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2022年3月31日 (木)

3か月ぶりに増産に転じた鉱工業生産指数(IIP)の先行きリスクやいかに?

本日、経済産業省から2月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+0.1%の増産でした。増産は3か月ぶりです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

2月鉱工業生産、前月比0.1%上昇 3月予測は3.6%上昇
経済産業省が31日発表した2月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比0.1%上昇の95.8だった。上昇は3カ月ぶり。生産の基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比0.5%上昇だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では3月が3.6%上昇、4月は9.6%上昇を見込んでいる。

とてもコンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、前月と比べて+0.5%の増産という予想でしたので、まずまず「こんなもん」という受止めかという気がします。加えて、足元の3~4月については、製造工業生産予測指数で見て、それぞれ、+3.6%、+9.6%の増産を予測していることから、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。もっとも、製造工業生産予測指数の上方バイアスを取り除いた補正値では、3月増産は+1.1%にやや圧縮されますが、それでも増産は増産です。基本的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染拡大が抑制されていて、同時に、東南アジアなどからの輸入部品供給制約の緩和による増産です。経済産業省による解説記事「2月生産は3か月ぶりの前月比上昇」では、中でも、自動車工業が前月比+10.9%の2ケタ増産となって、ヘッドラインの+0.1%の増産を超えて、+1.42%の寄与度を示しています。他方、減産した主な産業は、化学工業(無機・有機化学工業・医薬品を除く)が前月から▲9.6%の減産で▲0.41%の寄与、また、無機・有機化学工業も▲2.5%の減産で▲0.11%の寄与などとなっています。
今後の生産の行方はCOVID-19の感染拡大、そして、これに伴うグローバルなサプライチェーンにおける部品供給や物流の停滞などに加えて、ロシアのウクライナ侵攻による資源価格の高騰に伴うコストプッシュなどの経済的影響次第という面があり、いずれも、私のような不勉強なエコノミストには予測し難い経済外要因なのですが、大雑把には、内需に依存する部分の大きい非製造業とは違って、世界経済の回復とともに製造業の生産は緩やかに回復の方向にあるのは間違いないと私は考えています。しかしながら、先行きリスクは下振れの方が大きいように受け止めています。例えば、COVID-19とウクライナ危機に加えて、3月の増産計画は3月10日時点での回答だそうですから、3月16日の福島県沖地震の影響、特に、自動車のサプライチェーンへのネガティブな影響は織り込まれていません。他方で、上振れリスクもないわけではありません。すなわち、現在策定中の経済対策に期待する部分はありますが、詳細に関する情報を私は得ていません。ですから、生産の回復過程はそれほど単純な道のりではない、と考えるべきです。

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2022年3月30日 (水)

留学生たちと京都に花見に行く!!!

留学生大学院生のお花見に夫婦でお付き合いしてきました。京都市地下鉄を蹴上で降りて、南禅寺からインクラインを下って平安神宮、さらに知恩院から祇園は円山公園のルートで歩き回った感じです。大阪や京都は今日が満開だそうで、天気予報によれば明日は雨らしいので、本日の花見というのは絶好のタイミングでした。
私はいくつか大学院の授業を担当していますが、修士課程1年生の第2セメスターで英語コースの留学生院生全員が受講する授業を何人かの同僚教員とともに受け持っています。ですから、私の方では各院生の名前を覚えていなくても、たぶん、受講している20人余りの大学院生の方は私を教員であると認識していると期待できますので、院生を使ってカミさんとのツーショットを撮るくらいは気軽に頼める範囲だろうと思います。ということで、写真は以下の通り、南禅寺境内でカミさんと私、インクラインでカミさんと私、平安神宮の右近の橘と左近の桜、円山公園のしだれ桜、となっています。

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コロナの感染拡大で前年比マイナスとなった2月の商業販売統計の小売業販売の先行きをどう見るか?

本日、経済産業省から1月の商業販売統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.8%減の11兆5370億円、と5か月ぶりの減少を示した一方で、季節調整済み指数でも前月から▲0.8%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。


経済産業省が30日発表した2月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比0.8%減の11兆5370億円だった。減少は5カ月ぶり。季節調整済みの前月比は0.8%減だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が0.5%増の1兆5038億円だった。既存店ベースでは0.1%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は0.6%増の8721億円だった。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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通常、多くのエコノミストや報道では、この統計のヘッドラインとなる小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で見ているような気がします。しかしながら、経済産業省のリポートでは、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で基調判断を示しているようで、2月の移動平均指数は前月から▲0.7%の低下と試算しています。2月統計における季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比も5か月ぶりにマイナスを付けているのですが、基調判断は先月1月と同じで変更なく、トレンドで「横ばい傾向」と据え置かれています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、本日公表の商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていないことから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響は過小評価されている可能性が十分あります。すなわち、特に、この2月のようにまん延防止等重点措置の期間中は、飲食や宿泊のような対人接触型のサービスがCOVID-19の感染拡大で受けるネガティブな影響が大きいのですが、商業販売統計には十分には現れていない、と考えるべきです。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、物価上昇があれば販売額の上昇という結果になります。現在、日本では先進各国におけるような大きなインフレは認識されていませんが、世界では石油などの資源価格の上昇をはじめとする供給要因と世界的な景気の持ち直しによる需要要因とで、物価の上昇が始まっており、米国では中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FED)が3月の利上げを示唆したりしている段階です。我が国でも、小売業販売額の前年同月比伸び率を業種別に詳しく見ると、燃料小売業が昨年2021年10月から+20%を超え、2月統計では+21.6%増を記録していますが、売上数量が伸びているというよりも、販売単価、すなわちインフレ部分が大きいのではないかと私は想像しています。これら2点を考え合わせると、実際の日本経済の現状についてはこの統計よりも悲観的に見る必要が十分ある、と私は考えています。

消費の先行きについて考えると、3月はまん延防止等重点措置が21日限りで解除されてマインドは少し上向きになり、サービスほどではないにしても物販も回復を見せる方向に動くと考えられる一方で、物価高が家計を直撃し実質所得が低下しているのも事実です。岸田総理は一昨日の3月29日に物価高騰への対策策定を関係閣僚に指示した、と報じられています。もちろん、現時点では具体策の決定がなされたわけではありませんし、詳細は不明ながら、いくぶんなりとも家計の実質所得低下の影響を緩和する内容であって欲しいと私は考えています。企業に補助金を付与して価格上昇を抑制するよりは、家計の所得に対するサポートであって欲しいと思います。「xxであって欲しい」がついつい多くなるのですが、市場価格を歪める程度を小さく、同じ意味で、企業への補助も少なめに、しかし、家計所得へのサポートを大きく、と私は期待しています。

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2022年3月29日 (火)

2月の雇用統計は底堅いのか、それとも改善が鈍いのか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも2月の統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.7%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.21倍に達しています。全体として、雇用は緩やかな改善が続いている、ないし、改善が鈍化している印象です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

失業率2月2.7%、2カ月ぶり低下 就業控えも目立つ
総務省が29日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は、前月から0.1ポイント下がり2.7%となった。低下は2カ月ぶり。厚生労働省が同日公表した2月の有効求人倍率(同)は前月比0.01ポイント上昇の1.21倍だった。まん延防止等重点措置などで働くのを控える動きもあって就業者数は減っており、雇用情勢の改善は鈍い。
新型コロナウイルス禍が長引き、求職もせず労働市場から退出する人が増えている。非労働力人口は4215万人と前年同月比14万人増えた。就業者数は35万人減の6658万人と、5カ月連続で減った。休業者数は12万人増の242万人となった。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対して求人が何件あるかを指す。2020年に比べると回復傾向にあるが、1.5倍を超えていたコロナ前の水準には戻っていない。22年2月は、求職者数の減少幅が求人数の減少幅を上回ったため、上昇した。有効求職者数(季節調整値)は前月比1.4%減の197万人だった。減少幅は21年6月以来の大きさだった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が2.8%と、また、有効求人倍率は1.20倍と、ともに、前月統計から横ばいが予想されていた一方で、実績としては、失業率も有効求人倍率もともにわずかながら改善しましたので、やや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。しかしながら、他方で、3月になってまん延防止等重点措置が解除されたとはいえ、コロナ禍が続く中で景気回復の足取りは鈍く、求職することなく労働市場から退場したままになっている人も少なくないという実感が同時にあります。統計的に確認されているわけではなく、事例としていくつか聞き及んでいるだけですが、特に、産業分野としては、人的接触の多い外食や宿泊などの業種において、そして、高度成長期から周辺労働力として考えられているグループ、すなわち、主婦パートや学生アルバイトなが労働市場への再参入をためらっている可能性が高い、と私は受け止めています。景気回復がさらに鮮明になり求人が盛上がりを見せれば、こういった伝統的な周辺労働力も労働市場に再参入する動きが強まると私は予想しているのですが、まん延防止等重点措置が解除された3月下旬以降の統計を改めて見たい気がします。いずれにせよ、景気や雇用の先行きはコロナとウクライナ危機次第、というのは私のエコノミストとしての限界です。

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2022年3月28日 (月)

日銀短観予想では景況感が悪化する、ではどこまで?

今週金曜日4月1日の公表を控えて、シンクタンクから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は来年度2022年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックやウクライナ危機といった経済外要因の動向次第という面があり、シンクタンクにより大きく見方が異なることになってしまいました。それでも、景況感が悪化するのは明らかだという予想です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査 (最近)+17
+10
<n.a.>
n.a.
日本総研+7
+2
<+1.9%>
先行き(6月調査)は、全規模・全産業で3月調査対比+2%ポイントの改善を予想。活動制限の解除により、サービス消費を中心に個人消費が回復に向かうほか、供給制約の緩和に伴う製造業生産の回復が景況感を下支えする見通し。もっとも、ウクライナ問題が長期化すれば、資源価格の高止まりなどを通じて企業業績の悪化が避けられないことから、景況感が一段と冷え込むおそれも。
大和総研+11
+3
<▲1.0%>
3月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+12%pt(最近からの変化幅: +1%pt)、大企業非製造業は+9%pt(同: +6%pt)といずれも改善を予想する。まん延防止等重点措置の解除が見込まれるなか、経済社会活動の活性化への期待感が高まっていることが「小売」、「対個人サービス」、「宿泊・飲食サービス」といった業種を中心に非製造業の業況判断DI(先行き)の改善に寄与するとみられる。
大企業製造業では、半導体不足の緩和によって生産拡大を見込む「自動車」の業況判断DI(先行き)が改善するとみている。さらに、同業種における増産が関連業種に波及することで「鉄鋼」の業況判断DI(先行き)も上昇を見込む。こうした好材料がある一方で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって資源価格の見通しに不確実性が強まっており、資源価格高騰に伴う投入コストの増加が収益を押し下げるリスクへの警戒が高まっている。このため、大企業製造業における業況判断DI(先行き)の改善幅は非製造業よりも小さくなるとみている。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+13
+7
<+0.9%>
製造業・業況判断DIの先行きは2ポイントの悪化を予測する。半導体不足が引き続き自動車生産の重石になるほか、早期のウクライナ情勢沈静化は見込めず、資源価格の高止まりが製造業の業況を全般的に下押しするだろう。
非製造業・業況判断DIの先行きは2ポイントの改善を見込む。3回目のワクチン接種や経口治療薬の普及を背景に感染者数の減少が続くと予想される中、対人接触型サービス消費持ち直しへの期待から宿泊・飲食サービスや対個人サービスは改善が見込まれる。ただし、一部の消費者に慎重さが残っているほか、インバウンド回復も見込めないことから、これらの業種のDIはマイナス圏(「悪い」超)での推移が続く見通しだ。
ニッセイ基礎研+10
+4
<+0.3%>
先行きの景況感も大幅な改善は見込めない。ウクライナ情勢の緊迫化を受けて資源価格の上昇圧力が強い状況が続くと見られることから、先々の原材料・燃料価格上昇に対する企業の懸念は強いはずだ。さらに製造業では、インフレ加速に伴う海外経済の減速や供給網の混乱に対する懸念も燻っているとみられることから、先行きにかけての景況感改善は示されないと見込んでいる。一方、非製造業ではワクチン接種の進行もあり、オミクロン株の感染縮小とそれに伴うまん延防止等重点措置の解除への期待が追い風となるものの、製造業同様、原材料・燃料価格上昇に対する懸念が重荷となり、先行きにかけての景況感改善が小幅に留まると見ている。なお、中小企業非製造業については、もともと先行きを慎重に見る傾向が強く、先行きにかけて景況感の改善が示されることが稀であるだけに、今回も小幅な悪化が示されると予想している。
第一生命経済研+6
+5
<大企業製造業+3.5%>
これまで業種全般が2020年6月をボトムにして、緩やかな回復過程にあったが、その流れは下向きに変わろうとしている。中小企業は、製造業・非製造業がともに水面上(「良い」超)に浮上することなく、悪化方向に変化した。コロナ感染が和らぎそうな局面で、ウクライナ侵攻が起こったことは、まさしく回復の流れに「冷や水」を浴びせたかたちである。現時点で、楽観的な材料は見つけにくいのが実情である。ロシアが停戦合意に向けて動き出し、欧米日の経済制裁が早期に解除させることが復活の鍵になる。
三菱総研+9
+5
<+1.5%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業が3月時点から▲2%ポイント低下の+7%ポイント、非製造業は3月時点から横ばいの+5%ポイントと予測する。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇や、資源の供給不足懸念、世界経済の減速は、製造業・非製造業ともに業況の下押し要因となる。ただし、非製造業は防疫措置の段階的解除により、外出関連を中心に消費回復が予想されることから、横ばいを見込む。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+15
+6
<大企業全産業+102%>
(大企業製造業)先行きは、ウクライナ危機による資源価格上昇や海外経済悪化への警戒感が幅広い業種の業況を悪化させる一方、部品不足解消で、挽回生産が期待される自動車や、自動車に部材を供給する鉄鋼などで改善が見込まれ、2ポイント悪化の13と、悪化は軽微にとどまろう。
(大企業非製造業)先行きは、2月中旬以降、オミクロン株の拡大が鈍化していることもあり、経済活動の正常化が期待され、1ポイント改善の7と、ウクライナ危機への警戒感がある中でも改善が見込まれる。
農林中金総研+14
+6
<▲0.5%>
先行きに関しては、足元の感染「第6波」の収束や3回目のワクチン接種の進展によってコロナ禍の影響が弱まり、非製造業を中心に経済活動再開への期待が高まる半面、コスト高に伴う業績圧迫懸念やウクライナ情勢を巡る不透明感も高まっている。大企業・製造業は13、中小企業・製造業は▲8と、今回予測からそれぞれ▲1ポイント、▲2ポイントの悪化予想を見込む。一方、大企業・非製造業は8と今回予測から+2ポイントの改善、中小企業・非製造業は▲8で今回予測と変わらずと予想する。

ということで、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは+12と、12月調査の+18から悪化するものの、まだまだプラス領域であり、しかも、+10を上回る、と予想しています。私の実感としては+10を上回るほどではないと考えていますが、まあ、プラスはプラスなのでしょう。総理大臣官邸のサイトによれば、足元で3回目のワクチン接種の進捗は全国民の⅓を少し超えたところですし、新たな変異株による第6波の感染拡大のリスクは、エコノミストの私からすれば未知としかいいようがありません。加えて、ロシアのウクライナ侵攻は資源価格の上昇となって先進各国におけるインフレを招いていて、我が国の消費者物価指数(CPI)上昇率も、3月統計までは携帯電話料金の引下げによって低い水準を維持すると見られるものの、その効果が剥落する4月統計からは+2%に達し、「22年中は2%前後の推移が続く」と、ニッセイ基礎研のリポートでは予測しています。ただし、コロナの感染拡大が落ち着きを取り戻せば、資源価格の上昇はコストプッシュによる物価上昇につながるとはいえ、そのインパクトは産業や企業ごとに異なるわけですし、コストの上昇を抑え込むのか、それとも、消費税率の引上げの時のように製品価格へのスムーズな転嫁を図るのか、といった対応策によっても左右されます。何度も繰り返しているように、私はコストプッシュによる価格上昇を抑え込もうとするのではなく、価格上昇を受け入れられるような企業売上や家計所得の増加を目指す政策が必要と考えますが、現在の岸田内閣の方向感は違っているようです。加えて、化石燃料価格の上昇は2050年カーボン・ニュートラルにとっては大きなチャンスとなる可能性もあります。例えば、先週3月23日の経済財政諮問会議には有識者議員から「現下のエネルギー価格上昇を脱炭素社会構築に向けた突破口に」と題するメモが提出されています。化石燃料価格を引き下げるために企業に補助金を出すような政策は大きな疑問が残ります。
下のグラフは業況判断DIの推移を日本総研のリポートから引用しています。

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2022年3月27日 (日)

ルーキー桐敷投手の好投に打線の援護なく開幕は3連敗スタート!!!

  RHE
ヤクルト010002100 4100
阪  神000000000 050

先発のルーキー桐敷投手が5回まで1失点に抑えながら、打線の援護なくヤクルトに3タテされました。開幕3連敗スタートです。
開幕戦の猛虎打線爆発は何だったのか、単なるまぐれ当たりだったのか、と思わせるゼロ行進で、2試合連続の完封負けでした。昨日の小川一平投手も、今日のルーキー桐敷投手も、先発の若手投手はそれなりによく投げましたが、開幕戦の逆転負けが采配に影響して継投が遅れ、プロの経験少ない投手を6回まで投げさせて、逆に、傷を深めているような気がします。
まあ、打線は昨シーズンから戦力アップはまったくなく、投手陣はクローザーのスアレス投手が抜けて、さらに、首脳陣は開幕前から矢野監督が今季限りで退陣表明、ということでしたから、今シーズンは苦しいんでしょうね。

次の広島戦は、
がんばれタイガース!

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2022年3月26日 (土)

小川一平投手の好投にもかかわらず打線が沈黙してヤクルトに連敗!!!

  RHE
ヤクルト000004002 680
阪  神000000000 020

先発小川投手が5回まで無失点に抑えながら、打線が沈黙してヤクルトにボロ負けでした。
何だか、昨日の逆転負けは捕手のせいと言わんばかりに、先発マスクは梅野捕手からキャプテン坂本捕手に交代です。それにしても、今日も終盤にリリーフ陣が失点して投手陣は6点を取られましたが、問題は打線です。昨夜は序盤から得点を重ねましたが、サウスポーが出てきた今日はサッパリでした。どう考えても、2安打では勝てません

明日は打線の奮起を期待して、
がんばれタイガース!

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今週の読書はやや残念な経済書と新書3冊の計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
経済書が1冊と新書が3冊です。経済書は岩田規久男『資本主義経済の未来』(夕日書房)であり、日銀副総裁まで務めたエコノミストによるもので、資本主義の未来について書き始めて、半ばに達するまでに違う方向、著者の従来からの主張に大きくスライスしてしまっています。OBゾーンに落ちたかどうかは際どいところかもしれませんが、やや残念な仕上がりになっています。新書3冊は、まず、岡本裕一朗『アメリカ現代思想の教室』(PHP新書)は、ロールズのリベラルに始まる米国の現代思想に関する教養書であり、若松英輔・山本芳久『危機の神学』(文春新書)では、コロナ危機にある世界におけるキリスト教、特に、カトリックのあり方について、フランシスコ法王の登場を絡めて、2人のカトリック信者が対談しています。そして、最後に、林恭子『ひきこもりの真実』(ちくま新書)は、ひきこもりに関する真実の姿、何が必要か、を明らかにしよう試みています。

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まず、岩田規久男『資本主義経済の未来』(夕日書房) です。著者は、日銀副総裁も務めたリフレ派のエコノミストです。本書は、私のこのブログの読書感想文で昨年2021年9月4日に取り上げた『「日本型格差社会」からの脱出』(光文社新書)の姉妹編と位置づけられているようですが、本書は索引や参考文献を含めると500ページになんなんとする大作です。ただし、タイトル通りなのは3章までであり、4章以降は金融政策とバブル、あるいは、従来からのいわゆる白かった時代の日銀批判などですから、この読書感想文では、タイトルに即して第3章までの資本主義の未来について私は論じたいと思います。というのは、本書の冒頭では成長と分配のトレードオフを論じようとしているのですが、明らかに失敗しています。多くのエコノミストと同じで、著者も厚生経済学の第1定理を基に、競争的な市場均衡の最適性を疑うことなく前提して議論を進めています。私はこの市場における価格付けに大きな疑問を持っています。もちろん、独占や外部経済などのいわゆる市場の昔から失敗は広く論じられてきたところであり、情報の非対称性もまた同じです。ただ、気候変動問題=地球環境問題がクローズアップされてきたことから、超長期の資源配分に市場価格は適さないことが明らかになりましたし、宇沢教授のシャドウ・プライスのように、市場価格が大きく歪んでいる可能性は忘れるべきではありません。ですから、第1に、競争的な市場価格が最適な資源配分を保証するというのは、かなり幻想に近いと考えるべきです。第2に、経済学が科学として極めて未熟であるひとつの要因として、私は通常の科学とは逆の思考に走っている点を指摘したいと思います。すなわち、通常は観察された現実に即してモデルを修正するのですが、経済学ではモデルに即して経済政策により現実の方をカッコ付きの「改革」しようとします。例えば宇宙物理学であれば、宇宙の現実に即してモデルを変更するわけで、その他の自然科学もガンとして存在する自然にモデルの方を合わせようとします。当然です。しかし、経済学は競争的な市場価格が最適な資源配分をもたらすことから、現実の経済を競争的で政府の介入ない市場にしようと試みます。本書でも著者は盛んに「規制緩和」の必要性を強調するのですが、まさにこれです。そして、GAFAなどのプラットフォーム企業を規制して、いかに市場価格を是正するかは「難しい」で終わっていて、このところ広く報じられているEUの「デジタルサービス法案」のような発想はありません。第3に、格差に対する考えがここまで反動右派的だと、私の考えとは相容れません。左派リベラルの私のようなエコノミストから考えて、自由を行使できるためにはそれ相応の所得や教育が必要なのですから、平等とはあくまで結果の平等であるべきなのですが、本書の著者はあくまで機会の平等しか考えません。私は国民が自由を行使できるためには、十分な所得の下で時間的な余裕があり、可能な範囲で、大学教育をまで受けるべきであると考えます。かなり昔の昭和のころに義務教育ではないにもかかわらず、実質的に高校までの中等教育がデファクト・スタンダードになったのとまったく同じで、大学教育という高等教育を可能な範囲で受けることが自由のためには好ましいと私は考えますし、衣食住が十分保証されるだけではなく、パソコンではないとしてもスマートフォンかタブレットによってインターネットから必要な情報を引き出せないと自由の行使、あるいは、社会的な最低限の生活に支障をきたす可能性すらあります。こういった点を十分考えることなく、右派的な経済学を振り回して資本主義が最終的な経済システムである、と論証するのはもうヤメにすべきではないでしょうか?

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次に、岡本裕一朗『アメリカ現代思想の教室』(PHP新書) です。著者は、玉川大学の名誉教授であり、専門は西洋近現代哲学です。冒頭で、トランプ米国大統領の当選あたりから米国思想史の流れが変化したと指摘しています。もちろん、伝統的でマスなメディアからSNSなどへ情報がシフトしたことも相まって、いわゆるポリティカル・コレクトネス(PC)を無視して本音をあからさまにする情報が流れ始めたため、PCの基礎となった建前的なリベラルないし、左派的なリベラルの思想が後退した感があるわけです。こういった事情を背景にして、本書の第1部では米国の現代思想史をおさらいします。すなわち、ヒッピーやベトナム戦争反対などの基盤をなした1970年代くらいからのロールズ的なリベラル、すなわち、再分配を是とするリベラルを明らかにするとともに、そのリベラルに対するノージックらのリバタリアンからの批判、さらに、サンデルやテイラーらのコミュニタリアンからの批判を対置させ、さらに、1980年代以降のローティらのネオプラグマティズムも含んで解説をしています。そして、第2部ではデモクラシーを考えます。すなわち、ソ連の崩壊とともにフクヤマが提唱した歴史の終わりなのか、あるいは、ハンチントンの考える文明の衝突なのか、また、リバタリアニズムから生まれ、ロールズ的なリベラリズムとは真逆のネオリベラリズムといった右派思想が展開するとともに、逆に、左派では加速主義のような社会主義が若い層に広まり受容される、といった動きにも着目します。私は従来からトランプ旋風とはPCに対するカウンターであって、行き過ぎたPCへの否定から生じているという主張でしたし、誠に本書の立論がよく理解できます。例えば、本書でも指摘されている通り、宗教色があるからといって、「メリー・クリスマス」という表現を否定するのは行き過ぎと私も考えます。いずれにせよ、私はエコノミストとして成長と分配のあり方に興味を持っていて、リベラル、特にロールズ的な左派リベラルは、デモクラシーの基礎として分配を重視します。儒教的な表現でも「恒産なくして恒心なし」というのがありますが、生活に余裕がないと民主主義的な活動への参加もできません。しかし、長らく経済学では成長と分配はトレード・オフの関係にあるとされていました。ですから、今の岸田総理も就任時にはアベノミクスの成長重視から分配重視に舵を切ると明言していました。それが実践されているかどうかはいささか疑問ですが、分配を重視するためには成長を犠牲にする必要もあると考えられていたわけです。しかし、現在では、消費性向の低い富裕層から消費性向の高い貧困層に所得を移転すれば、短期的なりとも成長を加速することができると考えられています。その意味でも、分配を志向する現代思想を私はエコノミストとして、同時に、1人の人間として支持します。なお、誠についでながら、昨年2021年最後の読書感想文、12月30日付けのブログで同じ出版社のPHP新書の倉山満『ウルトラマンの伝言』を取り上げて、まったく本書とジャンルは異なるのですが、ウルトラマン本として絶賛しています。そして、本書も米国現代思想、特にリベラルからの思想史的な解説書として、とてもいい出来だと思います。この2冊のPHP新書はオススメです。

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次に、若松英輔・山本芳久『危機の神学』(文春新書) です。著者は、慶応大学と東京大学の研究者であり、2人ともカトリックのクリスチャンです。まず、「危機の神学」とは、私のような門外漢でもバルトの提起した概念であると知っていますが、本書ではホンのチョッピリと触れられているに過ぎません。また、本書でいうところの、というか、タイトルになっている「危機」は基本的にはコロナ禍と考えるべきで、サブタイトルの「無関心というパンデミック」は本書を読んでなお私には不明です。ということで、コロナ前の2013年ですが、カトリック界、あるいは、プロテスタントやギリシア聖教も含めてクリスチャンの間で大きな転換点とされるのが、現在のフランシスコ法王の就任です。かばんを持って公共交通機関で移動し、貧困層や恵まれない人々に大いなる愛を届けようとしています。そしてそのフランシスコ法王とともに、キリスト者がいかにあるべきかを本書では2人の対談により明らかにしようと試みています。宗教的に、というか、狭義キリスト教的に重要なポイントは、本書だけではなく、祈りと愛なのですが、私のような仏教徒にはいささか理解が異なる面もあります。すなわち、祈りとは信徒から神へのメッセージであり、願いという意味で私は考えています。信徒が全知全能の超越者である神に対して「xxでありますように」ということを願うわけです。ひょっとしたら、キリスト教では違うのかもしれません。それに対して、愛とはその神から信徒に対して示されるものです。「アガペー」ということであり、神から信徒に向けられた愛と信徒の間の愛とは別物であろうと私は考えています。そして、本書でも明確に否定されていますが、現状のコロナ禍という危機は「天罰」ではありません。神が信徒に対して与えた裁きではあり得ません。この危機を乗り越えるのは信徒と神の共同作業なのかもしれない、と私なんぞは考えてしまいます。ただ、私はキリスト者ではない一般ピープルの日本人ですので、神を超越的な存在とは必ずしも考えていません。少なくとも、一行門徒である私から見て、神に近い阿弥陀仏は死後の極楽浄土を約束して下さるだけであって、それ以外の幸福や学業成就・病気平癒、ましてや、金儲けなどを願うべき相手ではありません。特に阿弥陀仏に関しては一芸に秀でているだけであって、そこまでの普遍的一般的な利益を与えてくれる存在ではないわけです。ですから、仏だけでなく、古典古代からの日本の神々は分業が成立していて、学業成就の神さま、商売繁盛の神さま、縁結びの神さま、などなどが並立しているわけです。しかし、キリスト教においては、特にカトリックでは神は全知全能な超越者ですから、神学というものがクローズアップされます。日本や中国では仏教は、というか、仏教という教えが真理の体系であって、仏が全知全能であるというわけではありません。キリスト教の教会と仏教の寺院はまったく別の宗教的な存在です。そのあたりを考えつつ読み進んだつもりですが、やっぱり、私には難しすぎたかもしれません。

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最後に、林恭子『ひきこもりの真実』(ちくま新書) です。著者は、ひきこもり経験者で、現在は当事者活動に従事しています。本書を読んでいて、私がやや不明だったのは、世間、ないし、本書の著者がひきこもりについてどう考えているのか、ということです。もしも、個性のひとつ、ということであれば、特段のトリートメントは必要ありません。しかし、何らかの異常ないし矯正あるいは変更すべき要素を含んでいる、ということなのでしょうか。極めて極端な例ながら、異常ということであれば病気や怪我を含みますし、矯正ないし変更すべきということになれば、実に極端ながら犯罪行為も一例です。実は、私は人間とは社会をなして生産するものではないか、と考えており、出来れば生産に参加して欲しい、あるいは、そのための準備活動をして欲しい、そして、それは孤立した生産活動ではなく、社会的な分業の中のひとつであって欲しい、と考えています。余りにすべてに「欲しい」がついているには、私の願望だからです。従って、ひきこもりは個性のひとつであって、異常ではないし、特に矯正や変更すべき要素を含んでいるわけではない、と受け止めています。ただ、私も社会的な分業の一角を担う生産に参加して欲しいですし、それは変更を必要とはしないものの、出来れば変更した方がいいかもしれない、というパターナリスティックな思いを含んでいることも事実です。もうひとつ、実は、社会的な分業の一角を担う生産に従事すると収入が得られるわけで、多くのエコノミストが考えるように経済的な満足のもととなる消費の原資なのですが、ひきこもりは所得を得る活動ではありません。ただ、ユニバーサルなベーシックインカムがあれば、あるいは、私ももうすぐですが、年金を受給できるようになれば生産に従事しなくても所得は得られます。ですから、私は出来れば生産に従事して欲しいと思いつつ、ひきこもりを社会の一員として、言葉は乱暴かもしれませんが、「許容」できる、あるいは、受け入れることができる寛容な社会を目指すべきではないか、と思っています。

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2022年3月25日 (金)

開幕戦は後半に投手陣が崩れてヤクルトに逆転負け!!!

  RHE
ヤクルト100001143 10151
阪  神013400000 8150

今シーズンの開幕戦は、先発藤浪投手が7回3失点で降板した後、リリーフ陣が崩れてヤクルトに逆転負けでした。
3回と4回には猛虎打線の集中打で8-1として、藤浪投手が5回までを抑えて勝利投手の権利を確保した時点で、私は悠然とお風呂に向かいましたが、何と、長風呂を終えると阪神は逆転されて開幕戦を落としてしまいました。しかし、5回以降沈黙したとはいえ、序盤からヤクルト先発のライアン小川投手を打ち崩した猛虎打線はホンモノだと思いますし、何といっても佐藤輝選手が4番の重任を果たせることが明らかになりました。開幕の先発を任された藤浪投手は今年こそ復調の予感がします。

明日は雪辱目指して、
がんばれタイガース!

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2月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は順調にプラスを続ける!!!

本日、日銀から2月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除く平均も+0.9%の上昇を示しています。国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

2月の企業向けサービス価格、前年比1.1%上昇 前月比0.1%上昇
日銀が25日発表した2月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.7で、前年同月比で1.1%上昇、前月比では0.1%上昇した。

極端なまでにコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年4月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+1.0%の上昇となった後、本日公表された今年2022年2月統計まで11か月連続で+1%以上の上昇率を続けています。前年同月比プラスも2021年3月から12か月連続です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが要因と私は考えています。もちろん、ウクライナ危機の影響もあります。もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく2月統計のヘッドライン上昇率+1.1%への寄与度で見ると、土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+0.36%、石油価格の影響が強い運輸・郵便が+0.35%、景気に敏感なテレビ広告をはじめとする広告が+0.16%、などとなっています。また、前年同月比上昇率でも、特に、広告はテレビ広告の+5.9%やインターネット広告の+4.5%をはじめとして、広告全体で+3.2%の上昇を示していますし、運輸・郵便も+2.3%と大きく上昇しています。広告の上昇率が高いのは、景気に敏感なためなのか、それとも、北京オリンピック・パラリンピックの影響なのか、私には判りかねます。諸サービスの+1.0%の中の宿泊サービスが+14.7%の上昇率を示しているのは、まん延防止等重点措置の期間中ではあったものの、日経新聞では「関東圏を中心にビジネス利用が拡大したことなどが要因」と報じています。要するに、資源価格のコストプッシュだけでなく、需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

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2022年3月24日 (木)

リクルートによる2月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日の29日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる2月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、停滞感ありながら底堅い印象で、前年同月比で見て、1月+0.9%増の後、2月は+1.3%増となっています。ただし、昨年2020年9月に+2.6%増を記録してから、1年半ほど連続で伸び率が+2.0%を下回っています。他方、派遣スタッフの方は昨年2020年5月以降のデータが跳ねていたのですが、今年2021年5月からはそのリバウンドで元に戻っています。その後、昨年2021年12月にはとうとう▲0.5%減とマイナスになった後、今年2022年1月▲1.9%減、2月▲2.3%減とマイナス幅を拡大しています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、2月には+1.3%を記録しています。人手不足がメディアで盛んに報じられていた一昨年2019年暮れから昨年2020年1~3月期のコロナ初期の+3%を超える伸び率から比べるとかなり低下してきているのが実感です。三大都市圏の2月度平均時給は前年同月より+1.3%、+14円増加の1,106円を記録しています。職種別では「営業系」(+120円、+9.2%)、「事務系」(+50円、+4.4%)、「フード系」(+38円、+3.7%)、「販売・サービス系」(+21円、+2.0%)、「専門職系」(+19円、+1.6%)、「製造・物流・清掃系」(+17円、+1.6%)、とすべての職種で増加を示しています。地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、2月は▲39円減少し、伸び率も▲2.3%減を記録しました。職種別では、「オフィスワーク系」(+68円、+4.5%)、「医療介護・教育系」(+47円、+3.2%)、「営業・販売・サービス系」(+27円、+1.9%)、「クリエイティブ系」(+8円、+0.4%)はプラスを記録した一方で、「IT・技術系」(▲25円、▲1.2%)だけが小幅なマイナスとなっています。派遣スタッフの5つのカテゴリを詳しく見ると、確かに、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高いのは事実なのですが、「IT・技術系」の時給が前年同月比で▲25円にとどまっている一方で、合計した派遣スタッフ全体の減少幅が▲39円であるのは、何とも私には理解できません。あるいは、何らかのバグがプログラムに入っている可能性すら疑わせますし、このデータの正確性にすら疑問が生じかねません。特に、派遣スタッフの方のデータはパート・アルバイトと違って地域別でも関東・東海・関西の3地域ともにマイナスを記録しています。

統計としての正確性は別に考えるとして、派遣スタッフはすでに時給上昇率がマイナスに転じ、アルバイト・パートも時給はジワジワと上昇幅を縮小し、やや停滞し始めた気がします。2月のデータですので、まだウクライナ危機の影響は現れているとは考えられず、しかも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響もピークを超えたように見えることから、もう少し上向いてもいいような気がして、物足りなさが残るのも事実です。雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないとはいえ、人口動態から見た人手不足も解消されているわけではありません。それにもかかわらず、非正規雇用の賃金動向がやや停滞しているのは、私には謎です。

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2022年3月23日 (水)

インテージによる2022年のお花見に関する意識と行動の調査結果やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週3月16日にインテージから2022年のお花見に関する意識と行動の調査の結果が明らかにされています。今年2022年のお花見市場規模は前年比142%、1,076億円と予測されています。まず、インテージのサイトから【ポイント】を4点引用すると以下の通りです。

【ポイント】
  • 2022年のお花見、「予定・意向あり」は29.4%。2021年に「お花見した」人(28.7%)と同水準。15~29歳、30~59歳のお花見意向は増加するも60~79歳は減少傾向
  • お花見するなら「昼間に近場の桜が咲いているところ」が75.2%。次いで「昼間に近場の桜の名所」が28.0%。旅行やドライブも昨年より増加するも微増に留まる
  • 近場のお花見のお相手は家族(夫・妻・子ども)。「友人・知人」が増え、「おひとり」は減少へ
  • お花見に使った金額、2020年は2,924円、2021年は2,711円と3,000円を下回るも、今年の想定予算は3,751円と約1,000円アップ。推定市場規模は1,076億円と前年比141.7%と増加を予測

一昨日に続いてお花見の話題ですが、季節のトピックとして気にかかるところであり、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはインテージのサイトから お花見の意向 についての結果を引用しています。調査実施時期は今年2022年3月1日(火)から3月3日(木)で、広く報じられている通り、まん延防止等重点措置が全国的に解除されたのが今日からですが、まあ、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型の変異株の感染拡大も峠を超えそうな時期でしたから、今年は60歳以上層だけを例外として、60歳未満層ではお花見の意向が高まっている、という結果が示されています。逆に、お花見の意向も最低だった昨年2021年に東京オリンピック・パラリンピックを強行開催した失政が問われるべきかもしれません。ただし、グラフは引用しませんが、お花見に行こうという意向を有している回答者の75.2%が「昼間に近場の桜が咲いている場所」と回答しており、昨年から+5%ポイントほど増加している一方で、「昼間に近場の『桜の名所』」との回答は昨年から増加しているものの、まだ30%足らずにとどまっています。我が家が新婚生活を始めて子供が出来たのは杉並区の善福寺川沿いだったのですが、そのあたりもそれなりにサクラはありましたが、井の頭公園まで電車に乗って花見に行った記憶があります。おそらく、私のイメージとしては、「昼間に近場の桜が咲いている場所」が善福寺川沿いで、「昼間に近場の『桜の名所』」が井の頭公園、ということになるのですが、前者がまだかなり多い、ということなのでしょう。

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次に、エコノミストとして気になる花見での出費なのですが、上のグラフはインテージのサイトから お花見に使った/使う予定の金額 についての結果を引用しています。今シーズンに「お花見の予定・意向あり」という人が想定している金額は3,751円と去年から伸び率では+38.4%、増加額では+1,000円超の増加です。インテージでは、この調査結果から「お花見市場規模」について、2020年は910億円、2021年は759億円(前年比▲16.6%減)、そして、2022年の見込みは1,076億円(前年比+41.7%増)との推計結果を明らかにしています。もっとも、3月17日付けでウェザーニューズでもお花見調査の結果を明らかにしていて、コチラでは2021年987円から2022年1,111円と単価で+12.6%増となっています。やや単価に開きがあり、なんとも評価の難しいところです。

私は昨年2021年は大学の同僚教員の自動車に乗せてもらって瀬田川を下り、叶匠壽庵の寿長生の郷に梅の花見に行ったのですが、このところ、COVID-19パンデミックの前から長らくサクラの花見には行っていないような気がします。ひょっとしたら、GDPの成長に寄与していないのかもしれません。

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2022年3月22日 (火)

大学院学位授与式の写真

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大学院学位授与式の写真を1枚だけアップしておきます。

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今日は大学の卒業式と学位授与式!!!

今日は、私の勤務する大学の卒業式・学位授与式です。
留学生向けなどで上期終了時にも小規模な卒業式・学位授与式があるのですが、やっぱり、3月の卒業式は規模も違いますし格別です。私はまだ着任2年で学部ゼミ生の卒業生を出すのは来年からですが、論文指導した大学院の卒業生がいたりします。まあ、年間でも数少ないネクタイを締める機会かもしれません。公務員の時は、こういった節目の行事がまったくなかったもので新鮮な気分です。式典は午後からです。後ほど、写真をアップするかもしれませんが、アップしないかもしれませんので、取りあえずポストしておきます。

ご卒業おめでとうございます。

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2022年3月21日 (月)

ウェザーニューズによる桜開花予想2022やいかに?

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一昨日の3月19日、ウェザーニューズから桜開花予想2022が明らかにされています。3月17日には福岡で開花が始まり、今週あたりから開花ラッシュが始まるようです。昨年暮れに雪国に引越してきて冬の寒さに凍えていましたが、そろそろ春の訪れが近いようです。

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2022年3月20日 (日)

下の倅の巣立ちの記念!!!

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いよいよ、我が家の子育ての大きな節目で、昨日、下の倅が大学の卒業式を終え、今日から新たな勤め先の用意してくれた借上げ独身寮に引越します。カミさんはイソイソと引越の手伝いにここ何日か通っています。私は留守番です。
まあ、子育てがどこで終わるかには、いろいろな議論があるのでしょうが、現在の日本では、いくら早くても成人を迎え高校を卒業するまでは親の責任が大きいといえますし、我が家の現状のように大学卒業と社会人として勤め人になるのも大きな節目です。いわゆる「月給取り」になるわけですから、親からの仕送りは不要となり、携帯電話も本人の契約に変更しています。もちろん、結婚して戸籍から抜けるというのも、日本の役所的には最終的な独立といえそうな気もします。

いずれにせよ、役所を定年退職して、すでに、セカンド・キャリアに入っている親の方はどっぷりと日が暮れているのでしょうが、我が家の子供たちは日の出の勢いで前途洋々であれと願っています。

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2022年3月19日 (土)

オープン戦ながら阪神は7連勝と好調を維持!!!

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オリックス100001000 280
阪  神00310000x 471

投手陣が安定して、オープン戦ながらタイガース7連勝でした。
3回の集中打で3点、4回は江越選手の快足で1点、と打線は順調な仕上がりです。そして、投手陣はそれ以上に順調な仕上がりで、昨日の藤浪投手はまずまずのピッチングだったようですし、今日の小川投手も先発して6回2失点のQEでした。この2投手が来週の開幕ヤクルト戦の第1戦と第2戦の先発を務めるらしいですので、とても楽しみです。思い起こせば、昨年の開幕ヤクルト3連戦は3連勝でシーズンをスタートしていました。今年もがんばって欲しいと思います。

今年こそ優勝目指して、
がんばれタイガース!

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今週の読書は環境ビジネスの本をはじめとして計4冊!!!

今週の読書は4冊で、読書感想文は以下の通りです。
1冊目の吉高まり・小林光『GREEN BUSINESS』(木楽舎)は国連SDGsの中心となる環境ビジネスについての大学の講義を中心に構成しています。ただ、私は環境ビジネスや経済的な環境問題の解決にはかなり大きな疑問を持っています。2冊めの佐藤究『テスカトリポカ』(角川書店)は、第165回直木賞受賞作品の話題作です。3冊めの周防柳『身もこがれつつ』(中央公論新社)は私が大いに注目している古典古代を舞台とした時代小説であり、藤原定家を主人公に「小倉百人一首」の選定もテーマのひとつにしています。最後の4冊目のまさきとしか『あの日、君は何をした』(小学館文庫)は歪んだ親子関係を中心に据えたミステリですが、母親以上のとんでもない「モンスター」が隠れています。
なお、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の4冊を含めて計42冊となっています。ややスローペースです。

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まず、吉高まり・小林光『GREEN BUSINESS』(木楽舎) です。著者は、環境ビジネスの実践者としての起業家と環境省事務次官ご出身の研究者です。環境分野についてはSDGsの中でも中心に位置すべき課題なのですが、基本的に、企業ではコストセクターとして認識されています。私の知り合いなんかが勤務している金融機関の調査部門が、直接の稼ぎはなくてコストセクターといえるものの、それなりに企業の稼ぎに貢献しているのとは異なっています。すなわち、市場における価格メカニズムでは私的なコストしか考慮されず、環境という長期かつ自然を相手にした社会的コストは反映されないわけです。ですから、省エネとかでコストカットになる企業行動は奨励される一方で、コストをかけて環境を維持ないし改善しようとする企業活動は、レピュテーションの維持改善との見合いでしか評価されません。ですから、本書で取り上げられている環境ビジネスとは、こういった環境コストをいかにして企業に強いるかというコンサル活動が中心に据えられています。コンプライアンスとか、レピュテーションとかで企業に圧力をかけつつ、環境ビジネスを展開するというわけです。私はここに大きな市場経済の限界を見てしまいます。主流派エコノミストの目から見れば、コストとベネフィットの見合いで合理的な個人や企業は行動します。例えば、駐車料金が7000円である一方で、駐車違反の反則金が5000円であれば、後者の方が割安である限り駐車場には駐めずに駐車違反するだろうと考えるわけです。もちろん、この交通反則行為で免停や免許取り消しになるという限界的な効果があれば話は別です。しかしながら、環境負荷に関しては超長期的には人類の存続が不可能になる可能性が十分あり、カタストロフィックな転換点があると考えるべきです。そして、超長期的な資源配分については市場では評価できません。ですから、経済的なインセンティブでは環境問題は、特に超長期的な環境問題は解決できないと考えるべきです。環境はビジネスにはなりえない、というのが私の基本的な考えです。ただし、いかなる場合でも初期には、こういった指南ビジネス、コンサルがビジネスとして成り立ってしまいます。多くの一般大衆の理解が進んでいないからです。まあ、専門的な知識ある人が理解が浅いグループに情報を伝授するのは、私の属する教育の世界をはじめとしていっぱいあって、永遠にコンサルのビジネルは続くわけですが、ただ、本書を読んで、環境はビジネスではなくコンプライアンスとして強制力を持って環境の維持改善がなされるべきであるという結論が得られると思います。

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次に、佐藤究『テスカトリポカ』(角川書店) です。著者は、ミステリ作家であり、本書は第165回直木賞受賞作品です。550ページを超える大作であり、出版社も特設サイトを開設していたりする話題作です。何と申しましょうかで、私なんぞの一般ピープルには極めて特異で小説でしかお目にかかれない世界です。メキシコの薬物の世界と日本の反社の世界、さらに、インドネシアの闇社会が手を結んで、薬物にとどまらない臓器ビジネスまで展開されています。登場人物が極めて多岐に渡って、しかも、多様でありながら、人物造形がとてもクリアで判りやすくなっています。エコノミストは人間は損得勘定で動くと考えていますが、そういった理性的な判断に基づく行動ではなく、感情的な衝動に任せて破壊的行動を取る人物、さらに、それを暴力と利得の両方からコントロールしようとする人物、さらに、そういった反社会的な犯罪組織が薬物中毒者も巻き込みつつ、巨大は組織を形成して行く経緯、などなど、クライム小説としての大きな要素をいくつか含みながらストーリが展開していきます。神聖ローマ帝国の分割のような4兄弟のカルテル運営などの家族=familiaについての考え方、あるいは、カトリック以前のメキシコにおけるアステカ神の信仰、さらに、それらの要素をひとつにまとめる日本という土地柄、などなど色んな要素を含んで、何ともいえません。私は公務員から教員という極めて何の変哲もないながら、いわば、表社会をつつがなく生きてきた一般ピープルなもので、この読書に際しては、世間的な評判を基にした読書前の「怖いもの見たさ」的な部分もありました。どこまでリアリティを感じるかは読者にもよると思います。

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次に、周防柳『身もこがれつつ』(中央公論新社) です。著者は、もちろん、小説家なんですが、私は2017年刊行の『蘇我の娘の古事記』から古典古代に時代小説家として注目しています。不勉強にして、この作家の現代小説は読んだことがありません。ということで、この作品はタイトルや表紙画像からも理解されるように、同じ作者の『逢坂の六人』にも通ずる和歌の世界を舞台にしています。主人公は「小倉百人一首」の編集で現代人の人口にも膾炙している藤原定家です。そして、親友の藤原家隆と後鳥羽上皇との3人が主要な登場人物となり、何と、ラブストーリーなのですが、この男3人でラブストーリーが展開されます。男3人の三角関係なわけで、とても複雑です。もちろん、百人一首の選定過程も織り込まれています。しかし、物語のクライマックスは恋の鞘当てではなく、1221年の承久の乱となります。小説とはいえ歴史的な事実は動かし難く、鎌倉幕府軍にアッサリと破れた朝廷側は、後鳥羽上皇は隠岐島の、そして、順徳上皇は佐渡島に、それぞれ配流されます。そして、藤原定家は後鳥羽上皇とは距離を置いて嵯峨野小倉山山荘に蟄居し難を逃れます。時々の藤原定家の心情や行動が極めてつまびらかに明らかにされ、それでも、古歌に基礎をおいて歌論を展開し、かつ、自信も秀歌を詠む藤原定家の人物像をよく表現しています。なお、本書は昨年7月の出版ですが、百人一首のシーズンであるお正月の前に読んでおけばよかった、と後悔しています。

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最後に、まさきとしか『あの日、君は何をした』(小学館文庫) です。著者は、『完璧な母親』で歪んだ親子関係を基にした小説で話題になりました。本書は、一昨年2020年7月に文庫で出版されていて、この読書感想文は1年半くらい前までは新刊書読書としてOKと考えていますので、許容範囲としてギリギリかもしれません。ということで、本書もやや歪んだ親子関係、家族関係を基にしたミステリとなっています。第1部で15年前の殺人事件が取り上げられ、犯人と間違えられて逃走した卒業直前の中学生が自転車でトラックに衝突して死亡するという事件、そして、精神的に壊れてゆく母親が描き出され、第2部では若い会社員の女性が殺さた事件で、不倫相手の疾走が、そして、その失踪した不倫相手の妻の無関心と母親の必死の捜索が注目されます。この第1部と第2部で、パッと見では登場人物が重ならないのですが、それも含めて大きな謎が解き明かされます。小説を通じて「モンスター」だと考えられていた第1部の母親なのですが、じつは、さらに巨大な「モンスター」がいた、という手の込んだストーリに仕上がっていて、ミステリファンとしてはとても楽しめますが、逆に、歪んだ親子関係とか隠されたモンスターの存在とか、読後感はそれほどいいわけではありません。「驚愕のラスト」という出版社の謳い文句がまずまずよく当てはまる気がします。

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2022年3月18日 (金)

6か月連続で上昇する消費者物価指数(CPI)はどう考えるべきか?

本日、総務省統計局から2月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+0.2%を記録しています。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲1.1%と下落しています。コチラは、2021年4月から10か月連続のマイナスです。逆に、エネルギーを含めたヘッドラインCPIは+0.9%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の全国消費者物価、0.6%上昇 上昇は6カ月連続
総務省が18日発表した2月の全国消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が100.5と前年同月比0.6%上昇した。上昇は6カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.6%上昇だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合のCPIは99.2と、1.0%下落した。生鮮食品を含む総合は0.9%上昇した。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+0.6%の予想でしたので、ジャストミートしたといえます。基本的に、エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落の差し引きで決まってきている部分が大きく、加えて、これも政策要因ながら、昨年2021年12月統計までは「GoToトラベル」事業停止によって宿泊料の上昇がありましたが、今年1月統計からはこの効果は剥落しています。第1要因のエネルギー価格が前年同月比で+20.5%の上昇を記録して、ヘッドラインCPIの上昇率に対して+1.41%の寄与を示している一方で、マイナス寄与の項目を見ると、第2要因の通信料(携帯電話)が前年同月比▲53.6%の下落で、▲1.48%の寄与となっています。ついでに、第3要因の宿泊料は2021年12月統計では+44.0%の上昇でヘッドラインCPI上昇率に対して+0.29%の寄与度でしたが、本日公表の2月統計では上昇率が+6.0%、寄与度が+0.05%に大きく縮小しています。要するに、エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落のバランスで、寄与度だけを見ると携帯電話通信料の方が絶対値で大きいのですが、エネルギー価格の上昇が経済全体に波及して、さらに、人手不足の影響などもあって、全体としてのコアCPI上昇率としてはプラスという結果となったと私は受け止めています。特に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大で懸念されるサービス業の価格動向についてもマイナスに寄与しているのでしょうが、上のグラフでサービスのマイナス寄与が大きく見えるのは、携帯電話通信料の影響が大きいと私は受け止めています。それにしても日本以外の欧米先進国では、かなりインフレが進んでいます。例えば、総務省統計局の「消費者物価指数」の月報参考表で1~2月の最新月の消費者物価上昇率を見ると、米国が+7.9%、カナダが+5.1%、英国が+5.5%、ドイツが+5.5%、フランスでも+2.9%となっています。米国で金融政策が引締めモードに入ったのも理解できるところです。他方、我が国だけはまだヘッドラインCPI上昇率で+0.9%と+1%にも達していません。日銀も苦労しているところなのでしょう。

いつもこのブログで主張しているところですが、国民生活をより豊かにするためには、より多くの消費財を家計に届けることが必要になるわけです。所得が分子で物価が分母に来ますので、所得を増やすか、物価を下げるかという選択になるわけですが、ここ20年超の我が国の経験からして物価下落のデフレは経済全体の成長を阻害して好ましくないという結果が明らかにされています。ですから、経済政策としては所得を増加させる方向性が志向されるべきであると私は考えます。もちろん、短期的には「激変緩和」の観点から個別品目の価格据え置きや値上がり幅の圧縮を目指す政策も許容されるのでしょうが、物価下落の方向ではなく、所得増加が志向されるべきであることは強調したいと思います。政府が介入できる余地は限られていますが、賃上げも必要です。加えて、現下の物価上昇は石油や天然ガス(LNG)といった化石燃料の値上がりに起因しています。ですから、石油や天然ガスの値上がりについて、その値上がり幅を短期的に圧縮するのはいいとしても、こういった化石燃料の値上がりは炭素税の税率引上げと同じ効果を持ち気候変動や地球温暖化の抑制につながります。ですから、石油価格の値上がり幅を圧縮するために企業に補助金を出すのではなく、新しい価格体系に応じて消費財を購入できるように家計の所得をサポートする政策が必要です。

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2022年3月17日 (木)

基調判断が「持ち直している」で据え置かれた機械受注の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から1月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲2.0%減の8996億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を引用すると以下の通りです。

1月の機械受注、5カ月ぶり減少 電気機械などの反動減で
内閣府が17日発表した1月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比2.0%減の8996億円だった。減少は5カ月ぶり。民間予測(QUICKまとめ、中央値は2.2%減)に比べると減少幅は小さかった。製造業で前月に増加した電気機械や非鉄金属の反動減などが影響した。
内閣府は基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
製造業からの受注額(季調済み)は前月比4.8%減の4322億円と、3カ月ぶりに減少した。もっともマイナスに寄与したのは9.5%減の電気機械だった。原子力原動機の反動減が出た。非鉄金属は21.9%減とマイナスに転じた。自動車・同付属品などもマイナスだった。
非製造業からの受注額(季調済み、船舶・電力を除く)は前月比1.9%減の4529億円と2カ月ぶりに減少した。建設業は、建設機械の反動減により21.4%減となった。通信業は18.7%減となったほか、卸売業・小売業なども振るわなかった。
受注総額は前月比3.3%減と2カ月ぶりに減少した。外需は0.9%増、官公需は13.6%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は5.1%増だった。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で▲2.2%減の予想でした。従って、実績の▲2.0%減は、振れの大きい機械受注の統計としてはジャストミートといっていい結果だと私は受け止めています。従って、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を昨年2021年12月統計から上方改定された「持ち直している」に据え置いています。コア機械受注の季節調整済みの系列で見て、昨年2021年9月から12月まで4か月連続の前月比プラスを記録した後、本日公表の1月統計で5か月ぶりの前月比マイナスとなりましたが、上のグラフに見られる通り、単月のマイナスとしては小さく、後方移動平均のトレンドで見ても「持ち直している」の基調判断を支持していると考えるべきです。
詳細な業種別についてはともかく、マクロの方向性として、今後の機械受注の先行きについては基調判断ほど楽観的にはなれない、と私は考えています。当然ながら、考えるべきポイントは2点あり、第1に、好ましい点は3月21日をもってまん延防止等重点措置が全国的に解除される点です。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大抑制から経済回復に重点を置く政策変更がなされるわけで、消費などの拡大とともに内需からの設備投資需要もそれなりの盛り上がりを見せる可能性があります。ただし、第2に、外需は伸び悩みが予想されます。ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの混乱が何らかの形で生じる可能性がありますし、何よりも、米国の連邦準備制度理事会(FED)の金融政策が引き締めモードに入っていますから、為替は円安に振れているとはいえ、外需に基づく設備投資にはマイナスと考えるべきです。そして、定量的な根拠はありませんが、私の経験に基づく直感としては、後者の方の影響が大きそうに感じています。

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2022年3月16日 (水)

7か月連続の赤字が続く貿易収支はこの先どうなるのか?

本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+19.1%増の7兆1901億円、輸入額も+34.0%増の7兆8583億円、差引き貿易収支は▲6683億円の赤字となり、7か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を引用すると以下の通りです。

2月の貿易収支、6683億円の赤字
財務省が16日発表した2月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6683億円の赤字だった。赤字は7カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1125億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比19.1%増の7兆1901億円、輸入額は34.0%増の7兆8583億円だった。中国向け輸出額は25.8%増、輸入額は5.8%増だった。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1000億円を超える貿易赤字が見込まれていたものの、予想レンジの最大の貿易赤字としては▲4514億円でしたので、実績の▲6683億円の貿易赤字はそれにしても大きな貿易赤字という印象です。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年2月までの7か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、したがって、11か月連続となります。季節調整していない原系列の貿易赤字は▲6683億円なのですが、季節調整済みの系列では▲1兆314億円と、▲1兆円を超えています。もっとも、私の主張は従来通りであり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字はそれほど悲観する必要はない、と考えています。
2月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、すべて季節調整していない原系列の統計の前年同月比で、輸出では物流と部品供給の制約から自動車の輸出がやや停滞しています。すなわち、金額ベースで+8.3%増と1月のマイナスから回復したものの、数量ベースでは▲5.5%減となっています。為替の円安などの価格要因で輸出額が増加しているわけです。同じように、鉄鋼も金額ベースでは+45.5%増と大きく伸びましたが、数量ベースでは▲5.1%減となっています。輸入では、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油の輸入が大きく増加しています。これも前年同月比で見て数量ベースで+13.2%増に過ぎないにもかかわらず、金額ベースで+93.2%増に上っています。液化天然ガス(LNG)も数量ベースでは▲11.9%減であるにもかかわらず、金額ベースでは+65.3%増と大きく膨らんでいます。加えて、ワクチンを含む医薬品が急増しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+31.8%増ながら、金額ベースで+100.7%増と倍増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は極めて少数派ではないかと考えられます。国別では中国への輸出が急増しており、+25.8%増を記録しています。米国への輸出も+16.0%増と堅調です。中東からの輸入は急増しています。

繰り返しになりますが、2月の貿易統計の結果は、石油やワクチンの輸入増に起因する貿易赤字と私は受け止めています。少なくとも短期的には、こういった輸入の増加による貿易赤字は許容すべきと考えます。ただ、この先、ロシアのウクライナ侵攻に起因する経済的な影響が資源価格以外にどのような現れ方をするのか、サイバー攻撃の可能性も含めて、十分な注意が必要です。

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2022年3月15日 (火)

サイバー攻撃は増加しているのか?

トヨタが主要取引先である樹脂部品メーカーの小島プレス工業がサイバー攻撃を受けた影響で、グループ企業のダイハツや日野とともに3月1日に国内の全工場を停止したのは記憶に新しいところですが、本日、帝国データバンクから「サイバー攻撃に関する実態アンケート」の結果が明らかにされています。詳細を収録したpdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 企業の28.4%で、1カ月以内にサイバー攻撃を受けたと回答
  2. 企業規模により、1カ月以内のサイバー攻撃の有無に濃淡あり

話題のトピックであり、なかなか実態を知る機会もない分野ですので、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから サイバー攻撃の有無 のグラフを引用すると上の通りです。1年以内にサイバー攻撃を受けた企業は36.1%、1か月以内だと28.4%に上ります。個別の回答がいくつか紹介されていて、「不正メール受信が特にロシアのウクライナ侵攻後に多くなった」というのがありました。いかにも、という気もしますが、どこまでホントなのでしょうか。また、「自社を名乗るなりすましメールが10 数件客先へ行ってしまった」とか、「大手EC サイトや銀行、運送会社などを装った誘導メールや取引先を装ったスパムが届く」までがサイバー攻撃なのか、という気もします。誘導型のスパムが届いただけでサイバー攻撃と定義されるとすれば、私自身もサイバー攻撃を受けた、というか、毎日のようにサイバー攻撃を受けていることになります。こういったサイバー攻撃を含めると3か月以内に28.4%というのは少ない気がします。

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続いて、リポートから 1カ月以内にサイバー攻撃を受けた割合 ~規模別~ を引用しています。明らかに、大企業へのサイバー攻撃が多いとはいえ、中小企業も無視できない比率でサイバー攻撃を受けています。トヨタの国内全工場を停止に追い込んだサイバー攻撃の対象になった小島プレス工業の企業規模を私は不勉強にして知りませんが、トヨタの関連企業が攻撃を受けてトヨタの工場が停止される、という事実があったわけですし、中小企業を経由して大企業の情報にアクセスするタイプの攻撃があり得る、ということは明らかだと思います。

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2022年3月14日 (月)

ウクライナ侵攻の経済的影響に関するシンクタンクのリポートやいかに?

ロシアによるウクライナ侵攻に端を発して石油価格が上昇を続けています。先週の段階で、指標となるWTI先物価格が1バレル130ドルに達し、来月以降140ドル台で推移する可能性も取り沙汰されているところ、日本総研から「原油価格が高止まりすればわが国の景気回復は頓挫」と題するリポートが3月11日に明らかにされています。

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日本総研のリポートによれば、原油価格(WTI先物価格)が本年4月から9月にかけて1バレル=140ドルで推移した場合、資源輸入先への支払いがかさみ、所得の海外流出(マイナスの交易利得、あるいは、交易損失)が大規模に発生し、2022年度上期における交易損失の増加額は▲21兆円に上り、資源高により2022年度上期の実質GDPもベースラインから年率1%ポイントの下振れ、と試算しています。基本的に、企業収益の圧迫で設備投資が下押しされることに加えて、ガソリン代・電力料金の値上がりなどで個人消費が下振れするためです。さらに、消費者物価上昇率は7~9月期に前年比+2%超となって、日銀の物価目標が達成されてしまう可能性も示唆しています。日本総研のリポート以外に、私が見た範囲でも、内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)の構造と乗数分析」でも、+20%の原油価格上昇の実質成長率への乗数効果は▲0.07~0.08%との試算が示されていますので、まあ、それくらいかという気はします。

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次に、上のグラフはロシアの国内通貨ルーブルの対米ドル為替レートの最近の推移を三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポート「本格的な外貨預金の引き出し制限に着手したロシア」から引用しています。外為市場での実勢レートが大きくルーブル安で推移していることが見て取れます。今週は、米国連邦準備制度理事会(FED)が公開市場委員会(FOMC)を開催し、米国では利上げが始まると予想されているのですが、実は、ほぼほぼ同じ日付でロシアのドル建て国債の利払いが始まります。ロシア政府は非友好国に対してはルーブルで支払うとしているので、ホントに、米ドルではなくルーブルで支払われると債務不履行=デフォルトと判断される可能性があります。通常、こういった債務の利払いには30日間の猶予期間が設定されていると思いますが、S&Pやムーディーズといった格付機関がどう判定するか、私には判らない部分もあります。加えて、3月半ばの利払いをクリアしたとしても、4月早々には次の利払いが待ち構えているようですし、ロシア国債がデフォルトとなれば、何らかの経済的な影響が生じることは当然です。

私は軍事作戦的には、現在のウクライナ侵攻がどのように進んでいるのか、報道以上の情報もなければ、ましてや、判断する能力も持ち合わせません。そもそも、現代の戦争や大規模な武力衝突は経済力に裏打ちされる部分が決して小さくありません。加えて、戦争や武力衝突当事国だけではなく、経済的な影響はその他の国にも及びます。100年前の第1次世界大戦では、日本が戦場にならずに経済的にある程度の利益を得たことは中学や高校くらいの社会科で習いますが、今回のウクライナ侵攻ではどうなるのでしょうか。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向とともに、私にはさっぱり判りませんから、シンクタンクなどの分析を参照しています。

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2022年3月13日 (日)

今年初めての野球観戦はジャイアンツと引き分け!!!

  RHE
読  売000001010 260
阪  神000000200 270

今年2022年が明けて、おそらく初めてタイガースのテレビ観戦をしました。ジャイアンツとの甲子園のオープン戦です。両チームともなかなか打てませんが、阪神投手陣はまずまずの出来だったと思います。先発の小川投手は4回無失点ですし、腰痛で出遅れたガンケル投手も、ボテボテの内野安打2本に犠牲フライの失点ですから、開幕には間に合わない可能性あるものの、まずまずの投球を見せてくれたと思います。相変わらず、問題は打線だという気がします。今季は佐藤輝選手が4番に座るんでしょうか。花のある選手だけに、とても楽しみです。

がんばれタイガース!

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2022年3月12日 (土)

今週の読書は経済書はないものの、いろいろ読んで計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。社会学の専門書・教養書のほかは、小説が2冊、新書も2冊の計5冊です。佐藤究の『テスカトリポカ』の予約が回ってきたのですが、読み切れませんでした。来週に取り上げる予定です。やや忙しいので、簡単に以下の通り紹介しておきます。

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まず、辻大介[編]『インターネットと民主主義』(有斐閣) です。編者は、大阪大学の研空車であり、専門分野は社会学のようです。というのは、第9章を編者ご自身が分担執筆していて、正面から田中辰雄・浜屋敏『ネットは社会を分断しない』(角川新書)を「計量経済学者」の研究として取り上げて批判していて、方法論を否定しています。しかしながら、極めて情けないことに、本書はネットが社会を分断していない点を否定できるだけの結果を示せていません。実は、私はこのブログで『ネットは社会を分断しない』を読書感想文の中で取り上げることはしていませんが、読んだ記憶は鮮明に残っています。本書第9章でも指摘しているように、ネット利用者のクロス接触率=自分とは反対の意見に接する比率、がかなり高い点をひとつの理由としつつ、かなり大きな10万人規模のサンプル数の調査の計量分析に基づいて、ネットは社会を分断しているわけではなく、極端な意見を持つ論者の意見が目立ちやすいだけである、と結論しています。同時に、特に若年層では社会的な分断は生じておらず、むしろ中高年層の方が政治的に分断されている、といったポイントも含まれています。こういった結論を本書では方法論から批判しているのですが、繰り返しになりますが、本書の計量分析ではこういった先行研究の結論は否定できていません。もちろん、本書は社会の分断以外にも幅広い観点からネット利用の副作用的な効果を分析する学術書ですので、本書の中心となる編者の分担執筆の部分は大きく失敗している点は別としても、それなりに参考にできるポイントはいっぱいあります。確かに、ネットには過激な言説で溢れている印象があります。どうしてかというと、極端な意見は単純に多数決を取れば多数派となることが出来ない可能性が高く、それを論じが認識しているとすれば、目立つ言説としてプレーアップする必要が生じるわけですから、目立つようにプレゼンされるわけで、当然ながら、そういった極端な意見が目立つ、という結果になります。特に、私自身の経験からすれば、「嫌韓嫌中」に関する意見はそういった傾向にある気がしますが、あくまで私の個人的な経験です。それから、もうひとつ、最後に私自身の実感なのですが、本書の第4章では「ネットは自民党支持を固定化させるのか」と題して、タイトルに肯定的な結論を導いていますが、私はどちらもあり得ると考えています。というのは、本書でも繰り返されているように、ネットが発達して情報量が極めて膨大な量に上る中で、「フィルター・バブル」とか、「エコー・チェンバー」といった新語にも現れているように、自分と親和性ある情報に接する機会が増えるのは当然としても、逆に、比率はともかくクロス接触の情報量も大きく増加します。ですから、自分の元来の政治的傾向と一致する固定化の方向と多様化の方向とどちらも生じる可能性があり、おそらく、時代や地域によって固定化と多様化がまだらに生じる可能性のほうが高いのではないか、という気が、あくまで私の気が漠然としています。もちろん、方法論によっても異なる結論が導かれる可能性も否定できず、決定的な結論が得られる可能性はそれほど高くなく、むしろ、分析するアカデミアの方向性により、かなりバイアスある結論が出そうな気すらします。

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次に、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房) です。著者は、新人作家ながら、この作品は、史上初にして選考委員全員が5点満点をつけて第11回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞した話題作です。物語の始まりは1942年独ソ戦であり、主人公のセラフィマは20歳前です。地理的にはほぼほぼ一貫してドイツに攻め込まれた当時のソ連領内です。故郷の村をドイツ軍によってほぼほぼ全滅させられた主人公のセラフィマが、もう1人の主人公であるイリーナが教官を務める女性狙撃兵の訓練学校に入学し、戦争を転戦するというストーリーです。その訓練校でもいろいろとあります。当時のソ連のことですから、共産党から政治将校が送り込まれてきたり、諜報機関からスパイが潜入したりといったエピソードです。しかし、もちろん、最大の山場は歴史的にも独ソ戦の分岐点となるスターリングラードの戦いです。セラフィマはここで故郷の村で母を殺害したドイツの狙撃兵と遭遇しますが、取り逃がします。それから、ドイツ領に侵攻してケーニヒスベルクの戦いでソ連軍は勝利します。そして、冒頭から「女性を守る」という使命を明確にしたセラフィマが、このケーニヒスベルクの戦いの後で、その女性の敵を射殺します。最後は、イリーナとセラフィマが戦後に余生を過ごす、というオチになります。セラフィマやイリーナは言うに及ばず、女性狙撃兵仲間のシャルロッタ、あるいは、途中から女性狙撃兵招待に加わる看護師のターニャなどなど、人物の造形が素晴らしいと感じました。ただ、ストーリーとしては、これがミステリなのかとやや疑問に思わないでもありません。アガサ・クリスティ賞のミステリにふさわしい謎解きは現れません。ただ、歴史的な事実を跡付けているだけでなく、細かなストーリーや人物造形の出来が素晴らしく、小説としてとても楽しめます。ミステリというよりは純文学に近い気すらします。雑な表現ながら、人気が出るのももっともだと思いました。

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次に、浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川書店) です。著者は、中堅どころのミステリ作家らしいのですが、誠に不勉強にして、私はこの作家の作品は初読です。本書は就活ミステリとでも考えられるジャンルであり、2011年の春先の大学生の就活から始まります。就職先は成長著しいネット企業のスピラリンクスであり、まあ、SNSないしメルカリのようなネット企業のイメージではないかと思います。6人の学生が内定となるのですが、なぜか、というか、震災を口実に内定は1人にしか出さないとスピラリンクスが言い出し、6人の大学生内部の相互評価によりたった1人の内定者を決めることになります。小説らしい突飛もない設定です。そして、そのディスカッションの際に、突然、封筒が現れて大学生1人1人を貶めるメモが明らかにされます。謎解きとしては、そのメモを取りまとめたのが誰か、ということになり、この謎解きについてはさほど面白くもありません。ただ、この角内定者を貶めるメモについては、その内容を否定するような事実も示されたりして、やや支離滅裂という気もします。いずれにせよ、面接で内定を決めるシステムが疑問視されされているわけです。学生のサイドの企業の人事担当のサイドもムリがあることは言うまでもありません。今でこそSPIなども取り入れられていますが、本書には現れませんし、私が大学生のころの40年前には、すべてが面接によって決められていたのも事実です。私は公務員という試験のある選抜方法でしたが、それは少数派です。まあ、世間の評判ほど私はこの作品には感心しませんでした。

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次に、本間龍『偉人の年収』(イースト新書) です。著者は、作家・歴史エッセイストということのようです。本書では、タイトル通りに歴史上の偉人、というか歴史的な人物の年収の現在価値を推計してみたり、そういった歴史上の人物の金遣い、マネーテクニック、金銭トラブル、さまざまなお値段についてのエッセイです。おそらく、第2次世界対戦後の現在の経済は、私のような左派リベラルのエコノミストは、最近は経済格差が拡大していると批判的な意見を持っていますが、おそらく、歴史上でもっとも平等な経済社会であろうと私は思いますので、本書で取り上げてるような「歴史上の偉人」の年収はかなり高く見積もられていますし、金遣いも荒っぽく描き出されています。まあ、半分以上は当たっているような気もします。ただ、従来からの世間一般の偉人像からすると、やや意外感あるエピソードがいっぱい取り上げられています。その点は大いに楽しめる気がします。私はJICAの短期専門家としてワルシャワに行った経験があリ、その際に、ショパンの手の石膏像が欲しくてたまらなかったのですが、そのショパンのピアノレッスンは1時間で2万円とか、リストのコンサートは4万円とか、かなりいいセンで推計されています。コロナを別にすれば、私はこの価格はお値打ちだという気がします。2万円なら、1回だけでいいのでショパンのレッスンを受けてみたい気がします。

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最後に、本間龍『東京五輪の大罪』(ちくま新書) です。著者は、博報堂出身の著述家、ということになっていますが、取材などを見ているとジャーナリストに近い気もします。競争相手の博報堂ご出身ということで、「電通による、電通のための、電通の東京オリンピック」を強く批判しています。ただし、タイトル通りに、「罪」の方だけを取り上げていて、まあ「功罪」ではありませんから、「功」の方は一切無視しています。私はこの見方は正しいと思います。本書でも指摘されているように、国会では後のれいわ新選組の代表となる山本太郎議員を唯一の例外として、オリンピック招聘の段階では与野党のほぼほぼ全会一致で賛成していますし、そして、何よりも、全国紙の大手新聞社がすべてオリンピックのスポンサーに取り込まれてしまったために、メディアからの東京オリンピックへの疑問が一切封じられた点が特筆されるべきです。私は新興宗教と反社はカネがすべて、と考えているのですが、じつは、ロサンゼルス大会以来、オリンピックもカネがすべて、に成り下がっている実態がよく判りました。中でも、東京大会は電通をもうけさせるために内閣をひとつ潰してまで強行開催した悪しき前例として後々まで語り継がれるような気がします。

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2022年3月11日 (金)

3四半期ぶりにマイナスを記録した1-3月期の法人企業景気予測調査をどう見るか?

本日、財務省から1~3月期の法人企業景気予測調査が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)は足元1~3月期が▲7.5と3四半期ぶりのマイナスを記録しています。ただ、続く4~6月期は+4.7、7~9月期も+6.5とプラスに回帰する見込みです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1-3月の大企業景況感、マイナス7.5 4-6月はプラス4.7
財務省と内閣府が11日発表した法人企業景気予測調査によると、1~3月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス7.5で、3期ぶりマイナスとなった。前回調査の2021年10~12月期はプラス9.6だった。先行き4~6月期の見通しはプラス4.7だった。
1~3月期は大企業のうち製造業がマイナス7.6で、非製造業はマイナス7.4だった。中小企業の全産業はマイナス26.2だった。
2022年度の設備投資見通しは前年度比8.2%増だった。
景況判断指数は「上昇」と答えた企業と「下降」と答えた企業の割合の差から算出する。

いつものように、よく取りまとめられています。続いて、法人企業景気予測調査のヘッドラインとなる大企業の景況判断BSIのグラフは下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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この統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)で見ると、昨年2021年10~12月期には、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が大きく鈍化し、BSIもプラスを記録していましたが、今年2022年が明けてオミクロン型変異株の大流行のため一気にマイナスに落ち込んでいます。コロナの感染拡大に伴うまん延防止等重点措置が企業マインドに大きく影を落としていると考えるべきです。もちろん、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う石油をはじめとする資源価格の高騰も影響をしている可能性があります。ただ、4~6月期からは再びプラスに回帰する見込みであるものの、不透明感は払拭されていません。
統計のヘッドラインとなる景況判断BSI以外の注目点を上げると、従業員数判断BSIから見た雇用は大企業、中堅企業、中小企業ともに「不足気味」超で推移しており、加えて、2021年12月末時点から2022年3月末にかけて不足超の幅がさらに拡大しています。人手不足がうかがえます。また、来年度2022年度の設備投資計画は+8.2%増と、かなり大きなプラスが見込まれています。製造業が+20.1%増と大幅増を見込む一方で、非製造業は+2.2%増にとどまることから、コロナの影響で内需が大きな影響を受けていることが見て取れます。

さて、4月1日に公表される予定の3月調査の日銀短観やいかに?

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2022年3月10日 (木)

さらに上昇率を高めた企業物価指数(PPI)国内物価は2ケタに達するのか?

本日、日銀から2月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+9.3%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業物価指数、前年比9.3%上昇 前月比0.8%上昇
日銀が10日発表した2月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は110.7で前年同月比で9.3%上昇、前月比で0.8%上昇だった。市場予想の中心は前年比8.7%上昇だった。
円ベースで輸出物価は前年比12.7%上昇、前月比で1.2%上昇した。輸入物価は前年比34.0%上昇、前月比で2.0%上昇した。

とてもコンパクトながら、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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このところ、欧米をはじめとして世界的にはインフレが高まっています。従って、米国では連邦準備制度理事会が次の3月半ばの連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決定すると、市場ではコンセンサスが出来上がっていたりします。他方で、日本ではまだまだ本格的にデフレから脱却した、とまでは言い切れない物価状況が継続していますが、それでも、消費者物価指数(CPI)で見ても、本日公表の企業物価指数(PPI)で見ても、いずれも、足元で物価が下げ止まり、ないし、上昇しつつあると私は評価しています。特に、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で、2月は+8.7%の上昇と予想されていて、予想レンジの上限でも+9.0%でしたから、実績の+9.3%は大きく上振れた印象です。実際に、国内企業物価上昇の要因は主として2点あり、いずれもコストプッシュです。すなわち、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、オミクロン型の変異株をはじめとする新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による供給制約です。とはいえ、あくまで我が国に限った考えかもしれませんが、物価の上昇そのものは本格的なデフレ脱却には好条件を提供している可能性があります。コストプッシュなのですから製品価格に転嫁しつつ、労働者に対して生計費の上昇に対応した賃上げを実現する、という企業行動がデフレ脱却につながる可能性です。逆に、コスト増で企業経営が苦しいからといって労働者が賃上げ抑制を押し付けられたり、あるいは、現在の政府のガソリン補助金のようにコストプッシュの方を抑え込んで価格引上げを抑制しようとする方向は、なかなか払拭できないデフレマインドをさらに強固に定着させかねない危険すらあります。もちろん、日本では企業規模格差に伴って、下請中小零細企業が大企業に対して価格引上げを要求しにくいという面は無視できませんし、合わせて、国際商品市況における資源価格の動きが一巡すれば上昇率で計測した物価も元に戻ることは覚悟せねばなりません。ということで、2月PPI統計のうちの国内物価について品目別で前年同月比を少し詳しく見ると、木材・木製品が+58.0%、石油・石炭製品が+34.2%、非鉄金属が+24.9%、鉄鋼+24.5%、化学製品+12.3%までが2ケタ上昇となっています。そして、ついでながら、これらの品目は1月の前年同月比上昇率よりも2月の上昇率の方が、わずかながら縮小しています。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に伴って石油価格はさらに一段の上昇を見せており、何とも、先行きは見通し難く感じています。

繰り返しになりますが、一時的には、価格上昇を相殺するような補助金を企業サイドに出すことも容認すべきと私は考えますが、それでも、リフレ志向の重要性を何度でも繰り返したいと思います。すなわち、資源価格が上昇しているのであれば、企業に補助金を出して値上げを抑えたり、あるいは、労働者が経営を助けるために賃上げをガマンしたりするデフレ思考ではなく、値上がりを相殺できるくらいの賃上げなどで家計の所得をサポートするリフレ思考の政策を志向すべきです。賃上げは政策的に容易に実行できるものではありませんが、ひとまず、化石燃料の価格上昇を容認すれば、タバコ値上げとよく似た効果があり、石油や天然ガスなどの消費を抑制して、地球温暖化や気候変動への対策にもつながります。短期的にはともかく、先行きの政府対応の方向性に注目したいと思います。

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2022年3月 9日 (水)

2021年10-12月期GDP統計速報2次QEはなぜ1次QEから下方修正されたのか?

本日、内閣府から昨年2021年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.9%、年率では▲3.6%と、1次QEから上方修正されています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が抑制されていた谷間の時期のGDP統計ですので、成長率がとても高く出ています。現時点では、新たなオミクロン型変異株の感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻など、先行きはまだ大きな不透明感が残ります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率4.6%増に下方修正、21年10-12月期改定値
内閣府が9日発表した2021年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.1%増、年率4.6%増だった。2月に公表した速報値(前期比1.3%増、年率5.4%増)から下方修正した。個人消費や企業の設備投資などが下振れした。
QUICKが事前にまとめた民間エコノミスト予測の中心値(年率5.5%増)を下回った。GDPの半分以上を占める個人消費が前期比2.4%増と速報値(2.7%増)から下向きに見直した。速報段階以降に公表された統計で12月の個人消費が想定より少なかった。
自動車販売の減少で耐久財は8.9%増と速報値(9.7%増)から落ち込んだ。外食や鉄道輸送などが減ったサービス消費も3.1%増と速報値(3.5%増)から下方修正した。
財務省が2日発表した10~12月期の法人企業統計などを設備投資に反映した。設備投資は前期比0.3%増で、速報値(0.4%増)から下方修正した。速報段階より後に公表された統計でソフトウエア投資が想定よりも少なかったのを加味した。
公共投資は3.8%減で速報値(3.3%減)から下振れした。速報値の公表後に明らかになった12月分の実績を反映した。
10~12月期の実質GDPは実額で540兆円となり、速報値(541兆円)から減った。コロナ前の19年10~12月期(542兆円)の水準から遠のいた。
21年通年は1.6%増で、速報段階の1.7%増から減速した。10~12月期の下振れが押し下げ要因となった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2020/10-122021/1-32021/4-62021/7-92021/10-12
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+1.9▲0.5+0.6▲0.7+1.3+1.1
民間消費+1.6▲0.8+0.7▲1.0+2.7+2.4
民間住宅▲0.1+0.9+1.0▲1.6▲0.9▲1.0
民間設備+1.2+0.4+2.0▲2.4+0.4+0.3
民間在庫 *(▲0.2)(+0.1)(+0.0)(+0.1)(▲0.1)(▲0.1)
公的需要+0.9▲0.8▲1.0+0.2▲0.9▲1.0
内需寄与度 *(+1.1)(▲0.4)(+0.7)(▲0.8)(+1.1)(+0.9)
外需寄与度 *(+0.7)(▲0.1)(▲0.1)(+0.1)(+0.2)(+0.2)
輸出+10.7+2.2+3.1▲0.3+1.0+0.9
輸入+5.6+3.0+3.8▲1.0▲0.3▲0.4
国内総所得 (GDI)+1.9▲1.1+0.1▲1.5+0.7+0.5
国民総所得 (GNI)+2.1▲1.0+0.2▲1.6+0.8+0.6
名目GDP+1.3▲0.5+0.2▲1.1+0.5+0.3
雇用者報酬+1.7+1.3+0.2▲0.3+0.3+0.2
GDPデフレータ+0.2▲0.1▲1.1▲1.2▲1.2▲1.3
内需デフレータ▲0.7▲0.5+0.3+0.5+1.1+1.1

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2021年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち赤の消費と水色の設備投資のプラス寄与が大きくなっています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+5.5%と、1次QEの+5.4%をわずかながら上回る上方改定と見込まれていましたが、実績は+4.6%でしたので、それなりの大きさのプラス成長ではあるものの、やや意外感を持って私は受け止めました。というのは、先週の法人企業統計に従って改定される設備投資が1次QEの前期比+0.4%増から、2次QEでは+0.3%増に下方改定された点が上げられます。しかし、最大の下振れ要因は消費であり、1次QEの前期比+2.7%増から、2次QEでは+2.4%に修正されています。GDP成長率が前期比で1次QEの+1.3%から、2次QEでは+1.1%へと、▲0.2%ポイント下方修正されたうちの半分の▲0.1%の寄与を消費が及ぼしています。2次QEで消費が下方改定された背景は2点考えることが出来ます。第1に、おそらく、私の見方ながら、1次QEの時点で織り込まれた消費から、12月データなどの遅れて2次QEに組み込まれる消費指標が、オミクロン型変異株の影響などにより、徐々に時間の経過とともに悪化していた可能性です。特に、私のこのブログでは、統計のブレの少なさ、というか、安定性を考慮して、消費の月次の代理変数は総務省統計局の家計調査ではなく、経済産業省の商業販売統計で見ています。いつも繰り返して言及しているように、包括的な消費の指標である家計調査よりも、商業販売統計は物販が中心で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がより強く現れるサービス業のウェイトが極めて小さく、COVID-19の影響を過小評価している恐れがあります。第2に、グラフでは取り上げませんが、上のテーブルにも見られるように、雇用者報酬が2021年10~12月期だけでなく、かなりさかのぼって下方改定されています。今まで、雇用に連動して雇用者報酬も堅調な動きと考えてきましたが、そうではない可能性があります。最後に、消費だけでなく国内需要全体については、交易条件の悪化が現れ始めています。すなわち、極めて大雑把ながら、前期比で+1%を超えるGDP成長率と、逆に、+1%に届かない国内総所得(GDI)や国民総所得(GNI)の伸びとの差は交易条件です。昨年10~12月期以降、特に、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからの国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の高騰により交易条件が悪化し、所得が流出している可能性があります。輸入価格が上昇していますので、輸入を控除項目とするGDPデフレータが低下している一方で、輸入価格が国内物価に波及していることから国内需要デフレータは上昇しています。このあたりは、政策の舵取りが難しい可能性があると私は考えています。

最後に、足元の景気から考えて、1~3月期はかなりマイナス成長の可能性が高いと私は見込んでいます。また、COVID-19オミクロン型変異株の新規感染はピークアウトしつつある一方で、ロシアのウクライナ侵攻のゆくえについては、私はまったく何の見通しも持ち合わせません。まあ、COVID-19の感染の先行きも判らないのですが、いずれにせよ、COVID-19とロシア/ウクライナ情勢が経済外要因として日本経済の先行きの不透明さを増していることは明らかです。

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2022年3月 8日 (火)

オミクロン株の感染拡大の影響を受けた景気動向指数と景気ウォッチャー!!!

本日、内閣府から1月の景気動向指数と2月の景気ウォッチャーが、また、財務省から1月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気動向指数ではCI先行指数が前月から▲1.0ポイント下降して103.7を示し、CI一致指数も▲0.5ポイント下降して94.3を記録しています。景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.2ポイント低下して37.7と2か月連続で悪化した一方で、先行き判断DIは+1.9ポイント上昇して44.4となっています。また、経常収支は季節調整していない原系列で▲1兆1,887億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の景気一致指数、0.5ポイント低下 基調判断は据え置き
内閣府が8日発表した1月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.5ポイント低下の94.3となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.2ポイント低下だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.0ポイント低下の103.7だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏み」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。
街角景気、2カ月連続悪化 2月の現状判断指数
内閣府が8日発表した2月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は37.7で、前の月に比べて0.2ポイント低下(悪化)した。悪化は2カ月連続。家計動向、企業動向が悪化した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は44.4で、1.9ポイント上昇した。上昇は4カ月ぶり。家計動向、雇用関連が改善した。
内閣府は現状の基調判断を「持ち直しに弱さがみられる」を据え置いた。
1月の経常収支、1兆1887億円の赤字 民間予測は8802億円の赤字
財務省が8日発表した1月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆1887億円の赤字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は8802億円の赤字だった。
貿易収支は1兆6043億円の赤字、第1次所得収支は1兆2890億円の黒字だった。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、統計作成官庁である内閣府では、昨年2021年3月統計から基調判断を上方改定して、8月統計まで6か月連続で「改善」に据え置いた後、引用した記事にもあるように、9月統計から「足踏み」に下方修正して、先月1月統計まで据え置かれていて、「足踏み」は5か月連続です。基準がどうなっているかというと、CI一致指数の「3か月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1か月、2か月または3か月の累積)が1標準偏差分以上」となっています。本日公表の1月統計では、7か月後方移動平均は昨年2021年12月のプラスからマイナスに転じて▲0.06を記録しています。また、基準指標となっている3か月後方移動平均は昨年2021年11月統計から3か月連続でプラスに転じていますが、移動平均ではない当月の前月差がマイナスではどうしようもありません。ということで、1月統計についてCI一致指数を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、耐久消費財出荷指数、鉱工業用生産財出荷指数、生産指数(鉱工業)などとなっています。逆に、プラス寄与が群を抜いて大きい系列は 投資財出荷指数(除輸送機械)となっています。1月は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染が拡大した時期ですし、2月末から現在まで新規感染者数が高止まりを続けていますので、足元の3月まで明るい見通しは得られていない、と考えるべきです。

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次に、景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。景気ウォッチャーは現状判断DIが昨年2021年8月を直近の底として、小幅ながらも4か月連続で12月まで上昇を示した後、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大などを背景に、今年2022年1月統計では大きく低下し、本日公表の2月統計でも引き続き小幅に低下しています。ただし、先行き判断DIは逆に2月統計で上昇しています。先行き判断DIのうち、企業動向関連は製造業・非製造業とも2月も低下したのですが、家計動向関連は飲食関連を除いて上昇を示しており、雇用関連もそれなりの大きさで上昇しています。いずれも、繰り返しになりますが、すべての要因は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響に基づくマインドの変化と考えるべきです。上昇した先行き判断DIには新規感染者数のピークアウトが影響していると考えられます。しかし、まだ高止まりしていることは確かで、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しに弱さがみられる」に据え置いています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも1兆円近い経常赤字となっており、実績の▲1兆円を超える大きな赤字には、私もややびっくりしました。でもまあ、予想レンジの下限が▲1兆2000億円でしたので、ギリギリレンジの範囲内といえるのかもしれません。確かに、季節調整をしていない原系列の統計で見て、2か月連続の経常赤字を記録していて、特に、1月統計の▲1兆1887億円の経常赤字のうち、貿易収支が▲1兆6043億円と、経常収支全体を超える赤字となっています。しかしながら、季節調整済みの系列ではまだギリギリ経常収支は黒字です。ロシアのウクライナ侵攻などを受けて、国際商品市況で資源価格が値上がりしていますので、石油をはじめとする資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然であり、消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字は容認されるべきである、と私は考えています。

最後のポイントについて、何度でも同じことを繰り返したいと思いますが、資源価格が上昇しているのであれば、企業に補助金を出して値上げを抑えるデフレ思考ではなく、家計の所得をサポートするリフレ思考の政策を志向すべきです。その意味で、政策対応では難しいとしても賃上げは有効ですし、何よりも、化石燃料の価格上昇を容認すれば、タバコ値上げとよく似た効果で消費を抑制して、地球温暖化や気候変動への対策にもつながります。現在の政府対応は真逆の方向です。

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2022年3月 7日 (月)

下の倅と大阪に出かける!!!

今日は、大阪で下宿している下の倅とともに、大阪の叔母を訪ねました。私の父親の妹である叔母ですから、すでにほぼほぼ80歳になり、ご亭主は80歳を超えています。
4年前に、下の倅は大学入学のために大阪の叔母のところに泊めてもらいつつアパート探しをし、その後もコロナ前は随分と世話になったようです。ただし、2年前に親の私たちの方が東京から関西に回帰するとともに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大のために、倅が叔母夫妻を訪れる頻度は大きく低下したようですが、1人暮らしの大学生活ながら、この4年間に渡って親戚が近くにいる有り難さを痛感したことも確かです。
ということで、間もなく、大学を卒業し4月から就職する倅とともに、感謝しつつ報告と挨拶に行った次第です。私にとっても、下の倅の大学卒業や就職により、仕送りの必要がなくなるのはまあ、それはそれとして、カミさんと私の子育てが大きな節目を迎えることになります。なお、どうでもいいことながら、2年前に私が大学教員になってから、大学生の下の倅とは夏休み等の休暇シーズンがシンクロしていたのですが、これからは大きなズレを生じる可能性があります。
4月からは2人の倅がともに社会人になるわけですから、後は、結婚して孫の顔を見せてくれる日を待っています。

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2022年3月 6日 (日)

3月9日公表予定の2021年10-12月期GDP統計速報2次QEは1次QEからほぼ修正なしか?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、今週水曜日の3月9日に昨年2021年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大の谷間に当たる昨年2021年10~12月期ですから、それなりの高成長が見込まれています。でも、すでに「過去の数字」なのかもしれません。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。ただし、いつもの通り、2次QEですので法人企業統計のオマケのような扱いをしているシンクタンクがほとんどです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向は、オミクロン型変異株の出現もあって、何とも先行き不透明であることはいうまでもありません。ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う経済制裁の影響も計り知れません。こういった中で、みずほリサーチ&テクノロジーズと第一生命経済研のリポートでは、いずれも1~3月期のみならず、先行きの4~6月期まで言及しています。まあ、どちらも常識的なラインだと思います。これらも含めて、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.8%
(▲3.0%)
n.a.
日本総研+1.3%
(+5.4%)
10~12月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資が小幅な上方修正にとどまるとみられ、成長率は前期比年率+5.4%(前期比+1.3%)と、1次QE(前期比年率+5.4%、前期比+1.3%)から変わらない見込み。
大和総研+1.4%
(+5.9%)
2次速報では、個人消費や設備投資といった内需や輸出が増加するなど、経済活動の正常化が2021年末にかけて急速に進んだことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+1.3%
(+5.5%)
オミクロン株の感染拡大による個人消費や生産の下押し影響を主因として、現時点では、1~3月期の実質GDPは小幅なマイナス成長を見込んでいる。
4~6月期以降については、経口治療薬・ブースター接種の普及に伴い、経済活動の回復が見込まれる。GoToトラベル事業については、現時点で5月下旬の再開を想定している。当面はワクチン未接種者や子育て世帯(ワクチンを接種していない子どもと同居する親)、重症化した場合の死亡リスクが相対的に高い高齢者等を中心に一部で消費行動に慎重姿勢が残るとみられるものの、オミクロン株収束後の消費活動は回復傾向で推移するだろう。
ニッセイ基礎研+1.3%
(+5.5%)
3/9公表予定の21年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比1.3%(前期比年率5.5%)となり、1次速報の前期比1.3%(前期比年率5.4%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研+1.3%
(+5.3%)
新型コロナウイルスの感染が急拡大したことの影響で、22年1-3月期は小幅マイナス成長となる可能性が高いだろう。その先については、感染が落ち着くことで、サービス消費を中心として4-6月期以降は再び景気が持ち直すとみているが、ここにきてウクライナ情勢による景気下振れリスクが顕在化してきた。
伊藤忠総研+1.4%
(+5.9%)
10~12月期の実質GDP成長率は2次速報で前期比+1.4%(年率+5.9%)へ小幅上方修正される見通し。設備投資や公共投資は下方修正も、民間在庫投資が上方修正される見通し。ただ、景気の先行きについての見方を修正させる内容ではなく、ウクライナ侵攻に対する対露制裁の影響の方が大きな懸念材料。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+1.4%
(+5.8%)
3月9日に内閣府から公表される2021年10~12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+1.4%(前期比年率換算+5.8%)と1次速報値の同+1.3%(同+5.4%)から上方に修正されようが、依然としてコロナ前の水準(2019年10~12月期)には届かない見込みである。
三菱総研+1.4%
(+5.6%)
2021年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+1.4%(年率+5.6%)と、1次速報値(同+1.3%(年率+5.4%))から小幅上方修正を予測する。

ということで、私自身の2次QE予想は、法人企業統計に従って、設備投資がやや上方修正される分だけ、わずかながら成長率も上方修正されると考えていますが、各シンクタンクとご同樣で、極めて小幅な修正にとどまると考えています。加えて、何度でも繰り返しますが、この2021年12~12月期の高成長を記録したGDP統計は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の第5次と第6次感染拡大の間に咲いたあだ花でしかありません。今年2022年1月からのCOVID-19オミクロン型変異株の猛烈な感染拡大が始まるまでのつかの間の高成長であって、完全に「過去の数字」です。みずほリサーチ&テクノロジーズや第一生命経済研のご指摘を待つまでもなく、今年2022年1~3月期の成長率は大きく低下し、マイナス成長すら考えられますし、逆に、すでにオミクロン型変異株の新規感染者数もピークアウトしつつあることから、4~6月期はリバウンドが予想されます。これまた何度でも繰り返しますが、もはや、先行き経済見通しはエコノミストの手に負えるものではなくなり、COVID-19の感染とロシアのウクライナ侵攻次第といえます。私のような凡庸なエコノミストにはどちらも見通し難く感じています。
最後に、下のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

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2022年3月 5日 (土)

今週の読書は何とたった1冊の教養書のみ!!!

今週の読書感想文は、諸事情あって、何と新刊書読書はたった1冊の教養書だけ、以下の通りです。実は、昨年2021年1月の出版ですから、もう1年余り経過しているのですが、恒例の土曜日の読書感想文をパスするのもどうかと思って取り上げておきます。今週は、新刊書でない読書が多かったわけです。
ただ、『同志少女よ、敵を撃て』の予約の順番がとうとう回って来て、今日の夕方に近くの図書館に借りに行きました。また、『6人の噓つきな大学生』と『テスカトリポカ』も搬送中とのことで、来週は小説をいっぱい読みそうな予感です。
なお、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の1冊を含めて計37冊となっています。今年は200冊を超えるのでしょうか?

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ジェフリー S. ローゼンタール『それはあくまで偶然です』(早川書房) です。著者は、カナダのトロント大学の統計学の研究者です。出版社のサイトに「『運は数学にまかせなさい』のローゼンタール、13年ぶりの新作!」とタイトルされているように、私は前作の『運は数学にまかせなさい』も読んでいて、2007年11月14日付けで「モンティ・ホール問題」を取り上げた際に言及しています。ただ、読書感想文という形ではありませんでした。ということで、本書でも、統計学、というか、かなり確率論に近い数学的な議論が展開されています。特別の幸運/不運、あるいはひっくるめて運について、決してなにか特別な、というか、統計的/確率的に特別なことが起こったのではない、という論証をしています。そのポイントが第6章の可能な説明と第して、特別に大きい的であって当たる可能性が高い、とか、散弾銃効果、あるいは、下手な鉄砲も...などの要因が上げられて、特別なイベントに対する解説がなされています。私も基本的にランダムにイベントは生じているだけであって、特別ななにかの要因、神のご加護とか、宇宙人のパワーとか、古代の力、なんてものがあるわけはない、と考えています。合理的かつ統計的あるいは確率的に説明できることがほとんどだと考えます。ただ、軍隊で実に生真面目にESPの解明がなされようとしていたというのも事実でしょうし、宇宙人の存在を信じている人がいるのも経験上知っています。私は南米はチリの日本大使館に3年余り勤務した経験があるものですから、ある知り合いからナスカの地上絵について論争をふっかけられたことがあります。迷惑この上ないのですが、その人はナスカの地上絵は宇宙人が書いたと主張して譲りません。私は宇宙人がいる確率は十分あると認める一方で、そういった宇宙人が地球にコンタクトした証拠は得られておらず、ナスカの地上絵も宇宙人が書いたとは思わない、と反論したのですが、無存在の証明というのはムリがあると再反論されましたので、ナスカの地上絵は宇宙人が書いた可能性は「統計的に5%水準で棄却される」と回答した記憶があります。その後、統計局に出向することになるとは思わなかったのですが、それなりに合理的なエコノミストの思考はこんなカンジであるという一例でした。まあ、本書もこんなカンジです。

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2022年3月 4日 (金)

大きな雇用増を記録した米国雇用統計から米国金融政策を考える!!!

日本時間の今夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、本日公表の1月統計では+678千人増と大幅増を記録し、失業率は前月の4.0%から2月には3.8%に低下しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を6パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added 678,000 jobs in February as omicron faded, dining, travel picked up, unemployment fell to 3.8%
Employers added a roaring 678,000 jobs in February as COVID-19’s omicron variant faded, spurring idled employees to return to work and reviving dining, travel and other activities.
The unemployment rate fell from 4% to 3.8%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 400,000 jobs were added last month.
The 678,000 gains marks the strongest showing since July.
The drop in unemployment came even as the number of people working or looking for jobs grew by 304,000, pushing the labor force participation rate to 62.3% from 62.2%. That means more people caring for children and others on the sidelines are returning to a favorable labor market with rising wages.
Also encouraging: Job additions for December and January were revised up by a total 92,000.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、2020年4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+400千人程度の雇用増が予想されていたため、実績の+678千人増は大きく上振れた印象です。先日3月2~3日の議会証言で米国連邦準備制度理事会(FED)のパウエル議長は雇用の現状について "The labor market is extremely tight." と表現しています。失業率も3.8%ですし、これはFEDが長期的な均衡水準と見ている失業率の4.0%を下回っています。ですから、総合的に考えると、米国雇用は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大もあって、人手不足が続いていると考えるべきです。そして、この人手不足による賃金上昇が国際商品市況における石油などの資源価格の上昇と相まって、米国の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は、昨年2021年12月に+7%に達していて、今年202年1月には+7.5%を記録しています。ですから、3月に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が引き上げられる運びとなっており、量的緩和政策によって膨らんだバランスシートの縮小も進むのではないかと見られています。いずれにせよ、米国金融政策は明らかに景気回復よりもインフレ抑制を重視する引締めモードに入っており、日銀との金融政策スタンスの差が大きくなる可能性があります。

私のような高圧経済支持者からすれば、COVID-19パンデミック前には失業率は3%台半ばだったわけですから、現状ではまだCOVID-19の影響を脱したとはいえまず、多少のインフレを許容してでも今少し需要拡大を図るのも一案だと考えていますが、インフレ動向からすれば金融政策が引き締め方向に進むのは当然と考えるエコノミストも多いのかもしれません。オミクロン型変異株の感染拡大が終息したとはとても思えない段階ながら、金融政策はポストコロナの新たな段階に入りつつあるようです。

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まずまず底堅い1月雇用統計に賃上げを期待する!!!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも1月の統計です。失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.8%を記録し、有効求人倍率は前月から+0.3ポイント上昇して1.20倍に達しています。全体として、雇用は緩やかな改善が続いている印象です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の失業率0.1ポイント悪化 求人倍率は1.20倍に上昇
総務省が4日発表した1月の完全失業率(季節調整値)は2.8%と前月から0.1ポイント上昇した。失業率の悪化は2カ月ぶり。厚生労働省が同日発表した1月の有効求人倍率(同)は1.20倍と、前月から0.03ポイント上がった。
完全失業者数は185万人と前年同月から14万人減り、7カ月連続のマイナスとなった。就業者数は前年同月に比べ32万人減の6646万人で4カ月連続で減少した。
休業者は前月から59万人増えて249万人となった。コロナ感染が拡大した「第5波」の時期にあたる2021年8月(250万人)以来の水準だった。新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の感染拡大やまん延防止等重点措置の適用が影響した。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対して何件の求人があるかを示す。コロナ感染が本格的に拡大する前にあたる19年後半や20年初めの1.5倍前後の水準には届いていない。
1月の有効求人(季節調整値)は前月比2.6%増え、有効求職者(同)は0.7%増だった。新規求人は前年からの反動もあり前年同月比で14.6%増えた。産業別にみると宿泊・飲食サービス業(38.8%増)や製造業(38.5%増)などが大きかった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。ただし、どうしても12月データが利用可能になりましたので、年次統計の着目していて、もう少し頻度の高いデータで景気動向を探ろうという私の視点からはズレているような気もします。続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が2.7%と、また、有効求人倍率は1.16倍と、ともに、前月統計から横ばいが予想されていた一方で、実績としては失業率がわずかながら悪化し、有効求人倍率は大きく改善を示しています。通常はそれほど注目されませんが、雇用の先行指標として新規求人は重要な指標だと私は考えており、上のグラフでも1月統計で大きく跳ねているのが見て取れます。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしていますが、厚生労働省のサイトによれば、季節調整していない原系列の統計ながら、1月の新規求人は前年同月と比較すると+14.6%増となり、産業別では、宿泊業・飲食サービス業が+38.8%増、製造業が+38.5%増、情報通信業が+24.7%増などとなっています。私が調べた範囲でも、宿泊業・飲食サービス業の雇用が回復しているだけに、正規よりも非正規雇用の増加が大きいのですが、足元での新型コロナウィルス感染症(COVID-19)、特にオミクロン型変異株の感染拡大を考えれば、こういった人的接触の多い産業での新規雇用増がどこまで続くかについては疑問が残ります。例えば、総務省統計局の労働力調査の追加参考表によれば、これも季節調整していない原系列の統計ながら、例えば、宿泊業・飲食サービス業の休業者は2021年10月12万人、11月13万人、12月10万人の水準でしたが、2022年1月には22万人と倍増していたりします。ただ、繰り返しになりますが統計に表れるマクロの雇用は底堅い印象です。いずれにせよ、先行きはコロナ次第、というのは私のエコノミストとしての限界です。

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上のグラフは、昨日3月4日に開催された経済財政諮問会議に内閣府から提出された「我が国の所得・就業構造について」と題する資料から引用しており、全世帯の所得分布を総務省統計局の「全国消費実態調査」の個票を基に集計したものです。見れば明らかですが、直近の2019年調査と25年前の1994年調査を比較していて、再分配前でも後でも、年収400万円あたりを境にして、最近25年間で低所得層が増加し、高所得層が減少しています。加えて、所得の中央値も大きく下がっています。ですから、雇用は底堅くはあるものの、春闘の時期を迎えて、あらゆる意味で、賃金が上がることを私は願っています。

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2022年3月 3日 (木)

基調判断がさらに下方修正された2月の消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲1.4ポイント低下の35.3を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

2月の消費者態度指数、1.4ポイント低下の35.3
内閣府が3日発表した2月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比1.4ポイント低下の35.3だった。
内閣府は消費者心理の基調判断を「足踏みがみられる」から「弱含んでいる」に下方修正した。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と答えれば「ゼロ」になる。

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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まず、消費者態度指数コンポーネントについて、前月差で見ると、「耐久消費財の買い時判断」が▲2.5ポイント低下し31.8、「暮らし向き」が▲1.4ポイント低下し35.4、「雇用環境」が▲0.8ポイント低下し35.9、「収入の増え方」が▲0.7ポイント低下し38.2と、すべてのコンポーネントが低下を記録しています。上のグラフを見ても明らかなように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が大きく減少していた昨年2021年10~12月期の時期から、今年2022年が明けて急降下で低下を示しています。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府でも基調判断を「足踏みがみられる」からさらに下方修正して「弱含んでいる」に変更しています。
おそらく、2月がCOVID-19のオミクロン型変異株の感染拡大のピークではなかったかという気がしますが、その後の新規感染者数もまだ現時点では高止まりしており、まだ、マインドが回復する段階にはないように私は受け止めています。ただし、前月から枕を並べて低下を示したとはいえ、消費者態度指数のコンポーネントを見ると、あくまで「ほかと比べて」という限定付きながら、収入や雇用環境の低下幅が小さいわけで、国民生活の基礎的な部分では底堅い印象も併せて伺えます。ただ、それにしては暮らし向きが悪化しているのはやや不思議な気もします。加えて、3月に入ってからロシアによるウクライナ侵攻の経済的影響として石油をはじめとする資源価格の高騰が進んでおり、おそらく、国民生活の実感としてはガソリン価格に集約されると思いますが、株式市場の動向とも合わせた形で、マインドにはネガな影響を及ぼすことは当然です。経済やマインドの先行きを考える場合、コロナとウクライナはともに重要なインパクトを有しているんですが、いずれもエコノミストには予想しがたい分野と私は考えています。

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2022年3月 2日 (水)

昨年2021年10-12月期の法人企業統計に見られる企業活動の回復は一時的なあだ花か?

本日、財務省から昨年2021年10~12月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+5.7%増の351兆11億円、経常利益も+24.7%増の23兆145億円、製造業・非製造業とも+20%増を超えています。そして、設備投資は+4.3%増の11兆5518億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても、売上高、経常利益、設備投資とも軒並み前期比プラスを記録していて、特に、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+3.4%増となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短かに引用すると以下の通りです。

21年10-12月期の設備投資、前年同期比4.3%増 法人企業統計
財務省が2日発表した2021年10~12月期の法人企業統計によると、金融業と保険業を除く全産業の設備投資額は前年同期比4.3%増の11兆5518億円だった。プラスは3四半期連続。このうち製造業は5.1%増、非製造業は3.8%増だった。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となるソフトウエアを除く全産業の設備投資額(金融業、保険業を含む)は、前年同期比で5.0%増だった。
全産業の売上高は前年同期比5.7%増の351兆11億円で、うち製造業が9.2%増、非製造業は4.3%増。経常利益は24.7%増の23兆145億円で、うち製造業が22.1%増、非製造業は26.4%増だった。
今回の結果は、9日公表の21年10~12月期のGDP改定値に反映される。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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ということで、法人企業統計の結果を短く表現すると、昨年2021年10~12月期の企業活動や企業業績は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が抑制されていたため、大いに回復したものの、2022年1月以降のCOVID-19オミクロン型変異株の感染拡大で、完全に過去の数字と考えるべきです。COVID-19の感染がかなりの程度に抑制されていて、同時に、部品などの供給制約や物流の停滞なども一時的に緩和されていましたので、製造業・非製造業ともに売上高も経常利益も増加を示しています。特に、上のグラフから明らかなように、売上高や設備投資は、いわゆるリーマン・ショック直前に記録した過去最高水準にまったく届いていませんが、経常利益だけはリーマン・ショック前の水準を遥かに超えており、過去最高のレベルに達するくらいの勢いであったことは確かです。ただし、繰り返しになりますが、すべてはオミクロン前の過去の数字であり、2022年の年明けからのCOVID-19オミクロン株の感染拡大、加えて、最近時点でのロシアによるウクライナ侵攻などなど、足元の2022年1~3月期は企業活動のみならず経済を下押しするイベントでいっぱいです。製造業の部品供給の制約が再び強まり、物流の停滞も生じている上に、今度は、広く報じられているように、サイバー攻撃を受けてトヨタがわずか1日とはいえ生産をストップするという事態も発生しています。もう、こうなると、エコノミストが経済の先行きを見通すことはとても難しくなります。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中で労働分配率とともに設備投資/キャッシュフロー比率が大きく低下を示しています。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金だけが再び伸びを高めています。賃上げ促進については税制で対応するようですが、この利益剰余金にも本格的に課税する必要性が高まっている気がします。

なお、本日の法人企業統計を受けて、来週3月9日に内閣府から昨年2021年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私は1次QEから設備投資を中心として小幅に下方修正されるであろうと考えていますが、2次QE予想については、また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2022年3月 1日 (火)

今日はカミさんの誕生日!!!

恐ろしくも、忘れかけていましたが、今日はカミさんの誕生日です。離れて暮らしていると、2人の倅の誕生日は忘れがちになってしまいますが、何とか、カミさんの誕生日と結婚記念日だけは忘れないようにしたいと思います。
フラッシュの動画がサポートされなくなったので、やっぱり、くす玉のGIF画像でお祝いします。

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ウクライナ侵攻に反対する声が大きいのはなぜか?

どうも、昨年のミャンマー軍のクー・デタとか、中国のウイグル人権問題とか、イラクのアサド政権の自国民への化学兵器使用とか、いろんな問題がある中で、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、少なくとも私が接する範囲で国内的な反響はもっとも大きいような気がします。というのも、私はミャンマーの軍事クー・デタ反対のデモには参加したのですが、そのデモにいっしょに行った同僚教員から「薔薇マークキャンペーン」からも声明を出したと連絡をちょうだいしましたので、薔薇マークキャンペーンのサイトの声明のコーナーを見てみました。ミャンマー軍のクー・デタとか、ウイグル人権問題とか、シリアの化学兵器などの声明が出されたとは、私には確認できませんでした。ちなみに、もっと大幅に貧弱な私のブログというメディアでも、同じ状況で、昨年4月にミャンマー軍のクー・デタ反対デモに参加したとか、北川成史『ミャンマー政変』(ちくま新書)を読んだとかは取り上げたものの、ウイグル人権問題とか、シリアの化学兵器については、特に言及していません。
でも、先週2月25日には「雑感」としつつも、私もブログでロシアのウクライナ侵攻に言及しています。どうしてか、という自分自身の意識対する見方も含めて、やや客観的に分析すると、もちろん、一連の人権侵害やひどい行為に比べても格段に悪辣な戦争行為であることは当然としても、2月25日付けの記事の見方にも半分くらい現れているように、おそらく、ロシアのプーチン大統領個人のほぼ独断に近い判断でなされているだけに、声を上げれば届く可能性が決してそれほど低くない、と見なしているような気がします。特に、ロシア国内における反対意見は強権的に弾圧されるだけの結果で終わる可能性が高い一方で、海外からの意見の方が少なくともロシア治安組織による弾圧には抵抗力ある気がします。
私が常々考えているのは、マイクロな経済学的な選択の問題は、私にとってはそれほど重要ではありません。もう一度強調しておきますが、「それほど重要ではない」というのは、あくまで私にとって、という意味であって、世間一般や学術界における重要性ではありません。加えて、いわゆる行動経済学的に、あるいは、マーケティング・サイエンスによって、個人の選択はかなり操作性が高いということもあります。それに対して、もっと、マクロ経済学的、というよりも、むしろ、collective な選択や判断については、マルクス主義的な疎外や物神的なパワーも加わって、より強く私の興味を引きます。加えて、行動経済学、あるいは、マーケティング・サイエンスの影響からは常に逃れられない可能性は残るものの、collevtive な選択や判断は変更されにくい気がする一方で、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、どうやら、collective な選択ではなく、プーチン個人の独断による選択や判断に基づいている可能性が十分あるように私には見受けられます。もしも、そうなのであれば、ひょっとしたら、何らかの圧力で簡単にひっくり返る可能性もあるのではないか、という気もします。その点で反対意見を表明するコスパがいいわけです。

この問題についてコスパで議論する不謹慎さは承知していますし、今日のところは、経済的な選択や判断の観点からだけ取り上げましたが、もちろん、前回2月25日にも強調した通り、経済の観点を離れても、多くの人命が失われたり、戦災に見舞われたり、避難生活を余儀なくされる市民もいっぱいいるわけで、ロシアによるウクライナ侵攻は、到底、許されるものではありません。

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