読者への挑戦状】があり、曰く「謎を解く手がかりはすべて揃いました。さて、犯人は誰か?」という扉が置かれています。密室ミステリやアリバイ崩しなどバラエティに富むアンソロジーに仕上がっています。最後の南博・稲場雅紀『SDGs』(岩波新書)は、SDGsについてコンパクトに取りまとめています。これで、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の5冊を含めて計27冊となっています。

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まず、小林慶一郎・佐藤主光『ポストコロナの政策構想』(日本経済新聞出版) です。著者は、慶應義塾大学と一橋大学の研究者であり、2人ともエコノミストです。特に、小林教授の方は政府の新型コロナウィルス感染症対策分科会などにエコノミストとして参画しています。その旨何回も出てきます。ということで、タイトルからして、ついつい、「コロナ」に目を奪われがちなのですが、あくまで、「ポストコロナ」です。ですから、コロナ対策はそれでも冒頭4章を占める一方で、第5章からは経済政策その他にトピックが切り替わり、全11章でコロナそのものは4章分にしか過ぎません。ただ、本書全体のトーンが効率性や生産性を重視する傾向にあり、それがコロナ対策にも色濃く反映されている点は、私には間違っているようにしか見えません。すなわち、コロナ対策といった医療は、私の属する業界であり教育とともに、かなりの程度に外部性が大きくて、いわゆる価値財ですので効率的な分配よりも公平性を重視する分野だからです。コロナ対策で今でも重要なのはワクチン接種である点は本書でも確認していますが、これは公平性を重視して配分すべき課題です。生産性や効率性を重視して、個人所得でワクチン接種の順番を決めるべきものではありません。ただ、経済政策についてはよく取りまとめられているのですが、あまりに財政再建に傾いた主張と中小企業の淘汰を進めようとする議論にはやや私は戸惑います。ポストコロナが、プレコロナの昔に戻るとは誰も思っていませんし、コロナが克服されたところで、いわゆる「ニューノーマル」な世界が始まるのですが、コロナに合わせてナオミ・クラインのいうところの「ショック・ドクトリン」のような惨事便乗型で一気にネオリベ=新自由主義的な経済政策に切り替えて、効率性や生産性を指標とするよな政策運営がいいのかどうか、もう一度考え直す必要があります。例えば、病床確保にしても、本書で指摘する通り、我が国は処が帰国と比べても人口当たりの病床はかなり多いにもかかわらず、現在のオミクロン型変異株感染拡大の中でコロナ患者の一部は放置されています。東京都では都立病院の独立採算による法人化を進め、効率性重視の病院経営の導入の圧力をかけ続けています。コロナに限定せずとも、何らかの感染症の感染拡大に備えて余裕を持った医療を構築するのか、それとも、利潤最大化を図ってコストを削減する病院ばかりが出来るのか、そのあたりは国民の選択となります。維新の会が大阪で医療政策に大失敗しているのを見るにつけ、もう一度考え直すべきポイントかも知れません。

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次に、三浦しをん『エレジーは流れない』(双葉社) です。著者は、直木賞作家であり、なかなかコミカルなエッセイも私は大好きです。本書に関してはややコミカルな青春小説といえますが、出版社も力が入っていて特設サイトが設けられていたりします。人物相関図やマップもあって、本書の読書がより豊かになるような気がします。なお、タイトルの趣旨については、最後の最後のパラグラフの最後のセンテンスで明らかにされます。それも、読み進むお楽しみです。ということで、主人公は高校生です。怜という名です。主人公の怜のほかに、同級生の友人男子高校生3人が脇を固めます。温泉街の喫茶店の倅で美術部の部長である丸山、縄文土器を作ったりする美術の得意なサッカー部員の心平、温泉街で干物屋を営む家の倅で野球部の竜人、の3人です。とてもキャラを上手く作っています。大雑把に、彼らが高校2年の秋から1年近く、高校3年生の夏までの期間、舞台は餅湯温泉ということになっていますが、太平洋の海岸があり富士山も望むことが出来、新幹線こだまが止まる、という設定の架空の温泉街です。主人公の男子高校生には、なぜか母親が2人います。温泉街で土産物屋を経営する女性、さらに、高台の高級住宅街に別荘があって、東京から毎月第3週だけやって来る辣腕経営者の女性です。大雑把に、前者の母親は生活がやや苦しい一方で、後者はセレブで大金持ち、というありえない設定です。その昔に、伊坂幸太郎作品で『オー!ファーザー』という数人、4人だか、5人だかの父親がいて、母親はまったく登場しない、という小説がありましたが、ついつい思い出してしまいました。この作品は『オー!ファーザー』と違って、父親がひょっこりと2度ほど現れて、なぜか、温泉街の人々が「危機管理グループ」を結成して土産物屋の主人公親子を守ろうとする動きがあります。でも、大した騒動にはなりません。むしろ大騒動になるのは地元博物館を狙う泥棒です。そういった騒動に加えて、もちろん、主人公たちに学年から理解できるように、進学や恋愛などのいろんな要素が絡んで、ストーリーはコミカルに進展し、とても上質の仕上がりになっています。なお、どうでもいいことながら、出版社の特設サイトでは、「三浦しをん待望の青春小説!」となっているのですが、私は三浦しをん作品をある程度読んでいて、デビュー作の『格闘する者に○』とか、『風が強く吹いている』など、いくつか青春小説はモノにしており、決して初めてではありません。その点は誤解なきようお願いします。私のような三浦しをんファンはもちろん、多くの方にオススメできる小説です。


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次に、伊吹有喜『犬がいた季節』(双葉社) です。著者は、私は不勉強にして知りませんでした。この作家の小説は初めて読みます。この作品の舞台は四日市なのですが、ご当地のご出身のようです。上の表紙画像にあるように、昨年の本屋大賞3位入賞作品であり、2020年出版ですから1年をすでに経過していて、私の定義になる新刊書かどうかは、やや怪しいのですが、まあ、図書館の予約がようやく回ってきましたので、簡単に取り上げておきたいと思います。ということで、舞台は、1988年というバブル経済真っ盛りの時期に四日市の高校、つづめると「ハチコウ」となる八稜高校に、子犬よりはやや成犬に近づいた犬が迷い込んで、美術部を中心とする生徒たちが校長にかけ合って校内で飼われることになります。その美術部の部長の早瀬光司郎の名からコーシローと名付けられます。いく世代か、というか、高校生ですから基本は3年間しか在学しないわけで、その期間のイベントをいくつか綴りながら、最初にコーシローが迷い込んだ際の高校生、パン屋の娘の塩見優花が大雑把に主人公の役となります。というのは、冒頭の第1話では明らかに主人公で、進学について明記しないながら名古屋大学と思しき東海地方切っての名門大学に合格しながら、東京に行きたくて早稲田大学進学を決めたりした後、最終章の直前の第5話では教師となって何度かハチコウに赴任したりします。で、1988年に始まったストーリーは30年後の2019年に終結します。第2話ではF1のヒーローの1人であるセナに夢中でグランプリ戦を見に行く高校生が描かれ、何と、自転車で30キロを走破します。まあ、ロードバイクなら100キロくらい走りますが、高校生の通学自転車のお話です。第3話では神戸の祖母が震災から逃れて同居することになった高校生が主人公になり、第4話や第5話では、1990年代終わりの近い時期の物語となって、音楽グループが取り上げられたり、東京でやり直すための資金を必要として援助交際をする美少女女子高生とか、死期の近い祖父を巡って家庭内が不和となる男子高校生が教師となって赴任してきたハチコウOGの優花に思いを寄せたりします。そして、コーシローは寿命を迎えます。最終話では、50歳近くになった優花の半生が振り返られます。同級生だった早瀬光司郎は世界的な美術家になっています。これも、高校生の青春小説です。私は青春小説がとても好きなので、ややバイアスあるかもしれませんが、それでも、本屋大賞3位入賞の実績を考え合わせると、控えめに言っても読んでおいて損はないと考えます。

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次に、市川憂人ほか『あなたも名探偵』(東京創元社) です。著者6人による短篇ミステリ集であり、収録しているのは、市川憂人「赤鉛筆は要らない」、米澤穂信「伯林あげぱんの謎」、東川篤哉「アリバイのある容疑者たち」、麻耶雄嵩「紅葉の錦」、法月綸太郎「心理的瑕疵あり」、白井智之「尻の青い死体」となっています。それぞれに、途中で【読者への挑戦状】があり、曰く「謎を解く手がかりはすべて揃いました。さて、犯人は誰か?」という扉が置かれています。順に、最初の市川作品は雪による密室モノ、米澤作品は小市民シリーズから、東川作品はタイトル通りにアリバイ崩し、麻耶作品は木更津-香月のシリーズなのですが、そもそもの被害者の特定から推理が始まります。法月作品は作家と父親の警視庁警視の親子が登場するシリーズで、ややオカルトっぽい仕上げになっています。最後の白井作品はこれもホラー映画撮影中の殺人の謎解きですが、ホラーの要素はありません。それぞれに、とても論理的な解決がなされて、本格ミステリのファンにはうれしい作品を集めたアンソロジーです。もちろん、各作品はそれぞれの作家の個性がよく出ています。私の欲をいえば京大ミス研出身者の綾辻行人作品も収録してほしかったところですが、やや欲張りに過ぎるかもしれません。文庫本ではなく単行本ですので、もう少し書きたい気もするのですが、私のことですからネタバレに入ってしまう可能性も無視できず、ミステリのアンソロジですので、このあたりでヤメにしておきます。

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最後に、南博・稲場雅紀『SDGs』(岩波新書) です。著者は、首席交渉官として国連でSDGsの交渉に当たった外交官とMDGs/SDGsに関係するNPO法人の政策担当顧問だそうです。ですから、第2章のように、国連などの場におけるSDGs交渉のこぼれ話しのような、どこまでSDGsの本質に関係しているかどうか疑問の残るトピックが、不相応に大きく取り上げられて、自慢話しっぽく紹介されたりはしていますが、まあまあ、よく取りまとめられています。私もSDGsについては勉強不足なのですが、温室効果ガス排出などの気候変動/地球温暖化対策のようなサステイナビリティに直結するゴールなどとともに、一見したところ、もろに経済や社会のトピックではないかと考えられがちなジェンダー平等や不平等の克服、あるいは、MDGsから引き継いで冒頭のゴールに上げられている貧困や飢餓の撲滅などについて、どう考えるべきかという観点は重要だと考えています。すなわち、日本のような先進国では、2015年までのMDGsはどうも政府が取り組む途上国支援のような受け止めであった一方で、現在のSDGsはかなり民間企業の参加も多く、ビジネスに直結した課題であろうと考えられます。経済からの視点としては、SDGsに取り組むのは、例えばサプライチェーンの中で、チャイルド・レーバやスウェットショップ的な労働の問題をキチンと把握し、フェアな取引を推進するという企業姿勢の問題なのですが、どうも、私の目から見て上滑りしている企業も少なくなく、単にレピュテーションの問題と考えて、市民団体などから問題を指摘されないように防衛にこれ努める、といった企業姿勢が垣間見える場合もあります。なかなか、大学のような場で考えているほど甘くはないのですが、現在の資源価格高によるコストプッシュを製品価格に転化し、そのために上昇する生計費を賃上げで補うという循環を作り出すのと同じで、SDGsについても、フェアな取引で適正な価格を支払って、取引先とウィンウィンの関係を結び、子供はもちろん、大人の労働者も適正は賃金=所得を受け取って、子供は教育を受け、大人も必要に応じて医療などを受けることが出来、decentな生活が可能となる、というのがSDGsの目標です。加えて、経済の観点からは、事業活動だけでなく、ファイナンスからの見方も必要です。本書ではどうもスコープ外なのですが、いわゆるESG投資などです。いずれにせよ、これから、気候変動=地球温暖化以外のSDGsについて、私ももう少し勉強を進めたいと思います。

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2022年2月11日 (金)

コインの流通残高が減少してキャッシュレス化は進むか?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、日銀が取りまとめた1月の貨幣流通額は前年同月比0.1%減の5兆394億円と、2012年5月以来10年ぶりに前年割れとなりました。朝日新聞のニュースで私は見ました。これに関連して、ニッセイ基礎研から「硬貨の流通高が10年ぶりの前年割れに」と題するリポートが明らかにされています。コインの流通残高が減少した要因はいろいろとあるのでしょうが、3連休初日ののんびりした話題として簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、図表の順番は逆になりますが、ニッセイ基礎研のリポートから図表8のゆうちょ銀行における硬貨の預け入れ手数料のテーブルを引用すると上の通りです。ゆうちょ銀行から大量のコインを預け入れる際に手数料を導入するという方針は、昨年2021年7月に公表されたんですが、実際に実施される今年2022年1月の導入までの間に情報提供や報道がなされたこともあり、手元にコインを保有していた家計や企業などが手数料導入実施前にコインの駆込み預金を行ったことから、コインの流通残高が減少した可能性は十分あります。加えて、コインを主とした貯金箱を使う習慣を止めたご家庭もあった可能性も否定できません。これらのコイン貯金箱に溜まったコインを使ったか、あるいは、預貯金したか、いずれにせよ、流通残高を減少させる方向であったことは確かです。

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その結果として、通貨流通高の伸びがどうなったかについて、ニッセイ基礎研のリポートから図表1を引用すると上の通りです。冒頭の繰り返しになりますが、今年2022年1月のコインの流通残高が前年同月比で▲0.1%減、2012年5月以来ほぼ10年ぶりの減少を記録しています。高額コイン、というか、500円コイン以外はすべてのコインが減少を示しているようです。

大量のコイン預入れに手数料がかかるとすれば、素直に考えれば、キャッシュレス化が進む可能性があります。私なんぞは、1円玉とか5円玉のコインはついつい溜まってしまいがちなので、意図的に手放そうと律儀な使い方をするのですが、上の倅は極めてズボラな性格で、いっしょに暮らしていた大学生のころには少額コインは箱に溜め込んでいました。もしも、コイン、特に少額コインが「グレシャムの法則」に従って流通から駆逐されるとすれば、上の倅のようなズボラな個人のところに小銭が滞留する可能性もあります。

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2022年2月10日 (木)

高い上昇率続く企業物価指数(PPI)の動向はデフレ脱却につながるか?

本日、日銀から1月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+8.6%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業物価指数、前年比8.6%上昇 前月比0.6%上昇
日銀が10日発表した1月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は109.5と、前年同月比で8.6%上昇、前月比で0.6%上昇だった。市場予想の中心は前年比8.2%上昇だった。
円ベースで輸出物価は前年比12.5%上昇、前月比で0.4%上昇した。輸入物価は前年比で37.5%上昇、前月比で0.2%下落した。

とてもコンパクトながら、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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このところ、欧米をはじめとして世界的にはインフレが高まっています。従って、米国では連邦準備制度理事会が3月から利上げを実施するものと市場では見られていたりします。しかし、日本ではまだまだ本格的にデフレから脱却した、とまでは言い切れない物価状況が継続していますが、それでも、消費者物価指数(CPI)で見ても、本日公表の企業物価指数(PPI)で見ても、いずれも、足元で物価が下げ止まり、ないし、上昇しつつあると私は評価しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で、1月は+8.2%の上昇と予想されていましたから、実績の+8.6%はやや上振れた印象です。国内企業物価上昇の要因は主として2点あり、いずれもコストプッシュです。すなわち、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、オミクロン型の変異株をはじめとする新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による供給制約です。とはいえ、あくまで我が国に限った考えかもしれませんが、物価の上昇そのものは本格的なデフレ脱却には好条件を提供している可能性があります。コストプッシュなのですから製品価格に転嫁しつつ、労働者に対して生計費の上昇に対応した賃上げを実現する、という企業行動がデフレ脱却につながる可能性です。逆に、コスト増で企業経営が苦しいからといって労働者が賃上げ抑制を押し付けられたり、あるいは、現在の政府のガソリン補助金のようにコストプッシュの方を抑え込んで価格引上げを抑制しようとする方向は、なかなか払拭できないデフレマインドをさらに強固に定着させかねない危険すらあります。もちろん、日本では企業規模格差に伴って、下請中小企業が大企業に対して価格引上げを要求しにくいという面は無視できませんし、合わせて、国際商品市況における資源価格の動きが一巡すれば上昇率で計測した物価も元に戻ることは覚悟せねばなりません。ということで、国内物価について品目別で前年同月比を少し詳しく見ると、木材・木製品が+58.5%、石油・石炭製品が+34.3%、非鉄金属が+26.5%、鉄鋼+25.1%、化学製品+12.3%までが2ケタ上昇となっています。そして、ついでながら、これらの品目は昨年2021年12月の前年同月比上昇率よりも1月の上昇率が縮小しています。例えば、これら品目の価格上昇の背景にある原油価格について、企業物価指数(PPI)の中の輸入物価の円建て指数で見ると、昨年2021年11月の142.7をピークに、12月には141.5、今年2022年に入って1月138.4と、小幅ながら低下しているのも事実です。前年同月比上昇率で見ても、11月+142.7%、12月+100.1%、1月+72.6%と上昇率が少しずつながら落ちています。

繰り返しになりますが、コストプッシュを製品価格に転嫁し、生計費上昇を賃上げで相殺する方向の政策や企業行動が必要です。コストプッシュを抑制する補助金を企業に出したり、コストプッシュで経営が苦しくなるからといって賃上げを抑制するのは、方向としてまったく逆であると私は考えています。

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2022年2月 9日 (水)

東洋経済オンラインによる「『炭素利益率(ROC)』が高い100社ランキング」やいかに?

本日付けの東洋経済オンラインで「『炭素利益率(ROC)』が高い100社ランキング」が明らかにされています。国連によるSDGsの推進が企業活動で求められる中で、いうまでもなく、二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)の削減は柱のひとつをなすものであり、こういった新しい企業評価の指標のひとつとして注目され始めている炭素利益率(Return On Carbon: ROC)の観点からの我が国企業のランキングであり、東洋経済オンラインのサイトから50位までのテーブルを引用すると以下の通りです。

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ランキング1位は大和ハウス工業で6724.3百万円/千t-CO2となっています。GHG排出量55.0千t-CO2に対して、3期平均の連結営業利益は3701億円だそうです。我が国ではまだカーボン・プライシングが進んでいませんが、2050年のカーボン・ニュートラル目標に向けて、この炭素利益率(ROC)が高ければ炭素税の税率が引き上げられても経営への影響は小さいわけですから、今後の経営目標のひとつになってくれれば、と私は考えています。

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2022年2月 8日 (火)

大きく悪化した1月の景気ウォッチャーと1年半ぶりの赤字を記録した12月の経常収支をどう見るか?

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2021年12月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲19.6ポイント低下して37.9と大きく悪化し、先行き判断DIも▲7.8ポイント低下して42.5を記録していますいます。また、経常収支は季節調整していない原系列で▲3708億円の赤字を計上しています。経常赤字は1年6か月ぶりだそうです。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を手短に、日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、現状判断指数は5カ月ぶり悪化
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は37.9で、前の月に比べて19.6ポイント低下(悪化)した。悪化は5カ月ぶり。家計動向、企業動向、雇用関連が悪化した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は42.5で、7.8ポイント低下した。低下は3カ月連続。家計動向、企業動向、雇用関連が悪化した。
内閣府は現状の基調判断を「持ち直している」から「持ち直しに弱さがみられる」に変更した
21年12月の経常収支、3708億円の赤字 民間予測は734億円の黒字
財務省が8日発表した2021年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は3708億円の赤字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は734億円の黒字だった。
貿易収支は3187億円の赤字、第1次所得収支は3988億円の黒字だった。

短いながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、景気ウォッチャーは現状判断DIが昨年2021年8月を直近の底として、小幅ながらも4か月連続で12月まで上昇を示した後、一型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大などを背景に、今年2022年1月統計では大きく低下しました。先行き判断DIもそれなりの大きさで低下しています。いずれも、繰り返しになりますが、すべての要因は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響に基づくマインドの変化と考えるべきです。内閣府が公表している調査結果のうちの景気判断理由の概要でも、東京などにおけるまん延防止等重点措置の適用から、厳しさが大きく増したとの見方が示されています。現状判断DIの前月差で見ても、家計動向関連では、飲食関連が▲39.8ポイントと最大の低下を示しており、企業動向関連でも製造業が▲7.6ポイントの低下でとどまっている一方で、非製造業は▲10.5ポイントの2ケタ減を記録しています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府が、基調判断を「持ち直しに弱さがみられる」と先月の「持ち直している」から半ノッチ引き下げたのも当然です。先月の統計公表時には、私はこの「『持ち直し』の基調判断は風前の灯」と表現しましたが、まさにその通りで、すべからく、経済の先行き見通しは完全にCOVID-19のオミクロン型変異株の感染拡大次第と考えるべきです。ともかく、以前の安倍政権と菅政権は検査体制を含めて医療体制の整備にはほとんど関心を示さず、感染拡大に従って、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が出す一方で、感染減少に伴ってそれらが解除される、という意味で、古いタイプの Stop and Go 政策の繰り返しでしたが、現在の岸田内閣には、ワクチン接種の大幅加速をはじめとして、PCR検査の拡充も含めて、何とか抜本的な医療体制整備を図って欲しいと私は期待しています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも小幅な経常黒字となっており、▲3000億円を超える大きな赤字には、私も少しびっくりしました。でもまあ、予想レンジの下限が▲3400億円ほどだったので、ギリギリレンジの範囲内といえるのかもしれません。確かに、季節調整をしていない原系列の経常収支で見て、2020年6月の▲143億円以来の経常赤字ですが、季節調整済みの系列では2021年12月も+7875億円の経常黒字を記録していますし、2014年3月を最後に8年近く赤字にはなっていませんから、まったく悲観する必要はありません。国際商品市況で資源価格が値上がりしていますので、こういった資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然であり、消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくない、と私は考えています。

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2022年2月 7日 (月)

基調判断が「足踏み」で据え置かれた2021年12月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2021年12月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数が前月から+0.4ポイント上昇して104.3を示した一方で、CI一致指数は前月から▲0.2ポイント下降して92.6を記録しています。まず、統計を報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

12月の景気動向指数、3カ月ぶり悪化 物流停滞で輸出減
内閣府が7日発表した2021年12月の景気動向指数(CI、15年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比0.2ポイント低い92.6だった。3カ月ぶりの悪化となった。物流網の停滞で輸出などが伸び悩み、半導体製造装置の需要にも一服感がみられた。
内閣府は指数を基に機械的に作成する景気の基調判断を「足踏みを示している」に据え置いた。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目をみると、5項目が低下に寄与した。輸出はコンテナ不足や新型コロナウイルスの感染拡大による需要減で欧州連合(EU)やアジア向けで低下した。半導体製造装置などの生産用機械の需要減で生産指数はマイナスになった。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は前月比0.4ポイント高い104.3だった。変異型「オミクロン型」の感染拡大や原油価格の上昇などで悪化する可能性もある。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、統計作成官庁である内閣府では、昨年2021年3月統計から基調判断を上方改定して、8月統計まで6か月連続で「改善」に据え置いた後、引用した記事にもあるように、9月統計から「足踏み」に下方修正して、先月の昨年2021年12月統計まで据え置かれています。基準がどうなっているかというと、「3か月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1か月、2か月または3か月の累積)が1標準偏差分以上」となっています。本日公表の12月統計では、7か月後方移動平均は昨年2021年7月以来5か月ぶりにプラスに転じましたし、基準指標となっている3か月後方移動平均は11月統計から2か月連続でプラスに転じています。本日公表されたばかりの12月統計について、CI一致指数を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、商業販売額(卸売業)(前年同月比)、輸出数量指数、生産指数(鉱工業)などとなっています。加えて、12月統計ではプラス寄与の系列も見られ、耐久消費財出荷指数や有効求人倍率(除学卒)といった家計部門の指標がそこそこのプラス寄与を示しています。
ただし、足元で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大が急速に進んでいます。このため、まん延防止等重点措置が幅広く講じられています。ですから、景気動向指数のCI先行指数がプラスを示しているのは、私は少し不思議だと受け止めています。オミクロン型変異株は重症化リスクが小さいとか、2月中か3月早々には感染拡大のピークを超える、とか、いろいろな見方が示されて報じられていますが、いつもながら、先行き景気はまったく不透明です。

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2022年2月 6日 (日)

Windows 11の使い勝手やいかに?

今年2022年に入って1月のある週に講義をしているうちに、大学の研究室で使っているデスクトップとノートの2台のPCが連続でWindows10から11にアップデートされていました。まあ、Windows Updateか、何かの折に、私が実に適当にもOKボタンを押している間にアップデートされたんだろうと思います。ただ、自宅で使っているPCはやや古くてスペックが不足しているようで、Windows 11にはアップデートできませんでした。それはそれで悲しい気もします。
基本的に、新しくて、おそらく、使いやすい機能の入ったOSに切り替わったわけですので、何ら不都合はありません。ただ、2点だけ指摘しておくと、まず、ツールバーです。今まで、私は一貫してツールバーは左側に配置して来たのですが、Windows 11ではデフォルトの下配置で、通常のドラッグ&ドロップでは位置の変更は出来ません。ネット検索してみると、レジストリ・エディタで変更可能とのことでしたが、私はそこまでするだけの意欲は持ち合わせていません。それから、Windowsの名の通りのウィンドウの上の角が丸くなってしまいました。以前のバージョンのOSにもそういったのがあったような記憶があります。でも、私は見た目だけの問題ながら、決して好きではありません。ものすごい偏見ながら、その昔の生保のセールスレディなどが持っていた角の丸い名刺を思い出してしまいます。まあ、どうでもいい2点ですが、これからもWindows 11をしっかり使いこなすとともに、自宅PCも適当なタイミングでネイティブのWindows 11に買い替えたいと考えています。

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2022年2月 5日 (土)

今週の読書は評価の高い経済書のほかミステリを含めて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。ショシャナ・ズボフ『監視資本主義』(東洋経済)は、昨年のベスト経済書でもランクインしています。データ資本主義などと能天気に称賛されるGAFA、特にGoogleのビジネスモデルを「監視資本主義」として行動データを収集して心理的あるいは行動的な変化を迫るものとして、とても批判的な見方を提供しています。一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)は家族をめぐる短編6篇を収録しています。私の目から見れば、いかにも小説っぽい現実離れしたストーリーです。あさのあつこ『花下に舞う』(光文社)は人気作家による時代小説ミステリです。弥勒シリーズ最新巻で10作目です。信次郎の母についていくつかの点が明らかにされるとともに、謎解きとしては、最後に、とてつもない大どんでん返しが待っています。麻耶雄嵩『メルカトル悪人狩り』(講談社ノベルス)は、京大ミス研出身の作者によるミステリで、相変わらず、嫌味でタカビーなメルカトル鮎が鮮やかな謎解きを見せます。最後に大村大次郎『脱税の世界史』(宝島社新書)では、脱税を超えた税制に関する世界史がひも解かれていて、国家の興隆や衰退と税制の関係がよく理解できます。これで、本日分の5冊を含めて、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の5冊を含めて計22冊となっています。

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まず、ショシャナ・ズボフ『監視資本主義』(東洋経済) です。著者は、米国ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授です。英語の原題は The Age of Surveillance Capitalism であり、2019年の出版です。本書は、いくつかの経済週刊誌などで昨年のベスト経済書に選出されています。3部構成となっていて、監視資本主義の基盤、監視資本主義の発展、そして、第3の近代のための道具主義の力、最後に締めくくりの章が置かれています。最近は「データ資本主義」などと称してGAFAあるいはGAFAMを一括して称賛する経営論も見かけますが、本書では明確に「データ資本主義」、すなわち、個人のデータを収集してマーケティングに結びつける経済社会を強い批判的視点から分析しています。特に、単なる情報収集ではなく、新自由主義的な経済理論との二人三脚による市民からの収奪に近いような利潤追求に対して警鐘を鳴らしています。加えて、GAFAを一括するのではなく、主たる批判の対象をGoogleに向け、FaceBookなども批判的な視線を向けられていますが、逆に、Appleはそれほど悪辣ではないような扱いを受けているような気がします。本文だけで600ページを超え、昼夜索引を含めれば軽く750ページほどに達する大作ですし、それなりに話題になりましたので、このブログで詳細な紹介は控えますが、私の要約では、監視資本主義とは、要するに、個人に関する情報を収集して心理的な面も含めた思考や行動の変化を迫り、それを基に利益を上げようとするのが特徴とえます。私もまったく同様の危機感を共有していて、昨年2021年6月26日に瓜生原葉子『行動科学でよりよい社会を作る』(文眞堂)を読書感想文のブログで取り上げた際、極めて強い批判と大きな疑問を投げかけた記憶があります。その時は、行動科学を持って臓器提供へ市民を導くというものでしたが、それを大規模に社会的な広がりを持って利潤追求に活用しているのがGoogleをはじめとする情報企業といえます。そして、その経営を能天気に褒め称えている経営者やアカデミアがいっぱいいるわけです。ただ、本書で触れられていない論点も含めて、私なりの議論を展開しておくと、第1に、欧州のGDPRのようなプライバシーの問題ではありません。私はプライバシーについては決してすべてが守られるべきであるとは考えません。すなわち、市場取引の記録についてはもはやプライバシーはありません。しかし、その対極にあるベッドルームのプライバシーは守られるべきであると考えます。でも、個人行動の情報はすべて収集されています。ベッドサイドにスマホを置く人はベッドでの夫婦の睦言まで収集されていると考えた方がいいわけです。第2に、個人情報を収集した上で心理的かつ行動的に操作されるわけですから、もはら、何を持って自由意志と考えるべきかが不明な社会になりつつあります。例えば、本書でも、明らかに選挙は操作されていると結論しています。第3に、こういった情報に基づく心理的・行動的な変容を迫る動きに対しては、私は、斉藤幸平的、というか、これも昨年流行した『人新世の「資本論」』にあるように、コモンを広げてGoogleなどの情報企業を取り込んでしまう、という解決を考えたのですが、本書では中国を例に引き出してデジタル全体主義の道を示しています。すなわち、資本制したでの物神論的な現象ではない可能性が十分あるということのようです。他にも論点はいくつかあるのですが、いずれにせよ、私は、AIとロボットとか、このGAFA的な監視資本主義とか、先行きに対してはかなり悲観的なのですが、本書を読んでいっそう悲観的な傾向を強めた気がします。でも、一読をオススメします。十分な覚悟を持って一読すべきです。ひとつはとても悲観的で解決策のないような問題であるという意味の覚悟が必要です。もうひとつは、私は本書が要求するレベルの専門性は日本人の平均よりはやや持ち合わせていると自負していて、加えて、読書量やスピードについても平均的な日本人を少し上回っているとうぬぼれているのですが、それでも足掛け3日かかるボリュームでした。でも、かなり読みやすい本です。邦訳がいいのかもしれません。

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次に、一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社) です。著者は、もうベテランの小説家、というか、ラノベ作家であり、私の印象としてはBLの作品が多かったような気がします。でも、この作品はなかなかの出来で、2021年度上半期の直木賞候補作でしたし、今年2022年の本屋大賞にもノミネートされています。従って、というか何というか、出版社でも力を入れて特別サイトを作ったりしています。ということで、6編の独立した短編から成っていて、それぞれ、家族をテーマにしながらも、いかにも小説といった現実離れした内容で、まあ、独特の世界を描き出しています。最初の「ネオンテトラ」はこの熱帯魚の繁殖形態を象徴していて、何と、中学生の姪の性行為の結果を不妊に悩む叔母がかっさらう、というものです。次に、「魔王の帰還」は180センチを超えるゴツい高校球児が暴力行為で野球部どころか高校も追い出されたところ、そこにさらにゴツい188センチの姉が婚家から出戻ってきた騒動、さらに、再び婚家に戻る一連の出来事を描いています。次の「ピクニック」では、ありふれた家族の家庭で幼児が亡くなったという事実の真相を究明しようとし、その流れの中で記憶が戻って悲劇が思い出される、というもので、私には家族関係がややこしくて少し理解が及びませんでした。次の「愛を適量」では、バツイチの高校教師のところに娘が来てFtMのトランスジェンダー手術を受けるというところから始まります。そして、父は娘のトランスジェンダー手術に貯金を回そうかと考えますが、昔の恨みを持つ娘の方はその貯金を勝手に引き出してしまいます。次の「花うた」では、兄を殺された看護師の女性とその殺人犯との手紙のやり取りで構成されます。そして2人は結婚し、その数十年後の物語で完結します。最後の「式日」は夜間高校の先輩が後輩から父親の葬式に参列するよう連絡をうけ、色々と思い出す中で、その後輩に子供がいると告げられたことを思い出します。そして、この後輩は実は第1話の「ネオンテトラ」で中学生の姪を妊娠させた同級生の少年だった、ということで、短編間の連携が見られるのですが、この少年は高校生の時にバイク事故で死ぬというのが第1話で出ていて、それなら、この最終話は第1話の終わる直前の時期なのか、とヘンなことを想像していしまいました。あるいは、構成がややいびつ?


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次に、あさのあつこ『花下に舞う』(光文社) です。著者は、ご存じ「バッテリー」シリーズの作者です。そして、この作品は弥勒シリーズの最新作であり、第10作目です。弥勒シリーズは、基本的に、時代小説のミステリであり、江戸を舞台に、北町奉行所定町廻り同心である木暮信次郎、小間物問屋である遠野屋主人の清之助、の部下である岡っ引の伊左地の3人を取り巻く人間を描いています。ただ、今は商人ながら清之助はもともとは武士です。しかも、剣の達人です。私はこのシリーズは全て読んでいると思いますが、さすがに10作目ですから、やや記憶が不確かな部分もあります。このシリーズでは、まあ、何と申しましょうかで、江戸時代を舞台にしたミステリですので、奉行所での調べはそれほど緻密なものではなく、もちろん、上級武家が関わっていればウヤムヤで済ませることもありますし、商人からの多額の袖の下で適当に事実を曲げることもあります。ですから、ミステリとしては不出来なのですが、逆に、信次郎がスキのある推理を埋める謎解きを見せる余地があるともいえます。本作品では、表向きは口入れ屋で裏に回れば高利貸しをしていた年配の商人とその後妻が殺された事件で、ほぼほぼ事件は解決して、江戸時代の殺人事件の謎解きなんてこんなもん、という感じだったのですが、信次郎が埋めきれない謎を解き明かして、同時に、信次郎が小さいころに亡くなった母の記憶にも光をもたらす、というものです。本シリーズのどれかは忘れましたが、信次郎の父親の死にも不審なところがあり、確か、小藩の密輸、当時でいえば抜け荷に関わっていたことが明らかにされながら、結局、公式記録としては何も変わらない、というのがありました。本作品では、そういった信次郎の母親の思い出も織り込みながら、最後に、ものすごい大どんでん返しがあります。私の知る限り、ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムのシリーズなんかがツイスト=どんでん返しの典型的な作品なのですが、このシリーズもすごいです。ただ、ライムと信次郎が大きく異なるのは、その結果が公式の記録に残るかどうか、なのかもしれません。

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次に、麻耶雄嵩『メルカトル悪人狩り』(講談社ノベルス) です。著者は、京大ミス研出身のミステリ作家です。綾辻行人や法月綸太郎などから少し後輩ではなかったか、と記憶しています。本作品は、この作家の作品の中でも独特のキャラを打ち出しているメルカトル鮎は名探偵となり、作家の美袋三条がアシスタントを務めます。収録作品は、8短編となっていますが、ホンの数ページだけのショートショートもあり、とてもバラエティに富んでいます。短編タイトルは、「愛護精神」、「水曜日と金曜日が嫌い」、「不要不急」、「名探偵の自筆調書」、「囁くもの」、「メルカトル・ナイト」、「天女五衰」、「メルカトル式捜査法」です。いつもながら、独特の雰囲気を持つ作品で、メルカトル鮎のタカビーな態度もあって、決して読後感がいいわけでもありませんし、「ノックスの十戒」を破っているような作品とか、「後期クイーン的問題」を逆手に取ったような謎解きをメルカトルが平気でやったりと、メルカトル鮎につけられた「銘探偵」が面目躍如となっています。私個人としては、トランプのカードで事件の予告をするように見せかけた「メルカトル・ナイト」が、タイトルの妙もあって好きなのですが、人によっては最後に収録されている「メルカトル式捜査法」の軽妙な運びを評価する場合があるかもしれません。逆に、会社社長の邸宅で主人が不在の間に起きる殺人事件を謎解きする「囁くもの」は、メルカトルの謎解きにしてはやや地味な気もしました。最後に、この作家の貴族探偵のシリーズではありませんが、メルカトルには割と上流階級に属する依頼者が多いので、もっとそういった雰囲気を感じさせる作品に仕上げるのも一案かと思いながら読んでいました。温室のランとか、そういた要素を含み作品もこの短編集には含まれていますが、まあ、短編では少しキツいのかもしれません。

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最後に、大村大次郎『脱税の世界史』(宝島社新書) です。著者は、国税専門官出身です。ですから、もっと日本の税制の細かい点を掘り下げるのかと思えば、世界史的に税や脱税の歴史を大づかみに概観する出来となっています。それも、こういった税や経済に関するトピックは、ついつい、西欧を中心にしがちなのですが、中国も視野に入れていますし、幅広い対象について税金が関係していることを感じさせる内容となっています。タイトルからして脱税を中心に議論が進むのかとも思いましたが、むしろ、税制を中心に展開させているように感じます。しっかりした税制を構築して、その上に税から得た財源を適切に使う行政があると国家は反映する一方で、税制ががたがたになって行政に必要な財源が投じられないと国家は衰退します。少なくとも、100年ほど前の金本位制などの商品貨幣の時代まではそういえます。今は不換のfiat moneyですから、現代貨幣理論のような極端な議論まで行かずとも、財政と行政歳出はある程度は切り離されて議論できますが、100んほど前までは実際に財源なければ、王様によっては大好きな戦争も出来なかったわけなのでしょう。本書によれば、税金によってローマ帝国は滅び、高額な関税こそが大航海時代の引き金となり、脱税業者が米国の独立戦争を先導し、ロスチャイルド家は相続税で勢力を減退させ、ビートルズは税金のために解散の憂き目に会い、などなど、ということになり、一面の真実を捉えています。でも、そういったマイクロなトピックの中で、やっぱり、私はタックスヘイブンの章がもっとも面白かったと思います。決して、実務的、理論的な見識を増やそうというわけで話に、まあ、何かの折のうんちく話のタネにするにはいい本だという気がします。

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2022年2月 4日 (金)

米国雇用統計は人手不足を示し米国金融政策は引締めモードに入るのか?

日本時間の今夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、本日公表の1月統計では+467千人増と大幅増を記録し、失業率は前月の3.9%から1月には4.0%とほぼ横ばいです。まず、長くなりますが、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に4パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added 467,000 jobs in January despite omicron surge, unemployment rose to 4%
U.S. employers unexpectedly added a booming 467,000 jobs in January even as COVID’s omicron variant kept millions of Americans out of work.
The unemployment rate, which is calculated from a different survey of households, rose from 3.9% to 4%, the Labor Department said Friday.
Unemployment, however, rose for an encouraging reason. Many Americans streamed into a favorable labor market. The share of adults working or looking for jobs increased sharply from 61.9% to 62.2%, though that's still well below the pre-COVID mark of 63.4%.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated a modest 150,000 jobs were added last month but many projected an outright decline.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、2020年4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+150千人程度の雇用増が予想されていたため、実績の+467千人増は大きく上振れた印象です。加えて、先月2021年12月統計は+300千人超の上方改定で前月差+510千人増となっています。失業率は前月統計から上昇したとはいえ、ほぼ横ばいの4.0%ですし、これは米国連邦準備制度理事会(FED)が長期的な均衡水準と見ている失業率と変わりありません。ですから、総合的に考えると、米国雇用は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大もあって、人手不足が続いていると考えるべきです。そして、この人手不足が国際商品市況における石油などの資源価格の上昇と相まって、米国の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+7%に達しています。ですから、3月に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が引き上げられる運びとなっており、量的緩和政策によって膨らんだバランスシートの縮小も進むのではないかと見られています。加えて、今年2022年には従来から市場で予想されてきた年4回の利上げではなく、5回になるのではないか、との見方も少なくないようです。いずれにせよ、米国金融政策は明らかに景気回復よりもインフレ抑制を重視する引締めモードに入っており、日銀との金融政策スタンスの差が大きくなる可能性があります。

私のような高圧経済支持者からすれば、COVID-19パンデミック前には失業率は3%台半ばだったわけですから、現状ではまだCOVID-19の影響を脱したとはいえまず、多少のインフレを許容してでも今少し需要拡大を図るのも一案だと考えていますが、インフレ動向からすれば金融政策が引き締め方向に進むのは当然と考えるエコノミストも多いのかもしれません。オミクロン型変異株の感染拡大が終息したとはとても思えない段階ながら、金融政策はポストコロナの新たな段階に入りつつあるようです。

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2022年2月 3日 (木)

節分に恵方巻きを食べる習慣は関西が発祥か?

2年前の3月末に東京を引き払って、夫婦2人で関西に移り住み、今日は2回めの節分を迎えて夕食には恵方巻きをいただきました。恵方巻きは関西から始まった習慣のように聞き及んでいますが、ウェザーニュースのサイトで恵方巻きを食べる予定についてのアンケート調査結果が示されていて、買うにせよ、作るにせよ、関西では恵方巻きをよく食べるような調査結果でした。ということで、下のグラフはウェザーニュースのサイトから引用しています。ご参考まで。

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日本経済研究センター(JCER)のコラム「家計貯蓄率はなぜ上昇しているのか」が示す不都合な事実を読み解く!!!

一昨日2月1日、日本経済研究センター(JCER)の研究顧問である齋藤潤さんのコラム「家計貯蓄率はなぜ上昇しているのか」が明らかにされています。齋藤さんは私の役所の先輩なのですが、やや不都合な事実が示されているように感じたのは私だけなのでしょうか。

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まず、上のグラフは日本経済研究センターのサイトからSNAベースの四半期別家計貯蓄率のグラフを引用しています。コラムでも指摘されている通り、ライフサイクル仮説に従えば、我が国経済社会の高齢化とともに貯蓄率は低下します。消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月の直前1~3月期までは、まさにライフサイクル仮説の通りに貯蓄率は低下しています。というか、そのように見えます。しかし、その後、貯蓄率は反転上昇しているようで、2020年にジャンプしたのは、これもコラムで指摘されている通り、特別定額給付金が給付された一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大に対して緊急事態宣言が発出され、ステイホームが要請された影響もあって家計消費が減少した、という所得と支出の両方向のの要因が重なった結果といえますが、その後、2021年に入ってからも貯蓄率は上昇を続けているように見えます。

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続いて、上のグラフは日本経済研究センターのサイトから家計調査ベースの平均消費性向(2人以上の世帯のうち勤労者世帯)のグラフを引用しています。SNAベースと異なる家計調査のベースでも、貯蓄率の上昇、逆から見て消費性向の低下が観察されます。コラムでは「平均消費性向の低下傾向(貯蓄率の上昇傾向)が、2016年頃より始まっている」と指摘していますが、明らかに、2014年4月の消費税率の引上げから始まっています。2019年10月からは一部に軽減税率の適用があるとはいえ、消費税率は再び8%から10%に引き上げられたのは記憶に新しいところです。ですから、コラムでも消費税率引上げの影響を指摘しています。すなわち、私の表現を使えば、消費税率の引上げとは消費に対するペナルティであり、貯蓄を促進する要因となるわけですから、当然、消費税率引上げは貯蓄率の上昇をもたらします。

続いて、上のグラフは日本経済研究センターのサイトから現金給与総額と所定内給与(5人以上)のグラフを引用しています。貯蓄率や消費性向に関しては、ライフサイクル仮説が勤労世代の貯蓄積み上がりと引退世代の貯蓄取り崩しを指摘し、従って、高齢化の進行とともに貯蓄を取り崩す引退世代が相対的比重を増して、経済社会全体としても貯蓄率が低下する傾向を示す一方で、もうひとつ恒常所得仮説があります。すなわち、恒常所得の増加が消費の増加をもたらす一方で、日本的なボーナスなどの臨時所得はそれほど消費に結びつかない、という議論です。そして、上のグラフから、2018~19年ころまで所定内給与よりも現金給与総額の伸びの方が高かったことが見て取れます。つまり、所定内賃金よりも所定外賃金の伸びの方が高く、従って、恒常所得ではないために消費を安心して増やすことができなかった可能性があります。同時に、コラムでも指摘しているように、グラフこそありませんが、年金などの社会保障をはじめとする政策動向、あるいは、経済社会全体の先行き不安などから消費を手控えて、その反対側で貯蓄率が上昇していた要因も無視できません。

私は、コラムで指摘されているように、国内貯蓄の低下によって投資が制約されるとは思いませんが、消費税率の引上げや所定内賃金の停滞といった不都合な事実による貯蓄率低下である可能性は十分に認識すべきだと考えています。コラムで議論されている貯蓄率は、いわゆる事後的な貯蓄率であり、景気を停滞させかねない消費性向の低下とは考えられませんが、好ましくない原因による経済社会の変調なのかどうかを見極め、もしそうであれば、それなりの対応が必要かもしれません。

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2022年2月 2日 (水)

大いに話題になった文部科学省「『教師不足』に関する実態調査」の結果やいかに?

一昨日1月31日にいろんなメディアでいっせいに大きく報じられましたが、文部科学省から「『教師不足』に関する実態調査」の結果が公表されています。いろんなメディアでキャリーされていますが、文部科学省の1次資料のありかは以下の通りです。

結果を一言で表現すれば、2021年度始業日時点で義務教育である小・中学校の「教師不足」人数(不足率)は合計2,086人(0.35%)、2021年5月1日時点では1,701人(0.28%)、さらに、高校では始業日に217人(0.14%)、5月1日時点で159人(0.10%)、ということになります。教師が不足しているわけです。参考資料の詳細表ではない方のリポート「『教師不足』に関する実態調査」のp.4から教師不足の概要のテーブルを引用すると以下の通りです。リポートには他にいろんな資料が、例えば、都道府県別の教師不足とか、が収録さてています。都道府県別では、小学校の不足人数がもっとも大きいのが千葉県の91人、中学校では福岡県59人とかです。先にリンクを示した文部科学省のリポート・資料を見れば明らかです。

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メディアの取り上げ方も大きかったのですが、まあ、この教師不足は何とかならんもんですかね。教師不足を痛感している学校教員の端くれとして、とても強く思います。

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2022年2月 1日 (火)

2021年12月の雇用統計は底堅いのか、それとも、回復が遅れているのか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも昨年2021年12月の統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.7%を記録し、有効求人倍率は前月から+0.1ポイント上昇して1.16倍に達しています。全体として、雇用は緩やかな改善が続いている印象です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

21年の求人倍率1.13倍、3年連続低下 雇用回復鈍く
雇用の回復が鈍い。厚生労働省が1日発表した2021年平均の有効求人倍率は1.13倍と、前年比0.05ポイント下がった。下げ幅は新型コロナウイルスの感染拡大1年目の20年(0.42ポイント)より縮んだものの、3年連続のマイナスで14年(1.09倍)以来の水準に落ち込んだ。総務省が同日発表した21年平均の完全失業率は2.8%で前年から横ばいだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。21年12月の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0.01ポイント上昇の1.16倍だった。コロナ後の底だった20年秋の1.04倍からは徐々に持ち直している。18年から19年にかけて1.6倍を超えていた水準はなお遠い。
21年の有効求人数は1.6%増の219万人と3年ぶりに増加に転じた。有効求職者数は6.6%増の194万人で、伸び率は求人数を上回った。求人に対して実際に職に就いた人の割合を示す充足率は13.4%で、前年から0.3ポイント下がった。
21年12月の完全失業率(季節調整値)は2.7%で前月に比べて0.1ポイント低下した。21年平均は2.8%で、コロナ前の19年の水準(2.4%)には戻らなかった。感染拡大の繰り返しで、雇用情勢の回復は遅れている。完全失業者数は193万人と前年から2万人増え、2年連続の増加となった。
21年平均の労働力人口は6860万人と前年から8万人減った。就業者も9万人減の6667万人で、いずれも2年連続の減少となった。15歳以上人口に占める就業者の割合を示す就業率は60.4%で前年比0.1ポイント上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。ただし、どうしても12月データが利用可能になりましたので、年次統計の着目していて、もう少し頻度の高いデータで景気動向を探ろうという私の視点からはズレているような気もします。続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が2.8%と前月統計から横ばいが予想されていた一方で、有効求人倍率は1.16倍と前月から改善する見込みが示されていました。有効求人倍率は市場の事前コンセンサス通りでしたが、失業率はわずか0.1%ポイントながら予想より改善が進んでいます。引用した記事では、雇用の回復が鈍い印象を与えるようなタイトルとなっていますが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前の失業率や有効求人倍率と比較していますので、パンデミック終息前にその水準に戻るのは難しいのではないか、という視点も必要な気がします。ですから、引用した記事の見方はやや悲観的に過ぎるように私は受け止めています。他方で、昨年2021年12月における統計の調査時点によっては、COVID-19オミクロン型変異株の感染拡大前の数字であろう、という気はします。その意味では、このままでは楽観的に過ぎる数字のような気もします。先行きはコロナ次第、というのは私のエコノミストとしての限界です。

いずれにせよ、雇用は底堅くはあるものの、もう一段の回復があればデフレ脱却にプラスであることはいうまでもありません。春闘の時期を迎えて、あらゆる意味で、賃金が上がることを願っています。

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いよいよ始まるプロ野球のキャンプやいかに?

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球春到来!!!
いよいよ今日からプロ野球12球団がキャンプインです。上のキャンプ地は時事通信のサイトから引用しています。去年のキャンプはすべて無観客でしたが、今年は有観客のようです。我が阪神はシーズン開幕前から矢野監督が今季限りで退陣発表という異例のキャンプインとなりましたが、期待の新規加入選手など大いに期待しています。ケガないようにして欲しいですが、意味あるケガはあり得ると私は考えています。というのも、私は阪神タイガースの最近の成績不振はキャンプの失敗に起因すると考えるからです。シーズンを見据えてしっかりと鍛え上げて下さい。

今年こそリーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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